説明

造血及び血管生成の調節方法

【課題】血管生成又は造血における発生エラーを含む種々の病理学的状態及び異常な数のエリスロイド細胞から生じる病理学的状態、又は異常に強化された血管生成を処置するために使用可能な方法及び組成物を提供する。
【解決手段】造血及び血管生成を調節することにおける用途のために、胚の胚体外組織において発現される遺伝子産物と機能的に同等の化合物を選択するための方法及びアッセイが提供される。このような化合物は、ヘッジホグタンパク、およびヘッジホグタンパク結合レセプターにより例示される。本方法にしたがえば、このような化合物は、未分化中胚葉由来細胞が造血又は脈管形成の少なくとも一方を行うことを引き起こす。未分化中胚葉由来細胞の例としては、造血幹細胞及び胚性外植片細胞が挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
インビトロ及びインビボにおいて造血及び血管生成を調節するための新規な方法及び組成物を提供する。
【背景技術】
【0002】
新しい個体の生命は、2つの配偶子、精子及び卵の遺伝物質の融合により開始する。数ラウンドの分裂の後、細胞は、最終的に成熟した成体生物を生じる分化の過程を始める。この過程には、成熟にいたる経路の間の特定の時に作用する多様な数の因子を含む多くの工程が関与する。成体型への成熟は、分化の過程を完全には終了しない。これは、成体生物が、充分に分化した細胞に加えて、分解及び再生の自然のサイクルの間の分化した細胞の補充の両方、及び損傷を受けた組織の修復にも利用可能な、未分化の幹細胞を有するからである。成体における未分化な細胞の例としては、骨髄幹細胞(より具体的には造血幹細胞及び前駆細胞)ならびに内皮前駆細胞がある。この種の細胞は、本質的に、個体の損傷した又は疾患を患う組織の修復及び再構成のための治療の道具箱を提供する。ヘルスケア提供者による個体を処置するためのこの治療の道具箱の使用は、これらの細胞の分化経路を操作するための方法及び分化を誘発せずに未分化の細胞の存在する数を高める又は調製するための方法の欠如により、限られている。
【0003】
したがって、任意の特定の個体からの未分化細胞の供給を、例えば分化を誘導せずに細胞の増殖を刺激することにより、増大させ得る新規な方法を見出す必要が存在する。制御された方式で未分化細胞の分化を調節することもまた望ましい。分化するように刺激された場合に分化する用意のある未分化細胞は、骨髄を破壊する化学療法のような幹細胞自体が枯渇する疾患、あるいは分化した細胞が、身体が未分化の幹細胞の自然の供給を用いることにより損失を補填し得るよりも速い速度で枯渇する疾患を患う個体に、治療を提供する。例えば、AIDS(エイズ)においては、ヒト免疫不全症ウイルスによる成熟血液細胞の急速な破壊が起こり、個体の免疫細胞の激減がもたらされる。幹細胞が増殖することを引き起こす因子及びそのような細胞の利用可能性を強化するために分化を調節する因子を同定する必要性が存在する。
【0004】
成体生物は、内皮幹細胞及び造血幹細胞(HSC)の両方を含む。これらの細胞は、未分化であるが、適切な条件下で分化して血管及び血液細胞をそれぞれ形成する。成体における血管生成に関して広範な研究がされてきたが、血管生成が管の拡張(angiogenesis;新脈管形成)に限られているかどうか、又はデノボ(新規)の管の発達(vasculogenesis;脈管形成)もあるのかどうかは未知である。血管生成を調節する因子の理解は、いかにして腫瘍、慢性関節リウマチ、血管腫、血管線維腫、乾癬及び毛細血管増殖ならびに糖尿病において起こるもののような異常な血管生成を阻害するかを理解することにおいてだけではなく、外科的手術、移植、及び心臓血管もしくは脳血管疾患のような血管疾患において起こるもののような組織への栄養欠乏を含む外傷事象の後にいかにして管を修復するかを理解することにおいても重要である。
【0005】
血管生成とは対照的に、造血は、通常、成体の一生を通じての連続的な過程である。血液細胞は、規則的に分解され、新しい細胞が形成されて、毎日数百万の成熟血液細胞の産生がもたらされる。多数の疾患が、血液細胞の分解と再構成とのアンバランス又は不適切な数のある種の血液細胞の生成から生じる。血液細胞分化の単純化した模式図を図12に掲げる。この模式図は、造血幹細胞(HSC)から由来し得る、そして未熟な前駆細胞の段階を通過する、8種の異なるタイプの血液細胞の発生経路を示す。多能性造血幹細胞は、多数の異なる経路を通じて赤血球、好中球、好塩基球、好酸球、血小板、マスト細胞、単核球、組織マクロファージ、破骨細胞、及びT及びBリンパ球を生じる。成体においては、赤血球は、多能性幹細胞がBFU−E(赤芽球コロニー群形成細胞)に分化した場合に形成され、BFU−Eは、次にCFU−E(赤芽球コロニー形成細胞)を形成する。成体において血液を形成する器官としては、骨髄、及びそれより重要ではないが肝臓が挙げられ、一方、脾臓は、老化した、又は異常な血液細胞を後に除去する主要な部位である。造血を調節する因子の探索は、成体に限られていたものではないが、胚においての研究は、胚が既に発生の比較的進んだ段階にある場合に起こる事象に限られていた。
【0006】
胚における細胞の事象に関しては、Cumanoら、Lymphoid Potential, Probed before Circulation in Mouse,Is Restricted to Caudal Intraembryonic Splanchnopleura,86(1996年)907−16頁は、成体に棲む造血幹細胞(HSC)が胚内の部位から生じることを提案していた。最初に胚内の血島から生じることが報告された血液細胞は、発生中の胚内の副大動脈(para−aortic)内臓葉(splanchnopleura)中の造血前駆細胞から由来するようである(Cumano et al.,1996)。マウスの初期発生は、図14に示すとおりであるが、初期の血島形成の領域は、胚体外体腔の周縁上に同定される。
【0007】
現在、異なる造血経路において初期の中間体細胞を刺激することが知られている多数の成長因子が存在する。これらとしては、造血(hematopoletic)成長因子、エリスロポエチン、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)が挙げられる。例えば、CFU−Eは、エリスロポエチンに応答して、赤血球系列の第一の認識可能な分化メンバーである前赤芽球(proerythroblast)を産生する。血液酸素レベルが低下するにつれて、エリスロポエチンレベルが増大し、より多くの赤血球の産生がもたらされる。赤血球細胞が成熟するにつれて、それは赤芽球となって大量のヘモグロビンを合成し、次いで赤血球となる。赤血球は、骨髄を去って、身体組織への酸素の配達を行う。公知の因子は、ある種の悪性腫瘍又は血液学的/免疫欠陥の治療において有用性を有し得るが、さらなる療法、特に分化経路の初期に作用するより広い範囲の生物学的活性を有する療法の開発の必要性が非常に存在する。分化の経路の初期においてHSCの増殖及び/又は分化を刺激し得る分子の利用可能性は、治療薬として特に価値が高いであろう。しかし、疑いなく多能性HSC自体の成長を刺激することが知られている因子は存在しない。幹細胞因子と呼ばれるタンパク質は、多能性造血細胞に関連することが同定されているが、この因子は、生存因子であって、これらの細胞の増殖を刺激することができる因子ではないと信じられている(Caceres−Cortes et al.,J Biol.Chem.,269(1994年)12084-91頁)。造血幹細胞の増殖及び分化を調節する必要性が存在する。例えば、ある種の病理学的状態において起こるもののような幹細胞又は前駆細胞の制御されていない増殖を阻害することが望ましいであろう。慢性貧血個体、又は貧血個体に移植するためのHSCの利用可能性を増大させるため、もしくは残りの細胞を効率的に刺激することが必要なように骨髄細胞の大半が破壊される化学療法を受けている個体を治療することにおける使用のために、インビトロ又はインビボで多能性HSCの数を増大させる方法に対する必要性が存在する。

【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、血管生成及び造血の少なくとも一方に対して効果を有するように、未分化の中胚葉由来の細胞の増殖及び/又は分化を調節する新規な方法及び組成物を提供することにより、上述の必要性を満足する。

【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1つの態様においては、造血及び血管生成の少なくとも一方を行うために、未分化の中胚葉由来の細胞の集団を刺激するための方法が提供される。この方法は、胚の胚体外組織において発現される遺伝子産物と機能的に同等の化合物を選択する工程、及び造血及び血管生成の少なくとも一方を行うよう細胞を刺激するように、その化合物の細胞への接近を引き起こす工程を含む。
【0010】
本発明の別の態様においては、子宮内の胚における血管生成又は造血における発生エラーを処置する方法であって、胚体外組織において発現される遺伝子産物と機能的に同等の化合物の有効用量を選択する工程、及び造血及び血管生成の少なくとも一方を行うよう細胞を刺激するように、インビボでその化合物の胚細胞集団への接近を引き起こす工程を含む方法が提供される。
【0011】
本発明の別の態様においては、異常な数のエリスロイド(erythroid)細胞を経験する個体を処置する方法であって、胚体外組織において発現される遺伝子産物と機能的に同等の有効用量の化合物を選択する工程、増殖又は分化の少なくとも一方を行う細胞の数を調節するように、有効な時間にわたって、その化合物が造血幹細胞の集団に接近することを引き起こす工程を含む方法が提供される。
【0012】
本発明の別の態様においては、中胚葉由来の細胞を含む組織の虚血を経験する個体を処置する方法であって、胚体外組織において発現される遺伝子産物と機能的に同等の有効用量の化合物を選択する工程、及び血管生成を刺激するように、有効な時間にわたって、虚血部位にその化合物を投与する工程を含む方法が提供される。
【0013】
本発明の別の態様においては、造血又は血管生成を調節することができる化合物の活性を決定するためのインビトロアッセイであって、哺乳動物の受精卵由来の組織から細胞の集団を選択する工程であって、ここで前記細胞の集団は予め決定したマーカーの欠如により検出可能なように血液形成が欠陥を有するものである工程、及びその欠陥を逆転するように細胞の集団に薬剤を添加する工程を含むアッセイが提供される。
【0014】
本発明の別の態様においては、造血又は血管生成を調節することができる化合物の活性を決定するためのアッセイであって、マーカー:ε−グロビンハイブリッド遺伝子を有する第一のトランスジェニック動物を選択する工程であって、このε−グロビン遺伝子は、少なくとも15.5dpcまで発現をすることができる工程、この第一のトランスジェニック動物を、同様にトランスジェニックである第二の動物と交配する工程、妊娠期間の最初の3分の1の間に交配から胚を単離する工程、及びマーカーの発現を測定することにより単離された胚における造血及び血管生成の刺激に対する化合物の効果を決定する工程を含むアッセイが提供される。
【0015】
本発明の上述の特徴は、添付の図面とともに以下の詳細な説明を参照することにより、さらに容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、トランスジェニックマウスの作製に用いられた4つの発現カセットを示す。(a)−179lacZεμLCR(MB70)は、最小ε−グロビンプロモーター(ε−pro)を有する基本構築物であり、転写の開始部位(+1)に関して−179まで、及び〜20bpのε−グロビン5’非翻訳領域(+1の下の小さい黒四角として示す)にわたる。ε−proは、Kozakコンセンサス配列及び翻訳開始部位(SDK領域)を含むLacZ発現カセットに連結されている。LacZレポーター遺伝子から下流にあるのは、エキソン2の部分、イントロン2(IVS2)の全部及びエキソン3の全部を含むε−グロビン遺伝子の3’領域の部分である。これらの配列は、黒四角(エキソン)及び黒線(イントロン)として示す。3’非翻訳領域(ポリアデニル化部位、pAを含む)は、ストライプのある線として示す。LCRの短縮型(μLCR)は、ε−lacZ配列の下流に位置する。(b)−849lacZεμLCR(MB73)、(c)ε−PRE(II+V)lacZεμLCR(MB72)、及び(d)−2kblacZεμLCR(MB92)。(a)〜(d)は、ε−pro及びヒトε−グロビン遺伝子の上流調節領域の異なる部分を含む。(a)〜(d)の真核生物配列を、KpnI及びNotIでの消化によりベクターから切り出し、次に、マウス接合子の雄性前核へのマイクロインジェクションのために精製した。
【図2】図2は、始原(primitive)赤芽球における、青色染色の出現と相関するLacZ発現を示す。A:(a)は、7.5dpc胚の図表であり、(b)は、明視野顕微鏡により観察した、XGalで染色したトランスジェニック胚であり、(c)は、暗視野顕微鏡で観察した同じ胚である。B:(a)は、非トランスジェニックマウスであり、(b)及び(c)は、XGalで染色した8.5dpcでの胚である。C:(a)は、野生型12.5dpc胚であり、(b)及び(c)は、トランスジェニック12.5dpc胚である。(1)野生型;(2)トランスジェニック;(3)栄養膜円錐(Ectoplacental Cone);(4)血島;(5)羊膜腔;(6)栄養外胚葉;(7)尿膜;(8)胚体外中胚葉;(9)胚プロパー(Proper)(胚盤葉上層)。
【図3】図3は、培養された胚盤胞の卵黄嚢様構造の形成を示す。(a)培養前のトランスジェニック胚盤胞、(b)ヘモグロビン含有細胞を明らかにするためにベンジジンで染色された卵黄嚢様構造(非トランスジェニック)、(c)培養9日後の、ヘモグロビン含有細胞を明らかにするためにベンジジンで染色された培養されたトランスジェニック胚盤胞からの嚢、(d)XGalで染色された正常8.5dpcトランスジェニック胚及び卵黄嚢。
【図4】図4は、胚盤胞培養のRT−PCR解析を示す。(A)比較的平坦な細胞の小丘であった試料中(「FLAT」)にはないが、嚢様構造(「SAC」)に発生した胚盤胞中ではε−グロビンが観察された。高分子量のバンドは、内部対照アクチンである。低分子量バンドは、胚性β−グロビンである。(B)エリスロイド分化に対する基質の効果により明らかにされた、環境の合図に応答した培養胚盤胞。(i)プラスチック上で(コラーゲン上ではなく)胚性β−グロビンを発現した中胚葉組織。内皮マーカー(PTHrP及びPTHrPレセプター)は、プラスチック表面及びコラーゲン表面の両方の上で内皮組織中で発現された。
