説明

造影剤を含む生体吸収性ステントおよびそれを含む医療用デバイス

【課題】 患者を切開することなく、その形態、分解程度または配置部位を確認可能な生体吸収性ステントを提供する。
【解決手段】 本発明の生体吸収性ステントは、生体吸収性材料から形成された生体吸収性ステントであって、前記生体吸収性材料が、造影剤を含む。本発明の生体吸収性ステントは、造影剤を含むことから、例えば、生体外から検出できる。このため、本発明の生体吸収性ステントによれば、例えば、患者を切開することなく、その形態、分解程度または配置部位を確認できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造影剤を含む生体吸収性ステントおよびそれを含む医療用デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、末期肝不全および肝癌等に対する治療法として、肝移植が行われている。肝移植手術は、ドナーの肝臓から導出する胆管と、レシピエントの胆管とを吻合するが、吻合部における胆管狭窄が問題となっている。このような問題は、胆管に限らず、例えば、膵管と十二指腸等の消化管との吻合においても生じている。また、このような管腔臓器における狭窄は、前述の吻合部に限られず、例えば、脈管、消化管等の病変部においても発生する。
【0003】
前記管腔臓器における狭窄を防止するため、例えば、前記管腔臓器の狭窄部における内部空間を維持するためのステントが提案されている。前記ステントは、例えば、その一端を一方の管腔臓器の内部に挿入し、その他端を他方の管腔臓器の内部に挿入する。そして、両方の前記管腔臓器の端部同士を吻合すれば、前記ステントにより、吻合部およびその周囲における内部空間を維持できる。前記ステントは、例えば、メタルステント等が開発されている(特許文献1、非特許文献1等)。前記メタルステントは、一般に、網目の筒状体であり、金属から形成されているため、体内に挿入後、半永久的に物理的強度を確保できる。このため、狭窄防止効果は高いが、体内に残ることにより、前記ステントが、再狭窄の原因となる可能性がある。また、前記メタルステントの除去には、再度、手術が必要となるため、患者の負担が大きい。また、前記メタルステントの他に、一般に、血液、消化液、空気等の除去を目的として体内に留置する排液用チューブを、前記ステントとして利用する方法も提案されている。しかし、前記チューブは、通常、ポリ塩化ビニル等の樹脂製であるため、前記メタルステントと同様、狭窄防止効果は高いが、前記チューブの抜去後、再狭窄の可能性がある。
【0004】
このような問題を解決するため、前記ステントを、例えば、一定期間経過後に、生体内で分解、吸収される生体吸収性材料から形成することが考えられている(非特許文献2等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−196642号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「Role ofendoscopic endoprostheses in proximal malignant obstruction.」,J hepatobiliary Pancreat Surg.,2001年;Vol.8:p.118-123.
【非特許文献2】「Clinicaluse of synthetic absorbable cuff material for peripheral vascular anastomosis.」,Surg. Gynecol. Obstet.,1992年;Vol.175:p.421-427.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、前記生体吸収性材料から形成されたステントを管腔臓器内部に配置した場合、例えば、狭窄が発生しやすい期間内に、前記ステントが、分解されたり、配置部位から移動してしまうおそれがある。このため、生体内に配置後、前記ステントの形態および配置部位の確認が望まれるが、そのためには、患者を再度切開する必要があり、現実的ではない。そこで、本発明は、患者を切開することなく、その形態、分解程度または配置部位を確認可能な、生体吸収性ステントの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の生体吸収性ステントは、生体吸収性材料から形成された生体吸収性ステントであって、前記生体吸収性材料が、造影剤を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明の医療用デバイスは、前記本発明の生体吸収性ステントを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の生体吸収性ステントは、造影剤を含むことから、例えば、生体外から検出できる。