説明

速キュア性のキュア可能なマルチパート型エラストマー組成物、および、エラストマー組成物をブレンドし、射出成形し、キュアする方法。

第1のゴムコンパウンド、第2のゴムコンパウンド、および、少なくとも1種の任意成分である追加のゴムコンパウンドのそれぞれの流れを同時に射出プレスの射出室に供給して、これらの流れを合体する工程;合体されたゴムコンパウンドの流れを、10000psi以上の圧力下に該射出室から、その下流位置に設けられたモーションレスミキサーへ押出す工程;および、混合されたゴムコンパウンドの流れを、モーションレスミキサーの下流位置に設けられた型中へ供給する工程を含む、最後にキュアするキュア可能なマルチパート型ゴムコンパウンドを提供する方法。第1のゴムコンパウンド、第2のゴムコンパウンド、および任意成分である追加のゴムコンパウンドは、190℃で測定せるt2値が1.5分以上であり、これらのゴムコンパウンドは、速キュア性のキュア可能なマルチパート型ゴムコンパウンドを使用するまでは、互いに離れて保持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に射出成形に好適な速キュア性のキュア可能なマルチパート型エラストマー組成物に関する。本発明は、さらに、エラストマー組成物をブレンドし、射出成形し、キュアして物品を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム工業において、エラストマー組成物は一般に「ゴム・コンパウンド」とも呼ばれる。ゴムコンパウンドは、少なくとも1種のエラストマー重合体(単に「エラストマー」または「ゴム」とも呼ばれる)と、加硫剤(または、後述するような「キュア剤系」の組み合わせ)、および、必要に応じて、1種または2種以上の充填材、および酸化防止剤、潤滑剤、加工助剤、活性剤、オイル、可塑剤などの添加剤との混合物である。ゴムコンパウンドは、通常、エラストマーと充填剤および添加剤とを機械的手段、通常、密閉式ミキサーまたは開放型ロールを用いて混合することにより調製される。得られた混合物(「マスターバッチ」としても知られている)に加硫剤(またはキュア剤)およびキュア(硬化)促進剤が添加される。加硫剤とキュア促進剤との組み合わせは一般に「キュア剤系」と呼ばれる。
【0003】
慣用されるゴムの加工過程では、マスターバッチとキュア剤系を合わせて、均質な混合物とする。この均質な混合物は、仕上げコンパウンドとして知られ、ゴムコンパウンドの最終ユーザーによって、成形および加硫が行われて完成品となる。上記のようにマスターバッチとキュア剤系との混合は、通常、密閉式ミキサーまたは開放型ロールを用いて行われる。ゴムコンパウンドの調製に用いられるエラストマーは一般に高分子量を有するので、これらの材料を混合するとせん断力によってかなり発熱する。この段階で「促進されたコンパウンド」といわれるゴムコンパウンドは、キュア促進剤および加硫剤を含有するので、せん断力による発熱によって、早期キュアまたはスコーチを起こし易い。それ故、早期キュアを抑制するため、混合装置は通常冷却される。
【0004】
典型的な射出プレス操作においては、単一のゴムコンパウンドが単一のストリップもしくはストランドまたは同じゴムコンパウンドの複数のストリップもしくはストランドの形態で送給装置を有する供給帯域へ送られる。この送給装置は、ゴムコンパウンドを、成形温度よりは低い温度に加温しながら、射出保持室へ送給するという単一の目的で作動する。ゴムコンパウンドは、通常射出プレスの送給部よりわずかに高い温度に保持された射出保持室に充填される。ゴムコンパウンドは、その一部が型中へ射出されるまで射出保持室に滞留する。型が開かれた後、成形品が取り出され、空になった型は閉じられる。そして、ゴムコンパウンドの別の部分が型中へ射出される。
【0005】
ゴムコンパウンドの射出成形において、ゴムコンパウンドの成形が完了して所望成形品となる前に早期加硫またはスコーチが起こると成形品に欠陥を生じる。射出成形の理想的な系では、ゴムコンパウンドは、キュア反応を起こさずに最大の流れを得るのに十分な温度に加温することができるであろう。ゴムコンパウンドは、キュア温度に保持された型のキャビティーへ射出される。ゴムコンパウンドをその加硫が起こる前に型中への充填を完了するまでの時間は「フロー時間」と呼ばれる。フロー時間は、ムーニーせん断ディスク粘度計を用い、通常100℃〜125℃の範囲内の一定温度において測定したとき、ゴムコンパウンドの粘度が所定単位数だけ増大するに要する時間(分)で表される。実際には、フロー時間は、一定の温度および圧力下にゴムコンパウンドが型のキャビティーへの充填を完了するまでの時間として測定することができる。ムーニー粘度が5単位増大するのに要する時間はムーニーt5時間と呼ばれ、ゴムコンパウンドの加硫の誘導時間またはスコーチ時間の目安とされる。
【0006】
ゴムコンパウンドのキュア特性の測定には、150〜200℃の範囲内のキュア温度(ムーニー温度の測定温度より高温である)において振動ディスクレオメーター(ODR)を用いて、そのトルクを監視する方法が慣用されている。「コールドゴム」と呼ばれる常温のゴム試料を測定器具に入れ、そのトルクを時間の関数として測定する。コールドゴムは振動ゴムに抵抗を示し、トルクスパイクを示す。このトルクスパイクは初期トルクと呼ばれる。試料が昇温してキュア温度に到達すると試料は一層軟化してトルクは低下する。次いで、試料はキュアを開始する。キュアの開始はトルクの増大によって示される。加硫反応の誘導期間は、t2(トルクが2単位だけ増大する時間)が目安となる。加硫が進むとトルクは増大を続けて最大値に達する。トルクの最大値がM(最大トルク)と呼ばれる。トルクの増大が90%に到達するまでの時間がt’90と呼ばれる。t’90値が大きいほどゴムコンパウンドのキュア時間が長いことを意味する。
【0007】
理想的なゴムコンパウンドは、最大のスコーチ安全のため、少なくとも5分間のムーニーt5時間を示し、理想的な流れとして0.7〜0.2分のt2を示し、速いサイクル時間に対し短いt’90を示すであろう。大ざっぱな指針としては、t2として測定される誘導時間が長ければ長いほど、コンパウンドのキュア時間(t’90として測定される)は長くなる。t2値が0.6分未満であり、ムーニーt5値が3分未満のゴムコンパウンドはスコーチ性で、加工が困難と考えられる。そのようなゴムコンパウンドは、型のキャビティーを完全に充填する前に急速な加硫を受けるであろう。t2値が1.5分より長いというゴムコンパウンドは、経済的に好ましいキュア時間である1分間に容易にキュアしないであろう。
【0008】
スコーチまたは早期キュアを最小に抑制するために、化学的にキュア速度を遅延する薬剤を添加するか、または促進剤を適切に選択することによって、ゴムコンパウンドの配合組成を低速キュア性となるように調整される。
【0009】
成形プロセスの最後には、得られたゴム製品は、キュア条件下、すなわち、十分高い温度で十分な時間保持することによって、完全にキュアされなければならない。
【0010】
