説明

通信装置およびスプリッタ

【課題】共通の通信回線を介して複数種類の通信方式に従う通信信号を他の装置と送受信する構成において、他の通信方式に従う通信信号の影響を防ぎ、通信を良好に行なう。
【解決手段】通信装置101は、第1の通信信号を送受信するための第1の通信処理部102と通信回線LNとの間に設けられ、第1の通信信号の周波数帯域外の周波数成分の少なくとも一部を減衰させるための第1のフィルタ部12と、第2の通信信号を送受信するための第2の通信処理部52と通信回線LNとの間に設けられ、第2の通信信号の周波数帯域外の周波数成分の少なくとも一部を減衰させるための第2のフィルタ部11とを備える。第1の通信信号および第2の通信信号の周波数帯域は互いに重ならない。第1のフィルタ部12は、第2の通信信号の周波数帯域における周波数成分を含むコモンモードノイズを除去するためのフィルタ回路41を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信装置およびスプリッタに関し、特に、共通の通信回線を介して複数種類の通信方式に従う通信信号を他の装置と送受信するための通信装置およびスプリッタに関する。
【背景技術】
【0002】
既存の電話回線を利用して高速のデータ通信を行なうxDSL(x Digital Subscriber
Line:デジタル加入者線)方式には、たとえばADSL(Asymmetric DSL:非対称デジタル加入者線)およびVDSL(Very high-bit-rate DSL:超高速デジタル加入者線)などがある。
【0003】
国際電気通信連合の電気通信標準化部門(ITU−T)で勧告化されたG.993.2(「Very high speed digital subscriber line transceivers 2 (VDSL2)」,ITU-T勧告 G.993.2(非特許文献1)参照)では、VDSL方式における種々の機能が定められている。
【0004】
VDSL方式では、電話回線を使用して通信を行なうことから、VDSL方式に従う通信信号であるVDSL信号が、ISDN(Integrated Services Digital Network)方式に従う通信信号であるISDN信号と同一電話回線において重畳される場合がある。
【0005】
このため、たとえばVDSL信号を送受信するためのVDSL装置において、VDSL信号およびISDN信号を分離させるためのスプリッタが必要となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「Very high speed digital subscriber line transceivers 2 (VDSL2)」,ITU-T勧告G.993.2(非特許文献1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明者らは、このようなスプリッタを備えたVDSL装置において、VDSL通信が行われているときにISDN通信が行われると、VDSL回線においてエラーが発生し、VDSL通信が切断される場合があることを発見した。
【0008】
VDSL装置等、共通の通信回線を介して複数種類の通信方式に従う通信信号を他の装置と送受信するための通信装置において、スプリッタの性能を向上させることにより、このようなエラーの発生を防ぐ技術が望まれる。
【0009】
この発明は、上述の課題を解決するためになされたもので、その目的は、共通の通信回線を介して複数種類の通信方式に従う通信信号を他の装置と送受信する構成において、他の通信方式に従う通信信号の影響を防ぎ、通信を良好に行なうことが可能な通信装置およびスプリッタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、この発明のある局面に係わる通信装置は、共通の通信回線を介して複数種類の通信方式に従う通信信号を他の装置と送受信するための通信装置であって、上記通信回線を介して他の装置との間で第1の通信信号を送受信するための第1の通信処理部と上記通信回線との間に設けられ、上記第1の通信信号の周波数帯域外の周波数成分の少なくとも一部を減衰させるための第1のフィルタ部と、上記第1の通信処理部とは異なる通信方式に従い、上記通信回線を介して他の装置との間で第2の通信信号を送受信するための第2の通信処理部と上記通信回線との間に設けられ、上記第2の通信信号の周波数帯域外の周波数成分の少なくとも一部を減衰させるための第2のフィルタ部とを備え、上記第1の通信信号の周波数帯域および上記第2の通信信号の周波数帯域は互いに重ならず、上記第1のフィルタ部は、上記第2の通信信号の周波数帯域における周波数成分を含むコモンモードノイズを除去するためのフィルタ回路を含む。
【0011】
