通信システム、通信装置、通信方法およびそのプロセッサ
【課題】モジュロ演算や摂動ベクトルの加算といった非線形処理を、送信側で行う通信システムにおいて、そのような非線形処理を行わない移動局装置をも加えた空間多重ができるようにすること。
【解決手段】送信側の第1の通信装置は、複数のデータ信号の一部について等値変換を行う変換装置と、前記複数のデータ信号の少なくとも一部について、前記空間多重のストリーム間の干渉の少なくとも一部を事前に除外する重み付け装置とを具備する。
【解決手段】送信側の第1の通信装置は、複数のデータ信号の一部について等値変換を行う変換装置と、前記複数のデータ信号の少なくとも一部について、前記空間多重のストリーム間の干渉の少なくとも一部を事前に除外する重み付け装置とを具備する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信システム、通信装置、通信方法およびそのプロセッサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代移動通信システムの検討が3GPP (The Third Generation Partnership Project、第三世代パートナシップ・プロジェクト) などで行われている。第3.9世代のLTE (Long Term Evolution) システムでは、ダウンリンクにおいて周波数帯域を効率的に利用して高いスループットを実現するために、複数の送受信アンテナを用いて異なるデータを空間多重するMIMO (Multiple Input Multiple Output、多入力・多出力) 技術が仕様化されている。さらに現在、第4世代のLTE-Advancedの標準化が始まっている。LTE-Advancedではピーク速度が1 Gbit/sという要求条件を達成するために、最大8ストリームを多重可能なSingle-User MIMO (SU-MIMO、シングルユーザマイモ。1基地局装置または複数基地局装置の複数のアンテナと1移動局装置の複数のアンテナとで、MIMOを構成する。) 技術も検討されている。
【0003】
また、特定の移動局装置 (MT) のスループットを高くするSU-MIMO だけでなく、異なる端末装置に送信するデータを送信処理により空間多重するMulti-User MIMO (MU-MIMO、マルチユーザマイモ。1基地局装置の複数のアンテナと複数の移動局装置のアンテナとで、MIMOを構成する。) も必須となる。LTEシステムでは、基地局装置から移動局装置へのダウンリンクにおいて MU-MIMO が仕様化されている。すなわち、線形フィルタを乗算することでビームフォーミングを行い、空間多重している。しかしながら、ビームフォーミングを用いた MU-MIMOでは、各移動局装置への送信信号を直交させなければならず、空間多重できる移動局装置の組み合わせにおける柔軟性が低下してしまう。
【0004】
一方で、空間多重を実現する別の方法として、THPを用いた MU-MIMO (MU-MIMO THP、マルチユーザマイモ・THP) が提案されている。この方法は、基地局装置が、各移動局装置宛の所望信号からその移動局装置が受ける干渉を予め減算した後、モジュロ演算(Modulo Arithmetic)を施してから送信する方法である。モジュロ演算を行うことで、干渉減算に基づく送信電力の増加を抑制することができる。移動局装置は、それぞれの受信信号に対して再びモジュロ演算を行うことで、干渉が除去された所望信号を検出できる (非特許文献1、非特許文献2、非特許文献4)。
【0005】
またMU-MIMO THPに類似の技術としてMU-MIMO Vector Perturbation(MU-MIMO VP、マルチユーザマイモ・VP)という技術も存在する(非特許文献3参照)。基地局装置は、MU-MIMIO VPを行う場合、以下の二つの手順によって送信信号を生成する。
1 適切に選択したモジュロ幅の整数倍の信号(摂動ベクトルPV(Vector Perturbation))を所望信号に加算する。
2 ビームフォーミングと同じ処理により移動局装置同士の干渉を除去する。
この摂動ベクトルの加算が非線形処理であるため、この技術は、THPと同様の非線形処理に分類される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Harashima and Miyakawa, “Matched-Transmission Technique for Channels With Intersymbol Interference”, IEEE Transactions On Communications, Vol. Com-20, No. 4, pp. 774-780, August 1972.
【非特許文献2】J.Liu and A.Krzymien, “Improved Tomlinson-Harashima Precoding for the Dowinlink of Multiple Antenna Multi-User Systems”, Proc. IEEE Wireless and Communications and Networking Conference, pp. 466-472, March 2005.
【非特許文献3】B.M.Hochwald, C.B.Peel, and A.L.Swindlehurst,”A Vector-Perturbation Technique for Near-Capacity Multiantenna Multiuser Communication−Part II: Perturbation,” IEEE Trans. Commun., vol. 53, no. 3, pp. 537-544, March 2005.
【非特許文献4】M. Joham, J. Brehmer, and W. Utschick, ‘MMSE approaches to multiuser spatio−temporal Tomlins−Harashima Precoding’, pp387-394, ITG SCC04, Jan 2004.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
マルチユーザマイモ・THPやマルチユーザマイモ・VPの特徴であるモジュロ演算や摂動ベクトルの加算(非線形処理)を、送信側で行う通信システムでは、移動局装置側でもモジュロ演算を行うことが必要である。そのため、このような通信システムでは、異なる通信システムに属するところの、モジュロ演算を行わない移動局装置をも加えて空間多重をしようとしても、そのような移動局装置では、上記の非線形処理を行った信号を受信できないという問題が生じた。つまり、後方互換性が保てないという欠点があった。本発明は、このような問題を解消することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、本発明は、1または複数の第1の通信装置と、複数の第2の通信装置とを具備し、第1の通信装置は、その複数のアンテナからデータ信号の乗せられた複数のストリームを空間多重して送波し、第2の通信装置は、それぞれのアンテナにて前記ストリームを受波して、前記データ信号を受信する通信システムにおいて、第1の通信装置は、前記複数のデータ信号の一部について等値変換を行う変換装置と、前記複数のデータ信号の少なくとも一部について、前記空間多重のストリーム間の干渉の少なくとも一部を事前に除外する重み付け装置と、を具備し、複数の第2の通信装置の一部のものは、前記等値変換の行われたデータ信号の受信に際して、前記データ信号につき、等値変換の回復を行う変換装置を具備することを特徴とする通信システムである。
【0009】
(2)また、本発明は、上記の通信システムにおいて、第2の通信装置の前記一部以外の第2の通信装置は、前記変換装置を具備せずに前記データ信号の受信を行うことを特徴とする。
【0010】
(3)また、本発明は、第2の通信装置の前記一部以外の第2の通信装置は、異なるシステムに属することを特徴とする。
【0011】
(4)また、本発明は、上記の通信システムにおいて、第1の通信装置は、前記ストリームの空間多重が行われる空間の伝搬路定数を推定する共通参照シンボルの生成装置と、前記重み付け装置の重み付けをも考慮に入れた等価伝搬路の伝搬路定数を推定する専用参照シンボルの生成装置とを具備することを特徴とする。
【0012】
(5)また、本発明は、上記の通信システムにおいて、第2の通信装置の前記一部のものは、前記専用参照シンボルを用いて等価伝搬路の推定を行うことを特徴とする。
【0013】
(6)また、本発明は、上記の通信システムにおいて、前記重み付け装置は、全ての干渉を除外するものであることを特徴とする。
【0014】
(7)また、本発明は、上記の通信システムにおいて、前記重み付け装置は、一部の干渉を除外し、その他の干渉は別の干渉減算装置にて除外することを特徴とする。
【0015】
(8)また、本発明は、上記の通信システムにおいて、前記等値変換を行う変換装置は、摂動ベクトルを用いるものであることを特徴とする。
【0016】
(9)また、本発明は、上記の通信システムにおいて、摂動ベクトルの選択方法としてモジュロ演算装置を用いることを特徴とするものである。
【0017】
(10)また、本発明は、上記の通信システムにおいて、前記第1の通信装置は、1台で移動局の数だけのアンテナを具備し、前記第2の移動局はそれぞれ1本のアンテナを具備することを特徴とする。
【0018】
(11)また、本発明は、上記の通信システムにおいて前記第2の移動局の少なくとも一部は複数本のアンテナを具備することを特徴とする。
【0019】
(12)また、本発明は、複数の送受信アンテナを具備し、複数のデータ信号を乗せたストリームを前記アンテナを介して空間多重にて送波する通信装置であって、前記複数のデータ信号の一部について等値変換を行う変換装置と、前記複数のデータ信号の少なくとも一部について、前記空間多重のストリーム間の干渉の少なくとも一部を事前に除外する重み付け装置と、を具備することを特徴とする通信装置である。
【0020】
(13)また、本発明は、1または複数の第1の通信装置が具備する複数の送信アンテナから、データ信号の乗せられた複数のストリームを空間多重して送波し、複数の第2の通信装置のそれぞれのアンテナにて前記ストリームを受波して、前記データ信号を受信する通信方法において、第1の通信装置においては、前記複数のデータ信号の一部について等値変換を行う過程と、前記複数のデータ信号の少なくとも一部について、前記空間多重のストリーム間の干渉の少なくとも一部を事前に除外する重み付けを行う過程と、を具備し、複数の第2の通信装置の一部のものについては、前記等値変換の行われたデータ信号の受信に際して、前記データ信号につき、前記等値変換の回復を行う過程を具備する、ことを特徴とする通信方法である。
【0021】
(14)また、本発明は、1または複数の第1の通信装置と、複数の第2の通信装置とを具備し、第1の通信装置は、その複数のアンテナからデータ信号の乗せられた複数のストリームを空間多重して送波し、第2の通信装置は、それぞれのアンテナにて前記ストリームを受波して、前記データ信号を受信する通信システムにおいて、第1の通信装置が具備するプロセッサであって、前記複数のデータ信号の一部について等値変換を行う変換装置と、前記複数のデータ信号の少なくとも一部について、前記空間多重のストリーム間の干渉の少なくとも一部を除外する重み付け装置と、を具備することを特徴とするプロセッサである。
【0022】
(15)また、本発明は、1または複数の第1の通信装置と、複数の第2の通信装置とを具備し、第1の通信装置は、その複数のアンテナからデータ信号の乗せられた複数のストリームを空間多重して送波し、第2の通信装置は、それぞれのアンテナにて前記ストリームを受波して、前記データ信号を受信する通信システムにおいて、複数の第2の通信装置の一部のものが具備するプロセッサであって、前記等値変換の行われたデータ信号の受信に際して、前記データ信号につき、等値変換の回復を行う変換装置を具備する、ことを特徴とするプロセッサである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、無線通信において、非線形演算、例えばモジュロ演算を行う通信装置、例えば、移動局装置と、これを行わない移動局装置とを一緒に空間多重できるようにして、両種の移動局装置が混在した状態で通信を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る無線通信システムを説明する概略図である。
【図2】基地局装置の構成を示す概略ブロック図である。
【図3】信号置換部の構成を示す概略ブロック図である。
【図4】フィルタ算出部の詳細を示すブロック図である。
【図5】干渉算出部の構成を示す概略ブロック図である。
【図6】THP部の動作を示すフローチャートである。
【図7】移動局装置の構成を示す概略ブロック図である。
【図8】別の移動局装置の構成を示す概略ブロッック図である。
【図9】変形例の基地局装置の主要な部分を示す概略ブロック図である。
【図10】フレーム構成部の処理を示す概念図である。
【図11】OFDM信号変調部の構成を示す概略ブロック図である。
【図12】移動局装置の主要な構成を示す概略図である。
【図13】本発明の第2の実施形態に係る無線通信システムを説明する概略図である。
【図14】基地局装置の主要な部分の構成を示す概略ブロック図である。
【図15】移動局装置の構成を示す概略ブロック図である。
【図16】本発明の第3の実施形態に係る無線通信システムの基地局装置の主要な構成を示すブロック図である。
【図17】本発明の第4の実施形態に係る無線通信システムの基地局装置の主要な構成を示すブロック図である。
【図18】本発明の第5の実施形態に係る無線通信システムを説明する概略図である。
【図19】基地局装置の構成を示すブロック図である。
【図20】摂動ベクトルVP部の詳細を示すブロック図である。
【図21】本発明の第6の実施形態に係る無線通信システムの基地局装置で用いる摂動ベクトルVP部の詳細を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態に係る通信システムを示す概略図である。この通信システムは、1台の第1の通信装置11およびN台の第2の通信装置21−1・・・21−i・・・21−Nを備える。ただし、Nは、2またはそれより大きい整数である。第1の通信装置11は、N本のアンテナを備えて、第2の通信装置21−1・・・21−i・・・21−Nと無線で通信をしている。第2の通信装置21−1・・・21−i・・・21−Nを総称して、第2の通信装置21ということがある。なお、このことは、他の実施形態、変形例の説明においても同様である。第1の通信装置11は、空間分割したN本のストリームを送波(送信)するが、これらのストリームには別異のデータ信号が乗せられている。第2の通信装置21は、これらのストリームを受波(受信)する。
第2の通信装置21は、1本のアンテナをそれぞれが備える。特定の第2の通信装置21−iは、THP非対応の通信装置(以下では、「THP非対応MT」と言うことがある。)であり、その他の第2の通信装置はTHP対応の通信装置(以下では、「THP対応MT」と言うことがある。)である。THP対応、非対応については、後で説明をする。
本実施形態は、THP対応MTをN−1個空間多重する中で、THP非対応MTを1つだけ更に空間多重する場合に適用できる。
【0026】
第1の通信装置11は、一例として、移動通信システムまたは固定通信システムの基地局装置であり、第2の通信装置21は、その端末装置である。以下では、第1の通信装置は、移動通信システムの基地局装置であり、第2の通信装置は、その移動局装置であるとして説明を行う。なお、このことは、他の実施形態、変形例の説明においても同様である。
[基地局装置の構成]
【0027】
図2は、基地局装置11の構成を示す概略ブロック図である。
基地局装置11は、符号化部102−1、102−2・・・102−N、変調部103−1、103−2・・・103−N、信号置換部104、干渉減算部105−2・・・105−N、モジュロ演算部106−2・・・106−N、干渉算出部107、線形フィルタ乗算部108、フレーム構成部109、無線送信部110−1、110−2・・・110−N、アンテナ部111−1、111−2・・・111−N、DRS生成部112、CRS生成部113、無線受信部114−1、114−2・・・114−N、フレーム分離部115、MT種別判別部116、オーダ決定部117、伝搬路情報取得部118、フィルタ算出部119を具備する。なお、干渉減算部105−2・・・105−N、モジュロ演算部106−2・・・106−N、干渉算出部107は、THP部120を構成する。また、アンテナ部111−1、111−2・・・111−Nを除く他の構成(102−1、102−2・・・102−N、103−1、103−2・・・103−N、104、105−2・・・105−N、106−2・・・106−N、107、108、109、110−1、110−2・・・110−N、112、113、114−1、114−2・・・114−N、115、116、117、118、119の符号で示されるもの。)は、プロセッサ部1を構成する。
【0028】
次に、基地局装置11の全般の動作を説明し、その後に各構成部分の詳細を説明する。
移動局装置21−1、21−2・・・21−Nへ送信するデータ信号101−1、101−2・・・101−Nは、符号化部102−1、102−2・・・102−Nにこの順序で入力され、誤り訂正符号化が行われる。なお、この順序は任意である。これらの符号化された信号は次に変調部103−1、103−2・・・103−Nに入力されて、QPSK(4相位相シフトキーイング)、16QAM(16値直交振幅変調)、等の変調が行われる。変調部103−1、103−2・・・103−Nの出力信号は、次に信号置換部104に入力される。
【0029】
信号置換部104の出力信号は、THP部120を介して線形フィルタ乗算部108に加えられる。THP部120において、変調部103−1・・・103−Nの出力信号のうち一つは直接線形フィルタ乗算部108へ加えられるが、残りのN−1本の信号は、干渉減算部105−2・・・105−Nにおいて干渉信号の減算が行われ、次いでモジュロ演算部105−2〜105−Nにおいて送信電力の低減を目的としたモジュロ演算が行われ、その後に線形フィルタ乗算部108に加えられる。
【0030】
線形フィルタ乗算部108の入力には、前述のTHP部120の出力信号の他に、DRS生成部からの専用参照シンボルDRS(dedicated reference symbol)も加えられる。この2種類の信号は時分割多重された後、以下のフィルタリング処理が行われる。
線形フィルタ乗算部108は、その入力信号について重み付け行列Qによるフィルタリングを行う。線形フィルタ乗算部108の出力信号はフレーム構成部109へ加えられる。
【0031】
フレーム構成部109は、線形フィルタ乗算部108からの入力信号の他に、共用参照シンボルCRS(common reference symbol)生成部113からの入力信号も受け取る。フレーム構成部109は、これらの入力信号を時分割多重した後に、無線送信部110―1・・・110−Nに加える。無線送信部110−1・・・110−Nは、フレーム構成部109から受け取った信号について、ディジタル/アナログ変換を施し、次に搬送波に乗せるために無線周波数にアップコンバートし、その後にアンテナ部112−1・・・112−Nに加える。アンテナ部112−1・・・112−Nからは、これらの無線信号が送波される。
【0032】
一方、アンテナ部112−1・・・112−Nは、移動局装置21−1・・・21−Nから受波した無線信号を無線受信部114−1・・・114−Nに加える。無線受信部114−1・・・114−Nは、アンテナ部111−1・・・111−Nから受け取った無線信号についてベースバンドへのダウンコンバートを行い、次いでアナログ/ディジタル変換を行った後に、その出力信号をフレーム分離部115へ加える。
【0033】
フレーム分離部115は、無線受信部114−1・・・114−Nから受け取った信号について、以下のフレーム分離を行う。すなわち、フレーム分離部115は、伝搬路状態情報に関する信号を伝搬路情報取得部118へ加え、移動局装置21のMT種別、すなわちTHP対応か非対応かに関わりのある信号をMT種別判別部116へ加える。その他に、フレーム分離部115は、フレーム分離部115が分離した移動局装置21からのデータ信号を外部に出力する(この点は図2に図示していない。)。
【0034】
MT種別判別部116は、移動局装置21のMT種別情報を作成してオーダ決定部117へ加える。
オーダ決定部117は、MT種別情報に基づいて、データ信号101−1、101−2・・・101−Nの順序を定めるオーダ情報に関する信号を作成して、信号置換部104およびフィルタ算出部119へ加える。
伝搬路情報取得部118は、フレーム分離部115から伝搬路状態情報に関する信号を受け取って、これをフィルタ算出部119へ加える。
フィルタ算出部119は、伝搬路情報取得部118から受け取った伝搬路情報に関する信号およびオーダ決定部117から受け取ったオーダ情報に関する信号に基づいて後述する信号を作成して、干渉算出部107および線形フィルタ乗算部108へ加える。
【0035】
次に、各構成の詳細を説明する。
図3に、信号置換部104の詳細図を示す。信号置換部104は、N個の入力端子I−11、I−12・・・I−1Nと、N個の出力端子O−11、O−12・・・O−1Nを有するスイッチである。変調部103−1の出力信号は信号置換部104の入力端子I−11に加えられ、変調部103−2の出力信号は信号置換部104の入力端子I−12に加えられ、以下同様である。信号置換部104は、オーダ決定部117の指示に応じて、入力端子I−11、I−12・・・I−1Nに加わった信号の順序を変更して出力端子O−11、O−12・・・O−1Nに一対一に出力する。
【0036】
オーダ決定部117は、移動局装置21−1〜21−NのMT種別に従って、THP非対応の移動局装置を最初に持ってくるようにオーダを決定する。すなわち、現在の移動局装置の順序は(1、2、・・・、i、・・・N)であるので、これを(i、2、・・・、1、・・・、N)とする順序に替えるオーダリングを行って、この情報を示す信号を出力する。つまり、(1、i)の置換である。上記のオーダ決定は一例であって、要は、THP非対応の移動局装置(i)を示す情報を1番目に持ってくるような順序にするオーダリングを行えばよく、その他の順序は任意である。ただし、以下で説明をするように、変形例では、この順序が後述の効果を奏する。
【0037】
信号置換部104は、オーダ決定部117からの信号を受けて、その1番目の出力端子O−1からTHP非対応の移動局装置へ送信する変調信号が出力されるようにする。
伝搬路情報取得部118は、移動局装置21−1・・・21−Nから送信されてきた伝搬路情報を統合した伝搬路情報を作成する。すなわち、例えば、基地局装置11のN個のアンテナから第k番目の移動局装置21−kのアンテナへ至る伝搬路の、情報データ信号に関する複素利得を、順次に[hk,1・・・hk,N]と書くと、これは1行N列の伝搬路行列hkとして示すことがきる。伝搬路情報取得部118は、複数の移動局装置21から送信されてきた伝搬路情報を統合した伝搬路情報を作成するが、この統合された伝搬路情報は、N行N列の行列Hとして、以下の式(1)のように示すことができる。
H=[h1t、・・・、hNt]t (1)
ここで、添字tは、行列の転置を示す。
伝搬路情報取得部118は、統合した伝搬路情報である行列Hを示す信号をフィルタ算出部119に加える。
【0038】
図4は、フィルタ算出部119の概略ブロック図である。フィルタ算出部119は、オーダリング部1191、QR分解部1192、重み付け形成部1193および干渉信号形成部1194を備える。
オーダリング部1191は、オーダ決定部117から入力されたオーダ情報の信号に従って、伝搬路行列Hの行を入れ替えて、以下の式(2)に示すように、新たな伝搬路行列H‘とする。
【0039】
【数1】
【0040】
すなわち、THP非対応の移動局装置21−iの伝搬路行列hiが、新たな伝搬路行列H‘では、第1行に来ている。
