説明

通信装置

【課題】基地局と複数の中継局を有線、複数の中継局と移動局を無線で接続する移動体通信装置において、無線回線における信号の干渉を抑制し、通信品質を向上させる。
【解決手段】各中継局が移動局から受信する信号強度を電力判定部142によって測定し、その結果に応じて、増幅率制御部146が増幅器148の利得を制御し、移動局に最寄りの中継局からは送信強度を強く、その他の移動局からは弱くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体通信に関し、特に移動体の経路に沿って設置された中継局から移動体に搭載された移動局へ向けて信号を送信する装置において、複数の中継局から送信される信号どうしの干渉に起因する悪影響を抑制する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、下掲の特許文献に示すような移動体通信システムが、知られている。当該文献に開示されたシステムは、たとえば同文献の図1に示されるように、無線中継制御装置3が光ファイバ4を介して複数の無線中継装置5と接続され、さらに無線中継装置5は無線回線を介して通信エリア6内の無線端末装置7と通信可能になっている。このような構成によって、無線装置2が、無線中継制御装置3ならびに無線中継装置5を介して、無線端末装置7との間で通信を行うものである。このとき、ひとつの通信エリア6の範囲が無線端末装置7の移動範囲を超えていても、通信エリア6が複数設けられており、無線端末装置7がいずれかの通信エリア6の範囲内に位置していれば、通信は可能である。
【特許文献1】特開2001−244863号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一般に、複数の中継局とひとつの移動局の間で空中線を介して通信を行う場合、特に通信中に移動局の移動に伴って、通信の連続性を担保しつつ中継局が切り替わるような場合には、中継局から送信された電波が所定以上の強度で到達するような範囲(以下、本実施例においては、このような範囲を『セル』と略称する)を、地理的に重複させることが望まれる。このようなセルの重複領域に移動局が存在する状態では、とくに中継局から移動局へ向けて送信される信号が、受信側である移動局で干渉を引き起こすことがある。干渉の起こり方は、通信方式によって種々異なるが、干渉に起因する影響としては、たとえばアナログ音声通信ならば明瞭度の低下、ディジタル通信ならばエラーの増加などが、挙げられる。
【0004】
この場合、個別の中継局から送信された空中線信号を、受信側の移動局で判別できれば、移動局では最大の強度で受信した信号だけを利用することで、干渉の悪影響を抑制することは可能である。しかし、複数の中継局から同程度の強度の信号を受信した場合には、この手法だけでは充分でない。たとえば、移動局が地理的に複数の中継局の中間付近に位置する場合などが、これに該当する。
【0005】
このような悪影響を排除するためには、干渉が起こり易い位置に移動局が到達したときに、中継局からの送信状態を積極的に変化させて、干渉の影響を少なくすることが、きわめて効果的であり、そのような状況を実現する手段が、望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決する目的で、本発明においては、
移動局から中継局へ向けられた空中線電力を計測して、計測された空中線電力を各中継局間で比較する電力判定部と、
比較結果に基づいて、最大の空中線電力を得た中継局からの空中線送信電力を最大とし、当該中継局に隣接する中継局からの空中線送信電力を中程度とし、いずれにも該当しない中継局からの送信電力を最小とする増幅率制御部とを、それぞれ設けたものである。
【発明の効果】
【0007】
中継局から送信する空中線電力を、移動局の位置に応じて適宜変化させることにより、複数の中継局から移動局に到達する空中線電力が等しくなる状況を回避して、移動局における干渉の影響を低減することが、可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
中継局において移動局から受信した信号の強度を電力判定部で計測し、計測結果に応じて中継局から移動局へ送信する信号の強度を、移動局に最寄りの中継局で最大に、その他の中継局では小さくなるように、増幅器を制御する。
【実施例1】
【0009】
以下、本発明の実施例について、図面を参照しつつ説明する。
図1に、本実施例のシステムの構成を示す。図1において、11は移動局、12は軌道、13aないし13cは中継局、14は中央局、15aないし15cは光ファイバである。