このため、本発明の生体吸収性ステントによれば、例えば、患者を切開することなく、その形態、分解程度または配置部位を確認できる。このように、本発明は、医療分野において極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、実施例1のステントの写真である。図1(A)は、外観写真であり、図1(B)は、ステント側壁の断面を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の生体吸収性ステントは、前述のように、生体吸収性材料から形成されたステントであって、前記生体吸収性材料が、造影剤を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明の生体吸収性ステントは、前記生体吸収性材料が、前記造影剤を含んでいればよく、その他の構成や形状等は、特に制限されない。本発明の生体吸収性ステントは、例えば、その一部に前記造影剤が含まれてもよいし、全体に前記造影剤が含まれてもよい。
【0014】
前記造影剤は、特に制限されず、例えば、画像診断法の種類に応じて適宜選択できる。前記画像診断法は、特に制限されず、例えば、X線画像診断法、核磁気共鳴画像(MRI:Magnetic Resonance Imaging)診断法等があげられる。前記造影剤は、例えば、1種類でもよいし、2種類以上を併用してもよい。後者の場合、例えば、X線画像診断用の造影剤を2種類以上併用してもよいし、MRI診断用の造影剤を2種類以上併用してもよいし、X線画像診断用の造影剤とMRI診断用の造影剤とを併用してもよい。
【0015】
前記造影剤は、特に制限されず、例えば、アミドトリゾ酸、イオキサグル酸、イオキシラン、イオタラム酸、イオトロクス酸メグルミン、イオトロラン、イオパノ酸、イオパミドール、イオプロミド、イオヘキソール、イオメプロール、イオポダートナトリウム、メトリゾ酸、ヨーダミド、ヨードキサム酸、ヨード化ケシ油脂肪酸エチルエステル等のヨード造影剤、硫酸バリウム等があげられ、好ましくは、硫酸バリウムである。これらの造影剤は、例えば、前記X線画像診断法による検出に適している。前記造影剤は、例えば、いずれか1種類でもよいし、2種類以上を含んでもよく、その組み合わせや割合は、特に制限されず、適宜設定できる。
【0016】
前記造影剤は、これらの他に、例えば、常磁性を示す金属または前記常磁性を示す金属を含む化合物があげられる。前記金属は、例えば、MRI画像診断による検出に適している。前記金属は、例えば、近傍の原子核との相互作用により造影性を示すものがあげられる。前記近傍の原子核は、例えば、水素原子核があげられる。前記金属の具体例は、ガドリニウム、鉄があげられる。前記鉄は、例えば、超常磁性酸化鉄等があげられる。前記金属を含む化合物は、例えば、クエン酸鉄アンモニウム等があげられる。前記造影剤は、例えば、いずれか1種類でもよいし、2種類以上を含んでもよく、その組み合わせや割合は、特に制限されず、適宜設定できる。
【0017】
前記生体吸収性材料における前記造影剤の濃度は、特に制限されず、例えば、造影剤の種類に応じて適宜設定できる。前記生体吸収性ステントの前記造影剤を含む層において、前記造影剤の濃度は、例えば、10〜50重量%であり、好ましくは、30〜40重量%である。
【0018】
前記生体吸収性材料は、例えば、生体吸収性ポリマーを含むのが好ましい。
【0019】
前記生体吸収性ポリマーの分子量は、特に制限されず、例えば、5,000〜2,000,000であり、好ましくは、10,000〜1,500,000であり、より好ましくは、100,000〜1,000,000である。前記生体吸収性ポリマーは、例えば、ホモポリマーでもよいし、ランダムポリマー、ブロックポリマー、グラフトポリマー等のコポリマーでもよい。
【0020】
前記生体吸収性ポリマーは、特に制限されず、例えば、脂肪族ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリカーボネート、ポリアミド等があげられ、好ましくは、脂肪族ポリエステルである。前記生体吸収性ポリマーを構成するモノマーは、特に制限されず、例えば、乳酸、ラクチド、ラクトン、グリコリド、グリコール酸、トリメチレンカーボネート、エチレンオキサイド、パラジオキサノンまたは、これらの組み合わせによるコポリマー等があげられる。前記生体吸収性ポリマーがコポリマーの場合、前記モノマーの組み合わせおよび割合は、特に制限されない。前記モノマーの組み合わせは、例えば、ラクチドとラクトン、グリコリドとラクトン等があげられ、好ましくは、ラクチドとラクトンである。