説明

過硫酸の製造方法及び製造用電解槽

【課題】従来技術では達成できなかった高濃度過硫酸の電解合成を可能にする方法及び装置を提供する。
【解決手段】導電性ダイヤモンド陽極を使用し、補強が施されたフッ素樹脂系陽イオン交換膜又は親水化処理を行った多孔質フッ素系樹脂膜である隔膜により陰極室から区画した電解槽の陽極室に収容された96%以上の濃硫酸を電解して、高濃度過硫酸を合成する。原料が高濃度であるため、生成する過硫酸も高濃度になる。更に電解液中少量の水しか存在しないため、水電解による酸素やオゾン生成の副反応が減少して高電流密度で過硫酸を製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業的用途に酸化剤として使用できる過硫酸を濃厚な状態で製造するための方法及び電解槽に関する。
【背景技術】
【0002】
水電解により生成する酸化性あるいは還元性を有するいわゆる電解水が、医療、食品などの様々な分野で利用できることが報告されている。又電子部品の洗浄工程においても、オンサイト型で保存や輸送に伴う危険が少なく、又排水処理コストの低減が可能であるため、電解水による洗浄が注目を集めている。
ここで使用される薬剤として過硫酸や過硫酸塩があり、これらは電気化学的に生成することが知られており、既に十数年に渡って工業規模で電解製造され、酸性硫酸塩、例えば硫酸アンモニウム(NH4 2 SO4 の陽極酸化で得られる。このときの過硫酸の生成効率は硫酸イオン濃度に依存し、硫酸が高濃度であるほど高効率で過硫酸が得られる。
【0003】
過硫酸製造用電極としては通常白金リボンが使用されていたが、上述の電解条件では消耗量が非常に大きいため、不純物の混入が無視できなくなり、用途が限定され、又電極の交換を頻繁に行わなければならないという問題点が生じていた。
この白金電極使用による過硫酸の電解合成時の欠点を解消するために導電性ダイヤモンド陽極の使用が提案されている(特許文献1)。陽極物質としての導電性ダイヤモンドは、酸素発生反応に対する過電圧が高く、この導電性ダイヤモンドを陽極として硫酸イオンを含む水溶液の電解を行うと、水電解による酸素発生反応と硫酸イオンの酸化による過硫酸イオン生成反応が競争反応となるが、導電性ダイヤモンド電極の酸素発生反応に対する過電圧が高いため、酸素発生反応の進行が抑制されて、硫酸イオンの酸化による過硫酸イオン生成が優先的に進行するという長所がある。
【0004】
特許文献1に記載の発明は、不純物生成が少なく陽極寿命が長いという利点がある一方、過硫酸生成が酸素生成との競争反応であるため、電流効率が高くならずしかも高濃度の過硫酸が得られないという欠点がある。
特許文献2及び3記載の発明は、洗浄槽と電解反応層間で洗浄液を循環させる態様が記載され、洗浄槽では過硫酸で被洗浄物を洗浄し、当該洗浄槽での洗浄により一部が消耗して硫酸に変換された洗浄液を前記電解反応槽に循環させて電解し、過硫酸を再生させた後に、前記洗浄槽へ戻すようにしている。運転当初の洗浄槽には、98%硫酸を純水で希釈した洗浄液が供給され、この洗浄液を電解しても当初の硫酸濃度を超える濃度には上昇しない。
【特許文献1】特開2001−192874号公報
【特許文献2】特開2006−111943号公報(請求項1、段落0047)
【特許文献3】特開2006−114880号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、酸素発生反応を抑制して高濃度の過硫酸を効率良く生成できる方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、第1に、導電性ダイヤモンド電極を陽極室に収容し、当該陽極室を補強が施されたフッ素樹脂系陽イオン交換膜又は親水化処理を行った多孔質フッ素系樹脂膜により陰極室から区画した電解槽の前記陽極室に96%以上の濃硫酸を陽極液として供給して電解を行い、高濃度過硫酸を電解合成することを特徴とする過硫酸の製造方法であり、この方法では陰極室には70%以下の硫酸を陰極液として供給して電解を行っても良い。