移動局11は、軌道12上を移動しながら、中央局14との間で、中継局13aないし13cのうちいずれかを介して通信を行う。移動局11と中継局13aないし13cとの間は、図示しない無線通信回線によって適宜接続される。中継局13aないし13cと中央局14との間は、それぞれ光ファイバ15aないし15cによって接続されている。
移動局11から送信された信号は、無線通信回線を介して最寄りの中継局に到達し、さらに有線通信回線を介して中央局14によって受信される。逆方向の通信においても、同様である。
【0010】
また、各中継局に対してセル16aないし16cが定まっている。このセルとは、移動局11とそれぞれの中継局との間で通信を行うことが可能な、地理的範囲のことである。このセル16aないし16cの内部に移動局11が位置するとき、移動局11は、自身が存在するセルに対応する中継局との間で、通信を行う。たとえば移動局11がセル16aの内部に位置するとき、移動局11は中継局13aとの間で通信を行う。図に示したごとく、各セル16aないし16cが一部重複しつつ軌道全体を連続的に覆うように、中継局13aないし13cが配置されている。ただし本実施例においては、中継局の送信電力の抑制に伴って、セルの大きさが縮小することがある。この送信電力の抑制とセルの縮小の詳細については、後述する。
【0011】
図2に、中継局13の構成の詳細を示す。図2において、131は周波数変換部、132は電気・光変換器、133は光・電気変換器、134は周波数変換部である。
周波数変換部131は、無線受信機能を備えており、移動局11から無線回線を介して受信した信号を、電気・光変換器132に伝達する。また、周波数変換部134は、無線送信機能を備えており、光・電気変換器133から受信した信号を、無線回線を介して移動局11に向けて送信する。
また、電気・光変換器132ならびに光・電気変換器133は、それぞれ光ファイバ15に接続されている。
【0012】
周波数変換部131は、移動局11から電波に載せられた信号を受信して、この信号の搬送波周波数を、RF帯からIF帯に変換する。その後、当該信号は電気・光変換器132においてアナログのままIF帯の光信号に変換され、光ファイバ15を介して中央局14に送られる。
一方、中央局14から光ファイバ15を介して送られてきたアナログのIF帯の光信号は、光・電気変換器133においてIF帯の電気信号に変換され、周波数変換部134において搬送周波数をIF帯からRF帯に変換して、電波に載せて移動局11へ向けて送信する。
【0013】
図3に、中央局14の構成の詳細を示す。図2において、141は光・電気変換器、142は電力判定部、143は合波器、144は中間周波数の変復調部、145はベースバンド変復調部、146は増幅率制御部、147は分波器、148は増幅器、149は電気・光変換器である。この図2において、光・電気変換器141、電力判定部142、増幅器148、電気・光変換器149は、それぞれ3台ずつ設けられているが、これらはすべて同じものが3組設けられた構成であり、それぞれ別の光ファイバ15を介して、個別の中継局13に接続されている。ただし構成上ならびに機能上は、これら3組の構成要件は同じであるため、図3においては、参照符号では特に区別しない。
【0014】
また、光・電気変換器141ならびに電気・光変換器149は、それぞれ光ファイバ15に接続されている。
中継局13から光ファイバ15を介して送られてきた信号は、光・電気変換器141において電気信号に変換され、電力判定部142において信号強度を判定される。ここで、電力判定部142において判定される信号強度は、中継局13において受信した移動局11からの信号の強度を反映したものであり、この強度は中継局13と移動局11との距離に依存するものである。
【0015】
信号は、電力判定部142から合波器143に送られて合波されたあと、中間周波数の変復調部144において中間周波数復調され、さらにベースバンド変復調部145においてさらにベースバンド復調されて出力される。
【0016】
一方、電力判定部142においては、上記の信号の他、前記の信号強度を示す強度信号が作成される。ここで作成される強度信号は、受信信号の強度をいくつかの段階に分けて示すものである。この強度信号は、増幅率制御部146に送られる。
増幅率制御部146では、各電力判定部142から送られてきた強度信号を基に、各電力判定部142のうちで、どの電力判定部が相対的に最大強度の信号を受信したかを、判断する。さらに、最大強度の信号を受信した電力判定部に接続された中継局13(以下、説明の簡便のために『最大強度中継局』と称する)を特定し、加えてこの中継局13に、図1に示す如く地理的に隣接する中継局13(以下、説明の簡便のために『隣接中継局』と称する)を特定する。
