説明

通常設備又は原子力技術設備の湿式化学洗浄時に発生する、有機物質及びイオンの形態の金属を含有する、廃棄物溶液の調整のための方法

本発明は、通常設備又は原子力技術設備の湿式化学洗浄時に発生する、少なくとも1つの有機物質及びイオンの形態の少なくとも1つの金属を含有する、廃棄物溶液の調整のための方法に関するものであり、前記有機物質の少なくとも一部が前記廃棄物溶液の電気化学処理又は紫外線照射によって分解され、前記少なくとも1つの金属がリン酸の添加によって沈殿し、生じたリン酸塩沈積物が前記廃棄物溶液から取り除かれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通常設備又は原子力技術設備を湿式化学洗浄時に発生する、有機物質及びイオンの形態の金属を含有する、廃棄物溶液の調整のための方法に関する。このような溶液は、例えば原子力発電所の蒸気発生器の二次側を洗浄する場合に、磁鉄鉱を含有する堆積物が取り除かれるときに発生する。この目的のために、例えばFe−II及び/又はFe−IIIのような金属イオンとの間で水溶性の錯体を形成する少なくとも1つの有機薬剤、例えばEDTAのような有機酸、を含有する、洗浄溶液が用いられる。洗浄の完了後、前述した錯化合物及び場合により消費されなかった有機薬剤を含有する廃棄物溶液が残る。そのほか、アミンのようなこれ以外の有機化合物や無機化合物、例えば硝酸イオン及びアンモニウムイオン、も含まれている可能性がある。有機物質の含有量を表す目安として、通常、COD値が援用される。この値は、有機物質を分解してCO2及び水にするのに必要なChemical Oxygen Demand(化学的酸素要求量)を表している。
【背景技術】
【0002】
このような種類の廃棄物溶液は、多くの場合において、金属含有量及びCOD値が高いという理由からだけでも、環境保全的な処分を必要とする。放射能汚染されていない溶液の場合、例えばドイツなど幾つかの国は、特殊ゴミとしての焼却による処分を許可している。廃棄物溶液が放射能汚染されている場合−これは、例えば原子力発電所の蒸気発生器を洗浄するときに該当する可能性がある−又は非放射性の廃棄物溶液でも焼却が許されていない場合は、このような種類の方策は考慮の対象とならない。現行の調整方法では、適切な電極を用いて、有機成分が電気化学的ないし電気分解的に、理想的には、完全に分解されて二酸化炭素と水とになる。溶液から金属イオンを取り除くために、溶液がイオン交換器に通される。このとき、イオン吸着をした、場合により放射能汚染された著しい量の交換樹脂が二次廃棄物として発生し、これを極めてコストのかかるやり方で中間貯蔵又は最終貯蔵しなければならない。金属を吸着した交換樹脂では、交換樹脂と金属イオンとの容積ないし質量との間の容積比が極めて不都合である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
以上を背景とする本発明の課題は、冒頭に述べた種類の廃棄物溶液を簡単かつ経済的な仕方で調整可能である方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この課題は、請求項1に記載の方法によって解決され、及び請求項4に記載の方法によって解決される。前者の方法では、有機物質の少なくとも一部が廃棄物溶液の電気化学処理によって分解され、少なくとも1つの金属がリン酸の添加によって沈殿し、生じたリン酸塩沈積物が廃棄物溶液から取り除かれる。請求項4に記載の方法がこれと相違するのは、廃棄物溶液に含まれる金属が、電気化学的処理によってではなく紫外光による処理によって、分解される点である。
【0005】
電気化学処理に基づき又は紫外光照射に基づき、有機化合物は最終的にCO2と水とに分解される。金属錯化合物は、その分解の過程で初めて、これらにより錯結合された金属イオンを遊離する。いずれの方法の態様においても、酸性から弱塩基性の溶液中で、即ち、およそ3から9までのpH領域で、作業を進めるのが好都合である。それにより、金属水酸化物の沈積物の形成が妨げられ又は低減されるからである。アルカリの範囲内で生じるこのような沈積物は非常にゆっくりと沈降し、例えば濾過などで、分離することが非常に難しい。リン酸塩沈積物は、これとは全く異なる挙動を見せる。リン酸塩沈積物は、さほど容積が大きくなく、少ない装置コストで、例えば濾過や遠心分離によって、問題なく分離することができる。イオン交換器による分離とは対照的に、この方法では、明らかに、より少ない廃棄物容積しか発生しない。
