説明

通気抵抗測定装置

【課題】液体と固体からなる混合物の計測状態を適正に保ちつつ、簡易的に、そのような物質の通気量の測定ができる技術を提供する。
【解決手段】通気抵抗測定装置10は、上側の計測部20と下側の収容部40とから構成される。計測部20は、圧力計36と、送風用ポンプ32と、堆肥サンプルSを圧縮するための圧縮力可変機構34とを備える。圧縮力可変機構34は、軸部39とその下側先端に取り付けられた第1の仕切り板61とを備え、収容部40に充填された堆肥サンプルSを所望の圧縮率で圧縮する。また、第1の仕切り板61は、2枚のパンチングメタルが重なって構成され、外周部に所定幅で環状(リング状)に形成されたショートパス防止リング部と、多孔状のメッシュ部とから構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は通気抵抗測定装置に係り、例えば、堆肥や汚泥などのように、固体と液体との混合物の通気性の評価を、通気抵抗を測定することで行う通気抵抗測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば牛、豚又は鶏等の家畜の糞尿、人の糞尿、生ごみ若しくは下水汚泥等は、堆肥原料として堆肥化されて有効利用されている。この堆肥化は、例えば好気性微生物等に堆肥原料を分解させることによって行われる。このため、適切な堆肥化を行うためには、微生物が適正に分解活動できるように、種々の環境条件を整える必要がある。一般に、微生物が堆肥原料を分解するために必要な環境条件としては、栄養源、水分、空気(酸素)、微生物の数、温度及び堆肥化期間等があげられる。
【0003】
これら環境条件のうちで、空気と水分は特に密接に関係している。具体的には、堆肥原料の水分量が多いと通気性が悪くなる。このため、堆肥原料の空気の量、即ち通気性の調整は、一般には、堆肥原料の水分を調整することによって行われる。そして、この水分の調整管理が適切で無い場合、堆肥化の作業がやり直しになってしまうおそれがある。堆肥化の作業にやり直しが発生すると、毎日発生する生ふん尿の行き場が確保できなくなってしまう。つまり、生ふん尿、生産・処理過程の堆肥、出来上がった堆肥を管理・保管する場所が無くなってしまう。この場合、生ふん尿をそのまま圃場に堆積させるいわゆる「野積み」がなされる。この野積みは、悪臭や害虫の発生、地下水等の汚染を引き起こしてしまうおそれがある。
【0004】
ところで、家畜ふん等の堆肥原料は、含水率が高くても十分な空気を供給できる通気性を確保できれば、効率よく堆肥化することが可能であることが知られている。所望の通気性の確保のために、オガクズ等の副資材の混合が行われる。しかし、副資材の入手が難しくなっていたり、糞尿の乾きやすさ等の季節的な要因で、副資材の混合割合等を変更する必要があるときがある。このような場合に、堆肥原料の調整が不十分となり、堆肥化が良好に行えないことがある。
【0005】
このような状況において、必要な通気性を確保することができれば、余分な副資材を混合することなく、堆肥原料の投入量の増大を防止でき、副資材の入手にかかる費用の削減にもつながる。そこで、堆肥化を良好に行うことが困難な場合、堆肥原料の通気性を把握して副資材の割合を見直すことが必要であり、このような堆肥原料の通気性を簡易に把握する技術が必要となる。
【0006】
堆肥の通気性を計測する技術としていくつか提案されているが、例えば、赤外線加熱乾燥測定方式を用いた技術がある。この赤外線加熱乾燥測定方式による含水率測定では、堆肥原料から所定量のサンプルを抽出し、赤外線加熱により乾燥させてその水分を蒸発させ、乾燥前後の重量差を測定することによって堆肥原料の含水率を求めている。
【0007】
また、含水率の測定には、水の誘電率が堆肥原料の誘電率より著しく高い値であることを利用したTDR(Time Domain Reflectometry)測定方式が用いられる場合もある。このTDR測定方式では、堆肥原料中に電磁波を流し、電磁波の反射時間を測定することで堆肥原料の誘電率を評価し、堆肥原料の含水率を求める。
【0008】
さらにまた、堆肥原料を直接測定する技術として、図1に示すような簡易静圧測定器を用いた技術がある。この技術では、ファンの先に通気孔のある所定の大きさ(90cm×90cm程度)の板に、堆肥原料を直接堆積させて測定する。
【0009】
