説明

連続化反応によるカルバぺネム誘導体の製法

【課題】工業的製法に有利なカルバペネム誘導体の製法を提供する。
【解決手段】以下の工程:
(第1工程)アセチジノン誘導体とロジウム試薬を溶媒中で反応させる工程;(第2工程)第1工程で得られた反応液、ジフェニルホソホクロリデート、および塩基を混合させる工程;および(第3工程)第2工程で得られた反応液と3−メルカプトピロリジン誘導体またはその塩を混合して化合物(VI)を合成する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルバぺネム誘導体の製法に関する。
【背景技術】
【0002】
広範囲の抗菌スペクトルを有するピロリジルチオカルバペネム誘導体(化合物(VI))は、有用な抗生物質として知られている(参照:特許文献1)。その合成中間体として以下のTCEが公知である。またTCEの製法として以下のケト体を出発原料としてELP−PNBを単離または非単離で経由する連続法も公知である(参照:特許文献2)。さらにケト体はジアゾ体を環化させて合成され得ることも公知である(参照:特許文献3、4、5等)。
【化1】


(式中、PNBは4−ニトロベンジル;Phはフェニル;PNZは4−ニトロベンジルオキシカルボニルを示す。)
しかし、ジアゾ体からTCEまでを連続的にワンポット化反応で合成する方法は報告されていない。
【特許文献1】特開平05―294970
【特許文献2】特開2003−26680
【特許文献3】特開昭57−123182
【特許文献4】特開昭64−25779
【特許文献5】特開平6−321946
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ピロリジルチオカルバペネム誘導体(化合物(VI))の中間体であるTCEまたはその溶媒和物結晶等のさらに好ましい工業的製法の開発が要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意研究を重ねた結果、溶媒、温度条件、中間体の溶解度や安定性、および各工程での操作性等を種々検討することにより、ジアゾ体からTCEまでのワンポット化反応に成功し、以下に示す本発明を完成した。

(1)以下の工程:
(第1工程)化合物(I)とロジウム試薬を溶媒中で反応させる工程;
(第2工程)第1工程で得られた反応液、ジフェニルホスホクロリデート、および塩基を混合する工程;および
(第3工程)第2工程で得られた反応液と化合物(IV)またはその塩を混合して化合物(V)を合成する工程;
を包含することを特徴とする、化合物(V)、その溶媒和物または溶媒和物結晶の製造方法。
【化2】


(式中、Rはカルボキシ保護基;Rは水素またはヒドロキシ保護基;Rは水素またはアミノ保護基を示す。)

(2)以下の工程:
(第1工程)化合物(I)とロジウム試薬を溶媒中で反応させて化合物(II)を生成させる工程;
(第2工程)化合物(II)を含む第1工程で得られた反応液、ジフェニルホソホクロリデート、および塩基を混合して化合物(III)を生成させる工程;および
(第3工程)化合物(III)を含む第2工程で得られた反応液と化合物(IV)またはその塩を混合して化合物(V)を合成する工程;
を包含することを特徴とする、上記(1)記載の化合物(V)、その溶媒和物または溶媒和物結晶の製造方法。
【化3】


(式中、Rはカルボキシ保護基;Rは水素またはヒドロキシ保護基;Rは水素またはアミノ保護基を示し、化合物(II)および化合物(III)は単離されない。)
【0005】
(3)Rは4−ニトロベンジルまたは−CH2CH=CH2である、上記(1)または(2)に記載の製造方法。
(4)Rは水素である、上記(1)または(2)に記載の製造方法。
(5)Rはアミノ保護基である、上記(1)または(2)に記載の製造方法。
(6)Rは4−ニトロベンジルオキシカルボニルまたは−COOCH2CH=CH2である、上記(1)または(2)に記載の製造方法。
(7)Rは4−ニトロベンジルまたは−CH2CH=CH2、Rは水素、Rは4−ニトロベンジルオキシカルボニルまたは−COOCH2CH=CH2である、上記(1)または(2)に記載の製造方法。
(8)第1工程および第2工程の反応溶媒がジクロロメタンであり、かつ第3工程の反応溶媒がジクロロメタンおよびN,N−ジメチルアセトアミドである、上記(1)〜(7)のいずれかに記載の製造方法。
(9)第1工程を20〜60℃、第2工程を−30〜0℃、第3工程を−30〜0℃で行う、上記(1)〜(8)のいずれかに記載の製造方法。
(10)上記(1)〜(9)のいずれかに記載の製造方法により化合物(V)を得た後、アルコール含有溶媒中から結晶化することを特徴とする、化合物(V)のアルコール和物結晶の製造方法。
(11)アルコールがメタノールであり、アルコール和物結晶が2メタノール和物結晶である、上記(10)記載の製造方法。
(12)上記(2)記載の化合物(III)と化合物(IV)またはその塩を、N,N−ジメチルアセトアミドを含有する溶媒中で反応させることを特徴とする、化合物(V)、その溶媒和物または溶媒和物結晶の製造方法。
(13)上記(1)〜(12)のいずれかに記載の製造方法により、化合物(V)、その溶媒和物または溶媒和物結晶を得た後、これを脱保護することを特徴とする、式:
【化4】