このような構成により、第2の通信信号の周波数帯域に存在するコモンモード成分を十分に除去することができる。これにより、通信装置において、第2の通信信号の送受信による通信が行われているときに第1の通信信号の送受信による通信が行われることによって第2の通信信号の回線においてエラーが発生し、第2の通信信号の送受信による通信が切断されることを防ぐことができる。したがって、共通の通信回線を介して複数種類の通信方式に従う通信信号を他の装置と送受信する構成において、他の通信方式に従う通信信号の影響を防ぎ、通信を良好に行なうことができる。
【0012】
好ましくは、上記フィルタ回路は、コモンモードチョークコイルと、上記コモンモードチョークコイルとともに2次以上のフィルタを構成するための受動素子とを含む。
【0013】
このように、コモンモード成分に対する2次以上のフィルタを構成することにより、フィルタ特性を急峻にすることができるため、ノイズ除去能力を向上させ、コモンモードノイズを十分に除去することができる。
【0014】
より好ましくは、上記第1のフィルタ部は、上記第1の通信信号を平衡信号として伝達するための第1の信号路および第2の信号路を含み、上記コモンモードチョークコイルは、上記第1の信号路および上記第2の信号路に設けられ、上記フィルタ回路は、上記第1の信号路および上記第2の信号路間に直列接続され、互いの接続ノードが、固定電圧の供給されるノードに接続された2つの蓄電素子を含む。
【0015】
このような構成により、ノーマルモード成分に対する影響を防ぎながら、簡易な回路でコモンモード成分に対する2次のフィルタを構成し、コモンモードノイズを十分に除去することができる。
【0016】
より好ましくは、上記受動素子は、上記コモンモードチョークコイルと上記第1の通信処理部との間に設けられる。
【0017】
このように、上記受動素子をコモンモードノイズ源である第1の通信処理部に近い位置に設けることにより、ノイズ低減効果を高めることができる。また、LCL(不平衡減衰量)等のスプリッタ特性の劣化を防ぐことができる。
【0018】
好ましくは、上記第1の通信処理部は、ISDN(Integrated Services Digital Network)方式に従って上記第1の通信信号の送信および受信を行い、上記第2の通信処理部は、VDSL(Very high-bit-rate Digital Subscriber Line)方式に従って上記第2の通信信号の送信および受信を行なう。
【0019】
このように、同一電話回線において重畳される2つの通信信号を処理する通信装置に適用することにより、本発明の効果をより顕著に得ることができる。
【0020】
上記課題を解決するために、この発明のある局面に係わるスプリッタは、共通の通信回線を介して複数種類の通信方式に従う通信信号を他の装置と送受信するための通信装置に用いられるスプリッタであって、上記通信回線を介して他の装置との間で第1の通信信号を送受信するための第1の通信処理部と上記通信回線との間に設けられ、上記第1の通信信号の周波数帯域外の周波数成分の少なくとも一部を減衰させるための第1のフィルタ部と、上記第1の通信処理部とは異なる通信方式に従い、上記通信回線を介して他の装置との間で第2の通信信号を送受信するための第2の通信処理部と上記通信回線との間に設けられ、上記第2の通信信号の周波数帯域外の周波数成分の少なくとも一部を減衰させるための第2のフィルタ部とを備え、上記第1の通信信号の周波数帯域および上記第2の通信信号の周波数帯域は互いに重ならず、上記第1のフィルタ部は、上記第2の通信信号の周波数帯域における周波数成分を含むコモンモードノイズを除去するためのフィルタ回路を含む。
【0021】
このような構成により、第2の通信信号の周波数帯域に存在するコモンモード成分を十分に除去することができる。これにより、通信装置において、第2の通信信号の送受信による通信が行われているときに第1の通信信号の送受信による通信が行われることによって第2の通信信号の回線においてエラーが発生し、第2の通信信号の送受信による通信が切断されることを防ぐことができる。したがって、共通の通信回線を介して複数種類の通信方式に従う通信信号を他の装置と送受信する構成において、他の通信方式に従う通信信号の影響を防ぎ、通信を良好に行なうことができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、共通の通信回線を介して複数種類の通信方式に従う通信信号を他の装置と送受信する構成において、他の通信方式に従う通信信号の影響を防ぎ、通信を良好に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態に係る通信装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る通信装置におけるスプリッタの構成を示す回路図である。
【図3】(a)〜(c)は、フィルタ部において共振回路を設ける目的を説明するための図である。