すべてのゴムコンパウンドが射出プレスで経済的有利に加硫できるわけではない。それ故、第2の加硫工程(後加硫)が行われることがある。この後加硫は、ゴム成形品を型またはプレスの中に、延長された時間保持することによって行われる。しかしながら、そのような後加硫は、生産速度に大きな否定的な工業的インパクトを与える。ゴム成形品は加硫が完全に完了する前に取り出して、型またはプレスの外で追加の加硫を行うほうが経済的には有利である。型またはプレスの外で行う追加の加硫は、型またはプレスの中での後加硫よりは経済的に有利であるものの、コスト面および成形プロセスの効率の面からの負担は依然大きい。
【0011】
理想的なゴムコンパウンドは、スコーチに対する最大の策および理想的な流れのために、少なくとも5分のムーニーtを示すであろう。概して、ムーニーtとして測定されるスコーチ時間が長ければ長いほど、通常、t’90として測定されるキュア時間が長くなる。ムーニーt値が3分未満のゴムコンパウンドはスコーチ性または加工困難とみることができる。ムーニーt値が3分またはそれより大きいと、加工はより容易であるが、キュア所要時間が長くなるという難点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記の理想的な流れ特性およびキュア特性を有するゴムコンパウンドは、これまで実現されなかった。発明者らは、ほぼ理想的なゴムコンパウンドの特性を有し、特に射出成形に適するゴムコンパウンドを開発し、さらに、ゴムコンパウンドをブレンドし、射出成形し、キュアする改良方法を開発すべく研究に努めた結果、本発明の完成に到った。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、特に射出成形に好適な速キュア性のキュア可能なマルチパート型ゴムコンパウンド(エラストマー組成物)を提供する。本発明は、さらに、マルチパート型エラストマーコンパウンドを射出成形して、ゴム製品を形成する方法を提供する。
【0014】
本発明の速キュア性のキュア可能なマルチパート型ゴム粗成物は、下記ゴムコンパウンド(1)、(2)および(3)を含んでなる速キュア性のキュア可能なマルチパート型ゴム粗成物(ただし、(3)は任意成分である)である。
(1)(a)エラストマーと(b)少なくとも1種の加硫剤を含んでなり、190℃で測定せるt2値が少なくとも1.5分である第1のゴムコンパウンド、
(2)(a)エラストマーと(b)少なくとも1種のキュア促進剤を含んでなり、190℃で測定せるt2値が少なくとも1.5分である第2のゴムコンパウンド、および
(3)(a)少なくとも1種のエラストマーを含んでなり、190℃で測定せるt2値が少なくとも1.5分である、1種または2種以上の任意成分である追加のゴムコンパウンド。
【0015】
上記コンパウンド(1)、(2)および(3)において、
エラストマー(1)(a)とエラストマー(2)(a)は同一であるか、または同一のエラストマーファミリーに属し、かつ、加硫剤(1)(b)とキュア促進剤(2)(b)とは両者が一体になって、エラストマー(1)(a)とエラストマー(2)(a)に対するキュア剤系として作用し;
エラストマー(1)(a)、エラストマー(2)(a)およびエラストマー(3)(a)からなる群から選ばれる少なくとも1種のエラストマーは、ASTMD1646に準拠して100℃で測定せるムーニー粘度が20〜75、好ましくは20〜50、より好ましくは30〜50の範囲であり;
第1のゴムコンパウンド、第2のゴムコンパウンドおよび、任意成分である追加のゴムコンパウンドは、速キュア性のキュア可能なマルチパート型ゴム粗成物を使用するまでは、互いに離れて保持され;
等容量部の第1のゴムコンパウンドおよび第2のゴムコンパウンド、ならびに等容量部の任意成分である追加のゴムコンパウンドの混合物は、0.7分未満のt2値を有し;
上記t2値は、ASTM D2084に準拠して振動ディスクレオメーター(ODR)を用いて測定されるものである。
【0016】
本発明のゴム製品を形成する方法においては、別々のゴムコンパウンドの流れを同時にモーションレスミキサー(スタティックミキサーとしても知られている)を具えた射出成形機中へ供給する。射出成形機では、ゴムコンパウンドは十分に混合され、直ちに型中へ射出されて、成形品が形成される。本発明の方法の利点は、早期加硫またはスコーチが回避されるにもかかわらず、成形品は射出成形プロセスの終わりには十分にキュアされ、成形品の後キュアがほとんど必要ないことである。それ故、本発明のマルチパート型ゴムコンパウンド(エラストマー組成物)および方法を用いることにより、効率およびコスト低下が大幅に増大される。
【発明の効果】
【0017】
本発明のマルチパート型ゴムコンパウンド(エラストマー組成物)においては、第1のゴムコンパウンド、第2のゴムコンパウンド、および任意成分である追加のゴムコンパウンドは、t2値が少なくとも1.5分であることから明らかなように、キュアが遅い。それ故、各コンパウンドは早期加硫を生じることなく加工できる。第1のゴムコンパウンド、第2のゴムコンパウンド、および任意成分である追加のゴムコンパウンドを混合すると、得られた混合物は、t2値が0.7分未満であることから明らかなように、速キュア性のゴムコンパウンドとなる。
【0018】
従来のゴムコンパウンドは早期加硫を受けやすく、射出成形に好適とはいい難いものであるから、速キュア性のキュア可能な射出成形用ゴムコンパウンドには適合しなかった。これとは対照的に、本発明のマルチパート型ゴムコンパウンドによれば、速キュア性ゴムコンパウンドが有する射出成形時に示す利点、すなわち、急速かつ経済的に成形プロセスを実施できるという利点が保持されたまま、速キュア性ゴムコンパウンドが有する早期加硫の問題が解決される。さらに、本発明のマルチパート型ゴムコンパウンドによれば、ゴムコンパウンドが射出成形工程に入るまでは、キュア促進剤と加硫剤とが分離されているため、ゴムコンパウンドの貯蔵寿命が長いという特長が達成される。
【0019】
本発明の方法によれば、早期加硫またはスコーチが回避されるにもかかわらず、得られるゴム成形品は射出成形プロセスの終わりには十分にキュアされ、成形の後キュアがほとんど必要ないことから、効率およびコスト低下が大幅に増大される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】従来の技術によるゴムの処理および射出成形プロセスを示すフローチャートである。
【図2】本発明のプロセスの一態様を示すフローチャートである。
【図3】本発明のプロセスの実施に用いる装置の一態様を示す概略図である。
【図4】本発明のプロセスの実施に用いるスタティックミキサー装置の一態様を示す概略図である。