【図5】図5は、始原赤血球生成が原腸形成後期に開始することを示す。左側は、後期ストリーク(線条)(〜7.5dpc)胚のホールマウント・インサイチュ解析であり、右側は、初期ストリーク(〜6.5dpc)胚である。紫の染色は、色原性基質である。ε−グロビンRNAプローブにより、左側に吻の(後部)面に示すように胚中の血球形成細胞が明らかになるが、右側の胚ではいずれにもなく、6.5dpc胚においては血液形成が欠如していることを明らかにする。
【図6】図6は、RT−PCR解析の手段による、10.5dpc及び12.5dpcでの解剖された卵黄嚢中胚葉におけるpatched(ptc)及びGli遺伝子の差次的発現を示し、解剖された卵黄嚢中胚葉におけるGli及びptcの実質的に排他的な発現を明らかにする。「WHOLE」=解剖されていない卵黄嚢;「MESO」=中胚葉層;「ENDO」=内胚葉層;「−cDNA」=cDNA抜きの対照。アクチンを内部対照として役立てた。
【図7】図7は、XGal染色により決定したところ、原腸形成中の胚のトランスジェニック外植片(6.25〜6.5dpcで単離したもの)をフィルター又はガラススライド上で72時間培養した場合、胚性血球形成の誘導は、全胚において起こるが、胚盤葉上層のみでは欠如していることを示す。構造の視認を容易にするために、胚盤葉上層の周囲に点線を引いた。(a)フィルター上の全胚;(b)フィルター上の胚盤葉上層;(c)スライド上の全胚;及び(d)スライド上の胚盤葉上層。
【図7−1】図7−1は、トランスジェニック胚外植片培養(lacZ染色された胚の切片)における血液形成を示す。凍結組織切片をXGalで染色し、(a)全胚、(b)胚盤葉上層、(c、d)後部胚部分、及び(e)VEに隣接するトランスジェニック後部胚盤葉上層部分、におけるLacZ陽性血液形成細胞のクラスターが明らかになっているが、周辺の内臓内胚葉及び未分化の中胚葉においても、非トランスジェニックVE組織後部/VE組換え体(e)においてもそうではない。
【図8−1】図8−1は、内臓内胚葉(VE)シグナルによる造血の誘導を示す。(a)トランスジェニック(Tg)胚盤葉上層を含む組換え体及び内臓内胚葉に隣接する胚中に局在するlacZ染色を示す非Tg−VEの暗視野写真;(b)パネル(a)に対応する模式図。略号:「Tg」=トランスジェニック;「Ve」=内臓内胚葉;「EryP」=始原エリスロイド細胞。(c)(a)に示す組換え体の明視野写真。
【図8−2】図8−2は、RT−PCRを用いて、全胚中及び胚盤葉上層プラス内臓内胚葉中における造血の誘導、及び胚盤葉上層のみにはそれがないことを示す。(すべての試料は、6.5dpcで単離した胚のインビトロでの72時間のインキュベーションの後に調製した。)アクチンを内部対照として役立てた。
【図9】図9は、組換えヘッジホグ(hedgehog;ヘッジホグ)タンパクが培養胚盤葉上層において始原造血を刺激するために内臓内胚葉を代替し得ることを示す。単離された胚盤葉上層を、3種の異なる濃度の組換えヘッジホグタンパクの存在下(0.25、1及び5μg/ml)及び不在下(「なし」と記したレーン)で培養した。始原造血は、ε−グロビン発現についてのRT−PCR解析により評価した。アクチンを内部対照として役立てた。「YS」=卵黄嚢対照。
【図10】図10は、RT−PCR解析による、内臓内胚葉における拡散性因子による始原赤血球形成の活性化を示す。
【図11】図11は、RT−PCR解析による、SHHブロッキング抗体を用いた培養全胚における始原赤血球形成の阻害を示す。
【図12】図12は、成体の造血ヒエラルキーの模式図を示す。
【図13】図13は、哺乳類胚の卵黄嚢における細胞系列の派生を示す。円形の構造は、3.5dpc頃の胚盤胞を表す。
【図14】図14は、マウスの初期発生を示す。初期血島形成の領域は、胚盤葉上層(その下は内臓内胚葉で囲まれている)とその上の胚体外胚組織との間の胚体外体腔(f)中に生じる。
【図15】図15は、前部及び後部部分への胚盤葉上層の分離のための実験スキームを示す。(A)は、胚体外中胚葉及び胚盤葉上層の周辺のまわりの内臓内胚葉を伴う6.75dpc胚全体を表す。(B)は、内臓内胚葉が除去された後の胚を表し、(C)は、胚盤葉上層のみを示し、横断面の点線は、前部及び後部セクションを別個に培養する前にいかにして物理的に分けたかを示す。
【図16−1】図16−1は、lacZトランスジェニック胚の前部及び後部部分を原腸形成の中期及び後期に収穫した場合に、造血中胚葉が後部始原ストリーク(後部中胚葉)から生じることを示す。パネルA:前部胚盤葉上層には染色が検出されない。パネルB:暗青色のXGal組織化学染色は、培養後部胚盤葉上層における血液形成を示す。スケールバーは1mmである。
【図16−2】図16−2は、内臓内胚葉が、前部胚外胚葉(胚盤葉上層)が造血マーカーを発現するように再プログラムし得ることを示す。ε−グロビン、β−グロビン、GATA−1、及びCD34マーカーの発現を、前部胚盤葉上層(「前部」:レーン6〜10)、後部胚盤葉上層(「後部」:レーン6〜10)及び内臓内胚葉と組換えされた前部(「a/Ve組換え体」:レーン1〜5)について示す。対照組織は、未培養全胚〔emb(−cx)〕、培養全胚〔emb(+cx)〕及び10.5dpc卵黄嚢組織であった。対照マーカーは、アクチン及び心臓ミオシンであった。付加的な対照は、逆転写酵素の不在下でPCRに供したemb(+cx)である。
【図16−3】図16−3。内臓内胚葉は、前部胚外胚葉(胚盤葉上層)が血管マーカーを発現するように再プログラムすることができる。PECAM−1、flk−1及びアクチンの発現を、前部胚盤葉上層(「前部」:レーン6〜10)、後部胚盤葉上層(「後部」:レーン6〜10)及び内臓内胚葉と組換えされた前部(a/Ve組換え体:レーン1〜5)について示す。対照組織は、未培養全胚〔emb(−cx)〕、培養全胚〔emb(+cx)〕及び10.5dpc卵黄嚢組織であった。対照マーカーは、アクチンであった。
【図17】図17は、ヌル突然変異体の胚性幹細胞(ES)を用い、培養に復帰組換え体BMP−4を添加したレスキュー実験の結果を示す。(A)及び(C)は、野生型マウスから単離された胚性幹細胞から生じた野生型組織胚様体を示す。(B)においては、胚性幹細胞は、ホモ接合体BMP−4欠損であり、組織胚様体は、検出可能な血液形成を欠いている。(D)においては、BMP−4タンパクが(B)の組織胚様体に添加され、血液形成が観察される。
【発明の詳細な説明】
【0017】
本発明は、胚組織及び成体組織において、選択された発生上の活性、具体的には造血及び血管生成を特徴とする血液発生を刺激するための方法を、初めて同定するものである。本方法は、さらに、胚又は成体からの幹細胞及び前駆細胞の増殖又は分化を調節することができる胚体外組織により分泌される分子を用いる。
【0018】
本発明の態様は、さらに、造血及び血管生成を刺激することができる化合物を同定するための新規なアッセイに向けられている。本発明の方法のための支持は、本明細書に含まれる実施例において提供される。本発明の1つの態様にしたがって、胚において及び成体において血液発生を刺激することができ、内臓内胚葉及び卵黄嚢中胚葉において発現される遺伝子産物と機能的に同等である化合物が同定されている。このような遺伝子産物は、ヘッジホグ化合物、TGF−β、TNF、及びWNT化合物により例示され、ここでは、未分化の中胚葉由来の組織において造血及び血管生成に関して胚体外組織について観察されるものと同様の効果を達成するとして同定される。本発明の1つの態様においては、ヘッジホグ及びTGF−βから選択されるものを含む化合物は、標的細胞に対するそれらの刺激効果を強化するように相乗的に作用してもよい。
【0019】
「成体(の)」は、本明細書及び特許請求の範囲において、誕生後の任意の時点の、動物個体内の又はそれに由来する細胞及び組織の説明として定義される。
【0020】
「胚性(の)」は、本明細書及び特許請求の範囲において、別に記載がされていない限り、誕生前の任意の時点の、動物個体内の又はそれに由来する細胞及び組織の説明として定義される。
【0021】
「血液発生」は、本明細書及び特許請求の範囲において、造血及び血管生成として定義される。
【0022】
「血管生成」は、本明細書及び特許請求の範囲において、脈管形成(vasculogenesis)及び新脈管形成(angiogenesis)の少なくとも一方として定義され、毛細血管、動脈、静脈又はリンパ管の形成を含む。
【0023】
「造血」は、本明細書及び特許請求の範囲において、血液細胞の産生の過程として定義される。
【0024】
「造血幹細胞」は、本明細書及び特許請求の範囲において、すべてのクラスの血液細胞が由来するもととなる多型潜在性前駆細胞として定義される。
【0025】
「完全(definitive)血液細胞」は、本明細書及び特許請求の範囲において、胎児又は成体生物の血液細胞として定義される。
【0026】
「始原(primitive)血液細胞」は、本明細書及び特許請求の範囲において、胚における血液発生中に形成される一過性の血液細胞の集団として定義される。
【0027】
「完全内胚葉」は、本明細書及び特許請求の範囲において、腸及び肝臓のような成体の内胚葉由来組織に寄与する始原ストリークの細胞から、原腸形成中に派生する内胚葉として定義される。
【0028】
「内臓内胚葉」は、本明細書及び特許請求の範囲において、分泌性の胚体外内胚葉細胞であって、充分に形成された生物のいかなる組織にも直接寄与しないものとして定義される。
【0029】
「前駆細胞」は、本明細書及び特許請求の範囲において、分化した細胞タイプを生じる潜在能力において幹細胞と比較してより制限されている未分化細胞として定義される。
【0030】
「約束された」は、本明細書及び特許請求の範囲において、多能性を保持するかわりに特定の系列に沿って分化するように運命づけられた細胞として定義される。
【0031】
「RT−PCR」は、本明細書及び特許請求の範囲において、組織中の遺伝子の転写の検出を可能にする逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応として定義される。
【0032】
「相乗効果」は、本明細書及び特許請求の範囲において、2又は3以上の化合物について、単独のそれらの化合物を用いてはほとんど又は全く効果が観察されないが、一緒の場合にそれらの化合物が強力な生物学的効果を有することとして定義される。
【0033】
「ヘッジホグ化合物」は、本明細書及び特許請求の範囲において、組換えヘッジホグタンパク、アナログ、及びヘッジホグタンパクの誘導体、及びヘッジホグタンパクレセプターのアゴニスト及びアンタゴニスト、ならびに上述のものの機能的同等物を含むヘッジホグファミリーの分子のクラスとして定義される。
【0034】
「未分化中胚葉由来細胞」は、本明細書及び特許請求の範囲において、未分化であるか、又は約束されていない細胞を含み、さらに幹細胞及び前駆細胞を含むことを意味する。
【0035】
CFU−Eは、本明細書及び特許請求の範囲において、赤芽球コロニー形成細胞(ユニット)として定義され、これは、後期(成熟)エリスロイド前駆細胞である。CFU−Eとして採点されるコロニーは、色素を含む細胞の小さい、密なクラスターであり、培養2〜3日以内に出現する。
【0036】
BFU−Eは、本明細書及び特許請求の範囲において、赤芽球コロニー群形成細胞(ユニット)として定義され、これは、始原エリスロイド細胞である。これらのコロニーは、色素を含有し、CFU−Eよりもサイズが大きい。これらの細胞は、より広範に分散しており、プレーティング後、より遅い時期に出現した。それらの数は、培養中7日頃が最大である。
【0037】
CFU−GMは、本明細書及び特許請求の範囲において、ミエロイド又は顆粒球−マクロファージコロニー形成ユニットとして定義される。これらは、外観はBFU−Eと同様であるが色素を含まない。
【0038】
CFU−Sは、本明細書及び特許請求の範囲において、脾臓コロニー形成ユニットとして定義される。
【0039】
造血及び血管生成は、成長中の組織塊が塊の内部の細胞への栄養の供給を確保するための最初の要件のいくつかである。発生中の胚は、栄養を必要とし、したがって、赤芽球(酸素を運搬する細胞)を形成するための細胞の分化及び血管系(輸送系)の形成は、発生過程の最初の事象の1つである。胚性組織は、トリ及び爬虫類の原腸形成において見られるものを思い出させる細胞運動(始原ストリークを通じた中胚葉及び完全内胚葉細胞の移動)を行う一方、胚体外細胞は、母親の子宮内で胎児が生き残ることを可能にする哺乳類組織を作る。これは、母親の血液供給を刺激して子宮内膜を形成することを含む。胚を栄養芽層に連結する胚体外中胚葉の狭い連結茎状部は、最終的に臍帯の管を形成する。栄養芽層組織及び血管含有中胚葉からなる充分に発生した器官は、漿膜と呼ばれる。漿膜と子宮壁との融合は、胎盤を形成する。妊娠後(PC)4週までに、ヒト胚は、母親の循環に隣接する胎児血管を通じた栄養の供給源を有する。
【0040】
成体においては、血管生成は、損傷した組織の修復中、及びガンを含む種々の疾患中に起こり、ガンの場合は、腫瘍が正常組織中での血管の出芽を刺激する因子を放出し、正常組織では新しい血管が腫瘍組織に向けられる。成体に棲む造血幹細胞(HSC)は、胚内部位で生じ得る(Cumano,et al.(1996))。この中胚葉組織は、完全造血幹細胞及びおそらく脈管構造を生じる細胞の起源の、主要でないとしても重要な部位であると信じられている。
【0041】
造血及び血管生成の過程は、部分的にしか理解されていないが、マウスにおける発生の経路は、ヒトにおける同等の過程と似ているようである。マウスの造血系は、6.5dpc頃に始原ストリーク段階の胚において形成を始める中胚葉の胚葉に由来する。血島は、7.5dpcに胚体外中胚葉に最初に出現し、造血前駆細胞は、8dpcで1〜2中胚葉節対内の胚の内臓卵黄嚢中胚葉中に出現する。8dpcの中頃に、核を有する始原赤血球細胞が卵黄嚢の脈管構造中に見られるが、8.5dpcまでは始原循環系に入らない。8.5〜9dpcに始まって、造血前駆細胞は、胚体内の中胚葉由来領域、特に副大動脈内臓葉に見出される(Cumano,et al.(1996))。卵黄嚢を裏打ちしている内臓の中胚葉細胞は、内皮細胞により裏打ちされている管にくぼむ細胞の帯を形成する。血島の中央の細胞は、胚性血液細胞に分化する。血島が成長するにしたがって、それらは最終的に合体して毛細血管ネットワーク及び最終的には新たに形成される心臓につながる卵黄の管を形成する。
【0042】