オーダリング部1191が出力する新たな伝搬路行列H‘に関する信号は、QR分解部1192に加えられる。QR分解部1192は、伝搬路行列H’についてエルミート共役を施した行列H‘Hを作成する。添字Hは行列のエルミート共役であることを示す。次に、この行列H‘Hに対して公知のQR分解を下記の式(3)のように施す。
H‘H=QR (3)
ここで、Qは直交行列であり、Rは上三角行列である。行列Qの信号は重み形成部1093へ加えられ、行列Rの信号は干渉信号形成部1194へ加えられる。
【0041】
重み形成部1093は、受け取った行列Qを重み付け行列の信号として、線形フィルタ乗算部108へ加える。
一方、干渉信号形成部1194は、受け取った行列Rにエルミート共役を施した行列RHを作成する。
【0042】
前述したように、線形フィルタ乗算部108において、送信信号には重み付け行列Qのフィルタリングを付加するから、この点を考慮したデータ信号に関する等価伝搬路の複素利得は、H‘Qとなる。すると、H’Qは、以下の式(4)のように書ける。
H‘Q=(QR)HQ=RH (4)
すなわち、行列RHは、等価伝搬路の複素利得を示す。しかも、行列RHは、下三角行列であり、1行目では、対角成分である1行1列の要素以外は零となっている。つまり、1番目の移動局装置は、他の移動局装置への送信信号からの干渉を受けない。したがって、THP非対応の移動局装置に対しては、以下で説明をする干渉減算もモジュロ演算も行わずに情報データ信号をそのまま送信することができることになる。その他に、2番目以下の第2の通信装置についても、干渉成分が低減されているが、その低減の割合は、平均的に見れば2番目のものは1番目のものより少なく、3番目のものは2番目のものより少なく、というように順次に少なくなる。
【0043】
干渉信号形成部1194は、受け取った行列RHの対角成分のみを取り出した行列Aを作成し、次に行列RHに行列Aの逆行列A―1を乗算して、行列A―1RHを作成する。このことは、等価伝搬路の複素利得を所望信号の利得で除算して正規化することを意味する。次に、干渉信号生成部1194は、行列A―1RHから単位行列Iを引き算して、行列A―1RH−Iを作成する。行列A―1RH−Iは、対角成分が零の下三角行列である。すなわち、行列A―1RH−Iは、干渉信号が通る非対角成分のみを残した行列であって、干渉信号に関する伝搬路の複素利得を正規化した干渉情報を表す。この干渉情報である行列A―1RH−Iの信号は、干渉算出部107へ加えられる。
【0044】
図5に、干渉算出部107の詳細図を示す。
干渉算出部107は、N個の入力端子I−21・・・I−2Nと、(N−1)個の出力端子O−22・・・O−2Nを有する装置であって、以下の順序動作を行う。入力端子I−21へは、信号置換部104の出力端子O−11の出力である信号s1が加わる。入力端子I−22へは、モジュロ演算部106−2の出力である信号ν2が加わる。以下同様にして、入力端子I−2Nへは、モジュロ演算部106−Nの出力である信号νNが加わる。ここで便宜上、上述の信号s1を信号ν1と書く。
干渉算出部107は、その出力端子O−22に、干渉f2を算出して、これを干渉減算部105−2へ出力する。干渉f2は、以下の式(5)で表される。
f2 = (A―1RH−I) 1(v1, 0, 0, …, 0)t (5)
行列(A―1RH−I) 1は、フィルタ算出部119から受け取った干渉信号に関する行列A―1RH−Iの第1列である1行N列の行列である。行列(v1, 0, 0, …, 0)tは、1行1列の要素が信号v1であって、その他の要素は零である1行N列の行列を転置した、N行1列の行列である。
【0045】
また、干渉算出部107は、その出力端子O−23に、干渉f3を算出して、これを干渉減算部105−3へ出力する。干渉f3は、以下の式(6)で表される。
f3 = (A―1RH−I) 2(v1, v2, 0, …, 0)t (6)
行列(A―1RH−I) 2は、フィルタ算出部119から受け取った干渉信号に関する行列A―1RH−Iの第2列である1行N列の行列である。行列(v1, v2, 0, …, 0)tは、1行1列の要素が信号v1であり、1行2列の要素が信号v2であって、その他の要素は零である1行N列の行列を転置した、N行1列の行列である。
以下同様にして、干渉算出部107は、その出力端子O−2Nに、干渉fNを算出して、これを干渉減算部105−Nへ出力する。干渉fNは、以下の式(7)で表される。
fN = (A―1RH−I) N−1(v1, v2, v3, …,νN−1, 0)t (7)
【0046】
行列(A―1RH−I) N―1は、フィルタ算出部119から受け取った干渉信号に関する行列A―1RH−Iの第(N−1)列である1行N列の行列である。行列(v1, v2, v3, …,νN−1, 0)tは、1行1列の要素が信号v1であり、以下同様にして1行(N−1)列の要素が信号vN―1であり、最後の1行N列の要素が零である1行N列の行列を転置した、N行1列の行列である。
以上のように、干渉算出部107は、最初に信号s1(信号ν1)を入手して、これと干渉信号A―1RH−Iとから干渉f2を算出し、次に信号ν2を入手して、信号ν1と信号ν2と干渉信号A―1RH−Iとから干渉f3を算出し、以下同様にして、最終的に干渉fNを算出する。
干渉減算部105−2・・・105−Nは、信号置換部104からの信号s2〜sNから、干渉算出部107からの干渉f2・・・fNを減算する。すなわち、干渉減算部105−2は、s2−f2という値の信号をモジュロ演算部105−2へ出力し、以下同様にして、干渉減算部105−Nは、sN−fNという値の信号をモジュロ演算部105−Nへ出力する。
【0047】
モジュロ演算部105−2は、信号(s2 - f2)から以下の式(8)で示される信号ν2を出力する。
v2 = Modτ(s2 − f2) (8)
以下同様にして、モジュロ演算部105−Nは、信号(sN- fN)から以下の式(8)で示される信号νNを出力する。
νN = Modτ(sN−fN) (9)
ここで、モジュール関数Modτ(x)は、変数xについて以下の式(10)で表されるモジュロ演算を行う。
【0048】
【数2】
【0049】
ここで、jは虚数単位、Re(x)はxの実部を表し、Im(x)はxの虚部を表す。floor(x)はx を超えない最大の整数を表す。また、τはモジュロ幅であり、所望信号の変調方式におけるコンスタレーション(信号点配置)の幅よりも大きい数である。例えば、変調シンボルがQPSK(4相位相シフトキーイング)なら最小信号点間距離の4倍とし、16QAM(16値直交振幅変調)なら最小信号点間距離の6倍とすることが望ましいが、他の値でもよい。この値τはあらかじめ基地局装置11と移動局装置21との間で共有しているものである。関数Modτ (x)は、変数xから関数floor(x)の値を引き算するモジュロ演算を行うが、このようにして、モジュロ演算により、周期τだけ平行移動した点を同じ点として扱うなら、変数xの値とModτ(x)の値とは、等値関係にあり、かつ後者の絶対値の二乗(電力)は、前者のものよりも低減されている。
【0050】
干渉減算・モジュロ演算部120からの出力信号ν1・・・νNは、専用参照シンボルを出力するDRS生成部112の出力とともに、線形フィルタ部108に加えられる。
次に、THP部120の全体の動作を、図6のフローチャートを用いて説明する。
(ステップS101)変数jを1とし、ステップS102へ進む。なお、変数jは、干渉算出部120のメモリ(図示せず)に格納されている。
(ステップS102)干渉算出部107は、最初の変調部103−1の出力信号s1をν1に代入する。次に、ステップS103へ進む。
(ステップS103)変数jに1を加算し、ステップS104へ進む。する。
(ステップS104)干渉算出部107は、信号ν1・・・νj−1を用いて干渉信号fjを求め、次にステップS105へ進む。
(ステップS105)干渉減算部105−jは、j番目の変調部103−jの出力信号sjから干渉信号fjを減算し、ステップS106へ進む。
(ステップS106)モジュロ演算部105−jは、信号sj−fjにモジュロ演算を施し、ステップS107へ進む。
(ステップS107)モジュロ演算を施した信号をνjと置き、ステップS108へ進む。
(ステップS108)モジュロ演算部は、変数jが整数Nと等しいか否かを判定する。等しいと判定すれば、ステップS109へ進み、等しくないと判定すれば、ステップS103へ戻る。
(ステップS109)THP部120は、信号(v1, v2 … νN)tを線形フィルタ乗算部108へ出力する。
【0051】
次に線形フィルタ部108の説明をする。線形フィルタ部108は、N個の入力端子とN個の出力端子を有するフィルタであって、フィルタ特性は、重み付け行列Qによって表される。前述したように、線形フィルタ乗算部108のN個の入力端子のそれぞれには、DRS生成部からの専用参照シンボルDRS(v01, v02 …ν0N)も加えられる。これらの2種類の信号は、時分割多重されて信号(v21, v22 …ν2N)となる。線形フィルタ部108は、この時分割多重信号に対して重みQを付加して、以下の式(11)に示す出力信号(μ1,μ2・・・μN)を得る。
(μ1,μ2・・・μN)=Q(v21, v22 …ν2N)t (11)
すなわち、線形フィルタ部108は、乗算後の出力信号(μ1,μ2,・・・,μN)をフレーム構成部109へ出力する。この信号は、CRS生成部からの共用参照シンボルCRS(μ01,μ02,・・・,μ0N)も加えられる。これらの2種類の信号は、時分割多重されて信号(μ21,μ22,・・・,μ2N)となり、無線送信部112−1・・・112−Nへ加えられる。
【0052】
基地局装置11と移動局装置21との通信を開始する最初の1つのフレームにおいて、N個の共用参照シンボルCRSがフレーム構成部109において時間的に異なるシンボルに割りあてられて無線送信部110−1・・・110−Nへ送出されるが、このフレームにはデータ信号は割りあてられない。続く複数のフレームの各々においては、共用参照シンボルCRSは割りあてられないが、N個の専用参照シンボルDRSが時間的に異なるシンボルに割り当てられて無線送信部110−1・・・110−Nへ送出され、かつ、この場合は、データ信号が専用参照シンボルDRSと時間多重して、かつ、どの専用参照シンボルとも異なるシンボルに割り当てられて、無線送信部110−1・・・110−Nへ送出される。なお、通信の継続中は、共用参照シンボルCRSは、所定数のフレーム数毎に、専用参照シンボルおよびデータ信号と時分割に1つのフレームを占有して、無線送信部110−1・・・110−Nへ送出される。
【0053】
上記所定数は、基地局装置11と移動局装置21との間の伝搬路状態に応じて可変にしてもよい。
【0054】
なお、専用参照シンボルDRSおよび共用参照シンボルCRSについては、ウォルシュ符号やアダマール符号などの直交または準直交符号を掛けて符号多重にしてもよい。この場合は、両参照シンボルはそれぞれ1つのシンボル間隔で多重することができる。
以上説明したように、本発明の第1の実施形態の基地局装置では、干渉除去による電力増加を抑圧した、電力効率の良い空間多重を行うことができる。さらに、1つの移動局装置に対しては、干渉を除去することなく所望の通信を行うことができ、モジュロ演算の必要もない。また、共用参照シンボルの他に専用参照シンボルも用いるので、移動局装置において伝搬路補償を実施することができる。
【0055】
また、基地局装置が2つまたはそれを超える数だけ存在し、お互いに協調して、実質的に1つの基地局装置と考えることができるような構成でもよい。さらに、基地局装置がN本よりも多いアンテナとそれに付随する無線送信部などを持っていたとしても、送信ダイバーシチを用いて等価的にN本のアンテナとして扱って、Nストリームによる通信を行うことができる。
また、フィルタ算出部119におけるQR分解として、H' H ( H' H' H +dI )-1に対してQR分解を行うMMSE (Minimum Mean Squared Error) 型の方法を用いてもよい。ここで、dは、第2の通信装置が受ける雑音電力を第1の通信装置の送信信号の電力で割った値である。また、フィルタ算出部119で、ZF-BLAST-THPまたはMMSE-BLAST-THPを用いて、フィルタを算出してもよい。
[移動局装置の構成、その1]
【0056】
先ず、THP対応の移動局装置の説明をし、その後にTHP非対応の移動局装置の説明をする。
図7は、THP対応の移動局装置21−Aの構成を示す概略ブロック図である。この移動局装置21−Aは、図1におけるN台ある移動局装置の第i番目のもの以外のものである。
移動局装置21−Aは、復号部201、復調部202、モジュロ演算部203、伝搬路補償部204、フレーム分離部205、無線受信部206、伝搬路推定部207、伝搬路状態情報生成部208、MT種別情報生成部209、フレーム構成部210、無線送信部211、アンテナ部212を具備する。なお、アンテナ部212以外の構成(201、202、203、204、205、206、207、208、209、210、211の符号で示されるもの。)は、プロセッサ部2を構成する。
【0057】
アンテナ部213は、基地局装置11が送波した無線信号を受波して、この信号を無線受信部206に伝える。無線受信部206は、この無線周波数帯の信号をベースバンドへダウンコンバートし、アナログ/ディジタル変換を施し、次にフレーム分離部205へ出力する。フレーム分離部205は、データ信号を、パイロット信号である専用参照シンボルDRSおよび共用参照シンボルCRSから分離し、データ信号を伝搬路補償部204へ出力し、専用参照シンボルDRSおよび共用参照シンボルCRSを伝搬路推定部207へ出力する。
【0058】
伝搬路推定部207は、共用参照シンボルCRSに基づいて推定した伝搬路状態情報Hkを伝搬路状態情報生成部208へ出力する。また、伝搬路推定部207は、専用参照シンボルDRSに基づいて伝搬路推定を行って推定した等価伝搬路の複素利得rkk(等価伝搬路の複素利得を示す行列RHの対角成分)を伝搬路補償部204へ出力する。
伝搬路補償部204は、フレーム分離部205から受け取った情報データ信号について、等価伝搬路の複素利得である行列RHのk行k列の要素である複素利得rkkを用いて伝搬路補償を行い、伝搬路補償後の信号ykをモジュロ演算部203へ出力する。この信号ykは、以下の式(12)で示される。
yk = rkk(Modτ(sk−fk)) + Fk (12)
【0059】
すなわち、右辺の第1項は、図2のTHP部120の出力である信号Modτ(sk−fk)が等価伝搬路を伝搬した後の信号が、Modτ(sk−fk)に等価伝搬路の複素利得rkkを乗算したものであることを示す。これに加算される右辺の第2項は、基地局装置10の他のアンテナからの信号の干渉Fkをす。
ここで干渉信号Fkは、所望信号から減算する信号fkとは異なり、
Fk= ( R H − I) k(v1, v2, …, vk,…, 0)t (13)
となる。すなわちfkに対して所望信号の等価伝搬路の複素利得で乗算したものがFkとなる。つまり
Fk= rkk fk (14)
が成り立つ。これを式(11)に代入すると
yk = rkk(Modτ(sk−fk)) + rkk fk (15)
となる。次にModulo演算は上述のようにτのある整数倍を加算することであるので、整数N1, N2とすれば
yk = rkk( (sk−fk) + N1τ+j N2τ) + rkk fk
= rkk(sk+ N1τ+j N2τ) (16)
となり、ここで伝搬路補償を行った後、モジュロ演算を行うと
sk’ = Mod(rkk-1yk) = Mod(sk + N1τ+j N2τ)= sk (17)
となる。つまり、最終的に所望信号skが移動局装置でも得られ、等値変換の回復が行われる。
【0060】
MT種別情報生成部(209)は、この移動局装置がTHP対応の移動局装置であることを示す信号をフレーム構成部(210)に出力する。伝搬路状態情報生成部208は、伝搬路推定部207から入力された伝搬路状態情報Hkをフレーム構成部210へ出力する。フレーム構成部は、入力されたMT種別情報と伝搬路状態情報Hkを用いてフレームを構成し、無線送信部に入力する。無線送信部は入力された信号をデジタル/アナログ変換後に無線周波数にアップコンバージョンし、基地局装置へ送信する。
なお、MT種別情報は伝搬路状態情報を基地局装置11に送信する毎に通知してもよいし、通信を開始するときに最初のフレームで1回だけ基地局装置に通知してもよいし、一定フレーム数送る度に一回送信してもよい。また、移動局装置21−Aは、MT種別情報又は伝搬路状態情報を、自分に割り当てられた上りリンク用の制御チャネルまたはデータチャネルで基地局装置へ送信する。
[移動装置の構成、その2]
【0061】
図8は、THP非対応の移動局装置21−Bの構成を示す概略ブロック図である。この移動局装置21−Aは、図1におけるN台ある移動局装置の第i番目のものである。
移動局装置21−Bは、復号部201、復調部202、モジュロ演算部203、伝搬路補償部204、フレーム分離部205、無線受信部206、伝搬路推定部207、伝搬路状態情報生成部208、MT種別情報生成部213、フレーム構成部210、無線送信部211、アンテナ部212を備える。なお、アンテナ部212以外の構成(201、202、204、205、206、207、208、209、210、211の符号で示されるもの。)は、プロセッサ部3を構成する。
【0062】
図8のTHP非対応の移動局装置21−Bの構成と図7のTHP対応の移動局装置21−Aの構成とを比較すると、前者は、MT種別情報生成部213を備える点、後者のモジュロ演算部209が前者では欠如している点が相異するだけで、その他の構成(201,202、204・・・208、210・・・212)は同じであるので、その説明を省略する。
伝搬路補償部204は、フレーム分離部205から受け取った情報データ信号について、伝搬路補償を行う。伝搬路補償後の受信信号は、前述のモジュロ演算を行うことなしに、復調部202に出力されて、そこで復調が行われる。
次に、MT種別情報生成部(213)は、この移動局装置がTHP非対応の移動局装置であることを示す信号をフレーム構成部(210)に出力する。
【0063】
本実施形態によれば、1台のTHP非対応の移動局装置とTHP対応の移動局装置とがMU-MIMO THPを用いて混在した状態で通信することを可能にする。さらに、THP対応の移動局装置に対してはモジュロ演算を用いて送信電力を抑圧した 通信を行うことができ、従来のビームフォーミングよりも電力効率がよくなる。
<変形例>
【0064】
前述の第1の実施形態では、1台の基地局装置11とシングルキャリア(単一搬送波)で無線通信を行うN台の移動局装置21のうち、1台の移動局装置がTHP非対応のものであった。
本変形例では、情報データ信号を伝送する搬送波としてマルチキャリア(多数搬送波)、特に、OFDM(直交周波数分割多重)を用い、そのW個のサブキャリアの各々が、第1の実施形態の発明に従って共通の基地局装置12からそれぞれの複数の移動局装置22−1・・・22−Nへデータ信号を伝送する。そのために、基地局装置12は、W個のTHP非対応の移動局装置22と通信を行うことができる。
【0065】
図9は、基地局装置12の主要な送信部分の構成を示す概略ブロック図である。その他の受信部分を含めた構成は、第1の実施形態と同じである。
基地局装置12の主要な送信部分は、信号置換部1041、THP部1201、線形フィルタ乗算部1081、フレーム構成部1091、OFDM信号変調部1211、DRS生成部1121、CRS生成部1131、MT種別判別部1161、オーダ決定部1171を具備する。
変調信号は、信号置換部1041において、オーダ決定部1171からの制御に従って、特定のサブキャリアに属するグループに分けられて、それぞれのグループ毎にTHP部1201を通過して、第1の実施形態において説明した処理を受ける。THP部1201の出力は、線形フィルタ乗算部1081に加わる。線形フィルタ乗算部1081へは専用参照シンボルDRS生成部1121からの専用参照シンボルDRSも加わる。線形フィルタ乗算部1081では、第1の実施形態において説明した処理を特定のサブキャリアに属するデータ信号のグループ毎に施す。線形フィルタ乗算部1081の出力は、フレーム構成部1091へ加えられる。フレーム構成部1091へは、共通参照シンボルCRS生成部1131からの共通参照シンボルCRSも加わる。フレーム構成部1091の出力は、OFDM信号変調部1211へ加えられる。
【0066】
図10は、フレーム構成部1091の処理を示す概念図である。図11は、時間軸t、各移動局装置宛の信号を示すμ軸、サブキャリア軸scの3次元空間を示す。前述の信号(μ21,μ22,・・・,μ2N)は、図10の3次元空間では、時間軸t、各移動局装置宛の信号のμ軸で示される2次元平面の信号配置である。この変形例のフレーム構成部1091では、この2次元平面の信号配置を、周波数軸sc方向にサブキャリア毎に積み上げた3次元のものにする。図10では、1つのフレームは、6つのシンボルを有し、さらにサブキャリア数は4つであるが、これは単なる例示である。
【0067】
フレーム構成部1091の出力は、OFDM信号変調部1211へ加えられる。
図11に、OFDM信号変調部1211の詳細をブロック図で示す。OFDM信号変調部1211は、IFFT部122−1、122−2・・・122−N、GI挿入部123−1、123−2・・・123−Nを具備する。IFFT部122−1は、全てのサブキャリアに属する最初のデータ信号に相当する信号μ21(W個のTHP非対応の移動局装置へのデータ信号)を、フレーム構成部1091から加えられ、これらの信号について逆高速フーリエ変換を施して1つの無線送信部へ出力する。IFFT部122−2は、全てのサブキャリアに属する次のデータ信号μ22に相当する信号(次のサブキャリアに属する、W個のTHP対応の移動局装置へのデータ信号)を、フレーム構成部1091から加えられ、これらの信号について逆高速フーリエ変換を施して別の無線送信部へ出力する。以下同様にして、IFFT部122−Nは、全てのサブキャリアに属するデータ信号μ2Nに相当する信号(W個のTHP非対応の移動局装置へのデータ信号)を、フレーム構成部1091から加えられ、これらの信号について逆高速フーリエ変換を施して最後の無線送信部へ出力する。
【0068】
図12は、移動局装置22の構成のうち、主要な部分をブロック図にて示す。その他の部分の構成は、第1の実施形態のものと同様である。
図12の主要な部分は、無線受信部206とフレーム分離部205との間に、GI除去部213、FFT部214を具備する。GI除去部213、FFT部214は、OFDM信号復調部213を構成する。この構成は、THP対応、非対応の移動局装置の両者に共通である。
GI除去部213は、無線受信部206からの時間軸信号についてガードインターバルGIを除去し、次いでFFT部214において時間軸信号を周波数軸信号に変換する。次いで、周波数軸信号から、所望のサブキャリアの信号を分離して、その分離したものを、フレーム分離部205へ出力する。
【0069】
なお、基地局装置11のプロセッサ部1については、その複数の構成を半導体装置およびプログラムにより実現するものにより構成し、プログラムを格納したROM、PROMまたはフラッシュメモリ、それらを制御する制御装置をも半導体装置により構成し、かつ、これらの複数の半導体装置を単一または複数の半導体チップにより構成することができる。
また、信号置換部104、干渉減算部105−2・・・105−N、モジュロ演算部106−2・・・106−N、干渉算出部107、線形フィルタ乗算部108、MT種別判別部116、オーダ決定部117のみを、プロセッサとして、これらの複数の構成を、前述のようにして単一または複数の半導体チップにより構成することができる。
【0070】
また、移動局装置21−A、21−Bのプロセッサ部2、プロセッサ部3については、その複数の構成を半導体装置およびプログラムにより実現するものにより構成し、プログラムを格納したROM、PROMまたはフラッシュメモリ、それらを制御する制御装置をも半導体装置により構成し、かつ、これらの複数の半導体装置を単一または複数の半導体チップにより構成することができる。
<第2の実施形態>
【0071】
本発明の第2の実施形態を、先ず、簡単な例について図を用いて説明し、次にそれを一般化して説明する。
