説明

通信制御装置、方法及びプログラム、ノード、並びに、通信システム

【課題】他ノードとの間の通信タイミングの競合を回避し、通信遅延を低減するようにする。
【解決手段】本発明の通信制御装置は、通信システムを構成する複数のノードのそれぞれに搭載される通信制御装置において、他ノードとの間で、データ信号の発信タイミングを示すタイミング制御信号を送受信するタイミング制御信号通信手段と、シンクノードから送信される信号のホップ数に基づいて、自ノードのノード種別を決定するノード種別決定手段と、ノード種別決定手段により決定された自ノードのノード種別及びタイミング制御信号に基づいて、自ノードの通信タイミングを求める通信タイミング制御手段と、通信タイミング制御手段により決定された通信タイミングに基づいて、データ信号の送受信を行うデータ信号通信手段とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信制御装置、方法及びプログラム、ノード、並びに、通信システムに関し、例えば、センサネットワークやアドホックネットワーク、あるいはLAN(Local Area Network)に接続された複数の機器から構成されるシステム等のように、分散配置された多数のノードや移動体に設置されたノードが、相互にデータ通信を行う場合において、電波干渉等による通信データの衝突を回避する方法に適用し得るものである。
【背景技術】
【0002】
集中管理サーバを必要とせず、個々のノードが自律分散的に通信タイミングを相互調整することによって、発信衝突を回避する方法として、特許文献1〜特許文献7に開示される発明がある。
【0003】
これら方法では、各ノードが近傍ノードとの間で周期的にインパルス信号(自ノードの発信タイミングを示す制御信号)を送受信することによって通信タイミングの相互調整を行う。これにより、インパルス信号の電波到達範囲内のノード間で、1周期(インパルス信号の発信周期)の期間を相互に分割する自律的な送信時間区間の獲得を実現する。ここで、インパルス信号は、必ずしもインパルス状の波形を有する信号である必要はなく、一般的な制御信号と同様にパケット等で構成することが可能である。そこで、以下では、インパルス信号をタイミング制御信号と呼ぶ。タイミング制御信号の発信周期を、以後、単に周期と呼ぶ。各ノードが送信するタイミング制御信号の電波到達範囲は、当該ノードが通信タイミング調整を行う相互作用範囲に対応する。
【0004】
近傍ノード間におけるタイミング制御信号の送受信方法には種々の形態がある。近傍ノード間におけるタイミング制御信号の送受信方法にはいくつかの形態がある。
【0005】
第1の形態は、図2(a)に示すように、タイミング制御信号の電波到達範囲を、データ信号の電波到達範囲よりも広くし、例えば、その比を2倍程度とする。この場合、タイミング制御信号とデータ信号との送信電力比を調節することによって、電波到達範囲の比を設定する。タイミング制御信号とデータ信号との電波到達範囲の比を、このようにする理由は、隠れ端末などによる発信衝突の発生を回避するためである。
【0006】
第2の形態は、図2(b)に示すように、タイミング制御信号とデータ信号の電波到達範囲は同一(つまり、送信電力は同一)とし、他ノードから受信したタイミング制御信号に基づいて、自ノードの内部に生成した当該ノードに対する仮想位相(特許文献5に開示される技術を適用した場合)を、自ノードがタイミング制御信号を送信する際に付加する方法である。
【0007】
着目ノードからタイミング制御信号を受信したノード(図2(b)における実線の円内のノード)は、自ノードの内部に着目ノードに対する仮想位相が存在しなければ新たに仮想位相を生成し、すでに存在する場合はその値を調整する。
【0008】
生成あるいは調整された仮想位相の値は、その後、固有角振動数に相当する一定の速度で変化する。そして、自ノードがタイミング制御信号を送信する際に、現時刻における着目ノードに対する仮想位相の値を付加して送信する。このようにすることで、着目ノードの位相情報が1ホップ先のノード(図2(b)における実線の円内のノード)を介して間接的に2ホップ先(図2(b)において、点線の円内のノードで実線の円内に含まれないもの)のノードに伝えられる。
【0009】
上記では、着目ノードの位相情報が2ホップ先のノードに間接的に伝えられる仕組みについて説明したが、すべてのノードの位相情報が同様にして2ホップ先のノードに伝えられる。したがって、通信タイミング調整における相互作用範囲は、各ノードの2ホップ近傍範囲となる。
【0010】
【特許文献1】特開2005−094663号公報
【特許文献2】特開2006−74617号公報
【特許文献3】特開2006−74619号公報
【特許文献4】特開2006−157438号公報
【特許文献5】特開2006−157441号公報
【特許文献6】特開2006−211585号公報
【特許文献7】特開2006−211564号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の特許文献1〜特許文献7に開示される通信タイミング制御方法を用いた場合、一般に、周期内における各ノードの送信順序が発信衝突回避という条件下でランダムに決定されるため、一般に通信遅延が大きくなることがある。
【0012】
ところで、各ノードの獲得する送信時間区間の順序をデータ信号の送信経路に依存させて決定する通信タイミング制御方法も提案されており、この方法により通信遅延を低減することが期待できる。
【0013】
しかしながら、一般に、ノードをメッシュ状に分散配置して構成されるネットワークでは、送信先ノードが同一である複数のノード間の競合や、異なる送信経路に属するノード間の競合など、送信順序を決定する際に発生する種々の競合を回避する必要がある。
【0014】
ここで、ノード間の競合とは、送信時間区間(送信タイミング)の重複をいう。送信経路に依存して送信順序を決定する際、「ノード間の競合をどのように回避するか」ということが、通信遅延に大きく影響する。
【0015】
上記提案する通信タイミング制御方法は、近傍ノード間の位相差のみに着目する方法であるため、必ずしも通信遅延を抑制するような競合回避が行なわれず、十分な低遅延化効果を得ることができない。すなわち、ノード間の競合を回避するために、しばしば通信遅延の大きな送信順序になることがある。
【0016】
そのため、ノード間の通信タイミングの競合を回避して通信遅延を低減できる通信制御装置、方法及びプログラム、ノード、並びに、通信システムが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
