説明

運動案内装置

【課題】運動案内装置の高精度化を図ることのできる新たな改良技術を提供することによって、従来技術に比べてさらなる高精度化を実現した運動案内装置を提供する。
【解決手段】運動案内装置10を構成する移動ブロック21は、移動ブロック本体部22と、戻し部材23と、一対のエンドプレート24,24とを備え、戻し部材23の内周側方向転換溝とエンドプレート24の外周側方向転換溝とが協働することによって、移動ブロック本体部22に形成された負荷転動体転走溝と無負荷転動体転走路とをつなぐ方向転換路を形成する。そして、戻し部材23が移動ブロック本体部22を基準として取り付けられた後に、エンドプレート24が移動ブロック本体部22に取り付けられることにより、無限循環路が精度良く完成することとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運動案内装置に係り、複数の転動体が循環する無限循環路の精度向上を図ることによって案内精度を向上させた運動案内装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、機械の直線運動部を軽く正確に動かす機械要素部品として、例えば図10及び図11に示すごとき運動案内装置が知られている。この種の運動案内装置の構成について、図10及び図11を用いて説明すると、従来技術に係る運動案内装置40は、軌道レール41と、軌道レール41に多数の転動体として設置されるボール42…を介して往復運動自在に取り付けられた移動ブロック43とを備えて構成されている。軌道レール41はその長手方向と直交する断面が概略矩形状に形成された長尺の部材であり、その表面(上面及び両側面)にはボール42が転がる際の軌道となる転動体転走溝41a…が軌道レール41の全長に渡って形成されている。なお、軌道レール41は、直線的に伸びるように形成されることもあるし、曲線的に伸びるように形成されることもある。
【0003】
一方、移動ブロック43は、金属材料から成る移動ブロック本体部43aと、移動ブロック本体部43aにおける移動方向の両端面に対して設置される樹脂材料から成る一対のエンドプレート43b,43bとから構成されている。移動ブロック本体部43aには、転動体転走溝41a…とそれぞれ対応する位置に負荷転動体転走溝43a…が設けられている。軌道レール41の転動体転走溝41a…と移動ブロック本体部43aに形成された負荷転動体転走溝43a…とによって負荷転動体転走路52…が形成され、この通路に導入された複数のボール42…は、負荷を受けながら転走することになる。また、移動ブロック本体部43aは、負荷転動体転走溝43a…と平行に延びる無負荷転動体転走路53…を備えている。さらに、一対のエンドプレート43b,43bのそれぞれには、各無負荷転動体転走路53…と各負荷転動体転走路52…とを結ぶ方向転換路55…が設けられている。1つの負荷転動体転走路52及び無負荷転動体転走路53と、それらを結ぶ一対の方向転換路55,55との組み合わせによって、1つの無限循環路が構成されることとなる(図11参照)。
【0004】
そして、複数のボール42…が負荷転動体転走路52と無負荷転動体転走路53と一対の方向転換路55,55とから構成される無限循環路に無限循環可能に設置されることにより、移動ブロック43の軌道レール41に対する相対的な往復運動が可能となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近時の産業界にあっては上述した運動案内装置の適用範囲を拡大したいとする要請が存在しており、装置メーカーに対しては、案内精度をさらに向上させた運動案内装置を市場に提供することが求められてきている。かかる要請の一例としては、例えばこれまで一般的な用途では問題とならなかった、ウェービング現象と呼ばれる移動ブロックの姿勢変化や振動(脈動)等についても極小化を求められる場合がある。そして、この種の案内精度向上を図るための従来の対策としては、例えばボールの負荷域である負荷転動体転走路52から無負荷域である方向転換路55においてボール42をスムーズに移動させるために、加工技術の向上によって装置部品の寸法精度向上を図ったり、あるいは方向転換路55の入口においてクラウニング形状を設けたり、さらにはこのクラウニング形状の最適化を図ったりする等といった取り組みがなされてきた。
【0006】