また別の技術として、赤外線加熱乾燥測定方式やTDR測定方式の技術の課題である水分測定を通気量に置き換えるという課題を解決した技術もある。堆肥原料は、その原料の特性上、どうしてもムラが発生する。赤外線加熱乾燥測定方式やTDR測定方式の技術は、実際に堆肥原料が堆積されている量に対してサンプル量が少なく、上記ムラに十分対応できないという課題があった。その課題を解決するために、例えば、比較的小型な容器に堆肥原料を充填し、堆肥原料の密着状態を再現することで堆積高さを仮想的に再現し、その状態で通気量を測定する技術も提案されている(例えば、特許文献1参照)。堆肥化の現場では、経験的に通気量をもとに水分状態を把握し堆肥化の適正化を行っていることから、当該技術は、現場では非常に大きな効果が得られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−50176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、上記の簡易静圧測定器を用いた技術にあっては、堆肥を積み上げる領域が、90cm×90cm程度の領域であり、その領域に積み上げることのできる高さに制限がある。また、手作業で堆積するには重労働であり、実際の現場において導入するにはハードルが高いという課題があった。また、発酵槽に通気板を設置して重機で堆積することもできるが、測定後の装置の取り出しが難しく、重機を用いた堆肥の除去の際に装置が破損してしまうおそれがあった。
【0012】
また、特許文献1に開示の技術にあっては、簡便な通気量測定が可能となったが、堆肥を充填したときに、測定時の通気状態を良好に保つことが難しく、それを改善する技術が求められていた。具体的には、圧縮した状態で堆肥の通気量を測定するときに、容器側壁と堆肥の界面を通った通気のショートパスが発生したり、仕切りに目詰まりが発生して通気が阻害されたりするといった課題が生じていた。
【0013】
本発明は、以上のような状況に鑑みなされたものであって、その目的は上記課題を解決する技術を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は通気抵抗測定装置に関する。この装置は、固体と液体との混合物の通気抵抗を測定する通気抵抗測定装置であって、容器と、前記容器の内部に設けられ、前記混合物を充填する空間を形成するとともに、通気性を有する二つの仕切り手段と、前記二つの仕切り手段によって形成された前記空間の容積を調整する調整手段と、前記空間に空気を供給する送風手段と、通気したときの前記通気抵抗を計測するセンサと、を備える。
また、前記調整手段は、前記二つの仕切り手段のうち、上側に設けられた仕切り手段を動かすことで、前記空間の容積を調整してもよい。
また、前記混合物と前記容器の側壁との間に発生する通気のショートパスを防止するショートパス防止手段を備えてもよい。
また、前記仕切り手段は、圧縮したときに境界面に生じる液体を排出する機能を有してもよい。
また、前記仕切り手段は、所定の開口率を有する穴が形成された多孔状の板が複数重なっていてもよい。
また、前記混合物が充填される部分の空間の高さは、300mm以下であってもよい。
また、前記空間の断面積が5000mm〜250000mmの範囲であってもよい。
また、前記空間は筒状の形状を有し、内径が100mm〜500mmの範囲であってもよい。
また、前記調整手段による調整量は、圧縮率15〜60%に設定されてもよい。
また、前記混合物は、堆肥原料であり、前記調整手段による調整量は、前記堆肥原料のサンプルが取得された場所における堆積状態を反映させるように設定されてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、液体と固体からなる混合物の計測状態を適正に保ちつつ、簡易的に、そのような物質の通気量の測定を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】従来技術に係る、簡易静圧測定器の概略構成を示す図である。
【図2】一般的な堆肥化装置の外観を示す図である。
【図3】実施の形態に係る、測定装置に求められる機能等をまとめて示した図である。
【図4】実施の形態に係る、基礎試験装置の構成および試験方法の概要を示した図である。
【図5】実施の形態に係る、基礎実験の結果から得られた見掛風速と通気抵抗の関係を堆積高さごとに示した図である。
【図6】実施の形態に係る、基礎実験の結果から得られた見掛風速と通気抵抗の関係を容器の内径の大きさごとに示した図である。
【図7】実施の形態に係る、一般的な開放直線型の概拌装置付き堆肥化装置の概要を示した図である。
【図8】実施の形態に係る、基礎試験のデータを検討して決定した通気抵抗測定装置の概要を示した図である。
【図9】実施の形態に係る、通気抵抗測定装置による通気抵抗値の測定結果を示した図である。
【図10】実施の形態に係る、一般的な通気型堆肥化装置の概要を示した図である。