【図5】図5中の5Aは、本発明のプロセスの実施に用いるスタティックミキサー装置の一態様における2つの隣接した混合エレメントの上流面の端の斜視図である。 図5中の5Bは、本発明のプロセスの実施に用いるスタティックミキサー装置の一態様における2つの隣接した混合エレメントの側面の斜視図である。 図5中の5Cは、上記混合エレメントの内部の流路を示す一混合エレメントの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の速キュア性のキュア可能なマルチパート型ゴムコンパウンド(エラストマー組成物)は、第1のゴムコンパウンド、第2のゴムコンパウンド、および任意成分である追加のゴムコンパウンドを含み、これらのゴムコンパウンドは使用直前、特に射出成形直前に合わされるまでは別々に離れて保持される。より具体的には、本発明の速キュア性のキュア可能なマルチパート型ゴムコンパウンドは、下記ゴムコンパウンド(1)、(2)および(3)を含んでなる速キュア性のキュア可能なマルチパートゴム粗成物(ただし、(3)は任意成分である)である。
【0022】
(1)(a)エラストマーと(b)少なくとも1種の加硫剤を含んでなり、190℃で測定せるt2値が少なくとも1.5分である第1のゴムコンパウンド、
(2)(a)エラストマーと(b)少なくとも1種のキュア促進剤を含んでなり、190℃で測定せるt2値が少なくとも1.5分である第2のゴムコンパウンド、および
(3)(a)少なくとも1種のエラストマーを含んでなり、190℃で測定せるt2値が少なくとも1.5分である、1種または2種以上の任意成分である追加のゴムコンパウンド;
【0023】
上記コンパウンド(1)、(2)および(3)において、
エラストマー(1)(a)とエラストマー(2)(a)は同一であるか同一のエラストマーファミリーに属し、かつ、加硫剤(1)(b)とキュア促進剤(2)(b)とは両者が一体になって、エラストマー(1)(a)とエラストマー(2)(a)に対するキュア剤系として作用し;
エラストマー(3)(a)は、エラストマー(1)(a)およびエエラストマー(2)(a)の一方または両者と同一であるか、または、エラストマー(1)(a)およびエエラストマー(2)(a)と同一のエラストマーファミリーに属し、または、エラストマー(3)(a)は、エラストマー(1)(a)およびエエラストマー(2)(a)とは異種であって、エラストマー(1)(a)およびエエラストマー(2)(a)と同一のエラストマーファミリーに属せず[ただし、エラストマー(3)(a)は、加硫剤(1)(b)とキュア促進剤(2)(b)を含む加硫系によってキュア可能であり、および/または、エラストマー(3)(a)は、エラストマー(1)(a)およびエエラストマー(2)(a)と安定な分散体を形成する];
エラストマー(1)(a)、エラストマー(2)(a)およびエラストマー(3)(a)からなる群から選ばれる少なくとも1種のエラストマーは、ASTMD1646に準拠して100℃で測定せるムーニー粘度が20〜75、好ましくは20〜50、より好ましくは30〜50であり;
第1のゴムコンパウンド、第2のゴムコンパウンドおよび、任意成分である追加のゴムコンパウンドは、上記速キュア性のキュア可能なマルチパートゴム粗成物を使用するまでは、互いに離れて保持され;
等容量部の第1のゴムコンパウンドおよび第2のゴムコンパウンド、ならびに等容量部の任意成分である追加のゴムコンパウンドの混合物は、0.7分未満のt2値を有し;
上記t2値は、ASTM D2084に準拠して振動ディスクレオメーター(ODR)を用いて測定されるものである。
【0024】
本発明の速キュア性のキュア可能なマルチパート型ゴムコンパウンドを構成する第1のゴムコンパウンド、第2のゴムコンパウンド、および任意成分である追加のゴムコンパウンドの各成分は下記の一般的な組成にしたがって配合することができる。
エラストマー 100重量部(phr)
充填剤 0〜150phr、好ましくは40〜85phr
添加剤 0〜6phr、好ましくは2〜4phr
キュア剤系 第1および第2のゴムコンパウンドに対し1〜20phr、好ましくは4〜12phr
任意成分である追加のゴムコンパウンドに対し0〜20phr、好ましくは4〜12phr
【0025】
第1のゴムコンパウンドに対するキュア剤系は、加硫剤(1)(b)を含み、キュア促進剤を含まない。第2のゴムコンパウンドに対するキュア剤系は、キュア促進剤(2)(b)を含み、加硫剤を含まない。任意成分である追加のゴムコンパウンドは、キュア剤系を含まない、または、加硫剤を含むがキュア促進剤を含むキュア剤系、もしくはキュア促進剤を含むが加硫剤を含まないキュア剤系を含むことができる。任意成分である追加のゴムコンパウンドに含まれる加硫剤は、加硫剤(1)(a)と同じであっても相違してもよい。任意成分である追加のゴムコンパウンドに含まれるキュア促進剤は、キュア促進剤(2)(b)と同じであっても相違してもよい。
【0026】
本発明の速キュア性のキュア可能なマルチパート型ゴムコンパウンドにおいて、任意成分である追加のゴムコンパウンド中のエラストマー(3)(a)は、第1のゴムコンパウンド中の(1)(a)および第2のゴムコンパウンド中の(2)(a)のいずれか一方または両方と同一であっても、相違してもよい。あるいは、エラストマー(3)(a)は、エラストマー(1)(a)およびエエラストマー(2)(a)と同一のエラストマーファミリーに属するか、または、エラストマー(3)(a)は、エラストマー(1)(a)およびエエラストマー(2)(a)とは異種であって、エラストマー(1)(a)およびエエラストマー(2)(a)と同一のエラストマーファミリーに属せず[ただし、エラストマー(3)(a)は、加硫剤(1)(b)とキュア促進剤(2)(b)を含む加硫系によってキュア可能であり、および/または、エラストマー(3)(a)は、エラストマー(1)(a)およびエエラストマー(2)(a)と安定な分散体を形成する]。
【0027】
同じキュア剤系によってキュア可能なエラストマーの組合わせの具体例としては下記が挙げられる。
NBRとSBR
HNBRとEVA
EPDMとCR
ECOとACM(ハロゲンキュア型)
【0028】
安定な分散体を形成するエラストマーの組合わせの具体例としては下記が挙げられる。
ACMとEVA
ECOとACM(非ハロゲンキュア型)
ACM(非ハロゲンキュア型)、ECOとEPDM
【0029】
任意成分である追加のゴムコンパウンドのマスターバッチ組成物は、第1のゴムコンパウンドのマスターバッチ組成物および第2のゴムコンパウンドのマスターバッチ組成物と同じであっても、または相違してもよい。
【0030】
第1のゴムコンパウンドは、エラストマー(1)(a)の他に、所望により一種または二種以上のエラストマーを含むことができる。同様に、第2のゴムコンパウンドは、エラストマー(2)(a)の他に、所望により一種または二種以上のエラストマーを含むことができ、また、任意成分である追加のゴムコンパウンドは、エラストマー(3)(a)の他に、所望により一種または二種以上のエラストマーを含むことができる。第1のゴムコンパウンド、第2のゴムコンパウンドおよび無任意成分である追加のゴムコンパウンドが、そのように追加のエラストマーを含む場合は、追加のエラストマーは、加硫剤(1)(b)およびキュア促進剤(2)(b)を含むキュア剤系によってキュア可能であり、および/または、該追加のエラストマーはエラストマー(1)(a)、(2)(a)および(3)(a)と安定な分散体を形成する。同じキュア剤系によってキュア可能な複数のエラストマーの組合わせ、および安定な分散体を形成する複数のエラストマーの組合わせの具体例としては、上記エラストマー(3)(a)について挙げた具体例が挙げられる。