前記ラクチドは、特に制限されず、例えば、L−ラクチド、D−ラクチドおよびそれらの混合物(D,L−ラクチド)を使用できる。また、前記ラクチドは、例えば、乳酸から合成してもよい。前記乳酸は、特に制限されず、例えば、L−乳酸、D−乳酸およびそれらの混合物を使用できる。前記ラクトンは、例えば、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン等があげられ、カプロラクトンが好ましい。前記ラクトンは、具体的には、例えば、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等があげられる。
【0021】
前記生体吸収性ポリマーは、例えば、コラーゲン、ヒアルロン酸、エラスチン、キトサン、キチン、コンドロイチン硫酸、セルロース等の天然高分子でもよい。前記天然高分子は、例えば、生体の組織および細胞等からの抽出物でもよいし、形質転換体による産生物でもよいし、合成物でもよく、特に制限されない。前記天然高分子は、例えば、前記抽出物、産出物または合成物を、さらに、修飾または誘導体化したものでもよい。
【0022】
前記生体吸収性ポリマーは、例えば、前述のポリマーのうち、いずれか1種類でもよいし、2種類以上を含んでもよく、その組み合わせや割合は、特に制限されず、適宜設定できる。
【0023】
前記生体吸収性材料は、前述の造影剤および生体吸収性ポリマー以外に、他の成分を含んでいてもよい。前記他の成分は、特に制限されず、例えば、ヒドロキシアパタイト、チタン等があげられる。
【0024】
前記生体吸収性ステントの形状は、特に制限されず、例えば、管状が好ましく、より好ましくは、断面形状が略円環の円管状である。
【0025】
前記生体吸収性ステントは、例えば、単層体でもよいし、積層体でよく、好ましくは、積層体である。前記積層体は、例えば、前記造影剤を含む層(造影剤含有層)の積層体でもよいし、前記造影剤を含む層と、前記造影剤を含まない層(造影剤非含有層)との積層体でもよい。
【0026】
前記生体吸収性ステントが前記積層体の場合、その層数は何ら制限されず、例えば、2〜10層であり、好ましくは、3〜7層であり、より好ましくは、5〜7層である。
【0027】
前記積層体は、例えば、組成および/または形状等が同じ層の積層体でもよいし、組成および/または形状等が異なる層の積層体でもよい。後者の場合、例えば、各層に含まれる造影剤の種類および濃度、生体吸収性ポリマーの種類および濃度、その他の組成も、特に制限されない。
【0028】
前記積層体が、前記造影剤含有層と前記造影剤非含有層とを含む場合、各層の数および積層順は特に制限されない。前記造影剤含有層における前記造影剤の濃度は、特に制限されず、例えば、10〜50重量%、好ましくは、30〜40重量%である。
【0029】
前記積層体の構成は、特に制限されず、例えば、管状のステントにおいて、最も内側の層(内側層)と、最も外側の層(外側層)とが、前記造影剤非含有層であり、前記内側層と前記外側層との間に位置する中層が、前記造影剤含有層を含むことが好ましい。前記内側層と外側層との間における中層の層数は、特に制限されず、複数の中層を有する場合、少なくとも一層が、前記造影剤含有層であればよい。前記造影剤非含有層は、例えば、前記造影剤含有層よりも強度に優れる。このように、管腔臓器と接触する外側層と分泌液に曝される内側層とを、例えば、前記造影剤非含有層とすれば、前記ステントの物理的強度を向上できるため、前記肝腔臓器との接触による分解、前記分泌液の浸食による分解の影響を、より低減できる。これによって、前記ステントの形状を、例えば、より長期間維持できる。また、前記内側層と前記外側層との間に前記造影剤含有層を配置した場合、例えば、前記分泌液の浸食による前記造影剤含有層の分解をより抑制できる。これによって、例えば、前記ステントの造影性を、より長期間維持できる。
【0030】
前記積層体は、例えば、前記造影剤含有層を介して、2層の造影剤非含有層が積層された構成があげられる。具体的には、前記積層体が、例えば、3層構造であり、内側層と外側層とが、前記造影剤非含有層であり、中層が、前記造影剤含有層であることが好ましい。
【0031】
また、前記積層体は、例えば、前記造影剤含有層と前記造影剤非含有層とが、1層ずつ交互に積層された構造があげられ、その外側層とその内側層とが、前記造影剤非含有層であることが好ましい。前記積層体の積層数は、特に制限されず、例えば、5層構造または7層構造が好ましい。
【0032】