かかる課題を解決するために、第1の本発明の通信制御装置は、通信システムを構成する複数のノードのそれぞれに搭載される通信制御装置において、(1)他ノードとの間で、データ信号の発信タイミングを示すタイミング制御信号を送受信するタイミング制御信号通信手段と、(2)シンクノードから送信される信号のホップ数に基づいて、自ノードのノード種別を決定するノード種別決定手段と、(3)ノード種別決定手段により決定された自ノードのノード種別及びタイミング制御信号に基づいて、自ノードの通信タイミングを求める通信タイミング制御手段と、(4)通信タイミング制御手段により決定された通信タイミングに基づいて、データ信号の送受信を行うデータ信号通信手段とを備えることを特徴とする。
【0018】
第2の本発明の通信制御方法は、通信システムを構成する複数のノードのそれぞれに搭載される通信制御装置の通信制御方法において、通信制御装置が、タイミング制御信号通信手段、ノード種別決定手段、通信タイミング制御手段及びデータ信号通信手段を備え、(1)タイミング制御信号通信手段が、他ノードとの間で、データ信号の発信タイミングを示すタイミング制御信号を送受信するタイミング制御信号通信工程と、(2)ノード種別決定手段が、シンクノードから送信される信号のホップ数に基づいて、自ノードのノード種別を決定するノード種別決定工程と、(3)通信タイミング制御手段が、ノード種別決定手段により決定された自ノードのノード種別及びタイミング制御信号に基づいて、自ノードの通信タイミングを求める通信タイミング制御工程と、(4)データ信号通信手段が、通信タイミング制御手段により決定された通信タイミングに基づいて、データ信号の送受信を行うデータ信号通信工程とを有することを特徴とする。
【0019】
第3の本発明の通信制御プログラムは、通信システムを構成する複数のノードのそれぞれに搭載される通信制御装置を、(1)他ノードとの間で、データ信号の発信タイミングを示すタイミング制御信号を送受信するタイミング制御信号通信手段、(2)シンクノードから送信される信号のホップ数に基づいて、自ノードのノード種別を決定するノード種別決定手段、(3)ノード種別決定手段により決定された自ノードのノード種別及びタイミング制御信号に基づいて、自ノードの通信タイミングを求める通信タイミング制御手段、(4)通信タイミング制御手段により決定された通信タイミングに基づいて、データ信号の送受信を行うデータ信号通信手段として機能させるものである。
【0020】
第4の本発明のノードは、第1の本発明の通信制御装置を有することを特徴とする。
【0021】
第5の本発明の通信制御システムは、第1の本発明のノードを複数有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ノード間の通信タイミングの競合を回避して、通信遅延を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
(A)第1の実施形態
以下では、本発明の通信制御装置、方法及びプログラム、ノード、並びに通信システムの第1の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0024】
第1の実施形態は、無線通信ネットワークを構成する複数のノードのそれぞれが本発明を備え、各ノードが送信経路情報に従ったタイムスロットを獲得する場合の実施形態を例示する。
【0025】
(A−1)第1の実施形態の構成
(A−1−1)ノードの内部構成
図1は、第1の実施形態の無線通信ネットワークを構成する各ノード1の内部構成を示す内部構成図である。
【0026】
図1において、第1の実施形態のノード1は、タイミング制御信号受信部11、ノード種別決定部12、通信タイミング計算部13、タイミング制御信号送信部14、データ通信部15を少なくとも有して構成される。
【0027】
第1の実施形態において、無線通信ネットワークのシンクノードからのホップ数が1であるノードを「基準ノード」と示し、それ以外のノードを「非基準ノード」と示して説明する。
【0028】
なお、基準ノード、非基準ノードの区別はネットワークでのノード配置に基づくものであり、いずれも図1に示すノード1の内部構成を備えるものである。
【0029】
基準ノードと非基準ノードとは、基本的には同じ機能を備えるものであるが、通信タイミング計算部13で実行する処理(演算処理)が異なる。
【0030】
タイミング制御信号受信部11は、近傍ノードが発信した出力タイミング制御信号を入力タイミング制御信号として受信し、受信した他ノードのタイミング制御信号を通信タイミング計算部13に与えるものである。
【0031】
ノード種別決定部12は、自ノードが基準ノードであるか又は非基準ノードであるかを判定するものである。また、ノード種別決定部12は、判定したノード種別情報を通信タイミング計算部13に与えるものである。
【0032】
ここで、ノード種別決定部12によるノード種別の決定方法としては、種々の方法を適用することができるが、第1の実施形態では次のような方法を適用するものとする。
【0033】
ノード種別決定部12は、シンクノードからのホップ数を参照して、ノード種別、すなわち自ノードが基準ノードであるか又は非基準ノードであるかを判定する。
【0034】
この場合、例えば、シンクノードが発信する制御信号をマルチホップで転送しながら転送回数をカウントして、各ノードに到達するまでのホップ数を観測することで実現できる。この制御信号は、タイミング制御信号であってもよいし、これとは異なる別の信号であってもよい。
【0035】
また、ホップ数の観測については、自ノードで観測された最小のホップ数を「自ノードからシンクノードまでのホップ数」として保持する。このような処理を事前に行うことにより、各ノードにホップ数を予め設定することができる。
【0036】
通信タイミング計算部13は、タイミング制御信号受信部11から他ノードのタイミング制御信号を受け取ると、他ノードのタイミング制御信号に基づいて、自ノードの通信タイミングを規定する位相信号を形成し、この位相信号の位相値(位相情報ともいう)タイミング制御信号送信部14に与えるものである。
【0037】
また、通信タイミング計算部13は、図1に示すように、基準ノード位相演算部131、非基準ノード位相演算部132、収束判定部133、位相演算部選択部134を少なくとも有する。
【0038】
位相演算部選択部134は、ノード種別決定部12からノード種別情報を受け取り、自ノードが基準ノードの場合には基準ノード位相演算部131による演算処理を選択し、自ノードが非基準ノードの場合には非基準ノード位相演算部132による演算処理を選択するものである。
【0039】
