説明

連続鋳造用浸漬ノズル

【課題】複雑な機構を有することなく、浸漬ノズルからの溶鋼流速及び溶鋼の流速変動を低減させることによって、鋳片の割れによる品質欠陥やブレークアウト等の操業トラブルを引き起こさない連続鋳造用浸漬ノズルを提供する。
【解決手段】上部に流量調節機構2を有し、下部に対向する一対の吐出孔3を有する連続鋳造用浸漬ノズル1において、前記吐出孔3の最外部における幅WSNと高さHSNの比が次式(1)の条件を満たし、かつ、前記一対の吐出孔3の最外部における吐出孔総断面積ASNと前記吐出孔3直上の内部流路4の断面積AINの比が次式(2)の条件を満たすと共に、更に、前記流量調節機構2の下端から前記吐出孔3の上端までの内部流路の長さLnozzleと内部流路4の相当直径DINの比が次式(3)の条件を満たす様に構成されてなる。 1.6 < WSN/HSN < 2.3…… (1), ASN /AIN < 2.6…… (2), Lnozzle / DIN> 6.0…… (3)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンディシュから鋳型へ溶鋼を注湯するための連続鋳造用浸漬ノズルに関し、より詳しくは、鋳片の割れによる品質欠陥やブレークアウト等の操業トラブルを引き起こさない連続鋳造用浸漬ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造設備におけるタンディシュは、鋼殻内面に耐火物ライニングを施して溶鋼を受容するように構成され、その底部には、鋳型に対し溶鋼を注湯するための連続鋳造用浸漬ノズル(以下、単に浸漬ノズルともいう)が取り付けられている。この浸漬ノズルは、注湯中に溶鋼流が空気に暴露されて酸化することを防止する役目を有するものであり、鋳型に溶鋼を注湯する際には、その下端部を鋳型内の溶鋼中に浸漬して使用している。
【0003】
鋼の連続鋳造において、前記浸漬ノズルからの溶鋼の吐出流が鋳片の冷却能力が弱いコーナ部等に集中的に衝突すると、鋳片の抜熱能力が不足して局所的な凝固遅れが発生し、鋳片の割れによる品質欠陥や、ブレークアウト等の操業トラブルを引き起こす。そのため、浸漬ノズルからの溶鋼の吐出流は鋳片に到達する前に拡散させて、衝突流速を低減する必要がある。また、凝固の不均一を低減するためには、前記吐出流の流速の時間変動、空間変動を抑制する必要がある。
【0004】
溶鋼の吐出流速を低減させるためには、吐出孔の断面積を大きくすれば良いが、断面積が大きくなり過ぎると、吐出孔流路内で流れの不均一が生じて、流速変動が発生し易くなる。また、スライドプレート開閉量の変化や吹込みAr流量の増減などの操業条件の変化や、浸漬ノズルの内部流路へのアルミナ等の付着物の堆積により、浸漬ノズル内部の流動状況が変動すると、同様に吐出流も変動し易くなる。そのため、浸漬ノズルの吐出孔から速度分布を均一にして、浸漬ノズル内の流れの変動を抑える技術が従来より提案されている。
【0005】
この様な従来例に係る浸漬ノズルには、吐出孔の断面形状を凹形としたり、外側に向かって拡径する段差部を設ける等の吐出孔形状の改良(例えば、特許文献1,2参照)、ノズル内部の湯溜まり部底面に尾根状突起を設ける等の吐出孔周辺形状の改良(例えば、特許文献3参照)、内部流路に突起部や凹部を配設する等の内部流路の改良(例えば、特許文献4,5参照)、あるいは吐出孔や内部流路等の寸法、吐出流速等をある関係式を満たす様な構成とする(例えば、特許文献6,7参照)等多数の提案がなされている。
【0006】
【特許文献1】特開平2−169160号公報
【特許文献2】特開2002−66729号公報
【特許文献3】国際公開番号WO2005/070589
【特許文献4】特開2004−122226号公報
【特許文献5】特開2005−296971号公報
【特許文献6】特開2004−209512号公報
【特許文献7】特開2005−28385号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、吐出孔や湯溜まり部の形状を複雑化すれば、浸漬ノズルの加工が困難となりコストアップにつながる。また、突起部や凹部を多数設けると、浸漬ノズルの加工が困難でコストアップになる上、溶損や付着物により形状が変化し使用中に効果が低減し、更には突起部が剥離した場合に鋳片に捕捉されて製品欠陥になる可能性がある。また、吐出孔や内部流路等の寸法、吐出流速等をある関係式を満たす様な構成とする場合は、前記関係式が複雑であると設定が煩雑となる上、生産管理上も絶えず寸法変化に対する確認が必要等の問題が存在している。
