説明

遊星歯車機構の潤滑構造

【課題】高回転時であってもプラネタリキャリアの潤滑油路における潤滑油の供給量を調整可能な遊星歯車機構の潤滑構造を提供する。
【解決手段】動力伝達経路上に配置され、サンギヤ21Aと、リングギヤと、サンギヤ21A及びリングギヤに噛合された複数のプラネタリギヤ22Aを回転自在に支持するプラネタリキャリア23Aとを同軸心に備えた第1遊星歯車式減速機の潤滑構造であって、プラネタリキャリア23Aは軸方向に延設され、プラネタリギヤ22Aを回転可能に支持するピニオンシャフト230と、径方向に延設され、ピニオンシャフト230を保持する腕部231と、を備える。プラネタリキャリア23Aには、第1遊星歯車式減速機の潤滑に供する潤滑油が流れる潤滑油路120が形成される。潤滑油路120には、弁体と、弁体が下流側に移動したときに着座する第1弁座と、を備える流量調整弁80が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の駆動源と車輪との動力伝達経路上に配置される遊星歯車機構の潤滑構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、図10に示すように、左後輪と該左後輪を駆動する電動機2Aとの動力伝達経路上に変速機として遊星歯車機構12Aが設けられ、右後輪と該右後輪を駆動する電動機2Bとの動力伝達経路上に変速機として遊星歯車機構12Bが設けられた車両用駆動装置が開示されている。
【0003】
これらの両遊星歯車機構12A、12Bは、サンギヤ21A、21Bがそれぞれ電動機2A、2Bに接続され、プラネタリキャリア23A、23Bがそれぞれ左後輪、右後輪に接続され、リングギヤ24A、24Bが互いに連結されて、一方向クラッチ50と油圧ブレーキ60A、60Bに接続されている。
【0004】
このように構成された車両用駆動装置では、左後輪及び右後輪の回転に伴って、プラネタリキャリア23A、23Bが回転する。また、プラネタリキャリア23A、23Bには、潤滑油路120が形成されており、プラネタリキャリア23A、23Bの回転に伴って潤滑油が潤滑油路120を通ってプラネタリギヤとプラネタリギヤシャフトとの摺動部を潤滑した後にサンギヤ21A、21Bの噛合部に供給されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−235051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、車速が上がり左後輪、右後輪の回転数が高くなると、遠心力により潤滑油路120に潤滑油が過剰に供給されるようになり、潤滑油の供給量を調整できないという問題があった。潤滑油の供給量が調整できないと、フリクションの増大により燃費を悪化させるおそれがある。さらに、プラネタリキャリア23A、23Bの潤滑油路120への潤滑油の供給量が過剰になると、他の部分への潤滑油の流量を確保できず、適切な潤滑を維持できないおそれがある。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、高回転時であってもプラネタリキャリアの潤滑油路における潤滑油の供給量を調整可能な遊星歯車機構の潤滑構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、
車両の駆動源(例えば、後述の実施形態の第1及び第2電動機2A、2B)と車輪(例えば、後述の実施形態の左後輪LWr、右後輪RWr)との動力伝達経路上に配置され、サンギヤ(例えば、後述の実施形態のサンギヤ21A、21B)と、リングギヤ(例えば、後述の実施形態のリングギヤ24A、24B)と、前記サンギヤ及び前記リングギヤに噛合された複数のプラネタリギヤ(例えば、後述の実施形態のプラネタリギヤ22A、22B)を回転自在に支持するプラネタリキャリア(例えば、後述の実施形態のプラネタリキャリア23A、23B)とを同軸心に備えた遊星歯車機構(例えば、後述の実施形態の第1及び第2遊星歯車式減速機12A、12B)の潤滑構造であって、
前記プラネタリキャリアは、軸方向に延設され、前記プラネタリギヤを回転可能に支持する回転軸(例えば、後述の実施形態のピニオンシャフト230)と、径方向に延設され、前記回転軸を保持する腕部(例えば、後述の実施形態の腕部231)と、を備え、
前記プラネタリキャリアには、前記遊星歯車機構の潤滑に供する潤滑油(例えば、後述の実施形態のオイル)が流れる潤滑油路(例えば、後述の実施形態の潤滑油路120)が形成され、
前記潤滑油路には、弁体(例えば、後述の実施形態の弁体81)と、該弁体が下流側に移動したときに着座する弁座(例えば、後述の実施形態の第1弁座87)と、を備える流量調整弁(例えば、後述の実施形態の流路調整弁80)が設けられることを特徴とする。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加えて、
前記潤滑油路は、前記腕部内で径方向内側から外側に向けて延在する腕部内潤滑油路(例えば、後述の実施形態の腕部内潤滑油路116)を含み、
前記流量調整弁は、前記腕部内潤滑油路内に配置され、前記弁体が径方向外側に移動したときに前記弁座に着座することを特徴とする。
【0010】
また、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の構成に加えて、
前記車輪は前記プラネタリキャリアに接続され、前記駆動源は前記サンギヤ又は前記リングギヤに接続されることを特徴とする。
【0011】
また、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の構成に加えて、
前記プラネタリキャリアの回転数が所定値を超えるときに、前記駆動源と前記車輪との動力伝達を遮断し、
前記弁体は、前記プラネタリキャリアの回転数が所定値近傍のときに、前記弁座に着座することを特徴とする。
【0012】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の構成に加えて、
前記流量調整弁は、前記弁体が前記弁座に着座した状態で、前記弁座を迂回して前記弁体の上流と下流とを連通する迂回路(例えば、後述の実施形態の迂回路89)をさらに有することを特徴とする。
【0013】
また、請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載の構成に加えて、
前記流量調整弁は、前記弁体を径方向外側から径方向内側に付勢する返戻手段をさらに備えることを特徴とする。
【0014】
また、請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の構成に加えて、
前記弁体は、前記返戻手段に抗して径方向外側に移動し、前記弁座に着座するように構成されることを特徴とする。
【0015】
また、請求項8に記載の発明は、請求項6又は7に記載の構成に加えて、
前記返戻手段は、ばね部材(例えば、後述の実施形態のばね部材82)と、内部に該ばね部材を収容する保持部材(例えば、後述の実施形態の保持部材83)と、を備え、
該保持部材には、前記弁体が着座する前記弁座が形成されることを特徴とする。
【0016】
また、請求項9に記載の発明は、請求項8に記載の構成に加えて、
前記保持部材は、前記ばね部材の外周を囲う筒状部(例えば、後述の実施形態の筒状部84)を備え、
前記筒状部の一端側は開口部(例えば、後述の実施形態の開口部85)を有する蓋部(例えば、後述の実施形態の蓋部86)を備え、他端側には前記弁座が形成され、
前記蓋部は、前記ばね部材の一端側を規制することを特徴とする。
【0017】
また、請求項10に記載の発明は、請求項9に記載の構成に加えて、
前記筒状部は、外側と内側とを連通する貫通穴(例えば、後述の実施形態の貫通穴84b)を有することを特徴とする。
【0018】
また、請求項11に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載の構成に加えて、
前記流量調整弁は、前記弁体が径方向内側に移動したときに着座する、前記弁座とは異なる他の弁座(例えば、後述の実施形態の第2弁座88)をさらに備えることを特徴とする。
【0019】
また、請求項12に記載の発明は、請求項11に記載の構成に加えて、
前記流量調整弁は、一端側が規制部(例えば、後述の実施形態の蓋部86)に規制され、他端側に前記弁体が配置され、前記弁体に対して径方向外側から径方向内側に付勢するばね部材(例えば、後述の実施形態のばね部材82)をさらに備え、
