説明

通信システム及び通信装置

【課題】コントロールパイロット線にコントロールパイロット通信回路以外の通信回路を接続した場合でも、出力回路と入力回路との間の信号の送受信を確実に行うことができる通信システム及び通信装置を提供する。
【解決手段】出力回路20は、電圧発生源21で生成したコントロールパイロット信号を入力回路60へ送出する。出力回路20の出力側のコントロールパイロット線4と接地線3との間に、コントロールパイロット通信信号の鈍りを大きくしない直列共振回路31と通信部30との直列回路を接続してある。入力回路60の入力側のコントロールパイロット線4と接地線3との間に、直列共振回路71と通信部70との直列回路を接続してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車又はハイブリッド自動車などの車両と、該車両に給電するための給電装置との間の通信を行う通信システム及び該通信システムを構成する通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化に対応する技術として環境技術に注目が集まっている。このような環境技術としては、例えば、二次電池を搭載し、従来のようなガソリンを消費するエンジンに代えて駆動装置としてモータを採用した電気自動車や、ハイブリッド自動車などに関するものが実用化されている。
【0003】
このような電気自動車やハイブリッド自動車などの車両は、外部の給電装置に接続された充電プラグを車両に設けられた給電口のコネクタに接続して、車両の外部から二次電池を充電することができる構成となっている。
【0004】
車両に給電する際の車両と給電装置(充電スタンド)との間のインタフェースは、すでに規格化されている。例えば、給電装置側に設けられた出力回路と、車両側に設けられた入力回路との間でコントロールパイロット線と称される信号線を設け、出力回路から入力回路に対して所定の周波数の矩形波信号(コントロールパイロット信号)を出力することにより、給電装置と車両との間で車両の充電状態などの情報を確認することができる(非特許文献1参照)。
【0005】
一方で、コントロールパイロット線に通信信号を重畳させて給電装置と車両との間で、さらに種々の情報の送受信を行うことができる通信システムも検討されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】SAE International(Society of Automotive Engineers International)、SURFACE VEHICLE RECOMMENDED PRACTICE、2010-01 (ソサエティ・オブ・オートモーティブ・エンジニアズ・インターナショナル、サーフェイス ビークル リコメンディッド プラクティス、2010年1月)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、コントロールパイロット線にコントロールパイロット通信回路以外の通信回路を接続した場合、周波数帯域を決定する素子の値によっては、コントロールパイロット信号の歪が大きくなり、出力回路と入力回路との間のコントロールパイロット信号の送受信ができないという問題がある。
【0008】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、コントロールパイロット線にコントロールパイロット通信回路以外の通信回路を接続した場合でも、出力回路と入力回路との間の信号の送受信を確実に行うことができる通信システム及び該通信システムを構成する通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1発明に係る通信システムは、車両に給電する給電装置に設けられ、所定の周波数の矩形波信号を出力する出力回路と、前記車両に設けられ、前記出力回路と複数の信号線で接続され、該出力回路が出力する矩形波信号が入力される入力回路とを備え、前記信号線に通信信号を重畳させて前記車両と給電装置との間で通信を行う通信システムにおいて、前記給電装置に設けられ、前記信号線間に第1直列共振回路を介して接続され、通信信号の送受信を行う第1通信部と、前記車両に設けられ、前記信号線間に第2直列共振回路を介して接続され、通信信号の送受信を行う第2通信部とを備え、前記第1及び第2直列共振回路は、前記所定の周波数を基本波とした第9高調波以上の高調波を遮断することを特徴とする。