図13において、1台の基地局装置13は、2台の移動局装置23−1、23−2と無線通信を行う。基地局装置13は、4本のアンテナ13−1、13―2,13−3、13−4を有し、移動局装置23−1はアンテナ23−1−1、23−1−2を有し、移動局装置23−2はアンテナ23−2−1、23−2−2を有する。移動局装置23−1は、前述のTHP非対応の移動局装置であり、移動局装置23−2は、THP対応の移動局装置である。基地局装置13のアンテナ13−1・・・13−4はそれぞれ別異の情報データ信号を乗せた4本のストリームを送波するが、その内の2本のストリームは移動局装置23−1へ向け、他の2本のストリームは移動局装置23−2へ向ける。
【0072】
図14は、基地局装置13の主要な送信部分の構成を示す概略ブロック図である。その他の受信部分を含めた構成は、第1の実施形態と同様である。
基地局装置13の主要な送信部分は、信号置換部304、干渉減算部305−3、305−4、モジュロ演算部306−3、306−4、干渉算出部307、線形フィルタ乗算部308、MT種別判別部316、オーダ決定部317、DRS生成部312を具備する。干渉減算部305−3、305−4、モジュロ演算部306−3、306−4、干渉算出部307は、THP部320を構成する。
符号化、変調化の行われた4つのデータ信号は、信号置換部304に加えられる。これらの情報データ信号は、信号置換部304において順序を変えられて、THP非対応の移動局装置23−1への2つの情報データ信号はTHP部320で処理を加えられずに通過して線形フィルタ乗算部308へ出力される。THP対応の移動局装置23−2への2つの情報データ信号は、THP部320の干渉減算部305−3、305−4での干渉減算、モジュロ演算部306−3、306−4でのモジュロ演算を経て、線形フィルタ乗算部308へ加えられる。
【0073】
線形フィルタ乗算部308の入力には、THP演算部320の出力信号の他に、DRS生成部312からの専用参照シンボルDRSも加えられる。この2種類の信号は時分割多重された後、フィルタリング処理が行われる。このフィルタリング処理については、干渉除去と一緒に後で説明をする。線形フィルタ乗算部308の出力信号は、第1の実施形態のところで説明をしたフレーム構成部109へ加えられる。
MT種別判別部316は、移動局装置23−1、23−2のMT種別情報を作成してオーダ決定部317へ加える。
【0074】
オーダ決定部317は、MT種別情報に基づいて、情報データ信号101−1・・・101−4の前述の順序を定めるオーダ情報に関する信号を作成して、信号置換部304およびフィルタ算出部319へ加える。
フィルタ算出部319は、第1の実施形態のところで説明をした伝搬路情報取得部318から受け取った伝搬路情報に関する信号およびオーダ決定部317から受け取ったオーダ情報に関する信号に基づいて干渉情報を作成して、この信号を干渉算出部307へ加える。
【0075】
次に、THP部320、線形フィルタ乗算部308の構成の詳細を説明する。
線形フィルタ乗算部308の重み付けフィルタPは、以下の式(18)で示すことができる。
【0076】
【数3】
【0077】
上記式(18)は、後で明らかになるように、下記の式(19)のように書くことができる。
【0078】
【数4】
【0079】
式(18)に戻って、右辺の行列の括弧内の2番目の行列は、以下のようである。すなわち、基地局装置13の送信アンテナ312−1・・・312−4からTHP非対応の移動局装置23−1、THP対応の移動局装置23−2への伝搬路の複素利得をそれぞれ2行4列の行列H1、H2で表すと、全体の伝搬路行列Hは、以下の式(20)
【0080】
【数5】
【0081】
で表される。
次にH1に対して特異値分解を施す。するとH1は以下の式(21)のように表される。ここで後に説明するMT数が3つ以上のときとの整合性を保つためにH1をH^2という記号で置き換える。H^2は全伝搬路行列HからH2を削除した行列という意味であり、MT数が2つだけの場合ではH1=H^2となる。
【0082】
【数6】
【0083】
ここで、式(21)の右辺の左から一つ目の行列、及び三つ目の行列はそれぞれユニタリ行列である。また二つ目の行列は1行1列成分と2行2列成分だけが正の実数となる。三つ目の行列の3行目と4行目に相当する行列のエルミート共役
【0084】
【数7】
【0085】
が所望の行列V^ker2である。ここでTHP対応の移動局装置23−2宛の信号に対してこの線形フィルタV^ker2を乗算すれば、移動局装置23−2宛の信号がTHP非対応の移動局装置23−1に干渉となって届くのを避けることができる。
行列VIm2は、THP対応の移動局装置23−2の個別フィルタである。この行列VIm2は、移動局装置23−2宛の伝搬路H2に上記行列V^ker2を乗算したもの(H2V^ker2)を再び以下の式(23)のように特異値分解することによって求められる。H2V^ker2は2行2列の行列であるため、以下のような形に特異値分解できる。
【0086】
【数8】
【0087】
式(23)の右辺の一番右の行列のエルミート共役を個別フィルタVIm2とする。
また、移動局装置22−1宛の信号に対してはH1を特異値分解することでMT個別フィルタを求めることができる。
【0088】
【数9】
【0089】
式(24)の右辺の一番右の行列のエルミート共役を個別フィルタVIm1とする。前に戻って、式(19)の行列Pは第1の実施形態における行列Qに相当し、フィルタ算出部319は、この行列Pの信号を線形フィルタ乗算部308に出力する。
THP部320の干渉減算部305−3、305−4の構成は、以下のようである。
等価伝搬路HPを以下の式(25)とする。
【0090】
【数10】
【0091】
ここでT11, T21, T22は2×2行列である。行例T11, T22は基地局装置13が移動局装置23−1、23−2に送信した信号がそれぞれ正しい移動局装置に届くときの伝搬路状態を表している。また行列T21は基地局装置13がTHP非対応の位移動局装置23−1宛に送信した信号がTHP対応の移動局装置23−2に干渉として届くときの伝搬路を表す。式(25)の右辺の1行1列の行列が0というのは移動局装置23−2宛の信号が移動局装置23−1に干渉として届かないことを示している。
この等価伝搬路の行列Tを用いて干渉係数フィルタを算出する。いま、所望信号の伝搬路のみを取り出すと、
【0092】
【数11】
【0093】
と表すことができる。この行列Bは第1の実施形態の行列のAを第2の実施形態の複数受信アンテナの場合に拡張したものに相当する。伝搬路を補償するにはBの逆行列を乗算すればよいので、これに伴って干渉成分は、
【0094】
【数12】
【0095】
となる。式(27)の左辺で単位行列Iを引いているのは所望信号に対する成分を消すためである。
以上より、干渉係数情報B−1T―Iと線形フィルタPを求めることができる。モジュロ演算部306−3、306−4の構成は、第1の実施形態のものと同様である。
【0096】
第2の実施形態のフィルタ算出部319の動作を、M本のアンテナを持つ移動局装置がN個ある場合について一般化して説明する。この場合の基地局装置は、MN個のアンテナを有し、各アンテナから個別の情報データ信号を乗せたストリームを送波する。
基地局装置の各送信アンテナからk番目の移動局装置の受信アンテナまでの伝搬路の複素利得をM行MN列の行列Hkで表す。ここでkは、既述のオーダリング後における移動局装置の番号である。つまりTHP非対応の移動局装置についての伝搬路複素利得をH1とし、THP非対応の移動局装置についての複素利得をH2・・・HNとする。全体の伝搬路行列Hは、下記の式(28)
【0097】
【数13】
【0098】
で表される。いま、この伝搬路行列の1番目〜(k−1)番目までの伝搬路を取り出した行列を
【0099】
【数14】
【0100】
とおく。この行列H^kはM行Mk列の行列となる。次にH^kに対して特異値分解を施す。
【0101】
【数15】
【0102】
ここで行列V^ImkはMN行M(k-1)列の行列であり、行列V^kerkはMN行M(N-k+1)M(N−k+1)列の行列である。
次にN個ずつ存在する各MT宛の信号ごとに最適なプレコーディングを行う。k番目のMTに対応する伝搬路Hkに式(2-3)で求めた行列V^kerkを乗算したもの(HkV^kerk)を再び特異値分解する。
【0103】
【数16】
【0104】
行列HkV^kerkはM行M(N-k+1)列の行列であるために、行列HkV^kerkは、高々Mランクである。次の行列
【0105】
【数17】
【0106】
のうち最初のM列を移動局装置宛の個別フィルタVImkとする。また、行列VImkは、M(N-k)行M列の行列となる。
以上で求めた行列V^kerkと行列VImk (k=1,2,…,N) を用いて線形フィルタを
【0107】
【数18】
【0108】
とする。この行列Pが実施例1における行列Qに相当し、線形フィルタ算出部は、線形フィルタ乗算部にこのPを出力する。
等価伝搬路HPは以下の式(33)のようになる。
【0109】
【数19】
【0110】
ここで行列TikはM行M列の行列であり、k番目のMT宛の信号がi番目のMTに届くときに通ると見做せる伝搬路行列である。行列Tik(iとkは同じ値)は、基地局装置側で各移動局装置宛に送信した信号が正しい移動局装置に届くときの伝搬路を表しており、行列Tik(iとkは異なる値)は、異なる移動局装置宛の信号が干渉として届くときの伝搬路を表している。この等価伝搬路は、下三角行列となっている。
また所望信号の伝搬路のみを取り出すと、この行列は、
【0111】
【数20】
【0112】
と表すことができる。これは第1の実施形態の行列Aを複数受信アンテナの場合に拡張したものに相当する。第1の実施形態と同様に、所望信号が前述の式(34)で表される伝搬路を通った後に、移動局装置が受ける干渉を相殺できる信号を計算するため、以下の式(35)のように干渉係数フィルタ(干渉情報)を算出する。
【0113】
【数21】
【0114】
以上のようにして計算した干渉係数フィルタを、干渉算出部に出力する。
THP部320は、第1の実施形態と同様に干渉算出部、干渉減算部、モジュロ演算部からなり、1番目を除いた2番目以降の移動局装置宛の所望信号から、等価伝搬路における干渉信号を減算し、モジュロ演算を施す操作を逐次的に繰り返し、全移動局装置宛の信号を算出する。第1の実施形態と異なるのは、この逐次的な干渉除去をユーザ単位つまりM本の信号ストリーム毎に行うことである。
THP部320の動作の各工程は図6で示したものと同様である。ただし、THP部320へのN個の入力信号sk(k=1・・・N)は、全て、M次元縦ベクトルであり、THP部からのN個の出力信号fk(k=1・・・N)も、全て、M次元縦ベクトルである。また、M本の信号ストリーム毎に処理を行うことになったことに伴い、干渉算出部における干渉信号fkの計算式は
fk = (B -1 T −I) (v1t, v2t, …, vkt, 0, …, 0)t (36)
とする。さらに干渉減算部及びモジュロ演算部の処理は
vk =Mod (sk - fk ) (37)
となる。
[移動装置の構成]
【0115】
図15は、THP対応の移動局装置23―2の構成を示す概略ブロック図である。
移動局装置23−2は、復号部401−1、401−2、復調部402−1、402−2、モジュロ演算部403−1、403−2、伝搬路補償部404、フレーム分離部405−1、405−2、無線受信部406−1、406−2、伝搬路推定部407、伝搬路状態情報生成部408、MT種別情報生成部409、フレーム構成部410−1、410−2、無線送信部411−1、411−2、アンテナ部412−1、412−2を備える。また、アンテナ部412−1、412−2を除く他の構成(401−1、401−2、402−1、402−2、403−1、403−2、404、405−1、405−2、406−1、406−2、407、408、409、410−1、410−2、411−1、411−2の符号で示されるもの。)は、プロセッサ部4を構成する。
【0116】
アンテナ部412−1、412−2は、基地局装置13が送波した無線信号を受波して、この信号を無線受信部406−1、406−2に伝える。無線受信部406−1、406−2は、この無線周波数帯の信号をベースバンドへダウンコンバートし、アナログ/ディジタル変換を施し、次にフレーム分離部405−1、405−2へ出力する。フレーム分離部405−1、405−2は、データ信号を、パイロット信号である専用参照シンボルDRSおよび共用参照シンボルCRSから分離し、情報データ信号を伝搬路補償部404へ出力し、専用参照シンボルDRSおよび共用参照シンボルCRSを伝搬路推定部407へ出力する。
【0117】
伝搬路推定部407は、共用参照シンボルCRSに基づいて推定した伝搬路状態情報Hkを伝搬路状態情報生成部408へ出力する。また、伝搬路推定部407は、専用参照シンボルDRSに基づいて伝搬路推定を行って推定した等価伝搬路の複素利得Tkkを伝搬路補償部404へ出力する。ここで、伝搬路補償とは受信信号yに対して等価伝搬路に対するZF (Zero Forcing) フィルタTkk-1を乗算することであり、伝搬路補償部の出力信号はTkk-1yとなる。この出力信号をモジュロ演算部403−1、403−2へ出力する。ここで、ZFフィルタに代えて、MMSEフィルタを用いてもよい。
【0118】
モジュロ演算部403−1、403−2は、伝搬路補償部から入力された受信信号に対して、第1の実施形態で行ったモジュロ演算を施して、モジュロ演算後の信号を復調部402−1、402−2に出力する。復調部402−1、402−2は、モジュロ演算部403−1、403−2から入力されたモジュロ演算後の信号を復調し、復調信号を復号部401−1、401−2に出力する。復号部401−1、401−2は、復調部402−1、402−2から入力された信号について復号を行ってデータ信号を出力する。
【0119】
MT種別情報生成部409は、フレーム構成部410−1、410−2にMT種別情報(つまりTHP対応端末であることを示す情報)を入力する。伝搬路状態情報生成部408は、CRS受信時に伝搬路推定部から入力された伝搬路状態情報 (Hk) をフレーム構成部に入力する。フレーム構成部は、入力されたMT種別情報と伝搬路状態情報を用いてフレームを構成し、無線送信部411−1、411−2に出力する。無線送信部411−1、411−2は、入力された信号をアナログ/デジタル変換後アップコンバージョンし、アンテナ412−1、412−2を介して基地局装置13に送信する。
THP非対応の移動局装置23−1の構成は、THP対応の移動局装置23−2の構成からモジュロ演算部403−1、403−2を除いた構成であるので、その説明は、ここでは省略する。
【0120】
なお、各移動局装置がTHP対応かTHP非対応かという種別を、基地局が把握できればよいので、THP対応・非対応の端末のうち片方の種別が対応するMT種別情報を送ればよい。基地局は、MT種別情報が送られてこない移動局装置をもう一方の種別とすればよいからである。また、第何世代かを示す情報でもよい。
【0121】
本実施形態では、1つの移動局装置が複数ストリームを用いて通信を行う場合においても、THP非対応の移動局装置とTHP対応の移動局装置とがMU-MIMO THPを用いて混在した状態で通信を行うことができる。
<変形例1>
【0122】
第2の実施形態では、シングルキャリアの場合について説明したが、マルチキャリア、例えばOFDMを用いてサブキャリア毎に第2の実施形態の発明を適用してもよい。すなわち、第1の実施形態の変形例1と同様に、OFDM信号変調部とOFDM信号復調部を、各データ信号のストリームについて新たに加えればよい。例えばM個の受信アンテナを持つ移動局装置をN台多重する場合、基地局装置はMN個の信号ストリームそれぞれに対してOFDM信号変調部とOFDM信号復調部を持つ。また、各移動局装置はOFDM信号変調部とOFDM信号復調部をM個ずつ持つ。
【0123】
なお、移動局装置23−2のプロセッサ部4については、その複数の構成を半導体装置およびプログラムにより実現するものにより構成し、プログラムを格納したROM、PROMまたはフラッシュメモリ、それらを制御する制御装置をも半導体装置により構成し、かつ、これらの複数の半導体装置を単一または複数の半導体チップにより構成することができる。
【0124】
また、モジュロ演算部403−1、403−2、MT種別情報生成部409のみを、プロセッサとして、これらの複数の構成を、前述のようにして単一または複数の半導体チップにより構成することができる。
<第3の実施形態>
【0125】
次に、本発明の第3の実施形態について説明を行う。
本発明の第3の実施形態では、1台の基地局装置14およびN台の移動局装置24を備える。ただし、Nは、2またはそれより大きい整数である。基地局装置14は、N本のアンテナを具備し、移動局装置24は1本のアンテナを具備する。基地局装置14は、空間分割したN本のストリームを送波するが、これらのストリームには別異のデータ信号が乗せられている。移動局装置24は、これらのストリームを受波する。また、基地局装置14は、ある場合には、全てTHP非対応の移動局装置と通信を行い、かつ、ある場合には、全てTHP対応の移動局装置と空間多重により同時通信を行うことができる。
【0126】
図16は、基地局装置14の主要な送信部分の構成を示す概略ブロック図である。基地局装置14の主要な送信部分は、変調部503−1、503−2・・・503−N、干渉減算部505−2・・・505−N、モジュロ演算部506−2・・・506−N、線形フィルタ乗算部508、モジュロ切換部512−2・・・512−N、MT種別判別部516、干渉算出部517を具備する。干渉減算部505−2・・・505−N、モジュロ演算部506−2・・・506−N、モジュロ切換部512−2・・・512−N、干渉算出部519は、THP部520を構成する。
【0127】
その他の受信部分を含めた構成は、第1の実施形態と同様である。ただし、第1の実施形態の信号置換部104、オーダ決定部117は、欠如している。また、変調部503−1、503−2・・・503−N、干渉減算部505−2・・・505−N、モジュロ演算部506−2・・・506−N、線形フィルタ部508、干渉算出部519の個別の動作は、第1の実施形態のものと同一である。
【0128】
MT種別判別部516は、その出力信号によりモジュロ切換部512−2・・・512−Nを制御して、干渉減算部501−2・・・501−Nの出力信号がTHP対応の移動局装置宛のものものであれば、対応するモジュロ演算部506−2・・・506−Nへ出力し、また、THP非対応の移動局装置宛のものものであれば、モジュロ演算部506−2・・・506−Nをバイパスして、線形フィルタ乗算部508へ出力する。なお、変調部503−1からの出力信号は、THP非対応の移動局装置に宛てられたものであっても、THP対応の移動局装置に宛てられたものであってもよい。その場合、THP対応の移動局装置は、受信信号についてモジュロ演算を行う。
【0129】
第3の実施形態によれば、送信電力の増加という犠牲を払うものの、基地局装置13は、全てTHP非対応の移動局装置24と通信を行うことさえできる。
【0130】
移動局装置の構成は、それがTHP対応であれ、非対応であれ、第1の実施形態のものを用いることができる。
本実施形態では、複数のTHP非対応の移動局装置が含まれていても、空間多重することができる。
<変形例1>
【0131】
本変形例では、第1の実施形態の図2における信号置換部104とオーダ決定部117を、図16の基地局装置の構成に付加する。すなわち、変調部503−1・・・503−Nの出力が信号置換部を介してTHP部520に加えられるようにする。そして、信号置換部の出力端子の番号の若いものに、THP非対応の移動局装置宛のデータ信号が出力されるようにする。かくすることにより、モジュロ演算を行わないことによる送信電力の増加を抑圧することができる。すなわち、1番目の信号は等価伝搬路R Hにおいて干渉を受けない。また2番目の信号は1番目の信号からのみ干渉を受ける。さらに3番目の信号は1番目と2番目の信号からのみ干渉を受ける。同様に考えると、k+1番目の信号は1〜k番目の信号からの干渉を受ける。これは平均的に見れば順番が先の信号であるほど少ない信号からの干渉しか受けない。つまり順番が先の信号であるほど、信号を一定振幅範囲内に抑えるモジュロ演算を行わなかったことによる劣化は少なくなることを示す。そこで、モジュロ演算を行わないTHP非対応の移動局装置を1番目から順番に並べることで電力の増加を抑えることができる。
<変形例2>
【0132】
等価伝搬路RH対して1〜k行目から1〜k列目のk行k列の行列だけを取り出して、行列RSとする。そして、行列RSの逆行列を線形フィルタ乗算部308の乗算前の1〜k番目の移動局装置宛の信号(v1, …, vk)tに対して乗算し、乗算後の行列を線形フィルタ乗算部508に入力する。このようにしたとき、1〜k番目のMT宛の信号にのみ着目すると、いわゆる線形のビームフォーミングを行って1〜k番目の移動局装置宛の信号を送信していることとなる。また、基地局装置は、この(v1, …, vk)tを干渉算出部に入力して、1〜k番目の信号がk+1番目以降のTHP非対応の移動局装置に与える干渉を計算することができる。これにより、ビームォーミングを行う信号に加える形でk+1番目以降のTHP非対応の移動局装置に対する信号を多重することができる。
<変形例3>
【0133】
第3の実施形態およびその変形例1、変形例2では、シングルキャリアの場合を述べたが、マルチキャリア、特にOFDMにおいて本実施形態をサブキャリア毎に適用してもよい。その場合、第1の実施形態の変形例1のOFDM信号変調部1211、OFDM復調部217に相当するものを新たに加えればよい。
<第4の実施形態>
【0134】
第4の実施形態では、1台の基地局装置15およびN台の移動局装置25を備える。ただし、Nは、2またはそれより大きい整数である。さらに、基地局装置15は、2N本のアンテナを具備し、移動局装置25の各々は2本のアンテナを具備する。基地局装置15は、空間分割した2N本のストリームを送波するが、これらのストリームには別異のデータ信号が乗せられている。移動局装置25のそれぞれは、これらのストリームを2本受波する。また、基地局装置15は、ある場合には、全てTHP非対応の移動局装置と通信を行い、かつ、ある場合には、全てTHP対応の移動局装置と空間多重により同時通信を行うことができる。
【0135】
図17は、基地局装置15の主要な送信部分の構成を示す概略ブロック図である。
基地局装置15の主要な送信部分は、変調部703−1、703−2、703−3・・・703−2N、干渉減算部705−3・・・705−2N、モジュロ演算部706−3・・・706―2N、モジュロ切換部712−3、712−2N、干渉算出部717、線形フィルタ乗算部705、DRS生成部712、MT種別判別部、フィルタ乗算部719を具備する。なお、干渉減算部705−3・・・705−2N、モジュロ演算部706−3・・・706―2N、モジュロ切換部712−3、712−2N、干渉算出部717は、THP部720を構成する。ただし、第2の実施形態における信号置換部304、オーダ決定部317が欠如している。その他の受信部分を含めた構成は、第2の実施形態と同じである。
【0136】
MT種別判別部716は、その出力信号によりモジュロ切換部712−3・・・712−2Nを制御して、干渉減算部705−3・・・705−2Nの出力信号がTHP対応の移動局装置宛のものものであれば、対応するモジュロ演算部706−3・・・706−2Nへ出力し、また、THP非対応の移動局装置宛のものものであれば、モジュロ演算部706−3・・・706−2Nをバイパスして、線形フィルタ乗算部705へ出力する。
THP部720の出力信号は、DRS生成部712の出力信号とともに線形フィルタ乗算部705へ加えられる。
線形フィルタ乗算部705の処理は、第2の実施形態の線形フィルタ乗算部308の処理と同様であるので、その説明を省略する。また、移動局装置での処理は、第2の実施形態での移動局装置の処理と同一であるので、その説明を省略する。
【0137】
本実施形態では、一例として一つの移動局装置に2本のストリームを送信する場合について説明したが、1つの移動局装置が3本以上の複数ストリームで通信を行う場合においても同様に、複数のTHP非対応の移動局装置とTHP対応の移動局装置を、MU-MIMO THPを用いて多重することを可能にする。
