説明

速溶性医薬組成物

【課題】改善された溶出性を有し、かつ良好なバイオアベイラビリティーを示す医薬組成物の提供。
【解決手段】平均粒子径を約20μm以下に微粉砕化した、強力なアルドース還元酵素(アルドースリダクターゼ)阻害作用を有する(R)−2−(4−ブロモ−2−フルオロベンジル)−1,2,3,4−テトラヒドロピロロ[1,2−a]ピラジン−4−スピロ−3’−ピロリジン−1,2’,3,5’−テトラオン(以下「AS−3201」という)を含有することからなる速溶性医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強力なアルドース還元酵素(アルドースリダクターゼ)阻害作用を有する(R)−2−(4−ブロモ−2−フルオロベンジル)−1,2,3,4−テトラヒドロピロロ[1,2−a]ピラジン−4−スピロ−3’−ピロリジン−1,2’,3,5’−テトラオン(以下、「AS−3201」という)を含有する速溶性医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
AS−3201は、下記式で表される化合物である。該化合物は、特許文献1 (特許文献2)の実施例22、特許文献3[非特許文献1]の参考例12および特許文献4[非特許文献2]の試験例において記載されており、その強力なアルドースリダクターゼ阻害作用が示されている。
【化1】

【0003】
特許文献1(特許文献2)の実施例28は、AS−3201の特定の錠剤の製造方法を記載している。即ち、「常法に従って、AS−3201(1g)、トウモロコシデンプン(25g)、乳糖(58g)、結晶セルロース(11g)、ヒドロキシプロピルセルロース(3g)、軽質無水ケイ酸(1g)およびステアリン酸マグネシウム(1g)を混和し、顆粒状とし、圧縮成型して、1錠100mgの錠剤1000錠を調製する。」と記載されている。
【0004】
本発明者らは、生物学的利用性(バイオアベイラビリティー)の優れたAS−3201含有医薬組成物の製造方法を検討する過程で、該物質の水に対する溶解度が低pH領域では数μg/mlと非常に低く、このためAS−3201の血中濃度が個体により大きくばらつくことを見いだした。
【0005】
本発明者らは鋭意研究を続けた結果、医薬組成物の調製に際し微粉砕化したAS−3201を使用することにより、著しく溶出性が改善され、その結果、バイオアベイラビリティーの良好なAS−3201含有速溶性医薬組成物が得られることを見いだし、本発明を完成した。
【特許文献1】日本特許第2516147号公報
【特許文献2】米国特許第5258382号明細書
【特許文献3】特開平6−192222号公報
【特許文献4】特開平8−176105号公報
【非特許文献1】Chem. Abstr., 122, 9860 (1995)
【非特許文献2】Chem. Abstr., 125, 221569 (1996)
【非特許文献3】HA Lieberman et al., "Pharmaceutical Dosage Forms: Tablets", Marcel Dekker, Inc., New York, 1990, Vol.2, 174-186
【非特許文献4】井伊谷鋼一(編)「粉粒体計測ハンドブック」日刊工業新聞社、1981、29−36参照
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、微粉砕化したAS−3201を含有することからなる速溶性医薬組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書における用語を説明する。
「微粉砕化したAS−3201」とは、約20μmよりも小さい平均粒子径を有するAS−3201の粉末を意味する。「平均粒子径」とは、質量(体積)基準の粒度分布の累積分布から求めた50%粒子径を意味する[非特許文献3; 非特許文献4参照]。「溶出試験」とは、第12改正日本薬局方に記載の方法に準じ、試験液にpH 6.5リン酸緩衝液(0.2M)900mlを用い、各医薬組成物(AS−3201 20mg相当量)の溶出性をパドル法(50rpm)で評価し、AS−3201の定量を吸光度法(300nm)により行う試験を意味する。「pKa1」とは、酸性物質の25℃、無限希釈溶液中の酸解離指数を意味し、多塩基酸の場合には、第1段階解離の指数を意味する。「水に対する溶解度」とは、水100ml中に溶解しうる溶質の最大質量を意味する。「約」という語は、勿論その次にくる数値を含む意図で使用されている。
【0008】
微粉砕化したAS−3201の平均粒子径は、約10μmよりも小さいものが好ましく、約5μmよりも小さいものが更に好ましく、約0.5μm〜約3μmの範囲のものが特に好ましい。
【0009】
特許文献1(特許文献2)に記載の方法に従って製造すると、通常、約60μm〜約120μmの平均粒子径を有するAS−3201結晶が得られる。AS−3201結晶の微粉砕化は、製剤分野において常用される粉砕機を使用することにより行うことができる。粉砕機の具体例としては、ジェットミル(セイシン企業製、日本)のような流体エネルギー粉砕機、サンプルミル(ホソカワミクロン社製、日本)、ピンミル(ALPINE社製、ドイツ)、オングル(ホソカワミクロン社製、日本)のような高速回転式衝撃粉砕機、マイクロス(奈良機械製作所製、日本)のような湿式高速回転粉砕機、ボールミルのような回転ミルが挙げられる。約5μmよりも小さい平均粒子径を有する微粉砕末を得るには、流体エネルギー粉砕機が好適に用いられる。微粉砕化はAS−3201結晶単独で、又は医薬組成物製造に使用する医薬品用添加物(担体)の一部又は全てと混合した状態で行ってもよい。
【0010】
