説明

過剰増殖細胞の腫瘍抑制因子に基づいた腫瘍崩壊ウイルス療法への感受性

本発明は、レオウイルスおよびミキソーマウイルスのような腫瘍崩壊ウイルスを使用してがんを治療する方法に関する。特に、本発明は、腫瘍抑制因子に異常を有するがん細胞が、正常すなわち「野生型」の腫瘍抑制因子を含んでいるがん細胞よりも腫瘍崩壊ウイルスに感染しやすいという観察を土台としている。特に、p53、RbおよびATMに関連した欠陥はそれぞれ、がん細胞を腫瘍崩壊ウイルス療法に対して感受性とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概してウイルス学、分子生物学および医学の分野に関する。特に、本発明は、がんなどの過剰増殖性疾患の腫瘍崩壊ウイルス療法に対する感受性を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本願は、2008年5月22日に出願された米国仮特許出願シリアル番号第61/055,360号の優先権の利益を主張するものであり、前記出願の全内容は参照により本願に組込まれる。
【0003】
レオウイルス(呼吸器・腸管オーファンウイルス)は、遍在性の、ゲノムとして10本の二本鎖RNAを含有する非エンベロープウイルスであり、ヒトへの感染は概して穏やかで、上気道および胃腸管に限定され、免疫が機能している宿主では多くの場合無症候である(タイラー(Tyler)、2001)。レオウイルスを逆行分析する試みは、レオウイルスの二本鎖RNAゲノムなどいくつかの要因により大部分は失敗してきた。σ1を欠くレオウイルス粒子は非感染性であることが分かっている(ラルソン(Larson)ら、1994)。
【0004】
重要なこととして、レオウイルスは、ある種の形質転換細胞に感染すると顕著な細胞破壊活性を示すことが長年認識されてきた(ダンカン(Duncan)ら、1978;ハシロ(Hashiro)ら、1977)。複製能を有する腫瘍崩壊ウイルスは魅力的な抗がん治療手法を提供する。これらの腫瘍崩壊ウイルスは2つの主要な長所を有する。第1に、従来の化学療法および放射線療法とは異なり、該ウイルスは正常細胞における複製能力が限られているため、がん細胞を特異的に標的とする。第2に、複製能力を持たないベクターと比較して、該ウイルスは最初に感染したがん細胞から周囲のがん細胞へと広がることによって大規模に分布し、強力な抗がん作用を発揮することができる。
【0005】
野生型レオウイルスとの接触は、健常人では多くの場合無症候であるが、それでも免疫不全の個体に対しては重大かつ潜在的に極めて深刻なリスクを与える可能性があり、このことががん患者などの患者におけるレオウイルス療法の臨床的可能性を制限しているが、前記患者は、制限がなければこの治療法から恩恵を受けることができるかもしれない。腫瘍形成性のRasシグナル伝達経路を含んでいる形質転換細胞がin vitroおよびin vivoにおいて優先的にレオウイルス感染(3型Dearing株)し易いことが示されるまで(コッフィ(Coffey)ら、1998;ストロング(Strong)ら、1998;ノーマン(Norman)ら、2004)、レオウイルスの腫瘍崩壊活性の基礎をなす基本原理は未知のままであった。様々な種類のヒトのがんにおいてRas遺伝子突然変異が頻繁に観察されるにつれて(ダースマ(Duursma)ら、2003)、これらの知見が治験におけるレオウイルス療法の現在の使用に結びついた(ノーマン(Norman)ら、2005)。
【0006】
にもかかわらず、Ras遺伝子突然変異の存在は、レオウイルス療法に対するがん細胞の感受性を部分的に説明できているにすぎない。最近の研究から、Ras経路はレオウイルス許容性を決定する唯一の要因ではないこと(ソン(Song)ら、2009)、Ras形質転換細胞からレオウイルス耐性細胞が確立されて(キム(Kim)ら、2007)、なおもRas突然変異の活性化を維持することができることが示された。したがって、レオウイルスおよび他の腫瘍崩壊ウイルス剤を用いた治療のための適切ながん細胞亜集団を同定かつ選択する改良法が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
レオウイルスおよび他の腫瘍崩壊ウイルス剤を用いた治療のための適切ながん細胞亜集団を同定かつ選択する改良法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
レオウイルスは、その野生型(3型Dearing)または修飾型(例えば、σ1タンパク質の不完全合成を伴う部分的弱毒化ウイルス)のいずれであっても、p53、Rb、ATM、BRCA1、BRCA2、MutS、MutL、MutH、APCおよびATBF1のような、ある種の欠陥を有するかまたは不活性化された腫瘍抑制遺伝子を含んでいる過剰増殖性または形質転換型のがん細胞を、そのような細胞がin vitroまたはin vivoで該ウイルスに曝露されたときに殺滅するのに有効である。したがって、レオウイルスの適用範囲は、rasがん原遺伝子シグナル経路の異常または過度な活性を伴う症例を越えて拡大される可能性がある。主としてras、インターフェロンまたはその他の細胞性免疫シグナル経路の状態に応答するものと従来は考えられた他のウイルスも、腫瘍抑制因子の機能喪失に対する感受性が高く、同様に該ウイルスの適用範囲が拡大される可能性がある。
【0009】
したがって、本発明によれば、過剰増殖性疾患がレオウイルスまたはミキソーマウイルスの腫瘍崩壊に対する感受性を有するかどうかを判定する方法であって、(a)過剰増殖性細胞を提供するステップと;(b)該過剰増殖性細胞由来のp53、Rb、ATM、BRCA1、BRCA2、MutS、MutL、MutH、APC、またはATBF1のうち少なくともいずれかの遺伝子または遺伝子産物の構造、機能、または発現を評価するステップと;(c)該過剰増殖性細胞の構造、機能、または発現を、p53、Rb、ATM、BRCA1、BRCA2、MutS、MutL、MutH、APC、またはATBF1のうち少なくともいずれかの遺伝子または遺伝子産物の野生型の構造、機能、または発現と比較するステップとを含んでなり、p53、Rb、ATM、BRCA1、BRCA2、MutS、MutL、MutH、APC、またはATBF1のうち少なくともいずれかの構造、機能、または発現における欠陥は、その過剰増殖性疾患がレオウイルスまたはミキソーマウイルスの腫瘍崩壊に対する感受性を有することを示す方法が提供される。
【0010】
該方法は、過剰増殖性細胞が得られた患者を、例えばレオウイルス療法またはミキソーマウイルス療法のうち少なくともいずれかによって治療することをさらに含むことができる。レオウイルス療法は、野生型レオウイルス療法であってもよいし、欠陥を有するσ1カプシドタンパク質を発現するか、検出不能なσ1カプシドタンパク質を発現するか、またはσ1カプシドタンパク質を発現しないレオウイルスを利用するような、弱毒化レオウイルス療法であってもよい。治療は、患者由来の骨髄細胞をレオウイルスかつ/またはミキソーマウイルス療法でex vivo治療することを含んでもよいし、患者に対してレオウイルスかつ/またはミキソーマウイルス療法を適用することを含んでもよい。ex vivo療法の場合には、該方法は、骨髄細胞に第2の抗過剰増殖療法を施すことをさらに含んでもよいし、対象者に対して適用されるウイルス療法の場合には、該方法は、対象者に対して第2の抗過剰増殖療法を適用することをさらに含んでもよい。第2の抗過剰増殖療法は、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、遺伝子療法、または免疫療法であってよい。該方法はさらに、p53、Rb、ATM、BRCA1、BRCA2、MutS、MutL、MutH、APC、またはATBF1の機能または発現の阻害剤、例えばタンパク質もしくはペプチド、抗体、siRNA、アンチセンス分子、リボザイムまたは小分子を用いた治療法をさらに含んでもよい。治療は、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、遺伝子療法、または免疫療法を用いるような非ウイルス性の抗過剰増殖療法を含むこともできる。過剰増殖性細胞は悪性細胞の場合もあれば良性細胞の場合もある。該方法は、ステップ(a)の前に、患者から過剰増殖性細胞を得るステップをさらに含むこともできる。発現の評価は、ノーザンブロット法、ウエスタンブロット法、免疫組織化学法、RT−PCR、マイクロアレイ解析、トランスクリプトーム解析、プロテオーム解析、またはメタボローム解析を含んでなることができる。別例として、構造の評価は、塩基配列決定、in situハイブリダイゼーション、免疫組織化学法、または構造プロテオミクスを含んでなることができる。さらに別例として、機能の評価は、p53、Rb、ATM、BRCA1、BRCA2、MutS、MutL、MutH、APC、またはATBF1の下流の標的の発現または活性を評価することを含んでなることができる。
【0011】
別の実施形態では、患者の過剰増殖性疾患を治療する方法であって、(a)過剰増殖性細胞を、p53、Rb、ATM、BRCA1、BRCA2、MutS、MutL、MutH、APC、またはATBF1の機能または発現の阻害剤と接触させるステップと;(b)過剰増殖性細胞に、レオウイルスかつ/またはミキソーマウイルス療法を施すステップと、を含んでなる方法が提供される。レオウイルス療法は、野生型レオウイルス療法であってもよいし、欠陥を有するσ1カプシドタンパク質を発現するか、検出不能なσ1カプシドタンパク質を発現するか、またはσ1カプシドタンパク質を発現しないレオウイルスのような、弱毒化レオウイルス療法であってもよい。治療は、患者由来の骨髄細胞のex vivo治療を含んでなるものでもよいし、患者のin vivo治療を含んでなるものでもよい。該方法は、骨髄細胞に、第2の抗過剰増殖療法、例えば第2の抗過剰増殖療法、例えば化学療法、放射線療法、ホルモン療法、遺伝子療法、または免疫療法を施すことをさらに含んでなることができる。過剰増殖性細胞は悪性細胞の場合もあれば良性細胞の場合もある。
【0012】
用語「1つの(a)」または「1つの(an)」の使用は、特許請求の範囲または明細書のうち少なくともいずれかにおいて用語「含む、含んでなる(comprising)」と共に使用される場合、「1つの(one)」を意味する場合もあるが、該単語は同じく「1つ以上(one or more)」、「少なくとも1つ(at least one)」、および「1または2以上(one or more than one)」という意味とも一致する。
【0013】
本願全体にわたって、用語「約(about)」は、ある値が、その値を決定するために使用されているデバイス、方法に関する誤差の本来的な変動、または研究対象に存在する変動を包含することを示すために使用される。
【0014】
特許請求の範囲における用語「もしくは、または(or)」の使用は、開示内容は選択肢のみと「かつ/または、〜のうち少なくともいずれか(and/or)」とを指すという定義を支持しているが、選択肢のみを指すと明示的に示されるか、選択肢が相互に排他的でないかぎり、「かつ/または、〜のうち少なくともいずれか(and/or)」を意味するものとして使用される。
【0015】
本明細書および特許請求の範囲において使用されるように、用語「含んでなる(comprising)」(およびその任意の形態、例えば「含む(comprise)」と「含む(comprises)」)、「有する」(およびその任意の形態、例えば「有する(have)」と「有する(has)」)、「備えている」(およびその任意の形態、例えば「備える(includes)」と「備える(include)」)、または「含有している(containing)」(およびその任意の形態、例えば「含有する(contains)」と「含有する(contain)」)は、包括的すなわちオープンエンドであり、付加的な、列挙されていない要素または方法ステップを排除しない。
【0016】
本発明のその他の目的、特徴および利点は以降の詳細な説明から明らかになろう。しかしながら、当然のことであるが、詳細な説明および具体的実施例は、本発明の特定の実施形態を示してはいるが、単なる例証として与えられている、というのも、当業者には、この詳細な説明から、本発明の趣旨および範囲内にある様々な変更形態および改変形態が明らかとなるからである。
【0017】
以下の図面は本明細書の一部を形成し、本発明の一定の態様をさらに実証するために含められている。本発明は、これらの図面のうち1つ以上を本明細書中に提示された具体的実施形態の詳細な説明と合わせて参照することによって一層よく理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】p53−/−MEFおよびATMに欠陥を有するL3へのレオウイルスおよびミキソーマウイルスの優先的感染を示す図。(図1A)p53−/−MEFおよびp53+/+MEF(それぞれp53ノックアウトマウスまたはp53野生型のマウス胎児線維芽細胞)に対して、MOIを40としてWT/AVレオウイルスを感染させるか、またはMOIを5としてGFP発現型ミキソーマウイルス(Myx−GFP(GFPを発現する種類のMYXVのローザンヌ(ATCC)株)はジョンストン(Johnston)ら、2003に記載されている)を感染させた。感染後3日目に、細胞を固定化/透過化し、レオウイルス抗血清および二次FITC抗血清を使用してFACSにより解析した。結果は、野生型および弱毒化レオウイルスがいずれもp53−/−MEFに優先的に感染することができたことを示している。ミキソーマ感染実験については、細胞を24時間感染させ、位相差顕微鏡法および蛍光顕微鏡法で視覚化した。GFPを発現している細胞はミキソーマウイルス感染を表わす。Mock:模擬(モック)感染。(図1B)BT(ATMが正常であるリンパ芽球様C3ABR細胞;コズローフ(Kozlov)ら、2003)およびL3(ATMが欠損しているリンパ芽球様細胞;コズローフ(Kozlov)ら、2003)に対し、MOIを40としてWT/AVレオウイルスを、またはMOIを5としてミキソーマウイルス(Myx−GFP)を感染させた。感染後3日目に、細胞を固定化/透過化し、レオウイルス抗血清および二次FITC抗血清を使用してFACSにより解析した。結果は、野生型および弱毒化レオウイルスがいずれもp53−/−MEFに優先的に感染することができたことを示している。ミキソーマ感染実験については、細胞を48時間感染させ、位相差顕微鏡法および蛍光顕微鏡法で視覚化した。GFPを発現している細胞はミキソーマウイルス感染を表わす。C35ABR(B3)細胞株およびL3細胞株は、それぞれM ラヴィン博士(Dr.M Lavin)(クィーンズランド州立大学附属医科学研究所(Queensland Institute of Medical Research))およびY シャイロー博士(Dr.Y Shiloh)(テルアビブ大学(Tel Aviv University))より快く提供していただいた。Mock:模擬(モック)感染。
【図2A】p53およびATMが正常に機能しないヒトリンパ腫へのレオウイルスおよびミキソーマウイルスの優先的感染を示す図。(図2A)p53およびATMの欠陥はIR刺激に対する応答を増強する。マントル細胞リンパ腫(Granta、HBL−2(p53突然変異体、ターカー(Turker)ら、2006)、Z138C、JVM−2)およびバーキットリンパ腫(Raji、およびRamos)を2Gyで2時間照射し、細胞を採取した。NET−N溶解バッファー(1%NP−40)を用いた処理とその後の音波処理によって全細胞溶解物を生成させた。その後、50μgのタンパク質を8%または10%のSDS−PAGEで泳動し、ニトロセルロースに転写し、表示された抗体(リン酸化ATM(Phospho−ATM);pSer1981 ATMおよびリン酸化p53(Phospho−p53);pSer15、およびp53は、ロックランド・イムノケミカルズ・フォア・リサーチ(Rockland Immunochemicals for Research)およびセル・シグナリング(Cell Signaling)から購入した;ATM特異的ウサギポリクローナル抗体4BAはM ラヴィン博士から寄贈された)を用いて調べた。BT細胞およびL3細胞は対照として使用した。
【図2B】p53およびATMが正常に機能しないヒトリンパ腫へのレオウイルスおよびミキソーマウイルスの優先的感染を示す図。(図2B)p53およびATMが正常に応答する細胞(BT、Z138C、JVM−2、Ramos)、ならびにp53またはATMのうち少なくともいずれか一方が正常に応答しない機能不全の細胞(L3、HBL−2、Grant、Raji)について、レオウイルスおよびミキソーマウイルスの両方に対してウイルス感受性をプロットした。1;ウイルス感受性。0;ウイルス抵抗性。正常に応答する細胞は抵抗性であるが、正常に応答しない機能不全の細胞はウイルスに感染しやすい。
【図2C】p53およびATMが正常に機能しないヒトリンパ腫へのレオウイルスおよびミキソーマウイルスの優先的感染を示す図。(図2C)細胞に対して、MOIを40としてWT/AVレオウイルスを、またはMOIを5としてミキソーマウイルス(Myx−GFP)を感染させた。過去の研究から、レオウイルスに対してRaji細胞は感受性であり、Ramos細胞は抵抗性であることが示されている(アライン(Alain)ら、2002)。感染後3日目に、細胞を固定化/透過化し、レオウイルス抗血清および二次FITC抗血清を使用してFACSにより解析した。結果は、レオウイルスおよびミキソーマウイルスがいずれもp53かつ/またはATMが非応答性のリンパ腫に優先的に感染することを示した。ミキソーマ感染実験については、細胞を48時間感染させ、位相差顕微鏡法および蛍光顕微鏡法で視覚化した。GFPを発現している細胞はミキソーマウイルス感染を表わす。Mock:模擬(モック)感染。
【図3】網膜芽細胞腫細胞のレオウイルスおよびミキソーマウイルス感染を示す図。網膜芽細胞腫細胞(Y79およびWERI−Rb−1、ATCCから購入)に対して、MOIを40としてWT/AVレオウイルスを、またはMOIを5としてミキソーマウイルス(Myx−GFP)を感染させた。感染後指定の日数において、細胞を固定化/透過化し、レオウイルス抗血清および二次FITC抗血清を使用してFACSにより解析した。ミキソーマ感染実験については、細胞を48時間感染させ、位相差顕微鏡法および蛍光顕微鏡法で視覚化した。GFPを発現している細胞はミキソーマ感染を表わす。Mock:模擬(モック)感染。
【発明を実施するための形態】
【0019】
発がん現象は、正常ながん原遺伝子および腫瘍抑制遺伝子に影響を及ぼす突然変異事象による発がん遺伝子の活性化および腫瘍抑制遺伝子の不活性化が複合した蓄積が関与する多段階のプロセスである。興味深いことに、腫瘍崩壊ウイルスは、発がん遺伝子で駆動される様々な細胞内シグナル伝達経路を利用して、該ウイルスが感染する細胞を選択的に複製して殺滅する。発がん遺伝子依存性の腫瘍崩壊に加えて、本発明者らは、一部の腫瘍抑制遺伝子もウイルスの腫瘍崩壊の促進において重要な役割を果たす可能性があると推測した。したがって、本発明者らは、腫瘍抑制遺伝子が変調された様々なネズミおよびヒトのがん細胞株を試験して、腫瘍抑制遺伝子の機能不全がレオウイルスおよびミキソーマウイルスによる腫瘍崩壊に影響を及ぼすかどうかを調べた。
【0020】
レオウイルス腫瘍崩壊の分子基盤は、レオウイルスに対する細胞の受容体を特徴解析する取り組みを通じて思いがけなくも前進した。1993年、あるグループが、表皮成長因子受容体(EGFR)を発現しない2つのマウス細胞株はレオウイルス感染に比較的抵抗性を有する一方で、EGFRをコードする遺伝子でトランスフェクションされた同じ細胞株は有意に高い感受性を示すことを報告した(ストロング(Strong)ら、1993)。この結果から、レオウイルスが、宿主細胞上の機能的EGFRの存在によってもたらされる活性化した細胞内シグナル伝達経路を利用することが示唆された。その後、この同じ研究者らは、レオウイルス感染に抵抗力を有するNIH3T3細胞が、活性化されたSos、Ras、またはverbB(EGFRの下流にある)で形質転換されると感受性になることを実証することができた(ストロング(Strong)ら、1996;ストロング(Strong)ら、1998)。腫瘍形成性Rasシグナル伝達経路の利用は、このようにレオウイルス腫瘍崩壊の重要なステップと考えられる。
【0021】
多くのヒトのがんがRas経路の活性化を示すことから、腫瘍形成に対するこのシグナル伝達ネットワークの強い影響が強調され、かつレオウイルスが様々な種類の腫瘍において幅広い潜在的腫瘍崩壊能力を発揮しうることが示唆される。初期の実験から、様々な種類の腫瘍を起源とする細胞株の80%以上がレオウイルスを媒介した殺滅に対する感受性を有することが見出された(コッフィ(Coffey)ら、1998)。より興味深いことには、別の発がん遺伝子(Myc)もレオウイルス腫瘍崩壊に寄与する。Mycの過剰発現は、レオウイルス耐性細胞の感受性を高めてレオウイルス許容性とする(イーガン(Egan)ら、2003)。
【0022】
ミキソーマウイルスは、有望な腫瘍崩壊ウイルス基盤と考えられる、ウサギ特異的なポックスウイルスである(総説はスタンフォード(Stanford)およびマクファデン(McFadden)、2007)。該ウイルスの宿主指向性は、ヨーロッパアナウサギに高度に限定され、また該ウイルスは、ヒトを含む試験した他のすべての脊椎動物種には非病原性である(マクファデン(McFadden)、2005)。この厳重な特異性にもかかわらず、ミキソーマウイルスは種々様々のヒト腫瘍細胞株に感染して殺滅することができる(サイプラ(Sypula)ら、2004)。細胞レベルでのミキソーマウイルスの指向性は、特異的な宿主受容体のレベルではなく、ウイルスの結合および侵入の下流の細胞内事象によって主に調節される(マクファデン(McFadden)、2005)。
【0023】
