説明

連結HST車両およびその制御方法

【課題】低コストかつ簡単にHST車両を連結できるとともに、機械的なトラブルや人為的なミスを招くことの無い連結されたHST車両およびその制御方法を提供する。
【解決手段】主車両11及び従車両12は、それぞれエンジン1により駆動されるHST3(3s,3j)から走行用動力を得ている。各車両のコントローラ5には、各車両のエンジン1及びトランスミッション(走行用変速機4)から各種情報が入力される。主車両11と従車両12のコネクタ6s,6jを接続ケーブル7を用いて接続し、両車両のコントローラ5同士を接続して情報を転送する。取得した情報に基づき、両車両の負荷が同一になるように従車両12のHST3jを制御することで、各車両の負荷状況を同一になるように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連結されたHST車両およびその制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
静油圧無段変速機(以下、「HST」と称す)を駆動系に用いた、除雪車両や建設作業車両等は周知であり、例えば特許文献1に開示されている。HSTは、少なくとも一方が可変容量型の油圧ポンプ及び油圧モータとから構成され、油圧ポンプ又は油圧モータの流量を制御して(斜板角度を制御して)走行速度を制御する。
【0003】
図4に、1ポンプ・1モータ型の代表的なHSTの構成例を示す。また、図5に、2ポンプ・2モータ型の代表的なHSTの構成例を示す。
ところで、軌道モータカーや重量物運搬車においては、複数台のHST車両を連結して使用する場合がある。図6は、2ポンプ・2モータ型HST搭載車両を2台連結した場合の油圧回路図である。
【0004】
連結走行での使用を前提としたHST車両を2台連結して使用する場合、従来は、各車両間のHSTの圧力差を無くするために、双方の高圧配管を油圧的に接続(インチング)し、同期させていた。すなわち、図6に示すように、車両1の高圧配管Aと車両2の高圧配管Aとを車両間インチング回路101により接続し、車両1の高圧配管Bと車両2の高圧配管Bとを車両間インチング回路102により接続する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】再表2005/054720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、従来、HST車両を2台連結して使用する場合、各HST機器の個体差,負荷による差等により、効率が下がらないようにするため、各車両の2組(A,B)の高圧配管をそれぞれ油圧的に接続(インチング)することで圧力差を無くし、同期させることを行っている。
【0007】
しかしながら、上記車両間のインチング回路は、30MPa以上の高圧配管のため、価格的にも高価な部品であり、また、ホース硬度も高く(したがって硬く)なるため連結作業時の取り扱いがしにくく、作業時間がかかるという問題があった。
【0008】
さらに、負荷の低い車両側にHSTのドレイン回路から作動油が送られる結果、その油を元の車両に戻してやる回路(図6には示さず)も必要となり、接続部が増えることによる油漏れ等の機械的なトラブル、および接続間違い等の人為的ミスの要因にもなっているという問題があった。
【0009】
本発明は、複数台のHST車両を連結した場合の上述の問題を解決し、低コストかつ簡単にHST車両を連結できるとともに、機械的なトラブルや人為的なミスを招くことの無い連結されたHST車両およびその制御方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題は、本発明により、HSTを駆動系に用いたHST車両を複数台連結した連結HST車両において、自車両に連結された他車両のエンジン負荷情報を通信により取得し、該取得した他車両のエンジン負荷情報に基づいて各車両の負荷が同一になるように自車両又は/及び他車両のHSTを制御することにより解決される。
【0011】
また、車両の速度が所定値未満の場合は、前記各車両の負荷を同一とする制御を実施しないと好適である。
また、自車両のエンジン負荷と他車両のエンジン負荷の差が所定の範囲内の場合は、前記各車両の負荷を同一とする制御を実施しないと好適である。
【0012】
また、前記制御対象車両におけるHSTの制御指令値の増減量を、制御非対象車両のエンジントルクから制御対象車両のエンジントルクを減じたものに所定の比例定数を乗じた値とすると好適である。
また、前記制御対象車両におけるHSTの制御指令値を、現在の指令値に前記増減量を加えた値とすると好適である。
【0013】
