説明

造粒粉末及び放電表面処理用電極の製造方法

【課題】異物のない造粒粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】転動、流動又は転動流動させた金属又は金属化合物の粉末に、パラフィンを非水性媒液中に分散させたバインダー組成物を噴霧しながら造粒する造粒粉末の製造方法であって、バインダー組成物は、パラフィンの融点以上の温度に加熱しながら非水性媒液とパラフィンとを攪拌混合した後、この混合物を冷却することによってパラフィンを析出分散させたことを特徴とする造粒粉末の製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造粒粉末及び放電表面処理用電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、多品種少量生産に対応したバッチ式の造粒粉末の製造方法として、転動(攪拌)、流動の機構を利用した製造方法が知られている。この方法により得られる造粒粉末の特性(例えば、強度など)は、バインダーの種類や量に大きく依存しており、造粒粉末を用いて形成される成形体及びその焼成体の特性に多大な影響を与える。特に、バインダーの凝集や偏在は、焼成体においてボイド等の欠陥を残す。
【0003】
一般的に、金属又は金属化合物の粉末及びバインダーから構成される造粒粒子の成形体を焼成する場合、金属や金属化合物の粉末の酸化を防止するために、成形体は真空中又は非酸化性雰囲気中で加熱して脱脂される。そのため、バインダーには、低温分解が可能なパラフィン等の炭化水素系材料が用いられている。また、バインダーは、金属又は金属化合物の粉末との均一な混合ができるように、非水性媒液に溶解させた溶液又は分散液として用いられている。非水性媒液としては、金属又は金属化合物の粉末との濡れ性が良いアルコール系やケトン系の非極性溶媒が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
公知のバインダーの中でもパラフィンは、特に、金属又は金属化合物の粉末との濡れ性に優れており、エタノールやケトン等の非極性溶媒との混合も容易である。そのため、攪拌子や超音波等による機械的攪拌によって市販のパラフィン粉末を非極性溶媒中に分散させて使用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−216127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、市販のパラフィン粉末には、粒径が300μmを超えるパラフィン粒子が多く含まれており、機械的攪拌によって非水性媒液中に分散させても、図10に示すように、粒径が300μm程度の大きなパラフィン粒子3が非水性媒液2中に残存してしまう。この分散液を用いて造粒を行うと、大きな粒径のパラフィン粒子は造粒時の加熱条件では十分に熔解せず、造粒粒子中に異物として残存するという問題がある。そして、このような造粒粒子を用いて製造した成形体では、パラフィン粒子が異物として成形体中に存在することとなり、その焼成体では、ボイド等の欠陥が生じてしまう。特に、このような成形体や焼成体を放電表面処理用電極として用いる場合、異物又はボイド等の欠陥によって、金属又は金属化合物の皮膜が均一に形成されない。
【0007】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、異物のない造粒粒子の製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、異物又はボイド等の欠陥がなく、金属又は金属化合物の均一な皮膜を形成し得る放電表面処理用電極の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記のような問題を解決すべく鋭意研究した結果、パラフィンの融点以上の温度でパラフィンを非水性媒液(非極性媒液)と攪拌混合し、パラフィンを非水性媒液に溶解するか又はパラフィン自体を熔融させることによって、異物の原因となる粗大なパラフィンを除去し、また、この混合物を冷却することによって、微細結晶のパラフィンを析出分散させ得ることを見出した。