現在まで、脈管形成及び造血においてある役割を果たす8dpc頃前の生化学的事象については、ほとんど知られていない。しかし、本発明者らは、発生のこの段階が、胚における血液系の成熟及び成体において重要な役割を果たすことを主張する。本発明の態様にしたがえば、胚の発生における血管生成及び造血の過程は、内臓内胚葉中の化合物によって影響される。例えば、本発明者らは、ヘッジホグタンパクが血液形成を刺激するために未分化の中胚葉由来細胞にインビトロで作用し、造血及び血管生成経路の非常に初期の段階で胚性組織及び卵黄嚢に対して作用することを初めて同定した。さらに、本発明にしたがえば、これらの初期に作用する化合物は、成体動物における造血及び血管生成を調節することにおいて有用性を有する(表1及び2)。本発明の態様にしたがえば、「造血及び血管生成の少なくとも一方を行うように未分化の中胚葉由来細胞を刺激すること」は、分化前の造血幹細胞及び前駆細胞の増殖を刺激することを含む(実施例4)。
【0043】
血液発生及び血管生成を刺激する内臓内胚葉の因子の同定は、新規なアッセイの使用を通じて本明細書において明らかにされる。これらのアッセイは、以下のものを含む。
【0044】
(a)血液発生前、その最中及びその後の胚性外植片組織の解析。例えば、外植片は、哺乳類の発生の最初の段階において形成される胚盤胞から派生してもよい。胚盤胞は、胚が内部細胞塊、栄養外胚葉細胞から形成される外部栄養芽層細胞層、及び胞胚腔として同定される液体を含有する内腔を形成する64細胞段階に達するときに形成される。内部細胞塊(ICM)は、胞胚腔中に置かれ、ICMの外層を形成する「始原内胚葉」及びICM自体に分離するようになる。「始原内胚葉」は、壁及び内臓内胚葉を生じる。内側のICM細胞は、始原外胚葉を形成し、胚プロパー(embryo proper)を生じる。胚盤胞は、血液発生が開始される前に単離されるが、拍動する心筋のような脈管構造に付随する器官の特徴的な組織の形成を可能にするような時間、培養中に維持され得る。血液発生は、発生中の胚の卵黄嚢の内胚葉と中胚葉との間に血島が観察されるときに組織学的に最初に観察される。理論によって拘束されることなしに、本発明者らは、観察された島が、未分化の前駆細胞からの赤芽球及び内皮細胞の形成の結果として形成されることを信じる。実験的なマウスのモデルにおいては、胚性外植片は、血島の形成が観察される前に2dpcで、又はその後に、単離してもよく、また、器官発生が進行中である場合、14dpcまでインビトロで維持してもよく、血液及び脈管系の開始及び進行を追跡するためのモデル系を提供する。本発明による血液の形成前の外植片の単離は、従来技術に関して新規であり、従来技術においては、血島形成の開始が既に起こった後の血液発生における事象が記載されている(Cumano et al.(1996年);Palis et al., Blood 86(1995年),160−63頁;Kanatsu et al., Development 122(1996年), 23−30頁)。
【0045】
(b)マーカー(例えばLacZ)が造血及び血管生成の開始を合図するのに役立つように血液形成に付随する初期段階遺伝子(例えばε−グロビン遺伝子)産物の調節領域をマーカーとカップリングしたトランスジェニック動物からの外植片の使用(実施例1)。造血又は血管生成の開始は、血液発生に付随する遺伝子産物の発現の開始及び発現の程度を検出することができるRT−PCR;ヘモグロビンのベンジジン染色により例示される組織化学染色;適切な特異性の抗体を用いる免疫組織化学的法;ホールマウントのインサイチュ・ハイブリダイゼーション;放射能標識したリボプローブを用いるインサイチュ・ハイブリダイゼーション;及び当業界で公知の他の方法のような、高感度の検出方法を用いて検出することができる。
【0046】
以下で、実施例1及び2において4つの異なるアッセイデザインを記載する。それらは、造血及び血管生成に関与する因子をスクリーニング及び同定するために、個別的にも、また、組み合わせても、有用性を有する。
【0047】
(i)胚盤葉上層培養:インタクトな(無傷の)胚外植片を、血島の組織学的な出現の前に、例えば6.5dpcで、収穫して、胚が発生を続けるのを可能にし、それによって血液形成の陽性対照として役立つように、標準的な培養技術を用いて、インタクトな状態でインビトロでインキュベートした(実施例2A−B)。これらの状況においては、外植片はインビトロで血島を形成し、血液形成は、ε−グロビン、(胚性β−グロビン)、GATA−1、CD34、sca−1(造血幹細胞のマーカー)、PECAM−1、flk−1、Vezf−1(内皮マーカー)のような初期血液発生のマーカーの出現を測定することにより、追跡することができた。実施例2においては、ε−グロビン遺伝子発現は、RT−PCRを用いて、胚盤葉上層培養のインビトロでの72時間のインキュベーションの後、検出された。トランスジェニック動物から外植された胚は、ε−グロビン遺伝子プロモーター下にLacZマーカーを有し、同様の時間の後、XGalで染色された。
【0048】
アッセイは、血島を生成することができず、この無能力が不可逆的である胚外植片の作製を含む。胚が、最初に内臓内胚葉を除去されたとき、得られる胚盤葉上層は、外植片培養中でXGalで陽性に染色されず、したがってε−グロビンを発現していなかった(図7、8)。造血の開始を直接の細胞−細胞接触に依存しない方式で調節する、拡散性因子が同定された。これらの因子は、胚盤葉上層の外側で、例えば内臓内胚葉において作られる。これらの因子の生物学的な役割は、内臓内胚葉及び胚盤葉上層組織を用いる再構成実験により確認された(図8)。内臓内胚葉中に含まれる因子の要件は、本発明者らが胚盤葉上層を内臓内胚葉細胞培養から得られるコンディションド(馴化)培地で処理する効果を対照の非処理胚盤葉上層と比較したときに、さらに明らかにされた(実施例2A)。一方、コンディションド培地の不在下では、胚盤葉上層は、ε−グロビンを発現せず、分泌された細胞因子を含有するコンディションド培地の添加は、胚性組織におけるε−グロビンの発現を誘導した(実施例10)。非トランスジェニックマウス由来の胚盤葉上層を、ホールマウント・インサイチュ・ハイブリダイゼーション又は免疫染色法を用いて遺伝子発現について解析した。
【0049】
(ii)胚盤胞培養:胚性β様:LacZグロビン(ε−グロビン:LacZ)のような血液形成に付随する遺伝子の調節配列により制御された検出可能なマーカーから形成されたハイブリッド遺伝子を有するトランスジェニックマウス由来の胚盤胞におけるXGalの発現を測定した。実施例2(C)においては、胚盤胞は、3.5dpcで単離され、さらに7〜10日インキュベートされた(図13)。あるいは、胚盤胞培養は、非トランスジェニックマウスを用いて上記のように調製され、遺伝子発現はホールマウント・インサイチュ・ハイブリダイゼーション又は免疫染色法によって検出された。胚盤胞培養の詳細は、実施例2(C)及び図3に記載する。
【0050】
(iii)改変された胚盤葉上層培養アッセイ:原腸形成後期の胚を収穫し、胚体外外胚葉を解剖して除くことにより、胚盤葉上層を調製した(実施例2(B))。原腸形成中、胚性細胞は、基本的な体の設計及び胚体外中胚葉がそれぞれ胚体外組織に寄与することを確立する。胚体外の部位に運命づけられた中胚葉細胞は、後部始原ストリークを出て、7.5dpcの後期ストリーク段階までに3つの別個の腔に胚を細分する。中央の腔、すなわち胚体外体腔は、中胚葉細胞で完全に裏打ちされるようになる。これらの中胚葉細胞は、羊膜を形成するために胚性外胚葉に、漿膜を形成するために胚体外外胚葉に、そして内臓卵黄嚢(VYS)を形成するために内臓内胚葉に、隣接して存在する。原腸形成の最後に、胚内の細胞は、3つの胚葉、すなわち外側外胚葉(表皮及び神経系を生じる);内側外胚葉(消化管の裏打ち及び(膵臓、肝臓及び脾臓のような)その関連器官を生じる);及び中間中胚葉(いくつかの器官(心臓、腎臓、生殖腺)、結合組織(骨、筋、腱)及び完全血液細胞を生じる)に分かれる。
【0051】
後期原腸形成胚からの単一の胚盤葉上層を、前部及び後部の部分に横に切開し、各部分を個別に数日間培養した(図14及び15)。RT−PCR技術を用いてε−グロビンの発現により決定したところ、前部胚盤葉上層部分がほとんど又は全く血島を形成しなかったのに対し、後部部分はインタクトな胚盤葉上層に匹敵するレベルで血液を形成した。このアッセイを用いて、前部胚盤葉上層に組成物を添加して、血液形成の刺激を決定することができる。このアッセイにおける対照は、前部胚盤葉上層が血島を形成することを引き起こすのに充分な内臓内胚葉の添加である。内臓内胚葉又はヘッジホグタンパクのいずれかを培養に添加した場合、血液形成が観察された(図16)。
【0052】
(iv)標的タンパクに欠陥を有する突然変異体から由来する外植片又は組織胚様体:組織胚様体は、当業界で周知の技術を用いてインビトロでインキュベートされる収穫された胚性幹細胞から形成される(実施例2(C))。これらの細胞は、血液細胞及び内皮前駆細胞を含むいくつかの細胞タイプを含む組織胚様体を形成する(図17(A、C)を参照されたい)。胚性幹細胞は、相同組換え及び選択可能な薬剤耐性のような充分に確立された技術を用いて、その産物が造血及び血管生成において役割を果たす選択されたマウス遺伝子のターゲティング突然変異誘発に供してもよく、ターゲティングされた遺伝子突然変異についてホモ接合体の細胞が得られる。(i)コード遺伝子又は調節配列の「ノックアウト」;(ii)コード遺伝子又は調節配列の「ノックアウト」及び何かが作られることを引き起こす「ノックイン」配列でのその配列の置換(ノックイン配列は突然変異を有する配列であってもよい);又は(iii)ゲノムへの外来DNAの挿入又は突然変異を起こす化学物質の使用によるランダム突然変異の生成、といった突然変異を、誘発させてもよい。これらの突然変異を形成することの結果には、特定の遺伝子産物の活性を改変すること、及び遺伝子産物の活性を無にすることが含まれ、さらに遺伝子操作の確立された方法により、別の遺伝子産物である遺伝子産物を置換することが含まれ得る。
【0053】
これらのターゲティングされた突然変異がタンパクの遺伝子発現の欠如をもたらす場合、それらの突然変異はヌル突然変異と呼ばれる。野生型胚性幹細胞を用いて、ヌル突然変異体を作した。本発明にしたがえば、その欠如が血液を作ることの障害をもたらすように内臓内胚葉に関与するタンパクにおいて欠陥があるヌル突然変異体は、胚体外組織に由来するもののようなライブラリーからの新規な化合物のスクリーニングのための好適なモデル系であり、これらのライブラリーは、コンビナトリアル・ペプチドライブラリー及び組換えDNAライブラリーを含む。実験的試験の数を減少させるために、プールする戦略を用いることにより、組織胚様体において造血及び血管生成を調節することにおいて有用な化合物を同定することができる。
【0054】
この一般的なタイプのアッセイは、血液形成に対するヘッジホグタンパク(例えばインディアン・ヘッジホグ)のようなシグナリング因子の欠陥のような他の突然変異の効果を研究するために用いることができる(実施例3〜5)。例えば、Ihhヌル突然変異ES細胞が形成され得、この突然変異を克服し得る因子が同定され得る。これらの細胞は、外来性のヘッジホグタンパクを提供することにより、又は標準的ベクター又はレトロウイルスベクターを用いてヘッジホグ遺伝子を発現するベクターで細胞をトランスフェクトすることにより、レスキューされ得る(図9)。突然変異した細胞は、マウスに再導入してキメラを作製することもできる。
【0055】
これらの検出技術を、以下のようにして、胚盤葉上層及び胚盤胞培養において造血及び血管生成を検出するために用いた。本発明のアッセイにしたがえば、血島形成の開始は、以下のものを含む、当業界で利用可能ないずれかの高感度の技術を用いて検出することができる。
【0056】
(1) ハイブリッド遺伝子、すなわち胚性β−様:LacZグロビン(ε−グロビン:LacZ)を有するトランスジェニックマウス由来の外植片におけるXGalの検出。ホモ接合性トランスジェニックマウスの胚を、XGalを用いて解析し、エリスロイド細胞の視覚的な検出に先立つ血液発生の指標であるグロビン遺伝子転写を明らかにした(図1、2)。
【0057】
(2) 妊娠後の種々の時点における胚盤葉上層及び胚盤胞中の放射性半定量的RT−PCRプローブを用いるグロビン遺伝子発現の検出。放射性アッセイを用いる顕著な利点は、個別の外植片から回収される組織の量が非常に少なく、高感度のアッセイが、単一の培養生成物からの多くの遺伝子の発現についてのアッセイを可能にすることである(図4)。
【0058】
上述のアッセイを用いて、本発明者らは、胚体外組織において発現され、血液形成を刺激し得る遺伝子産物と機能的に同等の多数の化合物を同定した。これらの化合物には、TGF−βタンパク、より具体的にはTGF−β1、より具体的には骨形態形成タンパク(bone morphogenic protein;BMP)、より具体的にはBMP−4;腫瘍壊死因子(TNF)タンパク、より具体的にはTNF−α;wntファミリー;及びヘッジホグタンパクが含まれる(図5、9及び17)。化合物は、また、上述のものの天然又は合成アゴニスト、アンタゴニスト、アナログ及び誘導体をも含み得る。これらの因子は、シグナル伝達経路を開始して生物学的応答をもたらす膜タンパクと相互作用し得る。したがって、上述の化合物に加えて、それらの、smoothened、patched及びgliのようなヘッジホグ結合レセプター及びヘッジホグシグナル伝達経路に関連するレセプターアンタゴニスト、レセプターアゴニスト及びレセプターを含むこれらの膜結合タンパクに対するアゴニスト及びアンタゴニストは、造血及び血管生成を調節することにおいて有用性を有し得る。
【0059】
幹細胞増殖の刺激及び分化の調節のための標的部位は、本明細書において、胚に存在するもののような前分化した中胚葉由来組織と同定された。胚性前分化中胚葉組織としては、内臓卵黄嚢、尿膜、羊膜、漿膜、栄養外胚葉、及び出生前卵黄嚢、胎児肝の造血幹細胞、及び臍帯血が挙げられる。成体における前分化中胚葉由来組織としては、成体骨髄中の造血幹細胞及び前駆細胞、肝臓及び脾臓ならびに胎児及び成体の内皮幹細胞及び前駆細胞が挙げられる。
【0060】
本発明の新規なアッセイは、以下のものを含む複数の適用において使用することができる: (i) 造血及び血管生成を刺激することにおける活性についての化合物のスクリーニング;
(ii) 胚性造血及び血管生成に対する成長因子、サイトカイン、及び他のシグナリング分子の効果の試験;