本発明のAS−3201含有速溶性医薬組成物としては、例えば固形製剤が挙げられ、具体的には錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤等が挙げられる。これらの医薬組成物は、微粉砕化したAS−3201に賦形剤、崩壊剤、結合剤および滑沢剤のような医薬品用添加物(担体)を常法に従って混合して製造することができる。例えば、攪拌造粒、流動層造粒、転動造粒、遠心転動造粒、押し出し造粒等の湿式造粒又はローラーコンパクター、スラッグ打錠等の乾式造粒を行って顆粒化した後、カプセルに充填してカプセル剤を、或いは圧縮成形して錠剤を調製することができる。また、微粉砕化したAS−3201に医薬品用添加物(担体)を混合したものを直接カプセルに充填してカプセル剤を、或いは圧縮成形して錠剤を調製することもできる。これらの医薬組成物は、必要によりコーティングを施してもよい。また、本発明の医薬組成物は、必要に応じて、安定化剤、界面活性剤、着色剤、矯味剤等を添加してもよい。
【0011】
医薬品用添加物(担体)としては、AS−3201と特に配合性の悪いもの以外は使用することができる。賦形剤の具体例としては、乳糖、デンプン、結晶セルロース、D−マンニトール、白糖、ブドウ糖、エリスリトール、キシリトール、D−ソルビトール、無水リン酸水素カルシウム、硫酸カルシウムが挙げられる。崩壊剤の具体例としては、デンプン、結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、部分アルファ化デンプン、ヒドロキシプロピルスターチが挙げられる。結合剤の具体例としては、アラビアゴム、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、プルラン、ゼラチン、エチルセルロース、メチルセルロース、カルメロースナトリウム、デキストリンが挙げられる。滑沢剤の具体例としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、ショ糖脂肪酸エステル、軽質無水ケイ酸、タルク、硬化油、マクロゴールが挙げられる。
【0012】
安定化剤としては、生理的に許容される酸性物質であって、AS−3201の酸性度(pKa1=5.6)よりも強い酸性度を有するものが使用され、pKa1が約4.5よりも小さく、かつ15℃〜25℃における水に対する溶解度が約10g/100mlよりも大きい酸性物質が好ましく、pKa1が約3.3よりも小さく、かつ15℃〜25℃における水に対する溶解度が約50g/100mlよりも大きい酸性物質が特に好ましい。酸性物質の特に好適な具体例としては、クエン酸、酒石酸、マレイン酸又はリン酸が挙げられ、これらの中で酒石酸が最も好ましい。酸性物質の添加量は、好ましくは約0.5重量%〜約2.5重量%の範囲である。AS−3201の含有量が約5重量%よりも小さい医薬組成物を製造する場合には、安定化剤を添加することが望ましい。
【0013】
本発明の医薬組成物に添加しうる界面活性剤の具体例としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート類が挙げられる。着色剤の具体例としては、タール色素、カラメル、ベンガラが挙げられる。矯味剤としては、甘味料、香料等を用いることができる。
微粉砕化したAS−3201を用いることにより、溶出性は著しく改善されるが、これに加えて、医薬品用添加物(担体)の配合比を調節することにより、さらに溶出性が改善され、かつ良好なバイオアベイラビリティーを有するAS−3201含有速溶性医薬組成物を製造することができる。添加物の適切な配合比は、AS−3201の含有量により異なる。本発明の速溶性医薬組成物におけるAS−3201の含有量は、通常、医薬組成物総重量に対し約0.5重量%〜約25重量%の範囲である。AS−3201の含有量が医薬組成物総重量に対して約0.5重量%〜5重量%の場合、添加物の配合比は、通常、約51重量%〜約93.8重量%の賦形剤、約5重量%〜約35重量%の崩壊剤、約0.5重量%〜約5重量%の結合剤および約0.2重量%〜約4重量%の滑沢剤という割合が適当であり、さらに約59重量%〜約88重量%の賦形剤、約10重量%〜約30重量%の崩壊剤、約1重量%〜約3重量%の結合剤および約0.5重量%〜約3重量%の滑沢剤という割合が好ましい。AS−3201の含有量が医薬組成物総重量に対して5重量%より多く、約25重量%より少ない割合の場合、添加物の配合比は、通常、約16重量%〜約84.3重量%の賦形剤、約10重量%〜約50重量%の崩壊剤、約0.5重量%〜約5重量%の結合剤および約0.2重量%〜約4重量%の滑沢剤という割合が適当であり、さらに約29重量%〜約73.5重量%の賦形剤、約20重量%〜約40重量%の崩壊剤、約1重量%〜約3重量%の結合剤および約0.5重量%〜約3重量%の滑沢剤という割合が好ましい。
【0014】
AS−3201含有医薬組成物の場合、該物質の水に対する溶解度が低pH領域では数μg/mlと非常に低いため、初期溶出率とバイオアベイラビリティーの間に相関があり、初期溶出率の良いものがバイオアベイラビリティーも良好である。この観点から、溶出試験における試験開始後15分間の溶出率が50%以上である医薬組成物が好ましく、溶出試験における試験開始後15分間の溶出率が80%以上である医薬組成物がさらに好ましい。
【0015】
本発明のAS−3201含有速溶性医薬組成物は、必要により、透湿性の低い素材を用いた瓶包装、ヒートシール包装等の防湿包装が施される。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明のAS−3201含有速溶性医薬組成物は改善された溶出性を有し、かつ良好なバイオアベイラビリティーを示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置[HEROS & RODOS(商標)、SYMPATEC GmbH製、 ドイツ]を用いて測定し、乾式分散法(分散圧 0.5気圧)における体積基準の粒度分布の累積分布から求めた。
【0018】