しかしながら、上述したような既存形状の僅かな設計変更や加工技術の最適化を図る観点からの改良には限界があり、従来の運動案内装置を高精度化するための新たな改良技術の創出が求められていた。
【0007】
本発明は、上述した課題の存在に鑑みて成されたものであって、その目的は、運動案内装置の高精度化を図ることのできる新たな改良技術を提供することによって、従来技術に比べてさらなる高精度化を実現した運動案内装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る運動案内装置は、長手方向に沿って転動体転走溝が形成される軌道レールと、前記軌道レールに複数の転動体を介して相対移動自在に組み付けられる移動ブロックと、を備える運動案内装置において、前記移動ブロックは、前記転動体転走溝と協働して負荷転動体転走路を形成する負荷転動体転走溝を有するとともに、当該負荷転動体転走溝に対して平行配置される無負荷転動体転走路を有する移動ブロック本体部と、前記移動ブロック本体部における相対移動方向の両端面に取り付けられるとともに、前記負荷転動体転走路の一部と前記無負荷転動体転走路の一部をつなぐ内周側方向転換溝が形成される戻し部材と、前記移動ブロック本体部における相対移動方向の両端面に対して前記戻し部材を覆って取り付けられるとともに、前記移動ブロック本体部との取付面側に外周側方向転換溝が形成される一対のエンドプレートと、を備え、前記戻し部材が前記移動ブロック本体部を基準として取り付けられた後に、前記エンドプレートが前記移動ブロック本体部に取り付けられることにより、前記内周側方向転換溝と前記外周側方向転換溝とが協働して前記負荷転動体転走路と前記無負荷転動体転走路とをつなぐ方向転換路を形成し、前記移動ブロック本体部が有する前記無負荷転動体転走路は、前記移動ブロック本体部に形成された貫通孔に対して前記無負荷転動体転走路が2条並列して形成された樹脂部材を導入設置することにより構成される。
【0009】
本発明に係る運動案内装置において、前記戻し部材には、前記内周側方向転換溝が2溝並列して形成されていることとすることができる。
【0010】
また、本発明に係る運動案内装置において、前記移動ブロック本体部と前記戻し部材との取り付けは、いずれか一方に形成された凸部と、いずれか他方に形成された凹部とを嵌め込むことによって成されることが好適である。
【0011】
さらに、本発明に係る運動案内装置において、前記戻し部材は、前記移動ブロック本体部との取付面に少なくとも1つの凸部を有しており、前記凸部は、戻し部材に対して2溝並列して形成される前記内周側方向転換溝の中間部と対応する位置に形成されていることとすることができる。
【0012】
さらにまた、本発明に係る運動案内装置において、前記樹脂部材は半円柱形状をした係止溝を有し、前記戻し部材は前記係止溝の溝形状に対応した係止凸部を有し、前記係止凸部が前記係止溝に嵌め込まれることによって、前記移動ブロック本体部に対する前記樹脂部材及び前記戻し部材の取付位置の位置決めが成されることとすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、複数の転動体が循環する無限循環路のより一層の精度向上を図ることができるので、従来技術に比べて案内精度を向上させた運動案内装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態に係る運動案内装置を説明するための部分破断斜視図である。
【図2】本実施形態に係る運動案内装置の部分縦断面正面図であり、紙面右側が外観を、紙面左側が長手方向と直交する断面を示している。
【図3】本実施形態に係る運動案内装置の部分破断側面図である。
【図4】本実施形態に係る移動ブロック本体部の構成を説明するための外観正面図である。
【図5】本実施形態に係る第1の分割体を説明するための図であり、図中(a)は側面を示しており、図中(b)は(a)で示されているA矢視である。
【図6】本実施形態に係る第2の分割体を説明するための図であり、図中(a)は側面を示しており、図中(b)は(a)で示されているB矢視である。
【図7】本実施形態に係る戻し部材を説明するための図であり、図中(a)は移動ブロック本体部との接触面を示し、図中(b)は移動ブロック本体部の取付面に対して垂直に立設する面を示し、図中(c)は(b)の面と隣り合う面を示している。
