説明

運転通告伝送システム

【課題】PRCやCTCを用いた運行管理システムに依存せずに、列車乗務員へ確実に運転通告情報を伝達できるシステムを提供する。
【解決手段】列車に搭載される車上装置は、地上装置と通信するための対地上通信手段、運転通告データを表示する表示手段、対地上通信手段と表示手段の動作を制御すると共にデータ処理を行なう処理手段を備える。指令所等に設置される地上装置は、車上装置と通信するための対列車通信手段、運転通告データを保存する通告サーバ装置、通告サーバ装置に運転通告データを入力するための指令端末を備える。車上装置から通信回線を介して地上装置に対し運転通告データの提供を要求すると、地上装置から、通告サーバ装置に保存されている運転通告データのうち、該当列車に適合する運転通告データが配信されるように構成したので、列車が主体となった運転通告情報の伝送システムが実現される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PRCやCTCを用いた運行管理システムに依存せずに、列車乗務員へ確実に運転通告を伝達することを可能にする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
列車ダイヤに乱れが生じた場合、これを回復するための運転整理が行なわれる。また、災害や異常気象の発生時には、列車運転士に徐行運転が指令されることがある。このような列車運転に関する変更事項は一般に、指示事項を記入した「運転通告券」を発行することにより、列車乗務員へ伝達される。具体的には、指令所の指令員が変更事項を記載した運転通告券を作成し、これをFAXで制御駅(分岐器又は信号機を備える駅)へ伝送し、制御駅の駅係員がFAX経由で受け取った運転通告券を列車乗務員に直接手渡しする。あるいは指令所の指令員が、制御駅の駅係員(通常は駅長)へ電話や列車無線により口頭で変更事項を伝達し、制御駅の駅係員が聴取した内容に基づき運転通告券を作成し、これを列車乗務員に直接手渡しする方法が採用されている。
【0003】
なお運転通告券により通告すべき事項としては、閉塞方式又は閉塞区間の変更、運転時刻の変更、けん引定数の変更、運転線路の変更、徐行運転の指令、信号機故障の予告などが挙げられる。
【0004】
上述したように、これまでの運転通告券の伝達方法は、運転通告券の作成から対象列車への到達までを人手による作業で行なうものであるため、指令員・駅係員・列車乗務員のすべてにおいて労力と手間とが要求される。運転通告券の発行前に、記載事項の確認作業が必要なため、対象列車に運転通告券が到達するまでの時間が長くかかり、不測の事態が発生したときの迅速な対応が難しい。運転通告券を発行する駅に必ず駅係員を駐在させる必要があるため、人件費コストを上昇させる。さらに、指令員から駅係員を経由して列車乗務員へ伝達される過程におけるヒューマンエラーを完全に排除するのは困難であり、伝達誤りや伝達漏れ等が発生する可能性を否定できないという問題を有している。
【0005】
そこで、指令所から列車乗務員へ、人手を介さずに、指示事項を直接伝達することを可能にした技術が、特許文献1で提案されている。同文献に記載される運転通告伝送システムは、地上と車上の双方にトランスポンダ方式を利用した通信装置を設置し、PRCから取得した情報に基づいて、地上子から車上子へ運転通告券情報を伝達するというものである。従って当該システムは、PRCが持っているダイヤ・列車走行位置・運転整理などのデータを利用することにより、運転通告データの作成、及び、通告対象となる列車の自動抽出が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−301179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載される技術は、PRC等の運行管理システムが保有しているデータを利用するものであるため、PRC等により在線位置や列車ダイヤを把握できる線区を走行する列車が適用対象である。しかしながら現状では、PRC等の運行管理システムが未整備のため、指令所で列車の在線位置やダイヤ情報を取得できない線区が存在しており、このような線区で運転される列車に対して運転通告券を発行・伝達する場合は、従前の人手による方式を採用するしかなかった。
【0008】