<変形例1>
本変形例1では、第3の実施形態の変形例1と同様に、信号置換部とオーダ決定部を付加する。オーダ決定部は、第3の実施形態の変形例1と同様に、THP非対応MTがk個存在したとすると、1〜k番目にTHP非対応MT、k+1番目以降にTHP対応MTを配置するようにオーダを決定する。ここでオーダ決定部は伝搬路情報取得部から入力した伝搬路状態情報に基づいて、k+1番目以降のTHP対応端末に対し、k+1番目以降の移動局装置のオーダを決める。またオーダ決定部はMT種別判別部から入力されたMT種別情報を、決定したオーダリングの順番に並びかえてからモジュロ切換部に入力する。
<変形例2>
【0138】
第4の実施形態およびその変形例1では、シングルキャリアの場合を述べたが、マルチキャリア、特にOFDMにおいて本実施形態をサブキャリア毎に適用してもよい。その場合、第1の実施形態の変形例1と同様に、OFDM信号変調部とOFDM信号復調部を新たに加える。
<第5の実施形態>
【0139】
図18は、本発明の第5の実施形態に係る通信システムを示す概略図である。この通信システムは、1台の基地局装置16が4台の移動局装置26−1、26−2、26−3、26−4と無線通信を行う。基地局装置16は、4本のアンテナを具備し、移動局装置26の各々は1本のアンテナを具備する。移動局装置26−1、26−3、26−4は、摂動ベクトルの加算が行われた(非線形処理の行われた)データ信号を受信する移動局装置であり、移動局装置26−2は、そのような非線形処理の行われることのなかったデータ信号を受信する移動局装置である。
【0140】
図19に、基地局装置16の構成を概略ブロック図にて示す。基地局装置16は、符号化部902−1、902−2、902−3、902−4、変調部903−1、903−2、903−3、903−4、VP(Vector Perturbation)部920、フレーム構成部908、無線送信部910−1、910−2、910−3、910−4、アンテナ部911−1、911−2、911−3、911−4、DRS生成部912、CRS生成部913、無線受信部914−1、914−2、914−3、914−4、フレーム分離部915、MT種別判別部916、伝搬路情報取得部918、フィルタ算出部919を具備する。なお、アンテナ部911−1、911−2、911−3、911−4を除く他の構成(902−1、902−2、902−3、902−4、903−1、903−2、903−3、903−4、930、908、910−1、910−2、910−3、910−4、911−1、911−2、911−3、911−4、912、913、914−1、914−2、914−3、914−4、915、916、918、919の符号で示されるもの。)は、プロセッサ部5を構成する。
移動局装置26へ宛てたデータ信号901−1、901−2、901−3、901−4は、符号化部902−1、902−2、902−3、902−4において誤り訂正符号化が行われ、次いで変調部903−1、903−2、903−3、903−4で変調される。変調部903−1、903−2、903−3、903−4の出力信号は、VP部930へ加えられる。
【0141】
図20に、VP部920の詳細をブロック図にて示す。VP部920は、候補信号点算出部921、フィルタ乗算部922、ノルム算出部923、最適信号選択部924を具備する。
先ず、図20の候補信号点算出部921の処理について説明をする。4つのデータ信号901−1、901−2、901−3、901−4を、所望信号としてs ( = (s1, s2, s3,s4) t) とする。sは4つの複素数で表されるベクトルである。ここで、摂動ベクトルは、実部および虚部に整数の係数を持つ4次元複素数ベクトルZを用いてZτで示す。ただし、τは、モジュロ幅である。すると、摂動ベクトルは、モジュロ幅τの整数倍の信号である。
【0142】
ここで、THP対応の移動局装置26−1、26−3、26−4宛のデータ信号に加算する複素数ベクトルZの成分をZ1、Z3、Z4とする。ただし、ここでは説明のために移動局装置26−2がTHP非対応だったとして以下、説明する。このときTHP非対応の移動局装置26−2に宛てるデータ信号に対しては摂動ベクトルを加算しないので、Z2=0とする。この条件で摂動ベクトルが取り得る全ての組み合わせを計算し、それぞれを所望信号sに加算したものを候補点として、フィルタ乗算部922に出力する。ここで候補地点xは、
x =s +Zτ (38)
となる。
【0143】
候補信号点xは、8次元空間の格子点となる。フィルタ乗算部922は、候補信号点算出部が入力した候補信号点各々について、下記の式(30)のように線形フィルタH-1を乗算する。すると、
H-1x = H-1 (s +Zτ) (39)
となる。ただし、H-1 は、基地局装置16と移動局装置26との間の伝搬路行列Hの逆行列である。
フィルタ乗算部922は、このフィルタ乗算後の候補点の配置をノルム算出部923に入力する。
【0144】
ノルム算出部923は、フィルタ乗算後の候補点配置に基づいて、全ての点H-1xに対してのユークリッドノルム ||H-1x||2を計算する。この結果は、最適信号選択部924へ加えられる。
最適信号選択部924は、この複数のユークリッドノルム||H-1x||2の中から、最も小さい値を持つものを選択する。そして、そのときのxの値をx0として出力する。これが図19のVP部920の出力である。最終的にVP部920は、摂動ベクトルを施した信号としてx0を、フレーム構成部908に出力する。フレーム構成部908は、受け取ったデータ信号x0に専用参照シンボルDRSを時間多重する。
【0145】
この時間多重を行った信号に対して、伝搬路行列Hの逆行列H-1を乗算した送信信号H-1xoと、共用参照シンボルCRSをさらに時間多重して、無線送信部910−1、910−2、910−3、910−4に加え、ディジタル/アナログ変換、無線周波数へのアップコンバートを行う。無線送信部910−1、910−2、910−3、910−4の出力は、アンテナ部911−1、911−2、911−3、911−4を介して移動局装置26−1、26−3、26−4へ送波される。
【0146】
一方、アンテナ部911−1、911−2、911−3、911−4は、移動局装置26−1、26−3、26−4から受波した無線信号を無線受信部914−1、914−2、914−3、914−4に加える。無線受信部914−1、914−2、914−3、914−4は、アンテナ部911−1、911−2、911−3、911−4から受け取った無線信号についてベースバンドへのダウンコンバートし、次いでアナログ/ディジタル変換を行った後に、その出力信号をフレーム分離部915へ加える。
【0147】
フレーム分離部915は、無線受信部914−1、914−2、914−3、914−4から受け取った信号について、以下のフレーム分離を行う。すなわち、フレーム分離部915は、伝搬路状態情報に関する信号を伝搬路情報取得部918へ加え、移動局装置26のMT種別、すなわちTHP対応か非対応かに関わりのある信号をMT種別判別部916へ加える。その他に、フレーム分離部915は、フレーム分離部915が分離した移動局装置26からのデータ信号を外部に出力する(この点は図19に図示していない。)。
MT種別判別部916は、移動局装置26のMT種別情報を作成してVP部920へ加える。伝搬路情報取得部118は、フレーム分離部115から伝搬路状態情報Hに関する信号を受け取って、これをフィルタ算出部919へ加える。フィルタ算出部919は、伝搬路情報取得部118から受け取った伝搬路情報Hの逆行列H-1関する信号作成して、この信号をVP部920へ加える。
【0148】
なお、以上はMT数が4の場合のVP部の動作である。しかし、移動局数を4よりも多いN個に拡張した場合も、同様に摂動ベクトルを加算することで送信電力を低減できることは容易に理解できよう。
THP対応、非対応の移動局装置のMTの構成は、第1のの実施形態と同様なので、ここでは説明を省略する。しかし、受信の態様を説明すれば、以下のようである。
先ず、送信信号はHH−1X0 =H−1(S+Z0τ) と表される。伝搬路を通って各MTに受信されるとき受信信号は
HH−1X0 =X0 =H−1(S+Z0τ) (40)
と示される。ここで全ての信号をベクトルで表したが、実際は成分ごとに別々のMTで受信する。また雑音は無視している。THP対応MTでは、信号を受信後、既述の式(9)で表されるモジュロ演算を行う。すると、
Mod(S+Z0τ) =S (41)
となり、摂動ベクトルがモジュロ演算により消えるため正しい所望信号を復元できる。THP非対応の移動局装置は、モジュロ演算を行わなくても直接、受信信号sを得ることができる。
【0149】
以上述べた方法により、THP対応MTと複数のTHP非対応MTが混在していても空間多重することを可能にする。
なお、本実施例では線形フィルタとしてH-1 を用いた。これはZFフィルタと呼ばれるものであり、H-1 に代えてH' H ( H' H' H +dI )-1を用いるMMSE (Minimum Mean Squared Error) 型の方法を用いてもよい。ここで、dは、移動局装置が受ける雑音電力を送信信号の電力で割った値である。
本実施形態では、MU-MIMO VPにおいても、複数のTHP非対応の移動局装置とTHP対応の移動局装置を多重することができる。
<変形例1>
【0150】
なお、基地局装置16のプロセッサ1については、その複数の構成を半導体装置およびプログラムにより実現するものにより構成し、プログラムを格納したROM、PROMまたはフラッシュメモリ、それらを制御する制御装置をも半導体装置により構成し、かつ、これらの複数の半導体装置を単一または複数の半導体チップにより構成することができる。
【0151】
また、MT種別判別部916とVP部930のみを、プロセッサとして、これらの複数の構成、またはこれらの複数の構成に他の構成を付加したものを、前述のようにして単一または複数の半導体チップにより構成することができる。
<実施例6>
【0152】
本発明の第6の実施形態では、1台の基地局装置17がN台の移動局装置と無線通信を行う。移動局装置は全てM本のアンテナを有し、基地局装置17は、MN本のアンテナを有する。基地局装置は、摂動ベクトルを用いて送信電力を低減した別異のデータ信号を乗せたMN本のストリームを同時に空間多重して、移動局装置に向ける。ただし、移動局装置のうちTHP非対応の移動局装置がK台あり、THP対応の移動局装置は、(N−K)台ある。
【0153】
図21に、基地局装置17のVP部1120の構成を示す。VP部1120は、候補信号点算出部1121、フィルタ乗算部1122、ノルム算出部923、最適信号選択部924を具備する。ノルム算出部923、最適信号選択部924は、第5の実施形態のものと同様である。また、基地局装置16のVP部1120以外の構成は、第5の実施形態のものと同様である。
【0154】
以下に基地局装置16のVP部1120の候補信号点算出部1121とフィルタ乗算部1122の動作について説明する。
候補信号点算出部1121は、MT種別情報に基づいてTHP対応の移動局装置に対する次元についてだけ摂動ベクトルVPを加算する。このときMT種別情報はN個の移動局装置に関する情報である。一方、各移動局装置にM個ずつ信号を送るため一度に空間多重する送信信号はNM個存在する。そこで候補信号点算出部1121は、THP対応の移動局装置宛の信号M(N-K)個に対応する次元だけ摂動ベクトルを加算した候補点を算出する。候補信号点の配置は式(38)と同様に
x = s +Zτ (42)
で表される。
【0155】
次にフィルタ乗算部1122の動作について説明する。このフィルタ乗算部1122で乗算するフィルタは第5の実施形態において伝搬路行列Hの逆行列H-1だったものを複数受信アンテナに拡張したものである。先ず乗算するフィルタの算出方法から説明する。ここで計算するフィルタは、第2の実施形態のフィルタ算出部において行った計算と類似するものである。
(Null Spaceの算出)
【0156】
フィルタを計算するために、基地局装置17は、移動局装置の個別フィルタの算出、線形フィルタの算出、干渉係数フィルタの算出の4つのプロセスを実行する。
第2の実施形態と同様に、基地局装置16の各送信アンテナからk番目の移動局装置の受信アンテナまでの伝搬路の複素利得をM行MN列の行列Hkで表す。全体の伝搬路行列は
【0157】
【数22】
【0158】
で表される。いま、Hからk番目のMT宛の伝搬路を除いた行列を
【0159】
【数23】
【0160】
とおく。ここで実施例2と異なるのが、k+1〜N番目の伝搬路も式(46)に含めていることである。何故ならば、本実施例では、線形フィルタによって全ての干渉を一度に除去するからであり、自分より番号の小さい移動局装置宛の信号だけ線形フィルタで除去して、残りの干渉をTHPで除去する第2の実施形態や第4の実施形態とは異なるからである。この行列H^kは、M行M(N-1)列となる。次に、行列H^kに対して特異値分解を施す。
【0161】
【数24】
【0162】
ここで、行列V^Imkは、MN行M(N-1)列の行列とし、行列V^kerkは、MN行M列の行列とする。行列H^kのランクは高々M(N-1)であることに対応して、行列
【0163】
【数25】
【0164】
の最初のM(N-1)列を除いた行列 V^kerkがNull Spaceに対応する。第2の実施形態と同様に考えると、本実施形態の場合、行列H^kは、k番目の移動局装置以外に対応する伝搬路を表す行列なので、フィルタV^kerkを基地局装置16で乗算して送信した信号は、k番目以外の移動局装置には干渉を与えないことがわかる。
(MT個別フィルタの算出)
【0165】
次にN個ずつ存在する各移動局装置宛の信号ごとに最適なプレコーディングを行う。k番目のMTに対応する伝搬路Hkに式(6-4)で求めたV^kerkを乗算したものを再び特異値分解する。
【0166】
【数26】
【0167】
V^kerkはM×M(N-1)行列であるためV^kerkは高々Mランクである。行列
【0168】
【数27】
【0169】
のうち最初のM列をMT個別フィルタV^Imkとする。またV^kerkはM(N-1)×M行列となる。
(線形フィルタの算出)
【0170】
式(35)、(36)で求めた行列V^kerkと行列VImk (k=1,2,…,N) を用いて、線形フィルタを
【0171】
【数28】
【0172】
とする。この行列Pは第1の実施形態における行列Qに相当し、フィルタ算出部919は、フィルタ乗算部922にこのPを入力する。
(干渉係数フィルタの算出)
【0173】
行列HPを等価的伝搬路とすると
【0174】
【数29】
【0175】
とおくことができる。ここでTiiはM行M列の行列であり、i番目の移動局装置宛の信号がi番目のMTに届くときに通ると見做せる伝搬路行列である。式(38)を見ると、Tii (i=1,..,N) 成分以外の成分が0になっている。これは、各移動局装置宛の信号に対して、その移動局装置以外の移動局装置に対する信号が干渉として届いてしまわないようなフィルタV^kerkを乗算しているからである。フィルタ乗算部は候補信号点xのそれぞれに対してフィルタPを下式のように乗算する。
P x = P (S+Z0τ) (49)
【0176】
フィルタ乗算部1122は、最終的にこの式(49)で表される信号をノルム算出部1122に入力する。ノルム算出部923及び最適信号選択部924の動作は、第5の実施形態のものと同様であり、VP部1120は、最終的に算出した信号を、第5の実施形態のところで説明をしたフレーム構成部908に入力する。
移動局装置の構成は、第2の実施形態のものと同様である。第2の実施形態と同様に、移動局装置は、受信信号が等価伝搬路Tkkを通ったとして、伝搬路補償を行って信号検出する。
【0177】
本実施形態では、1つの移動局装置が複数ストリームで通信を行う場合においても、複数のTHP非対応の移動局装置とTHP対応の移動局装置を、MU-MIMO VPを用いて多重することができる。
<変形例1>
【0178】
第6の実施形態では、シングルキャリアの場合を述べたが、マルチキャリア、特にOFDMのサブキャリア毎に適用してもよい。この場合は、第1の実施形態の変形例1のところで説明をしたOFDM信号変調部とOFDM信号復調部を各信号ストリームに新たに付加すればよい。例えばM個の受信アンテナを持つ移動局装置をN台多重する場合、基地局装置はMN個の信号ストリームそれぞれに対してOFDM信号変調部とOFDM信号復調部を持つ。また、各移動局装置はOFDM信号変調部とOFDM信号復調部をM個ずつ持つ。
【0179】
ここで摂動ベクトルとモジュロ演算との関係について説明をする。データ信号への摂動ベクトルの加算は、データ信号についての等値変換であり、移動局装置におけるモジュロ演算でデータ信号を復元できるので摂動ベクトルの加算によってもデータ信号の情報は失われない。加算する摂動ベクトルを、必ず加算後の信号が一定の振幅の範囲内に収まるようにしたものがモジュロ演算である。例えば、式(10)のモジュロ演算はModτ(x)-xで示される摂動ベクトルを信号xに加算していると考えることができる。
【0180】
なお、上記の全ての実施形態および変形例において、基地局の全アンテナ数および移動局装置の全アンテナ数は、それぞれ通信に用いるデータストリーム数と一致するものとして、説明を行った。すなわち、複数のデータストリームは、それぞれが異なるデータ信号を伝送するものとして説明を行った。しかし、例えば、8本のデータストリームのうちの2本のデータストリームが同一のデータ信号を伝送し、この2本のデータストリームを特定の2本のアンテナを有する一つの移動局装置が受信し、受信後にこの2つのデータ信号(同一のデータ信号)を合成することにより、受信品質を向上させるようにしてもよい。
【0181】
以上、図面を参照して、本発明の実施形態について詳述したが、具体的な構成は上述のものに限られることなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0182】
本発明は、移動無線通信または固定無線通信の分野において利用することができる。
【符号の説明】
【0183】
10・・・第1の通信装置、20・・・第2の通信装置、102・・・符号化装置、103・・・変調装置、104・・・信号置換部、105・・・干渉減算部、106・・・モジュロ演算部、107・・・干渉算出部、108・・・線形フィルタ部、109・・・フレーム構成部、110・・・無線送信部、111・・・アンテナ部、112・・・DRS生成部、113・・・CRS生成部、116・・・MT種別判別部、117・・・オーダ決定部、118・・・伝搬路情報取得部、119・・・フィルタ算出部、120・・・THP部、201・・・復号部、202・・・復調部、203・・・モジュロ演算部、204・・・伝搬路補償部、205・・・フレーム分離部、206・・・無線受信部、207・・・伝搬路推定部、208・・・伝搬路状態情報生成部、210・・・フレーム構成部、211・・・無線受信部、212・・・アンテナ部、1211・・・OFDM信号変調部、217・・・OFDM信号復調部、512・・・モジュロ切換部、920・・・VP部、921・・・候補信号点算出部、922・・・フィルタ乗算部、923・・・ノルム算出部、924・・・最適信号選択部
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信システム、通信装置、通信方法およびそのプロセッサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代移動通信システムの検討が3GPP (The Third Generation Partnership Project、第三世代パートナシップ・プロジェクト) などで行われている。第3.9世代のLTE (Long Term Evolution) システムでは、ダウンリンクにおいて周波数帯域を効率的に利用して高いスループットを実現するために、複数の送受信アンテナを用いて異なるデータを空間多重するMIMO (Multiple Input Multiple Output、多入力・多出力) 技術が仕様化されている。さらに現在、第4世代のLTE-Advancedの標準化が始まっている。LTE-Advancedではピーク速度が1 Gbit/sという要求条件を達成するために、最大8ストリームを多重可能なSingle-User MIMO (SU-MIMO、シングルユーザマイモ。1基地局装置または複数基地局装置の複数のアンテナと1移動局装置の複数のアンテナとで、MIMOを構成する。) 技術も検討されている。
【0003】
また、特定の移動局装置 (MT) のスループットを高くするSU-MIMO だけでなく、異なる端末装置に送信するデータを送信処理により空間多重するMulti-User MIMO (MU-MIMO、マルチユーザマイモ。1基地局装置の複数のアンテナと複数の移動局装置のアンテナとで、MIMOを構成する。) も必須となる。LTEシステムでは、基地局装置から移動局装置へのダウンリンクにおいて MU-MIMO が仕様化されている。すなわち、線形フィルタを乗算することでビームフォーミングを行い、空間多重している。しかしながら、ビームフォーミングを用いた MU-MIMOでは、各移動局装置への送信信号を直交させなければならず、空間多重できる移動局装置の組み合わせにおける柔軟性が低下してしまう。
【0004】
一方で、空間多重を実現する別の方法として、THPを用いた MU-MIMO (MU-MIMO THP、マルチユーザマイモ・THP) が提案されている。この方法は、基地局装置が、各移動局装置宛の所望信号からその移動局装置が受ける干渉を予め減算した後、モジュロ演算(Modulo Arithmetic)を施してから送信する方法である。モジュロ演算を行うことで、干渉減算に基づく送信電力の増加を抑制することができる。移動局装置は、それぞれの受信信号に対して再びモジュロ演算を行うことで、干渉が除去された所望信号を検出できる (非特許文献1、非特許文献2、非特許文献4)。
【0005】
またMU-MIMO THPに類似の技術としてMU-MIMO Vector Perturbation(MU-MIMO VP、マルチユーザマイモ・VP)という技術も存在する(非特許文献3参照)。基地局装置は、MU-MIMIO VPを行う場合、以下の二つの手順によって送信信号を生成する。
1 適切に選択したモジュロ幅の整数倍の信号(摂動ベクトルPV(Vector Perturbation))を所望信号に加算する。
2 ビームフォーミングと同じ処理により移動局装置同士の干渉を除去する。
この摂動ベクトルの加算が非線形処理であるため、この技術は、THPと同様の非線形処理に分類される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Harashima and Miyakawa, “Matched-Transmission Technique for Channels With Intersymbol Interference”, IEEE Transactions On Communications, Vol. Com-20, No. 4, pp. 774-780, August 1972.
【非特許文献2】J.Liu and A.Krzymien, “Improved Tomlinson-Harashima Precoding for the Dowinlink of Multiple Antenna Multi-User Systems”, Proc. IEEE Wireless and Communications and Networking Conference, pp. 466-472, March 2005.
【非特許文献3】B.M.Hochwald, C.B.Peel, and A.L.Swindlehurst,”A Vector-Perturbation Technique for Near-Capacity Multiantenna Multiuser Communication−Part II: Perturbation,” IEEE Trans. Commun., vol. 53, no. 3, pp. 537-544, March 2005.
