説明

通信改善用構造

【課題】コイルアンテナを用いた無線通信において使用される部品上に磁性体を設けることによって通信を改善するとともに、磁性体を当該部品から剥がれにくくする。
【解決手段】磁性体3は、部品2の塗布面2a上に塗布面2a全体に亘って、もしくはその少なくとも一部に形成されており、磁性体3と部品2とは一体的に形成されている。磁性体3が設けられていることによって、通信妨害材料を含む部品2による通信へのノイズの影響を抑制することができる。具体的には、通信を可能にする磁界が磁性体3に集中し、部品2により磁界が減衰することなく流れることができる。これにより、通信が改善される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイルアンテナを用いた無線通信を改善するための通信改善用構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コイルアンテナを用いた電磁誘導方式による無線通信が普及している。電磁誘導方式とは、13.56MHz帯や125KHz帯に代表される周波数の電波により、コイルアンテナ−コイルアンテナ間において無線通信を行うものである。例えばアンテナ素子の近傍に金属などの通信妨害部材がある場合、通信時にアンテナ素子周囲に発生する磁界により通信妨害部材に渦電流が発生する。そして、この渦電流によって、通信時に発生する電界を相殺する方向に磁界が発生し、通信を可能にする磁界が大きく減衰する。このように、通信妨害部材によって通信が妨害されることがある。
【0003】
そこで従来、電磁干渉抑制体をアンテナ素子付近の部品に取り付けることによって、このような通信妨害部材によるノイズの影響を抑制し、通信改善を行っている。例えば特許文献1においては、コイルアンテナを含むICタグ上に、接着層を介して磁性シートが貼り付けられている。この磁性シートによって、通信を可能にする磁界が磁性体に集中し、当該通信妨害部材により磁界が減衰することなく流れるため、通信が改善する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−103691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の構成によると、ICタグと磁性シートとが接着層を介して互いに接着されているため、磁性シートがICタグから剥がれやすいという問題点があった。
【0006】
本発明の主な目的は、コイルアンテナを用いた無線通信において使用される部品上に磁性体を設けることによって通信を改善するとともに、磁性体が当該部品から剥がれにくい通信改善用構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の通信改善用構造は、コイルアンテナを用いた無線通信を改善するためのものであって、コイルアンテナを用いた無線通信において使用される部品上に設けられた磁性体を含んでおり、前記磁性体は、磁性粉、バインダーおよび溶剤を主成分とするペーストが、前記部品の少なくとも一部に直接塗布され乾燥されることによって、前記部品と一体的に形成されたものである。
【0008】
上記の構成によると、磁性体が設けられていることによって、例えばコイルアンテナの近くに金属などの通信妨害部材がある場合や当該部品自体が通信妨害部材である場合に、通信における当該通信妨害部材によるノイズの影響を抑制することができる。具体的には、通信を可能にする磁界が磁性体に集中し、当該通信妨害部材により磁界が減衰することなく流れることができる。よって、通信改善が可能である。さらに、磁性体を、部品とは別のシート状の製品としてではなく、部品に直接塗布することによって部品と一体的に形成するため、接着剤や接着シートを介さない状態で磁性体を部品に固着することが可能となる。よって、磁性体が部品から剥がれにくくなる。
【0009】
また、前記磁性体は、接着成分を含有しており、乾燥後の前記磁性体の引張強さが7MN/m以上であり、且つ前記部品との剥離力が98N/25mm幅以上であることが好ましい。
【0010】
上記構成によると、磁性体が接着成分を含有していることによって、磁性体と部品とを接着させるための接着剤や接着シートを設ける必要がない。よって、接着剤や接着シートを設ける煩雑な作業を不要にできるとともに、磁性体が部品から剥がれにくくなる。また、乾燥後の磁性体の引張強さが大きく部品との剥離力が大きいことによって、磁性体が部品からより剥がれにくい。
【0011】
また、乾燥後の前記磁性体の表面粗さが20μm厚以下であることが好ましい。
【0012】
本発明の他の通信改善用構造は、コイルアンテナを用いた無線通信を改善するためのものであって、コイルアンテナを用いた無線通信において使用される部品上に設けられた磁性体を含んでおり、前記磁性体は、磁性粉粒子を前記部品の少なくとも一部に直接堆積させることによって、前記部品と一体的に形成されたものである。