そこで本発明は、指令所側に列車ダイヤや在線位置等の情報が無い線区であっても、確実に運転通告情報を対象列車へ伝達できるシステムを開発し、ヒューマンエラーの防止による安全性の向上、通告に要する時間の短縮によるダイヤ乱れの縮小、指令員・乗務員・駅係員の負担軽減を図ることにした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、PRCやCTC等の運行管理システムを利用せずに、列車が主体となった運転通告情報の伝送システムを実現することを主たる目的とし、より具体的には、列車自体が自己の在線位置を把握できるようにすると共に、運転通告情報を電子データとして処理することによって、通信回線による運転通告を実現することを目的としている。
【0010】
本発明が上記目的達成のために創案した運転通告伝送システムの構成は、図1に示す如くであって、運転通告データを提供する地上装置と、列車に搭載され通信回線を通じて地上装置との間でデータ通信を行なう車上装置とから構成され、前記車上装置は、通信回線に接続して地上装置と通信するための対地上通信手段、地上装置から提供される運転通告データを所定の方式で表示する表示手段、及び、対地上通信手段と表示手段の動作を制御すると共にデータ処理を行なう処理手段を備え、前記地上装置は、通信回線に接続して車上装置と通信するための対列車通信手段、運転通告データを保存する通告サーバ装置、及び、通告サーバ装置に運転通告データを入力するための指令端末を備え、車上装置から地上装置に対し運転通告データの提供が要求されると、地上装置が、通告サーバ装置に保存されている運転通告データのうち、上記車上装置を搭載した列車に適合する運転通告データを配信するように設定されていることを特徴とする。
【0011】
前記において、地上装置は、指令所や制御駅に設置される。車上装置は、通常、一列車あたり、運転士用と車掌用の2つが搭載される。
地上装置と車上装置との間でデータ通信を行なう通信回線は、適用する線区の状況に応じて適当な回線種類を選定すればよく、通信速度・安定性・セキュリティの確保等の条件を満たすものであれば、その種類は特に限定されない。但し、通信方式に関し、車上装置側は無線により通信回線に接続する構成とするのが望ましい。地上装置側の通信回線への接続手段は、無線でも有線でもよい。また通信回線の種別として、独自回線を利用する場合、VPN等の通信事業者から借り受けた専用回線を利用する場合、一部を公衆回線とし残りを専用回線で構築する場合等が考えられる。具体例を示せば、携帯電話のパケット通信回線とVPNとの組み合わせや、列車無線、衛星通信回線などを利用することが考えられる。従って、地上装置及び車上装置それぞれに備えられる通信手段は、通信回線の種類に応じた適当な機器を使用すればよい。
【0012】
前記車上装置に備えられる表示手段には、視覚的表示手段としてモニタ装置、紙媒体表示手段としてプリンタ、音声表示手段としてスピーカ等が使用できる。
処理手段には、パーソナルコンピュータ(以下、PCと言う)が使用でき、デスクトップ型でもモバイル型でもよい。なお、PCにモニタ装置やスピーカが付設されている場合は、これらを上記の表示手段として用いることができる。
前記地上装置に備えられる通告サーバ装置には、サーバ用コンピュータを使用すればよい。指令端末には、PCを使用すればよい。
【0013】
車上装置から地上装置に対して行なう運転通告データの提供の要求は、列車乗務員が必要時に装置を操作して行なうほか、列車の状態が所定の条件を満たしたときに、自動的に車上装置が実行するように設定してもよい。この場合、所定の条件とは、列車が特定位置に達したときや、駅間で列車が停止した状態又は所定速度以下で運転された状態が一定時間以上継続したとき(信号現示による運転規制が継続した場合)などが考えられる。
【0014】
前記運転通告伝送システムにおいて、車上装置が列車位置データを取得する位置特定手段を備え、車上装置の処理手段が位置特定手段から取得した列車位置データに基づいて当該列車が所定位置に到達したと判断したときに、地上装置に対し運転通告データの提供を要求するように設定することができる。
この場合において、上記位置特定手段には、GPSを利用して列車の緯度情報及び経度情報を取得する測位装置を用いることができる。あるいは、車輪の積算回転数から列車の走行距離を算出する走行距離積算装置を用いて、列車の在線位置を判定する手段も利用可能である。さらには、線路に配設されたATS地上子が位置情報を持っている場合はこれと交信してキロ程等の位置情報を取得する手段、列車側にあらかじめATS地上子の配置マップを用意し、これと走行中に検知したATS地上子とを照合して列車の現在位置を把握する手段、線路沿線に位置情報を記録したIDタグ等を配設し、これを車上に搭載したリーダで読み取って在線位置を把握する手段等が考えられる。
【0015】