【0017】
その後、増幅率制御部146では、最大強度中継局に接続された増幅器148の増幅率を『大』に、隣接中継局に接続された増幅器148の増幅率を『中』に、これらいずれにも該当しない中継局に接続された増幅器148の増幅率を『小』に、それぞれ設定する。
その後、移動局へ向けて送信されるべき信号が、ベースバンド変復調部145ならびに中間周波数変復調部144において変調され、分波器147において各中継局向けに分波され、中継局13の個数分の、同じ内容を持った信号に分波される。その後、分波されたそれぞれの信号は、個別の増幅器148ごとに設定された増幅率に従って増幅され、さらに電気・光変換器149においてアナログ信号のまま光信号に変換されて、光ファイバ15を介して中継局13に伝達される。
【0018】
図4以降の図面を用いて、本実施例のシステムの動作について説明する。図4以降の各図において、各参照符号は、図3までの図において説明した構成要件と同じものを示す。
図4に示すように、移動局11が、隣接するセルが重なり合う領域の付近を移動しながら通信する状況を想定する。ここでは、移動局11がセル16aからセル16bへ移動しつつある状況を想定する。
【0019】
ここで、移動局11からパイロットシンボル信号を送信する。
図4において、移動局11から送信されたパイロットシンボル信号は、無線通信回線を介して、中継局13aならびに13bによって受信される。そこで、両方の中継局において、電力判定部142が移動局11から受信したパイロットシンボル信号の強度を検出する。この段階では、移動局11は中継局13a寄りに位置しており、そのため、中継局13aでの受信信号強度が、中継局13bでの受信信号強度よりも高い。この検出結果は、増幅率制御部146に送られる。増幅率制御部146では、送られてきた中継局ごとの受信強度情報を比較する。ここでは前述の通り、中継局13aでの受信強度が、中継局13bでの受信強度よりも高い。そこで増幅率制御部146では、受信強度の情報を基に、中継局13aが移動局11に最も近い最大強度中継局であり、中継局13bが最大強度中継局である中継局13aに隣接する隣接中継局である、と判断する。
【0020】
この判断結果に基づいて、増幅率制御部146では、中継局13からの送信信号強度を、移動局11から最寄りの中継局13aにおいては最大とし、その他の局である中継局13bにおいては中程度と定める。この送信信号強度の情報は、増幅器148へ送られ、増幅器148において個別に増幅率が設定される。その結果、中継局13aならびに13bから移動局11へ送信される信号の強度が、送信強度信号に従って制御される。この結果、セル16aの面積は最大となり、セル16bの面積は中程度に抑制される。
【0021】
その後、図5に示すように、移動局11が中継局13aと中継局13bとの中間位置を通過し、中継局13b寄りに移動する。このときに、前述の時点と同様に、移動局11からパイロットシンボル信号を送信し、このパイロットシンボル信号の強度を、両方の中継局において電力判定部142が検出する。この検出結果は、強度情報の信号に反映され、増幅率制御部146に送られる。
ここで、増幅率制御部146では、電力判定部142から送られてきた中継局ごとの受信強度情報を比較する。
【0022】
この時点では、移動局11は中継局13aよりも中継局13bに近い位置まで移動しているため、パイロットシンボル信号の受信強度は、中継局13aよりも中継局13bにおいて強くなっており、増幅率制御部146での比較結果も、この関係を反映したものとなる。この判断結果に基づいて、増幅率制御部146では、中継局13からの送信信号強度を、最大強度中継局である中継局13bにおいては最大とし、隣接中継局である中継局13aならびに中継局13cにおいては中程度と定める。この送信信号強度の情報は、増幅器148へ送られ、増幅器148において個別に増幅率が設定される。その結果、中継局13aならびに13bから移動局11へ送信される信号の強度が、送信強度信号に従って制御される。この結果、セル16bの面積は最大となり、セル16aの面積は中程度に抑制される。
【0023】
この結果、セル16aとセル16bとの相対的な大小関係は逆転し、移動局11は縮小されたセル16aの範囲から外れて、拡大されたセル16bの範囲だけの内部に位置することになる。
このようにして、移動局11の移動に伴い、移動局11がパイロットシンボル信号を送信する度に、各中継局においてパイロットシンボル信号の受信強度を測定して、中央局において受信強度を相互に比較し、比較結果に基づいて中継局からの送信強度を中央局が制御する。
