説明

連続鋳造用浸漬ノズル

【課題】ドロマイトクリンカーを含有する内孔体用耐火物を浸漬ノズルに適用する場合に、この内孔体用耐火物の溶損やアルミナ付着を少なくして、長時間にわたってアルミナ付着を抑制可能な浸漬ノズルを提供すること。
【解決手段】ドロマイトクリンカーを含有し、カーボン含有量が10質量%以下である内孔体用耐火物を内装した連続鋳造用浸漬ノズルにおいて、内孔体用耐火物のCaO量を注入口側と吐出口側で異ならせ、かつ注入口側のCaO量を多くする。好ましくは、吐出口1上端から注入口2側に向かって150mmの範囲に材質境界線Aがあり、この材質境界線Aよりも吐出口1側の内孔の少なくとも一部にはCaO量が20質量%以上40質量%未満の内孔体用耐火物4を内装し、材質境界線Aよりも注入口2側の内孔の少なくとも一部にはCaO量が40質量%以上の内孔体用耐火物3を内装する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶鋼の連続鋳造に際して使用される浸漬ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、とくに、薄板等の高級鋼として鋳造されるアルミキルド鋼は鋼材品質の厳格化に伴い、連続鋳造においてタンディッシュからモールドに注入する際に使用するノズルの内孔へのアルミナ付着を防止することに多くの努力が払われている。
【0003】
ノズルに付着したアルミナは合体して大型の介在物になり、それが溶鋼流と共に鋳片内に取り込まれて鋳片の欠陥となり品質を低下させる。
【0004】
このノズルの内孔へのアルミナ付着を防止する対策の一例として、ノズルの内面からアルゴンガスを溶鋼中に吹き込んで物理的にアルミナの付着を防止する手法が採られている。しかし、この手法はアルゴンガスの吹き込み量が多すぎると気泡が鋳片内に取り込まれてピンホールとなり、鋳片欠陥となる。したがって、ガスの吹き込み量には制約があるため必ずしも十分な対策とはなり得ない。
【0005】
アルミナ付着を防止する有効な手段としてCaOを含有する耐火物の適用が挙げられる。CaOは付着したアルミナと反応して低融物を形成し、この反応物は容易に溶鋼流によって流されるためアルミナの付着を抑制することができる。CaOを含有する代表的な耐火性骨材としてドロマイトクリンカーがあり、ドロマイトクリンカーを含有する耐火物をノズルの内孔に配置することでアルミナの付着を抑制することができる。
【0006】
しかしながら、前述のようにドロマイトクリンカーは鋼中のアルミナと反応して溶損してゆくので、実用化に際して寿命が短いという問題がある。このため、本発明者等は特許文献1で、アルミナ付着防止機能とともに耐食性を改善する方法を開示した。すなわち、耐食性低下の要因である黒鉛等のカーボン含有率を少なくし、耐食性を向上させるためのマグネシアクリンカーを併用し、しかも適切な粒度構成とし、さらにCaOとMgOの比を特定の範囲とする方法である。この方法により、例えば浸漬ノズルに適用した場合、アルミナ付着防止機能とともに耐食性を改善することができたが、さらに使用回数を増やしてゆくと、吐出口周辺の溶損が大きかったり、未浸漬部にアルミナが付着するなど、長時間にわたってはアルミナ付着防止効果を持続できない場合があることがわかった。
【特許文献1】WO2004/082868A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、ドロマイトクリンカーを含有する内孔体用耐火物を浸漬ノズルに適用する場合に、この内孔体用耐火物の溶損やアルミナ付着を少なくして、長時間にわたってアルミナ付着を抑制可能な浸漬ノズルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ドロマイトを含有する内孔体用耐火物を内装した浸漬ノズルによる鋳造を多数実施した結果、溶損およびアルミナ付着が浸漬ノズルの部位によって異なり、そのことが浸漬ノズルの耐用性のネックになっていることがわかった。具体的にはメニスカス付近にはアルミナ付着が多く見られ、吐出口付近は溶損が大きいことを知見した。そこで、本発明者等は、アルミナ付着状況と溶損状況から特定のCaO量の内孔体用耐火物を特定部位に配置することでさらに浸漬ノズルの耐用性が向上することを知見した。
【0009】
すなわち、本発明は、ドロマイトクリンカーを含有し、カーボン含有量が10%質量以下である内孔体用耐火物を内装した連続鋳造用浸漬ノズルにおいて、内孔体用耐火物のCaO量が注入口側と吐出口側で異なり、かつ注入口側のCaO量が多いことを特徴とする。
【0010】
具体的には、吐出口上端から注入口側に向かって150mmの範囲に材質境界線があり、この材質境界線よりも吐出口側の内孔の少なくとも一部にはCaO量が20質量%以上40質量%未満の内孔体用耐火物を内装し、前記材質境界線よりも注入口側の内孔の少なくとも一部にはCaO量が40質量%以上の内孔体用耐火物を内装することができる。
【0011】
また、材質境界線は、吐出口上端から注入口側に向かって20mm以上150mm以下の範囲内にあるようにすることができる。さらに、内装した内孔体用耐火物の見掛け気孔率は15%以上30%以下とすることができる。
【0012】
本発明の詳細を図1で説明する。
【0013】
