説明

遅延硬化性樹脂組成物

【課題】従来は、エポキシ樹脂とカチオン系触媒の反応を抑制するためには、非反応性の遅延剤を添加することが主流であり、物理特性を向上させることが困難であった。
【解決手段】(A)〜(C)成分を含み、(A)成分100質量部に対して(B)成分が5〜45質量部が含まれる遅延硬化性を有する樹脂組成物。(A)成分:エポキシ樹脂、(B)成分:エポキシ基および水酸基を有する脂肪族化合物、(C)成分:活性エネルギー線によりカチオン種を発生する開始剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線や可視光などの活性エネルギー線を照射して、室温または低温(60℃〜100℃)加熱により一定時間が経過した後に硬化する遅延硬化性を有する樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂をカチオン系触媒で硬化させる組成物において、遅延硬化に関する技術は特許文献1に示されている通りポリオールを使用することが多い。その際、水酸基のプロトンが解離しやすい、酸性度が高い官能基を有すると促進効果があると考えられている。しかし、特許文献1の段落0028に記述されている通り、反応を強く抑制する効果が逆に硬化性を低下させるという欠点を有している。
【0003】
低分子量のポリオールでは硬化した後にブリードアウトするなどの問題があるため、特許文献2の様に高分子量のポリオールを使用し、接着力などの物理特性を向上させる手法がとられている。しかしながら、高分子量のポリオールを添加または溶解させると組成物の粘度が増加し取扱性に支障がでる。
【0004】
これらの問題に対処するため、ポリオールではない遅延剤を使用する検討もされている。特許文献3では遅延剤として有機金属錯体を使用している。しかしながら、電子分野において非反応性の遅延剤は残留すると不純物になるため、被着体を汚染する問題がある。また、遅延剤が樹脂と被着体との界面に残ると強度低下を招く恐れが有ると共に充分な硬化性が得られない可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−61078号公報
【特許文献2】特開2006−265351号公報
【特許文献3】特開平11−181391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来は、エポキシ樹脂とカチオン系触媒の反応を抑制するためには、非反応性の遅延剤を添加していたが、接着力などの物理特性を向上させることが困難であった。そこで、本発明では、硬化物中に残留して不純物となる恐れのある遅延剤を使用することなく優れた遅延硬化性を示す樹脂組成物を提供することを目的とする。あるいは、塗布工程等において取り扱いが容易で、十分な硬化物性を有する樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するべく鋭意検討した結果、遅延硬化性樹脂組成物に関する手法を発見し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の要旨を次に説明する。本発明の第一の実施態様は、下記(A)〜(C)成分を含み、(A)成分100質量部に対して(B)成分が5〜45質量部が含まれる遅延硬化性を有する樹脂組成物である。
【0009】
(A)成分:エポキシ樹脂
(B)成分:エポキシ基および水酸基を有する脂肪族化合物
(C)成分:活性エネルギー線によりカチオン種を発生する開始剤
本発明の第二の実施態様は、(B)成分の主骨格がポリグリセロールである樹脂組成物であると好ましい。好ましくは、上記(A)〜(C)成分からなる。
【0010】
また、前記(C)成分が、(A)成分100質量部に対して、0.1〜10質量部含まれる遅延硬化性を有する樹脂組成物であると好ましい。
【0011】
また、(B)成分のエポキシ当量が100〜200g/eqであり、重量平均分子量が100〜1000であり、粘度が1000〜5000mPa・sである遅延硬化性を有する樹脂組成物であると好ましい。
【0012】
また、(B)成分が、下記式17:
【0013】
【化1】