【図11】実施の形態に係る、図10の通気型堆肥化装置による通気抵抗の測定結果を示した図である。
【図12】第1の実施形態に係る、通気抵抗測定装置を計測部と収容部を分離した状態で模式的に示した側面図である。
【図13】第1の実施形態に係る、通気抵抗測定装置を計測部と収容部を連結した状態で模式的に示した側面図である。
【図14】第1の実施形態に係る、第1の仕切り板の外観を示した図である。
【図15】第2の実施形態に係る、通気抵抗測定装置の内部構造を模式的に示した図である。
【図16】第2の実施形態に係る、第1の仕切り板の外観を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明を実施するための形態(以下、単に「実施形態」という)を、図面を参照して具体的に説明する。
【0018】
まず、本実施形態の基本技術及び背景として、堆肥化における課題を簡単に説明する。さらに、本実施形態の装置を開発するに当たり行った基礎実験について説明し、つづいて基礎実験にもとづいて開発した通気抵抗測定装置について詳述する。
【0019】
<基本技術及び背景>
上述したように、家畜ふん等を効率的に堆肥化するためには、空気を供給しやすいように堆肥原料の通気性を確保することが重要である。そのためには堆肥原料の通気性が確保されているかどうかを把握する方法が必要となる。これまで副資材を混合するなどして堆肥原料の通気性を改善する「堆肥原料の調製」のために、「堆肥原料の水分を55〜72%程度に調整する」ことが指標とされてきた。しかし、堆肥化の実際の現場においては、水分測定は、測定時間がかかったり、測定機器類がないなどの理由から、あまり現実的ではないという現状がある。そして、堆肥原料の調製は、作業者の経験に基づいて行われているのが実状である。しかし、堆肥原料の調製の経験に基づくノウハウの伝承は難しいという課題もある。また、副資材としてオガクズやモミガラ等が使用されているが、季節的な供給量の変動などを理由に地域によっては副資材の入手が困難になってきている。
【0020】
このような状況において、堆肥化処理施設において堆肥原料の通気性を簡易に把握できれば、堆肥原料の調製や堆肥化処理を確実に行うことが可能となる。また、ノウハウの伝承が容易にもなる。また、適切な基準を得ることで副資材を堆肥に過不足なく混合することができ、堆肥化の促進につながる。そこで、家畜ふん等の堆肥化の難易を、堆肥化の初期段階で簡便に把握するために、以下に説明するように堆肥原料の通気性を簡易に評価する技術を提案する。
【0021】
ここで、堆肥原料の調整の概要について説明する。
堆肥化の一連の作業を簡単に表せば、次の流れになる。まず、畜舎のふん尿は、一旦ふん尿置場へ搬出され、堆肥原料の調製を経て、図2に示すような堆肥化装置200へ投入される。図2(a)は正面図であり、図2(b)が側面図である。
【0022】
堆肥原料は、堆肥化装置200へ投入された後は、ある一定の期間堆肥化処理されたあと、堆肥置場へと移される。一般に、堆肥化では通気装置として堆肥原料1m当たり100リットル/分(50〜300リットル/分)程度の空気が供給され、通気装置として1.0〜2.5kPa程度の静圧を有する送風機が推奨されている(中央畜産会 2000年)。そして、実際の現場では、多くの場合、50〜100リットル/分の空気が供給されている。
【0023】
上述したように堆肥原料には、どうしてもムラ(物理的な不均一性など)が発生してしまったり、季節的な変動が生じたりする。それらに対応しやすくするためには、静圧の能力に余裕のある送風機を選択する方が好ましい。一方で、静圧が高いほど運転コストが高くなるため、送風機のコスト低減等の観点では、通気構造や堆肥原料に関して通気性が良いほうが望ましい。また、コスト的に又は構造的に現状の送風機を新たな送風機に置き換えることができない場合もある。したがって、堆肥原料自体の通気性を適当な状態に調整することが必要となってくる。
【0024】
既に述べたとおり、堆肥原料の調製は「水分調整」と言われることが多く、水分が指標として用いられることが多い。しかし、水分の測定は、乾燥炉や天秤等の分析機器を必要とし、時間がかかったり、原料にムラがあったりするために、試料1点あたり数10g程度の分析を複数点行っても原料全体の水分を把握することが難しいなどの問題がある。また、堆肥原料を作る現場では、バケツなどを使用して見掛けの容積重を求め、これを指標とすることがある。しかし、これまでの経験では、非常に通気性の良い場合、つまり水分の低い場合には有効であるが、通気性の良否の判断が求められる範囲、例えば、乳牛ふん75%程度において、値がバラツキ、使用しにくいことが分かっている。
【0025】