【0024】
このようにすることで、各中継局からの送信強度は、移動局から最寄りの中継局からの送信強度だけが常に最大となり、最寄りの中継局に隣接する中継局からの送信強度は、中程度に抑制されることになる。
また、このときに、移動局から離れた位置に在る上記以外の中継局、すなわち移動局から最寄りの中継局にも、移動局から最寄りの中継局に隣接する中継局にも該当しない中継局からの送信強度については、同じく中央局からの制御により、隣接する中継局からの送信強度よりもさらに小さい小程度の強度にしておくようにしておくことで、さらに干渉抑制効果を期待できる。たとえば図6に示すように、移動局11が中継局15cの付近まで移動したときには、中継局15aは、最大強度中継局にも隣接中継局にも該当しない。このときに、路側局15aからの送信強度を、小程度にしている。
【0025】
上記実施例においては、移動局11が1台存在する場合について説明したが、軌道12上を複数の移動局11が並行して移動する場合には、本実施例の技術思想を用いて、各移動局11に最寄りの複数の中継局を最大強度中継局とするような制御も、当然に考えられる。本発明は、そのような変形例を発明の範囲から排除するものではない。また、本実施例では、移動局11からの受信電力の判定においてパイロット信号を用いた例について説明したが、変調方式によってはパイロット信号を用いずに受信電力を判定することも可能である。同様にパイロット信号を用いない場合についても発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、特に中央局と移動局とが複数の中継局を介して通信を行る形式の移動体通信システム、特に複数の中継局が同じ信号を並列に送信するようなシステムにおいて、有効である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】従来の移動体通信システムの構成を示す説明図である。
【図2】中継局の構成を示す説明図である。
【図3】中央局の構成を示す説明図である。
【図4】中継局からの送信強度の制御の過程を示す説明図である。
【図5】中継局からの送信強度の制御の過程を示す説明図である。
【図6】中継局からの送信強度の制御の過程を示す説明図である。
【符号の説明】
【0028】
11 移動局
13a 中継局
13b 中継局
13c 中継局
14 中央局
15a 光ファイバ
15b 光ファイバ
15c 光ファイバ
16a セル
16b セル
16c セル
131 周波数変換部
132 電気・光変換器
133 光・電気変換器
134 周波数変換部
141 光・電気変換器
142 電力判定部
143 合波器
144 中間周波変復調部
145 ベースバンド変復調部
146 増幅率制御部
147 分波器
148 増幅器
149 電気・光変換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央局と複数台設置された路側局とから成り、路側局を介して、移動局が中央局との間で通信を行う移動体通信システムの装置であり、少なくとも移動局と路側局との間の通信を無線回線を介して行う通信装置であって
路側局において移動局から受信した無線信号の強度を測定する信号強度測定手段と、
測定された強度を路側局相互に比較する信号強度比較手段と、
比較結果に基づいて、路側局から移動局へ向けて送信する無線信号の強度を路側局ごとに制御する送信信号強度制御手段とを備え、
前記送信信号強度制御手段が、前記比較の結果いずれの路側局において最大の受信信号強度が得られたかを特定し、最大の受信信号強度を得た路側局に隣接する路側局から移動局へ向けて送信する無線信号の強度を、最大の受信信号強度を得た路側局から移動局へ向けて送信する無線信号の強度よりも小さくすることを特徴とする、移動体通信システムの通信装置。
【請求項2】
請求項1に記載の路側通信装置であって、最大の受信信号強度を得た路側局にも、最大の受信信号強度を得た路側局に隣接する路側局にも該当しない路側局から移動局へ向けて送信する無線信号の強度を、最大の受信信号強度を得た路側局に隣接する路側局から移動局へ向けて送信する無線信号の強度を、少なくとも上回らないようにすることを特徴とする、移動体通信システムの通信装置。
【請求項3】
請求項1もしくは2に記載の路側通信装置であって、路側局と中央局との間の通信を有線回線を介して行うことを特徴とする、移動体通信システムの通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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