前記造影剤含有層と前記造影剤非含有層とが交互に積層された積層体の場合、各造影剤含有層における造影剤の濃度は、特に制限されず、例えば、全て同じ濃度でもよいし、異なる濃度でもよい。具体例として、前記積層体が、例えば、ステントの外側層から内側層の順に、第1層(造影剤非含有層)−第2層(造影剤含有層)−第3層(造影剤非含有層)−第4層(造影剤含有層)−第5層(造影剤非含有層)−第6層(造影剤含有層)−第7層(造影剤非含有層)となっている場合、前記第2層、第4層および第6層における造影剤濃度は、例えば、同じでもよいし、異なってもよい。前記造影剤濃度が異なる場合、例えば、前記第2層および第6層における造影剤濃度は、前記第4層における造影剤濃度よりも、低くてもよいし、高くてもよい。前者の場合、前記第4層における造影剤濃度が高いため、例えば、比較的長期間、より高い造影性を維持できる。また、後者の場合、前記第2層および第6層における造影剤濃度が高いため、例えば、前記第2層および第6層の分解前後で、造影性の差が大きくなる。このため、より容易に、ステントの分解の進行程度を確認できる。
【0033】
前記積層体は、例えば、ステントの軸方向を中心に、同心状に積層されているのが好ましく、円環状の場合、同心円状に積層されているのが好ましい。
【0034】
前記生体吸収性ステントの生体における適用部位は、何ら制限されず、例えば、管腔臓器が好ましい。前記管腔臓器は、特に制限されず、例えば、胆管、膵管、十二指腸、血管、リンパ管、気管等があげられる。特に、胆管および膵管が好ましい。前記生体は、特に制限されず、例えば、哺乳動物等があげられる。前記哺乳動物は、特に制限されず、例えば、ヒト、サル、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、マウス、ラット、ウサギ、ハムスター等があげられる。
【0035】
本発明の生体吸収性ステントの製造方法は、特に制限されず、造影剤を使用する以外は、公知の方法を採用できる。本発明の生体吸収性ステントの一例として、前記造影剤含有層と前記造影剤非含有層とを含む積層体を製造する方法を、以下に示す。なお、以下の方法は、一例であり、本発明はこれに制限されない。
【0036】
まず、前記生体吸収性ポリマーと溶媒とを混合して、ポリマー液を調製する。前記溶媒は、例えば、前記生体吸収性ポリマーの種類に応じて適宜設定できる。前記溶媒は、例えば、前記生体吸収性ポリマーを溶解可能であるものが好ましく、例えば、クロロホルム、1,4−ジオキサン、アセトン、トルエン、ベンゼン、メチルエチルケトン、ジメチルカーボネート、ジメチルホルムアミド、ヘキサフルオロイソプロパノール等の有機溶媒、水等の水系溶媒があげられる。前記溶媒は、例えば、いずれか1種類でもよいし、2種類以上の混合溶媒でもよい。また、前記溶媒は、例えば、前記有機溶媒と前記水系溶媒との混合溶媒でもよい。前記混合溶媒において、組み合わせる溶媒の割合は、特に制限されない。前記ポリマー液における前記生体吸収性ポリマーの濃度は、特に制限されず、例えば、1〜10w/v%であり、好ましくは、3〜7w/v%であり、より好ましくは、4〜6w/v%である。
【0037】
そして、前記ポリマー液に前記造影剤を添加して、造影剤含有ポリマー液を調製する。前記造影剤含有ポリマー液において、前記生体吸収性ポリマー100重量%に対する前記造影剤の割合は、特に制限されず、例えば、10〜50重量%、好ましくは、30〜40重量%である。
【0038】
つぎに、円柱状の基材を準備する。前記円柱状の基材は、特に制限されず、例えば、シリコンチューブがあげられる。前記基材の外径は、例えば、製造するステントの内径、外径および厚みに応じて適宜設定できる。前記基材の長さは、特に制限されず、例えば、製造するステントの長さに応じて適宜設定できる。
【0039】
前記基材を、まず、前記造影剤を含まないポリマー液中に浸漬する。前記浸漬時間は、特に制限されず、例えば、1〜10秒間であり、好ましくは、1〜5秒間である。前記浸漬温度は、特に制限されず、例えば、4〜50℃であり、好ましくは、10〜40℃であり、より好ましくは、20〜30℃である。前記浸漬後、前記基材を、その軸方向が鉛直方向になるように、前記ポリマー液から引き上げて、乾燥する。これにより、前記基材の外周に、前記造影剤非含有層が形成される。前記乾燥時間は、特に制限されず、例えば、10〜60分間であり、好ましくは、20〜40分間である。前記乾燥温度は、特に制限されず、例えば、4〜50℃であり、好ましくは、10〜40℃であり、より好ましくは、20〜30℃である。前記浸漬および乾燥の工程は、例えば、1回でもよいし、所望の厚みとなるまで、数回繰り返してもよい。
【0040】