【非特許文献4】M. Joham, J. Brehmer, and W. Utschick, ‘MMSE approaches to multiuser spatio−temporal Tomlins−Harashima Precoding’, pp387-394, ITG SCC04, Jan 2004.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
マルチユーザマイモ・THPやマルチユーザマイモ・VPの特徴であるモジュロ演算や摂動ベクトルの加算(非線形処理)を、送信側で行う通信システムでは、移動局装置側でもモジュロ演算を行うことが必要である。そのため、このような通信システムでは、異なる通信システムに属するところの、モジュロ演算を行わない移動局装置をも加えて空間多重をしようとしても、そのような移動局装置では、上記の非線形処理を行った信号を受信できないという問題が生じた。つまり、後方互換性が保てないという欠点があった。本発明は、このような問題を解消することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、本発明は、1または複数の第1の通信装置と、複数の第2の通信装置とを具備し、第1の通信装置は、その複数のアンテナからデータ信号の乗せられた複数のストリームを空間多重して送波し、第2の通信装置は、それぞれのアンテナにて前記ストリームを受波して、前記データ信号を受信する通信システムにおいて、第1の通信装置は、前記複数のデータ信号の一部について等値変換を行う変換装置と、前記複数のデータ信号の少なくとも一部について、前記空間多重のストリーム間の干渉の少なくとも一部を事前に除外する重み付け装置と、を具備し、複数の第2の通信装置の一部のものは、前記等値変換の行われたデータ信号の受信に際して、前記データ信号につき、等値変換の回復を行う変換装置を具備することを特徴とする通信システムである。
【0009】
(2)また、本発明は、上記の通信システムにおいて、第2の通信装置の前記一部以外の第2の通信装置は、前記変換装置を具備せずに前記データ信号の受信を行うことを特徴とする。
【0010】
(3)また、本発明は、第2の通信装置の前記一部以外の第2の通信装置は、異なるシステムに属することを特徴とする。
【0011】
(4)また、本発明は、上記の通信システムにおいて、第1の通信装置は、前記ストリームの空間多重が行われる空間の伝搬路定数を推定する共通参照シンボルの生成装置と、前記重み付け装置の重み付けをも考慮に入れた等価伝搬路の伝搬路定数を推定する専用参照シンボルの生成装置とを具備することを特徴とする。
【0012】
(5)また、本発明は、上記の通信システムにおいて、第2の通信装置の前記一部のものは、前記専用参照シンボルを用いて等価伝搬路の推定を行うことを特徴とする。
【0013】
(6)また、本発明は、上記の通信システムにおいて、前記重み付け装置は、全ての干渉を除外するものであることを特徴とする。
【0014】
(7)また、本発明は、上記の通信システムにおいて、前記重み付け装置は、一部の干渉を除外し、その他の干渉は別の干渉減算装置にて除外することを特徴とする。
【0015】
(8)また、本発明は、上記の通信システムにおいて、前記等値変換を行う変換装置は、摂動ベクトルを用いるものであることを特徴とする。
【0016】
(9)また、本発明は、上記の通信システムにおいて、摂動ベクトルの選択方法としてモジュロ演算装置を用いることを特徴とするものである。
【0017】
(10)また、本発明は、上記の通信システムにおいて、前記第1の通信装置は、1台で移動局の数だけのアンテナを具備し、前記第2の移動局はそれぞれ1本のアンテナを具備することを特徴とする。
【0018】
(11)また、本発明は、上記の通信システムにおいて前記第2の移動局の少なくとも一部は複数本のアンテナを具備することを特徴とする。
【0019】
(12)また、本発明は、複数の送受信アンテナを具備し、複数のデータ信号を乗せたストリームを前記アンテナを介して空間多重にて送波する通信装置であって、前記複数のデータ信号の一部について等値変換を行う変換装置と、前記複数のデータ信号の少なくとも一部について、前記空間多重のストリーム間の干渉の少なくとも一部を事前に除外する重み付け装置と、を具備することを特徴とする通信装置である。
【0020】
(13)また、本発明は、1または複数の第1の通信装置が具備する複数の送信アンテナから、データ信号の乗せられた複数のストリームを空間多重して送波し、複数の第2の通信装置のそれぞれのアンテナにて前記ストリームを受波して、前記データ信号を受信する通信方法において、第1の通信装置においては、前記複数のデータ信号の一部について等値変換を行う過程と、前記複数のデータ信号の少なくとも一部について、前記空間多重のストリーム間の干渉の少なくとも一部を事前に除外する重み付けを行う過程と、を具備し、複数の第2の通信装置の一部のものについては、前記等値変換の行われたデータ信号の受信に際して、前記データ信号につき、前記等値変換の回復を行う過程を具備する、ことを特徴とする通信方法である。
【0021】
(14)また、本発明は、1または複数の第1の通信装置と、複数の第2の通信装置とを具備し、第1の通信装置は、その複数のアンテナからデータ信号の乗せられた複数のストリームを空間多重して送波し、第2の通信装置は、それぞれのアンテナにて前記ストリームを受波して、前記データ信号を受信する通信システムにおいて、第1の通信装置が具備するプロセッサであって、前記複数のデータ信号の一部について等値変換を行う変換装置と、前記複数のデータ信号の少なくとも一部について、前記空間多重のストリーム間の干渉の少なくとも一部を除外する重み付け装置と、を具備することを特徴とするプロセッサである。
【0022】
(15)また、本発明は、1または複数の第1の通信装置と、複数の第2の通信装置とを具備し、第1の通信装置は、その複数のアンテナからデータ信号の乗せられた複数のストリームを空間多重して送波し、第2の通信装置は、それぞれのアンテナにて前記ストリームを受波して、前記データ信号を受信する通信システムにおいて、複数の第2の通信装置の一部のものが具備するプロセッサであって、前記等値変換の行われたデータ信号の受信に際して、前記データ信号につき、等値変換の回復を行う変換装置を具備する、ことを特徴とするプロセッサである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、無線通信において、非線形演算、例えばモジュロ演算を行う通信装置、例えば、移動局装置と、これを行わない移動局装置とを一緒に空間多重できるようにして、両種の移動局装置が混在した状態で通信を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る無線通信システムを説明する概略図である。
【図2】基地局装置の構成を示す概略ブロック図である。
【図3】信号置換部の構成を示す概略ブロック図である。
【図4】フィルタ算出部の詳細を示すブロック図である。
【図5】干渉算出部の構成を示す概略ブロック図である。
【図6】THP部の動作を示すフローチャートである。
【図7】移動局装置の構成を示す概略ブロック図である。
【図8】別の移動局装置の構成を示す概略ブロッック図である。
【図9】変形例の基地局装置の主要な部分を示す概略ブロック図である。
【図10】フレーム構成部の処理を示す概念図である。
【図11】OFDM信号変調部の構成を示す概略ブロック図である。
【図12】移動局装置の主要な構成を示す概略図である。
【図13】本発明の第2の実施形態に係る無線通信システムを説明する概略図である。
【図14】基地局装置の主要な部分の構成を示す概略ブロック図である。
【図15】移動局装置の構成を示す概略ブロック図である。
【図16】本発明の第3の実施形態に係る無線通信システムの基地局装置の主要な構成を示すブロック図である。
【図17】本発明の第4の実施形態に係る無線通信システムの基地局装置の主要な構成を示すブロック図である。
【図18】本発明の第5の実施形態に係る無線通信システムを説明する概略図である。
【図19】基地局装置の構成を示すブロック図である。
【図20】摂動ベクトルVP部の詳細を示すブロック図である。
【図21】本発明の第6の実施形態に係る無線通信システムの基地局装置で用いる摂動ベクトルVP部の詳細を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態に係る通信システムを示す概略図である。この通信システムは、1台の第1の通信装置11およびN台の第2の通信装置21−1・・・21−i・・・21−Nを備える。ただし、Nは、2またはそれより大きい整数である。第1の通信装置11は、N本のアンテナを備えて、第2の通信装置21−1・・・21−i・・・21−Nと無線で通信をしている。第2の通信装置21−1・・・21−i・・・21−Nを総称して、第2の通信装置21ということがある。なお、このことは、他の実施形態、変形例の説明においても同様である。第1の通信装置11は、空間分割したN本のストリームを送波(送信)するが、これらのストリームには別異のデータ信号が乗せられている。第2の通信装置21は、これらのストリームを受波(受信)する。
第2の通信装置21は、1本のアンテナをそれぞれが備える。特定の第2の通信装置21−iは、THP非対応の通信装置(以下では、「THP非対応MT」と言うことがある。)であり、その他の第2の通信装置はTHP対応の通信装置(以下では、「THP対応MT」と言うことがある。)である。THP対応、非対応については、後で説明をする。
本実施形態は、THP対応MTをN−1個空間多重する中で、THP非対応MTを1つだけ更に空間多重する場合に適用できる。
【0026】
第1の通信装置11は、一例として、移動通信システムまたは固定通信システムの基地局装置であり、第2の通信装置21は、その端末装置である。以下では、第1の通信装置は、移動通信システムの基地局装置であり、第2の通信装置は、その移動局装置であるとして説明を行う。なお、このことは、他の実施形態、変形例の説明においても同様である。
[基地局装置の構成]
【0027】
図2は、基地局装置11の構成を示す概略ブロック図である。
基地局装置11は、符号化部102−1、102−2・・・102−N、変調部103−1、103−2・・・103−N、信号置換部104、干渉減算部105−2・・・105−N、モジュロ演算部106−2・・・106−N、干渉算出部107、線形フィルタ乗算部108、フレーム構成部109、無線送信部110−1、110−2・・・110−N、アンテナ部111−1、111−2・・・111−N、DRS生成部112、CRS生成部113、無線受信部114−1、114−2・・・114−N、フレーム分離部115、MT種別判別部116、オーダ決定部117、伝搬路情報取得部118、フィルタ算出部119を具備する。なお、干渉減算部105−2・・・105−N、モジュロ演算部106−2・・・106−N、干渉算出部107は、THP部120を構成する。また、アンテナ部111−1、111−2・・・111−Nを除く他の構成(102−1、102−2・・・102−N、103−1、103−2・・・103−N、104、105−2・・・105−N、106−2・・・106−N、107、108、109、110−1、110−2・・・110−N、112、113、114−1、114−2・・・114−N、115、116、117、118、119の符号で示されるもの。)は、プロセッサ部1を構成する。
【0028】
次に、基地局装置11の全般の動作を説明し、その後に各構成部分の詳細を説明する。
移動局装置21−1、21−2・・・21−Nへ送信するデータ信号101−1、101−2・・・101−Nは、符号化部102−1、102−2・・・102−Nにこの順序で入力され、誤り訂正符号化が行われる。なお、この順序は任意である。これらの符号化された信号は次に変調部103−1、103−2・・・103−Nに入力されて、QPSK(4相位相シフトキーイング)、16QAM(16値直交振幅変調)、等の変調が行われる。変調部103−1、103−2・・・103−Nの出力信号は、次に信号置換部104に入力される。
【0029】
信号置換部104の出力信号は、THP部120を介して線形フィルタ乗算部108に加えられる。THP部120において、変調部103−1・・・103−Nの出力信号のうち一つは直接線形フィルタ乗算部108へ加えられるが、残りのN−1本の信号は、干渉減算部105−2・・・105−Nにおいて干渉信号の減算が行われ、次いでモジュロ演算部105−2〜105−Nにおいて送信電力の低減を目的としたモジュロ演算が行われ、その後に線形フィルタ乗算部108に加えられる。
【0030】
線形フィルタ乗算部108の入力には、前述のTHP部120の出力信号の他に、DRS生成部からの専用参照シンボルDRS(dedicated reference symbol)も加えられる。この2種類の信号は時分割多重された後、以下のフィルタリング処理が行われる。
線形フィルタ乗算部108は、その入力信号について重み付け行列Qによるフィルタリングを行う。線形フィルタ乗算部108の出力信号はフレーム構成部109へ加えられる。
【0031】
フレーム構成部109は、線形フィルタ乗算部108からの入力信号の他に、共用参照シンボルCRS(common reference symbol)生成部113からの入力信号も受け取る。フレーム構成部109は、これらの入力信号を時分割多重した後に、無線送信部110―1・・・110−Nに加える。無線送信部110−1・・・110−Nは、フレーム構成部109から受け取った信号について、ディジタル/アナログ変換を施し、次に搬送波に乗せるために無線周波数にアップコンバートし、その後にアンテナ部112−1・・・112−Nに加える。アンテナ部112−1・・・112−Nからは、これらの無線信号が送波される。
【0032】
一方、アンテナ部112−1・・・112−Nは、移動局装置21−1・・・21−Nから受波した無線信号を無線受信部114−1・・・114−Nに加える。無線受信部114−1・・・114−Nは、アンテナ部111−1・・・111−Nから受け取った無線信号についてベースバンドへのダウンコンバートを行い、次いでアナログ/ディジタル変換を行った後に、その出力信号をフレーム分離部115へ加える。
【0033】
フレーム分離部115は、無線受信部114−1・・・114−Nから受け取った信号について、以下のフレーム分離を行う。すなわち、フレーム分離部115は、伝搬路状態情報に関する信号を伝搬路情報取得部118へ加え、移動局装置21のMT種別、すなわちTHP対応か非対応かに関わりのある信号をMT種別判別部116へ加える。その他に、フレーム分離部115は、フレーム分離部115が分離した移動局装置21からのデータ信号を外部に出力する(この点は図2に図示していない。)。
【0034】
MT種別判別部116は、移動局装置21のMT種別情報を作成してオーダ決定部117へ加える。
オーダ決定部117は、MT種別情報に基づいて、データ信号101−1、101−2・・・101−Nの順序を定めるオーダ情報に関する信号を作成して、信号置換部104およびフィルタ算出部119へ加える。
伝搬路情報取得部118は、フレーム分離部115から伝搬路状態情報に関する信号を受け取って、これをフィルタ算出部119へ加える。
フィルタ算出部119は、伝搬路情報取得部118から受け取った伝搬路情報に関する信号およびオーダ決定部117から受け取ったオーダ情報に関する信号に基づいて後述する信号を作成して、干渉算出部107および線形フィルタ乗算部108へ加える。
【0035】
次に、各構成の詳細を説明する。
図3に、信号置換部104の詳細図を示す。信号置換部104は、N個の入力端子I−11、I−12・・・I−1Nと、N個の出力端子O−11、O−12・・・O−1Nを有するスイッチである。変調部103−1の出力信号は信号置換部104の入力端子I−11に加えられ、変調部103−2の出力信号は信号置換部104の入力端子I−12に加えられ、以下同様である。信号置換部104は、オーダ決定部117の指示に応じて、入力端子I−11、I−12・・・I−1Nに加わった信号の順序を変更して出力端子O−11、O−12・・・O−1Nに一対一に出力する。
【0036】
オーダ決定部117は、移動局装置21−1〜21−NのMT種別に従って、THP非対応の移動局装置を最初に持ってくるようにオーダを決定する。すなわち、現在の移動局装置の順序は(1、2、・・・、i、・・・N)であるので、これを(i、2、・・・、1、・・・、N)とする順序に替えるオーダリングを行って、この情報を示す信号を出力する。つまり、(1、i)の置換である。上記のオーダ決定は一例であって、要は、THP非対応の移動局装置(i)を示す情報を1番目に持ってくるような順序にするオーダリングを行えばよく、その他の順序は任意である。ただし、以下で説明をするように、変形例では、この順序が後述の効果を奏する。
【0037】
信号置換部104は、オーダ決定部117からの信号を受けて、その1番目の出力端子O−1からTHP非対応の移動局装置へ送信する変調信号が出力されるようにする。
伝搬路情報取得部118は、移動局装置21−1・・・21−Nから送信されてきた伝搬路情報を統合した伝搬路情報を作成する。すなわち、例えば、基地局装置11のN個のアンテナから第k番目の移動局装置21−kのアンテナへ至る伝搬路の、情報データ信号に関する複素利得を、順次に[hk,1・・・hk,N]と書くと、これは1行N列の伝搬路行列hkとして示すことがきる。伝搬路情報取得部118は、複数の移動局装置21から送信されてきた伝搬路情報を統合した伝搬路情報を作成するが、この統合された伝搬路情報は、N行N列の行列Hとして、以下の式(1)のように示すことができる。
H=[h1t、・・・、hNt]t (1)
ここで、添字tは、行列の転置を示す。
伝搬路情報取得部118は、統合した伝搬路情報である行列Hを示す信号をフィルタ算出部119に加える。
【0038】
図4は、フィルタ算出部119の概略ブロック図である。フィルタ算出部119は、オーダリング部1191、QR分解部1192、重み付け形成部1193および干渉信号形成部1194を備える。
オーダリング部1191は、オーダ決定部117から入力されたオーダ情報の信号に従って、伝搬路行列Hの行を入れ替えて、以下の式(2)に示すように、新たな伝搬路行列H‘とする。
【0039】
【数1】
【0040】
すなわち、THP非対応の移動局装置21−iの伝搬路行列hiが、新たな伝搬路行列H‘では、第1行に来ている。
オーダリング部1191が出力する新たな伝搬路行列H‘に関する信号は、QR分解部1192に加えられる。QR分解部1192は、伝搬路行列H’についてエルミート共役を施した行列H‘Hを作成する。添字Hは行列のエルミート共役であることを示す。次に、この行列H‘Hに対して公知のQR分解を下記の式(3)のように施す。
H‘H=QR (3)
ここで、Qは直交行列であり、Rは上三角行列である。行列Qの信号は重み形成部1093へ加えられ、行列Rの信号は干渉信号形成部1194へ加えられる。
【0041】
重み形成部1093は、受け取った行列Qを重み付け行列の信号として、線形フィルタ乗算部108へ加える。
一方、干渉信号形成部1194は、受け取った行列Rにエルミート共役を施した行列RHを作成する。
【0042】
前述したように、線形フィルタ乗算部108において、送信信号には重み付け行列Qのフィルタリングを付加するから、この点を考慮したデータ信号に関する等価伝搬路の複素利得は、H‘Qとなる。すると、H’Qは、以下の式(4)のように書ける。
H‘Q=(QR)HQ=RH (4)
すなわち、行列RHは、等価伝搬路の複素利得を示す。しかも、行列RHは、下三角行列であり、1行目では、対角成分である1行1列の要素以外は零となっている。つまり、1番目の移動局装置は、他の移動局装置への送信信号からの干渉を受けない。したがって、THP非対応の移動局装置に対しては、以下で説明をする干渉減算もモジュロ演算も行わずに情報データ信号をそのまま送信することができることになる。その他に、2番目以下の第2の通信装置についても、干渉成分が低減されているが、その低減の割合は、平均的に見れば2番目のものは1番目のものより少なく、3番目のものは2番目のものより少なく、というように順次に少なくなる。
【0043】
干渉信号形成部1194は、受け取った行列RHの対角成分のみを取り出した行列Aを作成し、次に行列RHに行列Aの逆行列A―1を乗算して、行列A―1RHを作成する。このことは、等価伝搬路の複素利得を所望信号の利得で除算して正規化することを意味する。次に、干渉信号生成部1194は、行列A―1RHから単位行列Iを引き算して、行列A―1RH−Iを作成する。行列A―1RH−Iは、対角成分が零の下三角行列である。すなわち、行列A―1RH−Iは、干渉信号が通る非対角成分のみを残した行列であって、干渉信号に関する伝搬路の複素利得を正規化した干渉情報を表す。この干渉情報である行列A―1RH−Iの信号は、干渉算出部107へ加えられる。
【0044】
図5に、干渉算出部107の詳細図を示す。
干渉算出部107は、N個の入力端子I−21・・・I−2Nと、(N−1)個の出力端子O−22・・・O−2Nを有する装置であって、以下の順序動作を行う。入力端子I−21へは、信号置換部104の出力端子O−11の出力である信号s1が加わる。入力端子I−22へは、モジュロ演算部106−2の出力である信号ν2が加わる。以下同様にして、入力端子I−2Nへは、モジュロ演算部106−Nの出力である信号νNが加わる。ここで便宜上、上述の信号s1を信号ν1と書く。
干渉算出部107は、その出力端子O−22に、干渉f2を算出して、これを干渉減算部105−2へ出力する。干渉f2は、以下の式(5)で表される。
f2 = (A―1RH−I) 1(v1, 0, 0, …, 0)t (5)
行列(A―1RH−I) 1は、フィルタ算出部119から受け取った干渉信号に関する行列A―1RH−Iの第1列である1行N列の行列である。行列(v1, 0, 0, …, 0)tは、1行1列の要素が信号v1であって、その他の要素は零である1行N列の行列を転置した、N行1列の行列である。
【0045】
また、干渉算出部107は、その出力端子O−23に、干渉f3を算出して、これを干渉減算部105−3へ出力する。干渉f3は、以下の式(6)で表される。
f3 = (A―1RH−I) 2(v1, v2, 0, …, 0)t (6)
行列(A―1RH−I) 2は、フィルタ算出部119から受け取った干渉信号に関する行列A―1RH−Iの第2列である1行N列の行列である。行列(v1, v2, 0, …, 0)tは、1行1列の要素が信号v1であり、1行2列の要素が信号v2であって、その他の要素は零である1行N列の行列を転置した、N行1列の行列である。
以下同様にして、干渉算出部107は、その出力端子O−2Nに、干渉fNを算出して、これを干渉減算部105−Nへ出力する。干渉fNは、以下の式(7)で表される。
fN = (A―1RH−I) N−1(v1, v2, v3, …,νN−1, 0)t (7)
【0046】
行列(A―1RH−I) N―1は、フィルタ算出部119から受け取った干渉信号に関する行列A―1RH−Iの第(N−1)列である1行N列の行列である。行列(v1, v2, v3, …,νN−1, 0)tは、1行1列の要素が信号v1であり、以下同様にして1行(N−1)列の要素が信号vN―1であり、最後の1行N列の要素が零である1行N列の行列を転置した、N行1列の行列である。
以上のように、干渉算出部107は、最初に信号s1(信号ν1)を入手して、これと干渉信号A―1RH−Iとから干渉f2を算出し、次に信号ν2を入手して、信号ν1と信号ν2と干渉信号A―1RH−Iとから干渉f3を算出し、以下同様にして、最終的に干渉fNを算出する。
干渉減算部105−2・・・105−Nは、信号置換部104からの信号s2〜sNから、干渉算出部107からの干渉f2・・・fNを減算する。すなわち、干渉減算部105−2は、s2−f2という値の信号をモジュロ演算部105−2へ出力し、以下同様にして、干渉減算部105−Nは、sN−fNという値の信号をモジュロ演算部105−Nへ出力する。
【0047】
モジュロ演算部105−2は、信号(s2 - f2)から以下の式(8)で示される信号ν2を出力する。
v2 = Modτ(s2 − f2) (8)
