説明

造形方法

【課題】造形物の形状に係る精度の低下を抑制することが可能な造形用スラリーを用いた
造形方法を提供する。
【解決手段】
造形物の形成においては、まず、疎水性粒体である樹脂の粒体と、水系溶媒である水と、
該水系溶媒に溶解された両親媒性固体ポリマーであるポリビニルアルコールとを含むスラ
リーからなるスラリー層21aを基板に形成する。次いで、スラリー層21aをフッ素系
溶液S中に浸すことによってスラリー層21aに撥液性を付与する。そして、UVインク
をスラリー層21aの一部に浸透させた後にUVインクを硬化することによって、スラリ
ー層21aに含まれる疎水性粒子及び両親媒性ポリマーを結着する。最後に、スラリー層
21aに水を流すことによって、サポート部をスラリー層から取り除く。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、造形に用いられる造形用スラリーを用いた造形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、造形物を迅速に試作する方法(ラピッドプロトタイピング)として積層造形
法が多用されている。積層造形法では、三次元CAD等による造形物のモデルを多数の二
次元断面層に分割した後、各二次元断面層に対応する層状構造体を順次作成しつつ積層す
ることによって造形物を形成する。具体的には、例えば特許文献1に記載のように、まず
、セラミックや金属等を含む粒体が層状に形成される。次いで、粒体からなる層の一部で
粒体同士を結着させるための液状の結着液が、例えばインクジェット式液滴吐出装置によ
って粒体からなる層に吐出される。そして粒体間の空隙に浸透した液状の結着液がそれの
硬化とともに粒体同士を結着することによって、上記二次元断面層に対応する層状構造体
が形成される。以後同様に、これら粒体からなる層の形成と液状の結着液の吐出とが交互
に繰り返されることによって造形物が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許2729110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、造形物の形成材料からなる層に対して液滴を吐出した場合、たとえ上記
層状構造体の形状に対応する領域に液滴が滴下されたとしても、該液滴がその滴下位置よ
りも外側に滲み出すことがある。特に、液滴の吐出された領域が層状構造体を形成する領
域とそれ以外の領域との境界である場合、滴下位置から液滴が滲み出すことによって、層
状構造体が所望とする形状に形成されない虞がある。こうした層状構造体の形状に係る精
度の低下は、層状構造体の積層物である造形物の形状に係る精度の低下や、造形物の個体
間での形状のばらつき等をもたらす。なお、上述したような形状に係る問題とは、造形物
を形成する充填材をセラミックや金属等の粒体とする積層造形法に限られたものではなく
、例えば充填材である繊維からなるシート材等を用いた方法にも概ね共通して生じるもの
である。また、上記液滴吐出装置を用いた積層造形法に限られたものではなく、層の所定
の領域に液状の結着液を浸透させることによって、層状構造体の形状が決定される方法に
も概ね共通して生じるものである。
【0005】
この発明は、こうした従来の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、造形物の
形状に係る精度の低下を抑制することが可能な造形用スラリーを用いた造形方法を提供す
ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、結着液を用いて充填材同士を結着することにより造形物を形成する造形方
法であって、前記充填材から構成される層を形成する層形成工程と、前記層の一部に前記
結着液を浸透させた後に該結着液を硬化することによって該層の一部で前記充填材同士を
結着する結着工程と、前記硬化された前記結着液を含む前記層に流体を供給することによ
って前記結着液が浸透した領域以外を前記層から取り除く除去工程とを含み、前記層の一
部に前記結着液を浸透させる前に該結着液に対する撥液性を前記層に付与する撥液処理工
程を更に含む。
【0007】
この発明によれば、充填材からなる層に対して撥液性を付与する撥液処理を実施した後
に、造形物の形状を決定する結着液を層に浸透させるようにしている。そのため、層の厚
さ方向に直交する方向へ結着液が滲み出すことを抑制できることから、造形物の形状に係
る精度を向上させることができる。
【0008】
この発明では、前記撥液処理工程では、前記結着液に対する撥液性を有した液体を前記
層に含浸させる。
この発明によれば、充填材からなる層に対して撥液性を有する液体を含浸させるように
している。つまり、撥液性を有した液体中に上記層を浸漬する等、いわゆる湿式の撥液処
理を実施するようにしている。そのため、例えばプラズマ処理等のいわゆる乾式の撥液処
理と比較して、撥液処理に必要とされる装置を簡素なものとすることが可能である。
【0009】
この発明では、前記撥液性を有した液体が、フッ素を含有する化合物を含み、且つ、前
記層は、充填材としての疎水性の粒体と、水系溶媒と、該水系溶媒に溶解された両親媒性
固体ポリマーとを含むスラリーからなるものであって、前記撥液処理工程では、前記撥液
性を有した液体と前記両親媒性固体ポリマーとの反応によって撥液性が前記両親媒性固体
ポリマーに付与され、前記結着工程では、前記結着液を介して前記疎水性の粒体及び前記
両親媒性固体ポリマーを結着する。
【0010】
この発明によれば、撥液性を有する液体中にはフッ素含有化合物が含まれるとともに、
上記充填材である疎水性の粒体と、水系溶媒と、両親媒性固体ポリマーとからなるスラリ
ーが用いられる。これにより、スラリーからなる層に撥液性を有する液体が含浸されると
、該液体中のフッ素含有化合物が水系溶媒に溶解された両親媒性固体ポリマーに結合する