一方、オガクズなどの副資材は、価格の高騰や入手が困難なってきている地域があり、古紙、剪定残さ、コーヒー粕、キノコの廃菌床などが副資材として使用することが提案されている。さらに、最近では、蕎麦殻、落花生の殻なども使用されており、農家ではそのときに入手可能な副資材を用いている例もある。
【0026】
以上のように、堆肥原料の調製は、水分の把握が難しいことや、堆肥化装置の処理能力の変動、入手可能な副資材の種類の変更などによって、求められる副資材の混合量の把握が困難な場合があるという問題がある。
【0027】
そこで、堆肥原料の通気性そのものを評価することで、堆肥化の状態を把握し、適正な堆肥化を実現する必要がある。通気性を測定する装置として、現場のニーズとしては、大きな場所をとらない、扱いやすい、さらには可搬性などが求められている。当然に、低コストかつシンプルで、メンテナンスが極力簡易なもの、さらに、堆肥状態など条件が様々に変化しても対応可能な装置が求められている。以上のような課題をクリアする通気抵抗測定装置を念頭に、まず、堆肥の通気量の検証を行った。
【0028】
想定する使用方法としては、バケツによる堆肥の測定から容積重を求める方法などと同様に、1回あたり数分の作業で終了できるような評価の簡便さ、手軽さが重要と考えられる。その上で、作業者が、通気性を数値で判定し、堆肥原料の調製にフィードバックできることが必要である。また、どれほど丹念に混合作業がなされても、堆肥原料中には必ずムラが存在する。このため、そのムラを含めて評価できるように、ある程度の量をまとめて評価できなければならない。さらに、使用される副資材も多くの種類があるため、様々な副資材を評価対象にできることが望ましい。これらを基に、堆肥原料の通気抵抗を測定できる技術として装置化することとした。図3は、測定装置に求められる機能など概要を示す表を示している。
【0029】
検討事項:
堆肥原料は、副資材の混合割合や堆積高さによって容積重が異なり、副資材の混合割合が少なければ容積重は大きくなり、また高く堆積されるほど自重によって密な状態となる。堆肥原料の通気性は、堆積された状態を想定して把握するほうが望ましい。そこで測定装置の容器内において堆肥原料を密にし、そのときの通気性に関するデータを得るため基礎試験を行った。
【0030】
基礎試験:
測定装置の良好な取扱性のためには、少ないサンプル量で評価できるほうが手軽であるが、堆肥原料全体をより正確に評価するためには多いサンプル量で評価するほうが望ましい。この相反する条件を満たす適当な装置の大きさ(サンプルの充填量)および通気抵抗の測定範囲などを決定するためのデータを得ることを目的に以下の試験を行った。
【0031】
試験方法:
試験は、堆肥原料を円筒容器に充填して荷重を加えて堆積高さを推定し、荷重を加えた状態で通気を行い、そのときの通気抵抗を測定した。
【0032】
堆肥原料は、乳牛ふん尿(88.0%w.b.)に、オガクズ(31.0%w.b.、平均粒径1.3mm)、モミガラ(11.4%w.b.、平均粒径3.1mm)、戻し堆肥(32.6%w.b.、平均粒径3.0mm)を各々混合して供試した。
【0033】
乳牛ふん尿に対する混合割合(重量)は以下の通りである。
オガクズ・・・0.66、0.26、0.21、0.18、0.13
モミガラ・・・0.41、0.16、0.15、0.12
戻し堆肥・・・1.02、0.76、0.64、0.54、0.51
【0034】
通気量は、堆積高さが0.5〜2.0mのときに堆肥原料1m当たり50リットル/分、100リットル/分の2種類に設定した。また、容器の径が通気性に及ぼす影響等を調査するため、内径100mm、200mm、500mmの3種類で行った。基礎試験装置の構成および試験方法の概要を図4に示す。
【0035】
試験結果:
図5に、試験結果から得られた見掛風速と通気抵抗の関係を堆肥の推定堆積高さごとに示した図である。これらは、副資材の種類、異なる混合割合毎に得られた。また、図6に、内径が異なる3種類の容器それぞれの測定データから、図4の基礎試験装置で示したように、荷重を加えたときに沈下量が同じ場合の通気性を比較した結果の一例を示す。これらの結果を検討し、簡易な装置を開発するために以下の通りの知見が得られた。
(1)粗状態で充填したとき堆肥原料の容積重は容器の径が異なってもほぼ同じである。
(2)沈下量が同じ場合、堆肥原料の通気性は、容器の径が異なってもほぼ同じである。
【0036】
測定装置の仕様の検討:
(1)容器の大きさなど