前記運転通告伝送システムにおいて、車上装置の処理手段が、地上装置の通告サーバ装置に保存されている運転通告データのうちから、適合する運転通告データを選択して受信するように設定してもよい。上記において、適合する運転通告データを選択して取得する手法としては、例えば、車上装置の処理手段が、まず通告サーバ装置から、保存されている運転通告データの一覧表データをダウンロードし、次いで、その中から列車識別データ(例えば列車番号など)に基づいて自列車に適合する運転通告データを選択したのち、通告サーバ装置に対し選択した適合データを配信するよう要求することが考えられる。この場合、位置特定手段で取得した列車位置データを組み合わせ、列車位置に見合った最適な運転通告データのみが配信されるように要求することも考えられる。
なお、自列車に適合する運転通告データが複数有る場合、それらを一括して受信し、位置特定手段で取得した列車位置データに基づいて列車が適当位置に到達したと判断したときに、必要な運転通告データを表示装置に表示させるよう設定することも可能である。
【0016】
地上装置が、車上装置が送信した列車識別データなどに基づき、通告サーバ装置に保存されている運転通告データのうちから、適合する運転通告データを抽出して配信するように設定してもよい。この場合、車上装置がデータ要求時に列車位置データも送信する場合は、列車位置から見て配信が必要と判断される運転通告データだけを抽出し、それを車上装置へ送信するよう設定することも可能である。
【0017】
車上装置の処理手段は、地上装置の通告サーバ装置から配信された運転通告データの内容を表示手段で表示した後、当該運転通告データの受信完了を通知するための確認データを地上装置へ送信する復唱機能を備えることが望ましい。
【0018】
車上装置の表示手段は、運転通告データの内容を画面表示するモニタ装置及び紙媒体等に印刷するプリンタを備えることが望ましい。
【0019】
なお、車上装置の処理手段をモバイル型PCで構成することにより、車上装置全体を可搬型とすることが可能である。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る運転通告伝送システムは、列車に搭載した車上装置と、指令所等に設置した地上装置との間で、通信回線を経由して直接データ通信を行うものである。指令員は、運転整理を行なうときや災害・異常気象等で徐行運転を指令するときなど、運転通告が必要になったとき、指令端末から通告サーバ装置に運転通告データを作成・入力する。通告サーバ装置は、入力された運転通告データを保存し、車上装置から問い合わせがあったときに、適合データの検索が可能な状態とする。
車上装置は、地上装置に対し運転通告データの提供要求操作を行なって、適合するデータの有無を問い合わせる。この問い合わせは、列車乗務員が車上装置を操作することで実行させるほか、GPS測位装置等の位置特定手段を備える場合は、あらかじめ車上装置が地上装置への問い合わせを実行する地点を登録しておき、この登録地点に列車が到達したならば地上装置との交信が自動的に開始されるよう設定することも可能である。車上装置は、通告サーバ装置内に自列車に適合する運転通告データが有った場合、当該データを受信し、その内容を表示装置で表示する。
【0021】
このように本発明によれば、列車の在線位置が指令所で把握できなくても、列車側が主体となり、駅に近づいたならば(あるいは所定の地点に到達したならば)、もしくは乗務員の装置操作により、車上装置が地上装置に運転通告データの有無を問い合わせ、通告サーバ装置内に自列車に適合するデータが有ったときは、自動的に当該データが地上装置から車上装置へ配信される仕組みとした。従って、運行管理システムが未整備なため、列車の在線位置を指令所で把握できない線区に対しても、電子化された運転通告システムを適用できる。従って、指令員・乗務員・駅係員の業務負担の著しい軽減をもたらす。また通告に要する時間が短縮されるから、ダイヤ乱れの縮小化に寄与する。
【0022】
さらに、指令員から列車乗務員へ運転通告データを直接伝達するから、指示伝達経路に人が介在せず、その結果、人的コストを削減できると共に、ヒューマンエラーによる伝達誤りや伝達漏れが排除され、安全性の向上に貢献する。
【0023】
車上装置に列車位置データを取得する位置特定手段を備え、当該列車が所定位置に到達したならば、自動的に地上装置に対し運転通告データの提供要求が実行されるよう設定した場合は、車上装置が常に適切なタイミングで運転通告データを取得するから、列車乗務員の作業負担を軽くして、運転通告データの取得漏れを確実に防止することができる。
【0024】