ミキソーマウイルス腫瘍崩壊の分子基盤は、ヒトがん細胞におけるウイルス許容性を制御するウイルスの宿主域決定因子に関する研究を通じて提示された。ウイルスのM−T5宿主域決定タンパク質が細胞のAktと相互作用し、この相互作用がヒトがん細胞におけるミキソーマの腫瘍崩壊能力を増強することが示されている(ワング(Wang)ら、2006)。M−T5 KO(ノックアウト)ミキソーマウイルスはある種のヒトがん細胞群(タイプIIと称されるがん細胞)においてウイルス腫瘍崩壊能力の低下を示すが、構成的にAktが活性化されたがん細胞はなおもM−T5 KOミキソーマウイルスに対して許容性であり、このことから多くのがん細胞で高頻度に見られるAktのアップレギュレーションがミキソーマの腫瘍崩壊能力の決定に重要な役割を果たしていることが示唆される(ワング(Wang)ら、2006)。
【0024】
ウイルス性腫瘍崩壊と腫瘍抑制遺伝子との間の関係は、当初はアデノウイルスに関する研究を通じて提示された。ヒトアデノウイルスE1B遺伝子は、細胞の腫瘍抑制タンパク質p53に結合して不活性化する55kDのタンパク質をコードする。このウイルスタンパク質を発現しない突然変異アデノウイルスは、p53機能不全のヒト腫瘍細胞の中では複製可能でありかつ該細胞を殺滅することができるが、機能的p53を備えた細胞ではできないことが示された(ビスチョフ(Bischoff)ら、1996)。この突然変異アデノウイルスの腫瘍崩壊に関する根本的な基盤は、アデノウイルスのE1Aによって引き起こされるp53依存的アポトーシスが、p53の欠失または突然変異に起因するp53機能不全のがん細胞では損なわれるということである(ビスチョフ(Bischoff)ら、1966)。しかしながら、後の研究では、p53依存的なアデノウイルスの腫瘍崩壊はより複雑であり、様々なモデルにおいてさらなる経路に応答することが示された(オシエー(O’Shea)ら、2004;アボー(Abou)ら、2004;ロイズ(Royds)ら、2006)。実際、このことから本発明者らは、p53機能不全のがん細胞がゲノムの不安定性により細胞の抗ウイルス機構の混乱をきたしている可能性があると推測した(キャロル(Carroll)ら、1999)。
【0025】
p53によるゲノム維持の重要性から、p53遺伝子は細胞ゲノムの保護者であると考えられている(ゴメス=ラザロ(Gomez−Lazaro)ら、2004;フォーゲルスタイン(Vogelstein)ら、2000)。p53を介してゲノムが維持されるため、正常な細胞は完全な抗ウイルス機構を保持することができる。しかしながら、p53の機能不全は、全体的なゲノムの不安定性によって引き起こされる(抗ウイルス機構の損失による)ウイルス感受性を最終的にもたらす可能性がある。最近の研究から、p53が、アポトーシス促進遺伝子および腫瘍抑制遺伝子としてのp53の機能とは無関係のIFN依存的な抗ウイルス活性を増強することにより先天性免疫に寄与することが示された(タカオカ(Takaoka)ら、2003;ムニョス=フォンテラ(Munoz−Fontela)ら、2008)。p53の転写上の役割はウイルス感染時のIFN経路の活性化において重要である。p53は、ウイルス接種時にIFN調節因子9の転写を活性化することができる(ムニョス−フォンテラ(Munoz−Fontela)ら、2008)。さらに、がん細胞においてp53発現が低下すると著しく高いウイルス複製レベルが観察された(ダーレル(Dharel)ら、2008)。これらの知見は、p53の重要な抗ウイルス活性を実証している。これは、DNA修復およびゲノムの安定において重要な他の腫瘍抑制遺伝子の場合にも当てはまるかもしれない。本発明者らはここで、p53、ATMまたはRbのいずれかが正常に機能しないがん細胞はレオウイルスおよびミキソーマウイルスのいずれの接種に対しても極めて感染しやすくなり、このことが、特定の発がん遺伝子シグナル伝達経路の活性化によって増強されうる感受性に加えて、種々の腫瘍崩壊ウイルスがどのようにして正常細胞とがん細胞とを識別できるかを明らかにする助けとなる可能性があることを示す。これらの遺伝的異常と腫瘍崩壊ウイルス感受性との間の関係の検証は、腫瘍崩壊ウイルス療法の適用の可能性を大幅に増大させる。
【0026】
I.腫瘍崩壊ウイルス
A.レオウイルス
レオウイルス(レオウイルス科)は、10本に分割されて2つの同心性の二十面体タンパク質カプシドによって包囲された二本鎖RNA(dsRNA)ゲノムを有する、天然に存在する非エンベロープウイルスのファミリーを含んでなる。これらのウイルスは胃腸系および呼吸器官に影響を及ぼす場合がある。レオウイルス科という名前は「呼吸器・腸管オーファンウイルス」に由来する。「オーファン(孤児)」ウイルスという用語は、既知の疾病とは関係していないウイルスを意味する。レオウイルス科ファミリーのウイルスは近年では様々な疾病とともに特定されてきたが、元の名がまだ使用されている。
【0027】
レオウイルス感染はしばしばヒトにおいて生じるが、ほとんどの場合は軽度であるか不顕性である。該ウイルスは、糞便中に容易に検出可能であり、咽頭または鼻の分泌物、尿、脳脊髄液、および血液からも検出可能である。臨床検査材料中にレオウイルスを見出すのが容易であるにもかかわらず、ヒトの疾病または治療における該ウイルスの役割は依然として不確かである。
【0028】
レオウイルスは非エンベロープ型であり、外側および内側のタンパク質シェルから構成された二十面体の(iscohedral)カプシド(T−13)を有している。レオウイルス科のウイルスのゲノムは、その大きさに対応する3つのカテゴリー、すなわちL(大)、M(中)およびS(小)に分類される10−12本のセグメントを含有している。セグメントはおよそ3.9〜1kBに及び、各セグメントは1〜3個のタンパク質をコードする。レオウイルス科のタンパク質は、該タンパク質が翻訳されたセグメントに対応するギリシア文字によって表示される(Lセグメントはλタンパク質をコードし、Mセグメントはμタンパク質をコードし、Sセグメントはσタンパク質をコードする)。
【0029】
これらのウイルスはdsRNAゲノムを有するので、複製は細胞質においてのみ行われ、該ウイルスは、dsRNAゲノムの複製および(+)−RNAへの変換に必要とされるいくつかのタンパク質をコードしている。該ウイルスは細胞表面上の受容体を介して宿主細胞に入ることができる。受容体は知られていないが、シアル酸および接合部接着分子(JAM)を備えていると考えられている。該ウイルスは、エンドリソソーム中のプロテアーゼによって部分的に脱殻するが、エンドリソソームではカプシドが部分的に消化されてさらなる細胞侵入が可能となる。その後、いまだ未知のプロセスによってコア粒子が細胞質に入り、細胞質ではゲノムが保存的に転写され、その結果過剰な(+)センス鎖が生じ、(−)センス鎖を合成するためのmRNA鋳型として使用される。ウイルス粒子は感染の6〜7時間後に細胞質中で集合し始める。
【0030】
感染性を有する哺乳動物レオウイルスのビリオンは直径およそ85nmの粒子として生じる。ビリオンの外側カプシドはいくつかの別個のタンパク質分子種を備え、中でも、シグマ−1(σ1、50kDa)は不連続の炭水化物結合ドメイン(チャッペル(Chappell)ら、1997;チャッペル(Chappell)ら、2000;コナリー(Connolly)ら、2001)およびビリオン固定ドメイン(マー(Mah)ら、1990;フェルナンデス(Fernandes)ら、1994;リー(Lee)ら、1994)を介して宿主細胞表面へのウイルスの付着を媒介する(リー(Lee)ら、1981;ダンカン(Duncan)ら、1991;ナガタ(Nagata)ら、1987;ターナー(Turner)ら、1992)。σ1はバイシストロニックなレオウイルスS1遺伝子の産物であり、該遺伝子は、別個であるが重なり合う読枠を使用してσ1sと呼ばれる非構造タンパク質もコードしている(エルンスト(Ernst)ら、1985;ジェーコブス(Jacobs)ら、1985;サルカール(Sarkar)ら、1985)。σ1を欠くレオウイルス粒子は非感染性であることが報告されている(ラルソン(Larson)ら、1994)。レオウイルスS1遺伝子は、レオウイルスの病原性の決定に重要な役割を果たすと考えられてきた(ハラー(Haller)ら、1995;ウィルソン(Wilson)ら、1994;ケイ(Kaye)ら、1986;ウェイナー(Weiner)ら、1980)。
【0031】
i.がん治療における野生型レオウイルス
がん治療における野生型レオウイルスの生産および使用に関して一定の方法が述べられてきた(例えば、米国特許第7,300,650号、同第7,163,678号、同第7,049,127号、同第7,014,847号、同第6,994,858号、同第6,811,775号、同第6,703,232号、同第6,576,234号、同第6,565,831号、同第6,528,305号、同第6,455,038号、同第6,344,195号、同第6,261,555号、同第6,136,307号および同第6,110,461号、ならびに米国特許出願公開番号第2006/0165724号、同第2006/0073166号、同第2005/0123513号、同第2004/0265271号、同第2004/0126869号、同第2004/0109878号、同第2002/0037543号、同第2006/0029598号、同第2005/0026289号、同第2002/0006398号および同第2001/0048919号明細書、これら特許文献はそれぞれ参照により全体が権利放棄を伴わずに援用される)。
【0032】
ii.がん治療における弱毒化レオウイルス
しかしながら、生後間もない動物およびSCID(重症複合免疫不全症)の動物のような免疫不全の宿主では、野生型レオウイルスは特に神経組織および心筋組織においてかなりのウイルス病原性を発揮する(セービン(Sabin)、1959;ウェイナー(Weiner)ら、1977;バティ(Baty)ら、1993;ローケン(Loken)ら、2004)。場合によっては、ヒトを含む免疫能力を有する宿主においてさえ、野生型レオウイルスがウイルス病原性を伴っていた(ターヘッゲン(Terheggen)ら、2003、ヒラサワ(Hirasawa)ら、2003)。したがって、特に免疫不全の宿主または非常に若い宿主では、野生型レオウイルスは必ずしも害の無い方式で作用するとは限らない。例えば、非常に若い動物または免疫不全の成獣のような免疫的に無防備な宿主では、このウイルスは何らかの健康な組織、例えば心臓、肝臓、膵臓および神経構造物に感染することも示されている。この問題はさらに、大規模な放射線/化学療法の治療を受けたがん患者に当てはまる、というのも該患者は免疫抑制を起こしやすいからである。従って、ウイルス腫瘍崩壊療法のための、病毒性のより低いレオウイルスの開発が明らかに必要とされている。
【0033】
さらに、野生型レオウイルスは多くの場合、該ウイルスのin vitroでの使用の可能性を制限する、望ましくない病毒性および感染力を所有する。具体的には、細胞培養物(例えばがん患者から採取された骨髄移植片)を野生型レオウイルスに曝露すると、がん患者の免疫系の再生などの目的に必要とされる幹細胞のような細胞を殺滅するという望ましくない副作用がもたらされる可能性がある。従って、野生型レオウイルスの高い病毒性は、レオウイルスへの細胞の曝露を伴うin vitroでの適用という臨床上の可能性に大幅な制限を呈する。
【0034】
本明細書中に記載された弱毒化レオウイルスは検出可能な完全長σ1カプシドタンパク質を欠くが、それでも予想外なことに感染性を有する。σ1は、ウイルスの感染複製の第一歩における細胞表面シアル酸残基を介した細胞へのレオウイルスの結合および付着に関係していた(リー(Lee)ら、1981;ダンカン(Duncan)ら、1991;ナガタ(Nagata)ら、1987;ターナー(Turner)ら、1992;チャッペル(Chappell)ら、1997;チャッペル(Chappell)ら、2000;コナリー(Connolly)ら、2001)。完全長σ1を欠いているにもかかわらず、本明細書中に記載された弱毒化レオウイルスは、宿主細胞への侵入能および細胞崩壊性のウイルス複製能を有する。さらに、この弱毒化レオウイルスは、天然に存在する非弱毒化レオウイルスによって非悪性細胞に対して示される細胞変性効果のレベルと比較して低い(すなわち、統計的に有意に低い)レベルの、非悪性細胞に対する1つ以上の細胞変性効果を引き起こす、という驚くべき特性を示す。従って、かつ以下により詳細に説明されるように、本明細書中に提供される弱毒化レオウイルスは先行技術のレオウイルスを上回る改善を示し、正常な(例えば、非悪性の)細胞への指向性および正常細胞の細胞溶解のような望ましくない副作用を伴わない腫瘍崩壊薬として使用する適性を備えている。具体的には、この弱毒化レオウイルスは、がん細胞または新生細胞の選択的殺滅のためにin vitroで使用可能である。
【0035】
ある実施形態では、2006年8月5日に出願された米国特許出願第60/704,604号、および2006年7月31日に出願された国際特許出願第PCT/US2006/029881号(該特許文献は参照により全体が権利放棄を伴わずに本願に援用される)に記載されているような弱毒化レオウイルスが本発明と共に使用されうる。ある実施形態では、弱毒化レオウイルスは野生型レオウイルスS1遺伝子を欠いていてもよい。弱毒化レオウイルスは、減少しているかもしくは検出不能であるかのうち少なくともいずれかである量のS1遺伝子産物(σ1)、または短縮型、突然変異型、もしくは機能不全型のうち少なくともいずれかであるσ1を生産するS1遺伝子を有していてもよい。弱毒化レオウイルスは、野生型S1遺伝子と比較して1つ以上の突然変異を含んでいるS1遺伝子を有していてもよく、該突然変異は、ヌクレオチド置換、ヌクレオチド欠失またはヌクレオチド挿入である。
【0036】
本明細書中に記載された「弱毒化」レオウイルスには、宿主細胞に対する感染性、宿主細胞における複製特性、または宿主細胞溶解特性のうち少なくともいずれかが、既知の天然に存在するすなわち野生型のレオウイルスが示す1または複数のそのような特性のレベルと比較して変化している(すなわち統計学的に有意に増大または低下している)レオウイルスが挙げられる。ある実施形態では、弱毒化レオウイルスは、野生型レオウイルスに比べて低下した感染力、複製能力および/または溶解能を示すことになろう。本明細書で開示されるような弱毒化レオウイルスを識別することができる、そのような変化した特性の例としては、ウイルスの細胞変性効果の様々な徴候、例えば、所与の宿主細胞の増殖感染に必要な感染多重度(MOI、各細胞に感染するビリオンの平均数)、ウイルス感染によって引き起こされる宿主細胞溶解反応(さらにアポトーシスおよび/またはネクローシスを含む)の程度、細胞溶解性のウイルス複製に続いて増殖感染した宿主細胞から放出されるウイルスの力価、および当業者が宿主細胞に対するウイルス活性を測定することができるその他のパラメータ、が挙げられる。細胞変性効果の他の徴候には、宿主細胞の形態変化、宿主細胞を介した免疫系による攻撃を誘発する能力の変化、(細胞外マトリックスタンパク質もしくは半固体の増殖培地のような支持体、または他の細胞への)細胞接着の変化、1つ以上の細胞遺伝子の発現レベルの変化、宿主細胞の複製能力の変化、および/または細胞の代謝活動のその他の変化が挙げられる。
【0037】
レオウイルスのS1遺伝子セグメントがレオウイルスの病毒性に大きく関係していること(ウェイナー(Weiner)ら、1977;ウェイナー(Weiner)ら、1980;マン(Mann)ら、2002)を考慮して、本発明者らは意外にも、培養細胞の持続的レオウイルス感染物からS1弱毒化レオウイルス(「AVレオウイルス」)を分離した(キム(Kim)ら、2007)。この弱毒化レオウイルス株は、in vivoにおけるウイルス腫瘍崩壊活性を損なうことなく、免疫不全動物モデルにおいてウイルス病原性の著しい低下を示した。野生型レオウイルスは、発生を遅らせて胚盤胞形成を阻害することによりラットおよびマウスの胚の発生に悪影響を及ぼすことが知られている(プリスコット(Priscott)、1983;ヘギー(Heggie)ら、1979)ので、本発明者らは幹細胞に対するAVレオウイルスの病原性をさらに評価した。したがって、本発明者らは、胚性幹細胞(ESC)に対する野生型レオウイルスおよびAVレオウイルスの病原性を比較した。以下の実施例において示すように、野生型レオウイルスはin vitroにおいてESCに容易に感染し、かつ奇形腫モデルにおいて幹細胞の成長を有意に抑制する一方、AVレオウイルスはin vitroにおいてESCに最小限に感染し、奇形腫モデルにおいて幹細胞の成長に影響を及ぼさない。
【0038】
様々な実施形態において、弱毒化レオウイルスは1つ以上のさらなる突然変異を含んでなることができる。例えば、ある種の他の実施形態では、弱毒化レオウイルスは野生型レオウイルスS4遺伝子を欠く場合がある。レオウイルスの野生型S4遺伝子は、宿主細胞のレオウイルス複製感染の際のビリオンのプロセシングに関与するレオウイルスのカプシドσ3ポリペプチドをコードする(例えばアフマッド(Ahmed)ら、1982;ジアンティニ(Giantini)ら、1984)。
【0039】
弱毒化レオウイルスは複製能力を有するレオウイルス・ビリオンを含んでなる場合もある。さらに、弱毒化レオウイルスは、S1遺伝子またはS4遺伝子のうち少なくともいずれか一方に遺伝的変異(例えば置換、挿入、欠失)を有する可能性もある。野生型レオウイルスのS1遺伝子は当業者には既知である。例えば、野生型のS1遺伝子配列は、感染者の呼吸組織または腸管組織から単離された主要な型の天然に存在するレオウイルスにおいて同定されたS1遺伝子配列、またはそのような配列に由来する共通配列を備えている。ヒトのレオウイルスを含むいくつかのレオウイルスのS1遺伝子配列が決定されており(例えば、ヒトのレオウイルスのS1遺伝子配列のGenbank登録番号:ヒトの3型レオウイルスS1:X01161;ヒトの2型レオウイルスS1:M35964;ヒトの1型レオウイルスS1:M35963)、σ1タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列ならびにコードされるσ1タンパク質自体のアミノ酸配列が含まれている(例えば、主なヒトのレオウイルス血清型のS1遺伝子配列のGenbank登録番号:ヒトの1型レオウイルスLang株(T1L)登録番号M35963;ヒトの2型レオウイルスJones株(T2J)登録番号M35964;ヒトの3型レオウイルスDealing株(T3D)登録番号X01161;ヒトの3型レオウイルスAbney株(T3A)登録番号L37677)。
【0040】
ある実施形態によれば、野生型レオウイルスS1遺伝子を欠くか、または完全なレオウイルスσ1カプシドタンパク質をコードすることができない変異型レオウイルスS1遺伝子を含むレオウイルス・ゲノムを含んでなる、弱毒化レオウイルスが提供される(ヒトのレオウイルスS1遺伝子配列のGenbank登録番号:ヒトの3型レオウイルスS1:X01161;ヒトの2型レオウイルスS1:M35964;ヒトの1型レオウイルスS1:M35963)。レオウイルスS1遺伝子の配列決定により変異型S1遺伝子が存在するかどうかを判断する方法は、本開示から明らかとなり、また当分野で既知であって、例えば、オースベル(Ausubel)ら(1989);オースベル(Ausubel)ら(1993);サムブルック(Sambrook)ら(1989);マニアティス(Maniatis)ら(1982);グラバー(Glover)(1985);ハームス(Hames)およびヒギンズ(Higgins)(1985);ならびに他所に記載されている技法に従う。よって変異型S1遺伝子とは、容易に決定することができるように、1つ以上のヌクレオチド置換、ヌクレオチド挿入、およびヌクレオチド欠失により、対応するS1の野生型配列または共通配列のヌクレオチド配列とは1または複数のヌクレオチド配列位置において異なっているポリヌクレオチド配列を有するS1遺伝子を指す。σ1タンパク質をコードしているネズミ科動物のレオウイルスS1遺伝子配列中のいくつかの突然変異がホイテ(Hoyt)ら(2005)に開示されているが、本明細書に記載された本発明のある実施形態によれば、ホイテらの突然変異は明らかに除外される。
【0041】
本明細書中に記載され、かつ当分野で知られているように、レオウイルスの外側カプシドσ1タンパク質はその生化学的かつ/または免疫化学的特性に基づいて(例えば、マー(Mah)ら、1990;レオーネ(Leone)ら、1991;チャッペル(Chappell)ら、1997)、典型的には1または複数の技法、例えば免疫検出法(例えばσ1特異的免疫沈降、ウエスタンイムノブロット解析、免疫アフィニティクロマトグラフィ、免疫蛍光染色、免疫細胞蛍光測定、放射性同位体で標識されたレオウイルス・ポリペプチドの電気泳動など)、血球凝集、かつ/または関連する方法の使用により、容易に検出可能である。従って、レオウイルスσ1タンパク質を検出するための上記およびその他の手段は確立されており、また本明細書中の教示を考慮すれば、当業者には、σ1タンパク質の検出に関して分野で容認される基準および最先端技術の感度がどんなものであるかが理解され、従って、複製能力を有するレオウイルス・ビリオンであって「検出可能な」レオウイルスσ1カプシドタンパク質を欠くものには、現時点で標準的なσ1タンパク質検出作業が(存在する場合に)使用されても完全なσ1タンパク質は検出できないようなレオウイルスが含まれると理解されることになる。
【0042】
そのような弱毒化レオウイルスについて記載された米国特許出願番号第11/997,537号明細書は参照により本願に組込まれる。
iii.レオウイルス感染の対照
ある実施形態では、細胞組成物にペプチジルフルオロメチルケトン(PFMK)が加えられて、レオウイルスの抑制または該組成物からの排除がなされてもよい。全体が参照により本願に組込まれる同時係争中の米国仮特許出願シリアル番号第60/906,706号明細書には、ウイルスの複製を抑制するためのペプチジルフルオロメチルケトン(PFMK)について記載されており、全体が参照により権利放棄を伴わずに本願に援用される。
【0043】
iv.レオウイルスの生産