(iii) 胚、胎児及び成体における造血及び血管生成に対するヘッジホグタンパクの効果の決定。例えば、胚盤胞アッセイを、胚盤胞がトランスジェニック又は非トランスジェニック動物由来である場合に卵黄嚢のエクスビボでの発生に対するヘッジホグタンパクの効果を決定するために用いてもよい;
(iv) 通常は血液細胞を産生しないがその中胚葉が卵黄嚢のそれと同じ起源である尿膜のような他の胚性組織の造血潜在能力の検査;
(v) 脈管構造を概説し、造血ならびに血管生成のトラッキングを可能にするための、XGalのようなマーカーを用いる染色による始原エリスロイド細胞及び血管構造の発生の追跡。そして、初期胚体内完全造血ならびに始原卵黄嚢造血を解析するための手段を提供する;
(vi) 個別の外植片に対する、ヘッジホグ、patched、Gli及び他のタンパクを発現するトランスジーン(導入遺伝子)を有するものを含む親動物における造血又は血管生成に影響する遺伝子中のターゲティングされた突然変異の効果の決定;
(vii) 中胚葉由来組織に対する遺伝子治療の効果の検査。例えば、血島形成の効果を調節するように、ヘッジホグタンパクの遺伝子を、種々のプロモーター下で、内臓内胚葉を破壊したストリーク前の胚に導入する。このタイプの遺伝子治療モデルは、造血及び血管生成を調節することができる分子を同定するための実験道具として役立ち得る。
【0061】
造血及び血管生成における形態形成タンパクの新たに確認された役割:
ヘッジホグ(ハリネズミ)タンパク:本発明者らは、ここにおいて、ヘッジホグタンパクが、卵黄嚢中及び胚又は胎児の内臓葉及び他の造血組織中での造血を刺激でき、且つ、成体骨髄中での造血を刺激できることを初めて示した(実施例3〜5、表1−2、図6及び9)。内臓内胚葉中に存在する分子をスクリーニングすることにより、本発明者らは、ヘッジホグ遺伝子産物を同定した。ヘッジホグタンパク(SHH)を胚盤葉上層培養物に添加し、2〜3日後にRNAを単離し、RT−PCRによって解析した(実施例3、図9)とき、造血が、ε−グロビン遺伝子の活性化によって決定したところ、刺激されたと観察された。さらに、SHHタンパクは、内臓内胚葉が存在しない胚盤葉上層中で、造血を刺激することができた。実施例4及び図11に記載されているように、SHHに対する抗体を全胚に添加したとき、ε−グロビンの発現は実質的に低減された。
【0062】
上記のアッセイは、胚体外組織で発現されたヘッジホグタンパクも、胚体外組織で発現されたタンパクと非常に関連深いヘッジホグタンパクも、造血及び脈管形成を刺激することを示す。シグナリング分子の明確なファミリー(例えば、Goodrichら、Gene & Develop.、10巻(1996年)301〜312頁においてレビューされている)であるヘッジホグのファミリーのメンバーは、四肢形態発生、神経発生、骨成形機能及び精子形成において、ある種の役割を果たすことが知られている。そのファミリーは、初め、ショウジョウバエ属の正常体節パターン化に携わるとして同定された(Nusslein−Volhardら、Nature、287巻(1980年)、795〜801頁)。ヘッジホグのファミリーは、デザート・ヘッジホグ(DHH)タンパク、インディアン・ヘッジホグ(IHH)タンパク、ムーンラット・ヘッジホグ(ゼブラフィッシュ)及びティギー・ウィンクル・ヘッジホグ(ゼブラフィッシュ)を含む。
【0063】
本発明が理論によって限定されることは意図していないが、本発明者らは、内臓内胚葉中でのIHHの初めの発現が、卵黄嚢中胚葉中におけるその後のDHHの活性化をもたらし得ること、及び、DHHが、卵黄嚢の胚体外中胚葉に自己分泌(オートクライン)で作用し得ることを示唆する。このようにして、6.5dpcにおいて内臓内胚葉を取り去った胚盤葉上層は、DHHのシグナリングに作用するIHHの存在下において、7.5dpcにおいて血島を製造し得る。一旦、このようにしてDHHのシグナリングが開始されると、IHHは、もはやまったく必要とはされ得ない。本発明者らは、IHHノックアウトもしくはDHHノックアウトの単独での又は両者一緒での影響を観察した。本発明者らは、DHHノックアウトが血島の形成を妨害しないことに注目し、DHH不存在下において、IHHは、血液発生に対する連続する刺激効果を有すると結論づけている。本発明者らは、血液細胞及び脈管構造を欠く卵黄嚢表現型をもたらすためには、IHHとDHHの両者がノックアウトされる必要があるかもしれないことを示唆する。分子それ自体における見掛け上の機能の相違は、それらの生化学的な相違中にはそれ程多くは存在しないかもしれず、むしろ、発現部位又は発現のタイミングにおける相違の結果ということになるのかもしれない。この点についての前例は、engrailed遺伝子によって提供されている(Hanksら、Science、269巻(1995年)、679〜682頁)。上で提供された説は、DHHとIHHとの関係について、好ましい説明を与えるが、これらのタンパク間において観察された関係について、他の説明を排除するということを意味しない。造血及び血管生成の刺激におけるヘッジホグタンパクの有用性は、本発明者らの目的分子(これらの分子を通じてこれらのタンパクが作用する)についての実験によって、さらに補強される。patched及びGliの発現を解析するために、RT−PCRを用いて(実施例5、図6)、本発明者らは、卵黄嚢中胚葉、すなわち、その唯一の機能は、血液及び血管内皮細胞を生成することである組織において、これらのタンパクの実質的に独占的な発現を確認した。
【0064】
ヘッジホグタンパクが造血を刺激することができるという本発明者らの観察を支持して、本発明者らは、卵黄嚢中胚葉におけるGli及びpatchedの豊富な発現を確認した。Gliは、伝達径路(その径路上でヘッジホグタンパクが作用する)に関与する転写因子であり、一方、PTC(patched)は、ヘッジホグタンパクに結合して、標的細胞において生物学的応答を最終的に引き起こすシグナル伝達径路を開始させる、膜タンパクである。これらのタンパクの卵黄嚢中胚葉との関係は、ヘッジホグタンパクが造血を刺激するという観察をさらに支持する。ptcは、細胞応答への推定された入り口であるから、パッチを結合することができるヘッジホグのアゴニストは、ヘッジホグと同じ生物学的効果(すなわち、この場合造血及び血管生成)を誘導することが期待される。
【0065】
ある種のヘッジホグタンパクは、二次シグナリング分子である中胚葉におけるBMP−2及びBMP−4(TGF−βファミリーに属するタンパク)と外胚葉におけるFgf−4(国際公開WO95/18856)の発現の開始に関与すると報告されている。本発明者らは、造血及び血管生成を刺激するために、ヘッジホグタンパクが、二次シグナリング分子と相乗的に相互に影響し合うかもしれないことを初めて確認した(実施例6)。これらのシグナリング分子は、内臓内胚葉及び/又は卵黄嚢中胚葉と関係していることが見出され得る、BMP−2、BMP−4、BMP−6及びBMP−7、そしてWntsとFGFを含むTGF−βファミリーの他のメンバーを包含する。
【0066】
本発明に係る、組換えヘッジホグタンパク、ヘッジホグタンパクのアナログ、誘導体及び解離生成物、及びPTCのようなヘッジホグタンパクレセプターのアゴニスト等の、胚体外組織中で発現される遺伝子産物と機能的に同等である化合物の活性は、成体造血幹細胞及び成体前駆細胞に作用すると同様に、胎児細胞、胎児末梢血及び臍帯血を包含する異なる齢の胚に由来する細胞又は組織にも作用することにより、造血及び血管生成を刺激し得る。本発明は、ヘッジホグタンパクの機能ペプチドの使用を包含する。上で定義したヘッジホグ化合物のサブクラスとしての「機能ペプチド」という用語は、全タンパク(国際公開WO96/16668、参照によりここに組込まれる)と同じ又は同等の生物活性を誘導し得るヘッジホグタンパクのペプチドフラグメントを包含することが、意味されている。本発明は、さらに、ヘッジホグタンパクのホモログ、組換えヘッジホグタンパク、ヘッジホグをコードする核酸、アンチセンス分子、当該分野で公知のウイルス・ベクターを含む遺伝子治療での使用のための遺伝子構築物、アゴニスト又はアンタゴニストとしてのヘッジホグタンパクのコンビナトリアル(無作為配列)突然変異体、及びヘッジホグタンパクのエピトープに特異的な抗体を含め、WO95/18856(参照によりここに組込まれる)に記載されたヘッジホグ化合物を包含する。これらの及び他の化合物は、本発明のアッセイにしたがって造血及び血管生成を調節するために選択され得る。
【0067】
本発明にしたがうと、これらの因子は、哺乳類(ヒトを含む)を含め、動物において造血及び血管生成を刺激するために使用され得る。同様に、本発明の化合物に対するアンタゴニストが、血管生成及び造血を阻害するために使用され得る。これらの因子の治療上の有用性について、以下に論ずる。
【0068】
本発明者らの新規の胚盤胞アッセイは、卵黄嚢の発生に対するヘッジホグタンパクの影響を決定するために使用され得る。加えて、組織化学マーカーとしてLacZを用いるばかりでなく、ホールマウント・インサイチュ・ハイブリダイゼーション又は免疫染色によっても、遺伝子の発現のために、胚盤嚢をアッセイし得るであろう。
【0069】
造血及び血管生成に対する選択された化合物の影響を研究するためのトランスジェニックマウスモデル:
トランスジェニックマウスモデルは、発生事象の研究において、有用性を有する。組織学的マーカー遺伝子がマウスのゲノムに導入されると、マークされた細胞と関係したパターン化が確立され得る。
【0070】
先行技術のトランスジェニックマウスは、少なくとも4つの大きな制限を有している:(i)導入遺伝子の転写を追跡する能力が、RNase防御又はmRNA生成のS1ヌクレアーゼアッセイに依存し、且つ、組織試料が、発生の初期段階において制限的であり得る;(ii)発現の特異性が、単一細胞レベルでは試験され得ない(リボプローブを用いてのインサイチュ・ハイブリダイゼーションの実施の不足、しかし、これらの実験は、技術的に困難(challenging)であり且つ高価である);(iii)釣り合わせているα−グロブリン遺伝子の不存在下における外来性β−グロブリン遺伝子の不均衡な発現が、重症サラセミアをもたらし易く(Hanscombeら、Gene & Develop.、3巻(1989年)、1572〜1581頁)、且つ、子宮内での早期の死を通じて、トランスジェニックの子孫の収量を低下させると考えられる(Hanscombeら、1989年;Pondelら、Nucleic Acids Res.、20巻(1992年)、5655〜5660頁);(iv)トランスジェニックマウスでの、その上流調節配列を伴う全グロビン遺伝子及び8.5〜9.5dpc後のマウスの試験の使用が、開始後の血液発生の解析をもたらす。Pondelら(1992年)。
【0071】
本発明者らは、先行技術のトランスジェニックマウスの制限に打ち克つ、血液発生のモデルを提供するトランスジェニック動物を開発した。本発明者らは、ここにおいて、選択されたマウスモデル(このモデルにおいては、上記のアッセイに適合させた外植片を得るために、マーカー遺伝子は、グロビン調節配列の制御下に置かれている)の使用を採用した。本発明者らは、ε−グロビン遺伝子の主要部の代わりに、β−ガラクトシダーゼ(LacZ)レポーター遺伝子が実例であるマーカーを選択した。したがって、機能的な外来性ヘモグロビンタンパクは、形成されないであろうし、且つ、導入遺伝子の発現を追跡するために、感度の高い酵素アッセイが使用できるであろう(実施例1)。LacZのようなレポーター遺伝子を使用するさらなる利点は、それが、急速で詳細な組織化学的研究(この研究においては、発現の特異性を、単一細胞レベルで又は組織溶解物において定量的に解析し得る)を可能にする点にある。複合組織中で単一細胞の発現を試験する能力は、早期の胚形成に関与する研究のために、特に有用である。
【0072】
LacZのレポーター遺伝子の替わりのレポーター遺伝子としては、アルカリホスファターゼ及び緑色蛍光タンパクとその誘導体が挙げられる。実施例1に従って形成された胚は、発生の7.5dpcという早期において、頂点のレベルでLacZを発現することができ、それは、16.5dpcという後期まで続く。
【0073】
本発明のマウスモデルでのLacZの発現は、胎児内副大動脈内臓葉において、及び大動脈−性巣−中腎(AGM)領域(以下を参照のこと)において、確認され得る。それ自体では、それらは、より遅い発生段階における造血の研究に、特有の形で適合されており、且つ、様々なインビトロ及びインビボでの胚造血についての研究において、有用性を有する。したがって、これらの動物は、様々な種類の外植片又は胚培養物のための遺伝的にマークされたエリスロイド細胞のソースとして、有用性を有する。
【0074】
本発明に記載されたトランスジェニックの方法を用い、発生の間の発現のタイミングを指示するエンハンサー(そのようなエンハンサーは、任意に誘導可能である)及び/又はプロモーターを利用することにより、あるいは、発現の組織特異性を指示することにより、胚又は成体動物における造血及び血管生成の発現の調節のために、LacZトランスジェニックマウスをモデルとして使用し得る。その例としては、卵黄嚢に遺伝子の発現と腸の発生を指示するα−フェトタンパクエンハンサー、心筋に発現を指示する心アクチンエンハンサー、及び造血幹細胞中でタンパクを発現するためのsca−I制御配列(Milesら、Development、124巻(1997年)537〜547頁)、又は内部光受容体(interphotreceptor)レチノイド結合タンパクの網膜特異的調節エレメント(Bobolaら、J.Biol.Chem.、270巻(1995年)、1289〜1294頁)が挙げられる。他のトランスジェニックマウス(そのマウス中では、ヘッジホグ遺伝子ファミリーから選択された配列が、上記の種類のエンハンサー及び/又はプロモーターの制御の下に置かれ得る)も形成し得る。さらにまた、トランスジェニックマウス(そのマウス中では、ヘッジホグ、又はヘッジホグのアゴニスト又はアンタゴニストが、上記のような異種組織特異的プロモーター/エンハンサーの制御の下で発現される)を作り出し得る。他のトランスジェニック動物(その動物中では、ヘッジホグ制御配列(例えば、Shh又はDhhを発現させるためのIhh調節配列)が、特定の胚又は成体組織中で、異種遺伝子コード配列を発現させるために使用される)も作られ得る。
【0075】