【0010】
第2発明に係る通信システムは、第1発明において、前記第1及び第2直列共振回路は、前記所定の周波数を基本波とした第15高調波以上の高調波を遮断することを特徴とする。
【0011】
第3発明に係る通信システムは、第1発明又は第2発明において、前記第1及び第2直列共振回路は、1.75MHz〜1.8MHzの通過帯域を有することを特徴とする。
【0012】
第4発明に係る通信システムは、第1発明乃至第3発明のいずれかにおいて、前記車両は、前記信号線に介装され、前記矩形波信号を通過させるローパスフィルタを更に備え、前記ローパスフィルタは、前記第2通信部の接続位置と入力回路との間に位置することを特徴とする。
【0013】
第5発明に係る通信装置は、所定の周波数の矩形波信号を複数の信号線を介して出力する出力回路を備える通信装置において、前記信号線間に直列共振回路を介して接続され、該信号線に通信信号を重畳させて通信信号の送受信を行う通信部を備え、前記直列共振回路は、前記所定の周波数を基本波とした第9高調波以上の高調波を遮断することを特徴とする。
【0014】
第6発明に係る通信装置は、所定の周波数の矩形波信号を複数の信号線を介して出力する出力回路を備える通信装置において、前記信号線間に直列共振回路を介して接続され、該信号線に通信信号を重畳させて通信信号の送受信を行う通信部を備え、前記直列共振回路は、前記所定の周波数を基本波とした第15高調波以上の高調波を遮断することを特徴とする。
【0015】
第7発明に係る通信装置は、複数の信号線を介して所定の周波数の矩形波信号が入力される入力回路を備える車両において、前記信号線間に直列共振回路を介して接続され、該信号線に通信信号を重畳させて通信信号の送受信を行う通信部を備え、前記直列共振回路は、前記所定の周波数を基本波とした第9高調波以上の高調波を遮断することを特徴とする。
【0016】
第8発明に係る通信装置は、複数の信号線を介して所定の周波数の矩形波信号が入力される入力回路を備える車両において、前記信号線間に直列共振回路を介して接続され、該信号線に通信信号を重畳させて通信信号の送受信を行う通信部を備え、前記直列共振回路は、前記所定の周波数を基本波とした第15高調波以上の高調波を遮断することを特徴とする。
【0017】
第1発明、第5発明及び第7発明にあっては、第1通信部は、給電装置に設けられ、出力回路と入力回路との間の複数の信号線(例えば、コントロールパイロット線と接地線)間に第1直列共振回路を介して接続され、通信信号を信号線に重畳させて通信信号の送受信を行う。また、第2通信部は、車両に設けられ、出力回路と入力回路との間の複数の信号線間に第2直列共振回路を介して接続され、通信信号を信号線に重畳させて通信信号の送受信を行う。直列共振回路は、例えば、インダクタ、キャパシタ及び抵抗の直列回路である。すなわち、第1通信部と第1直列共振回路との直列回路を信号線間に接続するとともに、第2通信部と第2直列共振回路との直列回路を信号線間に接続する。第1及び第2通信部は、直列共振回路を介して信号線に所望の周波数帯域の通信信号を重畳させることにより通信を行う。所望の周波数帯域は、例えば、1.75MHz〜1.8MHz(FSK:frequency shift keying)である。
【0018】
第1及び第2直列共振回路は、出力回路が生成する所定の矩形波の周波数を基本波とした第9高調波以上の高調波を遮断する。所定の矩形波の周波数は、例えば、1kHzである。これにより、出力回路が生成する所定の周波数の矩形波信号(コントロールパイロット信号)の高調波成分が第1通信部及び第2通信部へ伝搬することにより、矩形波信号の歪みが大きくなることを防止することができ、コントロールパイロット線にコントロールパイロット通信回路以外の通信回路を接続した場合でも、出力回路と入力回路との間のコントロールパイロット信号の送受信を確実に行うことができる。
【0019】
第2発明、第6発明及び第8発明にあっては、第1及び第2直列共振回路は、出力回路が生成する所定の矩形波の周波数を基本波とした第15高調波以上の高調波を遮断する。これにより、出力回路が生成する所定の周波数の矩形波信号(コントロールパイロット信号)のさらに高次の高調波成分が第1通信部及び第2通信部へ伝搬することを遮断することにより、矩形波信号の歪みが大きくなることを防止することができ、コントロールパイロット線にコントロールパイロット通信回路以外の通信回路を接続した場合でも、出力回路と入力回路との間の信号の送受信を一層確実に行うことができる。