前記弁体が、前記他の弁座に着座し、且つ、前記ばね部材が自然長で前記弁体に接触した状態で、前記規制部と前記ばね部材との間に所定の間隙(例えば、後述の実施形態の間隙S)が形成されることを特徴とする。
【0020】
また、請求項13に記載の発明は、請求項11に記載の構成に加えて、
前記流量調整弁は、一端側が規制部(例えば、後述の実施形態の蓋部86)に規制され、他端側に前記弁体が配置され、前記弁体に対して径方向外側から径方向内側に付勢するばね部材(例えば、後述の実施形態のばね部材82)をさらに備え、
前記弁体が、前記他の弁座に着座したした状態で、前記ばね部材が前記規制部と前記弁体とに接触し、前記他の弁座を迂回して前記弁体の上流と下流とを連通する他の迂回路(例えば、後述の実施形態の切り欠き90)が形成されることを特徴とする。
【0021】
また、請求項14に記載の発明は、請求項11に記載の構成に加えて、
前記弁体は、球状であり、
前記弁座及び前記他の弁座は、前記弁体に向かって拡開し、前記弁体が着座するテーパ面を有し、
前記弁体は、前記弁座のテーパ面の前記他の弁座側の端点と、前記他の弁座のテーパ面の前記弁座側の端点と、の距離(例えば、後述の実施形態の距離L)よりも長い直径(例えば、後述の実施形態の直径d)を有することを特徴とする。
【0022】
また、請求項15に記載の発明は、請求項1〜14のいずれか1項に記載の構成に加えて、
前記潤滑油は、前記リングギヤの噛合部と、前記サンギヤの噛合部に供給されることを特徴とする。
【0023】
また、請求項16に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加えて、
前記潤滑油路は、前記腕部内で径方向内側から外側に向けて延在する腕部内潤滑油路(例えば、後述の実施形態の腕部内潤滑油路116)と、前記腕部内潤滑油路の下流側で、且つ、前記回転軸内で前記回転軸の軸方向に延在する回転軸内潤滑油路(例えば、後述の実施形態のピニオンシャフト内潤滑油路118)と、を含み、
前記流量調整弁は、前記回転軸内潤滑油路内に配置され、前記弁体が軸方向で前記腕部から遠位側に移動したときに前記弁座に着座することを特徴とする。
【0024】
また、請求項17に記載の発明は、請求項16に記載の構成に加えて、
前記車輪は前記プラネタリキャリアに接続され、前記駆動源は前記サンギヤ又は前記リングギヤに接続されることを特徴とする。
【0025】
また、請求項18に記載の発明は、請求項17に記載の構成に加えて、
前記プラネタリキャリアの回転数が所定値を超えるときに、前記駆動源と前記車輪との動力伝達を遮断し、
前記弁体は、前記プラネタリキャリアの回転数が前記所定値近傍のときに、前記弁座に着座することを特徴とする。
【0026】
また、請求項19に記載の発明は、請求項16〜18のいずれか1項に記載の構成に加えて、
前記流量調整弁は、前記弁体が前記弁座に着座した状態で、前記弁座を迂回して前記弁体の上流と下流とを連通する迂回路(例えば、後述の実施形態の迂回路89)をさらに有することを特徴とする。
【0027】
また、請求項20に記載の発明は、請求項16〜19のいずれか1項に記載の構成に加えて、
前記流量調整弁は、前記弁体を軸方向で前記腕部から遠い遠位側から前記腕部に近い近位側に付勢する返戻手段をさらに備えることを特徴とする。
【0028】
また、請求項21に記載の発明は、請求項20に記載の構成に加えて、
前記返戻手段は、ばね部材(例えば、後述の実施形態のばね部材82)と、内部に該ばね部材を収容する保持部材(例えば、後述の実施形態の保持部材83)と、を備え、
該保持部材には、前記弁体が着座する前記弁座が形成されることを特徴とする。
【0029】
また、請求項22に記載の発明は、請求項21に記載の構成に加えて、
前記保持部材は、前記ばね部材の外周を囲う筒状部(例えば、後述の実施形態の筒状部84)を備え、
前記筒状部の一端側は開口部(例えば、後述の実施形態の開口部85)を有する蓋部(例えば、後述の実施形態の蓋部86)を備え、他端側には前記弁座が形成され、
前記蓋部は、前記ばね部材の一端側を規制することを特徴とする。
【0030】
また、請求項23に記載の発明は、請求項22に記載の構成に加えて、
前記筒状部は、外側と内側とを連通する貫通穴(例えば、後述の実施形態の貫通穴84b)を有することを特徴とする。
【0031】
また、請求項24に記載の発明は、請求項16〜19のいずれか1項に記載の構成に加えて、
前記流量調整弁は、前記弁体が軸方向で前記腕部から近い遠位側に移動したときに着座する、前記弁座とは異なる他の弁座(例えば、後述の実施形態の第2弁座88)をさらに備えることを特徴とする。
【0032】
また、請求項25に記載の発明は、請求項24に記載の構成に加えて、
前記流量調整弁は、一端側が規制部(例えば、後述の実施形態の蓋部86)に規制され、他端側に前記弁体が配置され、前記弁体に対して軸方向で前記腕部から遠い遠位側から前記腕部に近い近位側に付勢するばね部材(例えば、後述の実施形態のばね部材82)をさらに備え、
前記弁体が、前記他の弁座に着座し、且つ、前記ばね部材が自然長で前記弁体に接触した状態で、前記規制部と前記ばね部材との間に所定の間隙(例えば、後述の実施形態の間隙S)が形成されることを特徴とする。
【0033】
また、請求項26に記載の発明は、請求項24に記載の構成に加えて、
前記流量調整弁は、一端側が規制部(例えば、後述の実施形態の蓋部86)に規制され、他端側に前記弁体が配置され、前記弁体に対して軸方向で前記腕部から遠い遠位側から前記腕部に近い近位側に付勢するばね部材(例えば、後述の実施形態のばね部材82)をさらに備え、
前記弁体が、前記他の弁座に着座した状態で、前記ばね部材が前記規制部と前記弁体とに接触し、前記他の弁座を迂回して前記弁体の上流と下流とを連通する他の迂回路(例えば、後述の実施形態の切り欠き90)が形成されることを特徴とする。
【0034】
また、請求項27に記載の発明は、請求項24に記載の構成に加えて、
前記弁体は、球状であり、
前記弁座及び前記他の弁座は、前記弁体に向かって拡開し、前記弁体が着座するテーパ面を有し、
前記弁体は、前記弁座のテーパ面の前記他の弁座側の端点と、前記他の弁座のテーパ面の前記弁座側の端点と、の距離(例えば、後述の実施形態の距離L)よりも長い直径(例えば、後述の実施形態の直径d)を有することを特徴とする。
【0035】
また、請求項28に記載の発明は、請求項16〜27のいずれか1項に記載の構成に加えて、
前記潤滑油は、前記リングギヤの噛合部と、前記サンギヤの噛合部に供給されることを特徴とする。
【0036】
また、請求項29に記載の発明は、請求項16〜28のいずれか1項に記載の構成に加えて、
前記回転軸内潤滑油路には、前記流量調整弁の下流に前記回転軸の外周に連通する連通孔(例えば、後述の実施形態の連通孔119)を有し、
前記潤滑油は、前記プラネタリギヤと前記回転軸との摺動部を介して前記リングギヤの噛合部と前記サンギヤの噛合部とに供給されることを特徴とする。
【0037】
また、請求項30に記載の発明は、請求項1〜29のいずれか1項に記載の構成に加えて、
前記プラネタリギヤは、大径ギヤ(例えば、後述の実施形態の第1ピニオン26A、26B)と小径ギヤ(例えば、後述の実施形態の第2ピニオン27A、27B)とが軸線方向に連設された2段ピニオンギヤであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0038】
請求項1に記載の発明によれば、プラネタリキャリアの回転数が上昇したときに、潤滑油に作用する遠心力によって、弁体が弁座に着座することによって、潤滑油が過度に流出するのを抑制することができる。
【0039】
請求項2に記載の発明によれば、プラネタリキャリアの回転により腕部の回転数が上昇したときに、弁体と潤滑油との質量にかかる遠心力によって、弁体が着座することで、潤滑油が過度に流出するのを抑制することができる。
【0040】
請求項3に記載の発明によれば、プラネタリキャリアは駆動源の状態によらず車輪の回転に同期して回転するので、流量調整弁の効果をより得ることができる。
【0041】
請求項4に記載の発明によれば、トルク伝達量に比例して必要潤滑油量が決まるので、動力伝達を遮断してトルク伝達量が小さくなったときにあわせて、潤滑油量が絞られるようにすることができ、トルク伝達量に応じて適切な潤滑油供給が可能となる。
【0042】