【0014】
上記式17中、R、n個のR、およびRのうち、少なくとも1つは、水素原子であり、少なくとも2つは、グリシジル基であり、nは1〜10の整数である、で示される、遅延硬化性を有する樹脂組成物であると好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、硬化物に残留して不純物となる遅延剤を使用しないため、遅延剤等の影響で接着力などの物理特性が低下しない遅延硬化性樹脂組成物を可能にする。さらに、本発明は優れた遅延硬化性を示すので、活性エネルギー線を照射した後に、被着体に塗布等して貼り合わせ作業が可能となる。したがって、被着体としては、活性エネルギー線を透過する素材に限定されることなく、本発明は様々な材料の接着用途に広範に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の樹脂組成物は、遅延硬化性を有することを特徴とする。本発明における遅延硬化性とは、活性エネルギー線(例えば、300〜3000mJ/cm;実施例では、500mJ/cm)による照射で即時に硬化せず、室温(20〜30℃)で、30分〜24時間放置又は低温(60〜100℃)で10〜60分の加熱により硬化することをいう。
【0017】
遅延硬化性は、遅延性と、硬化性とに分けて考えることができる。
【0018】
遅延性(つまり、活性エネルギー線による照射で即時に硬化しない)に関しては、本発明の樹脂組成物は、典型的には、不活性ガス(例えば、窒素)雰囲気中で、室温(20〜30℃)で、活性エネルギー線を照射した後、その終了時点から室温放置した状態で5分間以上、樹脂組成物が液体状態を保持していれば遅延性を有すると判断できる。好ましくは照射終了時点から7分間以上、より好ましくは10分間以上、さらに好ましくは30分間以上液状が保持される。液状が保持されているかどうかは、指触により、硬化しておらずかつ糸引きのない状態であることをもって確認できる。液状が保持される時間の上限にも制限はないが、生産性の観点からして、好ましくは、24時間以下、より好ましくは3時間以下、さらに好ましくは1時間以下である。
【0019】
また硬化性に関しては、本発明の樹脂組成物は、活性エネルギー線を照射した後、室温(20〜30℃)(つまり、熱をかけない)で、30分〜24時間放置することによって硬化することが好ましい。それでも硬化しない場合は、低温(60〜100℃)で好ましくは30〜60分、より好ましくは20〜50分、さらに好ましくは20分未満加熱することによって硬化することが好ましい。
【0020】
また、本発明の樹脂組成物の、実施例に記載の方法による十字はく離強度は、好ましくは、1MPa以上であり、より好ましくは2MPa以上であり、さらに好ましくは5MPa以上であり、特に好ましくは10MPa以上である。
【0021】
本発明の詳細を次に説明する。
【0022】
[(A)エポキシ樹脂]
本発明で使用することができる(A)成分としてはエポキシ樹脂である。(A)エポキシ樹脂は、主として最終的な硬化物を形成する成分である。
【0023】
具体例としては、ビスフェノールA型、臭素化ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型、ビスフェノールAF型、ビフェニル型、ナフタレン型、フルオレン型などのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を例示することができる。
【0024】
より具体的には、(A)成分は、下記式1:
【0025】
【化2】

【0026】
で示されるエピクロルヒドリンと、下記式2〜10:
【0027】
【化3】

【0028】
【化4】

【0029】
【化5】

【0030】
【化6】

【0031】
【化7】

【0032】
【化8】

【0033】
【化9】

【0034】
【化10】

【0035】
【化11】

【0036】
のいずれかで示されるビスフェノール類などの多価フェノール類との縮合によって得られるものや、多価アルコールとの縮合によって得られるものであることが好ましい。かかる縮合は、従来公知の知見を参照し、あるいは、組み合わせて行うことができる。
【0037】
また、上記のように(A)成分はエピクロルヒドリンとフェノール類などの縮合によって得られるものであり、例えば、ノボラック型、フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型などのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂をさらに例示することができる。
【0038】
具体的には、例えば、下記式11:
【0039】
【化12】

【0040】
上記式11中、Rは、水素原子またはメチル基であり、Gは、グリシジル基、Rは、水素原子または臭素原子であり、nは、1より大きい整数である、で示される。
【0041】
なお、グリシジル基は、下記式12:
【0042】
【化13】

【0043】
で示される。グリシジル基は、エポキシ基の1種であり、本明細書中においては、グリシジル基のことをエポキシ基と称する場合もある。
【0044】
上記式11中、好ましくは、Rは、水素原子であり、Rは、水素原子であり、nは、1より大きい整数である、で示される(フェノールノボラック型)。
【0045】
また、上記式11中、好ましくは、Rは、メチル基であり、Rは、水素原子であり、nは、1より大きい整数である、で示される(オルソクレゾールノボラック型)。
【0046】
あるいは、下記式13:
【0047】
【化14】