【0020】
第3発明にあっては、第1及び第2直列共振回路は、1.75MHz〜1.8MHzの通過帯域を有する。直列共振回路の共振周波数を設定するためには、キャパシタ、インダクタの値を通過帯域に合わせて任意に設定することができる。しかし、コントロールパイロット線に通信回路を接続する場合には、キャパシタ、インダクタを任意の値としたときに、コントロールパイロット信号の歪が生じる。そこで、直列共振回路のキャパシタの値を所定値(例えば、1nF)以下に固定した上で、所要の共振周波数(通過帯域)が得られるように直列共振回路のインダクタの値を設定することにより、共振周波数をシフトさせ、所要の1.75MHz〜1.8MHzの通過帯域を実現することができる。
【0021】
第4発明にあっては、矩形波信号を通過させるローパスフィルタを、第2通信部の接続位置と入力回路との間に設ける。これにより、入力回路において、矩形波信号の読取誤差を防止し、波形の鈍りを改善することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、コントロールパイロット線にコントロールパイロット通信回路以外の通信回路を接続した場合でも、出力回路と入力回路との間のコントロールパイロット信号の送受信を確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施の形態1の通信システムの構成の一例を示すブロック図である。
【図2】入力回路で受信するコントロールパイロット信号の波形の一例を示す説明図である。
【図3】入力回路で受信するコントロールパイロット信号の波形の一例を示す説明図である。
【図4】入力回路で受信するコントロールパイロット信号の波形の一例を示す説明図である。
【図5】入力回路で受信するコントロールパイロット信号の波形の一例を示す説明図である。
【図6】コントロールパイロット信号の伝送特性の一例を示す説明図である。
【図7】コントロールパイロット信号の伝送特性の一例を示す説明図である。
【図8】通信部間の伝送特性の一例を示す説明図である。
【図9】通信部間の伝送特性の一例を示す説明図である。
【図10】実施の形態2の通信システムの構成の一例を示すブロック図である。
【図11】実施の形態3の通信システムの構成の一例を示すブロック図である。
【図12】ローパスフィルタの構成の一例を示す回路図である。
【図13】入力回路で受信するコントロールパイロット信号の波形の一例を示す説明図である。
【図14】コントロールパイロット信号の伝送特性の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(実施の形態1)
以下、本発明に係る通信システムの実施の形態を示す図面に基づいて説明する。図1は実施の形態1の通信システムの構成の一例を示すブロック図である。図1に示すように、電気自動車又はハイブリッド自動車などの車両と給電装置とは、インレット5(「給電口」、「コネクタ」とも称する)を介して電気的に接続される。給電装置はAC電源6を備える。AC電源6は、電源線1(ACL)、電源線2(ACN)を通じて車両の充電器7に電気的に接続される。充電器7には、バッテリ(二次電池)8を接続してある。
【0025】
これにより、給電装置からの充電ケーブルに接続されたプラグ(不図示)をインレット5に接続することにより、AC電力を車両へ供給することができ、車両に搭載されたバッテリ8を充電することができる。
【0026】
本実施の形態の通信システムは、給電装置に設けられた通信装置10、車両に設けられた通信装置50などを備える。
【0027】
通信装置10は、所定の周波数の矩形波信号(「コントロールパイロット信号」とも称する)を出力する出力回路20、第1通信部としてコントロールパイロット通信以外の通信を行うための通信部30、直列共振回路31などを備える。
【0028】
通信装置50は、コントロールパイロット信号が入力される入力回路60、第2通信部としてコントロールパイロット通信以外の通信を行うための通信部70、直列共振回路71などを備える。
【0029】