【図8】本実施形態に係るエンドプレートの構成を説明するための図である。
【図9】本実施形態に係る樹脂部材の多様な変形例を示す図である。
【図10】従来技術に係る運動案内装置の一形態を例示する外観斜視図である。
【図11】図10で示した従来技術に係る運動案内装置が備える無限循環路を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせのすべてが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0016】
図1は、本実施形態に係る運動案内装置を説明するための部分破断斜視図である。また、図2は、本実施形態に係る運動案内装置の部分縦断面正面図であり、紙面右側が外観を、紙面左側が長手方向と直交する断面を示している。さらに、図3は、本実施形態に係る運動案内装置の部分破断側面図である。本実施形態に係る運動案内装置10は、長手方向に延びて形成される軌道レール11と、この軌道レール11に複数のボール12を介して相対移動自在に組み付けられる移動ブロック21と、から構成されている。
【0017】
運動案内装置10を構成する部材の概略を説明すると、軌道レール11はその長手方向と直交する断面が概略横長の矩形にて形成された長尺の部材であり、その表面(上面及び両側面)にはボール12が転がる際の軌道となる転動体転走溝11a…が、軌道レール11の全長に渡って形成されている。
【0018】
また、本実施形態に係る軌道レール11については、上面に4条、両側面に2条ずつ、合計8条の転動体転走溝11a…が形成されている。8条の転動体転走溝11a…は、それぞれ2条ずつが1つの組となるように、2条の転動体転走溝11a,11aが近接、且つ、並列するように形成されており、特に、軌道レール11の上面に形成された4条の転動体転走溝11a…については、各組が上面の両外側に寄せられた位置に配置されている。上面の両外側に寄せられた2条の転動体転走溝11a,11aの組と、これらの組に近接する側面に形成された2条の転動体転走溝11a,11aから成る各組とは、それぞれが軌道レール11の上側のコーナー部を挟んで対応する位置に配置されている。なお、本実施形態に係る軌道レール11の場合についても、従来技術の場合と同様に、図1にて示すような直線的な形状で形成されても良いし、一定の曲率を持って曲線的に形成されても良い。
【0019】
一方、移動ブロック21は、金属材料から成る移動ブロック本体部22と、移動ブロック本体部22における移動方向の両端面に対して合計8個(図1では、2個のみ見えている)設置される戻し部材23と、移動ブロック本体部22における相対移動方向の両端面に対して戻し部材23を覆って取り付けられる一対のエンドプレート24,24と、を備えて構成されている。
【0020】
ちなみに、本実施形態に係る運動案内装置10の転動体転走溝11a,11aが上記のように近接、且つ、並列する2条の転走溝の組単位で構成されるのは、ウェービング現象の極小化等といった運動案内装置10の高精度化を目的としたことを理由としている。また、本実施形態で採用されるボール12には一般的な運動案内装置に比べて小径のものが採用されており、且つ、移動ブロック21の長手方向の長さを大きくすることによってボール12の設置個数を増加させている。このような「ボール12の小径化」と「移動ブロック21の長尺化」は、いずれも運動案内装置10に設置されるボール12の個数が増加することにつながるので、ボール1個当たりに対する荷重あるいは面圧を下げるといった有意な構成を取り得ることを示しており、かかる構成の効果によって、運動案内装置10における運動精度の向上(例えば、移動ブロック21の姿勢変動や振動(脈動)の極小化)が実現する。また、「ボール12の小径化」は、移動ブロック21の体積増加にも寄与するので、移動ブロック21の剛性が向上し、かかる点からも運動案内装置10の精度向上が実現されることとなる。
【0021】
さて、本実施形態に係る運動案内装置10では、移動ブロック21を構成する移動ブロック本体部22、戻し部材23、及びエンドプレート24の各部材がそれぞれ優位な特徴を有しているので、これら各部材について、それぞれ図面を用いて詳細に説明を行う。
【0022】