請求項5に記載の発明によれば、弁体が弁座に着座(以下、着座状態とも呼ぶ。)しても潤滑油が弁座を迂回する迂回路を通って下流側に流れるので、回転数が上昇して弁体が着座しても所定量の潤滑油を供給することができる。また、弁体の着座状態において、潤滑油が多量に供給されるのを抑制しつつ、一定の流量を確保することができ、高回転で噛み合っている噛合部に対して安定的に潤滑油を供給することができる。
【0043】
請求項6に記載の発明によれば、腕部の回転数が低下したときに弁体が弁座から離れる(以下、離座状態とも呼ぶ。)ので、回転数が低下して弁体が離座したときに潤滑油を供給することができる。また、回転数に応じた流量調整弁の途中開度をとれるので、潤滑油の流量が急激に変化することがない。
【0044】
請求項7に記載の発明によれば、弁座への弁体の衝突を抑制することができ、弁座と弁体の耗損を抑制することができる。
【0045】
請求項8に記載の発明によれば、流路内にばね部材と弁座を適切に配置することができる。
【0046】
請求項9に記載の発明によれば、ばね部材の内側を流路として利用することができる。
【0047】
請求項10に記載の発明によれば、弁体の着座状態でも潤滑油が貫通穴を通って下流側に流れるので、回転数が上昇して弁体が着座しても潤滑油を供給することができる。また、弁体の着座状態において、潤滑油が多量に供給されるのを抑制しつつ、一定の流量を確保することができ、高回転で噛み合っている噛合部に対して安定的に潤滑油を供給することができる。
【0048】
請求項11に記載の発明によれば、前記腕部の回転数が低下したときに、前記弁体を所定の位置に保持することができる。
【0049】
請求項12に記載の発明によれば、規制部とばね部材との間に所定の間隙が形成されているので、プラネタリキャリアが回転を開始した際に、すぐに弁体が所定の位置まで移動して開弁するので、プラネタリキャリアの回転数が低い状態でも潤滑油を供給することができる。
【0050】
請求項13に記載の発明によれば、弁体の着座状態でも弁体が付勢されていて、プラネタリキャリアの回転開始後すぐには離座しないが、他の迂回路によって潤滑油の流量を確保することができ、腕部の回転数が低い状態でも潤滑油を供給することができる。
【0051】
請求項14に記載の発明によれば、弁体がばね部材から脱落することがなく安定して潤滑油の供給量を制御することができる。
【0052】
請求項15に記載の発明によれば、前後左右に加速度又は減速度が加わって油面が偏ったときでも、両噛合部に潤滑油を供給することができる。
【0053】
請求項16に記載の発明によれば、プラネタリキャリアの回転により腕部の回転数が上昇したときに、潤滑油に作用する遠心力によって、弁体が着座することによって、潤滑油が過度に流出するのを抑制することができる。
【0054】
請求項17に記載の発明によれば、プラネタリキャリアは駆動源の状態によらず車輪の回転に同期して回転するので、流量調整弁の効果をより得ることができる。
【0055】
請求項18に記載の発明によれば、トルク伝達量に比例して必要潤滑油量が決まるので、動力伝達を遮断してトルク伝達量が小さくなったときにあわせて、潤滑油量が絞られるようにすることができ、トルク伝達量に応じて適切な潤滑油供給が可能となる。
【0056】
請求項19に記載の発明によれば、弁体が弁座に着座しても潤滑油が弁座を迂回する迂回路を通って下流側に流れるので、回転数が上昇して弁体が着座しても潤滑油を供給することができる。また、弁体の着座状態において、潤滑油が多量に供給されるのを抑制しつつ、一定の流量を確保することができ、高回転で噛み合っている噛合部に対して安定的に潤滑油を供給することができる。
【0057】
請求項20に記載の発明によれば、腕部の回転数が低下したときに弁体が弁座から離れるので、回転数が低下して弁体が離座したときに潤滑油を供給することができる。また、回転数に応じた流量調整弁の途中開度をとれるので、潤滑油の流量が急激に変化することがない。
【0058】
請求項21に記載の発明によれば、流路内にばね部材と弁座を適切に配置することができる。
【0059】
請求項22に記載の発明によれば、ばね部材の内側を流路として利用することができる。
【0060】
請求項23に記載の発明によれば、弁体の着座状態でも潤滑油が貫通穴を通って下流側に流れるので、回転数が上昇して弁体が着座しても潤滑油を供給することができる。また、弁体の着座状態において、潤滑油が多量に供給されるのを抑制しつつ、一定の流量を確保することができ、高回転で噛み合っている噛合部に対して安定的に潤滑油を供給することができる。
【0061】
請求項24に記載の発明によれば、前記腕部の回転数が低下したときに、前記弁体を所定の位置に保持することができる。
【0062】
請求項25に記載の発明によれば、規制部とばね部材との間に所定の間隙が形成されているので、腕部が回転を開始した際に、すぐに弁体が所定の位置まで移動して開弁するので、腕部の回転数が低い状態でも潤滑油を供給することができる。
【0063】
請求項26に記載の発明によれば、弁体の着座状態でも弁体が付勢されていて、腕部の回転開始後すぐには離座しないが、他の迂回路によって潤滑油の流量を確保することができ、腕部の回転数が低い状態でも潤滑油を供給することができる。
【0064】
請求項27に記載の発明によれば、弁体がばね部材から脱落することがなく安定して潤滑油の供給量を制御することができる。
【0065】
請求項28に記載の発明によれば、前後左右に加速度又は減速度が加わって油面が偏ったときでも、噛合部に潤滑油を供給することができる。
【0066】
請求項29に記載の発明によれば、摺動部を利用して潤滑油を供給することができる。
【0067】
請求項30に記載の発明によれば、プラネタリギヤが径方向に大型化するのを抑制しつつ、所定のギヤ比を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明に係る車両用駆動装置を搭載可能な車両の一実施形態であるハイブリッド車両の概略構成を示すブロック図である。
【図2】後輪駆動装置の縦断面図である。
【図3】図2に示す後輪駆動装置の上部部分拡大断面図である。
【図4】図3の拡大断面図である。
【図5】流量調整弁の断面図である。
【図6】流量調整弁の作動を説明する図であり、(a)は車両停車時、(b)は発進時、(c)は低車速及び中車速時、(d)は高車速時である。
【図7】変形例に係る流量調整弁の断面図である。
【図8】他の変形例に係る流量調整弁の断面図である。
【図9】ピニオンシャフト内潤滑油路に流量調整弁が設けられた遊星歯車機構の断面図である。
【図10】特許文献1に記載の車両用駆動装置の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0069】
本発明に係る遊星歯車機構の潤滑構造を搭載する車両用駆動装置は、例えば、図1に示すような駆動システムの車両に用いられる。以下の説明では車両用駆動装置を後輪駆動用として用いる場合を例に説明するが、前輪駆動用に用いてもよい。
図1に示す車両3は、内燃機関4と電動機5が直列に接続された駆動装置6(以下、前輪駆動装置と呼ぶ。)を車両前部に有するハイブリッド車両であり、この前輪駆動装置6の動力がトランスミッション7を介して前輪Wfに伝達される一方で、この前輪駆動装置6と別に車両後部に設けられた駆動装置1(以下、後輪駆動装置と呼ぶ。)の動力が後輪Wr(RWr、LWr)に伝達されるようになっている。前輪駆動装置6の電動機5と後輪Wr側の後輪駆動装置1の第1及び第2電動機2A、2Bは、バッテリ9に接続され、バッテリ9からの電力供給と、バッテリ9へのエネルギー回生が可能となっている。図1中、符号8は車両全体を制御するための制御装置である。
【0070】
先ず、本発明に係る遊星歯車機構の潤滑構造を搭載する一実施形態の車両用駆動装置について、図2及び図3に基づいて説明する。
図2は、後輪駆動装置1の全体の縦断面図を示すものであり、図3は、図2の上部部分拡大断面図である。同図において、符号11は、後輪駆動装置1のケースであり、ケース11は、車幅方向略中央部に配置される中央ケース11Mと、中央ケース11Mを挟むように中央ケース11Mの左右に配置される側方ケース11A、11Bと、から構成され、全体が略円筒状に形成される。ケース11の内部には、後輪Wr用の車軸10A、10Bと、車軸駆動用の第1及び第2電動機2A、2Bと、この両電動機2A、2Bの駆動回転を減速する第1及び第2遊星歯車式減速機12A、12Bとが、同一軸線上にそれぞれ並んで配置されている。この車軸10A、第1電動機2A及び第1遊星歯車式減速機12Aは左後輪LWrを駆動制御し、車軸10B、第2電動機2B及び第2遊星歯車式減速機12Bは右後輪RWrを駆動制御する。車軸10A、第1電動機2A及び第1遊星歯車式減速機12Aと、車軸10B、第2電動機2B及び第2遊星歯車式減速機12Bは、ケース11内で車幅方向に左右対称に配置されている。左後輪LWrは、第1電動機2Aに対して第1遊星歯車式減速機12Aと反対側に位置し、右後輪RWrも、第2電動機2Bに対して第2遊星歯車式減速機12Bと反対側に位置する。
