説明

連鎖球菌の莢膜多糖類の精製

本発明は、最初に糖類をアルコール(たとえば、エタノール)および金属陽イオン(たとえばカルシウム塩として)の水性混合物で処理し、次いで陽イオン界面活性剤(たとえば、CTAB)で沈殿させる精製方法を基本とする。該方法は、細菌から糖類を遊離した後、3日未満で完了でき、収率は約60%である。DNase、RNaseおよび/またはプロテアーゼ処理の必要がない。該方法の糖類は、タンパク質の混入が非常に少なく、280nmでの吸光度が非常に低い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書中に引用される全ての文書は、その全体が参考として援用される。
【0002】
(技術分野)
本発明は、細菌の莢膜多糖類、特にストレプトコッカス・アガラクティエの莢膜多糖類を精製する分野、およびワクチンの製造における用途に関する。
【背景技術】
【0003】
細菌の莢膜糖類は、莢膜細菌に対するワクチンにおいて長年使用されてきた。しかし、糖類はT細胞非依存性抗原であり、免疫抗原性が低い。キャリアへの結合によって、T細胞非依存性抗原をT細胞依存性抗原に変換し、それによってメモリー応答を増強し、保護免疫を発現させることができる。したがって、最も効果的な糖類ワクチンは、糖結合体に基づき、プロトタイプ結合型ワクチンは、ヘモフィルス・インフルエンザb型菌(「Ηib’」)に対するものであった[たとえば、参考文献79の第14章参照]。
【0004】
結合型ワクチンで記載された他の細菌は、ステロコッカス・アガラクティエであり、「B群ステロコッカス」または単に「GBS」としても知られている。この研究に関する多くのことがDennis Kasperおよびその仲間によってなされ、それは、たとえば、非特許文献1〜9(参考文献1〜9)等の文献に記載されている。
【0005】
糖類ベースのワクチンの出発点は糖類それ自身であり、これは一般的に標的細菌から精製される。GBS糖類を精製するカスパー法は、参考文献2および10に詳細に記載され、細菌の培養後、以下の基本的な工程を含む:10kDaカットオフ膜を使用する限外ろ過;ろ過による細菌の除去;エタノールを加えて30%とし、混入物を沈殿;エタノールを増やして80%とし、一晩でGBS糖類を沈殿;沈殿物の収集および乾燥;RNase、次いでDNase、次いでプロナーゼでの処理;水酸化ナトリウムでの処理;透析;DEAE−セファセル(Sephacel)イオン交換クロマトグラフィー;透析;凍結乾燥;無水酢酸処理;コンコナヴィリン(conconavilin)アフィニティクロマトグラフィーによるマンナンの除去;ウルトラゲルサイズ排除クロマトグラフィー;および最終凍結乾燥を含む。
【0006】
それぞれ一晩を費やすRNase、DNase、プロナーゼおよび水酸化ナトリウム処理のため、この方法は非常に遅く、完了するのに1週間を要するのは十分ありえる。さらに、収率は、50%をはるかに下回る。したがって、GBS莢膜多糖類を精製する改良された方法、特に、高い収率を有するより早い方法がさらに必要である。
【非特許文献1】Paoletti et al.(1990)J Biol Chem 265:18278−83
【非特許文献2】Wessels et al.(1990)J Clin Invest 86:1428−33
【非特許文献3】Paoletti et al.(1992)Infect Immun 60:4009−14
【非特許文献4】Paoletti et al.(1992)J Clin Invest 89:203−9
【非特許文献5】Wessels et al.(1987)Proc Natl Acad Sci USA 84:9170−4
【非特許文献6】Wang et al.(2003)Vaccine 21:1112−7
【非特許文献7】Wessels et al.(1993)Infect Immun 61:4760−6
【非特許文献8】Wessels et al(1995)J Infect Dis 171:879−84
【非特許文献9】Baker et al.(2004)J Infect Dis 189:1103−12
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、最初に糖類をアルコール(たとえば、エタノール)および金属陽イオン(たとえばカルシウム塩として)の水性混合物で処理し、次いで陽イオン界面活性剤(たとえば、CTAB)で沈殿させる精製方法を基本とする。該方法は、細菌から糖類を遊離した後、3日未満で完了でき、収率は約60%である。
【0008】
本発明は、ステロコッカス・アガラクティエの莢膜多糖類を精製する方法であって、(a)連鎖球菌性タンパク質と、核酸と、莢膜多糖類とを含む懸濁液を、核酸およびタンパク質を沈殿させるために、水性金属カチオンおよびアルコールで処理する工程と、(b)沈殿物質を該水性物質から分離する工程と、(c)莢膜多糖類を沈殿させるために、該水性物質を陽イオン界面活性剤で処理する工程とを含む方法を提供する。次いで、沈殿多糖類は分離され、その後のワクチン生成のために再可溶化することができる。該方法には、他の加工工程、たとえば、低分子量混入物(たとえば、群特異炭水化物のフラグメント)を除去する限外ろ過工程、追加の沈殿工程および再可溶化工程および/または乾燥工程を含んでもよい。
【0009】
また本発明は、ステロコッカス・アガラクティエの莢膜多糖類を精製する方法であって、陽イオン界面活性剤を使用して糖類を沈殿させる工程を含む方法も提供する。同様に、本発明は、ステロコッカス・アガラクティエ莢膜多糖類を精製する方法において、糖類を沈殿させるために、陽イオン界面活性剤を使用することからなる改良を提供する。陽イオン界面活性剤を用いる沈殿は、存在する他の糖類、たとえば群特異糖類等からの莢膜糖類の分離を簡略化する。
【0010】
また本発明は、ステロコッカス・アガラクティエ莢膜多糖類を精製する方法であって、沈殿を使用することによって汚染核酸および/またはタンパク質を取り除く工程を含む方法も提供する。同様に、本発明は、ステロコッカス・アガラクティエ莢膜多糖類を精製する方法において、汚染核酸を取り除くために、沈殿を使用することからなる改良を提供する。沈殿はDNase、RNase酵素的処理の必要性を回避する。
【0011】
また本発明は、ステロコッカス・アガラクティエ莢膜多糖類を精製する方法であって、DNase処理の工程を含まない方法も提供する。同様に、本発明は、ステロコッカス・アガラクティエ莢膜多糖類を精製する方法であって、RNase処理の工程を含まない方法も提供する。同様に、本発明は、ステロコッカス・アガラクティエ莢膜多糖類を精製する方法であって、プロテアーゼ処理の工程を含まない方法も提供する。本発明の方法は、DNase、RNaseおよび/またはプロテアーゼの2または3の使用を含まない、たとえば3つのどれも使用しないことが好ましい。
【0012】
また本発明は、ステロコッカス・アガラクティエ細菌から莢膜糖類を精製する方法であって、該方法の収率(細菌で始まり莢膜多糖類で終わる)が、少なくとも40%(たとえば、>50%、>60%、>70%、>80%、>90%)である方法も提供する。実用上の限界は、収率が90%を超えない(たとえば、<90%、<80%、<70%など)ことを意味する。
【0013】
また本発明は、ステロコッカス・アガラクティエ細菌から莢膜糖類を精製する方法であって、純度が、組成物中の糖類、タンパク質および核酸の総重量に対して少なくとも89%(たとえば、≧90%、≧92%、≧94%、≧96%、≧98%など)である糖類を含む組成物を提供する方法も提供する。
【0014】
また本発明は、ステロコッカス・アガラクティエ細菌から莢膜糖類を精製する方法であって、(a)方法の収率が少なくとも40%(先に記載したように)であり、(b)糖類の純度が少なくとも89%(先に記載したように)である方法も提供する。
【0015】
また本発明は、ステロコッカス・アガラクティエ細菌から莢膜多糖類を遊離する方法であって、細菌をII型ホスホジエステラーゼで処理する工程を含む方法も提供する。これらの酵素は、同じリン酸塩を水酸化ナトリウムとして開裂することができるが、水酸化ナトリウムの脱アセチル化反応性は持たないという利点を提供する。
【0016】
また本発明は、ステロコッカス・アガラクティエ莢膜多糖類を含む組成物であって、280nmでのUV吸光度が0.20未満である組成物も提供する。<0.15あるいはさらに<0.10の吸光度が好ましい。本発明の方法は、タンパク質混入が非常に少ない組成物を与え、これにより280nmでの吸光度を非常に小さくなることが見出された。これは従来技術の方法に対して特に有利な効果であり、〜280nmでの吸光度ピークを示す物質を与える。
【0017】
また本発明は、ステロコッカス・アガラクティエ莢膜多糖類を含む組成物であって、260nmでのUV吸光度に対する280nmでのUV吸光度の比が0.85を超える組成物を提供する。>0.90、>0.95、またはさらに>1.0の比が好ましい。該比は、普通1.2未満である。1.0±0.1の比が好ましい。
【0018】
また本発明は、ステロコッカス・アガラクティエ莢膜多糖類を含む組成物であって、220nmと300nmとの間の組成物のUV吸光度スペクトルが270nm付近でショルダーあるいはピークのいずれかを示す組成物も提供する。また本発明は、ステロコッカス・アガラクティエ血清型Iaまたは血清型III莢膜多糖類を含む組成物であって、250nmと275nmとの間のUV吸光度スペクトルが増加しない組成物も提供する。また本発明は、ステロコッカス・アガラクティエ莢膜多糖類を含む組成物であって、250nmと275nmとの間の組成物のUVスペクトルが最高点も変曲点も持たない組成物も提供する。
【0019】
また本発明は、ステロコッカス・アガラクティエ莢膜糖類を含む組成物であって、糖類の純度が、組成物中の糖類、タンパク質および核酸の総重量に対して、少なくとも89%(たとえば、≧90%、≧92%、≧94%、≧96%、≧98%など)である組成物も提供する。
【0020】
また本発明は、ステロコッカス・アガラクティエ血清型Ia莢膜糖類を含む組成物であって、糖類が単糖類サブユニットを有し、93%以下(たとえば、≦92%、≦90%、≦85%、≦80%、≦75%、≦70%、≦65%、≦60%、≦55%、≦50%、≦45%、≦40%など)の単糖類サブユニットがN−アセチル基を有する組成物も提供する。
【0021】
また本発明は、ステロコッカス・アガラクティエ血清型Ib莢膜糖類を含む組成物であって、糖類が単糖類サブユニットを有し、少なくとも78%(たとえば、≧80%、≧85%、≧90%、≧92%、≧94%、≧96%、≧98%など)の単糖類サブユニットがN−アセチル基を有する組成物も提供する。
【0022】
また本発明は、ステロコッカス・アガラクティエ血清型III莢膜糖類を含む組成物であって、糖類が単糖類サブユニットを有し、76%以下(たとえば、≦74%、≦72%、≦70%、≦65%、≦60%、≦55%、≦50%、≦45%、≦40%など)の単糖類サブユニットがN−アセチル基を有する組成物も提供する。
【0023】
また本発明は、ステロコッカス・アガラクティエ血清型Ia莢膜糖類を含む組成物であって、糖類の分子量が少なくとも100kDaである組成物も提供する。
【0024】
また本発明は、ステロコッカス・アガラクティエ血清型Ib莢膜糖類を含む組成物であって、糖類の分子量が少なくとも40kDaである組成物も提供する。
【0025】
また本発明は、ステロコッカス・アガラクティエ血清型III莢膜糖類を含む組成物であって、糖類の分子量が少なくとも40kDaである組成物も提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本明細書で挙げられた全ての文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0027】
莢膜糖類
S.アガラクティエ莢膜多糖類は、細菌のペプチドグリカン骨格中のGlcNAc残基に共有結合し、B群抗原から区別され、同じペプチドグリカン骨格上のMurNAc残基に結合する糖類とは別のものである(図1[12])。異なる血清型の莢膜多糖類は、化学的に関連するが、抗原性が非常に異なる。GBS莢膜多糖類は、全て、以下の三糖類コア:
β−D−GlcpNAc(1→3)β−D−Galp(1→4)β−D−Glcp
を共有する。
【0028】
種々のGBS血清型は、このコアを修飾する方法によって異なる。たとえば、血清型IaとIIIとの間の相違は、このコアにおいて、連続する三糖類コアを結合するために、GlcNAc(Ia)あるいはGal(III)のどちらを使用するかによって起こる(図3)。血清型IおよびIbは両方とも、コア中にGlcNAcに結合する[α−D−NeupNAc(2→3)β−D−Galp−(1→]二糖類をもつが、結合は、1→4(Ia)または1→3(Ib)のどちらかである。
【0029】
GBS関連疾患は、主に、血清型Ia、Ib、II、III、IV、V、VI、VIIおよびVIIIに起因し、90%を超えるものが5つの血清型Ia、Ib、II、IIIおよびVによって起こされる。本発明は、好ましくは、これらの5つの血清型の1つからの糖類を使用する。図2に示すように、これらの血清型のそれぞれの莢膜糖類は、(a)全ての場合においてガラクトース残基に2→3結合する、末端N−アセチル−ノイラミン酸(ΝeuΝAc)残基(商業的にはシアル酸と言われる)および(b)三糖類コア内にN−アセチル−グルコサミン残基(GlcΝAc)を含む。
【0030】
5つの糖類は全て、三糖類コア内にガラクトース残基を含むが、血清型Ia、Ib、IIおよびIIIは、各繰返し単位中に、繰返し単位1個につき3個のガラクトース残基を含む血清型II糖類を持つ、付加的なガラクトース残基も含む。本発明に従って精製された糖類は、普通、その本来の形態であるが、修飾されてもよい。たとえば、糖類は、原型莢膜糖類より短くてもよく、または化学的修飾されてもよい。
【0031】
したがって、本発明に従って使用される糖類は、実際発見されたままの完全長莢膜多糖類であってもよいし、自然長より短くてもよい。完全長多糖類は、たとえば、弱酸での加水分解によって、加熱によって、サイズクロマトグラフィーなどによって、解重合し、本発明による使用のために、たとえば、より短いフラグメントを提供する。鎖長は、ウサギにおいて、GBS糖類の免疫抗原性に影響することが報告されている[4]。
【0032】
エンド−β−ガラクトシダーゼによる血清型III莢膜糖類の解重合が報告されている[1および4〜6を参照]。GBS血清型II、IIIおよびVIIIからの莢膜多糖類のオゾン分解も解重合に使用される[13]。MW>30kDaを有する糖類を使用することが好ましく、実質的な完全長莢膜多糖類を使用することができる。血清型Iaに関して、MWが145kDaまでの多糖類を使用することが好ましい。血清型Ibに関しては、MWが50kDaまでの多糖類を使用することが好ましい。血清型IIIに関しては、MWが50kDaまでの多糖類を使用するのが好ましい。これらの分子質量は、デキストリン標準に対するゲルろ過、たとえば、Polymer Standard Service社から入手できるろ過によって測定することができる[14]。
【0033】
糖類は、事実上発見されたままの莢膜糖類に対して化学的に修飾されてもよい。たとえば、糖類を、たとえば、O−脱アセチル化(部分的にまたは完全に)、N−脱アセチル化(部分的にまたは完全に)、N−プロピオン化(部分的にまたは完全に)してもよい。特定の糖類に依るが、脱アセチル化は、免疫抗原性に影響をすることもしないこともあり、たとえばNeisVac−C(商標)ワクチンはO−脱アセチル化糖類を使用し、一方、Menjugate(商標)はアセチル化されているが、両ワクチンとも効果がある。種々の血清型におけるGBS糖類上のO−アセチル化の関連性については、参考文献15で検討され、たとえば、糖類および/または細菌不活性化物を抽出するためにホルムアルデヒドを使用することによって、保護/脱保護、再アセチルル化などによって、精製の前、間および後で、7位、8位および/または9位でシアル酸残基のO−アセチル化を保つことが好ましい。脱アセチル化などの効果は、日常のアッセイによって評価することができる。
【0034】
出発物質
本発明の方法は、水性形態の莢膜糖類、一般的には連鎖球菌性タンパク質、核酸および莢膜多糖類を含む懸濁液から出発する。
【0035】
細菌の成長の間、少量の莢膜多糖類を培養液の媒体中に遊離し、したがって、汚染タンパク質および/または核酸のアルコール沈殿のための出発物質は、遠心分離された細菌の培養液の上清であってよい。しかし、より一般的には、出発物質は、莢膜細菌それ自身(または細菌ペプチドグリカンを含む物質)を、莢膜糖類が遊離するように処理することによって調製されるであろう。参考文献10は、これらの2種の原料の両方から調製された糖類の特性を示す。
【0036】
莢膜多糖類は、化学的、物理的または酵素的処理を始めとする種々の方法によって細菌から遊離することができる。したがって、最初のタンパク質/核酸沈殿反応の前に、多糖類の水性調製物を処理することができる。
【0037】
代表的な化学的処理は、塩基抽出[16](たとえば、水酸化ナトリウムを使用する)であり、これは、莢膜糖類とペプチドグリカン骨格との間のホスホジエステル結合を開裂することができる。塩基抽出は細菌には不活性で、同時に莢膜多糖類を遊離するので、有利である。さらに、塩基処理は、無傷の多糖類を遊離し、その複数のホスホジエステル結合によって、B群抗原の広範な開裂を起こし(図4[12])、莢膜および群特異糖類抗原の後の分離を促進する。したがって、水酸化ナトリウム処理は、莢膜多糖類を遊離する好ましい方法である。しかし、水酸化処理は莢膜糖類を脱N−アセチル化するので、後で、再N−アセチル化が必要となるだろう。
【0038】
代表的な酵素的処理は、ムタノリシンおよびβ−N−アセチルグルコサミニダーゼの両方の使用を含む[12]。これらは、GBSペプチドグリカン上で、本発明のために使用される莢膜糖類を遊離するように作用するが、群特異炭水化物抗原の遊離も起こす。代わりの酵素的処理は、II型ホスホジエステラーゼ(PDE2)による処理を含む。PDE2酵素は、同じリン酸塩を水酸化ナトリウム(前記参照)として開裂することができ、群特異炭水化物抗原を開裂することなく、および莢膜糖類を脱N−アセチル化することなく、莢膜糖類を遊離することができ、これにより、下流の工程を簡素化することができる。したがって、PDE2酵素は、本発明の方法において使用するためのGBS莢膜糖類を調製する好ましい選択肢である。
【0039】
したがって、本発明の方法のために好ましい出発物質は、N−脱アセチル化莢膜多糖類であり、これは、参考文献16に記載するように、塩基抽出によって得ることができる。他の好ましい出発物質は、GBSのPDE2処理の生成物である。そのような物質は、本発明の方法による沈殿の前に、濃縮(たとえば、限外ろ過)することができる。
【0040】
アルコール沈殿および陽イオン交換
培養後得られたGBS莢膜糖類は、普通、不純であり、細菌の核酸およびタンパク質で汚染されている。従来技術では、これらの混入物をRNase、DNaseおよびプロテアーゼを使用する連続的終夜処理によって除去していた。対照的に、本発明の全精製方法は、従来技術からこれらの個々の工程より短い時間で行うことができる。これらの混入物を酵素的に除去するのではなく、本発明の方法では、アルコール沈殿を利用する。必要であれば(たとえば、塩基抽出後)、物質を通常は沈殿反応の前に中性化する。
【0041】
汚染核酸および/またはタンパク質の沈殿に使用されるアルコールは、メタノール、エタノール、プロパン−1−オール、プロパン−2−オール、ブタン−1−オール、ブタン−2−オール、2−メチル−プロパン−1−オール、2−メチル−プロパン−2−オール、ジオールなどの低級アルコールが好ましい。適正なアルコールの選択は、過度の負担なしに経験的に試験することができるが、フェノール等のアルコール類よりエタノールおよびイソプロパノール(プロパン−2−オール)等のアルコール類が好ましい。
【0042】
アルコールは、多糖類懸濁液に添加し、最終アルコール濃度を10%と50%との間(たとえば、約30%)とするのが好ましい。最も有用な濃度は、多糖類をまた沈殿することなく、混入物の十分な沈殿を達成する濃度である。最適な最終アルコール濃度は、多糖類が得られるGBS血清型に依るが、過度の負担なしに、日常の実験によって決定することができる。多糖類の沈殿は、>50%のエタノール濃度が観察されている。
【0043】
アルコールは、純粋な形態で添加してもよいし、混和性溶媒(たとえば水)で希釈された形態で添加してもよい。好ましい溶媒混合物は、エタノール:水の混合物であり、好ましい比は、約70:30と約95:5との間(たとえば、75:25、80:20、85:15、90:10)である。
【0044】
糖類も、水性金属カチオンで処理される。1価および2価の金属陽イオンが好ましく、複合体形成においてより効率的であるので、Mg++、Mn++、Ca++などの2価の陽イオンが特に好ましい。カルシウムイオンは特に有用で、したがって、アルコール混合物は、溶解性カルシウムイオンを含むのが好ましい。これらは、カルシウム塩の形態で、固体としてあるいは水性形態で、糖類/アルコール混合物に加えてもよい。カルシウムイオンは塩化カルシウムを使用して提供されるのが好ましい。
【0045】
カルシウムイオンは、10mMと500mMとの間の最終濃度、たとえば約0.1Mで存在するのが好ましい。最適最終Ca++濃度は、多糖類を得るGBS血清型に依るが、過度の負担なしに日常の実験によって決定することができる。
【0046】
アルコールおよび陽イオンは、異なる役割を果たす(アルコールは混入物に沈殿させるために使用され、一方、陽イオンは溶解性形態で糖類を安定化および複合体化する)が、併用効果を生み出す。目的は、糖類、アルコールおよび陽イオンの混合物を調製することであるが、これら3成分は、同時に一緒に混合される必要はない。したがって、アルコールおよび陽イオンは、順次または同時に使用することができる。順次処理が好ましく、特に好ましい方法は、糖類に陽イオンを添加し、次いで、陽イオン/糖類混合物にアルコールを添加するが、所望の場合は、アルコールを陽イオンの前に使用することができる。
【0047】
汚染タンパク質および/または核酸のアルコール沈殿後、GBS莢膜多糖類は溶液中に残る。沈殿物質は、適切な方法、たとえば遠心分離によって多糖類から分離することができる。後の工程でフィルターを詰まらせるかもしれない粒子(たとえば、直径が0.22μmを超える沈殿粒子)を取り除くために、上清を、精密ろ過処理、特に全量ろ過(垂直方向のろ過)に供することができる。代わりの全量ろ過法に代わるものとして、接線精密ろ過処理を使用することができる。
【0048】
透析ろ過
本発明の方法は、タンパク質および/または核酸の沈殿の後であって界面活性剤介在沈殿の前に、透析ろ過の工程を含んでもよい。この透析ろ過工程は、群特異糖類も加水分解され、無処理の莢膜糖類に加えて、非常に小さくするので、塩基抽出またはホスホジエステラーゼを莢膜糖類の遊離のために使用する場合、特に有利である。これらの小フラグメントは、透析ろ過工程によって除去することができる。
【0049】
接線流透析ろ過が一般的ある。したがって、ろ過膜は、群特異性抗原の加水分解生成物の通過を可能にする一方、莢膜多糖類は保持する膜である。10kDa〜30kDaの範囲の切断片が一般的である。群特異性抗原の加水分解フラグメントは約1kDa(5−mer、8−merおよび11−mer糖類)であるので、より小さな切断片サイズを使用することができるが、より高い切断片は、莢膜糖類が損失することなく他の混入物を有利に除去する。
【0050】
通常、フロー透析ろ過は、少なくとも5サイクル、たとえば、6、7、8、9、10、11またはそれ以上のサイクルで行う。
【0051】
陽イオン界面活性剤処理
溶解性多糖類を沈殿する多くの技術が業界で公知である。本発明によれば、1種以上の陽イオン界面活性剤を使用して、GBS糖類を沈殿させる。発明者らは、陽イオン界面活性剤を用いてGBS莢膜糖類および群特異糖類の混合物を処理すると、莢膜糖類の沈殿が優先的に起こり、これによって、有利に且つ簡単に群特異糖類の混入を最小限にするということを見出した。
【0052】
陽イオン界面活性剤は、好ましくは、以下の一般式:
【0053】
【化1】