まず、図4は、本実施形態に係る移動ブロック本体部22の構成を説明するための外観正面図である。本実施形態に係る移動ブロック本体部22は、軌道レール11に形成された転動体転走溝11aと協働して負荷転動体転走路32を形成する負荷転動体転走溝25を、組み付け時における軌道レール11との対向面に有している。また、負荷転動体転走溝25から所定間隔離れた位置には、負荷転動体転走溝25に対して平行して貫通する貫通孔26が設けられている。
【0023】
この移動ブロック本体部22に貫通形成された貫通孔26は、図5及び図6にて示される2つの樹脂材料から成る分割体27a,27bを組み合わせることによって形成される樹脂部材27を導入設置するためのものである(図2も併せて参照)。図5で示される第1の分割体27aには、無負荷転動体転走路33の一部を構成する2つの溝33a,33aが形成されており、一方、図6で示される第2の分割体27bには、無負荷転動体転走路33の残りの部分を構成する2つの溝33b,33bが形成されている。そして、第1の分割体27a及び第2の分割体27bを組み合わせて樹脂部材27を形成することにより、樹脂部材27の中央部には上述した溝33a,33bが組み合わさることによって2列の無負荷転動体転走路33,33が完成する。
【0024】
さらに、図2に示すごとく貫通孔26に対して樹脂部材27を導入設置することにより、転動体転走溝11aと負荷転動体転走溝25とによって形成される負荷転動体転走路32と平行配置された無負荷転動体転走路33が形成されることとなる。
【0025】
なお、本実施形態に係る無負荷転動体転走路33は、ウェービング現象の極小化等を考慮して、近接、且つ、並列配置される2条の転走路の組で構成されているので、移動ブロック本体部22に貫通形成された貫通孔26を利用して、樹脂材料から成る樹脂部材27に対して無負荷転動体転走路33を2条形成して導入する構成は、加工が容易で安価であるという効果も有しており、非常に好適な構成である。
【0026】
例えば従来技術での手法のように、金属材料から成る移動ブロック本体部22に対して近接、且つ、並列配置される2条の無負荷転動体転走路33を形成することは非常に困難なことである。仮に、従来技術で用いられていた手法をそのまま適用して本実施形態に係る無負荷転動体転走路33を形成する場合には、金属材料から成る移動ブロック本体部43aに対して放電加工やワイヤー加工といった時間とコストを要してしまう加工手段を利用する必要があるので、好ましくない。またさらに、従来技術の不利な点は、本実施形態に係る移動ブロック21は高精度化のために長尺化が成されていることがあり、長尺の金属材料である移動ブロック本体部22に対して近接、且つ、並列配置される2条の無負荷転動体転走路33を形成することは、加工技術上の制約や、要求される寸法精度の面で好ましくない。本発明は、以上のような問題点を解消するために発明者らによって新たに創案されたものであり、上述した本実施形態の構成を採用することによって、加工が容易で安価であり、且つ、高い寸法精度を有する移動ブロック本体部22を形成することが初めて可能となっている。
【0027】
また、図5で示される第1の分割体27aと、図6で示される第2の分割体27bとは、互いの形状が異なっている。これは、ボール12を通す無負荷転動体転走路33の形状や、樹脂部材27の分割位置によっては、各分割体27a,27bに薄肉の部分が発生してしまうことになるが、2つの分割体27a,27bのいずれもがこの薄肉部分を持つと、組み合わせたときや貫通孔26に導入したときに歪みが生じ易くなってしまうことを考慮したものである。そこで、本実施形態では、図5で示される第1の分割体27aについては薄肉部分を持たないように形成し、図6で示される第2の分割体27bのみに薄肉部分27b1を持たせることとした。かかる構成の採用によって、本実施形態に係る樹脂部材27はどのような状態でも安定した形状を保持することが可能となり、その結果、高精度の運動案内装置10を実現することが可能となっている。
【0028】
さらに、移動ブロック本体部22には、負荷転動体転走溝25と樹脂部材27設置位置との間に丸い凹部28が形成されており、さらに、この凹部28に対応する樹脂部材27には、半円柱形状をした係止溝29が形成されている。これら凹部28と係止溝29は、後述する戻し部材23を設置するために設けられた形状であり、移動ブロック本体部22に対する樹脂部材27及び戻し部材23の取付位置の位置決めに役立つこととなる。
【0029】