【図4】ISDN信号、VDSL信号およびノイズの周波数関係を概略的に示す図である。
【図5】本発明の実施の形態に係るスプリッタのローパスフィルタ部におけるコモンモード用フィルタ回路のフィルタ特性の一例を概略的に示す図である。
【図6】ノーマルモード成分に対するコモンモード用フィルタ回路41のフィルタ特性を説明するための図である。
【図7】コモンモード成分に対するコモンモード用フィルタ回路41のフィルタ特性を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0025】
図1は、本発明の実施の形態に係る通信装置の構成を示す図である。
【0026】
図1を参照して、VDSL装置(通信装置)101は、スプリッタ51と、通信処理部(第2の通信処理部)52とを備える。スプリッタ51は、ハイパスフィルタ(HPF)部11と、ローパスフィルタ(LPF)部12とを含む。通信処理部52は、送信部31と、受信部32とを含む。送信部31は、D/Aコンバータ21と、IFFT処理部22と、変調部23とを含む。受信部32は、A/Dコンバータ24と、FFT処理部25と、復調部26とを含む。
【0027】
VDSL装置101は、共通の通信回線たとえば電話回線LNを介して複数種類の通信方式に従う通信信号を他の装置と送受信する。より詳細には、VDSL装置101は、VDSLシステムにおける集合装置であり、電話回線LNを介してVDSLシステムにおける1または複数の宅側装置と接続され、当該宅側装置との間でVDSL信号を送受信する。
【0028】
ISDN装置(第1の通信処理部)102は、ISDNシステムにおける局側装置であり、VDSL装置101および電話回線LN経由でISDNシステムにおける1または複数の宅側装置との間でISDN信号を送受信する。
【0029】
通信処理部52において、送信部31は、電話回線LNを介して宅側装置へ送信すべき下りデータをVDSL信号に変換してスプリッタ51へ出力する。
【0030】
受信部32は、スプリッタ51から受けた宅側装置からのVDSL信号を上りデータに変換して出力する。
【0031】
スプリッタ51において、ハイパスフィルタ部(第2のフィルタ部)11は、通信処理部52と電話回線LNとの間に設けられ、VDSL信号の周波数帯域外の周波数成分の少なくとも一部を減衰させる。具体的には、ハイパスフィルタ部11は、通信処理部52から受けた信号の周波数成分のうち、所定の周波数以下の成分を減衰させ、電話回線LNへ出力する。また、ハイパスフィルタ部11は、電話回線LNから受けた信号の周波数成分のうち、所定の周波数以下の成分を減衰させ、通信処理部52へ出力する。
【0032】
ローパスフィルタ部(第1のフィルタ部)12は、ISDN装置102と電話回線LNとの間に設けられ、ISDN信号の周波数帯域外の周波数成分の少なくとも一部を減衰させる。具体的には、ローパスフィルタ部12は、ISDN装置102から受けた信号の周波数成分のうち、所定の周波数以上の成分を減衰させ、電話回線LNへ出力する。また、ローパスフィルタ部12は、電話回線LNから受けた信号の周波数成分のうち、所定の周波数以上の成分を減衰させ、通信処理部52へ出力する。
【0033】
送信部31において、変調部23は、下りデータをたとえば直交変調してIFFT処理部22へ出力する。
【0034】
IFFT処理部22は、変調部23から受けたデータを高速フーリエ逆変換(IFFT:Inverse Fast Fourier Transform)し、D/Aコンバータ21へ出力する。
【0035】
D/Aコンバータ21は、IFFT処理部22から受けたデータをアナログ信号に変換し、VDSL信号としてスプリッタ51へ出力する。
【0036】
受信部32において、A/Dコンバータ24は、スプリッタ51から受けたVDSL信号をデジタル信号に変換してFFT処理部25へ出力する。
【0037】
FFT処理部25は、A/Dコンバータ24から受けたデジタル信号を高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)し、復調部26へ出力する。
【0038】
復調部26は、FFT処理部25から受けたデータをたとえば直交復調し、上りデータとして出力する。
【0039】
図2は、本発明の実施の形態に係る通信装置におけるスプリッタの構成を示す回路図である。
【0040】
図2を参照して、スプリッタ51は、ハイパスフィルタ部11と、ローパスフィルタ部12と、サージアブソーバSA1,SA2と、ヒューズF1,F2とを含む。ローパスフィルタ部12は、コモンモード用フィルタ回路41と、ノーマルモード用フィルタ回路42とを含む。ハイパスフィルタ部11は、コモンモード用フィルタ回路43と、ノーマルモード用フィルタ回路44とを含む。
【0041】