第1の実施形態では、各ノード1での通信タイミングの調整過程は、次の2つのフェーズからなる。すなわち、(1)基準ノード間に特定の位相関係を形成する第1フェーズと、(2)第1フェーズで形成された基準ノード間の位相関係に基づいて、非基準ノード間に位相関係を形成する第2フェーズである。
【0040】
基準ノード位相演算部131は、自ノードが基準ノードである場合に位相関係を形成する演算処理部である。また、非基準ノード位相演算部132は、自ノードが非基準ノードである場合に位相関係を形成する演算処理部である。
【0041】
収束判定部133は、基準ノード位相演算部131又は非基準ノード演算部132により演算された位相演算結果が収束したか否かを判定するものであり、収束したと判定した場合には収束フラグを「1」とし、そうでない場合には収束フラグを「0」とする。
【0042】
タイミング制御信号送信部14は、後述する通信タイミング計算部13から位相情報(位相信号の位相値)及びタイミング制御信号に付加する制御情報を受け取ると、この位相情報に基づいて、制御情報を付加した出力タイミング制御信号を送信するものである。
【0043】
データ通信部15は、自ノードにおいて送信データが発生した場合に、そのデータを出力データ信号として送信するものである。また、データ通信部15は、他ノードが送信したデータを入力データとして受信し、このデータを出力データとして送信先に送信するものである。
【0044】
(A−1−2)基準ノード位相演算部の機能構成
図5は、基準ノード位相演算部131の主な機能構成を示すブロック図である。図5に示すように、基準ノード位相演算部131の主な機能としては、仮想位相差算出部21、位相応答関数算出部22、位相シフト実行部23、位相値算出部24を有する。
【0045】
仮想位相算出部21は、自ノードの相互作用範囲内に存在する他の基準ノードの仮想位相と自ノードの位相との位相差(仮想位相差)を算出するものである。
【0046】
位相応答関数算出部22は、仮想位相差算出部21により算出された仮想位相差に応じて自ノードの振動リズムを変化させる位相応答関数を求めるものである。この位相応答関数は、自ノードの位相と他ノードの位相との間で反発特性を発現させる特性を持つものである。また、位相応答関数算出部22が求める位相応答関数の特性は、他ノードが、自ノードから1ヒップの位置に存在する場合と2ホップの位置に存在する場合とでそれぞれ異なるものである。
【0047】
位相シフト実行部23は、自ノードの位相とすべての他の基準ノードの仮想位相とを参照して、位相シフト条件を満たすか否かを判定し、その判定結果に応じて自ノードの位相をシフトさせるものである。
【0048】
位相値算出部24は、自ノードの相互作用範囲内に存在する他の基準ノードの仮想位相に基づいて自ノードの位相を求めるものである。
【0049】
(A−1−3)非基準ノード位相演算部の機能構成
図6は、非基準ノード位相演算部132の主な機能構成を示すブロック図である。図6に示すように、非基準ノード位相演算部132の主な機能は、仮想位相差算出部31、位相シフト制御部32、位相値算出部35を有する。
【0050】
仮想位相差算出部31は、自ノードの相互作用範囲内に存在する他のノードの仮想位相と自ノードの位相との位相差(仮想位相差)を算出するものである。
【0051】
位相シフト制御部32は、自ノードの相互作用範囲内のすべての他ノードに対する仮想位相と自ノードの位相に基づき、自ノードの位相シフトを制御するものである。位相シフト制御部32は、自ノードの位相収束状態に応じた位相シフトの処理を行うものとする。
【0052】
また、位相シフト制御部32は、自ノードの位相シフトする位相幅を決定する位相幅決定部321と、後述する競合解消動作実行フラグの状態に応じて自ノードの位相シフトを行う位相シフト実行部322、競合検知部323、競合解消動作実行部324を有する。
【0053】
競合検知部323は、自ノードと他ノードとの間の競合を検知するものであり、競合を検知した場合には競合検知フラグを「1」とし、そうでない場合には競合検知フラグを「0」とするものである。また、競合検知部323は、自ノードと他ノードとの間の競合が一定時間以上検知されない場合には、競合解消フラグを「1」とし、そうでない場合には競合解消フラグを「0」とするものである。
【0054】
競合解消動作実行部324は、自ノードにおける競合検知部323の競合検知フラグ及び競合解消フラグの状態に基づいて、競合解消動作を実行するか否かを決定するものである。競合解消動作実行部324は、競合検知フラグが「1」であり、かつ、競合解消フラグが「1」の場合には競合解消動作実行フラグを「1」とし、そうでない場合には競合解消動作実行フラグを「0」とする。
【0055】
位相値算出部35は、自ノードの基準ノードの収束フラグ状態と、自ノードの相互作用範囲内の他ノードの仮想位相に基づいて、自ノードの位相を算出するものである。
【0056】
(A−2)第1の実施形態の動作
次に、第1の実施形態のノードにおける通信タイミングの演算処理の動作を図面を参照して説明する。
【0057】
(A−2−1)全体動作
以下では、まず第1の実施形態の無線通信ネットワークにおける通信処理の全体的な流れについて説明する。
【0058】
(1)各ノード1では、シンクノードからのホップ数が予め分かっている。このシンクノードからのホップ数については、シンクノードが発信するタイミング制御信号と同等の信号のマルチホップ転送回数をカウントして、自ノードに到着するまでのホップ数を観測することで得られる。
【0059】
(2)各ノード1において、ノード種別決定部12は、シンクノードからのホップ数を参照して、自ノードが基準ノードであるか又は非基準ノードであるかを決定する。また、ノード種別決定部12はノード種別情報を通信タイミング計算部13に与える。なお、通信タイミング計算部13は、ノード種別情報を制御情報としてタイミング制御信号送信部14に与え、タイミング制御信号にノード種別情報を付加させるようにする。
【0060】
(3)各ノード1は、自ノードがどのノードから受信して、どのノードに送信するかということを示す情報(以後、送信経路情報と呼ぶ)を保持しているものとする。この送信経路情報は、送信元ノードと送信先ノードとが示されている情報であり、例えば、送信元ノードのノード番号と、送信先ノードのノード番号とから構成される。各ノード1は、自ノードが送信するタイミング制御信号に送信経路情報を付加して、最近接のノード間で送信経路情報が共有される。
【0061】
