説明

連々続鋳造方法

【課題】連々続鋳造の境界部で吸窒を発生させない。
【解決手段】連々続鋳造において、予めタンディッシュ1内の溶鋼重量を監視してタンディッシュ1内の溶鋼湯面への注入管4の下端の浸漬状況を把握しておく。溶鋼供給中の取鍋3からの溶鋼供給の停止後、タンディッシュ1内の溶鋼が、タンディッシュ1内の空間容積とArガスでの置換速度から求められる置換時間を確保できる所定の重量になった時に、注入管4の内側および注入管の外側におけるタンディッシュ内空間A,BのN2ガス供給を停止してArガスへの置換を開始する。次回の取鍋3の溶鋼供給の開始後、タンディッシュ1内の溶鋼湯面が上昇し、注入管4の下端が該溶鋼湯面に浸漬した直後から前記空間A,BへのArガスの供給を減少しつつN2ガスへの置換を開始する。
【効果】特に窒素が高いと表面割れ等が発生しやすくなるNb含有鋼等で低N化が必要となるような鋼種を、高品質に安価に製造可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素鋼、合金鋼、ステンレス鋼など種々の鋼の連続鋳造において、品質を保持しつつコストの低減が可能な連々続鋳造方法に関するものである。
【0002】
ここで、連々続鋳造とは、複数の例えば取鍋を順次交換して、タンディッシュへの溶鋼の供給を引継ぎながら連続鋳造することを言う。
【背景技術】
【0003】
連続鋳造において、タンディッシュ内の溶鋼を空気と遮断することは重要である。空気との遮断が十分でない場合、溶鋼は空気中の酸素と反応して清浄度の悪化を招く。また、タンディッシュ内の溶鋼湯面が乱れると、溶鋼は窒素とも反応して溶鋼中の吸窒の原因となる。以上は、低硫鋼を製造する場合にさらに顕著な傾向を示す。そのため、タンディッシュ内の溶鋼は、ガスシールにより空気と遮断することが一般的に行われている。
【0004】
例えば、タンディッシュ内溶鋼の酸化、吸窒を防止する方法としては、Arガス等の不活性ガスによるシールが良く知られており、実施されている(例えば特許文献1)。しかしながら、Arガス等の不活性ガスは非常に高価であり、製造コストの悪化が問題であった。
【0005】
また、安価なN2ガスを用いることでArガスの使用量を減らして安価に製造する方法が、特許文献2に記載されている。特許文献2に記載された方法は、タンディッシュ上部より垂下する堰板を用いてタンディッシュ内を受湯部と注湯部に分け、タンディッシュ内溶鋼の安定期には、受湯部はArガスにより、注湯部はN2ガスによりシールすることで、Arガスの使用量を低減するものである。
【0006】
しかしながら、連々続鋳造において、取鍋からタンディッシュへの溶鋼の供給中にN2ガスからArガスに切り替えても、取鍋交換時における連々続鋳造の境界部では吸窒がしばしば発生し、表面割れ等の品質悪化の要因となっていた。
【0007】
これは、取鍋交換用のターレットの旋回や、シリンダー用の油圧ホースの設置や取り外し等に時間を要することによって、注入管または取鍋用ロングノズルの下端よりタンディッシュ内の溶鋼湯面が下方になった場合、連々続鋳造での境界部で新たな溶鋼が供給された時に、溶鋼注入流によるたたき込みによって発生する溶鋼湯面の外乱がタンディッシュ内の溶鋼全体に伝播し、タンディッシュ内の溶鋼湯面が変動するためと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭54−66329号公報
【特許文献2】特開昭61−49758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする問題点は、連々続鋳造時に、Arガス等の不活性ガス用いたシールを採用した場合は、Arガス等の不活性ガスが非常に高価であるため、製造コストが悪化するという点である。
【0010】
一方、タンディッシュ内を堰板により受湯部と注湯部に分け、タンディッシュ内溶鋼の安定期には、受湯部はArガスで、注湯部はN2ガスでシールする場合、取鍋交換時における連々続鋳造の境界部でしばしば吸窒が発生し、品質悪化の要因となるという点である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、安価なN2ガスを用いてArガスの使用量を減らす場合に、連々続鋳造での取鍋からタンディッシュへの溶鋼の供給中にN2ガスからArガスに切り替えても、取鍋交換時における連々続鋳造の境界部で吸窒が発生しないようにして品質を保持できる連々続鋳造方法を提供するものである。
