説明

連作障害の制御方法

【課題】根菜類に有効な微生物資材を開発し、該微生物資材を実際の畑に適用した場合に、連作障害のみられる畑でも健全な農作物が安定して得られ、連作障害の発生を抑制でき、環境保全型の農業への移行を実現できる技術の提供。
【解決手段】根菜の植えつけの前に畑の土壌分析を行って、当該畑におけるそうか病菌の密度をnec−1遺伝子量で測定し、得られたnec−1遺伝子の量によって該畑に施用する微生物資材の量を制御することを特徴とする連作障害の制御方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、根菜類に対する連作障害の制御方法に関し、更に詳しくは、根菜の植えつけの前に少なくとも畑の土壌分析を行って、その分析値との関連で、根菜類の病原菌に対して拮抗効果がある微生物資材の施用量をコントロールして、根菜類の連作障害を制御するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、植物の病原菌に対して拮抗作用を有する微生物(拮抗微生物、以下、拮抗菌と呼ぶ)を積極的に病害の抑制に使用する微生物資材の研究は多くされているが、どれも試験管レベルでの成功例で、実際の農場での成功例は極めて少ない。ここで、拮抗菌とは、特定菌の増殖や活動を抑制する微生物のことであり、病原菌の増殖や活動を抑制し、結果的に植物に対する病害の軽減を可能とできるもののことである。特に、安全性や環境破壊が懸念される農薬の使用量を軽減する有機農業や、減農薬或いは無農薬農業といった生態系活用型(環境保全型)農業への移行が叫ばれている現状においては、かかる拮抗菌を使用して農薬としての機能を果たす微生物資材の技術は夢の技術といっても過言ではなく、その開発が切望されている。
【0003】
しかしながら、上記したように、種々の検討が行なわれてはいるものの、実際の農場での成功例は少ないのが現状である。その理由としては、農場土壌中には多種多様のおびただしい数の土壌細菌が存在しており、このような農場に、拮抗菌培養液の状態や(例えば、特許文献1参照)、培養材料中に多量の拮抗菌を繁殖させた状態の拮抗菌(例えば、特許文献2参照)を一時期に多量に蒔いたとしても、他の微生物(従来よりその土壌中に住み着いているもの)との競合に負けてしまい、その土壌中に拮抗菌が根付くことができないことが多いためであると考えられる。
【0004】
これに対し、乾燥固定化微生物を得る技術(例えば、特許文献3及び4参照)や、これを利用して、乾燥固定化微生物を実際に農場で使用した場合に、土壌中の水分によって拮抗菌の生命活動を回復して、微生物資材として有効に機能し得ることが開示されている(例えば、特許文献5参照)。
【0005】
しかしながら、上記したような微生物資材は、拮抗菌の生命活動を利用して植物に対する病害の軽減効果を得るものであるため、実際の畑の植物への適用に対して高い効果を発揮させるためには、対象とする植物の病原菌に対して高い拮抗作用を示す微生物資材を開発することは勿論のこと、種々の環境下にあると考えられる実際の畑において、該微生物資材が対象植物に対して、より確実に、しかも高い効能を長時間に渡って持続させるには、施用の仕方を含めて総合的な検討が必要であると考えられる。
【0006】
特に、農薬や化学肥料の大量使用等も原因の一つと考えられる連作障害は深刻であり、何年か休耕しなければ次の作物の生育が難しい状態の畑もある。このような連作障害がみられる畑においても微生物資材による安定した効果が発揮され、健全な農作物が収穫率よく得られ、しかも、農薬や化学肥料の使用量を低減することで、連作障害が抑制された環境保全型の農業へと移行できれば、非常に有用である。
【0007】
【特許文献1】特公平7−101815号公報
【特許文献2】特公平6−192028号公報
【特許文献3】特公平4−48436号公報
【特許文献4】特公平6−73451号公報