で示される化合物(VI)、その製薬上許容される塩、またはそれらの溶媒和物の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本製法によって化合物(V)をワンポット化法で簡便に収率よく製造できる。また該製法を経由して抗菌剤である化合物(VI)等を工業的に効率よく製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の製法を以下に示す。
(保護基)
カルボキシ保護基としてはβ−ラクタム化合物の分野で用いられるものを用いることが
でき、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−,iso−,sec−,tert−ブチル、n−ヘキシル基等のC1-8アルキル基、ブロモ−t−ブチル、トリクロロエチル等のハロゲン(例えば、塩素、臭素、フッ素、ヨウ素等)で1ないし3置換されたC1-6アルキル基、ベンジル、p−ニトロベンジル、o−ニトロベンジル、p−メトキシベンジル基、p−t−ブチルベンジル等のニトロ、C1-4アルコキシ基(例えばメトキシ、エトキシ等)またはC1-4アルキル基(例えばメチル、エチル、n−又はiso−プロピル、n−、iso−、sec−又はtert−ブチル等)等で1または2置換されていてもよいC7-14アラルキル基、アセトキシメチル、プロピオニルオキシメチル、n−,iso−,ブチリルオキシメチル、バレリルオキシメチル、ピバロイルオキシメチル、1−(または2−)アセトキシエチル,1−(または2−または3−)アセトキシプロピル,1−(または2−または3−または4−)アセトキシブチル,1−(または2−)プロピオニルオキシエチル,1−(または2−または3−)プロピオニルオキシプロピル,1−(または2−)ブチリルオキシエチル,1−(または2−)イソブチリルオキシエチル,1−(または2−)ピバロイルオキシエチル,1−(または2−)ヘキサノイルオキシエチル、イソブチリルオキシメチル、2−エチルブチリルオキシメチル,3,3−ジメチルブチリルオキシメチル、1−(または2−)ペンタノイルオキシエチル等のC1-4アルカノイルオキシ−C1-4アルキル基、例えば2−メシルエチル基等のC1-4アルカンスルホニル−C1-4アルキル基,例えばメトキシカルボニルオキシメチル,エトキシカルボニルオキシメチル,プロポキシカルボニルオキシメチル,第三級ブトキシカルボニルオキシメチル,1−(または2−)メトキシカルボニルオキシエチル,1−(または2−)エトキシカルボニルオキシエチル,1−(または2−)イソプロポキシカルボニルオキシエチル等のC1-4アルコキシカルボニルオキシ−C1-4アルキル基、t−ブチルジメチルシリル、トリメチルシリル等のトリC1-4アルキルシリル基、アリル、メタ アリル等のC2-6アルケニル基、メトキシメチル、エトキシメチル、プロポキシ メチル、イソプロポキシメチル等のC1-4アルコキシ−メチル基、(2−メチル チオ)−エチル等のC1-4アルキルチオC1-4アルキル基、3−メチル−2−ブテニル基、5−インダニル基、3−フタリジル基等が用いられ、好ましくは、ニトロ、C1-4アルキル基等で1または2置換されていてもよいC7-14アラルキル基等が、より好ましくはp−ニトロベンジル(以下、PNBとも表示する)やアリルが用いられる。
ヒドロキシ保護基としては、β−ラクタム化合物の分野で用いられるものを用いることができ、例えばホルミル、アセチル、クロロアセチル、ジクロロアセチル、トリクロロアセチル、トリフルオロアセチル、プロピオニル、ブチリル、4−トルオイル、4−アニソイル、4−ニトロベンゾイル、2−ニトロベンゾイル基等のハロゲン(例えば塩素、臭素、フッ素等)またはニトロ等で1〜3個置換されていてもよいC1-7アシル基、例えばベンジル、4−メトキシベンジル、2−ニトロベンジル、4−ニトロベンジル、ジフェニルメチル、トリフェニルメチル基等のC1-4アルコキシ(例えばメトキシ、エトキシ等)またはニトロ等で1〜3個置換されていてもよいC7-19アラルキル基、例えばメトキシカルボニル、エトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル、2,2,2−トリクロロエトキシカルボニル、2−トリメチルシリルエトキシカルボニル基等のC1-4アルコキシ(例えばメトキシ、エトキシ等)、ハロゲン(例えば塩素、臭素等)またはトリ−C1-4アルキルシリル(例えばトリメチルシリル等)等で1〜3個置換されていてもよいC1-6アルキルオキシ−カルボニル基、例えばベンジルオキシカルボニル、4−メトキシベンジルオキシカルボニル、3,4−ジメトキシベンジルオキシカルボニル、2−ニトロベンジルオキシカルボニル、4−ニトロベンジルオキシカルボニル基等のC1-4アルコキシ(例えばメトキシ、エトキシ等)またはニトロ基等で置換 