説明

連続鋳造機の鋳片凝固層厚み検出装置

【課題】 鋳片品質に悪影響を与えることなく鋳片凝固層厚みを精度良く検出することができる、連続鋳造機の鋳片凝固層厚み検出装置を提供すること。
【解決手段】 鋳片51に接触して回転する鋳造ロール52の外周面にペースト状又は粉体状の低融点物質からなる鋳造ロール用接触媒質16を間欠的に供給する鋳造ロール用接触媒質供給手段と、接触媒質13を介して鋳造ロール52に接触させる超音波探触子11と、前記鋳造ロール用接触媒質16を介して鋳造ロール52と鋳片51とが接触しているときの超音波探触子11で受信した超音波エコーS2と鋳造ロール用接触媒質16が存在せずに接触しているときの超音波エコーS1との差分により、鋳片51の凝固層と未凝固層との境界面エコーを検出し、該境界面エコーに基づいて鋳片凝固層厚みを求める計測手段と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳片の凝固層厚みを超音波により検出する連続鋳造機の鋳片凝固層厚み検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造機は、図6に示すように、親鍋53からタンディシュ54を介して鋳型55に流し込まれた溶鋼を、外部より冷却しながら次第に下方へ鋳造ロール52により引き抜き、凝固させながら主として長方形断面の鋳片51を製造するようにしている。凝固した鋳片51は、ガス切断機56などで一定長さに切断されスラブ57などと呼ばれる中間製品になる。この連続鋳造機では、冷却速度と鋳造速度(引き抜き速度)とのバランスが、製品品質と生産性を確保する上で重要な要素である。例えば、引き抜き速度を上げすぎると、鋳片が十分に凝固していないことに起因する湯漏れ事故を起こすことになったり、あるいは、鋳型直下でのブレークアウトという大事故を起こすことになったりしてしまう。一方、引き抜き速度が遅すぎると生産性が低下する。したがって、鋳片の凝固状態を適切に検出し、最適な引き抜き速度、冷却状態を実現し維持することが、連続鋳造機での安定、かつ高生産操業上不可欠となる。
【0003】
そこで、従来より、連続鋳造機における鋳片凝固層厚み検出装置として、凝固が進行中の鋳片の凝固層厚みを超音波により検出するようにした装置が提案されている。例えば特公昭60−11587号公報には、鋳片の凝固層と未凝固層との境界面において超音波ビームが屈折することを利用して、鋳片表面に対して斜めに入射させた超音波の、前記鋳片表面とは対向する鋳片表面での検出位置から、凝固層の厚みを検出するようにしたものが示されている(従来技術1)。
【0004】
また、特公平2−22882号公報には、鋳片の凝固層と未凝固層との境界面において超音波が反射することを利用して凝固層の厚みを検出するようにしたものが示されている(従来技術2)。
【0005】
ところで、鋳片の凝固層厚みを超音波により検出する場合、鋳片内に超音波を有効に入射させ、また鋳片内を伝搬してきた超音波を有効に検出する必要があり、そのため、超音波探触子と検出対象である鋳片の間の超音波の伝達効率を低下させないように、超音波探触子と鋳片との間に、水,油などの接触媒質と呼ばれる物質を供給するようにしている。
【0006】
このような接触媒質供給手段として、前記の従来技術1では、図7に示すように、鋳片引き抜き方向に沿って隣り合う鋳造ロール52の間において、鋳片51を挟んで対向させて2つの水ジェットノズル62A,62Bを配置し、一方の水ジェットノズル62A内に入射用の超音波探触子61Aを設置し、他方の水ジェットノズル62B内に受信用の超音波探触子61Bを設置している。これにより、水ジェットを鋳片51に向けて噴射して局部的な水浸状態を実現して、水ジェットを介して超音波の送受信を行うようにしている。なお、51aは鋳片51の凝固層(凝固部)を示し、51bは鋳片51の未凝固層(未凝固部)を示している。
【0007】