【0071】
側方ケース11A、11Bの中央ケース11M側には、それぞれ径方向内側に延びる隔壁18A、18Bが設けられ、側方ケース11A、11Bと隔壁18A、18Bとの間には、それぞれ第1及び第2電動機2A、2Bが配置される。また、中央ケース11Mと隔壁18A、18Bとに囲まれた空間には、第1及び第2遊星歯車式減速機12A、12Bが配置されている。図2及び図3中の矢印は、後輪駆動装置1が車両に搭載された状態における位置関係を示している。
【0072】
後輪駆動装置1には、ケース11の内部と外部を連通するブリーザ装置40が設けられ、内部の空気が過度に高温・高圧とならないように内部の空気をブリーザ室41を介して外部に逃がすように構成される。ブリーザ室41は、ケース11の鉛直方向上部に配置され、中央ケース11Mの外壁と、中央ケース11M内に左側方ケース11A側に略水平に延設された第1円筒壁43と、右側方ケース11B側に略水平に延設された第2円筒壁44と、第1及び第2円筒壁43、44の内側端部同士をつなぐ左右分割壁45と、第1円筒壁43の左側方ケース11A側先端部に当接するように取り付けられたバッフルプレート47Aと、第2円筒壁44の右側方ケース11B側先端部に当接するように取り付けられたバッフルプレート47Bと、により形成された空間により構成される。
【0073】
ブリーザ室41の下面を形成する第1及び第2円筒壁43、44と左右分割壁45は、第1円筒壁43が第2円筒壁44より径方向内側に位置し、左右分割壁45が、第2円筒壁44の内側端部から縮径しつつ屈曲しながら第1円筒壁43の内側端部まで延設され、さらに径方向内側に延設されて略水平に延設された第3円筒壁46に達する。第3円筒壁46は、第1円筒壁43と第2円筒壁44の両外側端部より内側に且つその略中央に位置している。
【0074】
中央ケース11Mには、バッフルプレート47A、47Bが、第1円筒壁43と中央ケース11Mの外壁との間の空間又は第2円筒壁44と中央ケース11Mの外壁との間の空間を第1遊星歯車式減速機12A又は第2遊星歯車式減速機12Bからそれぞれ区画するように固定されている。また、中央ケース11Mには、ブリーザ室41と外部とを連通する外部連通路49がブリーザ室41の鉛直方向上面に接続される。
【0075】
第1及び第2電動機2A、2Bは、ステータ14A、14Bがそれぞれ側方ケース11A、11Bに固定され、このステータ14A、14Bの内周側に環状のロータ15A、15Bが回転可能に配置されている。ロータ15A、15Bの内周部には車軸10A、10Bの外周を囲繞する円筒軸16A、16Bが結合され、この円筒軸16A、16Bが車軸10A、10Bと同軸上に相対回転可能となるように側方ケース11A、11Bの端部壁17A、17Bと隔壁18A、18Bにそれぞれ軸受19A、19B,34A、34Bを介して支持されている。また、円筒軸16A、16Bの一端側の外周であって端部壁17A、17Bには、ロータ15A、15Bの回転位置情報を第1及び第2電動機2A、2Bの制御コントローラ(図示せず)にフィードバックするためのレゾルバ20A、20Bが設けられている。ステータ14A、14B、及びロータ15A、15Bを含む第1及び第2電動機2A、2Bは、同一半径を有し、第1及び第2電動機2A、2Bは互いに鏡面対称に配置される。また、車軸10A及び円筒軸16Aは、第1電動機2A内を貫通して、第1電動機2Aの両端部から延出しており、車軸10B及び円筒軸16Bも、第2電動機2B内を貫通して、第2電動機2Bの両端部から延出している。
【0076】
また、第1及び第2遊星歯車式減速機12A、12Bは、サンギヤ21A、21Bと、このサンギヤ21A、21Bに噛合される複数のプラネタリギヤ22A、22Bと、これらのプラネタリギヤ22A、22Bを回転自在に支持するプラネタリキャリア23A、23Bと、プラネタリギヤ22A、22Bの外周側に噛合されるリングギヤ24A、24Bと、を備え、サンギヤ21A、21Bにそれぞれ第1及び第2電動機2A、2Bの駆動力が入力され、減速された駆動力がプラネタリキャリア23A、23Bを通して車軸10A、10Bに出力されるようになっている。
【0077】
サンギヤ21A、21Bは円筒軸16A、16Bに一体に形成されている。また、プラネタリギヤ22A、22Bは、サンギヤ21A、21Bに直接噛合される大径の第1ピニオン26A、26Bと、この第1ピニオン26A、26Bよりも小径の第2ピニオン27A、27Bを有する2連ピニオンであり、これらの第1ピニオン26A、26Bと第2ピニオン27A、27Bが同軸にかつ軸方向にオフセットした状態で一体に形成されている。このプラネタリギヤ22A、22Bはニードルベアリング31A、31Bを介してプラネタリキャリア23A、23Bのピニオンシャフト230に支持される。
【0078】
プラネタリキャリア23A、23Bは、軸方向に延設されたピニオンシャフト230の内側端部が、径方向に延設された腕部231に保持され、腕部231の径方向内側端部が車軸10A、10Bと一体回転可能にスプライン嵌合されるとともに、ピニオンシャフト230の外側端部が保持プレート25A、25Bにより軸受33A、33Bを介して隔壁18A、18Bに支持されている。プラネタリギヤ22A、22Bと腕部231との間、及び、プラネタリギヤ22A、22Bと保持プレート25A、25Bとの間には、それぞれスラストワッシャー13A、13Bが設けられている。
【0079】
リングギヤ24A、24Bは、その内周面が小径の第2ピニオン27A、27Bに噛合されるギヤ部28A、28Bと、ギヤ部28A、28Bより小径でケース11の中間位置で互いに対向配置される小径部29A、29Bと、ギヤ部28A、28Bの軸方向内側端部と小径部29A、29Bの軸方向外側端部を径方向に連結する連結部30A、30Bとを備えて構成されている。
【0080】
ギヤ部28A、28Bは、中央ケース11Mの左右分割壁45の内径側端部に形成された第3円筒壁46を挟んで軸方向に対向している。小径部29A、29Bは、その外周面がそれぞれ後述する一方向クラッチ50のインナーレース51とスプライン嵌合し、リングギヤ24A、24Bは一方向クラッチ50のインナーレース51と一体回転するように互いに連結されて構成されている。
【0081】
第2遊星歯車式減速機12B側であって、ケース11を構成する中央ケース11Mの第2円筒壁44とリングギヤ24Bのギヤ部28Bとの間には、リングギヤ24Bに対する制動手段を構成する油圧ブレーキ60が第1ピニオン26Bと径方向でオーバーラップし、第2ピニオン27Bと軸方向でオーバーラップするように配置されている。油圧ブレーキ60は、第2円筒壁44の内周面にスプライン嵌合された複数の固定プレート35と、リングギヤ24Bのギヤ部28Bの外周面にスプライン嵌合された複数の回転プレート36が軸方向に交互に配置され、これらのプレート35、36が環状のピストン37によって締結及び解放操作されるようになっている。ピストン37は、中央ケース11Mの左右分割壁45と第3円筒壁46間に形成された環状のシリンダ室に進退自在に収容されており、さらに第3円筒壁46の外周面に設けられた受け座38に支持される弾性部材39によって、常時、固定プレート35と回転プレート36とを解放する方向に付勢される。
【0082】
また、さらに詳細には、左右分割壁45とピストン37の間はオイルが直接導入される作動室Sとされ、作動室Sに導入されるオイルの圧力が弾性部材39の付勢力に勝ると、ピストン37が前進(右動)し、固定プレート35と回転プレート36とが相互に押し付けられて締結することとなる。また、弾性部材39の付勢力が作動室Sに導入されるオイルの圧力に勝ると、ピストン37が後進(左動)し、固定プレート35と回転プレート36とが離間して解放することとなる。なお、油圧ブレーキ60は電動オイルポンプ70(図1参照)に接続されている。なお、この作動室Sに導入されるオイルは、後述する第1及び第2遊星歯車式減速機12A、12Bを潤滑する潤滑油としても作用する。
