説明

造粒焼結原料の予備処理方法

【課題】焼結配合原料として多量のマラマンバ鉄鉱石を使いながら、DL焼結機の操業に当っては、焼結原料ベッドの層厚を増大させ、焼結鉱生産の向上を達成するのに有効な予備処理方法を提案する。
【解決手段】層厚が600mm以上である原料装入層を形成して焼結する焼結機に用いられる焼結原料の予備処理に当たり、その焼結原料中にマラマンバ鉄鉱石を10〜70mass%含む場合、水とバインダーの両方を加えて造粒すると共に、得られた造粒焼結原料を造粒と同時にまたはその後に、加熱乾燥することによって、水分4.0mass%以下の乾燥造粒焼結原料とする予備処理法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造粒焼結原料の予備処理方法に関し、とくに焼結原料中に微粉の多いマラマンバ鉄鉱石を含む場合でも焼結鉱の生産性を阻害することがないように予備処理する方法を提案するものである。
【背景技術】
【0002】
焼結鉱は、一般に、粉鉄鉄鉱石に燃料(炭材)である粉コークスおよび副原料である石灰石などを加え、これらを混合−造粒して造粒焼結原料とした後、この造粒焼結原料を焼結パレット機のパレット上に装入して所定の層厚の焼結原料ベッドを形成させ、その後、該焼結原料ベッドの表層に着火すると共に発生する燃焼空気を下方に吸引し、このことによって得られる焼成物(焼結鉱)を破砕、整粒して製造されている。この製造方法において、焼結が完了した焼結鉱ケーキ(シンターケーキともいう)は、焼結機の排出端において、焼結機パレットより排出され、クラッシングガイド上に落下した段階でこれを破砕機により一次破砕を受ける。その後、焼結鉱は、焼結鉱冷却機にて冷却されて、成品焼結鉱となる。このとき、粒子径が100mm以上の粗大焼結鉱は、還元性が悪いことに加え、高炉内への充填制御が困難であることなどから高炉装入原料としては適していないため、通常、ロールクラツシャなどで2次破砕され、100mm以下の粒子径に粒度調製される。一方、粒子径3〜5mm以下の微粉は、高炉内に高密度に充填さることから、通気性の低下を招いて還元を阻害するので、高炉内には装入されず、返鉱とし、再度焼結原料として使用される。
【0003】
ところで、焼結原料ベッドの表層部については、着火により焼結原料内炭材が燃焼することで、一旦は昇温するものの、吸引空気の影響により冷却されるので高温にはなりにくく、焼結鉱としては強度が低いものになる。一方、焼結原料ベッドの中層部、下層部については、上層部で炭材が燃焼して発熱した熱が、吸引ガスによる伝熱で順次に伝達されるので、長時間、高温に保持されることになって、焼結が進み、高強度の焼結鉱となる。従って、この場合、焼結鉱の歩留を向上させるためには、ベッド層厚を増大させて、焼結原料ベッドの中の表層部の占める割合を低減させることが望ましい。
【0004】
次に、DL焼結機により焼結鉱を製造する場合、焼結原料ベッドの層厚を厚くして操業し歩留の向上を図ることが有効である。この場合、焼結原料ベッドの層厚が厚くなればなる程、通気抵抗の増大を招くと共に、ガスの吸引量が低下し、炭材の燃焼が悪くなって生産量を低下させることになる。このため、焼結原料ベッドの層厚を単純に増大させるためには、同時に、焼結原料ベッドの通気抵抗の改善を図る必要があり、各種の対策が採られている。しかし、実際は、多くの焼結機が焼結原料ベッドの層厚を600mm未満として操業しているのが実情である。
【0005】
一方、造粒焼結原料として使われる良質の鉄鉄鉱石は、近年、需要の増大から枯渇し、供給能力不足の状態となっている。この内、いわゆるマラマンバ鉄鉱石を産出する豪州マラマンバ鉱床は、開発が進み、その資源量の豊富さから、焼結原料として注目されている。このマラマンバ鉄鉱石は、ゲーサイト(Fe・HO)とマータイト(マグネタイト構造を有するFe)を主要鉱物としており、産地銘柄名でウエストアンジェラスやMACなどが、代表的な鉄鉄鉱石である。
【0006】