しかしこの図7に示す手段を有する鋳片凝固層厚み検出装置では、検出対象の鋳片が高温であるため、水ジェット内に気泡(水蒸気など)が発生しやすく、そのため超音波伝達の障害になる場合がしばしば発生するという問題があった。さらに、鋳片に多量の水が噴射されることで局部的に鋳片の冷却が加速されるため、鋳片表面に割れが生じるなどして鋳片品質に悪影響を及ぼすことが懸念される。
【0008】
また、別の接触媒質供給手段として、前記の従来技術1では、図8に示すように、鋳片51の一方の面においてこれに圧接させて回転自在にドラム72を支持し、このドラム72内に冷却用液体73を満たし、この冷却用液体73中に超音波探触子71を設置している。
【0009】
しかしこの図8に示す手段を有する鋳片凝固層厚み検出装置では、ドラム72と鋳片51との間に接触媒質が存在していないので、ドラム72と鋳片51の接触圧を高くしても、鋳片51に対する超音波伝達効率が非常に悪く、水などの接触媒質を供給した場合に比較して1/10以下に減衰し、凝固層厚みを検出する感度が低いものであった。
【0010】
また、別の接触媒質供給手段として、前記の従来技術2では、図9に示すように、鋳片51の表面に押し付けられる接触面を有し、この接触面が鋳片51の熱により溶融される銅,鉛などの融点の低い物質からなる接触媒質としての溶融媒質82と、この溶融媒質82を着脱自在に保持し、これを冷却するケーシング83と、ケーシング83内における溶融媒質82の非接触部(接触面とは反対側の面)に密着固定された超音波探触子81により構成されている。これにより、鋳片51に溶融媒質82を介して超音波を入射させ、その超音波エコーを溶融媒質82を介して受信するようにしている。
【0011】
しかしこの図9に示す手段を有する鋳片凝固層厚み検出装置では、有限長さの溶融媒質82がすべて融解した状態では検出が不可能となるので、定期的に溶融媒質82の交換を行う必要がある。また、溶融媒質82が融解によって徐々に長さが減少するため、超音波探触子81と鋳片51との相対距離が鋳造の進行に伴って変化して、真に一定の超音波送受信状態の維持が不可能なものである。
【特許文献1】特公昭60−11587号公報(第6図、第7図)
【特許文献2】特公平2−22882号公報(第6図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで本発明の課題は、連続鋳造機において鋳片に接触している鋳造ロールを介して超音波探触子により鋳片の凝固層厚みを検出するに際し、鋳片と鋳造ロールとの間に鋳片品質に悪影響を与えることなく安定して接触媒質を供給することができるとともに、前記鋳造ロールの存在に起因する多重エコーの影響を解消して、鋳片の凝固層と未凝固層との境界面エコーのみを精度良く検出することができて、鋳片品質に悪影響を与えることなく鋳片凝固層厚みを精度良く検出することができる、連続鋳造機の鋳片凝固層厚み検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の課題を解決するため、本願発明では、次の技術的手段を講じている。
【0014】
請求項1の発明は、鋳片の凝固層厚みを超音波により検出する連続鋳造機の鋳片凝固層厚み検出装置において、前記鋳片に接触して回転する鋳造ロールの外周面にペースト状又は粉体状の低融点物質からなる鋳造ロール用接触媒質を間欠的に供給する鋳造ロール用接触媒質供給手段と、前記鋳造ロールと前記鋳片との接触点での鋳片外周面に対する略法線上に位置され、接触媒質を介して前記鋳造ロールに接触させる超音波探触子と、前記鋳造ロール用接触媒質を介して前記鋳造ロールと前記鋳片とが接触しているときの前記超音波探触子で受信した超音波エコーと前記鋳造ロール用接触媒質が存在せずに前記鋳造ロールと前記鋳片とが接触しているときの前記超音波探触子で受信した超音波エコーとの差分により、前記鋳片の凝固層と未凝固層との境界面エコーを検出し、該境界面エコーに基づいて鋳片凝固層厚みを求める計測手段と、を備えたことを特徴とする連続鋳造機の鋳片凝固層厚み検出装置である。
【0015】