【特許文献5】特開2002−308714公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、具体的な植物として根菜をとり上げ、根菜類に有効な微生物資材を開発すると同時に、該微生物資材を実際の畑に適用した場合に、連作障害のみられる畑に適用した場合にも健全な農作物が安定して高い収穫率で得られ、しかも、農薬や化学肥料の使用量を低減できるようにすることで、連作障害の発生が低減され、環境保全型の農業への移行を実現できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的は、下記の本発明によって達成される。即ち、本発明は、[1]根菜の植えつけの前に畑の土壌分析を行って、当該畑におけるそうか病菌の密度をnec−1遺伝子量で測定し、得られたnec−1遺伝子の量によって該畑に施用する微生物資材の量を制御することを特徴とする連作障害の制御方法である。
【0010】
又、本発明の好ましい形態は、[2]前記微生物資材が、少なくとも、固体栄養培地と、微生物資材1グラム当たり103〜106cellsの範囲のTrichoderma asperellum F288株(寄託番号:NITE P−53)を含んでなるものである上記[1]に記載の連作障害の制御方法である。
【0011】
更に、本発明の好ましい形態としては、下記のものが挙げられる。[3]更に、前記土壌分析の際に、当該畑におけるリン酸濃度の測定を行い、リン酸濃度が高いと判定された畑の場合にはリン肥料の施肥を行わない上記[1]又は[2]に記載の連作障害の制御方法。[4]更に、肥料として硫酸アンモニウムを施肥する上記[1]〜[3]に記載の連作障害の制御方法。[5]上記植えつける根菜が種芋である場合に、予め種芋におけるそうか病菌の有無の分析を行って、種芋にそうか病菌が存在している場合は、該種芋の消毒を行った後に植えつけを行う上記[1]〜[4]のいずれかに記載の連作障害の制御方法。[6]更に、前記土壌分析の際に、土壌のpHを測定し、土壌のpH値が5.5より高い場合に硫酸アンモニウムを畑に施し、その状態で前記微生物資材を施用する上記[1]〜[5]のいずれかに記載の連作障害の制御方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、根菜類の病原菌に対して拮抗作用を示す微生物資材を、畑の状態や、更には種芋の状態に応じて的確に施用することで、健全な農作物を安定して収穫率よく得ることができ、しかも、農薬や化学肥料の使用量を低減することで連作障害を抑制できる実用価値の高い連作障害の制御システムが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、好ましい形態を挙げて、本発明を詳細に説明する。本発明者らは、上記した従来技術の課題を解決すべく鋭意検討の結果、活性を維持した状態で固定されて、使用の際に土壌中の水分で膨潤して拮抗菌の生命活動が回復し、いわゆる農薬としての高い機能が発揮される微生物資材に有効に利用可能できる新規な拮抗微生物である、Trichoderma asperellum F288株を見いだした。そして、更に、該微生物資材を実際の畑に施用する場合の最適な条件について鋭意検討した結果、少なくとも土壌環境に応じて上記微生物資材を施用すること、更には、土壌環境を整えた状態で施用することが重要であり、このような施用システムを採用することで、連作障害のみられる畑においても健全な農作物を安定して収穫率よく得ることができるようになることを見いだして、本発明に至った。
【0014】
先ず、本発明を特徴づけるTrichoderma asperellum F288株(寄託番号:NITE P−53)について説明する。該微生物は、トリコデルマ属のカビであるが、本発明者らは、この新規微生物について鋭意検討した結果、上記微生物は、じゃがいものそうか病の病原菌であるStreptomyces Scabiesに対して高い拮抗作用があることを見いだした。そして、本発明者らの更なる検討によれば、この微生物は、じゃがいもに限らず根菜類の病原菌に対して高い拮抗作用を示す。更に、少なくとも固体栄養培地を含んでなる微生物資材は、活性を維持した状態で固定され、使用の際には土壌中の水分で膨潤してその生命活動が回復し、しかも上記の拮抗作用が高いレベルで発揮され、いわゆる農薬として有効に利用できる。
【0015】
本発明で使用する微生物資材は、最終的に得られる微生物資材1グラム当たりに、このTrichoderma asperellum F288株が103〜106cells程度の範囲で含まれるものである。又、本発明で使用する微生物資材の調製の際には、予め微生物学的に純粋培養されたTrichoderma asperellum F288株を使用することが好ましい。拮抗菌の培養方法としては、従来公知の微生物学的純粋培養方法を使用すればよいが、特に、食品工場から排出される有機性植物残渣を使用した固体培養方法を用いることが好ましい。具体的には、例えば、フスマ、米ヌカ、オカラ及び小豆カスといった有機性植物残渣からなる固体栄養培地を用いて培養させる方法が好ましい。
