説明

運動案内装置

【課題】軽快な動きが得られる運動案内装置でありながら、簡単な構成で、案内部材に対する移動体の回転を抑制できる技術を提供する。
【解決手段】シャフト1と、シャフト1を往復運動可能で且つ回転可能に案内するナットユニット2とを有する運動案内装置であって、シャフト1には磁性体からなる4箇所の磁性体部3a〜3dを90度間隔で設け、ナットユニット2には、永久磁石からなる永久磁石部5a〜5dを90度間隔で設けた。永久磁石部5a〜5dから発生する磁力により磁性体部3a〜3dが永久磁石部5a〜5dに吸引され、ナットユニット2に対するシャフト1の角度を保持可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体を案内部材に沿って往復移動自在とした運動案内装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械、組立て機械や測定器においてテーブルやプローブ等を精密かつ円滑に案内する手段として、近年は案内部材に移動体を往復運動可能に取り付けた運動案内装置が広く使用されている。
【0003】
例えば、案内部材としての断面円形のシャフトと、このシャフトに組み合わされ、シャフトに対して相対的に直線運動するリニアブッシュとを備えるものが知られている。リニアブッシュは、ボール循環路を有する外筒と、ボール循環路内に配列収納され、シャフトに対する外筒の相対的な直線運動に併せて循環する複数のボールと、外筒内に組み込まれ、前記複数のボールをシャフトの軸線方向に整列・保持する保持器とを備える。リニアブッシュのシャフトに対する相対的な直線運動に伴い、ボールはシャフトの表面と外筒のボールの軌道となるボール循環路を転走する。
【0004】
このリニアブッシュとシャフトとのアセンブリーにおいて、シャフトの表面は真円状に形成されているので、ボールとシャフトとはシャフトの表面の一点で点接触する。また、ボールと外筒とは、外筒に形成されたボール循環路の表面で点接触する。このため、ボールは最小の摩擦抵抗でボール循環路を転がり、軽快な動きが得られる。
【0005】
その他、ボール循環路を有しない外筒と、外筒とシャフトとの間に収納され、シャフトに対する外筒の相対的な直線運動に併せて外筒とシャフトとの両方に対して相対移動する複数のボールと、前記複数のボールを保持する保持器とを備える有限タイプのリニアブッシュも知られている。
【0006】
しかしながら、従来のリニアブッシュとシャフトのアセンブリーにおいては、シャフトにはボールの軌道となる溝が存在しないので、外筒をシャフトに対して回転させようとすれば回転してしまい、直線の運動案内を目的とする場合に、別途回転止め機構を設ける必要があった。
【0007】
一方、回転方向の荷重を受ける技術として、ボールの転走溝をシャフトにも設けたボールスプラインが発明されているが、軸の断面形状が前記リニアブッシュにおけるシャフトのように単純な形状ではなく、精密な加工が必要となるため、コストUPにつながる要因になっていた。また、シャフトの転走溝に塵埃が付着しやすいので、運動案内装置の使用環境が制限されたり、塵埃が入らないような転走溝に合わせた形状のシール構造等が必要となったりする場合があった。さらに、ボールスプラインでは、回転方向に過大なトルクが作用することで運動案内装置自体が損傷してしまう場合もあった。
【0008】
また、近年、スピーカ、振動カッター、磁気ディスクのヘッド駆動、サーボ弁のスプール駆動等様々な用途に対して、永久磁石及びコイルを備えるボイスコイルモータなどのリニアアクチュエータが用いられるようになった。このようなリニアアクチュエータには、移動体を案内部材に沿って往復移動させる運動案内装置が適用されている。
【0009】
このリニアアクチュエータにおいて移動体と案内部材が相対的にすべり移動をする運動案内装置を適用し、高い周波数で往復運動させた(振動させた)場合は、移動体と案内部材との間の隙間によるガタの影響で、回転方向にも振動が生じ、移動体及び案内部材の摩
耗を促進させてしまう場合があった。従って、このようなリニアアクチュエータにおいては、移動体と案内部材とが移動体の進行方向の軸回りに、相対的に回転しないような規制を設けることが要求されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−083565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記のような不都合を解決するためになされたものであり、軽快な動きが得られる運動案内装置でありながら、簡単な構成で、案内部材に対する移動体の回転を抑制できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明は、運動案内装置の案内部材と、該案内部材に回転可能に設けられた移動体のいずれか一方に永久磁石からなる磁石部を有し、他方に磁石部から発生する磁力により磁石部に吸引される被吸引部を有し、磁石部と被吸引部との間に生じる吸引力で、移動体の案内部材に対する角度を保持可能としたことを最大の特徴とする。
【0013】
より詳しくは、移動体と、
前記移動体を往復移動可能に支持する案内部材と、
を備えた運動案内装置であって、
前記移動体は前記案内部材に対して、進行方向に平行な軸の回りに回転可能に支持されており、
前記移動体または前記案内部材の一方は永久磁石からなる磁石部を備え、
前記移動体または前記案内部材の他方は前記磁石部から発生する磁力により前記磁石部に吸引される被吸引部を備え、
前記被吸引部が前記磁石部に吸引されることにより、前記移動体の前記案内部材に対する前記軸まわりの角度を保持可能としたことを特徴とする。
【0014】
これによれば、移動体と案内部材が、磁石部と被吸引部との間の吸引力によって互いに吸引され、移動体の案内部材に対する不用意な回転を簡単な構成で抑制することができる。また、案内部材に、移動体の回転防止のための溝を形成するなどの処理が必要ないので、案内部材の溝に塵埃が付着するなどの不都合が起きづらくなり、運動案内装置の使用範囲を広げることが可能である。
【0015】