【0048】
上記式13中、Rは、水素原子またはメチル基であり、Gは、グリシジル基、Rは、水素原子または臭素原子であり、mは、1より大きい整数である、で示される。
【0049】
上記式13中、好ましくは、Rは、水素原子であり、Rは、水素原子であり、mは、1より大きい整数である、で示される(トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型)。
【0050】
また、テトラフェニロールエタン型などのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を例示することができる。
【0051】
その他、エピクロルヒドリンとフタル酸誘導体や脂肪酸などのカルボン酸との縮合によって得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂、エピクロルヒドリンとアミン類、シアヌル酸類、または、ヒダントイン類との反応によって得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂、さらには様々な方法で変性したエポキシ樹脂を挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0052】
これらのうちより好ましいものは芳香族エポキシ樹脂であり、具体的には、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、臭素化ビスフェノールA型、ビスフェノールS型、ビスフェノールAF型、ビフェニル型、ナフタレン型、フルオレン型、ノボラック型、フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型、テトラフェニロールエタン型などのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂である。
【0053】
さらに好ましくは、商業的に大量に生産されており価格的にも安価であることから、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、フェノールノボラック型エポキシ樹脂である。
【0054】
これらの芳香族エポキシ樹脂は、芳香族エポキシ樹脂中でも分子量が小さく、液状であり、粘度が1000mPa・s(25℃)以上〜固体(25℃)であることが好ましい。
【0055】
多量体を含む芳香族エポキシ樹脂は一般に固形化し易いため、多量体を含まない上記低分子量の芳香族エポキシ樹脂の方が室温で液状であるため取扱性が優れている。単量体の芳香族エポキシ樹脂はフェノール系水酸基とエピクロルヒドリンが当量的に反応するため、分子中に水酸基を含まない。
【0056】
分子中に水酸基を含まないエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの縮合物であれば、ビスフェノールAの2つの水酸基にエピクロルヒドリンが結合した、下記式14:
【0057】
【化15】

【0058】
ただし、Xは、
【0059】
【化16】

【0060】
である、で示されるエポキシ樹脂が好ましい。
【0061】
つまり、下記式16:
【0062】
【化17】

【0063】
で示されるエポキシ樹脂であることが好ましい。
【0064】
上記式16は、上記式2に含まれる、2つの水酸基部分と、エピクロルヒドリンとが反応し、塩化水素が脱離して形成される形態であるが、Xが、上記式3〜上記式10から誘導される2価のある基であることが好ましい。中でも、上記式3から誘導される2価のある基であることも好ましい。
【0065】
一方で、上記式11中、好ましくは、Rは、水素原子であり、Rは、水素原子であり、nは、1より大きい整数である、で示される(フェノールノボラック型)であることが、分子中に水酸基を含まない観点で好ましい。
【0066】
また、上記式11中、Rは、メチル基であり、Rは、水素原子であり、nは、1より大きい整数である、で示される(オルソクレゾールノボラック型)であることが、分子中に水酸基を含まない観点で好ましい。
【0067】
本発明の(A)エポキシ樹脂のエポキシ当量は、反応性の観点から、100〜5000g/eqであることが好ましく、より好ましくは100〜500g/eq、さらに好ましくは100〜300g/eqである。
【0068】
ここで、「エポキシ当量」とは、エポキシ樹脂に含まれるエポキシ基1g当量あたりの「エポキシ樹脂」の重量(g数)をいい、例えば、分子構造が既知のエポキシ樹脂の場合、そのエポキシ樹脂の分子量を1分子のそのエポキシ樹脂に含まれるエポキシ基の数で除することで算出できる。また、エポキシ樹脂の分子構造が不明の場合、塩酸−ジオキサン法等を用いる測定によって決定できる。
【0069】
本発明の(A)エポキシ樹脂の重量平均分子量は、後述する、本発明の(B)エポキシ基および水酸基を有する脂肪族化合物よりも大きい方が好ましく、好ましい重量平均分子量は250〜4500であり、より好ましくは250〜800、さらに好ましくは250〜350である。なお、本明細書中、重量平均分子量の測定は、以下の方法で行うものとする。
【0070】
<重量平均分子量>
下記表1の測定方法・測定条件により測定する。
【0071】
【表1】