上記にしたがうトランスジェニックマウスのモデルは、実施例1に記載された方法によって作られ得る。「ノック−イン」マウスは、胚性幹(ES)細胞中の内因性配列の制御の下、ヘッジホグ遺伝子をゲノム中の選択された部位に差し向けるために、Hanksら、Science、269巻(1995年)、679〜682頁の方法を用いて作られ得る。これらの改変されたES細胞は、その後、キメラ動物を形成するために、胚盤胞にマイクロインジェクションされ得る(Joyner、1995年)。これらの動物は、標的遺伝子についてヘテロ接合性であり、且つ、導入された配列を誤って発現するであろう。このようにして、遺伝子発現のレベル及び発現が生じる部位の制御は達成され得る。そのようなトランスジェニックマウスの例は、Ihh配列が外来性のflk−1遺伝子座に「ノック・イン」されており、HSC及び内皮細胞前駆体中での発現を許しているマウスである。導入遺伝子(「ノック−イン」遺伝子)は、例えばLacZ又はGFPとの融合タンパクとして改変され得、都合のよい組織化学的もしくは免疫学的又は分子での検出を可能にする。トランスジェニック動物の技術の使用は、次の用途を含む適用のための、マウスモデル系を提供し得る:胚、胎児及び成体動物における造血及び血管生成の正常なプロセスでのさらなる事象、及び白血病及び異常な血管生成及び異常な造血のような血液の疾患を引き起こす事象の確認。これらの事象は、ヘッジホグ化合物に関して解析され得る。
【0076】
治療での適用:
本発明の化合物には、治療での適用が数多く存在する。そのような用途は造血及び血管生成の調節と関係しており、幹細胞の分裂増殖及び/又は分化の阻害をもたらす方法と同様に、刺激をもたらす方法を包含する。本発明の化合物の例は、上で論じた。
【0077】
本発明の実施態様においては、造血及び血管生成を刺激する方法は、次の(a)、(b)及び(c)を利用し得る:
(a) 誘導体、アナログ、及び天然に見出されるタンパクの分解生成物を含むヘッジホグタンパク、タンパクレセプターのアゴニスト又はアンタゴニスト、そして上記の化合物の機能同等物のような治療化合物。それらの治療化合物は、胚体外組織の培養物から単離してもよく、組換え技術によって製造してもよく、又は合成化学によって調製してもよい;
(b) 遺伝子治療技術に適したベクターに組込まれた、上記治療化合物のコード配列;及び
(c) 細胞移植のために上記のコード配列で形質転換された哺乳類細胞。
【0078】
異常な血液の発生が生じている個体の治療は、本発明のアッセイの一つで同定された治療薬を、有効投与量において、ある有効時間、上記方法のいずれかによって個体に投与することにより、達成され得る。あるいは、患者を、その技術分野で利用可能な技術のいずれかを用い、治療薬のためのコード配列を含むプラスミド又はウイルスベクターを作ることにより、遺伝子治療の対象としてもよい。例えば、ヘッジホグ関連化合物のようなある同定されたタンパク(集合的に化合物と称される)のタンパク、アナログ、誘導体、アンタゴニスト又はレセプターを、ベクターに導入し、そして、そのベクターを、適当な標的組織(ここでは、この組織は成体又は胚に位置している)に導入し得る。治療薬の発現は、目標とされた組織での選択的な発現を保証するために、選択されたエンハンサーによって制御し得る。例えば、心臓において所望の化合物を発現させるための心アクチンエンハンサー、骨格筋においてその化合物を発現させるためのMCKエンハンサー、造血幹細胞においてヘッジホグ化合物を発現させるためのsca−I調節配列又は網膜においてその化合物を発現させるための内部光受容体レチノイド結合タンパクの網膜特異的調節エレメントの使用。
【0079】
異常な血液の発生が生じている個体は、分泌された薬の運搬系として遺伝的に操作された細胞株を用い、細胞移植の手段によって治療薬を投与することにより、治療され得る。例えば、自己由来の線維芽細胞のような自己由来の細胞又は免疫保護バリアー中に含まれている異種細胞は、ヘッジホグ、又はタンパクのアナログ、誘導体、アンタゴニスト又は受容体のような選択されたタンパクを分泌するための標準的な技術により、操作され得る。
【0080】
本発明の1つの態様においては、造血細胞の系列における欠陥と関連した異常を治療するために、個体において造血を刺激するための方法が提供される。そのような治療のための標的の例としては、未分化中胚葉由来細胞の、本発明の化合物へのインビボ又はインビトロでの曝露が含まれる。標的細胞の例としては、骨髄幹細胞、前駆細胞及び臍帯血細胞が挙げられる。これらの細胞は、個体から単離してもよく、その後の使用のために細胞銀行に保存し得る。あるいは、それら細胞は、新たに単離してもよく、培養培地中でインビトロで維持し得る。そのような細胞のその化合物に対する曝露は、高められた細胞の増殖及び/又は分化をもたらし、その刺激された細胞は、移植技術の手段によって、その細胞が得られたその同じ又は別の個体に移植される。あるいは、未分化中胚葉由来の細胞を、経口、皮内、皮下、経粘膜、筋肉内又は静脈内の経路を含めて多くの経路のいずれかによって、インビボで胚又は成体中に接近させてもよい。
【0081】
本発明の方法は、血液の異常に罹患している個体(胚又は成体)を治療するために使用され得る。これらは、遺伝子の障害、ガンの放射線及び化学療法のような治療の副作用によって生じ得、あるいは、ヒト免疫不全ウイルスのような感染性因子によって引き起こされる疾患によって生じ得る。そして、これらは、造血を刺激する方法及び化合物を用いて治療され得る。もしも治療しなかった場合には、そのような異常の結果は、(赤血球が異常な低レベルであることと関連した)様々な形態の貧血である。貧血の例としては、再生不良性貧血(特発性型、素質型、あるいは二次的な型);骨髄形成異常性貧血;転移又は壊死ガン腫患者における貧血;ホジキン病;悪性リンパ腫;慢性肝疾患の貧血;慢性腎疾患の貧血(腎不全);内分泌異常の貧血;赤血球形成不全;慢性炎症性疾患による、特発性又は他の異常に関連した貧血;及び多くの原因の血小板減少症が挙げられる。加えて、造血の刺激は、白血球減少症(例えば、白血病及びエイズ)の治療において有益である。
【0082】
本発明の1つの態様にしたがうと、遺伝性疾患、慢性変性性疾患、老化、外傷又は感染性因子によってもたらされる異常な血管形成(血管過多)を治療するために、1つの方法が更に提供される。その例には、糖尿病性慢性潰瘍、やけど、凍傷、発作後の局所貧血(虚血)状態及び移植が包含される。本発明の化合物は、局所貧血心筋症又は局所貧血肢体における、そして冠状動脈バイパス及び一般に外傷治療の促進における、血管再生又は側副血管の形成の誘導のために、成体において使用され得る。例えば、本発明の化合物は、微小血管密度を高め、より急速な癒合を促進することにより、十二指腸潰瘍の治療において使用され得る。加えて、本発明の方法は、血管生成における異常によって引き起こされた、(上で定義されたような)胚における発生の異常を正すために使用され得る。
【0083】
本発明の一つの態様にしたがうと、赤血球の過生成、例えば、真性赤血球増加症及び赤白血病又は他の造血に関する悪性疾患、に罹患している個体において、造血を阻害するための方法が提供される。
【0084】
同様に、例えば、乳ガンのような様々な固体腫瘍、幼児におけるヘムアンギオーマ(hemang oma)、糖尿病に関連する眼の血管新生、雌の生殖器官の出血異常及び関節炎のある種の型においてみられるように、過剰な血管新生又は新血管形成に罹患している個体において、血管生成を阻害するための方法が提供される。
【0085】
上で参照したすべての引用文献は、参照により組込まれる。
【実施例】
【0086】
実施例1: 始原エリスロイド細胞の形成及び造血の検出のためのトランスジェニックマウスモデルの形成
早期の胚発生の間に形成された単一エリスロイド細胞は、ε−グロビンの発現の監視によって確認することができる。本発明者らは、導入遺伝子発現のための新しいε−グロビン/LacZベクターを開発した。本発明者らは、それらのベクターから、造血及び血管生成に関して、詳細な組織化学的データも、単一細胞レベルでの発現の特異性のデータをも得た。ε−グロビン/LacZ導入遺伝子は、マウス胚の始原エリスロイド細胞(卵黄嚢及び胎児肝)においてのみ発現されるので、これらのマウスは、(主としてエリスロイドの)胚による造血に影響を与えるかもしれない他の遺伝子を過剰発現又はノックアウトする効果の薬学的な操作又は試験のための理想的な標的としての役割を果たす。例えば、関心のある、ある遺伝子を過剰発現しているトランスジェニックマウスを、上記トランスジェニック系統の一つと交配してもよく(すべての子孫がLacZレポーターを有するようにホモ接合性にされる)、そして、胚の造血への影響をLacZ染色で測定してもよい。Wassermanら、Giude to Techniques in Mouse Development(サンディエゴ:アカデミック・プレス社、1993年);Herbomelら、Cell、39巻(1984年)、653〜662頁に記載された方法を用い、組織溶解物中の発現の定量分析を行った。あるいは、ターゲティングされた突然変異(ヌル突然変異又は他のより複雑な突然変異)を有するマウスを、本発明者らのトランスジェニックマウスと交配させることができ、そして、胚の造血に対する突然変異の影響を評価することができる。このインビボのアッセイは、それゆえ、胚の造血に対する遺伝子産物の影響を評価するための力強い道具である。
【0087】
本発明者らは、発現を決定するための感度の高い酵素アッセイを提供するために、その導入遺伝子を、レポーター遺伝子との組み合わせで設計した。すなわち、本発明者らは、β−ガラクトシダーゼ(LacZ)レポーター遺伝子を、ヒト胚性β様ヘモグロビン(ε−グロビン)遺伝子の転写に関連する多数の調節エレメントの下流において、ベクターに挿入した(図1)。血液細胞の発生を追うために使用される導入遺伝子構築物の例は、以下に提供される。これらの構築物は、アッセイの方法の例証であり、アッセイの方法は、これらの構築物のみに限定される必要がなく、他のベクター構築物中で他の導入遺伝子及び他のレポーター遺伝子を利用できる。
【0088】
導入遺伝子の説明:
「ミクロ−LCR」(β−グロビン遺伝子座のずっと上流に位置する制御配列の先端を切った短縮型、Forresterら、1989年参照)に、最小ε−グロビン・プロモーター単独を加えたもの(構築物1);「ミクロ−LCR」に、−849までの上流調節領域を加えたもの(構築物2);「ミクロ−LCR」に、−2025までの上流調節領域を加えたもの(構築物3);「ミクロ−LCR」に、組合わせε−PRE+Vによって駆動される最小プロモーターを加えたもの(構築物4)(Trepicchioら、Mol.Cell.Biol.、13巻(1993年)、7457〜7468頁)を含む、数種の異なるトランスジェニック構築物を作った。原核β−ガラクトシダーゼ(LacZ)遺伝子を、コザック(Kozak)コンセンサス配列(Ravidら)を含む短いオリゴヌクレオチド(SDK)と一緒に、+20と+473との間のE−グロブリン配列を削除して、最小プロモーターとε−グロビン遺伝子の第二のイントロンの部分との間に挿入した。各構築物について、8〜10のファウンダー(創始者)が得られた(14〜21%のトランスジェネシティ)。
【0089】
導入遺伝子構築物の生成:
構築物1: −179lacZεμLCR(MB70):
これは、「基本カセット」であり、一連のクローニング工程を用いて作った。先ず、ヒトε−グロビン遺伝子を−849から+1746まで含むClaI/EcoRIフラグメント、改変されたμLCR(Trepicchio,William L.ら、Molecular and Cellular Biology、13巻、12号、7457〜7468頁(1993年))を含む2.5kbのEcoRI/HindIIIフラグメント、及びSP73(Promega)のClaI/HindIII消化誘導体(ここにおいて、XhoI部位は、XhoI消化、クレノウDNAポリメラーゼとの反応及びその後の平滑末端連結によって壊してある)の間で、三方連結により、MHB135を生成した。その後、MHB135のEcoRV部位にKpnIリンカーを挿入し、MHB135Kを作った。pUCεx(Baronら、Cell、46巻(1986年)、591〜602頁)に由来する、−179から+20までの最小ε−グロビン遺伝子プロモーターを含むBamHI/XhoIフラグメントを、BamHI/XhoI消化SP73(Promega)にサブクローニングし、その後、KpnI及びXhoIを用いる消化によって切り出し、KpnI/XhoI消化MHB135Kの主(バックボーン)フラグメントに連結してMB42を生産した。
【0090】
標準的な方法(Sambrookら、Molecular Cloning、A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor:Cold Spring Harbor Laboratory Press)、1989年)を用いたHindIII部位でのNotIリンカーの挿入により、MB42を、改変した。この工程は、独特のNotI部位をμLCRの末端に挿入してMB60を生じた。
【0091】
次に、MB59を、次のようにして作った。pSDKlacZpA(REF)に由来するおよそ3.1kbのXbaI/PstI LacZフラグメントを、SP73にサブクローニングし、SP73lacZを生じた。pUCεxから、ヒトε−グロビン遺伝子の+474から+1746までの3’部分を、BamHI/EcoRIフラグメントとして切り取り、SP73lacZの平滑にされたBamHI部位に平滑末端連結し、MB59を生じた。次に、MB59のKpnI部位を、T4 DNAポリメラーゼでの処理及び再連結(レレゲーション)によって壊し、MB69を生じた。最後に、MB60のXhoI/EcoRI主要部(バックボーン)を、MB69の部分的なEcoRIでのそしてその後のXhoIでの消化によって得られた、LacZ及びε−グロビン3’配列を含むフラグメントと連結した。この最終生成物、MB70は、基本的構築物、−1791acZεμLCRであった。
【0092】
構築物2: −849lacZεμLCR(MB73):
−849から+20までのε−グロビン上流領域を、MHB135からBglII/XhoIフラグメントとして単離し、BglII/XhoI消化MB70の主要部(バックボーン)にサブクローニングし、MB73と名付けられた−849lacZεμLCRを製造した。
【0093】
構築物3: −2kblacZεμLCR(MB92):
KpnI及びXhoIを用いた消化により、MB16−3から、−2025から+20までのε−グロビン上流領域を含む2kbのフラグメントを切り出し、Kpn/XhoI消化MB70−3(−181lacZεμLCR、上を見よ)の主(バックボーン)フラグメントに連結し、−2kblacZεμLCR(MB92)を作った。
【0094】