【0006】
更に、金属を沈殿させるために使用するリン酸は、上述したpH値範囲(およそ3から9までのpH)を調整する役目を同時に果たすことができ、また特に、リン酸はオキソ酸であるので、有機化合物の分解を迅速化させるという利点がある。オキソ酸ないしその酸残基(リン酸塩)からペルオキソ化合物(ペルオキソリン酸塩)が陽極で形成され、これは非常に強力な酸化剤として、有機物質が二酸化炭素と水とに酸化分解されるのを促進する。従って、鉄、コバルト、ニッケルなど多くの金属との間で難溶性の沈積物を形成する、本発明に基づいて使用されるリン酸は、一方では、多くの金属、特に鉄、を廃棄物溶液から問題なく分離することを保証するとともに、他方では、分解プロセスの促進を保証する。
【0007】
水溶液中の有機物質のそれ自体公知の電気化学分解では、オキソ酸、例えば硫酸、は、分解の促進という観点からのみ使用されていたにすぎない。その際には沈殿反応は意図されていない。金属イオンとリン酸イオンとの間の非常に迅速な反応に基づき、並びに、迅速に進行する沈積物形成に基づき、後でまた詳しく説明するように、混濁その他の不利な現象が少なくとも低減される。
【0008】
本方法の紫外光による態様の場合、過酸化水素のような強力な酸化剤が分解の促進のために添加される。
【0009】
いずれの方法の態様においても、まず、廃棄物溶液に含まれる有機物質の分解を希望する程度まで実施し、次いで、リン酸の添加によって金属の沈殿を行なうことが考えられる。しかしながら、いずれの方法による態様の場合でも、沈殿を事前に開始させておくのが好ましく、特に既に最初から、即ち、廃棄物溶液に含まれる有機物質がまだ完全に分解されていない時点で、ないしは所望の程度まで分解されている時点で、開始させておくのが好ましい。それにより、いずれの方法による態様においても、後でまた詳しく説明するように、本方法の効果が向上する。
【0010】
本方法の実際の実施は、比較的少ない技術コストで可能である。処理されるべき廃棄物溶液は、有機物質が許容可能な残量になるまで又は完全に分解されるまで、適切な容器の中で電気分解され又は紫外光で照射される。電気分解処理の場合、場合により支障となる酸素の形成を抑制し、(オキソ化合物からの、特にリン酸からの)強力に酸化をするように作用するペルオキソ化合物の発生を可能にするために、少なくとも陽極としてダイヤモンド電極が用いられる。廃棄物溶液として、原子力発電所の蒸気発生器の洗浄に使われた使用済みの洗浄溶液が処理される場合、このような廃棄物溶液は、蒸気発生器の磁鉄鉱堆積物に由来する多量の鉄を含有している。このような堆積物を溶かすために、洗浄溶液はEDTAのような有機の錯形成体を含んでいる。通常は鋼材である蒸気発生器の金属素材に対する洗浄時の攻撃を防ぐために、アルカリ性の環境で作業が行われている。即ち、洗浄溶液は、アンモニアないしアンモニウムイオンやモルホリンのようなアルカリ化剤を含有している。更に洗浄溶液は、蒸気発生器の材料に対する酸化攻撃を防止するために、ヒドラジンのような還元剤を含有している。洗浄の後、主として2価の形態で存在する鉄は、錯体として、例えばEDTA錯体として、溶けている。鉄のほか、このような種類の廃棄物溶液には、コバルトやニッケルといった他の金属も少量存在している可能性がある。その中には、少量の漏れによって蒸気発生器の二次側に到達した放射性核種も存在している場合がある。蒸気発生器の洗浄では、およそ数百立方メートル前後、例えば250m3、の大量の使用済み洗浄溶液が発生する。このような量の廃棄物溶液を是認できる時間コストで処理できるようにするために、多孔性材料からなるプレート状の電極が用いられる。このとき電極プレートは、例えば28m2〜40m2の面積を有している。電極プレート、即ち、その外側及び内側の表面は、薄いダイヤモンド層を備えている。本方法の処理時間は、有機物質による廃棄物溶液のその都度の処理の負荷、電極面積及び電流密度に依存して決まる。
【0011】