続いて、前記造影剤非含有層を形成した基材を、前記造影剤含有ポリマー液中に浸漬する。前記浸漬時間は、特に制限されず、例えば、1〜10秒間であり、好ましくは、1〜5秒間である。前記浸漬温度は、特に制限されず、例えば、4〜50℃であり、好ましくは、10〜40℃であり、より好ましくは、20〜30℃である。前記浸漬後、前記基材を、その軸方向が鉛直方向になるように、前記ポリマー液から引き上げて、乾燥する。これにより、前記造影剤非含有層の外周に、前記造影剤含有層が形成される。前記乾燥時間は、特に制限されず、例えば、10〜60分間であり、好ましくは、20〜40分間である。前記乾燥温度は、特に制限されず、例えば、4〜50℃であり、好ましくは、10〜40℃であり、より好ましくは、20〜30℃である。前記浸漬および乾燥の工程は、例えば、1回でもよいし、所望の厚みとなるまで、数回繰り返してもよい。
【0041】
つぎに、再度、前記基材を、前記造影剤を含まないポリマー液に浸漬し、同様にして、前記造影剤非含有層を形成する。これによって、造影剤非含有層−造影剤含有層−造影剤非含有層という3層構造の積層体が形成できる。そして、前記積層体を、前記基材から前記軸方向に引き抜くことにより、本発明の生体吸収性ステントが得られる。前記造影剤非含有層および前記造影剤含有層の形成工程の回数および順序は、何ら制限されず、所望のステントの構成に応じて適宜決定できる。
【0042】
前記生体吸収性ステントは、例えば、長い積層体を作製後、所望の長さに切断して製造してもよいし、所望の長さのステントを直接製造してもよい。本発明の生体吸収性ステントは、前述の浸漬成型法に限られず、例えば、押出成型、射出成型等の方法を用いて成型してもよい。また、前記生体吸収性ステントの製造方法は、例えば、さらに、滅菌工程等の他の工程を含んでもよい。
【0043】
前記生体吸収性ステントは、例えば、その外側表面および内側表面の少なくとも一方に、表面改質処理を施してもよい。前記表面改質処理は、特に制限されず、例えば、親水化処理および疎水化処理等があげられる。前記生体吸収性ステントを、例えば、前記管腔臓器内に配置した場合、その外側表面は、前記管腔臓器の内壁に接し、その内側表面は、前記管腔臓器の分泌液に曝される。この場合、前記生体吸収性ステントは、例えば、その外側表面を親水化処理し、その内側表面を疎水化処理することが好ましい。これにより、前記生体吸収性ステントは、例えば、前記管腔臓器の内壁との親和性がより向上し、前記分泌液による分解等の影響をより抑制できる。前記親水化処理および前記疎水化処理は、特に制限されず、従来公知の方法を採用できる。
【0044】
前記生体吸収性ステントは、例えば、生体内に配置して使用できる。前記配置方法は、特に制限されず、例えば、前述のように、前記生体吸収性ステントの一端を、一方の管腔臓器の内部に挿入し、その他端を、他方の管腔臓器の内部に挿入し、両管腔臓器の端部同士を吻合してもよい。前記生体吸収性ステントは、例えば、前記両管腔臓器の端部同士を縫合する際、共に縫合してもよい。前記縫合により、例えば、前記生体吸収性ステントを、さらに確実に、吻合部に固定できる。また、前記生体吸収性ステントは、例えば、カテーテル等を用いて前記管腔臓器内の狭窄部位に配置してもよい。そして、例えば、前記生体吸収性ステントを生体内に配置し、任意の時間が経過した後、前記生体吸収性ステントにおける前記造影剤を検出して、前記生体吸収性ステントの形状等の状態を確認できる。
【0045】
本発明の医療用デバイスは、前述のように、本発明の生体吸収性ステントを含むことを特徴とする。前記医療用デバイスは、本発明の生体吸収性ステント以外に、例えば、カテーテル等を含んでもよい。
【0046】
本発明の狭窄防止方法は、前記本発明の生体吸収性ステントを生体に配置することを特徴とし、さらに、前記生体吸収性ステントにおける前記造影剤を検出する工程を含んでもよい。前記造影剤の検出方法は、特に制限されず、その種類に応じて適宜決定できる。前記造影剤の検出により、前記生体内における前記生体吸収性ステントの形状を確認できる。したがって、例えば、前記生体吸収性ステントが所望の期間、ステントとして機能するための形状を保持しているか否かを、手術を行うことなく確認できる。
【0047】
つぎに、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、下記実施例により制限されない。
【実施例】
【0048】
(実施例1)
本例では、造影剤として硫酸バリウムを含む生体吸収性ステントを作製した。
【0049】
生体吸収性ポリマーとして、ラクチド含有率が85モル%、分子量が190,000である、L−ラクチドとカプロラクトンとのコポリマー(以下、「P(LA/CL)」という。)を使用した。前記P(LA/CL)を、5w/v%となるように1,4−ジオキサンに混合し、ポリマー液(造影剤非含有ポリマー液)を調製した。さらに、前記造影剤非含有ポリマー液に、前記P(LA/CL)に対する重量比が40重量%となるように、硫酸バリウムを添加して混合し、造影剤含有ポリマー液を調製した。