基礎試験の結果から、容器の径は100〜500mmの範囲内で設定可能と判断した。堆肥からサンプルを採取する場合、例えば片手にサンプル袋を持ち、もう一方の手に移植ゴテ(シャベル等)などを持って作業を行う。開発する測定装置で同様の作業を行う場合、片手でサンプルを充填する容器を持つ。測定装置の容器は小さいほど作業性は良いが、多いサンプル量で評価するほうが望ましいため、堆肥原料が充填された状態で3kg程度以下を想定し、有効容積(充填量)を2リットルとした。
【0037】
(2)測定装置の開発イメージ
測定装置は、現場で堆肥原料の通気性を数値で判定し、堆肥原料の調製にフィードバックできることが必要である。ただし、堆肥原料に求められる通気性は、堆肥化装置に装備されている通気用送風機の性能、通気床構造等によって異なるため、基準(目安)を得るためには、現場毎に実施設に投入される堆肥原料の通気性と測定装置による通気抵抗値との関係を予め把握しておくことが必要である。例えば、図7に示すような、開放直線型の概拌装置付き堆肥化装置では、堆肥原料の切返し(撹拌)と排出口への移動が同時に行なわれ、一旦投入した堆肥原料は排出まで取り出すことができない。そこで、堆肥化が良好に進行している箇所の堆肥原料で、測定装置によるデータの蓄積を図り、次に投入を予定している堆肥原料に対して、蓄積された測定装置のデータに基づいて良いと判断される状態まで副資材を混合することにより、通気性を確保することができる。つまり測定装置は、その現場において通気性が良いと判断される堆肥原料の通気性のデータを基に、これから投入する堆肥原料の調製を支援できるような装置として開発することとした。
【0038】
測定装置の構造と性能:
(1)測定装置の構造
図8に、基礎試験のデータを検討して決定した通気抵抗測定装置310の概要を示しており、図8(a)は斜視図であり、図8(b)は内部構造を模式的に示した図である。通気抵抗測定装置310は、堆肥原料を充填する容器である収容部340と試料の通気抵抗を測定する計測部320で構成されており、堆肥サンプルSを充填する際には、計測部320と収容部340が分離され、計測時には、それらが連結部12により固定される。この通気抵抗測定装置310の大きさは、外径180mmで高さ280mm、質量2.6kgであり、ステンレスで作られている。収容部340の内部に設けられた第1の仕切り板361と第2の仕切り板362の間に堆肥サンプルSが充填される。また、計測部320には送風用ポンプ32(吐出量2リットル/分、ダイヤフラム式)、圧力計36(計測範囲0〜100Pa、精度±5.0%FS)が内蔵されている。この送風用ポンプ32が堆肥サンプルSに通気して、圧力計36がその通気抵抗を測定する。
【0039】
測定装置の性能:
(1)基礎試験データとの比較
通気抵抗測定装置310を供試して、基礎試験で得られたデータから推定した通気抵抗値と比較し、性能を調査した。試験は、乳牛ふん尿に対し、オガクズ、モミガラ、戻し堆肥を基礎試験と同じ割合で混合して堆肥原料を作成し、それぞれ10回ずつ測定した。なお、基礎試験で得られたデータから推定した通気抵抗値は、上述の図5の測定結果(他の混合割合の設定も含む)から、測定装置と同じ通気条件のときの値を抜粋して堆積高さと通気抵抗との関係を求め、通気抵抗測定装置310の充填量と同じ高さの堆肥原料の通気抵抗を推定した。
【0040】
図9に測定結果を示す。通気抵抗測定装置310による通気抵抗値は、基礎データによる通気抵抗値が高くなるほど高くなる傾向が得られた。また、データの通気抵抗値が高い堆肥原料では、測定装置の測定範囲を超えることがあった。なお、副資材を完全に均一に混合することは不可能であることや、不均一な堆肥原料を全く同じように充填することも不可能であることなどから、室内試験でも測定値にはある程度のバラツキが発生する。現場で堆肥原料全体を評価するためには、測定点数は多いほどよいと考えられた。
【0041】
(2)通気型堆肥化装置との比較試験
通気抵抗測定装置310を用いて、図10に示すような通気型堆肥化装置に投入される堆肥原料の通気性を評価し、通気型堆肥化装置の発酵槽の下部静圧と比較した。通気型堆肥化装置の通気床は清掃して空状態で風量と通気抵抗の関係を調査した。その後、堆肥原料を0.5m、1.0m、1.5mで堆積させ、風量を変えながら下部静圧を測定した。また、通気抵抗測定装置310で堆肥原料の通気抵抗を測定した。
【0042】
図11に測定結果を示す。この測定結果から分かるように、通気抵抗測定装置310による通気抵抗値は、基礎試験と同様に、発酵槽の下部静圧が高くなるほど高くなる傾向が得られた。これらは、いずれも堆肥化が良好に開始された。なお、既に述べたが、堆肥原料に求められる通気性は、堆肥化装置毎に異なる。通気抵抗測定装置310は、堆肥化が良好に進行しているときに通気抵抗測定装置310によるデータ蓄積を行っておき、通気抵抗測定装置310のデータに基づいて通気性が悪いと判断される堆肥原料のときに、良いと判断される状態まで副資材を混合することで、堆肥原料の調製作業の支援が可能と判断された。