出力回路20は、矩形波信号(コントロールパイロット信号)を生成する電圧発生源21、抵抗22、キャパシタ23、マイコン24、バッファ25などを備える。電圧発生源21は、例えば、周波数が1kHzであって、ピーク値が±12Vの矩形波信号(コントロールパイロット信号)を生成する。コントロールパイロット信号のデューティ比は、例えば、20%であるが、これに限定されるものではない。矩形波信号は、デューティ比が0から100%まで変更可能な信号であり、例えば、±12Vの一定電圧も含む。出力回路20は、抵抗22を介して車両に設けられた入力回路60へコントロールパイロット信号を送出する。
【0030】
キャパシタ23は、例えば、出力回路20で発生するノイズを低減するために設けられている。抵抗22の値は、例えば、1.0kΩ、キャパシタ23のキャパシタンスは、例えば、2.2nFであるが、数値はこれらに限定されるものではない。
【0031】
バッファ25は、出力回路20の出力電圧を検出する電圧検出部としての機能を有し、キャパシタ23の両端電圧を検出し、検出結果をマイコン24へ出力する。
【0032】
マイコン24は、電圧発生源21で生成する矩形波信号を調整する調整部としての機能を有する。これにより、出力回路20は、±12Vの一定電圧、及び任意のデューティ比(0より大きく、100より小さい)であって波高値が±12Vの矩形波信号(コントロールパイロット信号)を出力することができる。
【0033】
入力回路60は、キャパシタ61、ダイオード62、バッファ63、マイコン64、抵抗部65などを備える。バッファ63は、抵抗部65の両端電圧Voutを検出してマイコン64へ出力する。なお、抵抗部65の両端電圧に代えて、キャパシタ61の両端の電圧を検出してもよい。
【0034】
抵抗部65は、複数の抵抗及び開閉スイッチなどを備え、マイコン64からの信号により開閉スイッチを開閉することにより、抵抗値を変化させる(調整する)ことができる。
【0035】
マイコン64は、抵抗部65の電圧Voutを変化させるため、抵抗部65の抵抗値を調整する調整部としての機能を有する。すなわち、マイコン64は、車両の状態(例えば、充電に関連する状態)に応じて電圧Voutを変化させるため、抵抗部65の抵抗値を変化させる。電圧Voutの値に応じて、給電装置と車両とは、充電に関連する状態を検出することができる。
【0036】
例えば、電圧Voutが12Vである場合は、車両の充電プラグが未接続である状態を示す。また、電圧Voutが9Vである場合は、抵抗部65の抵抗値は2.74kΩに設定され、車両の充電プラグが接続され、充電待ちの状態を示す。また、電圧Voutが6Vである場合は、抵抗部65の抵抗値は882Ωに設定され、充電中の状態を示す。また、電圧Voutが3Vである場合は、抵抗部65の抵抗値は246Ωに設定され、充電中であって充電場所を換気する必要がある状態であることを示す。
【0037】
キャパシタ61は、例えば、入力回路60に侵入するノイズを低減するために設けられている。抵抗部65の抵抗値は、例えば、2.74kΩ、882Ω、246Ω程度であり、キャパシタ61のキャパシタンスは、例えば、1.8nFであるが、数値はこれらに限定されるものではない。
【0038】
出力回路20と入力回路60とは、複数の信号線(コントロールパイロット線4、接地線3)を介して電気的に接続されている。なお、接地線3もコントロールパイロット線であるとみなすことができる。
【0039】
通信部30及び通信部70は、出力回路20と入力回路60との間に設けられた複数の信号線(コントロールパイロット線4、接地線3)に所要の通信帯域の通信信号を重畳させることにより通信を行う。通信部30及び通信部70の間で送受信される情報は、例えば、車両IDに関するもの、充電制御(充電の開始または終了など)に関するもの、充電量の管理(急速充電、充電量の通知など)に関するもの、課金の管理などに関するもの、ナビゲーションの更新に関するもの等、コントロールパイロット信号による情報より多様性に富んでいる。
【0040】
通信部30及び通信部70は、例えば、FSK(Frequency Shift Keying:周波数偏移変調)方式を利用した変調回路、復調回路などを備える。通信部30及び通信部70が行う通信の通信帯域は、例えば、1.75MHz〜1.8MHzである。
【0041】
出力回路20の出力側のコントロールパイロット線4と接地線3との間に、直列共振回路31と通信部30との直列回路を接続してあり、通信部30は、直列共振回路31を介して通信信号をコントロールパイロット線4に重畳させるとともに、コントロールパイロット線4上の通信信号を受信する。
【0042】