(4)各ノード1は、相互作用範囲内の近接ノードとの間で、1周期の期間を均等に分割する送信時間区間を獲得する形態を仮定する。この仮定により、送信時間区間に対応する送信位相区間も均等である。以後、各ノード1が獲得する送信位相区間の位相幅を1位相幅と呼ぶ。また、1位相幅のk倍(k:自然数)の位相幅をk位相幅と呼ぶ。1周期をN個(N:自然数)に均等分割する送信時間区間を仮定すれば、1位相幅=2π/Nとなり、又N位相幅=2πとなる。なお、1周期の分割数Nは、特に限定されるものではなく実験的に決定することができるものである。
【0062】
(5)通信タイミング計算部13の構成については、特許文献5に記載の仮想ノードモデル計算手段を導入した形態を仮定する。この仮想ノードモデル計算手段は、他ノードjからタイミング制御信号を受信した際、その発信元ノードに対する仮想的な位相モデル(仮想位相モデルと呼ぶ)を自ノード内部に生成する。そして、この仮想位相モデルを用いて擬似的に他ノードjの位相を算出(仮想位相と呼ぶ)し、自ノードiと他ノードjとの位相差を時間連続的に観測可能とするものである。
【0063】
(6)図1に構成を備えるノード1を空間に多数分散配置した状況で、各ノード1は、近傍ノード1間でタイミング制御信号を送受信する。ここで、タイミング制御信号の送受信方法としては、種々の方法を適用することができるが、例えば、図2(b)の形態を用いることができる。なお、図2(a)に示す形態を用いても同様の動作で同様の効果を得ることができる。
【0064】
(A−2−2)通信タイミング計算部における動作
各ノード1は、1ホップ近傍のノードとの間で、上述したタイミング制御信号の送受信方法でタイミング制御信号を送受信することにより、通信タイミングの相互調整動作を実行する。
【0065】
ここで、相互調整動作とは、例えば、特許文献1〜7に記載の相互調整動作と同様に、通信タイミング計算部13による演算結果に基づいて、自ノード1のタイミング制御信号の送信タイミングを調整することをいう。
【0066】
ただし、第1の実施形態では、通信タイミング計算部13における演算方法が特許文献1〜7の記載の方法と異なる。すなわち、自ノードが基準ノードであるか又は非基準ノードであるかに応じて通信タイミング計算部13の演算処理が異なる。
【0067】
また、自ノード1が送信するタイミング制御信号には、次に示す情報を付加する。すなわち、付加する情報は1ホップ近傍の範囲に存在する全ての他ノードに対するノード番号及び仮想位相である。従って、1ホップ近傍範囲に存在する他ノードからタイミング制御信号を受信することにより、各ノード1は間接的に2ホップ近傍範囲内の他ノードに対する位相情報を取得できる。
【0068】
通信タイミング計算部13は、タイミング制御信号の受信タイミングで得られる2ホップ近傍範囲の他ノードに対する位相情報を用いて、当該ノードに対する仮想位相モデルを生成し、以後、受信のたびにその仮想位相の値を調整する。そして、通信タイミング計算部13による演算は、2ホップ近傍範囲に存在する他ノードに対する仮想位相を用いて実行される。従って、通信タイミング調整における相互作用範囲は、各ノードの2ホップ近傍範囲となる。
【0069】
以下、基準ノード及び非基準ノードにおける通信タイミング計算部で実行される演算について説明する。
【0070】
(A−2−3)基準ノードの場合の通信タイミング計算部の演算処理
各基準ノード1、相互作用範囲内に存在する他の基準ノードの仮想位相に基づいて自ノードの位相を制御する。その際、非基準ノードの仮想位相は用いないものとする。
【0071】
基準ノードにおける基準ノード位相演算部131は、次式(1.1)及び1.2)に従って、通信タイミングの演算処理を行う。なお、式(1.1)及び(1.2)の演算式は例示するものであり、この演算式に限定されるものではない。
【0072】
(1.1),及び(1.2)式は、非線形振動子が結合した系をモデル化した数式を、本発明の目的に合わせて改良したものである。
【数1】

【0073】
ここで、変数tは時間を表し、θ(t)は時間tにおける自ノードiの位相を表す。θ(t)はmod2π(2πで割った余り)の演算を施すことにより、常に、区間0≦θ(t)<2πの値を取るものとする。
【0074】
d/dtは、時間tに関する微分演算を表す記号であり、dθ(t)/dtは、位相θ(t)を時間tで微分した状態変数を表す。
【0075】
ωは、固有角振動数パラメータであり、各ノード固有の振動リズム(振動速度)を表す。ここでは、一例として、ωの値をあらかじめ全ノード(基準ノード及び非基準ノード)で同一の値に統一しておくものとする。
【0076】
Δθ^(ハット、以下同様)ij(t)は、相互作用範囲内に存在する他の基準ノードjに対する仮想位相Δθ^ij(t)と、自ノードiの位相θ(t)との位相差である。ただし、位相差Δθ^ij(t)は、2πを加算した値にmod2π(2πで割った余り)の演算を施すことにより、便宜的に区間0≦Δθ^ij(t)<2πの値を取るものとする。
【0077】
R(Δθ^ij(t))は、位相差Δθ^ij(t)に応じて自ノードの振動リズムを変化させる応答特性を表現する位相応答関数である。第1の実施形態では、他の基準ノードjが、自ノードiから1ホップの位置に存在する場合と、2ホップの位置に存在する場合とで位相応答関数の特性が異なる。以下にその特性の差異について説明する。位相応答関数R(Δθ^ij(t))は、基本的に位相差Δθ^ij(t)が一定範囲内の値をとる場合に、他の基準ノードjの位相に対して反発特性を発現する。この反発特性の働く位相差Δθ^ij(t)の範囲が、自ノードiと他の基準ノードjとの空間的な位置関係(すなわち、他の基準ノードjが自ノードiから1ホップの位置に存在するか、それとも2ホップの位置に存在するか)によって異なる。このような特性を備える位相応答関数R(Δθ^ij(t))の具体例を以下に示す。図3は、位相応答関数R(Δθ^ij(t))の特性を示す図である。
【数2】

【0078】
ここで、
(a)他の基準ノードjが、自ノードiから2ホップの位置に存在する場合
φd=α
(b)他の基準ノードjが、自ノードiから1ホップの位置に存在する場合
φd=β
上記の位相応答関数は、自ノードiと他の基準ノードjとの位相差Δθ^ij(t)が、φd以下、あるいは2π−φd(ただし、0≦φd<2π)以上の場合、反発特性が働く。上式において、α及びβは定数パラメータであり、その値は実験的に決定する。
【0079】
このように反発特性の働く位相差Δθ^ij(t)の範囲に差異を設けるのは、次の理由による。
【0080】
自ノードiと他の基準ノードjとの空間的な位置関係によって、「自ノードiを送信先とする非基準ノード」と、「他の基準ノードjを送信先とする非基準ノード」との競合が発生する可能性は大きく異なる。他の基準ノードjが、自ノードiから2ホップの位置に存在する場合は、それぞれの基準ノードを送信先とするノードは2ホップよりも離れた位置関係となる可能性が高い。従って、それらのノード間の競合が発生する可能性は低い。