第2に、その両面に有孔保護板を密着させた補強が施されたフッ素樹脂系陽イオン交換膜又は親水化処理を行った多孔質フッ素系樹脂膜により導電性ダイヤモンド陽極を収容する陽極室と陰極を収容する陰極室に区画された2室型電解槽であって、前記陽極室に96%以上の濃硫酸を陽極液として供給して電解を行い、高効率に高濃度過硫酸を電解合成することを特徴とする過硫酸製造用電解槽である。本発明で高濃度過硫酸とは、30%以上の過硫酸をいう。
【0007】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明では、陽極として導電性ダイヤモンド電極を使用し、この導電性ダイヤモンド電極で96%以上の濃硫酸を電解する。導電性ダイヤモンド電極は、白金電極や二酸化鉛電極と比較して高い酸素過電圧を有し(白金は数百mV、二酸化鉛は約0.5V、導電性ダイヤモンドは約1.4V)、水と反応して反応式(1)及び(2)に示すように、酸素やオゾンを発生させる。更に陽極液中に硫酸イオンや硫酸水素イオンが存在すると、これらと反応して反応式(3)及び(4)に示すように、酸素やオゾンを発生させる。
【0008】
2H2 O → O2 + 4H+ + 4e- (1.23V) (1)
3H2 O → O3 + 6H+ + 6e- (1.51V) (2)
2SO4 2- → S2 8 2- + 2e- (2.01V) (3)
2HSO4 - → S2 8 2-+ 2H+ + 2e- (2.12V) (4)
【0009】
前述の通り、これらの反応は、水電解による酸素発生反応と硫酸イオンの酸化による過硫酸イオン生成反応が競争反応となるが、導電性ダイヤモンド電極を使用すると、過硫酸イオン生成が優先する。
これは、ダイヤモンド電極は極端に電位窓が広く、かつ酸素発生反応に対する過電圧が高くかつ目的の酸化反応が電位的に進行し得る範囲にあるため、硫酸イオンを含有する水溶液電解を行うと、高い電流効率で過硫酸生成が起こり、酸素発生は僅かに起こるに過ぎない。
導電性ダイヤモンドの酸素発生過電圧の高さは次のようにして説明できる。通常の電極表面ではまず水が酸化されて酸素化学種が形成された後、この酸素化学種から酸素やオゾンが生成すると考えられるが、ダイヤモンドは通常の電極物質より化学的安定性が高く帯電していない水がその表面に吸着しにくく従って水の酸化が起きにくいと考えられる。これに対し硫酸イオンはアニオンであり、陽極として機能するダイヤモンド表面に低い電位でも吸着しやすく、酸素発生反応より起こりやすくなると推測できる。
【0010】
このように導電性ダイヤモンド電極を使用して硫酸電解を行うと、白金電極を使用するよりも高い効率で過硫酸が製造できる。しかし従来の硫酸電解では希硫酸を使用するため、大量の水が存在し、無視できない量の酸素やオゾンが発生し、これが電流効率を減少させ、生成する過硫酸濃度の上昇を阻害していた。
【0011】
本発明では、電解原料として96%以上の濃硫酸を使用するため、水の量が4%以下であり、硫酸イオンの酸化による過硫酸イオン生成反応が、水電解より大幅に有利になり、ほぼ選択的に過硫酸イオンが生成する。しかも原料自体が96%以上の濃硫酸であるため、硫酸イオンの反応が促進されて過硫酸イオンが効率良く生成する。得られる過硫酸濃度は反応時間や温度などにも影響されるが、30〜60%程度である。
【0012】