【0016】
本発明で使用する微生物資材は、例えば、上記のようにして予め固体培養方法等で培養したTrichoderma asperellum F288株を、更に固体栄養培地とを混合させることで得ることができるが、特に、Trichoderma asperellum F288株の培養に使用する固体培地と、更に混合させる固体栄養培地とを同一のものとしたものが好ましい。
【0017】
本発明で使用する微生物資材は、上記に加えて粘土鉱物であるバーミキュライト資材を含有させたものであってもよい。バーミキュライトは多孔質であるため、拮抗菌の良好な固定材料となる。上記したバーミキュライトを含有する微生物資材は、微生物の生命活動を利用するものであるにもかかわらず、一定の品質が維持され、より効果が持続する製品となる。本発明者らは、その理由を、資材中のバーミキュライトが、あたかもフスマ等の有機性植物残渣の表面をコーティングしているような状態になるため、微生物資材を構成している有機性植物残渣が、土壌中に存在している他の種々の微生物のエサとなることを有効に抑制でき、微生物資材中に含有させた拮抗菌が選択的に発育・増殖する環境を与えることができることによると考えている。
【0018】
本発明に使用できる取り扱い易い微生物資材の具体的なものとしては、固体培地で培養したTrichoderma asperellum F288株と、小麦フスマのような有機性植物残渣とを含有してなる混合物、或いは、更にこれにバーミキュライト資材のような粘土鉱物を加えた混合物を、造粒或いはペレット化したものが挙げられる。これらの微生物資材は、上記微生物が活性を維持した状態で固定されたものであり、これと同時に、農作物の苗や種や種芋とともに土壌中に蒔かれると該微生物は膨潤して土壌中で良好に生育し、その高い拮抗作用を発揮し得る。該拮抗菌による植物に対する病害の軽減効果は、安定し且つ長期間持続される。
【0019】
上記微生物資材は、Trichoderma asperellum F288株とともに、例えば、フスマ、米ヌカ、オカラ及び小豆カス等から選択された有機性植物残渣からなる固体栄養培地が含まれているため、微生物資材を土壌中に施した場合に、拮抗菌の基質(エサ)がより十分にある拮抗菌が生育し易い状態になり、その効果がより長期間持続される。本発明者らの検討によれば、特にフスマを用いてなる微生物資材は、土壌中に含有させ、土壌中に住み着いている他の微生物と競合した状態となった場合にも、拮抗菌の繁殖に優れ、しかも長期間にわたって拮抗菌の効果が持続するものとなる。
【0020】
粒状の微生物資材は、Trichoderma asperellum F288株を培養した固体培地、及び固体栄養培地等の原料を用いて、転動造粒式の造粒機等を使用する公知の方法で製造することができる。具体的には、上記した粉状の原料に水を加えて得た湿潤粉体原料を、造粒機によって転動、振動、撹拌などにより運動させて凝集して造粒する方法、或いは、流動層中の乾燥粉体に凝集用のバインダーや水をスプレーすることによって生じる凝集現象を利用して造粒する方法等が挙げられる。
【0021】
上記した場合に使用する凝集用のバインダーとしては、例えば、粘結力・給水力・保水力の強い、コーンスターチ、小麦粉、加工澱粉等の澱粉類や、CMC(カルボキシメチルセルロース)、ポリビニールアルコール(ポバール)等を使用することができる。これらのバインダーを用いる場合には、粉体原料中にバインダーを混合しておき、該混合物に回転や振動を与えながら水を噴霧してもよいし、粉体原料に回転や振動を与えながらバインダー水溶液を噴霧してもよい。
【0022】
上記のようにして原料混合物を成形して粒状やペレット状とした後に、乾燥処理すれば、強度の高い固形状の微生物資材製品ができる。乾燥温度としては、やや高めの常温、例えば、40℃以下の温度で、除湿及び乾燥処理することが好ましい。具体的な乾燥温度は、微生物の温度耐性に応じて適宜に決定すればよい。
【0023】