【0081】
これに対して、他の基準ノードjが、自ノードiから1ホップの位置に存在する場合は、それぞれの基準ノードを送信先とするノードは2ホップで到達可能な位置関係となる可能性が高い。従って、それらのノード間の競合が発生する可能性は高い。
【0082】
以上のことから、α<βと設定することにより、通信時間帯域を有効活用しつつ、通信遅延の抑制を図ることができる。
【0083】
なお、第1の実施形態において、位相応答関数の関数形は上記形態に限定されないことに注意されたい。上記の力学的特性を与える関数は、種々の関数形を用いて実現可能である。
【0084】
図4は、基準ノードの空間的な位置関係と、基準ノード間に形成される位相関係例を示す図である。
【0085】
図4(a)は、多数のノードが分散配置されている状況を表す。図4(a)において、基準ノードは、ノードA、B、C、Dの4個存在する。ノードAは、ノードB及びノードDから1ホップの空間的位置に存在し、また、ノードCから2ホップの空間的位置に存在する。
【0086】
図4(b)は、図4(a)の空間的位置関係にある基準ノードA、B、C、Dの間に形成される位相関係の例である。ノードAは、1ホップの位置関係にあるノードB及びノードDとは大きな位相差を形成しているのに対して、2ホップの位置関係にあるノードCとは、小さな位相差を形成している。上記の位相応答関数において、α<βと設定することにより、基準ノード間に、例えば、図4(b)のような位相関係を形成することができる。
【0087】
R(Δθ^ij(t))を含む項のM^は、自ノードiの内部に生成された「相互作用範囲内に存在する他の基準ノードjに対する仮想位相Δθ^ij(t)」の総数を表す。また、Kは結合定数パラメータを表す。結合定数パラメータKは、位相の時間発展に対するR(Δθ^ij(t))を含む項の寄与度を決定するパラメータであり、その値は実験的に決定する。
【0088】
次に右辺第3項について説明する。{Δθ^ij(t)|j}は、自ノードiの内部に生成された「相互作用範囲内に存在する他の基準ノードjに対する仮想位相Δθ^ij(t)」の集合を表し、この集合の全要素が関数S({Δθ^ij(t)|j},θ(t))の独立変数(関数への入力変数)になっていることを表している。
【0089】
関数S({Δθ^ij(t)|j},θ(t))は、自ノードiの位相θ(t)と、「相互作用範囲内に存在する他の基準ノードjに対する仮想位相θ^ij(t)」をすべて参照し、次の条件がすべて満足されるとき、自ノードiの位相をシフト(位相の順序関係を変化)させる働きをする。位相シフト先は、自ノードiから2ホップの位置に存在する他の基準ノードjの直前、あるいは直後の位相である。例えば、自ノードiから2ホップの位置に存在する他の基準ノードjの位相を基準として、1位相幅だけ先行位相、あるいは後続位相にシフトする。ただし、自ノードiから2ホップの位置に存在する他の基準ノードjが存在しない場合は、上記の位相シフトは実行しない。
【0090】
ここで、位相シフトの条件について説明する。
【0091】
<位相シフト条件>
(1)自ノードiの位相の直前及び直後の位相をとる基準ノードjが、ともに自ノードiから1ホップの位置に存在するノードである。
【0092】
(2)上記(1)において、自ノードの位相と直前及び直後の位相との位相差を、相互作用範囲内の他の基準ノードと比較する。その結果、自ノードiにおける直前あるいは直後との位相差のどちらかが最小である。
【0093】
上記のような位相シフト動作により、各基準ノードは、相互作用範囲内に存在する他の基準ノードとの間に、空間的な位置関係に応じた位相関係を形成する。それぞれの基準ノードは、この位相関係形成が収束したか否かを個別に評価し、収束状態であると判定された場合は、基準ノード収束フラグの状態を「1」とする。ただし、基準ノード収束フラグは、ネットワーク内の全ノード(基準ノード及び非基準ノード)が備え、それぞれのノードにおける初期状態は「0」とする。また、基準ノード収束フラグは、自ノードが送信するタイミング制御信号に付加する。
【0094】
上記の収束判定は、例えば、次の方法で行う。上記(1.1)式の右辺の演算結果が変化しない状態が一定時間以上持続した場合に、収束状態であると判定する。上記の一定期間は、特に限定されるものではなく実験的に決定することができる。上記(1.1)式の右辺の演算結果が一定期間変化しないということは、自ノードiの位相状態の変化率が一定期間変化しないということを意味し、振動における位相状態の変化速度が定常的になっていることを表す。
【0095】
非基準ノードは、自ノードの送信先ノードから受信したタイミング制御信号に付加された基準ノード収束フラグの状態を検出し、その結果に基づいて自ノードの基準ノード収束フラグの状態を更新する。
【0096】
従って、ある基準ノードAにおける基準ノード収束フラグの状態が「1」になると、基準ノードAを送信先とする非基準ノードXに、その情報がタイミング制御信号を介して伝播する。その後、上記の非基準ノードXを送信先とする別の非基準ノードYに、その情報がタイミング制御信号を介して伝播する。このような動作を次々に実行することにより、基準ノードにおける基準ノード収束フラグの状態が、ネットワーク内の全ノードに伝播する。その結果、各ノードは、基準ノード間に特定の位相パターンが形成されているか否か、すなわち、第1フェーズであるかあるいは第2フェーズであるかを識別することができる。
【0097】
(A−2−4)非基準ノードの場合の通信タイミング計算部の演算処理
次に、各非基準ノードは、「自ノードの基準ノード収束フラグの状態」と、「相互作用範囲内に存在する他ノード(基準ノード及び非基準ノード)の仮想位相」とに基づいて、自ノードの位相を制御する。
【0098】
非基準ノードにおける非基準ノード位相演算部132は、次式(1.6)に従って通信タイミングの演算処理を行う。
【数3】

【0099】
ここで、変数tは時間を表し、θ(t)は時刻tにおける自ノードiの位相を表す。θ(t)は、mod2π(2πで割った余り)の演算を施すことにより、常に、区間0≦θ(t)<2πの値を取るものとする。
【0100】
d/dtは、時間tに関する微分演算を表す記号であり、dθ(t)/dtは位相θ(t)を時間tで微分した状態変数を表す。
【0101】
ωは、固有角振動数パラメータであり、各ノード固有の振動リズム(振動速度)を表す。ここでは、一例として、ωの値をあらかじめ全ノード(基準ノード及び非基準ノード)で同一の値に統一しておくものと仮定する。
【0102】