車上装置の処理手段が、列車識別データなどに基づいて、通告サーバ装置から当該列車に適合する運転通告データを選択して受信するように設定した場合は、列車とデータとの照合操作を車上装置側で行なうから、通告サーバ装置の負荷を軽減することができる。
【0025】
反対に、地上装置の通告サーバ装置が、列車識別データなどに基づき、当該列車に適合する運転通告データを抽出して配信するように設定した場合は、列車とデータとの照合操作を地上装置側で行なうから、車上装置側の処理手段の負荷を軽減することができる。
【0026】
車上装置の処理手段が、運転通告データの受領を通知するための確認データを地上装置へ送信する復唱機能を備えることにより、運転通告データの内容が確認されたことを地上装置側で認識することができる。これにより、指令所側で、運転通告データの通告状況を管理するのが容易となる。
【0027】
車上装置に、運転通告データの内容を画面表示するモニタ装置だけでなく、プリンタを備えることにより、列車乗務員が運転通告内容をより確実に把握できるようになる。
【0028】
車上装置の全体を可搬型とした場合は、メンテナンス性が向上する。また設置対象となる列車の制限がなくなるから、臨時に運転される列車も適用対象とすることができ、地上装置との通信が確保できる線区であれば、任意の線区で実施が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る運転通告伝送システムの概略構成を示す図面である。
【図2】本発明に係る運転通告伝送システムの一実施形態を概略的に示す図面である。
【図3】本発明に係る運転通告伝送システムの稼働状況を説明する図面である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明に係る運転通告伝送システムの一実施形態を、図2及び図3を用いて説明する。本発明は、列車に搭載される車上装置と、指令所及び制御駅に設置される地上装置との間でデータ通信を行なうものであり、通信回線は、車上側の対地上通信手段と地上側の対列車通信手段とを論理的に接続できる仕組みであればよい。本例では、図2に示すように、携帯電話パケット通信回線(閉域網)を利用して行なう仕様とした。
また乗務員区所に、区所側装置としてデータ管理用PCを設置し、SDカードやUSBメモリーなどの適当な電子媒体を用いて、本システムで使用する基礎データを車上装置へ転送できるように構成した。また上記電子媒体に、車上装置の動作記録を保存し、これを乗務員区所において、運転通告伝送状況の管理に利用することも可能である。
【0031】
図2に示す如く、本例の車上装置は、車上側ゲートウェイ(対地上通信手段)、GPS測位装置(位置特定手段)、モバイル型PC(処理手段及び表示手段)、及びプリンタで構成され、さらに、これらを独立して動作させるためのリチウムポリマー電池・リチウムイオン電池等の二次電池から成るバッテリーを組み込んだ。そして、これらを一括してケース内へ収納して、列車乗務員が携行可能とした。
【0032】
他方、指令所に設置される地上装置は、地上側ゲートウェイ(対列車通信手段)、サーバ用コンピュータから成る通告サーバ装置、PC等から成る指令端末、及びプリンタを備える。また地上側ゲートウェイと外部の通信回線との接続には、例えばVPN等の専用回線(有線)を利用できる。
通告サーバ装置は、運転通告データの集積であるデータベース、及び、運転通告データを処理するためのアプリケーションプログラムを有する。なお、通告サーバ装置に、所要のプロトコル変換アプリケーションを組み込んで、ゲートウェイ機能を持たせることも可能である。
制御駅には、指令端末と同等の機能を有する駅端末を設置する。そして指令所の各装置と制御駅の駅端末とは、LAN等を用いたプライベートネットワークにより接続される。
【0033】
ゲートウェイは、装置内通信システム(車上側)や装置間通信ネットワーク(地上側)を外部の通信回線に接続し、情報信号の疎通を可能にするための機器である。通信方式は無線でも有線でもよく、例えば、パケット通信端末や、モデム、信号変換装置など、回線種別に応じた適当な構成の機器を使用すればよい。ゲートウェイの設置により、地上側と車上側とで使用する通信媒体が異なっている場合(有線/無線)や、通信プロトコルが異なっている場合(回線交換方式/パケット通信方式)でも、データ通信が可能となる。なお、地上側と車上側との通信を共通のプロトコルで実行できる場合は、対地上通信手段及び/又は対列車通信手段を、ゲートウェイ機能を省略した通信装置とすることが可能である。
【0034】
車上装置には、以下のような機能を持たせる。