本明細書に開示されたある実施形態によれば、レオウイルスは任意のレオウイルスに由来するものであってよく、任意のレオウイルスとは、レオウイルス科に属するものを指し、様々な指向性を有するレオウイルスを含み、かつ様々な供給源から得ることが可能である(タイラー(Tyler)およびフィールズ(Fields)、1996)。ある実施形態では、哺乳動物のレオウイルスおよびヒトのレオウイルスが想定されるが、本発明はそのように限定されることは意図されておらず、本開示に基づけば、そのような目的にはいかなる特定のレオウイルスも望ましい可能性がある状況が当業者には認識されよう。ある実施形態では、レオウイルスはヒトの3型(Dealing)、1型(Lang)、2型(Jones)、または3型(Abney)レオウイルスであってよいが、ある他の実施形態では、レオウイルスは、他の哺乳類生物種、例えばヒト以外の霊長類(例えばチンパンジー、ゴリラ、マカク、サルなど)、げっ歯動物(例えばマウス、ラット、アレチネズミ、ハムスター、ウサギ、モルモットなど)、イヌ、ネコ、一般的な家畜(例えば、ウシ、ウマ、ブタ、ヤギ、など)の細胞への指向性を示す1つ以上のレオウイルスに由来してもよいし、別例として、別個の指向性を有するレオウイルス(例えば鳥類のレオウイルス)が使用されてもよい。
【0044】
本明細書中に記載されるように、ある実施形態は、in vitroでの持続感染法の後に回収可能な弱毒化レオウイルスに関するが、他の方法に従って得ることが可能な弱毒化レオウイルスも企図され、該方法には例えば、in vivoでの持続感染法、分子生物学的手法によるσ1欠損かつ/またはσ1欠陥変異体の生成および同定(ある実施形態では、追加または別例として、σ3欠損かつ/またはσ3欠陥変異体の生成および同定も含まれる)、さらには天然に存在するσ1欠損かつ/またはσ1欠陥変異体および/またはσ3変異体の単離、または、化学的技法、物理的技法、もしくは遺伝学的技法(例えば、増殖感染した宿主細胞におけるレオウイルス遺伝子の選別的組換え(assortative recombination))のうち少なくともいずれかによるそのようなσ1(かつ/またはσ3)突然変異の人工的誘導、のうち少なくともいずれかが挙げられる。
【0045】
さらに、本発明者は、ウイルスの感染性、複製能力もしくはパッケージング能力に影響を及ぼす他の遺伝子、例えばレオウイルスの10本の遺伝子セグメントのようなウイルス上にコードされている任意の遺伝子またはその組み合わせにおいて望ましい弱毒化表現型をもたらす突然変異が観察される可能性があると予想する。例えば、レオウイルスのS1遺伝子またはS4遺伝子の突然変異は、レオウイルス野生型遺伝子と比較して、レオウイルスの10本の遺伝子セグメント上に1つ、2つ、3つ、4つまたは5つ以上の突然変異を伴う可能性がある。例えば米国特許出願第60/704,604号明細書に記載の方法を含む様々な方法を使用して、弱毒化レオウイルスを生成させることができる。
【0046】
B.ミキソーマウイルス
ミキソーマウイルスはポックスウイルスであり、大型の(25kb)治療に関連する真核細胞遺伝子の潜在的な挿入を可能にする大型の二本鎖DNAゲノムを有する。ミキソーマウイルスはウサギに特有のウイルスであり、ヨーロッパアナウサギ(Oryctalagus cuniculus)において粘液腫症と呼ばれる致死性の疾病を引き起こす。その種特異性は非常に厳格であるので、該ウイルスは1950年代のオーストラリアにおいて災害を招く野生化ウサギの個体数を制御するために使用された。重要なことには、該ウイルスはヒトを含む試験した他のすべての脊椎動物種には非病原性であるが、ある種の非ウサギ細胞、例えば不死化したベビーモンキー腎線維芽細胞(BGMK)、遺伝学的にIFN応答不全の初代マウス細胞、およびin vitroのいくつかの異なるヒト腫瘍細胞に、in vitroで複製感染することができる。がん細胞はそのIFN応答が欠けていることが良く知られている。近年、ミキソーマウイルスは、実験的グリオーマに対してin vitro、in vivoで、またヒトの悪性グリオーマ外科検体に対してex vivoで腫瘍崩壊剤であることが示された(ラン(Lun)ら、2005;2007;スタンフォード(Stanford)ら、2008)。該ウイルスはヒトのグリオーマ細胞に感染して殺滅させることが可能であり、脳内投与されても安全で、かつ同所性ヒト悪性グリオーマモデルにおいて腫瘍内投与されるとマウスを「治癒させる」。さらに、該ウイルスはグリオーマ外科検体から直接得られたすべての試験した初代グリオーマ細胞に感染して殺滅し、かつその腫瘍崩壊活性はラパマイシンによって増強される。
【0047】
ミキソーマウイルスは、レオウイルスのような他の腫瘍崩壊ウイルスのように、細胞内で複製することができるように正常な健常細胞に存在する抗ウイルス防御を回避する必要がある。ミキソーマウイルスおよび他の腫瘍崩壊ウイルスはインターフェロン産生を引き起こし、一般にIFN経路の抗ウイルス作用に感受性を有する。IFNの抗ウイルス応答によって誘導され、かつウイルス増殖に主として影響を及ぼす関連タンパク質には、PKR、OAS合成酵素およびRnase Lヌクレアーゼが挙げられる。PKRはeIF2αを活性化して翻訳の抑制およびアポトーシスの誘導をもたらす。正常な細胞では、ミキソーマウイルスはPKRおよびeIF2αによって直接影響を受ける。
【0048】
抗ウイルス応答経路は、がん細胞では混乱していることが多い。例えば、IFNに対する応答の低下または欠陥は、形質転換および腫瘍発育の過程でしばしば発生する遺伝的欠陥である。腫瘍細胞株の80%以上はインターフェロンに応答しないかインターフェロンへの応答不全を示す。(ストジル(Stojdl)ら、2003および同文献で引用されている参照文献;ウォン(Wong)ら、1997;サン(Sun)ら、1998;マティン(Matin)ら、2001;バラチャンドラン(Balachandran)ら、2004)。米国特許出願公開第2006/0263333号(参照により組込まれる)には、ヒト腫瘍細胞を含むがん細胞に感染して殺滅するためのミキソーマウイルスの使用について記載されており、同文献は参照により全体が本願に組込まれる。
【0049】
II.腫瘍抑制因子
腫瘍抑制遺伝子は、がんに至る経路上の1つのステップから細胞を防御する遺伝子である。この遺伝子が損傷を受けると、細胞は、通常は他の要因の影響を受けた後で、がんへと進行する可能性がある。発がん遺伝子とは異なり、腫瘍抑制遺伝子は一般に、結果が現われる前には特定の遺伝子をコードする両方の対立遺伝子が影響を受ける必要があることを示唆する「ツーヒット仮説(two−hit hypothesis)」に従う。これは、該遺伝子の一方の対立遺伝子だけが損傷を受けた場合はもう一方が今までどおり適切なタンパク質を生産することができるという事実による。言い換えれば、腫瘍抑制遺伝子は、一般にハプロ不全である発がん遺伝子とは対照的に通常はハプロ充足性(haploinsufficient)である。当然ながら、正常なp53タンパク質に対して優性阻害の突然変異型として存在することができるp53遺伝子産物のような明らかな例外もあり、そのような場合もしたがってハプロ不全である。
【0050】
腫瘍抑制遺伝子、またはより正確には該遺伝子がコードするタンパク質は、細胞周期の調節に減退作用もしくは抑制作用を有するか、またはアポトーシスを促進し、時には両方をなす。腫瘍抑制タンパク質の機能は下記を含むいくつかのカテゴリー:(a)細胞周期の継続にとって不可欠な遺伝子の抑圧(これらの遺伝子が発現しなければ細胞周期は継続せず、細胞分裂が効果的に抑制される);(b)細胞周期のDNA損傷への共役。細胞内に損傷DNAがある限り、細胞は分裂しないはずである(損傷が修復可能である場合、細胞周期は継続することができる);(c)アポトーシスすなわちプログラム細胞死の誘導、損傷を修復することができない場合は、生物体にとってより大きな善のために該損傷がもたらす脅威を除去する;および(d)細胞接着に関与するいくつかのタンパク質は、腫瘍細胞の分散を防止し、接触阻止現象の喪失を阻止し、転移を抑制する(転移抑制因子として知られているタンパク質)、に分類される。
【0051】
対照的に、発がん遺伝子はがんを引き起こす遺伝子である。多くの細胞は、通常は死ぬ運命にある。がんでは、突然変異した発がん性DNA塩基配列の存在のために、それらの細胞は生存し増殖する。ほとんどの発がん遺伝子は、がんを引き起こすのに、別の遺伝子の突然変異のような付加的ステップ、またはウイルス感染のような環境要因を必要とする。1980年代以来、多数の発がん遺伝子がヒトのがんにおいて同定されてきた。がん原遺伝子は、突然変異または発現増大により発がん遺伝子になる可能性のある正常遺伝子である。がん原遺伝子は、細胞の増殖および分化の調節を支援するタンパク質をコードする。がん原遺伝子は多くの場合、通常はそのタンパク質産物を通してシグナル伝達および細胞分裂促進シグナルの実行に関与する。活性化されると、がん原遺伝子(またはその産物)は腫瘍誘発作用因子(発がん遺伝子)になる。がん原遺伝子の例には、RAS、WNT、MYC、ERKおよびTRKが挙げられる。
【0052】
A.p53
p53(登録番号NM_000546)は、細胞周期を調節し、腫瘍抑制因子として機能する転写因子である。p53は、一部にはDNAに損傷を与える細胞応答の調整における役割を通じて、がんの抑制を支援するので、多細胞生物においては重要である。p53は、ゲノムの突然変異を防止することによる安定性の保持におけるその役割を指して、「ゲノムの守護者(the guardian of the genome)」、「守護天使遺伝子(the guardian angel gene)」、または「熟練の番人(master watchman)」と評されてきた。
【0053】
p53という名前はSDS−PAGE上の見かけの分子量に関連しているが、実際のところ本当はわずか43.7kDである。この違いは、SDS−PAGEにおけるp53の移動を遅くすることによりp53を大きく見せている、p53タンパク質中の多数のアミノ酸プロリン残基に起因する。この作用は、ヒト、げっ歯動物、カエルおよび魚を含む様々な生物種由来のp53に見られる。遺伝子はヒト17番染色体(17p13.1)に位置し、5つのドメイン:(a)転写因子を活性化するN末端転写活性化ドメイン(TAD)(残基1−42);(b)p53のアポトーシス活性にとって重要なプロリンリッチドメイン(残基80−94);1つの亜鉛原子およびいくつかのアルギニン・アミノ酸を含有する中央DNA結合コアドメイン(DBD)(残基100−300);ホモオリゴマー化ドメイン(OD)(残基307−355);ならびに中央ドメインのDNA結合のダウンレギュレーションに関与するC末端(残基356−393)、を備えた393アミノ酸のタンパク質をコードする。
【0054】
がんにおいてp53を不活性化する突然変異は、通常はDBDに生じる。これらの突然変異のほとんどは、該タンパク質がその標的DNA配列に結合する能力を破壊し、ひいてはこれらの遺伝子の転写活性化を妨げる。そのため、DBDにおける突然変異は劣性の機能喪失の突然変異である。ODに突然変異を有するp53の分子は野生型p53とともに二量体化し、p53が転写を活性化するのを妨げる。したがって、OD突然変異はp53の機能に対する優性阻害効果を有する。
【0055】
p53は多くの抗がんメカニズムを有する。例えば、DNAが損傷を受けた場合、p53はDNA修復タンパク質を活性化することができる。p53はまた、DNA損傷を認識した状態でG/S調節ポイントに細胞周期を保持することもできる(p53がここで十分に長い間細胞を保持すれば、DNA修復タンパク質が損傷を確かめる時間を有することになり、細胞は細胞周期を継続することができるようになる)。p53は、DNA損傷が回復不能であると判明した場合、アポトーシス(プログラム細胞死)を開始することもできる。
【0056】
p53は無数の種類のストレスに応答して活性化されるが、該ストレスには、限定するものではないが、DNA損傷(UV、IRまたは過酸化水素のような化学薬品のいずれかによって引き起こされたもの)、酸化ストレス、浸透圧ショック、リボヌクレオチド枯渇および無秩序ながん遺伝子発現が挙げられる。この活性化は2つの主要な事象を特徴とする。第1に、p53タンパク質の半減期が劇的に増大し、その結果ストレスを受けた細胞においてp53が迅速に蓄積する。第2に、構造変化により強制的に、p53がこれらの細胞において転写調節因子としての積極的役割を引き受けるようになる。p53の活性化をもたらす決定的な事象はそのN末端ドメインのリン酸化である。N末端転写活性化ドメインは多数のリン酸化部位を含有しており、ストレス・シグナルを伝達するプロテインキナーゼの一次標的と見なすことができる。
【0057】
p53のこの転写活性化ドメインを標的とすることが知られているプロテインキナーゼは、概略的に2つの群に分けることができる。第1群のプロテインキナーゼはMAPKファミリー(JNK1−3、ERK1−2、p38 MAPK)に属し、膜損傷、酸化ストレス、浸透圧ショック、熱ショックなどのようないくつかの種類のストレスに応答することが知られている。第2群のプロテインキナーゼ(ATR、ATM、Chk1、Chk2、DNA−PK、CAK)は、ゲノム完全性チェックポイント、すなわち遺伝毒性ストレスによって引き起こされるいくつかの形のDNA損傷を検出して応答する分子カスケード、に関係している。
【0058】
ストレスを受けていない細胞では、p53レベルはp53の絶え間ない分解によって低く保たれる。Mdm2と呼ばれるタンパク質はp53に結合してp53を核から細胞質ゾルへと輸送し、細胞質ゾルでp53はプロテアソームによって分解される。上記に述べたプロテインキナーゼによるp53のN末端側端部のリン酸化は、Mdm2の結合を妨げる。その後、Pin1のような他のタンパク質がp53に対して動員されて、Mdm2の結合をさらに妨げるp53の構造変化を引き起こす。その後、p300またはPCAFのような転写コアクチベータがp53のカルボキシ末端側端部をアセチル化して、p53のDNA結合ドメインを露出させ、p53が特定の遺伝子を活性化または抑制することを可能にする。
【0059】
B.Rb
網膜芽細胞腫タンパク質(Rb;NM_00321)は、いくつかの種類のがんにおいて機能不全であることが見出された腫瘍抑制タンパク質である。pRbは、該タンパク質をコードするRB1遺伝子の両方の対立遺伝子における突然変異によって該タンパク質が不活性化された場合に網膜芽細胞腫がんが生じるので、このように名付けられた。Rbは、通常は細胞内部にリンタンパク質として存在し、後述するようないくつかのキナーゼによるリン酸化の標的である。Rbの良く研究された1つの機能は、細胞分裂や細胞が細胞周期を経て進むのを防止することである。したがって、Rbがこの役割において無効である場合、その突然変異細胞は分裂し続けることが可能であり、がんになる可能性がある。
【0060】
Rbは、タンパク質が結合することができるポケットを有するので「ポケットタンパク質ファミリー」の一員である。ハイリスク型のヒトパピローマウイルスに感染した細胞によって産生されるもののような発がん性タンパク質は、Rbに結合してRbを不活性化することが可能であり、このことはがんをもたらす可能性がある。Rbは、細胞が細胞周期を経て進んでS期すなわち合成期に入ること、またはG1期すなわち第1ギャップ期を経て進むことを防止することにより、細胞が損傷DNAを複製するのを防止する。Rbは、E2Fファミリーの転写因子に結合して該因子を阻害する。E2F転写因子はE2Fタンパク質およびDPタンパク質の二量体である。E2プロモータ・結合タンパク質二量体化パートナー(E2F−DP)の転写活性化複合体は、細胞をS期に押し進めることができる。E2F−DPが不活性化されている限り、細胞はG1期に停滞し続ける。RbがE2Fに結合すると、該複合体は増殖抑制因子として作用し、細胞周期を経た進行を防止する。Rb−E2F/DP複合体はまた、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)タンパク質を染色質へと誘引し、さらにDNA合成を抑制する。
【0061】
低リン酸化状態ではRbは活性を有し、細胞周期の進行を阻害することにより腫瘍抑制因子としてのその役割を実行する。リン酸化によりRbは不活性化される。Rbは、ホスファターゼによりその残基のうちの1つが脱リン酸化されるG1期の終了近くで活性化され、E2Fへの結合が可能となる。細胞がS期に入る時間には、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)およびサイクリンの複合体がpRbをリン酸化してその活性を抑制する。最初のリン酸化はサイクリンD/CDK4,6によって行なわれ、続いてサイクリンE/CDK2によりさらなるリン酸化が行われる。pRbは、S期、G2期およびM期にわたってリン酸化状態を維持する。pRbのリン酸化により、E2F−DPがpRbから解離して活性を有することが可能になる。E2Fが解放されると、E2Fは、サイクリン依存性キナーゼを活性化することにより細胞が細胞周期を通るように押し進めるサイクリン(例えばサイクリンEおよびA)、ならびにポリメラーゼのDNAへの結合を支援することによりDNAの複製および修復を促進する増殖性細胞核抗原(すなわちPCNA)と呼ばれる分子のような因子を活性化する。
【0062】
C.ATM
毛細血管拡張性運動失調(AT;NM_00051)は、染色体11q22−23に位置するATM遺伝子の突然変異によって引き起こされる常染色体劣性疾患である。該遺伝子は1995年6月に特徴解析がなされ、150kbにわたってゲノムDNAに分散した66個のエキソンで構成されている。該遺伝子は、9168ヌクレオチドの読取枠を備えた13kbの成熟転写物をコードする。ATMタンパク質は約370kDaであり、遍在的に発現され、細胞核に局在している。ATMタンパク質は、細胞周期チェックポイント、二本鎖DNAの修復、および減数分裂を調節する際に役割を果たすと考えられている大型のセリン・トレオニンキナーゼである(BRCA遺伝子に似ている)。ATMは、p53、BRCA1およびCHEK2を調節する際に役割を果たすことも知られている。ATMのDNA修復における役割の一部は、テロメアがATに罹患した人ではより急速に分解することから、テロメア修復の役割であることが知られている。
【0063】
ATM遺伝子中の突然変異には2種類ある、すなわち:(a)ヌル突然変異は、タンパク質の機能の完全な喪失を引き起こし、したがって劣性遺伝してATを引き起こす突然変異である;および(b)機能が低下した安定で十分な大きさのタンパク質を生産する「ミスセンス」突然変異、例えば置換、短いインフレーム挿入および欠失など、があると考えられる。これらの突然変異体は、該タンパク質の正常なコピーを優性的に妨害することにより作用する。大多数のAT患者(65〜70%)は、特によく起こるエキソンスキッピング突然変異を備えた短縮型変異を有している。これは非常に低レベルまたは検出不能なレベルのATMタンパク質をもたらす。ミスセンス突然変異は、乳がん患者で見出された最も一般的な種類の突然変異である。2つのミスセンス突然変異を有する患者はより軽度のATを有すると考えられるが、これは軽症ATの症例の主な原因であるかもしれない。
【0064】
D.その他の腫瘍抑制因子
様々な他の腫瘍抑制因子を、p53、ATMおよびRbのように本発明において利用することができる。例えば、BRCA1およびBRCA2は乳がんの進行に重大な役割を果たす。BRCA1は無秩序な増殖を防止するためにゲノムの完全性を維持するヒト遺伝子である。多因子的なBRCA1タンパク質産物は、DNA損傷の修復、ユビキチン化、転写調節およびその他の機能に関与する。該遺伝子における変異は、いくつかの遺伝性のがん、すなわち乳がん、卵巣がんおよび前立腺がんに関係してきた。BRCA1遺伝子は、17番染色体の長腕(q)のバンド21に、塩基対38,449,843〜塩基対38,530,933に位置している(地図)。BRCA1タンパク質は、損傷を受けたDNAの修復に直接関与する。その正確な役割は不明であるが、BRCA1タンパク質はDNA二本鎖切断の修復の際にRAD51と相互作用すると考えられている。これらの切断は自然放射線または他の曝露によって引き起こされる場合があるだけでなく、精子および卵子を作り出す特別な種類の細胞分裂(減数分裂)の際に染色体が遺伝物質を交換するときにも生じうる。DNA損傷の修復に影響を及ぼすことによって、このタンパク質はヒトゲノムの安定性の維持に役割を果たす。
【0065】
BRCA2は、染色体損傷の修復に関与する別のヒト遺伝子である。BRCA1遺伝子およびBRCA2遺伝子の構造は非常に異なるが、それらの機能は似ているようである。両遺伝子によって作られるタンパク質は、損傷を受けたDNAの修復にとって不可欠である。BRCA2タンパク質は、DNA中の切断部を確かめるためにRAD51遺伝子によって生産されたタンパク質に結合して該タンパク質を調節する。これらの切断は自然放射線および医療用放射線または他の環境曝露によって引き起こされる場合があるだけでなく、精子および卵子を作り出す特別な種類の細胞分裂(減数分裂)の際に染色体が遺伝物質を交換するときにも生じうる。BRCA1タンパク質もRAD51タンパク質と相互作用する。DNAを修復することによって、これら3つのタンパク質はヒトゲノムの安定性の維持に役割を果たす。BRCA1と同様に、BRCA2は恐らくは他の遺伝子の活性を調節して胚発生に重大な役割を果たす。BRCA2遺伝子は、13番染色体の長腕(q)の部位12.3(13q12.3)に、塩基対31,787,616〜塩基対31,871,804に位置している。
【0066】
MutSは、二本鎖DNAの修復ミスマッチを支援するファミリーまたはタンパク質の主要なメンバーである。この過程の第一歩はミスマッチしたDNAの認識である。大腸菌では、MutSは二本鎖DNAのミスマッチ部位に結合し、MutLタンパク質およびMutHタンパク質と協調して、DNA鎖のうち一方の取り除くべき位置の部分に標的を定める。他のタンパク質が修復過程を完了する、すなわち:標的とされたDNA部分が取り除かれて分解され、相補鎖を鋳型として用いてパッチが合成され、該パッチが所定位置に連結されて、ミスマッチのない二本鎖DNAの修復部分が生じる。ヒトMutSホモログの一部における欠陥はある種の遺伝性非ポリポーシス大腸がん(HNPCC)および恐らくは他の結腸直腸がんの原因であるので、ヒトMutSホモログには多くの関心が寄せられてきた。