MB16−3を、次のようにして作った。pUCεx(Baron及びManiatis、1986年)から、EcoRIでの消化、クレノウDNAポリメラーゼでの平滑末端化、及びその後のXhoIでの消化により、2kbのε−グロビン上流領域を単離した。その後、これを、KpnI/XhoI消化MHB135K(上を見よ)に連結した。
【0095】
構築物4: ε−PRE(II+V)μLCR(MB72):
参照文献(Trepicchioら、1993年)の図4の構築物6に由来するBglII/BamHIフラグメントを、基本構築物MB70のBamHI部位に連結し、このベクターを作った。
【0096】
トランスジェニックマウスの生成:
胚へのマイクロインジェクションのために、プラスミドDNAをKpnI/NotI制限酵素で消化し(図1)、真核部分を標準的な方法(Hoganら、1994年)を用いて精製した。標準的な方法(Hoganら、1994年)を用い、胚を、単一細胞段階において、DNA試料のマイクロインジェクションを行い、その後、里親に移植した。トランスジェニックマウスを作るために、異系交配(アウトブレッド)マウス系(CD−1)を使用し、胚提供者(ドナー)、繁殖用雄、偽妊娠雌、精管切除された雄、及び繁殖のための成熟雌の起源としての役割を果たさせた。サザーン・ブロッティング(多くの異なるプローブを使用して、再び標準的な方法で)又はPCR(下を見よ)による尾の生検材料で、遺伝型を決定した。サザーン・ブロット解析は、転位、重複又は欠失が、導入遺伝子のゲノムへの組込みに伴わなかったことを確認するためにも使用した。トランスジェニックの雄(ヘテロ接合性トランスジェニックCD−1雄)を得るために、ファウンダーを繁殖させ、そのトランスジェニックの雄を、LacZ発現解析(図2を見よ)のための胚又は成体動物を生産するために、正常なCD−1雌と交配した。その図に示された時期に、妊娠した雌を殺した(膣栓の観察の日の正午を、交尾後0.5日(dpc)とみなした)。胚を切り解剖し、固定し、XGalで染色した。段階ごとのマウス胚での導入遺伝子の発現の解析のために、標準的な方法(Wassarman及びDePamphilis、1993年)を用いての、全標本(ホールマウント)の胚の染色により、酵素のβ−gal活性を追跡した。
【0097】
トランスジェニックマウスの遺伝型決定のためのPCR条件:
10日齢の仔の足指の切削物(クリップ)から、又は3週齢の仔の尾の生検材料から、:ゲノムDNAを調製した。足指の切削物を、プロテアーゼK(1mg/ml)を含むDNA抽出緩衝液(50mM トリス−塩酸、pH8、20mM NaCl、1mM EDTA、1% SDS)20μlに加え、55℃にて1時間インキュベーションした(但し、初めの30分間の後にはボルテックスで攪拌した)。その後、試料を200μlの水で希釈し、10分間沸騰させ、20分間微小遠心分離を行った。ゲノムDNAを、尾の生検材料から標準的な方法(Hoganら、1994年)で調製した。0.4μlのゲノムDNA(足指又は尾)を用い、1×緩衝液G(PCR Optimizerキット、Invitrogen)及びI.U.Ampli−Taqポリメラーゼ(Perkin−Elmer)を含む50μlの反応物中でPCRを行った。32サイクルの94℃での変性(1分)、55℃でのアニーリング(1分)及び72℃での伸長(1分)と、その後の最終的な72℃で6分間の伸長で増幅を行い、408bpの生成物がもたらされた。反応物の一部(10〜15μl)を、1×トリス−ホウ酸塩−EDTA(Sambrookら、1989年)中で、2%アガロースゲル上で解析した。
【0098】
増幅プライマーの配列は、5’Hε: 5'−ATG GAT CCA GCA CAC ATTA−3'(Hε−グロビンの−179〜−165に対応)
3'LacZ: 5'−TCG CCA TTC AGG CTG CG−3'(LacZの+154〜+170に対応)であった。
【0099】
結果:
LacZの発現は、交尾後7.5日(dpc)という早期において(すなわち、卵黄嚢中に血島が初めて見られる頃に)、胚体外体腔のレベルにおいて、期待された「リング」パターンで検出可能であった(図2A)。8.5dpcまで、卵黄嚢の血管溝内に、始原赤芽球の染色が観察された(図2B)。実際の胚(胚プロパー)内には、少数のLac−Z染色始原赤芽球が観察された(図2B(c))。12.5dpc、すなわちマウスのε−グロビン遺伝子の発現が頂点に達するときまで、卵黄嚢の血管内に、Lac−Z染色始原エリスロイド細胞が見られた(図2C)。本発明者らは、これらの細胞がLacZを発現することを確かめるために、胚の血液を直接染色した。
【0100】
MB70、MB72又はMB73を有するマウスは、卵黄嚢の始原エリスロイド初期赤血球細胞中で、そして16.5dpcの胎児肝中でも、LacZを発現した。MB70及びMB73についてトランスジェニックなマウスは、成体組織中でLacZを発現しなかった。対照的に、プロモーターの上流において負の調節エレメントがないと、MB72トランスジェニックマウスも、成体エリスロイド細胞においてLacZを発現した。
【0101】
それゆえ、MB72は、成体動物での貧血又は赤血球増加症の薬学的な誘導を研究するために使用できる。これらのマウスは、成体での他の遺伝子の過剰発現又はノックアウトの赤血球生成に対する影響を評価するために、他のトランスジェニック又はノックアウトマウスと交配することもできる。(適当な突然変異を有する他のマウスと交配した後)これらのマウスを用いて研究することができる疾患の例は、鎌状赤血球貧血及びサラセミア(例えば、Skow,L.C.ら、Cell、34巻、1043〜1052頁(1983年);Ciavatta,D.J.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、92巻、9259〜9263頁(1995年))を包含する。
【0102】
卵黄嚢での発現に関して、始原エリスロイド細胞は、MB92マウスにおいては、他の3種の構築物のいずれかを有するマウスについて検出されたと同様に、LacZ−陽性であった。
【0103】
実施例2:始原胚の中胚葉は自ら造血及び血管生成をすることができないことの証明;胚外植片培養物はこれらの培養物の中で造血及び血管生成を刺激する因子を同定するために使用される。
【0104】
ヒト胚性β−グロビン上流調節配列のうちの1つに連結されたLacZレポーターについてトランスジェニックなマウス(図1)を、ホモ接合性を有するように交配した。これらの動物は、導入遺伝子が始原エリスロイド細胞にのみ発現される、マークされた胚の起源として役立つ(図2)。
【0105】
(A)内臓内胚葉は、始原造血に必要とされる。
胚外植片培養物:実施例1のトランスジェニックマウスに由来する胚を、造血中胚葉の形成の前に、原腸形成の開始付近の6.25〜6.5dpcで単離し、8ウェル(well)のスライドのチャンバー(コスター(Costar))又は24ウェルプレートのウェル(コスター)で個別に、又は、テラサキ(Terasaki)プレート(ヌンク(Nunc))の個々のウェル又は4ウェルプレートのウェルで、48〜72時間、それぞれ維持した。次に、胚を固定し、標準的な技法(Wasserman、P.M.及びMelvin L.DePamphilis編、Guide to Techniques in Mouse Development、Vol.225、461〜463頁、1993年)を使用して、XGalで染色し、始原赤芽球の生成を監視した。全胚を、LacZ−陽性血島用の血清を含む培地又は化学的に定義された培地(CDM)のいずれかで培養した。CDMは、ペニシリン(1,000U/ml)、ストレプトマイシン(1,000μg/ml)、及びヘペス(Hepes)pH7.4(20mM)を添加した以外は、(Johansson及びWiles、1995年)により使用されたのと同様であった。
【0106】
胚盤葉上層からの内臓内胚葉の分離:
前ストリーク(streak)から早期ストリークの胚を、トリプシン/パンクレアチン(15秒〜2分)を使用し、標準的な技術(Hoganら、1994年)を使用して、外胚葉(胚盤葉上層)及び内臓内胚葉成分に酵素的に分離した(Farrington、S.M.ら、Mechanisms of Development、Vol.62、197〜211頁(1997年))。この操作の間、組織のクロス・コンタミネーションは、無視してよいことがわかった(Farringtonら、1997年)。胚盤葉上層又は全胚をそれぞれ培養した。図2aは、胚盤胞の内部細胞塊の派生物である胚盤葉上層を表し、胚盤胞からES細胞が派生する。
【0107】
内臓内胚葉は、中胚葉中における始原造血のために必要とされる。
(a)LacZ−陽性血島は、全胚培養物中に容易に検出されたが、胚盤葉上層培養物中では、化学的に定義された培地(CDM)又は30%の熱不活性化された(56℃、30分)胎児ウシ仔ウシ血清(ハイクローン(Hyclone))を含むダルベッコ(Dulbecco)改変イーグルス(Eagle’s)培地(ギブコービー・アール・エル(GIBCO−BRL))のいずれでも、LacZ染色はほとんど又は全く観察されなかった。これらの結果は、中胚葉は、自ら胚での造血を行うことはできず、内臓内胚葉と接触すること又は内臓内胚葉から放出されるシグナルを必要とすることを示す。これに対し、より後の(6.75〜7.5dpc)胚から採取される胚盤葉上層は、培養48時間後に血島を形成するが、これは、おそらく、この段階に存在する中胚葉細胞が、すでに内臓内胚葉に由来するシグナルを受信しているためである。
【0108】
(b)再構築実験:胚盤葉上層をコラーゲンゲル中で内臓内胚葉と再構築させた(ラット尾コラーゲン・タイプI、コラボレーティブ・バイオメディカル・プロダクツ(Collaborative Biomedical Products))。コラーゲンは、製造者の指示にしたがって調製した。10μlのコラーゲンの滴をプラスチックの表面に凝固させ、次に組織をウオッチメーカーズ(watchmaker’s)ピンセットを使用して作った小さい窪みに並べ、次に1μlのコラーゲンで覆い、その場に保持した。あるいは、組織を5μlのコラーゲンの滴の中に丁寧に放出させ、物理的接触を可能にするように並べ、次にコラーゲンを凝固させた。10分後、外植片培養培地(30%FBS(56℃、30分間で熱不活性化されたもの)、2mMグルタミン、10mMヘペス(Hepes)pH7.4、68μM α−メチルチオグリセロール、ペニシリン(1,000U/ml)及びストレプトマイシン(1,000μg/ml)を添加したDME)を、ウェル(24ウェルプレートには0.5ml、より小さいウェルにはより少ない量)に添加した。胚断片は、引き伸ばされたパスツール・ピペットを使用して操作した。全ての培養物を、37℃及び5%COで維持した。培地は、1日後に交換した。Chomezynski、P.ら、Anal.Biochem.、Vol.162、156〜159頁(1987))の小規模法を使用して、3日後にRNAを収穫し、RT−PCR(Farringtonら、1997年)により胚グロビン遺伝子発現を分析した。これらの実験により、胚盤葉上層が内臓内胚葉で再構築された場合にグロビン遺伝子発現の活性化を示すことが明らかとなり、したがって、原腸形成の間、造血誘導中に内臓内胚葉が必要とされることが確立された(図7、図8−1)。
【0109】
(c)内臓内胚葉細胞中での拡散性因子による始原赤血球生成の活性化:END−2(Mummeryら、Dev.Biol.109(1985)、402〜410)−内臓内胚葉に由来する細胞系(セルライン)を、15%胎児ウシ血清(FBS)を含むDME中で集密的(コンフルエンス)になるまで増殖させた。細胞をトリプシン処理し、30%FBSを含む5mlのDME(DME−30)中に再度懸濁し、137Cs源を使用してγ線照射(6000rad)した。細胞をピペッティングして塊を壊し、次に、10cmの皿に、追加の15mlのDME−30を添加した。細胞に、3日間37℃(5%)COで培地を馴化させた。培地を収穫し、残りの細胞を、10分間1500rpmで遠心分離して除去し、次に、上清を、0.2mmフィルターを使用して滅菌した。得られる馴化(コンディションド)培地(CM)を、小分して−80℃で貯蔵した。
【0110】
胚盤葉上層を、CMあり(+)又はなし(−)でインキュベートした。CMなしで培養した胚盤葉上層のほとんどは、始原赤血球生成のマーカー(ε−グロビン遺伝子)を活性化しなかったが、CMの存在下で培養された胚盤葉上層のほとんどは、この遺伝子を活性化した。これらの結果は、細胞−細胞接触は、内臓内胚葉による赤血球生成の刺激には必須ではないが、その効果は、1つ以上の拡散性因子によって媒介されることを示す。図10中のアスタリスクは、人為的な増幅産物を示す。
【0111】
これらの結果は、非処理の全胚について、6/6がグロビンを産生したことを示す。これに対し、8つの非処理の胚盤葉上層のうち、1つのみが検出可能な発現を示した。コンディションド培地を添加した場合、8/10の胚盤葉上層培養物がグロビンを発現した。
【0112】
マウス発生の間で初めて造血が生じる時の決定
インサイチュハイブリダイゼーション及び組織学:
BM パープル(Purple)(ベーリンガー・マンハイム(Boehringer Mannheim))を、アルカリ性フォスファターゼ検出の基質として使用して、Wilkinson及びNieto(1993年)中のようにホールマウント・インサイチュ・ハイブリダイゼーションを実施した。使用するプローブは、マウスε−グロビンプローブである。ジゴキシゲニン標識されたリボプローブを、標準的な方法(Wilkinson及びGreen、Postimplantation Mouse Embryos:A Practical Approach.Ed.A.Copp.Oxford:IRL Press、1990年)を使用して、SP73mεRBと表されるEcoRIで線状化したDNAテンプレート(鋳型)のT7ポリメラーゼ転写により調製した。SP73mεRBは、マウスε−グロビン遺伝子(Baron及びManiatis、1986年)の+187〜+439のEcoRI−BamHIフラグメントの連結により生成された。このフラグメントは、この遺伝子の第一のイントロンの小さい領域及び第二のエキソンのほとんどを含む。全胚についての、野生型マウスにおいて造血を検出することのできる時間を決定するためのインサイチュハイブリダイゼーションの結果を、図5に示す。
【0113】
造血誘導を測定するために、マルチプレックス(multiplex)RT−PCR技法を使用した。これは、マルチプレックスRT−PCR法が、造血誘導に関してXGal染色よりもより感度が高く、定量的なアッセイだからである。これは、また、組織中に発現する種々の遺伝子の分析が可能であるため、XGal染色よりも用途が広い。この技術のための出発物質は、RNAである。オリゴヌクレオチドプライマーを調製した。プライマーの例を、表1に示す。総RNAを、1つの胚の組織(6.25〜6.5dpcの試料)からのグアニジン−酸−フェノール抽出(Chomczynskiら(1987年))により調製した。