【0008】
一方向に進行する流れを安定させる手段としては、流れ方向を回転軸とする回転運動を付加する旋回流方式が燃焼ノズル等に用いられている。しかし、浸漬ノズルの内部流路における溶鋼流速は、燃焼ノズルにおける気体と比較して遅いため、旋回流の方向が安定せず、適用は困難である。
【0009】
従って、本発明の目的は、複雑な機構を有することなく、浸漬ノズルからの溶鋼流速及び溶鋼の流速変動を低減させることによって、鋳片の割れによる品質欠陥やブレークアウト等の操業トラブルを引き起こさない連続鋳造用浸漬ノズルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記のような事情に鑑み、吐出流に反対方向に旋回する一対の旋回流(双子渦)を発生させると、渦が他の流体に与える誘導速度は常に一定方向を向くことになり、遅い流速でも旋回流は安定する上、流れ直進エネルギーを渦に変換することによって、流速も低減させることが可能なことを知見して本発明をなすに至ったものである。
【0011】
前記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る連続鋳造用浸漬ノズルが採用した手段は、上部に流量調節機構を有し、下部に対向する一対の吐出孔を有する連続鋳造用浸漬ノズルにおいて、前記吐出孔の最外部における幅WSNと高さHSNの比WSN/HSNが次式(1)の条件を満たし、かつ、前記一対の吐出孔の最外部における吐出孔総断面積ASNと前記吐出孔直上の内部流路の断面積AINの比ASN/AINが次式(2)の条件を満たすと共に、更に、前記流量調節機構の下端から前記吐出孔の上端までの内部流路の長さLnozzleと内部流路の相当直径DINの比Lnozzle/ DINが次式(3)の条件を満たす様に構成されてなることを特徴とするものである。
【0012】
1.6 < WSN/HSN < 2.3 …… (1)
SN /AIN < 2.6 …… (2)
nozzle / DIN> 6.0 …… (3)
ここで、
DIN=4×(内部流路の断面積)/(内部流路の断面における周囲の長さ) ……(4)
【0013】
本発明の請求項2に係る連続鋳造用浸漬ノズルが採用した手段は、請求項1に記載の連続鋳造用浸漬ノズルにおいて、前記吐出孔の流路下部における幅方向中央に、次式(5)の条件を満たす高さHtnozzleの第1突起部が設けられてなることを特徴とするものである。
Htnozzle /HSN > 0.15 …… (5)
【0014】
本発明の請求項3に係る連続鋳造用浸漬ノズルが採用した手段は、請求項1または2に記載の連続鋳造用浸漬ノズルにおいて、前記内部流路の吐出孔直上部の、吐出孔中心線と直交する円周位置に、次式(6)の条件を満たす高さHの第2突起部が、対向して一対配置されてなることを特徴とするものである。
Ltop/H < 5.0 …… (6)
ここで、
Ltop:第2突起部の下端から吐出孔の上端までの距離
【発明の効果】
【0015】
本発明の請求項1に係る連続鋳造用浸漬ノズルによれば、上部に流量調節機構を有し、下部に対向する一対の吐出孔を有する連続鋳造用浸漬ノズルにおいて、前記吐出孔の最外部における幅WSNと高さHSNの比WSN/HSNが前式(1)の条件を満たし、かつ、前記一対の吐出孔の最外部における吐出孔総断面積ASNと前記吐出孔直上の内部流路の断面積AINの比ASN/AINが前式(2)の条件を満たすと共に、更に、前記流量調節機構の下端から前記吐出孔の上端までの内部流路の長さLnozzleと内部流路の相当直径DINの比Lnozzle/ DINが前式(3)の条件を満たす様に構成されてなる。
【0016】
その結果、内部の流速分布に変動が生じても、渦の発生するモードが2個に限定され、常に安定して双子渦が発生するので、浸漬ノズルからの溶鋼の吐出流の変動が抑制され、浸漬ノズルからの溶鋼の吐出流は鋳片に到達する前に良好に拡散されるので、鋳片の抜熱能力が不足して局所的な凝固遅れが発生し、鋳片の割れによる品質欠陥やブレークアウト等の操業トラブルを引き起こすことが無い。