表1、表2は、豪州産と南米産の鉄鉱石の化学組成、粒度分布を示す。マラマンバ鉄鉱石は、従来から使用していた同じ豪州のブロックマン鉄鉱床産出の鉄鉱石群に比べると、結晶水が6%と高く、しかも高結晶水鉄鉱石であるピソライト鉄鉱石と比較すると、SiOは3%台と低く、そして、−0.25mmの微粉が多く、擬似粒子への造粒性も悪い。従って、マラマンバ鉄鉱石は、DL焼結機操業の際、焼結原料ベッドの通気性を悪化させ、焼結生産性を低下させることで知られている。このため、該マラマンバ鉄鉱石は、焼結原料中の配合比率を増大させることが難しく、10%程度以下の配合比率に抑えられている。
【0007】
【表1】

【0008】
【表2】

【0009】
しかしながら、資源が枯渇している実情に鑑みるとき、将来的には、このマラマンバ鉄鉱石の比率が増大していくことが予想されており、この鉄鉱石を多量に配合しても、焼結原料ベッドの通気性を悪化させずに一定の生産率が維持できるような新技術の開発が望まれている。
【0010】
このような背景の下で、このマラマンバ鉄鉱石に関し、これを多量に使っても、焼結原料ベッドの層厚を増大させることができ、かつ焼結鉱生産歩留の向上を実現するための技術として、該焼結原料ベッドの通気性を向上させるための幾つかの提案がなされている。
【0011】
特許文献1は、多孔質鉄鉄鉱石、または鏡鉄鉱のようなに表面が平滑でかつ緻密な鉄鉱石を焼結原料の一部として使用するに際し、ミキサーによる通常の混合、造粒処理を行う前に、これらの鉄鉱石を別ラインで各々個別にその物理性状に適した造粒を施し、しかる後に他の一般銘柄鉄鉱石と共にミキサーで混合し、造粒する焼結原料の予備処理方法を開示している。
【0012】
特許文献2は、多孔質鉄鉄鉱石を焼結原料の一部として使用するに際し、ミキサーによる通常の混合、造粒処理を行う前に、これらの鉄鉱石を別ラインにおいてそれぞれ含水処理し、しかる後、他の一般的な鉄鉱石と共にミキサーにて混合し、造粒する焼結原料の予備処理方法である。
【0013】
特許文献3は、多孔質鉄鉱石を含む鉄鉱石にスターチや糖蜜を添加し、その多孔質鉄鉱石に水分が吸収されるのを抑制する方法を開示している。
【0014】
特許文献4は、微粉鉄鉱石およびリモナイト鉄鉱石と石灰粉とスケールからなる混合物に、パルプ廃液を含有するスラリーダストを添加して混合し、造粒し、得られた予備造粒原料に対して、ヘマタイト鉄鉱石およびコークス粉を加え、水を添加して混合、造粒を行った後、乾燥することなく直ちに焼結する焼結鉱の製造方法を開示している。
【特許文献1】特開昭52−49905号公報
【特許文献2】特開昭52−49906号公報
【特許文献3】特表平10−502417号公報
【特許文献4】特開平5−25556号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献1に開示の方法は、特徴の異なる難造粒性の鉄鉱石のために、別系統の造粒設備を新設する必要があり、設備投資が大きくなる。しかも、造粒物強度の大幅な向上は難しく、マラマンバ鉄鉱石を多量に配合した場合、焼結原料ベッドの層厚を厚くすることができない。
【0016】
特許文献2に開示の方法は、擬似粒子平均径は増大するが、造粒水分を蒸発させるための余計な炭材が必要になり、凝結材原単位が増大する。また、焼結原料ベッドの上層部で蒸発した水分が、該焼結原料ベッドの中・下層内の空隙に凝縮して通気孔を埋めていくため、通気性が上がりにくく、該焼結原料ベッドの層厚を大きくすることができない。
【0017】
特許文献3に開示の方法は、添加物のコストが増大する上、水分の付着を前提とする造粒である点で、従来技術と変わらない方法であり、造粒焼結原料の強度を大幅に向上させることは困難である。そのため、焼結原料ベッドの通気性を向上させることができない。
【0018】
特許文献4に開示の方法は、パルプ廃液中のリグニンスルホン酸の結合力を利用するものであるが、この方法による造粒性改善の効果はそれほどは大きくはなく、マラマンバ鉄鉱石を多量に含む焼結原料の場合、焼結原料ベッドの通気性の低下による生産性の低下を招くため、焼結原料ベッドの層厚を大きくすることができない。
【0019】
本発明の目的は、焼結配合原料として多量のマラマンバ鉄鉱石を含む場合であっても、焼結原料ベッドの層厚を増大させてDL焼結機の操業を行うことができ、ひいては焼結鉱の生産性の向上を図ることのできる技術を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