次に、右辺第2項について説明する。{θ^ij(t)|j}は、自ノードiの内部に生成された「相互作用範囲内の他ノードjに対する仮想位相θ^ij(t)」の集合を表し、この集合の全要素が関数J({θ^ij(t)|j},θ(t))の独立変数(関数への入力変数)になっていることを表している。
【0103】
関数J({θ^ij(t)|j},θ(t))は、自ノードiの位相θ(t)と、相互作用範囲内のすべての他ノードjに対する仮想位相θ^ij(t)を参照し、以下に示す条件に基づいて自ノードiの位相をシフト(位相の順序関係を変化)させる働きをする関数である。関数J({θ^ij(t)|j},θ(t))は、自身の基準ノード収束フラグの状態が「1」である場合のみ機能する。
【0104】
以下に関数J({θ^ij(t)|j},θ(t))の機能を示す。
【0105】
<第1フェーズ:基準ノード収束フラグの状態が「0」である場合>
関数J({θ^ij(t)|j},θ(t))=0とする。すなわち、基準ノード間に空間的位置関係に応じた位相関係が形成されていない状態では、関数J({θ^ij(t)|j},θ(t))は機能しない。
【0106】
<第2フェーズ:基準ノード収束フラグの状態が「1」である場合>
関数J({θ^ij(t)|j},θ(t))は、競合解消動作実行フラグの状態によって動作が変化する。上記の競合解消動作実行フラグは、自ノードiと他ノードjとの競合を解消するための動作を実行するか否かを示すフラグである。
【0107】
ここで、競合とは、自ノードiが必要な送信時間区間、すなわち、それに対応する送信位相区間を獲得できていない状態である。言い換えれば、自ノードiと他ノードjのそれぞれが必要とする送信位相区間に重複(部分的重複を含む)が存在する状態である。
【0108】
例えば、自ノードiの位相が、相互作用範囲内の他ノードjの仮想位相とほぼ等しい場合は、明らかに競合である。競合解消動作実行フラグの状態は、以下に示す「競合検知処理」を実行することにより決定される。
【0109】
<競合検知処理について>
競合検知処理では、自ノードiと他ノードjとの競合を検知する。ここで、競合検知対象となる他ノードjは、以下に示すノードを除く、「自ノードiの相互作用範囲内に存在する他ノード」である。
【0110】
(1)自ノードiの送信先ノード(自ノードiが送信先とするノード)
(2)自ノードiの送信先ノードが送信先とするノード
(3)自ノードiの送信元ノード(自ノードiを送信先とするノード)
(4)自ノードiの送信元ノードを送信先とするノード。
【0111】
自ノードiと他ノードjとの競合が検知された状態が一定期間以上持続する場合、競合検知フラグの状態を「1」とする。この条件を満たさない場合、競合検知フラグの状態を「0」とする。なお、上記の一定期間は、特に限定されるものではなく、実験的に決定するものとする。
【0112】
また、自ノードiと他ノードjとの競合が一定期間以上検知されない場合、競合解消フラグの状態を「1」とする。この条件が満足されない場合、競合解消フラグの状態は「0」である。上記の一定期間は、特に限定されるものではなく実験的に決定するものとする。各ノードは、自ノードiが送信するタイミング制御信号に競合解消フラグを付加して送信するものとする。
【0113】
<競合解消動作実行フラグについて>
各ノード1は、自ノードの競合検知フラグ、送信先ノードの競合解消フラグの状態に基づいて、自ノードの競合解消動作実行フラグの状態を決定する。
【0114】
自ノードiの競合検知フラグの状態が「1」であり、かつ、送信先ノードの競合解消フラグの状態が「1」である場合、自ノードiの競合解消動作実行フラグの状態を「1」とする。
【0115】
この条件を満たされない場合、自ノードiの競合解消動作実行フラグの状態を「0」とする。又は、送信先ノードの位相シフトを検知した場合、自ノードiの競合解消動作実行フラグの状態を「0」とする。
【0116】
ここで、送信先ノードの競合解消フラグの状態は、送信先ノードからタイミング制御信号を受信することにより取得することできる。また、送信先ノードの位相シフトの検知は、種々の方法を適用することができるが、例えば次のようにして行うことができる。
【0117】
例えば、仮想ノードモデル計算手段を適用する場合、当該ノードからタイミング制御信号を受信した際に、対応する仮想位相の値を調整する。このとき、調整前と調整後との相対位相差が一定倍以上であれば、位相シフトが実行されたと判定する。この相対位相差の一定倍数値は特に限定されるものではなく実験的に決定するようにしてもよい。
【0118】
以下の説明では、自ノードiの送信先ノードを、単に、送信先ノードと呼ぶ。また、送信先ノードが自ノードiと同一である他ノードjを合流競合ノードと呼び、上記の競合検知処理により検出された自ノードiと競合する他ノードjを、単に、競合ノードと呼んで区別する。
【0119】
まず、各ノード1では、競合解消動作実行フラグの状態に基づいて以下のような処理を行う。
【0120】
(1)競合解消動作実行フラグの状態が「0」の場合
各ノード1は、合流競合ノードの有無に応じて次のような処理を行う。
【0121】
(a)合流競合ノードが存在しない場合
この場合、自ノードにおいては、送信先ノードの位相を基準として、1位相幅だけ先行位相にシフトする。
【0122】
(b)合流競合ノードが存在する場合
この場合、自ノードにおいてが、送信先ノードの位相を基準として、k位相幅だけ先行位相にシフトする。
【0123】
ここで、kの値は、次の「k位相幅の決定方法A」を適用することができる。
【0124】
「k位相幅の決定方法A」
まず、各ノード1は、合流競合ノードを送信先とする他ノードjが、自ノードiの相互作用範囲内に存在するかどうかを調べ、存在する場合に、その個数をカウントする。ただし、合流競合ノードが複数存在する場合には、上記カウント数の総和を算出する。
【0125】
以後、上記のカウント値あるいはその総和を、評価カウント値CA(iはノード番号)と呼ぶ。評価カウント値CAは、自ノードiが送信するタイミング制御信号に付加するものとする。自ノードi及び合流競合ノードは、相互に評価カウント値CAを比較し、CAの値が大きい順に、それぞれのノードがkの値を次のように決定する。
【0126】
k=1,k=2,…,k=n(nは自然数)
すなわち、合流競合ノードが(n−1)個存在し、それらのCAの値が全ての異なる場合、それぞれのノードのkの値は、CAの大きい順に決定される。ただし、評価カウント値CAの比較において、評価カウント値CAの値が同一であるノードが存在する場合は、それらのkの値を同一とする。
【0127】
例えば、合流競合ノードが1個存在し、自ノードの方が、CAの値が大きい場合、自ノードはk=1、合流競合ノードはk=2とする。また、両者のCAの値が同一である場合は、ともにk=1とする。