以下同様にして、モジュロ演算部105−Nは、信号(sN- fN)から以下の式(8)で示される信号νNを出力する。
νN = Modτ(sN−fN) (9)
ここで、モジュール関数Modτ(x)は、変数xについて以下の式(10)で表されるモジュロ演算を行う。
【0048】
【数2】
【0049】
ここで、jは虚数単位、Re(x)はxの実部を表し、Im(x)はxの虚部を表す。floor(x)はx を超えない最大の整数を表す。また、τはモジュロ幅であり、所望信号の変調方式におけるコンスタレーション(信号点配置)の幅よりも大きい数である。例えば、変調シンボルがQPSK(4相位相シフトキーイング)なら最小信号点間距離の4倍とし、16QAM(16値直交振幅変調)なら最小信号点間距離の6倍とすることが望ましいが、他の値でもよい。この値τはあらかじめ基地局装置11と移動局装置21との間で共有しているものである。関数Modτ (x)は、変数xから関数floor(x)の値を引き算するモジュロ演算を行うが、このようにして、モジュロ演算により、周期τだけ平行移動した点を同じ点として扱うなら、変数xの値とModτ(x)の値とは、等値関係にあり、かつ後者の絶対値の二乗(電力)は、前者のものよりも低減されている。
【0050】
干渉減算・モジュロ演算部120からの出力信号ν1・・・νNは、専用参照シンボルを出力するDRS生成部112の出力とともに、線形フィルタ部108に加えられる。
次に、THP部120の全体の動作を、図6のフローチャートを用いて説明する。
(ステップS101)変数jを1とし、ステップS102へ進む。なお、変数jは、干渉算出部120のメモリ(図示せず)に格納されている。
(ステップS102)干渉算出部107は、最初の変調部103−1の出力信号s1をν1に代入する。次に、ステップS103へ進む。
(ステップS103)変数jに1を加算し、ステップS104へ進む。する。
(ステップS104)干渉算出部107は、信号ν1・・・νj−1を用いて干渉信号fjを求め、次にステップS105へ進む。
(ステップS105)干渉減算部105−jは、j番目の変調部103−jの出力信号sjから干渉信号fjを減算し、ステップS106へ進む。
(ステップS106)モジュロ演算部105−jは、信号sj−fjにモジュロ演算を施し、ステップS107へ進む。
(ステップS107)モジュロ演算を施した信号をνjと置き、ステップS108へ進む。
(ステップS108)モジュロ演算部は、変数jが整数Nと等しいか否かを判定する。等しいと判定すれば、ステップS109へ進み、等しくないと判定すれば、ステップS103へ戻る。
(ステップS109)THP部120は、信号(v1, v2 … νN)tを線形フィルタ乗算部108へ出力する。
【0051】
次に線形フィルタ部108の説明をする。線形フィルタ部108は、N個の入力端子とN個の出力端子を有するフィルタであって、フィルタ特性は、重み付け行列Qによって表される。前述したように、線形フィルタ乗算部108のN個の入力端子のそれぞれには、DRS生成部からの専用参照シンボルDRS(v01, v02 …ν0N)も加えられる。これらの2種類の信号は、時分割多重されて信号(v21, v22 …ν2N)となる。線形フィルタ部108は、この時分割多重信号に対して重みQを付加して、以下の式(11)に示す出力信号(μ1,μ2・・・μN)を得る。
(μ1,μ2・・・μN)=Q(v21, v22 …ν2N)t (11)
すなわち、線形フィルタ部108は、乗算後の出力信号(μ1,μ2,・・・,μN)をフレーム構成部109へ出力する。この信号は、CRS生成部からの共用参照シンボルCRS(μ01,μ02,・・・,μ0N)も加えられる。これらの2種類の信号は、時分割多重されて信号(μ21,μ22,・・・,μ2N)となり、無線送信部112−1・・・112−Nへ加えられる。
【0052】
基地局装置11と移動局装置21との通信を開始する最初の1つのフレームにおいて、N個の共用参照シンボルCRSがフレーム構成部109において時間的に異なるシンボルに割りあてられて無線送信部110−1・・・110−Nへ送出されるが、このフレームにはデータ信号は割りあてられない。続く複数のフレームの各々においては、共用参照シンボルCRSは割りあてられないが、N個の専用参照シンボルDRSが時間的に異なるシンボルに割り当てられて無線送信部110−1・・・110−Nへ送出され、かつ、この場合は、データ信号が専用参照シンボルDRSと時間多重して、かつ、どの専用参照シンボルとも異なるシンボルに割り当てられて、無線送信部110−1・・・110−Nへ送出される。なお、通信の継続中は、共用参照シンボルCRSは、所定数のフレーム数毎に、専用参照シンボルおよびデータ信号と時分割に1つのフレームを占有して、無線送信部110−1・・・110−Nへ送出される。
【0053】
上記所定数は、基地局装置11と移動局装置21との間の伝搬路状態に応じて可変にしてもよい。
【0054】
なお、専用参照シンボルDRSおよび共用参照シンボルCRSについては、ウォルシュ符号やアダマール符号などの直交または準直交符号を掛けて符号多重にしてもよい。この場合は、両参照シンボルはそれぞれ1つのシンボル間隔で多重することができる。
以上説明したように、本発明の第1の実施形態の基地局装置では、干渉除去による電力増加を抑圧した、電力効率の良い空間多重を行うことができる。さらに、1つの移動局装置に対しては、干渉を除去することなく所望の通信を行うことができ、モジュロ演算の必要もない。また、共用参照シンボルの他に専用参照シンボルも用いるので、移動局装置において伝搬路補償を実施することができる。
【0055】
また、基地局装置が2つまたはそれを超える数だけ存在し、お互いに協調して、実質的に1つの基地局装置と考えることができるような構成でもよい。さらに、基地局装置がN本よりも多いアンテナとそれに付随する無線送信部などを持っていたとしても、送信ダイバーシチを用いて等価的にN本のアンテナとして扱って、Nストリームによる通信を行うことができる。
また、フィルタ算出部119におけるQR分解として、H' H ( H' H' H +dI )-1に対してQR分解を行うMMSE (Minimum Mean Squared Error) 型の方法を用いてもよい。ここで、dは、第2の通信装置が受ける雑音電力を第1の通信装置の送信信号の電力で割った値である。また、フィルタ算出部119で、ZF-BLAST-THPまたはMMSE-BLAST-THPを用いて、フィルタを算出してもよい。
[移動局装置の構成、その1]
【0056】
先ず、THP対応の移動局装置の説明をし、その後にTHP非対応の移動局装置の説明をする。
図7は、THP対応の移動局装置21−Aの構成を示す概略ブロック図である。この移動局装置21−Aは、図1におけるN台ある移動局装置の第i番目のもの以外のものである。
移動局装置21−Aは、復号部201、復調部202、モジュロ演算部203、伝搬路補償部204、フレーム分離部205、無線受信部206、伝搬路推定部207、伝搬路状態情報生成部208、MT種別情報生成部209、フレーム構成部210、無線送信部211、アンテナ部212を具備する。なお、アンテナ部212以外の構成(201、202、203、204、205、206、207、208、209、210、211の符号で示されるもの。)は、プロセッサ部2を構成する。
【0057】
アンテナ部213は、基地局装置11が送波した無線信号を受波して、この信号を無線受信部206に伝える。無線受信部206は、この無線周波数帯の信号をベースバンドへダウンコンバートし、アナログ/ディジタル変換を施し、次にフレーム分離部205へ出力する。フレーム分離部205は、データ信号を、パイロット信号である専用参照シンボルDRSおよび共用参照シンボルCRSから分離し、データ信号を伝搬路補償部204へ出力し、専用参照シンボルDRSおよび共用参照シンボルCRSを伝搬路推定部207へ出力する。
【0058】
伝搬路推定部207は、共用参照シンボルCRSに基づいて推定した伝搬路状態情報Hkを伝搬路状態情報生成部208へ出力する。また、伝搬路推定部207は、専用参照シンボルDRSに基づいて伝搬路推定を行って推定した等価伝搬路の複素利得rkk(等価伝搬路の複素利得を示す行列RHの対角成分)を伝搬路補償部204へ出力する。
伝搬路補償部204は、フレーム分離部205から受け取った情報データ信号について、等価伝搬路の複素利得である行列RHのk行k列の要素である複素利得rkkを用いて伝搬路補償を行い、伝搬路補償後の信号ykをモジュロ演算部203へ出力する。この信号ykは、以下の式(12)で示される。
yk = rkk(Modτ(sk−fk)) + Fk (12)
【0059】
すなわち、右辺の第1項は、図2のTHP部120の出力である信号Modτ(sk−fk)が等価伝搬路を伝搬した後の信号が、Modτ(sk−fk)に等価伝搬路の複素利得rkkを乗算したものであることを示す。これに加算される右辺の第2項は、基地局装置10の他のアンテナからの信号の干渉Fkをす。
ここで干渉信号Fkは、所望信号から減算する信号fkとは異なり、
Fk= ( R H − I) k(v1, v2, …, vk,…, 0)t (13)
となる。すなわちfkに対して所望信号の等価伝搬路の複素利得で乗算したものがFkとなる。つまり
Fk= rkk fk (14)
が成り立つ。これを式(11)に代入すると
yk = rkk(Modτ(sk−fk)) + rkk fk (15)
となる。次にModulo演算は上述のようにτのある整数倍を加算することであるので、整数N1, N2とすれば
yk = rkk( (sk−fk) + N1τ+j N2τ) + rkk fk
= rkk(sk+ N1τ+j N2τ) (16)
となり、ここで伝搬路補償を行った後、モジュロ演算を行うと
sk’ = Mod(rkk-1yk) = Mod(sk + N1τ+j N2τ)= sk (17)
となる。つまり、最終的に所望信号skが移動局装置でも得られ、等値変換の回復が行われる。
【0060】
MT種別情報生成部(209)は、この移動局装置がTHP対応の移動局装置であることを示す信号をフレーム構成部(210)に出力する。伝搬路状態情報生成部208は、伝搬路推定部207から入力された伝搬路状態情報Hkをフレーム構成部210へ出力する。フレーム構成部は、入力されたMT種別情報と伝搬路状態情報Hkを用いてフレームを構成し、無線送信部に入力する。無線送信部は入力された信号をデジタル/アナログ変換後に無線周波数にアップコンバージョンし、基地局装置へ送信する。
なお、MT種別情報は伝搬路状態情報を基地局装置11に送信する毎に通知してもよいし、通信を開始するときに最初のフレームで1回だけ基地局装置に通知してもよいし、一定フレーム数送る度に一回送信してもよい。また、移動局装置21−Aは、MT種別情報又は伝搬路状態情報を、自分に割り当てられた上りリンク用の制御チャネルまたはデータチャネルで基地局装置へ送信する。
[移動装置の構成、その2]
【0061】
図8は、THP非対応の移動局装置21−Bの構成を示す概略ブロック図である。この移動局装置21−Aは、図1におけるN台ある移動局装置の第i番目のものである。
移動局装置21−Bは、復号部201、復調部202、モジュロ演算部203、伝搬路補償部204、フレーム分離部205、無線受信部206、伝搬路推定部207、伝搬路状態情報生成部208、MT種別情報生成部213、フレーム構成部210、無線送信部211、アンテナ部212を備える。なお、アンテナ部212以外の構成(201、202、204、205、206、207、208、209、210、211の符号で示されるもの。)は、プロセッサ部3を構成する。
【0062】
図8のTHP非対応の移動局装置21−Bの構成と図7のTHP対応の移動局装置21−Aの構成とを比較すると、前者は、MT種別情報生成部213を備える点、後者のモジュロ演算部209が前者では欠如している点が相異するだけで、その他の構成(201,202、204・・・208、210・・・212)は同じであるので、その説明を省略する。
伝搬路補償部204は、フレーム分離部205から受け取った情報データ信号について、伝搬路補償を行う。伝搬路補償後の受信信号は、前述のモジュロ演算を行うことなしに、復調部202に出力されて、そこで復調が行われる。
次に、MT種別情報生成部(213)は、この移動局装置がTHP非対応の移動局装置であることを示す信号をフレーム構成部(210)に出力する。
【0063】
本実施形態によれば、1台のTHP非対応の移動局装置とTHP対応の移動局装置とがMU-MIMO THPを用いて混在した状態で通信することを可能にする。さらに、THP対応の移動局装置に対してはモジュロ演算を用いて送信電力を抑圧した 通信を行うことができ、従来のビームフォーミングよりも電力効率がよくなる。
<変形例>
【0064】
前述の第1の実施形態では、1台の基地局装置11とシングルキャリア(単一搬送波)で無線通信を行うN台の移動局装置21のうち、1台の移動局装置がTHP非対応のものであった。
本変形例では、情報データ信号を伝送する搬送波としてマルチキャリア(多数搬送波)、特に、OFDM(直交周波数分割多重)を用い、そのW個のサブキャリアの各々が、第1の実施形態の発明に従って共通の基地局装置12からそれぞれの複数の移動局装置22−1・・・22−Nへデータ信号を伝送する。そのために、基地局装置12は、W個のTHP非対応の移動局装置22と通信を行うことができる。
【0065】
図9は、基地局装置12の主要な送信部分の構成を示す概略ブロック図である。その他の受信部分を含めた構成は、第1の実施形態と同じである。
基地局装置12の主要な送信部分は、信号置換部1041、THP部1201、線形フィルタ乗算部1081、フレーム構成部1091、OFDM信号変調部1211、DRS生成部1121、CRS生成部1131、MT種別判別部1161、オーダ決定部1171を具備する。
変調信号は、信号置換部1041において、オーダ決定部1171からの制御に従って、特定のサブキャリアに属するグループに分けられて、それぞれのグループ毎にTHP部1201を通過して、第1の実施形態において説明した処理を受ける。THP部1201の出力は、線形フィルタ乗算部1081に加わる。線形フィルタ乗算部1081へは専用参照シンボルDRS生成部1121からの専用参照シンボルDRSも加わる。線形フィルタ乗算部1081では、第1の実施形態において説明した処理を特定のサブキャリアに属するデータ信号のグループ毎に施す。線形フィルタ乗算部1081の出力は、フレーム構成部1091へ加えられる。フレーム構成部1091へは、共通参照シンボルCRS生成部1131からの共通参照シンボルCRSも加わる。フレーム構成部1091の出力は、OFDM信号変調部1211へ加えられる。
【0066】
図10は、フレーム構成部1091の処理を示す概念図である。図11は、時間軸t、各移動局装置宛の信号を示すμ軸、サブキャリア軸scの3次元空間を示す。前述の信号(μ21,μ22,・・・,μ2N)は、図10の3次元空間では、時間軸t、各移動局装置宛の信号のμ軸で示される2次元平面の信号配置である。この変形例のフレーム構成部1091では、この2次元平面の信号配置を、周波数軸sc方向にサブキャリア毎に積み上げた3次元のものにする。図10では、1つのフレームは、6つのシンボルを有し、さらにサブキャリア数は4つであるが、これは単なる例示である。
【0067】
フレーム構成部1091の出力は、OFDM信号変調部1211へ加えられる。
図11に、OFDM信号変調部1211の詳細をブロック図で示す。OFDM信号変調部1211は、IFFT部122−1、122−2・・・122−N、GI挿入部123−1、123−2・・・123−Nを具備する。IFFT部122−1は、全てのサブキャリアに属する最初のデータ信号に相当する信号μ21(W個のTHP非対応の移動局装置へのデータ信号)を、フレーム構成部1091から加えられ、これらの信号について逆高速フーリエ変換を施して1つの無線送信部へ出力する。IFFT部122−2は、全てのサブキャリアに属する次のデータ信号μ22に相当する信号(次のサブキャリアに属する、W個のTHP対応の移動局装置へのデータ信号)を、フレーム構成部1091から加えられ、これらの信号について逆高速フーリエ変換を施して別の無線送信部へ出力する。以下同様にして、IFFT部122−Nは、全てのサブキャリアに属するデータ信号μ2Nに相当する信号(W個のTHP非対応の移動局装置へのデータ信号)を、フレーム構成部1091から加えられ、これらの信号について逆高速フーリエ変換を施して最後の無線送信部へ出力する。
【0068】
図12は、移動局装置22の構成のうち、主要な部分をブロック図にて示す。その他の部分の構成は、第1の実施形態のものと同様である。
図12の主要な部分は、無線受信部206とフレーム分離部205との間に、GI除去部213、FFT部214を具備する。GI除去部213、FFT部214は、OFDM信号復調部213を構成する。この構成は、THP対応、非対応の移動局装置の両者に共通である。
GI除去部213は、無線受信部206からの時間軸信号についてガードインターバルGIを除去し、次いでFFT部214において時間軸信号を周波数軸信号に変換する。次いで、周波数軸信号から、所望のサブキャリアの信号を分離して、その分離したものを、フレーム分離部205へ出力する。
【0069】
なお、基地局装置11のプロセッサ部1については、その複数の構成を半導体装置およびプログラムにより実現するものにより構成し、プログラムを格納したROM、PROMまたはフラッシュメモリ、それらを制御する制御装置をも半導体装置により構成し、かつ、これらの複数の半導体装置を単一または複数の半導体チップにより構成することができる。
また、信号置換部104、干渉減算部105−2・・・105−N、モジュロ演算部106−2・・・106−N、干渉算出部107、線形フィルタ乗算部108、MT種別判別部116、オーダ決定部117のみを、プロセッサとして、これらの複数の構成を、前述のようにして単一または複数の半導体チップにより構成することができる。
【0070】
また、移動局装置21−A、21−Bのプロセッサ部2、プロセッサ部3については、その複数の構成を半導体装置およびプログラムにより実現するものにより構成し、プログラムを格納したROM、PROMまたはフラッシュメモリ、それらを制御する制御装置をも半導体装置により構成し、かつ、これらの複数の半導体装置を単一または複数の半導体チップにより構成することができる。
<第2の実施形態>
【0071】
本発明の第2の実施形態を、先ず、簡単な例について図を用いて説明し、次にそれを一般化して説明する。
図13において、1台の基地局装置13は、2台の移動局装置23−1、23−2と無線通信を行う。基地局装置13は、4本のアンテナ13−1、13―2,13−3、13−4を有し、移動局装置23−1はアンテナ23−1−1、23−1−2を有し、移動局装置23−2はアンテナ23−2−1、23−2−2を有する。移動局装置23−1は、前述のTHP非対応の移動局装置であり、移動局装置23−2は、THP対応の移動局装置である。基地局装置13のアンテナ13−1・・・13−4はそれぞれ別異の情報データ信号を乗せた4本のストリームを送波するが、その内の2本のストリームは移動局装置23−1へ向け、他の2本のストリームは移動局装置23−2へ向ける。
【0072】
図14は、基地局装置13の主要な送信部分の構成を示す概略ブロック図である。その他の受信部分を含めた構成は、第1の実施形態と同様である。
基地局装置13の主要な送信部分は、信号置換部304、干渉減算部305−3、305−4、モジュロ演算部306−3、306−4、干渉算出部307、線形フィルタ乗算部308、MT種別判別部316、オーダ決定部317、DRS生成部312を具備する。干渉減算部305−3、305−4、モジュロ演算部306−3、306−4、干渉算出部307は、THP部320を構成する。
符号化、変調化の行われた4つのデータ信号は、信号置換部304に加えられる。これらの情報データ信号は、信号置換部304において順序を変えられて、THP非対応の移動局装置23−1への2つの情報データ信号はTHP部320で処理を加えられずに通過して線形フィルタ乗算部308へ出力される。THP対応の移動局装置23−2への2つの情報データ信号は、THP部320の干渉減算部305−3、305−4での干渉減算、モジュロ演算部306−3、306−4でのモジュロ演算を経て、線形フィルタ乗算部308へ加えられる。
【0073】
線形フィルタ乗算部308の入力には、THP演算部320の出力信号の他に、DRS生成部312からの専用参照シンボルDRSも加えられる。この2種類の信号は時分割多重された後、フィルタリング処理が行われる。このフィルタリング処理については、干渉除去と一緒に後で説明をする。線形フィルタ乗算部308の出力信号は、第1の実施形態のところで説明をしたフレーム構成部109へ加えられる。
MT種別判別部316は、移動局装置23−1、23−2のMT種別情報を作成してオーダ決定部317へ加える。
【0074】
オーダ決定部317は、MT種別情報に基づいて、情報データ信号101−1・・・101−4の前述の順序を定めるオーダ情報に関する信号を作成して、信号置換部304およびフィルタ算出部319へ加える。
フィルタ算出部319は、第1の実施形態のところで説明をした伝搬路情報取得部318から受け取った伝搬路情報に関する信号およびオーダ決定部317から受け取ったオーダ情報に関する信号に基づいて干渉情報を作成して、この信号を干渉算出部307へ加える。
【0075】
次に、THP部320、線形フィルタ乗算部308の構成の詳細を説明する。
線形フィルタ乗算部308の重み付けフィルタPは、以下の式(18)で示すことができる。
【0076】
【数3】
【0077】
上記式(18)は、後で明らかになるように、下記の式(19)のように書くことができる。
【0078】
【数4】
【0079】
式(18)に戻って、右辺の行列の括弧内の2番目の行列は、以下のようである。すなわち、基地局装置13の送信アンテナ312−1・・・312−4からTHP非対応の移動局装置23−1、THP対応の移動局装置23−2への伝搬路の複素利得をそれぞれ2行4列の行列H1、H2で表すと、全体の伝搬路行列Hは、以下の式(20)
【0080】
【数5】
【0081】
で表される。
次にH1に対して特異値分解を施す。するとH1は以下の式(21)のように表される。ここで後に説明するMT数が3つ以上のときとの整合性を保つためにH1をH^2という記号で置き換える。H^2は全伝搬路行列HからH2を削除した行列という意味であり、MT数が2つだけの場合ではH1=H^2となる。
【0082】
【数6】
【0083】
ここで、式(21)の右辺の左から一つ目の行列、及び三つ目の行列はそれぞれユニタリ行列である。また二つ目の行列は1行1列成分と2行2列成分だけが正の実数となる。三つ目の行列の3行目と4行目に相当する行列のエルミート共役
【0084】
【数7】
【0085】
が所望の行列V^ker2である。ここでTHP対応の移動局装置23−2宛の信号に対してこの線形フィルタV^ker2を乗算すれば、移動局装置23−2宛の信号がTHP非対応の移動局装置23−1に干渉となって届くのを避けることができる。
行列VIm2は、THP対応の移動局装置23−2の個別フィルタである。この行列VIm2は、移動局装置23−2宛の伝搬路H2に上記行列V^ker2を乗算したもの(H2V^ker2)を再び以下の式(23)のように特異値分解することによって求められる。H2V^ker2は2行2列の行列であるため、以下のような形に特異値分解できる。
【0086】
【数8】
【0087】
式(23)の右辺の一番右の行列のエルミート共役を個別フィルタVIm2とする。
また、移動局装置22−1宛の信号に対してはH1を特異値分解することでMT個別フィルタを求めることができる。
【0088】
【数9】
【0089】
式(24)の右辺の一番右の行列のエルミート共役を個別フィルタVIm1とする。前に戻って、式(19)の行列Pは第1の実施形態における行列Qに相当し、フィルタ算出部319は、この行列Pの信号を線形フィルタ乗算部308に出力する。
THP部320の干渉減算部305−3、305−4の構成は、以下のようである。
等価伝搬路HPを以下の式(25)とする。
【0090】
【数10】
【0091】