【0031】
上記組成物において、キュア剤系は、エラストマー(1)(a)、(2)(a)および(3)(a)に適合するものであって、第1のゴムコンパウンドが加硫剤を含み、第2のゴムコンパウンドがキュア促進剤を含むように、第1のゴムコンパウンドと第2のゴムコンパウンドとに分けられる。このキュア剤系は、所望により、加硫剤およびキュア促進剤の他に、例えば、キュア遅延剤を含むことができる。
【0032】
第1のゴムコンパウンド、第2のゴムコンパウンドおよび任意成分である追加のゴムコンパウンドのそれぞれは、標準的な装置および手法を採用して、当業者に知られている方法によって調製することができる。これらのゴムコンパウンドのそれぞれは、等業者によって適宜選ばれる添加剤を含むことができる。添加剤としては、抗酸化剤、抗オゾン剤、潤滑剤、加工助剤、活性化剤、オイル、可塑剤などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
本発明の速キュア性のキュア可能なマルチパート型ゴムコンパウンドにおいて、第1のゴムコンパウンド、第2のゴムコンパウンド、および任意成分である追加のゴムコンパウンドは等容量であってもよいし、または、異なる容量であってもよい。射出成形プロセスにおいて均一な混合物を得るうえで、使用の便宜および容易さのため、速キュア性のキュア可能なマルチパート型ゴムコンパウンドにおける各成分は等量とすることができるが、これに限定されるものではなく、用途に応じて当業者が選択することができる。例えば、第1のゴムコンパウンド100容量部に対して第2のゴムコンパウンドは2〜150容量部、好ましくは10〜130容量部、より好ましくは80〜120容量部使用することができる。同様に、第1のゴムコンパウンド100容量部に対して、任意成分である追加のゴムコンパウンドは2〜150容量部、好ましくは10〜130容量部、より好ましくは80〜120容量部使用することができる。
【0034】
本発明の速キュア性のキュア可能なマルチパート型ゴムコンパウンドの一般的な組成の例を下記に示す。この例では、第1のゴムコンパウンドおよび第2のゴムコンパウンドは同じエラストマーを含み、等重量のマスターバッチ組成を有する。第1のゴムコンパウンドはキュア促進剤を含み、第2のゴムコンパウンドは加硫剤を含む。しかしながら、別の態様では、両ゴムコンパウンドは、同じエラストマーを含むが、異なるマスターバッチ組成を有する。さらに別の態様では、両ゴムコンパウンドは、エラストマーは異なるが、同じファミリーに属するエラストマーを含む。例えば、エラストマー(1)(a)をアクリルゴムとし、エラストマー(2)(a)を別のアクリルゴムとする。
【0035】

【0036】
本発明の速キュア性のキュア可能なマルチパート型ゴムコンパウンドにおけるエラストマー、加硫促進剤とキュア促進剤の組合わせ例を下記に示すが、これらに限定されるものではない。本発明の速キュア性のキュア可能なマルチパート型ゴムコンパウンドの基礎として、早期キュアを抑制するために、キュア剤系が2つまたはそれ以上に分割されたゴムコンパウンドを用いることができる。
【0037】

【0038】
注 架橋向上剤*1 フリーラジカル・キュア剤系での架橋を高める単量体化合物。単量体化合物の例としては、モノメタクリル酸亜鉛およびエチレングリコール・ジメタクリレートがある。
ACM = アクリルエステル単量体単位と必要に応じて他の共重合単量体単位とを含むアクリルゴム
NBR = アクリロニトリル単位とブタジエン単量体単位を含むニトリルゴム
HNBR = ニトリルゴムを水素化することによって得られる水素化ニトリルゴム
ECO = エピクロロヒドリン単量体単位とエチレン・オキシド単量体単位を含むエピクロロヒドリンゴム
FKM = フッ素含有単量体単位を含むフルオロカーボン・ゴム
AEM = アクリルエステル単量体単位とエチレン単量体単位とを含むアクリルエステル/エチレン共重合体ゴム
EPDM = エチレン単位、プロピレン単位およびジエン単量体単位を含むエチレン・プロピレン・ジエン・ターポリマーゴム
【0039】
本発明の速キュア性のキュア可能なマルチパート型ゴムコンパウンドおよび本発明の方法は、特に、スコーチと低速キュアという2つの課題が存在する射出成形エラストマー系の配合および成形に有用である。ACMゴムは、特にスコーチを生じ易く、キュア速度が遅いので、本発明による配合および射出成形の有用度が高い。
【0040】
本発明の速キュア性のキュア可能なマルチパート型ゴムコンパウンドにおいて、任意成分である追加のゴムコンパウンドは、マルチパート型ゴムコンパウンドの特性および、得られる成形製品の特性を修飾する機能を有する。任意成分である追加のゴムコンパウンドは、例えば、マルチパート型ゴムコンパウンドに追加のキュア促進剤または加硫剤を導入したり、または着色剤、他の充填剤、もしくは、得られる成形品においてゴムコンパウンドと他の材料(金属またはプラスチック材料)との結合を高める結合剤、その他の添加剤を導入するために用いられる。
【0041】
図1は、従来の技術によるゴムコンパウンドの処理および射出成形プロセスを示すフローチャートである。エラストマーは充填剤、添加剤およびキュア剤系(A+B)と混合されて、ストリップ(または、ストランドもしくはロッドなど他の形態の小片)が形成される。ストリップは冷却されて、射出成形プロセスに供されるまで貯蔵される。
【0042】
図2は、本発明によるゴムコンパウンドの処理および射出成形プロセスの一態様を示すフローチャートである。一つの処理操作において、エラストマーは充填剤、添加剤およびキュア剤系(A+B)の一成分Aと混合される。得られた第1のゴムコンパウンドのストリップ(または、ストランドもしくはロッドなど他の形態の小片)は冷却されて、貯蔵される。並行した別の処理操作において、エラストマーは充填剤、添加剤およびキュア剤系(A+B)の一成分Bと混合される。得られた第2のゴムコンパウンドのストリップ(または、ストランドもしくはロッドなど他の形態の小片)は冷却されて、貯蔵される。第1のゴムコンパウンドと第2のゴムコンパウンドとが一体になって本発明の速キュア性のキュア可能な2パート型ゴムコンパウンドを構成する。本発明にしたがって、この2パート型ゴムコンパウンドを射出成形するには、射出成形プロセスにおいて、第1のゴムコンパウンドのストリップ(または、ストランドもしくはロッドなど他の形態の小片)と第2のゴムコンパウンドのストリップ(または、ストランドもしくはロッドなど他の形態の小片)を同時にスタチックミキサーへ導入されて混合される。得られた混合物は射出型へ導かれる。
【0043】