【0128】
(2)競合解消動作実行フラグの状態が「1」の場合
各ノード1は、送信先ノードの位相を基準として、k位相幅だけ先行位相にシフトする。ここで、kの値は、次の「k位相幅の決定方法B」に従って決定する。
【0129】
「k位相幅の決定方法B」
まず、競合ノードを送信先とする他ノードjが、自ノードiの相互作用範囲内に存在するかどうかを調べ、存在する場合、その個数をカウントする。ただし、競合ノードが複数存在する場合は、上記のカウント値の総和を算出する。
【0130】
以後、上記のカウント値あるいはその総和を、評価カウント値CBと呼ぶ。評価カウント値CBは、自ノードiが送信するタイミング制御信号に付加する。
【0131】
自ノードiは、評価カウント値CBを競合ノードと比較し、次の条件(a)及び(b)に従ってkの値を決定する。
【0132】
(a)競合ノードの中に、CBの値が自ノードiより大きいノードが、少なくとも1つ存在する場合、現在の位相を基準として、1位相幅だけ先行位相にシフトする。すなわち、現在の位相が、送信先ノードの位相を基準として、n位相幅(n:自然数)だけ先行位相に設定されている場合、送信先ノードの位相を基準として、(n+1)位相幅だけ先行位相にシフトする。kの値は、k=n+1である。
【0133】
(b)上記(a)の条件が成立せず、かつ、競合ノードの中に、CBの値が自ノードiと同一であるノードが、少なくとも1つ存在する場合
(Step1)
自ノードiは、以下に示す「競合解消仮説の評価」を行う。
【0134】
この「競合解消仮説の評価」とは、自ノードiの現在の位相を基準として、どれだけ先行位相にシフトすれば競合が解消されるかを、仮説として評価する(すなわち、競合解消の見積値を算出する)ことを指す。ただし、位相シフト量は、1位相幅の整数倍とする。
【0135】
この「競合解消仮説の評価」の具体的な処理手順としては、次の方法を適用することができる。
【0136】
例えば、自ノードiは、自ノードiの現在の位相を基準として、仮に1位相幅だけ先行位相にシフトしたら、再び競合が発生するかどうかを評価する。これは、自ノードiの位相を実際にシフトさせるのではなく、仮にシフトさせた場合の競合解消されるかどうかの評価を行うものである。この競合解消仮説の評価は、他ノードjに対する仮想位相θ^ij(t)を参照して行う。競合が解消される場合は、評価結果を「1」とする。
【0137】
一方、競合が発生する場合、自ノードiは、仮に2位相幅だけ先行位相にシフトしたら、再び競合が発生するかどうかを評価する。競合が発生しない場合は、評価結果を「2」とする。さらに、競合が発生する場合は、自ノードiは、仮に3位相幅だけ先行位相にシフトしたら、再び競合が発生するかどうかを評価する。以後、同様にして競合が解消される状態が見出されるまで処理を繰り返し、評価結果を得る。
【0138】
(Step2)
自ノードiは、Step1で取得した評価結果を競合ノードのものと比較する。
【0139】
Steplの評価結果が、自ノードiより大きいノードが、少なくとも1つ存在する場合、現在の位相を基準として、1位相幅だけ先行位相にシフトする。すなわち、現在の位相が、送信先ノードの位相を基準として、n位相幅だけ先行位相に設定されている場合、送信先ノードの位相を基準として、(n+1)位相幅だけ先行位相にシフトする。すなわち、k=n+1である。
【0140】
上記の動作を行うことにより、第1フェーズで形成された基準ノード間の位相関係に基づいて、ネットワーク内の全ノード間に、送信経路に依存した位相関係を形成させることができる。
【0141】
それぞれの非基準ノードにおいて、収束判定部133により、この位相関係形成が収束したか否かを個別に評価され、収束状態であると判定された場合、獲得した送信位相区間を用いてデータ通信を安定に行うことができると判断する。
【0142】
上記の非基準ノードの収束判定部133による収束判定は、例えば、次の方法を適用することができる。例えば、(1.6)式の右辺の演算結果が変化しない状態が一定時間以上持続した場合、収束判定部133は収束状態であると判定する。この一定時間は、特に限定されるものではなく、実験的に決定されるものである。
【0143】
上記(1.6)式の右辺の演算結果が一定時間変化しないということは、自ノードの位相状態の変化率が一定期間変化しないということを意味し、振動における位相状態の変化速度が定常的になっていることを表す。
【0144】
(A−3)第1の実施形態の効果
以上のように、第1の実施形態によれば、複数のノードがタイミング制御信号を送受信することによって、自律分散的に通信タイミングの相互調整を行うデータ通信方法において、通信タイミング計算部に次の機構を新たに導入したことにより、通信時間帯域を有効活用しつつ、通信遅延を抑制することができる。
【0145】
(1)基準ノード間に、空間的位置関係に応じた位相関係を形成する機構
(2)基準ノード間に形成された位相関係に基づいて、非基準ノード間に送信経路に依存した位相関係を形成する機構
(3)上記(2)において、非基準ノード間の位相関係を決定する際に発生する競合を、遅延が抑制されるように回避する機構
(B)他の実施形態
式(1.1)〜(1.6)で示した微分方程式の演算は、例えば、ルンゲ・クッタ法等の一般的な数値計算法を用いて、ソフトウェアとしてノード上に実装可能である。ルンゲ・クッタ法は、微分方程式を差分化(連続時間変数tを離散化)して得られる差分方程式(漸化式)を用いて状態変数の変化(時間発展)を計算する手法の1つである。また、文献2に開示される形態と同様に、ルンゲ・クッタ法よりも簡易な他の差分化方法により得られる差分方程式を用いて状態変数の変化を計算することも可能である。さらに、式(1.1)〜(1.6)と同様の動作をする電子回路を構成すれば、ハードウェアとしてノード上に実装することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0146】
【図1】第1の実施形態のノードの内部構成を示す内部構成図である。
【図2】従来のタイミング制御信号の送受信方法を説明する説明図である。
【図3】第1の実施形態のノードにおける位相応答関数の特性を説明する説明図である。
【図4】第1の実施形態の基準ノード間の位相関係を説明する説明図である。
【図5】第1の実施形態の基準ノード位相演算部の機能構成を示すブロック図である。
【図6】第1の実施形態の非基準ノード位相演算部の機能構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0147】