【0083】
この油圧ブレーキ60の場合、固定プレート35がケース11を構成する中央ケース11Mの左右分割壁45から伸びる第2円筒壁44に支持される一方で、回転プレート36がリングギヤ24Bのギヤ部28Bに支持されているため、両プレート35、36がピストン37によって押し付けられると、両プレート35、36間の摩擦締結によってリングギヤ24Bに制動力が作用し固定される。その状態からピストン37による締結が解放されると、リングギヤ24Bの自由な回転が許容される。なお、上述したように、リングギヤ24A、24Bは互いに連結されているため、油圧ブレーキ60が締結することによりリングギヤ24Aにも制動力が作用し固定され、油圧ブレーキ60が解放することによりリングギヤ24Aも自由な回転が許容される。
【0084】
また、軸方向で対向するリングギヤ24A、24Bの連結部30A、30B間にも空間部が確保され、その空間部内に、リングギヤ24A、24Bに対し一方向の動力のみを伝達し他方向の動力を遮断する一方向クラッチ50が配置されている。一方向クラッチ50は、インナーレース51とアウターレース52との間に多数のスプラグ53を介在させたものであって、そのインナーレース51がスプライン嵌合によりリングギヤ24A、24Bの小径部29A、29Bと一体回転するように構成されている。またアウターレース52は、第3円筒壁46により位置決めされるとともに、回り止めされている。
【0085】
一方向クラッチ50は、車両3が第1及び第2電動機2A、2Bの動力で前進する際に係合してリングギヤ24A、24Bの回転をロックするように構成されている。より具体的に説明すると、一方向クラッチ50は、第1及び第2電動機2A、2B側の順方向(車両3を前進させる際の回転方向)の回転動力が車輪Wr側に入力されるときに係合状態となるとともに第1及び第2電動機2A、2B側の逆方向の回転動力が車輪Wr側に入力されるときに非係合状態となり、車輪Wr側の順方向の回転動力が第1及び第2電動機2A、2B側に入力されるときに非係合状態となるとともに車輪Wr側の逆方向の回転動力が第1及び第2電動機2A、2B側に入力されるときに係合状態となる。
【0086】
このように本実施形態の後輪駆動装置1では、第1及び第2電動機2A、2Bと車輪Wrとの動力伝達経路上に一方向クラッチ50と油圧ブレーキ60とが並列に設けられている。なお、油圧ブレーキ60は、車両の走行状態や一方向クラッチ50の係合・非係合状態に応じて、オイルポンプ70から供給されるオイルの圧力により、解放状態、締結状態に制御される。例えば、車両発進時等、車両3が少なくとも第1及び第2電動機2A、2Bの力行駆動により前進する時(後輪駆動又は四輪駆動時)は、一方向クラッチ50が係合するため動力伝達可能な状態となるため、典型的には油圧ブレーキ60が解放状態に制御される。また、車両3が内燃機関4及び/又は電動機5の力行駆動により前進する時(前輪駆動時)であってモータ制限車速を越えるときは、一方向クラッチ50が非係合となりさらに油圧ブレーキが解放状態に制御されることで、第1及び第2電動機2A、2Bの過回転が防止される。一方、車両3の後進時や回生時には、一方向クラッチ50が非係合となるため油圧ブレーキ60が締結状態に制御されることで、第1及び第2電動機2A、2B側からの逆方向の回転動力が車輪Wr側に出力され、又は車輪Wr側の順方向の回転動力が第1及び第2電動機2A、2B側に入力される。
【0087】
また、ケース11には、ステータ14A、14Bのコイル側面へオイルを供給する複数の吐出口112が形成されるとともに、下方に延びて車軸10A、10B内へ油を供給するように軸方向に向く潤滑油通路113が形成されている。なお、ケース11の下部は、オイル貯留部となっている。
【0088】
車軸10A、10Bには、第1及び第2電動機2A、2Bの軸方向に沿って延出する軸方向孔114が形成されており、また、潤滑油通路113と軸方向に重なる位置には、潤滑油通路113と連通する第1径方向孔115が、プラネタリキャリア23A、23Bと軸方向に重なる位置には、プラネタリキャリア23A、23Bに設けられた腕部内潤滑油路116と連通する第2径方向孔117が形成されている。
【0089】
プラネタリキャリア23A、23Bには、ピニオンシャフト230にピニオンシャフト内潤滑油路118が軸方向に延在し、腕部231に車軸10A、10Bの第2径方向孔117とピニオンシャフト内潤滑油路118とを連通する腕部内潤滑油路116が径方向に延在している。さらに、ピニオンシャフト内潤滑油路118は、ピニオンシャフト230の略中央部にピニオンシャフト230の外周面まで伸びる連通孔119が形成される。これらピニオンシャフト内潤滑油路118と腕部内潤滑油路116と連通孔119とで、プラネタリキャリア23A、23B内の潤滑油路120を構成する。従って、オイルポンプ70から吐出されたオイルは、吐出口112からステータ14A、14Bのコイル側面へ供給されるとともに、潤滑油通路113から、第1径方向孔115、軸方向孔114、第2径方向孔117、腕部内潤滑油路116、ピニオンシャフト内潤滑油路118、連通孔119、ニードルベアリング31A、31B、スラストワッシャー13A、13Bを通って、リングギヤ24A、24Bのギヤ部28A、28Bと第2ピニオン27A、27Bとの噛合部及びサンギヤ21A、21Bと第1ピニオン26A、26Bとの噛合部に供給される。これにより、前後左右に加速度又は減速度が加わってケース11内の油面が偏ったときでも、両噛合部にオイルを供給することができる。
【0090】
ここで、プラネタリキャリア23A、23B内には、腕部内潤滑油路116とピニオンシャフト内潤滑油路118のいずれか一方に流路調整弁80が設けられている。図1〜図4は、腕部内潤滑油路116に流路調整弁80が設けられた例を示している。
【0091】
流路調整弁80は、腕部内潤滑油路116がピニオンシャフト内潤滑油路118と交差する位置の径方向内側に設けられており、図5に示すように、球状の弁体81と、弁体81を径方向内側に付勢するばね部材82と、ばね部材82を内部に収容する保持部材83と、を備える。保持部材83は、ばね部材82の外周を囲う筒状部84の径方向外側に、開口部85を有する蓋部86が一体に形成されている。蓋部86は、ばね部材82の径方向外側への移動を規制する。筒状部84の径方向内側端部には、第1弁座87が弁体81に向かって拡開して形成される。これにより、プラネタリキャリア23A、23Bの回転により腕部231の回転数が上昇したときに、弁体81とオイルとの質量にかかる遠心力によって、弁体81が第1弁座87に着座することで、オイルが過度に流出するのを抑制することができる。
【0092】
また、腕部内潤滑油路116を形成する壁部には、弁体81を介して第1弁座87に向かい合うように弁体81に向かって拡開した第2弁座88が形成される。弁体81は、保持部材83の内部に収容されたばね部材82により第2弁座88に向かって付勢される。よって、ばね部材82と保持部材83により、弁体81を径方向外側から径方向内側に付勢する返戻手段が構成される。従って、腕部231の回転数が低下して弁体81が離座したときにオイルを供給することができる。また、回転数に応じた流量調整弁80の途中開度をとれるので、流量が急激に変化することがない。また、弁体81は、返戻手段に抗して径方向外側に移動し、第1弁座87に着座するように構成されるので、第1弁座87への弁体81の衝突を抑制することができ、第1弁座87と弁体81の耗損を抑制することができる。さらに、第2弁座88により、腕部231の回転数が低下したときに、弁体81を所定の位置に保持することができる。弁体81は、第1弁座87のテーパ面の第2弁座88側の端点と、第2弁座88のテーパ面の第1弁座87側の端点との距離Lよりも長い直径dを有する。これにより、弁体81がばね部材82から脱落することがなく安定してオイルの供給量を制御することができる。
【0093】
筒状部84に収容されるばね部材82の長さは、弁体81が第2弁座88に着座し、ばね部材82が自然長で弁体81に当接した状態で、蓋部86との間に所定の間隙Sが形成される長さに設定される(図6(a)参照)。
【0094】