次に、戻し部材23の構成について、図7を用いて説明を行う。なお、図7は、本実施形態に係る戻し部材23を説明するための図であり、図中(a)は移動ブロック本体部22との接触面を示し、図中(b)は移動ブロック本体部22の取付面に対して垂直に立設する面を示し、図中(c)は(b)の面と隣り合う面を示している。
【0030】
本実施形態に係る戻し部材23は、移動ブロック本体部22における相対移動方向の両端面に取り付けられる部材であり、戻し部材23における移動ブロック本体部22との接触面には、2つの突起形状が形成されている。戻し部材23に形成される一方の突起は、移動ブロック本体部22に形成された凹部28に嵌り込む凸部23aであり、戻し部材23に形成されるもう一方の突起は、樹脂部材27に形成された半円柱形状をした係止溝29に嵌り込む係止凸部23bである。特に、凹部28と凸部23a、係止溝29と係止凸部23bとは、形成される位置が厳密に規定されており、戻し部材23の移動ブロック本体部22に対する設置位置は、非常に精度の高いものになっている。また、係止溝29と係止凸部23bとは、半円柱形状を利用した嵌め合い構造となっているので、移動ブロック本体部22に対する戻し部材23と樹脂部材27との回り止めや位置決めとしての好適な作用を発揮することが可能となっている。
【0031】
さらに、本実施形態に係る戻し部材23には、移動ブロック本体部22に設置された際に、負荷転動体転走路32の一部と無負荷転動体転走路33の一部をつなぐ内周側方向転換溝35aが形成されている。この内周側方向転換溝35aについては、凹部28と凸部23a、係止溝29と係止凸部23bとの作用によって、負荷転動体転走路32の一部と無負荷転動体転走路33の一部とを非常に精度良く連絡することができているので、後述するエンドプレート24側に形成された外周側方向転換溝35bと協働して方向転換路35を形成した際に、負荷転動体転走路32と無負荷転動体転走路33との連結が段差なく実現できる。
【0032】
またさらに、本実施形態では、移動ブロック本体部22を取り付けの基準としてまず戻し部材23が設置された後、後述するエンドプレート24が戻し部材23を覆うように移動ブロック本体部22に設置されることによって、移動ブロック21が形成されることになる。移動ブロック本体部22と戻し部材23を最初に精度良く組み付けることによって、負荷転動体転走路32の一部と無負荷転動体転走路33の一部が内周側方向転換溝35aによって精度良く連絡されるので、無限循環路の組み立て精度が飛躍的に向上することになるのである。
【0033】
以上のような構成思想は、複数の方向転換路55が形成されたエンドプレート43bの設置位置調整によって無限循環路の精度を確保しようとしていた従来技術とはまったく異なるものであり、本実施形態に係る戻し部材23の採用によって、個別の無限循環路ごとで負荷転動体転走路32、無負荷転動体転走路33、及び方向転換路35を基準とした精度出しを行うことができるので、運動案内装置10の案内精度を極めて向上することが可能である。
【0034】
なお、本実施形態に係る戻し部材23が有する凸部23aは、戻し部材23に対して2溝並列して形成される内周側方向転換溝35aの中間部と対応する位置に形成されている。この位置が戻し部材23のほぼ中間点に位置しているので、かかる位置に形成される凸部23aが、安定した嵌め込み状態を維持することができるようになるのである。このような位置に凸部23aが形成されることによって、凸部23aと凹部28とを嵌め込んだ際の戻し部材23の安定度が増し、移動ブロック本体部22に対する戻し部材23の確実な組み付けが実現するのである。
【0035】
また、本実施形態に係る戻し部材23の移動ブロック本体部22に対する確実な固定は、例えば戻し部材23に形成されたねじ孔等の固定手段を用いることで、より強固な固定状態を実現することができる。
【0036】
続いて、図8を用いて本実施形態に係るエンドプレート24の構成を説明する。本実施形態に係るエンドプレート24は、移動ブロック本体部22における相対移動方向の両端面に対して戻し部材23を覆って取り付けられる部材である。そして、エンドプレート24は、移動ブロック本体部22との取付面側に外周側方向転換溝35bが形成されており、この外周側方向転換溝35bと戻し部材23の内周側方向転換溝35aとが協働することによって、負荷転動体転走路32と無負荷転動体転走路33とをつなぐ方向転換路35を形成することが可能となっている。なお、このエンドプレート24に形成される外周側方向転換溝35bについては、戻し部材23の内周側方向転換溝35aほどの寸法精度は要求されず、ある程度の遊び代を持って形成することが、取り付けの容易化等の面から好適である。なお、無限循環路の寸法精度については、戻し部材23の内周側方向転換溝35aの側で厳密な精度出しが行われているので問題ない。