ローパスフィルタ部12において、コモンモード用フィルタ回路41は、コモンモードチョークコイルCMC1と、キャパシタC12,C13とを含む。コモンモードチョークコイルCMC1は、共通のコアを有するコイルL21,L22を含む。ノーマルモード用フィルタ回路42は、インダクタL1,L2,L3,L11,L12,L13と、キャパシタC1,C2,C3,C14,C15とを含む。
【0042】
ローパスフィルタ部12において、インダクタL1,L11はたとえば共通のコアを有する。インダクタL2,L12はたとえば共通のコアを有する。インダクタL3,L13はたとえば共通のコアを有する。
【0043】
ハイパスフィルタ部11において、コモンモード用フィルタ回路43は、コモンモードチョークコイルCMC2を含む。コモンモードチョークコイルCMC2は、共通のコアを有するコイルL23,L24を含む。ノーマルモード用フィルタ回路44は、インダクタL4,L5と、キャパシタC4,C5,C6,C7,C8,C9,C10,C11とを含む。
【0044】
サージアブソーバSA1は、電話回線LNに接続されている。サージアブソーバSA2は、たとえば電話回線を介して、局舎に設置されたISDN装置102に接続されている。
【0045】
ローパスフィルタ部12は、ISDN信号を平衡信号として伝達するためのバランス信号ラインSL1およびバランス信号ラインSL2を含む。
【0046】
ハイパスフィルタ部11は、VDSL信号を平衡信号として伝達するためのバランス信号ラインSL11およびバランス信号ラインSL12を含む。
【0047】
ノーマルモード用フィルタ回路42において、インダクタL1は、サージアブソーバSA1の第1端に接続された第1端と、キャパシタC1の第1端に接続された第2端とを有する。インダクタL2は、インダクタL1の第2端およびキャパシタC14の第1端に接続された第1端と、キャパシタC14の第2端およびキャパシタC2の第1端に接続された第2端とを有する。インダクタL3は、インダクタL2の第2端に接続された第1端と、キャパシタC3の第1端に接続された第2端とを有する。インダクタL11は、サージアブソーバSA1の第2端に接続された第1端と、キャパシタC1の第2端に接続された第2端とを有する。インダクタL12は、インダクタL11の第2端およびキャパシタC15の第1端に接続された第1端と、キャパシタC15の第2端およびキャパシタC2の第2端に接続された第2端とを有する。インダクタL13は、インダクタL12の第2端に接続された第1端と、キャパシタC3の第2端に接続された第2端とを有する。
【0048】
コモンモード用フィルタ回路41において、コモンモードチョークコイルCMC1のコイルL21は、バランス信号ラインSL1上に設けられ、キャパシタC3の第1端に接続された第1端と、ヒューズF1の第1端に接続された第2端とを有する。ヒューズF1の第2端とサージアブソーバSA2の第1端とが接続されている。コモンモードチョークコイルCMC1のコイルL22は、バランス信号ラインSL2上に設けられ、キャパシタC3の第2端に接続された第1端と、ヒューズF2の第1端に接続された第2端とを有する。ヒューズF2の第2端とサージアブソーバSA2の第2端とが接続されている。キャパシタC12は、コモンモードチョークコイルCMC1のコイルL21の第2端に接続された第1端と、キャパシタC13の第1端に接続された第2端とを有する。キャパシタC13は、キャパシタC12の第2端に接続された第1端と、コモンモードチョークコイルCMC1のコイルL22の第2端に接続された第2端とを有する。キャパシタC12の第2端とキャパシタC13の第1端との接続ノードが、固定電圧たとえば接地電圧の供給される接地ノードに接続されている。
【0049】
ノーマルモード用フィルタ回路44において、キャパシタC4は、サージアブソーバSA1の第1端に接続された第1端と、インダクタL4の第1端に接続された第2端とを有する。キャパシタC6は、キャパシタC4の第2端に接続された第1端と、インダクタL5の第1端に接続された第2端とを有する。キャパシタC8は、キャパシタC6の第2端に接続された第1端と、第2端とを有する。インダクタL4の第2端とキャパシタC10の第1端とが接続されている。インダクタL5の第2端とキャパシタC11の第1端とが接続されている。キャパシタC5は、サージアブソーバSA1の第2端に接続された第1端と、キャパシタC10の第2端に接続された第2端とを有する。キャパシタC7は、キャパシタC5の第2端に接続された第1端と、キャパシタC11の第2端に接続された第2端とを有する。キャパシタC9は、キャパシタC7の第2端に接続された第1端と、第2端とを有する。
【0050】
コモンモード用フィルタ回路43において、コモンモードチョークコイルCMC2のコイルL23は、バランス信号ラインSL11上に設けられ、キャパシタC8の第2端に接続された第1端と、通信処理部52に接続された第2端とを有する。コモンモードチョークコイルCMC2のコイルL24は、バランス信号ラインSL12上に設けられ、キャパシタC9の第2端に接続された第1端と、通信処理部52に接続された第2端とを有する。