すなわち、本発明は、転動、流動又は転動流動させた金属又は金属化合物の粉末に、パラフィンを非水性媒液中に分散させたバインダー組成物を噴霧しながら造粒する造粒粉末の製造方法であって、バインダー組成物は、パラフィンの融点以上の温度に加熱しながら非水性媒液とパラフィンとを攪拌混合した後、この混合物を冷却することによってパラフィンを析出分散させたことを特徴とする造粒粉末の製造方法である。
また、本発明は、上記の造粒粉末の製造方法により得られた造粒粉末を加圧成形することを特徴とする放電表面処理用電極の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、異物のない造粒粒子の製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、異物又はボイド等の欠陥がなく、金属又は金属化合物の均一な皮膜を形成し得る放電表面処理用電極の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に用いられるバインダー組成物の模式図である。
【図2】本発明における噴霧冷却に用いられるノズルの断面模式図である。
【図3】本発明における造粒に用いられる転動流動造粒装置の断面模式図である。
【図4】実施例1のバインダー組成物におけるパラフィンの光学顕微鏡写真の模写図である。
【図5】実施例2のバインダー組成物におけるパラフィンの光学顕微鏡写真の模写図である。
【図6】実施例3のバインダー組成物におけるパラフィンの光学顕微鏡写真の模写図である。
【図7】比較例1のバインダー組成物におけるパラフィンの光学顕微鏡写真の模写図である。
【図8】比較例1で得られた加圧成形体(焼成前)の光学顕微鏡写真である。
【図9】比較例1で得られた加圧成形体(焼成後)の光学顕微鏡写真である。
【図10】従来のバインダー組成物の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
本発明の造粒粉末の製造方法は、転動、流動又は転動流動させた金属又は金属化合物の粉末にバインダー組成物を噴霧しながら造粒することによって行われる。
バインダー組成物は、非水性媒液中にパラフィンを分散させた分散液であり、パラフィンの融点以上の温度に加熱しながら非水性媒液とパラフィンとを攪拌混合した後、この混合物を冷却することによってパラフィンを析出分散させたものである。
図1に、本発明で用いられるバインダー組成物の模式図を示す。図1に示すように、バインダー組成物では、非水性媒液2中に微細結晶のパラフィン1が均一に分散している。
【0012】
本明細書においてパラフィンとは、炭素原子の数が20以上のアルカンを意味する。本発明で使用可能なパラフィンとしては、常温(25℃)において固体であれば特に限定されることはない。また、パラフィンは、直鎖型、分岐型、環状型のいずれであってもよい。ただし、パラフィンの融点は、使用する非水溶性媒液の沸点未満であることが好ましく、エタノール、プロピルアルコール等の一般的な非水性媒液(非極性溶媒)と混合させる観点から、65℃以下であることがより好ましい。パラフィンの融点が65℃を超えると、この融点よりも高い沸点を有する非水性媒液を用いなければならず、入手し易い非水性媒液が使用できなくなることがある。また、パラフィンは、常温で非水性媒液中に分散させる観点から、非水性媒液に対する常温での溶解度が0.1以下であることが好ましい。溶解度が0.1を超えると、常温で非水性媒液中にパラフィンが分散した所望の分散液が得られないことがある。ここで、パラフィンの溶解度とは、常温において、非水性媒液100gに溶解するパラフィンの質量(g)のことを意味する。
【0013】
本発明で使用可能な非水性媒液としては、常温でパラフィンを分散させるものであれば特に限定されることはなく、使用するパラフィンにあわせて公知のものを適宜選択して使用することができる。例えば、非水性媒液として、メチルエチルケトン、アセトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、シクロヘキサノン、3−ヘプタノン及び4−ヘプタノン等のケトン系溶媒;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、t−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、2−オクタノール、2−メトキシエタノール、アリルアルコール、フルフリルアルコール及びフェノール等のアルコール系溶媒が挙げられる。これらは、単独又は2種以上を混合して使用することができる。