上記した微生物資材は、畑に蒔かれた際に、土壌中の水分と接触して膨潤し、膨潤することで固体栄養培地やバーミキュライト中に固定されていたTrichoderma asperellum F288株が再び活性を取り戻し、畑の土壌中で、農作物に対する病原菌の増殖や活動を抑制する拮抗作用を発揮して農作物に対する病害の軽減に効果を示す。これは、土壌中で活性を取り戻した菌株の周囲には固体栄養培地である有機性植物残渣が併存し、拮抗菌の基質(エサ)が十分に存在する状態となるので、土壌中に既に存在している多量の病原菌等の微生物と競合した場合にも拮抗菌が死滅することなく良好に生育し、拮抗菌が土壌中に常に存在する状態を形成させることができたものと考えられる。ペレット状の微生物資材は、十分な強度を有し、農場に蒔く場合の取り扱い性に優れるのみならず、土壌中の水分によって表面から内部に向かって徐々に膨潤していくので、単に混合されたものや、粒状のものに比較して、拮抗作用をより長期間に渡って維持できるものとなる。
【0024】
本発明において、用いる微生物資材は、上記した特性に鑑みて、対象とする植物によって、その原料の選択、形状の選択(粒状或いはペレット化するか否か、或いは大きさ)をすればよい。例えば、粒状或いはペレット状に成形された微生物資材は、上記原料を単に混合したものに比べて取り扱い性に優れる。又、微生物資材がペレット状である場合は、適用した土壌中において、より長期間に渡って拮抗菌の効果が持続するようになるので、効果を持続させる必要がある植物に対して使用することが好ましい。
【0025】
本発明にかかる方法は、上記した微生物資材を根菜の栽培に使用することを特徴とするが、更に、その際に、植えつけの前に畑の土壌分析を行って、当該畑におけるそうか病菌の密度をnec−1遺伝子量で測定し、得られたnec−1遺伝子の量によって該畑に施用する微生物資材の量を下記のように制御することを特徴とする。
【0026】
本発明における、そうか病菌の密度をnec−1遺伝子量で測定する具体的な方法としては、土壌中のそうか病菌の密度を定量化できればいずれの分析方法でもよく、限定されるものではない。土壌中におけるnec−1遺伝子量を測定する方法としては、内部標準遺伝子を用いた競合的QP−PCR法を利用することができる。この方法は、土壌から抽出した核酸と既知濃度の内部標準遺伝子をnec−1遺伝子検出用のプライマーを用いて競合的にPCR増幅し、nec−1遺伝子と内部標準遺伝子のそれぞれに特異的な蛍光消光プローブを用いて相補的な増幅産物を検出することにより得られる蛍光量および添加した内部標準遺伝子量からnec−1遺伝子量を定量するものである。具体的には、根菜の植えつけを予定する畑の土壌を採取し、該土壌中に棲息する菌を培養し、上記の方法によってnec−1遺伝子量を定量すればよい。尚、本発明で利用できる上記した特定遺伝子の定量方法については、特開2002−275公報等に詳細な記載がある。
【0027】
本発明者らは、検討していく過程で、前記した微生物資材を畑に施用した効果は、施用しない畑と比較した場合に必ず認められるものの、該微生物資材を同じように畑に施用した場合であっても、その効果の程度が異なる場合があることを確認した。そして、その原因について鋭意検討した結果、植え付けをする畑の土壌中に棲息するそうか病菌の量に応じて施用する微生物資材の量を適宜に制御することが、安定した効果を得るために有効であるとの結論に至った。
【0028】
本発明者らは、先ず、植え付けをする土壌中のそうか病菌の量を、そのnec−1遺伝子量を測定することで定量した。そして、この値と、当該畑でできた作物の発病率について検討した結果、図2に示したように、植え付けをする土壌中のそうか病菌のnec−1遺伝子量と、作物の発病率との間には相関があることを確認した。更に、測定したそうか病菌のnec−1遺伝子量に応じて、先に述べた、施用した場合に根菜のそうか病に対して有効な結果が得られる微生物資材の量を、どの程度変化させれば、安定した結果が得られるかについて検討した。この結果、土壌中のそうか病菌のnec−1遺伝子量によって、該菌が10000コピー未満と少ない場合には、前記微生物資材の量を20kg以上70kg未満程度とすればよく、nec−1遺伝子量が10000コピー以上である場合には、70kg以上400kg未満程度の多めの微生物資材を、混合施用或いは播種時に作条施用するようにすることが有効であるとの結論に至った。上記のように、先ず植えつける畑の土壌のnec−1遺伝子量を分析し、この分析値に応じて施用する微生物資材の量を制御すれば、安定して、根菜類のそうか病の発病率を低減させることができる。