ここでT11, T21, T22は2×2行列である。行例T11, T22は基地局装置13が移動局装置23−1、23−2に送信した信号がそれぞれ正しい移動局装置に届くときの伝搬路状態を表している。また行列T21は基地局装置13がTHP非対応の位移動局装置23−1宛に送信した信号がTHP対応の移動局装置23−2に干渉として届くときの伝搬路を表す。式(25)の右辺の1行1列の行列が0というのは移動局装置23−2宛の信号が移動局装置23−1に干渉として届かないことを示している。
この等価伝搬路の行列Tを用いて干渉係数フィルタを算出する。いま、所望信号の伝搬路のみを取り出すと、
【0092】
【数11】
【0093】
と表すことができる。この行列Bは第1の実施形態の行列のAを第2の実施形態の複数受信アンテナの場合に拡張したものに相当する。伝搬路を補償するにはBの逆行列を乗算すればよいので、これに伴って干渉成分は、
【0094】
【数12】
【0095】
となる。式(27)の左辺で単位行列Iを引いているのは所望信号に対する成分を消すためである。
以上より、干渉係数情報B−1T―Iと線形フィルタPを求めることができる。モジュロ演算部306−3、306−4の構成は、第1の実施形態のものと同様である。
【0096】
第2の実施形態のフィルタ算出部319の動作を、M本のアンテナを持つ移動局装置がN個ある場合について一般化して説明する。この場合の基地局装置は、MN個のアンテナを有し、各アンテナから個別の情報データ信号を乗せたストリームを送波する。
基地局装置の各送信アンテナからk番目の移動局装置の受信アンテナまでの伝搬路の複素利得をM行MN列の行列Hkで表す。ここでkは、既述のオーダリング後における移動局装置の番号である。つまりTHP非対応の移動局装置についての伝搬路複素利得をH1とし、THP非対応の移動局装置についての複素利得をH2・・・HNとする。全体の伝搬路行列Hは、下記の式(28)
【0097】
【数13】
【0098】
で表される。いま、この伝搬路行列の1番目〜(k−1)番目までの伝搬路を取り出した行列を
【0099】
【数14】
【0100】
とおく。この行列H^kはM行Mk列の行列となる。次にH^kに対して特異値分解を施す。
【0101】
【数15】
【0102】
ここで行列V^ImkはMN行M(k-1)列の行列であり、行列V^kerkはMN行M(N-k+1)M(N−k+1)列の行列である。
次にN個ずつ存在する各MT宛の信号ごとに最適なプレコーディングを行う。k番目のMTに対応する伝搬路Hkに式(2-3)で求めた行列V^kerkを乗算したもの(HkV^kerk)を再び特異値分解する。
【0103】
【数16】
【0104】
行列HkV^kerkはM行M(N-k+1)列の行列であるために、行列HkV^kerkは、高々Mランクである。次の行列
【0105】
【数17】
【0106】
のうち最初のM列を移動局装置宛の個別フィルタVImkとする。また、行列VImkは、M(N-k)行M列の行列となる。
以上で求めた行列V^kerkと行列VImk (k=1,2,…,N) を用いて線形フィルタを
【0107】
【数18】
【0108】
とする。この行列Pが実施例1における行列Qに相当し、線形フィルタ算出部は、線形フィルタ乗算部にこのPを出力する。
等価伝搬路HPは以下の式(33)のようになる。
【0109】
【数19】
【0110】
ここで行列TikはM行M列の行列であり、k番目のMT宛の信号がi番目のMTに届くときに通ると見做せる伝搬路行列である。行列Tik(iとkは同じ値)は、基地局装置側で各移動局装置宛に送信した信号が正しい移動局装置に届くときの伝搬路を表しており、行列Tik(iとkは異なる値)は、異なる移動局装置宛の信号が干渉として届くときの伝搬路を表している。この等価伝搬路は、下三角行列となっている。
また所望信号の伝搬路のみを取り出すと、この行列は、
【0111】
【数20】
【0112】
と表すことができる。これは第1の実施形態の行列Aを複数受信アンテナの場合に拡張したものに相当する。第1の実施形態と同様に、所望信号が前述の式(34)で表される伝搬路を通った後に、移動局装置が受ける干渉を相殺できる信号を計算するため、以下の式(35)のように干渉係数フィルタ(干渉情報)を算出する。
【0113】
【数21】
【0114】
以上のようにして計算した干渉係数フィルタを、干渉算出部に出力する。
THP部320は、第1の実施形態と同様に干渉算出部、干渉減算部、モジュロ演算部からなり、1番目を除いた2番目以降の移動局装置宛の所望信号から、等価伝搬路における干渉信号を減算し、モジュロ演算を施す操作を逐次的に繰り返し、全移動局装置宛の信号を算出する。第1の実施形態と異なるのは、この逐次的な干渉除去をユーザ単位つまりM本の信号ストリーム毎に行うことである。
THP部320の動作の各工程は図6で示したものと同様である。ただし、THP部320へのN個の入力信号sk(k=1・・・N)は、全て、M次元縦ベクトルであり、THP部からのN個の出力信号fk(k=1・・・N)も、全て、M次元縦ベクトルである。また、M本の信号ストリーム毎に処理を行うことになったことに伴い、干渉算出部における干渉信号fkの計算式は
fk = (B -1 T −I) (v1t, v2t, …, vkt, 0, …, 0)t (36)
とする。さらに干渉減算部及びモジュロ演算部の処理は
vk =Mod (sk - fk ) (37)
となる。
[移動装置の構成]
【0115】
図15は、THP対応の移動局装置23―2の構成を示す概略ブロック図である。
移動局装置23−2は、復号部401−1、401−2、復調部402−1、402−2、モジュロ演算部403−1、403−2、伝搬路補償部404、フレーム分離部405−1、405−2、無線受信部406−1、406−2、伝搬路推定部407、伝搬路状態情報生成部408、MT種別情報生成部409、フレーム構成部410−1、410−2、無線送信部411−1、411−2、アンテナ部412−1、412−2を備える。また、アンテナ部412−1、412−2を除く他の構成(401−1、401−2、402−1、402−2、403−1、403−2、404、405−1、405−2、406−1、406−2、407、408、409、410−1、410−2、411−1、411−2の符号で示されるもの。)は、プロセッサ部4を構成する。
【0116】
アンテナ部412−1、412−2は、基地局装置13が送波した無線信号を受波して、この信号を無線受信部406−1、406−2に伝える。無線受信部406−1、406−2は、この無線周波数帯の信号をベースバンドへダウンコンバートし、アナログ/ディジタル変換を施し、次にフレーム分離部405−1、405−2へ出力する。フレーム分離部405−1、405−2は、データ信号を、パイロット信号である専用参照シンボルDRSおよび共用参照シンボルCRSから分離し、情報データ信号を伝搬路補償部404へ出力し、専用参照シンボルDRSおよび共用参照シンボルCRSを伝搬路推定部407へ出力する。
【0117】
伝搬路推定部407は、共用参照シンボルCRSに基づいて推定した伝搬路状態情報Hkを伝搬路状態情報生成部408へ出力する。また、伝搬路推定部407は、専用参照シンボルDRSに基づいて伝搬路推定を行って推定した等価伝搬路の複素利得Tkkを伝搬路補償部404へ出力する。ここで、伝搬路補償とは受信信号yに対して等価伝搬路に対するZF (Zero Forcing) フィルタTkk-1を乗算することであり、伝搬路補償部の出力信号はTkk-1yとなる。この出力信号をモジュロ演算部403−1、403−2へ出力する。ここで、ZFフィルタに代えて、MMSEフィルタを用いてもよい。
【0118】
モジュロ演算部403−1、403−2は、伝搬路補償部から入力された受信信号に対して、第1の実施形態で行ったモジュロ演算を施して、モジュロ演算後の信号を復調部402−1、402−2に出力する。復調部402−1、402−2は、モジュロ演算部403−1、403−2から入力されたモジュロ演算後の信号を復調し、復調信号を復号部401−1、401−2に出力する。復号部401−1、401−2は、復調部402−1、402−2から入力された信号について復号を行ってデータ信号を出力する。
【0119】
MT種別情報生成部409は、フレーム構成部410−1、410−2にMT種別情報(つまりTHP対応端末であることを示す情報)を入力する。伝搬路状態情報生成部408は、CRS受信時に伝搬路推定部から入力された伝搬路状態情報 (Hk) をフレーム構成部に入力する。フレーム構成部は、入力されたMT種別情報と伝搬路状態情報を用いてフレームを構成し、無線送信部411−1、411−2に出力する。無線送信部411−1、411−2は、入力された信号をアナログ/デジタル変換後アップコンバージョンし、アンテナ412−1、412−2を介して基地局装置13に送信する。
THP非対応の移動局装置23−1の構成は、THP対応の移動局装置23−2の構成からモジュロ演算部403−1、403−2を除いた構成であるので、その説明は、ここでは省略する。
【0120】
なお、各移動局装置がTHP対応かTHP非対応かという種別を、基地局が把握できればよいので、THP対応・非対応の端末のうち片方の種別が対応するMT種別情報を送ればよい。基地局は、MT種別情報が送られてこない移動局装置をもう一方の種別とすればよいからである。また、第何世代かを示す情報でもよい。
【0121】
本実施形態では、1つの移動局装置が複数ストリームを用いて通信を行う場合においても、THP非対応の移動局装置とTHP対応の移動局装置とがMU-MIMO THPを用いて混在した状態で通信を行うことができる。
<変形例1>
【0122】
第2の実施形態では、シングルキャリアの場合について説明したが、マルチキャリア、例えばOFDMを用いてサブキャリア毎に第2の実施形態の発明を適用してもよい。すなわち、第1の実施形態の変形例1と同様に、OFDM信号変調部とOFDM信号復調部を、各データ信号のストリームについて新たに加えればよい。例えばM個の受信アンテナを持つ移動局装置をN台多重する場合、基地局装置はMN個の信号ストリームそれぞれに対してOFDM信号変調部とOFDM信号復調部を持つ。また、各移動局装置はOFDM信号変調部とOFDM信号復調部をM個ずつ持つ。
【0123】
なお、移動局装置23−2のプロセッサ部4については、その複数の構成を半導体装置およびプログラムにより実現するものにより構成し、プログラムを格納したROM、PROMまたはフラッシュメモリ、それらを制御する制御装置をも半導体装置により構成し、かつ、これらの複数の半導体装置を単一または複数の半導体チップにより構成することができる。
【0124】
また、モジュロ演算部403−1、403−2、MT種別情報生成部409のみを、プロセッサとして、これらの複数の構成を、前述のようにして単一または複数の半導体チップにより構成することができる。
<第3の実施形態>
【0125】
次に、本発明の第3の実施形態について説明を行う。
本発明の第3の実施形態では、1台の基地局装置14およびN台の移動局装置24を備える。ただし、Nは、2またはそれより大きい整数である。基地局装置14は、N本のアンテナを具備し、移動局装置24は1本のアンテナを具備する。基地局装置14は、空間分割したN本のストリームを送波するが、これらのストリームには別異のデータ信号が乗せられている。移動局装置24は、これらのストリームを受波する。また、基地局装置14は、ある場合には、全てTHP非対応の移動局装置と通信を行い、かつ、ある場合には、全てTHP対応の移動局装置と空間多重により同時通信を行うことができる。
【0126】
図16は、基地局装置14の主要な送信部分の構成を示す概略ブロック図である。基地局装置14の主要な送信部分は、変調部503−1、503−2・・・503−N、干渉減算部505−2・・・505−N、モジュロ演算部506−2・・・506−N、線形フィルタ乗算部508、モジュロ切換部512−2・・・512−N、MT種別判別部516、干渉算出部517を具備する。干渉減算部505−2・・・505−N、モジュロ演算部506−2・・・506−N、モジュロ切換部512−2・・・512−N、干渉算出部519は、THP部520を構成する。
【0127】
その他の受信部分を含めた構成は、第1の実施形態と同様である。ただし、第1の実施形態の信号置換部104、オーダ決定部117は、欠如している。また、変調部503−1、503−2・・・503−N、干渉減算部505−2・・・505−N、モジュロ演算部506−2・・・506−N、線形フィルタ部508、干渉算出部519の個別の動作は、第1の実施形態のものと同一である。
【0128】
MT種別判別部516は、その出力信号によりモジュロ切換部512−2・・・512−Nを制御して、干渉減算部501−2・・・501−Nの出力信号がTHP対応の移動局装置宛のものものであれば、対応するモジュロ演算部506−2・・・506−Nへ出力し、また、THP非対応の移動局装置宛のものものであれば、モジュロ演算部506−2・・・506−Nをバイパスして、線形フィルタ乗算部508へ出力する。なお、変調部503−1からの出力信号は、THP非対応の移動局装置に宛てられたものであっても、THP対応の移動局装置に宛てられたものであってもよい。その場合、THP対応の移動局装置は、受信信号についてモジュロ演算を行う。
【0129】
第3の実施形態によれば、送信電力の増加という犠牲を払うものの、基地局装置13は、全てTHP非対応の移動局装置24と通信を行うことさえできる。
【0130】
移動局装置の構成は、それがTHP対応であれ、非対応であれ、第1の実施形態のものを用いることができる。
本実施形態では、複数のTHP非対応の移動局装置が含まれていても、空間多重することができる。
<変形例1>
【0131】
本変形例では、第1の実施形態の図2における信号置換部104とオーダ決定部117を、図16の基地局装置の構成に付加する。すなわち、変調部503−1・・・503−Nの出力が信号置換部を介してTHP部520に加えられるようにする。そして、信号置換部の出力端子の番号の若いものに、THP非対応の移動局装置宛のデータ信号が出力されるようにする。かくすることにより、モジュロ演算を行わないことによる送信電力の増加を抑圧することができる。すなわち、1番目の信号は等価伝搬路R Hにおいて干渉を受けない。また2番目の信号は1番目の信号からのみ干渉を受ける。さらに3番目の信号は1番目と2番目の信号からのみ干渉を受ける。同様に考えると、k+1番目の信号は1〜k番目の信号からの干渉を受ける。これは平均的に見れば順番が先の信号であるほど少ない信号からの干渉しか受けない。つまり順番が先の信号であるほど、信号を一定振幅範囲内に抑えるモジュロ演算を行わなかったことによる劣化は少なくなることを示す。そこで、モジュロ演算を行わないTHP非対応の移動局装置を1番目から順番に並べることで電力の増加を抑えることができる。
<変形例2>
【0132】
等価伝搬路RH対して1〜k行目から1〜k列目のk行k列の行列だけを取り出して、行列RSとする。そして、行列RSの逆行列を線形フィルタ乗算部308の乗算前の1〜k番目の移動局装置宛の信号(v1, …, vk)tに対して乗算し、乗算後の行列を線形フィルタ乗算部508に入力する。このようにしたとき、1〜k番目のMT宛の信号にのみ着目すると、いわゆる線形のビームフォーミングを行って1〜k番目の移動局装置宛の信号を送信していることとなる。また、基地局装置は、この(v1, …, vk)tを干渉算出部に入力して、1〜k番目の信号がk+1番目以降のTHP非対応の移動局装置に与える干渉を計算することができる。これにより、ビームォーミングを行う信号に加える形でk+1番目以降のTHP非対応の移動局装置に対する信号を多重することができる。
<変形例3>
【0133】
第3の実施形態およびその変形例1、変形例2では、シングルキャリアの場合を述べたが、マルチキャリア、特にOFDMにおいて本実施形態をサブキャリア毎に適用してもよい。その場合、第1の実施形態の変形例1のOFDM信号変調部1211、OFDM復調部217に相当するものを新たに加えればよい。
<第4の実施形態>
【0134】
第4の実施形態では、1台の基地局装置15およびN台の移動局装置25を備える。ただし、Nは、2またはそれより大きい整数である。さらに、基地局装置15は、2N本のアンテナを具備し、移動局装置25の各々は2本のアンテナを具備する。基地局装置15は、空間分割した2N本のストリームを送波するが、これらのストリームには別異のデータ信号が乗せられている。移動局装置25のそれぞれは、これらのストリームを2本受波する。また、基地局装置15は、ある場合には、全てTHP非対応の移動局装置と通信を行い、かつ、ある場合には、全てTHP対応の移動局装置と空間多重により同時通信を行うことができる。
【0135】
図17は、基地局装置15の主要な送信部分の構成を示す概略ブロック図である。
基地局装置15の主要な送信部分は、変調部703−1、703−2、703−3・・・703−2N、干渉減算部705−3・・・705−2N、モジュロ演算部706−3・・・706―2N、モジュロ切換部712−3、712−2N、干渉算出部717、線形フィルタ乗算部705、DRS生成部712、MT種別判別部、フィルタ乗算部719を具備する。なお、干渉減算部705−3・・・705−2N、モジュロ演算部706−3・・・706―2N、モジュロ切換部712−3、712−2N、干渉算出部717は、THP部720を構成する。ただし、第2の実施形態における信号置換部304、オーダ決定部317が欠如している。その他の受信部分を含めた構成は、第2の実施形態と同じである。
【0136】
MT種別判別部716は、その出力信号によりモジュロ切換部712−3・・・712−2Nを制御して、干渉減算部705−3・・・705−2Nの出力信号がTHP対応の移動局装置宛のものものであれば、対応するモジュロ演算部706−3・・・706−2Nへ出力し、また、THP非対応の移動局装置宛のものものであれば、モジュロ演算部706−3・・・706−2Nをバイパスして、線形フィルタ乗算部705へ出力する。
THP部720の出力信号は、DRS生成部712の出力信号とともに線形フィルタ乗算部705へ加えられる。
線形フィルタ乗算部705の処理は、第2の実施形態の線形フィルタ乗算部308の処理と同様であるので、その説明を省略する。また、移動局装置での処理は、第2の実施形態での移動局装置の処理と同一であるので、その説明を省略する。
【0137】
本実施形態では、一例として一つの移動局装置に2本のストリームを送信する場合について説明したが、1つの移動局装置が3本以上の複数ストリームで通信を行う場合においても同様に、複数のTHP非対応の移動局装置とTHP対応の移動局装置を、MU-MIMO THPを用いて多重することを可能にする。
<変形例1>
本変形例1では、第3の実施形態の変形例1と同様に、信号置換部とオーダ決定部を付加する。オーダ決定部は、第3の実施形態の変形例1と同様に、THP非対応MTがk個存在したとすると、1〜k番目にTHP非対応MT、k+1番目以降にTHP対応MTを配置するようにオーダを決定する。ここでオーダ決定部は伝搬路情報取得部から入力した伝搬路状態情報に基づいて、k+1番目以降のTHP対応端末に対し、k+1番目以降の移動局装置のオーダを決める。またオーダ決定部はMT種別判別部から入力されたMT種別情報を、決定したオーダリングの順番に並びかえてからモジュロ切換部に入力する。
<変形例2>
【0138】
第4の実施形態およびその変形例1では、シングルキャリアの場合を述べたが、マルチキャリア、特にOFDMにおいて本実施形態をサブキャリア毎に適用してもよい。その場合、第1の実施形態の変形例1と同様に、OFDM信号変調部とOFDM信号復調部を新たに加える。
<第5の実施形態>
【0139】
図18は、本発明の第5の実施形態に係る通信システムを示す概略図である。この通信システムは、1台の基地局装置16が4台の移動局装置26−1、26−2、26−3、26−4と無線通信を行う。基地局装置16は、4本のアンテナを具備し、移動局装置26の各々は1本のアンテナを具備する。移動局装置26−1、26−3、26−4は、摂動ベクトルの加算が行われた(非線形処理の行われた)データ信号を受信する移動局装置であり、移動局装置26−2は、そのような非線形処理の行われることのなかったデータ信号を受信する移動局装置である。
【0140】
図19に、基地局装置16の構成を概略ブロック図にて示す。基地局装置16は、符号化部902−1、902−2、902−3、902−4、変調部903−1、903−2、903−3、903−4、VP(Vector Perturbation)部920、フレーム構成部908、無線送信部910−1、910−2、910−3、910−4、アンテナ部911−1、911−2、911−3、911−4、DRS生成部912、CRS生成部913、無線受信部914−1、914−2、914−3、914−4、フレーム分離部915、MT種別判別部916、伝搬路情報取得部918、フィルタ算出部919を具備する。なお、アンテナ部911−1、911−2、911−3、911−4を除く他の構成(902−1、902−2、902−3、902−4、903−1、903−2、903−3、903−4、930、908、910−1、910−2、910−3、910−4、911−1、911−2、911−3、911−4、912、913、914−1、914−2、914−3、914−4、915、916、918、919の符号で示されるもの。)は、プロセッサ部5を構成する。
移動局装置26へ宛てたデータ信号901−1、901−2、901−3、901−4は、符号化部902−1、902−2、902−3、902−4において誤り訂正符号化が行われ、次いで変調部903−1、903−2、903−3、903−4で変調される。変調部903−1、903−2、903−3、903−4の出力信号は、VP部930へ加えられる。
【0141】
図20に、VP部920の詳細をブロック図にて示す。VP部920は、候補信号点算出部921、フィルタ乗算部922、ノルム算出部923、最適信号選択部924を具備する。
先ず、図20の候補信号点算出部921の処理について説明をする。4つのデータ信号901−1、901−2、901−3、901−4を、所望信号としてs ( = (s1, s2, s3,s4) t) とする。sは4つの複素数で表されるベクトルである。ここで、摂動ベクトルは、実部および虚部に整数の係数を持つ4次元複素数ベクトルZを用いてZτで示す。ただし、τは、モジュロ幅である。すると、摂動ベクトルは、モジュロ幅τの整数倍の信号である。
【0142】
ここで、THP対応の移動局装置26−1、26−3、26−4宛のデータ信号に加算する複素数ベクトルZの成分をZ1、Z3、Z4とする。ただし、ここでは説明のために移動局装置26−2がTHP非対応だったとして以下、説明する。このときTHP非対応の移動局装置26−2に宛てるデータ信号に対しては摂動ベクトルを加算しないので、Z2=0とする。この条件で摂動ベクトルが取り得る全ての組み合わせを計算し、それぞれを所望信号sに加算したものを候補点として、フィルタ乗算部922に出力する。ここで候補地点xは、
x =s +Zτ (38)
となる。
【0143】
候補信号点xは、8次元空間の格子点となる。フィルタ乗算部922は、候補信号点算出部が入力した候補信号点各々について、下記の式(30)のように線形フィルタH-1を乗算する。すると、
H-1x = H-1 (s +Zτ) (39)
となる。ただし、H-1 は、基地局装置16と移動局装置26との間の伝搬路行列Hの逆行列である。
フィルタ乗算部922は、このフィルタ乗算後の候補点の配置をノルム算出部923に入力する。
【0144】
ノルム算出部923は、フィルタ乗算後の候補点配置に基づいて、全ての点H-1xに対してのユークリッドノルム ||H-1x||2を計算する。この結果は、最適信号選択部924へ加えられる。
最適信号選択部924は、この複数のユークリッドノルム||H-1x||2の中から、最も小さい値を持つものを選択する。そして、そのときのxの値をx0として出力する。これが図19のVP部920の出力である。最終的にVP部920は、摂動ベクトルを施した信号としてx0を、フレーム構成部908に出力する。フレーム構成部908は、受け取ったデータ信号x0に専用参照シンボルDRSを時間多重する。
【0145】