ことによって、上記層に撥液性が付与されることになる。つまり両親媒性固体ポリマーに
撥液性が付与されるため、粒体に撥液性が付与し難い構成であっても、上述するような効
果を得ることが可能である。
【0011】
また、上記発明によれば、造形物を構成する疎水性の粒体は、両親媒性の介在によって
互いに架橋された状態で水系溶媒中に均一に分散された状態にある。そのため、造形物の
形成に際してスラリーに振動等が与えられたとしても、疎水性の粒体は、粒体間の架橋に
よって形成された構造中に保持されることから、粒体の飛散が抑制されるようになる。
【0012】
この発明では、前記両親媒性固体ポリマーはポリビニルアルコールである。
この発明によれば、両親媒性固体ポリマーとして用いられるポリビニルアルコールに上
記撥液性を有する液体中のフッ素含有化合物が付加されることにより、上記層を形成する
スラリーに撥液性が付与されることになる。
【0013】
この発明では、前記層形成工程と前記撥液工程と前記結着工程とを順に繰り返すことに
よって前記硬化された前記結着液を含む複数の前記層からなる積層体を形成した後、前記
除去工程では、前記積層体に前記流体である水系の液体を流すことによって、前記結着液
が浸透した領域以外を前記積層体から取り除く。
【0014】
この発明によれば、層形成工程と撥液処理工程と結着工程とを順に繰り返すことにより
、複数の層から構成される積層体を形成することができるため、当該造形方法によって形
成される造形物の形状に係る自由度が高くなる。
【0015】
この発明では、前記スラリーからなるとともに、前記層よりも前記結着液の滴下量が少
ない犠牲層を最下層として基体に形成する犠牲層形成工程を含む。
この発明では、最下層として基体上に形成する層として上記層よりも結着液の滴下量が
少ない犠牲層を設けるようにしている。そのため、造形物を形成する層を基体から剥離す
る際には、上記犠牲層を除去する、あるいは、犠牲層と基体とを乖離させるようにすれば
よい。それゆえに、造形物を基体から剥離する際に造形物にかかる力等に起因して、造形
物の形状、特に、犠牲層の直上に塗布される層によって形成される部位における形状の精
度が低下することを抑制できる。
【0016】
この発明では、前記犠牲層形成工程では、前記犠牲層となる前記層に対して前記結着液
を離散的に滴下する。
この発明によれば、犠牲層に対して離散的に結着液を滴下するとともに、結着液を硬化
するようにしている。そのため、犠牲層の基体からの剥離性が低下することを抑制しつつ
、スラリーの層に形成される造形物が、結着液の硬化領域を介して基体に安定に支持され
るようになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明を具体化した一実施の形態における造形方法の手順を示すフローチャート。
【図2】(a)(b)(c)同造形方法の各工程を手順に沿って模式的に示す図。
【図3】(a)(b)(c)(d)同造形方法の各工程を手順に沿って模式的に示す図。
【図4】(a)(b)(c)(d)変形例に係る造形方法の各工程を手順に沿って模式的に示す図。
【図5】(a)(b)(c)(d)変形例に係る造形方法の各工程を手順に沿って模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る造形方法の一実施の形態について、図1〜図3を参照して説明する
。まず、造形方法に用いられる造形用スラリーについて説明する。
[造形用スラリーの組成]
まず、造形用スラリーの組成について説明する。
【0019】
本実施の形態の造形用スラリーは、次の3つの材料が混練された懸濁物である。
(A)疎水性粒体
(B)水系溶媒
(C)両親媒性固体ポリマー
充填材としての疎水性粒体は、造形用スラリーを用いて形成される造形物の主要な構成
材料である。疎水性粒体には、疎水性の樹脂の粒体、例えばアクリル樹脂粉末、シリコー
ン樹脂粉末、アクリルシリコーン樹脂粉末、ポリエチレン樹脂粉末、及びポリエチレンア
クリル酸共重合樹脂粉末を用いることができる。なお、本実施の形態における疎水性粒体
とは、100gの水系溶媒に対して1g以上溶解しない粒体のことである。
【0020】
上記水系溶媒は、造形物を構成する疎水性粒体の溶解度が上述のように低い。そのため
、溶媒への溶解や溶媒の吸収に起因する疎水性粒体の変性が起こり難い。それゆえに、疎
水性粒体の飛散を抑制するとともに、疎水性粒体の結着を進行させる媒質として好ましい
。なお、水系溶媒とは水、及び無機塩の水溶液等の非有機系溶媒を含むものであって、こ
のうち水が水系溶媒として用いられることが好ましい。また、上記水系溶媒は、水に水溶
性の有機溶媒を添加したものであってもよい。
【0021】
上記両親媒性固体ポリマーは、上記疎水性粒体とともに造形物を構成する材料である。
この固体ポリマーは両親媒性であることから、親水性の部分による水系溶媒との親和性に
よって水系溶媒に溶解するとともに、その疎水性の部分による疎水性粒体との親和性によ
って該疎水性粒体の溶媒中への分散作用を発現する。両親媒性固体ポリマーとしては、主
鎖である炭化水素鎖と、側鎖である親水性の官能基とを有する材料を用いることができる
。中でも、直鎖炭化水素鎖を有しているものの、他の材料と比較して親水性が高いポリビ
ニルアルコールを用いることが好ましい。
【0022】
上記3つの材料が混練されたスラリー中では、両親媒性固体ポリマーが有する疎水性の
部分によって、疎水性粒体同士が互いに架橋された状態にもなる。そのため、造形物の形
成に際して、スラリーに振動等が与えられたとしても、疎水性の粒体は、粒体間の架橋に
よって形成された構造中に保持されることから、粒体の飛散が抑制されるようになる。
【0023】
また、疎水性粒体は、疎水性の部分において相互作用している両親媒性固体ポリマーが
有する親水性の部分を介して、水系溶媒中に均一に分散される。そのため、こうしたスラ