図3は、本発明に従って2パート型ゴムコンパウンドを混合し、射出成形するプロセスの実施に用いる装置の一態様を示す概略図である。第1のゴムコンパウンドのストリップ(または、ストランドもしくはロッドなど他の形態の小片)、第2のゴムコンパウンドのストリップ(または、ストランドもしくはロッドなど他の形態の小片)、および任意成分である追加のゴムコンパウンドのストリップ(または、ストランドもしくはロッドなど他の形態の小片)は、同時に連続して同じ速度で、加熱されたスクリュウ押出機(1)の供給口(2)から、射出プレスのウオームアップまたは射出準備室(4)へ導びかれる。第1のゴムコンパウンドのストリップ(または、ストランドもしくはロッドなど他の形態の小片)の容量は、第2のゴムコンパウンドのストリップ(または、ストランドもしくはロッドなど他の形態の小片)の容量、および任意成分である追加のゴムコンパウンドのストリップ(または、ストランドもしくはロッドなど他の形態の小片)の容量と同じであっても、または、相違してもよい。すなわち、各ストリップ(または、ストランドもしくはロッドなど他の形態の小片)の断面は、同じであっても、または、相違してもよい。
【0044】
ゴムコンパウンドは、ウオームアップまたは射出準備室(4)から、従来の射出成形におけるように直接、プレスの型または冷ランナー・ブロックへ供給されるものではない。すなわち、ゴムコンパウンドは、射出準備室(4)から排出されてモーションレスミキサー(またはスタチックミキサー)(6)へ押しやられる。モーションレスミキサー(6)は、ねじ込みトップクロージャー(5)によって射出準備室(4)の排出口に連結している。ゴムコンパウンドの2つの流れ(一般的には複数の流れ)は、モーションレスミキサー(6)中を圧送される間に混合されて、一体ノズル(7)を具えたモーションレスミキサー(6)のボトムクロージャーから型(8)へ圧入される。
【0045】
射出プレスは、高粘度を有するゴムコンパウンドの均一混合を達成するに十分な高圧下にで作動する。この圧力は、低粘度の熱可塑性物質またはエラストマーの射出成形に必要な圧力より、はるかに高い。射出圧力は少なくとも10,000 psiである。ゴムコンパウンドの特性およびプレスの容量に依存して、射出圧力は、10,000〜25,000 psi、時には10,000〜45,000 psiという高い圧力の範囲から選ばれる。
【0046】
モーションレスミキサー
モーションレスミキサーまたはスタッチクミキサーは、可動部材を持たず、ミキサーが具備する固定混合エレメントによって材料の混合を達成する既知の装置である。混合エレメントは、突起および/または開口ならびに溝を備えた形状を有し、その溝が、連続したパターンとして、材料の流れを送給し、分割し、再結合し、その結果、材料を混合する。モーションレスミキサーは、通常、化学的に反応せず、混合温度において高粘度を有するプラスチックのような材料の混合に用いられる。スタッチクミキサーを用いて射出成形用2液付加型液状シリコーンゴムを混合する手法は日本国公開公報2000−263594Aおよび米国特許公開200/0057606A1に報告されている。しかしながら、スタッチクミキサーは、本発明のゴムコンパウンドのような高粘度の材料を混合するには好適でないと考えられてきた。何故ならば、特に、複数のゴムコンパウンドは互いに接触すると急速にキュアし、しかも、このキュアは、高粘度のゴムコンパウンドを高圧下にスタッチクミキサー中で処理すると、せん断または摩擦により発生する熱によって加速されるからである。
【0047】
本発明者らは、速キュア性のキュア可能なマルチパート型ゴムコンパウンドは、その射出成形用スタッチクミキサーを用いて混合可能であることを見出し、実証した。図4は、本発明のプロセスの実施に用いられるスタティックミキサー(モーションレスミキサー)装置の一態様を示す概略図である。このスタティックミキサー装置(5)はハウジング(10)を有し、ハウジング(19)は、その長手方向に沿って直列に配置された複数の混合エレメント(11)を有している。スタティックミキサー装置(モーションレスミキサー)は、溝つきトップクロージャー(3)によって射出成形プレスの射出ガンに直接結合されており、また、ボトムクロージャー(6)を有する。ボトムクロージャー(6)は、ミキサーと射出成形プレスの型とを結合する一体に組込まれたノズルを有している。スタティックミキサー装置(モーションレスミキサー)の構成部材、特に、ハウジング(10)、トップクロージャー(3)およびボトムクロジャー(6)は、非常に高い圧力、通常は、射出プレスで発生する10,000 psi より高い圧力に耐える材料で製作される。硬化金属合金はこの目的に適合する材料の例である。スタティックミキサー装置(モーションレスミキサー)の構成部材として、多くの金属合金の硬化物が用いられている。ANSI4140は特に好適なベース材料であって、ミキサーの構成部材に組込んだ後、ロックウエルC硬度20〜67、特に25〜45まで硬化することができる。
【0048】
スタティックミキサー装置(モーションレスミキサー)は高粘度のエラストマー組成物を効果的に混合することができる。その結果、いったん、ミキサーで処理された混合物は十分に均質であって、均一な加硫を達成することができる。各混合エレメント(11)は、ミキサー中を流れるエラストマーコンパウンドの流れの上流に面する部分に多数の開口またはオリフィスを有している。これらの開口またはオリフィスは混合エレメントの内部のチャネルに通じており、それぞれの中に、エラストマーコンパウンドの流れを連続的に圧送して、分割および再合体するように構成されている。その結果、射出プレスに採用される高圧によって混合エレメントを通るエラストマーコンパウンドは、その混合が継続して高められる。射出流れの加硫方向に面する混合エレメントの部分から流出するエラストマーコンパウンドの流れは、下流に隣接する混合エレメントへ入り、先の混合エレメントにおけると同様に、さらに混合される。ミキサーハウジング中に設けられる混合エレメントの数は、混合エレメントのデザイン、混合すべきエラストマーコンパウンドの粘度および射出圧に依存して変わるが、2〜40の範囲で選ばれる。混合エレメントの数は、混合エラストマーコンパウンドの均一な流れがミキサーの出口で得られ、そして、その後は早期加硫を生じる可能性がある混合が行われないように適当に選ばれる。
【0049】
現在、工業的に一般に採用されているモーションレスミキサーは、本発明で用いられる高粘度のエラストマーコンパウンドを混合するのに必要とされる高圧に耐える材料で製作されていない。それ故、本発明者らは、所望の仕様に対応して、所要の硬度まで硬化せしめた鋳造合金製の円筒管状のミキサーハウジングを具えたモーションレスミキサーを製作して用いた。市販されているモーションレスミキサー用混合エレメントを、ミキサーハウジング中に設備することもできる。所望ならば、市販されているミキサーのデザインおよび構成材料に依存して、または、混合すべきエラストマーコンパウンドの粘度、および射出成形プロセスにおける圧力に依存して、既知の混合エレメントと同様なものを、より硬度の高い材料を用いて製作することもできる。
【0050】