A1.列車番号等の登録機能/車上装置は乗務員が持ち運ぶため、始発・乗継・折返しの乗車や列車種別の変更の時などに、乗務員操作により列車番号・運転方向・乗務員種別を登録できる機能を有する。
A2.列車位置データ取得機能/GPS測位装置により、経度情報・緯度情報から成る列車の在線位置データを取得する。
A3.在線位置通知機能/あらかじめ登録した確認ポイントにおいて、地上装置に対する通信を開始し、通告サーバ装置へ列車の現在位置を通知する。
A4.交信状況表示機能/運転通告データの有無、問合せ中・受信中・通信不能などの通告サーバ装置との交信状況を表示する。
A5.通告復唱送信機能/乗務員が運転通告データの内容を確認して復唱操作を行ったときに、通告サーバ装置へ確認データ信号を送信する。
A6.通信リトライ機能/通告サーバ装置との接続が不能または一定時間遮断された場合に、再接続動作を行う。
A7.運転通告データ表示機能/通告サーバ装置から受領した運転通告データの内容を表示する。複数の運転通告データを受領しているときは、全部同時に表示する。または選択した運転通告データの内容を表示する。
A8.運転通告券印字機能/乗務員の操作により又は自動的に、通告サーバ装置から受領した運転通告データの内容をプリンタで印字し、運転通告券を作成する。なお、同じ通告券を、複数回、印刷可能としてもよい。
【0035】
地上装置には、以下のような機能を持たせる。
B1.運転通告データ作成機能/列車番号・乗務員種別・指令番号・通告区間・件名・内容などを入力して、運転通告データを作成する機能。
B2.履歴複写機能/新たな運転通告券を作成するため、過去に作成した運転通告データを読み出す機能。
B3.運転通告データ編集・取消機能/登録した運転通告データの内容を変更するため、編集又は取消しできる機能。(但し、該当通告内容にて実際に通告を行っていない場合のみ可能とする。)
B4.運転通告終了機能/天候の回復に伴う運転規制の解除や遮断棹の復旧などにより、登録した運転通告が終了した場合に、運転通告を停止する。
B5.データ入力支援機能/登録された基礎データ、指令員名、システム日付・時刻、通告券連番等を読み込み、運転通告データに反映させる。
6.運転通告データ登録機能/作成した運転通告データを通告駅別及び運転方向別に分類し、それらの列車番号・乗務員種別・通告内容を登録する。
B7.運転通告データ配信機能/車上装置からの運転通告データ有無の問合せに対し、登録されている運転通告データを検索し、適合する運転通告データが存在する場合に、当該運転通告データを配信する。
B8.データ表示機能/登録した運転通告データの内容を表示する。(原則として、登録した運転通告データは全て内容表示できるものとし、通告終了後に手動にて削除指示があったときのみ、表示を削除する。)
B9.印字機能/指定した運転通告データの内容、検索した運転通告データの一覧及び詳細、通告状況、通信ログ等をプリンタで印字する。
B10.通告状況管理機能/運転通告データの地上装置への登録、及び、車上装置への通告の処理過程を、日付・時刻・通告券番号・指令番号・発行者・列車番号・乗務員種別・件名・区間・内容などと共に登録し、必要に応じて呼び出す機能。
B11.通告履歴検索機能/過去に登録した運転通告券から、日時・通告券番号・発行者・列車番号・件名・内容・区間・乗務員種別・発行枚数等の指定条件に基づいて検索する機能。
B12.通告履歴表示機能/検索した運転通告券の一覧、該当件数及び詳細を表示する。
B13.通告状況表示機能/車上装置に対する通告状況(未通告・通告中・復唱待ち・通告完了等)の一覧を、リアルタイムに表示する。
B14.通告状況変更機能/登録された運転通告データの通告進捗状態を「通告完了」に変更する機能。(本機能は、通信障害のため車上装置へ運転通告データを配信できなかった場合において、指令員が乗務員へ無線での会話により通告を行った場合などでの使用を想定する。)
B15.データ入力支援機能/基礎データ(駅名・線路名・信号機・踏切・運転規制キロ程など)及び指令員氏名を登録・管理する。
B16.システム日付・時刻管理機能/システムで使用する日付・時刻を自動補正・管理する。
B17.情報メッセージ作成・編集機能/運転通告以外の情報(列車の運転状況・復旧状況・天候など)を指令員が作成・編集して送信する。
なお上記のうち、B1〜B6、B10〜B14及びB17の機能については、指令端末におけるGUI(Graphical User Interface)により提供することが望ましい。
【0036】
乗務員区所の区所側装置には、次のような機能を持たせる。