上述した種類の廃棄物溶液で、金属水酸化物の沈殿が防止又は少なくとも低減されるようにpH値が調整される。これに該当するのは、およそ3から9のpH値である。水酸化物沈積物は、廃棄物溶液から分離するのが難しいということ以外に、電極面や紫外照射器に沈降してその機能を損なうという別の欠点がある。酸性溶液中での作業が好ましい理由は、濾過が困難な金属水酸化物沈積物の形成を確実に防止できるからである。更にリン酸が溶液に添加されるが、これは、溶液に含まれる金属、即ち主として鉄、を沈殿させるのに十分な量で行われる。このときには、化学量論量のリン酸が用いられるのが好ましい。過剰量は沈殿に効果を及ぼすことがなく、二次廃棄物を増やしてしまうだけだからである。55.85gの質量に相当する1モルの鉄には、1モル、即ち、98gのリン酸が必要である。添加されたリン酸が既に溶液の酸性化を引き起こすので、多くの場合、pH値調整のための追加の方策は必要ない。電気分解中又は紫外線照射中に、錯形成体、例えばEDTA、を始めとする全ての有機成分が二酸化炭素と水とに分解される。このとき、例えば5g/lから40g/lの範囲内の含有量で、存在する鉄が遊離し、それによってリン酸のリン酸基と結合して難溶性のリン酸鉄になることができ、これが沈積物として容器の底に溜まる。リン酸鉄及びその他の金属の難溶性リン酸塩は迅速に沈降し、好ましくは濾過又は遠心分離によって、問題なく溶液から分離することができる。それにより、廃棄物溶液から、事実上、全ての金属含有物が、場合により存在する放射性核種を含めて取り除かれる。残った溶液は、せいぜいのところ完全には分解されなかった有機化合物の残滓や不純物を含んでいるにすぎず、従って従来の仕方で、例えば蒸散や焼却によって、処分することができる。分離されたリン酸塩は、特殊ゴミとして相応の処分措置に回すことができる。放射能汚染がある場合には、場合により固体の結合剤マトリクスに固定したうえで、相応の最終貯蔵所又は中間貯蔵所へ持ち込む。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】鉄含有量を比電荷に対してプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
上述したリン酸の添加は、原則として、本方法の任意の時点で行なうことができる。しかし意外なことに、既に最初から、即ち、電気化学処理中に、リン酸が存在しているか又はリン酸が添加されると、本方法がいっそう効果的に遂行されることが判明した。廃棄物溶液の処理中にリン酸を最初から添加し、そして、1つのケースについては本方法の終わり頃に添加した。これらの廃棄物溶液は、同量の未消費EDTA、モルホリン、ヒドラジン及び鉄を含有していた。有機物質の総含有量は、320,000mg O2/lから370,000mg O2/lの化学的酸素要求量、即ち、COD値に相当していた。約30m2の幾何学面積を有する上述した種類のプレート状のダイヤモンド電極で、廃棄物溶液を、それぞれ、処理した。処理中、特定の時間間隔で鉄含有量と、その都度の比電荷を判定した。下に掲げるグラフには、鉄含有量が比電荷に対してプロットされている。鉄含有量に対する化学量論量でリン酸を当初から添加したケースでは、総電荷量が1,500Ah/lのとき、当初の1,100mg/l〜1,300mg/lの鉄含有量が10mg/l以下の値まで減少したことが認められる(グラフ中、それぞれ三角形及び丸形の測定点で示す曲線を参照)。それに対し、本方法の終わり頃に初めて、即ち、約1,500Ah/lの電荷量が供給されたときに、リン酸が(同じく鉄含有量に対して化学量論量で)添加されると、リン酸塩の沈殿後に遥かに多い鉄の残留量が、すなわち約110mg/lの含有量が、廃棄物溶液中に残ることが分かった(グラフ中、四角形の測定点で示す曲線を参照)。リン酸が最初から存在していれば、遊離鉄が直ちに結合されてリン酸鉄として沈殿する。リン酸鉄は比較的迅速に反応容器の底に沈むので、電極表面への堆積という危険は非常に小さい。それに対してリン酸が存在していないと、鉄を含有する堆積物が電極に形成され、これが電極の効率や沈殿にマイナスの影響を及ぼす。
【0014】