モーションレスミキサーのハウジング内に設備することができるデザインを有するモーションレスミキサー部材の具体例としては、ロス・システムズ・アンド・コントロール(Ross Systems and Controlls)社のISGミキサー部材、および、サルザー・ケムテク(Sulzer Chemtech)社のKSMミキサー部材が挙げられる。本発明において用いることができる混合エレメントであるロスISG混合エレメントの斜視図、側面図を図5(5A,5Bおよび5C)に示す。混合エレメント(11)の本体(12)の一端に穿設された開口(13)が、混合エレメントの一端から多端へ横断する複数のチャネル(14)に連通している。ゴムコンパウンドは、射出プレスによって生ずる高圧下に1つの混合エレメントの複数のチャネル(14)を通って、下流に隣接する混合エレメントの複数のチャネルへ圧送される。ゴムコンパウンドの流れは、混合エレメントのチャネルのデザインおよびパターンに応じて分割および再合体を受けて混合される。
【0051】
射出成形プロセス
上記のように、マルチパート型ゴムコンパウンドは、例えば、トランスファー・スクリュウ手段によって、ストリップ(または、ストランドもしくはロッドなど他の形態の小片)の形態で射出プレスのウオームアップまたは射出準備室へ移送される。この操作の過程で最小の混合が行われ、そして、マルチパート型ゴムコンパウンドは、移送による機械的摩擦、および射出プレスに設けられた加熱ジャケットのような加熱手段によって、ウオームアップされる。射出成形品に必要とされるゴムコンパウンドの量に依存して変わるが、ゴムコンパウンドは、ウオームアップまたは射出準備室中に5サイクル以下に相当する時間滞留する。射出成形時には、モーションレスミキサー中で均一に混合されたゴムコンパウンド混合物は、高圧下にモーションレスミキサー端部のノズルから型中へ射出されて、成形されるとともにキュアされる。
【0052】
射出成形プロセスは、上記ウオームアップまたは射出準備室と型との間に上記の要件を満足するモーションレスミキサーを配置するように改変した、市販の射出成形装置または射出成形プレスを用いて実施することができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例について本発明の具体的態様を説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。特に断わらない限り、実施例中および本明細書の以下の記載中の部、パーセント、比率などは重量に基づく。
【0054】
実施例1
表1に示す各ゴムコンパウンドを密閉式ミキサーを用いて調製し、押出し機を用いて押出して円筒状ストランドとした。第1のゴムコンパウンドと第2のゴムコンパウンドが、本発明の速キュア性のキュア可能な2パート型ゴムコンパウンドを構成する成分である。非・後キュアゴムコンパウンドは、比較のための、従来の1パート型ゴムコンパウンドであって、第1のゴムコンパウンドおよび第2のゴムコンパウンドと同じマスターバッチ組成を有するが、加硫を遅延し、スコーチを抑制するために遅延剤を余分に含んでいる。
【0055】
【表1】

【0056】

*a ゼオンケミカル社(Zeon Chemical L.P.)製、アクリルゴム
*b カボット社(Cabot Corporation)製
*c シー・ピー・ホール社(C.P. Hall Co.)
*d ストラクトール・カンパニー・オブ・アメリカ社(Struktol Company of America)
*e アール・ティー・ヴァンデルビルト社(R.T. Vanderbilt)製、酸化防止剤
*f ゼオンケミカル社(Zeon Chemical L.P.)製、キュア剤
*g ゼオンケミカル社(Zeon Chemical L.P.)製、促進剤含有速キュア剤系
*h ゼオンケミカル社(Zeon Chemical L.P.)製、遅延剤
【0057】
モンサントR100振動・ディスク・レオメーターを用い、190℃において、第1のゴムコンパウンド、第2のゴムコンパウンド、および非・後キュアゴムコンパウンドのキュア特性を測定した。さらに、次のコンパウンド(1)および(2)についても同じ測定を行った。
(1)オープンミルを用いて調製した、第1のゴムコンパウンドと第2のゴムコンパウンドとの混合物。
(2)本発明の射出プロセスにおいてスタチックミキサーの出口で採取した、本発明の2パート型ゴムコンパウンドの試料。M36REP76トン射出プレスを使用。測定の便宜のため、採取後室温まで冷却した。
結果を表2に示す。
【0058】
【表2】

【0059】

*1 従来の単一パート型ゴムコンパウンド
30分、測定した。時間に依存するt2値およびt‘90値が計算できるように、各コンパウンドを十分にキュアした。
ODR試験は、ASTM D2084に準拠して行った。
【0060】
表2から明らかなように、第1のゴムコンパウンドおよび第1のゴムコンパウンドは、それらのキュア特性からみて、射出成形サイクルを経済的有利に実施するには遅すぎると考えられる。射出成形キュア温度190℃にてODRを用いて測定せるt2値は、キュアがほぼ3分間開始しないことを示している。理想的なゴムコンパウンドは、すぐにキュアを開始するのではないが、上記時間内にほぼ完全にキュアを完了するであろう。ODRを用いて測定したt‘90時間は、第1および第2のゴムコンパウンドは、いずれも、基準として、プレスから取出す前に最小数十分のキュア時間が必要であることを示しているであろう。そのように長いキュア時間は、明らかに、工業的に受容されるものでない。
【0061】
第1のゴムコンパウンドと第2のゴムコンパウンドとの混合物(オープン・ミルでの混合品)は、t2値が短く、t‘90値が小さく、キュアが速いことを示している。
【0062】
上記結果は、モーションレスミキサーの出口で採取し、室温まで冷却したマルチパート型ゴムコンパウンドが速キュア性であることを示している。しかしながら、これらの測定結果は、マルチパート型ゴムコンパウンドを正確に反映するものではない。なぜならば、ゴムコンパウンドは、混合された後、測定前に冷却されているからである。マルチパート型ゴムコンパウンドをスタチックミキサーの出口から加熱された型のキャビティーへ移送するときは、マルチパート型ゴムコンパウンドは、実際に、上記表に示される数値より一層速キュア性である。
【0063】
実施例1において本発明に従って調製した2パート型ゴムコンパウンドを、M36REP76トン射出プレスを用いて射出成形した。使用した射出プレスは、図4に示すスタチックミキサーを備えており、使用したスタチックミキサーは、316ステンレススチール製RossISGミキサーである。このスタチックミキサーには、前述の混合エレメントが6つ設けられており、これらのエレメントは、ANSI4140合金で構成され、ロックウエル硬度40まで硬化したハウジング内に直列に配置されたものである。ゴムコンパウンドに付与された射出圧は約24,500psi、押出機温度50℃、射出準備室温度60℃、ミキサー温度60℃、型温度190℃であった。サイクル時間は約1:20分(従来の非・後キュアゴムコンパウンドの成形では、サイクル時間は約2:20分)であった。本発明にしたがって2パート型ゴムコンパウンドを射出成形して得られたスパイダーモールド・フロー試験用試料は優れた特性を示した。成形した試料は型から容易に取出せた。成形した試料は変形しなかった、すなわち、キュア不足とはならなかった。また、脆化もしなかった、すなわち、過キュアとはならなかった。
