説明

造影剤除去システムの作動方法

【課題】腎機能障害の原因となる造影剤を効率良く除去する造影剤除去システムの作動方法を提供する。
【解決手段】冠静脈洞107に留置された採血用カテーテル101から血液を採取し、該血液を造影剤吸着体と接触させることを特徴とする造影剤除去システムの作動方法であり、PCIおよび術前検査実施中に、腎機能障害の原因となる造影剤を効率良く除去することが可能となる。造影剤除去システムは冠静脈洞に留置された採血用カテーテル101、該血液を接触させる造影剤が充填されたカラム102、カラムまで血液を誘導する採血回路103、採血量を制御するための採血ポンプ104、造影剤を除去した血液を患者体内に返す返血回路105、採血圧を測定する装置106から構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は冠動脈に注入された造影剤を除去する造影剤除去システムの作動方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
経皮的冠動脈インターベンション(PCI:Percutaneous Coronary Intervention)は、血管などの脈管において狭窄あるいは閉塞が生じた場合、及び血栓により血管が閉塞してしまった場合に、血管の狭窄部位あるいは閉塞部位を拡張して血管末梢側の血流を改善するための安全かつ有効な治療法として、広く行われている。さらに近年ではPCIの目覚しい発達により、左冠動脈主幹部(LMT)病変や慢性完全閉塞(CTO)病変のような困難病変に対しても治療が行われるようになった。また、狭窄あるいは閉塞部位の拡張を維持し、再狭窄を避けるために金属ステントあるいは薬剤放出ステント(DES)を留置する治療方法も確立されつつある。
【0003】
PCIおよび術前検査において造影剤は必要不可欠な薬剤であるが、腎機能が低下している患者に対しては造影剤による副作用が問題となることが知られている。そのため造影剤の使用量をできる限り最小限に抑える努力がなされているが、LMT病変やCTO病変のような困難病変に対する造影や、詳細確認を要するDESの留置には大量の造影剤を必要とする。造影剤の副作用には腎機能障害、皮膚障害、心血管障害、呼吸器障害、泌尿器障害などがあるが、近年、PCIを行う患者に糖尿病を合併する患者が非常に増加していることから、副作用のなかでも特に腎機能障害(造影剤性腎症)が特に問題となっている。腎不全などの腎機能が低下した患者に造影剤を使用すると、速やかに体外に排泄されないため、特に深刻である。
【0004】
このような問題を解決するため、PCIおよび術前検査の終了後に体内から造影剤を取り除く、予防的血液透析が行われている。しかし、造影剤を注入してから血液透析を行うまでの間、造影剤を含んだ血液が排出されずに全身を循環し、腎臓に負荷がかかることは避けられない。非特許文献1においては、慢性腎不全患者に対して造影剤使用後、予防的血液透析を行った群(透析群)と行わない群(非透析群)に分け、造影剤性腎症の発生率を比較したところ、両群に差がみられなかったことが報告されている。
【0005】
そこでPCIおよび術前検査の終了後ではなく、PCIおよび術前検査実施中に、造影剤を体内から取り除く試みがなされている。例えば、冠静脈洞にカテーテルを留置し、カテーテルを介して造影剤を含む血液を体外に取り出し、フィルターに通して造影剤を除去した後、血液を患者に返すという試みがある。
【0006】
特許文献1、特許文献2は、バルーンを有したカテーテルを冠静脈洞に留置し、造影剤の注入に合わせてバルーンを一時的に拡張することにより冠静脈洞から右心房への血流を遮断しながら、造影剤を含む血液を脱血し、CVVHD(Continuous Veno−Venous Hemofiltration)や、遠心分離により造影剤を除去する試みが提案されている。しかし、非常に壁の薄い冠静脈洞でバルーンを拡張すると冠静脈洞が損傷される危険性がある。さらに一時的ではあるが冠血流を遮断することにより心臓が虚血状態に陥る危険性もある。また、造影剤を除去する際、同時に血漿成分も廃棄することとなる。そのため、特許文献1では、廃棄した血漿と同量の新鮮凍結血漿またはアルブミンを補っている。しかし、血漿成分の投与は潜在的に感染の恐れがあり、安全に造影剤を除去し、造影剤による腎臓への負荷を軽減する方策の開発が望まれている。
【特許文献1】国際公開第02/060511号パンフレット
【特許文献2】国際公開第02/058777号パンフレット
【非特許文献1】Coronary Intervension,vol.2,No.4 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる問題を鑑み、腎機能障害の原因となる造影剤を効率良く除去するための造影剤除去システムの作動方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題の解決のために本発明者が鋭意検討した結果、造影剤除去システムの作動方法を発明するに至った。
【0009】
本発明は、冠静脈洞に留置された採血用カテーテルから血液を採取し、該血液を造影剤吸着体と接触させることを特徴とする造影剤除去システムの作動方法であり、PCIおよび術前検査実施中に、腎機能障害の原因となる造影剤を効率良く除去することが可能となる。
【0010】
また本発明は、冠静脈洞に留置された採血用カテーテルから採取する血液の流速が毎分20mL以上かつ毎分200mL以下であることを特徴とする造影剤除去システムの作動方法であり、造影剤を含む血液から造影剤を効率よく除去することが可能となる。