【0114】
総RNAを、オリゴ(dT)プライマー(Sambrookら、1989年)を使用して、標準的な方法で、AMV逆転写酵素(ライフ・サイエンス・インク(Life Sciences,Inc.))で逆転写した。マルチプレックスPCRは、5pmolのβ−アクチンプライマー(内部標準物質として)、10〜45pmolのテスト遺伝子プライマー、及び、ポリアクリルアミドゲル電気泳動の後のオートラジオグラフィーによる、増幅された産物の検出が可能であるように、痕跡量の[α−32P]−dCTPを含む15μlの反応液中で行った。PCRに使用したプライマーを、表1に記載する。注入したcDNAの量は、β−アクチンの発現について標準化した。サイクル数及び不飽和増幅を生じるプライマー及びテンプレートcDNAの量は、各場合において経験的に決定した。
【0115】
胚性β様グロビン(ε)遺伝子発現は、6.5dpcの胚盤葉上層、又は、6.25〜6.5dpcで単離された全胚では検出されなかった。培養72時間後、ε−グロビン遺伝子は、全胚中で活性化されたが、単離された胚盤葉上層中には、ほとんど又は全くε−グロビン転写物は検出されなかった(図7及び図8)。これは、胚での造血は、中胚葉自律的ではないこと、及び、胚性グロビン遺伝子発現の誘導は、内臓内胚葉の存在下で生じることを示した。この効果は、胚性グロビン遺伝子発現の誘導のための内臓内胚葉に対する要求と一致する(観察された効果は、発達がより進んだ段階で胚が収穫された時の単離された胚盤葉上層が、低量のグロビン遺伝子発現をもたらし得る、同腹での胚の発生中の変動によってもたらされる、ランダムな事象の予想された効果とは、容易に区別することができた)。
【0116】
(B)後段階の原腸形成胚から得られた胚盤葉上層の前部部分の血液形成
個々の後段階原腸形成胚(約6.75dcp)を収穫し、取り囲む内臓内胚葉を除去した。この段階で、胚盤葉上層はすでに内臓内胚葉シグナルを受信しており、血液を生成する能力を発達させている。しかし、この能力は、この時点では、この胚盤葉上層の後部領域に局在しているように思われる。本発明者らは、ここにおいて、前部部分が、胚体外の内臓内胚葉への依存性を保持することを示している。内臓内胚葉は、Farringtonら(1997年)により記載されたように酵素的に除去し、胚体外の外胚葉を切除した。胚盤葉上層(胚外胚葉)を前部部分及び後部部分に横に切開し、3日間別々にインキュベートした。後部方部分を、Downsら、Development、Vol.118(1993年)1255〜1266頁に記載されているように、始原ストリーク(後部の胚盤葉上層)のような形態学上の目標に基づいて同定した(図15)。結果を図5及び図16−1、図16−2、図16−3、及び図16−4に示し、以下に議論する。
【0117】
(i)後段階の原腸形成の間、胚の後部部分は、内臓内胚葉が存在しなくても、血液を形成することが可能であるが、前部部分では不可能である。
【0118】
上述のようにRT−PCRを使用して、胚の前部部分では、ほとんど又は全くε−グロビン発現が観察されず、又、血液の発達も組織学的に観察されなかった。これに対し、後部部分は、内臓内胚葉が存在しなくても、インタクトな胚に匹敵する濃度(対照として示されている)で血液を形成した。対照は、(i)cDNAテンプレートの不存在下で実施したPCR反応(−c−DNA)、(ii)逆転写酵素なしで逆転写カクテルを使用して行ったRNAインキュベーション(ant(−RT)、post(−RT)、Farringtonら、1997年)を含んでいた。この実験では、アクチンを18サイクルで増幅し、グロビンを23サイクルで増幅した。
【0119】
(ii)内臓内胚葉からのシグナルは、原腸形成の後段階での胚の後部部分に血液を形成する能力を回復させることができる。
(a) 後段階の始原ストリーク段階の胚盤葉上層の4つの前部部分及び4つの後部部分を、各々、内臓内胚葉不存在下で培養した。図2Aの実験において観察されたように、これらの原腸形成後段階の胚の後部部分は血液を形成することができたが、前部部分は形成できなかった。これに対し、胚盤葉上層の前部部分を、内臓内胚葉と共にコラーゲンの滴中で培養すると、4試料中2つで血液形成が再構成された(図中「recombs」と記されている)。この実験では、アクチンを21サイクルで増幅し、グロビンを26サイクルで増幅した。
【0120】
(b)本発明者らは、以下のようにして、中胚葉による血液形成が内臓内胚葉からのシグナルを必要とすることを決定した:トランスジェニック(Tg)胚外胚葉(胚盤葉上層)を、その内臓内胚葉(VE)を剥ぎ取り、コラーゲンの滴中で非トランスジェニックVEと再構築した。これらの実験では、造血細胞の可能性のある唯一の起源は、トランスジェニック胚盤葉上層であり、非TgVEではない。組織を3〜4日培養し、次にXGALで染色してlacZ発現の領域を同定した。これらの実験は、血液の形成がVE組織の存在下で再構成されることを示す。さらに、VE組織の近辺の領域に血球細胞が局在することは、直接細胞一細胞接触が必要とされるか、又は、拡散性分子による短い範囲のシグナル伝達が関与することを示唆した(図8−1)。
【0121】
(c)本発明者らは、以下のように、内臓内胚葉は胚盤葉上層の胚外胚葉の前部が造血及び血管内皮マーカーの両方を発現するようにリプログラムできることを決定した:胚盤葉上層の前部部分を、内臓内胚葉と共に再構築し、図16−2に示される造血マーカー(ε−グロビン、GATA−1、CD−34)及び図16−3に示される内皮マーカー(PECAM−1、flk−1及びVezf−1)の両方の活性化を得た。これらのマーカーは、中期〜後段階の原腸形成で単離された、培養された胚盤葉上層の後部部分中(図16−2、後部のレーン6〜10、及び図16−3、後部のレーン6〜10)、及び培養された全胚中(emb+cx)で強度に発現された。同じ発生段階の内臓内胚葉のみ(図16−2、前部レーン6〜10;図16−4、前部レーン6〜10)又は非培養全胚(図16−2、emb(−cx);図16−3、emb(−cx))では、これらのマーカーの発現はほとんど又は全くなかった。これらの実験は、造血及び血管組織が両方とも、内臓内胚葉シグナルにより誘導され、シグナルが有用であることを示した。特異性の対照として、心臓組織中で(及び、したがって、より後の発生段階でのみ、7〜8dpcあたりに)発現されると予期される心ミオシン(Lyonsら、1990年)は、胚盤葉上層の前部又は後部部分中、又は培養中の初めの3日間の再構築物中(図16−2、レーン3〜17)には検出されないが、10.5dpcの胚対照で検出された(図16−2、図16−3)。Verf−1(5')及び(3')プライマーは、約700bpの産物を生成した。Verf−1は、db−1と呼ばれるヒトタンパク質と相同性を有するジンクフィンガータンパク質であり、発生中の血管構造中で発現される。これは、胚盤葉上層の後部部分及び再構築胚盤葉上層で主に生じるが、胚盤葉上層の前部部分では生じないことが示された(図16−3)。
【式1】
【0122】

【0123】
(C)約3.25〜3.5dpcで単離された胚盤胞は、未分化中胚葉細胞の造血及び血管生成を刺激することのできる化合物をスクリーニングするためのモデル系を提供する
【0124】
胚盤胞培養物を調製し、未分化中胚葉に由来する細胞を、造血及び血管生成を経験するように刺激することに対する化合物の効果を分析するために使用した。本明細書に記載されている胚盤胞培養系は、例えば卵黄嚢のような通常インビボで着床後に形成される胚構造の発生をインビトロで追跡するために適するものである。外部から添加された成長因子又は発生に関するシグナル分子の効果は、定義された条件の下で本明細書において分析される。胚盤胞は、野生型のマウス、トランスジェニックマウス又はノックアウトマウスから得ることができる。ノックアウトマウスの胚での造血を、ヘテロ接合性動物の交配により得られたヌル突然変異胚盤胞を使用して研究した。これらのヌル突然変異胚盤胞は、より優れた単離の容易性から、インビトロの分化実験(Keller、Current Opin.Cell Biol.、7(1995年)862〜69頁)で使用されるヌル突然変異胚性幹(ES)細胞よりも好ましい。
【0125】
胚盤胞のアッセイは、約4.5dpcで母親の子宮内へ胚が着床する前に、マウスから胚を回収することによる。ここでは、胚盤胞は、(a)実施例1にしたがって調製し、LacZ染色により分析する、ε−グロビン/LacZトランスジェニックマウス、及び(b)個々の胚盤胞を、多様な遺伝子の発現について、RT−PCRにより分子レベルで分析する、非トランスジェニックマウス又はノックアウトマウスから得た。
【0126】
Robertsonにより、Teratocarcinomas and Embryonic Stem Cells:A Practical Approach.Oxford:IRL Press,1993年に記載されているように、3.25〜3.5dpcで胚盤胞を収穫した。本発明者らは、いくつかの異なるマウス株からの胚盤胞の培養に成功した。この実施例では、CD−1マウスを使用した。培養方法は、Chen及びHsu(Chenら、Exp.Hemat.,7(1979年)231〜44頁)の方法に基づいた。しかし、過剰排卵のメスは使用しなかった。収穫の後、胚盤胞を、鉱油の下、滴(ドロップ)培養物中で2〜3回連続した移動(Robertson、471〜478頁、IRLPress、1987)により、夾雑する母体の血液細胞がないように洗浄し、未処理の35mmのプラスチック組織培養皿又は24ウェル皿のウェルへ移した。胚盤胞は、プラスチックに接着し、再編成され、成長した。胚盤胞を、個々に(24ウェル皿のウェル中)又は20までの群で(35mmのプレート又は24ウェル皿で)、CMRL−10培地で初めの48時間、及び次にCMRL−20で10日まで37℃及び5%COで培養した。CMRL−10は、10%の熱不活性化された胎児ウシ血清、ペニシリン(2,000U/ml)、ストレプトマイシン(2,000μg/ml)、2mMグルタミン、1mMピルビン酸、0.1mM非必須アミノ酸(ギブコ−ビー・アール・エル(GIBCO−BRL))、及び10-4Mのβ−メルカプトエタノールを含む、CMRL1066培地(ギブコ−ビー・アール・エル)であった。嚢様構造は、初めに培養7日あたりに見られ、9〜10日後では、それらは肉眼で容易に見られる程度に大きくなった(直径0.5〜2mm)。これらの嚢様構造(本明細書において「ブラストサックス(blastosacs)」という)は、初期のマウス卵黄嚢によく似ていた。
【0127】
トランスジェニック・ブラストサックスを、標準的な方法(Wassarman及びDePamphilis、1993年)により、LacZ発現についてインサイチュで染色した。RT−PCRによる分析のため、個々のブラストサックスを、P200ピペットマンを使用してエッペンドルフ・チューブに移し、10分間4℃で微量遠心(microfuged)した。培地を吸引し、RNAを組織のペレットから単離した(Chomczynskiら、1987年)。一部(25μlのうち5〜8μl)のRNAをcDNAの合成に使用した(Farringtonら、1997年、本明細書に援用する)。0.5〜2μlのRNAを、記載のとおり(Farringtonら、1997年)に50μl中でPCRにより増幅した。図4では、試料を35サイクルの増幅に供し、次に、10μlの反応混合物を、臭化エチジウムを含む2%アガロースゲルを通して電気泳動することにより分析した。
【0128】
アクチン及びマウスGATA−1 PCRプライマーは、既に記載されている(Baronら、Molecular and Cellular Biology,vol.14、(1994年)、3108〜3114頁)。全ての他のプライマーは、55℃のアニーリング温度で使用した。プライマーの大きさは、マウスε−グロビン、487bp;マウスNF−E2、257bP;マウスEKLF、129bp;PTH/PTHrPレセプター、279bp;PTHrP、421bpであった。プライマーの配列は、
【式2】
【0129】

【0130】
ヘモグロビン化された組織は、これらの「ブラストサックス」中で、ベンジジンでの染色の後に同定された(図3b)。ベンジジン染色は、エリスロイド細胞中のヘモグロビンの存在に対応する。これは、トランスジェニックマウスに由来する胚の分析により確認された。これらのマウスでは、LacZ発現は、始原赤芽球でのみ観察されたが、他の胚の細胞タイプでは観察されなかった。トランスジェニック胚盤胞を、9日間培養し、次にX−Galで染色した。図3Cからわかるように、発生中のブラストサックス中に生成されたエリスロイド細胞は、染色後にその青色により容易に明らかにされる。野生型のブラストサックス及びトランスジェニック・マーカー株に由来するブラストサックスの両方とも、血管溝(チャンネル)を含むように見え、非常に発達した血管構造を有する後期の卵黄嚢(図2と比較のこと)よりも初期胚卵黄嚢(図3D)に似ている。上記の培養方法は、40〜80%の効率でブラストサックスを提供した。
【0131】
RT−PCRを、発生中のブラストサックス中の中胚葉及び内胚葉マーカーの時間的な発現のパターン、及び、異なる細胞タイプの形成に対する他の成長因子及び細胞外マトリックス成分の影響を同定するために使用した。図4Aに示すように、胚性グロビンは、卵黄嚢様構造が形成された時にのみ生成されるが、栄養外胚葉細胞の不定形な盛り上がりを越えて、胚盤胞がその発生を進行しない場合には生成されない。
【0132】
ヌル突然変異体胚を、遺伝子ターゲッティングによりマウス生殖細胞系へ導入された突然変異の、造血及び血管生成への影響を決定するために分析した。胚盤胞培養物を、ホモ接合性のヌル突然変異体の子孫を生じるように交配したヘテロ接合性Bmp−4ノックアウト・マウス(Winnier,G.ら、Genes&Development、Vol.9、2105〜2116頁(1995年))から3.5dpcで収穫した。胚盤胞を、種々の期間(例えば、9日間)培養中でインキュベートし、その後、個々のブラストサックスを、栄養外胚葉組織を残してRT−PCR分析のために培地プレートから除去した。胚盤胞が由来するトランスジェニックマウスがホモ接合性であることを確立するために、この組織を、ジェノタイピング(遺伝子型決定)するために使用した。ホールマウント・インサイチュ・ハイブリダイゼーション及び免疫組織化学もまた、エリスロイド細胞又は内皮での深刻な欠損を引き起こす突然変異についての仮定の変異体を同定するために使用した。