図1に示す浸漬ノズルの吐出口1の上端から注入口2側に向かった距離aによって示される材質境界線Aを境界として、ドロマイトクリンカーを含有ししかもCaO量の異なる内孔体用耐火物を使い分けることが本発明の趣旨である。その場合、注入口側の内孔体用耐火物3のCaO量の方が吐出口側の内孔体用耐火物4のCaO量よりも多くなる必要がある。
【0014】
さらに、より好ましい場合について説明すると、材質境界線Aよりも吐出口1側の少なくとも一部にはCaO量が20質量%以上40質量%未満の内孔体用耐火物4を配置することが好ましい。20質量%未満では、アルミナの付着防止効果が少なく長時間の鋳造には不適当となる場合が多くなる。40質量%以上では、巻き込まれたモールドパウダーや溶鋼流によって溶損が助長され、内孔体用耐火物が溶損して母材が露出すると、やはりアルミナが付着し長時間の鋳造には不適当となる場合が多くなる。
【0015】
材質境界線Aよりも注入口2側の内孔の少なくとも一部にはCaO量が40質量%以上の内孔体用耐火物3を適用することが好ましい。特に二次メニスカス5付近にはアルミナの付着が多いため、CaO量が40質量%以上の内孔体用耐火物3を適用することが好ましい。
【0016】
材質境界線とは、浸漬ノズルの内孔面に内装された注入口側内孔体用耐火物と吐出口側内孔体用耐火物との境界線のことである。ただし、構造面での補強等でこれらの耐火物の間に本体の耐火物あるいは、全く異なる材質の耐火物が配置される場合には、材質境界線とは吐出口側内孔体用耐火物の上端と接する耐火物との境界線を言う。例えば、2つのスリーブ状耐火物の間に10mm程度の隙間を設け耐火性の充填材を充填する場合には、吐出口側内孔体用耐火物と充填材との境界を材質境界線とする。
【0017】
材質境界線までの距離aについては吐出口上端から150mm以下の範囲とすることが好ましいが、より好ましくは吐出口上端から20mm以上150mm以下の範囲である。20mm未満では、巻き込まれたモールドパウダーの巻き込みにより吐出口側の内孔体用耐火物の溶損が大きくなる場合がある。また、150mmを超えると二次メニスカス付近のアルミナ付着が多くなる。
【0018】
本発明に適用するドロマイトクリンカーとしては、約60質量%のCaOと約40質量%のMgOを主成分とする天然のドロマイトを熱処理した天然ドロマイトクリンカーの他に、人工原料によって任意の組成に調合した合成ドロマイトクリンカーも使用可能である。
【0019】
炭素成分の含有量は10質量%以下に抑える必要がある。10質量%を超えると溶損が大きくなり、所望の耐食性を得ることが困難になる。炭素成分としては、ピッチの他にフェノール樹脂の炭化物、ピッチ、カーボンブラック等、耐火物に一般的に使用される炭素が適用可能である。しかしながら、黒鉛は溶損防止のため使用しないか、あるいは極力少ない方が、例えば3質量%以下が好ましい。
【0020】
本発明で使用可能なマグネシアクリンカーとしては、耐火物用として一般的に使用されている電融マグネシアクリンカー、焼結マグネシアクリンカー等のクリンカーがある。クリンカーの純度は特に限定されるものではないが、好ましくは95質量%以上、より好ましくは98質量%以上である。
【0021】
内孔体用耐火物は、原料としてドロマイトクリンカーを主体とし必要に応じてマグネシアクリンカー使用した配合物にフェノール樹脂等のバインダーを添加して混練し、成形後熱処理することで得られる。この時ドロマイトクリンカー、マグネシアクリンカーの他、耐火原料として、鋳造用ノズルの原料として一般的に用いられる酸化物、非酸化物、金属等も使用可能であるが、それらの内、CaOと低融物を生成する、例えばアルミナ−シリカ系酸化物(酸化によりそれら成分を生成する非酸化物や金属等の原料を含む)等の成分からなる原料の使用量は15質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。それらが15質量%を超えると、CaOとの反応により生成した低融物が過多になって耐食性が低下するからである。
【0022】
上記配合物を焼成した後の本発明の内孔体用耐火物の見掛け気孔率は15%以上30%以下が好ましい。15%未満では内孔体用耐火物の弾性率が高くなり、注湯初期の膨張によって母材を押し割る可能性が高くなる。一方、30%を超えると、耐食性の低下が大きくなり好ましくない。
【0023】
本発明の連続鋳造用浸漬ノズルにおいては、スリーブ状の内孔体用耐火物を別に作製した浸漬ノズル本体に挿入しても良いし、内孔体用耐火物を浸漬ノズル本体と一体的に成形して熱処理しても良い。また、内孔体用耐火物の適用部位は必ずしも内孔全部に適用する必要はなく、必要な範囲に適用すれば良い。また内孔体用耐火物の厚みは3〜20mmがより好ましい。そして、内孔体用耐火物は浸漬ノズルの全内孔面積のうち50%以上の面積に内装されることがアルミナ付着防止効果の点からより好ましい。また、同じ理由から、注入口側及び吐出口側に内装される内孔体用耐火物は境界部を境にそれぞれの内孔面積のうち40%以上を占めることがより好ましい。ここで言う内孔には吐出口を含まないこととする。ただし、吐出口には必要に応じてCaOやドロマイトクリンカーを含有する耐火物を配置しても問題は無い。
【0024】