【0011】
また、造影剤除去システムが採血用カテーテル、造影剤吸着体が充填されたカラム、カラムまで血液を誘導する採血回路、採血量を制御するための採血ポンプ、造影剤を除去した血液を患者体内に返す返血回路、採血圧を測定する装置から構成されることを特徴とする造影剤除去システムの作動方法であり、造影剤を含む血液から造影剤を効率よく除去することが可能となる。
【0012】
また、冠静脈洞留置側先端部の外面から内腔に貫通した開孔部を有する採血用カテーテルを使用して造影剤除去システムを作動することにより、冠静脈洞に無数に密集した冠静脈の入口から流入する造影剤を含む血液を偏り少なく採血することが可能となる。
また、採血圧を−200mmHg以上に制御することを特徴とする造影剤除去システムの作動方法であり、心臓の虚血状態を回避しかつ多量の造影剤を吸着することが可能となる。
【0013】
また、比表面積が800m2/g以上である造影剤吸着体を使用することにより、多量の造影剤を吸着することが可能となる。
【0014】
また、活性炭を構成成分として含む造影剤吸着体を使用すると造影剤吸着体の比表面積は充分大きいことから、多量の造影剤を吸着することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
前記課題を解決するための手段により、本発明の造影剤除去システムの作動方法は、PCIおよび術前検査実施中に、腎機能障害の原因となる造影剤を効率良く除去することが可能となる。
【0016】
本発明の造影剤除去システムの作動方法は、冠静脈洞に留置された採血用カテーテルから血液を採取することで比較的高濃度の造影剤を含む血液を造影剤吸着体と接触させることができる。本発明の造影剤吸着除去システムの作動方法は、造影剤吸着体に接触させる血液中の造影剤濃度が高いほど、高い除去性能を発揮でき、高い造影剤除去率が得られる。
【0017】
また、本発明の造影剤除去システムの作動方法は、採血圧をモニタリングし、採血圧を−200mmHg以上に採血量を制御することにより、心臓の虚血状態を回避しかつ多量の造影剤を吸着することが可能となる。
【0018】
また、本発明の造影剤除去システムの作動方法によれば、従来技術のような採血用カテーテルバルーンを使用しないので、バルーン拡張により冠静脈洞を傷つける危険性がない。
【0019】
また、本発明の造影剤除去システムの作動方法によれば、血漿成分のロスが少なく、感染の原因となる新鮮凍結血漿などを補充する方法を必要としない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明における造影剤除去システムの一作動方法の概略図を図1に示す。図1に示した造影剤除去システムの作動方法は冠静脈洞に留置された採血用カテーテル101、該血液を接触させる造影剤が充填されたカラム102、カラムまで血液を誘導する採血回路103、採血量を制御するための採血ポンプ104、造影剤を除去した血液を患者体内に返す返血回路105、採血圧を測定する装置106から構成される造影剤除去システムの作動方法である。
【0021】
採血用カテーテル101は、患者の大腿静脈または頸部静脈などから挿入し、冠静脈洞107に留置されたカテーテルである。図2は本発明における採血用カテーテル101の一作動方法における冠静脈洞留置側先端部の拡大図である。採血用カテーテル101は、基端部から冠静脈洞留置側先端部まで内腔を有する単なる管状構造のものを使用してもよいが、採血量を確保する点で、先端部の外面にカテーテル内腔に貫通した開孔部108が備えられている構造のカテーテルを使用することが好ましい。開孔部108の数に制限はないが、冠静脈洞には冠動脈から流出した造影剤を含む血液が流入する冠静脈の入口が無数に密集していることから、複数であるものを使用することが好ましい。また、開孔部108の面積の総和(S1)はカテーテル101の内腔の断面積(S0)より大きいものを使用することが好ましく、S1がS0の2倍以上であるものを使用することがより好ましいが、S1がS0の30倍より大きいと強度に低下がみられることから、S1がS0の2倍以上、S0の30倍以下であるものを使用することが好ましい。開孔部108はカテーテル101の長軸方向に直線状、螺旋状などどのように配置されたものでも使用でき、全くの不規則に配列されたものを使用してもよい。
【0022】
採血用カテーテル101から採血された造影剤を含む血液は、採血回路103を介してカラム102に誘導される。本発明に使用できるカラム102の一実施形態の概略断面図を図3に示す。図3中、109は造影剤吸着体、110は血液の流入口、111は血液の流出口、112はハウジング、113はメッシュである。しかしながら本発明において使用できるカラム12はこのような具体例に限定されるものではなく、例えば、血液の入口および出口を有し、且つ吸着体の容器外への流出を防止する手段を備えた容器内に、造影剤吸着体を充填した吸着器等が使用可能であり、使用できる形状は特に限定されるものではない。
【0023】
図3に示すように、使用するカラム102は造影剤吸着体109が充填されており、造影剤吸着体109は物理化学的に造影剤を吸着する水不溶性の造影剤吸着体である。本発明に使用できる造影剤吸着体は造影剤を吸着するための比表面積を確保できる点から多孔体であることが好ましい。多孔体とは多数の連続した、もしくは不連続の孔を有するものである。造影剤吸着量が多いことから比表面積は800m2/g以上であるものを使用することが好ましい。多孔体としては、シリカゲル、アルミナゲル、ゼオライト、活性炭などあるが、比表面積が大きい点から活性炭を使用することが最も好ましい。