【0037】
以上説明した各部材を組み付けることによって、負荷転動体転走路32、無負荷転動体転走路33、及び一対の方向転換路35,35が形成され、これらの転走路によって形成される無限循環路に配置された複数のボール12が、軌道レール11に対する移動ブロック21の相対移動に伴って無限循環路内を循環することとなる。
【0038】
本実施形態に係る運動案内装置10は、まず最初に移動ブロック本体部22に対して戻し部材23を設置するようにしたので、無限循環路の寸法精度を向上させることができ、従来技術に比べて案内精度の高い運動案内装置10を実現することが可能となっている。なお、本実施形態に係る運動案内装置10は、特にウェービング現象の極小化を目的として、一般的な運動案内装置に比べて小径のボール12を採用したり、移動ブロック21の長手方向の長さを大きくしてボール12の設置個数を増加させたり、2条ずつの無限循環路が並列配置された構成を採用したりしている。このような構成の場合、無限循環路の寸法精度が悪いとすぐさま案内精度に悪影響を及ぼしてしまうので、図1乃至図3で例示した運動案内装置10の構成は、本発明の適用によって初めて実現した形態であると言うことができる。
【0039】
次に、本実施形態で最も特徴を有する移動ブロック21の組み立て方法について、説明を行う。まず、金属材料を機械加工等することによって形成された移動ブロック本体部22に対して、相対移動方向における一方側の端面のみに戻し部材23、エンドプレート24の順で固定を行う。
【0040】
次に、移動ブロック本体部22に形成された貫通孔26に対して、第1の分割体27a及び第2の分割体27bを組み合わせて形成された樹脂部材27を導入設置する。このとき、樹脂部材27に形成された係止溝29と、設置済である戻し部材23の係止凸部23bとが確実に嵌り込むように樹脂部材27を設置することによって、樹脂部材27の確実な位置決めが行われ、さらに樹脂部材27の回り止めが行われる。
【0041】
その後、移動ブロック本体部22の相対移動方向におけるもう一方側の端面に対して戻し部材23を確実に設置し(つまり、係止溝29と係止凸部23bとを嵌め込む)、複数のボール12を挿入した後、最後にエンドプレート24を固定することにより、移動ブロック21の組み立てが完成する。
【0042】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態には、多様な変更又は改良を加えることが可能である。例えば、本実施形態に係る戻し部材23には、内周側方向転換溝35aが2溝並列して形成されている場合を例示して説明を行った。しかしながら、1つの戻し部材23に形成される内周側方向転換溝35aの数については適宜変更が可能であり、1溝としても良いし、2溝以上の複数溝としても良い。
【0043】
また、移動ブロック本体部22と戻し部材23に対してそれぞれ形成される凹部28と凸部23a、係止溝29と係止凸部23bとについては、移動ブロック本体部22と戻し部材23のどちらにも形成することが可能であり、上述した本実施形態の場合と雄雌逆の構成で形成するなど、あらゆる組み合わせを選択することができる。また、本実施形態で示した凹部28と凸部23a、係止溝29と係止凸部23bとの嵌め合い形状については、あらゆる形状を採用することが可能であり、本実施形態と同様の作用効果を発揮できるものであれば、どのような形状でも良い。
【0044】
さらに、図5及び図6で示した第1及び第2の分割体27a,27bの形状については、例えば図9で示すような半割形状とすることによって、部品の共通化を図ることができる。貫通孔26への設置時に歪みが発生する等の問題が生じなければ、図9で示す構成の採用によって、部品点数の削減が可能となり、製造コストや部品コストの削減が可能となる。
【0045】
その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0046】