請求項2の発明は、請求項1記載の連続鋳造機の鋳片凝固層厚み検出装置において、前記超音波探触子は、内部が冷却水で満たされた鋳造ロールの該内部に配置されていることを特徴とするものである。
【0016】
請求項3の発明は、請求項1又は2記載の連続鋳造機の鋳片凝固層厚み検出装置において、前記低融点物質が黒鉛ペースト、あるいは鋳造用パウダーであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明による連続鋳造機の鋳片凝固層厚み検出装置は、鋳片に接触して回転する鋳造ロールを介して超音波探触子により鋳片の凝固層厚みを検出するに際し、鋳造ロールの外周面にペースト状又は粉体状をなす低融点物質からなる鋳造ロール用接触媒質を所定量間欠的に供給し、この鋳造ロール用接触媒質が鋳造ロールの回転に伴って鋳片に近づき鋳造ロールと鋳片との接触点に達すると、高温の鋳片との接触による熱で液体状となって鋳造ロールと鋳片の間に超音波の接触媒質として供給されるように構成されている。したがって、鋳造ロールと鋳片との間に鋳片品質に熱的な悪影響を与えることなく所定量の接触媒質を安定して間欠的に供給することができ、超音波の伝達効率の低下を防いで高い凝固層厚み検出感度を保つことができる。
【0018】
また、鋳造ロールの外周面に鋳造ロール用接触媒質を間欠的に供給し、液体状となった鋳造ロール用接触媒質を介して鋳造ロールと鋳片とが接触しているときの超音波探触子で受信した超音波エコーと、鋳造ロール用接触媒質なしで鋳造ロールと鋳片とが接触しているときの超音波探触子で受信した超音波エコーとの差分をとるように構成されている。これにより、鋳造ロールの存在に起因する多重エコーの影響を無くして鋳片からのエコーである鋳片の凝固層と未凝固層との境界面エコーのみを精度よく検出することができて、該境界面エコーに基づいて鋳片凝固層厚みを精度よく求めることができる。よって、鋳片品質に悪影響を与えることなく鋳片凝固層厚みを精度良く検出することができ、連続鋳造機の安定で、生産性の高い操業に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図1は本発明の一実施形態による連続鋳造機の鋳片凝固層厚み検出装置の構成説明図である。
【0020】
図1において、51は連続鋳造機における凝固が進行中の鋳片であり、同図における上から下の方向へ引き抜かれている。52は鋳片51に接している複数の鋳造ロールの1つであって時計回りに等速度で回転している。鋳片51内部には凝固層51aと未凝固層51bが存在しており、凝固層厚みを検出する(測定する)ことが操業管理上重要となっている。
【0021】
超音波探触子11は、鋳造ロール52と鋳片51との接触点での鋳片外周面に対する略法線上に位置され、探触子用接触媒質(超音波伝達媒質)13を介して鋳造ロール52に接触させて配置されている。すなわち、本実施形態では、超音波探触子11は、鋳造ロール52の外周面における鋳片51との接触点と反対側の位置に探触子用接触媒質13を介して配置されている。12は超音波探触子11と鋳造ロール52との間に探触子用接触媒質13を常時供給する探触子用接触媒質塗布ノズルである。探触子用接触媒質13としては、水,グリセリンなどが挙げられるが、コストの点と鋳造ロール52に対する冷却効果の点から、水が望ましい。
【0022】
超音波探触子11と、鋳造ロール52と鋳片51の接触点との間、本実施形態では鋳造ロール52の外周面の上下方向における頂点位置の上方には、鋳造ロール用接触媒質タンク14からの鋳造ロール用接触媒質16を、鋳造ロール52の外周面に所定量間欠的に塗布するための鋳造ロール用接触媒質塗布ノズル15が配置されている。なお、鋳造ロール52の長手方向に対しては、超音波探触子11と鋳造ロール用接触媒質塗布ノズル15とは同一の位置に配置されている。鋳造ロール用接触媒質16は、常温でペースト状又は粉体状(固体)をなし、表面温度が約900〜1200℃である鋳片51に接触することで気化蒸発することなく液体状となる低融点物質であって、黒鉛ペースト,鋳造用パウダーなどが好ましい。