リーを用いて形成された造形物においては、形成材料である疎水性粒体が均一に存在する
ことになる。なお、こうした両親媒性固体ポリマーは、それ自体が造形物の形成材料であ
ることから、造形物の形成時には、形成途中の、あるいは完成した造形物から両親媒性固
体ポリマーを取り除くといった操作を必要としない。
【0024】
以下に、(A)疎水性粒体及び(C)両親媒性固体ポリマーの具体例を記載する。
[(A)疎水性粒体]
疎水性粒体としての粉末樹脂材料は、真球形状の粒体を含有していることが好ましい。
これにより、造形物の形状に係る制御性、特に造形物の外形を規定する辺や角部における
形状の制御性が向上する。
【0025】
また、上記粉末樹脂材料を含有するスラリーを用いて公知の積層造形法により造形物を
形成する際には、粉末樹脂材料の粒径が、スラリーにより形成されるスラリー層当りの厚
さ以下であることが好ましい。さらには、スラリー層の厚さの2分の1以下であることが
より好ましい。これにより、スラリー層における粒体の体積充填率を向上させ、ひいては
、造形物の機械的強度を向上させることができる。
【0026】
加えて、粉末樹脂材料には、上記粒径の範囲内で、互いに異なる粒径の粒体が含まれて
いることが好ましい。なお、造形用スラリー中における粒径の分布としては、ガウス分布
(正規分布)に近い分散であってもよいし、最大径側あるいは最小径側に粒径分布の最大
値を有するような分散(片分散)であってもよい。粉末樹脂材料に含まれる粒体の粒径が
単一の値である場合、スラリーを形成したときの該粒子の体積充填率は、最密充填時の理
論値である69.8%を超えることはなく、実際には50〜60%程度の充填率となる。
上述のように、粉末材料中に互いに異なる粒径の粒体が含まれる、言い換えれば粒径が範
囲を持って分布するようにすれば、例えば相対的に大きな粒径を有した粒体同士によって
形成された空隙に、相対的に粒径の小さい粒体が配置されることによって体積充填率が向
上される。これにより、造形物の機械的強度を向上させることができる。
【0027】
例えば、上記スラリー層の厚さが100μmである場合、粉末樹脂材料に含まれる粒体
の粒径は、100μm以下が好ましく、さらには、平均粒径が20μm〜40であって、
数μm〜から100μm以下の分散を有しているとより好ましい。
【0028】
上記条件を満たす粉末樹脂を以下に列挙する。
シリコーン樹脂粉末材料としては、例えば、トスパール1110(粒径11μm)、ト
スパール120(粒径2μm)、トスパール130(粒径3μm)、トスパール145(
粒径4.5μm)、トスパール2000B(粒径6μm)、トスパール3120(粒径1
2μm)(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製)(トスパール:登録商標
)等が挙げられる。
【0029】
アクリルシリコーン樹脂粉末としては、例えば、シャリーヌR−170S(粒径30μ
m)(日信化学工業(株)製)(シャリーヌ:登録商標)が挙げられる。
アクリル樹脂としては、例えば、エポスターL15(粒径10〜15μm)、エポスタ
ーM05(粒径4〜6μm)、エポスターGPH40〜H110(粒径4〜11μm)(
(株)日本触媒製)(エポスター:登録商標)が挙げられる。
【0030】
ポリエチレン樹脂としては、例えば、フロービーズLE−1080(粒径6μm)、フ
ロービーズLE−2080(粒径11μm)、フロービーズHE−3040(粒径11μ
m)、フロービーズCL−2080(粒径11μm)(住友精化(株)製)(フロービー
ズ:登録商標)が挙げられる。
【0031】
エチレンアクリル酸共重合樹脂である、フロービーズEA−209(粒径10μm)(
住友精化(株)製)が挙げられる。
[(C)両親媒性固体ポリマー]
両親媒性固体ポリマーの好ましい例として、ポリビニルアルコールが挙げられる。ポリ
ビニルアルコールの構造を以下に示す。
【0032】
【化1】

ポリビニルアルコールは、主鎖として直鎖状の炭化水素を有するとともに、側鎖として
親水性の官能基であるヒドロキシル基を有する。ポリビニルアルコールには、その単位構
造当りに凡そ一つのヒドロキシル基が含まれることから、該ポリビニルアルコールは、疎
水性の粒体との親和性を主鎖によって維持しつつ、水系溶媒との親和性が高いものとなる
。なお、ポリビニルアルコールの単量体であるビニルアルコール(HC=CHOH)が
酸化されやすく不安定であることから、ポリビニルアルコールは一般に以下の手順で生成
される。
【0033】
(a)ビニルアルコールのヒドロキシル基(−OH)がカルボキシル基(−COOH)
に置換された構造を有する酢酸ビニル(HC=CHCOOH)を重合することによって
、ポリ酢酸ビニルを生成する。
【0034】
(b)ポリ酢酸ビニルを加水分解(鹸化)して、カルボキシル基をヒドロキシル基に置
換する。
そのため、ポリビニルアルコールは、上記化学式(1)に示されるように、側鎖である
官能基としてヒドロキシル基の他に、カルボキシル基を有している。また、ポリビニルア
ルコールと総称される物質には、上記加水分解の度合いの違いに起因して、ポリ酢酸ビニ
ルの重合度に対する、ヒドロキシル基の数の比が異なるものが含まれる。こうした重合度
に対するヒドロキシル基の数の比の百分率は鹸化度と呼ばれ、ポリビニルアルコールの特
性を示す指標として用いられている。
【0035】
また、ポリビニルアルコールの特性を示す指標としては、上記化学式(1)に示される
単位構造の重合数である重合度も用いられている。
これら鹸化度と重合度には以下のような傾向がある。
【0036】
・鹸化度が大きい程、親水性が増大するため、水系溶媒に対する溶解度が大きくなる。
・ただし、鹸化度が100%付近になると結晶化しやすくなるため、水系溶媒に対する
溶解度が極端に小さくなる。
【0037】
・鹸化度が小さい程、疎水性が増大するため、水系溶媒に対する溶解度が小さくなる。