されていてもよい、C7-19アラルキルオキシ−カルボニル基、例えばビニルオキシカルボニル、アリルオキシカルボニル基等のC2-6アルケニルオキシ−カルボニル基、例えばメトキシメチル、t−ブトキシメチル、2−メトキシエトキシメチル、2,2,2−トリクロロエトキシメチル基等のハロゲン(例えば塩素、臭素、フッ素等)で置換されていてもよいC1-4アルコキシ(例えばメトキシ、エトキシ等)等で1ないし3置換されたメチル基、例えば1−エトキシエチル,1−メチル−1−メトキシエチル、2,2,2−トリクロロエチル基等のC1-4アルコキシ(例えばメトキシ、エトキシ等)またはハロゲン(例えば、塩素、臭素、フッ素等)等で1ないし3置換されたエチル基、例えばトリメチルシリル、トリエチルシリル、ジメチルイソプロピルシリル、t−ブチルジメチルシリル、トリイソプロピルシリル基等のトリ−C1-4アルキルシリル基、例えばジフェニルメチルシリル、ジフェニルエチルシリル基等のジフェニル−C1-4アルキルシリル基が用いられ、好ましくはC7-19アラルキルオキシカルボニル基(ベンジルオキシカルボニル基等)、C2-6アルケニルオキシカルボニル基(ビニルオキシカルボニル基等)、トリ−C1-4アルキルシリル基(トリメチルシリル基等)等が、より好ましくはトリ−C1-4アルキルシリル基(例:t−ブチルジメチルシリル基)等が用いられる。
【0008】
アミノ保護基としては、カルボン酸、炭酸、スルホン酸およびカルバミン酸から誘導された脂肪族アシル基や、芳香族基で置換された脂肪族アシル基等が挙げられる。
脂肪族アシル基としては飽和または不飽和の非環式または環式アシル基、その例として、例えばホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、イソバレリル、ピバロイル、ヘキサノイル等の低級アルカノイル基のようなアルカノイル基、例えばメシル、エチルスルホニル、プロピルスルホニル、イソプロピルスルホニル、ブチルスルホニル、イソブチルスルホニル、ペンチルスルホニル、ヘキシルスルホニル等の低級アルキルスルホニル基のようなアルキルスルホニル基、カルバモイル基、例えばメチルカルバモイル、エチルカルバモイル等のN−アルキルカルバモイル基、例えばメトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、第三級ブトキシカルボニル等の低級アルコキシカルボニル基のようなアルコキシカルボニル基、例えばビニルオキシカルボニル、アリルオキシカルボニル等の低級アルケニルオキシカルボニル基のようなアルケニルオキシカルボニル基、例えばアクリロイル、メタクリロイル、クロトノイル等の低級アルケノイル基のようなアルケノイル基、例えばシクロプロパンカルボニル、シクロペンタンカルボニル、シクロヘキサンカルボニル等のシクロ(低級)アルカンカルボニル基のようなシクロアルカンカルボニル基等が挙げられる。
芳香族基で置換された脂肪族アシル基としては、例えばベンジルオキシカルボニル、フェネチルオキシカルボニル等のフェニル(低級)アルコキシカルボニル基のようなアラルコキシカルボニル基が挙げられる。これらのアシル基はさらにニトロ基のような適当な置換基1個以上で置換されていてもよく、そのような置換基を有する好ましいアシル基としては、例えばニトロベンジルオキシカルボニル等のニトロアラルコキシカルボニル基等が挙げられる。
アミノ保護基として好ましくは、カップリング反応中に脱離しにくい保護基であり、特に好ましくは、置換されていてもよいベンジルオキシカルボニル(例:4−ニトロベンジルオキシカルボニル(以下、PNZとも表示する))やアルケニルオキシカルボニル基(例:−COOCH2CH=CH2(以下、Allocとも表示する)である。
(塩)
塩としては好ましくは製薬上許容される塩であり、無機塩基塩(例:ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩);有機塩基塩(例:トリエチルアミン塩、ピリジン塩、ピコリン塩、エタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、N,N′−ジベンジルエチレンジアミン塩);塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、燐酸塩等の無機酸付加塩;ギ酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩等の有機酸付加塩;アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸等の塩基性アミノ酸または酸性アミノ酸との塩、または分子内塩が挙げられる。
(溶媒和物)
溶媒和物としては、水和物(例:1水和物、2水和物、3水和物、4水和物)やアルコール和物(アルコールの例:メタノール、2−プロパノール、2−ペンタノール、1−ペンタノール、t−アミルアルコール、1−プロパノール、n―プロパノール、t―ブタノール、イソブタノール、n―ブタノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール)が例示される。
【0009】
(化合物(V)の製法)
【化5】