AS−3201結晶をシングルトラックジェットミル(セイシン企業製;以下「ジェットミル」と略す)を用い圧縮圧6kgf/cmで粉砕して、約1.5μmの平均粒子径を有する粉末を得た。このAS−3201粉末、乳糖および低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを流動層造粒乾燥機に投入し、5%ヒドロキシプロピルセルロース水溶液に酒石酸を溶解した液を噴霧し造粒した。乾燥後、ステアリン酸マグネシウムを加え、V型混合機で混合した。これをロータリー式打錠機で、AS−3201を20mg含有する1錠125mgの錠剤に圧縮成形した。
【0019】
実施例2 錠剤の調製:
AS−3201結晶をサンプルミル(ホソカワミクロン社製)で粉砕して、約10μmの平均粒子径を有する粉末を得た。このAS−3201粉末を実施例1と同様に造粒、乾燥および打錠し、AS−3201を20mg含有する1錠125mgの錠剤に圧縮成形した。
【0020】
比較例1 錠剤の調製:
約87μmの平均粒子径を有する未粉砕のAS−3201結晶を、実施例1と同様に造粒、乾燥および打錠し、AS−3201を20mg含有する1錠125mgの錠剤に圧縮成形した。
【0021】
試験例1 溶出試験:
実施例1および2並びに比較例1の錠剤について、第12改正日本薬局方に記載の方法に準じ、試験液にpH6.5リン酸緩衝液(0.2M)900mlを用い、各錠剤の溶出性をパドル法(50rpm)で評価した。AS−3201の定量は吸光度法(300nm)により行った。
結果を第1図に示す。第1図の各点は、実施例1および2並びに比較例1の各錠剤について3回試験した結果の平均値を示している。
第1図から明らかなように、実施例1および2の錠剤は、比較例1の錠剤に比べ著しく改善された溶出性を有している。
【0022】

