説明

通信装置

【課題】 従来のフィルタリング処理を行うことなく電源高調波雑音を除去して、電源高調波雑音の影響を受けない通信が安価な構成で行える通信装置を提供する。
【解決手段】 電源高調波雑音Nの周波数は、50Hzの商用周波数fの整数倍になる。このため、送信信号を搬送するサブキャリアの周波数fを、50Hzの整数倍になる電源高調波雑音周波数間の値、例えば、25Hzおよびその奇数倍になる値に設定する。このように信号周波数(サブキャリア周波数)と電源高調波雑音の周波数とが直交関係に設定されて、信号通信が行われることで、通信する信号を電源高調波雑音から容易に分離して取り出すことができ、電源高調波雑音を極めて精度良く除去して復調することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号間の直交性を利用して信号通信する通信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の通信装置としては、直交する複数の搬送波を変調して多重化する直交周波数分割多重(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:OFDM)によって信号通信する、例えば、特許文献1に開示された通信システムがある。この通信システムでは、柱上変圧器と分電盤との間の屋内に信号付加装置が設けられている。この信号付加装置内にはOFDM変調部が備えられており、このOFDM変調部により、情報を暗号化/復号化するための暗号情報がOFDM変調され、電力を供給する電源信号に電源付加信号として付加される。この電源付加信号は電力線搬送通信によって家屋内の電力線を伝搬し、家屋内の各部屋に設けられた第1電子機器および第2電子機器に受信される。第1電子機器は、受信した電源付加信号に含まれる暗号情報をOFDM復調し、復調した暗号情報に基づいて所定の情報を暗号化し、第2電子機器へ送信する。第2電子機器は、第1電子機器から送信された所定の情報を受信すると共に、受信した電源付加信号に含まれる暗号情報をOFDM復調し、復調した暗号情報に基づいて所定の情報を復号化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−124859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のような電力線搬送通信を用いた通信システムにおいては、特に電波法の規制対象外となる10kHz以下の周波数帯を使用する場合に、電源高調波雑音の影響を無視することができない。ここで、電源高調波雑音とは、商用電源周波数(50Hzまたは60Hz)の整数倍の周波数を持つ雑音成分をいい、例えば、商用電源50Hzに対し、100,150,200,250Hz,…などの周波数を持つ雑音成分をいう。通常この周波数帯を用いた電力線搬送通信では、アナログフィルタ回路による帯域制限、および、デジタル信号処理理論に基づいたフィルタリング処理を行うことで、電源高調波雑音の除去が行われている。
【0005】
しかし、高性能なアナログフィルタを実現するためには高精度の部品が必要であり、また部品点数も増加するため、コストアップにつながるという問題がある。また、信号周波数に近い周波数帯の電源高調波雑音を十分に取り除くような急峻なフィルタを構成するのは、極めて難しい。
【0006】
また、デジタルフィルタ処理では、例えば電源周波数に同期したサンプリングを行うことにより、一定間隔の周波数成分を大きく減衰させる特性を持つコムフィルタ(Comb filter:櫛形フィルタ)処理を用いて、電源高調波雑音を取り除くことができる。同様に、FIRフィルタ(Finite Impulse Response filter:有限インパルス応答フィルタ)や、IIRフィルタ(Infinite Impulse Response filter:無限インパルス応答フィルタ)などの一般的なデジタルフィルタ処理を用いても、電源高調波雑音を取り除くことができる。しかし、これらの技術は有用であるが、バッファメモリを多く必要とするため、やはりコストアップの要因となる。また、上記のデジタルフィルタ処理はサンプリング毎に必要となるため、高速演算処理が要求される場合が多い。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はこのような課題を解決するためになされたもので、通信する信号の信号周波数を電源高調波雑音の周波数と直交関係になる値に設定して、信号通信を行うことを特徴とする。
【0008】
本構成によれば、通信する信号の信号周波数と電源高調波雑音の周波数とが直交関係に設定されて、信号通信が行われる。ここで、直交関係に設定されるとは、ベクトルが直角に交わり、乗算して1周期分積分したときに0になる関係に設定されることをいう。直交関係にあるベクトルが合成されて作られたベクトルは、簡単に元の2つのベクトルに戻すことが出来る。このため、通信する信号を電源高調波雑音から容易に分離して取り出すことができ、電源高調波雑音を極めて精度良く除去して復調することが可能となる。
【0009】