入力回路60の入力側のコントロールパイロット線4と接地線3との間に、直列共振回路71と通信部70との直列回路を接続してあり、通信部70は、直列共振回路71を介して通信信号をコントロールパイロット線4に重畳させるとともに、コントロールパイロット線4上の通信信号を受信する。
【0043】
すなわち、通信部30及び通信部70は、直列共振回路31、71を介して直接信号線間に接続され、信号線に通信信号を重畳させることにより通信を行う。このような、変圧器を用いない方式を直接方式あるいはキャパシティブ方式と称することができる。
【0044】
直列共振回路31は、抵抗311、キャパシタ312、インダクタ313の直列回路である。同様に、直列共振回路71は、抵抗711、キャパシタ712、インダクタ713の直列回路である。キャパシタ312、712、インダクタ313、713の各値は、直列共振回路の共振周波数が通信部30及び通信部70の通信帯域と合致するように、設定することができる。なお、キャパシタ312、712、インダクタ313、713の各値の設定方法は後述する。
【0045】
直列共振回路31、71は、出力回路20が生成する所定の矩形波の周波数を基本波とした第9高調波以上の高調波を遮断する。所定の矩形波の周波数は、例えば、1kHzである。これにより、出力回路20が生成する所定の周波数の矩形波信号(コントロールパイロット信号)の高調波成分が通信部30、70へ伝搬することを防止して、矩形波信号が歪むことを防止することができ、コントロールパイロット線にコントロールパイロット通信回路以外の通信回路を接続した場合でも、出力回路20と入力回路60との間の信号の送受信を確実に行うことができる。
【0046】
さらに、直列共振回路31、71で出力回路20が生成する所定の矩形波の周波数を基本波とした第15高調波以上の高調波を遮断するようにしてもよい。これにより、出力回路20が生成する所定の周波数の矩形波信号(コントロールパイロット信号)のさらに高次の高調波成分が通信部30、70へ伝搬することを遮断することにより、矩形波信号が歪むことを防止することができ、コントロールパイロット線にコントロールパイロット通信回路以外の通信回路を接続した場合でも、出力回路20と入力回路60との間の信号の送受信を一層確実に行うことができる。
【0047】
図2ないし図5は入力回路60で受信するコントロールパイロット信号の波形の一例を示す説明図である。図中、横軸は時間を示し、縦軸は電圧を示す。当該電圧は、図1で例示する電圧Voutである。
【0048】
図2の例は、直列共振回路31、71のキャパシタ312、712のキャパシタンスCpが8.2nFである場合を示し、入力回路60で受信するコントロールパイロット信号の立ち上がり時間Tr(電圧が10%から90%に到達するまでの時間)が40μsとなっている。この場合、入力回路60で受信するコントロールパイロット信号には、歪が生じているので、出力回路20と入力回路60との間の信号の送受信ができない確率が高くなる。
【0049】
図3の例は、直列共振回路31、71のキャパシタ312、712のキャパシタンスCpが1.0nFである場合を示し、入力回路60で受信するコントロールパイロット信号の立ち上がり時間Trが14μsとなっている。この場合、入力回路60で受信するコントロールパイロット信号には、歪が低減され、出力回路20と入力回路60との間の信号の送受信を確実に行うことができる。
【0050】
図4の例は、直列共振回路31、71のキャパシタ312、712のキャパシタンスCpが0.1nFである場合を示し、入力回路60で受信するコントロールパイロット信号の立ち上がり時間Trが10μsとなっている。この場合も、入力回路60で受信するコントロールパイロット信号には、歪が低減され、出力回路20と入力回路60との間の信号の送受信を確実に行うことができる。
【0051】
図5の例は、直列共振回路31、71、通信部30、70を具備しない場合を示し、入力回路60で受信するコントロールパイロット信号の立ち上がり時間Trが10μsとなっている。直列共振回路31、71、通信部30、70を具備しないにもかかわらず、立ち上がり時間Trが10μsとなるのは、出力回路20、信号線3、4及び入力回路60間に存在する浮遊容量などの影響であるが、実用上問題はない。
【0052】
上述のように、直列共振回路31、71のキャパシタ312、712のキャパシタンスCpを所定値(例えば、1nF)以下にすることにより、入力回路60で受信するコントロールパイロット信号の歪を実用上問題ないレベルにまで小さくすることができる。
