説明

連続鋳造用鋳型

【課題】電磁ブレーキ装置を備えた連続鋳造用鋳型において、鋳型本体を上下振動させるときの振動駆動装置の負荷を低減すること。
【解決手段】コア3と、コア3に巻き付けられたコイル4と、ヨーク5とを有する電磁ブレーキ装置を備えた連続鋳造用鋳型である。コア3、コイル4及びヨーク5は一体化されて支持架台6に支持される。コア3の先端は、溶鋼が注入される鋳型本体1の背面に設けた凹部1a内に、鋳型本体1が上下振動できるように隙間G1,G2を確保して挿入される。鋳型本体1は、振動テーブル7に支持され、鋳型本体1は、振動テーブル7の上下振動により、コア3、コイル4及びヨーク5から独立して上下振動するため、振動重量が低減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁ブレーキ装置を備えた連続鋳造用鋳型に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造に使用される連続鋳造用鋳型は、浸漬ノズルからの溶鋼流に静磁場による制動を加え、溶鋼中の介在物が流下して鋳片内に捕捉されるのを低減するために電磁ブレーキ装置を備えるのが一般的である。この電磁ブレーキ装置は、溶鋼が注入される鋳型本体の長辺を挟んで対向して配置されたコアと、コアに巻き付けられたコイルと、磁力線が外に漏れないように磁力線の通路となるヨークとを有する。
【0003】
このような構成を有する電磁ブレーキ装置は、従来、鋳型本体と一体的に設けられていた。しかし、連続用鋳型において鋳型本体は、その前面(銅板内面)に溶鋼が焼き付くのを防止するために、連続鋳造中は所定のストローク及びサイクルで上下振動させる必要があるので、鋳型本体に電磁ブレーキ装置を一体化していると、振動重量が大きくなり、振動を発生させるための駆動装置系統が大型になって設備費が高価になるという問題があった。
【0004】
そこで、鋳型本体の振動重量を低減するため、特許文献1では、コアを、鋳型本体に固定されて鋳型本体とともに上下振動する固定コアと、ヨークに連結される移動コアとに分離することが提案されている。
【0005】
この特許文献1の連続鋳造用鋳型の構成を図4に示す。同図の(a)は平面図、(b)は断面図である。同図において、鋳型本体11の長辺には固定コア12aが固定されて一体化されている。固定コア12aと一体化した鋳型本体11は、振動テーブル13に支持されており、振動テーブル13を振動駆動装置14で上下振動させることにより、上下振動する。
【0006】
一方、移動コア12b、コイル15及びヨーク16は、支持架台17に支持されており、上下振動しない。固定コア12aと移動コア12bとは、例えば摺動メタルを介して上下方向に摺動可能に接続されており、鋳型本体11が上下振動するときに、固定コア12aが移動コア12bに対して上下方向に摺動する。
【0007】
このように、図4の構成では、電磁ブレーキ装置のうち、固定コア12aのみが鋳型本体11とともに上下振動するので、電磁ブレーキ装置全体を鋳型本体とともに上下振動させる構成に比べると振動重量を低減できる。しかし、図4の構成では、固定コア12aが鋳型本体11とともに上下振動するので、依然として振動重量が大きいという問題がある。
【0008】
具体的に説明すると、振動駆動装置14の負荷抵抗は、鋳型本体11と固定コア12aと振動テーブル13の合計重量に加え、固定コア12a・移動コア12b間の摺動抵抗、及び鋳造時の鋳片摩擦抵抗によって決まる。このうち、固定コア12a・移動コア12b間には、電磁力によって強力な吸引力が作用する。この吸引力の大きさは、標準的な仕様で見積ると1箇所あたり15t前後であり、これが2箇所あるから30t前後となり、固定コア12a・移動コア12b間の標準的な摩擦係数により計算すると、固定コア12a・移動コア12b間の摺動抵抗は合計で3〜6t(鋳型本体重量の約15〜30%相当)に達する。また、固定コア12aが鋳型本体11と一体になっているから、固定コア12aの分だけ振動重量が大となる。具体的には、標準的な仕様では振動重量が2t前後増えることになり、これは鋳型本体重量の10%前後に相当する。
【0009】
これらのことから、図4の構成では振動時の振動駆動装置14に対する負荷が大きくなり、振動を発生させるための振動駆動装置14等が大型になって設備費が高価になるという問題がある。
【0010】