【0012】
本発明の連々続鋳造方法は、
タンディッシュ内に溶鋼を供給中の鍋から次回の鍋に溶鋼の供給を切り替えながら行う連々続鋳造において、
予めタンディッシュ内の溶鋼重量を監視してタンディッシュ内の溶鋼湯面への注入管下端の浸漬状況を把握しておき、
溶鋼を供給中の鍋からの溶鋼供給の停止後、タンディッシュ内の溶鋼重量が、タンディッシュ内の空間容積とArガスでの置換速度から求められる置換時間を確保できる所定の重量になった時に、注入管の内側および注入管の外側におけるタンディッシュ内空間のN2ガス供給を停止してArガスへの置換を開始し、
次回の鍋の溶鋼の供給の開始後、タンディッシュ内の溶鋼湯面が上昇し、注入管下端が該溶鋼湯面に浸漬した直後から前記空間へのArガスの供給を減少しつつN2ガスへの置換を開始することを最も主要な特徴としている。
【0013】
本発明における「所定の重量」とは、予め監視しているタンディッシュ内の溶鋼湯面への注入管の下端が浸漬している状況の溶鋼重量と、タンディッシュ内の溶鋼湯面が注入管の下端と同一レベルになる重量との間で適宜設定される重量である。
【0014】
上記本発明の連々続鋳造方法では、鋼の連々続鋳造において、タンディッシュ内の空間に供給するシールドガスを、タンディッシュ内の溶鋼重量に基づいて常に適切に選択して切り替えることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、鋼の連々続鋳造において、タンディッシュ内の溶鋼重量に基づいて常に適切なタンディッシュ内のシールドガスを選択して切り替えるので、特に窒素が高いと表面割れ等が発生しやすくなるようなNb含有鋼等で低N化が必要となるような鋼種を、高品質で安価に製造することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の連々続鋳造方法を実施した場合の取鍋とタンディッシュ部の説明図である。
【図2】本発明の連々続鋳造方法におけるタンディッシュ内溶鋼重量によるシールドガス制御の一例を示した図で、(a)はタンディッシュ内における溶鋼重量の推移を時系列に示した図、(b)は本発明の連々続鋳造方法の実施時における取鍋交換時に制御するシールドガスの流量と変更手順を(a)図に対応させて示した図、(c)は従来の連々続鋳造方法の実施時における(b)図と同様の図である。
【図3】連々続鋳造時に、本発明のシール方法を実施した場合と、従来のシール方法を実施した場合の溶鋼の吸窒例を示した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明では、連々続鋳造での取鍋からタンディッシュへの溶鋼の供給中にN2ガスからArガスに切り替えても、取鍋交換時における連々続鋳造の境界部で吸窒が発生しないようにするという目的を、タンディッシュ内の溶鋼重量に基づいてシールドガスを選択して切り替えることによって実現した。
【実施例】
【0018】
以下、本発明の連々続鋳造方法を、発明成立に至るまでの考え方と共に、図1〜図3を用いて説明する。
【0019】
溶鋼内における窒素含有量の増加は、鋳込み初期や取鍋交換時の非定常部(以下、単に非定常部と言う。)で発生しやすく、連続鋳造の定常部では問題とならない。
これは、非定常部では、以下に説明する状態となっていることに起因する。
【0020】
すなわち、取鍋からタンディッシュへの溶鋼の供給(以下、給湯という。)が完了すると、給湯ノズルを閉鎖して当該取鍋を移動退避する間もタンディッシュから鋳型への給湯は継続され、次の取鍋がタンディッシュ上に移動して給湯を開始するまで減少し続ける。
【0021】
その後、次の取鍋による給湯を開始した後に、溶鋼湯面を定常鋳込みでの所定の重量に短時間で到達するよう、初期は比較的大きな流量で給湯を開始するので、タンディッシュ内の溶鋼重量が大きく変動してタンディッシュ内の溶鋼の湯面変動が発生し、十分置換されていない空気中の窒素を溶鋼が吸収する。
【0022】
連続鋳造の定常部と非定常部でシールドガスを変更するのみでは前記のように非定常部で吸窒が発生しており、発明者らは、吸窒発生部位(連々続鋳造の境界部にあたるスラブ)とタンディッシュ重量との間に相関が見られることを見出した。
【0023】
また、タンディッシュ内のガス分析を行った結果、ガスを置換するまでに時間が掛かることが分かった。
【0024】
さらに、発明者らが吸窒発生部位とタンディッシュ重量との相関を調査したところ、タンディッシュ重量が少ない場合、注入管との溶鋼湯面の位置関係も吸窒量に影響していることを見出した。