なお、本発明において移動体と案内装置は、互いに相対移動できればよく、案内装置が固定され移動体が空間的に移動するものに限定したものではない。移動体の方を固定して、案内装置が空間的に移動するような用い方をすることも可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、軽快な動きが得られる運動案内装置でありながら、簡単な構成で、案内部材に対する移動体の回転を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例1に係る運動案内装置のシャフトとナットユニットを示す図である。
【図2】本発明の実施例1に係る運動案内装置のシャフトをナットユニットに挿入した状態を端面側から見た図である。
【図3】本発明の実施例1に係る運動案内装置のナットユニットを側面から見た断面図である。
【図4】本発明の実施例1を無限タイプの運動案内装置に適用した場合のナットユニットを側面から見た断面図である。
【図5】本発明の実施例2において、磁石ナットを2個のナットで挟んで構成したナットユニットを側面から見た断面図である。
【図6】本発明の実施例3に係るシャフトとナットユニットを示す図である。
【図7】本発明の実施例3に係るシャフトの製造工程の一例を示す図である。
【図8】本発明の実施例4に係るシャフトとナットユニットを示す図である。
【図9】本発明の実施例4と実施例1における、回転角度と角度保持力との関係を比較したグラフである。
【図10】本発明の実施例5に係るシャフトとナットユニットを示す図である。
【図11】本発明の実施例6に係る軌道レールと移動ブロックについて示す図である。
【図12】本発明の実施例7に係る運動案内装置のシャフトとナットユニットを示す図である。
【図13】本発明の実施例7に係る運動案内装置のシャフトをナットユニットに挿入した状態を説明するための図である。
【図14】本発明の実施例8に係る運動案内装置を端面側から見た場合のナット磁石部の構成のバリエーションを示す図である。
【図15】本発明の実施例8に係る運動案内装置を端面側から見た場合のナット磁石部の構成のバリエーションの他の例を示す図である。
【図16】本発明の実施例8に係る運動案内装置を端面側から見た場合のナット磁石部及び永久磁石部の構成のバリエーションの他の例を示す図である。
【図17】本発明の実施例8に係る運動案内装置のシャフトをナットユニットに挿入した状態の例を説明するための図である。
【図18】本発明の実施例9に係る運動案内装置の概略構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る運動案内装置について、図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
<実施例1>
本発明の実施例1に係る運動案内装置は直線運動案内装置であって、案内部材としてのナットユニット2と、このナットユニット2に沿って移動する移動体としてのシャフト1とを備えている。図1(a)には、シャフト1を端面側から見た図及び、側面から見た断面図を示す。また、図1(b)には、ナットユニット2を端面側から見た図及び、側面から見た断面図を示す。図1(b)に示すように、シャフト1とナットユニット2との間には、多数の転動体としてのボール6が転動自在に設けられている。また、本実施例においては、球形状のボールホルダを有するケージ7でボール6が保持されている。
【0020】
シャフト1は、例えばSUS303などの非磁性の素材から形成されている。そして、図1(a)に示すように、シャフト1の外周部近傍には、約90度間隔で4つの被吸引部としての磁性体部3a〜3dが形成されている。この磁性体部は、円形の断面を有するとともにシャフト1の全長に亘って形成されている。
【0021】
図1(b)に示すように、ナットユニット2においては、ナット2aの両端に磁石ナット4が組みつけられている。この磁石ナット4には、やはり約90度間隔で円形断面を有する永久磁石からなる4つの永久磁石部5a〜5dが形成されている。また、2つの磁石ナット4において永久磁石部5a〜5dどうしの位置が一致するように、磁石ナット4の
ナット2aへの取り付け角度は調整されている。ナット2aの外筒及び、磁石ナット4の永久磁石部5a〜5d以外の部分はアルミなど非磁性の素材で形成されている。ここで、磁石ナット4の内径は、シャフト1の外形より若干大きく設定されており、シャフト1がナットユニット2に挿入された際に、シャフト1と磁石ナット4とが接触しないようになっている。この永久磁石部5a〜5dは、本実施例において磁石部に相当する。
【0022】
図2には、シャフト1をナットユニット2に挿入した状態を端面側から見た図を示す。図2に示すように、シャフト1をナットユニット2に挿入した際には、永久磁石部5a〜5dからの磁界によって磁性体部3a〜3dは吸引力を受け、磁性体部3a〜3dが永久磁石部5a〜5dに各々対向するように、シャフト1が回転し、本実施例においては、磁性体部3a〜3dが、永久磁石部5a〜5dに各々最も近くなるような角度で、シャフト1は安定する。
【0023】
この状態で、シャフト1を軸中心回りに図中時計回りに回転させた場合について考える。この場合は、安定している状態において、磁性体部3a〜3dは、永久磁石部5a〜5dとの距離が最も近くなっているので、回転に必要なトルクは回転開始時に最も大きくなる(以下、安定点から回転を開始する際に必要なトルクを「角度保持力」ともいう)。そして、回転とともに、回転に必要なトルクが減少していき、45度回転した時点で、今度は、永久磁石部5aと磁性体部3aの距離より、永久磁石部5bと磁性体部3aの距離の方が近くなるので、シャフト1には回転を進める方向へのトルクが作用し、シャフト1は90度の角度、すなわち、磁性体部3a〜3dが永久磁石部5b〜5aに対向して最も距離が近くなる角度まで回転して安定する。
【0024】
このように、本実施例においては、シャフト1とナットユニット2とが、各々に90度ずつ間隔をあけて設けられた磁性体部3a〜3dと、永久磁石部5a〜5dのいずれか同士が対向する角度で、シャフト1を安定的に停止させ、回転を抑制することができる。これによれば、シャフト1に溝などを設けて当該溝にボールを転送させるといった複雑な構成をとることなく、シャフト1の回転を抑制することができる。また、これにより塵埃に強く、メンテナンスが簡単な回転止め機構を安価に実現することができる。
【0025】