【0017】
また、本発明の請求項2に係る連続鋳造用浸漬ノズルによれば、請求項1に記載の連続鋳造用浸漬ノズルにおいて、前記吐出孔の流路下部における幅方向中央に、前式(5)の条件を満たす高さHtnozzleの第1突起部が設けられてなるので、旋回方向の流れが中央で分断されて、通常では1個の渦が生成される条件でも双子渦が生成され、更に安定した吐出流が形成される。
【0018】
更に、本発明の請求項3に係る連続鋳造用浸漬ノズルによれば、請求項1または2に記載の連続鋳造用浸漬ノズルにおいて、前記内部流路の吐出孔直上部の、吐出孔中心線と直交する円周位置に、前式(6)の条件を満たす高さHの第2突起部が対向して一対配置されてなるので、溶鋼の流れは前記突起部を通過後に剥離して2個の後流渦を生成し、前記双子渦の成長を促進する効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の実施の形態に係る連続鋳造用浸漬ノズルの基本構成について、以下添付図1〜4を参照しながら説明する。図1は本発明の実施の形態に係る浸漬ノズル全体を示す模式的立断面図である。図2は図1のX部詳細を示し、図(a)はX部の部分拡大図、図(b)は図(a)の矢視Y−Yを示す断面図、図(c)は図(a)の吐出孔を吐出孔中心線に沿って外側から正面視した図である。図3は吐出孔の幅と高さの比の違いによる吐出孔近傍の溶鋼の流れ状況を表す概念図であり、図(a)は吐出孔の最外部における幅と高さの比が1.0の場合、図(b)は吐出孔の最外部における幅と高さの比が2.0の場合を示す。図4は吐出孔の最外部における幅と高さの比を変化させた時の吐出流のモードの変化を表す概念図であり、図(a)は渦の発生状況、図(b)は偏流の程度を示す。
【0020】
先ず、本発明の実施の形態に係る浸漬ノズル1は、図1,2に示す様に、上部にスライドプレート(流量調節機構)2を、下部に浸漬ノズル1の中心に対して対向する一対の吐出孔3を有している。そして、溶鋼Mの出鋼量を制御する前記スライドプレート2を介して、図示しないタンデッシュに垂直方向に取り付けられ、鋳造時はその下部に設けられた一対の吐出孔3から、鋳型に対し溶鋼Mを注湯するよう構成されている。
【0021】
そして、スライドプレート2を介してこの浸漬ノズル1の内部流路4に流れ込んで来た溶鋼Mは、上流側では、内部流路4の内壁面近傍を除き流速が流れ方向にほぼ均一な境界層が未発達な流れF1を形成する一方、下流側では、境界層が発達した流れF2を形成しながら流下し、湯溜まり部4aに衝突した後吐出孔3から鋳型に排出される。
【0022】
前記吐出孔3は、湯溜まり部4aの上側に、図2(a),(b)に示す如く、浸漬ノズル1の中心線に直交する水平位置に対向して一対配置されると共に、浸漬ノズル1の中心線に直交する水平面より下向きの吐出角度θを有して夫々形成されている。また、これらの吐出孔3の幅や高さは、吐出孔3の中心線に直交する任意の切断面において必ずしも一定ではなく、例えば図2(b),(c)に示す如く、幅は内側から外側に行くに従って大きくなる一方、高さは一定という様な構成をなしている。
【0023】
次に、この様な本発明の実施の形態に係る浸漬ノズル1の構成において、前記吐出孔3の幅と高さの比を変えた時の吐出孔3近傍における溶鋼の流れ状況について、数値解析した結果を基に、以下添付図3,4を参照しながら説明する。
【0024】
浸漬ノズル1の下流側の内部流路4においては、上述した様に境界層の発達した溶鋼の流れF2が形成され、この流れF2の幅方向中央近傍の溶鋼は、内部流路4の底面である湯溜まり部4aに衝突することなく吐出孔3より吐出される直行流F3aを形成する一方、前記境界層流れF2の幅方向両端近傍の溶鋼は、内部流路4の底面である湯溜まり部4aに衝突した後、この湯溜まり部4aの上部に配置された吐出孔3に向かって上昇流F3bを形成して吐出される。そして、前記直行流F3aと上昇流F3bとが合体すると、吐出流内に渦Vが形成される。
【0025】
渦Vは円形になる状態が安定なため、前記吐出孔3最外部における幅WSNと高さHSNの比WSN/HSNが1.0に近くなると、図3(a)に示す如く、前記上昇流F3bが未発達であるため、前記直行流F3aが支配的となって形成されるが、この様な渦Vは、図4(a)に示す様に、右向き1個、左向き1個あるいは下部に2個等浸漬ノズル1内部の流動の変動に影響を受けて様々なモードを取るため、吐出流は安定しなくなる。