(式中、Rはカルボキシ保護基;Rは水素またはヒドロキシ保護基;Rは水素またはアミノ保護基を示す。)

(第1工程)
化合物(I)とロジウム試薬を溶媒中で反応させることにより、化合物(II)が生成する。好ましくは、化合物(II)は単離されずに反応液のまま次工程に付される。
反応溶媒としては、ベンゼン、トルエン、シクロヘキサン等の炭化水素系溶媒、酢酸エチル等のエステル系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロルエタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒、 テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、アルコール(例:メタノール、エタノール)、ジオキサン、アセトン、アセトニトリル等が例示される。化合物(I)の溶解度、触媒への影響、化合物(II)の安定性等の点からは、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒が好ましい。
反応触媒としては、ロジウム試薬(酢酸ロジウム、ロジウムオクタノエート)、酢酸パラジウム、ビス(アセチルアセトナート)Cu(II)、CuSO4、Cu等が例示されるが、好ましくはロジウム試薬である。
化合物(I)と触媒との使用割合(モル比)は0.05〜5モル%、好ましくは0.1〜3モル%である。反応時間は、通常、0.5〜20時間、好ましくは1〜5時間である。反応温度は、通常、約10〜約100℃、好ましくは約15〜約80℃、より好ましくは約20〜約60℃、特に好ましくは約35〜約45℃である。また本反応は、水分による悪影響を避けるために、例えば窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。