【0064】
実施例2
表3に示す2パート型ゴムコンパウンドを調製し、実施例1と同様に処理した。
【表3】

【0065】

*a ゼオン・ケミカルズ・LP(Zeon Chemicals L.P.)製HNBR
*b カボット社(Cabot Corporation)製
*c シー・ピー・ホール社(C.P. Hall)製
*d ホースヘッド社(Horsehead)製
*e,f アール・ティー・ヴァンデルビルト社(R.T. Vanderbilt)製
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の速キュア性のキュア可能なマルチパート型ゴムコンパウンドは、いかなるゴム製品の成形にも、特に射出成形に好適である。エラストマーとしてアクリレートゴムを含む本発明のマルチパート型ゴムコンパウンドは、高い耐熱性と耐候性を必要とする自動車部品、例えば、O−リング、オイルパン・ガスケット、フロントカバー・ガスケット、バルブカバー・ガスケット、オイルシール、結合ピストンシールなどを成形するのに特に有用である。
【0067】
本発明の速キュア性のキュア可能なマルチパート型ゴムコンパウンドは、射出成形におけるサイクル時間を低減でき;後キュアを全く省くことができるか、または後キュア時間を低減でき;保存寿命を延長できるという特長を有する。
【0068】
キュア速度が非常に速くて、従来の混合方法ではゴムコンパウンドに採用できないキュア速度を示すような、加硫剤と促進剤との組合わせを選ぶことができる。さらに、本発明のマルチパート型ゴムコンパウンドが奏する他の予測できない効果として、同じゴム成分を含み、早期加硫を抑制するための遅延剤を配合した1パート型ゴムコンパウンドと比較して、良好な流れ特性を示し、型のキャビティーへの充填所要時間を短縮することができるという特長を示す。
【0069】
本発明は、キュア速度が速すぎて慣用される射出成形には通常使用できないと考えられているキュア組合わせ系を採用可能にするものである。ゴムの射出成形または他の加工処理においては、スコーチの安全性とキュア速度とのバランスが肝要である。もしゴムコンパウンドが速キュア性であるならば、採用されるあらゆる温度、特に、成形工程より前の加工工程における温度(成形温度より低い温度)においてさえ速キュア性となるであろう。ゴムコンパウンドは、工業的有利に成形できるように十分に速キュア性でなければならないが、他方では、早期加硫を避けて加工処理に耐えるように十分遅キュア性であることが要求される。本発明によれば、成形および加工処理に所要な時間を低減でき、キュア成分の使用量も低減できるため、より反応性の高い成分を用いることができる。
【0070】
本発明のその他の態様は、発明の明細および実施態様から当業者には明らかであろう。発明の明細および実施例は、説明目的のためであって、発明の範囲および趣旨は以下の請求の範囲に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記ゴムコンパウンド(1)、(2)および(3)を含んでなる速キュア性のキュア可能なマルチパート型ゴム粗成物(ただし、(3)は任意成分である)。
(1)(a)エラストマーと(b)少なくとも1種の加硫剤を含んでなり、190℃で測定せるt2値が少なくとも1.5分である第1のゴムコンパウンド、
(2)(a)エラストマーと(b)少なくとも1種のキュア促進剤を含んでなり、190℃で測定せるt2値が少なくとも1.5分である第2のゴムコンパウンド、および
(3)(a)少なくとも1種のエラストマーを含んでなり、190℃で測定せるt2値が少なくとも1.5分である、1種または2種以上の任意成分である追加のゴムコンパウンド。
上記コンパウンド(1)、(2)および(3)において、
エラストマー(1)(a)とエラストマー(2)(a)は同一であるか、または同一のエラストマーファミリーに属し、かつ、加硫剤(1)(b)とキュア促進剤(2)(b)とは両者が一体になって、エラストマー(1)(a)とエラストマー(2)(a)に対するキュア剤系として作用し;
エラストマー(3)(a)は、エラストマー(1)(a)およびエエラストマー(2)(a)の一方または両者と同一であるか、または、エラストマー(1)(a)およびエエラストマー(2)(a)と同一のエラストマーファミリーに属し、または、エラストマー(3)(a)は、エラストマー(1)(a)およびエエラストマー(2)(a)とは異種であって、エラストマー(1)(a)およびエエラストマー(2)(a)と同一のエラストマーファミリーに属せず[ただし、エラストマー(3)(a)は、加硫剤(1)(b)とキュア促進剤(2)(b)を含む加硫系によってキュア可能であり、および/または、エラストマー(3)(a)は、エラストマー(1)(a)およびエエラストマー(2)(a)と安定な分散体を形成する];
エラストマー(1)(a)、エラストマー(2)(a)およびエラストマー(3)(a)からなる群から選ばれる少なくとも1種のエラストマーは、ASTMD1646に準拠して100℃で測定せるムーニー粘度が20〜75の範囲であり;
第1のゴムコンパウンド、第2のゴムコンパウンドおよび、任意成分である追加のゴムコンパウンドは、速キュア性のキュア可能なマルチパートゴム粗成物を使用するまでは、互いに離れて保持され;
等容量部の第1のゴムコンパウンドおよび第2のゴムコンパウンド、ならびに等容量部の任意成分である追加のゴムコンパウンドの混合物は、0.7分未満のt2値を有し;
上記t2値は、ASTM D2084に準拠して振動ディスクレオメーター(ODR)を用いて測定されるものである。
【請求項2】
エラストマー(1)(a)、エラストマー(2)(a)およびエラストマー(3)(a)からなる群から選ばれる少なくとも1種のエラストマーは、ASTM D1646に準拠して100℃で測定せるムーニー粘度が20〜50の範囲である請求項1に記載の速キュア性のキュア可能なマルチパート型ゴム粗成物。
【請求項3】
エラストマー(1)(a)、エラストマー(2)(a)およびエラストマー(3)(a)からなる群から選ばれる少なくとも1種のエラストマーは、ASTM D1646に準拠して100℃で測定せるムーニー粘度が30〜50の範囲である請求項1に記載の速キュア性のキュア可能なマルチパート型ゴム粗成物。
【請求項4】
下記要件(イ)、(ロ)、(ハ)を満足する請求項1に記載の速キュア性のキュア可能なマルチパート型ゴム粗成物。
(イ)第1のゴムコンパウンドが、エラストマー100重量部(以下、「phr」という)、少なくとも1種の充填材1〜150phr、少なくとも1種の添加剤0〜6phr、および、加硫剤(1)(b)を含むキュア剤系1〜20phrを含み;
(ロ)第2のゴムコンパウンドが、エラストマー100phr、少なくとも1種の充填材0〜150phr、少なくと1種の添加剤0〜6phr、および、キュア促進剤(2)(b)を含むキュア剤系1〜20phrを含み;