【0051】
コモンモード用フィルタ回路41は、ISDN装置102および電話回線LN間において発生するコモンモードノイズを除去する。
【0052】
ノーマルモード用フィルタ回路42は、ISDN装置102および電話回線LN間において発生するノーマルモードノイズを除去する。より詳細には、インダクタL1,L2,L3,L11,L12,L13およびキャパシタC1,C2,C3により、ローパスフィルタとして機能する複数のLCフィルタが構成される。また、インダクタL2およびキャパシタC14により、並列共振回路が構成される。また、インダクタL12およびキャパシタC15により、並列共振回路が構成される。
【0053】
コモンモード用フィルタ回路43は、通信処理部52および電話回線LN間において発生するコモンモードノイズを除去する。
【0054】
ノーマルモード用フィルタ回路44は、通信処理部52および電話回線LN間において発生するノーマルモードノイズを除去する。より詳細には、インダクタL4,L5およびキャパシタC4,C5,C6,C7,C8,C9により、ハイパスフィルタとして機能する複数のLCフィルタが構成される。また、インダクタL4およびキャパシタC10により、直列共振回路が構成される。また、インダクタL5およびキャパシタC11により、直列共振回路が構成される。
【0055】
上記のようにローパスフィルタ部12およびハイパスフィルタ部11において共振回路を構成することにより、フィルタ特性を急峻にすることができる。
【0056】
図3(a)〜(c)は、フィルタ部において共振回路を設ける目的を説明するための図である。
【0057】
図3(a)は、一例としてローパスフィルタの特性を示している。この特性を急峻にしようとした場合、図3(b)に示すように、フィルタの次数を増やす方法が考えられる。しかしながら、このような方法では、フィルタの部品点数が多くなってしまう。
【0058】
そこで、本発明の実施の形態に係るスプリッタでは、共振回路を設けることにより、図3(c)に示すようにフィルタ特性において共振点を作り、フィルタ特性を急峻にする。
【0059】
このような構成により、フィルタの次数を増やす構成と比べてフィルタの部品点数を少なくすることができる。
【0060】
図4は、ISDN信号、VDSL信号およびノイズの周波数関係を概略的に示す図である。
【0061】
図4を参照して、ISDN信号の周波数帯域およびVDSL信号の周波数帯域は互いに重ならず、かつISDN信号の周波数帯域は、VDSL信号の周波数帯域と比べて周波数が低い。
【0062】
より詳細には、ISDN信号の周波数帯域は0Hzから320kHzであり、320kHz以上において、ISDN信号のサイドローブであるノーマルモードノイズが発生する。このノーマルモードノイズの一部は、VDSL信号の周波数帯域にも存在する。VDSL信号の周波数帯域は、640kHz以上である。
【0063】
本願発明者らは、従来のVDSL装置において、VDSL通信が行われているときにISDN通信が行われるとVDSL回線においてエラーが発生し、VDSL通信が切断される場合があることを発見した。そして、従来のVDSL装置では、ISDN信号のノーマルモードノイズではなく、ISDN信号のコモンモードノイズを十分に除去しきれていないため、このようなエラーが発生する、という知見を得た。
【0064】
すなわち、VDSL回線でエラーが発生していることから、コモンモード成分の少なくとも一部がVDSL信号の周波数帯域に存在しており、従来のVDSL装置では、VDSL信号の周波数帯域に存在するコモンモード成分の除去が不十分である、と考えた。
【0065】
そこで、本願発明者らは、スプリッタ51のコモンモード用フィルタ回路41において、コモンモードチョークコイルCMC1に加えて、新たにキャパシタC12,C13を設ける対策を行なった。
【0066】
すなわち、コモンモード用フィルタ回路41は、VDSL信号の周波数帯域における周波数成分を含むコモンモードノイズを除去する。
【0067】
より詳細には、図2に示すように、コモンモード用フィルタ回路41において、コモンモードチョークコイルCMC1は、バランス信号ラインSL1およびバランス信号ラインSL2に設けられている。そして、キャパシタC12,C13は、バランス信号ラインSL1およびバランス信号ラインSL2間に直列接続され、互いの接続ノードが、固定電圧たとえば接地電圧の供給されるノードに接続されている。
【0068】
図5は、本発明の実施の形態に係るスプリッタのローパスフィルタ部におけるコモンモード用フィルタ回路のフィルタ特性の一例を概略的に示す図である。
【0069】