・重合度が大きい程、ポリビニルアルコールが含まれる構造体の機械的強度が増大する

【0038】
・重合度が小さい程、水系溶媒、特に冷水に対する溶解度が大きくなる。
ここで、上記積層造形法を用いて造形物を形成する場合、スラリーからなる単一層にお
ける機械的強度に鑑みれば、スラリーに含まれるポリビニルアルコールの重合度をより大
きくすることが好ましい。しかしながら、重合度の増大によってポリビニルアルコールの
溶解度が低下することから、スラリーからなる層を積層することによって造形物を形成す
る際、隣接する層の接合面においては、一方の層の界面に存在するポリビニルアルコール
が、他方の層を構成する溶媒に溶解し難くなる。つまり、層間の溶解性が低下することに
よって層間の接着性が低下してしまい、層間における機械的強度が低下することになる。
【0039】
この点、スラリーに含まれる水系溶媒が水であるときには、ポリビニルアルコールの重
合度を300以上1000以下とすることが好ましい。これによれば、スラリーからなる
層内の機械的強度と層間の接着性との両立が可能である。加えて、鹸化度を85以上90
以下とすることも好ましい。これによれば、水に対するポリビニルアルコールの溶解度の
低下を抑制することができる。そのため、上述のようなスラリー層間の接着性の低下を抑
制することができる。また、ポリビニルアルコールの重合度を300以上1000以下と
するとともに、鹸化度を85以上90以下とする構成はより好ましい。これによれば、ス
ラリーからなる層内の機械的強度と層間の接着性との両立が可能であるとともに、水に対
するポリビニルアルコールの溶解度の低下を抑制することができる。
【0040】
上記条件を満たすポリビニルアルコールを以下に列挙する。
ポバールJP−03(重合度300、鹸化度86.0〜90.0(88))、ポバール
JP−04(重合度400、鹸化度86.0〜90.0(88))、ポバールJP−05
(重合度500、鹸化度87.0〜89.0(88))、ポバールJP−10(重合度1
000、鹸化度86.0〜90.0(88))、ポバールJP−05S(重合度500、
鹸化度86.0〜90.0(88))(日本酢ビ・ポバール(株)製)等が挙げられる。
【0041】
クラレポバールPVA−203(重合度300、鹸化度87〜89(88))、クラレ
ポバールPVA−205(重合度500、鹸化度86.5〜89(87.75))等が挙
げられる。
【0042】
ゴーセノールGL−05(重合度500、鹸化度86.5〜89.0(87.75))
、ゴーセノールGL−03(重合度300、鹸化度86.5〜89.0(87.75))
(日本合成化学工業(株)製)(ゴーセノール:登録商標)等が挙げられる。
[配合比]
上記(A)疎水性粒体としてシャリーヌR−170Sを、(B)水系溶媒として水を、
(C)両親媒性固体ポリマーとしてポバールJP−05を用いるとき、これらの材料を以
下の割合で配合すると好ましい。
(A):(B):(C)=7:3.1:0.22(単位g)
これら材料を混練することにより、造形用スラリーを作成することができる。なお、造
形物において疎水性粒体の充填率が高くなるほど、該造形物における機械的な強度が高め
られる。それゆえに、造形物の機械的な強度を高める上では、疎水性粒体が最密に充填さ
れるべく、最密に充填された疎水性粒体の隙間よりも水系溶媒及び両親媒性固体ポリマー
の占める体積が小さくなるような配合比が好ましい。
[造形方法]
次に、上記組成のスラリーを用いた造形方法について、図1〜図3を参照して説明する

【0043】
図1は、造形方法の各工程を手順に沿って示すとともに、図2及び図3は、上記各工程
にて実施される処理を模式的に示している。
本実施の形態における造形方法では、まず、犠牲層形成工程(ステップS11:図2(
a))にて、例えばガラス基板やプラスチックシート等の基板11上に、例えば厚さが2
00μmになるように、上記スラリーを塗布することによって、スラリーからなる層の最
下層としての犠牲層12を形成する。なお、スラリーの塗布には、公知の方法であるスキ
ージ法、スクリーン印刷法、ドクターブレード法、及びスピンコート法等、基板11上に
略均一な厚さを有したスラリーの層を形成可能な方法を用いることができる。
【0044】
次いで、スラリー層形成工程(ステップS12:(b))にて、厚さが100μmにな
るように、上記スラリーを塗布してスラリー層21aを形成する。なお、スラリー層21
aの形成に際しても、犠牲層12の形成時と同様、上記公知の方法を用いることができる

【0045】
その後、撥液処理工程(ステップS13:図2(c))にて、スラリー層21aを、基
板11及びスラリー層21aの下層に形成された犠牲層12と共々、撥液性を有する液体
、例えばフッ素系の撥液基を有した加水分解性シラン化合物からなるフッ素系溶液S中に
浸漬させる。これにより、スラリー層21aの厚さ方向にフッ素系溶液Sが含浸して、ス
ラリー層21aの厚さ方向にわたり撥液性が付与される。
【0046】
より詳細には、上記フッ素系溶液Sとしては、例えばEGF−1720(住友スリーエ
ム(株)製)、オプツールDSX(ダイキン工業(株)製)(オプツール:登録商標)を
用いることができる。ちなみに、オプツールDSXを用いた場合には、例えばパーフルオ
ロヘキサン等のフッ素系溶剤を用いて0.1質量%等の適当な濃度に希釈してフッ素系溶
液Sとする。これら試薬には、例えばパーフルオロアルキル基等のフッ素系の撥液基を有
した加水分解性シラン化合物が含有されている。
【0047】
ここで、スラリー層21aを構成する造形用スラリーは、上述のように、例えば疎水性
を有した樹脂粒子と、水と、ポリビニルアルコールとからなる。そのためスラリー層21
a中では、ポリビニルアルコールにおいて疎水性を有した部位が樹脂粒子の表面と相互作
用している一方、ポリビニルアルコールにおいて親水性を有した部位が水と相互作用して
いる。そしてポリビニルアルコールが粒体表面に付着したかたちの樹脂粒子が、水中、つ