なお、単一の物質でなくとも混合した状態として気化蒸発することなく液体状となるようにしておけばよい。鋳造用パウダー(鋳造用モールドパウダー)は、一般に、CaO,SiO2,Al23等を基材とし、これにアルカリ金属等が添加されたものが用いられる。前記鋳造ロール用接触媒質塗布ノズル15によって鋳造ロール52の外周面に塗布された鋳造ロール用接触媒質16は、鋳造ロール52の回転に伴って鋳片51に近づき鋳造ロール52と鋳片51との接触点に達すると、高温の鋳片との接触による熱で液体状となって鋳造ロール52と鋳片51の間に超音波の接触媒質(超音波伝達媒質)として供給されるようになっている。そして、鋳片51との接触点を通過して残存する鋳造ロール用接触媒質16は、接触媒質除去機構17によって除去されるようになっている。
【0023】
前記の鋳造ロール用接触媒質塗布ノズル15は、ノズル下部が截頭逆円錐筒状をなしており、鋳造ロール用接触媒質16の注ぎ口が広く、鋳造ロール52への供給口が狭くなっている。また、本実施形態では、鋳造ロール用接触媒質タンク14内に小形のスクリューフィーダが設置されており、このスクリューフィーダをモータによって回転駆動することにより、定められた所定量の鋳造ロール用接触媒質16が鋳造ロール用接触媒質塗布ノズル15から鋳造ロール52の外周面に供給されて塗布されるようになっている。
【0024】
18は、鋳造ロール52のロール軸に取り付けられ、鋳造ロール52の予め定められた設定点からの回転角度を知るためのロータリエンコーダ(回転検出器)である。また、24は、このロータリエンコーダ18の矩形波出力信号の数を計数するためのカウンタである。ロータリエンコーダ18及びカウンタ24は、鋳造ロール用接触媒質16の塗布のタイミングを定めたり、超音波探触子11で受信した超音波エコーの読み取りのタイミングを定めたりするためのものである。
【0025】
20はパルサーであり、超音波探触子11は、パルサー20から発生したパルス電圧が印加されると超音波を発生し、鋳造ロール52と鋳片51との接触点の方向に向けて超音波パルスを発信する。レシーバ21は、超音波探触子11に戻ってきた超音波エコーを受信してパルス電圧に変換する。23はプログラムされたマイクロコンピュータで構成された演算処理部である。演算処理部23は、入力として、カウンタ24の計数値(鋳造ロール52の回転角度)が入力されるとともに、超音波探触子11(レシーバ21)で受信した超音波エコーS1,S2がA/D変換器22を介して入力され、かつ、出力として、求めた鋳片凝固層厚みdを表示部25に出力するとともに、必要に応じて外部の制御系へ出力するようになっている。また、演算処理部23は、鋳造ロール用接触媒質タンク14内のスクリューフィーダを回転させるモータを駆動させるための鋳造ロール用接触媒質塗布指令を出力するようになっている。
【0026】
前記の鋳造ロール用接触媒質塗布ノズル15、スクリューフィーダを備えた鋳造ロール用接触媒質タンク14、ロータリエンコーダ18、カウンタ24及び演算処理部23は、鋳片51に接触して回転する鋳造ロール52の外周面にペースト状又は粉体状をなし、鋳片51に接触することで液体状となる鋳造ロール用接触媒質16を間欠的に供給する鋳造ロール用接触媒質供給手段を構成している。
【0027】
また、前記のパルサー20、レシーバ21、A/D変換器22、カウンタ24及び演算処理部23によって構成される計測部19と、ロータリエンコーダ18とは、液体状となった鋳造ロール用接触媒質16を介して鋳造ロール52と鋳片51とが接触しているときの超音波探触子11で受信した超音波エコーS2と鋳造ロール用接触媒質16が存在せずに鋳造ロール52と鋳片51とが接触しているときの超音波探触子11で受信した超音波エコーS1との差分(S2−S1)により、鋳片51の凝固層51aと未凝固層52bとの境界面エコーを求め、該境界面エコーに基づいて鋳片凝固層厚みを求める計測手段を構成している。