【0013】
上記構成によると、磁性体が設けられていることによって、例えばコイルアンテナの近くに金属などの通信妨害部材がある場合や当該部品自体が通信妨害部材である場合に、通信における当該通信妨害部材によるノイズの影響を抑制することができる。具体的には、通信に必要である磁束が磁性体に集中し、当該通信妨害部材により磁束が減衰することなく流れることができる。よって、通信改善が可能である。さらに、磁性体を、磁性粉末を直接部品上に堆積させることによって部品と一体的に形成するため、バインダーや残留溶剤のない状態で磁性体を部品に固着することが可能となる。よって、磁性体が部品からより剥がれにくくなる。また、強固に固着された磁性体によると、部品が高温に長時間晒される環境に於いてもバインダーの劣化や残留溶剤の飛散による発泡化などが生じず、長期高温安定性やヒートサイクル試験の耐性が得られる。また磁性体はキュリー温度までは安定した磁気特性を発現することになる。
【0014】
また、前記磁性体は、接着成分を含有しており、前記磁性体の引張強さが7MN/m以上であり、且つ前記部品との剥離力が98N/25mm幅以上であることが好ましい。
【0015】
上記の構成によると、磁性体が接着成分を含有していること、または堆積により固着させることによって、磁性体と部品とを接着させるための接着剤や接着シートを設ける必要がない。よって、接着剤や接着シートを設ける煩雑な作業を不要にできるとともに、磁性体が部品から剥がれにくくなる。また、磁性体の引張強さが大きく部品との剥離力が大きいことによって、磁性体が部品からより剥がれにくい。
【0016】
また本発明の通信改善用構造は、前記磁性体に対して前記部品側とは反対側に設けられたアンテナ素子を含んでいてもよい。
【0017】
上記の構成によると、磁性体が設けられていることによって、通信を可能にする磁界が通信妨害部材により減衰しアンテナ素子を貫通しなくなる事態を防止することができる。よって、通信改善が可能である。
【0018】
また本発明の通信改善用構造は、前記磁性体と前記アンテナ素子との間に設けられた非磁性の絶縁層を含んでいてもよい。
【0019】
上記構成によると、絶縁層を設けることによって、アンテナ素子と磁性体との距離を適宜調整することができる。当該距離が適宜設定されることにより、より大幅な通信改善が可能な場合がある。また、絶縁層によって当該距離を調整するだけで通信改善が可能な場合があるため、例えばさらなる通信改善のために磁性体の材料を変更したりする必要がない。よって、このような煩雑な作業を不要にできる。
【0020】
また本発明の通信改善用構造は、前記磁性体の少なくとも一部を覆う耐熱性樹脂被覆層を含んでいることが好ましい。
【0021】
上記構成によると、耐熱性樹脂被覆層が設けられていることによって、磁性体の耐熱性が向上するとともに磁性体の劣化を抑制することができる。
【0022】
本発明の機器または部材は、上記に記載の通信改善用構造を用いたものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係る通信改善構造を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0025】
図1には、コイルアンテナ1、部品2、及び、磁性体3、樹脂被覆層4、及び、絶縁層5が示されている。コイルアンテナ1の近傍に部品2が配置されており、これらの間に磁性体3、樹脂被覆層4、及び、絶縁層5が位置する。また、コイルアンテナ1と絶縁層5とは互いに隣接している。
【0026】
コイルアンテナ1は、図示しないもう1つのコイルアンテナとともに、無線通信を可能にする。具体的には、コイルアンテナ1ともう1つのコイルアンテナとの間を磁界が貫通することによって、無線通信が可能となる。
【0027】
このような無線通信において使用される部品2は、通信妨害材料の一例である導電性材料を含んでいる。導電性材料とは、例えば、金属、Si系材料、黒鉛シートなどの炭素系材料、ITOやZnOなどの酸化物、及び、水などの液体であって、コイルアンテナとの間で高周波数的に短絡を引き起こす可能性のあるレベルの導電率を有する材料である。従って、通信時にコイルアンテナ1の周囲に発生する磁界により部品2に渦電流が発生し、この渦電流によって、通信時に発生する電界を相殺する方向に磁界が発生し、通信を可能にする磁界が大きく減衰する可能性がある。その他、電磁ノイズ発生源も通信妨害材料となる。デバイスから直接発振する電磁ノイズや回路、ケーブルなどから発生するノイズも無線通信周波数に重なり、無線通信を妨害することがある。しかしながら後述するように、磁性体3が設けられていることによって、このような磁界の減衰が抑制される。