【0025】
そこで、発明者らは、通常、ロードセル等で計量されて知り得るタンディッシュ内の溶鋼重量の情報を基に、タンディッシュ内の溶鋼湯面と注入管の浸漬状況を把握した上で、該注入管の内側と外側のタンディッシュ内の空間領域を把握できることが分かった。
【0026】
本発明は、前記把握した遮断状況をもとに、それらの空間領域をシールするシールドガス種、シールドガス流量を変更することにより吸窒を防止する連々続鋳造方法を提案するものである。
【0027】
すなわち、本発明の連々続鋳造方法は、図1に示すように、タンディッシュ1内に溶鋼2を供給中の取鍋3から次の取鍋に給湯を切り替えながら行う連々続鋳造において、以下のようにしてタンディッシュ1内の溶鋼2を空気と遮断するのである。
【0028】
例えばロードセルにより予めタンディッシュ1内の溶鋼2の重量を監視してタンディッシュ1内の溶鋼湯面への注入管4の下端の浸漬状況を把握しておく。
【0029】
取鍋3からの給湯の停止後、タンディッシュ1内の溶鋼2の容積とArガスでの置換速度から求められるタンディッシュ1内の溶鋼重量が所定の重量になった時に、注入管4の内側におけるタンディッシュ1内の空間A、および注入管4の外側におけるタンディッシュ1内の空間BのN2ガス供給を停止してArガスへの置換を開始する。
【0030】
次の取鍋3の給湯を開始した後、タンディッシュ1内の溶鋼湯面が上昇し、注入管4の下端が該溶鋼湯面に浸漬した直後から、前記空間AおよびBへのArガスの供給を減少しつつN2ガスへの置換を開始する。なお、図1中の5は浸漬ノズル、6は鋳型である。
【0031】
次に本発明の連々続鋳造方法の効果を確認するために実施した結果について説明する。
炭素含有量が0.2〜0.6質量%の溶鋼を、短辺寸法が227mm、長辺寸法が950〜1250mmの湾曲型のスラブ連続鋳造機にて連続鋳造中の定常部の溶鋼重量を38tonに維持したタンディッシュを用いて連続鋳造を実施した。その際、取鍋からタンディッシュへの溶鋼注入には、注入管を使用した。
【0032】
タンディッシュ内の溶鋼重量に基づいて実施したシールドガスの制御方法の一例を図2に示す。
【0033】
図2(a)はタンディッシュ内における溶鋼重量の推移を時系列に示した図である。また、図2(b)は、本発明の連々続鋳造方法の実施時における取鍋交換時に制御するシールドガス(ArガスおよびN2ガス)の流量と変更手順(ロジック)を図2(a)に対応させて示した図である。
【0034】
また、図2(c)は従来の連々続鋳造方法の実施時における図2(b)と同様の図を示した図である。図2(c)に示すように、従来は、吸窒防止のため、取鍋による給湯が終了した後から次回の取鍋が開口するまでの間、注入管4の内側におけるタンディッシュ1内の空間A、および注入管4の外側におけるタンディッシュ1内の空間Bともに、N2ガスからArガスに全量交換していた。
【0035】
これに対して、本発明では、図2(a)に示すように、連続鋳造中の定常部でタンディッシュ内の溶鋼重量が38tonと十分な場合は、タンディッシュ内は吸窒が発生しないために、図2(b)に示すように、シールドガスは安価なN2ガスを使用する。
【0036】
定常部でのN2ガス流量は、図2(b)に示すように、注入管の内側の給湯空間領域(以下、A部という。)に30Nm3/hr、注入管の外側のタンディッシュの本体空間領域(以下、B部という。)に30Nm3/hrの流量で注入した。
【0037】
前回の取鍋から次回の取鍋に交換する際の非定常部で、前回の取鍋の給湯が完了した後、タンディッシュ内の溶鋼重量が減少する。そして、図2(a)に示すように、タンディッシュ内の溶鋼重量が32tonより少なくなると、A部及びB部をN2ガスからArガスに切替える。
【0038】
タンディッシュ内の雰囲気をN2ガスからArガスに置換を始め、さらにタンディッシュ内の溶鋼重量が低下して29tonに達し、溶鋼湯面が注入管下端よりも下方になった時点で、図2(a)に示すように、吸窒対策としてArガスの流量を設定値から全開に増加し、図2(b)に示すように、A部は全開流量の120Nm3/hrとした。また、B部は80Nm3/hrとした。
【0039】
なお、図2(b)中のArガス流量増速度は、タンディッシュ内をArガスで置換するために予めArガスに切り替えておく必要があり、そのA部、B部の容積と置換速度から決定した。
【0040】