発明者らは、従来技術が抱える上述した技術課題を解決して上記の目的を実現する方法について、鋭意研究を重ねた結果、下記の要旨構成に係る本発明を開発するに到った。
【0021】
即ち、発明者らは、マラマンバ鉄鉱石を多量に含む焼結原料であっても、下記の焼結原料処理工程を経て得られる造粒焼結原料中の水分含有量を4.0mass%以下にまで下げてから、焼結機への装入を行うようにすることで、焼結原料ベッド(以下、単に「装入層」ともいう)中の焼結・溶融帯下に湿潤帯が生成しないようにするか、または生成したとしてもこの湿潤帯の大きさ(上下方向の厚さ)を小さくすることにより、この湿潤帯の生成に起因する通気抵抗を小さくできることを知見した。
【0022】
装入層中の前記湿潤帯が生成しないか小さく抑えた場合、焼結原料ベッドの通気抵抗は小さくなり、焼結速度が向上すると共に、焼結鉱の生産効率も向上する。即ち、本発明の考え方によれば、焼結機のパレット上の装入層の通気抵抗を大幅に減少させることにより、装入層の層厚を大きくする(>600mm)ことが可能となり、歩留の向上がもたらされる。しかも、この場合、装入層上層部の熱を有効に利用することができるようになる。その結果として、焼結鉱の製造に必要な炭材量を削滅することもできる。本発明は、正に、このような知見に基づいて開発した造粒焼結原料の予備処理方法である。
【0023】
本発明は、基本的に、層厚が600mm以上である原料装入層を形成して焼結する焼結機に用いられる焼結原料の予備処理に当たり、その焼結原料中にマラマンバ鉄鉱石を10〜70mass%含む場合、水とバインダーの両方を加えて造粒すると共に、得られた造粒焼結原料を造粒と同時にまたはその後に、加熱乾燥することによって、水分4.0mass%以下の乾燥造粒焼結原料とすることを特徴とする造粒焼結原料の予備処理方法である。
【0024】
本発明はまた、層厚が600mm以上である原料装入層を形成して焼結する焼結機に用いられる焼結原料の予備処理に当たり、その焼結原料中にマラマンバ鉄鉱石を10〜70mass%含む場合、水とバインダーの両方を加えて造粒すると共に、得られた造粒焼結原料を造粒と同時にまたはその後に、加熱乾燥することによって、水分4.0mass%以下の乾燥造粒焼結原料を生成させ、そして、この乾燥造粒焼結原料と未乾燥造粒焼結原料とを混合して、混合造粒焼結原料とすることを特徴とする造粒焼結原料の予備処理方法である。
【0025】
なお、本発明では、
(1)前記マラマンバ鉄鉱石は、高結晶水、低SiO含有で、微粉含有量の多いオーストラリア産鉄鉱石であること、
(2)前記乾燥造粒焼結原料を50mass%以上含み、未乾燥造粒焼結原料を50mass%未満含有すること、
(3)前記造粒焼結原料の乾燥は、ロータリーキルンを使用して行うこと、
(4)ロータリーキルンによる造粒焼結原料の乾燥に当っては、造粒焼結原料をキルン排出口側から乾燥用熱煤と向流となるように供給すること、
(5)前記乾燥用熱媒として、焼結鉱クーラーで発生する排ガスを使用すること、
(6)前記バインダーは、水が蒸発した後もバインダー作用を有する有機バインダーであること、
(7)前記バインダーは、焼結原料に対して0.01〜1.Omass%添加すること、
(8)前記有機バインダーは、ガム系物質またはセル系増粘剤であること、
(9)前記ガム系物質がグアガムまたはアラビアガムであること、
(10)前記セル系増粘剤がカルポキシメチルセルロースであること、
(11)炭材を含む焼結原料に対し、水とともに有機バインダー粉末を加えて造粒すること、
(12)前記バインダーが、無機バインダーと有機バインダーとの混合バインダーからなること、
(13)前記焼結原料に求められる適正水分値よりも過剰な水分量となるように、素材を含む焼結原料に水とバインダーを加えて造粒すること、
が、好ましい解決手段を提供することになる。
【発明の効果】
【0026】
上記のように構成される本発明によれば、焼結原料中に、高結晶水(≧6mass%)で、SiOの含有量が低く(<4mass%)、かつ微粉(−0.25≧40mass%)が多く造粒性の悪いマラマンバ鉄鉱石を多量(10〜50mass%)に含む場合であっても、焼結原料ベッドの層厚を600mm以上で焼結機の操業が可能で、高い生産性を確保できる。