【0029】
本発明者らの検討によれば、上記の結果、常に、土壌中に棲息するそうか病菌に対して微生物資材が有効に機能できる状況になり、いずれの畑においても安定してそうか病の発病率を低減でき、良好な農作物が収穫率よく得られ、畑の連作障害を克服することができる。更に、収穫後の畑は、本発明で使用する微生物資材を使用しない場合と比べて、連作障害の発生が抑制される状態になる。畑に微生物資材を施用する方法としては、畑を耕耘機等で耕した後、畑の全面に均一に施用してもよいし、植え溝内に均一に施用してもよい。又、施用する時期は、植え付けの1週間前としたり、化成肥料等の施肥の際に同時に施用することもできる。
【0030】
更に、本発明者らは、検討の過程でpH値によって畑の土壌中のそうか病菌のnec−1遺伝子量が異なる傾向にあることを見いだした。即ち、図4に示したように、pHが5.5以上であると、土壌中のそうか病菌のnec−1遺伝子量が多くなる。これに対しては、施用の前に畑の土壌のpH値を測定し、pHが5.5以上である場合にはpHを下げて、その後に微生物資材を施用することが有効であることを確認した。更に、pH調整には、特に、硫安を使用することが好ましいことを見いだした。一方、土壌のpH値が4.0より低い場合には、石灰又は苦土石灰(粉)を1反当たり40〜80kgを加えることで、微生物資材中の拮抗菌がより有効に機能できる環境にすることが好ましい。
【0031】
更に、本発明者らの検討によれば、土壌中のリン酸濃度を最適な範囲に制御することも、微生物資材中の拮抗菌をより有効に機能させる環境要素となり得る。即ち、本発明者らの検討によれば、本発明で使用する微生物資材は、土壌中のリン濃度によって影響を受け、肥料中のリン濃度が高過ぎると微生物資材中の拮抗菌の作用が低減し、その効果が十分に発揮されない場合があった。従って、本発明の好ましい形態としては、上記土壌分析の際に土壌中のリン酸濃度を測定し、畑の状態を判定し、該判定に従ってリン肥料を施肥し、その後、該畑に微生物資材を施用する。このようにすることで、使用する微生物資材に対して土壌中のリン濃度を最適な状態にすることができる。尚、土壌中のリン酸濃度の判定は、土壌中におけるリン酸濃度或いは水溶性リン酸濃度を公知の方法で測定する等の方法で行えばよい。
【0032】
具体的には、例えば、下記のようにする。土壌中のリン酸濃度は、一般的に、土壌1g中に20〜40mg程度が必要であるとされているので、土壌中のリン酸濃度を測り、これよりもリン酸濃度が確実に高いと判定された場合にはリン肥料を施肥しないようにして、その状態で微生物資材を施用するようにすることが好ましい。土壌中のリン酸濃度が上記の範囲よりも低いと判定された場合には勿論、従来の場合と同様にリン肥料を施肥する必要がある。土壌中のリン酸濃度が上記の範囲に達しているか否が微妙な場合には、リン肥料を通常の半分量施肥するようにする。
【0033】
更に、本発明者らの検討によれば、植えつける根菜が種芋であるような場合には、予め種芋におけるそうか病菌の有無の分析を行って、種芋にそうか病菌が存在している場合は、種芋の消毒を行い、該種芋を植えつけるようにすることも好ましい。例えば、土壌中に、そうか病のnec−1遺伝子が存在しない畑で、nec−1遺伝子が5000コピー存在する種芋と、nec−1遺伝子が存在しない種芋とで、本発明で使用する微生物資材の効果を検討したところ、nec−1遺伝子が存在しない種芋を用いた場合は発病率が0であったのに対して、nec−1遺伝子が5000コピー存在する種芋を使用した場合には発病率が30%程度みられ、種芋の消毒が有効であることが確認できた。種芋のnec−1遺伝子の有無の判定には、先に説明したnec−1遺伝子の定量分析方法を勿論使用することができるが、この場合には、nec−1遺伝子の存在が確認できれば足りるため、前記の方法に限らず、nec−1遺伝子を定性できる分析方法であればいずれも利用できる。
【0034】
種芋の消毒は、アグリマイシン等で40倍希釈したものを5〜10秒浸漬処理で行えばよいが、本発明は、特にこれに限定されるものではない。
【0035】