さらに、一定以上のトルクが作用した場合には、磁性体部3a〜3dと、永久磁石部5a〜5dとの間の吸引力に抗してシャフト1が回転するので、過大なトルクが作用した場合にも、運動案内装置自体が損傷することを防止できる。また、本実施例における運動案内装置を医療機器などに利用した場合には、運動案内対象としての人体に過剰な力が作用することを抑制できる。また、本実施例においては、例えばシャフト1に急激なトルクまたは断続的なトルクが作用した場合にも騒音の発生を抑制することが可能である。
【0026】
なお、本実施例においては、図2に示すように、磁石ナット4は、略円筒状の形状をしている。また、図3に示すように、その内壁近傍には、円柱状の永久磁石を挿入可能な凹部である磁石挿入穴4a〜4dが形成されており、この磁石挿入穴4a〜4dに円柱状の磁石を挿入することで、永久磁石部5a〜5dが形成される。そして、磁石ナット4には、ナット2aの内径に挿入可能な凸部4eが形成されており、この凸部4eをナット2aに挿入することで、ナット2aと結合される。ナット2aと磁石ナット4とは嵌入(圧入)によって固定されてもよいし、接着または溶接によって固定されてもよい。
【0027】
なお、円筒状の永久磁石の外周は、図2及び図3に示すように磁石ナット4の内壁から若干露出し、内径の内側に若干突出するように形成されてもよいし、磁石ナット4の内壁から露出しないように形成されてもよい。
【0028】
また、この際、永久磁石の極性は、特に限定する必要はないが、4つの永久磁石部5a
〜5dのうち、例えば5aと5cにおいてはN極が外周側、S極が内周側を向くように配置し、5bと5dにおいてはS極が外周側、N極が内周側を向くようにしてもよい。こうすることで図2に点線で示すような安定した磁界分布を形成することが可能となり、より効率的に大きな角度保持力を得ることが可能となる。その他、磁石ナット4における永久磁石部5a〜5dの極性は、例えば図3の永久磁石部5a〜5d全部についてナット2a側にN極、ナット2aと反対側にS極がくるような配置としてもよい。さらに、ナット2aの外周側には磁性体によるヨークを形成してもよい。そうすれば、より効率的に磁気回路を形成することができ、より効率的に高い角度保持力を得ることが可能となる。
【0029】
また、磁性体部3a〜3dについては、シャフト1に軸に平行に90度間隔で図示しない貫通穴を4つ形成し、貫通穴にピアノ線(鉄線)を挿入することで形成してもよい。なお、図4には、本実施例をボール循環路を有する無限タイプのリニアブッシュに適用した場合のナットユニット8について示す。ここでは、ボール循環路を有するナット8aの両端に磁石ナット4が取り付けられている。この場合にも図1〜図3に示した例と同等の効果を得ることが可能である。なお、図4に示すような構成を採用する場合には、ボールは非磁性(セラミックまたはカーボンなど)のものを用いることが望ましい。そうすることにより、互いに接触し合ったボールに永久磁石部からの磁界が作用したとしても、良好な運動案内性能を確保することができる。
【0030】
<実施例2>
次に、本発明の実施例2について説明する。本実施例では、ナットユニットを2つの有限タイプのナットと、1つの磁石ナットで構成した例について説明する。図5には、本実施例におけるナットユニット12の側面から見た断面図と、A−A断面図とを示す。図5に示すように、本実施例においては、両方の端面に凸部14eを有する1個の磁石ナット14を、2個のナット12aで両側から挟む態様となっている。
【0031】
これによれば、より長いスパンで、シャフトをボール16で支持することが可能となり、シャフトの傾きを抑制することができる。その結果、永久磁石部15a〜15dの永久磁石の端面をよりシャフトに接近させることが可能となるので、より効率的に必要な角度保持力を得ることができる。また、本実施例の構成によれば、運動案内装置としての耐荷重性を高めることもできる。
【0032】
<実施例3>
次に、本発明の実施例3について説明する。本実施例においては、シャフトにおいて実施例1とは異なる方法で、磁性体部を形成した例について説明する。図6には、本実施例における運動案内装置とシャフト21について示す。図6(a)は、運動案内装置を端面側から見た図である。図6(b)は、シャフト21を端面側から見た図及び側面から見た図である。
【0033】
本実施例におけるシャフト21の磁性体部23a〜23dは、シャフト21内に形成された断面十字状の鉄製の十字棒23の4つの端部がシャフト21の側面において露出した部分により形成されている。本実施例によれば、図6(a)に点線で示す磁気回路をより効率的に形成することができ、大きな角度保持力を得ることが可能となる。
【0034】
図7には、本実施例におけるシャフト21の形成方法の一例を示す。押し出し成形で形成された十字棒23に、SUS303等で形成された断面正方形の非磁性体棒21a〜21dを接着または溶接する。そして、切削及び研削によって全体を円柱状に加工する。これによれば、シャフトの長さ方向の全域に亘って磁性体を挿入する穴を形成するという工程を経ずに簡単な方法でシャフト21に磁性体部23a〜23dを形成することが可能である。
【0035】
<実施例4>
次に、本発明における実施例4について説明する。本実施例においては、永久磁石部と磁性体部の断面形状が略正方形である例について説明する。
【0036】
図8には、本実施例における運動案内装置について示す。図8(a)は、本実施例におけるナットユニット32に、シャフト31を挿入した状態を端面側から見た図である。図8(b)は、ナットユニット32を側面から見た断面図である。
【0037】
図8(a)に示すように、本実施例における永久磁石部35a〜35d、磁性体部33a〜33dは、いずれも略正方形の断面を有している。このように、断面円形以外の永久磁石部35a〜35d、磁性体部33a〜33dによって本発明を実施することも可能である。
【0038】
その際、シャフト31においては、円柱状のシャフト31に磁性体を挿入するための溝を90度間隔で形成し、外側から磁性体を接着または溶接した後に、研削などの加工により真円度の高いシャフト31を形成するようにしてもよい。また、磁石ナット34においては、端面側から永久磁石を挿入するのではなく、図8(b)に示すように、磁石ナット34には外周側から内周に通じる永久磁石用の溝34a〜34dを形成しておき、磁石ナット34の側面外周側から永久磁石を挿入することによって永久磁石部35a〜35dを形成するようにしてもよい。