(式中、R1、R2およびR3は、同じまたは異なり、それぞれ、アルキルまたはアリールであり、あるいはR1およびR2は、それらが結合する窒素原子と一緒になって、5または6員環飽和複素環を形成し、R3は、アルキルまたはアリールを示し、あるいはR1、R2およびR3は、これらが結合する窒素原子と一緒になって、窒素原子にて不飽和である、5−または6−員環複素環を形成し、
R4は、アルキルまたはアリールを示し、
X−は陰イオンを示す)を有する。
【0054】
本発明の方法で使用される、特に好ましい界面活性剤は、テトラブチルアンモニウムおよびセチルトリメチルアンモニウム塩類(たとえば、臭化物塩類)である。セチルトリメチルアンモニウムブロミド(「CTAB」)が特に好ましい[17]。CTABはまた、ヘキサデシルトリメチルアミノミウムブロミド、セトリモニウムブロミド、CetavlonおよびCentimideとしても知られている。他の界面活性剤として、ヘキサジメトリンブロミドおよびミリスチルトリメチルアンモニウム塩類が挙げられる。
【0055】
界面活性剤媒介沈殿工程は、莢膜多糖類に関し好ましい選択性がある。本発明では、糖類中で、たとえばシアル酸中のカルボキシル基を介して、シアル酸残基と相互反応する、CTAB等の界面活性剤を使用するのが有利である。したがって、界面活性剤は、混合種個体群の中でシアル酸含有莢膜糖類、特により長い糖類を優先的に沈殿させ、その結果、抗原的に重要なシアル酸がより早い処理工程で損傷を受け得た糖類による混入を最小限にする。GBSに関して、より長い糖類は、より短い糖類より免疫抗原性がより強い傾向があり[18]、したがって、本発明は、より短い解重合糖類をもたらすという従来技術の方法に優る利点を提供する。
【0056】
沈殿後、莢膜糖類は遠心分離によって分離することができる。本発明者らは、CTAB介在沈殿後の遠心分離から単一のペレットは得られないが、その代わりに、2相を有するようなペレットが得られることを見出した。通常、これらの下部を本発明によるさらなる使用のために選択する。
【0057】
再可溶化
沈殿後、多糖類(通常、陽イオン界面活性剤との結合体の形態で)を、水性媒質中あるいはアルコール媒質中に再可溶化することができる。水性再可溶化では、通常、沈殿物中のCTA−陽イオンは金属陽イオンによって置き換わり、アルコール性再可溶化では、通常、CTA−陽イオンは残る。水性またはアルコール性再可溶化の選択は、多糖類が得られるGBS血清型およびこの段階でまだ存在する任意の混入物に依存し得る。たとえば、顔料が沈殿ペレット中に存在する場合があり、これらはアルコール性再可溶化、次いで炭素ろ過によって効率的に除去することができる。
【0058】
再可溶化用の代表的な水性媒質には、金属陽イオンが含まれる。1価および2価の金属陽イオンが好ましく、Mg++、Mn++、Ca++などの2価の陽イオンが特に好ましい。カルシウムイオンは特に有用であり、再可溶化は、好ましくは、塩化カルシウムの使用によって提供されるCa++を、好ましくは使用する。Ca++濃度は、10mMと500mMとの間(たとえば約0.1M)が好ましい。最適最終Ca++濃度は、多糖類が得られるGBS血清型に依存し得、過度の負担なしに日常の実験によって決定することができる。
【0059】
再可溶化用の代表的なアルコール媒質は、エタノールに基づく。核酸および/またはタンパク質の沈殿に使用したのと同じアルコールを使用することができるが、莢膜糖類の沈殿に必要な濃度は、一般的に、より高く、たとえば、アルコールを添加して、最終アルコール濃度が70%と95%との間(たとえば、約70%、75%、80%、85%、90%または95%)とするのが好ましい。最適最終アルコール濃度は、多糖類が得られるGBS血清型に依存し得る。高いアルコール濃度を得るためには、低含水率のアルコール、たとえば96%エタノールを添加するのが好ましい。
【0060】
再可溶化は、通常、室温で行われる。酸性条件を避けるのが好ましく、再可溶化は、通常、約pH7で行われる。
【0061】
再可溶化物質は、再沈殿懸濁液と比較してかなり精製される。
【0062】
莢膜多糖類のさらなる処理
再可溶化後、混入物を除去するために多糖類をさらに処理してもよい。微量の混入でさえゆるされない状況において(たとえば、ヒトワクチン製造において)は、これは特に重要である。
【0063】
好ましい追加の工程の1つは、追加の沈殿である。水性再可溶化を行なった場合、この沈殿は、通常、先の項で記載したように、アルコールを使用し、逆に、アルコール性再可溶化を行った場合、この沈殿は、通常、先の項で記載したように、陽イオン水溶液を使用する。次いで、沈殿糖類は、たとえば遠心分離によって、残存する水性混入物のいかなるものからも分離することができる。沈殿物質は安定で、さらなる用途のために保存することができる。
【0064】
沈殿物質は、真空乾燥に供してもよい。この処理は、通常、保存のために糖類を安定化するために使用されるのではなく、糖類を乾燥し、いかなる残存アルコールも除去するために使用される。
【0065】
また、沈殿およびろ過の追加のラウンドを行うこともできる。深層ろ過も、たとえば遠心分離の代わりに行うことができる。深層ろ過は、通常、アルコールでの可溶化の後に使用される。
【0066】
多糖類を解重合してオリゴ糖類を形成してもよい。オリゴ糖類は、ワクチンにおける使用に関し、多糖類より好ましく、鎖長は、ウサギにおいて、GBS糖類の免疫抗原性に影響すると報告されている[4]。多糖類からオリゴ糖類への解重合は、界面活性剤介在沈殿の前または後で起こり得る。解重合を実施した場合、短い長さのオリゴ糖類を除去するために、一般的に、生成物を寸法規制する。これは、限外ろ過の後、イオン交換クロマトグラフィーを行うなど、種々の方法で達成することができる。本発明の組成物が解重合された糖類を含む場合、解重合がいかなる結合処理よりも先行するのが好ましい。
【0067】
GBS莢膜糖類中のシアル酸残基がN−脱アセチル化されている場合、本発明の方法は、再N−アセチル化工程を含んでもよい。制御された再N−アセチル化を、無水酢酸(CH3CO)2O等の試薬を、たとえば5%炭酸水素アンモニウム中で使用して簡単に行うことができる[10]。
【0068】
これら追加の工程は、一般的に室温で行うことができる。
【0069】
結合化
本発明の最終精製莢膜多糖類は、さらに修飾することなく、インビトロ診断アッセイ、免疫化などの用途のために、抗原として使用することができる。
【0070】
しかし、免疫化目的のためには、タンパク質等のキャリア分子に糖類を結合化するのが好ましい。一般的に、糖類のキャリアへの共役結合によって、それらはT細胞非依存性抗原からT細胞依存性抗原に変換するので、糖類の免疫抗原性が増強され、免疫系の記憶のための準備を可能にする。結合化は、小児科ワクチン用に特に有用[たとえば、参考文献19]であり、よく知られた技術である[たとえば、参考文献20〜28に評価されている]。したがって、本発明の方法は、精製糖類をキャリア分子に結合化するさらなる工程を含んでもよい。
【0071】
GBS糖類の結合化は、広く報告されている。たとえば、参考文献1〜9を参照されたい。代表的な従来技術のGBS糖類結合化方法は、代表的には、精製糖類の破傷風トキソイド(TT)またはCRM197等のキャリアタンパク質への還元アミノ化を含む[2]。還元アミノ化物は、キャリア中のアミノ酸の側鎖上のアミン基と、糖類中のアルデヒド基とを含む。GBS莢膜糖類はそれらの自然形態ではアルデヒド基を含まないので、これを、結合化の前に、糖類のシアル酸残基の一部(たとえば、5%と15%との間、好ましくは約10%)の過ヨウ素酸塩を用いる酸化によって生成する[2,29]。この方法で生成された結合型ワクチンは、GBS血清型Ia、Ib、II、IIIおよびVのそれぞれに関してヒトにおいて安全かつ免疫抗原性であることが示されている[30]。結合方法の代替例として、参考文献31に記載されているように、二官能性結合とともに、糖類(脱N−アセチル化から、またはアミンの導入後のいずれか)中の−NH2基の使用を含む。
【0072】
好ましいキャリアタンパク質は、ジフテリアトキソイドまたは破傷風トキソイド等の細菌のトキシンまたはトキソイドである。ジフテリアトキソイドのように、ジフテリアトキシンのCRM197変異体[32−34]も特に好ましいキャリアである。他の適切なキャリアタンパク質として、N.髄膜炎菌外膜タンパク質[35]、合成ペプチド[36,37]、熱ショックタンパク質[38,39]、百日咳タンパク質[40,41]、サイトカイン[42]、リンホカイン[42]、ホルモン[42]、成長因子[42]、ヒト血清アルブミン(好ましくは組換体)、N19[44]等の種々の病原菌由来抗原[43]からの複数のヒトCD4+T細胞エピトープを含む人工タンパク質、H.インフルエンザ[45,46]からのタンパク質D、肺炎球菌表面タンパク質PspA[47]、肺炎球菌溶血素[48]、鉄取込みタンパク質[49]、C.ディフィシレからの毒素AまたはB[50]、GBSタンパク質[109]などが挙げられる。