【0050】
まず、外径6mm、厚み1mm、長さ200mmのシリコンチューブ(アズワン社製)を、前記造影剤非含有ポリマー液に2秒間浸漬後、前記ポリマー液から引き上げ、室温で30分間乾燥させた。前記造影剤非含有ポリマー液への浸漬および乾燥を、4回繰り返し、前記シリコンチューブの表面に、造影剤非含有層を形成した。つぎに、前記シリコンチューブを、前記造影剤含有ポリマー液に2秒間浸漬後、前記ポリマー液から引き上げ、室温で30分間乾燥させた。前記造影剤含有ポリマー液への浸漬および乾燥を、6回繰り返し、造影剤含有層を形成した。このようにして、前記造影剤非含有層と前記造影剤含有層との形成を繰り返し行い、前記シリコンチューブの表面に、前記造影剤非含有層と前記造影剤含有層とが交互に積層された、7層の積層体を形成した。前記シリコンチューブを引き抜き、得られた前記7層の積層体をステントとした。このステントについて、外観ならびに顕微鏡による断面形状の観察を行った。
【0051】
図1に、前記ステントの写真を示す。図1において、(A)は、前記ステントの外観を示す写真であり、(B)は、前記ステント側壁の断面を示す顕微鏡写真(×200)である。前記ステントは、図1(A)に示すように、円管状であり、外径6.2mm、内径5.8mm、長さ100mm、側壁の厚み0.2mmであった。また、図1(B)に示すように、顕微鏡観察により、内側から順に、造影剤非含有層および造影剤含有層が交互に積層された、全7層の積層体であることが確認できた。具体的には、前記図1(B)において、黒い層が、造影剤非含有層であり、白い層は、造影剤含有層であり、内側から順に、黒層−白層−黒層−白層−黒層−白層−黒層の計7層となっていた。前記造影剤非含有層の厚みは、平均0.02mm、前記造影剤含有層の厚みは、平均0.04mmであった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
以上のように、本発明の生体吸収性ステントは、造影剤を含むことから、例えば、生体外から検出できる。このため、本発明の生体吸収性ステントによれば、例えば、患者を切開することなく、その形態、分解程度または配置部位を確認できる。このように、本発明は、医療分野において極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体吸収性材料から形成された生体吸収性ステントであって、
前記生体吸収性材料が、造影剤を含むことを特徴とする生体吸収性ステント。
【請求項2】
前記生体吸収性材料が、生体吸収性ポリマーを含む、請求項1記載の生体吸収性ステント。
【請求項3】
前記生体吸収性ポリマーが、ラクチドとカプロラクトンとのコポリマーを含む、請求項2記載の生体吸収性ステント。
【請求項4】
前記造影剤が、硫酸バリウムおよびヨード造影剤の少なくとも一方である、請求項1から3のいずれか一項に記載の生体吸収性ステント。
【請求項5】
前記造影剤が、ガドリニウム、クエン酸鉄アンモニウム、超常磁性酸化鉄からなる群から選択される少なくとも一つの造影剤である、請求項1から4のいずれか一項に記載の生体吸収性ステント。
【請求項6】
前記ステントが、同心の積層体である、請求項1から5のいずれか一項に記載の生体吸収性ステント。
【請求項7】
前記ステントが、同心円状の積層体である、請求項6記載の生体吸収性ステント。
【請求項8】
前記ステントが、前記造影剤を含む層と、前記造影剤を含まない層との積層体である、請求項1から7のいずれか一項に記載の生体吸収性ステント。
【請求項9】
前記ステントが、3層以上の積層体である、請求項1から8のいずれか一項に記載の生体吸収性ステント。
【請求項10】
前記ステントにおいて、前記造影剤を含む層を介して、2層の造影剤を含まない層が積層されている、請求項9記載の生体吸収性ステント。
【請求項11】
前記ステントが、管状である、請求項1から10のいずれか一項に記載の生体吸収性ステント。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の生体吸収性ステントを含むことを特徴とする医療用デバイス。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−224357(P2011−224357A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70490(P2011−70490)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000153030)株式会社ジェイ・エム・エス (452)
【Fターム(参考)】