【0014】
非水性媒液は、パラフィンの融点以上の温度でパラフィンと混合させるために、沸点が75℃以上であることが好ましい。このような沸点を有する非水性媒液としては、エタノール、プロピルアルコール等が挙げられる。
【0015】
バインダー組成物は、上記のパラフィン及び非水性媒液を用い、パラフィンの融点以上の温度に加熱しながら非水性媒液とパラフィンとを攪拌混合した後、この混合物を冷却することによって調製される。
非水性媒液は、常温においてパラフィンを溶解し難いが、温度を上げることによってパラフィンの溶解度を高めることができる。そして、パラフィンの融点以上の温度に加熱した場合、パラフィンは溶融し、非水性媒液に完全に溶解するか、又は非水性媒液に溶解した溶液に加えて、非水性媒液に溶解し得なかったパラフィンが別の液相を形成し、2種類の液相からなるエマルジョンとなる。一般的に、0.1重量%以上10重量%以下のパラフィンを含む混合物では、パラフィンの融点以上の温度で混合攪拌すると、非水性媒液にパラフィンが完全に溶解した溶液となる。一方、10重量%を超えるパラフィンを含む混合物では、パラフィンの融点以上の温度で混合攪拌すると、エマルジョンとなる。
【0016】
混合物の冷却方法としては、特に限定されることはなく、加熱を単に停止し、室温で攪拌混合しながら冷却すればよい。
この冷却方法を用いる場合、混合物(バインダー組成物)におけるパラフィンの含有量は、0.1重量%以上2.0重量%以下であることが好ましい。パラフィンの含有量が0.1重量%未満であると、常温で非水性媒液中に微細結晶のパラフィンが分散した所望の分散液が得られないことがある。一方、パラフィンの含有量が2.0重量%を超えると、析出するパラフィンの結晶が大きくなりすぎることがある。
この冷却方法により析出したパラフィンは、長辺が20μm以上50μm以下の板状を有しており、その大きさも均一である。板状としては、特に限定されることはなく、無定形板状、多角板状(三角板状、四角板状、六角板状など)、楕円板状、円板状などが挙げられる。
【0017】
一方、混合物の冷却方法として噴霧法を用いることもできる。この冷却方法によれば、より微細なパラフィンを析出させることが可能となる。
噴霧法では、図2に示すような、混合物送出パイプ11に混合物12を流しつつ、ノズル本体10と混合物送出パイプ11との間に加圧エアー13を流すことが可能なノズルを用いることができる。この噴霧法では、混合物は圧送されて噴霧される際に、大きな圧力変化を受けると共に、パラフィンが析出する際に機械的衝撃が加えられる。また、混合物中の非水性媒液には、急激な蒸発(パラフィンの濃度上昇)及び吸熱現象(温度低下)が起こるため、析出するパラフィンがより微細になる。
この冷却方法を用いれば、析出するパラフィンの結晶成長を抑制できるため、上記冷却方法よりも多くのパラフィンを含有させることができる。具体的には、この冷却方法を用いる場合、混合物(バインダー組成物)におけるパラフィンの含有量は、0.1重量%以上20.0重量%以下であることが好ましい。パラフィンの含有量が0.1重量%未満であると、常温で非水性媒液中に微細結晶のパラフィンが分散した所望の分散液が得られないことがある。一方、パラフィンの含有量が20.0重量%を超えると、パラフィンの量が多すぎてしまい、析出したパラフィンが凝集してしまうことがある。
【0018】
噴霧条件としては、使用するノズルの種類にあわせて適宜設定すればよく、特に限定されることはないが、加熱された混合物を約150g/分を超える供給速度で噴霧することが好ましい。
この冷却方法により析出した微細なパラフィンは、長径が20μm未満の板状を有しており、その大きさも均一である。
【0019】
このようにして調製されたバインダー組成物では、析出したパラフィンが非水性媒液中に均一に分散している。このバインダー組成物は、保存容器中で長期間静置しておくとパラフィンの沈降現象が見られるが、保存容器に軽い振動を与えることで容易に再分散させることができる。また、このバインダー組成物は、粗大なパラフィンを含まず、微細なパラフィンが均一に分散されているので、造粒時の加熱条件で溶解し易く、造粒粒子中に異物として残存しない。
【0020】