まりは、スラリー層21a中に均一に分散されている。
【0048】
こうしたスラリー層21aが上記フッ素系溶液S中に浸漬されると、樹脂粒子の表面を
覆うポリビニルアルコールのヒドロキシル基と上記加水分解性シラン化合物とが縮合する
。そして樹脂粒子同士を該ポリビニルアルコールの表面に、上記加水分解性シラン化合物
からなる単分子膜が形成される。つまり、樹脂粒体には直接撥液基が導入され難いものの
、該樹脂粒体の周囲を囲うポリビニルアルコールに撥液基が導入される結果、各樹脂粒体
の表面に沿うような撥液膜がスラリー層21a内に形成される。そのため、上記疎水性粒
子が加水分解性シラン化合物と親和性がなく、また、加水分解性シラン化合物が水中では
均一に分散されなくとも、こうした問題がポリビニルアルコールによって解消されるよう
になる。また、各樹脂粒子の表面を囲うポリビニルアルコールに撥液基が導入されること
から、スラリー層21aの全体にわたり均一な撥液性が付与されることにもなる。
【0049】
他方、上記疎水性粒子の表面に形成される加水分解性シラン化合物による撥液膜の厚さ
は、疎水性粒子同士の間隙が撥液膜によって充填されない膜厚とすることが好ましい。こ
れは、仮に粒子間がフッ化炭素化合物によって満たされてしまうと、UVインクIがスラ
リー層21a中に浸透しにくくなる、また、上層として形成されたスラリー層21bと下
層であるスラリー層21aとの境界にて密着性が得難くなる、そして、スラリー層21a
が水に溶解し難くなる、といった問題が生じるためである。
【0050】
例えば、フッ素系溶液SとしてEGC−1720を用いた場合、撥液膜の厚さは5〜1
0nmとなり、また、オプツールDSXを上記の条件で用いた場合、撥液膜の厚さは1〜
10nmとなる。ちなみに、これら試薬と同じくフッ化炭素化合物を含有するEGC−1
700(住友スリーエム(株)製)を用いた場合、撥液膜の厚さは1μmとなる。そのた
め、スラリー層21aに撥液製が付与されるとはいえ、上述のような問題を回避する上で
は、EGC−1720やオプツールDSXをフッ素系溶液Sとして用いる構成が好ましい

【0051】
そして、紫外線硬化樹脂滴下工程(ステップS14:図3(a))にて、上記スラリー
層21aにおいて造形物20(図3(d))の一部を形成するための造形部22aに、液
滴吐出装置31から結着液としての紫外線硬化樹脂を含んだUVインクIを吐出する。こ
こで、スラリー層21a内では、撥液性の付与されたポリビニルアルコールによって疎水
性粒体の架橋構造が形成されている。そして疎水性粒体同士は、互いに所定の空間を有し
て配置されているとともに、該空間中には水が充填されている。そのため、スラリー層2
1aの上方から、該スラリー層21aの表面に向かって吐出されたUVインクIは、撥液
性の付与されたポリビニルアルコールと該UVインクIとが相互作用し難くなる結果、ス
ラリー層21a中に停滞することなく、上述の空間を通ってスラリー層21aの裏面にま
で到達するようになる。つまり造形部22aの全体にUVインクIが円滑に浸透するよう
になる。また、疎水性粒体同士がポリビニルアルコールによって架橋されているため、ス
ラリー層21aを流動するUVインクIによって疎水性粒体が動かされることもない。そ
れゆえに、該造形部22aの強度が向上されるとともに、該造形部22aの形状そのもの
も概ね維持されるようになる。
【0052】
なお、上記UVインクIには、カチオンを活性種とする重合反応によって硬化するカチ
オン重合型の紫外線硬化樹脂を含むものと、ラジカルを活性種とする重合反応によって硬
化するラジカル重合型の紫外線硬化樹脂を含むものとがある。本実施の形態においては、
これらのいずれに属するUVインクIも用いることができる。ただし、当該UVインクI
は、スラリー層21aの造形部22aに滴下された後、造形部22aに含まれる疎水性粒
体と共々、硬化させるものである。そのため、UVインクI、特に紫外線硬化樹脂と疎水
性粒体とには、相溶性を有する材料を選択することが好ましい。つまり、UVインクIと
疎水性粒体には同系の材料を用いること、例えばアクリル系のUVインクIと、アクリル
樹脂粉末とを用いることが好ましい。あるいは、UVインクIと、該UVインクIと同系
の材料が表面に導入された疎水性粒体とを用いること、例えばアクリル系UVインクとア
クリルシリコーン樹脂粉末とを用いることが好ましい。つまり、ここでいう同系とは、疎
水性粒体を構成する繰り返し単位構造の主骨格と、UVインクIに含まれる樹脂の単位構
造の主骨格とが同一であることを意味している。また同系とは、該単位構造における側鎖
官能基や該単位構造における主骨格の一部が異なるものの、疎水性液状体と上記樹脂との
相互作用が疎水性粒体間の相互作用と略同じになる程度に、該単位構造の主骨格同士が一
部重複することを意味している。それゆえに、疎水性粒体及び上記樹脂がそれぞれ共重合
体である場合には、これらに含まれる原子の組成比が一致していないものも同系であると
する。
【0053】
ラジカル重合型の紫外線硬化樹脂としては、アクリル系樹脂、不飽和ポリエステル系樹
脂等が挙げられる。なお、アクリル系樹脂としては、例えば、ポリエステルアクリレート
系樹脂、エポキシアクリレート系樹脂、ウレタンアクリレート系樹脂、及びポリエーテル
アクリレート系樹脂が挙げられる。
【0054】
カチオン重合型の紫外線硬化樹脂としては、エポキシ系樹脂、オキセタン系樹脂、ビニ
ルエーテル系樹脂、及び、シリコーン系樹脂が挙げられる。なお、シリコーン系樹脂とし
ては、アクリルシリコーン系樹脂、ポリエステルシリコーン樹脂、エポキシシリコーン樹
脂、及びメルカプトシリコーン樹脂等が挙げられる。
【0055】
また、上記各種UVインクIは、各色の顔料を含むようにしてもよい。イエローの顔料
として、例えば、ファストイエロー(C.I.Pigment Yellow 74 )、ジスアゾイエロー(C.