(第2工程)
第1工程で得られた反応液、ジフェニルホスホクロリデート、および塩基を混合することにより、化合物(III)が生成する。好ましくは、化合物(III)は単離されずに反応液のまま次工程に付される。当該工程により、前記化合物(II)とジフェニルホスホクロリデートが塩基存在下で反応して化合物(III)が生成する。化合物(III)は好ましくは、反応容器内において晶析しない。
反応溶媒としては、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、クロルベンゼン、シクロヘキサン等の炭化水素系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン、1,2−ジクロルエタン等のハロゲン化炭化水素溶媒、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル等の高非極プロトン性溶媒が使用され、好ましくは、例えばテトラヒドロフラン、ジクロロメタン、アセトニトリル等が用いられる。反応収率の向上、化合物(III)の結晶析出等による反応系固化の回避、反応時間の短縮等の点からより好ましくは、第1工程の反応溶媒、特にジクロロメタンがそのまま使用される。
塩基としては例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、トリアリルアミン、ジメチルベンジルアミン、テトラメチル−1,3−ジアミノプロパン、N−メチルモルホリン、N−メチルピロリジン、N−メチルピペリジン、N,N−ジメチルアニリン、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ−7−エン(DBU),1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]ノナ−5−エン(DBN)等の第3級脂肪族アミン、ジイソプロピルアミン等の2級アミン、ピリジン、4−ジメチル−アミノピリジン、ピコリン、ルチジン、キノリン、イソキノリン等の芳香族アミン等が用いられる。好ましくは、例えば、N,N−ジイソプロピルエチルアミン等のC1-4アルキル基で1ないし3置換された第3級脂肪族アミン、4−ジメチルアミノピリジン等のジC1-4アルキルアミノ基で置換されたピリジン等が用いられる。
ジフェニルホスホクロリデートの使用割合(モル比)は反応液中の化合物(II)に対して1:1〜5、好ましくは1:1〜3である。反応時間は10分〜10時間、好ましくは0.5〜3時間である。反応温度は、−70〜40℃、好ましくは−40〜10℃、より好ましくは−30〜0℃である。また本反応は、水分による悪影響を避けるために、例えば窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。
また第1工程でジクロロメタンを使用しかつ第2工程時にN,N−ジメチルアセトアミドを添加した場合に、化合物(III)が晶析せずに反応がスムーズに進行することも本発明の特徴の1つである。第2工程の反応系において、ジクロロメタンとN,N−ジメチルアセトアミドの使用割合は、好ましくは1:1〜1:10、より好ましくは1:4〜1:6である。なお、第1工程でテトラヒドロフランや酢酸エチルを使用し、第2工程でN,N−ジメチルアセトアミドを添加した場合には、化合物(III)が晶析し、その結果、反応系が懸濁したり固化する現象も見られた。
【0010】
(第3工程)
第2工程で得られた反応液と化合物(IV)またはその塩を混合することにより、化合物(V)、その溶媒和物または溶媒和物結晶が得られる。当該工程により、前記化合物(III)と化合物(IV)が反応する。
当該反応は好ましくは塩基存在下で行われる。塩基としては、1級アミン、2級アミン、または3級アミンが使用されるが、好ましくは第2工程で使用した塩基が使用可能である。
反応溶媒としては、好ましくは第2工程で使用した溶媒がそのまま使用できるが、反応を促進させるためにより好ましくはアミド系極性溶媒(例:ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド)を併用してもよい。
本発明では、アミド系極性溶媒として、特にN,N−ジメチルアセトアミドが好ましいことも見出した。即ち、本発明は、化合物(III)と化合物(IV)またはその塩を、N,N−ジメチルアセトアミドを含有する溶媒中で反応させることを特徴とする、化合物(V)、その溶媒和物または溶媒和物結晶の製造方法も提供する。
第3工程の反応温度は、通常−40℃〜室温、好ましくは約−30〜0℃である。
反応時間は、通常、数十分〜数十時間、好ましくは1〜5時間である。