【0073】
たとえば、キャリアタンパク質中のまたはアルギニン残基のリジン残基の側鎖にある−NH2基を介して、キャリアへ結合するのが好ましい。また、結合は、たとえば、システイン残基の側鎖の−SH基を介してもよい。
【0074】
複数のキャリアタンパク質を、たとえば、キャリア抑制の危険性を減少させるために使用することが可能である。したがって、たとえば、血清型Ia糖類をCRM197に結合し、血清型Ib糖類を破傷風トキソイドに結合化するように、異なるキャリアタンパク質を異なるGBS血清型のために使用することができる。また、たとえば、血清型III糖類を2つのグループとし、あるものはCRM197に結合し、他は破傷風トキソイドに結合するように、複数のキャリアタンパク質を特定の糖類抗原に使用することもできる。しかし、一般的には、同じキャリアタンパク質を全ての糖類に使用するのが好ましい。
【0075】
単一キャリアタンパク質が、複数の糖類抗原を持ってもよい[51,52]。たとえば、単一キャリアタンパク質は、血清型IaおよびIbからの糖類に結合化していてもよい。この目的を達成するために、結合化反応の前に異なる糖類を混合することができる。しかし、一般的に、各血清型グループについて別々の結合体を持ち、異なる糖類は結合化後混合されるのが好ましい。別々の結合体は、同じキャリアに基づいてもよい。
【0076】
糖類:タンパク質の結合体比(w/w)は、1:5(すなわち過剰のタンパク質)と5:1(すなわち過剰の糖類)との間が好ましい。1:1.25と1:2.5との間の比と同様に、1:2と5:1との間の比も好ましい。
【0077】
結合体は、キャリアを伴わずに使用してもよい[53]。本発明の組成物におけるキャリアのないあるいはそれに結合する形態において、所定のキャリアタンパク質が存在する場合、結合化していない形態は、組成物全体のキャリアタンパク質の総量の5%以下が好ましく、2重量%未満で存在するのがさらに好ましい。
【0078】
結合化後、フリーまたは結合化糖類を分離することができる。疎水性クロマトグラフィー、接線限外ろ過、透析ろ過など[参考文献54および55も参照]を含む多くの適切な方法がある。
【0079】
一般的に、図5に示すように、結合体の2つのタイプ、すなわち、(a)個々の糖類が、たとえば、その還元末端を介して単一キャリアに結合する結合体と、(b)たとえば、数種の単糖類サブユニットは反応性であるので、個々の糖類が複数のキャリアに結合する結合体を作ることができる。両状況において、複数の露出したリジン側鎖を持ちうるので、キャリアタンパク質は複数の糖類分子に結合することができる。タイプ(b)の結合体は、本発明の修飾シアル酸またはガラクトース残基は単一糖類に沿った複数の部位で起こるので、本発明においてより一般的である[56]。したがって、好ましい結合体では、単一糖類分子は、複数のキャリア分子と平均してカップリングするのが好ましい。
【0080】
結合体と他の抗原との組合せ
本発明の方法によって生成される糖類(特に、先に記載したように、結合化後)は、たとえば、各他の抗原および/または他の抗原と混合することができる。したがって、本発明の方法は、糖類を1種以上の別の抗原と混合するさらなる工程を含んでもよい。
【0081】
複数の異なるGBS結合体を混合する場合、同じGBS血清型からの異なるタイプの結合体および/または異なるGBS血清型からの結合体を含んでもよい。たとえば、結合体は、血清型Ia、IbおよびIIIの2または3種からのものでもよい。組成物は、別々の結合体(たとえば、各血清型が異なる結合体)を生成し、次いでこれらを組み合わせることによって生成する。
【0082】
さらなる抗原(複数を含む)は、以下に規定するGBSアミノ酸配列を含んでもよい。
【0083】
さらなる抗原(複数を含む)は、非GBS病原菌からの抗原を含んでもよい。従って本発明の組成物は、さらに、付加的な細菌、ウィルスまたは寄生虫抗原を含む非GBS抗原の1種以上を含んでもよい。これらは、以下から選択してもよい。
-N.髄膜炎菌血清群Bからのタンパク質抗原、たとえば、タンパク質「287」を有する参考文献57〜63中の抗原(以下を参照)および誘導体(たとえば「ΔG287」)は特に好ましい。
−N.髄膜炎菌血清群Bからの外膜小胞(OMV)製剤、たとえば、参考文献64、65、66、67などに記載されているもの
−N.髄膜炎菌血清群A,C,W135および/またはYからの糖類抗原、たとえば、血清群Cからの参考文献68に記載のオリゴ糖類または参考文献69のオリゴ糖類
−ステロコッカス・ニューモニエからの糖類抗原[たとえば、参考文献70〜72;参考文献79の第22および23章]
−A型肝炎ウィルスからの抗原、たとえば、不活性化ウィルス[たとえば、73、74;参考文献79の第15章]
−B型肝炎ウィルスからの抗原、たとえば、表面および/またはコア抗原[たとえば、74、75;参考文献79の第16章]
−C型肝炎ウィルスからの抗原[たとえば、76]
−ボルデテラ百日咳からの抗原、たとえば、百日咳ホロトキシン(PT)およびB.百日咳からの線維状血球凝集素(FHA)、場合によっては、ペルタクチンおよび/または凝集原2および3と組み合わせる場合もある[たとえば、参考文献77および78;参考文献79の第21章]
−ジフテリア抗原、たとえばジフテリアトキソイド[たとえば、参考文献79の第13章]
−破傷風抗原、たとえば破傷風トキソイド[たとえば、参考文献79の第27章]
−ヘモフィルス・インフルエンザB型菌からの糖類抗原[たとえば、参考文献79の第14章]
−N.ゴノレエからの抗原[たとえば、57、58、59]
−クラミディア・ニューモニエからの抗原[たとえば、80、81、82、83、84、85、86]
−クラミディア・トラコーマからの抗原[たとえば、87]
−ポリフィロモナス・ジンジバリスからの抗原[たとえば、88]
−ポリオ抗原(複数を含む)[たとえば、89、90;参考文献79の第24章]、たとえば、IPV
−狂犬病抗原(複数を含む)[たとえば、91]たとえば、凍結乾燥不活性化ウィルス[たとえば、92、RabAvert(商標)]
−麻疹、マンプス/または風疹抗原[たとえば、参考文献79の第19、20および26章]
−インフルエンザ抗原(複数を含む)[たとえば、参考文献79の第17および18章]、たとえば、血球凝集素および/またはノイラミニダーゼ表面タンパク質
−モラクセラ・カタラーリスからの抗原(たとえば93)
−ステロコッカス・ピオゲネス(A群ステロコッカス)からの抗原[たとえば、94、95、96]。
【0084】
糖類または炭水化物抗原を使用する場合、免疫抗原性を促進するために、キャリアに結合するのが好ましい。H.インフルエンザB、髄膜炎菌性および肺炎球菌糖類抗原の結合体がよく知られている。
【0085】
必要であれば、毒性タンパク質抗原を解毒してもよい(たとえば、化学的および/または遺伝的手段による百日咳トキシンの解毒[78])。
【0086】
組成物中にジフテリア抗原が含まれる場合、破傷風抗原および百日咳抗原も含まれるのが好ましい。同様に、破傷風抗原が含まれる場合、ジフテリアおよび百日咳抗原も含まれるのが好ましい。同様に、百日咳抗原が含まれる場合、ジフテリアおよび破傷風抗原も含まれるのが好ましい。
【0087】
抗原は、アルミニウム塩に吸着されてもよい。
【0088】
組成物中の抗原は、典型的には、それぞれの濃度が少なくとも1μg/mlで存在する。一般的に、任意の所定の抗原の濃度は、その抗原に対して免疫応答を発現するのに十分なものである。
【0089】
本発明の組成物においてタンパク質抗原を使用する代わりに、抗原をエンコードする核酸を使用してもよい[たとえば、参考文献97〜105]。したがって、本発明の組成物のタンパク質成分は、タンパク質をエンコードする核酸(好ましくは、たとえばプラスミドの形態のDNA)によって置き換えられてもよい。
【0090】
実際の条件では、本発明の組成物に含まれる抗原の数に対する上限がある。本発明の組成物における抗原(GBS抗原を含む)の数は、20未満、19未満、18未満、17未満、16未満、15未満、14未満、13未満、12未満、11未満、10未満、9未満、8未満、7未満、6未満、5未満、4未満、または3未満である。本発明の組成物中のGBS抗原の数は、6未満、5未満、または4未満である。
【0091】
医薬組成物および方法