【0043】
<第1の実施形態>
以上の基礎実験及び検討をもとに本実施形態において提案する通気抵抗測定装置10について説明する。この通気抵抗測定装置10は、外観上は図8(a)で示した通気抵抗測定装置310と略一致している。一方、本実施形態で説明する通気抵抗測定装置10の内部構造に関しては、堆肥の堆積状態を反映させるために、測定対象となる堆肥サンプルSを所定率で圧縮可能な構造が備わる。また、堆肥サンプルSの圧縮に伴い生じるドリップによる通気阻害解消及びショートパス防止の対策が施されている。
【0044】
この通気抵抗測定装置10の内部に、通気量の測定対象となる堆肥(以下、「堆肥サンプルS」という)が充填され、さらに、所望の圧縮率で圧縮されて、通気量の測定がなされる。以下、通気抵抗測定装置10の具体的な構成について内部構造を模式的に示し説明する。
【0045】
図12は通気抵抗測定装置10の内部構造を模式的に示した側面図で、計測部20と収容部40が分離した状態を示している。また、図13は、計測部20と収容部40が連結された状態の内部構造を模式的に示しており、図13(a)は、堆肥サンプルSが圧縮される前の状態を示し、図13(b)は堆肥サンプルSが圧縮された状態を示している。
【0046】
図示のように、通気抵抗測定装置10は、上側の計測部20と下側の収容部40が分離可能に構成されており、計測部20及び収容部40は、連結部12(図8(a)参照)によって固定可能に構成されている。
【0047】
計測部20は、図8(b)で示した構成同様に、上容器22に取り付けられた圧力計36と、収容部40に充填された堆肥サンプルSに空気を供給する送風用ポンプ32と、堆肥サンプルSを圧縮するための圧縮力可変機構34とを備える。なお、圧力計36は、上容器22の外部に露出され計測値を表示する表示部38と、圧力検出部37とを備えている。送風用ポンプ32は、堆肥サンプルSに向かって送風口33が形成されている。また、上容器22には、外気を取り入れる逆止弁24が設けられている。
【0048】
圧縮力可変機構34は、軸部39とその下側先端に取り付けられた第1の仕切り板61とを備えている。軸部39は、例えば弾性力やスクリュー構造等を利用した機構によって第1の仕切り板61を上下方向に移動させ、収容部40に充填された堆肥サンプルSを所望の圧縮率で圧縮する。なお、第1の仕切り板61の移動の為にモータ等の動力が用いられてもよい。なお図示はしないが、第1の仕切り板61を所望の移動量にするために、所定の目盛り等が設けられて所望の位置で固定できるようになっている。なお、第1の仕切り板61は、充填高さhに対して15〜60%程度の範囲で堆肥サンプルSを圧縮可能に構成されている。この圧縮幅は、実際に堆肥が堆積している状態を堆肥サンプルSに反映させるために設定されている。つまり、堆積している堆肥のどの部分から堆肥サンプルを採取した場合であっても、その堆積状態を再現できるような圧縮幅になっている。
【0049】
図14に第1の仕切り板61の外観を示しており、後述する第2の仕切り板62も原則同様の構造となっている。図14(a)は第1の仕切り板61の平面図を示しており、また図14(b)は側面図を示している。第1の仕切り板61は、2枚のパンチングメタル61a,61bが重なって構成され、外形が収容部40の下容器42の内径と略一致している。各パンチングメタル61a,61bは、下容器42の内径と略一致する外形を有しており、また、外周部に所定幅で環状(リング状)に形成されたショートパス防止リング部71と、多孔状のメッシュ部72とから構成される。
【0050】
本実施形態では、図示のように、第1の仕切り板61は、2枚のパンチングメタル61a,61bを重ねた構成としている。上述のように、堆肥サンプルSは、圧縮されたときに、どうしてもドリップ(廃汁)が生じてしまう。一枚のパンチングメタルでは、堆肥サンプルSを圧縮した際に、その圧縮に伴い生じるドリップがメッシュ部72の目(孔)を塞いでしまい、通気量測定時における通気を阻害してしまうことがあり、測定バラツキの原因の一つとなっており、対策が求められていた。そこで、本実施形態では、メッシュ部72の開口率が20%以上の2枚のパンチングメタル61a,61bを重ねた構成とすることで、ドリップによる目詰まりを防止する。
【0051】