【0053】
直列共振回路31、71のキャパシタ312、712のキャパシタンスCpを大きくした場合(例えば、8.2nFなど)、高周波(例えば、矩形波信号の周波数の高調波成分)に対するインピーダンスが小さくなり、出力回路20が生成する矩形波信号が通信部30、70へ伝搬するため、矩形波信号が歪む。キャパシタ312、712のキャパシタンスCpを小さく(例えば、1nF以下)することにより、矩形波信号が通信部30、70へ伝搬することを防止し、矩形波信号の歪みが大きくなることを防止することができる。
【0054】
直列共振回路31、71は、通信部30、70の通信帯域に合致するように、1.75MHz〜1.8MHzの通過帯域を有する。直列共振回路31、71の共振周波数を設定するためには、キャパシタ、インダクタの値を通過帯域に合わせて任意に設定することができる。しかし、コントロールパイロット線に通信回路を接続する場合には、キャパシタ、インダクタを任意の値としたときに、コントロールパイロット信号の歪が生じる。すなわち、従来の技術では、所望の共振周波数を得るためのキャパシタ、インダクタの値の組み合わせを選択することはできたとしても、所望の共振周波数を得た上で、コントロールパイロット信号の歪みが大きくなることを防止するためには、どのような値を採用すればよいかは不明であった。
【0055】
そこで、直列共振回路31、71のキャパシタ312、712のキャパシタンスCpを所定値(例えば、1nF)以下に固定した上で、所要の共振周波数(通過帯域)が得られるように直列共振回路31、71のインダクタ313、713のインダクタンスLpを設定することにより、コントロールパイロット信号の歪を防止しつつ、共振周波数をシフトさせ、所要の1.75MHz〜1.8MHzの通過帯域を実現することができる。なお、キャパシタ312、712のキャパシタンスCpの所定値は、1nFに限定されるものではない。
【0056】
図6及び図7はコントロールパイロット信号の伝送特性の一例を示す説明図である。図6及び図7において、横軸は周波数を示し、縦軸は電圧を示す。当該電圧は、図1で例示する電圧Voutである。
【0057】
図6の例は、直列共振回路31、71のキャパシタ312、712のキャパシタンスCpが8.2nFであり、インダクタ313、713のインダクタンスLpが1.0μHであり、図2の例に対応するものである。図6に示すように、電圧Voutが、3dB減少する周波数は、約9kHzである。
【0058】
図7の例は、直列共振回路31、71のキャパシタ312、712のキャパシタンスCpが1.0nFであり、インダクタ313、713のインダクタンスLpが8.2μHであり、図3の例に対応するものである。図7に示すように、電圧Voutが、3dB減少する周波数は、約30kHzである。
【0059】
図6及び図7から分かるように、直列共振回路31、71のキャパシタ312、712のキャパシタンスCpを小さくすることにより、低周波でのインピーダンスが高くなり、コントロールパイロット信号の高調波成分が通信部30、70(ECU等も含む)に流れることを防止することができ、その結果、コントロールパイロット信号の歪あるいは立ち上がりの鈍り、立ち下がりの鈍りを防止することができる。
【0060】
図8及び図9は通信部30、70間の伝送特性の一例を示す説明図である。図8及び図9において、横軸は周波数を示し、縦軸は通信部30、70の間のコントロールパイロット線4における減衰率、すなわち伝送路減衰量(電圧低下)を示す。また、図8及び図9は、直列共振回路31、71の共振周波数を1.8MHzとした場合の伝送特性を表す。
【0061】
図8の例は、直列共振回路31、71のキャパシタ312、712のキャパシタンスCpが8.2nFであり、インダクタ313、713のインダクタンスLpが1.0μHであり、図2、図6の例に対応するものである。図8から分かるように、1.8MHz帯域付近で−8dBの伝送特性を示している。
【0062】
また、図9の例は、直列共振回路31、71のキャパシタ312、712のキャパシタンスCpが1.0nFであり、インダクタ313、713のインダクタンスLpが8.2μHであり、図3、図7の例に対応するものである。図9から分かるように、1.8MHz帯域付近で−5dBの伝送特性を示している。
【0063】