I.Pigment Yellow 16 , C.I.Pigment Yellow 128 )、イソインドリノンイエロー(C.I.
Pigment Yellow 109 )が挙げられる。マゼンタの顔料として、キナクリドンマゼンタ(
C.I.Pigment Red 122 )、無置換キナクリドン(C.I.Pigment Violet 19 )が挙げられる
。シアンの顔料として、例えばフタロシアニンブルー(C.I.Pigment Blue 15:3 , C.I.Pi
gment Blue 15:4 )が挙げられる。ブラックの顔料として例えばカーボンブラックが挙げ
られる。ホワイトの顔料として例えば酸化チタンが挙げられる。また、これら顔料に加え
て、艶消シリコーン粉末等の艶消剤や、蛍光顔料が、上記UVインクIに含まれるように
してもよい。
【0056】
こうした紫外線硬化樹脂滴下工程に先立ち、スラリー層21aに撥液性を付与する撥液
処理を実施するようにしていることから、該工程でスラリー層21aに対して滴下された
UVインクIは、その滴下位置からスラリー層21aの厚さ方向に直交する方向に滲み出
すことが抑制される。
【0057】
その後、紫外線照射工程(ステップS14:図3(b))にて、上記スラリー層21a
全体に紫外線Lが照射されることによって、造形部22aが硬化される。なお、紫外線L
は、スラリー層21aの全体に照射されなくともよく、少なくともスラリー層21aのう
ちの造形部22aに照射されればよい。また、紫外線Lの照射は、例えば上記液滴吐出装
置31に搭載された紫外線照射装置によって、造形部22aへのUVインクIの滴下と交
互に行うことや、該液滴吐出装置31とは別に設けられた紫外線照射装置によって、スラ
リー層毎に行うこと、あるいは複数のスラリー層に対して一度に行うことができる。
【0058】
上述のようなUVインクIの滴下と紫外線Lの照射により硬化された造形部22aは、
造形物20の一部を構成する。他方、スラリー層21aにおける造形部22a以外の領域
は、同一のスラリー層21aに形成された造形部22aや、スラリー層21aの上部のス
ラリー層21b等に形成される造形部22b等を機械的に支持するサポート部23aとし
て機能するようになる。これにより、例えば、図3(c)に示されるように、上層の造形
部22bが下層の造形部22aよりも、積層方向に垂直な方向に張り出している張り出し
部を有する造形物20を形成する場合であっても、張り出し部を支持するサポート部を別
途形成する必要がない。また、張り出し部の下層にスラリー層が存在する状態で造形物2
0の形成が行われることから、造形物20の形成途中において突起部が欠けることを抑制
できる。なお、上記紫外線硬化樹脂滴下工程と紫外線照射工程とから結着工程が構成され
る。
【0059】
上記スラリー層形成工程(ステップS12)から上記紫外線照射工程(ステップS15
)までの4工程は、造形物20を構成する造形部の全てが形成されるまで繰り返し実施さ
れる。例えば、図3(b)に示されるように、造形物20が5層のスラリー層21a,2
1b,21c,21d,21eから構成される場合、上記4工程が順に5回繰り返される
。このように、層形成工程から紫外線照射工程までの4工程を順に繰り返すことにより、
複数の層から構成される積層体を形成することができるため、当該造形方法によって形成
される造形物20の形状に係る自由度が高くなる。
【0060】
造形物20を構成する造形部22a,22b,22c,22d,22eが全て形成され
ると、サポート部除去工程(ステップS16:図3(d))にて、スラリー層21a,2
1b,21c,21d,21eの積層体から、サポート部23a,23c,23d,23
eが除去される。サポート部23a,23c,23d,23eの除去は、上記基板11と
ともに積層体を流体である水溶性の液体中、例えば水中に浸すこと、積層体に水を所定の
圧力で吹き付けること等によって行うことができる。なお、スラリーの構成材料であるポ
リビニルアルコールの重合度を300以上1000以下とするとともに、鹸化度を85以
上90以下とすれば、スラリー層の水に対する溶解度の低下を抑制することができる。そ
のため、上述した重合度と鹸化度とを有したポリビニルアルコールからなる構成では、サ
ポート部除去工程(ステップS16)に際して、上記積層体からサポート部23a,23
c,23d,23eのみを容易に取り除くことができるという点で好ましい。
【0061】
以上説明したように、本実施の形態に係る造形方法によれば、以下に列挙する効果を得
ることができる。
(1)スラリー層21a,21b,21c,21d,21eに対して撥液性を付与する
撥液処理を実施した後に、スラリー層21a,21b,21c,21d,21eを硬化さ
せることによって造形物20の形状を決定するUVインクIをスラリー層21a,21b
,21c,21d,21eに浸透させるようにした。そのため、スラリー層21a,21
b,21c,21d,21eの厚さ方向に直交する方向へUVインクIが滲み出すことを
抑制できることから、造形物20の形状に係る精度を向上させることができる。
【0062】
(2)スラリー層21a,21b,21c,21d,21eをフッ素系溶液Sに浸漬す
ることによって、該スラリー層21a,21b,21c,21d,21e対して撥液性を
有する液体を含浸させるようにした。そのため、例えばプラズマ処理等のいわゆる乾式の
撥液処理と比較して、スラリー層21a,21b,21c,21d,21eの厚さ方向に
おける撥液化が起こりやすくなり、該スラリー層21a,21b,21c,21d,21
eの厚さ方向にわたって撥液性が付与されやすくなる。
【0063】
(3)フッ素系溶液S中には加水分解性シラン化合物が含まれるようにした。これによ
り、スラリー層21a,21b,21c,21d,21eに撥液性を有する液体が含浸さ
れると、該液体中の加水分解性シラン化合物と水系溶媒に溶解されたポリビニルアルコー
ルとが縮合することによって、上記スラリー層21a,21b,21c,21d,21e
に撥液性が付与されることになる。
【0064】