また、筒状部84の外周面には、周方向の一部に径方向に伸びる切り欠き84aと筒状部84の内側と外側を連通する貫通穴84bが形成されており、これら切り欠き84aと筒状部84bとにより迂回路89が形成される。なお、迂回路89はこのような構成に限定されず、図7に示すように、第1弁座87を形成する筒状部84の径方向内側端部に切り欠きにより形成されてもよい。このように、弁体81が第1弁座87に着座した状態で、弁体81の上流と下流とを連通する迂回路89が設けられるので、弁体81が第1弁座87に着座してもオイルが第1弁座87を迂回する迂回路89を通って下流側に流れ、回転数が上昇して弁体81が着座しても所定量のオイルを供給することができる。
【0095】
このように構成された流路調整弁80の作用について、腕部231の径方向外側が上方を向いた状態のときを例に、図6を参照しながら説明する。
図6は、停車から発進、加速して次第に車両の速度が高車速域まで増加する運転モードにおける流量調整弁の作動を説明する図であり(a)は車両停車時、(b)は発進時、(c)は低車速及び中車速時、(d)は高車速時である。
【0096】
図6(a)は、車両停車時、即ちプラネタリキャリア23A、23Bが回転していないときの流量調整弁を示す図である。
車両停車時は、前輪駆動装置6及び後輪駆動装置1からは駆動力が発生しておらず、一方向クラッチ50は非係合であり、油圧ブレーキ60も解放している。従って、第1及び第2遊星歯車式減速機12A、12Bには、トルクが入力されていない。
【0097】
プラネタリキャリア23A、23Bが回転していないときには、オイルポンプ70からプラネタリキャリア23A、23B(腕部内潤滑油路116)にオイルは供給されておらず、鉛直方向上方に位置するプラネタリキャリア23A、23Bに設けられた流路調整弁80は、弁体81が第2弁座88に着座し、ばね部材82が自然長で弁体81に当接している。この状態では、上述したように、ばね部材82の径方向外側端部と蓋部86との間に所定の間隙Sが形成される。
【0098】
図6(b)は、車両発進時、即ちプラネタリキャリア23A、23Bが回転し始めたときの流量調整弁を示す図である。
車両発進時は、典型的には、後輪駆動装置1から駆動力が発生する後輪駆動であり、一方向クラッチ50が係合し、油圧ブレーキ60は解放状態に制御され、オイルポンプ70からプラネタリキャリア23A、23B(腕部内潤滑油路116)にオイルが供給される。第1及び第2遊星歯車式減速機12A、12Bでは、一方向クラッチ50が係合することで、サンギヤ21A、21Bに入力された第1及び第2電動機2A、2Bの回転が、プラネタリキャリア23A、23Bに減速されて伝達され、プラネタリキャリア23A、23Bも回転する。
【0099】
このとき、オイルポンプ70から腕部内潤滑油路116にオイルが供給されるか、又はプラネタリキャリア23A、23Bが回転し始めることで、ばね部材82の径方向外側端部と蓋部86との間に形成された所定の間隙S分だけ弁体81とばね部材82が径方向外側に移動する。これにより、弁体81と第2弁座88との間には隙間が形成され、腕部内潤滑油路116に供給されたオイルが、この隙間を通って弁体81と第1弁座87との間及び迂回路89を通って筒状部84内に供給され、蓋部86の開口部85からピニオンシャフト内潤滑油路118へと供給される。
【0100】
このように、弁体81が第2弁座88に着座し、ばね部材82が自然長で弁体81に当接した状態で、ばね部材82の径方向外側端部と蓋部86との間に所定の間隙Sが形成されることで、プラネタリキャリア23A、23Bが回転を開始した際に、すぐに弁体81が移動して開弁するので、プラネタリキャリア23A、23Bの回転数が低い状態でもオイルを供給することができる。
【0101】
なお、必ずしも、弁体81が第2弁座88に着座し、ばね部材82が自然長で弁体81に当接した状態で、ばね部材82の径方向外側端部と蓋部86との間に所定の間隙Sが形成される必要はない。図8に示すように、弁体81が第2弁座88に着座し、ばね部材82が弁体81に当接しているとき、ばね部材82が蓋部86に接触するように長さが設定された場合でも、第2弁座88に弁体81を迂回するように切り欠き90を形成しておくことで、同様の効果を得ることができる。即ち、プラネタリキャリア23A、23Bが回転を開始した際に、弁体81が第2弁座88に着座した状態でも、オイルが切り欠き90を通ってピニオンシャフト内潤滑油路118へと供給される。
【0102】
図6(c)は、車両の低車速時及び中車速時、即ちプラネタリキャリア23A、23Bが所定の回転数(以下、制限回転数とも呼ぶ。)以下で回転しているときの流量調整弁を示す図である。
車両の低車速時及び中車速時は、典型的には、後輪駆動装置1から駆動力が発生する後輪駆動又は前輪駆動装置6と後輪駆動装置1の両方から駆動力が発生する四輪駆動であり、一方向クラッチ50が係合し、油圧ブレーキ60は解放状態に制御され、第1及び第2電動機2A、2Bは後輪Wrと接続された状態となっている。
【0103】
このときも、第1及び第2遊星歯車式減速機12A、12Bでは、一方向クラッチ50が係合することで、サンギヤ21A、21Bに入力された第1及び第2電動機2A、2Bの回転が、プラネタリキャリア23A、23Bに減速されて伝達され、プラネタリキャリア23A、23Bも回転する。プラネタリキャリア23A、23Bが所定の回転数の範囲内で回転することで、弁体81には径方向外側への遠心力とばね部材82により径方向内側への付勢力が作用し、弁体81が中立点でつりあう。これにより、弁体81と第2弁座88との間には、車両発進時に比べて大きな隙間が形成される。そして、腕部内潤滑油路116に供給されたオイルが、この隙間から弁体81と第1弁座87との間及び迂回路89を通って筒状部84内に供給され、蓋部86の開口部85からピニオンシャフト内潤滑油路118へと供給される。このときのオイルの流量は、弁体81と第2弁座88との間に形成される隙間が車両発進時より大きいので、車両発進時のオイルの流量に比べて多くなる。
【0104】
このように、プラネタリキャリア23A、23Bの回転数に応じて弁体81に作用する遠心力が大きくなるので、弁体81と第2弁座88との間に形成される隙間も回転数に応じて大きくなり、トルク伝達量に比例して決まる必要潤滑量を供給することができる。
【0105】
図6(d)は車両の高車速時、即ちプラネタリキャリア23A、23Bの回転数が制限回転数よりも高い場合における流量調整弁を示す図である。
車両の高車速時は、前輪駆動装置6から駆動力が発生する前輪駆動であり、一方向クラッチ50が非係合であり、第1及び第2電動機2A、2Bの過回転を防止するため、油圧ブレーキ60が非締結状態に制御され、第1及び第2電動機2A、2Bは後輪Wrと動力伝達が遮断された状態となっている。
【0106】
このとき、後輪Wrの回転に伴って後輪Wrに接続されたプラネタリキャリア23A、23Bは制限回転数を超えて回転する。プラネタリキャリア23A、23Bが制限回転数を超えて回転することで、弁体81には、ばね部材82による径方向内側への付勢力を超える径方向外側への遠心力が作用し、弁体81が第1弁座87に着座する。弁体81が第1弁座87に着座すると、弁体81と第2弁座88との間には隙間が形成され、そして、腕部内潤滑油路116に供給されたオイルが、この隙間から迂回路89を通って筒状部84内に供給され、蓋部86の開口部85からピニオンシャフト内潤滑油路118へと供給される。このときのオイルの流量は、弁体81と第1弁座87との間がオイルの供給が遮断されるため車両の低車速時及び中車速時のオイルの流量に比べて少ない。従って、弁体81の着座状態において、オイルが多量に供給されるのを抑制しつつ、一定の流量を確保することができ、高回転で噛み合っている噛合部に対して安定的にオイルを供給することができる。
【0107】
このように、プラネタリキャリア23A、23Bの回転数が制限回転数で、第1及び第2電動機2A、2Bと後輪Wrとの動力伝達を遮断することで、第1及び第2電動機2A、2Bの過回転を防止することができる。その際、プラネタリキャリア23A、23Bの回転数が所定値近傍で、弁体81が第1弁座87に着座するようにすることで、動力伝達を遮断してトルク伝達量が小さくなったときにあわせて、オイル量が絞られるようにすることができ、トルク伝達量に応じて適切なオイル供給が可能となる。
【0108】
図9は、ピニオンシャフト内潤滑油路118に流路調整弁が設けられた場合を示している。