本発明は、医薬組成物を製造する方法であって、(a)本発明の糖類(場合により結合体の形態)と(b)医薬的に許容しうるキャリアとを混合する工程を含む方法を提供する。代表的な「医薬的に許容しうるキャリア」として、それ自身が組成物を受け取る個々に有害である抗体の生成を誘発しないキャリアであればいかなるものも含む。適切なキャリアとして、通常、タンパク質、多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリメリックアミノ酸、アミノ酸共重合体、ラクトースおよび脂質凝集物(たとえば、油滴またはリポソーム)等の、大きく、ゆっくりと代謝されるマクロ分子が挙げられる。そのようなキャリアは、当業者によく知られている。また、ワクチンは、水、食塩水、グリセロールなどの希釈剤も含む。さらに、湿潤剤、乳化剤、pH緩衝剤などの補助剤が存在してもよい。発熱性物質除去食塩水、リン酸緩衝生理食塩水は代表的なキャリアである。参考文献106に、医薬的に許容しうる賦形剤の十分な検討がされている。
【0092】
医薬組成物は、バイアルまたはシリンジに収納される。シリンジは、針が付けられて供給されてもまたは付けられずに供給されてもよい。シリンジは、組成物の1回投与分を含み、一方バイアルは一回投与または複数回投与を含んでもよい。
【0093】
本発明の糖類の水性組成物は、凍結乾燥された形態から他のワクチンを再調製するのに適している。本発明の組成物を、即時調合再調製のために使用する場合、本発明は、そのような凍結乾燥ワクチンを再調製する方法であって、凍結乾燥材料と本発明の水性組成物とを混合する工程を含む方法を提供する。再調製材料は、注射のために使用することができる。
【0094】
GBSタンパク質抗原
先に記載したように、GBSタンパク質を本発明の組成物に含ませることができる。これらは、本発明の結合体のためのキャリアタンパク質として、他の結合体のためのキャリアタンパク質として、または結合化していないタンパク質抗原として使用してもよい。
【0095】
本発明による使用のためのGBSタンパク質抗原として、参考文献94および107〜109に開示されているものが挙げられる。本発明による使用のための5種の好ましいGBSタンパク質抗原は、GBS67;GBS80;GBS104;GBS276;およびGBS322として知られている[参考文献94を参照]。これら5種の抗原の詳細を以下に示す。
【0096】
これら5種のGBSタンパク質の完全長配列は、本明細書における配列番号(SEQ ID NO):1〜5である。したがって、本発明の組成物は、(a)配列番号:1〜5から選択されるアミノ酸配列を含むポリペプチドおよび/または(b)(i)配列番号:1〜5の1以上と配列同一性を有するアミノ酸配列および/または(ii)配列番号:1〜5のフラグメントを含むポリペプチドを含んでもよい。
【0097】
特定の配列番号に依っては、配列同一性の程度は、(i)では、50%を超える(たとえば、60%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上)のが好ましい。これらのポリペプチドは、ホモローグ、オルソローグ、アレリック変異体、および機能的変異体を含む。通常、2種のポリペプチド配列の間の50%同一性またはそれ以上が、機能等価の指標であると考えられる。ポリペプチド間の同一性は、好ましくは、パラメーターがギャップ開始=12およびギャップ伸張=1でアフィンギャップサーチを使用して、MPSRCHプログラム(Oxford Molecular)に導入されているような、スミス−ウォーターマン(Smith−Waterman)相同性検索アルゴリズムによって決定するのが好ましい。
【0098】
特定の配列番号に依るが、(ii)のフラグメントは、少なくともn個の連続する配列からのアミノ酸を含むべきで、特定の配列に依って、nは7またはそれ以上(たとえば、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100またはそれ以上)である。フラグメントは、少なくとも1個のT−細胞エピトープ、または好ましくは、配列のB−細胞エピトープを含む。T−およびB−細胞エピトープは、経験的に同定することができ(たとえば、EPSCAN[110、111]を使用して、または類似の方法)、あるいはこれらは予測することができる(たとえば、ジェムソン−ウォルフ(Jameson−Wolf)抗原インデックス[112]、マトリックスベースアプローチ[113]、TEPITOPE[114]、神経回路網[115]、オプティマーおよびエピマー(OptiMer & EpiMer)[116、117]、ADEPT[118]、Tサイト[119]、親水性[120]、抗原インデックス[121]または参考文献122に開示される方法などを用いて)。他の好ましいフラグメントは、N−末端アミノ酸残基のない、またはN−末端シグナルペプチドのない配列番号:1〜5である。1以上のドメイン、たとえば、リーダー配列またはシグナル配列領域、トランスメンブラン領域、細胞質領域、または細胞壁固定モチーフの除去を用いることができる。好ましいフラグメントを以下に示す(配列番号:6〜19)。
【0099】
これらのポリペプチドは、配列番号:1〜5と比べて、1以上の(たとえば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10など)保存的アミノ酸置換、すなわち、1個のアミノ酸の、関連する側鎖を持つ他のものとの置換を含む。遺伝子的にエンコードされているアミノ酸は、一般的に4つのファミリー、すなわち、(1)酸性、すなわち、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩;(2)塩基性、すなわち、リジン、アルギニン、ヒスチジン;(3)非極性、すなわち、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプロファン;および(4)荷電されていない極性、すなわち、グリシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セリン、スレオニン、チロシンに分類される。フェニルアラニン、トリプトファンおよびチロシンは、芳香族アミノ酸として一緒に分類される場合もある。一般的に、これらのファミリー内の単一アミノ酸の置換は、生物活性に大きな影響を持たない。また、ポリペプチドは、配列番号:1〜5に対して1以上の(たとえば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10など)の単一アミノ酸の欠損を含む。また、ポリペプチドは、配列番号:1〜5に対して、1以上(たとえば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10など)の挿入(たとえば、1、2、3、4または5個のアミノ酸のそれぞれ)を含む。
【0100】
本発明のポリペプチドは、多くの方法、たとえば、化学的合成(全体または部分)によって、プロテアーゼを使用して、より長いポリペプチドを分解することによって、RNAからの翻訳によって、細胞培養液(たとえば、組換体発現から)から、微生物それ自身(たとえば、細菌の培養の後または親から直接)からの精製などによって生成することができる。ペプチド<40アミノ酸長さの好ましい製造法として、インビトロ化学的合成[123、124]が挙げられる。固相ペプチド合成は特に好ましく、そのような方法は、tBocまたはFmoc[125]化学に基礎を置く。酵素的合成[126]を部分的にあるいは全体に使用してもよい。化学的合成に代わるものとして、生物学的合成を使用してもよく、たとえば、ポリペプチドを翻訳によって生成してもよい。これはインビトロで行っても、インビボで行ってもよい。生物学的方法は、一般的に、ポリペプチドベースのL−アミノ酸の精製に限定されるが、翻訳装置の処置(たとえば、アミノアシルtRNA分子の)を使用し、D−アミノ酸(またはヨードチロシンまたはメチルフェニルアラニン、アジドホモアラニンなどの他の天然でないアミノ酸)の導入を可能とする[127]。しかし、D−アミノ酸が含まれる場合は、化学的合成を使用するのが好ましい。本発明のポリペプチドは、C−末端および/またはN−末端で共有修飾を有してもよい。
【0101】
これらのGBSタンパク質が本発明の組成物に含まれる場合、それらは、種々の形態(たとえば、天然、融合、グリコシル化、非グリコシル化、脂質化、非脂質化、リン酸化、非リン酸化、ミリストイル化、非ミリストイル化、単量体、多量体、粒子、変性など)を取り得る。これらを、純粋な、あるいは実質的に純粋な形態、すなわち、実質的に他のポリペプチドのない(たとえば、天然に発生するポリペプチドのない)、特に他のGBSまたは宿主細胞ポリペプチドのない形態で使用するのが好ましい。
【0102】
GBS67
血清型V株2603V/Rから配列決定したGBS67のヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、参考文献94で配列番号:3745および3746と規定される。該アミノ酸配列は、本明細書では配列番号:1である。
【0103】
【化2】