廃棄物溶液の有機含有物質の分解は、電気化学処理に代えて又はこれに加えて、紫外線照射により行なうこともできる。過酸化水素のような酸化剤と組み合わせた紫外線照射により、同じく有機物質が実質的に二酸化炭素と水とに分解される。このとき錯体として結合された金属が遊離し、それによって上に説明したような仕方で沈殿し、分離することができる。
【0015】
紫外照射を用いた排水処理の場合にも、同様に、リン酸を最初に添加するのが好ましく、これは特に、鉄を含有する堆積物で紫外線ランプの反応面が覆われるという最後に挙げた現象の観点からである。紫外線照射ではリン酸が存在しないか又はリン酸が後の時点で初めて添加されると、紫外線収量の低下につながる溶液の混濁が起こることが観察されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通常設備又は原子力技術設備の湿式化学洗浄時に発生する、少なくとも1つの有機物質及びイオンの形態の少なくとも1つの金属を含有する、廃棄物溶液の調整のための方法において、前記有機物質の少なくとも一部が前記廃棄物溶液の電気化学的処理によって分解され、前記少なくとも1つの金属がリン酸の添加によって沈殿し、生じたリン酸塩沈積物が前記廃棄物溶液から取り除かれる方法。
【請求項2】
前記電気化学処理のために酸素過電圧を有する陽極が使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記廃棄物溶液にはリン酸のほか更に別のオキソ化合物が含まれている、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
通常設備又は原子力技術設備の湿式化学洗浄時に発生する、少なくとも1つの有機物質及びイオンの形態の少なくとも1つの金属を含有する、廃棄物溶液の調整のための方法において、前記有機物質の少なくとも一部が前記廃棄物溶液への紫外光の照射によって分解され、前記少なくとも1つの金属がリン酸の添加によって沈殿し、生じたリン酸塩沈積物が前記廃棄物溶液から取り除かれる方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの有機物質に対して有効な酸化剤が前記廃棄物溶液に添加される、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
過酸化水素が酸化剤として前記廃棄物溶液に添加される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つの有機物質がまだ完全には分解されていない時点でリン酸が添加される、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
リン酸が最初に添加される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
リン酸が金属含有量に対する化学量論量で添加される、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記廃棄物溶液が3から9のpH値に調整される、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
鉄を含有する廃棄物溶液を処理するために適用される、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
金属の有機錯化合物を含有する廃棄物溶液を調整するために適用される、請求項1から11までのいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2011−527233(P2011−527233A)
【公表日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517109(P2011−517109)
【出願日】平成21年7月3日(2009.7.3)
【国際出願番号】PCT/EP2009/058407
【国際公開番号】WO2010/003895
【国際公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(501315289)アレヴァ エンペー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (61)
【Fターム(参考)】