流路調整弁80は、腕部内潤滑油路116と連通孔119との間に設けられており、腕部内潤滑油路116に設けられる流路調整弁80と同じ構成を有する。即ち、流路調整弁80は、球状の弁体81と、弁体81を軸方向で腕部231から遠い側(以下、遠位側と呼ぶ)から軸方向で腕部231から近い側(以下、近位側と呼ぶ。)に付勢するばね部材82と、ばね部材82の収容する保持部材83と、を備える。保持部材83は、ばね部材82の外周を囲う筒状部84の遠位側に開口部85を有する蓋部86が一体に形成されている。蓋部86は、ばね部材82の遠位側への移動を規制する。筒状部84の近位側端部には、第1弁座87が弁体81に向かって拡開して形成され、ピニオンシャフト内潤滑油路118の近位側には、弁体81を介して第1弁座87に向かい合うように弁体81に向かって拡開した第2弁座88が形成されたキャップ部材91が装着される。弁体81は、ばね部材82と保持部材83とにより第2弁座88に向かって付勢される。よって、ばね部材82と保持部材83とにより、弁体81を遠位側から近位側に付勢する返戻手段が構成される。また、筒状部84の外周面には、迂回路89が形成される。
【0109】
このように、ピニオンシャフト内潤滑油路118に配置された流路調整弁80においても、腕部内潤滑油路116に設けられる流路調整弁80と同じ作用効果を果たすことができる。
【0110】
以上説明したように、プラネタリキャリア23A、23Bは、軸方向に延設され、プラネタリギヤ22A、22Bを回転可能に支持するピニオンシャフト230と、径方向に延設され、ピニオンシャフト230を保持する腕部231と、を備え、プラネタリキャリア23A、23Bには、第1及び第2遊星歯車式減速機12A、12Bの潤滑に供するオイルが流れる潤滑油路120が形成される。潤滑油路120には、弁体81と、該弁体81が下流側に移動したときに着座する第1弁座87と、を備える流量調整弁80が設けられるので、プラネタリキャリア23A、23Bの回転数が上昇したときに、オイルに作用する遠心力によって、弁体81が第1弁座87に着座することによって、オイルが過度に流出するのを抑制することができる。
【0111】
また、左後輪LWr、右後輪RWrはそれぞれプラネタリキャリア23A、23Bに接続され、第1及び第2電動機2A、2Bはサンギヤ21A、21Bに接続されるので、プラネタリキャリア23A、23Bは第1及び第2電動機2A、2Bの状態によらず左後輪LWr、右後輪RWrの回転に同期して回転するので、流量調整弁80の効果をより得ることができる。なお、上記実施形態では、サンギヤ21A、21Bにそれぞれ第1及び第2電動機2A、2Bが接続されていたが、リングギヤ24A、24Bにそれぞれ第1及び第2電動機2A、2Bが接続されていてもよい。
【0112】
また、プラネタリキャリア23A、23Bの回転数が制限回転数を超えるときに、第1及び第2電動機2A、2Bと後輪Wrとの動力伝達を遮断し、弁体81は、プラネタリキャリア23A、23Bの回転数が制限回転数近傍のときに、第1弁座87に着座するので、動力伝達を遮断してトルク伝達量が小さくなったときにあわせて、オイル量が絞られるようにすることができ、トルク伝達量に応じて適切なオイル供給が可能となる。
【0113】
また、流量調整弁80は、弁体81が第1弁座87に着座した状態で、第1弁座87を迂回して弁体81の上流と下流とを連通する迂回路89を有するので、弁体81が第1弁座87に着座してもオイルが迂回路89を通って下流側に流れるので、回転数が上昇して弁体81が着座しても所定量のオイルを供給することができる。また、弁体81の着座状態において、オイルが多量に供給されるのを抑制しつつ、一定の流量を確保することができ、高回転で噛み合っている噛合部に対して安定的にオイルを供給することができる。
【0114】
また、流量調整弁80は、弁体81を付勢する返戻手段を備えるので、腕部231の回転数が低下したときに弁体81が第1弁座87から離れるので、回転数が低下して弁体81が離座したときにオイルを供給することができる。また、回転数に応じた流量調整弁の途中開度をとれるので、オイルの流量が急激に変化することがない。
【0115】
また、弁体81は、返戻手段に抗して移動し、第1弁座87に着座するように構成されるので、第1弁座87への弁体81の衝突を抑制することができ、第1弁座87と弁体81の耗損を抑制することができる。
【0116】
また、返戻手段は、ばね部材82と、内部にばね部材82を収容する保持部材83と、を備え、保持部材83には、弁体81が着座する第1弁座87が形成されるので、流路内にばね部材82と第1弁座87を適切に配置することができる。
【0117】
また、保持部材83は、ばね部材82の外周を囲う筒状部84を備え、筒状部84の一端側は開口部85を有する蓋部86を備え、他端側には第1弁座87が形成され、蓋部86は、ばね部材82の一端側を規制する。ばね部材82が蓋部86に規制された状態で、開口部85がばね部材82の内側と連通するので、ばね部材82の内側を流路として利用することができる。
【0118】
また、流量調整弁80は、弁体81が第1弁座87と反対側に移動したときに着座する、第1弁座87とは異なる第2弁座88をさらに備えるので、腕部231の回転数が低下したときに、弁体81を所定の位置に保持することができる。
【0119】
また、流量調整弁80は、一端側が蓋部86に規制され、他端側に弁体81が配置され、弁体81に対して蓋部86とは反対側に付勢するばね部材82を備え、弁体81が、第2弁座88に着座し、且つ、ばね部材82が自然長で弁体81に接触した状態で、蓋部86とばね部材82との間に所定の間隙Sが形成されるので、プラネタリキャリア23A、23Bが回転を開始した際に、すぐに弁体81が所定の位置まで移動して開弁するので、プラネタリキャリア23A、23Bの回転数が低い状態でもオイルを供給することができる。
【0120】
また、弁体81は、球状であり、第1及び第2弁座87、88は、弁体81に向かって拡開し、弁体81が着座するテーパ面を有し、弁体81は、第1弁座87のテーパ面の第2弁座88側の端点と、第2弁座88のテーパ面の第1弁座87側の端点と、の距離Lよりも長い直径dを有するので、弁体81がばね部材82から脱落することがなく安定してオイルの供給量を制御することができる。
【0121】
また、オイルは、リングギヤ24A、24Bの噛合部と、サンギヤ21A、21Bの噛合部に供給されるので、前後左右に加速度又は減速度が加わって油面が偏ったときでも、両噛合部にオイルを供給することができる。
【0122】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
車両の駆動源と車輪との動力伝達経路上に配置された遊星歯車機構であれば、任意の構成に採用することができる。
例えば、駆動源としては、電動機に関わらずエンジンであってもよく、前輪駆動装置に組み込まれてもよい。
【符号の説明】
【0123】
2A 第1電動機
2B 第2電動機
12A、12B 第1及び第2遊星歯車式減速機(遊星歯車機構)
21A、21B サンギヤ
22A、22B プラネタリギヤ
23A、23B プラネタリキャリア
24A、24B リングギヤ
80 流路調整弁
81 弁体
82 ばね部材(返戻手段)
83 保持部材(返戻手段)
84 筒状部
84b 貫通穴
85 開口部
86 蓋部(規制部)
87 第1弁座(弁座)
88 第2弁座(他の弁座)
89 迂回路
90 切り欠き(他の迂回路)
116 腕部内潤滑油路
118 ピニオンシャフト内潤滑油路(回転軸内潤滑油路)
120 潤滑油路
230 ピニオンシャフト(回転軸)
231 腕部
LWr 左後輪(車輪)
RWr 右後輪(車輪)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動源と車輪との動力伝達経路上に配置され、サンギヤと、リングギヤと、前記サンギヤ及び前記リングギヤに噛合された複数のプラネタリギヤを回転自在に支持するプラネタリキャリアとを同軸心に備えた遊星歯車機構の潤滑構造であって、
前記プラネタリキャリアは、軸方向に延設され、前記プラネタリギヤを回転可能に支持する回転軸と、径方向に延設され、前記回転軸を保持する腕部と、を備え、
前記プラネタリキャリアには、前記遊星歯車機構の潤滑に供する潤滑油が流れる潤滑油路が形成され、
前記潤滑油路には、弁体と、該弁体が下流側に移動したときに着座する弁座と、を備える流量調整弁が設けられることを特徴とする遊星歯車機構の潤滑構造。
【請求項2】
前記潤滑油路は、前記腕部内で径方向内側から外側に向けて延在する腕部内潤滑油路を含み、
前記流量調整弁は、前記腕部内潤滑油路内に配置され、前記弁体が径方向外側に移動したときに前記弁座に着座することを特徴とする請求項1に記載の遊星歯車機構の潤滑構造。