GBS67は、前記配列番号:1のC−末端に近い下線部によって示される、C−末端トランスメンブラン領域を含む。トランスメンブラン領域からの1種以上のアミノ酸が除去されてもよく、あるいはアミノ酸は、トランスメンブラン領域の前で切り詰められてもよい。そのようなGBS67フラグメントの例を配列番号:18として以下に規定する。
【0104】
【化3】

GBS67は、前記配列番号:1中のイタリック体で表される、細胞壁アンカーを示すアミノ酸モチーフを含む。組換体宿主細胞系の中には、宿主細胞からの組換体GBS67タンパク質の分泌を促進するため、このモチーフを除去するのが好ましいものもある。したがって、本発明で使用するためのGBS67の好ましいフラグメントの1つは、トランスメンブランおよび細胞壁アンカーモチーフがGBS67から除去されている。そのようなGBS67フラグメントの例を配列番号:19として以下に規定する。
【0105】
【化4】

【0106】
GBS80
GBS80は、推定細胞壁表面アンカーファミリータンパク質に関する。血清型V単離株2603V/Rから配列決定したGBS80のヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、参考文献94で配列番号:8779および8780として規定される。アミノ酸配列を配列番号:2として以下に規定する。
【0107】
【化5】

GBS80は、前記下線を付けた配列によって示される、N−末端リーダーまたはシグナル配列領域を含む。GBS80のリーダーまたはシグナル配列領域からの1以上のアミノ酸を除去することができる。そのようなGBS80フラグメントの例を、配列番号:6として以下に規定する。
【0108】
【化6】

GBS80は、前記配列番号:2の末端に近い下線を付けた配列によって表される、C−末端トランスメンブラン領域を含む。トランスメンブラン領域および/または細胞質領域からの1以上のアミノ酸を除去してもよい。そのようなフラグメントの例を配列番号:7として以下に規定する。
【0109】
【化7】

GBS80は、前記配列番号:2中のイタリック体で表される、細胞壁アンカーを示すアミノ酸モチーフを含む。組換体宿主細胞系の中には、宿主細胞からの組換体GBS80タンパク質の分泌を促進するため、このモチーフを除去するのが好ましいものもある。したがって、トランスメンブランおよび/または細胞質領域、および細胞壁アンカーモチーフは、GBS80から除去されてもよい。そのようなフラグメントの例を配列番号:8として以下に規定する。
【0110】
【化8】