また、前記の課題は、本発明により、駆動系にHSTを用いた車両を複数台連結した連結HST車両のHST制御方法において、自車両に連結された他車両のエンジン負荷情報を通信により取得し、該取得した他車両のエンジン負荷情報に基づいて各車両の負荷が同一になるように自車両又は/及び他車両のHSTを制御することにより解決される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の連結HST車両あるいはHST制御方法によれば、自車両に連結された他車両のエンジン負荷情報を通信により取得し、該取得した他車両のエンジン負荷情報に基づいて各車両の負荷が同一になるように自車両又は/及び他車両のHSTを制御するので、各車両のHSTの高圧配管を油圧的に接続(インチング)する必要が無く、低コストかつ簡単にHST車両を連結できるとともに、機械的なトラブルや人為的なミスを未然に防止することができる。
【0015】
また、各車両間での油量を調節する油量調節機構なども廃止することができるため、接続にかかるコストも低減することができる。
さらに、各車両における負荷の違いやHSTの個体差、ヒステリシス特性に起因する斜板の位置の誤差等による効率の低下を防ぐことができる。
【0016】
請求項2の構成により、低速走行の場合には運転者の操作を優先させることができる。
請求項3の構成により、車両間での負荷の差が小さい場合には運転者の操作を優先させることができる。
【0017】
請求項4の構成により、各車両のエンジントルクの差にリニアに対応した制御を行なうことができる。
請求項5の構成により、制御指令値の増加に上限を設定することで、他車両のエンジンが負荷100%で停止した場合でも制御指令値が増加し続けることが無い。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る作業車両の一例における駆動系の構成を模式的に示す図である。
【図2】エンジン負荷同期処理の一例を示すフローチャートである。
【図3】エンジンの負荷同期関数の一例を示すグラフ及びエンジン回転数毎の出力とトルクの関係を示す表である。
【図4】1ポンプ・1モータ型の代表的なHSTの構成例を示す油圧回路図である。
【図5】2ポンプ・2モータ型の代表的なHSTの構成例を示す油圧回路図である。
【図6】2ポンプ・2モータ型HST搭載車両を2台連結した場合の油圧回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る作業車両の一例における駆動系の構成を模式的に示す図である。この図に示す作業車両10は、第一車両11と第二車両12を連結したものである(軌道上を走行する軌道車両の場合には、車両を連結することを「重連」とも言う)。本実施形態では、第一車両11を主車両、第二車両12を従車両として説明する。なお、図1においては、各車両の主要な構成要素の符号に「s」又は「j」の添え字を付けて主車両11と従車両12を区別しているが、以下の説明において、各車両の要素を区別する必要がある場合は添え字を付して、区別する必要が無い場合は添え字を省略して説明する。
【0020】
主車両11及び従車両12の基本的構成は同一であり、それぞれエンジン1,動力分配機2,HST(静油圧無断変速機)3,走行用変速機4,コントローラ(制御器)5を備えている。エンジン1の出力は動力分配機2に入力され、HST3及び走行用変速機4を介して走行用動力が取り出される。動力分配機2の符号21は入力軸、符号22は出力軸である。ロータリ除雪装置等の作業装置を備える場合は、その作業装置を駆動する作業用動力は、分配機出力軸22から取り出される。なお、作業車両の構成により、一方側の車両(例えば従車両12)では作業用動力を取り出さない(出力軸22に作業装置を接続しない)場合もあるし、主従の両車両で作業装置を装着しないもの(例えば重量物運搬車など)もある。
【0021】
HST3は油圧ポンプ31及び油圧モータ32を有している。図では1ポンプ・1モータ型の構成で示してあり、例えば図4に示すような構成のものを使用可能である。油圧ポンプ31は分配機出力軸22からの動力により駆動され、その油圧ポンプの圧油を受けて油圧モータ32が回転される。図4の構成の場合には、油圧ポンプ31が可変容量型であり、油圧モータ32は固定容量型となっている。なお、図5に示すような2ポンプ・2モータ型のHSTを使用することも可能である。油圧モータ32は走行用変速機4の入力軸41に接続され、変速機の出力軸42から走行用動力が取り出され、図示しない車輪を回転駆動する。
【0022】
コントローラ5には、各車両のエンジン1及びトランスミッション(走行用変速機4)から、次の表1に示すような各種情報が入力される。本実施例でコントローラ5に入力されるエンジン及びトランスミッションに関するパラメータは、SAE J1939規格に則ったものである。なお、ここに示す各種パラメータは一例であり、これに限定されるものではない。
【0023】
【表1】

【0024】