【0067】
APC(Adenomatosis polyposis coli)は、結腸直腸がんに関係する別の腫瘍抑制因子である。該因子は、細胞の分裂頻度の制御、細胞の組織内の他の細胞への接着の制御、または、細胞の組織内もしくは組織外への移動の制御を助け、また細胞分裂によって生じた細胞中の染色体数が適切となるようにするのも支援する。APCタンパク質は主として、他のタンパク質、特に細胞接着およびシグナル伝達に関与するタンパク質との関連を通して上記の役割を遂行する。具体的には、あるタンパク質、β−カテニンの活性は、Wntシグナル伝達経路の一部であるAPCタンパク質によって制御される。β−カテニンの調節は、細胞分裂を刺激する遺伝子が頻繁に作動しすぎるのを防ぎ、細胞の過剰増殖を防止する。APC遺伝子は、5番染色体の長腕(q)の部位21と22との間に、塩基対112,118,468〜塩基対112,209,532に位置している。
【0068】
AT−結合転写因子1(すなわちATBF1)は腫瘍抑制因子であり、その喪失は胃がんの進行に関係している。該因子は16q22.3〜q23.1に位置する。DNAの全長は261.32kBである。選択的スプライシングと併せた選択的プロモータ使用により、2つのアイソフォームATBF1−AおよびATBF1−Bが存在する。該タンパク質のサイズは3703アミノ酸で404kDaである。該タンパク質は、4個のホメオドメインおよび23個のジンクフィンガーを含有し、1個の偽性ジンクフィンガー・モチーフ、1個のDEADおよび1個のDEAHボックス、RNAおよびATP結合部位、2個の大型RSドメインならびに多数のリン酸化部位を備えている。該タンパク質は核に局在し、AFP遺伝子のエンハンサーのATリッチなコア配列に結合して、AFP遺伝子発現をダウンレギュレートする転写因子として作用し、恐らくは神経分化に関与する。初期神経冠由来のある細胞株SJNB−12における、染色体外二重微小染色体、mycとの非シンテニーの同時増幅、という形での増幅。ATBF1発現の欠如はα−フェトプロテインを発現する胃がん細胞株で観察される。このATBF1発現の欠如は突然変異、欠失または転座によるものではなく、転写レベルの強い抑制に起因する。
【0069】
III.腫瘍抑制因子の構造、発現または機能の評価
A.核酸に基づいた診断
本発明の1つの実施形態は、腫瘍抑制因子の発現における変動を検出する方法を含む。該方法は、腫瘍抑制因子レベルの測定または発現産物における特定の変質の測定を含むことができる。使用される核酸は、標準的な方法(サムブルック(Sambrook)ら、1989)に従ってがん細胞から単離される。該核酸はゲノムDNAであってもよいし、分画された細胞RNAまたは細胞全体のRNAであってもよい。RNAが使用される場合、該RNAを相補DNAに変換することが望ましい場合がある。1つの実施形態では、RNAは細胞全体のRNAであり;別の実施形態ではポリA RNAである。通常は、該核酸は増幅される。
【0070】
その型に応じて、対象とする特定の核酸が、増幅を使用して直接、または増幅後に第2の既知の核酸を用いて、試料中で同定される。次に、同定された産物が検出される。ある適用においては、検出は視覚手段(例えばゲルの臭化エチジウム染色)によって行なわれてもよい。別例として、検出は、化学発光、放射標識の放射活性シンチグラフィーもしくは蛍光標識による、さらには電気シグナルもしくは熱衝撃シグナルを用いるシステム(アフィマクス・テクノロジー(Affymax Technology);ベルス(Bellus)、1994)による、産物の間接的同定を包含することができる。
【0071】
1つの実施形態では、発現された腫瘍抑制因子の量はmRNA量の評価により計測される。しかしながら、様々な種類の構造上の異常を調べることによって、さらに活性の変質を同定することもできる。これらの異常には、欠失、挿入、点突然変異および重複が挙げられる。点突然変異は、停止コドン、フレームシフト突然変異またはアミノ酸置換をもたらす。体細胞突然変異は非生殖細胞系列の組織において生じる突然変異であり、遺伝性ではないが、生殖細胞系列の組織の突然変異は遺伝することができる。コード領域内およびコード領域外の突然変異は、いずれも遺伝子の転写の変化により、または転写物(mRNA)もしくはタンパク質のいずれかの不安定化もしくは他の方法でのプロセシングの変化により、産生される腫瘍抑制因子の量に影響を及ぼす可能性がある。
【0072】
腫瘍抑制遺伝子の一方の対立遺伝子が生殖細胞系列の病変の遺伝または体細胞突然変異の取得により不活性化されると、細胞は発がん性形質転換に向かって遺伝的一歩を踏み出す。該遺伝子の他方の対立遺伝子の不活性化は、通常、ヘテロ接合性喪失(LOH)をもたらす体細胞の小突然変異または染色体の対立遺伝子欠失を伴う。別例として、腫瘍抑制遺伝子の両方のコピーがホモ接合型欠失によって失われる場合もある。
【0073】
この点に関しては、様々な異なるアッセイ、例えば、限定するものではないが、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)、DNA直接塩基配列決定法、PFGE分析、サザンブロッティングまたはノーザンブロッティング、一本鎖高次構造解析(SSCA)、RNAse保護アッセイ、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド(ASO)、ドットブロット分析、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動、RFLPおよびPCRTM−SSCPが企図される。
【0074】
i.プライマーおよびプローブ
プライマーという用語は、本明細書中で定義されるように、鋳型依存的なプロセスにおいて新生核酸の合成を準備(プライミング)することができるあらゆる核酸を包含するように意図される。典型的には、プライマーは長さ10〜20塩基対のオリゴヌクレオチドであるが、より長い配列を使用することもできる。プライマーは二本鎖の形態で提供されても一本鎖の形態で提供されてもよいが、一本鎖の形態が好ましい。プローブには異なる定義がなされるが、プライマーとして働くこともできる。プローブは、恐らくはプライミングの能力を有するが、標的のDNAまたはRNAに結合するように設計されており、増幅過程に使用される必要はない。特定の実施形態では、プローブまたはプライマーは、放射性化学種(32P、14C、35S、Hまたは他の標識)を用いて、発蛍光団(ローダミン、フルオレセイン)または化学発光(ルシフェラーゼ)を用いて標識される。
【0075】
ii.鋳型依存的増幅方法
所与の鋳型試料中に存在するマーカー配列を増幅するために、いくつかの鋳型依存的なプロセスが利用可能である。最もよく知られている増幅方法の1つは、米国特許第4,683,195号、同第4,683,202号および同第4,800,159号明細書、ならびにイニス(Innis)ら、1990(該文献はそれぞれ参照によりその全体が本願に組み込まれる)に詳細に述べられているポリメラーゼ連鎖反応(PCRTMと呼ばれる)である。
【0076】
簡潔に述べると、PCRTMでは、マーカー配列の相対する相補鎖上の領域に対して相補的である2つのプライマー配列が準備される。反応混合物に、過剰量のデオキシヌクレオシド三リン酸がDNAポリメラーゼ(例えばTaqポリメラーゼ)と共に加えられる。マーカー配列が試料中に存在すれば、プライマーはマーカーに結合し、ポリメラーゼはヌクレオチドを付加することによりマーカー配列に沿ってプライマーを伸長させることになる。反応混合物の温度を上下させることによって、伸長したプライマーはマーカーから解離して反応生成物を形成し、過剰なプライマーはマーカーおよび反応生成物に結合することになり、そしてこのプロセスが繰り返される。
【0077】
逆転写酵素PCRTM増幅手法は増幅されたmRNAの量を定量化するために実施することができる。RNAをcDNAへ逆転写する方法は良く知られており、サムブルック(Sambrook)ら、1989に記載されている。逆転写の別法は耐熱性のRNA依存性DNAポリメラーゼを利用する。これらの方法は1990年12月21日に出願された国際公開公報第90/07641号パンフレットに記載されている。ポリメラーゼ連鎖反応の方法論は当分野において良く知られている。
【0078】
別の増幅方法はリガーゼ連鎖反応(「LCR」)であり、欧州特許庁(EPO)第320308号に開示されているが、該文献は参照により全体が本願に組み込まれる。LCRでは、2組の相補的なプローブ対が用意され、標的配列の存在下で、各対はそれぞれ標的の相対する相補鎖に、当接するように結合する。リガーゼの存在下では、2組のプローブ対は連結して単一ユニットを形成することになる。温度サイクリングによって、PCRTMのように、結合している連結ユニットが標的から解離し、次いで過剰なプローブ対の連結反応のための「標的配列」としての役割を果たす。米国特許第4,883,750号には、標的配列にプローブ対が結合するためのLCRに類似の方法が記載されている。
【0079】
特許協力条約に基づく国際出願番号第PCT/US87/00880号に記載されているQβレプリカーゼが、本発明におけるさらに別の増幅方法として使用されてもよい。この方法では、標的の配列に相補的な領域を有するRNAの複製配列が、RNAポリメラーゼの存在下で試料に加えられる。該ポリメラーゼはこの複製配列をコピーすることになり、次いで該配列が検出されればよい。
【0080】
制限エンドヌクレアーゼおよびリガーゼを用いて制限酵素切断部位の一方の鎖にヌクレオチド5’−[α−チオ]−三リン酸を含有している標的分子の増幅が行われる等温増幅法も、本発明における核酸の増幅に有用な場合がある(ウォーカー(Walker)ら、1992)。
【0081】
鎖置換増幅(SDA)は、多数回の鎖置換および合成(すなわちニックトランスレーション)を伴う、核酸の等温増幅を実行する別の方法である。修復連鎖反応(Repair Chain Reaction)(RCR)と呼ばれる類似の方法は、増幅の標的とされた領域全体にわたっていくつかのプローブをアニーリングすることと、その後の4つの塩基のうち2つだけが存在する修復反応とを伴っている。他の2つの塩基は、簡単に検出するためにビオチン化誘導体として加えることができる。同様の手法はSDAにおいて使用される。標的特異的な配列を、サイクリックプローブ反応(CPR)を使用して検出することもできる。CPRでは、非特異的DNAの3’および5’配列と特異的RNAの中央配列とを有するプローブが、試料中に存在するDNAに対してハイブリダイゼーションされる。ハイブリダイゼーションすると、反応物はRNA分解酵素Hで処理され、該プローブの生成物は消化後に放出される特有の生成物として同定される。もとの鋳型は別のサイクリングプローブに対してアニーリングされ、反応が繰り返される。
【0082】
英国特許出願番号第2202328号、および特許協力条約に基づく国際出願番号第PCT/US89/01025号(各々が参照により全体が本願に組込まれる)に記載されているさらに別の増幅方法が、本発明に従って使用されてもよい。前者の出願では、「修飾」プライマーがPCRTMのような鋳型依存的かつ酵素依存的合成において使用される。該プライマーは、捕捉部分(例えばビオチン)または検出部分(例えば酵素)のうち少なくともいずれか一方を用いて標識することにより修飾可能である。後者の出願では、過剰量の標識プローブが試料に加えられる。標的配列の存在下では、該プローブは結合して触媒現象的に開裂される。開裂後、標的配列は元の状態で解放されて、過剰なプローブによって結合される。標識プローブの開裂は、標的配列の存在を示す。
【0083】
他の核酸増幅手法には、転写に基づいた増幅システム(TAS)、例えば核酸配列に基づいた増幅(NASBA)および3SRが挙げられる(コー(Kwoh)ら、1989;ジンゲラス(Gingeras)ら、国際公開公報第88/10315号パンフレット、前記文献は参照により全体が本願に組み込まれる)。NASBAでは、核酸は、標準的なフェノール/クロロホルム抽出、臨床試料の加熱変性、DNAおよびRNAの単離用の溶解バッファーおよびミニスピンカラムを用いた処理またはRNAの塩化グアニジン抽出によって増幅用に調製することができる。これらの増幅技法は、標的特異的な配列を有するプライマーをアニーリングすることを伴う。重合作用に続いて、DNA/RNAハイブリッドはRNaseHで消化される一方、二本鎖DNA分子は熱変性される。いずれの場合も、一本鎖DNAは第2の標的特異的プライマーの添加によって完全に二本鎖となり、続いて重合作用が行われる。その後、二本鎖DNA分子はT7またはSP6のようなRNAポリメラーゼによって複合的に転写される。等温サイクル反応では、RNAは逆転写されて一本鎖DNAとなり、次いで該一本鎖DNAは二本鎖DNAに変換され、その後T7またはSP6のようなRNAポリメラーゼで再度転写される。得られた生成物は、短縮型であれ完全長であれ、標的特異的な配列を示す。
【0084】
デービー(Davey)らの欧州特許庁(EPO)第329822号(参照により全体が本願に組込まれる)は、一本鎖RNA(「ssRNA」)、ssDNAおよび二本鎖DNA(dsDNA)をサイクル合成することを伴う核酸増幅方法を開示しており、該方法は本発明に従って使用されてもよい。ssRNAは、逆転写酵素(RNA依存性DNAポリメラーゼ)によって伸長される第1のプライマーオリゴヌクレオチドの鋳型である。その後、RNAは、リボヌクレアーゼH(RNaseH、DNAまたはRNAとの二重鎖の中のRNAに特異的なRNase)の作用によって生成したDNA:RNA二重鎖から取り除かれる。結果として生じるssDNAは第2のプライマーの鋳型であり、該プライマーはさらに、鋳型に相同な部分の5’側にRNAポリメラーゼプロモータ(例えばT7 RNAポリメラーゼ)の配列を備えている。このプライマーはその後DNAポリメラーゼ(例えば大腸菌DNAポリメラーゼIの大きな「クレノー」フラグメント)によって伸長されて、その結果、プライマーとプライマーとの間に元のRNAの配列と同一の配列を有し、さらには一端にプロモータ配列を有している二本鎖DNA(「dsDNA」)分子を生じる。このプロモータ配列は適切なRNAポリメラーゼによって使用されて、該DNAの多くのRNAコピーを作製することができる。その後、これらのコピーは、非常に迅速な増幅をもたらすサイクルに再度入ることもできる。酵素を適切に選択すれば、この増幅を各サイクルで酵素の追加を行うことなく等温で行うことができる。このプロセスのサイクル式の性質から、最初の配列はDNAまたはRNAのいずれの形態としても選択可能である。
【0085】
ミラー(Miller)らの国際公開公報第WO89/06700号パンフレット(参照により全体が本願に組み込まれる)は、核酸配列増幅スキームであって標的一本鎖DNA(「ssDNA」)へのプロモータ/プライマー配列のハイブリダイゼーションとその後の該配列の多数RNAコピーの転写に基づいたスキームを開示している。このスキームはサイクル式ではない、すなわち、生成するRNA転写物から新しい鋳型は生産されない。他の増幅方法には「RACE」および「片側(one−sided)PCRTM」が挙げられる。(フローマン(Frohman)、1990;オハラ(Ohara)ら、1989;それぞれ参照により全体が本願に組み込まれる)。
【0086】
2つ(またはそれ以上)のオリゴヌクレオチドを、生成される「ジオリゴヌクレオチド」の配列を有する核酸の存在下でライゲーションすることによって該ジオリゴヌクレオチドを増幅することに基づく方法を、本発明の増幅ステップに使用することもできる。ウー(Wu)ら、1989、参照により全体が本願に組み込まれる。
【0087】
iii.サザン/ノーザンブロッティング
ブロッティング技法は当業者には周知である。サザンブロッティングでは標的としてDNAの使用を伴うのに対し、ノーザンブロッティングでは標的としてRNAの使用を伴う。それぞれ異なる類の情報をもたらすが、cDNAのブロッティングは多くの点でRNA分子種のブロッティングに類似している。
【0088】
簡潔に述べると、多くの場合ニトロセルロースのフィルタである適当なマトリックス上に固定化済みのDNA分子種またはRNA分子種を標的とするためにプローブが使用される。様々な分子種は、分析を容易にするために空間的に分離されなければならない。これは多くの場合、核酸分子種のゲル電気泳動とその後のフィルタへの「ブロッティング」によって達成される。
【0089】
その後、ブロッティングされた標的は、変性および再ハイブリダイゼーションを促進する条件下で、プローブ(通常は標識されている)とともにインキュベートされる。プローブは標的と塩基対合をなすように設計されているので、プローブは復元条件下で標的配列の一部分に結合することになる。次いで、結合していないプローブが除去されて、上述のように検出が行われる。
【0090】
iv.分離方法
通常、特異的な増幅が行われたかどうかを判定するために、ある段階または別の段階で、増幅産物を鋳型および過剰なプライマーから分離することが望ましい。1つの実施形態では、増幅産物は、標準的な方法を用いて、アガロースゲル電気泳動、アガロース−アクリルアミドゲル電気泳動またはポリアクリルアミドゲル電気泳動により分離される。サムブルック(Sambrook)ら、1989を参照されたい。
【0091】
別例として、分離を行うためにクロマトグラフ技法が使用されてもよい。本発明において使用可能な多くの種類のクロマトグラフ法が存在する、すなわち:吸着クロマトグラフィー、分配クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーおよび分子ふるいクロマトグラフィー、ならびにこれらを使用するための多くの専門的技法、例えばカラムクロマトグラフィー、ペーパークロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィーおよびガスクロマトグラフィーである(フライフェルダー(Freifelder)、1982)。
【0092】
v.検出方法
生成物は、マーカー配列の増幅を確認するために視覚化されてもよい。1つの典型的な視覚化方法は、臭化エチジウムを用いたゲルの染色および紫外線下での視覚化を伴う。別例として、増幅産物が放射標識または蛍光標識されたヌクレオチドで全体的に標識される場合、増幅産物は、分離の後に、X線フィルムに曝露されてもよいし、適切な刺激スペクトルの下で視覚化されてもよい。
【0093】
1つの実施形態では、視覚化は間接的に達成される。増幅産物の分離後、標識された核酸プローブが増幅されたマーカー配列と接触するようになされる。該プローブは発色団にコンジュゲートされることが好ましいが、放射標識されてもよい。別の実施形態では、プローブは抗体またはビオチンのような結合パートナーにコンジュゲートされ、結合対の他方のメンバーが検出可能な部分を担持している。
【0094】
1つの実施形態では、検出は標識プローブによって行われる。関連する技術は当業者に周知であり、分子プロトコルに関する多くの標準的な書籍の中に見られる。サムブルック(Sambrook)ら、1989を参照されたい。例えば、発色団または放射標識のプローブまたはプライマーによって増幅時または増幅後に標的が同定される。
【0095】
上記の一例は、参照により本願に組み込まれる米国特許第5,279,721号明細書に記載されており、同文献は、自動化された核酸の電気泳動および転写のための装置および方法について開示している。この装置はゲルの外部操作を伴わない電気泳動およびブロッティングを可能にし、本発明による方法の実行に理想的に適している。
【0096】
さらに、上述の増幅産物を配列解析に供して、標準的な配列解析技術を用いて特定の種類の変異を同定することができる。ある方法においては、最適な塩基配列決定のために設計されたプライマーセットを用いる配列解析によって、遺伝子の網羅的な解析が行われる(ピニョン(Pignon)ら、1994)。本発明は、この種の解析の一部または全てを使用できる方法を提供する。本明細書中に開示された配列を用いて、オリゴヌクレオチドプライマーを設計して配列の増幅を可能とし、該配列を次いで直接塩基配列決定法によって解析することができる。
【0097】
vi.キットの構成要素
対象とする遺伝子の検出および塩基配列決定に必要な全ての必須の材料および試薬を、キット内に一緒に集めることができる。これは一般に、予め選択されたプライマーおよびプローブを含むことになる。増幅に必要な反応混合物を提供するために、核酸の増幅に適した酵素、例えば様々なポリメラーゼ(RT、Taq、SequenaseTMなど)、デオキシリボヌクレオチドおよびバッファーも含めることができる。そのようなキットは一般に、適当な手段で、個々の試薬および酵素それぞれのための、また各プライマーまたはプローブのための、個別の容器も含むことになろう。
【0098】
vii.相対定量RT−PCRTMの設計および理論考察
RNAのcDNAへの逆転写(RT)とその後の相対定量PCRTM(RT−PCRTM)を用いて、患者から単離された特定のmRNA分子種の相対濃度を測定することができる。特定のmRNA分子種の濃度が変化することを測定することによって、その特定のmRNA分子種をコードする遺伝子が示差的に発現していることが示される。
【0099】
PCRTMでは、増幅される標的DNAの分子数は、何らかの試薬が限界に達するまで反応のサイクル毎におよそ2倍に増える。その後、サイクルとサイクルとの間で増幅される標的の増加がなくなるまで、増幅率は次第に減少するようになる。サイクル数をX軸にとり、増幅された標的DNAの濃度の対数をY軸にとったグラフを描くと、プロットされた点を結ぶことで特徴的な形状の曲線が形成される。最初のサイクルを起点として、この線の傾きは正でありかつ一定である。これは曲線の直線部分と言われている。ある試薬が限界に達してからは、線の傾きは減少し始めて最終的にはゼロになる。この時点で、増幅された標的DNAの濃度はある固定値に対して漸近的となる。これは曲線のプラトー部分と言われている。