【0039】
なお、本実施例においては、シャフト31は上述のように、略正方形断面の磁性体部33a〜33dが、ナットユニット32における略正方形断面の永久磁石部35a〜35dに対向する位置で安定する。この安定位置からシャフト31を回転させる際の角度保持力と回転角度の関係について、実施例1に示した円形断面の場合と比較する。
【0040】
図9に比較結果を示す。円形断面の場合は、安定点において、永久磁石部の内径側の頂点と、磁性体部の外径側の頂点との距離が最小となる位置でシャフトの角度が安定し、頂点同士の間で強い磁界が集中的に分布する。従って、安定点においては図9に示すように強い角度保持力を得ることができる。そして、そこから回転角度が増加するとともに、角度保持力は急峻に小さくなる。一方、本実施例のように正方形断面の場合には、安定点においても磁性体部33a〜33dの外径側の面と永久磁石部35a〜35dの内径側の面との間で磁界分布は広くなっており、円形断面の場合のように集中しない。従って、安定点における角度保持力は円形断面の場合と比較して小さくなるとともに、そこから回転を開始した場合には、回転角度の増加とともに、角度保持力は緩やかに小さくなる。
【0041】
以上、説明したように、本発明においては永久磁石部と磁性体部の断面形状を変えることによって、安定点からシャフトを回転させる際の角度保持力の変化傾向を調整することが可能である。なお、本実施例において永久磁石部と磁性体部の断面形状は略正方形としたが、その他の断面形状、例えば長方形や三角形などを選択しても構わない。
【0042】
<実施例5>
次に、本発明の実施例5について説明する。本実施例においては、永久磁石部と磁性体部の数が4つではない例について説明する。
【0043】
図10には、本実施例における運動案内装置について示す。図10(a)は、本実施例におけるナットユニット42に、シャフト41を挿入した状態を端面側からみた図である。図10(b)は、ナットユニット42を側面から見た断面図である。
【0044】
図10に示すように、本実施例における3箇所の永久磁石部45a〜45cは円形断面を有するとともに、永久磁石部45aと永久磁石部45b、永久磁石部45bと永久磁石部45cとが90度ずつ間隔をあけて配置されている。従って、永久磁石部45cと永久磁石部45aとの間隔は180度となっている。同様に、3箇所の磁性体部43a〜43cは、円形断面を有するとともに、磁性体部43aと磁性体部43b、磁性体部43bと磁性体部43cとが90度ずつ間隔をあけて配置されている。従って、磁性体部43cと磁性体部43aとの間隔は180度となっている。
【0045】
本実施例においては、永久磁石部45aと磁性体部43aとの間の吸引力と、永久磁石部45cと磁性体部43cとの間の吸引力とは釣り合っている。従って、永久磁石部45aと磁性体部43aとの間の吸引力と、永久磁石部45cと磁性体部43cとの間の吸引力は、角度保持力の発生のみに寄与する。
【0046】
また、永久磁石部45bと磁性体部43bとの間の吸引力は、角度保持力の発生に寄与すると同時に、この吸引力と釣り合う吸引力がないことから、ナットユニット42に対してシャフト41を片側、すなわちシャフト41の軸中心から磁性体部43bの方向に付勢することによる予圧の発生に寄与する。
【0047】
このように、本実施例においては、角度保持力とともに予圧を発生させることが可能となるので、永久磁石部と磁性体部の配置を非対称にするという簡単な構成で、ナットユニット42に対するシャフト41のより安定した往復運動を可能とする。本実施例では永久磁石部と磁性体部を各々3個ずつ配置したが、永久磁石部と磁性体部の数を変えるようにしてもよい。例えば、永久磁石部を4箇所で、磁性体部を3箇所というようにしてもよい。この場合は、シャフト41は常に3箇所の磁性体部においてナットユニット42の永久磁石部に吸引されており、シャフト41の姿勢に拘らず同等の力で回転を抑制し、予圧を付与することができる。このような構成は、シャフトを回転させて角度を保持しつつ直線に案内する用途に適する。また、例えば、永久磁石部を4箇所で、磁性体部を90度間隔で隣り合う2箇所というような組合せにしてもよい。なお、本実施例においては、永久磁石部と磁性体部の配置を非対称にするという構成で、角度保持力とともに予圧を発生させることとしたが、例えば、永久磁石部と磁性体部の配置は対称形とし、磁石の強さまたは大きさ、磁性体の材質または大きさを非対称とすることでも、同じ目的を達成することが可能である。
【0048】
<実施例6>
次に、本発明の実施例6について説明する。本実施例においては、案内部材としての軌道レール上を、移動体としての移動ブロックが往復運動可能とした運動案内装置に本発明を適用した例について説明する。
【0049】
図11には、本実施例における運動案内装置の概略構成を示す。特に図11(a)には、本実施例における運動案内装置を移動ブロック52の進行方向から見た図を示す。軌道レール51には略半円状の移動ブロック収納溝51aが形成されている。そして、移動ブロック52は図中下側が略半円状となっており、図中上側には平面形状の取付け部52aを有しており、運動案内対象物を取り付け可能な構成になっている。
【0050】
また、軌道レール51と移動ブロック52の間には図示しない転動体としてのボールが複数介在しており、移動ブロック52は軌道レール51に対して多数のボールを介して往復運動可能となっている。ここで、移動ブロック52は、軌道レール51に対して、進行方向に平行な軸を中心に(図中矢印の方向に)回転可能な構成になっている。このことにより、例えば、複数の運動案内装置を並べてひとつの対象を運動案内する場合の寸法誤差の吸収を可能としている。
【0051】
しかしながら、軌道レール51に対する移動ブロック52の回転に対する角度保持力がない場合には、軌道レール51に対する移動ブロック52の角度が無制限に変化してしまい装置のハンドリングを悪くしてしまう場合がある。
【0052】
これに対し、本実施例においては、軌道レール51には磁性体部53a〜53cが例えば75度間隔で形成され、移動ブロック52には、永久磁石部55a〜55cが75度間隔で形成されている。これにより、移動ブロック52は軌道レール51に対して、磁性体部53a〜53cと永久磁石部55a〜55cとが対向する姿勢において安定する。これにより、運動案内装置を案内対象物に組み付ける場合のハンドリングを安定させることが可能となる。