【0026】
また、吐出孔3最外部における幅WSNが高さHSNの3倍に近づくと、図4(a)に示す如く、3個の渦が発生するモードがあるため、吐出流は上記と同様に安定しない。一方、浸漬ノズル1の吐出孔3最外部の幅WSNを高さHSNの2倍近傍にすると、図3(b)や図4(a)に示す如く、前記上昇流F3bが発達し、一対の吐出孔3からの吐出流は夫々一対の反対方向に回る双子渦V1,V2を形成した流れとなる。
【0027】
即ち、本発明に係る浸漬ノズル1は、吐出孔3最外部における幅WSNと高さHSNの比WSN/HSNが、次式(1)の条件を満たすのが好ましい。この比WSN/HSNが、1.6以下であると渦Vの発生が不安定となり、前記比WSN/HSNが2.3以上であると3個の渦が発生するが、旋回方向が一定せず、何れも図4(b)に示す如く偏流が発生し易くなり、吐出流が不安定となる。
【0028】
以上の結果から、吐出流の夫々に一対の双子渦V1,V2を安定して形成させるためには、吐出孔3最外部における幅WSNを高さHSNの2倍に近づける必要があり、その状態では、内部の流速分布に変動が生じても、渦の発生するモードが夫々の吐出流で2個に限定されるため、常に双子渦V1,V2が各吐出流で発生し、吐出流の変動が抑制される。
1.6 < WSN/HSN < 2.3 …… (1)
【0029】
同時に、前記一対の吐出孔3最外部における吐出孔総断面積ASNと前記吐出孔3直上の内部流路4の断面積AINの比ASN /AINが次式(2)の条件を満たすと共に、浸漬ノズル1上部に設けられたスライドプレート2下端から前記吐出孔3上端までの内部流路4の長さLnozzleと内部流路4の相当直径DINの比Lnozzle/ DINが次式(3)の条件を満たす様に構成されるのが好ましい。前記比ASN /AINを2.6以上とし、吐出孔3の全断面積ASNをノズル1の内部流路4の断面積AINより急激に大きくしたり、前記比Lnozzle/ DINを6.0以下として内部流路4の長さを短かくすると、溶鋼の流速分布が境界層形から偏倚し渦が生成され難くなるため好ましくない。
SN /AIN < 2.6 ……(2)
nozzle / DIN> 6.0 …… (3)
【0030】
ここで、前記相当直径DINは、内部流路4の断面形状が円形以外の場合は、次式(4)で求められる。
DIN=4×(内部流路の断面積)/(内部流路の断面における周囲の長さ) …(4)
【0031】
次に、本発明の実施の形態に係る浸漬ノズルの構成において、浸漬ノズルの吐出孔近傍に突起部を設けた場合について、吐出孔近傍における溶鋼の流れ状況を数値解析した結果を基に、以下添付図5,6を参照しながら説明する。図5(a)は吐出孔の流路下部における幅方向中央に第1突起部を設けた場合の吐出孔内の溶鋼の流れ状況を表す概念図であり、図(b)は図(a)の矢視Z−Zを示す断面図である。図6(a)は吐出孔の直上部の内部流路に第2突起部を設けた場合の吐出孔近傍の溶鋼の流れ状況を表す概念図であり、図(b)は図(a)の矢視W−Wを示す断面図である。
【0032】
本発明に係る浸漬ノズル1は、前記吐出孔3の流路下部3aにおける幅方向中央に、次式(5)の条件を満たす高さHtnozzleの第1突起部5が設けられるのが好ましい。吐出孔3の流路下部3aにおける幅方向中央に(5)式を満足する第1突起部5を設けると、旋回方向の流れが中央で分断されて、通常では1個に渦が生成される条件でも、双子渦V1,V2が各吐出孔に生成される。次式(5)の比Htnozzle /HSNが0.15以下であると、第1突起部5の高さが不足するため、通常では1個の渦が生成される条件に対して、安定して双子渦V1,V2を各吐出孔に生成させることが出来ない。
Htnozzle /HSN > 0.15 …… (5)
【0033】
更に、本発明に係る浸漬ノズル1において、次式(6)の条件を満たす高さHの第2突起部6が、内部流路4の吐出孔3の直上部に、吐出孔3の中心線と直交する位置に一対対向して配置されるのが好ましい。ここで、Ltopは、流路内の第2突起部6の下端から吐出孔3の上端までの距離である。浸漬ノズル1内の内部流路4の吐出孔3の直上部に、この様に配置された第2突起部6を設けると、溶鋼の流れは第2突起部6を通過後に剥離して2個の後流渦V3,V4を生成する。