化合物(III)と化合物(IV)の使用量は、10:1〜1:10、好ましくは1:1〜1:5である。
上記反応後、所望によりR2で示されるヒドロキシ保護基を脱保護してもよい。脱保護反応は、好ましくは酸を添加して加水分解反応により行われる。酸としては、例えば、ハロゲン化水素酸(塩酸、フッ化水素酸等)、硫酸、リン酸等の無機酸、酢酸等の有機酸等であり、好ましくは例えば塩酸等のハロゲン化水素酸等が用いられる。本加水分解反応は、所望により、反応系に水、メタノール、エタノール等の低級アルコール系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒等を添加して行ってもよい。酸の使用割合(モル比)は、化合物(V,R2=ヒドロキシ保護基)に対して好ましくは1:0.5〜10、より好ましくは1:1〜5である。
上記方法により生成した化合物(V)は、反応系中より溶媒和物またはその結晶として単離してもよい。溶媒和物として好ましくは、前記アルコール和物が例示される。例えば、R2が水素、R1がPNB、R3がPNZである化合物(V)は、好ましくは2メタノール和物結晶として単離され得る。またR2が水素、R1がアリル、R3がAlloc(:−COOCH2CH=CH2)である化合物(V)は、好ましくはベンジルアルコール和物結晶として単離され得る。アルコール和物結晶を単離するには、第3工程終了後、反応液に該アルコール、および所望によりその他の有機溶媒および/または種晶を添加した後、所望により−10℃〜室温で数時間〜数日、攪拌および/または静置させ、常法により濾取、洗浄、乾燥することにより得られる。種晶としては、例えば、特開2003−26680の方法に従って単離されるTCEの2メタノール和物結晶が使用される。またベンジルアルコール和物結晶の種晶も使用可能である。
本反応により、化合物(I)から連続3工程の反応および所望の結晶化反応を含むワンポット化反応によって、化合物(V)、その溶媒和物またはその結晶を得ることができる。ワンポット化反応は、反応途中での中間体の抽出、濃縮、乾燥等の操作が不要な連続反応であり、工業的製法として非常に有用である。
【0011】
上記製法により得られた化合物(V)、その溶媒和物またはその結晶を、特開平05―294970、特開2003−26680、WO2004/72073等に記載の方法に準じて脱保護することにより、抗菌剤として有用な化合物(VI)、その製薬上許容される塩、またはそれらの溶媒和物が得られる。化合物(VI)として好ましくは、水和物結晶(例:1水和物、2水和物、2.5水和物)、特に1水和物結晶である。
脱保護反応は、ニッケル触媒、コバルト触媒、鉄触媒、銅触媒、白金触媒およびパラジウム触媒等の貴金属系触媒等が用いられる。好ましくは、パラジウム触媒およびニッケル触媒等が用いられ、より好ましくは、パラジウムカーボン、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、酢酸(トリフェニルホスフィン)パラジウムおよび酢酸(トリエチルホスファイト)パラジウム等である。パラジウムを加えた混合溶液に添加物(好ましくはトリフェニルホスフィン等)を加えても良い。またパラジウム触媒に保護基を還元除去する還元剤や求核試薬(アリル基のトラップ剤)を併用してもよい。還元剤として、水素、金属水素化物等であり、好ましくは水素化トリ−n−ブチルスズ等である。求核試薬として、カルボキシレート(例えば、ナトリウム2―エチルヘキサノエート等)、1,3―ジカルボニル化合物(例えば、メルドラム酸、ジメドンおよびマロン酸エステル等)、2級アミン(例えば、ジエチルアミン等)、および芳香族アミン(アニリン、N−メチルアニリン、N−エチルアニリン、N,N−ジメチルアニリン、0−、m−またはp−トルイジン、0−、m−またはp−アニシジン)が例示される。
脱保護反応に用いられる溶媒は、好ましくは、アセトン、アセトニトリル、酢酸エチル、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール及び水等である。これらの溶媒は単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。特に好ましくはテトラヒドロフランと水の組合せであり、好ましくはテトラヒドロフラン:水=1:1〜10:1の割合で使用される。 反応温度は約−20〜50℃である。反応時間は通常数分から数十時間である。
【0012】
以下に実施例を示す。
(略号)
PNB=4−ニトロベンジル;PNZ=4−ニトロベンジルオキシカルボニル;Ph=フェニル;Allyl=−CH2CH=CH2;Alloc=−COOCH2CH=CH2