図8及び図9から分かるように、直列共振回路31、71のキャパシタ312、712のキャパシタンスCpを変化させても、伝送特性は同程度である。
【0064】
(実施の形態2)
上述の実施の形態1では、直列共振回路を用いた例を説明したが、これに限定されるものではない。
【0065】
図10は実施の形態2の通信システムの構成の一例を示すブロック図である。実施の形態1との違いは、直列共振回路31、71に代えて、カップリングキャパシタ32、72、変圧器33、73を備える点である。
【0066】
すなわち、出力回路20の出力側のコントロールパイロット線4と接地線3との間に、カップリングキャパシタ32、32及び変圧器33の直列回路を接続してあり、通信部30は、変圧器33を介して通信信号をコントロールパイロット線4に重畳させるとともに、コントロールパイロット線4上の通信信号を受信する。
【0067】
また、入力回路60の入力側のコントロールパイロット線4と接地線3との間に、カップリングキャパシタ72、72及び変圧器73の直列回路を接続してあり、通信部70は、変圧器73を介して通信信号をコントロールパイロット線4に重畳させるとともに、コントロールパイロット線4上の通信信号を受信する。
【0068】
すなわち、通信部30及び通信部70は、信号線間に変圧器33、73を接続して信号線に電圧を重畳させることにより通信を行う。このような方式を線間通信方式と称することができる。なお、実施の形態1と同様の箇所は、同一符号を付して説明を省略する。
【0069】
実施の形態2においても、カップリングキャパシタ32、72のキャパシタンスを所定値以下にすることにより、実施の形態1と同様に、コントロールパイロット信号の歪又は立ち上がりの鈍りを防止することができる。
【0070】
(実施の形態3)
実施の形態3は、実施の形態1において、コントロールパイロット線にローパスフィルタを介装させる構成である。なお、以降の説明において、実施の形態1と同様の構成については実施の形態1と同様の符号を付し、実施の形態1を参照するものとし、その詳細な説明を省略する。
【0071】
図11は実施の形態3の通信システムの構成の一例を示すブロック図である。実施の形態3は、入力回路50に接続するコントロールパイロット線4にローパスフィルタ90を介装させる構成である。ローパスフィルタ90は、通信部70の接続位置と入力回路50との間に位置し、所定の周波数より低周波の信号、即ちコントロールパイロット信号等の所定の周波数の矩形波信号を通過させる。また、1.75MHz〜1.8MHz等の帯域の通信信号に対してはハイインピーダンスとなるため、通信信号を遮断する遮断手段としても機能する。
【0072】
図12はローパスフィルタの構成の一例を示す回路図である。ローパスフィルタ90は、図12に示すように、例えば、インダクタンスが1.5mHであるコイル及び1.0kΩの抵抗を並列に配置した回路として構成される。
【0073】
図13は入力回路60で受信するコントロールパイロット信号の波形の一例を示す説明図である。図中、横軸は時間を示し、縦軸は電圧を示す。当該電圧は、実施の形態1に係る図1で例示する電圧Voutである。
【0074】
図13において、実線は、ローパスフィルタ90を設けた場合の波形を示し、破線は、ローパスフィルタ90を設けない場合の波形を比較用に示している。図13に示すように、ローパスフィルタ90を設けることにより、コントロールパイロット信号の鈍りが改善されていることが明らかであり、これにより読取誤差の抑制等の効果が見込める。
【0075】
図14はコントロールパイロット信号の伝送特性の一例を示す説明図である。図14において、横軸は周波数を示し、縦軸は電圧を示す。当該電圧は、実施の形態1で例示する電圧Voutである。
【0076】
図14において、実線は、ローパスフィルタ90を設けた場合の波形を示し、破線は、ローパスフィルタ90を設けない場合の波形を比較用に示している。図14に示すように、ローパスフィルタ90を設けることにより、200kHz以上の周波数帯で減衰が大きく、通信信号が混入することを防止していることが読み取れる。通信信号の混入を防止することにより、読取誤差の抑制等の効果が見込まれる。
【0077】
実施の形態3では、コントロールパイロット線にローパスフィルタを介装する構成を示したが、本発明は、これに限らず、接地線にローパスフィルタを介装するようにしても良く、更には、コントロールパイロット線及び接地線の双方にローパスフィルタを介装するようにしても良い。