【0027】
また、本発明によれば、凝結材の使用量を抑えても造粒性に優れ、かつ造粒強度の高いものが得られ、このことの故に、焼結原料ベッドの通気性の改善に有効に寄与する。
【0028】
さらに、本発明によれば、良質の鉄鉱石が枯渇するという状況の中で、焼結原料として使い難いマラマンバ鉄鉱石を多量に使えるので、コスト的にも有利な技術を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
DL焼結機の操業において、パレット上の焼結原料ベッド、即ち装入層の通気抵抗について考えるとき、発明者らが注目しているのは、造粒焼結原料の水分に起因する通気抵抗である。この造粒焼結原料中の水分は、炭材の燃焼により発生する熱によって一旦は蒸発するものの、下方に吸引され、昇温されていない焼結原料ベッド(装入層)の下方に凝縮することが知られている。装入層下方に凝縮して滞留している水分が、一定濃度以上になると、吸引ガスの通路である粒子間空隙をその水分が埋めるようになり、そのために該装入層の通気抵抗が増大するのである。一般に、水分を含んだ装入層を湿潤帯と呼ぶが、これが装入層の全通気抵抗の約半分以上を占めていると考えられている。
【0030】
ところで、焼結原料は、これを造粒する際、例えば、微粉(細粒)の量が多いマラマンバ鉄鉱石などでは、その微粉の表面を濡らすのにより多くの水分が必要になることから造粒水分が増大する。そのために、前記装入層の下層部に蓄積される水分も増大する。従って、焼結生産性を向上させるためには、装入層の通気抵抗を低減すること、即ち、前記湿潤帯における水分の凝縮による通気抵抗の低減を図ることが有効になると考えられる。
【0031】
この点、本発明のように、微粉量が多く水分量も高いマラマンバ鉄鉱石を多量に使う焼結原料では、造粒焼結原料の製造時に乾燥処理が不可欠になる。例えば、少なくとも300t/h以上の規模で焼結機に送られる商業生産の場合、水分を含んだ焼結原料の擬似粒子、即ち造粒焼結原料を乾燥するためには、できるだけ、擬似粒子が崩壊するような衝撃が加わらず、かつ多量の原料を速やかに乾燥することが必要になる。同時に、経済性、熱効率も良くなければならない。この条件を考慮した場合、造粒焼結原料の乾燥には、ロータリーキルンを用いることが有効と考えられる。
【0032】
例えば、本発明においては、造粒機の後に、ロータリーキルンや加熱・乾燥型ドラムミキサーなどを設置して造粒物の乾燥を行う。この場合、例えば、ロータリーキルン内に、乾燥用熱媒として200℃以上の熱風を導入する。そして、乾燥機としての該ロータリーキルン内に、焼結原料である造粒した擬似粒子(未乾燥の生造粒焼結原料)を供給し、ロータリーキルンの排出口からは前記熱媒を造粒焼結原料の移動方向とは対向する向き(向流)に供給して、対流伝熱により乾燥するのが望ましい。乾燥用熱媒としては、上限温度を500℃程度として、乾燥時の急激な温度上昇による擬似粒子の崩壊(爆裂)を抑制することが好ましく、ロータリーキルンはとくに有効である。その理由は、ロータリーキルンは、自身が回転して、造粒粒子がキルン内において転動し、いわゆる攪拌状態下でさらに熱風と接触することになるため、均一な乾燥ができるからである。
【0033】
次に、上記の乾燥時の熱媒としては、焼結機排鉱部側の風箱群または焼結鉱クーラーで発生する排ガス(350〜400℃)を用いることが有効である。ことに、焼結機の近傍にロータリーキルンがある場合は、排ガス発生源が近くに位置するため、排ガスをロータリーキルンに導入するための排ガス配管を低コストで設置することができる。一般に、これらの排ガスの熱は、大部分が大気中に放散されており、これを利用することは省エネルギーにつながる。
【0034】
しかし、前記生造粒焼結原料をロータリーキルンや加熱・乾燥型ドラムミキサー内に装入し、転動攪拌させ乍ら、乾燥するときは、その乾燥中に該生造粒焼結原料は、隣接するものどうしが衝突することにより、例えば、マラマンバ鉄鉱石に多く含まれる微粉鉄鉱石などは簡単に脱落したり、造粒粒子全体が崩壊する可能性もある。そこで、本発明では、前記造粒処理に、バインダーと水の両方を添加する。