【0100】
PCRTM増幅の直線部分における標的DNAの濃度は、反応が始まる前の標的の出発濃度に正比例する。同じサイクル数を完了しかつその直線域にあるPCRTM反応物中の標的DNAの増幅産物の濃度を測定することにより、元のDNA混合物中の特定の標的配列の相対濃度を測定することが可能である。DNA混合物が様々な組織または細胞から単離されたRNAから合成されたcDNAである場合、標的配列が得られた特定のmRNAの相対存在量を各組織または細胞について測定することができる。PCRTM産物の濃度と相対的mRNA存在量との間のこの正比例関係は、PCRTM反応の直線域においてのみ当てはまる。
【0101】
曲線のプラトー部分における標的DNAの最終濃度は、反応混合物中の試薬の可用性によって決まり、標的DNAの元の濃度とは無関係である。したがって、mRNA分子種の相対存在量がRNA集団の収集物についてRT−PCRTMにより測定可能となる前に満たされなければならない第一の条件は、PCRTM反応がその曲線の直線部分にあるときに増幅PCRTM産物の濃度がサンプリングされなければならないということである。
【0102】
特定のmRNA分子種の相対存在量をうまく測定するためにRT−PCRTM実験について満たされなければならない第二の条件は、増幅可能なcDNAの相対濃度が何らかの独立した標準物に対して正規化されなければならないということである。RT−PCRTM実験の目的は、試料中の全てのmRNA分子種の平均存在量に対して特定のmRNA分子種の存在量を測定することである。
【0103】
競合的PCRTMの大部分のプロトコルは、標的とほぼ同程度の量で存在する内部PCRTM標準物質を利用する。この戦略は、PCRTM増幅の産物がその直線的段階の間にサンプリングされる場合に効果的である。反応がプラトーの段階に接近しているときに産物がサンプリングされれば、それほど多くはない産物が比較的過剰に示されることになる。多くの異なるRNA試料に対してなされる相対存在量の比較は、示差的発現についてRNA試料を調べる場合と同様に、RNAの相対存在量の差異が実際よりも少なく見えるようにするというかたちに歪むようになる。これは、内部標準物質が標的よりもはるかに大量であれば、重大な問題ではない。内部標準物質が標的よりも大量であれば、RNA試料の間で直接的な線形の比較を行うことができる。
【0104】
上述の議論は、臨床由来の材料に関するRT−PCRTMアッセイの理論的考察について述べている。臨床試料に内在する問題は、その量が変動的である(正規化を困難にする)こと、およびその質が変動的である(好ましくは標的よりも大きなサイズの、信頼できる内部対照の同時増幅を必要とする)ことである。RT−PCRTMが内部標準物質を用いる相対定量的RT−PCRTMであって、内部標準物質が標的cDNA断片よりも大きい増幅可能なcDNA断片であり、かつ内部標準物質をコードするmRNAの存在量が標的をコードするmRNAよりもおよそ5〜100倍多いRT−PCRTMとして行われる場合、上記の問題はいずれも克服される。このアッセイでは、各mRNA分子種の絶対存在量ではなく、相対存在量が計測される。
【0105】
その他の研究は、外部標準物質のプロトコルを用いる、より従来型の相対定量RT−PCRTMアッセイを使用して実施可能である。このアッセイでは、PCRTM産物はその増幅曲線の直線部分においてサンプリングされる。サンプリングに最適なPCRTMサイクル数は、各標的cDNA断片について実験的に決定されなければならない。さらに、種々の組織試料から単離された各RNA集団の逆転写酵素産物は、等濃度の増幅可能なcDNAとなるように注意深く正規化されなければならない。このアッセイではmRNAの絶対存在量が計測されるので、上記の考慮は非常に重要である。mRNAの絶対存在量は、正規化された試料においてのみ示差的遺伝子発現の尺度として使用することができる。増幅曲線の直線域の実験的決定およびcDNA調製物の正規化は冗長かつ時間を要する一連の作業であるが、得られるRT−PCRTMアッセイ結果は、内部標準物質を用いた相対定量的RT−PCRTMアッセイに由来する結果よりも優れたものとなりうる。
【0106】
この利点の1つの理由は、内部標準物質/競合物質を用いないと、試薬の全てが増幅曲線の直線域において単一のPCRTM産物に変換され、したがってアッセイの感度が増大するということである。別の理由は、PCRTM産物が1つだけであると、電気泳動ゲルまたは別の表示方法における産物の表示がより単純になり、バックグラウンドは低くなり、かつより解釈しやすくなるということである。
【0107】
viii.チップ技術
本発明者らが特に企図しているのは、アシア(Hacia)ら(1996)およびシューメーカー(Shoemaker)ら(1996)に記載されているもののようなチップを基盤としたDNA技術である。簡潔に述べると、これらの技法は数多くの遺伝子を迅速かつ正確に解析するための定量方法を伴う。遺伝子をオリゴヌクレオチドでタグ付けすること、または固定プローブのアレイを用いることにより、チップ技術を利用して、標的分子を高密度アレイとして分離すること、およびこれらの分子をハイブリダイゼーションに基づいてスクリーニングすることが可能である。ピーズ(Pease)ら(1994);フォドー(Fodor)ら(1991)も参照されたい。
【0108】
B.免疫診断
本発明の抗体は、ELISAおよびウエスタンブロッティングなどの技法を通じて、健常組織および病変組織の腫瘍抑制因子含量を特徴解析する際に使用することができる。このことは、悪性病変の有無のスクリーニング、または、腫瘍崩壊ウイルスへの曝露に対して起こり得る反応を予測するための戦略として、将来のがんの、もしくは目下の症例においての予測因子としてのスクリーニングを提供することができる。
【0109】
ELISAアッセイにおける本発明の抗体の使用が企図される。例えば、抗腫瘍抑制因子抗体が、選択された表面、好ましくはポリスチレン製マイクロタイタープレートのウェルなどタンパク質親和性を示す表面に固定化される。吸着が不完全な材料を除去するために洗浄を行った後、該アッセイプレートのウェルを、ウシ血清アルブミン(BSA)、カゼイン、または粉乳の溶液などの、試験抗血清に関して抗原的に中立であることが既知である非特異的タンパク質と結合させるかまたは該タンパク質でコーティングすることが望ましい。これによって固定化表面上の非特異的吸着部位のブロッキングが可能となり、こうして該表面への抗原の非特異的結合で引き起こされるバックグラウンドが低減される。
【0110】
ウェルへの抗体の結合、バックグラウンドを低減するための非反応性材料を用いたコーティング、および結合していない材料を除去するための洗浄の後、固定化表面は、免疫複合体(抗原/抗体)形成をもたらすかたちで被験試料と接触するようになされる。
【0111】
試験試料と固定された抗体との間の特異的な免疫複合体の形成、およびその後の洗浄の後、免疫複合体を第1の抗体とは異なる腫瘍抑制因子に特異性を有する第2の抗体に供することで、免疫複合体形成の発生および量までも測定することができる。適切な条件には、試料をBSA、ウシγグロブリン(BGG)、およびリン酸緩衝生理食塩水(PBS)/Tween(R)などの希釈剤で希釈することが含まれることが好ましい。これらの添加剤は、非特異的バックグラウンドの低減の助けにもなりやすい。その後、積層された抗血清は、好ましくは約25℃〜約27℃程度の温度で、約2〜約4時間インキュベートされる。インキュベーション後、免疫複合体を形成していない材料を除去するために、抗血清に接触させた表面が洗浄される。好ましい洗浄手順としては、PBS/Tween(R)、またはホウ酸緩衝液などの溶液による洗浄が挙げられる。
【0112】
検出手段を提供するために、第2の抗体は、適切な発色性基質とともにインキュベートすると発色する酵素が結合していることが好ましいであろう。したがって、例えば、第2の抗体が結合した表面を、免疫複合体形成が生じる助けとなる時間および条件下でウレアーゼまたはペルオキシダーゼとコンジュゲートした抗ヒトIgGと接触させてインキュベートすること(例えば、PBS/Tween(R)などのPBS含有溶液中で室温にて2時間のインキュベーション)が望まれることになる。
【0113】
第2の酵素標識抗体とともにインキュベーションした後、および結合していない材料を除去するための洗浄に続いて、発色性基質とともに、例えば、尿素およびブロモクレゾールパープルとともに、または酵素標識としてペルオキシダーゼを用いる場合には、2,2’−アジノ−ジ−(3−エチル−ベンズチアゾリン)−6−スルホン酸(ABTS)およびHとともにインキュベーションすることにより、標識の量が定量化される。次いで、例えば可視スペクトル分光光度計を用いて発色の度合いを計測することにより、定量化が達成される。
【0114】
先述の方式は、最初に試料をアッセイプレートに結合させることにより改変されてもよい。次いで、一次抗体がアッセイプレートとともにインキュベートされ、続いて一次抗体に特異性を有する標識された二次抗体を用いて、結合した一次抗体の検出が行われる。
【0115】
本発明の抗体組成物はイムノブロット分析またはウエスタンブロット分析において大いに役立つと考えられる。抗体は、ニトロセルロース、ナイロン、またはこれらの組み合わせなどの固体支持体マトリックスに固定化されたタンパク質を同定するための高親和性の一次試薬として使用可能である。これらを、免疫沈降、その後のゲル電気泳動と併せて、抗原の検出に使用される二次試薬が不都合なバックグラウンドを引き起こすような抗原の検出に用いるための単一段階試薬として、使用することができる。ウエスタンブロッティングと併用するための免疫学に基づいた検出方法は、酵素標識、放射標識、または蛍光標識された、腫瘍抑制因子に対する二次抗体を含み、この点では特に有用であると考えられる。
【0116】
IV.抗過剰増殖治療
過剰増殖性疾患は、異常な、さもなければ無制限の細胞増殖を特徴とする一群の疾病である。これらの疾病は概して2つのカテゴリーに、すなわち:より典型的ながん、すなわち「悪性の」疾患と、それほど一般的でない良性の過剰増殖性の疾病、例えば良性前立腺過形成、乳房の良性上皮過形成、子宮内膜増殖症、甲状腺過形成および皮膚または真皮の上皮過形成など、に分類される。以降の議論の多くの見地はがん治療に主眼を置いているが、適切な場合には同じ手法が良性の疾病にも同様に適用可能であると理解されるはずである。
【0117】
典型的には細胞数においてのみ異常である良性の疾病とは対照的に、がんとは、形成不全であるか、新生物であるか、さもなければ不適切な増殖をなす、がん性細胞および/または形質転換細胞が対象者に存在することを指し、該細胞には例えば、新生物細胞、腫瘍細胞、接触阻止を示さない細胞または腫瘍形成的に形質転換した細胞など(例えば黒色腫、がん腫、例えば腺がん、扁平上皮がん、小細胞がん、燕麦細胞がんなど、肉腫、例えば繊維肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫など、肝臓がん、神経芽細胞腫、黒色腫、造血系悪性腫瘍、例えばリンパ腫、白血病、骨髄腫など)が含まれるが、これらは当分野で周知であり、その診断および分類の基準は確立されている。いかなる理論にも拘束されるものではないが、レオウイルスの腫瘍崩壊特性は、悪性形質転換した細胞に対するウイルスの指向性と、感受性を有する細胞内環境、例えば、本明細書中で定義されるように、当分野で説明されているようなRas活性化細胞におけるPKRリン酸化の障害、または腫瘍抑制因子の機能に欠陥を有すること、との呼応に由来する可能性がある。
【0118】
A.腫瘍崩壊ウイルス療法
がんの治療における野生型レオウイルスの生産および使用に関する一定の方法については説明がなされている(例えば米国特許第7,300,650号、同第7,163,678号、同第7,049,127号、同第7,014,847号、同第6,994,858号、同第6,811,775号、同第6,703,232号、同第6,576,234号、同第6,565,831号、同第6,528,305号、同第6,455,038号、同第6,344,195号、同第6,261,555号、同第6,136,307号および同第6,110,461号、ならびに米国特許出願公開第2006/0165724号、同第2006/0073166号、同第2005/0123513号、同第2004/0265271号、同第2004/0126869号、同第2004/0109878号、同第2002/0037543号、同第2006/0029598号、同第2005/0026289号、同第2002/0006398号および同第2001/0048919号明細書、これらはそれぞれ全体が権利放棄を伴わずに本願に援用される)。ミキソーマウイルス療法は、同じく援用される米国特許出願公開第2006/0263333号明細書に記載されている。
【0119】
B.パージ療法
本発明は、ある実施形態では、細胞集団からがん細胞を除去(パージ)する方法を提供する。例えば、骨髄破壊的治療法によって治療される造血系がんまたは固形がんの患者は、その後、化学療法に先立って患者から採取されたパージ済み骨髄組織を使用して、造血幹細胞の救援を受ける場合がある。これらの実施形態では、骨髄は、造血幹細胞の損傷を低減または排除しつつ新生細胞を除去または殺滅するために腫瘍崩壊ウイルスによる処理を受けることができる。
【0120】
細胞療法に患者自身の成体幹細胞を使用することにより、宿主免疫、移植片対宿主病および倫理的問題という諸問題を回避できる可能性がある。ゆえに、ヒトの成体幹細胞は様々な組織再生治療手段のために広く評価されてきた。しかしながら、成体幹細胞のin vitroでの培養増殖中に自然形質転換が生じる場合があることが報告されている(トラー(Tolar)ら、2007;ロマーノ(Romano)、2005)。したがって、移植および組織再生においてより安全に使用するために、培養増殖された成体幹細胞中に存在する自然形質転換細胞を排除するための適切なパージ戦略が必要とされている。野生型レオウイルスは、in vitroの自家造血幹細胞集団中に存在するがん細胞の除去における有用性を示している(シルクマラン(Thirukkumaran)ら、2003;シルクマラン(Thirukkumaran)ら、2005)。弱毒化レオウイルスおよびミキソーマウイルスを同様の方法で使用することも考えられる。本発明者らは、本発明が現在知られているかまたは今後発見される事実上あらゆる成体幹細胞株または胚幹細胞株と共に使用可能であると予想している。
【0121】
ある実施形態では、例えば新生細胞(存在する場合)の殺滅を可能にするのに十分な時間の後に、細胞組成物からレオウイルスを取り除くことが望ましいかもしれない。例えば、骨髄が患者から採取され、新生細胞を破壊するためにレオウイルスで処理される場合があるが;患者(例えば免疫不全のがん患者)に骨髄を再注入する前に、該組成物からウイルスを破壊、排除かつ/または除去することが望ましいかもしれない。これらの実施形態では、抗ウイルス薬が細胞組成物に添加されてもよい。これらの抗ウイルス薬には、抗レオウイルス抗体および補体、重要なウイルス酵素の阻害剤、例えばRNA依存性RNAポリメラーゼ阻害剤、または、ウイルスのパッケージング、集合もしくは感染細胞からの放出が成功するのを妨害する作用薬が挙げられる。
【0122】
細胞組成物からウイルスおよび/または死細胞をさらに除去するために、細胞の洗浄および/または遠心分離処理などの追加の精製ステップが使用されてもよい。これらの方法は当分野では周知であり、望ましい種類の細胞を富化することになる方法、例えば、幹細胞集団のような所望の細胞の正の選択を可能にする蛍光活性化細胞選別法または接着性に基づいた方法が挙げられる。
【0123】
C.併用療法
腫瘍崩壊ウイルスによるがん細胞の選択的殺滅の有効性を増大させるために、ある実施形態では、細胞に、化学療法剤のようなさらなる抗がん剤、放射線療法、免疫療法、ホルモン療法、毒素治療、別の天然もしくは組換え型のウイルスを用いる治療法、または遺伝子療法を施すことが望ましいかもしれない。
【0124】
化学療法剤には、限定するものではないが、5−フルオロウラシル、ブレオマイシン、ブスルファン、カンプトテシン、カルボプラチン、クロラムブシル、シスプラチン(CDDP)、シクロホスファミド、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エストロゲン受容体結合作用薬、エトポシド(VP16)、ファルネシル−タンパク質転移酵素阻害剤、ゲムシタビン、イホスファミド、メクロレタミン、メルファラン、マイトマイシン、ナベルビン、ニトロソウレア(nitrosurea)、プリコマイシン(plicomycin)、プロカルバジン、ラロキシフェン、タモキシフェン、タキソール、テマゾロマイド(temazolomide)(DTICの水性形態)、トランスプラチナ(transplatinum)、ビンブラスチンおよびメトトレキセート、ビンクリスチン、またはこれらの任意の類似体もしくは誘導体が挙げられる。これらの作用薬または薬物は、細胞内での作用様式によって、例えば、該作用薬または薬物が細胞周期に影響を及ぼすかどうか、またどの段階で細胞周期に影響を及ぼすかによって分類される。別例として、作用薬は、DNAを直接架橋する能力、DNAにインターカレートする能力、または核酸合成に影響を及ぼすことにより染色体および有系分裂の異常を引き起こす能力に基づいて特徴づけられてもよい。ほとんどの化学療法剤は、以下のカテゴリーすなわち:アルキル化剤、代謝拮抗剤、抗腫瘍抗生物質、コルチコステロイドホルモン、有糸分裂阻害剤、そしてニトロソウレア、ホルモン剤、混成作用薬、およびこれらの任意の類似体もしくは誘導体に分類される。
【0125】
腫瘍崩壊療法は、がん細胞に他の作用薬が適用されるのと同時であってもよいし、数分〜数週の間隔をもって他の作用薬の適用に後続または先行してもよい。例えば、そのような事例では、がん細胞、組織、器官または生物体に、弱毒化レオウイルスとほぼ同時に(すなわち約1分未満以内に)複数の治療法を施すことが企図される。他の態様では、1または複数の作用薬が、弱毒化もしくは野生型レオウイルスの投与前もしくは投与後のうち少なくともいずれかに、約1分、約5分、約10分、約20分、約30分、約45分、約60分、約2時間、約3時間、約4時間、約5時間、約6時間、約7時間、約8時間、約9時間、約10時間、約11時間、約12時間、約13時間、約14時間、約15時間、約16時間、約17時間、約18時間、約19時間、約20時間、約21時間、約22時間、約22時間、約23時間、約24時間、約25時間、約26時間、約27時間、約28時間、約29時間、約30時間、約31時間、約32時間、約33時間、約34時間、約35時間、約36時間、約37時間、約38時間、約39時間、約40時間、約41時間、約42時間、約43時間、約44時間、約45時間、約46時間、約47時間、約48時間、約1日、約2日、約3日、約4日、約5日、約6日、約7日、約8日、約9日、約10日、約11日、約12日、約13日、約14日、約15日、約16日、約17日、約18日、約19日、約20日、約21日、約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7または約8週以上、およびこの中で導き出せる任意の範囲の時間以内に、またはその時間とほぼ同時に、投与されてもよい。
【0126】
弱毒化または野生型レオウイルスと1つ以上の作用薬との様々な併用レジメンが使用可能である。そのような併用の非限定的な例を下に示すが、この例において腫瘍崩壊ウイルスは「A」であり、抗がん剤は「B」である:
A/B/A B/A/B B/B/A A/A/B A/B/B
B/A/A A/B/B/B B/A/B/B B/B/B/A
B/B/A/B A/A/B/B A/B/A/B A/B/B/A
B/B/A/A B/A/B/A B/A/A/B A/A/A/B
B/A/A/A A/B/A/A A/A/B/A
i.化学療法
種々様々の化学療法剤が本発明に従って使用可能である。用語「化学療法」は、がんを治療するために薬物を使用することを指す。「化学療法剤」は、がんの治療において投与される化合物または組成物を内包するように使用される。これらの作用薬または薬物は細胞内での作用様式によって、例えば、該作用薬または薬物が細胞周期に影響を及ぼすかどうか、またどの段階で細胞周期に影響を及ぼすかによって分類される。別例として、作用薬は、DNAを直接架橋する能力、DNAにインターカレートする能力、または核酸合成に影響を及ぼすことにより染色体および有系分裂の異常を引き起こす能力に基づいて特徴づけられてもよい。ほとんどの化学療法剤は、以下のカテゴリーすなわち:アルキル化剤、代謝拮抗剤、抗腫瘍抗生物質、有糸分裂阻害剤、およびニトロソウレアに分類される。
【0127】
[アルキル化剤] アルキル化剤は、ゲノムDNAと直接相互作用してがん細胞が増殖するのを防止する薬物である。このカテゴリーの化学療法剤は、細胞周期のすべての期に影響を及ぼす、すなわち期に特異的ではない作用薬に相当する。アルキル化剤は、慢性白血病、非ホジキンリンパ腫、ホジキン病、多発性骨髄腫、ならびに乳房、肺、および卵巣の特定のがんを治療するために施用可能である。アルキル化剤には:ブスルファン、クロラムブシル、シスプラチン、シクロホスファミド(cytoxan(R))、ダカルバジン、イホスファミド、メクロレタミン(mustargen(R))およびメルファランが挙げられる。トログリタザオン(Troglitazaone)は、これらのアルキル化剤のうちのいずれか1つ以上と併用してがんを治療するために使用することが可能であり、いくつかのアルキル化剤については以下に議論される。
【0128】
ブスルファン(myleran(R)としても知られている)は二機能性のアルキル化剤である。ブスルファンは、化学的には1,4−ブタンジオールジメタンスルホナートとして知られている。
【0129】