なお、2枚のパンチングメタル61a,61bを重ねた構造に限る趣旨ではなく、ドリップを適正に除去することができる構造であればよい。例えば、一方のパンチングメタルの代わりに、網状の板が用いられてもよい。さらに、上記開口率は、異なる値に設定されてもよい。ドリップの除去の観点では、ドリップとの接触面積を増やすことで、表面張力等の作用により開口部分(メッシュ部72)に残留する水分を吸引する構造かつ通気を阻害しない構造であればよいので、当然に、仕切り板にそのような構造が備わっていれば、複数の板でなく、一枚の板であってもよい。
【0052】
ショートパス防止リング部71は、所定幅だけ開口が形成されていない領域となっており、通気測定時において、堆肥サンプルSと下容器42の内面との間に側壁伝いに空気が漏れてしまうことを防止する。ショートパス防止リング部71は、2枚のパンチングメタル61a,61bの少なくともいずれか一方に形成されていればよい。
【0053】
つぎに、収容部40について説明する。収容部40は、内部に堆肥が充填されるようになっている。具体的には、収容部40は、上面が開口した円筒状の下容器42と、その下容器42の内部に所定の位置に固定された第2の仕切り板62を備える。この第2の仕切り板62の上に堆肥サンプルSが充填される。そして、充填された堆肥サンプルSは、通気量測定時に、上述の計測部20に備わる第1の仕切り板61により所望の容積に圧縮される。
【0054】
下容器42は筒状体であり、内部に第2の仕切り板62が所定の位置に取り付けられている。下容器42の第2の仕切り板62より下側の位置には、通気を排出するための排気口44が設けられている。
【0055】
下容器42の内径は、上記の基礎実験の結果より、例えば100〜500mmの範囲であればよい。ただし、この内径は100〜500mmに限る趣旨ではない。例えば、径を大きくすることで、充填される堆肥サンプルSの量が多くなり、より精度の高い計測が可能となることが想定できるが、通気抵抗測定装置10の大型化が、コストの上昇及び利便性の低下につながり、実際の現場への導入が難しくなると想定される。また、径を小さくすると、測定精度の低下のおそれがあるため、100mmを下限とした。しかし、精度に若干のバラツキが生じても、通気抵抗測定装置10に対する小型化の要請が高い場合には、当然に、上記下限より小さな径の下容器42が用いられてもよい。また、下容器42の形状として、断面形状が円ではなく矩形等の他の形状であっても適用可能であるが、そのような場合、例えば、堆肥サンプルSが充填される空間部分の断面積が5000〜250000mmであればよい。
【0056】
なお、上記内径の値の範囲は、第1の仕切り板61と第2の仕切り板62の間の空間、つまり堆肥サンプルSが充填される空間に対応するものであり、当然に、堆肥サンプルSが充填されない空間、例えば、第2の仕切り板62より下側の空間等は、通気量の測定に悪影響を及ばさない範囲で、他の構成要素の配置に考慮しつつ、適宜自由に設定することができる。
【0057】
堆肥サンプルSを充填することが可能な空間として、第1の仕切り板61と第2の仕切り板62との距離(充填高さh)は、100〜300mm程度に設定されている。なお、充填高さhは、100〜150mmで十分に精度を確保できることが確認できている。また、求められる精度が高くない場合は、充填高さhが100mm以下に設定されてもよい。つまり、通気抵抗測定装置10の小型化の要請が高い場合には、現場の要望に応じて充填高さhを設定してもよい。そして、この空間に充填された堆肥サンプルSは、上述したように、所望の圧縮率(15〜60%)で圧縮される。
【0058】
なお、第2の仕切り板62は、上述したとおり、第1の仕切り板61と同様の構造を有している。ただし、ショートパス防止に関しては、通気の上流側である第1の仕切り板61に形成されているショートパス防止リング部71のみでも十分に機能を果たしているため、第2の仕切り板62にはショートパス防止リング部71が設けられていなくてもよい。
【0059】
本実施形態では、上側の第1の仕切り板61が可動となっていたがこれに限る趣旨ではなく、下側の第2の仕切り板62が動いてもよく、さらに、第1及び第2の仕切り板61、62が両方とも動いてもよく、所望の圧縮状態を実現できればよい。
【0060】
以上、本実施形態の通気抵抗測定装置10の効果をまとめると以下の通りである。
(1)堆肥サンプルSを圧縮することで、堆肥原料が堆積された状態の再現や、容器内に充填したときの空隙の除去を行うことができる。
(2)通気性のある仕切り構造を(61,62)、所望の通気性を持つ2枚以上の板で構成することによって、堆肥原料を圧縮したときなどに生じるドリップが仕切りの目を塞いで、計測時における通気を阻害してしまうことを防止できる。
(3)ショートパス防止構造(71)を採用することで、堆肥サンプルSの通気性をより安定した状態で測定することができた。