【0024】
造影剤吸着体の形状としては、球状、粒状、糸状、中空糸状、平膜状等いずれも有効に用いられるが、体外循環時の血液の流通面より、球状または粒状が最も好ましく用いられる。
【0025】
造影剤吸着体は血液と接触するが、血液は異物に接触すると凝固する。そのため、本造影剤吸着体は、血液との親和性をよくするために、血小板の付着を制御するための表面処理をしたものを使用してもよい。例えば造影剤吸着体の血液と接触する表面に、血小板低粘着性材料のコート層をもうけたものを使用することが好ましい。
【0026】
カラム102で造影剤が除去された血液は返血回路105を介して患者の大腿静脈などの末梢血管に返血される。
【0027】
本発明に使用する採血ポンプ104は、採血用カテーテル101から採血した造影剤を含む血液を、採血回路103を介してカラム102に誘導するための血液ポンプである。また、採血圧を測定する装置106は、採血用カテーテル101と採血ポンプ104の間で測定される採血圧を測定するものである。本発明における採血圧とは、採血量が0mL/minである時の、測定する装置106で測定された圧力をP0mmHg、採血流量がQ1mL/min(Q1>0)である時の、測定する装置106で測定された圧力をP1mmHgとした場合の両圧力の差、(P1−P0)である。採血量が増加するとP1の値が減少し、採血圧は減少する。採血圧は通常0mmHg以下であるが、が過度の陰圧となると、血管の偏平化あるいは著しい場合は血管の閉塞を引き起こし、患者に大きな負担を与える。採血圧が−200mmHg以下になると血管が閉塞する可能性および血液が溶血する可能性が極めて高いため、採血圧が−200mmHg以上であることが好ましい。血管の偏平化および溶血を防ぐためにも、−150mmHg以上であることがより好ましい。更に好ましくは−100mmHg以上であることが好ましい。造影剤を効率良く除去するためには、採血流速を冠静脈洞に流れ込む血流量に近づけるように造影剤除去システムを作動させる方法がよい。本発明においては、採血圧を測定する装置106で採血圧をモニタリングしながら採血圧の変化に応じて採血ポンプ104で採血量を制御することができるが、この制御は手動で行っても自動で行っても良い。
【0028】
本発明における造影剤除去システムの作動方法が対象とする造影剤はX線により識別されるものであって、血管内投与に利用される分子量が約8000以下、イオン性又は非イオン性のヨウ素原子を含む化合物である。具体例を挙げると、イオプロミド、イオパミドール、イオメプロール、アミドトリゾ酸、イオヘキソール、イオタラム酸、ヨーダミド、メトリゾ酸、メトリザミド、イオキシラン等の単量体、および、イオキサグル酸、アジピオドン、イオトロクス酸、ヨードキサム酸、イオトロラン、等の二量体などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明における造影剤除去システム作動方法の一実施形態の概略図である。
【図2】本発明における採血用カテーテルの冠静脈洞留置側先端部の一実施形態の概略図である。
【図3】本発明における吸着器の一実施形態の概略断面図である。
【符号の説明】
【0030】
101 採血用カテーテル
102 カラム
103 採血回路
104 採血ポンプ
105 返血回路
106 採血圧を測定する装置
107 冠静脈洞
108 開孔部
109 吸着体
110 血液流入口
111 血液流出口
112 ハウジング
113 メッシュ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冠静脈洞に留置された採血用カテーテルから血液を採取し、該血液を造影剤吸着体と接触させることを特徴とする造影剤除去システムの作動方法。
【請求項2】
冠静脈洞に留置された採血用カテーテルから採取する血液の流速が毎分20mL以上かつ毎分200mL以下であることを特徴とする造影剤除去システムの作動方法。
【請求項3】
造影剤除去システムが採血用カテーテル、造影剤吸着体が充填されたカラム、カラムまで血液を誘導する採血回路、採血量を制御するための採血ポンプ、造影剤を除去した血液を患者体内に返す返血回路、採血圧を測定する装置から構成されることを特徴とする請求項1または2記載の造影剤除去システムの作動方法。
【請求項4】
冠静脈洞留置側先端部の外面から内腔に貫通した開孔部を有する採血用カテーテルを使用することを特徴とする請求項1または2記載の造影剤除去システムの作動方法。
【請求項5】
採血圧を-200mmHg以上に制御することを特徴とする請求項1または2記載の造影剤除去システムの作動方法。
【請求項6】
比表面積が800m2/g以上である造影剤吸着体を使用することを特徴とする請求項1記載の造影剤除去システムの作動方法。
【請求項7】
活性炭を構成成分として含む造影剤吸着体を使用することを特徴とする請求項1記載の造影剤除去システムの作動方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−105241(P2007−105241A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−298986(P2005−298986)
【出願日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】