【0028】
また部品2は、コイルアンテナ1に対向した面であって後述の磁性体3が形成された塗布面2aを有する。
【0029】
磁性体3は、部品2の塗布面2a上に塗布面2a全体に亘って、もしくはその少なくとも一部に形成されており、後述するように、磁性体3と部品2とは一体的に形成されている。磁性体3が設けられていることによって、通信妨害材料を含む部品2による通信へのノイズの影響を抑制することができる。具体的には、通信を可能にする磁界が磁性体3に集中し、部品2により磁界が減衰することなく流れることができる。これにより、通信が改善される。
【0030】
また、部品2自体が通信妨害材料を含んでおらず、部品2の近傍、即ち、コイルアンテナ1の近傍に通信妨害材料を含む部材がある場合であっても、磁性体3による上記効果が得られる。
【0031】
磁性体3は、接着成分を含有しており、引張強さは7MN/m以上であり、部品2との剥離力は98N/25mm幅以上である。また、磁性体3の表面粗さは20μm厚以下である。このように、磁性体3は、部品2と一体的に形成されており、且つ、高い引張強さ及び剥離力を有しているため、部品2から剥がれにくい。
【0032】
樹脂被覆層4は、磁性体3の表面全体、もしくは少なくとも一部を覆うように設けられた耐熱性を有する層である。樹脂被覆層4によって、磁性体3の耐熱性が向上するとともに磁性体の劣化を抑制することができる。
【0033】
絶縁層5は、非磁性の層であって、樹脂被覆層4に覆われた磁性体3とコイルアンテナ1との間に介在している。絶縁層5が介在していることによって、コイルアンテナ1と磁性体3との距離が適切に設定されており、これにより、より大幅に通信が改善される。即ち、磁性体3とコイルアンテナ1との距離によって通信がより改善される場合には、絶縁層5の厚みを適宜調整することによって当該距離を適宜設定可能である。
【0034】
次に、部品2上に磁性体3を形成する過程について説明する。まず、バインダーとなる樹脂などを適当な溶剤に溶解させ、磁性粉、および、難燃剤などの機能性添加剤などを添加し、攪拌機などの混合装置にて均一な塗液を作製する。
【0035】
添加剤の例としては、難燃剤だけでなく、架橋剤、硬化剤、分散剤、放熱性フィラー、沈降防止剤、防さび剤、消泡剤などの磁性体3に必要とされる機能を持ったものが挙げられる。
【0036】
攪拌機の種類は特に限定されないが、脱泡可能な機構を持ったものが望ましい。
【0037】
得られた均一な塗液を、部品2の塗布面2a上に塗布する方法は、部品形状、使用方法によって適当な方法を選択することができる。具体的には、ディスペンサーを用いた塗布、ディッピングによる塗布、スプレーコート、グラビアコート、スクリーン印刷などが挙げられるが、塗布方法はこれらに限定されない。
【0038】
塗液の塗布後、それを乾燥させ溶剤を揮発させることで磁性体3が形成される。塗液の乾燥方法としては、自然乾燥、熱風乾燥、遠赤外線乾燥などが挙げられる。
【0039】
磁性体3に耐熱性を付与するために、架橋、硬化工程が必要な場合は、UV照射、焼成を行う場合もある。
【0040】
このように、本発明によると、磁性体3が設けられていることによって、通信妨害材料を含む部品2による通信ノイズの影響を抑制することができる。具体的には、通信に必要である磁束が磁性体3に集中し、部品2により磁束が減衰することなく流れることができる。よって、通信改善が可能である。さらに、磁性体3を、部品2とは別のシート状の製品としてではなく、部品2に直接塗布することによって部品2と一体的に形成するため、接着剤や接着シートを介さない状態で磁性体3を部品2に固着することが可能となる。よって、磁性体3が部品2から剥がれにくくなる。
【0041】
また、磁性体3が接着成分を含有していることによって、磁性体3と部品2とを接着させるための接着剤や接着シートを設ける必要がない。よって、接着剤や接着シートを設ける煩雑な作業を不要にできるとともに、磁性体3が部品2から剥がれにくくなる。また、磁性体3の引張強さが大きく部品2との剥離力が大きいことによって、磁性体3が部品2からより剥がれにくい。
【0042】
また、磁性体3が設けられていることによって、通信に必要である磁束が部品2により減衰しコイルアンテナ1を貫通しなくなる事態を防止することができる。よって、通信改善が可能である。
【0043】
絶縁層5を設けることによって、コイルアンテナ1と磁性体3との距離を適宜調整することができる。当該距離が適宜設定されることにより、より大幅な通信改善が可能な場合がある。また、絶縁層5によって当該距離を調整するだけで通信改善が可能な場合があるため、例えばさらなる通信改善のために磁性体3の材料を変更したりする必要がない。よって、このような煩雑な作業を不要にできる。