(4)樹脂の粒体、水、及びポリビニルアルコールを含んでなるスラリーを用いる用に
した。これにより、スラリー中においては、造形物20を形成する樹脂の粒体同士は、互
いに独立した状態にあるのではなく、ポリビニルアルコールの介在によって互いに架橋さ
れた状態にある。そのため、造形物20の形成に際して、スラリーに振動等が与えられた
としても、樹脂の粒体は、粒体間の架橋によって形成された構造中に保持されることから
、粒体の飛散が抑制されるようになる。
【0065】
(5)層形成工程から紫外線照射工程までの4工程を順に繰り返すことにより、複数の
層から構成される積層体を形成するようにした。これにより、当該造形方法によって形成
される造形物20の形状に係る自由度が高くなる。
【0066】
なお、上記実施の形態は、以下のように適宜変更して実施することも可能である。
・上記結着液は、紫外線硬化樹脂を含むUVインクIに限らず、熱硬化樹脂を含む液状
体に具現化することもできる。
【0067】
・各スラリー層21a,21b,21c,21d,21eを形成した後に、該スラリー
層21a,21b,21c,21d,21eを乾燥する乾燥工程を設けるようにしてもよ
い。また、乾燥に際しては、スラリー層21a,21b,21c,21d,21eに含ま
れる水を完全に乾燥させてもよいし、スラリー層21a,21b,21c,21d,21
eの水分含有量が大気中で変わらない状態、つまりスラリー層21a,21b,21c,
21d,21eと大気とが平衡状態となるようにしてもよい。なお、スラリー層21a,
21b,21c,21d,21eを完全に乾燥させても、下層のスラリー層中のポリビニ
ルアルコールが、上層のスラリー層中の水に溶解することによって、層間の接着性は維持
される。
【0068】
・スラリー層21a,21b,21c,21d,21eの造形部22a,22b,22
c,22d,22eにUVインクIを滴下した後に、紫外線Lを照射するようにした。こ
れに限らず、例えばスラリー層21bのように、層全体が造形部22bとなる場合には、
スラリー層21bを形成することなく、造形部22bをUVインクIのみによって形成す
るようにしてもよい。
【0069】
・上記犠牲層12は、スラリーのみによって形成するようにした。これに限らず、犠牲
層12の全体に、離散的にUVインクIを滴下して、造形物20の基板への固定強度を高
める固定部12aを形成するようにしてもよい。こうした固定部12aを用いた造形方法
の詳細について、図4及び図5を参照して以下に説明する。
【0070】
まず、基板11上に例えば200μmとなるようにスラリーを塗布して犠牲層12を形
成する(図4(a))。犠牲層12の全体に、液滴吐出装置31を用いてUVインクIを
離散的に滴下する(図4(b))。UVインクIを、該UVインクIが浸透した領域の疎
水性粒体と共々硬化させて固定部12aを形成する。なお、このUVインクIの硬化は、
図4(b)に示されるUVインクIの離散的な滴下の直後に行ってもよいし、犠牲層12
上に形成されるスラリー層21aの造形部22aの硬化と同時に行ってもよい。また、固
定部12aは、犠牲層12の直上に形成されるスラリー層21aにおける造形部22aの
領域の直下に少なくとも形成されていればよい。
【0071】
次いで、犠牲層12上に、例えば100μmのスラリー層21aを形成した後に(図4
(c))、スラリー層21aを、基板11及びスラリー層21aの下層に形成された犠牲
層12と共々、フッ素系溶液S中に浸漬させる(図4(d))。次いで、スラリー層21
aの造形部22aに液滴吐出装置31によってUVインクIを滴下する(図5(a))。
そして、スラリー層21aの全体に紫外線Lを照射することによって、造形部22aを硬
化させる(図5(b))。上記スラリー層の形成、UVインクIの滴下、及び造形部の硬
化を例えば5回繰り返す(図5(c))。
【0072】
最後に、造形部22a,22b,22c,22d,22eの周囲のサポート部23a,
23c,23d,23eを除去する(図5(d))。このとき、固定部12aも含んで犠
牲層12を基板11から剥離する。なお、犠牲層12に形成された固定部12aのうち、
サポート部23aの直下に形成された固定部12aは、サポート部23aを除去すること
で取り除くことができる。一方、造形部22aの直下に形成された固定部12aについて
は、機械的あるいは化学的に取り除く必要がある。
【0073】
こうして犠牲層12中に固定部12aを設けることにより、造形物20を形成する造形
部22aが、より安定に基板11によって支持されるようになる。
・造形物20を構成するスラリー層21a,21b,21c,21d,21eの形成に
先立ち、基板11上に犠牲層12を形成するようにしたが、該犠牲層12を形成しないよ
うにしてもよい。
【0074】
・造形物20は、5層のスラリー層21a,21b,21c,21d,21eによって
形成されるものを例示した。これに限らず、造形物20を構成する層の数は、一以上の任
意の数とすることができる。また、各スラリー層に形成される構造物の形状も任意である

【0075】
・樹脂粒体は、造形物20の形状制御が可能であれば、真球以外の形状、例えば楕円体
形状等をなしていてもよい。
・紫外線硬化樹脂と同系でない、あるいは同径の材料が表面に導入されていない疎水性
粒子を用いてもよい。
【0076】
・スラリーに、例えばアセテート繊維等の繊維材料を含有させてもよい。これにより、
スラリーを用いて形成した造形物の機械的強度を向上させることができる。
・ポリビニルアルコールの鹸化度は、スラリーの水系溶媒中でポリビニルアルコールが
析出しない範囲であれば、85以上90以下の範囲外であってもよい。
【0077】
・ポリビニルアルコールの重合度は、スラリー層間での再溶解性が得られる範囲であれ
ば、300以上1000以下の範囲外であってもよい。
・両親媒性固体ポリマーはポリビニルアルコールに限らず、疎水性粒体の間に介在して
これらを繋ぐとともに、該疎水性粒体を水系溶媒中に均一に分散可能な両親媒性固体ポリ
マーであればよい。
【0078】