本発明の造粒粉末の製造方法では、転動、流動又は転動流動させた金属又は金属化合物及び炭化物の粉末に上記のバインダー組成物を噴霧しながら造粒する。
金属又は金属化合物の粉末としては、特に限定されることはなく、造粒粉末の使用用途などにあわせて適宜選択すればよい。例えば、放電表面処理用電極を製造するために造粒粉末を使用する場合、金属としては、Co、Cr、Fe、Zn、Mo、Ni、Ag、Ti、W等が挙げられ、また、金属化合物としては、前記金属を主成分とする合金や、これらの炭化物等が挙げられる。これらは、単独又は2種以上を混合して使用することができる。
【0021】
造粒は、公知の転動流動法に準じて行うことができる。ここで、一般的な転動流動造粒装置の断面図を図3に示す。図3において、転動流動造粒装置は、造粒容器20と、造粒容器20の底部側に設けられた攪拌ブレード21と、造粒容器20の側方から造粒容器20の内部に挿入され、攪拌ブレード21の上部側に設けられたスプレーノズル22とを備えている。また、造粒容器20の上部側には、バグフィルター23が設けられており、造粒容器20の外部への排気26が可能になっている。
【0022】
この転動流動造粒装置において、金属又は金属化合物の粉末を造粒容器20内に入れた後、攪拌ブレード21を回転させると共にエアー24(例えば、温風等)を造粒容器20の下部側から導入すると、造粒容器20の内部に上昇気流が発生し、金属又は金属化合物の粉末が浮遊して流動層が形成される。この流動層に、スプレーノズル22を介してバインダー組成物25を噴霧すると、バインダー組成物25中の非水性媒液が揮発すると共に、流動層中に混合された微細なパラフィンが熔融する。そして、金属又は金属化合物の粉末に熔融したパラフィンが付着し、転動流動によって凝集成長して造粒される。
なお、上記の造粒工程において、攪拌ブレード21の回転速度やエアー24の供給速度などの各種条件は、特に限定されることはなく、製造する造粒粉末の大きさや、使用する転動流動造粒装置の種類にあわせて適宜設定すればよい。
【0023】
また、造粒後には、造粒容器200や攪拌ブレード21に付着した大きな凝集物を除去するために、篩を通して分級してもよい。
このようにして製造される造粒粉末は、粒径が100μmを超える粗大なパラフィンを含まず、微細なパラフィンが均一に分散されたバインダー組成物を用いているので、造粒時の加熱条件で粗大なパラフィンが異物として残存しない。
【0024】
実施の形態2.
本発明の放電表面処理用電極の製造方法は、上記の造粒粉末の製造方法により得られた造粒粉末を加圧成形することによって行う。なお、造粒粉末の平均粒径は、緻密な成形体を得る観点から、100μm以上300μm以下であることが好ましい。
具体的には、所望の形状の金型に造粒粉末を充填した後、加圧すればよい。加圧時の圧力は、特に限定されることはないが、好ましくは100MPa以上200MPa以下である。
このようにして得られた加圧成形体は、放電表面処理用電極としてそのまま使用することが可能であるが、当該電極としての強度を高め、当該電極を用いて形成される被膜に不純物が混入することを防止するために、焼成することが好ましい。
【0025】
焼成方法は、特に限定されることはないが、一般的に、真空中又は非酸化性雰囲気中において、100℃以上300℃以下の温度に加熱することによってパラフィンを除去した後、使用する金属等の種類にあわせて適切な温度に加熱して焼成すればよい。なお、各温度における焼成時間は、特に限定されることはなく、加圧成形体の大きさや焼成装置の種類にあわせて適宜設定すればよい。
【0026】
このようにして製造される放電表面処理用電極は、粗大なパラフィンが異物として存在しない造粒粒子を用いているので、成形体でも粗大なパラフィンが異物として存在することもなく、その焼成体でもボイド等の欠陥が生じない。
【0027】
放電表面処理電極は、当該電極とワークとの間にパルス状の放電を発生させ、そのエネルギーにより、ワーク表面に電極材料又は電極材料が放電により反応した物質からなる被膜を形成する放電表面処理において用いることができる。本発明により製造される放電表面処理電極は、異物又はボイド等の欠陥がないので、金属又は金属化合物の均一な被膜を形成することができる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明の詳細を説明するが、これらによって本発明が限定されるものではない。
(実施例1)