浸漬ノズルの材質としては、アルミナ黒鉛質、ジルコニア黒鉛質等の一般的に浸漬ノズルとして使用されている材質であれば特に問題なく使用することができる。また、マグネシア黒鉛質も使用することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の連続鋳造用浸漬ノズルによれば、長時間にわたってアルミナ付着を防止することができ、鋳片の品質を改善することができるとともに、ノズルそのものの寿命を著しく延長することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の実施の形態を実施例によって説明する。
【実施例】
【0027】
本発明における注入口側および吐出口側に適用する内孔体用耐火物のCaO含有量の影響を調べた。
【0028】
表1は、供試材としての配合割合を示すもので、CaOの含有量が60質量%とMgOの含有量が40質量%のドロマイトクリンカーと、純度が98質量%のマグネシアクリンカーの配合割合をそれぞれ変化させたものである。
【0029】
それぞれの配合物にカーボンブラックと適量のフェノールレジンを添加し、均一に混練したはい土を肉厚10mmの内孔体用耐火物としてのスリーブ状にプレス成形し、得られた成形体を1050℃で熱処理して供試体を得た。吐出口側に配置するスリーブは長さ300mmとし、注入口側に配置するスリーブは長さ900mmとした。
【0030】
これらの供試体を浸漬ノズルの吐出口上端から100mmの材質境界線を境界として、モルタルを使用して内孔に内装し、浸漬ノズルの内孔面の全面にスリーブを配置し、図1と同じ形状とした。この浸漬ノズルを使用してアルミキルド鋼の鋳造を行った。鋳造条件は、鍋容量が300ton、タンディッシュ容量が55ton、鋳片の引き抜き速度は1.3〜1.5m/分、鋳造時間は約330分であった。
【0031】
使用後のノズルの内孔を調査して、該当部位の最大アルミナ付着量が2mm未満を○、2mm以上4mm以下を△、4mmを超えるものを×とした。また、最大溶損量とその位置を測定した。その結果を表2に示す。
【0032】
比較例1から3は全て、吐出口付近の内孔体用耐火物が完全に溶損して消失したため母材が露出し、その上にアルミナが多量に付着していた。さらに、比較例3では二次メニスカス付近のアルミナ付着も多かった。
【0033】
これに対して、実施例1から4は吐出口付近および二次メニスカス付近共にアルミナの付着が少なく良好である。ただし、実施例4のように吐出口側の内孔体用耐火物としてCaO含有量が20質量%未満の材質を適用するとアルミナが付着する場合があるので20質量%以上が好ましいことが分かる。また、耐食性の点ではCaO含有量は40質量%未満が好ましいことが分かる。
【0034】
溶損に関しては概ねCaO量が少ないほど良好であるが、最大溶損量を示す位置は全て吐出口上端から15〜20mm程度の位置に集中していた。
【0035】
これらのテストにより、総合的には材質境界線は吐出口上端から20mm以上100mm以下の位置とし、吐出口側の内孔にはCaO量が20質量%以上40質量%未満の材質を適用することが好ましく、注入口側の内孔にはCaO量が40%質量以上の材質を適用することが好ましいことが分かる。
【表1】

【表2】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、鋼の連続鋳造に使用する浸漬ノズルに適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明を適用した浸漬ノズルを示す。
【符号の説明】
【0038】
1:吐出口
2:注入口
3:注入口側の内孔体用耐火物
4:吐出口側の内孔体用耐火物
5:二次メニスカス
A:材質境界線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドロマイトクリンカーを含有し、カーボン含有量が10質量%以下である内孔体用耐火物を内装した連続鋳造用浸漬ノズルにおいて、内孔体用耐火物のCaO量が注入口側と吐出口側で異なり、かつ注入口側のCaO量が多いことを特徴とする連続鋳造用浸漬ノズル。
【請求項2】
吐出口上端から注入口側に向かって150mmの範囲に材質境界線があり、この材質境界線よりも吐出口側の内孔の少なくとも一部にはCaO量が20質量%以上40質量%未満の内孔体用耐火物を内装し、前記材質境界線よりも注入口側の内孔の少なくとも一部にはCaO量が40質量%以上の内孔体用耐火物を内装することを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造用浸漬ノズル。
【請求項3】
材質境界線が吐出口上端から注入口側に向かって20mm以上150mm以下の範囲にあることを特徴とする請求項1または2に記載の連続鋳造用浸漬ノズル。
【請求項4】
内装した内孔体用耐火物の見掛け気孔率が15%以上30%以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の連続鋳造用浸漬ノズル。

【図1】
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【公開番号】特開2006−263769(P2006−263769A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−84810(P2005−84810)
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】