【0044】
耐熱性を有する樹脂被覆層4が設けられていることによって、磁性体3の耐熱性が向上するとともに磁性体3の劣化を抑制することができる。
【0045】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。
【0046】
例えば、部品2上に磁性体3を形成する方法は上述のものに限られない。例えば、磁性体3は、磁性粉末を部品2の少なくとも一部に直接堆積させることにより形成してもよい。堆積方法は、メッキや蒸着によるものなどがあるが、好適なのはエアロゾルデポジッション法である。この方法は1μm程度の粒径を有す磁性粒子(例えばフェライト粉末)を窒素や空気により、臨界粒子速度と呼ばれる高速(例えば400m/s)で被着物質に衝突させ、そのエネルギーを利用して被着物質に堆積するものである。その特徴は、真空レベルまでの減圧が不要であることと高温処理とならず樹脂やゴムにも表面処理ができることである。たとえば、PPS樹脂やアルミなどからなる部品2にこの方法で磁性体3を堆積すれば、耐熱性に優れて、緻密で高性能な磁気特性を付与することができる。
【0047】
この方法によると、磁性体3を、磁性粉末を直接部品2上に堆積させることによって部品2と一体的に形成するため、バインダーや残留溶剤のない状態で磁性体3を部品2に固着することが可能となる。よって、磁性体3が部品2からより剥がれにくくなる。また、強固に固着された磁性体3によると、部品2が高温に長時間晒される環境に於いてもバインダーの劣化や残留溶剤の飛散による発泡化などが生じず、長期高温安定性やヒートサイクル試験の耐性が得られる。また磁性体3はキュリー温度までは安定した磁気特性を発現することになる。
【符号の説明】
【0048】
1 コイルアンテナ
2 部品
2a 塗布面
3 磁性体
4 樹脂被覆層
5 絶縁層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルアンテナを用いた無線通信において使用される部品上に設けられた磁性体を含んでおり、
前記磁性体は、磁性粉、バインダーおよび溶剤を主成分とするペーストが、前記部品の少なくとも一部に直接塗布され乾燥されることによって、前記部品と一体的に形成されたものであることを特徴とする、コイルアンテナを用いた無線通信を改善するための通信改善用構造。
【請求項2】
前記磁性体は、接着成分を含有しており、
乾燥後の前記磁性体の引張強さが7MN/m以上であり、且つ前記部品との剥離力が98N/25mm幅以上であることを特徴とする請求項1に記載の通信改善用構造。
【請求項3】
乾燥後の前記磁性体の表面粗さが20μm厚以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の通信改善用構造。
【請求項4】
コイルアンテナを用いた無線通信において使用される部品上に設けられた磁性体を含んでおり、
前記磁性体は、磁性粉粒子を前記部品の少なくとも一部に直接堆積させることによって、前記部品と一体的に形成されたものであることを特徴とする、コイルアンテナを用いた無線通信を改善するための通信改善用構造。
【請求項5】
前記磁性体は、接着成分を含有しており、
前記磁性体の引張強さが7MN/m以上であり、且つ前記部品との剥離力が98N/25mm幅以上であることを特徴とする請求項4に記載の通信改善用構造。
【請求項6】
前記磁性体に対して前記部品側とは反対側に設けられたアンテナ素子を含んでいることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の通信改善用構造。
【請求項7】
前記磁性体と前記アンテナ素子との間に設けられた非磁性の絶縁層を含んでいることを特徴とする請求項6に記載の通信改善用構造。
【請求項8】
前記磁性体の少なくとも一部を覆う耐熱性樹脂被覆層を含んでいることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の通信改善用構造。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の通信改善用構造を用いた機器または部材。

【図1】
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【公開番号】特開2012−174745(P2012−174745A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32721(P2011−32721)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000111085)ニッタ株式会社 (588)
【Fターム(参考)】