パラフィンとして、日本精鑞株式会社製のSP−0145を用いた。このパラフィンは、融点が62℃であり、最大で300μmの粒径を有する粒子を含んでいた。
このパラフィン2.0重量%と共にエタノール98.0重量%をビーカーに加え、マグネット攪拌子で攪拌しながら65℃〜75℃に加熱してエタノールにパラフィンを溶解させた。次に、溶液の透明度によってパラフィンが溶解したことを確認した後、加熱を停止し、室温で攪拌混合しながら冷却することによってバインダー組成物を得た。なお、溶液の温度が60℃まで下がるとパラフィンが析出し始めたが、溶液が常温になるまで攪拌混合し続けた。
このバインダー組成物に分散したパラフィンの光学顕微鏡写真の模写図を図4に示す。図4において、観察のために析出したパラフィンをガラス板状に載せて乾燥させたため、パラフィンの多くは凝集している。しかし、個別のパラフィンは、20μm〜50μmの長径を有する板状であり、粗大なパラフィンは観察されなかった。
【0029】
次に、図3の転動流動造粒装置を使用し、造粒容器に亜鉛粉末を入れた後、攪拌ブレードを150回/分で回転させると共に、65℃の温風を3分間導入することによって亜鉛粉末の流動層を形成させた。ここで、亜鉛粉末としては、純度が95%、平均粒径が2μmのものを用いた。そして、この流動層に、スプレーノズルを介してバインダー組成物を10〜20g/分の供給速度で噴霧することにより造粒し、平均粒径が230μmの造粒粉末を得た。
次に、この造粒粉末を所定の形状の金型に充填した後、110MPaの圧力で加圧することによって加圧成形体を得た。この加圧成形体について光学顕微鏡を用いて観察を行ったところ、粗大なパラフィンによる異物は確認されなかった。
次に、加圧成形体を真空中、250℃で2時間加熱し、この加圧成形体の焼成体について光学顕微鏡を用いて観察を行ったところ、ボイド等の欠陥は確認されなかった。
【0030】
(実施例2)
パラフィン(実施例1と同じもの)10.0重量%と共にエタノール90.0重量%をビーカーに加え、マグネット攪拌子で攪拌しながら70〜75℃に加熱してエタノールにパラフィンを溶解させた。次に、溶液の透明度によってパラフィンが溶解したことを確認した後、図2に示したノズルを用い、この溶液を200g/分の供給速度で噴霧して冷却させることによってバインダー組成物を得た。
このバインダー組成物に分散したパラフィンの光学顕微鏡写真の模写図を図5に示す。図5において、観察のために析出したパラフィンをガラス板状に載せて乾燥させたため、パラフィンの多くは凝集している。しかし、個別のパラフィンは、20μm未満の長径を有する板状であり、粗大なパラフィンは観察されなかった。
【0031】
次に、このバインダー組成物を用い、実施例1と同様の条件にて造粒粉末(平均粒径:240μm)、並びに加圧成形体及びその焼成体を作製し、光学顕微鏡を用いて加圧成形体及びその焼成体の状態を観察した。その結果、焼成前の加圧成形体では粗大なパラフィンによる異物は確認されず、また、焼成後の加圧成形体でもボイド等の欠陥は確認されなかった。
【0032】
(実施例3)
パラフィン(実施例1と同じもの)20.0重量%と共にエタノール80.0重量%をビーカーに加え、マグネット攪拌子で攪拌しながら70〜75℃に加熱して、パラフィンが溶解したエタノールの液相と、エタノールに溶解し得なかったパラフィンの溶融液相とからなるエマルジョンを形成させた。次に、図2に示したノズルを用い、このエマルジョンを200g/分の供給速度で噴霧して冷却させることによってバインダー組成物を得た。
このバインダー組成物に分散したパラフィンの光学顕微鏡写真の模写図を図6に示す。図6において、観察のために析出したパラフィンをガラス板状に載せて乾燥させたため、パラフィンの多くは凝集している。しかし、個別のパラフィンは、20μm未満の長径を有する板状であり、粗大なパラフィンは観察されなかった。
【0033】
次に、このバインダー組成物を用い、実施例1と同様の条件にて造粒粉末(平均粒径:235μm)、並びに加圧成形体及びその焼成体を作製し、光学顕微鏡を用いて加圧成形体及びその焼成体の状態を観察した。その結果、焼成前の加圧成形体では粗大なパラフィンによる異物は確認されず、また、焼成後の加圧成形体でもボイド等の欠陥は確認されなかった。
【0034】
(比較例1)