【0072】
また、本発明の(A)エポキシ樹脂の粘度は、組成物を混合する作業性の観点から、好ましくは1000〜50000mPa・s(25℃)であり、より好ましくは1000〜30000mPa・s(25℃)である。なお、本明細書中、粘度の測定は、実施例に記載されている方法を採用する。
【0073】
[(B)エポキシ基および水酸基を有する脂肪族化合物]
本発明で使用することができる(B)成分は、エポキシ基および水酸基を有する脂肪族化合物である。(B)成分は、本発明において(A)エポキシ樹脂の硬化速度を調整する役割を担っている。本発明において、遅延硬化性が発現するメカニズムは明らかではないが、以下のように推察される。無論、このメカニズムによって本発明の技術的範囲が限定されることはない。
【0074】
すなわち、(A)エポキシ樹脂を硬化させる際には、活性エネルギー線を照射することにより、後述する(C)活性エネルギー線によりカチオン種を発生する開始剤(以下単にカチオン性開始剤とも称する)がカチオンを生じ、次いで酸が生成され、この酸がエポキシ基を開環させて重合反応が進行する。この際、(B)エポキシ基および水酸基を有する脂肪族化合物の水酸基の存在が、活性エネルギー線照射によるカチオンの発生、ひいては酸発生を抑制すると考えられる。(A)エポキシ樹脂は、水酸基を有していないか、有するものを含んでいても非常に少ない。そのため、(B)成分を適当な量で添加する、すなわち反応系内に適当な量の水酸基を存在させることにより、重合反応開始の始点となるエポキシ基の開環が反応系内で急激に進行することが抑制され、重合反応自体の進行が緩やかになる。このようにして、遅延硬化性が発現されると考えられる。なお、この際、仮に(A)エポキシ樹脂が水酸基を有するものを含んでいても、芳香族環を有している場合には、固形化し易いため、遅延硬化性には寄与しないとみなしても問題はないと考えられる。
【0075】
加えて、本発明の(B)エポキシ基および水酸基を有する脂肪族化合物は、(A)エポキシ樹脂よりも低分子量のものを使用する。そのために、反応性が高く高粘度の(A)エポキシ樹脂を低粘度の(B)エポキシ基および水酸基を有する脂肪族化合物が希釈する役割を有していると考えられる。特に、(A)エポキシ樹脂としては芳香族エポキシ樹脂が好ましく、芳香族エポキシ樹脂を用いた場合には、一般的に硬化し易くかつ固形化し易いため、(B)エポキシ基および水酸基を有する脂肪族化合物の希釈作用が効果的に表れると思われる。このような構成も遅延硬化性に貢献していると考えられる。
【0076】
本発明の(B)エポキシ基および水酸基を有する脂肪族化合物としては、エピクロルヒドリンと多価アルコールの合成において、アルコールが完全に置換されず、意図的に水酸基が残されている化合物が工業製品としては安価で好ましい。さらに好ましくは、主骨格としてポリグリセロール骨格を有する多価アルコールから製造される化合物である。
【0077】
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、グリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、およびこれら縮合物等が挙げられる。上記多価アルコールのうち、特に好ましいものはグリセロールの縮合物であるポリグリセロールである。多価アルコールの炭素数は、好ましくは1以上の整数、より好ましくは1〜10、さらに好ましくは1〜5である。
【0078】
具体的には、本発明の(B)エポキシ基および水酸基を有する脂肪族化合物としては、下記式17で表わされるポリグリセロールポリグリシジルエーテルが挙げられる。
【0079】
【化18】

【0080】
上記式17中、R、n個のR、およびRは、それぞれ独立して水素原子またはグリシジル基を表わす。nは、好ましくは1〜10の整数であることが好ましい。
【0081】
ここで、R、n個のR、およびRのうち、少なくとも1つは、水素原子であり、少なくとも2つは、グリシジル基であると好ましい。より好ましくは、n個のRのうち、少なくとも1つが水素原子であり、RおよびRが、グリシジル基である。
【0082】
より具体的には、下記式18:
【0083】
【化19】