そして、連々続鋳造開始後、すなわち次回の取鍋を開口して給湯を開始した後、図2(a)に示すように、タンディッシュ重量が増加して30tonに達し、注入管下端よりもタンディッシュ溶鋼湯面が上になった時点でArガスの流量を例えば全開から設定値まで低下させ30Nm3/hrとする。
【0041】
さらに、図2(a)に示すよううに、タンディッシュ内の溶鋼重量が33tonとなり、吸窒の可能性がなくなるタンディッシュ内の定常部の溶鋼重量38tonまで増加するとき、タンディッシュ内のシールドガスを、図2(b)に示すように、ArガスからN2ガスに変化させ30Nm3/hrとした。
【0042】
なお、図2(b)中のArガス流量減少速度は、そのA部、B部の容積と置換速度から決定し、注入管下端に接触した時点でArガスの切替えを開始し、その後注入管内の湯面が安定したところでArガスからN2ガスに変更した。
【0043】
上記のように、タンディッシュのシールドガスのArガスからN2ガスへの切替えを、タンディッシュ内溶鋼重量の変化に応じて実施することで、表面品質、特に窒素が高いと表面割れ等が発生しやすくなるようなNb含有鋼等で低N化が必要となるような鋼種を安価かつ高品質に製造することが可能となる。
【0044】
どのような溶鋼重量になった時にシールドガスの種類、流量を変更するのかは、タンディッシュ内の容積とシールドガス流量から算出したタンディッシュ内の置換時間に、溶鋼重量の減少速度または増加速度を乗算して算出した。
【0045】
上記手順(ロジック)を連々続鋳造の取鍋交換時における非定常部に実施して、シールドガス種の変更と流量変更時期を決定し、タンディッシュ内溶鋼のシールを行った。図2(b)に示した本発明方法と、図2(c)に示した従来方法におけるタンディッシュ内溶鋼の吸窒例を図3に示すが、従来方法の場合35ppmの吸窒量であったものが本発明方法を採用することで2ppmまで減少することができた。
【0046】
なお、図3に示した吸窒量は、スラブより鋳片表層55mm(鋳片厚さの1/4の箇所)から20×20mm角のサンプルを採取し、ガスクロマトグラフィーにより分析を行った結果である。
【0047】
本発明は上記の例に限らず、請求項に記載された技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0048】
例えば、上記の例では、取鍋からタンディッシュへの給湯部に注入管を用いたものについて説明したが、取鍋用ロングノズルを用いた場合もロングノズルの下端から外れた場合には同様の吸窒現象が発生するので、同様に適用できる。
【0049】
また、上記のタンディッシュ内のシールドガスの選択・切り替えは、シーケンサーにより自動で変更することにより行うことが望ましいが、作業者が手動で行っても良いことは言うまでもない。
【0050】
また、タンディッシュへの溶鋼の供給は取鍋に限らず、どのような鍋(容器)を用いて行っても良い。
【符号の説明】
【0051】
1 タンディッシュ
2 溶鋼
3 取鍋
4 注入管
A 注入管の内側におけるタンディッシュ内の空間
B 注入管の外側におけるタンディッシュ内の空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンディッシュ内に溶鋼を供給中の鍋から次回の鍋に溶鋼の供給を切り替えながら行う連々続鋳造において、
予めタンディッシュ内の溶鋼重量を監視してタンディッシュ内の溶鋼湯面への注入管下端の浸漬状況を把握しておき、
溶鋼を供給中の鍋からの溶鋼供給の停止後、タンディッシュ内の溶鋼重量が、タンディッシュ内の空間容積とArガスでの置換速度から求められる置換時間を確保できる所定の重量になった時に、注入管の内側および注入管の外側におけるタンディッシュ内空間のN2ガス供給を停止してArガスへの置換を開始し、
次回の鍋の溶鋼の供給の開始後、タンディッシュ内の溶鋼湯面が上昇し、注入管下端が該溶鋼湯面に浸漬した直後から前記空間へのArガスの供給を減少しつつN2ガスへの置換を開始することを特徴とする連々続鋳造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−61516(P2012−61516A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−209695(P2010−209695)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】