【0035】
本発明において、用いる前記バインダーとしては有機バインダーを用いる。その理由は、この種のバインダーでは、造粒粒子の乾燥後も擬似粒子強度を維持することができ、水に溶解しまたは溶解することなく微粉間に懸濁し、かつ100℃で水が蒸発してもなお、バインダーとしての作用を発揮するからである。
【0036】
このようなバインダーを用いれば、造粒処理時に多くの微粉を含むマラマンバ鉄鉱石を強固に造粒することができ、乾燥により水分が除去された後でも、造粒粒子(擬似粒子)の崩壊を防ぐことができるようになる。その結果、微粉鉄鉱石分が造粒された乾燥後の造粒粒子(擬似粒子)を焼結機に装入することになるため、造粒水分の装入層下部の湿潤帯の通気抵抗を低減して、焼結することができるようになる。
【0037】
かかるバインダーを選定するに当っては、乾燥後の造粒粒子の引張り強度に着目することが有効と考えられる。造粒粒子の引破り強度は、下記(1)式にて表わされるように、バインダーなどの架橋物質の表面張力に起因する毛細管力による吸引圧力と架橋物質の粘度による外力に対す抗力の和で表わされる。そのうちの外力に対する抗力(粉体の粉化に対する抗力)は、架橋物質すなわちバインダーの粘度μに大きく依存し、バインダー粘度μが高くなると造粒体である造粒原料粒子の引張り強度が上昇し、崩壊しにくくなることがわかっている。
【0038】

【0039】
ここで、σ:造粒体の引張り強度、γ:架橋物質の表面張力、β:粉体との接触角、μ:架橋物質の粘度、S:粉体表面積、ψ:液充満度(=0.6)、ε:造粒物の空隙率、D:比表面積相当径、a:曲率半径である。
【0040】
なお、造粒粒子の水分が乾燥により除去された場合でも、造粒擬似粒子の崩壊を防ぐのに有効な有機バインダーとして、本発明では、中性多糖類であるガム系物質やセルロース系増粘材等の有機バインダーを用いる。そのガム系物質としては、グアガムやアラビアガムを用いることができる。
【0041】
こうした有機バインダーは、単独で用いても、あるいは何種類かの無機バインダーと組み合わせて用いてもよく、また、上記ガム系物質、セルロース系増粘材の使用に加えて、増粘材の分散強化剤として、カルボン酸基を有する物質を併用、あるいはベントナイトや水ガラスなどの無機バインダーと併用することもできる。
【0042】
これらのバインダーのうち、アラビアガムについては、これの添加効果が生じるのは0.01mass%以上の添加量になったときであり、その上限は1.0mass%程度である。0.01mass%未満では乾燥工程後、擬似粒子の崩壊が観察され、添加の効果は1.0mass%でほぼ飽和する。好ましい範囲は0.05〜0.5mass%、より好ましくは0.1〜0.3mass%である。
【0043】
前記グアガムと同じ中性多糖類であるグアガムも、焼結原料に添加、混合し、その後、造粒することにより、アラビアガムと同様の造粒効果が得られる。このグアガムの添加効果を生じるのは、アラビアガムと同様に添加量0.01mass%以上であり、その上限は1.Omass%である。0.01mass%未満では乾燥工程後、擬似粒子の舶感が観察され、添加効果は1.Omass%でほぼ飽和する。好ましい範個は0.05〜0,5mass%、より好ましくは0.1〜0.3mass%である。
【0044】
一方、前記セルロース系増粘剤であるCMC(カルボキシルメチルセルロース)の添加効果が生じるのは、添加量0.01mass%以上であり、その上限は1.Omass%である。0.01mass%未満では乾燥工程後、擬似粒子の崩壊が観察され、添加効果は1.Omass%でほぼ飽和する。好ましい範囲は0,05〜0.5mass%、より好ましくは0.1〜0.3mass%である。
【0045】
本発明では、上述したように、前記有機バインダーの使用に加え、無機バインダーの使用を併用することができる。とくに、この無機バインダーがベントナイトや水ガラスからなるグループから選択される。この場合において、有機バインダーと無機バインダーとの併用が有効な理由はベントナイトや水ガラスは有機バインダー使用時の増粘剤として作用し、有機バインダーの添加量を削減する効果を有するからであり、併用によっても有機バインダーの作用効果が低下するようなことはない。