【0053】
図11(b)及び図11(c)には、本実施例の運動案内装置における異なる態様について示す。本態様は、図11(a)で示した直線案内装置の移動ブロック52の長手方向の中央部分を円柱状にし、且つ、軌道レール51の長手方向の中央部分を円筒状のナット形状としたことで、移動ブロック52を自由に回転可能にしたものである。
【0054】
図11(b)に示すように、移動ブロック52の長手方向中央部分には、円柱部52cが設けられている。また、軌道レール51の長手方向中央部分にはナット部51bが設けられている。図11(c)は、本態様の直線案内装置を長手方向側面から見た断面図である。図11(c)から分かるように、軌道レール51のナット部51bと移動ブロック52の円柱部52cとの間には多くのボールを保持したケージ56が介在しており、移動ブロック52は軌道レール51に対して、直進運動及び回転運動に行うことが可能である。本実施例においては、この場合においても、図11(b)に示すように、移動ブロック52は軌道レール51に対して、磁性体部53a〜53cのいずれかと永久磁石部55a〜55cのいずれかとが対向する角度において安定する。
【0055】
これにより、移動ブロック51が軌道レール52に対して直進及び回転自在でありながら、回転方向については、いくつかの角度において姿勢を安定させることが可能な直線案内装置を実現することが可能である。
【0056】
なお、上記の実施例においては、運動案内装置が直線運動案内装置である例について説明したが、本発明が適用される運動案内装置は直線運動案内装置に限られない。移動ブロックやナットユニットが曲線状に運動する装置にも適用可能である。また、上記の実施例では転動体としてボールを用いた例について説明したが、転動体としてローラを用いてもよいことは当然である。
【0057】
さらに、上記の実施例1〜実施例6においては、移動体であるナットユニットまたは移動ブロックに永久磁石部が形成され、案内部材であるシャフトまたは軌道レールに磁性体部が形成され、磁性体部と永久磁石部との間の吸引力によって回転を抑制する例について説明した。しかしながら、本発明の構成はこの組合せに限られない。例えば、移動体であるナットユニットまたは移動ブロックに磁性体部が形成され、案内部材であるシャフトまたは軌道レールに永久磁石部が形成されるようにしてもよい。また、ナットユニットまたは移動ブロックと、シャフトまたは軌道レールとの両方に永久磁石部が形成され、永久磁石同士の吸引力によって回転を抑制するようにしても構わない。この場合は、一方の永久磁石部が磁石部に相当し、他方の永久磁石部は被吸引部に相当する。また、上記の実施例1〜実施例6においては、案内部材と移動体との間にはボールが介在し、ボールの転がり運動によって案内部材と移動体とが互いに相対移動する例について説明した。しかしながら、案内部材と移動体との相対移動の方式は転がりによるものに限定されない。案内部材と移動体とがすべりにより相対移動するように構成されてもよい。
【0058】
<実施例7>
次に、本発明の実施例7について説明する。本発明の実施例7に係る運動案内装置は直線運動案内装置であって、案内部材としてのナットユニット62と、このナットユニット62に沿って移動する移動体としてのシャフト61とを備えている。図12(a)には、シャフト61を端面側から見た図及び、断面A−Aを示す。また、図12(b)には、ナットユニット62を端面側から見た図及び、断面B−Bを示す。図12(b)に示すように、ナットユニット62の内壁の両端部には、シャフト61とナットユニット62との間に介在する円筒状のブッシュ66が設けられている。このブッシュ66の存在により、シャフト61をナットユニット62の貫通孔に挿入することで、両者を、すべりによる相対移動が可能に結合することが可能になっている。このブッシュ66は、樹脂製、金属製、セラミック製などいずれの材質からなるものでもよく、潤滑油なしで使うタイプでもよく、また、潤滑油を給油したり、潤滑油が含浸されたものであってもよい。
【0059】
シャフト61は、例えばSUS303、真鍮、アルミなどの非磁性の素材から形成されている。そして、図12(a)に示すように、シャフト61には、被吸引部としての永久磁石部63が形成されている。この永久磁石部63は、円形の断面を有するとともにシャフト61の両端の一部の範囲において形成されている。また、本実施例では、シャフト61の両端に形成された永久磁石部63は、希土類やフェライト磁石等からなり、ともに図12(a)における上下方向に着磁されており、図中の上側がN極、下側がS極となっている。永久磁石部63は、本実施例において第二磁石部に相当する。
【0060】
図12(b)に示すように、ナットユニット62においては、ナット62aの両端にナット磁石部64が形成されている。このナット磁石部64には、図中上下に各々30度傾斜した状態で永久磁石64a〜64dが設けられている。これらの永久磁石64a〜64dは、希土類やフェライト磁石等からなり、図中上側がS極、下側がN極になっている。ナット62aにおける永久磁石64a〜64d以外の部分はアルミ、真鍮、SUS303など非磁性の素材で形成されている。ここで、ブッシュ66の内径は、シャフト61の外形より若干大きく設定されており、シャフト61がナットユニット62に挿入された際に、シャフト61がブッシュ66に対してすべり移動が可能なようになっている。永久磁石64a〜64dは、本実施例において磁石部に相当する。
【0061】
図13(a)には、シャフト61をナットユニット62に挿入した状態を端面側から見た図を示す。また、図13(b)にはその状態におけるC−C断面を示す。図13(a)に示すように、シャフト61をナットユニット62に挿入した際には、ナット磁石部64の永久磁石64a〜64dからの磁界によってシャフト61の永久磁石部63は吸引力を受ける。そして、永久磁石部63のN極が永久磁石64a及び永久磁石64d側に、永久磁石部64のS極が永久磁石64b及び永久磁石64c側に各々対向するような角度まで、シャフト61を回転させる回転力が生じる。そして、シャフト61がナットユニット62に対して回転して、永久磁石部63のN極が図中鉛直上側、S極が鉛直下側になるような姿勢で安定する。