この時間多重を行った信号に対して、伝搬路行列Hの逆行列H-1を乗算した送信信号H-1xoと、共用参照シンボルCRSをさらに時間多重して、無線送信部910−1、910−2、910−3、910−4に加え、ディジタル/アナログ変換、無線周波数へのアップコンバートを行う。無線送信部910−1、910−2、910−3、910−4の出力は、アンテナ部911−1、911−2、911−3、911−4を介して移動局装置26−1、26−3、26−4へ送波される。
【0146】
一方、アンテナ部911−1、911−2、911−3、911−4は、移動局装置26−1、26−3、26−4から受波した無線信号を無線受信部914−1、914−2、914−3、914−4に加える。無線受信部914−1、914−2、914−3、914−4は、アンテナ部911−1、911−2、911−3、911−4から受け取った無線信号についてベースバンドへのダウンコンバートし、次いでアナログ/ディジタル変換を行った後に、その出力信号をフレーム分離部915へ加える。
【0147】
フレーム分離部915は、無線受信部914−1、914−2、914−3、914−4から受け取った信号について、以下のフレーム分離を行う。すなわち、フレーム分離部915は、伝搬路状態情報に関する信号を伝搬路情報取得部918へ加え、移動局装置26のMT種別、すなわちTHP対応か非対応かに関わりのある信号をMT種別判別部916へ加える。その他に、フレーム分離部915は、フレーム分離部915が分離した移動局装置26からのデータ信号を外部に出力する(この点は図19に図示していない。)。
MT種別判別部916は、移動局装置26のMT種別情報を作成してVP部920へ加える。伝搬路情報取得部118は、フレーム分離部115から伝搬路状態情報Hに関する信号を受け取って、これをフィルタ算出部919へ加える。フィルタ算出部919は、伝搬路情報取得部118から受け取った伝搬路情報Hの逆行列H-1関する信号作成して、この信号をVP部920へ加える。
【0148】
なお、以上はMT数が4の場合のVP部の動作である。しかし、移動局数を4よりも多いN個に拡張した場合も、同様に摂動ベクトルを加算することで送信電力を低減できることは容易に理解できよう。
THP対応、非対応の移動局装置のMTの構成は、第1のの実施形態と同様なので、ここでは説明を省略する。しかし、受信の態様を説明すれば、以下のようである。
先ず、送信信号はHH−1X0 =H−1(S+Z0τ) と表される。伝搬路を通って各MTに受信されるとき受信信号は
HH−1X0 =X0 =H−1(S+Z0τ) (40)
と示される。ここで全ての信号をベクトルで表したが、実際は成分ごとに別々のMTで受信する。また雑音は無視している。THP対応MTでは、信号を受信後、既述の式(9)で表されるモジュロ演算を行う。すると、
Mod(S+Z0τ) =S (41)
となり、摂動ベクトルがモジュロ演算により消えるため正しい所望信号を復元できる。THP非対応の移動局装置は、モジュロ演算を行わなくても直接、受信信号sを得ることができる。
【0149】
以上述べた方法により、THP対応MTと複数のTHP非対応MTが混在していても空間多重することを可能にする。
なお、本実施例では線形フィルタとしてH-1 を用いた。これはZFフィルタと呼ばれるものであり、H-1 に代えてH' H ( H' H' H +dI )-1を用いるMMSE (Minimum Mean Squared Error) 型の方法を用いてもよい。ここで、dは、移動局装置が受ける雑音電力を送信信号の電力で割った値である。
本実施形態では、MU-MIMO VPにおいても、複数のTHP非対応の移動局装置とTHP対応の移動局装置を多重することができる。
<変形例1>
【0150】
なお、基地局装置16のプロセッサ1については、その複数の構成を半導体装置およびプログラムにより実現するものにより構成し、プログラムを格納したROM、PROMまたはフラッシュメモリ、それらを制御する制御装置をも半導体装置により構成し、かつ、これらの複数の半導体装置を単一または複数の半導体チップにより構成することができる。
【0151】
また、MT種別判別部916とVP部930のみを、プロセッサとして、これらの複数の構成、またはこれらの複数の構成に他の構成を付加したものを、前述のようにして単一または複数の半導体チップにより構成することができる。
<実施例6>
【0152】
本発明の第6の実施形態では、1台の基地局装置17がN台の移動局装置と無線通信を行う。移動局装置は全てM本のアンテナを有し、基地局装置17は、MN本のアンテナを有する。基地局装置は、摂動ベクトルを用いて送信電力を低減した別異のデータ信号を乗せたMN本のストリームを同時に空間多重して、移動局装置に向ける。ただし、移動局装置のうちTHP非対応の移動局装置がK台あり、THP対応の移動局装置は、(N−K)台ある。
【0153】
図21に、基地局装置17のVP部1120の構成を示す。VP部1120は、候補信号点算出部1121、フィルタ乗算部1122、ノルム算出部923、最適信号選択部924を具備する。ノルム算出部923、最適信号選択部924は、第5の実施形態のものと同様である。また、基地局装置16のVP部1120以外の構成は、第5の実施形態のものと同様である。
【0154】
以下に基地局装置16のVP部1120の候補信号点算出部1121とフィルタ乗算部1122の動作について説明する。
候補信号点算出部1121は、MT種別情報に基づいてTHP対応の移動局装置に対する次元についてだけ摂動ベクトルVPを加算する。このときMT種別情報はN個の移動局装置に関する情報である。一方、各移動局装置にM個ずつ信号を送るため一度に空間多重する送信信号はNM個存在する。そこで候補信号点算出部1121は、THP対応の移動局装置宛の信号M(N-K)個に対応する次元だけ摂動ベクトルを加算した候補点を算出する。候補信号点の配置は式(38)と同様に
x = s +Zτ (42)
で表される。
【0155】
次にフィルタ乗算部1122の動作について説明する。このフィルタ乗算部1122で乗算するフィルタは第5の実施形態において伝搬路行列Hの逆行列H-1だったものを複数受信アンテナに拡張したものである。先ず乗算するフィルタの算出方法から説明する。ここで計算するフィルタは、第2の実施形態のフィルタ算出部において行った計算と類似するものである。
(Null Spaceの算出)
【0156】
フィルタを計算するために、基地局装置17は、移動局装置の個別フィルタの算出、線形フィルタの算出、干渉係数フィルタの算出の4つのプロセスを実行する。
第2の実施形態と同様に、基地局装置16の各送信アンテナからk番目の移動局装置の受信アンテナまでの伝搬路の複素利得をM行MN列の行列Hkで表す。全体の伝搬路行列は
【0157】
【数22】
【0158】
で表される。いま、Hからk番目のMT宛の伝搬路を除いた行列を
【0159】
【数23】
【0160】
とおく。ここで実施例2と異なるのが、k+1〜N番目の伝搬路も式(46)に含めていることである。何故ならば、本実施例では、線形フィルタによって全ての干渉を一度に除去するからであり、自分より番号の小さい移動局装置宛の信号だけ線形フィルタで除去して、残りの干渉をTHPで除去する第2の実施形態や第4の実施形態とは異なるからである。この行列H^kは、M行M(N-1)列となる。次に、行列H^kに対して特異値分解を施す。
【0161】
【数24】
【0162】
ここで、行列V^Imkは、MN行M(N-1)列の行列とし、行列V^kerkは、MN行M列の行列とする。行列H^kのランクは高々M(N-1)であることに対応して、行列
【0163】
【数25】
【0164】
の最初のM(N-1)列を除いた行列 V^kerkがNull Spaceに対応する。第2の実施形態と同様に考えると、本実施形態の場合、行列H^kは、k番目の移動局装置以外に対応する伝搬路を表す行列なので、フィルタV^kerkを基地局装置16で乗算して送信した信号は、k番目以外の移動局装置には干渉を与えないことがわかる。
(MT個別フィルタの算出)
【0165】
次にN個ずつ存在する各移動局装置宛の信号ごとに最適なプレコーディングを行う。k番目のMTに対応する伝搬路Hkに式(6-4)で求めたV^kerkを乗算したものを再び特異値分解する。
【0166】
【数26】
【0167】
V^kerkはM×M(N-1)行列であるためV^kerkは高々Mランクである。行列
【0168】
【数27】
【0169】
のうち最初のM列をMT個別フィルタV^Imkとする。またV^kerkはM(N-1)×M行列となる。
(線形フィルタの算出)
【0170】
式(35)、(36)で求めた行列V^kerkと行列VImk (k=1,2,…,N) を用いて、線形フィルタを
【0171】
【数28】
【0172】
とする。この行列Pは第1の実施形態における行列Qに相当し、フィルタ算出部919は、フィルタ乗算部922にこのPを入力する。
(干渉係数フィルタの算出)
【0173】
行列HPを等価的伝搬路とすると
【0174】
【数29】
【0175】
とおくことができる。ここでTiiはM行M列の行列であり、i番目の移動局装置宛の信号がi番目のMTに届くときに通ると見做せる伝搬路行列である。式(38)を見ると、Tii (i=1,..,N) 成分以外の成分が0になっている。これは、各移動局装置宛の信号に対して、その移動局装置以外の移動局装置に対する信号が干渉として届いてしまわないようなフィルタV^kerkを乗算しているからである。フィルタ乗算部は候補信号点xのそれぞれに対してフィルタPを下式のように乗算する。
P x = P (S+Z0τ) (49)
【0176】
フィルタ乗算部1122は、最終的にこの式(49)で表される信号をノルム算出部1122に入力する。ノルム算出部923及び最適信号選択部924の動作は、第5の実施形態のものと同様であり、VP部1120は、最終的に算出した信号を、第5の実施形態のところで説明をしたフレーム構成部908に入力する。
移動局装置の構成は、第2の実施形態のものと同様である。第2の実施形態と同様に、移動局装置は、受信信号が等価伝搬路Tkkを通ったとして、伝搬路補償を行って信号検出する。
【0177】
本実施形態では、1つの移動局装置が複数ストリームで通信を行う場合においても、複数のTHP非対応の移動局装置とTHP対応の移動局装置を、MU-MIMO VPを用いて多重することができる。
<変形例1>
【0178】
第6の実施形態では、シングルキャリアの場合を述べたが、マルチキャリア、特にOFDMのサブキャリア毎に適用してもよい。この場合は、第1の実施形態の変形例1のところで説明をしたOFDM信号変調部とOFDM信号復調部を各信号ストリームに新たに付加すればよい。例えばM個の受信アンテナを持つ移動局装置をN台多重する場合、基地局装置はMN個の信号ストリームそれぞれに対してOFDM信号変調部とOFDM信号復調部を持つ。また、各移動局装置はOFDM信号変調部とOFDM信号復調部をM個ずつ持つ。
【0179】
ここで摂動ベクトルとモジュロ演算との関係について説明をする。データ信号への摂動ベクトルの加算は、データ信号についての等値変換であり、移動局装置におけるモジュロ演算でデータ信号を復元できるので摂動ベクトルの加算によってもデータ信号の情報は失われない。加算する摂動ベクトルを、必ず加算後の信号が一定の振幅の範囲内に収まるようにしたものがモジュロ演算である。例えば、式(10)のモジュロ演算はModτ(x)-xで示される摂動ベクトルを信号xに加算していると考えることができる。
【0180】
なお、上記の全ての実施形態および変形例において、基地局の全アンテナ数および移動局装置の全アンテナ数は、それぞれ通信に用いるデータストリーム数と一致するものとして、説明を行った。すなわち、複数のデータストリームは、それぞれが異なるデータ信号を伝送するものとして説明を行った。しかし、例えば、8本のデータストリームのうちの2本のデータストリームが同一のデータ信号を伝送し、この2本のデータストリームを特定の2本のアンテナを有する一つの移動局装置が受信し、受信後にこの2つのデータ信号(同一のデータ信号)を合成することにより、受信品質を向上させるようにしてもよい。
【0181】
以上、図面を参照して、本発明の実施形態について詳述したが、具体的な構成は上述のものに限られることなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0182】
本発明は、移動無線通信または固定無線通信の分野において利用することができる。
【符号の説明】
【0183】
10・・・第1の通信装置、20・・・第2の通信装置、102・・・符号化装置、103・・・変調装置、104・・・信号置換部、105・・・干渉減算部、106・・・モジュロ演算部、107・・・干渉算出部、108・・・線形フィルタ部、109・・・フレーム構成部、110・・・無線送信部、111・・・アンテナ部、112・・・DRS生成部、113・・・CRS生成部、116・・・MT種別判別部、117・・・オーダ決定部、118・・・伝搬路情報取得部、119・・・フィルタ算出部、120・・・THP部、201・・・復号部、202・・・復調部、203・・・モジュロ演算部、204・・・伝搬路補償部、205・・・フレーム分離部、206・・・無線受信部、207・・・伝搬路推定部、208・・・伝搬路状態情報生成部、210・・・フレーム構成部、211・・・無線受信部、212・・・アンテナ部、1211・・・OFDM信号変調部、217・・・OFDM信号復調部、512・・・モジュロ切換部、920・・・VP部、921・・・候補信号点算出部、922・・・フィルタ乗算部、923・・・ノルム算出部、924・・・最適信号選択部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1または複数の第1の通信装置と、複数の第2の通信装置とを具備し、第1の通信装置は、その複数のアンテナからデータ信号の乗せられた複数のストリームを空間多重して送波し、第2の通信装置は、それぞれのアンテナにて前記ストリームを受波して、前記データ信号を受信する通信システムにおいて、
第1の通信装置は、
前記複数のデータ信号の一部について等値変換を行う変換装置と、
前記複数のデータ信号の少なくとも一部について、前記空間多重のストリーム間の干渉の少なくとも一部を除外する重み付け装置と、
を具備し、
複数の第2の通信装置の一部のものは、
前記等値変換の行われたデータ信号の受信に際して、前記データ信号につき、等値変換の回復を行う変換装置を具備する、
ことを特徴とする通信システム。
【請求項2】
第2の通信装置の前記一部以外の第2の通信装置は、前記変換装置を具備せずに前記データ信号の受信を行うことを特徴とする請求項1に記載の通信システム。
【請求項3】
第2の通信装置の前記一部以外の第2の通信装置は、異なるシステムに属することを特徴とする請求項2に記載の通信システム。
【請求項4】
第1の通信装置は、前記ストリームの空間多重が行われる空間の伝搬路定数を推定する共通参照シンボルの生成装置と、前記重み付け装置の重み付けをも考慮に入れた等価伝搬路の伝搬路定数を推定する専用参照シンボルの生成装置とを具備することを特徴とする請求項1から3に記載の通信システム。
【請求項5】
第2の通信装置の前記一部のものは、前記専用参照シンボルを用いて等価伝搬路の推定を行うことを特徴とする請求項4に記載の通信システム。
【請求項6】
前記重み付け装置は、全ての干渉を除外するものであることを特徴とする請求項1から3に記載の通信システム。
【請求項7】
前記重み付け装置は、一部の干渉を除外し、その他の干渉は別の干渉減算装置にて除外することを特徴とする請求項1から3に記載の通信システム。
【請求項8】
前記等値変換を行う変換装置は、摂動ベクトルを用いるものであることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の通信システム。
【請求項9】
前記等値変換を行う変換装置は、摂動ベクトルの選択方法としてモジュロ演算装置を用いることを特徴とする請求項8に記載の通信システム。
【請求項10】
前記第1の通信装置は、1台で移動局の数だけのアンテナを具備し、前記第2の移動局はそれぞれ1本のアンテナを具備することを特徴とする請求項1から3に記載の通信システム。
【請求項11】
前記第2の移動局の少なくとも一部は複数本のアンテナを具備することを特徴とする請求項1から3に記載の通信システム。
【請求項12】
複数の送受信アンテナを具備し、複数のデータ信号を乗せたストリームを前記アンテナを介して空間多重にて送波する通信装置であって、
前記複数のデータ信号の一部について等値変換を行う変換装置と、
前記複数のデータ信号の少なくとも一部について、前記空間多重のストリーム間の干渉の少なくとも一部を事前に除外する重み付け装置と、
を具備することを特徴とする通信装置。
【請求項13】
1または複数の第1の通信装置が具備する複数の送信アンテナから、データ信号の乗せられた複数のストリームを空間多重して送波し、複数の第2の通信装置のそれぞれのアンテナにて前記ストリームを受波して、前記データ信号を受信する通信方法において、
第1の通信装置においては、
前記複数のデータ信号の一部について等値変換を行う過程と、
前記複数のデータ信号の少なくとも一部について、前記空間多重のストリーム間の干渉の少なくとも一部を事前に除外する重み付けを行う過程と、
を具備し、
複数の第2の通信装置の一部のものについては、
前記等値変換の行われたデータ信号の受信に際して、前記データ信号につき、前記等値変換の回復を行う過程を具備する、
ことを特徴とする通信方法。
【請求項14】
1または複数の第1の通信装置と、複数の第2の通信装置とを具備し、第1の通信装置は、その複数のアンテナからデータ信号の乗せられた複数のストリームを空間多重して送波し、第2の通信装置は、それぞれのアンテナにて前記ストリームを受波して、前記データ信号を受信する通信システムにおいて、第1の通信装置が具備するプロセッサであって、
前記複数のデータ信号の一部について等値変換を行う変換装置と、
前記複数のデータ信号の少なくとも一部について、前記空間多重のストリーム間の干渉の少なくとも一部を除外する重み付け装置と、
を具備することを特徴とするプロセッサ。
【請求項15】
1または複数の第1の通信装置と、複数の第2の通信装置とを具備し、第1の通信装置は、その複数のアンテナからデータ信号の乗せられた複数のストリームを空間多重して送波し、第2の通信装置は、それぞれのアンテナにて前記ストリームを受波して、前記データ信号を受信する通信システムにおいて、複数の第2の通信装置の一部のものが具備するプロセッサであって、
前記等値変換の行われたデータ信号の受信に際して、前記データ信号につき、等値変換の回復を行う変換装置を具備する、
ことを特徴とするプロセッサ。
【請求項1】
1または複数の第1の通信装置と、複数の第2の通信装置とを具備し、第1の通信装置は、その複数のアンテナからデータ信号の乗せられた複数のストリームを空間多重して送波し、第2の通信装置は、それぞれのアンテナにて前記ストリームを受波して、前記データ信号を受信する通信システムにおいて、
第1の通信装置は、
前記複数のデータ信号の一部について等値変換を行う変換装置と、
前記複数のデータ信号の少なくとも一部について、前記空間多重のストリーム間の干渉の少なくとも一部を除外する重み付け装置と、
を具備し、
複数の第2の通信装置の一部のものは、
前記等値変換の行われたデータ信号の受信に際して、前記データ信号につき、等値変換の回復を行う変換装置を具備する、
ことを特徴とする通信システム。
【請求項2】
第2の通信装置の前記一部以外の第2の通信装置は、前記変換装置を具備せずに前記データ信号の受信を行うことを特徴とする請求項1に記載の通信システム。
【請求項3】
第2の通信装置の前記一部以外の第2の通信装置は、異なるシステムに属することを特徴とする請求項2に記載の通信システム。
【請求項4】
第1の通信装置は、前記ストリームの空間多重が行われる空間の伝搬路定数を推定する共通参照シンボルの生成装置と、前記重み付け装置の重み付けをも考慮に入れた等価伝搬路の伝搬路定数を推定する専用参照シンボルの生成装置とを具備することを特徴とする請求項1から3に記載の通信システム。
【請求項5】
第2の通信装置の前記一部のものは、前記専用参照シンボルを用いて等価伝搬路の推定を行うことを特徴とする請求項4に記載の通信システム。
【請求項6】
前記重み付け装置は、全ての干渉を除外するものであることを特徴とする請求項1から3に記載の通信システム。
【請求項7】
前記重み付け装置は、一部の干渉を除外し、その他の干渉は別の干渉減算装置にて除外することを特徴とする請求項1から3に記載の通信システム。
【請求項8】
前記等値変換を行う変換装置は、摂動ベクトルを用いるものであることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の通信システム。
【請求項9】
前記等値変換を行う変換装置は、摂動ベクトルの選択方法としてモジュロ演算装置を用いることを特徴とする請求項8に記載の通信システム。
【請求項10】
前記第1の通信装置は、1台で移動局の数だけのアンテナを具備し、前記第2の移動局はそれぞれ1本のアンテナを具備することを特徴とする請求項1から3に記載の通信システム。
【請求項11】
前記第2の移動局の少なくとも一部は複数本のアンテナを具備することを特徴とする請求項1から3に記載の通信システム。
【請求項12】
複数の送受信アンテナを具備し、複数のデータ信号を乗せたストリームを前記アンテナを介して空間多重にて送波する通信装置であって、
前記複数のデータ信号の一部について等値変換を行う変換装置と、
前記複数のデータ信号の少なくとも一部について、前記空間多重のストリーム間の干渉の少なくとも一部を事前に除外する重み付け装置と、
を具備することを特徴とする通信装置。
【請求項13】
1または複数の第1の通信装置が具備する複数の送信アンテナから、データ信号の乗せられた複数のストリームを空間多重して送波し、複数の第2の通信装置のそれぞれのアンテナにて前記ストリームを受波して、前記データ信号を受信する通信方法において、
第1の通信装置においては、
前記複数のデータ信号の一部について等値変換を行う過程と、
前記複数のデータ信号の少なくとも一部について、前記空間多重のストリーム間の干渉の少なくとも一部を事前に除外する重み付けを行う過程と、
を具備し、
複数の第2の通信装置の一部のものについては、
前記等値変換の行われたデータ信号の受信に際して、前記データ信号につき、前記等値変換の回復を行う過程を具備する、
ことを特徴とする通信方法。
【請求項14】
1または複数の第1の通信装置と、複数の第2の通信装置とを具備し、第1の通信装置は、その複数のアンテナからデータ信号の乗せられた複数のストリームを空間多重して送波し、第2の通信装置は、それぞれのアンテナにて前記ストリームを受波して、前記データ信号を受信する通信システムにおいて、第1の通信装置が具備するプロセッサであって、
前記複数のデータ信号の一部について等値変換を行う変換装置と、
前記複数のデータ信号の少なくとも一部について、前記空間多重のストリーム間の干渉の少なくとも一部を除外する重み付け装置と、
を具備することを特徴とするプロセッサ。
【請求項15】
1または複数の第1の通信装置と、複数の第2の通信装置とを具備し、第1の通信装置は、その複数のアンテナからデータ信号の乗せられた複数のストリームを空間多重して送波し、第2の通信装置は、それぞれのアンテナにて前記ストリームを受波して、前記データ信号を受信する通信システムにおいて、複数の第2の通信装置の一部のものが具備するプロセッサであって、
前記等値変換の行われたデータ信号の受信に際して、前記データ信号につき、等値変換の回復を行う変換装置を具備する、
ことを特徴とするプロセッサ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2011−146995(P2011−146995A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−7042(P2010−7042)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
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