なお過硫酸生成の選択率をより上昇させるために、従来のようにフッ化ナトリウムやチオシアン酸アンモニウムを電解液中に添加しても良い。更に電極上への硫酸イオンの吸着率を高めるために、ナトリウム、アンモニウム、カリウム、セシウム及びルビジウム等のアニオンを添加しても良い。なお過硫酸には一般にペルオキソ一硫酸(H2 SO5 )とペルオキソ二硫酸(H2 2 8 )があり、本発明における過硫酸は主として後者を指称するが、前者が含まれることもある。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、過硫酸製造の選択性の高い導電性ダイヤモンド電極を使用して96%以上の濃硫酸を電解する。原料が高濃度であるため、生成する過硫酸も高濃度になる。更に電解液中に4%以下の水しか存在しないため、水電解による酸素やオゾン生成の副反応が減少して高電流密度で過硫酸を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明の過硫酸製造方法及び装置の各部材について説明する。
本発明で使用する導電性ダイヤモンド陽極は、電極基体上に炭素源となる有機化合物の還元析出物であるダイヤモンドを担持して製造される。
前記基体の材質及び形状は材質が導電性であれば特に限定されず、導電性シリコン、炭化珪素、チタン、ニオブ、モリブデン等から成る板状、メッシュ状あるいは例えばビビリ繊維焼結体である多孔性板等が使用でき、材質は熱膨張率が近い導電性シリコン、炭化珪素の使用が特に好ましい。又導電性ダイヤモンドと基体の密着性向上のため及び導電性ダイヤモンド膜の表面積を増加させ単位面積当たりの電流密度を下げるために、基体表面はある程度の粗さを有することが望ましい。
導電性ダイヤモンドを膜状にして使用する場合は、耐久性及びピンホール発生を少なくするために、膜厚を10μmから50μmとすることが望ましい。耐久性の面から100μm以上の自立膜も使用可能であるが、槽電圧が高くなり電解液温の制御が煩雑になるため好ましくない。
【0015】
基体への導電性ダイヤモンドの担持法も特に限定されず従来法のうちの任意のものを使用できる。代表的な導電性ダイヤモンド製造方法としては熱フィラメントCVD(化学蒸着)法、マイクロ波プラズマCVD法、プラズマアークジェット法及び物理蒸着(PVD)法等があり、これらの中でも成膜速度が速いこと及び均一な膜を得やすいことからマイクロ波プラズマCVD法の使用が望ましい。
この他に超高圧で製造される合成ダイヤモンド粉末を樹脂等の結着剤を用いて基体に担持したダイヤモンド電極も使用可能であり、特に電極表面にフッ素樹脂等の疎水性成分が存在すると処理対象の硫酸イオンを捕捉しやすくなり反応効率が向上する。
【0016】
マイクロ波プラズマCVD法は、メタン等の炭素源とボラン等のドーパント源を水素で希釈した混合ガスを、導波管でマイクロ波発信機と接続された導電性シリコンやアルミナ、炭化珪素等の導電性ダイヤモンドの成膜基板が設置された反応チャンバに導入し、反応チャンバ内にプラズマを発生させ、基板上に導電性ダイヤモンドを成長させる方法である。マイクロ波によるプラズマではイオンは殆ど振動せず、電子のみを振動させた状態で擬似高温を達成し、化学反応を促進させる効果を奏する。プラズマの出力は1〜5kWで、出力が大きいほど活性種を多く発生させることができ、ダイヤモンドの成長速度が増加する。プラズマを用いる利点は、大表面積の基体を用いて高速度でダイヤモンドを成膜できることである。
【0017】
前記ダイヤモンドに導電性を付与するために、原子価の異なる元素を微量添加する。硼素やリンの含有率は好ましくは1〜100000ppm 、更に好ましくは100 〜10000ppm である。この添加元素の原料は毒性の少ない酸化硼素や五酸化二リンなどが使用できる。このように製造された基体上に担持された導電性ダイヤモンドは、チタン、ニオブ、タンタル、シリコン、カーボン、ニッケル、タングステンカーバイドなどの導電性材料から成る、平板、打抜き板、金網、粉末焼結体、金属繊維体、金属繊維焼結体等の形態を有する給電体に接続できる。
【0018】
使用する電解槽は補強の施されたフッ素樹脂系陽イオン交換膜や親水化処理された多孔質フッ素系樹脂膜などの隔膜で陽極室及び陰極室に区画された2室型電解槽とし、陽極で一旦生成した過硫酸イオンが陰極に接触して硫酸イオンに還元されることを防止する。