【0084】
で表されるポリグリセロールポリグリシジルエーテルが好ましい。なお、n=1、2または3であることが好ましい。
【0085】
一方で、本発明の(B)エポキシ基(グリシジル基)および水酸基を有する脂肪族化合物においては、1分子中に水酸基が1以上含まれればよい。
【0086】
本発明の(B)エポキシ基および水酸基を有する脂肪族化合物のエポキシ当量は、硬化性と遅延性を両立する観点から、100〜200g/eqであることが好ましく、より好ましくは120〜190g/eqである。
【0087】
上記式で表わされる(B)成分は、典型的には、ポリグリセロールとエピクロルヒドリンとの反応で合成されるため、エポキシ基(グリシジル基)が結合していない側鎖は水酸基が残っていると考えられ、エポキシ当量はエポキシ基の量と同時に水酸基の量をも反映することになる。
【0088】
なお、(B)成分は、1種または2種以上であってもよい。2種の組み合わせにも特に制限はないが、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルと、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルとの組み合わせがよい。
【0089】
本発明の(B)エポキシ基および水酸基を有する脂肪族化合物の重量平均分子量は、上記本発明の(A)エポキシ樹脂よりも小さく、100〜2000であり、好ましくは100〜1000である。
【0090】
また、本発明の(B)エポキシ基および水酸基を有する脂肪族化合物の粘度は100〜5000mPa・sが好ましく、より好ましくは1000〜5000mPa・sである。
【0091】
本発明の(B)エポキシ基および水酸基を有する脂肪族化合物は、対応する多価アルコールとエピクロルヒドリンとから合成してもよいし、市販品を使用してもよい。市販品としては、共栄社化学株式会社製のエポライト(登録商標)80MF、ナガセケムテックス株式会社製のデナコールEX−512、EX−521、阪本薬品工業株式会社製SR−4GLなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0092】
(A)成分100質量部に対して、(B)成分は1〜50質量部添加することが好ましい。より好ましくは5〜40質量部である。50質量部より多いと組成物における(A)成分の割合が低下して物理特性が低下する虞がある。一方、1質量部より少ないと、酸発生の抑制効果が低下するため、遅延硬化性が低下する虞がある。
【0093】
[(C):活性エネルギー線によりカチオン種を発生する開始剤]
本発明で使用することができる(C)成分は、カチオン触媒であり紫外線や可視光などの活性エネルギー線によりカチオン種を発生すればよい。好ましくは硫黄および/またはヨウ素を含有するカチオン種を発生させるカチオン触媒である。具体例としては、ジアゾニウム塩、スルホニウム塩、ヨードニウム塩等が挙げられるが、具体的には、ヨードニウム,(4−メチルフェニル)[4−(2−メチルプロピル)フェニル]−ヘキサフルオロホスフェート(1−)((4−methylphenyl)[4−(2−methylpropyl)phenyl]−hexafluorophosphate (1−))、トリアリルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート塩(プロピレンカーボネート希釈)(triallyl sulfonium hexafluoro phosphate)(propylene carbonate dilution)、トリアリルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート塩(プロピレンカーボネート希釈)(triallyl sulfonium hexafluoro antimonate 塩(propylene carbonate dilution))、ビス(4−t−ブチルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート塩(bis(4−t−butyl phenyl)iodonium hexafluoro phosphate 塩)、ベンゼンジアゾニウムヘキサフルオロアンチモネート(benzene diazonium hexafluoro antimonate)、ベンゼンジアゾニウムヘキサフルオロホスフェート(benzene diazonium hexafluoro phosphate)、ベンゼンジアゾニウムヘキサフルオロボーレート(benzene diazonium hexafluoro borate)、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート(triphenyl sulfonium hexafluoro antimonate)、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート(triphenyl sulfonium hexafluoro phosphate)、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロボーレート(triphenyl sulfonium hexafluoro borate)、4,4−ビス[ビス(2−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホニオ]フェニルスルフィドビスヘキサフルオロホスフェート(4,4−bis[bis(2−hydroxyethoxy phenyl)sulfonio]phenyl sulfide bis hexafluoro phosphate)、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート(diphenyliodonium hexafluoro antimonate)、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート(diphenyliodonium hexafluoro phosphate)、ジフェニル−4−チオフェノキシフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート(diphenyl−4−thio phenoxy phenyl sulfonium hexafluoro phosphate)等を挙げることができるが、これに限定されるものではない。好ましくは、硬化性と遅延性の両立の観点から、スルホニウム塩、ヨードニウム塩が適しており、さらに好ましくはスルホニウム塩、ヨードニウム塩である。なお、(C)成分は、1種または2種以上であってもよい。(C)成分を準備する方法にも制限されないが、例えば、市販品を購入することができ、具体的には、イルガキュア250 チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製、CPI−100P サンアプロ株式会社製、CPI−6992 ACETO社製などを使用することができる。