1…ノード、11…タイミング制御信号受信部、12…ノード種別決定部、13…通信タイミング計算部、131…基準ノード位相演算部、132…非基準ノード位相演算部、133…収束判定部、134…位相演算部選択部、14…タイミング制御信号送信部、15…データ通信部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信システムを構成する複数のノードのそれぞれに搭載される通信制御装置において、
他ノードとの間で、データ信号の発信タイミングを示すタイミング制御信号を送受信するタイミング制御信号通信手段と、
シンクノードから送信される信号のホップ数に基づいて、自ノードのノード種別を決定するノード種別決定手段と、
上記ノード種別決定手段により決定された自ノードのノード種別及び上記タイミング制御信号に基づいて、自ノードの通信タイミングを求める通信タイミング制御手段と、
上記通信タイミング制御手段により決定された通信タイミングに基づいて、データ信号の送受信を行うデータ信号通信手段と
を備えることを特徴とする通信制御装置。
【請求項2】
上記通信タイミング制御手段が、
自ノードが基準ノードである場合に自ノードの通信タイミングを求める基準ノード位相算出部と、
自ノードが非基準ノードである場合に自ノードの通信タイミングを求める非基準ノード位相算出部と、
上記ノード種別に応じて、上記基準ノード位相算出部と上記非基準ノード位相算出部とを選択する位相算出部選択部と
を有することを特徴とする請求項1に記載の通信制御装置。
【請求項3】
上記基準ノード位相算出部が、近傍に存在する他の基準ノードからの上記タイミング制御信号を用いて、自ノード内部で変化させる位相の状態に基づいて、自ノードのデータ信号の通信タイミングを求めるものであることを特徴とする請求項2に記載の通信制御装置。
【請求項4】
上記基準ノード位相算出部が、自ノードから1ホップの位置にある他の基準ノードの位相を、それ以外の他の基準ノードの位相よりも、自ノードの位相から離れるように位相位置関係を形成するものであることを特徴とする請求項2又は3に記載の通信制御装置。
【請求項5】
上記基準ノード位相算出部は、所定の位相シフト条件を満たす場合、自ノードの位相をシフトさせる位相シフト実行部を有することを特徴とする請求項4に記載の通信制御装置。
【請求項6】
上記位相シフト条件が、自ノードの位相の直前又は直後に、自ノードから1ホップの位置に存在する他の基準ノードの位相があること、かつ、この1ホップの位置に存在する他の基準ノードの位相と自ノードの位相との位相差が自ノードにおける他の位相差の最小であること、とすることを特徴とする請求項5に記載の通信制御装置。
【請求項7】
上記非基準ノード位相算出部が、自ノードの送信先とする基準ノードの通信タイミングの収束状態と、近傍に存在する他ノードからの上記タイミング制御信号とを用いて、自ノード内部で変化させる位相の状態に基づいて、自ノードのデータ信号の通信タイミングを求めるものであることを特徴とする請求項2に記載の通信制御装置。
【請求項8】
上記非基準ノード位相算出部は、自ノードの送信先とする基準ノードの通信タイミングが収束していない場合には、自ノード内部で変化させた位相の状態に基づいて自ノードの通信タイミングを求めるものであることを特徴とする請求項7に記載の通信制御装置。
【請求項9】
上記非基準ノード位相算出部は、自ノードの送信先とする基準ノードの通信タイミングが収束している場合には、自ノードと他ノードとの間で通信タイミングの競合の有無を判定し、その判定結果に応じて自ノードの位相シフトを制御する位相シフト制御部を有することを特徴とする請求項7又は8に記載の通信制御装置。
【請求項10】
上記位相シフト制御部が、
自ノードと他ノードとの間で通信タイミングの競合の有無を検知する競合検知部と、
上記競合検知部の競合検知結果に応じて競合解消動作を行うかどうかを判定する競合解消動作判定部と、
上記競合解消動作を行う際に、自ノードの相互作用範囲内に存在する他ノード数に応じて自ノードの位相のシフト幅を決定する位相幅決定部と、
上記位相幅決定部により決定されたシフト幅により自ノードの位相をシフトする位相シフト実行部と
を有することを特徴とする請求項9に記載の通信制御装置。
【請求項11】
通信システムを構成する複数のノードのそれぞれに搭載される通信制御装置の通信制御方法において、
上記通信制御装置が、タイミング制御信号通信手段、ノード種別決定手段、通信タイミング制御手段及びデータ信号通信手段を備え、
上記タイミング制御信号通信手段が、他ノードとの間で、データ信号の発信タイミングを示すタイミング制御信号を送受信するタイミング制御信号通信工程と、
上記ノード種別決定手段が、シンクノードから送信される信号のホップ数に基づいて、自ノードのノード種別を決定するノード種別決定工程と、
上記通信タイミング制御手段が、上記ノード種別決定手段により決定された自ノードのノード種別及び上記タイミング制御信号に基づいて、自ノードの通信タイミングを求める通信タイミング制御工程と、
上記データ信号通信手段が、上記通信タイミング制御手段により決定された通信タイミングに基づいて、データ信号の送受信を行うデータ信号通信工程と
を有することを特徴とする通信制御方法。
【請求項12】
通信システムを構成する複数のノードのそれぞれに搭載される通信制御装置を、
他ノードとの間で、データ信号の発信タイミングを示すタイミング制御信号を送受信するタイミング制御信号通信手段、
シンクノードから送信される信号のホップ数に基づいて、自ノードのノード種別を決定するノード種別決定手段、
上記ノード種別決定手段により決定された自ノードのノード種別及び上記タイミング制御信号に基づいて、自ノードの通信タイミングを求める通信タイミング制御手段、
上記通信タイミング制御手段により決定された通信タイミングに基づいて、データ信号の送受信を行うデータ信号通信手段
として機能させる通信制御プログラム。
【請求項13】
請求項1〜10のいずれかに記載の通信制御装置を有することを特徴とするノード。
【請求項14】
請求項13に記載のノードを複数有することを特徴とする通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−253679(P2009−253679A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−99362(P2008−99362)
【出願日】平成20年4月7日(2008.4.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度総務省戦略的情報通信研究開発推進制度「大規模ユビキタスセンサネットワークを自己組織化する相互適応通信制御方式の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】