電解室の材質は耐久性の面から、高温耐性及び化学的耐性の高いPTFEやNewPFEが望ましい。シール材としてはゴアテックスやポアフロンのような多孔質PTFEや、PTFEやNewPFEで包んだゴムシートやOリングが望ましい。
本発明で使用する陰極は、水素発生電極又は酸素ガス電極で濃硫酸に耐久性があれば良く、導電性シリコン、ガラス状カーボン、及び貴金属メッキしたこれらの材料を使用できる。酸素ガス電極の場合の酸素供給量は理論量の1.2 〜10倍程度にする。
【0019】
フッ素樹脂系陽イオン交換膜としては商品名Poreflon等の中性膜や商品名Nafion, Aciplex, Flemion等の陽イオン交換膜が使用できるが、両極室での生成物を分離して製造できる面から後者の陽イオン交換膜の使用が望ましく、更にフッ素樹脂系陽イオン交換膜は電解液の伝導度が低い場合でも電解を速やかに進行させることができる。水の濃度勾配の影響を受け難くすること及び槽電圧を低くする目的から、低含水率でも寸法が安定しているパッキング(補強布)の入ったフッ素樹脂系陽イオン交換膜、厚さが50μm以下のフッ素樹脂系陽イオン交換膜、積層していないフッ素樹脂系陽イオン交換膜が望ましい。96%硫酸等の平衡水蒸気圧が低い物質との共存下では環境ではイオン交換膜は低含水率となり比抵抗値が増大し電解槽電圧が増大する問題がある。陽極室に過硫酸を高効率で得るため96%硫酸等の高濃度硫酸を供給する場合は、陰極室にはイオン交換膜に水を供給するために70%以下の硫酸を供給することが好ましい。
本発明では隔膜としてフッ素樹脂系陽イオン交換膜以外に、IPA(イソプロピルアルコール)処理などの親水化を行った多孔質フッ素系樹脂膜も使用できる。イオン交換膜以外の、ゴアテックスやポアフロン等の商品名の多孔質フッ素樹脂膜はIPA処理などの親水化処理を行わないと電解が進行しない。前記多孔質フッ素樹脂膜は、疎水性であり硫酸の通液ができず、電解も進行しない。この多孔質フッ素樹脂膜の親水化処理を行うと、該樹脂膜が水や濃硫酸を含むことができるようになり、硫酸による電気伝導も可能になるため、電解槽隔膜として機能するようになる。この処理を行わない多孔質フッ素樹脂膜は孔の中に空気を含んだままの状態となり電気伝導ができないため、電解が進行しない。親水化多孔質フッ素系樹脂膜を隔膜に使用した際は、フッ素樹脂系陽イオン交換膜を隔膜に使用した際と比較して、両極室生成物が隔膜を介してわずかに混合する問題があるが、隔膜自体には抵抗の発生はなく、低電解槽電圧にて稼働できる。
【0020】
IPA処理は例えば、前記多孔質フッ素樹脂膜のうち電解時に接液する部分のみ、98%IPAを滴下塗布して浸透させた後、前記多孔質フッ素樹脂膜全体を純水に浸漬して浸透させたIPAと純水を置換し、電解槽に設置するまで純水に浸漬したままで保管する。電解槽に設置する際には、接液部分が乾燥しないように手早く組み立て、硫酸通液を行う。また、IPAと純水の置換の後、電解時に接液する部分のみ更に98%硫酸に置換しておくと乾燥せずまた組み立て時に電解槽内に余分な水を持ち込まないため、より好ましい。
IPAは−OH基の親水性部分と、―CH基の疎水性部分を有しており、前記処理により多孔質フッ素樹脂膜表面に疎水性部分が吸着し、親水性部分が孔の方を向いてこの親水性部分に水等を吸着することで濡れるようになり、電解に使用することが可能になる。
多孔質フッ素樹脂膜はIPA処理により親水化することにより、導電性を獲得し、IPA処理を行っていない多孔質フッ素樹脂膜では進行しない過硫酸の電解合成反応が進行するようになるだけでなく、イオン交換膜を使用する場合よりも低電圧で過硫酸を合成できる。
親水化処理はIPA処理が好ましいが、他のIPA処理以外の親水化処理で親水化しても良い。これ以外に、市販の既に親水化されている多孔質フッ素樹脂膜を使用しても良い。
【0021】