ところで、鋳型本体は、連続鋳造時に溶鋼と接触する前面(内面)の摩耗寿命により、整備のため数か月で交換される。上記図4の構成では、オンラインで鋳型本体11を交換する場合、移動コア12bとヨーク16を後退させて退避させ、新しい鋳型本体と交換後、移動コア12bとヨーク16を前進させて元の位置に復帰させるようにしているが、このような構成では、移動コア12bとヨーク16を前進及び後退させる装置が必要となるため、設備費の増加を招く。また、鋳型本体の交換時だけでなく、移動コア12bとヨーク16を前進及び後退させる間も、連続鋳造を休止しなければならないので、その分、連続鋳造の生産性が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特表平8−505571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、電磁ブレーキ装置を備えた連続鋳造用鋳型において、鋳型本体を上下振動させるときの振動駆動装置の負荷を低減することにある。
【0013】
また、他の課題は、鋳型本体を短時間で容易に交換できるようにし、連続鋳造の休止時間を短縮して生産性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一観点によれば、コアと、コアに巻き付けられたコイルと、ヨークとを有する電磁ブレーキ装置を備えた連続鋳造用鋳型であって、コア、コイル及びヨークは一体化されて支持架台に支持され、コアの先端は、溶鋼が注入される鋳型本体の背面に設けた凹部内に、鋳型本体が上下振動できるように隙間を確保して挿入され、鋳型本体は、振動テーブルに支持され、鋳型本体が、振動テーブルの上下振動により、コア、コイル及びヨークから独立して上下振動する連続鋳造用鋳型が提供される。
【0015】
本発明においては、ヨークが、鋳型本体を下方から支持可能な鋳型支持面を有し、鋳型支持面とこれに支持される鋳型本体の下面との間に、鋳型本体が上下振動できるように隙間を確保した構成とすることもできる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の連続鋳造用鋳型では、鋳型本体が、コア、コイル及びヨークから独立して上下振動するので、鋳型本体を上下振動させるときの振動重量を低減できるとともに振動駆動装置の負荷を低減することができる。
【0017】
また、ヨークが、鋳型本体を下方から支持可能な鋳型支持面を有する構成にすれば、ヨークを吊り上げることにより、鋳型本体をヨークとともに吊り出すことができる。新しい鋳型本体は、吊り出し時と逆の手順で所定の位置に据え付けることができる。このようにヨークを吊り上げるという単純な操作によって鋳型本体の交換を行うことができるので、鋳型本体を短時間で容易に交換でき、これによって連続鋳造の休止時間を短縮して生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の連続鋳造用鋳型の設置状態を示す断面図である。
【図2】本発明の連続鋳造用鋳型の構成を示す図で、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A断面図である。
【図3】本発明の連続鋳造用鋳型において、鋳型本体を交換するためにヨークを吊り上げた状態を示す図である。
【図4】従来の連続鋳造用鋳型の構成を示す図で、(a)は平面図、(b)は断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に示す実施例に基づき、本発明の実施の形態を説明する。
【0020】
図1は、本発明の連続鋳造用鋳型の設置状態を示す断面図、図2はその連続鋳造用鋳型の構成を示す図で、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A断面図である。なお、図1は、図2(b)のB−B断面図に対応する。
【0021】
図1において、鋳型本体1には図示しないタンディッシュから浸漬ノズルを用いて溶鋼が注入される。鋳型本体1は水冷されており、この鋳型本体1による一次冷却により溶鋼外周に凝固シェルを形成し、その後、鋳型本体1の下方に配列された多数のサポートロール2間を通過させながらスプレー冷却等により二次冷却して凝固シェルを成長させ、完全に凝固した鋳片を引き抜くことにより、鋳片を連続的に製造する。
【0022】
鋳型本体1には、浸漬ノズルからの溶鋼流に静磁場による制動を加え、溶鋼中の介在物が流下して鋳片内に捕捉されるのを低減するために電磁ブレーキ装置が組み込まれている。電磁ブレーキ装置は、図1及び図2に示すように、鋳型本体1の長辺を挟んで対向して配置された一対のコア3と、コア3に巻き付けられたコイル4と、磁力線が外に漏れないように磁力線の通路となるヨーク5とを有する。これらのコア3、コイル4及びヨーク5は、一体化されて支持架台6に載置され、支持されている。