Ltop/H < 5.0 …… (6)
【0034】
生成した前記後流渦V3,V4の中心が吐出孔3に流入すると、上述した双子渦V1,V2と同じ渦の旋回方向を持つことになり、吐出流の渦生成を助長することになる。上式(6)の比Ltop/Hが5.0以下であると、第2突起部6の高さが不足するため、吐出流の双子渦V1,V2の生成を助長することが不十分となる。
【0035】
上記説明の通り、前記浸漬ノズル1において、吐出孔3の流路下部3aにおける幅方向中央に、前式(5)の条件を満たす高さHtnozzleの第1突起部5を設けたり、内部流路4の吐出孔3の直上部において、前式(6)の条件を満たす高さHの第2突起部6を、吐出孔3の中心線と直交する位置に一対対向して配置することによって、双子渦V1,V2の生成を助長させることが可能となる。
【0036】
<実施例>
本発明に係る連続鋳造用浸漬ノズルの有効性を検証するため、流動シミュレーションによる数値実験を行った実施例について、以下添付図7〜9を参照しながら説明する。図7はブルーム連鋳機における溶鋼の吐出流の流跡線を示す斜視図であり、図(a)は本発明に係る実施例(WSN/HSN=2)の場合、図(b)は比較例(WSN/HSN=1)の場合を示す。
【0037】
比較例の場合では、吐出流は1つの吐出孔に対して1つの渦を形成しているが、鋳型側壁に衝突する速い流れと、湯面方向に向かう不安定な流れが存在する。また左右の吐出流の分布形状も異なっている。一方、実施例の場合には、吐出流は1つの吐出孔に対して一対の双子渦が発生し、左右ともに安定した流れとなっていることが確認された。
【0038】
次に、図8は、吐出孔最外部の幅WSNと高さHSNの比WSN/HSNを変更してシミュレーションした結果を示す図であり、吐出孔から外側に200mm離れた位置での吐出流の最大値及び、左右2方向へ分かれて出る各々の吐出流の最大値の差を示す。流速の最大値は、前記比WSN/HSN=2近傍で、比WSN/HSN=1の場合の約60%程度となっており、吐出流が大幅に減速されていることが分かる。以上の結果から、前記比WSN/HSNは1.6<WSN/HSN<2.3の範囲が望ましく、1.8<WSN/HSN<2.2の範囲がより望ましいことが確認された。
【0039】
図9は、吐出孔最外部の幅WSNと高さHSNの比WSN/HSN=1.8の一定条件において、前記一対の吐出孔最外部における吐出孔総断面積ASNと前記吐出孔直上の内部流路の断面積AINの比ASN/AINを変更してシミュレーションを実施した結果を示す図であり、図8と同様に吐出流の最大値と左右の吐出流の最大値の差を示す。前記比ASN/AINが2.6を越えると、最大流速は急激に大きくなり吐出孔の比WSN/HSNを特定する効果は無くなる。従って、前記比ASN/AIN < 2.6の範囲が望ましいことが確認された。
【0040】
以上の様に、本発明に係る連続鋳造用浸漬ノズルによれば、対向する一対の吐出孔を有する連続鋳造用浸漬ノズルにおいて、比WSN/HSNが前式(1)の条件を満たし、かつ、比ASN/AINが前式(2)の条件を満たすと共に、更に、比Lnozzle / DINが前式(3)の条件を満たす様に構成されてなるので、内部の流速分布に変動が生じても、渦の発生するモードが2個に限定されるため、常に双子渦Va,Vbが発生し、吐出流の変動が抑制される。更に、吐出孔下部の流路における幅方向中央へ第1突起部を設けたり、内部流路の吐出孔の直上部に第2突起部を設けることによって、双子渦の生成を助長させることが可能である。
【0041】
そのため、
内部の流速分布に変動が生じても、常に安定して双子渦が発生するので、浸漬ノズルからの溶鋼の吐出流の変動が抑制され、浸漬ノズルからの溶鋼の吐出流は鋳片に到達する前に良好に拡散されるので、鋳片の抜熱能力が不足して局所的な凝固遅れが発生して、鋳片の割れによる品質欠陥やブレークアウト等の操業トラブルを引き起こすことが無い。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施の形態に係る浸漬ノズル全体を示す模式的立断面図である。
【図2】図1のX部詳細を示し、図(a)はX部の部分拡大図、図(b)は図(a)の矢視Y−Yを示す断面図、図(c)は図(a)の吐出孔を吐出孔中心線に沿って外側から正面視した図である。