C1.地点データ作成・編集機能/車上装置が使用する車上基礎情報を作成する。この車上基礎情報には、車上装置が地上装置に対して通信を開始する地点(確認ポイント)の位置情報が含まれる。
C2.地点データ作成支援機能/既存の地理情報システム(GIS)などから、構造物の緯度経度を入力し、車上基礎情報に反映する。
C3.地点データ出力機能/登録した車上基礎情報を電子媒体へ出力する。(この電子媒体により、車上装置との間で情報の受け渡しが行なわれる。)
C4.地点データ管理機能/車上基礎情報をデータベース化して管理する。
【0037】
以上の如く構成された運転通告伝送システムの稼働状況を、次に説明する。
(1)まずはじめに、列車の運転に先立って、列車乗務員(運転士及び車掌)は、乗務員区所において車上基礎情報が記録された電子媒体を受け取り、これを各自が携帯する車上装置のPCに読み取らせる。また併せて、列車番号・運転方向・乗務員種別を車上装置のPCに入力する。
【0038】
(2)指令所又は制御駅では、運転通告の必要が生じた場合、指令所の指令員(制御駅にあっては駅長)が、指令端末(駅端末)で運転通告データを作成し、通告サーバ装置に登録番号と共に記録する。
【0039】
(3)始発駅において、乗務員は、車上装置を列車内に持ち込んで所定位置に設置したのち、列車を出発させる前に、車上装置を起動させて地上装置への通信を開始し、当該列車に対する運転通告データの有無を問い合わせる。具体的には、車上装置から地上装置の通告サーバ装置へ向けて、始発駅名・列車番号・運転方向・乗務員種別を通知すると、通告サーバ装置が、通知された列車情報に適合する運転通告データを検索する。
適合するデータが無い場合、地上装置は「通告データ無し」の返信を行なう。
適合する運転通告データが存在する場合、地上装置から適合データの登録番号が車上装置へ通知される。これを受けて車上装置は、上記登録番号の運転通告データの提供を地上装置に対し要求し、地上装置はこの要求に従って、上記登録番号の運転通告データを車上装置へ配信する。
なお、最新の運転通告データの取得漏れを防ぐため、車上装置から地上装置への問い合わせ動作は、列車が駅に停車している間、適宜の時間間隔で繰り返し実行するよう設定することが望ましい。
【0040】
(4)車上装置は、自列車に適合する運転通告データを受信したならば、その内容をモニタ装置等に表示させる。また必要に応じ、プリンタで運転通告データの内容を印字する。乗務員は、運転通告内容を確認した後、復唱操作を行なう。これは例えば、モニタ装置の画面内に表示させた復唱ボタンをクリックすること、あるいはキーボード上の特定キーを押下することで実行される。
上記復唱操作により、車上装置から地上装置へ確認データが送信される。確認データの受信に基づき、地上装置の通告サーバ装置はデータベースを更新し、指令端末及び駅端末は通告完了の表示を行なうように設定する。また必要に応じ、指令所又は制御駅において確認のため、配信の完了した運転通告データの内容をプリンタで印字してもよい。
【0041】
ところで、運転通告データを受信した後の復唱操作は、原則として列車の停車中、出発前に行なわれる。そこで、運転通告データが在った場合、復唱操作が行なわれない限り、出発信号が停止現示を維持するように設定すれば、運転通告の伝達を一層確実にできる。
【0042】
(5)また運転通告は、通常、駅単位で行なわれるので、上述のようにして始発駅に対する運転通告データの有無の確認が完了したならば、列車の出発直前または出発直後に、次の制御駅に対する運転通告データの有無を問い合わせるように設定してもよい。次駅に対する運転通告データ有無の問い合わせが終了したならば、列車の出発後、あらかじめ定められた地点に到達することにより、車上装置の地上装置に対する通信を切断する。
【0043】
(6)本システムは、図3に示すように、列車が始発駅・終着駅以外の中間の制御駅Aに到着する前に、車上装置が運転通告データの有無を確認するため、地上装置に対し通信を開始するよう設定される。地上装置に対し通信を開始する地点P(確認ポイント)の位置情報は、乗務員区所に設置される区所側装置から、電子媒体を介して提供されている。一方、車上装置のGPS測位装置により、列車の在線位置データが常に取得されている。従って、GPSから取得した列車位置データと確認ポイントの位置データとに基づき、列車が確認ポイントPに到達したと処理手段が判断することにより、車上装置から地上装置への問い合わせが自動的に開始される。この問い合わせは、到着予定駅名・列車番号・運転方向・乗務員種別を通知することによりなされる。通告サーバ装置内に自列車に適合する運転通告データが在った場合は、これを自動的に受信して、モニタ装置等に表示させ、あるいはプリンタで通告内容を印刷する。