・両親媒性固体ポリマーは、主鎖として炭化水素鎖を有するとともに、側鎖として親水
性の官能基を有するものに限らず、疎水性の部位と親水性の部位を有するものであって、
疎水性の部位によって疎水性粒体間に介在するとともに、親水性の部位によって水系溶媒
中に分散可能なものであればよい。
【0079】
・疎水性粒体は樹脂からなる粒体に限らず、他の疎水性粒体、例えば表面に疎水性を有
したシリコン酸化物等の粒体であってもよい。
・上記水系溶媒は水に限らず、無機塩の水溶液等、他の非有機系の水系溶媒であっても
よい。
【0080】
・また水系溶媒は、水に水溶性の有機溶媒を添加したものであってもよい。
・水系溶媒は非有機系の溶媒に限らず、造形物20の形状制御が可能であれば、エタノ
ール、n−プロパノール等のアルコール類、ジエチレングリコール、グリセリン等の多価
アルコール類、ピロリドン系溶媒等の有機溶媒を主成分とする溶媒を用いるようにしても
よい。なおこの場合、造形物20を構成する疎水性流体としては、上記シリコン酸化物等
の有機溶媒に対する溶解性が低いものを用いることが好ましい。
【0081】
・フッ素系溶液Sは、粒体から構成される層に撥液性を付与できるものであれば、例え
ば上述した加水分解性シラン化合物の他、フッ素を含有する金属アルコキシド化合物を含
むものであってもよい。
【0082】
・撥液性を有する液体をフッ素系溶液Sとしたが、これに限らず、フッ素を含有する化
合物以外によって撥液性を発現するとともに、上記粒体から構成される層に撥液性を付与
することが可能な液体として具現化するようにしてもよい。
【0083】
・撥液性を有する液体を層に含浸させる方法としては、上述のように、基材を液体中に
浸漬する方法に限らず、例えば、スプレーやローラ等によって撥液性を有する液体を層に
塗布する等、他の湿式の撥液処理を行うようにしてもよい。
【0084】
・充填材として疎水性粒子を用いるとともに、該疎水性粒子を含むスラリーを造形物2
0の形成に用いることとした。これに限らず、例えば充填材である繊維からなるシート材
によって造形物を形成するようにしてもよい。
【0085】
・サポート部23a,23c,23d,23eの除去には、流体として水系の溶液を用
いることとしたが、これに限らず例えば有機溶剤を用いるようにしてもよい。また、ガス
を吹き付けることによって上記サポート部23a,23c,23d,23eを除去するよ
うにしてもよい。
【0086】
・基材からなる層に撥液性を付与する撥液処理は、上記湿式の処理に限らず、例えば蒸
着法やプラズマ処理等のいわゆる乾式の撥液処理によって、層に撥液性を付与するように
してもよい。
【符号の説明】
【0087】
11…基板(基体)、12…犠牲層、12a…固定部、20…造形物、21a,21b
,21c,21d,21e…スラリー層、22a,22b,22c,22d,22e…造
形部、23a,23c,23d,23e…サポート部、31…液滴吐出装置、I…UVイ
ンク、L…紫外線、S…フッ素系溶液。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結着液を用いて充填材同士を結着することにより造形物を形成する造形方法であって、
前記充填材から構成される層を形成する層形成工程と、
前記層の一部に前記結着液を浸透させた後に該結着液を硬化することによって該層の一
部で前記充填材同士を結着する結着工程と、
前記硬化された前記結着液を含む前記層に流体を供給することによって前記結着液が浸
透した領域以外を前記層から取り除く除去工程とを含み、
前記層の一部に前記結着液を浸透させる前に該結着液に対する撥液性を前記層に付与す
る撥液処理工程を更に含む
ことを特徴とする造形方法。
【請求項2】
請求項1に記載の造形方法において、
前記撥液処理工程では、前記結着液に対する撥液性を有した液体を前記層に含浸させる
ことを特徴とする造形方法。
【請求項3】
請求項2に記載の造形方法において、
前記撥液性を有した液体が、フッ素を含有する化合物を含み、且つ、
前記層は、前記充填材である疎水性の粒体と、水系溶媒と、該水系溶媒に溶解された両
親媒性固体ポリマーとを含むスラリーからなるものであって、
前記撥液処理工程では、前記撥液性を有した液体と前記両親媒性固体ポリマーとの反応
によって撥液性が前記両親媒性固体ポリマーに付与され、
前記結着工程では、前記結着液を介して前記疎水性の粒体及び前記両親媒性固体ポリマ
ーを結着する
ことを特徴とする造形方法。
【請求項4】
請求項3に記載の造形方法において、
前記両親媒性固体ポリマーはポリビニルアルコールである
ことを特徴とする造形方法。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の造形方法において、
前記層形成工程と前記撥液処理工程と前記結着工程とを順に繰り返すことによって前記
硬化された前記結着液を含む複数の前記層からなる積層体を形成した後、
前記除去工程では、前記積層体に前記流体である水系の液体を流すことによって、前記
結着液が浸透した領域以外を前記積層体から取り除く
ことを特徴とする造形方法。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれか一項に記載の造形方法において、
前記スラリーからなるとともに、前記層よりも前記結着液の滴下量が少ない犠牲層を最
下層として基体に形成する犠牲層形成工程を含む
ことを特徴とする造形方法。
【請求項7】
請求項6に記載の造形方法において、
前記犠牲層形成工程では、前記犠牲層となる前記層に対して前記結着液を離散的に滴下
するとともに、該結着液を硬化する
ことを特徴とする造形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−245713(P2011−245713A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120202(P2010−120202)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】