【図3】吐出孔の幅と高さの比の違いによる吐出孔近傍の溶鋼の流れ状況を表す概念図であり、図(a)は吐出孔の最外部における幅と高さの比が1.0の場合、図(b)は吐出孔の最外部における幅と高さの比が2.0の場合を示す。
【図4】吐出孔の最外部における幅と高さの比を変化させた時の吐出流のモードの変化を表す概念図であり、図(a)は渦の発生状況、図(b)は偏流の程度を示す。
【図5】図(a)は吐出孔の流路下部における幅方向中央に第1突起部を設けた場合の吐出孔内の溶鋼の流れ状況を表す概念図であり、図(b)は図(a)の矢視Z−Zを示す断面図である。
【図6】図(a)は吐出孔の直上部の内部流路に第2突起部を設けた場合の吐出孔近傍の溶鋼の流れ状況を表す概念図であり、図(b)は図(a)の矢視W−Wを示す断面図である。
【図7】ブルーム連鋳機における溶鋼の吐出流の流跡線を示す斜視図であり、図(a)は本発明に係る実施例(WSN/HSN=2)の場合、図(b)は比較例(WSN/HSN=1)の場合を示す。
【図8】吐出孔最外部の幅WSNと高さHSNの比WSN/HSNを変更してシミュレーションした結果を示す図であり、吐出孔から外側に200mm離れた位置での吐出流の最大値及び、左右2方向へ分かれて出る各々の吐出流の最大値の差を示す。
【図9】吐出孔最外部の幅WSNと高さHSNの比WSN/HSN=1.8の一定条件において、前記一対の吐出孔最外部における吐出孔総断面積ASNと前記吐出孔直上の内部流路の断面積AINの比ASN/AINを変更してシミュレーションを実施した結果を示す図であり、図8と同様に吐出流の最大値と左右の吐出流の最大値の差を示す。
【符号の説明】
【0043】
M:溶鋼,
F1:境界層が未発達な溶鋼の流れ, F2:境界層が発達した溶鋼の流れ,
F3a:直行流, F3b:上昇流,
V:渦, V1,V2:双子渦, V3,V4:後流渦,
1:浸漬ノズル, 2:スライドプレート(流量調節機構),
3:吐出孔, 3a:吐出孔の流路下部,
4:内部流路, 4a:湯溜まり部,
5:第1突起部, 6:第2突起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部に流量調節機構を有し、下部に対向する一対の吐出孔を有する連続鋳造用浸漬ノズルにおいて、前記吐出孔の最外部における幅WSNと高さHSNの比WSN/HSNが次式(1)の条件を満たし、かつ、前記一対の吐出孔の最外部における吐出孔総断面積ASNと前記吐出孔直上の内部流路の断面積AINの比ASN/AINが次式(2)の条件を満たすと共に、更に、前記流量調節機構の下端から前記吐出孔の上端までの内部流路の長さLnozzleと内部流路の相当直径DINの比Lnozzle/ DINが次式(3)の条件を満たす様に構成されてなることを特徴とする連続鋳造用浸漬ノズル。
1.6 < WSN/HSN < 2.3 …… (1)
SN /AIN < 2.6 …… (2)
nozzle / DIN> 6.0 …… (3)
ここで、
DIN=4×(内部流路の断面積)/(内部流路の断面における周囲の長さ) … (4)
【請求項2】
前記吐出孔の流路下部における幅方向中央に、次式(5)の条件を満たす高さHtnozzleの第1突起部が設けられてなることを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造用浸漬ノズル。
Htnozzle /HSN > 0.15 …… (5)
【請求項3】
前記内部流路の吐出孔直上部の、吐出孔中心線と直交する円周位置に、次式(6)の条件を満たす高さHの第2突起部が、対向して一対配置されてなることを特徴とする請求項1または2に記載の連続鋳造用浸漬ノズル。
Ltop/H < 5.0 …… (6)
ここで、
Ltop:第2突起部の下端から吐出孔の上端までの距離

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−125750(P2009−125750A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−299541(P2007−299541)
【出願日】平成19年11月19日(2007.11.19)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】