(4)通気抵抗測定装置10において、下容器42の径として100〜500mm程度にし、また、堆肥サンプルSの充填高さhを100〜300mm程度にすることができた。これによって、通気抵抗測定装置10を小型化することができ、使用する作業者の利便性を向上させることができた。また、シンプルな構造とすることができ、低コスト及びメンテナンスの容易化が実現できた。
【0061】
<第2の実施形態>
本実施形態では、第1の実施形態の変形例の通気抵抗測定装置110について説明する。第1の実施形態の通気抵抗測定装置10と異なる点は、第1の仕切り板61のショートパス防止リング部71の機能部分を第1の仕切り板61と分離したことにある。
【0062】
図15は、本実施形態の通気抵抗測定装置110の内部構造を模式的に示した図である。また、図16は、第1の仕切り板161(161a、161b)を示している。図15に示すように、ショートパス防止リング46は充填された堆肥サンプルSの上に配置される。そして堆肥サンプルSが圧縮される際に、メッシュ部172のみから第1の仕切り板161の移動に伴って、ショートパス防止リング46はメッシュ部172によって下方向に押し下げられる。このようにショートパス防止リング46を第1の仕切り板161と分離した構成であっても、第1の実施形態と同様の効果が得られた。
【0063】
以上、本発明を実施形態をもとに説明した。この実施形態は例示であり、それらの各構成要素及びその組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0064】
10、110、310 通気抵抗測定装置
12 連結部
20 計測部
22 上容器
24 逆止弁
32 送風用ポンプ
34 圧縮力可変機構
36 圧力計
38 表示部
40 収容部
42 下容器
44 排気口
46 ショートパス防止リング
61、161 第1の仕切り板
62、162 第2の仕切り板
71 ショートパス防止リング部
72 メッシュ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体と液体との混合物に通気したときの通気抵抗を測定する通気抵抗測定装置であって、
容器と、
前記容器の内部に設けられ、前記混合物を充填する空間を形成するとともに、通気性を有する二つの仕切り手段と、
前記二つの仕切り手段によって形成された前記空間の容積を調整する調整手段と、
前記空間に空気を供給する送風手段と、
通気したときの前記通気抵抗を計測するセンサと、
を備えることを特徴とする通気抵抗測定装置。
【請求項2】
前記調整手段は、前記二つの仕切り手段のうち、上側に設けられた仕切り手段を動かすことで、前記空間の容積を調整することを特徴とする請求項1に記載の通気抵抗測定装置。
【請求項3】
前記混合物と前記容器の側壁との間に発生する通気のショートパスを防止するショートパス防止手段を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の通気抵抗測定装置。
【請求項4】
前記仕切り手段は、圧縮したときに境界面に生じる液体を排出する機能を有することを特徴とする請求項1から3までのいずれかに記載の通気抵抗測定装置。
【請求項5】
前記仕切り手段は、所定の開口率を有する穴が形成された多孔状の板が複数重なっていることを特徴とする請求項4に記載の通気抵抗測定装置。
【請求項6】
前記混合物が充填される部分の空間の高さは、300mm以下であることを特徴とする請求項1から5までのいずれかに記載の通気抵抗測定装置。
【請求項7】
前記空間の断面積が5000mm〜250000mmの範囲であることを特徴とする請求項1から6までのいずれかに記載の通気抵抗測定装置。
【請求項8】
前記空間は筒状の形状を有し、内径が100mm〜500mmの範囲であることを特徴とする請求項1から7までのいずれかに記載の通気抵抗測定装置。
【請求項9】
前記調整手段による調整量は、圧縮率15〜60%に設定されることを特徴とする請求項1から8までのいずれかに記載の通気抵抗測定装置。
【請求項10】
前記混合物は、堆肥原料であり、
前記調整手段による調整量は、前記堆肥原料のサンプルが取得された場所における堆積状態を反映させるように設定されていることを特徴とする請求項9に記載の通気抵抗測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−203906(P2010−203906A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−49496(P2009−49496)
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】