【0028】
このように構成される鋳片凝固層厚み検出装置の動作について、前記図1とともに、図2〜図4を参照して説明する。図2は図1に示す鋳片凝固層厚み検出装置による凝固層厚み検出手順を示すフローチャート、図3は図1に示す鋳片凝固層厚み検出装置による超音波エコーの一例を示す説明図、図4は図1に示す鋳片凝固層厚み検出装置による超音波エコーの差分処理の概念を示す図である。
【0029】
ここで、動作説明に先立ち、超音波探触子11で受信される超音波エコーS1,S2について説明する。
【0030】
鋳造ロール用接触媒質16が存在せずに鋳造ロール52と鋳片51とが接触しているときの超音波探触子11で受信される超音波エコーS1は、図4の(b)に示すように、まず、鋳造ロール表面エコーES、その次には鋳造ロール底面エコーEB1、その後、2回目の鋳造ロール底面エコーEB2、3回目の鋳造ロール底面エコー(図示せず)が観測される各エコー成分を持つ波形となる。つまり、鋳造ロール用接触媒質16を介さずに鋳造ロール52と鋳片51とが接触しているときには、超音波探触子11からの超音波が鋳片51内に伝達せず、鋳片51内の凝固層51aと未凝固層51bとの境界面エコーEは観察されない。
【0031】
一方、鋳造ロール用接触媒質16を介して鋳造ロール52と鋳片51とが接触しているときの超音波探触子11で受信される超音波エコーS2は、超音波探触子11からの超音波が鋳片51内にも伝達することから、図3,図4の(a)に示すように、鋳造ロール表面エコーES、1回目の鋳造ロール底面エコーEB1、2回目の鋳造ロール底面エコーEB2及び鋳片51内からの境界面エコーEが観察される各エコー成分を持つ波形となる。(この場合、図3,図4の(a)に示すように、境界面エコーEは、そのエコー強度(エコーレベル)が鋳造ロール底面エコーEB1,EB2のエコー強度に比較して小さく、また、時間的にも鋳造ロール底面エコーEB1,EB2と重なってしまうこともありうる。)
【0032】
さて、前記のように構成される鋳片凝固層厚み検出装置において、まず、そのときの鋳造ロール52の回転角を読み取る(ステップ101)。演算処理部23は、ロータリエンコーダ18に接続されたカウンタ24の計数値から、回転角を読み取り、その回転角θ1を記憶する。
【0033】
次に、鋳造ロール用接触媒質16の塗布を行う(ステップ102)。演算処理部23は、鋳造ロール用接触媒質塗布指令を出力して、鋳造ロール用接触媒質タンク14内のスクリューフィーダを回転させるモータを所定の短時間だけ駆動させる。これにより、鋳造ロール用接触媒質塗布ノズル15によって鋳造ロール52の外周面に所定量の鋳造ロール用接触媒質16が短時間だけ塗布される。
【0034】
次に、超音波エコーS1の読み取りを行う(ステップ103)。演算処理部23は、鋳造ロール用接触媒質塗布指令の出力のあと直ちに、レシーバ21からの超音波エコーをA/D変換器22を介して読み込むとともに、記憶する。これにより、鋳造ロール用接触媒質16を介さずに鋳造ロール52と鋳片51とが接触しているときの超音波探触子11で受信した超音波エコーS1(図4(b)に示す)が得られる。
【0035】
次に、鋳造ロール52の回転角がθ1+Δθ2になったか否かを判断する(ステップ104)。ここで、角度差Δθ2は、鋳造ロール52における鋳造ロール用接触媒質塗布位置と鋳片51との接触位置との角度差であり、本実施形態では図1に示すように90°である。
【0036】
次に、鋳造ロール52の回転角がθ1+Δθ2になると(ステップ104でYES)、超音波エコーS2の読み取りを行う(ステップ105)。演算処理部23は、カウンタ24の計数値がステップ101で記憶しておいた計数値に予め設定されている角度差Δθ2に相当する計数値を加算した値になると、鋳造ロール52が鋳造ロール用接触媒質16を塗布したときより角度差Δθ2だけ回転したことを知り、レシーバ21からの超音波エコーをA/D変換器22を介して読み込むとともに、記憶する。これにより、鋳造ロール用接触媒質16を介して鋳造ロール52と鋳片51とが接触しているときの超音波探触子11で受信した超音波エコーS2(図3,図4(a)に示す)が得られる。