ブスルファンはナイトロジェンマスタードの構造類似体ではない。ブスルファンは経口投与のための錠剤形態で利用可能である。割線入り錠剤はそれぞれ2mgのブスルファンと非活性成分のステアリン酸マグネシウムおよび塩化ナトリウムとを含有している。
【0130】
ブスルファンは、慢性骨髄性の(骨髄性、骨髄球性、顆粒球性)白血病の待期療法に適応される。治癒的ではないが、ブスルファンは顆粒球総量を縮小し、該疾病の症状を軽減し、患者の臨床状態を改善する。前もって治療を受けていない慢性骨髄性白血病の成人のおよそ90%は、ブスルファンの使用後に臓器巨大症の回帰または安定化を伴う血液学的緩解を得ることになろう。ブスルファンは、生存期間およびヘモグロビンレベルの維持に関して脾臓の放射線治療より優れ、巨脾腫の制御においては放射線治療と同等であることが示されている。
【0131】
クロラムブシル(leukeran(R)としても知られている)は、特定のヒト新生物疾患に対する活性が見出されたナイトロジェンマスタード型の二機能性アルキル化剤である。クロラムブシルは、化学的には4−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]ベンゼンブタン酸として知られている。
【0132】
クロラムブシルは経口投与のための錠剤形態で利用可能である。クロラムブシルは胃腸管から迅速かつ完全に吸収される。0.6〜1.2mg/kgの単回経口投与の後、1時間以内に最大血漿中クロラムブシルレベルに達し、元の薬物の終末相半減期は1.5時間と見積もられる。0.1〜0.2mg/kg/日もしくは3〜6mg/m/日または別例として0.4mg/kgが、抗新生物治療に使用可能である。治療計画については当業者に周知であり、本明細書中で参照される「Physicians Desk Reference」および「Remington’s Pharmaceutical Sciences」に見出すことができる。
【0133】
クロラムブシルは、慢性リンパ性(リンパ球)白血病、悪性リンパ腫、例えばリンパ肉腫、巨大濾胞性リンパ腫およびホジキン病の治療において適応される。クロラムブシルは上記疾患のうちいずれにおいても治癒的ではないが、臨床的に有用な緩和をもたらす場合がある。したがって、がんの治療においてトログリタゾンと併せて使用することができる。
【0134】
シスプラチンは、転移性の精巣がんまたは卵巣がん、進行した膀胱がん、頭部がんもしくは頚部がん、子宮頸がん、肺がんまたはその他の腫瘍のようながんを治療するために広く使用されてきた。シスプラチンは、単独または他の作用薬との併用で、15〜20mg/mで5日間を3週ごとに合計3コースという臨床適用において使用される効果的な用量を用いて使用可能である。典型的な用量は、0.50mg/m、1.0mg/m、1.50mg/m、1.75mg/m、2.0mg/m、3.0mg/m、4.0mg/m、5.0mg/m、10mg//mであってよい。当然ながら、上記の用量はすべて例示であり、上記の値の間のいかなる用量も本発明に有用であると予想される。
【0135】
シスプラチンは経口では吸収されず、したがって、静脈内、皮下、腫瘍内または腹腔内への注射により送達されなければならない。
シクロホスファミドは、2H−1,3,2−オキサザホスホリン−2−アミン、N,N−ビス(2−クロロエチル)テトラヒドロ−、2−オキシド、一水和物であり;Cytoxan(R)(ミード・ジョンソン(Mead Johnson)から入手可能);およびNeosar(R)(アドリア(Adria)から入手可能)と名付けられている。シクロホスファミドは、ジオキサン溶液中でトリエチルアミンの触媒作用下にて3−アミノ−1−プロパノールをN,N−ビス(2−クロロエチル)ホスホルアミド酸ジクロリド[(ClCHCHN−POCl]とともに縮合することにより調製される。この縮合は二重縮合であってヒドロキシル基およびアミノ基の両方が関与し、従って環化をなす。
【0136】
シクロホスファミドは、他のβ−クロロエチルアミノアルキル化剤とは異なり、肝臓の酵素によって活性化されるまでは活性のあるエチレンイモニウム型に容易には環化しない。従って、この物質は胃腸管内では安定であり、忍容性が良好であり、かつ経口および非経口の経路によって有効であり、局所的な発疱疹、壊死、静脈炎または疼痛さえも引き起こさない。
【0137】
成人に適した用量としては、経口では、胃腸の忍容性に応じて1〜5mg/kg/日(通常は併用で);または1〜2mg/kg/日;静脈内では、最初に40〜50mg/kgを分割量で2〜5日間、または10〜15mg/kgを7〜10日ごと、または3〜5mg/kgを週に2回、または1.5〜3mg/kg/日が挙げられる。250mg/kg/日の用量が抗新生物薬として投与されてもよい。胃腸への副作用のため、投与には静脈内経路が好ましい。維持中は、通常3000〜4000/mmの白血球総数が望ましい。この薬物は、場合によっては、筋肉内投与、浸潤投与、または体腔内投与されてもよい。該薬物は、100、200、および500mgの注射用投与形態、ならびに25mgおよび50mgの錠剤で入手可能であり、投与のための用量の詳細については、当業者は参照文献として本願に組み込まれる「Remington’s Pharmaceutical Sciences」第15版、第61章を参照されたい。
【0138】
メルファランは、alkeran(R)、L−フェニルアラニンマスタード、フェニルアラニンマスタード、L−PAM、またはL−サルコリシンとしても知られており、ナイトロジェンマスタードのフェニルアラニン誘導体である。メルファランは特定のヒト新生物疾患に対して活性を有する二機能性アルキル化剤である。メルファランは、化学的には4−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]−L−フェニルアラニンとして知られている。
【0139】
メルファランは上記化合物の活性を有するL−異性体であり、ベルゲル(Bergel)およびストック(Stock)によって1953年に最初に合成された;メドファランとして知られているD−異性体は、ある動物腫瘍に対してそれほど高い活性を持たず、染色体に対する作用を生じるために必要な用量はL−異性体で必要とされる用量よりも多い。ラセミ(DL−)体はメルファランまたはサルコリシンとして知られている。メルファランは水に不溶であり、〜2.1のpKaを有する。メルファランは経口投与のための錠剤形態で入手可能であり、多発性骨髄腫を治療するために使用されてきた。
【0140】
有効な証拠から、多発性骨髄腫患者の約3分の1〜2分の1が該薬物の経口投与に対して好ましい応答を示すことが示唆されている。
メルファランは上皮性卵巣がんの治療に使用されてきた。卵巣がんの治療に一般的に使用されるあるレジメンでは、メルファランが1コースとして毎日0.2mg/kgで5日間投与されてきた。血液学的忍容性に応じて、コースは4〜5週ごとに繰り返さる(スミス(Smith)およびラトリッジ(Rutledge)、1975;ヤング(Young)ら、1978)。別例として、使用されるメルファランの用量は、0.05mg/kg/日程度の低用量でも3mg/kg/日程度の高用量でもよく、これらの用量の間の任意の用量でもこれらの用量を上回る用量でもよい。用量の若干の変動は、治療を受ける対象者の状態に応じて必然的に生じることになる。投与を担当する人物は、いかなる場合にも個々の患者にとって適切な用量を決定するものである。
【0141】
[代謝拮抗剤] 代謝拮抗剤はDNAおよびRNAの合成を妨害する。アルキル化剤とは異なり、代謝拮抗剤はS期の間に細胞周期に特異的に影響を及ぼす。同剤は、乳房、卵巣および胃腸管の腫瘍に加えて慢性白血病を治療するために使用されてきた。代謝拮抗剤には、5−フルオロウラシル(5−FU)、シタラビン(Ara−C)、フルダラビン、ゲムシタビン、およびメトトレキセートが挙げられる。
【0142】
5−フルオロウラシル(5−FU)は、5−フルオロ−2,4(1H、3H)−ピリミジンジオンという化学名を有する。その作用機構は、デオキシウリジル酸をチミジル酸にするメチル化反応を阻止することによると考えられる。したがって、5−FUはデオキシリボ核酸(DNA)の合成を妨げ、またそれほどではないにせよリボ核酸(RNA)の形成を阻害する。DNAおよびRNAは細胞の分裂および増殖にとって不可欠であるので、5−FUの作用は細胞死に結びつくチミジン欠乏を引き起こすことであると考えられる。したがって、5−FUの作用は、転移がんの特徴である急速に分裂する細胞において見出される。
【0143】
[抗腫瘍抗生物質] 抗腫瘍抗生物質は抗微生物活性および細胞毒性の両方を有する。この薬物はさらに、化学的に酵素および有糸分裂を阻害することや細胞膜を変化させることにより、DNAに干渉する。該作用薬は細胞周期特異的ではないので、細胞周期のすべての期において作用する。したがって、該作用薬は様々ながんに広く使用される。抗腫瘍抗生物質の例には、ブレオマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、およびイダルビシンが含まれ、これらのうち一部については以下に詳細に議論する。新生物の治療に臨床条件で広く使用され、これらの化合物の投与は、アドリアマイシンについて25〜75mg/mの範囲の用量で21日間隔の静脈内ボーラス注射から、エトポシドについて35〜100mg/mの静脈内投与または経口投与まで及ぶ。
【0144】
塩酸ドキソルビシン、すなわち5,12−ナフタセンジオン、(8s−シス)−10−[(3−アミノ−2,3,6−トリデオキシ−a−L−リキソ−ヘキソピラノシル)オキシ]−7,8,9,10−テトラヒドロ−6,8,11−トリヒドロキシ−8−(ヒドロキシアセチル)−1−メトキシ−ヒドロクロリド(ヒドロキシダウノルビシン塩酸塩、アドリアマイシン)は広範な抗新生物スペクトルにおいて使用される。該薬物はDNAに結合して核酸合成を阻害し、有糸分裂を阻害して染色体異常を促進する。
【0145】
単独投与の場合、該薬物は甲状腺腺腫および原発性肝細胞がんの治療に用いられる第一選択薬である。該薬物は、卵巣の腫瘍、子宮内膜の腫瘍および乳房の腫瘍、気管支原性燕麦細胞がん、非小細胞肺がん、胃腺がん、網膜芽細胞腫、神経芽細胞腫、菌状息肉腫、膵臓がん、前立腺がん、膀胱がん、骨髄腫、びまん性組織球性リンパ腫、ヴィルムス腫瘍、ホジキン病、副腎腫瘍、骨原性肉腫軟部組織肉腫、ユーイング肉腫、横紋筋肉腫および急性リンパ性白血病の治療に用いられる31種の第一選択の併用療法の構成要素である。該薬物は、膵島細胞がん、子宮頚がん、精巣がんおよび副腎皮質がんの治療に用いられる代替薬物である。該薬物は免疫抑制剤でもある。
【0146】
ドキソルビシンは吸収され難く、静脈内投与されなければならない。薬物動態はマルチコンパートメント型である。分布相は12分および3.3時間の半減期を有する。排出半減期は約30時間である。40〜50%が胆汁中に分泌される。残りのほとんどは肝臓で代謝されて一部が活性代謝物(ドキソルビシノール)になるが、数パーセントは尿中へ排泄される。肝臓機能障害が存在する場合は、用量は低減されるべきである。
【0147】
適切な用量は、静脈内投与、成人で、21日間隔として60〜75mg/mまたは3週もしくは4週間隔で反復してそれぞれ連続2日もしくは3日間25〜30mg/mまたは週に一度20mg/mである。事前の化学療法もしくは新生物の骨髄浸潤によって引き起こされた骨髄抑制が既に存在する場合、または薬物が他の骨髄造血抑制剤と併用される場合は、高齢の患者では低用量が使用されるべきである。血清ビリルビンが1.2〜3mg/dLである場合、用量は50%低減されるべきであり、3mg/dLを上回る場合は75%低減されるべきである。生涯総用量は、正常な心機能を有する患者では550mg/m、縦隔放射線照射を受けた人では400mg/mを越えてはならない。別例としては、4週ごとに反復してそれぞれ連続3日間の30mg/mである。典型的な用量は、10mg/m、20mg/m、30mg/m、50mg/m、100mg/m、150mg/m、175mg/m、200mg/m、225mg/m、250mg/m、275mg/m、300mg/m、350mg/m、400mg/m、425mg/m、450mg/m、475mg/m、500mg/mであってよい。当然ながら、これらの用量はすべて例示であり、上記の値の間のいかなる用量も本発明に有用であると予想される。
【0148】
塩酸ダウノルビシン、すなわち5,12−ナフタセンジオン、(8S−シス)−8−アセチル−10−[(3−アミノ−2,3,6−トリデオキシ−a−L−リキソ−ヘキサノピラノシル)オキシ]−7,8,9,10−テトラヒドロ−6,8,11−トリヒドロキシ−10−メトキシ−、ヒドロクロリド;cerubidine(R)とも名付けられ、ワイエス(Wyeth)から入手可能である。ダウノルビシンはDNAにインターカレートし、DNA依存性RNAポリメラーゼを阻害し、DNA合成を抑制する。ダウノルビシンは、核酸合成を妨げない用量で細胞分裂を抑えることができる。
【0149】
他の薬物との併用では、ダウノルビシンは、成人の急性骨髄性白血病(寛解の誘導のため)、急性リンパ性白血病、および急性期の慢性骨髄性白血病の、第1選択の化学療法に含まれる。経口吸収に乏しく、静脈内投与されなければならない。分布の半減期は45分であり、排出の半減期は約19時間である。その活性代謝物であるダウノルビシノールの半減期は約27時間である。ダウノルビシンは大半が肝臓で代謝され、胆汁中へ分泌もされる(およそ40%)。用量は、肝不全または腎不全では低減されなければならない。
【0150】
適切な用量は(塩基等価量)、静脈内投与、60歳未満の成人については、45mg/m/日(60歳より高齢の患者には30mg/m)で3〜4週間ごとに1日、2日もしくは3日間、または0.8mg/kg/日で3〜4週間ごとに3〜6日間であり;一生のうちに550mg/mを越えて投与されてはならず、ただし胸部放射線照射を受けている場合は450mg/mしか投与されてはならず;小児については、体重に基づいた成人用の計画が使用される場合、年齢が2歳未満であるか体表面が0.5m未満でないかぎり25mg/mで週に1回である。注射可能な投与形態(塩基等価量)20mgで(21.4mgの塩酸塩に等価な塩基として)入手可能である。典型的な用量は、10mg/m、20mg/m、30mg/m、50mg/m、100mg/m、150mg/m、175mg/m、200mg/m、225mg/m、250mg/m、275mg/m、300mg/m、350mg/m、400mg/m、425mg/m、450mg/m、475mg/m、500mg/mであってよい。当然ながら、これらの用量はいずれも例示であり、上記の値の間のいかなる用量も本発明において有用であると予想される。
【0151】
マイトマイシン(mutamycin(R)および/またはマイトマイシンCとしても知られている)は、抗腫瘍活性を有することが示されているストレプトマイセス・カエスピトサス(Streptomyces caespitosus)の培養液から単離された抗生物質である。該化合物は熱に強く、高い融点を有し、かつ有機溶媒に溶けやすい。
【0152】
マイトマイシンは、デオキシリボ核酸(DNA)の合成を選択的に阻害する。グアニンおよびシトシンの含量はマイトマイシンで誘発される架橋の程度と関連している。高濃度の該薬物では、細胞のRNAおよびタンパク質の合成も抑制される。
【0153】
ヒトにおいては、マイトマイシンは静脈内投与後血清から急速に除去される。30mgのボーラス注射後に血清中濃度の50%低減に必要な時間は17分である。30mg、20mg、または10mgのI.V.注射後、最大血清中濃度はそれぞれ2.4mg/ml、1.7mg/ml、および0.52mg/mlであった。クリアランスは主として肝臓での代謝によってなされるが、代謝は他の組織でも同様になされる。クリアランス速度は最大血清中濃度に反比例するが、これは分解経路の飽和によるものと考えられる。マイトマイシンの用量のおよそ10%は尿中にそのまま排泄される。代謝経路が比較的低用量で飽和するので、尿中に排泄される用量の比率は用量の増大とともに増大する。小児では、静脈内投与されたマイトマイシンの排泄は同様である。
【0154】
アクチノマイシンD(ダクチノマイシン)[50−76−0];C62861216(1255.43)は、DNA依存性RNAポリメラーゼを阻害する抗新生物薬である。該薬物は、絨毛がん、胎児性横紋筋肉腫、精巣腫瘍およびヴィルムス腫瘍の治療に用いられる第一選択の併用療法の構成要素である。全身療法に応答しない腫瘍は、局所灌流療法に応答する場合がある。ダクチノマイシンは放射線療法を強化する。該薬物は二次的な(遠心性(efferent))免疫抑制薬である。
【0155】
アクチノマイシンDは、一次選択の外科手術、放射線療法および他の薬物、特にビンクリスチンおよびシクロホスファミドと併用して使用される。抗新生物活性は、ユーイング腫瘍、カポジ肉腫および軟部組織肉腫においても示されている。ダクチノマイシンは絨毛がんの進行症例の女性において有効な可能性がある。該薬物は、転移性精巣がんの患者におけるクロラムブシルおよびメトトレキセートとの併用でも一貫した応答を生じる。時にはホジキン病および非ホジキンリンパ腫の患者において応答が観察される場合もある。ダクチノマイシンは、免疫学的応答、特に腎移植の拒絶反応を阻害するためにも使用されてきた。
【0156】
用量の半分はそのまま胆汁中へ、また10%は尿中へ排泄され;半減期は約36時間である。該薬物は血液脳関門を通らない。アクチノマイシンDは凍結乾燥された粉末(各バイアル中に0/5mg)として供給される。通常の日用量は10〜15mg/kgであり;これは、5日間静脈内投与されるが;毒性の発現に遭遇しなければ、追加のコースが3〜4週間隔で行われてもよい。毎日100〜400mgの注射が10〜14日間小児に与えられており;他のレジメンでは、3〜6mg/kg、合計125mg/kg、および一週間の維持用量7.5mg/kgが使用されてきた。静脈内注入のチューブ内へ薬物を投与するほうが安全であるが、皮下反応を回避するための、バイアルから薬物を引き出すのに使用された針を廃棄する予防策と共に、直接的な静脈注射がなされてきた。典型的な用量は、100mg/m、150mg/m、175mg/m、200mg/m、225mg/m、250mg/m、275mg/m、300mg/m、350mg/m、400mg/m、425mg/m、450mg/m、475mg/m、500mg/mであってよい。当然ながら、これらの用量はいずれも例示であり、上記の値の間のいかなる用量も本発明において有用であると予想される。
【0157】
ブレオマイシンは、ストレプトマイセス・ベルチシルス(Streptomyces verticillus)の菌株から単離された細胞毒性のグリコペプチド抗生物質の混合物である。ブレオマイシンの正確な作用機構は未知であるが、利用可能な証拠からは、RNAおよびタンパク質合成の阻害はより軽度であるといういくつかの証拠を伴って、主な作用様式はDNA合成の阻害であると示唆されるように思われる。
【0158】
マウスでは、高濃度のブレオマイシンは皮膚、肺、腎臓、腹膜およびリンパ管に見られる。皮膚および肺の腫瘍細胞は、造血組織で見られる低濃度とは対照的に高濃度のブレオマイシンを有することが分かった。骨髄に見られるブレオマイシンの低濃度は、この組織に見られる高レベルのブレオマイシン分解酵素と関係があるかもしれない。
【0159】
クレアチニン・クリアランスが毎分>35mlの患者では、ブレオマイシンの血清または血漿の終末消失半減期はおよそ115分である。クレアチニン・クリアランスが毎分<35mlの患者では、血漿または血清の終末消失半減期はクレアチニン・クリアランスが低下するにつれて指数関数的に長くなる。ヒトでは、投薬量の60%〜70%が、活性を有するブレオマイシンとして尿中に回収される。ブレオマイシンは筋肉内経路、静脈内経路、または皮下経路で投与可能である。ブレオマイシンは水に溶けやすい。
【0160】
ブレオマイシンは待期療法とみなされるべきである。該薬物は、単一の作用薬として、または扁平上皮がんにおける他の承認済み化学療法剤との実績のある併用において、以下の新生物、例えば頭頸部(口、舌、扁桃、鼻咽腔、口腔咽頭、洞、口蓋、唇縁、頬粘膜、歯肉、喉頭蓋、喉頭を含む)、皮膚、陰茎、頚部および外陰の管理に有用であることが示されている。該薬物はさらに、リンパ腫および精巣がんの治療にも使用されてきた。
【0161】
アナフィラキシー様反応の可能性から、リンパ腫患者は最初の2回の投与量については2ユニット以下で治療されるべきである。急性反応が生じなければ、その後は通常の投与計画とすることができる。
【0162】
ホジキン病および精巣腫瘍の好転は迅速で、2週間以内に示される。この時までに好転が見られない場合は、好転の見込みはない。扁平上皮がんの応答はより遅く、時には何らかの好転が示される前に3週間も要する。
【0163】
[有糸分裂阻害剤] 有糸分裂阻害剤には、細胞分裂に必要なタンパク質合成または有糸分裂のいずれかを阻害することができる植物アルカロイドおよび他の天然物質が挙げられる。これらは細胞周期の特定の期の間に作用する。有糸分裂阻害剤は、ドセタキセル、エトポシド(VP16)、パクリタキセル、タキソール、taxotere(R)、ビンブラスチン、ビンクリスチン、およびビノレルビンを含んでなる。
【0164】
VP16はエトポシドとしても知られ、主として精巣腫瘍の治療に、ブレオマイシンおよびシスプラチンとの併用で、また肺の小細胞がんについてはシスプラチンとの併用で使用される。VP16は、非ホジキンリンパ腫、急性非リンパ性白血病、乳がん、および後天性免疫不全症候群(AIDS)に関連したカポジ肉腫に対しても活性を有する。
【0165】
VP16は、静脈内投与用の溶液(20mg/ml)として、また経口用の50mg液体入りカプセルとして利用可能である。肺の小細胞がんについては、静脈内投与量(併用療法の場合)は、100mg/m程度またはわずか2mg/mほどであってよく、慣例的には35mg/mで連日4日間〜50mg/mで連日5日間、も使用されている。経口投与される時は、用量は2倍にしなければならない。従って、小細胞肺がんのための用量は200〜250mg/m程度の高用量であってもよい。精巣がんのための静脈内投与量(併用療法の場合)は、50〜100mg/mで連日5日間、または100mg/mを隔日で3回投与である。治療のサイクルは通常3〜4週ごとに繰り返される。薬物は、恐らくは調合物中で使用される溶媒に起因する低血圧および気管支痙攣を回避するために、30〜60分間にわたる注入で徐々に投与されるべきである。