収穫率をより高めるためには、通常の場合と同様に畑に施肥することが好ましい。目的とする作物によって肥料の種類や成分比率は異なるが、例えば、鶏糞堆肥と、対象とする根菜類に適した通常の配合の化学肥料を用いることができる。しかしながら、先に述べたように、化学肥料成分の中でも、リン成分を最適な状態に制御することが、本発明で使用する微生物資材による高い効果を得るために重要であるので、リン肥料の量は、先に述べたように、土壌中におけるリン酸濃度との関連において決定することが好ましい。更に、本発明の方法では、本発明で使用する微生物資材によって高い効果を得るための要素として、硫安を併用することが挙げられる。このため、先に説明したように、畑の土壌のpHを調整するには、硫安によってすることが好ましいが、硫安を使用した場合には、肥料中の窒素成分は、総窒素量として15〜26kg/反になるように配合を決定することが好ましい。
【0036】
図1に、上記で述べた構成を一連のものとする本発明にかかる連作障害の制御方法の一例のシステムフローを示した。このような構成とすることで、本発明で使用する微生物資材を使用しない場合と比較して、そうか病の発病率を格段に減少させることができる。図1のシステムフローを説明すると、先ず、各畑の土壌を採取し、次に、土壌診断を行う。本発明にかかる方法は、その際に、少なくとも土壌中のそうか病菌の密度を測定し、該値に応じて本発明で使用する微生物資材の量を決定して施用することを基本とする。そして、更に好ましい形態として、必要に応じて更なる土壌診断或いは種芋の診断を行って、必要な施肥や種芋の消毒等を決定し、該決定に従って、畑の土壌の状態を整備したり種芋の処置を行ったりして、その後、本発明で使用する微生物資材を施用する。
【実施例】
【0037】
以下に、好ましい実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
<種芋>
播種する種芋としてジャガイモ(品種:ニシユタカ)を用いた。そして、該種芋のそうか病菌の有無を先に説明した内部標準遺伝子を用いたnec−1分析で測定し、そうか病菌が検出されなかった種芋を用いて栽培試験を行った。
【0038】
<畑の土壌>
(1)上記ジャガイモを使用しての栽培試験を行う畑として、前記した知見に基づき、pHが5.0である畑を数箇所選択した。
(2)更に、上記した畑の土壌分析をそれぞれ行って、当該畑におけるそうか病菌の密度をnec−1遺伝子量で測定した。そして、nec−1遺伝子量が8,000コピー程度である畑Aと、nec−1遺伝子量が50,000コピー程度のAの畑よりも菌の多い畑B、nec−1遺伝子量が5,000コピー程度である菌の少ない畑Cの3箇所の畑を選び、各栽培試験を行った。
【0039】
<微生物資材>
Trichoderma asperellum F288株を、滅菌した10kgの小麦フスマを固体培地として103cells/gになるように植菌し、2週間培養した。次に、得られた培養物と、上記で培養に使用したと同様の小麦フスマと、バーミキュライト(ヒルイシ化学製)とを、質量比で、それぞれが約1:5:1の配合割合となるように秤量し、水道水を加えて混合した後、造粒したものを微生物資材として使用した。微生物資材は、種芋播種時に作条施用した。
【0040】
(試験A)
<試験方法>
先ず、前記した知見に基づき、前記した畑A及びBの土壌のリン酸濃度を判定したところ、通常よりも少ないことが確認された。これらの畑を区切り、それぞれ1a(アール)の試験区に上記の微生物資材を表1に示した量をそれぞれ施用し、その後、前記したジャガイモの種芋を植えた。又、その際に、鶏糞肥料1,000kg/反と、化学肥料[N:P:K=16:15:15kg(有効成分で反あたりの投入量)]とを用いた。そして、8月下旬に種芋を播種し、12月下旬に収穫を行った。そして、収穫したジャガイモの数と、そうか病が発病したジャガイモの数を数え、発病率を求めた。その結果を表1に示した。尚、発病率は、そうか病により市販できないものを発病したとみなして算出した。
【0041】
<試験結果>
表1に示したように、微生物資材を施用した場合としない場合では明らかに発病率に差があり、微生物資材の有効性が確認できた。又、nec−1遺伝子量が多い場合には微生物資材の量を多くすることが有効であることが確認できた。
【0042】

【0043】