10 運動案内装置、11 軌道レール、11a 転動体転走溝、12 ボール、21 移動ブロック、22 移動ブロック本体部、23 戻し部材、23a 凸部、23b 係止凸部、24 エンドプレート、25 負荷転動体転走溝、26 貫通孔、27 樹脂部材、27a,27b 分割体、27b1 薄肉部分、28 凹部、29 係止溝、32 負荷転動体転走路、33 無負荷転動体転走路、33a 溝、35a 内周側方向転換溝、35b 外周側方向転換溝、40 従来技術に係る運動案内装置、41 軌道レール、41a 転動体転走溝、42 ボール、43 移動ブロック、43a 移動ブロック本体部、43b エンドプレート、52 負荷転動体転走路、53 無負荷転動体転走路、55 方向転換路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に沿って転動体転走溝が形成される軌道レールと、
前記軌道レールに複数の転動体を介して相対移動自在に組み付けられる移動ブロックと、
を備える運動案内装置において、
前記移動ブロックは、
前記転動体転走溝と協働して負荷転動体転走路を形成する負荷転動体転走溝を有するとともに、当該負荷転動体転走溝に対して平行配置される無負荷転動体転走路を有する移動ブロック本体部と、
前記移動ブロック本体部における相対移動方向の両端面に取り付けられるとともに、前記負荷転動体転走路の一部と前記無負荷転動体転走路の一部をつなぐ内周側方向転換溝が形成される戻し部材と、
前記移動ブロック本体部における相対移動方向の両端面に対して前記戻し部材を覆って取り付けられるとともに、前記移動ブロック本体部との取付面側に外周側方向転換溝が形成される一対のエンドプレートと、
を備え、
前記戻し部材が前記移動ブロック本体部を基準として取り付けられた後に、前記エンドプレートが前記移動ブロック本体部に取り付けられることにより、前記内周側方向転換溝と前記外周側方向転換溝とが協働して前記負荷転動体転走路と前記無負荷転動体転走路とをつなぐ方向転換路を形成し、
前記移動ブロック本体部が有する前記無負荷転動体転走路は、前記移動ブロック本体部に形成された貫通孔に対して前記無負荷転動体転走路が2条並列して形成された樹脂部材を導入設置することにより構成されることを特徴とする運動案内装置。
【請求項2】
請求項1に記載の運動案内装置において、
前記戻し部材には、前記内周側方向転換溝が2溝並列して形成されていることを特徴とする運動案内装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の運動案内装置において、
前記移動ブロック本体部と前記戻し部材との取り付けは、いずれか一方に形成された凸部と、いずれか他方に形成された凹部とを嵌め込むことによって成されることを特徴とする運動案内装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の運動案内装置において、
前記戻し部材は、前記移動ブロック本体部との取付面に少なくとも1つの凸部を有しており、
前記凸部は、戻し部材に対して2溝並列して形成される前記内周側方向転換溝の中間部と対応する位置に形成されていることを特徴とする運動案内装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の運動案内装置において、
前記樹脂部材は半円柱形状をした係止溝を有し、
前記戻し部材は前記係止溝の溝形状に対応した係止凸部を有し、
前記係止凸部が前記係止溝に嵌め込まれることによって、前記移動ブロック本体部に対する前記樹脂部材及び前記戻し部材の取付位置の位置決めが成されることを特徴とする運動案内装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−67926(P2012−67926A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−5132(P2012−5132)
【出願日】平成24年1月13日(2012.1.13)
【分割の表示】特願2007−240262(P2007−240262)の分割
【原出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(390029805)THK株式会社 (420)
【Fターム(参考)】