【0166】
タキソールは、アッシュ樹であるタイヘイヨウイチイ(Taxus brevifolia)の樹皮から単離された、実験により得られた抗有糸分裂剤である。タキソールはチューブリンに(ビンカアルカロイドによって使用される部位とは異なる部位に)結合し、微小管の集合を促進する。タキソールは現在臨床評価を受けているところであり;悪性黒色腫および卵巣のがん腫に対する活性を有する。最大用量は、1日30mg/mで5日間、または210〜250mg/mを3週ごとに1回投与である。当然ながら、これらの用量はいずれも例示であり、上記の値の間のいかなる用量も本発明において有用であると予想される。
【0167】
ビンブラスチンは、がんおよび前がん状態の治療用にトログリタゾンとの併用で使用することができる別例の植物のアクリロイド(aklyloid)である。細胞がビンブラスチンとともにインキュベートされると、微小管の分解が生じる。
【0168】
ビンブラスチンまたはビンクリスチンの経口投与後の予想外の吸収が報告されている。通常の臨床用量では、血漿中の各薬物のピーク濃度はおよそ0.4mMである。ビンブラスチンおよびビンクリスチンは血漿タンパク質に結合する。該薬物は、血小板に強く集中し、それよりは少ない程度に白血球および赤血球に集まる。
【0169】
静脈内注射の後、ビンブラスチンは血漿中からの多面的なクリアランス様式を有し;分布後、薬物はおよそ1および20時間の半減期で血漿中から消失する。ビンブラスチンは、肝臓中で代謝されて誘導体のデスアセチルビンブラスチンを生物学的に活性化する。投与量のおよそ15%は尿中にそのまま検出され、約10%が胆汁中排泄の後に糞便中に回収される。肝機能異常を有する患者では用量は低減されるべきである。血漿中のビリルビン濃度が3mg/dl(約50mM)以上である場合、投与量の少なくとも50%の低減が示唆される。
【0170】
硫酸ビンブラスチンは注射用調製物として入手可能である。該薬物は静脈内投与されるが;皮下の血管外溢出に対しては特別な予防措置がとられなければならない、というのも血管外溢出は痛みを伴う刺激および潰瘍を引き起こす可能性があるからである。該薬物は循環不全を有する四肢には注射されるべきでない。0.3mg/kg(体重)の単回投与の後、骨髄抑制は7〜10日でその最大に達する。適度なレベルの白血球減少(およそ細胞3000個/mm)に到達しない場合、1週あたりの用量が0.05mg/kg(体重)きざみで徐々に増加されてもよい。精巣がんの治療を目指したレジメンでは、ビンブラスチンは血球数または毒性に関係なく3週ごとに0.3mg/kgの用量で使用される。
【0171】
ビンブラスチンの最も重要な臨床用途は、転移性精巣腫瘍の治癒的治療法におけるブレオマイシンおよびシスプラチンとの併用である。有益な応答が様々なリンパ腫(特にホジキン病)において報告されており、ホジキン病では症例の50〜90%において著しい改善が示される可能性がある。大部分のリンパ腫におけるビンブラスチンの有効性は、該疾病がアルキル化剤に抵抗性である場合も縮小されない。該薬物は、カポジ肉腫、神経芽細胞腫、およびレッテレル−シヴェ病(ヒスチオサイトーシスX)、ならびに乳がんおよび女性の絨毛がんにおいても活性を有する。
【0172】
ビンブラスチンの用量は個々の患者の必要性に応じて臨床医が決定することになる。0.1〜0.3mg/kgが投与されてもよいし、1.5〜2mg/mが投与されてもよい。別例として、0.1mg/m、0.12mg/m、0.14mg/m、0.15mg/m、0.2mg/m、0.25mg/m、0.5mg/m、1.0mg/m、1.2mg/m、1.4mg/m、1.5mg/m、2.0mg/m、2.5mg/m、5.0mg/m、6mg/m、8mg/m、9mg/m、10mg/m、20mg/mが投与されてもよい。当然ながら、これらの用量はいずれも例示であり、上記の値の間のいかなる用量も本発明において有用であると予想される。
【0173】
ビンクリスチンは有糸分裂を阻止し、中期停止を生じる。この薬物のほとんどの生物学的活性は、該薬物がチューブリンに特異的に結合し、タンパク質が重合して微小管になる能力を阻止するという該薬物の能力によって説明可能であるように思われる。有糸分裂装置の微小管の破壊により、細胞分裂は中期で停止する。有糸分裂中に染色体を正確に分離することができないと、おそらくは細胞死がもたらされる。
【0174】
正常な骨髄細胞および上皮細胞についてビンクリスチンが比較的低毒性であることが、この作用薬を並はずれた抗新生物薬としており、該薬物は他の骨髄抑制性の作用薬との併用に含められることが多い。
【0175】
ビンブラスチンまたはビンクリスチンの経口投与後に予想外の吸収が報告されている。通常の臨床用量では、血漿中の各薬物のピーク濃度はおよそ0.4mMである。
ビンブラスチンおよびビンクリスチンは血漿タンパク質に結合する。該薬物は、血小板に強く集中し、それよりは少ない程度に白血球および赤血球に集まる。
【0176】
ビンクリスチンは、血漿中からの多面的なクリアランス様式を有し;終末半減期は約24時間である。該薬物は肝臓で代謝されるが、生物学的活性を有する誘導体は同定されていない。肝機能異常を有する患者では用量は低減されるべきである。血漿中のビリルビン濃度が3mg/dl(約50mM)以上である場合、投与量の少なくとも50%の低減が示唆される。
【0177】
硫酸ビンクリスチンは静脈注射用の溶液(1mg/ml)として入手可能である。コルチコステロイドと共に使用されるビンクリスチンは現在のところ、小児白血病の緩解をもたらすための最適な治療であり;これらの薬物の最適な用量は、ビンクリスチンを静脈内投与で体表面積1mにつき2mgとして週に1回、およびプレドニゾンを経口投与で40mg/mとして毎日、である。ホジキン病または非ホジキンリンパ腫の成人患者には、通常、複雑なプロトコルの一部としてビンクリスチンが投与される。MOPPレジメンにおいて使用される場合、ビンクリスチンの推奨用量は1.4mg/mである。高用量のビンクリスチンは、重篤な神経毒性を経験する可能性のある成人よりも白血病の小児において、忍容性が良好のように思われる。7日毎より高頻度またはより高用量で該薬物を投与すると、応答率において見合った改善を伴わずに毒性症状発現を増大させるようである。ビンクリスチンの静脈内投与の際の血管外溢出を回避するための予防措置も用いられるべきである。ビンクリスチン(およびビンブラスチン)は、同等の毒性を伴って静脈内投与することが可能な用量より数倍高い用量で腫瘍の動脈血供給部に注入されることも可能である。
【0178】
ビンクリスチンはホジキン病およびその他のリンパ腫に有効であった。該薬物は、ホジキン病において単独で使用された場合ビンブラスチンよりは有効性が多少劣るが、メクロレタミン、プレドニゾンおよびプロカルバジンと共に使用された場合(いわゆるMOPPレジメン)は、進行期(IIIおよびIV)のこの疾病の好ましい治療法である。非ホジキンリンパ腫では、ビンクリスチンは、特にシクロホスファミド、ブレオマイシン、ドキソルビシンおよびプレドニゾンと共に使用された場合に有力な作用薬である。ビンクリスチンは、リンパ性白血病ではビンブラスチンよりも有用である。様々な他の新生物、特にヴィルムス腫瘍、神経芽細胞腫、脳腫瘍、横紋筋肉腫、ならびに、乳房、膀胱および男女生殖器系のがんを有する患者で有益な応答が報告されている。
【0179】
使用時のビンクリスチンの用量は個々の患者の必要性に応じて臨床医が決定することになる。0.01〜0.03mg/kgまたは0.4〜1.4mg/mが投与されてもよいし、1.5〜2mg/mが投与されてもよい。別例として、0.02mg/m、0.05mg/m、0.06mg/m、0.07mg/m、0.08mg/m、0.1mg/m、0.12mg/m、0.14mg/m、0.15mg/m、0.2mg/m、0.25mg/mが持続的静脈内注入として投与されてもよい。当然ながら、これらの用量はいずれも例示であり、上記の値の間のいかなる用量も本発明において有用であると予想される。
【0180】
カンプトテシンは、中国の樹木であるカンレンボク(Camptotheca acuminata Decne)に由来するアルカロイドである。カンプトテシンおよびその誘導体は、「切断複合体」と名付けられた共有結合反応中間物を安定化することによりDNAトポイソメラーゼを阻害し、最終的には腫瘍細胞の死滅を引き起こすその能力において独特である。カンプトテシン類似体は著しい抗腫瘍および抗白血病活性を示したと広く信じられている。臨床でのカンプトテシンの適用は、重大な副作用および不十分な水溶性が原因で制限を受けている。現在、合成または半合成のいくつかのカンプトテシン類似体(トポテカン;イリノテカン)ががん治療に適用されており、満足な臨床効果を示してきた。カンプトテシンの分子式はC2016であり、分子量348.36である。カンプトテシンは黄色の粉末として提供されるが、可溶化されてDMSO 1N水酸化ナトリウム中50mg/mlの透明な黄色の溶液とされてもよい。乾燥した気密性の耐光性環境中に2〜80°Xで保存すれれば、少なくとも2年間安定である。
【0181】
[ニトロソウレア] ニトロソウレアは、アルキル化剤と同様に、DNA修復タンパク質を阻害する。ニトロソウレアは、脳腫瘍に加えて非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、悪性黒色腫を治療するために使用される。例としてはカルマスティンおよびロムスチンが挙げられる。
【0182】
カルマスティン(無菌カルマスティン)は、ある種の新生物疾患の治療において使用されるニトロソウレアのうちの1つである。カルマスティンは1,3ビス(2−クロロエチル)−1−ニトロソウレアである。これは、分子量214.06の、凍結乾燥された淡黄色のフレークまたは凝固塊である。これは、アルコールおよび脂質において可溶性が高く、水溶性に乏しい。カルマスティンは推奨されるような再構成の後に静脈内注入によって投与される。無菌カルマスティンは、凍結乾燥物の100mg単回量バイアルとして一般に入手可能である。
【0183】
カルマスティンがDNAおよびRNAをアルキル化するということでは概ね合意されているが、カルマスティンは他のアルキル化剤との交差耐性はない。他のニトロソウレアがそうであるように、カルマスティンはタンパク質中のアミノ酸のカルバモイル化によっていくつかの重要な酵素的プロセスを阻害することも可能である。
【0184】
カルマスティンは、膠芽腫、脳幹神経膠腫、メデュロブラディオーマ(medullobladyoma)、星状細胞腫、脳室上衣腫、および転移性脳腫瘍のような脳腫瘍において、単剤としての待期療法として、または他の承認済み化学療法剤との確立された併用療法において適応される。さらに、多発性骨髄腫を治療するためにプレドニゾンとの併用で使用されてきた。カルマスティンは、ホジキン病の治療および非ホジキンリンパ腫において、一次療法で治療を受けている間に再発するかまたは一次療法に応答しない患者での他の承認薬と併用した二次療法として、有用であることが分かっている。
【0185】
事前に治療を受けていない患者における単剤としてのカルマスティンの推奨用量は、6週ごとに150〜200mg/mの静脈内投与である。これは単回量として投与されてもよいし、75〜100mg/mで連続2日間のような連日注射に分割されてもよい。カルマスティンが他の骨髄抑制性薬物との併用で、または骨髄予備能が枯渇した患者において使用される場合、用量はそれに応じて調節されるべきである。初回量に続く用量は、前の用量に対する患者の血液学的応答に応じて調節されるべきである。当然理解されることであるが、本発明において、他の用量、例えば10mg/m、20mg/m、30mg/m、40mg/m、50mg/m、60mg/m、70mg/m、80mg/m、90mg/mまたは100mg/mが用いられてもよい。当業者は、「Remington’s Pharmaceutical Sciences」第15版第61章を参照されたい。用量のある程度の変動は、治療される対象者の状態に依存して必然的に生じることになる。投与を担当する人物は、いかなる場合にも、個々の患者にとって適切な用量を決定することになる。
【0186】
ロムスチンは、ある種の新生物疾患の治療に使用されるニトロソウレアのうちの1つである。ロムスチンは1−(2−クロロ−エチル)−3−シクロヘキシル−1ニトロソウレアである。これは、組成式C16ClNおよび分子量233.71の黄色粉末である。ロムスチンは、10%エタノール(1mL当たり0.05mg)および無水アルコール(1ml当たり70mg)に可溶である。ロムスチンは、水には比較的溶けにくい(1ml当たり<0.05mg)。ロムスチンは生理的pHではあまりイオン化されない。ロムスチンカプセル剤中の非活性成分は:ステアリン酸マグネシウムおよびマンニトールである。
【0187】
ロムスチンがDNAおよびRNAをアルキル化するということでは概ね合意されているが、ロムスチンは他のアルキル化剤との交差耐性はない。他のニトロソウレアがそうであるように、ロムスチンはタンパク質中のアミノ酸のカルバモイル化によっていくつかの重要な酵素的プロセスを阻害することもできる。
【0188】
ロムスチンは経口的に投与されてもよい。放射活性を有するロムスチンを30mg/m〜100mg/mの範囲の用量で経口投与した後、投与された放射活性の約半分が24時間以内に分解産物の形で排泄された。代謝産物の血清中半減期は16時間〜2日に及ぶ。組織内濃度は静脈内投与後15分で血漿中濃度に匹敵する。
【0189】
ロムスチンは、既に適切な外科的処置かつ/または放射線治療を受けている患者において、他の治療法に加えた単剤として、または、原発性および転移性脳腫瘍の両方における他の承認済み化学療法剤とともに確立された併用療法において、有用であることが示されている。さらにロムスチンは、一次療法で治療を受けている間に再発するかまたは一次療法に応答しない患者での他の承認薬と併用したホジキン病に対する二次療法において、有効であることも分かっている。
【0190】
事前に治療を受けていない患者における単剤としての成人および小児におけるロムスチンの推奨用量は、6週ごとに単回経口量として130mg/mである。骨髄機能が損なわれている患者では、用量は6週ごとに100mg/mに低減されるべきである。ロムスチンが他の骨髄抑制性の薬物との併用で使用される場合、用量はそれに応じて調節されるべきである。当然ながら、他の用量、例えば20mg/m 30mg/m、40mg/m、50mg/m、60mg/m、70mg/m、80mg/m、90mg/m、100mg/m、120mg/mまたは治療を受ける患者に必要であると臨床医が判断した上記数値の間の任意の用量が使用されてもよい。
【0191】
[他の作用薬] 使用可能な他の作用薬には、Avastin(R)、Iressa(R)、Erbitux(R)、Velcade(R)およびGleevec(R)が挙げられる。さらに、成長因子阻害剤および低分子キナーゼ阻害剤は本発明において同様に有用性を有している。「Cancer: Principles and Practice of Oncology」(2001)に記載されている全ての治療法が参照により本願に組み込まれる。以下のさらなる治療法も同様に包含される。
【0192】
ii.免疫療法
免疫療法は一般に、がん細胞を標的として破壊するための免疫エフェクターの細胞および分子の使用を土台としている。免疫エフェクターは、例えば腫瘍細胞の表面上の何らかのマーカーに特異的な抗体であってよい。抗体単独で治療のエフェクターとして役立つ場合もあるし、抗体が、実際に細胞の殺滅を行う他の細胞を動員する場合もある。抗体はさらに、薬物または毒素(化学療法薬、放射性核種、リシンA鎖、コレラ毒素、百日咳毒素など)にコンジュゲートされて、単に目標設定を行う物質としての役割を果たすだけの場合もある。別例として、エフェクターは、腫瘍細胞標的と直接的または間接的に相互作用する表面分子を担持するリンパ球であってもよい。様々なエフェクター細胞には細胞毒性T細胞およびNK細胞が含まれる。
【0193】
このように免疫療法は、レオウイルス療法または他の腫瘍崩壊ウイルス療法と併せて、併用療法の一部として使用されることも考えられる。併用療法の一般的方法は以下に議論される。一般に、腫瘍細胞は、標的化に対して適用可能な、すなわち大多数の他の細胞上には存在しない、何らかのマーカーを有していなければならない。多くの腫瘍マーカーが存在しており、そのいずれもが本発明との関連において標的とするのに適している可能性がある。一般的な腫瘍マーカーには、がん胎児性抗原、前立腺特異抗原、泌尿器腫瘍関連抗原、胎児性抗原、チロシナーゼ(p97)、gp68、TAG−72、HMFG、シアリルルイス抗原、MucA、MucB、PLAP、エストロゲン受容体、ラミニン受容体、erbBおよびp155が挙げられる。さらに、レオウイルスまたは別の腫瘍崩壊ウイルスに感染した腫瘍細胞または他の過剰増殖性細胞は、細胞表面上にウイルス抗原を発現することによって、該細胞が免疫系による攻撃の影響を受けやすくなるようにすることもできる。
【0194】
腫瘍壊死因子は、いくつかの種類のがん細胞を殺滅し、サイトカイン産生を活性化し、マクロファージおよび内皮細胞を活性化し、コラーゲンおよびコラゲナーゼの産生を促進し、炎症性メディエータであり敗血症性ショックのメディエータでもあり、ならびに異化、発熱および睡眠を促進する、糖タンパク質である。感染性因子にはTNF産生の刺激によって腫瘍退縮を引き起こすものがある。有効用量で単独で使用された場合、TNFはかなり毒性である可能性があり、そこで、最適なレジメンは恐らく他の薬物との併用でより低用量でTNFを使用することになろう。その免疫抑制作用はγインターフェロンによって強化され、そのためこの併用は潜在的に危険である。TNFとインターフェロン−αとのハイブリッドも抗がん活性を有することが見出されている。
【0195】
iii.ホルモン療法
がんの治療における本明細書中に記載された方法による性ホルモンの使用。本明細書中に記載された方法は特定のがんの治療に限定されるものではないが、ホルモンのこの使用は乳がん、前立腺がん、および子宮内膜(子宮の内層)がんに関して有効である。これらのホルモンの例は、エストロゲン、抗エストロゲン、プロゲステロン、およびアンドロゲンである。
【0196】
コルチコステロイドホルモンは、いくつかの種類のがん(リンパ腫、白血病および多発性骨髄腫)を治療するのに役立つ。コルチコステロイドホルモンは、他の化学療法薬剤の有効性を増大させることが可能であり、従って併用治療において頻繁に使用される。プレドニゾンおよびデキサメタゾンはコルチコステロイドホルモンの例である。
【0197】
iv.放射線療法
放射線照射療法とも呼ばれる放射線療法は、イオン化放射線を用いたがんおよび他の疾病の治療である。イオン化放射線は、照射されているエリアにおいて、細胞の遺伝物質に損傷を与えることにより該細胞を傷害または破壊するエネルギーを供して、これらの細胞が成長し続けることを不可能にする。放射線はがん細胞および正常細胞のいずれにも損傷を与えるが、後者は自身を修復して適切に機能することができる。放射線療法は、皮膚、舌、喉頭、脳、乳房、または頚部のがんのような局所的な固形腫瘍を治療するために使用可能である。放射線療法はさらに、白血病およびリンパ腫(それぞれ造血細胞およびリンパ系のがん)の治療にも使用可能である。
【0198】
本発明によって使用される放射線照射療法には、限定するものではないが、γ線、X線、または腫瘍細胞へ標的を定めた放射性同位元素の送達のうち少なくともいずれかの使用が挙げられる。マイクロ波およびUV照射のような他の形のDNA損傷要因も企図される。これらの要因のすべてが、DNA、DNA先駆物質、DNAの複製および修復、ならびに染色体の構築および維持に対して様々な損傷を与える可能性は極めて高い。X線の線量域は、1日量50〜200レントゲンで長期間(3〜4週)から、2000〜6000レントゲンの単回量に及ぶ。放射性同位元素の線量域は広く多様であり、同位元素の半減期、放射される放射線の強さおよび種類、ならびに新生細胞による吸収によって変化する。
【0199】
放射線療法は、がん部位に投与量の放射線を直接送達するための放射標識された抗体の使用を含むこともできる(放射免疫療法)。抗体は、抗原(免疫系によって自己と異なるものとして認識される物質)の存在に応答して身体によって作られる高度に特異的なタンパク質である。腫瘍細胞の中には、腫瘍特異抗体の産生を引き起こす特異性抗原を含有するものがある。大量のこれらの抗体を実験室で作製して放射性物質に付着させることが可能である(放射標識として知られている方法)。体内に導入されると、抗体は積極的にがん細胞を捜し出し、がん細胞は放射線の細胞殺滅(細胞毒性)作用によって破壊される。この手法は、正常細胞に対する放射線障害のリスクを最小限にすることができる。
【0200】
原体照射療法は、通常の放射線療法と同じ放射線治療装置(線形加速器)を使用するが、X線ビームの通路に金属ブロックが置かれてX線ビームの形状をがんの形状と一致するように変化させる。このことにより、より高い放射線量が確実に腫瘍に与えられる。健康な周囲の細胞および近くの構造物が受けるのはより低い放射線量であり、したがって副作用の可能性は低減される。多葉コリメータと呼ばれるデバイスが開発されており、該デバイスは金属ブロックの代わりとして使用可能である。多葉コリメータは、線形加速器に固定されるいくつかの金属板で構成されている。放射線療法のビームを、金属ブロックを必要とせずに治療エリアの形状にすることができるように、各層を調節することが可能である。放射線治療装置の正確な位置調整は原体照射療法での治療にとって非常に重要であり、各治療処置の初めにあなたの内部臓器の位置を検査するために特別な走査用装置が使用されてもよい。
【0201】