【0062】
なお、この状態から、シャフト61に外部からトルクを作用させ強制的に回転させたとしても、シャフト61は、永久磁石64a〜64dと永久磁石部63との間に生じる吸引力(回転力)により、上記トルクを除去すると上記の安定姿勢まで回転して戻る。
【0063】
また、図13(b)から判るように、シャフト61とナットユニット62とは、シャフト61の永久磁石部63と、ナットユニット62の永久磁石64a〜64dとが軸方向にも吸引し合い、永久磁石部63と、ナット磁石部64(永久磁石64a〜64d)の軸方向の位置が揃う状態で安定する。すなわち、ナットユニット62に対して、シャフト61
は、図中実線で示すように、シャフト61の左端の永久磁石部63(L)と、ナットユニット62の左端のナット磁石部64(L)との軸方向位置が揃った状態で安定する。あるいは、図中破線で示すように、シャフト61の右端の永久磁石部63(R)と、ナットユニット62の右端のナット磁石部64(R)との軸方向位置が揃った状態で安定する。
【0064】
図13(b)に実線で示す安定状態から、人為的にシャフト61を軸方向に押圧した場合、シャフト61は永久磁石部63とナット磁石部64(永久磁石64a〜64d)の吸引力に抗してシャフト61が移動するが、吸引力が充分に大きい状態で押圧力を除去することで、シャフト61は元の安定位置に復帰する。また、図13(b)に実線で示す安定状態から、人為的にシャフト61を図中左側に押圧した場合、シャフト61は永久磁石部63(L)とナット磁石部64(L)(永久磁石64a〜64d)の吸引力に抗してシャフト61が移動し、両者の吸引力が減少した状態からさらに左側に押圧した場合、徐々に永久磁石部63(R)とナット磁石部64(R)(永久磁石64a〜64d)の吸引力が増加し、その吸引力が充分に大きくなると、シャフト61は自動的に左側に移動して、シャフト61の右端の永久磁石部63(R)と、ナットユニット62の右端のナット磁石部64(R)との軸方向位置が揃った状態で安定する。
【0065】
上記のように、本実施例においては、シャフト61の永久磁石部63のN極が、ナット磁石部64の永久磁石64aと64dの間の中立角に位置し、永久磁石部63のS極が、ナット磁石部64の永久磁石64bと64cの間の中立角に位置する状態で、シャフト61の角度を安定させることができる。これにより、シャフト61のナットユニット62に対する不用意な回転を抑制することができる。その結果、シャフト1に溝などを設けて当該溝にボールを転送させるといった複雑な構成をとることなく、シャフト61の回転を抑制することができる。
【0066】
また、シャフト61の回転角を、上記の安定位置に対して若干回転させた状態で固定すれば、常にシャフト61に回転方向の予圧をかけた状態とすることができる。このような予圧をかけた状態でシャフト61をナットユニット62に対して相対運動させれば、シャフト61のナットユニット62に対するガタつきを抑制でき移動を安定化することが可能となる。その結果、衝撃などによる振動を抑制することも可能である。さらに非接触力による予圧であるので、シャフト61やナットユニット62の摩耗が進行しても予圧を掛け続けることが可能になる。
【0067】
また、シャフト61の軸方向については、シャフト61の左端の永久磁石部63(L)と、ナットユニット62の左端のナット磁石部64(L)(永久磁石64a〜64d)の軸方向の位置が揃う状態または、シャフト61の右端の永久磁石部63(R)と、ナットユニット62の右端のナット磁石部64(R)(永久磁石64a〜64d)の軸方向の位置が揃う状態で安定させることができる。これにより、シャフト61のナットユニット62に対する不用意な移動や、シャフト61とナットユニット62との不用意な離散を抑制することができる。
【0068】
また、本実施例によれば、一定以上のトルクまたは軸方向力がシャフト61に作用した場合には、永久磁石部63とナット磁石部64(永久磁石64a〜64d)との吸引力に抗してシャフト61が回転または軸方向に移動するので、過大なトルクや軸方向力が作用した場合にも、運動案内装置自体が損傷することを防止できる。さらに、本実施例における運動案内装置を医療機器などに利用した場合には、運動案内対象としての人体に過剰な力が作用することを抑制できる。また、シャフト61に急激なあるいは断続的なトルクや軸方向力が作用した場合にも、騒音の発生を抑制することが可能である。
【0069】
<実施例8>
次に、本発明の実施例8について説明する。この実施例では、ナットユニット62におけるナット磁石部64の構成及び、シャフト61の永久磁石部63の構成のバリエーションについて説明する。
【0070】
図14には、本実施例における運動案内装置(ナットユニット62にシャフト61が挿入された状態)の側面図を示す。図14(a)には、永久磁石64aと永久磁石64b、永久磁石64cと永久磁石64dの間に、ヨーク65を挿入した例について示す。図中の破線によって、この磁気回路によって生じる磁界の流れを示す。なお、この例では、永久磁石64aと永久磁石64b、永久磁石64cと永久磁石64dの間の角度は各々約60度である。この構成では、永久磁石64a〜永久磁石64dから発生する磁界の流れをヨーク65の存在によって円滑にすることができ、結果としてより効率よく、ナットユニット62のナット磁石部64(永久磁石64a〜永久磁石64d)とシャフト61の永久磁石部63との間の吸引力を発生させることが可能となる。
【0071】
次に、図14(b)に、ナット磁石部64における永久磁石64a〜64dの端面側か
ら見た配置角度を変更した例について示す。図14(b)では、永久磁石64aと永久磁石64b、永久磁石64cと永久磁石64dの間の角度は各々約120度となっている。この配置でも、シャフト61の永久磁石部63のN極が、ナット磁石部64の永久磁石64aと64dの間の中立角に位置し、永久磁石部63のS極が、ナット磁石部64の永久磁石64bと64cの間の中立角に位置する状態でシャフト61を安定させることができる。また、この配置にした上で、永久磁石64aと永久磁石64b、永久磁石64cと永久磁石64dの間に、ヨーク65を挿入してもよい。また、永久磁石64aと永久磁石64b、永久磁石64cと永久磁石64dの間の角度を他の角度としてもよい。