そして、本実施形態では、主車両11と従車両12間で情報転送するためのコネクタ6が各車両に設けてある。この各車両のコネクタ6s,6jを接続ケーブル(通信ケーブル)7を用いて接続することで、両車両のコントローラ5同士を接続し、CAN(コントローラー・エリア・ネットワーク)通信でデータ及び制御情報を転送する。このようにして取得した情報に基づき、各車両の負荷が同一になるように従車両のHST3jを制御することで、各車両の負荷状況を同一になるように制御することができる。これにより、油圧的な接続(インチング)が不要となり、図6のような従来構成におけるインチング用配管及び油量調節機構等を廃止することが可能となる。
【0025】
さて、本実施形態の作業車両10は、主車両11と従車両12を連結したものであるが、各車両の負荷は必ずしも同一ではなく、連結走行中の各車両においてHST3s,3jに圧力差が生じる。そこで、接続ケーブル7を介して受信した他車両の上記表1に示すエンジン及びトランスミッションに関する情報に基づき、各車両の負荷が同一になるようにHSTの油圧ポンプ31の斜板を制御する。これにより、各車両のHST3(3s,3j)の負荷状況を同一にすることができ、油圧的に接続(インチング)したのと同様にHST3s,3j間の圧力差を無くし、同期させることが可能となる。
【0026】
本実施形態では、従車両12において、受信した主車両11の情報に基づいて、従車両12のHST3jを制御する(油圧ポンプ31jの斜板を制御する)ように構成している。なお、本実施例では、従車両12におけるHST3jの制御は従車両12のコントローラ5jにより行なわれる。
【0027】
図2は、本実施形態におけるエンジン負荷同期処理の一例を示すフローチャートである。このフローにおいて、まずS1で制御対象の車両が重連された従車両であるかどうかを判断し、「No」の場合はS8に進んで通常制御(HSTに設けられる通常の走行レバーによるポンプ指令値の制御)を行い、目標指令値まで段階的に増加・減少を行い、同期処理を終了する。
【0028】
S1で「Yes(重連された従車両)」の場合にはS2に進み、車速が設定以上であるかどうかを見る。ここで、車速が設定未満の場合はS8に進み通常制御を行なう。一方、車速が設定以上の場合はS3に進み、主車両11と従車両12のエンジントルクの差が設定範囲以内であるかどうかを見る。設定範囲以内であればS8に進み通常制御を行なう。一方、主車両と従車両でエンジントルク差が設定範囲を超えている場合はS4に進み、100ミリ秒(0.1秒)経過する毎にS5に進んで、タイマ(100ミリ秒タイマ)をセットしてS6に進む。
【0029】
S6では、ポンプ指令値の増減量を、主車両のエンジントルクから自車(従車両12)のエンジントルクを減じたもの(主従車両間のエンジン負荷の差)に所定の比例定数を乗じた値とする。そして、S7において、ポンプ指令値を、現在のポンプ指令値+ポンプ指令値の増減量として同期処理ルーティンを終了する。
【0030】
なお、主車両がエンジン負荷100%でドロップした(エンジン回転数が低下した)場合に従車両のポンプ斜板はエンジン負荷100%になるまで倒れていくので、油圧回路内に設けられた圧力制御弁が働いて指令値より斜板が倒れていなくても指令値が増加し続ける場合に対応するよう、指令値の増減に上限(車速、エンジン回転数、変速段から逆算した傾転量+α)を設定している。
【0031】
重量物運搬車などに適用される1ポンプ・複数モータ型のHST構成の場合、前記上限を設定することにより、特定のモータ軸の輪重抜けが発生した際のモータ過回転を防止することができる。
【0032】
また、図内に注(※)1,2,3として記載したように、主車両のエンジントルク(現在の回転数における最大トルクに対する割合)は制御器(コントローラ5s,5j)間のCAN通信で受信する。自車両のエンジントルクはECU(Engine Contorol Unit)とのCAN通信で受信する。そして、現在の回転数における最大トルクに対するエンジントルクの割合、から実トルクを演算することは可能だが、本実施例では行なわないものとする。
【0033】
図3に、本実施形態の作業車両10が搭載するエンジン1の負荷同期関数の一例を示すグラフ及びエンジン回転数毎の出力とトルクの表を示す。これらのグラフ及び表から分かるように、本例のエンジン1は、1400回転(rpm)付近で最大トルクを発揮し、以降エンジン回転数の上昇に従ってトルクは減少する。一方、出力は回転数とともに上昇し、約1800回転でほぼ最大出力に達する。
【0034】
本実施形態では、第二車両12において自車両(従車両)のHSTを制御{自車両(従車両)に連結された他車両(主車両)のエンジン負荷情報を通信により取得し、該取得した他車両のエンジン負荷情報に基づいて各車両の負荷が同一になるように自車両(従車両)のHSTを制御}しているが、第一車両11において他車両(従車両)のHSTを制御{自車両(主車両)に連結された他車両(従車両)のエンジン負荷情報を通信により取得し、該取得した他車両のエンジン負荷情報に基づいて各車両の負荷が同一になるように他車両(従車両)のHSTを制御}するようにしても良い。