【0046】
なお、有機バインダーを使用するときには、生石灰をバインダーとして併用することは避けることが好ましい。生石灰と併用すると、ガム系物質、セルロース系増粘剤のカルボン酸基と生石灰から生成するCa+イオンとが反応して、バインダー作用を減少させ、造粒性が低下して、通気性の悪化を招くからである。
【0047】
また、有機バインダーを使用する場合、有機バインダー量を低減し、低コスト化を狙うには、焼結原料として、返鉱の使用量を減少するか控えることが好ましい。その理由は、バインダーが多孔質な返鉱の気孔内に吸収されるため、バインダーの使用量の増加を招き、とくに、吸収によってバインダーが不足したときには、造粒粒子の乾燥時における崩壊を引き起こすからである。
【0048】
図1は、造粒焼結原料である擬似粒子からなる造粒粒子の乾燥の程度が該造粒粒子の焼結性に及ぼす影響について調査した結果を示すものである。造粒粒子の水分が4mass%以下になると、焼結時間が急速に短縮されることがわかる。従って、本発明において、乾燥処理は造粒粒子の水分が4mass%以下になるまで行う必要がある。好ましい水分量は、表3に示すとおり、3mass%以下、より好ましくは2mass%以下である。
【0049】
本発明では、上述したように、造粒焼結原料を乾燥し、4mass%以下に水分調整された乾燥造粒焼結原料とする他、焼結機のパレット上に、層厚:600mm以上である装入層を形成させて焼結する焼結機に用いられる焼結原料として、その予備処理に当たり、この焼結原料中に10〜50mass%の微粉の多いマラマンバ鉄鉱石を配合する場合、水とバインダーの両方に加えて造粒すると共に、得られる造粒焼結原料についてはこれを乾燥することによって、4.0mass%以下の水分として乾燥造粒焼結原料を生成させ、そして、この乾焼造粒焼結原料と未乾燥造粒焼結原料とを混合して、混合造粒焼結原料とすることによって、焼結機に供給する造粒焼結原料を製造してもよい。この場合、混合されて生成する最終的な造粒焼結原料の水分もまた、4mass%以下に調整される。
【0050】
図2は、本発明実施形態の一例を示すものである。
(a)は、混合用ドラムミキサーの後に、造粒用ドラムミキサーを配置し、未乾燥の造粒焼結原料を乾燥してロータリーキルンにて乾燥する例、
(b)は、混合用ドラムミキサーの後に、熱媒を供給する乾燥・造粒用ドラムミキサーにて、造粒しながら乾燥を行う例、
(c)は、混合用ドラムミキサーの後に、熱媒を供給するロータリーキルン形の乾燥型造粒用ドラムミキサーにて、造粒しながら乾燥を行う例、
(d)は、混合用ドラムミキサーの後に、予備乾燥(昇熱)用熱媒供給をする予備乾燥型造粒用ドラムミキサーを配置し、未乾燥の造粒焼結原料を乾燥してロータリーキルンにて乾燥する例、
(e)は、混合造粒一体型の焼結用ドラムミキサーの後に、乾燥用ロータリーキルンを配置して乾燥する例、
【0051】
これらの例示からわかるように、本発明では、造粒と乾燥は一つのドラムミキサーの中で実施するようにしてもよい。なお、乾燥機(時として造粒機を兼ねることがある)であるロータリーキルンの前に、2連のドラムミキサーを配置して混合−造粒し、さらに乾燥を行うことも可能である。この場合は、2つ目のドラムミキサーの中で予備乾燥を行うことも可能であるが、造粒と同時もしくは予備乾燥のみを行う。これらの方法を採用することによって、造粒した粒子の水分蒸発に伴なう爆裂を効果的に防ぐことができる。
【0052】
前記マラマンバ鉄鉱石を使用する場合、その配合比率としては、従来の焼結機の操業では、10mass%程度までは−0.25mm微粉量の増大による通気性悪化を抱えたまま行っている状態である。しかし、この量が10mass%以上になると、微粉鉄鉱石の増大による造粒性悪化の影響が現われるようになり、生産性が低下する。しかし、本発明方法に従い、上述したように造粒処理時に水と共に上記バインダーを同時に加えて乾燥する方法では、10mass%を超える配合を行っても、造粒性は低下せず、生産性の向上が得られる。そこで、本発明において、マラマンバ鉄鉱石の配合割合は10mass%以上とする。