【0072】
図15には、ナット磁石部64の永久磁石の配置並びに着磁方向を変更した例について示す。図15(a)に示す例においては、ナット磁石部64の永久磁石64e〜永久磁石64hが、約90度間隔で、図中の水平線に対して各々45度傾斜して設けられている。そして、永久磁石64e〜永久磁石64hは、各々ナットユニット62の半径方向に磁化され、放射状に設置されている。そして、永久磁石64e及び永久磁石64hは、S極がシャフト61の永久磁石部63と対向するように配置されており、永久磁石64f及び永久磁石64gは、N極がシャフト61の永久磁石部63と対向するように配置されている。
【0073】
この構成よれば、シャフト61は、永久磁石部63のN極側が永久磁石64e及び永久磁石64h側に吸引され、永久磁石部63のS極側が永久磁石64f及び永久磁石64g側に吸引される。その結果、永久磁石部63のN極が鉛直上側、S極が鉛直下側を向いた状態でシャフト61の姿勢を安定させることができる。
【0074】
さらに、図15(b)には、ナット磁石部64における永久磁石を二箇所にした例を示す。この例では、永久磁石64iと永久磁石64jとがナット磁石部64に、永久磁石部63を挟んで上下に配置されている。そして、永久磁石64iと永久磁石64jとは、ナットユニット62の半径方向に磁化され、永久磁石64iは、S極がシャフト61の永久磁石部63と対向するように配置されており、永久磁石64jは、N極がシャフト61の永久磁石部63と対向するように配置されている。これによれば、シャフト61は、永久磁石部63のN極側が永久磁石64i側に吸引され、永久磁石部63のS極側が永久磁石64j側に吸引される。その結果、N極が鉛直上側、S極が鉛直下側を向いた状態でシャフト61の姿勢を安定させることができる。
【0075】
なお、上記においては、シャフト61の永久磁石部63は断面円形の永久磁石によって形成されている例について説明したが、永久磁石部63はこのような構成に限られない。
例えば、図16(a)に示すように、シャフト61の端面側から見たときに断面が長方形の永久磁石63aによって形成してもよいし、図16(b)に示すように、複数の断面長方形の永久磁石63b、63cを用いて形成してもよい。
【0076】
また、上記においては、ナットユニット62は、両端にナット磁石部64を有する比較的長い円筒状である例について説明したが、ナットユニットはそのような構成に限られない。例えば、図17(b)の断面D−Dに示すように、ナットユニット62はナット磁石部64を一つだけ有する短い円筒状(円板に近い形状)のものでもよい。この場合は、ナットユニット62に対して、シャフト61は、左端の永久磁石部63(L)または、右端の永久磁石部63(R)の双方において安定位置を得ることができる。
【0077】
また、ナット磁石部64(永久磁石64a〜永久磁石64d)の軸方向の長さと、シャフト61の永久磁石部63の軸方向の長さは、同等としてもよいし、異なるようにしてもよい。図17(b)には、シャフト61の永久磁石部63の軸方向長さが、ナットユニット62のナット磁石部64(永久磁石64a〜永久磁石64d)の軸方向長さよりも長い場合について示している。この場合は、ナットユニット62に対するシャフト61の軸方向における安定位置の範囲をより広範囲にすることができる。また、例えばナットユニット62に対してシャフト61が高速で移動した場合にも、より確実に、安定位置でシャフト61を停止させ、ナットユニット62からシャフト61が抜け出てしまうことを抑制できる。
【0078】
<実施例9>
次に、本発明の実施例9について説明する。本実施例の運動案内装置であるリニアアクチュエータ70においては、シャフト71が、すべりスプライン76a及びブッシュ76bによって、ナットユニット72に対して軸方向のすべり移動が可能なように支持されている。また、ナットユニット72には、通電することで磁界を発生可能なコイル79が軸方向に複数個固定されている。一方、シャフト71には、コイル79が発生する磁界を受けて駆動力を発生させるための駆動用永久磁石78がスペーサ77を挟んで軸方向に複数個設けられている。
【0079】
このリニアアクチュエータ70は、コイル79に電流を印加し、その電流を制御することで、ナットユニット72に対してシャフト71を軸方向に相対移動させ、その運動を制御することが可能となっている。例えば、コイル79に高周波電流を印加することでシャフト71をナットユニット72に対して振動させることができる。このリニアアクチュエータ70のシャフト71に例えば図示しないカッターを備え付けることで、振動カッターを実現することが可能である。
【0080】
リニアアクチュエータ70において、シャフト71の図中右端には永久磁石部73が設けられている。一方、ナットユニット72の右端にはナット磁石部74(永久磁石74a及び永久磁石74b)が形成されている。そして、軸方向については、シャフト71がナットユニット72に対して、永久磁石部73とナット磁石部74(永久磁石74a及び永久磁石74b)の位置が揃う状態で安定する。すなわち、本実施例では、運動案内装置70を例えば振動カッターとして使用したような場合に、ナットユニット72のコイル79への通電を終了した際に、移動体としてのシャフト71を上記の安定位置に自動的に復帰させることが可能である。これにより、シャフト71の原点付けが容易になる。また、特に垂直姿勢で用いた場合に、シャフト71の位置制御に自重の影響が及んだり、シャフト71が振動によりナットユニット72から抜け出てしまったりすることを抑制できる。
【0081】
また、リニアアクチュエータ70において、シャフト71のナットユニット72に対する回転角を、上記の永久磁石部73とナット磁石部74による安定位置に対して若干回転
させた状態になるように設定すれば、永久磁石部73とナット磁石部74の間の吸引力により、常にシャフト71に回転方向の予圧をかけた状態とすることができる。これにより、シャフト71のナットユニット72(すべりスプライン76a)に対するガタつきを抑制できシャフト71の運動を安定化し、振動カッターとして用いる場合にも騒音や不要な方向の振動を抑制することが可能となる。また、この場合の予圧も、非接触力による予圧であるので、シャフト71やナットユニット72の摩耗が進行しても予圧を掛け続けることが可能になる。