あるいは、組換体宿主細胞系の中には、細胞壁アンカーモチーフをアンカーに、組換発現タンパク質を細胞壁に使用するのが好ましいものもある。発現タンパク質の細胞外ドメインを精製中に開裂させてもよく、あるいは組換タンパク質を、最終組成物中の不活性化宿主細胞または細胞膜に結合して残してもよい。
【0111】
1実施形態では、リーダーまたはシグナル配列領域、トランスメンブランおよび細胞質領域、ならびに細胞壁アンカーモチーフをGBS80配列から除去する。そのようなGBS80フラグメントの例を配列番号:9として以下に規定する。
【0112】
【化9】

GBS80の特定の免疫抗原性フラグメントは、タンパク質のN−末端に対向して位置し、本明細書ではこれを配列番号:10として規定する。
【0113】
【化10】

【0114】
GBS104
GBS104は、推定細胞壁表面アンカーファミリータンパク質に関する。emaAと言われていた。血清型V単離株2603V/Rから配列決定したGBS104のヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、参考文献94で配列番号:8777および配列番号:8778として規定される。アミノ酸配列は、本明細書では配列番号:3である。
【0115】
【化11】

GBS104は、前記配列番号:3の始まりの下線を付けた配列によって示される、N−末端リーダーまたはシグナル配列領域を含む。GBS104のリーダーまたはシグナル配列領域からの1以上のアミノ酸を除去してもよい。そのようなGBS104フラグメントの例を配列番号:11として以下に規定する。
【0116】
【化12】

GBS104は、前記配列番号:3の末端に近い下線領域によって示されるC−末端トランスメンブランおよび/または細胞質領域を含む。トランスメンブランまたは細胞質領域からの1以上のアミノ酸を除去してもよい。そのようなGBS104フラグメントの例を配列番号:12として以下に規定する。
【0117】
【化13】

リーダーまたはシグナル配列領域からの1以上のアミノ酸、およびトランスメンブランまたは細胞質領域からの1以上のアミノ酸を除去してもよい。そのようなGBS104フラグメントの例を配列番号:13として以下に規定する。
【0118】
【化14】

さらに、GBS104のフラグメントは、アミノ酸28〜858個のGBS104の830アミノ酸フラグメント(配列番号:3と付けられている)、アミノ酸28〜387個のGBS104の359アミノ酸フラグメント、アミノ酸28〜609個のGBS104の581アミノ酸フラグメントまたはアミノ酸28〜768個のGBS104の740アミノ酸フラグメントを含む。
【0119】
GBS276
GBS276は、C5aペプチダーゼに関する。さらに、GBS276の記載は、参考文献128〜131に見出すことができる。血清型V単離株2603V/Rから配列決定したGBS276配列のヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、参考文献94で配列番号:8941および8942として規定される。アミノ酸配列は、本明細書では配列番号:4である。
【0120】
【化15】

GBS276は、前記配列番号:4の始まりの下線を付けた配列によって示されるN−末端リーダーまたはシグナル配列領域を含む。GBS276のリーダーまたはシグナル配列領域からの1以上のアミノ酸は、除去されてもよい。そのようなGBS276フラグメント例を配列番号:14として以下に規定する。
【0121】
【化16】

GBS276は、前記配列番号:4の末端に近い下線を付けた配列によって示される、C−末端トランスメンブランおよび/または細胞質領域を含む。GBS276のトランスメンブランまたは細胞質領域からの1以上のアミノ酸は除去されてもよい。そのようなGBS276フラグメントの例を配列番号:15として以下に規定する。
【0122】
【化17】

GBS276の、リーダーまたはシグナル配列領域からの1以上のアミノ酸およびトランスメンブランまたは細胞質領域からの1以上のアミノ酸は除去されてもよい。そのようなGBS276フラグメントの例を配列番号:16として以下に規定する。
【0123】
【化18】

【0124】
GBS322
GBS322は表面免疫抗原性タンパク質に関し、「sip」とも言われる。血清型V単離株2603V/Rから配列決定したGBS322のヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、参考文献94で配列番号:8539および8540と規定される。該アミノ酸配列は、本明細書では、配列番号:5である。
【0125】
【化19】

GBS322は、前記配列番号:5の始まりの下線を付けた配列によって示される、N−末端リーダーまたはシグナル配列領域を含む。GBS322のリーダーまたはシグナル配列領域からの1以上のアミノ酸を除去してもよい。そのようなGBS322フラグメントの例を配列番号:17として以下に規定する。
【0126】
【化20】

【0127】
一般論
用語「含む」は、「含有する」も「からなる」も含むものであり、たとえば、Xを「含む」組成物は、Xだけからなるものでもよく、あるいは何か付加的なものを含む、たとえば、X+Yであってもよい。
【0128】
数値xに関連して用語「約」は、たとえば、x±10%を意味する。
【0129】
語「実質的に」は、「完全に」を除外するものではなく、たとえば、「実質的にYがない」組成物は、Yを全く含まなくてもよい。必要な場合は、語「実質的に」を本発明の定義からは除外してもよい。
【0130】
本発明が複数の連続する工程を含む方法を提供する場合、本発明は、工程の総数未満の工程を含む方法も提供することができる。たとえば、汚染核酸および/またはタンパク質を除去することによって、糖類がすでに部分的に精製されている場合、この工程は、本発明の方法から除外することができる。同様に、混入物を除去する工程を行い、界面活性剤介在沈殿用の物質を得ることができるが、沈殿を行う必要はない。予備沈殿物質は糖類調製において中間体として有用性を持つので、本発明の範囲内に入れるために沈殿工程を行う必要はなく、後の使用のため、たとえば後の沈殿のために、使用し、保存し、輸出してもよい。これらの異なる工程を全く異なる時に、異なる人によって異なる場所(たとえば異なる国)で行ってもよい。
【0131】
糖環は、開環形態でも閉環形態でも存在することができ、本明細書での構造式では閉環形式を示しているが、開環形式も本発明に包含されることは認められるであろう。同様に、糖類は、ピラノース形態でもフラノース形態でも存在することができ、本明細書での構造式ではピラノース形態を示しているが、フラノース形態も包含されることも認められるであろう。糖類の異なるアノマー型も包含される。
【0132】
本発明の実施形態
A.GBS血清型Ia、IbおよびIIIからの莢膜糖類の精製
B群ステロコッカス培養の上清を、遠心分離後収集し、水酸化ナトリウム(最終濃度:0.8M)で、37℃36時間処理した。得られた懸濁液をHClの添加によって中性化した。エタノール水溶液(30%)およびCaCL2(0.1M)の混合物を、中性化した混合物に添加した。沈殿が急速に形成され、これを遠心分離によって除去した。シアル酸アッセイは、上清中に莢膜糖類が残存することを示した。上清を、再生セルロースフィルター(0.22μm切断片)で全量精密ろ過処理に供し、次いで、30kDa切断片セルロース膜を使用し、接線流透析ろ過を約2時間行った。莢膜糖類は限外ろ過保持液中にあった。保持液を、沈殿が形成するまで(数分以内)、10%CTAB界面活性剤を添加して処理した。沈殿物質(莢膜多糖類を含む)を、遠心分離によって分離した。ペレットを0.1MのCaCl2水溶液の添加により再可溶化した。さらなる沈殿工程を、96%エタノールを添加することにより行い、80%の最終エタノール濃度を得た。沈殿物を再び、遠心分離により除去し、ペレットを真空乾燥で乾燥した。
【0133】
方法全体(図6に示す)で、2〜3日かかり、収率は約60%であった。最終乾燥物質に関し、以下のパラメーター、すなわち、総重量、莢膜糖類の重量およびシアル酸含量を試験した。3種の血清型の結果は以下の通りである。
【0134】
【化21】

各場合の純度は、従来技術の方法により達成されるものより良好であり、特に血清型III物質に関して良好であった(89%対74%)。しかし、従来技術とは対照的に、方法は2〜3日(15〜20日と比較)かかり、収率は約60%(約20%と比較)であった。
【0135】
タンパク質および核酸の混入を、UV吸収によって評価した。従来技術の方法によって生成された糖類も比較のために試験した。スペクトルを図7に示す。従来技術の物質は、3種の血清群のそれぞれに関し、270nm付近で明らかなピークを持つ。一方、本発明の方法により精製した物質は、この領域ではフラットなスペクトルを持つ。280nmおよび260nmでの吸光度の比は以下の通りである。
【0136】
【化22】