【0035】
また、3台以上のHST車両を連結する構成にも本発明を適用可能である。例えば、第一車両11を自車両とし、2台の他車両(従車両)のHSTを制御することで対応可能である。あるいは、1台の従車両(自車両)から、自車両のHST及びもう1台の従車両(他車両)のHSTを制御するようにしても良い。
【0036】
このように、本発明においては、HST車両を複数台連結する場合でも、各車両のHSTの高圧配管を油圧的に接続(インチング)する必要が無く、電気的な信号をやり取りする接続ケーブル7で接続するだけで済むため、硬くて取扱のしにくい高圧配管を用いることが無いことにより、連結作業も容易で接続ミスも防ぐことができ、また、接続にかかるコストも低減することができる。各車両間での油量を調節する油量調節機構なども廃止することができる。
【0037】
そして、上記のような通信ケーブルの接続という簡易な接続作業と構成の簡素化及び低コスト化のもとで、連結された各車両の負荷状況を同一にすることができ、また、各車両における負荷の違いやHSTの個体差、ヒステリシス特性に起因する斜板の位置の誤差等による効率の低下を防ぐこともできる。
【0038】
以上、本発明を図示例により説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、2ポンプ2モータ型HST搭載車を2台連結した構成の場合も、同様に各車両の負荷状況を同一になるように制御することができる。また、HSTの制御は油圧ポンプに限らず、油圧モータを制御するようにしても良い。
【0039】
HSTの構成は図4、図5に示した構成を含め、適宜な構成を採用可能である。また、各車両の構成も任意であり、動力分配機や走行用変速機などの構成を含め、適宜な構成を採用可能である。車両のエンジンもディーゼルエンジンやガソリンエンジンを含め、任意の原動機を採用可能である。
【0040】
ロータリ除雪車の場合は道路走行用に限らず、線路上を走行する軌道除雪車や、道路及び線路上の走行が可能な軌陸両用車であってもよい。さらに、作業車両はロータリ除雪車に限定されるものではなく、本発明はホイールローダ等の建設作業車や重量物運搬車などにも適用可能なものである。
【符号の説明】
【0041】
1 エンジン(原動機)
2 動力分配機
3 HST(静油圧無段変速機)
4 走行用変速機
5 コントローラ(制御器)
6 コネクタ
7 接続ケーブル
10 作業車両
11 第一車両(主車両)
12 第二車両(従車両)
31 油圧ポンプ
32 油圧モータ
101,102 車両間インチング回路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
HSTを駆動系に用いたHST車両を複数台連結した連結HST車両において、
自車両に連結された他車両のエンジン負荷情報を通信により取得し、該取得した他車両のエンジン負荷情報に基づいて各車両の負荷が同一になるように自車両又は/及び他車両のHSTを制御することを特徴とする連結HST車両。
【請求項2】
車両の速度が所定値未満の場合は、前記各車両の負荷を同一とする制御を実施しないことを特徴とする、請求項1に記載の連結HST車両。
【請求項3】
自車両のエンジン負荷と他車両のエンジン負荷の差が所定の範囲内の場合は、前記各車両の負荷を同一とする制御を実施しないことを特徴とする、請求項1に記載の連結HST車両。
【請求項4】
前記制御対象車両におけるHSTの制御指令値の増減量を、制御非対象車両のエンジントルクから制御対象車両のエンジントルクを減じたものに所定の比例定数を乗じた値とすることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の連結HST車両。
【請求項5】
前記制御対象車両におけるHSTの制御指令値を、現在の指令値に前記増減量を加えた値とすることを特徴とする、請求項4に記載の連結HST車両。
【請求項6】
駆動系にHSTを用いた車両を複数台連結した連結HST車両のHST制御方法において、
自車両に連結された他車両のエンジン負荷情報を通信により取得し、該取得した他車両のエンジン負荷情報に基づいて各車両の負荷が同一になるように自車両又は/及び他車両のHSTを制御することを特徴とするHST制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−19457(P2013−19457A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152700(P2011−152700)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(591117631)株式会社日本除雪機製作所 (18)
【Fターム(参考)】