図5を参照して、コモンモード用フィルタ回路41においてキャパシタC12,C13を設けないと仮定した場合には、コモンモード用フィルタ回路41の特性が比較的緩やかになる(特性A)。すなわち、コモンモード用フィルタ回路41においてコモンモードチョークコイルCMC1だけを設ける場合には、コモンモード用フィルタ回路41においてコモンモード成分に対する1次のフィルタが構成される。
【0070】
このため、ISDN装置102および電話回線LN間に発生するコモンモードノイズの周波数成分のうち、VDSL信号の周波数帯域における周波数成分を十分に減衰できなくなる。
【0071】
これに対して、本発明の実施の形態に係るスプリッタでは、コモンモード用フィルタ回路41においてキャパシタC12,C13をさらに設ける構成により、コモンモード用フィルタ回路41においてコモンモード成分に対する2次のフィルタを構成することができる。これにより、フィルタ特性を急峻にすることができるため(特性B)、コモンモード用フィルタ回路41のノイズ除去能力を向上させ、コモンモードノイズを十分に除去することができる。
【0072】
図6は、ノーマルモード成分に対するコモンモード用フィルタ回路41のフィルタ特性を説明するための図である。
【0073】
図6を参照して、ノーマルモードでは、バランス信号ラインSL1の電位が+Vであるとすると、バランス信号ラインSL2の電位は−Vであり、中点すなわちキャパシタC12およびキャパシタC13の接続ノードの電位はゼロである。
【0074】
中点の電位がゼロ0の状態は、ノーマルモード成分に対して、中点を接地してもしなくても同じ状態である。このため、キャパシタC12およびキャパシタC13からなる回路は、ノーマルモード成分に対して、キャパシタC12およびキャパシタC13の合成容量となる。
【0075】
ここで、キャパシタC12およびキャパシタC13の容量は、ノーマルモード用フィルタ回路42におけるキャパシタC3の容量と比べてたとえば1桁小さい値が設定される。このため、ノーマルモード成分に対するフィルタ特性においては、キャパシタC3の方が支配的となり、キャパシタC12およびキャパシタC13は、ノーマルモード成分に対するフィルタ特性にはほとんど影響しない。
【0076】
すなわち、ノーマルモード成分に対しては、キャパシタC12およびキャパシタC13からなる回路は、無いものとみなすことができる。すなわち、キャパシタC12,C13を設けても、ISDN信号の通過特性に対する影響は無い。
【0077】
図7は、コモンモード成分に対するコモンモード用フィルタ回路41のフィルタ特性を説明するための図である。
【0078】
図7を参照して、コモンモードでは、バランス信号ラインSL1の電位が+Vであるとすると、バランス信号ラインSL2の電位は+Vである。
【0079】
中点すなわちキャパシタC12およびキャパシタC13の接続ノードを接地しない場合には、中点の電位は+Vである。このため、バランス信号ラインSL1およびSL2間で電位差が無いことから、コモンモード成分を減衰させることはできない。
【0080】
これに対して、本発明の実施の形態に係るスプリッタでは、キャパシタC12およびキャパシタC13の接続ノードを接地する。これにより、バランス信号ラインSL1およびSL2間で電位差が発生し、コモンモードチョークコイルCMC1およびキャパシタC12,C13からなるコモンモード用フィルタ回路のフィルタ特性に従ってコモンモードノイズを除去することができる。
【0081】
なお、コモンモード用フィルタ回路41において、3次以上のフィルタが構成されてもよい。
【0082】
また、キャパシタC12およびキャパシタC13は、ローパスフィルタ部12における他の部分に設けてもよい。
【0083】
さらに、キャパシタC12およびキャパシタC13は、ローパスフィルタ部12およびハイパスフィルタ部11の分岐部分の前段、すなわち、サージアブソーバSA1の前段または後段に設けてもよい。
【0084】
但し、キャパシタC12,C13をコモンモードチョークコイルCMC1とISDN装置102との間に設けることにより、以下のような効果を奏する。
【0085】
すなわち、コモンモードノイズ源であるISDN装置102に近い位置に設けることにより、ノイズ低減効果を高めることができる。
【0086】
また、スプリッタ特性の1つとして、LCL(不平衡減衰量)が規定される。このLCLは、キャパシタC12の容量とキャパシタC13の容量とにばらつきがあると劣化する。また、LCLは、電話回線LN側から測定する。そして、コモンモードチョークコイルCMC1はコモンモード成分に対して非常に大きなインピーダンスを持つことから、キャパシタC12,C13をISDN装置102側、すなわちコモンモードチョークコイルCMC1に対して電話回線LNの反対側に設ける構成により、キャパシタC12,C13のばらつきの影響が無視できるようになり、スプリッタ特性の劣化を防ぐことができる。
【0087】