パラフィン(実施例1と同じもの)2.0重量%と共にエタノール98.0重量%をビーカーに加え、マグネット攪拌子や超音波等の機械的攪拌を用いてエタノール中にパラフィンを分散させることにより、バインダー組成物を得た。
このバインダー組成物に分散したパラフィンの光学顕微鏡写真の模写図を図7に示す。図7において、観察のためにパラフィンをガラス板状に載せて乾燥させたため、パラフィンの多くは凝集している。また、個別のパラフィンは、粒子状であり、100μmを超える大きな粒子が観察された。
【0035】
次に、このバインダー組成物を用い、実施例1と同様の条件にて造粒粉末(平均粒径:250μm)、並びに加圧成形体及びその焼成体を作製し、光学顕微鏡を用いて加圧成形体及びその焼成体の状態を観察した。焼成前の加圧成形体の光学顕微鏡写真を図8に、焼成後の加圧成形体の光学顕微鏡写真を図9にそれぞれ示す。図8に示されるように、焼成前の加圧成形体には粗大なパラフィンによる異物が確認され、また、図9に示されるように、焼成後の加圧成形体にはボイドが確認された。
【0036】
以上のように、本発明によれば、異物のない造粒粒子の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、異物又はボイド等の欠陥がなく、金属又は金属化合物の均一な皮膜を形成し得る放電表面処理用電極の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 パラフィン、2 非水性媒液、3 パラフィン粒子、10 ノズル本体、11 混合物送出パイプ、12 混合物、13 加圧エアー、20 造粒容器、21 攪拌ブレード、22 スプレーノズル、23 バグフィルター、24 エアー、25 バインダー組成物、26 排気。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転動、流動又は転動流動させた金属又は金属化合物の粉末に、パラフィンを非水性媒液中に分散させたバインダー組成物を噴霧しながら造粒する造粒粉末の製造方法であって、
バインダー組成物は、パラフィンの融点以上の温度に加熱しながら非水性媒液とパラフィンとを攪拌混合した後、この混合物を冷却することによってパラフィンを析出分散させたことを特徴とする造粒粉末の製造方法。
【請求項2】
前記冷却は、前記混合物を室温で攪拌混合することによって行われることを特徴とする請求項1に記載の造粒粉末の製造方法。
【請求項3】
前記バインダー組成物における前記パラフィンの含有量は、0.1重量%以上2.0重量%以下であることを特徴とする請求項2に記載の造粒粉末の製造方法。
【請求項4】
前記析出分散したパラフィンは、長辺が20μm以上50μm以下の板状を有することを特徴とする請求項2又は3に記載の造粒粉末の製造方法。
【請求項5】
前記冷却は、前記混合物を噴霧することによって行われることを特徴とする請求項1に記載の造粒粉末の製造方法。
【請求項6】
前記バインダー組成物における前記パラフィンの含有量は、0.1重量%以上20.0重量%以下であることを特徴とする請求項5に記載の造粒粉末の製造方法。
【請求項7】
前記析出分散したパラフィンは、長辺が20μm未満の板状を有することを特徴とする請求項5又は6に記載の造粒粉末の製造方法。
【請求項8】
前記パラフィンの融点は、65℃以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の造粒粉末の製造方法。
【請求項9】
前記非水性媒液は沸点が75℃以上であり、前記パラフィンは前記非水性媒液に対する常温での溶解度が0.1以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の造粒粉末の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の造粒粉末の製造方法により得られた造粒粉末を加圧成形することを特徴とする放電表面処理用電極の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−234197(P2010−234197A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82873(P2009−82873)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】