【0094】
本発明の組成物における組成比にも、本発明の所期の効果を奏することができる範囲であれば、特に制限はないが、(A)成分100質量部に対して、(C)成分は0.1〜10質量部添加することが好ましい。より好ましくは0.5〜5質量部である。10質量部より多く添加するとエネルギー線を照射した後、遅延硬化性が低下し過ぎてしまう虞がある。一方、0.1質量部より少なく添加すると硬化性自体が低下して物理特性が低下する虞がある。
【0095】
[その他添加剤]
本発明の組成物には、本発明の特性を損なわない範囲において顔料、染料などの着色剤、金属粉、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、アモルファスシリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム等の無機充填剤、難燃剤、有機充填剤、可塑剤、酸化防止剤、消泡剤、カップリング剤、レベリング剤、レオロジーコントロール剤等の添加剤を適量配合しても良い。これらの添加により樹脂強度・接着強さ・作業性・保存性等に優れた組成物およびその硬化物が得られる。その他添加剤の含有量にも、本発明の所期の目的を奏する範囲内であれば特に制限はない。
【0096】
[製造方法]
本発明の樹脂組成物は、(A)エポキシ樹脂、(B)エポキシ基および水酸基を有する脂肪族化合物、(C)カチオン性開始剤および必要に応じてその他の添加剤を添加し、従来公知の方法により攪拌・混合することにより得られる。着色剤等を添加する場合にはディゾルバー、ホモジナイザー、3本ロールミルなどの分散機を用いて、これらの成分を分散、混合させればよい。また、必要に応じて、さらにメッシュ、メンブレンフィルター、カートリッジフィルターなどを用いて各成分または得られる組成物をろ過してもよい。
【0097】
上記樹脂組成物を被着体、樹脂組成物を用いて接着する対象物、に適用するには、被着体上に樹脂組成物の塗膜(接着層)を形成すればよい。塗膜の形成方法は特に制限されないが、例えば、下記のような従来公知の方法が挙げられる。例えば、ナチュラルコーター、ナイフベルトコーター、フローティングナイフ、ナイフオーバーロール、ナイフオンブランケット、スプレー、ディップ、キスロール、スクイーズロール、リバースロール、エアブレード、カーテンフローコーター、ドクターブレード、ワイヤーバー、ダイコーター、カンマコーター、ベーカーアプリケーターおよびグラビアコーター等の装置を用いる種々の塗工方法が挙げられる。また、本発明の樹脂組成物の塗膜の厚さは、用途に応じて適宜選択すればよい。
【0098】
被着体としては、金属、樹脂、セラミック、ガラス等、本発明の樹脂組成物が接着能力を発揮できるいかなる材料にも適用できる。特に、本発明の樹脂組成物は優れた遅延硬化性を示すため、活性エネルギー線を照射した後に塗膜形成をすることができる。従来は、遅延硬化性が十分でなかったために被着体としては活性エネルギー線を透過する材料に制限され、予め塗膜形成をしてから活性エネルギー線を照射する必要があった。しかし、本発明の樹脂組成物は、活性エネルギー線に対して不透明なものにも適用でき、被着体には特に制限なく、より応用範囲が広くなる利点がある。
【0099】
本発明の樹脂組成物を用いて、被着体を接着する等、硬化物を得るには、樹脂組成物に活性エネルギー線を照射し、上記のように被着体の一方に樹脂組成物の塗膜を形成し、被着体のもう一方を貼り合わせた状態で、室温で30分〜24時間放置すればよい。さらに、60〜100℃の低温で加熱することも硬化促進のために効果的である。
【0100】
活性エネルギー線とは、電磁波または荷電粒子線の中でエネルギー量子を有するものを言う。具体的には、種々の波長の光線、例えば、紫外線、X線、g線、i線、各種のレーザー光線、または、電子線等が挙げられる。このうち、特に紫外線が好ましく、光源としては、水銀ランプ、キセノンランプ、エキシマランプ、紫外LED等が挙げられる。
【0101】
また、本発明の樹脂組成物の塗膜の厚さは、用途に応じて適宜選択すればよい。なお、20μm〜3mm程度の塗膜の厚さであれば、硬化性と遅延性に違いはない。無論、この範囲を外れる厚さでもよい。
【0102】
また、本発明の組成物の粘度も特に制限されないが、塗工のし易さを考慮すると、3〜20Pa・s程度がよい。
【実施例】
【0103】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0104】
[実施例1〜13および比較例1〜7]
組成物を調製するために下記成分を準備した。
【0105】
(A)成分:エポキシ樹脂
・ビスフェノールF型エポキシ樹脂:エピクロンEXA−835LV 大日本インキ化学工業株式会社製
・フェノールノボラック型エポキシ樹脂:エピクロンN−770 大日本インキ化学工業株式会社製
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂:エピクロン2050 大日本インキ化学工業株式会社製
(B)成分:1分子内にエポキシ基と脂肪族アルコール基(水酸基)を有する脂肪族化合物
・ポリグリセロールポリグリシジルエーテル:SR−4GL 阪本薬品工業株式会社製
・ポリグリセロールポリグリシジルエーテル:デナコールEX−512 ナガセケムテックス株式会社製
・ポリグリセロールポリグリシジルエーテル:デナコールEX−521 ナガセケムテックス株式会社製
(B’)成分:その他成分
・3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン:アロンオキセタンOXT−212 東亞合成株式会社製
・1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル:デナコールEX−212 ナガセケムテックス株式会社製
・ポリカプロラクトントリオール:プラクセル305 ダイセル化学工業株式会社製
(C)成分:エネルギー線によりカチオン種を発生する開始剤
・ヨードニウム,(4−メチルフェニル)[4−(2−メチルプロピル)フェニル]−ヘキサフルオロホスフェート(1−):イルガキュア250 チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製
・トリアリルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート塩(プロピレンカーボネート希釈):CPI−100P サンアプロ株式会社製
・トリアリルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート塩(プロピレンカーボネート希釈):CPI−6992 ACETO社製
・ビス(4−t−ブチルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート塩(t−BuDPI):東京化成工業株式会社製
(A)成分と(B)成分または(B’)成分を30分間撹拌した。その後、(C)成分を添加して追加で30分間撹拌した。詳細な調製量は表1に従い、数値は全て質量部で表記する。
【0106】
【表2】