また、コモンモード用フィルタ回路41は、キャパシタに限らず、コモンモードチョークコイルCMC1とともに2次以上のフィルタを構成するための受動素子を含む構成であればよい。
【0088】
ところで、スプリッタを備えたVDSL装置において、VDSL通信が行われているときにISDN通信が行われると、VDSL回線においてエラーが発生し、VDSL通信が切断される場合がある。このため、スプリッタの性能を向上させることにより、このようなエラーの発生を防ぐ技術が望まれる。
【0089】
そこで、本発明の実施の形態に係る通信装置では、ローパスフィルタ部12は、電話回線LNを介して他の装置との間でISDN信号を送受信するためのISDN装置102と電話回線LNとの間に設けられ、ISDN信号の周波数帯域外の周波数成分の少なくとも一部を減衰させる。ハイパスフィルタ部11は、ISDN装置102とは異なる通信方式に従い、電話回線LNを介して他の装置との間でVDSL信号を送受信するための通信処理部52と電話回線LNとの間に設けられ、VDSL信号の周波数帯域外の周波数成分の少なくとも一部を減衰させる。ISDN信号の周波数帯域およびVDSL信号の周波数帯域は互いに重ならない。そして、ローパスフィルタ部12において、コモンモード用フィルタ回路41は、VDSL信号の周波数帯域における周波数成分を含むコモンモードノイズを除去する。
【0090】
このような構成により、VDSL信号の周波数帯域に存在するコモンモード成分を十分に除去することができる。これにより、VDSL装置において、VDSL通信が行われているときにISDN通信が行われることによってVDSL回線においてエラーが発生し、VDSL通信が切断されることを防ぐことができる。
【0091】
したがって、本発明の実施の形態に係る通信装置では、共通の通信回線を介して複数種類の通信方式に従う通信信号を他の装置と送受信する構成において、他の通信方式に従う通信信号の影響を防ぎ、通信を良好に行なうことができる。
【0092】
また、本発明の実施の形態に係る通信装置では、コモンモード用フィルタ回路41は、コモンモードチョークコイルCMC1と、コモンモードチョークコイルCMC1とともに2次以上のフィルタを構成するための受動素子とを含む。
【0093】
このように、コモンモード成分に対する2次以上のフィルタを構成することにより、フィルタ特性を急峻にすることができるため、ノイズ除去能力を向上させ、コモンモードノイズを十分に除去することができる。
【0094】
また、本発明の実施の形態に係る通信装置では、コモンモードチョークコイルCMC1は、バランス信号ラインSL1およびバランス信号ラインSL2に設けられている。そして、キャパシタC12,C13は、バランス信号ラインSL1およびバランス信号ラインSL2間に直列接続され、互いの接続ノードが、固定電圧の供給されるノードに接続されている。
【0095】
このような構成により、ノーマルモード成分に対する影響を防ぎながら、簡易な回路でコモンモード成分に対する2次のフィルタを構成し、コモンモードノイズを十分に除去することができる。
【0096】
また、本発明の実施の形態に係る通信装置では、キャパシタC12,C13は、コモンモードチョークコイルCMC1とISDN装置102との間に設けられている。
【0097】
このように、キャパシタC12,C13をコモンモードノイズ源であるISDN装置102に近い位置に設けることにより、ノイズ低減効果を高めることができる。また、LCL等のスプリッタ特性の劣化を防ぐことができる。
【0098】
また、本発明の実施の形態に係る通信システムでは、ISDN装置102は、ISDN方式に従ってISDN信号の送信および受信を行なう。また、通信処理部52は、VDSL方式に従ってVDSL信号の送信および受信を行なう。
【0099】
このように、同一電話回線において重畳される2つの通信信号を処理する通信装置に適用することにより、本発明の効果をより顕著に得ることができる。
【0100】
なお、本発明の実施の形態に係る通信装置はVDSL装置であるとしたが、これに限定するものではない。ISDNおよびVDSLの少なくとも一方とは別の通信方式に従う通信処理を行なう構成であってもよいし、ISDNおよびVDSLに加えて、さらに別の通信方式に従う通信処理を行なう構成であってもよい。
【0101】
また、本発明の実施の形態に係る通信装置では、ローパスフィルタ部12のコモンモード用フィルタ回路41において2次以上のフィルタを構成するとしたが、これに限定するものではない。通信処理部52および電話回線LN間において発生するコモンモードノイズが問題になる場合には、ハイパスフィルタ部11のコモンモード用フィルタ回路43において2次以上のフィルタを構成してもよい。
【0102】
上記実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0103】
11 ハイパスフィルタ部(第2のフィルタ部)