【0133】
ヌル突然変異体「組織胚様体」
組織胚様体は、適当な培養条件下で血島を形成するES細胞に由来する構造である(Keller(1995年))。本発明者らは、組織胚様体を使用して、Bmp−4のようなヌル突然変異体の組織胚様体が、ほとんど又は全く血液を形成しないこと、及びこの欠損は、外因性の組換えタンパク質(BMP−4)を添加することによって更正できることを示すためのアッセイ系を開発した。この実験に使用するES細胞は、TL−1サブラインに由来した。しかし、以下に記載するこのアッセイの条件は、他のES細胞サブラインの多くにも有効である。これらは、また、細胞がフィーダー非依存性について選択されていても、又はフィーダー細胞上で維持されていても(Joyner(1995年)Gene Targeting:A Practical Approach.(New York:IRL Press))、有効であり、選択された遺伝子中の突然変異は、非変異遺伝子により発現された遺伝子産物と機能的に同等である化合物の添加により更正された。
【0134】
Bmp−4遺伝子の両方の対立遺伝子にヌル突然変異を有するES細胞を、標準的な技術(Joyner(1995年)gene Targeting:A Practical Approach.(New York:IRL Press);Keller、Current Opin.Cell Biol.7、(1995年)862〜869頁;Orkin、Current Opin.Cell Biol.7(1995年)870〜877頁;Mortensen、Molec.Cell Biol.12(1995年)2391〜2395頁))を使用して形成した。これらの細胞は、約2.5×10の細胞数で、5mlのIMDM/15%血清(血漿由来の血清又はPDSと胎児ウシ血清の1:1混合物のいずれか)を含む6cmの細菌用皿上にプレート培養した。多くの文献(例えば、Keller(1995年))では、成長因子の異なるカクテルが必須であると主張しているにもかかわらず、エリスロポエチン又はIL−3のような外因性の成長因子の添加は、ここでは必要であるとは思われなかった。24時間後、ES細胞は、集塊を形成し、そして、これらを、同じ培地中に丁寧に再懸濁し、10%血清を含むIMDM中0.8%メチルセルロースに、BMP−4(ジェネティクス・インスティテュート(Genetics Institute)からの組換えヒト、2ng/ml)あり又はなしで、プレート培養した。図17(A)及び(C)は、低い(A)及び高い(C)拡大倍率での野生型(親の)TL−I細胞を示す。野生型のES細胞に由来する組織胚様体の87%は、10日後にヘモグロビン化された(図の上方の表を参照のこと)。これに対し、ヌル突然変異ES細胞(B)に由来する組織胚様体の4%のみしかヘモグロビン化されなかった。BMP−4を培養物に添加すると(D)、組織胚様体の数が約59%に増加した。これらの結果から、上述の胚性β−グロビンについての半定量的RT−PCRアッセイを使用することを確認した。これらの結果は、造血の阻害は、Bmp−4遺伝子の突然変異の結果として生じうること、及びこの欠損は、外因性のBMP−4タンパク質を添加することにより回復できることを示す。
【0135】
実施例3:胚の体外組織中に発現される遺伝子産物と機能的に同等である化合物(ハッジホグタンパク質により例示される)は、未分化の中胚葉細胞(胚盤葉上層中胚葉により例示される)の造血及び血管生成を刺激する。
【0136】
(a)ソニック・ヘッジホグ(Sonic hedgehog)を典型的とする、ヘッジホグタンパク質が、実施例2(A)の方法を使用して胚盤葉上層内胚葉での造血を刺激することを証明した(図9)。20mMトリス−HCl、pH7.6、250mMNaCl、5%グリセロール、及び1mM DTT中の細菌により発現されたアミノ末端SHHタンパク質(Bumcrotら、1995年)を、10mg/ml胎児ウシ血清アルブミン(ステム・セル・テクノロジー(Stem Cells Technology))中で1μg/μlになるよう希釈した。SHHタンパク質を、種々の濃度(0.25μg/ml〜5μg/ml)で外植片培養培地へ添加した。1日後に培地を交換し、RNA(Chomczynski及びSacchi、1987年)をRT−PCR分析のために単離した。図9は、SHHタンパク質が、濃度依存的に内臓内胚葉の代替物となることができることを示す。
【0137】
(b)胚の胚体外組織で発現される遺伝子産物と機能的に同等である化合物(ヘッジホグ化合物により例示される)は、未分化の中胚葉細胞(成体骨髄細胞により例示される)の造血及び血管生成を刺激する。
【0138】
組換えヘッジホグタンパク質が成体造血幹細胞又は前駆細胞の発生又は分化に影響するかどうかを決定するために、本発明者らは、インビトロでのクローナルアッセイを実施した。マウス骨髄細胞から単離された単核球を以下のようにメチルセルロース中でプレート培養した。
【0139】
骨髄造血前駆細胞アッセイ:
骨髄を、標準的な方法(Lord、in Haemopoiesis:A Practical Approach、1〜53頁、Testa及びMolineux編、1993年出版、Oxford University Press)で5〜6週齢の2〜3匹のメスICRマウスの大腿骨及び脛骨から洗い出し、2%胎児ウシ血清(ハイクローン(hyClone))を含むα−培地(ギブコ・ビー・アール・エル)5mlへ移した。プールされた試料からの単核球を、フィコール(Ficoll、アキュレート・ケミカル社(Accurate Chemical Co.))のクッション上で遠心することにより単離し(Testa及びMolineux、1993年)、コールター・カウンターを使用して細胞数を決定した。細胞を、イスコブス改変ダルベッコス培地(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium)(IMDM)中に3×10/mlで再懸濁し、胎児ウシ血清(10%)、脱イオン化仔ウシ血清アルブミン(細胞培養等級のBSA、1%)、2−メルカプトエタノール(1×10M)及び指示された成長因子及び組換えヘッジホグタンパク質を含むIMDM中のメチルセルロース(フィッシャー・サイエンティフィック(Fisher Scientific)、1.2%)の混合物中にプレート培養した。組換えヒトエリスロポエチン(Epo)は、アムジェン(Amgen)から入手し、40U/mlで使用した。組換えインターロイキン−3(IL−3)及び顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)は、各々50U/mlで使用した。メチルセルロース−単核球混合物の一部(0.3ml)を、各々、2つの4ウェル皿(ヌンク)のうち、3つのウェルにプレート培養し、各々の成長条件を試験した。各皿の4番目のウェルは、湿度を維持するために、dHOを含んでいた。培養物を、5%CO中37℃で、約2週間インキュベーションし、示された日でのコロニー数を記録した。コロニーは、CFU−E、BFU−E、骨髄(ミエロイド)、又は混合として記録した。培養物中に含まれる場合、組換えヘッジホグタンパク質は、1〜5μg/mlの間の濃度で添加した。緩衝液のみ(5mMリン酸ナトリウム、pH5.5、150mM NaCl、0.5mM DTT)を陽性対照としていくつかの培養物に添加した。各々の培養条件について、データは、2つのプレートの各々の、3つのウェル(総計6つのウェル)のカウント+/−標準偏差から編集した。
【0140】
骨髄から単離された単核球を、造血成長因子のみ(エリスロポエチンのみ、又はGM−CSF+IL−3、又はEpo+GM−CSF+IL−3の組み合わせ)を含むか、又は、SHHのヒスチジン・タッグ標識されたアミノ末端ペプチド(SHH−HIS)、SHHのアミノ末端ペプチド(SHH−N)、又はIHHのヒスチジン・タッグ標識されたアミノ末端ペプチドを補充されたメチルセルロースにプレート培養した。成長因子のみ又は成長因子に加えて緩衝液を含む培養物を、陰性対照として使用した。
【0141】
3つの独立した実験において、全てのタイプ(エリスロイド:CFU−E:BFU−E;ミエロイド:CFU−GM)のコロニーの数は、濃度依存的(組換えヘッジホグタンパク質を1、2.5、5μg/ml、Xugで添加した)に−1.5〜4倍以上に増加した。ヘッジホグタンパク質が、エリスロイド対ミエロイド系列に対して見かけ上選択的でないという観察は、それらが幹又は初期前駆細胞の発達を刺激するという仮説と一致する。3つのヘッジホグタンパク質は、全てコロニーの形成を刺激した。これらのデータから、本発明者らは、SHH及びIHHは両方とも、1つ以上の造血成長因子が存在しようとも、インビトロで造血幹/前駆細胞の増殖、分化、及び/又は生存を促進すると結論づける。
【表1】

【表2】

【0142】
胚体外組織中で発現される遺伝子産物と機能的に同等である化合物の未分化中胚葉細胞に対する効果を測定するための他の試み:
多型潜在性及び骨髄再集合性細胞のためのインビボCFU−S脾臓コロニーアッセイを、造血幹/前駆細胞源をマウスに注射することにより実施した。8〜10日後に脾臓に形成された肉眼で見えるコロニーは、幹/前駆細胞の存在を反映した(Testa及びMolineux、1993年)。上記のようなインビトロ前駆細胞アッセイの場合と同様、コロニーの成熟度は、コロニーが発達するのにかかった時間を反映し、後に現われるコロニーがより始原的な前駆細胞を表すのに対し、早期に現われるコロニーは、より成熟した前駆細胞を表した。
【0143】
別の実験では、マウス及びヒト造血組織に由来する幹/前駆細胞集団を、フローサイトメトリー(蛍光活性化細胞分析分離、FACS)、又は磁性免疫選択(Testa及びMolineux、1993年)により濃縮し、その発達を、ヘッジホグタンパク質の存在下で促進した。これらの得られる集団は、CFU−Sアッセイ(脾臓コロニー形成単位)及び長期骨髄培養を含むインビボアッセイを使用して試験される。典型的な骨髄培養物は、競合的再集合アッセイ及び連続的骨髄移植研究(Morrisonら、1995年a;Morrisonら、1995年b)を含む。
【0144】
実施例4:SHH阻止抗体を使用した培養された全胚での初期造血の阻害
2匹の同腹のマウスに由来する全胚を約6.5dpcで分離し、外因性IgGの非存在下(なし)又は精製IgG(Ericsonら、Cell 87(1996年)661〜73頁)(46μg/ml)の存在下でそれぞれ培養した。胚性ε−グロビンの発現を、半定量的RT−PCR法により測定した。結果を図11に示す。アスタリスクは、人工的に増幅された産物を示す。実験3から予測されるように、ε−グロビンの発現は、SHH阻止抗体の存在下で、実質的に減少した。
【0145】
実施例5:細胞レセプターpatched及びGliは、造血及び血管生成を刺激する標的である。
【0146】
実施例2(b)の方法を使用して、本発明者らは、patched及びGliの遺伝子発現が、実質的に卵黄嚢中胚葉において限定されていることを示した(図6)。卵黄嚢中胚葉中でのGli及びpatchedの豊富な発現は、ヘッジホグシグナルの標的として中胚葉を指す。10.5〜12.5dpc胚からの卵黄嚢を、内胚葉(e)及び中胚葉(m)画分に分離し、RNAを、Farringtoら(1997年)により記載されたように調製した。RT−PCR分析は、以下のプライマーを使用して上記実施例3に記載されたように実施した。
【式3】
【0147】

【0148】
Gli及びptc(patched)については、55℃のアニーリング温度及び23サイクルを、アクチンについては16サイクルを使用した(内部対照としてアクチンを使用した)。増幅産物は、252bp(Gli)及び453bp(patched)であった。Gli及びpatchedの両方の発現は、卵黄嚢の中胚葉画分に実質的に限定されていることがわかった。
【0149】
実施例6:
造血(及び血管生成)に対するTGF−βタンパク質とのヘッジホグタンパク質の相乗的な効果
上記の実施例3(A)の方法を使用し、本発明者らは、RT−PCRを使用して、インディアン・ヘッジホグ及びBMP−6の両方が、早期の内臓内胚葉に発現されることを示した。全胚(6.5dpc)、胚盤葉上層、胚盤葉上層とヘッジホグタンパク質、胚盤葉上層とBMP−6タンパク質、及び胚盤葉上層とヘッジホグタンパク質とBMP−6を、72時間のインキュベーションの後にε−グロビン発現の活性化の程度を決定するために試験する。実験は、BMP−2、BMP−4、及びBMP−7について繰り返される。本発明者らは、ヘッジホグ及びBMP−4の両方が存在すると、いずれかのみのときに比べて強化された効果が観察されることを予期する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未分化の中胚葉由来細胞の集団を、造血及び血管生成の少なくとも一方を経験するように刺激する方法であって、以下の工程:(a)胚の胚体外組織において発現される遺伝子産物と機能的に同等の化合物を選択する工程;及び(b)上記細胞が造血及び血管生成の少なくとも一方を経験するように、上記細胞への上記化合物の接近を引き起こす工程を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図7−1】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16−1】
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【図16−2】
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【図16−3】
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【図17】
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【公開番号】特開2009−261956(P2009−261956A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−136272(P2009−136272)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【分割の表示】特願平10−535042の分割
【原出願日】平成10年2月10日(1998.2.10)
【出願人】(504000410)プレジデント アンド フェローズ オブ ハーバード カレッジ (10)
【Fターム(参考)】