【0107】
実施例1〜13および比較例1〜7を粘度測定、遅延性確認、硬化性確認、十字はく離強度測定を実施した。その結果を表2に示す。
【0108】
[粘度測定]
シール剤組成物の温度が室温であることを確認してから、以下の条件で「粘度(Pa・s)」を測定した。
【0109】
粘度計の仕様
メーカー:東機産業株式会社 TV−33型粘度計(EHD型)
測定条件
コーンローター:3°×R14
回転速度:0.5〜10rpm(粘度により回転速度を変える)
測定時間:5分
測定温度:25℃
[遅延性確認]
ガラス板の上に組成物を3mgを薄く塗布し、ベルトコンベアー式紫外線照射装置により500mJ/cmを照射する。窒素雰囲気中で室温に放置して、10分後に指触試験により組成物の表面状態を確認する。表面状態と評価目安は以下の通り。括弧内の数値は総合評価する際の点数である。
【0110】
液状保持:◎(3点)
軽い糸引き:○(2点)
ひどい糸引きまたはゲル化:×(1点)
表面硬化:××(0点)
[硬化性確認]
25mm×50mm×0.7mmの無アルカリガラスのテストピースを用いる。一方のテストピースに3mgを塗布してから、コンベアー式紫外線照射装置により500mJ/cmを照射して、1分以内にもう一方のテストピースを貼り合わせて固定する。その後、30分放置した時に強度が発現していない場合は、60℃で20分加熱する。それでも、強度が発現していない場合は、さらに40分加熱する。硬化性と評価目安を以下に示す。括弧内の数値は総合評価する際の点数である。
【0111】
熱をかけなくても固定する:◎(3点)
60℃で20分未満で固定する:○(2点)
60℃で20分以上60分未満までに固定する:△(1点)
60分以上かけても固定しない:×(0点)
[十字はく離強度測定]
25mm×50mm×0.7mmの無アルカリガラスのテストピースを用いて十字はく離試験を行う。一方のテストピースに約3mgを塗布してから、コンベアー式紫外線照射装置により500mJ/cmを照射して、1分以内にもう一方のテストピースを十字状に貼り合わせて固定する。接着面積は25mm×25mmとする。その後、60℃で60分間加熱した後、テストピースを24時間放置した後、はく離方向の強度を測定する。はく離強度と評価目安を以下に示す。括弧内の数値は総合評価する際の点数である。
【0112】
10MPa以上または材料破壊:◎(3点)
5MPa以上10MPa未満:○(2点)
2MPa以上5MPa未満:△(1点)
2MPa未満:×(0点)
[総合評価]
各試験項目に於ける点数の合計を基に遅延性確認、硬化性確認、硬化物物性を総合的に評価した。それぞれの試験の合計が9点満点中、5点以上が本願では好ましい特性を有する。
【0113】
【表3】