【0082】
なお、上記の実施例においては、少なくとも2個以上の永久磁石でナット磁石部を形成した例について説明したが、例えば、ナットユニットの半径方向に着磁された永久磁石1個でナット磁石部を形成してもよい。また、ナット磁石部はナットユニットの両端のいずれかに形成される必要はなく、運動案内装置の使用状況に応じてナットユニットのいずれの場所に設けても構わない。さらに、シャフトにおいても同様に、永久磁石部は軸方向のいずれの場所に設けても構わない。また、本発明において、ナットユニット、シャフト、永久磁石などの素材は上記の実施例に記載されたものには限られない。例えば、ナットユニット、シャフトとしては、樹脂やセラミック、炭素繊維などを用いても構わない。また、上記の実施例7〜実施例9においては、案内部材と移動体とがすべりにより相対移動する例について説明した。しかしながら、案内部材と移動体との相対移動の方式はすべりによるものに限定されない。案内部材と移動体との間にはボールが介在し、ボールの転がり運動によって案内部材と移動体とが互いに相対移動するように構成されてもよい。
【符号の説明】
【0083】
1・・・シャフト、2・・・ナットユニット、3a〜3d・・・磁性体部、4・・・磁石ナット、5a〜5d・・・永久磁石部、6・・・ボール、7・・・ケージ、15a〜15d・・・永久磁石部、23・・・十字棒、23a〜23d・・・磁性体部、33a〜33d・・・磁性体部、35a〜35d・・・永久磁石部、43a〜43c・・・磁性体部、45a〜45c・・・永久磁石部、51・・・軌道レール、52・・・移動ブロック、53a〜53c・・・磁性体部、55a〜55c・・・永久磁石部、61・・・シャフト、62・・・ナットユニット、63・・・永久磁石部、64・・・ナット磁石部、64a〜64j・・・永久磁石、71・・・シャフト、72・・・ナットユニット、73・・・永久磁石部、74・・・ナット磁石部、74a〜74b・・・永久磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体と、
前記移動体を往復移動可能に支持する案内部材と、
を備えた運動案内装置であって、
前記移動体は前記案内部材に対して、進行方向に平行な軸の回りに回転可能に支持されており、
前記移動体または前記案内部材の一方は永久磁石からなる磁石部を備え、
前記移動体または前記案内部材の他方は前記磁石部から発生する磁力により前記磁石部に吸引される被吸引部を備え、
前記被吸引部が前記磁石部に吸引されることにより、前記移動体の前記案内部材に対する前記軸まわりの角度を保持可能としたことを特徴とする運動案内装置。
【請求項2】
前記移動体は、円柱状のシャフトであり、
前記案内部材は、略円筒状の形状を有するとともに、前記シャフトに前記円筒を貫通させた状態で、前記シャフトを往復運動可能に支持するナットであり、
前記磁石部は、前記ナットに設けられ、
前記被吸引部は、前記シャフトに設けられた永久磁石からなる第二磁石部であり、
前記磁石部から発生する磁界と、前記第二磁石部から発生する磁界との相互作用によって、前記移動体の前記案内部材に対する前記軸まわりの角度を保持可能としたことを特徴とする請求項1に記載の運動案内装置。
【請求項3】
前記磁石部は、前記ナットにおける前記軸方向の一部の範囲に設けられ、
前記第二磁石部は、前記シャフトにおける前記軸方向の一部の範囲に設けられたことを特徴とする請求項2に記載の運動案内装置。
【請求項4】
前記磁石部は、前記ナットの両端に設けられ、
前記第二磁石部は、前記シャフトの両端に設けられたことを特徴とする請求項2または3に記載の運動案内装置。
【請求項5】
前記磁石部は、前記ナットの周方向に磁化され、前記シャフトの外側に所定角度間隔で並ぶように前記ナット内に複数設けられ、
前記第二磁石部は、前記シャフトの半径方向に磁化されたことを特徴とする請求項2から4のいずれか一項に記載の運動案内装置
【請求項6】
前記磁石部は、前記ナットの半径方向に磁化され、前記シャフトの外側に所定角度間隔で並ぶように前記ナット内に複数設けられ、
前記第二磁石部は、前記シャフトの半径方向に磁化されたことを特徴とする請求項2から4のいずれか一項に記載の運動案内装置
【請求項7】
前記移動体は、円柱状のシャフトであり、
前記案内部材は、略円筒状の形状を有するとともに、前記シャフトに前記円筒を貫通させた状態で、前記シャフトを往復運動可能に支持するナットであり、
前記磁石部は前記ナットの内壁近傍において周方向に複数箇所並べて設けられ、
前記被吸引部は、磁性体からなる磁性体部であり、前記シャフトの外周近傍であって、前記シャフトが前記ナットを貫通した状態で、前記磁石部と対向する位置に設けられたことを特徴とする請求項1に記載の運動案内装置。
【請求項8】
前記磁石部と前記磁性体部とは、互いに数が異なるように設けられたことを特徴とする請求項7に記載の運動案内装置。
【請求項9】
前記磁石部と前記磁性体部とは同数設けられたことを特徴とする請求項7に記載の運動案内装置。
【請求項10】
前記磁石部及び前記磁性体部は円形断面を有することを特徴とする請求項7から9のいずれか一項に記載の運動案内装置。
【請求項11】
前記磁性体部は前記シャフトの長さ方向の全域に亘り形成され、前記磁石部は、前記ナットの長さ方向における両端の領域に形成されたことを特徴とする請求項7から10のいずれか一項に記載の運動案内装置。
【請求項12】
前記磁性体部は前記シャフトの長さ方向の全域に亘り形成され、前記磁石部は、前記ナットの中央部に形成されたことを特徴とする請求項7から10のいずれか一項に記載の運動案内装置。
【請求項13】
前記磁石部は、交互に異なる磁極が内壁側を向くように配置されたことを特徴とする請求項7から9のいずれか一項に記載の運動案内装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−247409(P2011−247409A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95463(P2011−95463)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(390029805)THK株式会社 (420)
【Fターム(参考)】