【0053】
一方、水と有機バインダー、および必要に応じてさらに無機バインダーを加えて造粒した場合、乾燥して水分を低減させた場合でも造粒性の低下は見られず、生産性を向上させることができる。即ち、マラマンバ鉄鉱石の配合割合をさらに増大させて、50mass%を超える量まで増大させても、従来法に比べ、生産性をより高く維持することができる。ただし、マラマンバ鉄鉱石の配合量が70mass%を超えると、微粉の増大による造粒性の悪化を抑制することが困難になる。従って、本発明の効果を得られるマラマンバ鉄鉱石の配合比率の上限は70mass%である。
【0054】
なお、焼結機での焼成中に装入層の高い通気性を保つためには、造粒粒子(擬似粒子)の粒子径を大きく保つことが必要であり、従来の造粒粒子よりも、大きい擬似粒子径にするには好ましいマラマンバ鉄鉱石の配合比率としては、10〜50mass%とすること、より好ましい比率は10〜30mass%である。
【実施例】
【0055】
以下に述べる実施例および比較例は、図2(b)の方法および図3に示す設備を用いて焼結機の操業を行ったものであり、その結果を表3(比較例)、表4(発明例)に示した。また、使用した焼結原料のうちのマラマンバ鉄鉱石Wの成分組成とそれの粒度構成は表1、2に示したものを用いた。
a.比較例1は、マラマンバ鉄鉱石が少なく通気性への悪影響が小さい例。
b.比較例2と発明例1、2は、マラマンバ鉄鉱石がともに10mass%の配合例であるが、比較例2では、造粒粒子の平均粒子径(擬似粒子調和径)が比較例1よりも低下し、焼成時間が延長している。これに対して、発明例1では、有機バインダ−としてCMCを使用して乾燥した結果、擬似粒子径が大きくなり通気抵抗の減少と共に、焼成時間の短縮が果たされ、生産性の向上が得られた。発明例2もマラマンバ鉄鉱石配合量が10mass%だが、乾燥時の水分が3.8mass%と発明例1より高い分、通気抵抗が若干増大し、焼成時間が延長したが、比較例2に比べ充分な効果があった。
c.比較例3は、マラマンバ鉄鉱石の配合量を30mass%に上昇させたものであるが、擬似粒子径が小さくなったため、通気性が低下したことにより、焼結時間が延長した。これに対し、同じ量のマラマンバ鉄鉱石を配合した発明例3〜5は、有機バインダ−を添加して乾燥した例であるが、擬似粒子径が比較例に比べて増大した結果、通気性が向上して、焼結時間を短縮できている。発明例6、7は、同じ量のマラマンバ鉄鉱石を配合した例であるが、発明例5に比べ有機バインダー(CMC)の添加量を増加もしくは減少させた場合である。CMC添加量が多い方が擬似粒子径が大きく、焼結時間も短かいが、0.01mass%の添加量であっても充分な効果があった。また、発明例8では、有機バインダーと無機バインダ−であるベントナイトと併用した例であるが、より大きな通気性改善効果が得られ、焼結時間が短縮した。
d.しかし、実施例9、10に示すように、マラマンバ鉄鉱石の配合比率が増大すると、有機バインダーを使用しても乾燥後の造粒性を維持することが困難になり、とくにマラマンバ鉄鉱石70mass%では、マラマンバ鉄鉱石配合率の低い比較例1と同程度の擬似粒子径となった。ただし、それ以上のマラマンバ鉄鉱石を配合した比較例4(90mss%)では、もはや有機バインダーの効果をもってしても、擬似粒子径の低下は避けられらなかった。
【0056】
【表3】

【0057】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の技術は、造粒焼結原料の予備処理技術であるが、製鉄原料用ペレットの予備処理技術としても応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】擬似粒子水分と焼結時間の関係を示すグラフである。
【図2】本発明の予備処理方法の説明図である。
【図3】実施例を説明する模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