【0114】
実施例において、遅延性と硬化性を完全に満足する組成物は無いものの、遅延性と硬化物物性を完全に満足する実施例11や実施例12が挙げられる。また、遅延性、硬化性および硬化物物性のすべてに良好な実施例3や実施例5が有り、比較例1〜7と比較しても非常にバランスの取れた特性を有する組成物が完成するに至っている。また、実施例7、8も、結果として良好である。その理由は、(A)成分の選択によるものと推測される。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明は、遅延硬化性を有すると共に高いはく離強を併せ持つ組成物に関するものであり、表示パネルを中心にした幅広い技術分野に応用が可能である。特に、液晶素子、有機EL素子においては、遅延硬化性により作業性が向上し、はく離強度向上によりパネルの信頼性が向上すると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)〜(C)成分を含み、(A)成分100質量部に対して(B)成分が5〜45質量部が含まれる遅延硬化性を有する樹脂組成物。
(A)成分:エポキシ樹脂
(B)成分:エポキシ基および水酸基を有する脂肪族化合物
(C)成分:活性エネルギー線によりカチオン種を発生する開始剤
【請求項2】
(B)成分の主骨格がポリグリセロールである請求項1に記載の遅延硬化性を有する樹脂組成物。
【請求項3】
(C)成分が、(A)成分100質量部に対して、0.1〜10質量部含まれる請求項1または2に記載の遅延硬化性を有する樹脂組成物。
【請求項4】
(B)成分のエポキシ当量が100〜200g/eqであり、重量平均分子量が100〜1000であり、粘度が1000〜5000mPa・sである請求項1〜3のいずれか1項に記載の遅延硬化性を有する樹脂組成物。
【請求項5】
(B)成分が、下記式17:
【化1】

上記式17中、R、n個のRおよびRのうち、少なくとも1つは、水素原子であり、少なくとも2つは、グリシジル基であり、nは1〜10の整数である、
で示される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の遅延硬化性を有する樹脂組成物。

【公開番号】特開2011−38090(P2011−38090A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−159574(P2010−159574)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(000132404)株式会社スリーボンド (140)
【Fターム(参考)】