これらの比は、本発明の方法によって生成した物質は、従来技術の方法によって調製した物質より汚染が少なくことを示す。
【0137】
NMRは、糖類の試験するために、特に、N−アセチル化の度合いを評価するために使用した。NMRスペクトルを図8〜10に示す。従来技術の方法および本発明の方法のスペクトルを重ね合わせる。低い方のスペクトルが従来技術の物質である。N−アセチル化率%計算値は、以下の通りであった。
【0138】
【化23】

【0139】
B.精製莢膜糖類の結合化
GBS血清型Ia、IbおよびIIIのそれぞれからの莢膜糖類を精製し、再アセチル化した。次いで、糖類を、直接還元アミノ化によって、モノマー破傷風トキソイド(TT)あるいはCRMl97キャリアタンパク質に共有結合した。結果は以下の通りである。
【0140】
【化24】

【0141】
C.結合体による負荷試験
血清型Ia株からの莢膜糖類を従来技術の方法あるいは本発明の方法を使用して精製した。結合化に関し、5%と15%の間の標的で、糖類中のシアル酸残基のフラクションを酸化させた。
【0142】
従来技術の方法によって精製した物質の2ロットの酸化率は54.5%および17.6%であった。本発明に従って精製した物質は、6.6%酸化された。
【0143】
糖類を還元アミノ化によって破傷風トキソイドに結合化させた。マウスの感作を、3種の結合体を用い、平行して、0日および21日に1用量当たり1μgの糖類で行った。CD−I非近交系メスのマウス、6〜7週齢(Charles River Laboratories)の群に、250μlのPBS中に懸濁した結合体および水酸化アルミミウムアジュバント(2mg/mlの最終濃度)を含む同容積のPBSを腹腔内注射によって与えた。次いで、マウスを3種の異なる血清型で負荷を与えた。生存率は以下の通りである。
【0144】
【化25】

このように、本発明の方法によって精製された糖類は、従来技術の方法によって精製されたものより、免疫学的に優れている。
【0145】
オプソニン化食作用試験
血清型Ia、IbおよびIIIからのTT−結合糖類を従来技術の方法[1−9]または本発明の方法によって生成した。4匹のCD−1非近交系メスのマウス、6〜7週齢(Charles River Laboratories)の群を、250μlのPBSに懸濁した結合体(用量:1μgの糖類)および水酸化アルミニウムアジュバント(2mg/mlの最終濃度)を含む同容積のPBSで免疫化した。それぞれの群は、0および21日に腹腔内注射によって2回の投与を受けた。また、各感作スキームで、陰性コントロールおよび陽性コントロールも使用した。
【0146】
免疫応答を、0日および36日に採取した血清サンプルから測定した。血清を、「515」(Ia型;MLST型ST23)、「COH1」(III型;MLST型ST17)および「H36B」(Ib型;MLST型ST6)を含む7種の異なるGBS株に対して、マウスの各群からのプールとして分析した。予防およびオプソニン力価を測定した。結果を以下に示す。
【0147】
【化26】

データは、本発明の方法によって精製された糖類が、従来技術の方法によって精製された物質と比べ、同等または改良された予防効果を与えることを示す。さらに、予防効果を比較すると、本発明の方法によって精製された物質は、向上したオプソニン力価を与える。
【0148】
本発明を例示のためだけに記載し、本発明の範囲および精神に入る限り、変形がなされてもよいことは理解されるであろう。
【0149】
【化27】

【0150】
【化28】

【0151】
【化29】

【0152】
【化30】

【図面の簡単な説明】
【0153】
【図1】GBSのペプチドグリカンに結合する莢膜多糖類(左)および群特異多糖類(右)を示す。
【図2】GBS血清型Ia、Ib、II、IIIおよびVにおける莢膜糖類の繰返し構造を示す。
【図3】GBS血清型IaおよびIIIにおける繰返し構造間の違いを示す。
【図4】B群抗原のテトラアンテナリー構造を示す。A〜Dは主成分オリゴ糖類を示し、Pはリン酸塩を示す[12]。
【図5】調製することができる2つのタイプの結合体を示す。
【図6】本発明の方法全体を示すフローチャート。
【図7】6種のGBS莢膜多糖類部のUV吸光度スペクトル。ピークまたはショルダーは、275nm付近に見える。その点で、上の3つのスペクトルは、従来技術の方法によって精製した物質に関するもので、下の3つのスペクトルは、本発明に従って精製した物質に関するものである。275nm付近のポイントで上から下へ順番に、Ib、Ia、III、Ia、Ib、IIIである。
【図8】異なる血清型:(8)Ia、(9)Ib、(10)IIIに関するNMRスペクトルである。
【図9】異なる血清型:(8)Ia、(9)Ib、(10)IIIに関するNMRスペクトルである。
【図10】異なる血清型:(8)Ia、(9)Ib、(10)IIIに関するNMRスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステロコッカス・アガラクティエの莢膜多糖類を精製する方法であって、(a)連鎖球菌性タンパク質と、核酸と、莢膜多糖類とを含む懸濁液を、核酸およびタンパク質を沈殿させるために、水性金属カチオンおよびアルコールで処理する工程と、(b)沈殿物質を該水性物質から分離する工程と、(c)莢膜多糖類を沈殿させるために、該水性物質を陽イオン界面活性剤で処理する工程とを含む、方法。
【請求項2】
前記多糖類がIa、Ib、II、III、IV、V、VI、VIIおよびVIIIから選択されるS.アガラクティエ血清型である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記血清型がIa、Ib、II、IIIおよびVから選択される、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記多糖類が実質的に完全長莢膜多糖類である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記多糖類の分子量が>30kDaである、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記糖類が、部分的にまたは完全にO−脱アセチル化されている、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記糖類が、部分的にまたは完全にN−脱アセチル化されている、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記懸濁液が、遠心分離されたS.アガラクティエ培養液からの上清である、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記莢膜糖類が遊離するように、S.アガラクティエを処理することにより、前記懸濁液を調製する、請求項1〜7のいずれか1に記載された方法。
【請求項10】
前記莢膜糖類を化学的または酵素的処理によって遊離する、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記莢膜糖類を塩基抽出によって遊離する、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記莢膜糖類を、ムタノリシンおよびβ−N−アセチルグルコサミニダーゼで処理することによって遊離する、請求項10記載の方法。
【請求項13】
前記莢膜糖類を、II型ホスホジエステラーゼで処理することによって遊離する、請求項10記載の方法。
【請求項14】
前記アルコールが低級アルコールである、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記アルコールが、エタノールまたはイソプロパノールである、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記アルコールを懸濁液に添加し、10%と50%との間の最終アルコール濃度を得る、請求項1〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記水性金属陽イオンが、1価または2価である、請求項1〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記陽イオンがMg++、Mn++またはCa++である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
Ca++イオンが、10mMと500mMとの間の最終濃度で使用され、および存在する、請求項18記載の方法。
【請求項20】
工程(b)が、遠心分離を含む、請求項1〜19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
遠心分離後の前記上清を、精密ろ過処理に供する、請求項20記載の方法。
【請求項22】
工程(a)の後、工程(c)の前に透析ろ過の工程を行う、請求項1〜21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
工程(c)における陽イオン性工程が、CTAB等の、テトラブチルアンモニウムまたはセチルトリメチルアンモニウム塩である、請求項1〜22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
さらに、前記糖類を水性媒質またはアルコール媒質に再可溶化することを含む、請求項1〜23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
水性媒質が前記糖類を再可溶化するために使用され、該水性媒質はMg++、Mn++またはCa++を含む、請求項24記載の方法。
【請求項26】
アルコール媒質が前記糖類を再可溶化するために使用され、該アルコールの最終濃度は、70%と95%との間である、請求項24記載の方法。
【請求項27】
請求項1〜26のいずれかに記載の方法によって得られるステロコッカス・アガラクティエ莢膜多糖類を含む、組成物。
【請求項28】
280nmでのUV吸光度が0.20未満である、請求項27記載の組成物。
【請求項29】
260nmでの組成物のUV吸光度に対する280nmでの組成物のUV吸光度の比が0.85を超える、請求項27記載の組成物。
【請求項30】
220nmと300nmとの間の組成物のUV吸光度スペクトルが、270nm付近でショルダーあるいはピークのいずれかを示す、請求項27記載の組成物。
【請求項31】
前記組成物のUVスペクトルが、250nmと275nmとの間で、最高点も変曲点も持たない、請求項27記載の組成物。
【請求項32】
前記糖類の純度が、前記組成物中の糖類、タンパク質および核酸の総重量に対して少なくとも89%である、請求項27記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2008−528052(P2008−528052A)
【公表日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−553742(P2007−553742)
【出願日】平成18年2月1日(2006.2.1)
【国際出願番号】PCT/IB2006/000626
【国際公開番号】WO2006/082527
【国際公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(507238285)ノバルティス ヴァクシンズ アンド ダイアグノスティクス エスアールエル (35)
【Fターム(参考)】