説明

運転士の列車操縦時における誤出発防止システム

【課題】 信号機の信号に応じた列車の主幹制御器のノッチング機構投入の可否をシステム的にチェックすることによって、列車の誤出発を完全に防止することができる運転士の列車操縦時における誤出発防止システムを提供する。
【解決手段】 運転士の列車操縦時における誤出発防止システムにおいて、信号機1からの進行信号又は停止信号を受信する列車の運転制御装置7と、この運転制御装置7に接続される運転装置としての主幹制御器のノッチング機構12と、このノッチング機構12をロック可能なロック機構13とを備え、前記運転制御装置7において前記信号機1から停止信号を受信している場合に、前記ノッチング機構12を前記ロック機構13によりロックする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転士の列車操縦時における誤出発防止システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から運転士の安全な列車操縦などに寄与するために、ヒューマンエラー発生傾向を測定する試みがなされている(下記非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−128082号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】重森 雅嘉,井上 貴文,澤 貢,「ヒューマンエラー発生傾向を測定するための模擬課題の開発」,RTRI REPORT Vol.20,No.3,2006.3,pp.11−16
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
運転士の列車操縦時には、信号機が進行を許可する信号となった場合に、列車のノッチを投入して、列車を出発させるようにしている。
しかしながら、列車の運行のための信号機の建植位置や出発番線の変更等の関係によって、例えば、図5に示すような複数の線路が配置され信号機が隣接しているような場合や、図6に示すような霧の天候により信号機が見づらいような場合、誤った進行信号機を視認し、停止信号を進行信号と勘違いして、出発信号機が停止信号であるにもかかわらず、列車の主幹制御器のノッチング機構を投入してしまうといったエラーを起こす恐れがあり、そのエラーを防止するためのシステムの有効な提案はなされていないのが現状である。
【0006】
本願発明者らが行った列車運転シミュレータを用いた実験により、隣接する出発信号機の進行信号につられて、確認すべき出発信号機が停止信号であるのに列車の主幹制御器のノッチング機構を投入して出発してしまうエラーが見られた。
なお、出発信号機を確認せず鉄道車両を出発させても、信号機が停止信号であれば、ATSが作動し鉄道車両は自動停止するが、ATS解除、指令連絡等の作業が発生し、列車運行の遅延等の影響が出るといった問題があった。
【0007】
本発明は、上記状況に鑑みて、信号機の信号に応じた列車の主幹制御器のノッチング機構投入の可否をシステム的にチェックすることによって、列車の誤出発を完全に防止することができる運転士の列車操縦時における誤出発防止システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕運転士の列車操縦時における誤出発防止システムにおいて、信号機からの進行信号又は停止信号を受信する列車の運転制御装置と、この運転制御装置に接続される運転装置としての主幹制御器のノッチング機構と、このノッチング機構をロック可能なロック機構とを備え、前記運転制御装置において前記信号機から停止信号を受信している場合に、前記ノッチング機構を前記ロック機構によりロックすることを特徴とする。
【0009】
〔2〕上記〔1〕記載の運転士の列車操縦時における誤出発防止システムにおいて、前記運転制御装置は、前記信号機からの進行信号又は停止信号を受信する地上装置と、この地上装置からの信号を受信する列車に搭載される地上信号受信装置とを介して、前記信号機からの進行信号又は停止信号を受信することを特徴とする。
〔3〕上記〔1〕記載の運転士の列車操縦時における誤出発防止システムにおいて、前記運転制御装置は、前記信号機からの進行信号又は停止信号を列車に無線送信する前記信号機側の無線送信装置と、この無線送信装置からの信号を受信する列車側の無線受信装置とを介して、前記信号機からの進行信号又は停止信号を受信することを特徴とする。
【0010】
〔4〕上記〔1〕から〔3〕の何れか一項記載の運転士の列車操縦時における誤出発防止システムにおいて、前記運転制御装置に列車運転の支援を行う表示装置を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、次のような効果を奏することができる。
(1)信号機の信号に応じた主幹制御器のノッチング機構投入の可否をシステム的にチェックすることによって、列車の誤出発を完全に防止することができる。
(2)列車の安全・安定輸送の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施例を示す運転士の列車操縦時における誤出発防止システムの構成図である。
【図2】本発明の第1実施例を示す列車の運転台まわりを示す模式図である。
【図3】本発明の第2実施例を示す運転士の列車操縦時における誤出発防止システムの構成図である。
【図4】本発明の第2実施例を示す列車の運転台まわりを示す模式図である。
【図5】信号の配置状態を示す図面代用写真(その1)である。
【図6】信号の配置状態を示す図面代用写真(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の運転士の列車操縦時における誤出発防止システムは、信号機からの進行信号又は停止信号を受信する列車の運転制御装置と、この運転制御装置に接続される運転装置としての主幹制御器のノッチング機構と、このノッチング機構をロック可能なロック機構とを備え、前記運転制御装置において前記信号機から停止信号を受信している場合に、前記ノッチング機構を前記ロック機構によりロックする。