【0023】
コア3の先端は、鋳型本体1の長辺の背面に設けた凹部1a内に挿入されている。このとき、コア3の先端は、鋳型本体1が上下振動できるように上下に隙間G1,G2を確保して挿入される。すなわち、隙間G1は、鋳型本体1の上下振動の上方向のストロークよりも大きく、隙間G2は、鋳型本体1の上下振動の下方向のストロークよりも大きくなるようにしている。例えば、隙間G1,G2はそれぞれ15mm程度である。
【0024】
一方、鋳型本体1は、支持架台6から独立した振動テーブル7に載置され、支持されている。振動テーブル7は、油圧アクチュエーター(例えば油圧サーボシリンダー、又は電気油圧ステッピングシリンダー、等)からなる振動駆動装置8によって上下振動する。実施例では、振動駆動装置8は、支持架台6と振動テーブル7の間であって、振動テーブル7の両側に配置されている。
【0025】
以上の構成において、鋳型本体1は振動テーブル7の上下振動により、上下振動する。このとき、電磁ブレーキ装置を構成するコア3、コイル4及びヨーク5は、一体化されて振動テーブル7とは別個の支持架台6に支持されており、しかもコア3の先端が挿入されている鋳型本体1の凹部1aには、鋳型本体1が上下振動できるように上下に隙間G1,G2が確保されているので、鋳型本体1は、コア3、コイル4及びヨーク5から独立して上下振動する。すなわち、上下振動させるのは鋳型本体1のみであるので、上下振動時の振動重量を低減することになるので、振動駆動装置8の負荷を低減することができ、これによって振動駆動装置8等を従来より小型化することができ、設備費を安価にすることができる。
【0026】
また、実施例では、図2(b)に示すように、ヨーク5が、鋳型本体1を下方から支持可能な鋳型支持面5aを有する構成としている。そして、鋳型支持面5aとこれに支持される鋳型本体1の下面との間に、鋳型本体1が上下振動できるように隙間G3を確保している。この隙間G3の大きさは上述の隙間G1よりも小さくしており、例えば10mm程度である。
【0027】
このようにヨーク5に鋳型支持面5aを設けると、ヨーク5を吊り上げることによって、ヨーク5の鋳型支持面5aが鋳型本体1の下面に当たって鋳型本体1を下方から支持する。ヨーク5をさらに吊り上げると、図3に示すようにコア3、コイル4及びヨーク5のセットとともに鋳型本体1が吊り上げられる。すなわち、ヨーク5を吊り上げるだけで鋳型本体1の交換を行うことができるので、鋳型本体1を短時間で容易に交換でき、これによって連続鋳造の休止時間を短縮して生産性を向上させることができる。
【0028】
また、実施例では、上述のとおり、鋳型支持面5aとこれに支持される鋳型本体1の下面との間の隙間G3の大きさを、コア3の先端上面とこれに対向する鋳型本体1の凹部1a上面との間の隙間G1よりも小さくしているので、ヨーク5を吊り上げたときに、コア3の先端上面が凹部1a上面に当たる前に鋳型支持面5aが鋳型本体1の下面に当たるので、鋳型本体1をヨーク5とともに安定して吊り上げることができる。
【符号の説明】
【0029】
1 鋳型本体
1a 凹部
2 サポートロール
3 コア
4 コイル
5 ヨーク
5a 鋳型支持面
6 支持架台
7 振動テーブル
8 振動駆動装置
11 鋳型本体
12a 固定コア
12b 移動コア
13 振動テーブル
14 振動駆動装置
15 コイル
16 ヨーク
17 支持架台
G1〜G3 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアと、コアに巻き付けられたコイルと、ヨークとを有する電磁ブレーキ装置を備えた連続鋳造用鋳型であって、
コア、コイル及びヨークは一体化されて支持架台に支持され、
コアの先端は、溶鋼が注入される鋳型本体の背面に設けた凹部内に、鋳型本体が上下振動できるように隙間を確保して挿入され、
鋳型本体は、振動テーブルに支持され、
鋳型本体が、振動テーブルの上下振動により、コア、コイル及びヨークから独立して上下振動する連続鋳造用鋳型。
【請求項2】
ヨークが、鋳型本体を下方から支持可能な鋳型支持面を有し、鋳型支持面とこれに支持される鋳型本体の下面との間に、鋳型本体が上下振動できるように隙間を確保した請求項1に記載の連続鋳造用鋳型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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