【0044】
(7)乗務員は、運転通告データ(図3には、駅A〜B間を徐行区間とする指令がなされた場合を表示した。)を受領したならば、駅Aに停車したのち、その内容を確認して、復唱操作を行なう。なお運転通告データが存在する場合、復唱操作の完了まで、出発信号機を停止現示に維持して、通告漏れを防止することが望ましい。
【0045】
(8)駅Aに対する運転通告データの受領が完了したならば、引き続き、次駅Bに対する運転通告データの有無を問い合わせ、適合データが在ったときは、これを受領する。しかるのち列車の出発後、所定地点に到達したならば、車上装置の地上装置に対する通信を切断する。
【0046】
以上述べた車上装置と地上装置との交信状態は、列車側ではモニタ装置により、地上側では指令端末及び駅端末により、常に監視できるよう構成することによって、乗務員・指令員・駅係員のいずれもが運転通告状況を把握することが可能となる。
【0047】
このように本発明に係る運転通告伝送システムは、列車が現在の在線位置を自発的に把握し、列車から在線位置を通知したタイミングで運転通告データの有無を確認する手順としたので、運行管理システムなどの整備が不十分なため、指令所で列車の在線位置を追従できない線区においても、的確かつ効果的な運転通告が実施できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転通告データを提供する地上装置と、列車に搭載され通信回線を通じて地上装置との間でデータ通信を行なう車上装置とから構成され、
前記車上装置は、通信回線に接続して地上装置と通信するための対地上通信手段、地上装置から提供される運転通告データを所定の方式で表示する表示手段、及び、対地上通信手段と表示手段の動作を制御すると共にデータ処理を行なう処理手段を備え、
前記地上装置は、通信回線に接続して車上装置と通信するための対列車通信手段、運転通告データを保存する通告サーバ装置、及び、通告サーバ装置に運転通告データを入力するための指令端末を備え、
車上装置から地上装置に対し運転通告データの提供が要求されると、地上装置が、通告サーバ装置に保存されている運転通告データのうち、上記車上装置を搭載した列車に適合する運転通告データを配信するように設定されていることを特徴とする運転通告伝送システム。
【請求項2】
車上装置が列車の位置データを取得する位置特定手段を備え、車上装置の処理手段が、位置特定手段から取得した列車位置データに基づいて当該列車が所定位置に到達したと判断したときに、地上装置に対し運転通告データの提供を要求するように設定した請求項1に記載の運転通告伝送システム。
【請求項3】
車上装置の処理手段は、地上装置の通告サーバ装置に保存されている運転通告データのうちから、適合する運転通告データを選択して受信するように設定されている請求項1又は2に記載の運転通告伝送システム。
【請求項4】
地上装置の通告サーバ装置は、保存されている運転通告データのうちから、運転通告データの提供を要求した車上装置を搭載した列車に適合する運転通告データを抽出して配信するように設定されている請求項1又は2に記載の運転通告伝送システム。
【請求項5】
車上装置の処理手段は、地上装置の通告サーバ装置から配信された運転通告データの内容を表示手段で表示した後、当該運転通告データの受信を通知するための確認データを地上装置へ送信する復唱機能を備えている請求項1乃至4のいずれかに記載の運転通告伝送システム。
【請求項6】
車上装置の表示手段は、運転通告データの内容を画面表示するモニタ装置及び紙媒体等に印刷するプリンタである請求項1乃至5のいずれかに記載の運転通告伝送システム。
【請求項7】
車上装置の処理手段をモバイル型パーソナルコンピュータで構成し、車上装置全体を可搬型とした請求項1乃至6のいずれかに記載の運転通告伝送システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−264897(P2010−264897A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−118439(P2009−118439)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(000196587)西日本旅客鉄道株式会社 (202)
【出願人】(391039173)株式会社ジェイアール西日本テクノス (26)
【出願人】(505190013)近鉄車両エンジニアリング株式会社 (4)
【Fターム(参考)】