(試験B)
<試験方法>
先述したnce−1遺伝子量が5000コピーである畑Cについて土壌のリン酸濃度を判定したところ、リン酸濃度は、A及びBの畑と比べて高めであることが確認された。この畑Cを仕切り、それぞれ1a(アール)の試験区D及びEとした。そして、この試験区D及びEに、先述した微生物資材をそれぞれ50kg施用し、更に、各試験区に施肥する肥料をそれぞれ下記のように変えて栽培試験を行った。試験区Dには、鶏糞肥料1,000kg/反と、化学肥料[N:P:K=16:15:15kg(有効成分で反あたりの投入量)]とを施肥し、畑Eには、鶏糞肥料1,000kg/反と、化学肥料[N:P:K=16:7:15kg(有効成分で反あたりの投入量)]とを施肥した。そして、上記のような試験区D及びEに対し、8月下旬に種芋を播種し、12月下旬に収穫を行った。そして、収穫したジャガイモの数と、そうか病が発病したジャガイモの数を数え、発病率を求めた。その結果を表2に示した。比較のため、nce−1遺伝子量が同じであった畑Aで行った試験Aの結果を併せて示した。尚、発病率は、そうか病により市販できないものを発病したとみなして算出した。
【0044】
<試験結果>
表2に示したように、微生物資材を施用した場合としない場合では明らかに発病率に差があり、微生物資材の有効性が確認できた。土壌中のリン酸濃度が高くなると発病率が高くなり、又、微生物資材の効果が低減する傾向があることが確認できた。
【0045】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の活用例は、ジャガイモ等の根菜類に適用可能な、連作障害のみられる畑に適用した場合にも健全な農作物が安定して高い収穫率で得られ、しかも、農薬や化学肥料の使用量が低減されるので連作障害の発生が低減され、環境保全型の農業への移行を実現することが可能な連作障害の制御方法が挙げられる。本発明は、微生物資材の利用技術として他の植物への展開に応用できる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明にかかる方法のシステムフロー。
【図2】不健全イモの割合とそうか病菌数(nec−1遺伝子数)の関係を示すグラフ。
【図3】不健全イモの割合とリン酸濃度の関係を示すグラフ。
【図4】nec−1遺伝子数とpHの関係を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
根菜の植えつけの前に畑の土壌分析を行って、当該畑におけるそうか病菌の密度をnec−1遺伝子量で測定し、得られたnec−1遺伝子の量によって該畑に施用する微生物資材の量を制御することを特徴とする連作障害の制御方法。
【請求項2】
前記微生物資材が、少なくとも、固体栄養培地と、微生物資材1グラム当たり103〜106cellsの範囲のTrichoderma asperellum F288株(寄託番号:NITE P−53)を含んでなるものである請求項1に記載の連作障害の制御方法。
【請求項3】
更に、前記土壌分析の際に、当該畑におけるリン酸濃度の測定を行い、リン酸濃度が高いと判定された畑の場合にはリン肥料の施肥を行わない請求項1又は2に記載の連作障害の制御方法。
【請求項4】
更に、肥料として硫酸アンモニウムを施肥する請求項1〜3のいずれか1項に記載の連作障害の制御方法。
【請求項5】
前記植えつける根菜が種芋である場合に、予め種芋におけるそうか病菌の有無の分析を行って、種芋にそうか病菌が存在している場合は、該種芋の消毒を行った後に植えつけを行う請求項1〜4のいずれか1項に記載の連作障害の制御方法。
【請求項6】
更に、前記土壌分析の際に、土壌のpHを測定し、土壌のpH値が5.5より高い場合に硫酸アンモニウムを畑に施し、その状態で前記微生物資材を施用する請求項1〜5のいずれか1項に記載の連作障害の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−219387(P2006−219387A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−32289(P2005−32289)
【出願日】平成17年2月8日(2005.2.8)
【出願人】(000156581)環境エンジニアリング株式会社 (67)
【Fターム(参考)】