【0037】
次に、2つの超音波エコーS2,S1の差分(S2−S1)により、鋳片凝固層51aと未凝固層51bとの境界面エコーEを検出する(ステップ106)。演算処理部23は、超音波エコーS2と超音波エコーS1との差分を求める。これにより、図4の(c)に示すように、鋳造ロール52の存在に起因する多重エコーEB1,EB2の影響を無くして鋳片51からのエコーである鋳片51の凝固層51aと未凝固層51bとの境界面からの境界面エコーEのみを優れたS/N比にて精度よく検出することができる。
【0038】
次に、鋳造ロール底面エコーEB1(鋳片表面エコー)と境界面エコーEとの時間差tを算出し、この時間差tと鋳片51中の音速(鋳片凝固層中の音速)とから鋳片凝固層厚みdを算出する(ステップ107)。演算処理部23は、差分により検出した境界面エコーEのピーク位置を検出し、この境界面エコーEのピーク位置と、超音波エコーS2における鋳造ロール底面エコーEB1(鋳片表面エコー)のピーク位置との時間差tを求め、算出された時間差tに鋳片51中の音速を乗じて、鋳片51の鋳片凝固層厚みdを算出する。
【0039】
次に、算出した鋳片凝固層厚みdを表示部25に表示する(ステップ108)。演算処理部23は、算出した鋳片凝固層厚みdを表示部25に出力するとともに、必要に応じて外部の制御系へ出力するようになっている。そして、算出した鋳片凝固層厚みdは、その厚み設定値より薄い場合には鋳造速度を減速し、厚み設定値より厚い場合には鋳造速度を増速する制御に用いられる。
【0040】
ステップ108の後、ステップ101へ戻るようになっており、鋳造ロール52の1回転中に予め定めた回数分だけ等間隔に鋳造ロール用接触媒質16の塗布と鋳片凝固層厚みdの検出とが行われるようになっている。例えば、鋳造ロール52の1回転中に1回だけ鋳造ロール用接触媒質16の塗布と鋳片凝固層厚みdの検出とが行われるようになっている。
【0041】
このように、本実施形態による鋳片凝固層厚み検出装置は、鋳片51に接触して回転する鋳造ロール52を介して超音波探触子11により鋳片51の凝固層厚みを検出するに際し、鋳造ロール52の外周面に黒鉛ペースト,鋳造用パウダーなどのような低融点物質からなる鋳造ロール用接触媒質16を所定量間欠的に供給し、この鋳造ロール用接触媒質16が鋳造ロール52の回転に伴って鋳片51に近づき鋳造ロール52と鋳片51との接触点に達すると、高温の鋳片51との接触による熱で液体状となって鋳造ロール52と鋳片51の間に超音波の接触媒質(超音波の伝達媒質)として供給されるように構成されている。したがって、鋳造ロール52と鋳片51との間に水ジェットとは違って鋳片品質に熱的な悪影響を与えることなく接触媒質を安定して定量供給することができ、超音波の伝達効率の低下を防いで高い凝固層厚み検出感度を保つことができる。
【0042】
また、鋳造ロール52の外周面に鋳造ロール用接触媒質16を間欠的に供給し、液体状となった鋳造ロール用接触媒質16を介して鋳造ロール52と鋳片51とが接触しているときの超音波探触子11で受信した超音波エコーS2と、鋳造ロール用接触媒質16なしで鋳造ロール52と鋳片51とが接触しているときの超音波探触子11で受信した超音波エコーS1との差分をとるように構成されている。これにより、鋳造ロール52の存在に起因する多重エコーEB1,EB2の影響を無くして鋳片51からのエコーである鋳片51の凝固層と未凝固層との境界面エコーEのみを優れたS/N比にて精度よく検出することができて、該境界面エコーEに基づいて鋳片凝固層厚みdを精度よく求めることができる。よって、鋳片品質に悪影響を与えることなく鋳片凝固層厚みを精度良く検出することができ、連続鋳造機の安定で、生産性の高い操業に寄与することができる。
【0043】