実施例1
4−ニトロベンジル (4R, 5S, 6S)−6−[(1R)−1−ヒドロキシエチル]−4−メチル−3−[[(3S, 5S)−1−(4−ニトロベンジルオキシカルボニル)−5−(スルファモイルアミノエチル)ピロリジン−3−イル]チオ]−7−オキソ−1−アザビシクロ[3. 2. 0]へプト−2−エン−2−カルボキシレート (チオピロリジンカルバペネムエステル、TCE) の合成
【化6】


(注) ( )内の中間体は非単離である。

ジアゾ体(1.0g)にジクロロメタン(5.0ml)およびロジウム(II)アセテート(28mg)を加えて40℃に加熱し、還流条件下1時間攪拌した。反応液を−25℃に冷却した後に、ジフェニルホスホクロリデート(757mg)およびジイソプロピルエチルアミン(285mg)を加えて、−20℃で2時間攪拌した。同温度でN, N-ジメチルアセトアミド(5.0ml)およびチオールピロリジン(SPL)(1.2g)を加えて、−15℃で2時間攪拌した。反応液を−5℃まで昇温した後に、メタノール(1 5ml)および種晶として特開2003−26680の実施例10の(A)法に従って合成されるチオピロリジンカルバペネムエステル(TCE)の2メタノール和物結晶を加えて、同温度で22時間攪拌した。得られたスラリーをろ過、洗浄(メタノール(6.5ml))、乾燥してTCE・2メタノール和物の結晶1.4gを得た(TCE換算収率65.7%)。
1H-NMR
δ 1.16(d, 3H, J = 6.2Hz, 6-CH3CH(OH)), 1.18(d, 3H, J = 6.4Hz, 4-CH3), 1.91 (m, 1H, 5’-H), 2.50 (m, 1H, 5’-H), 3.07 (dt, 1H, J = 12.9, 6.9Hz, 4’-CH2NHSO2N=CHN(CH3)2)), 3.17 (m, 1H, 2’-H), 3.28 (dd, 1H, J= 6.3, 2.6Hz, 6-H), 3.32 (m, 1H, 4’-CH2NHSO2N=CHN(CH3)2)), 3.55 (dq, J = 9.2, 2.6Hz, 4-H), 3.82 (m, 1H, 1’-H), 3.99 (m, 1H, 6-CH3CH(OH)), 4.01 (m, 1H, 4’-H), 4.07 (dd, J = 10.9, 7.0Hz, 2’-H), 4.24(dd, 1H, J = 9.2, 2.6Hz, 5’-H), 5.21 (d, 1H, J = 13.9Hz, 3’-CO2CH2Ar), 5.24 (d, 1H, J = 13.9Hz, 3’-NCO2CH2Ar), 5.30 (d, 1H, J = 13.9Hz, 2-CO2CH2Ar), 5.45 (d, 1H, J = 13.9Hz, 2-CO2CH2Ar), 6.43 (br. s, 1H, 4’-CH2NHSO2NH2), 6.64 (br. 1H, 4’-CH2NHSO2NH2), 7.66 (br. d, 1H, J = 〜8Hz, 3’-NCO2CH2Ar), 7.71 (d, 1H, J = 8.5Hz, 2-CO2CH2Ar), 8.21 (d, 1H, J = 8.5Hz, 2-CO2CH2Ar), 8.21 (br. d, 1H, J = 〜8Hz, 3’-NCO2CH2Ar), 3.18 (d, 3H, J = 5.2Hz, 2CH3OH), 3.95 (q, J = 5.2Hz, 2CH3OH)
【0013】
実施例2
4−アリル (4R, 5S, 6S)−6−[(1R)−1−ヒドロキシエチル]−4−メチル−3−[[(3S, 5S)−1−(4−アリルオキシカルボニル)−5−(スルファモイルアミノエチル)ピロリジン−3−イル]チオ]−7−オキソ−1−アザビシクロ[3. 2. 0]へプト−2−エン−2−カルボキシレート (TCE-Allyl) の合成
【化7】

ジアゾ体(10.0g)にジクロロメタン(20ml)およびロジウム(II)アセテート(360mg)を加えて40℃に加熱し、還流条件下1時間攪拌する。反応液を−20℃に冷却した後に、ジフェニルホスホクロリデート(9.5g)およびジイソプロピルエチルアミン(3.6g)を加えて、−20℃で2時間攪拌する。同温度でN, N-ジメチルアセトアミド(50ml)およびチオールピロリジン(SPL-Alloc)(11.7g)を加えて、−20℃で2時間攪拌する。反応液を濃縮した後に、酢酸エチル(150ml)を加え、水洗(×4)する。有機層を脱水濃縮後、ベンジルアルコール(12.9g)、チオピロリジンカルバペネムエステル(TCE-Allyl)の種晶およびトルエン(85g)を加えて、氷冷下で2時間攪拌する。得られたスラリーをろ過、洗浄(トルエン(15ml))、乾燥してTCE-Allylのベンジルアルコール和物結晶を得る。
(TCE-Allylの種晶の調製法)
非晶質で粉末状のTCE-Allyl(100 mg)を酢酸エチル(0.1 ml)に溶解さし、ベンジルアルコール (0.3 ml)を加え、室温にて1時間攪拌後、5℃で2日間放置した。析出した結晶を濾別し、風乾して、TCE-Allylのベンジルアルコール和物結晶(79mg)を得た。
【0014】
実施例3(脱保護工程)
実施例1で得られたTCE・2メタノール和物結晶 (20.0 g) にテトラヒドロフラン(120 ml)、水 (80 ml)、10% パラジウム炭素 (ドライベースとして10 g)、及び塩化マグネシウム六水和物 (3.4 g) を加えた。水素雰囲気下 (約0.5 MPa) 17〜33ーCで3時間攪拌した。パラジウム炭素をろ過し、60 vol% テトラヒドロフラン (60 ml) で洗浄した。ろ液に塩化マグネシウム六水和物 (0.8 g) 及びテトラヒドロフラン (600 mL) を加え、水層を分取して5ーCに冷却した。メタノール (30 ml) 及びWO95/29913号に記載の化合物(VI)の結晶 (20 mg) を加えて5分間晶析し、さらにメタノール (50 ml) を加え、0ーCで晶析した。有機層に塩化マグネシウム六水和物 (1.4 g) を加えて水層を分取し、先の晶析スラリーに加えた。この操作を再度繰り返した後、晶析スラリーにメタノール (150 ml) を加え、−10ーCに冷却して62分攪拌し、晶析した。得られた結晶をろ過し、メタノール (2 0 ml) および2-プロパノール (40 ml) で順次洗浄した。結晶に30 vol% 2-プロパノール (60 ml) を加え、18ーCで30分間撹拌した。5ーCまで冷却後、2-プロパノール (24 ml) を30分かけて加え、5ーCで25分間撹拌した。更に2-プロパノール (56 ml) を63分かけて加え、0ーCで65分撹拌し、晶析した。得られた結晶をろ過し、80 vol% 2-プロパノール (48 ml) で洗浄後、乾燥して化合物(VI)の1水和物結晶 (7.4g) を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:

(第1工程)化合物(I)とロジウム試薬を溶媒中で反応させる工程;
(第2工程)第1工程で得られた反応液、ジフェニルホソホクロリデート、および塩基を混合する工程;および
(第3工程)第2工程で得られた反応液と化合物(IV)またはその塩を混合して化合物(V)を合成する工程;

を包含することを特徴とする、化合物(V)、その溶媒和物または溶媒和物結晶の製造方法。
【化1】

(式中、Rはカルボキシ保護基;Rは水素またはヒドロキシ保護基;Rは水素またはアミノ保護基を示す。)
【請求項2】
以下の工程:

(第1工程)化合物(I)とロジウム試薬を溶媒中で反応させて化合物(II)を生成させる工程;
(第2工程)化合物(II)を含む第1工程で得られた反応液、ジフェニルホソホクロリデート、および塩基を混合して化合物(III)を生成させる工程;および
(第3工程)化合物(III)を含む第2工程で得られた反応液と化合物(IV)またはその塩を混合して化合物(V)を合成する工程;

を包含することを特徴とする、請求項1記載の化合物(V)、その溶媒和物または溶媒和物結晶の製造方法。
【化2】

(式中、Rはカルボキシ保護基;Rは水素またはヒドロキシ保護基;Rは水素またはアミノ保護基を示し、化合物(II)および化合物(III)は単離されない。)
【請求項3】
は4−ニトロベンジルまたは−CH2CH=CH2である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
は水素である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項5】
はアミノ保護基である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項6】
は4−ニトロベンジルオキシカルボニルまたは−COOCH2CH=CH2である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項7】
は4−ニトロベンジルまたは−CH2CH=CH2、Rは水素、Rは4−ニトロベンジルオキシカルボニルまたは−COOCH2CH=CH2である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項8】
第1工程および第2工程の反応溶媒がジクロロメタンであり、かつ第3工程の反応溶媒がジクロロメタンおよびN,N−ジメチルアセトアミドである、請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
第1工程を20〜60℃、第2工程を−30〜0℃、第3工程を−30〜0℃で行う、請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法により化合物(V)得た後、アルコール含有溶媒中から結晶化することを特徴とする、化合物(V)のアルコール和物結晶の製造方法。
【請求項11】
アルコールがメタノールであり、アルコール和物結晶が2メタノール和物結晶である、請求項10記載の製造方法。
【請求項12】
請求項2記載の化合物(III)と化合物(IV)またはその塩を、N,N−ジメチルアセトアミドを含有する溶媒中で反応させることを特徴とする、化合物(V)、その溶媒和物または溶媒和物結晶の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の製造方法により、化合物(V)、その溶媒和物または溶媒和物結晶を得た後、これを脱保護することを特徴とする、式:
【化3】



で示される化合物(VI)、その製薬上許容される塩、またはそれらの溶媒和物の製造方法。