この隔膜は、2枚の保護板間に挟みこんでも良く、この保護板は、パンチング等により孔を形成した、又はエキスパンドメッシュとしたPTFEやNewPFE製の板とする。
導電性ダイヤモンド電極は酸化力が大きく、陽分極している導電性ダイヤモンド表面に接触する有機物は分解され、多くは二酸化炭素に変換される。電解槽中の隔膜は、電解槽への液供給に用いられる液供給ポンプの吐出圧の影響を受けて、陽極及び陰極間で振動し、前記保護板がないと、導電性ダイヤモンド陽極に接触して消耗する可能性がある。又保護板がない状態で振動すると、電極−隔膜間の距離が変動し、槽電圧も変動することもある。
【0022】
電解槽の各部材間をシールするためのプレス圧から導電性ダイヤモンド電極やその基体を保護するために、ゴム等のクッション性のある材料を挟むことが望ましい。又金属繊維焼結体や金属ウェブ等の導電性のある材料を使うことで給電体も兼用できる。
【0023】
次に本発明に過硫酸製造の実施例を説明するが、該実施例は本発明を限定するものではない。
【0024】
[実施例1]
厚さ3mmの6インチ径シリコン基板(基体)に、メタンとジボラン(メタンに対して10000ppm)を原料とするマイクロ波プラズマCVD法により20μmのダイヤモンド層を形成し、導電性ダイヤモンド電極とした。この電極の外周部の幅1.8cmをフランジ部とし、電解面積約1dmの陽極とした。又陽極と同寸法のグラッシーカーボンに白金触媒を担持して陰極とした。隔膜として補強布を織り込んだフッ素樹脂系陽イオン交換膜であるゴアセレクト(ジャパンゴアテックス社製)を使用し、このフッ素樹脂系陽イオン交換膜の両面に前記陽極及び陰極を配置し、フッ素樹脂系陽イオン交換膜と各電極とは3mmの間隔を空けて電解液が通液する陽極室とし、図1に示す液循環型イオン交換膜型電解槽を構成した。
【0025】
この電解槽1は、フッ素樹脂系陽イオン交換膜2により前記導電性ダイヤモンド陽極3が収容されかつ濃硫酸が満たされた陽極室4と前記白金陰極5が収容されかつ希硫酸が満たされた陰極室6に区画されている。陽極室4には陽極液循環パイプ7が接続され、この循環パイプ7を通して陽極液である濃硫酸が陽極室4と陽極液タンク8間を陽極液循環ポンプ9により循環するように構成されている。又陰極室6には陰極液循環パイプ10が接続され、この循環パイプ10を通して陰極液が陰極室6と陰極液タンク11間を陰極液循環ポンプ12により循環するように構成されている。前記陽極液タンク8及び陰極液タンク11はそれぞれの下部が恒温槽13に浸漬されて液温をほぼ一定に維持している。
【0026】
この電解槽を使用して次の条件で過硫酸製造を行った。電解液の循環はエアードポンプにより行った。
電流値:20A/dm
陽極循環液:96%EL硫酸(関東化学株式会社製)
陰極循環液:70%硫酸(陽極循環液を純水希釈して調製)
陽極液流量:1L/分
陰極液流量:1L/分
初期陽極液温度:25℃
初期陰極液温度:25℃
電解時間:60分
【0027】
60分の電解により、約40%の過硫酸が95%の電流効率で得られ、槽電圧は14Vであった。
電解後、電解槽を解体し、フッ素樹脂系陽イオン交換膜の目視観察を行ったところ、フッ素樹脂系陽イオン交換膜の陽極側表面に電解面積とほぼ同形状の白色部分が形成されていた。この白色部分をSEM観察したところ、鱗状の痕が生成していた。これは電解中に、フッ素樹脂系陽イオン交換膜が循環ポンプから発生する電解液圧の振動を受けて間欠的にイオン交換膜と陽極が接触したため、フッ素樹脂系陽イオン交換膜が酸化・変質し、痕が発生したと推測された。陰極側には鱗状の痕は生成しなかった。
【0028】
[実施例2]
フッ素樹脂系陽イオン交換膜を2枚の保護板で挟みこんだこと以外は実施例1と同じ条件で過硫酸製造を行った。保護板は厚さ2mmのPTFE製とし、直径0.6cmの円孔を複数個穿孔して、全体の約29%に孔が形成されるようにした。
60分の電解により、約40%の過硫酸が95%の電流効率で得られた。セル電圧は14Vであった。