図5は本発明の別の実施形態による連続鋳造機の鋳片凝固層厚み検出装置の構成説明図である。ここで、内部に冷却液体58が満たされた鋳造ロール52’の前記内部に超音波探触子11を配置した点以外は、前記図1に示す鋳片凝固層厚み検出装置の構成と同一であるので、前記図1に示す鋳片凝固層厚み検出装置と同一部分には図1と同一の符号を付して説明を省略し、異なる点について説明する。
【0044】
この実施形態による鋳片凝固層厚み検出装置によれば、図5に示すように、鋳造ロール52’内部に満たされた鋳造ロール52’冷却用の冷却液体58が超音波探触子11にとってよい接触媒質となっている。これにより、超音波探触子11の熱的な保護をも確実に図りながら、鋳片品質に悪影響を与えることなく鋳片凝固層厚みを精度良く検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一実施形態による連続鋳造機の鋳片凝固層厚み検出装置の構成説明図である。
【図2】図1に示す鋳片凝固層厚み検出装置による凝固層厚み検出手順を示すフローチャートである。
【図3】図1に示す鋳片凝固層厚み検出装置による超音波エコーの一例を示す説明図である。
【図4】図1に示す鋳片凝固層厚み検出装置による超音波エコーの差分処理の概念を示す図である。
【図5】本発明の別の実施形態による連続鋳造機の鋳片凝固層厚み検出装置の構成説明図である。
【図6】連続鋳造機の全体構成を示す斜視図である。
【図7】連続鋳造機における従来の接触媒質供給手段の説明図である。
【図8】連続鋳造機における従来の接触媒質供給手段の説明図である。
【図9】連続鋳造機における従来の接触媒質供給手段の説明図である。
【符号の説明】
【0046】
11…超音波探触子
12…探触子用接触媒質塗布ノズル
13…探触子用接触媒質
14…鋳造ロール用接触媒質タンク
15…鋳造ロール用接触媒質塗布ノズル
16…鋳造ロール用接触媒質
17…接触媒質除去機構
18…ロータリエンコーダ
19…計測部
20…パルサー
21…レシーバ
22…A/D変換器
23…演算処理部
24…カウンタ
25…表示部
51…鋳片 51a…凝固層 51b…未凝固層
52,52’…鋳造ロール
58…冷却液体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳片の凝固層厚みを超音波により検出する連続鋳造機の鋳片凝固層厚み検出装置において、
前記鋳片に接触して回転する鋳造ロールの外周面にペースト状又は粉体状の低融点物質からなる鋳造ロール用接触媒質を間欠的に供給する鋳造ロール用接触媒質供給手段と、
前記鋳造ロールと前記鋳片との接触点での鋳片外周面に対する略法線上に位置され、接触媒質を介して前記鋳造ロールに接触させる超音波探触子と、
前記鋳造ロール用接触媒質を介して前記鋳造ロールと前記鋳片とが接触しているときの前記超音波探触子で受信した超音波エコーと前記鋳造ロール用接触媒質が存在せずに前記鋳造ロールと前記鋳片とが接触しているときの前記超音波探触子で受信した超音波エコーとの差分により、前記鋳片の凝固層と未凝固層との境界面エコーを検出し、該境界面エコーに基づいて鋳片凝固層厚みを求める計測手段と、を備えたことを特徴とする連続鋳造機の鋳片凝固層厚み検出装置。
【請求項2】
前記超音波探触子は、内部が冷却水で満たされた鋳造ロールの該内部に配置されていることを特徴とする請求項1記載の連続鋳造機の鋳片凝固層厚み検出装置。
【請求項3】
前記低融点物質が黒鉛ペースト、あるいは鋳造用パウダーであることを特徴とする請求項1又は2記載の連続鋳造機の鋳片凝固層厚み検出装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−53040(P2006−53040A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−234757(P2004−234757)
【出願日】平成16年8月11日(2004.8.11)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】