この結果、従来の高性能なアナログフィルタを用いることなく電源高調波雑音が除去されるため、高精度の部品が不要となり、また部品点数も減少するため、コストダウンにつながる。また、構成するのが極めて難しい急峻なフィルタを作る必要もなくなる。
【0010】
また、従来のデジタルフィルタ処理を行うことなく電源高調波雑音が除去されるため、処理に必要なバッファメモリが少なくて済む。また、信号周波数を電源高調波雑音周波数間の値に設定し、信号の1変調周期を信号周波数の1周期に設定することにより、信号の復調は長いこの1変調周期の間に行えばよいので低速で演算処理を行える。このため、高速演算処理を必要としなくなって、安価な構成で通信が行えるようになる。
【0011】
また、本発明は、信号が、電力線によって供給される交流電源に重畳されて電力線搬送されることを特徴とする。
【0012】
本構成によれば、信号通信が電力線を介して行われ、電源高調波雑音の影響を受けない電力線搬送通信を安価な構成で行うことが可能になる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、上記のように、従来のフィルタリング処理を行うことなく電源高調波雑音が除去されるため、電源高調波雑音の影響を受けない通信が安価な構成で行える通信装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(a)は、本発明の一実施形態による通信装置のOFDM変調器、(b)は、OFDM復調器の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態による通信装置で設定される信号周波数と電源高調波雑音周波数との関係を示すグラフである。
【図3】本発明の一実施形態における信号の1フレーム中のサンプル数を概念的に説明するための図である。
【図4】本発明の一実施形態による通信装置に用いられるサブキャリアの電力スペクトルを示すグラフである。
【図5】本発明の一実施形態による通信装置により復調された1つのサブキャリアの電力スペクトルの一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の一実施の形態による通信装置について説明する。
【0016】
図1(a)は、本実施形態による通信装置のOFDM変調器、同図(b)は、この通信装置のOFDM復調器の構成を示すブロック図である。
【0017】
同図(a)に示すOFDM変調器では、送信シンボル系列d,d,…,dは、直並列変換器1によって直並列変換され、IDFT(Inverse Discrete Fourier Transform)変換器2によって逆離散フーリエ変換されて、OFDMシンボルの標本値に変換される。
【0018】
この際、標本化周期は、送信信号を搬送するサブキャリアの周波数が電源高調波雑音周波数間の値となるように設定され、送信信号の1変調周期が送信信号周波数の1周期に設定される。例えば、電力線によって供給される交流電源の商用周波数が50Hzである場合には、図2のグラフに示すように、電源高調波雑音Nの周波数は、50Hzの商用周波数fの整数倍になる。なお、同グラフにおいて、横軸は周波数(Hz)、縦軸は信号レベルを表す。このため、送信信号を搬送するサブキャリアの周波数fを、50Hzの整数倍になる電源高調波雑音周波数間の値、例えば、25Hzおよびその奇数倍になる値に設定する。このようにキャリア周波数fを設定し、図3に示すように、灰色で塗られた送信信号Sの1変調周期となる1フレームを、このキャリア周波数fの1周期である40(=1/25)msecに設定する。なお、同図において、横軸は時間を表し、符号Nは雑音を示す。サブキャリア変調はこの1フレームをMサンプルして行われる。つまり、信号のサンプリングを行う際に、25Hzの1周期に相当する40msec間にMサンプルを抽出して、このMサンプルを1フレームとして取り扱う。
【0019】
図1(a)に示すIDFT変換器2によって逆離散フーリエ変換されて得られた標本値は、並直列変換器3によって並直列変換された後、連続信号に変換されてD−A変換器4によってデジタル信号からアナログ信号に変換される。アナログ信号に変換された連続信号は、LPF(低域通過フィルタ)5に通されて、乗算器6によって搬送波が掛け合わされた後、BPF(帯域通過フィルタ)7に通されて、伝送路となる電力線に送信される。
【0020】
このようなOFDM変調器によって変調されたOFDM信号の1送信シンボルを搬送するサブキャリアは、その電力スペクトルが図4(a)のグラフに示される。サブキャリアの電力スペクトルは、同グラフに示すように、周波数は広がるものの、その強さが0になっているところがある。このような0になるところに、同図(b)に示すように、点線で表す他のサブキャリアの周波数を設定することで、各サブキャリアは相互に直交関係に設定される。なお、図4に示す各グラフの横軸は周波数、縦軸は信号レベルを表す。また、本実施形態では、サブキャリアの周波数が電源高調波雑音周波数間の値となるように設定されているため、各サブキャリアは電源高調波雑音との間でも直交関係に設定される。このように直交関係に設定されることで、各サブキャリアは、他のサブキャリア、および電源高調波雑音との間で、相互に影響を受けることなく、電力線を伝搬する。