高解像度強度変調放射線治療も多葉コリメータを使用する。この治療の際には、治療がなされている間に多葉コリメータの層が移動される。この方法は、治療ビームのさらにより正確な成形を達成するようであり、放射線療法の線量を治療エリア全体にわたって一定とすることを可能にする。
【0202】
調査研究から、原体照射療法および強度変調放射線治療は放射線療法の処置の副作用を低減しうることが示されているが、治療エリアを極めて正確に形作ることにより、破壊されている治療エリアのすぐ外側に極微のがん細胞をとどめた可能性も考えられる。このことは、将来がんが再発するリスクが、上記の専門化された放射線療法技術を用いると高くなる可能性があることを意味している。定位放射線治療は脳腫瘍を治療するために使用される。この技法は、腫瘍に達する線量は非常に高く、かつ周囲の健康な組織に影響する線量は非常に低いように、数多くの様々な角度からの放射線治療を行う。治療前に、放射線療法の標的設定が正確に行われるのを確実するために、いくつかの走査像がコンピュータによって解析され、患者の頭部は、放射線療法を受ける間は特別に作られたフレームの中に常に保持される。数種類の線量が与えられる。
【0203】
脳腫瘍の定位放射線手術(ガンマナイフ)は、ナイフではなく、何百もの異なる角度からの、ガンマ放射線治療の極めて正確に標的設定されたビームを使用する。約4〜5時間を要するわずか1回の放射線療法しか要しない。この治療については、特別に作られた金属フレームが頭部に取り付けられることになる。その後、治療が必要な正確なエリアを見つけるためにいくつかの走査およびX線が実行される。放射線療法の間、患者は頭部を大きな保護帽の中に入れて横になるが、該保護帽は、放射線治療ビームが通り抜けられるように何百もの穴部を有している。
【0204】
科学者らは、放射線照射療法の有効性を増大させる方法も模索している。2種類の治験薬が、放射線照射を受けている細胞に対するその影響について検討されている。放射線増感剤は腫瘍細胞を損傷させる可能性が高そうであり、また、放射線防護薬は放射線の影響から正常組織を保護する。温熱療法(熱の使用)も、組織を放射線に対して敏感にする際の有効性について研究されている。
【0205】
v.後続手術
がん患者のおよそ60%は何らかの種類の外科手術を受けることになるが、外科手術には、予防的手術、診断または病期分類の手術、治癒的手術および緩和的手術が挙げられる。治癒的手術は、本発明の治療法、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、遺伝子療法、免疫療法または代替療法のうち少なくともいずれかのような他の治療法と併用されうるがん治療である。
【0206】
治癒的手術には、がん組織全体またはその一部が物理的に除去、摘出、かつ/または破壊される切除術が含まれる。腫瘍切除は、腫瘍の少なくとも一部の物理的除去を指す。腫瘍切除に加えて、外科手術による治療には、レーザー手術、凍結手術、電気外科手術、およびミスコピカルに(miscopically)管理された手術(モース術)が挙げられる。本発明が、表在がん、前がん、または付随量の正常組織、の除去と共に使用可能であることもさらに企図される。
【0207】
がん性の細胞、組織、または腫瘍の全体の一部を切除すると、身体に空洞が形成される場合がある。治療は、さらなる抗がん療法を用いた該エリアの灌流、直接注射または局所塗布によって完了されてもよい。そのような治療は、例えば、1、2、3、4、5、6もしくは7日ごとに、または1、2、3、4、および5週間ごとに、または1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11もしくは12か月ごとに、繰り返されてもよい。これらの治療は同様に投与量を変化させたものであってもよい。
【0208】
V.実施例
以下の実施例は発明の好ましい実施形態を実証するために含められている。当業者には当然のことであるが、以下の実施例において開示される技法は、本発明の実施において十分に機能することが本発明者らによって見出された技法を表し、従って本発明の実施にとって好適な方法を構成すると考えることができる。しかしながら、本開示に照らせば当業者には当然のことであるが、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、開示された具体的な実施形態に数多くの変更を加え、なおも同様または類似の結果を得ることが可能である。
【0209】
実施例1:材料と方法
[細胞株] p53−/−MEF、BTおよびATMが欠損しているL3細胞、ならびにヒトリンパ腫HBL2、Granta、Z138C、Raji、Ramos、およびJVM2細胞、ならびに網膜芽細胞腫細胞株(Y−79およびWERI−Rb−1)はアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションから購入された。細胞は10%FBS中のRPMI 1640中で維持された。
【0210】
[野生型および弱毒化レオウイルスの調製] 本研究で使用される野生型レオウイルスT3D株は、L929細胞中で増殖され、前述のようにして精製された。HTR1培養物に由来する弱毒化レオウイルスは、AVレオウイルスがHT1080細胞およびL929細胞において増殖されたことを除いて野生型レオウイルスの調製で使用されたのと同じ方法によって精製された。レオウイルスはMOIを5〜10として細胞に添加され、これらは37℃で48〜72時間維持された。ウイルスの細胞変性効果が観察された(典型的には20〜30%の細胞融解)後、ペレット化された細胞からウイルスが精製された。ウイルスのCsCl遠心分離は、SW41ロータを使用して35,000rpmで7〜8時間実施された。帯状をなしたウイルスが回収され、150mM NaCl、10mM MgClおよび10mMトリス(pH7.5)に対して十分に透析された。野生型レオウイルスの力価測定については、HEK293細胞が6ウェルプレートに1ウェル当たり細胞2×10個として播種された。37℃で2時間の吸着の後、接種材料は除去された。その後、細胞単層は1%寒天および新鮮培地で覆われた。プラークは感染の5〜7日後に計数された。
【0211】
弱毒化レオウイルスの力価測定についても同じ手順に従ったが、ただし感染の5〜7日後に寒天が取り除かれ、細胞単層は、レオウイルス抗血清および二次FITC抗体で免疫染色するためにcytofix/cytoperm(TM)(BDバイオサイエンス(BD Bioscience))を用いて固定/膜浸透化された。AVレオウイルスプラークは免疫蛍光検出によって同定された。別例として、弱毒化レオウイルスについては、L929細胞で標準的なプラークアッセイも実施された。感染の3日後に、ニュートラルレッドとともに寒天が重層され、細胞単層は24時間後にプラーク形成について検査された。HT1080およびHTR1の感染した上清由来の弱毒化レオウイルス回収物について、35,000rpmの超遠心分離を使用してウイルスがペレット化された。
【0212】
[ミキソーマウイルスの調製] 合成ワクシニアウイルス初期/後期プロモータによって駆動される緑色蛍光タンパク質(GFP)カセットの遺伝子間挿入によって作成されたミキソーマウイルス(ローザンヌ株)のMyx−GFPが感染実験に使用された。Myx−GFPは、従来述べられている(オプゲノース(Opgenorth)ら、1992)ようにしてBGMK細胞で増殖されてフォーカス形成によって力価測定された。
【0213】
[FACS分析] フローサイトメトリー分析については、細胞はトリプシン処理されてcytofix/cytoperm溶液(ファーミンゲン(PharMingen)、米国カリフォルニア州サンディエゴ)を使用して固定された。固定および膜浸透化された細胞は、一次レオウイルス抗血清および二次FITCコンジュゲート型抗ウサギIgG(セダーレーン(Cedarlane)、カナダ国オンタリオ州)とともにインキュベートされ、次いでフローサイトメトリーにより分析された。
【0214】
実施例2:結果
[レオウイルスおよびミキソーマウイルスはp53またはATMが欠損している細胞に優先的に感染する] 腫瘍抑制遺伝子の変調が腫瘍崩壊ウイルス感受性に影響しうるかどうか調べるために、本発明者らは、様々ながんにおいて高頻繁で突然変異しているp53およびATMがん抑制遺伝子を選択した。p53は原型的な腫瘍抑制遺伝子であって、様々ながん細胞において最も共通して変異しており、また、がんの50%以上がp53突然変異を保持していることが示されている(ホワイト(White)、1994;モーリス(Morris)、2002)。ATM(Ataxia telangiectasia mutated)は、DNA損傷に応答して活性化されるセリン・スレオニンタンパク質キナーゼである。ATM遺伝子のいずれのコピーも、がん体質、放射線感受性および神経変性を特徴とする珍しい症候群である毛細血管拡張性運動失調症(Ataxia−Telangiectasia)において、機能不全である(キタガワ(Kitagawa)ら、2005)。したがって本発明者らは、腫瘍崩壊ウイルス感受性を調べるためにp53−/−MEF(マウス胎児線維芽細胞)およびATM欠損型のL3リンパ芽球様細胞(コズローフ(Kozlov)ら、2003)を使用した。図1A〜Bに示されるように、レオウイルス(WTおよびAVレオウイルス;キム(Kim)ら、2007)およびミキソーマウイルスはそれぞれ、蛍光陽性細胞(FITC+細胞またはGFP+細胞)をMEF(p53正常)およびBT(ATM正常)の対照細胞と比較したFACSまたは顕微鏡検出によって示されるように、p53−/−MEFまたはL3(ATM欠損)細胞に優先的に感染した。
【0215】
[レオウイルスおよびミキソーマウイルスはp53またはATMが機能不全であるヒトリンパ腫に優先的に感染する] レオウイルスおよびミキソーマウイルスはp53またはATM欠損細胞に優先的に感染するので、本発明者らは次に、レオウイルスおよびミキソーマウイルスがp53またはATMの欠損を備えたヒトリンパ腫に優先的に感染することができるかどうかを調べた。本発明者らは、遺伝毒性物質の投与の際にp53およびATM依存的経路から生じる異なる細胞応答を示す6つの異なるリンパ腫(HBL−2、Granta、Z138C、JVM2、RajiおよびRamos)を試験した(図2A)。p53およびATMの機能の状態は、IR照射と、ウエスタンブロットによるp53およびATMリン酸化の検出とによって評価された。BT(ATM正常)およびL3(ATM欠損)はIRによるATM応答性の対照として使用された。HBL−2およびRajiは、p53のセリン15の構成的リン酸化によって証明されるように、遺伝毒性ストレスに際して正常に機能しないp53応答を示した(リ(Li)ら、2006)(図2A)。Granta細胞は、遺伝毒性ストレスに際してATM機能不全の応答を示し、ATMはイオン化放射線(IR)刺激に際して活性化されない(図2A)。Z138C、JVM2およびRamos細胞の場合、p53およびATMの応答は、IR刺激によるp53およびATMの過剰リン酸化によって示されたように、遺伝毒性ストレスの後に正常であった(図2A)。興味深いことに、p53またはATMのうち少なくともいずれか一方が機能不全のリンパ腫(HBL2、GrantaおよびRaji)(HBL−2およびRajiは構成的なp53活性化を示し、GrantaはIR刺激に際してATM欠損を示した)は、蛍光陽性細胞(FITC+またはGFP+細胞)をATM応答性およびp53応答性のリンパ腫(Z183C、JVM−2、Ramos)と比較したFACSまたは顕微鏡検出によって示されるように、レオウイルスおよびミキソーマウイルスの両方に優先的に感染しやすい(図2C)。図2Bに示されるように、細胞のATMまたはp53機能不全の応答は、レオウイルス感受性およびミキソーマウイルス感受性の両方との関連が高い。このことは、ウイルス感染に対する細胞の抵抗性の確立にATMおよびp53の両方が関与する一方で、遺伝子またはその応答経路のいずれかの異常がウイルス感受性を付与している可能性があることを強く示している(図2A)。
【0216】
[網膜芽細胞腫細胞はレオウイルスおよびミキソーマウイルスに感染しやすい] レオウイルスおよびミキソーマウイルスはp53およびATM機能不全のがん細胞に優先的に感染するので、本発明者はさらに、RBに欠陥を有するがん細胞もレオウイルスおよびミキソーマウイルスに共に感染しやすいかどうか調べた。図3に示されるように、2つの異なるヒト網膜芽細胞腫細胞は、蛍光陽性細胞(FITC+またはGFP+細胞)のFACSまたは顕微鏡検出によって示されるように、レオウイルスおよびミキソーマウイルスに感染しやすい。いずれの細胞もRb遺伝子の欠損を含有している(リード(Reid)ら、1974)。
【0217】
本願において開示され、特許請求の範囲に記載された全ての方法は、本開示に照らせば過度の実験を伴わずに作製および実行可能である。本発明の組成物および方法は好ましい実施形態に関して説明されてきたが、当業者には当然ながら、本明細書に記載された方法および方法のステップまたはステップの順序に対して、本発明の概念、思想および範囲から逸脱することなく変更を加えることも可能である。より具体的には、化学的かつ生理学的に関連するある種の作用物質が本明細書中に記載の作用物質の代わりに用いられつつ、同一または同様の結果が達成されうることは明白であろう。当業者に明白なそのような同様の代用形態および改変形態はすべて、添付の特許請求の範囲によって定義されるような本発明の趣旨、範囲および概念の範囲内にあると考えられる。
【0218】
参照文献
以下の参考文献は、本明細書に記載されている内容を補足する例示的な手順又は他の詳細な説明を提供する限りにおいて、本明細書中において参照により特に援用されるものである。
【0219】
【表1】






【特許請求の範囲】
【請求項1】
過剰増殖性疾患が腫瘍崩壊性のレオウイルスまたはミキソーマウイルスのうち少なくともいずれか一方に対する感受性を有するかどうかを判定する方法であって、
(a)過剰増殖性細胞を提供するステップと;
(b)前記過剰増殖性細胞由来のp53、Rb、またはATMのうち少なくともいずれかの遺伝子または遺伝子産物の、構造、機能、または発現を評価するステップと;
(c)前記過剰増殖性細胞の前記構造、機能、または発現を、p53、Rb、またはATMの遺伝子または遺伝子産物の野生型の構造、機能、または発現と比較するステップと
を含んでなり、p53、Rb、またはATMのうち少なくともいずれかの構造、機能、または発現における欠陥は、前記過剰増殖性疾患が腫瘍崩壊性のレオウイルスまたはミキソーマウイルスのうち少なくともいずれか一方に対する感受性を有することを示す、方法。
【請求項2】
前記過剰増殖性細胞が得られた患者を治療するステップをさらに含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
治療はレオウイルス療法を含んでなる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記レオウイルス療法は野生型レオウイルス療法である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記レオウイルス療法は弱毒化レオウイルス療法である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記弱毒化レオウイルス療法は、欠陥を有するσ1カプシドタンパク質を発現するか、検出不能なσ1カプシドタンパク質を発現するか、またはσ1カプシドタンパク質を発現しないレオウイルスを利用する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
治療は、前記患者由来の骨髄細胞を前記レオウイルス療法でex vivo治療することを含んでなる、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
治療は、前記患者に対して前記レオウイルス療法を適用することを含んでなる、請求項3に記載の方法。
【請求項9】
前記骨髄細胞に第2の抗過剰増殖療法を施すことをさらに含んでなる、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記患者に対して第2の抗過剰増殖療法を施すことをさらに含んでなる、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記第2の抗過剰増殖療法は、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、遺伝子療法、または免疫療法である、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
治療は、p53、Rb、またはATMの機能または発現の阻害剤を用いた治療法をさらに含んでなる、請求項3に記載の方法。
【請求項13】
前記阻害剤は、タンパク質もしくはペプチド、抗体、siRNA、アンチセンス分子、リボザイムまたは小分子である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
治療はミキソーマウイルス療法を含んでなる、請求項2に記載の方法。
【請求項15】
治療は非ウイルス性の抗過剰増殖療法を含んでなる、請求項2に記載の方法。
【請求項16】
前記非ウイルス性の抗がん療法は、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、遺伝子療法、または免疫療法である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記過剰増殖性細胞は悪性細胞または良性細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
ステップ(a)の前に、患者から前記過剰増殖性細胞を得るステップをさらに含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
発現の評価は、ノーザンブロット法、ウエスタンブロット法、免疫組織化学法、RT−PCR、マイクロアレイ解析、トランスクリプトーム解析、プロテオーム解析、またはメタボローム解析を含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
構造の評価は、塩基配列決定、in situハイブリダイゼーション、免疫組織化学法、または構造プロテオミクスを含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
機能の評価は、p53、Rb、またはATMの下流の標的の発現または活性を評価することを含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
患者の過剰増殖性疾患を治療する方法であって、
(a)過剰増殖性細胞を、p53、Rb、またはATMの機能または発現の阻害剤と接触させるステップと;
(b)前記過剰増殖性細胞に、レオウイルスまたはミキソーマウイルス療法を施すステップと
を含んでなる方法。
【請求項23】
前記患者はレオウイルス療法で治療される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記レオウイルス療法は野生型レオウイルス療法である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記レオウイルス療法は弱毒化レオウイルス療法である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記弱毒化レオウイルス療法は、欠陥を有するσ1カプシドタンパク質を発現するか、検出不能なσ1カプシドタンパク質を発現するか、またはσ1カプシドタンパク質を発現しないレオウイルスを利用する、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記患者はミキソーマウイルス療法で治療される、請求項22に記載の方法。
【請求項28】
治療は、前記患者由来の骨髄細胞のex vivo治療を含んでなる、請求項22に記載の方法。
【請求項29】
治療は、前記患者のin vivo治療を含んでなる、請求項22に記載の方法。
【請求項30】
前記骨髄細胞に第2の抗過剰増殖療法を施すことをさらに含んでなる、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記患者に第2の抗過剰増殖療法を適用することをさらに含んでなる、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
第2の抗過剰増殖療法は、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、遺伝子療法、または免疫療法である、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
第2の抗過剰増殖療法は、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、遺伝子療法、または免疫療法である、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記過剰増殖性細胞は悪性細胞または良性細胞である、請求項22に記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−502621(P2012−502621A)
【公表日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−510734(P2011−510734)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【国際出願番号】PCT/US2009/045048
【国際公開番号】WO2009/143468
【国際公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(510308942)ユーティアイ リミテッド パートナーシップ (1)
【氏名又は名称原語表記】UTI LIMITED PARTNERSHIP
【Fターム(参考)】