実施例1と同様に処理して、AS−3201を20mg含有する1錠125mgの錠剤に圧縮成形した。本錠剤の溶出試験における試験開始後15分間の溶出率は72.6%であった。
【0023】

AS−3201結晶をジェットミルを用い圧縮圧6kgf/cmで粉砕した後、乳糖および低置換度ヒドロキシプロピルセルロースとともに流動層造粒乾燥機に投入し、5%ヒドロキシプロピルセルロース水溶液に酒石酸を溶解した液を噴霧し造粒した。乾燥後、ステアリン酸マグネシウムを加え、V型混合機で混合した。これをロータリー式打錠機で、AS−3201を2.5mg含有する1錠125mgの錠剤に圧縮成形した。
本錠剤の溶出試験における試験開始後15分間の溶出率は93.0%であった。
【0024】

AS−3201結晶をジェットミルを用い圧縮圧6kgf/cmで粉砕した後、乳糖および低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを加え、万能混合攪拌機で5分間混合した。4%ヒドロキシプロピルセルロース水溶液に酒石酸を溶解した液を加え更に10分間練合した。乾燥後、ステアリン酸マグネシウムを加え、単発打錠機でAS−3201を20mg含有する1錠125mgの錠剤に圧縮成形した。
本錠剤の溶出試験における試験開始後15分間の溶出率は93.2%であった。
【0025】

AS−3201結晶をジェットミルを用い圧縮圧6kgf/cmで粉砕した後、乳糖および低置換度ヒドロキシプロピルセルロースとともに流動層造粒乾燥機に投入し、5%ヒドロキシプロピルセルロース水溶液を噴霧し造粒した。乾燥後、ステアリン酸マグネシウムを加え、V型混合機で混合した。これをロータリー式打錠機で、AS−3201を20mg含有する1錠125mgの錠剤に圧縮成形した。
本錠剤の溶出試験における試験開始後15分間の溶出率は92.0%であった。
【0026】

ジェットミルで粉砕したAS−3201を実施例1と同様に造粒、乾燥および打錠しAS−3201を5mg含有する1錠125mgの錠剤に圧縮成形した。
実施例7、8および9の錠剤の溶出試験における試験開始後15分間の溶出率は、それぞれ91.0%、94.5%および92.7%であった。
【0027】

ジェットミルで粉砕したAS−3201を実施例1と同様に造粒、乾燥および打錠しAS−3201を10mg含有する1錠125mgの錠剤に圧縮成形した。
実施例10、11および12の錠剤の溶出試験における試験開始後15分間の溶出率は、それぞれ89.4%、91.6%および92.2%であった。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】第1図は、実施例1および2並びに比較例1の錠剤の溶出パターンを示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径を約20μm以下に微粉砕化した(R)−2−(4−ブロモ−2−フルオロベンジル)−1,2,3,4−テトラヒドロピロロ[1,2−a]ピラジン−4−スピロ−3’−ピロリジン−1,2’,3,5’−テトラオン(以下「AS−3201」という)を含有することからなる速溶性医薬組成物。
【請求項2】
微粉砕化したAS−3201の平均粒子径が約10μmよりも小さい値である請求項1記載の速溶性医薬組成物。
【請求項3】
微粉砕化したAS−3201の平均粒子径が約5μmよりも小さい値である請求項1記載の速溶性医薬組成物。
【請求項4】
微粉砕化したAS−3201の平均粒子径が約0.5μm〜約3μmの範囲である請求項1記載の速溶性医薬組成物。
【請求項5】
溶出試験における試験開始後15分間の溶出率が50%以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載の速溶性医薬組成物。
【請求項6】
溶出試験における試験開始後15分間の溶出率が80%以上である請求項5記載の速溶性医薬組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2007−246539(P2007−246539A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−131777(P2007−131777)
【出願日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【分割の表示】特願2000−516674(P2000−516674)の分割
【原出願日】平成10年10月15日(1998.10.15)
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【Fターム(参考)】