【請求項3】
前記車輪は前記プラネタリキャリアに接続され、前記駆動源は前記サンギヤ又は前記リングギヤに接続されることを特徴とする請求項2に記載の遊星歯車機構の潤滑構造。
【請求項4】
前記プラネタリキャリアの回転数が所定値を超えるときに、前記駆動源と前記車輪との動力伝達を遮断し、
前記弁体は、前記プラネタリキャリアの回転数が所定値近傍のときに、前記弁座に着座することを特徴とする請求項3に記載の遊星歯車機構の潤滑構造。
【請求項5】
前記流量調整弁は、前記弁体が前記弁座に着座した状態で、前記弁座を迂回して前記弁体の上流と下流とを連通する迂回路をさらに有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の遊星歯車機構の潤滑構造。
【請求項6】
前記流量調整弁は、前記弁体を径方向外側から径方向内側に付勢する返戻手段をさらに備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の遊星歯車機構の潤滑構造。
【請求項7】
前記弁体は、前記返戻手段に抗して径方向外側に移動し、前記弁座に着座するように構成されることを特徴とする請求項6に記載の遊星歯車機構の潤滑構造。
【請求項8】
前記返戻手段は、ばね部材と、内部に該ばね部材を収容する保持部材と、を備え、
該保持部材には、前記弁体が着座する前記弁座が形成されることを特徴とする請求項6又は7に記載の遊星歯車機構の潤滑構造。
【請求項9】
前記保持部材は、前記ばね部材の外周を囲う筒状部を備え、
前記筒状部の一端側は開口部を有する蓋部を備え、他端側には前記弁座が形成され、
前記蓋部は、前記ばね部材の一端側を規制することを特徴とする請求項8に記載の遊星歯車機構の潤滑構造。
【請求項10】
前記筒状部は、外側と内側とを連通する貫通穴を有することを特徴とする請求項9に記載の遊星歯車機構の潤滑構造。
【請求項11】
前記流量調整弁は、前記弁体が径方向内側に移動したときに着座する、前記弁座とは異なる他の弁座をさらに備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の遊星歯車機構の潤滑構造。
【請求項12】
前記流量調整弁は、一端側が規制部に規制され、他端側に前記弁体が配置され、前記弁体に対して径方向外側から径方向内側に付勢するばね部材をさらに備え、
前記弁体が、前記他の弁座に着座し、且つ、前記ばね部材が自然長で前記弁体に接触した状態で、前記規制部と前記ばね部材との間に所定の間隙が形成されることを特徴とする請求項11に記載の遊星歯車機構の潤滑構造。
【請求項13】
前記流量調整弁は、一端側が規制部に規制され、他端側に前記弁体が配置され、前記弁体に対して径方向外側から径方向内側に付勢するばね部材をさらに備え、
前記弁体が、前記他の弁座に着座した状態で、前記ばね部材が前記規制部と前記弁体とに接触し、前記他の弁座を迂回して前記弁体の上流と下流とを連通する他の迂回路が形成されることを特徴とする請求項11に記載の遊星歯車機構の潤滑構造。
【請求項14】
前記弁体は、球状であり、
前記弁座及び前記他の弁座は、前記弁体に向かって拡開し、前記弁体が着座するテーパ面を有し、
前記弁体は、前記弁座のテーパ面の前記他の弁座側の端点と、前記他の弁座のテーパ面の前記弁座側の端点と、の距離よりも長い直径を有することを特徴とする請求項11に記載の遊星歯車機構の潤滑構造。
【請求項15】
前記潤滑油は、前記リングギヤの噛合部と、前記サンギヤの噛合部に供給されることを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載の遊星歯車機構の潤滑構造。
【請求項16】
前記潤滑油路は、前記腕部内で径方向内側から外側に向けて延在する腕部内潤滑油路と、前記腕部内潤滑油路の下流側で、且つ、前記回転軸内で前記回転軸の軸方向に延在する回転軸内潤滑油路と、を含み、
前記流量調整弁は、前記回転軸内潤滑油路内に配置され、前記弁体が軸方向で前記腕部から遠位側に移動したときに前記弁座に着座することを特徴とする請求項1に記載の遊星歯車機構の潤滑構造。
【請求項17】
前記車輪は前記プラネタリキャリアに接続され、前記駆動源は前記サンギヤ又は前記リングギヤに接続されることを特徴とする請求項16に記載の遊星歯車機構の潤滑構造。
【請求項18】
前記プラネタリキャリアの回転数が所定値を超えるときに、前記駆動源と前記車輪との動力伝達を遮断し、
前記弁体は、前記プラネタリキャリアの回転数が前記所定値近傍のときに、前記弁座に着座することを特徴とする請求項17に記載の遊星歯車機構の潤滑構造。
【請求項19】
前記流量調整弁は、前記弁体が前記弁座に着座した状態で、前記弁座を迂回して前記弁体の上流と下流とを連通する迂回路をさらに有することを特徴とする請求項16〜18のいずれか1項に記載の遊星歯車機構の潤滑構造。
【請求項20】
前記流量調整弁は、前記弁体を軸方向で前記腕部から遠い遠位側から前記腕部に近い近位側に付勢する返戻手段をさらに備えることを特徴とする請求項16〜19のいずれか1項に記載の遊星歯車機構の潤滑構造。
【請求項21】
前記返戻手段は、ばね部材と、内部に該ばね部材を収容する保持部材と、を備え、
該保持部材には、前記弁体が着座する前記弁座が形成されることを特徴とする請求項20に記載の遊星歯車機構の潤滑構造。
【請求項22】
前記保持部材は、前記ばね部材の外周を囲う筒状部を備え、
前記筒状部の一端側は開口部を有する蓋部を備え、他端側には前記弁座が形成され、
前記蓋部は、前記ばね部材の一端側を規制することを特徴とする請求項21に記載の遊星歯車機構の潤滑構造。
【請求項23】
前記筒状部は、外側と内側とを連通する貫通穴を有することを特徴とする請求項22に記載の遊星歯車機構の潤滑構造。
【請求項24】
前記流量調整弁は、前記弁体が軸方向で前記腕部から近い近位側に移動したときに着座する、前記弁座とは異なる他の弁座をさらに備えることを特徴とする請求項16〜19のいずれか1項に記載の遊星歯車機構の潤滑構造。
【請求項25】
前記流量調整弁は、一端側が規制部に規制され、他端側に前記弁体が配置され、前記弁体に対して軸方向で前記腕部から遠い遠位側から前記腕部に近い近位側に付勢するばね部材をさらに備え、
前記弁体が、前記他の弁座に着座し、且つ、前記ばね部材が自然長で前記弁体に接触した状態で、前記規制部と前記ばね部材との間に所定の間隙が形成されることを特徴とする請求項24に記載の遊星歯車機構の潤滑構造。
【請求項26】
前記流量調整弁は、一端側が規制部に規制され、他端側に前記弁体が配置され、前記弁体に対して軸方向で前記腕部から遠い遠位側から前記腕部に近い近位側に付勢するばね部材をさらに備え、
前記弁体が、前記他の弁座に着座した状態で、前記ばね部材が前記規制部と前記弁体とに接触し、前記他の弁座を迂回して前記弁体の上流と下流とを連通する他の迂回路が形成されることを特徴とする請求項24に記載の遊星歯車機構の潤滑構造。
【請求項27】
前記弁体は、球状であり、
前記弁座及び前記他の弁座は、前記弁体に向かって拡開し、前記弁体が着座するテーパ面を有し、
前記弁体は、前記弁座のテーパ面の前記他の弁座側の端点と、前記他の弁座のテーパ面の前記弁座側の端点と、の距離よりも長い直径を有することを特徴とする請求項24に記載の遊星歯車機構の潤滑構造。
【請求項28】
前記潤滑油は、前記リングギヤの噛合部と、前記サンギヤの噛合部に供給されることを特徴とする請求項16〜27のいずれか1項に記載の遊星歯車機構の潤滑構造。
【請求項29】
前記回転軸内潤滑油路には、前記流量調整弁の下流に前記回転軸の外周に連通する連通孔を有し、
前記潤滑油は、前記プラネタリギヤと前記回転軸との摺動部を介して前記リングギヤの噛合部と前記サンギヤの噛合部とに供給されることを特徴とする請求項16〜28のいずれか1項に記載の遊星歯車機構の潤滑構造。
【請求項30】
前記プラネタリギヤは、大径ギヤと小径ギヤとが軸線方向に連設された2段ピニオンギヤであることを特徴とする請求項1〜29のいずれか1項に記載の遊星歯車機構の潤滑構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−53736(P2013−53736A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194286(P2011−194286)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】