(ハ)任意成分である追加のゴムコンパウンドが、エラストマー100phr、少なくとも1種の充填材0〜150phr、少なくと1種の添加剤0〜6phr、および、加硫剤のみまたは促進剤のみを含むキュア剤系0〜20phrを含む。
【請求項5】
下記要件(ニ)、(ホ)、(ヘ)を満足する請求項4に記載の速キュア性のキュア可能なマルチパート型ゴム粗成物。
(ニ)第1のゴムコンパウンドが、エラストマー100phr、少なくとも1種の充填材40〜85phr、少なくとも1種の充填材2〜4phr、および、加硫剤(1)(b)を含むキュア剤系4〜12phrを含み;
(ホ)第2のゴムコンパウンドが、エラストマー100phr、少なくとも1種の充填材40〜85phr、少なくと1種の添加剤2〜4phr、および、キュア促進剤(2)(b)を含むキュア剤系4〜12phrを含み;
(ヘ)任意成分である追加のゴムコンパウンドが、エラストマー100phr、少なくとも1種の充填材40〜85phr、少なくと1種の添加剤2〜4phr、および、加硫剤のみまたは促進剤のみを含むキュア剤系4〜12phrを含む。
【請求項6】
第1のゴムコンパウンド100容量部に対して第2のゴムコンパウンド2〜150容量部を含む請求項1に記載の速キュア性のキュア可能なマルチパート型ゴム粗成物。
【請求項7】
第1のゴムコンパウンド100容量部に対して第2のゴムコンパウンド10〜130容量部を含む請求項1に記載の速キュア性のキュア可能なマルチパート型ゴム粗成物。
【請求項8】
第1のゴムコンパウンド100容量部に対して第2のゴムコンパウンド80〜120容量部を含む請求項1に記載の速キュア性のキュア可能なマルチパート型ゴム粗成物。
【請求項9】
第1のゴムコンパウンド100容量部に対して、任意成分である追加のゴムコンパウンド2〜150容量部を含む請求項1に記載の速キュア性のキュア可能なマルチパート型ゴム粗成物。
【請求項10】
第1のゴムコンパウンド100容量部に対して、任意成分である追加のゴムコンパウンド10〜130容量部を含む請求項1に記載の速キュア性のキュア可能なマルチパート型ゴム粗成物。
【請求項11】
第1のゴムコンパウンド100容量部に対して、任意成分である追加のゴムコンパウンド80〜120容量部を含む請求項1に記載の速キュア性のキュア可能なマルチパート型ゴム粗成物。
【請求項12】
第1のゴムコンパウンド、第2のゴムコンパウンド、および任意成分である追加のゴムコンパウンドが等容量で含まれる請求項1に記載の速キュア性のキュア可能なマルチパート型ゴム粗成物。
【請求項13】
エラストマー(1)(a)およびエラストマー(1)(b)は、ACM、NBR、HNBR、ECO、FKM、AEMおよびEPDMからなる群から選ばれるエラストマーファミリ−に属する請求項1に記載の速キュア性のキュア可能なマルチパート型ゴム粗成物。
【請求項14】
エラストマー(1)(a)およびエラストマー(2)(a)は、同一または別異であってよく、両者はACMゴムのファミリ−に属する請求項13に記載の速キュア性のキュア可能なマルチパート型ゴム粗成物。
【請求項15】
エラストマー(1)(a)およびエラストマー(2)(a)は、同一または別異であってよく、両者はHNBRゴムのファミリ−に属する請求項13に記載の速キュア性のキュア可能なマルチパート型ゴム粗成物。
【請求項16】
下記工程(a)、(b)および(c)を含んでなる、ゴムコンパウンドをブレンドし、射出成形し、次いで、キュアする方法。
(a)第1のゴムコンパウンドの流れ、第2のゴムコンパウンドの流れ、および、1種または2種以上の任意成分である追加のゴムコンパウンドの流れを同時に射出プレスの射出室に供給して、該射出室において、これらのゴムの流れを合体する工程;
(b)合体されたゴムコンパウンドの流れを、少なくとも10,000psiの圧力下に、該射出室から、該射出室の下流位置に密閉状態で設けられたモーションレスミキサーへ押出し、該ミキサーにて、合体されたゴムコンパウンドの流れを混合して、混合ゴムコンパウンドの流れを形成する工程;および、
(c)混合ゴムコンパウンドの流れを、上記モーションレスミキサーの下流位置に密閉状態で設けられた型中へ供給する工程。
上記工程(a)、(b)および(c)において、
(1)第1のゴムコンパウンドは、(a)エラストマーと(b)少なくとも1種の加硫剤を含んでなり、
(2)第2のゴムコンパウンドは、(a)エラストマーと(c)少なくとも1種のキュア促進剤を含んでなり、また、
(3)1種または2種以上の任意成分である追加のゴムコンパウンドは、(a)少なくとも1種のエラストマーを含んでなり、さらに、
エラストマー(1)(a)とエラストマー(2)(a)は同一であるか、または同一のエラストマーファミリーに属し、かつ、加硫剤(1)(b)とキュア促進剤(2)(b)とは両者が一体になって、エラストマー(1)(a)とエラストマー(2)(a)に対するキュア剤系として作用し、かつ、
エラストマー(1)(a)、エラストマー(2)(a)およびエラストマー(3)(a)からなる群から選ばれる少なくとも1種のエラストマーは、ASTMD1646に準拠して100℃で測定せるムーニー粘度が20〜75の範囲である。
【請求項17】
エラストマー(1)(a)、エラストマー(2)(a)およびエラストマー(3)(a)からなる群から選ばれる少なくとも1種のエラストマーは、ASTMD1646に準拠して100℃で測定せるムーニー粘度が20〜50の範囲である、請求項16に記載の、ゴムコンパウンドをブレンドし、射出成形し、次いで、キュアする方法。
【請求項18】
エラストマー(1)(a)、エラストマー(2)(a)およびエラストマー(3)(a)からなる群から選ばれる少なくとも1種のエラストマーは、ASTMD1646に準拠して100℃で測定せるムーニー粘度が30〜50である、請求項16に記載の、ゴムコンパウンドをブレンドし、射出成形し、次いで、キュアする方法。
【請求項19】
合体されたゴムコンパウンドの流れを、10,000〜45,000psiの圧力下に、該射出室から押出す請求項16に記載の、ゴムコンパウンドをブレンドし、射出成形し、次いで、キュアする方法。
【請求項20】
合体されたゴムコンパウンドの流れを、10,000〜25,000psiの圧力下に、該射出室から押出す請求項16に記載の、ゴムコンパウンドをブレンドし、射出成形し、次いで、キュアする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−526952(P2011−526952A)
【公表日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−516624(P2011−516624)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【国際出願番号】PCT/US2009/048525
【国際公開番号】WO2010/002671
【国際公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(599107658)ゼオン ケミカルズ、エル.ピー. (2)
【Fターム(参考)】