層厚が600mm以上である原料装入層を形成して焼結する焼結機に用いられる焼結原料の予備処理に当たり、その焼結原料中にマラマンバ鉄鉱石を10〜70mass%含む場合、水とバインダーの両方を加えて造粒すると共に、得られた造粒焼結原料を造粒と同時にまたはその後に、加熱乾燥することによって、水分4.0mass%以下の乾燥造粒焼結原料とすることを特徴とする造粒焼結原料の予備処理方法。
【請求項2】
層厚が600mm以上である原料装入層を形成して焼結する焼結機に用いられる焼結原料の予備処理に当たり、その焼結原料中にマラマンバ鉄鉱石を10〜70mass%含む場合、水とバインダーの両方を加えて造粒すると共に、得られた造粒焼結原料を造粒と同時にまたはその後に、加熱乾燥することによって、水分4.0mass%以下の乾燥造粒焼結原料を生成させ、そして、この乾燥造粒焼結原料と未乾燥造粒焼結原料とを混合して、混合造粒焼結原料とすることを特徴とする造粒焼結原料の予備処理方法。
【請求項3】
前記マラマンバ鉄鉱石は、高結晶水、低SiO含有で、微粉含有量の多いオーストラリア産鉄鉱石であることを特徴とする請求項1または2に記載の造粒焼結原料の予備処理方法。
【請求項4】
前記乾燥造粒焼結原料を50mass%以上含み、未乾燥造粒焼結原料を50mass%未満含有することを特徴とする請求項2に記載の造粒焼結原料の予備処理方法。
【請求項5】
前記造粒焼結原料の乾燥は、ロータリーキルンを使用して行うことからなる請求項1〜4のいずれか1に記載の造粒焼結原料の予備処理方法。
【請求項6】
ロータリーキルンによる造粒焼結原料の乾燥に当っては、造粒焼結原料をキルン排出口側から乾燥用熱媒と向流となるように供給することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1に記載の造粒焼結原料の予備処理方法。
【請求項7】
前記乾燥用熱媒として、焼結鉱クーラーで発生する排ガスを使用することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1に記載の造粒焼結原料の予備処理方法。
【請求項8】
前記バインダーは、水が蒸発した後もバインダー作用を有する有機バインダーであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1に記載の造粒焼結原料の予備処理方法。
【請求項9】
前記バインダーは、焼結原料に対して0.01〜1.Omass%添加することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1に記載の造粒焼結原料の予備処理方法。
【請求項10】
前記有機バインダーは、ガム系物質またはセル系増粘剤であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1に記載の造粒焼結原料の予備処理方法。
【請求項11】
前記ガム系物質がグアガムまたはアラビアガムであることを特徴とする請求項10に記載の造粒焼結原料の予備処理方法。
【請求項12】
前記セル系増粘剤がカルポキシメチルセルロースであることを特徴とする請求項10に記載の造粒焼結原料の予備処理方法。
【請求項13】
炭材を含む焼結原料に対し、水とともに有機バインダー粉末を加えて造粒することを特徴とする請求項1〜12のいずれか1に記載の造粒焼結原料の予備処理方法。
【請求項14】
前記バインダーが、無機バインダーと有機バインダーとの混合バインダーからなることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1に記載の造粒焼結原料の予備処理方法。
【請求項15】
前記焼結原料に求められる適正水分値よりも過剰な水分量となるように、素材を含む焼結原料に水とバインダーを加えて造粒することを特徴とする請求項1〜14のいずれか1に記載の造粒焼結原料の予備処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−138445(P2010−138445A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−315446(P2008−315446)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】