【実施例】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は本発明の第1実施例を示す運転士の列車操縦時における誤出発防止システムの構成図、図2はその列車の運転台まわりを示す模式図である。
これらの図において、1は列車の運行を制御する信号機、2は信号機1から導出されて地上装置3に至る配線、4は在線検出装置、5は駅に停車している列車、6は列車5に設置される地上装置3からの信号を受信する地上信号受信装置、7は運転制御装置、8は位置速度検出装置、9は列車走行時の加速・減速装置、10は列車運転の支援を行う表示装置、11は主幹制御器のノッチング機構12を含む運転士による運転装置、13は主幹制御器のノッチング機構12のロック機構(主幹制御器のレバーの動きを拘束する電磁ロック機構などを用いる)である。なお、信号機1と地上装置3との間は上記実施例では有線による配線方式としたが、無線通信方式であってもよい。ここで、在線検出装置4は、各列車が路線上のどの軌道回路に存在するかを検出し、地上装置3に在線情報を送信する。
【0015】
本発明の運転士の列車操縦時における誤出発防止システムにおいて、信号機1からの進行信号又は停止信号は地上装置3で受信され、この地上装置3で受信された進行信号又は停止信号は、地上信号受信装置6を介して運転制御装置7で受信される。運転士は、信号機1が進行信号であることを視認した場合、主幹制御器のノッチング機構12を操作して列車を出発させる。しかし、運転士が信号機1を誤認しており、実際は信号機1から停止信号が運転制御装置7に入力されている場合には、主幹制御器のノッチング機構12を操作できないようにロック機構13によりロックされるように構成される。
【0016】
なお、ノッチング機構12がロックされていると運転士は不思議に思うので、運転制御装置7に入力されている信号機1からの信号に応じて、列車運転を支援する表示装置10に信号機1からの信号に応じた表示、例えば、信号機は赤であることを点灯表示したり、アラームにより運転士にその旨報知することができる。
図3は本発明の第2実施例を示す運転士の列車操縦時における誤出発防止システムの構成図、図4はその列車の運転台まわりを示す模式図である。
【0017】
この第2実施例では、列車の運行を制御する信号機21は無線送信装置22を備えており、この無線送信装置22は当該信号機21のIDコードとともに、この信号機21の進行信号又は停止信号を列車5に向けて送信アンテナ23から無線送信する。一方、列車5は受信アンテナ24を備えており、その無線送信された進行信号又は停止信号は、その受信アンテナ24を介して無線受信装置25で受信され、この無線受信装置25からの出力信号が列車の運転制御装置7に入力される。それ以降は、上記した第1実施例と同様で、信号機21の停止信号が列車の運転制御装置7に入力されている場合には、ノッチング機構12を操作できないようにロック機構13によりロックするように構成している。
【0018】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明の運転士の列車操縦時における誤出発防止システムは、信号機の誤認によるエラーを確実に防止することができる誤出発防止システムとして利用可能である。
【符号の説明】
【0020】
1,21 列車の運行を制御する信号機
2 配線
3 地上装置
4 在線検出装置
5 列車
6 地上信号受信装置
7 運転制御装置
8 位置速度検出装置
9 列車走行時の加速・減速装置
10 表示装置
11 運転装置
12 主幹制御器のノッチング機構
13 ロック機構
22 無線送信装置
23 送信アンテナ
24 受信アンテナ
25 無線受信装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)信号機からの進行信号又は停止信号を受信する列車の運転制御装置と、
(b)該運転制御装置に接続される運転装置としての主幹制御器のノッチング機構と、
(c)該ノッチング機構をロック可能なロック機構とを備え、
(d)前記運転制御装置において前記信号機から停止信号を受信している場合に、前記ノッチング機構を前記ロック機構によりロックすることを特徴とする運転士の列車操縦時における誤出発防止システム。
【請求項2】
請求項1記載の運転士の列車操縦時における誤出発防止システムにおいて、前記運転制御装置は、前記信号機からの進行信号又は停止信号を受信する地上装置と、該地上装置からの信号を受信する列車に搭載される地上信号受信装置とを介して、前記信号機からの進行信号又は停止信号を受信することを特徴とする運転士の列車操縦時における誤出発防止システム。
【請求項3】
請求項1記載の運転士の列車操縦時における誤出発防止システムにおいて、前記運転制御装置は、前記信号機からの進行信号又は停止信号を列車に無線送信する前記信号機側の無線送信装置と、この無線送信装置からの信号を受信する列車側の無線受信装置とを介して、前記信号機からの進行信号又は停止信号を受信することを特徴とする運転士の列車操縦時における誤出発防止システム。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一項記載の運転士の列車操縦時における誤出発防止システムにおいて、前記運転制御装置に列車運転の支援を行う表示装置を具備することを特徴とする運転士の列車操縦時における誤出発防止システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−225036(P2011−225036A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94534(P2010−94534)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】