12 ローパスフィルタ部(第1のフィルタ部)
21 D/Aコンバータ
22 IFFT処理部
23 変調部
24 A/Dコンバータ
25 FFT処理部
26 復調部
31 送信部
32 受信部
41 コモンモード用フィルタ回路
42 ノーマルモード用フィルタ回路
43 コモンモード用フィルタ回路
44 ノーマルモード用フィルタ回路
51 スプリッタ
52 通信処理部(第2の通信処理部)
101 VDSL装置(通信装置)
102 ISDN装置(第1の通信処理部)
F1,F2 ヒューズ
C12,C13 キャパシタ
C1,C2,C3,C4,C5,C6,C7,C8,C9,C10,C11,C12,C13,C14,C15 キャパシタ
CMC1,CMC2 コモンモードチョークコイル
L21,L22,L23,L24 コイル
L1,L2,L3,L4,L5,L11,L12,L13 インダクタ
LN 電話回線
SA1,SA2 サージアブソーバ
SL1,SL2 バランス信号ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通の通信回線を介して複数種類の通信方式に従う通信信号を他の装置と送受信するための通信装置であって、
前記通信回線を介して他の装置との間で第1の通信信号を送受信するための第1の通信処理部と前記通信回線との間に設けられ、前記第1の通信信号の周波数帯域外の周波数成分の少なくとも一部を減衰させるための第1のフィルタ部と、
前記第1の通信処理部とは異なる通信方式に従い、前記通信回線を介して他の装置との間で第2の通信信号を送受信するための第2の通信処理部と前記通信回線との間に設けられ、前記第2の通信信号の周波数帯域外の周波数成分の少なくとも一部を減衰させるための第2のフィルタ部とを備え、
前記第1の通信信号の周波数帯域および前記第2の通信信号の周波数帯域は互いに重ならず、
前記第1のフィルタ部は、前記第2の通信信号の周波数帯域における周波数成分を含むコモンモードノイズを除去するためのフィルタ回路を含む、通信装置。
【請求項2】
前記フィルタ回路は、
コモンモードチョークコイルと、
前記コモンモードチョークコイルとともに2次以上のフィルタを構成するための受動素子とを含む、請求項1に記載の通信装置。
【請求項3】
前記第1のフィルタ部は、
前記第1の通信信号を平衡信号として伝達するための第1の信号路および第2の信号路を含み、
前記コモンモードチョークコイルは、前記第1の信号路および前記第2の信号路に設けられ、
前記フィルタ回路は、
前記第1の信号路および前記第2の信号路間に直列接続され、互いの接続ノードが、固定電圧の供給されるノードに接続された2つの蓄電素子を含む、請求項2に記載の通信装置。
【請求項4】
前記受動素子は、前記コモンモードチョークコイルと前記第1の通信処理部との間に設けられる、請求項2または請求項3に記載の通信装置。
【請求項5】
前記第1の通信処理部は、ISDN(Integrated Services Digital Network)方式に従って前記第1の通信信号の送信および受信を行い、
前記第2の通信処理部は、VDSL(Very high-bit-rate Digital Subscriber Line)方式に従って前記第2の通信信号の送信および受信を行なう、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の通信装置。
【請求項6】
共通の通信回線を介して複数種類の通信方式に従う通信信号を他の装置と送受信するための通信装置に用いられるスプリッタであって、
前記通信回線を介して他の装置との間で第1の通信信号を送受信するための第1の通信処理部と前記通信回線との間に設けられ、前記第1の通信信号の周波数帯域外の周波数成分の少なくとも一部を減衰させるための第1のフィルタ部と、
前記第1の通信処理部とは異なる通信方式に従い、前記通信回線を介して他の装置との間で第2の通信信号を送受信するための第2の通信処理部と前記通信回線との間に設けられ、前記第2の通信信号の周波数帯域外の周波数成分の少なくとも一部を減衰させるための第2のフィルタ部とを備え、
前記第1の通信信号の周波数帯域および前記第2の通信信号の周波数帯域は互いに重ならず、
前記第1のフィルタ部は、前記第2の通信信号の周波数帯域における周波数成分を含むコモンモードノイズを除去するためのフィルタ回路を含む、スプリッタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−227820(P2012−227820A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95072(P2011−95072)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(502312498)住友電工ネットワークス株式会社 (212)
【Fターム(参考)】