【0078】
また、車両側だけでなく、給電装置側のコントロールパイロット線或いは接地線、又は双方にローパスフィルタを介装するようにしても良い。
【0079】
開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0080】
3 接地線(コントロールパイロット線)
4 コントロールパイロット線
10、50 通信装置
20 出力回路
21 電圧発生源
22 抵抗
23 キャパシタ
24 マイコン
25 バッファ
30、70 通信部
31、71 直列共振回路
311、711 抵抗
312、712 キャパシタ
313、713 インダクタ
32、72 カップリングキャパシタ
33、73 変圧器
60 入力回路
61 キャパシタ
62 ダイオード
63 バッファ
64 マイコン
65 抵抗部
90 ローパスフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に給電する給電装置に設けられ、所定の周波数の矩形波信号を出力する出力回路と、前記車両に設けられ、前記出力回路と複数の信号線で接続され、該出力回路が出力する矩形波信号が入力される入力回路とを備え、前記信号線に通信信号を重畳させて前記車両と給電装置との間で通信を行う通信システムにおいて、
前記給電装置に設けられ、前記信号線間に第1直列共振回路を介して接続され、通信信号の送受信を行う第1通信部と、
前記車両に設けられ、前記信号線間に第2直列共振回路を介して接続され、通信信号の送受信を行う第2通信部と
を備え、
前記第1及び第2直列共振回路は、
前記所定の周波数を基本波とした第9高調波以上の高調波を遮断することを特徴とする通信システム。
【請求項2】
前記第1及び第2直列共振回路は、
前記所定の周波数を基本波とした第15高調波以上の高調波を遮断することを特徴とする請求項1に記載の通信システム。
【請求項3】
前記第1及び第2直列共振回路は、
1.75MHz〜1.8MHzの通過帯域を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の通信システム。
【請求項4】
前記車両は、
前記信号線に介装され、前記矩形波信号を通過させるローパスフィルタを更に備え、
前記ローパスフィルタは、
前記第2通信部の接続位置と入力回路との間に位置する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の通信システム。
【請求項5】
所定の周波数の矩形波信号を複数の信号線を介して出力する出力回路を備える通信装置において、
前記信号線間に直列共振回路を介して接続され、該信号線に通信信号を重畳させて通信信号の送受信を行う通信部を備え、
前記直列共振回路は、
前記所定の周波数を基本波とした第9高調波以上の高調波を遮断することを特徴とする通信装置。
【請求項6】
所定の周波数の矩形波信号を複数の信号線を介して出力する出力回路を備える通信装置において、
前記信号線間に直列共振回路を介して接続され、該信号線に通信信号を重畳させて通信信号の送受信を行う通信部を備え、
前記直列共振回路は、
前記所定の周波数を基本波とした第15高調波以上の高調波を遮断することを特徴とする通信装置。
【請求項7】
複数の信号線を介して所定の周波数の矩形波信号が入力される入力回路を備える車両において、
前記信号線間に直列共振回路を介して接続され、該信号線に通信信号を重畳させて通信信号の送受信を行う通信部を備え、
前記直列共振回路は、
前記所定の周波数を基本波とした第9高調波以上の高調波を遮断することを特徴とする通信装置。
【請求項8】
複数の信号線を介して所定の周波数の矩形波信号が入力される入力回路を備える車両において、
前記信号線間に直列共振回路を介して接続され、該信号線に通信信号を重畳させて通信信号の送受信を行う通信部を備え、
前記直列共振回路は、
前記所定の周波数を基本波とした第15高調波以上の高調波を遮断することを特徴とする通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−38760(P2013−38760A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259255(P2011−259255)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【Fターム(参考)】