【0021】
OFDM変調器から送信された信号は電力線搬送通信(PLC)によって電力線を伝搬し、図1(b)に示すOFDM復調器に受信される。
【0022】
OFDM復調器では、受信信号がBPF11に通された後、乗算器12によって再生搬送波に掛け合わされる。さらに、受信信号はLPF13に通され、A−D変換器14によってアナログ信号からデジタル信号に変換されて、直並列変換器15によって直並列変換される。直並列変換された受信信号は、DFT(Discrete Fourier Transform)変換器16によって離散フーリエ変換されて復調され、並直列変換器17によって並直列変換されて元の送信シンボルとなる。
【0023】
図5は、送信信号を975Hzの中心周波数を持つサブキャリアで搬送し、DFT演算処理により検出した1つのサブキャリアの電力スペクトルを示すグラフである。なお、同グラフの横軸は周波数Fn、縦軸は信号レベルDmを表す。同グラフに示すように、信号は、25Hzの奇数倍の975Hzを中心とする周波数にあり、50Hzの整数倍となる電源高調波雑音周波数において信号成分は0となり、信号と電源高調波雑音とが直交していることが理解される。すなわち、信号のサンプリングを行う際にMサンプルを1フレームとして取り扱い、DFT演算処理を行うことで、分解能25Hzの周波数成分検出が可能となる。
【0024】
このような本実施形態による通信装置によれば、通信する信号の信号周波数(サブキャリア周波数)が、電源高調波雑音の周波数と異なる25Hzおよびその奇数倍に設定され、なおかつ、DFT演算処理の周波数分解能の範囲内に設定されて、つまり、50Hzの整数倍である電源高調波雑音の周波数と通信する信号の信号周波数とが直交関係に設定されて、信号通信が行われる。このため、デジタル信号処理により、通信する信号を電源高調波雑音から容易に分離して取り出すことができ、電源高調波雑音を極めて精度良く除去して復調することが可能となる。
【0025】
この結果、従来の高性能なアナログフィルタを用いることなく電源高調波雑音が除去されるため、高精度の部品が不要となり、また部品点数も減少するため、通信装置のコストダウンにつながる。また、構成するのが極めて難しい急峻なフィルタを作る必要もなくなる。また、従来のデジタルフィルタ処理を行うことなく電源高調波雑音が除去されるため、処理に必要なバッファメモリが少なくて済む。
【0026】
また、信号周波数を電源高調波雑音周波数間の値の例えば25Hzおよびその奇数倍に設定し、信号の1変調周期を信号周波数の1周期の例えば40msecに設定することにより、信号の復調は長いこの1変調周期の間に行えばよいので低速で演算処理を行える。このため、従来のデジタルフィルタ処理におけるサンプリング毎の高速演算処理を必要としなくなって、安価な構成で通信が行えるようになる。
【0027】
また、本実施形態による通信装置では、信号が、電力線によって需要家に供給される交流電源に重畳されて電力線搬送される。このため、電源高調波雑音の影響を受けない電力線搬送通信を安価な構成で行うことが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
上記実施形態では、OFDM変調器により、信号を複数のサブキャリアで搬送するマルチキャリア伝送した場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものでない。すなわち、マルチキャリア伝送することなく、1つのキャリアで信号伝送する場合にも、本発明は適用可能であり、通信する信号の信号周波数と電源高調波雑音の周波数とが直交関係に設定されて、信号通信が行われればよい。
【0029】
また、上記実施形態では、通信装置が電力線搬送通信方式を用いて信号通信を行う場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものでない。例えば、他の通信方式を用いた信号検出における高調波雑音除去にも用いることが可能である。
【符号の説明】
【0030】
1、15…直並列変換器
2…IDFT(Inverse Discrete Fourier Transform)変換器
3、17…並直列変換器
4…D−A変換器
5、13…LPF(低域通過フィルタ)
6、12…乗算器
7、11…BPF(帯域通過フィルタ)
14…A−D変換器
16…DFT(Discrete Fourier Transform)変換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信する信号の信号周波数を電源高調波雑音の周波数と直交関係になる値に設定して、信号通信を行うことを特徴とする通信装置。
【請求項2】
前記信号は、電力線によって供給される交流電源に重畳されて電力線搬送されることを特徴とする請求項1に記載の通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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