電解後、電解槽を解体し、フッ素樹脂系陽イオン交換膜の目視観察を行ったところ、フッ素樹脂系陽イオン交換膜のいずれの面にも白色部分は形成されていなかった。
【0029】
[実施例3]
隔膜として、ゴアセレクトに替えて、フッ素系スルホン酸イオン交換膜であるナフィオン117(デュポン社の商品名)を使用したこと以外は実施例2と同じ条件で過硫酸製造を行ったところ、約20%の過硫酸が48%の電流効率で得られた。セル電圧は40Vであった。
電解後、電解槽を解体し、フッ素樹脂系陽イオン交換膜の目視観察を行ったところ、フランジに接触するイオン交換膜部分に複数の孔が形成されていた。これは発熱と脱水によるイオン交換膜の収縮によるものと推定できる。実施例2と比較して電流効率が低いのはイオン交換膜に孔が発生したために生成した過硫酸が陰極室へリークしたためと考えられる。
【0030】
[実施例4]
ポアフロンWP−045−40(住友電工ファインポリマー社製)を電極と同寸法に切り取り、接液部分にのみ98%IPAを滴下塗布して浸透させた。これを純水に1時間浸漬し置換した後取り出し、親水化処理を行った。電解槽組立て直前に、親水化処理したポアフロンの接液部分のみに96%硫酸を滴下塗布し、浸透させた。
隔膜として、ゴアセレクトに替えて、前記IPA処理を行ったポアフロンを使用したこと以外は実施例2と同じ条件で過硫酸製造を行ったところ、約45%の過硫酸が95%の電流効率で得られた。セル電圧は10Vであった。
電解後、電解槽を解体し、イオン交換膜の目視観察を行ったところ、変化は観察できなかった。
【0031】
[比較例1]
隔膜として、ゴアセレクトに替えて、未処理のポアフロン(住友電工ファインポリマー社製)を使用したこと以外は実施例2と同じ条件で過硫酸製造を試みたが、電解は進行しなかった。
【0032】
[実施例5]
親水性ポアフロンWPW−045−40(住友電工ファインポリマー社製)を隔膜として使用したこと以外は実施例2と同じ条件で過硫酸製造を試みたところ実施例2と同じ電解結果を得た。親水性ポアフロンはIPA処理を行わなくとも親水性を有しており電解可能である。但し、電解試験後、試験に用いた親水性ポアフロンを純水で水洗・乾燥し、再度純水に浸漬したところ、親水性は失われており、水は浸透しなかった。
【0033】
実施例2〜5及び比較例1の結果を表1に纏めた。
【0034】
【表1】

【0035】
[実施例6]
電解時間を1分としたこと以外は実施例2と同じ条件で過硫酸の電解合成を行った。
1分間の電解の後、電解液タンク中の液を5ml採取し水で希釈して5%硫酸とし、その全量をヨウ素滴定法で酸化還元滴定し、過硫酸(H2 2 8 )生成を想定して電流効率を算出したところ表2に示す通り95%であった。
【0036】
[比較例2及び3]
96%硫酸の替わりに、50%硫酸(比較例2)及び10%(比較例3)を使用したこと以外は実施例6と同じ条件で電流効率を測定したところ、表2に示す通り83%(比較例2)及び77%(比較例3)であった。
【0037】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施例及び比較例で使用した液循環型イオン交換膜型電解槽の概略図。
【符号の説明】
【0039】
1 電解槽
2 隔膜(フッ素樹脂系陽イオン交換膜、多孔質フッ素系樹脂膜)
3 導電性ダイヤモンド陽極
4 陽極室
5 陰極
6 陰極室
7 陽極液循環パイプ
8 陽極液タンク
9 陽極液循環ポンプ
10 陰極液循環パイプ
11 陰極液タンク
12 陰極液循環ポンプ
13 恒温槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性ダイヤモンド電極を陽極室に収容し、当該陽極室を補強が施されたフッ素樹脂系陽イオン交換膜又は親水化処理を行った多孔質フッ素系樹脂膜である隔膜により陰極室から区画した電解槽の前記陽極室に96%以上の濃硫酸を陽極液として供給して電解を行い、高効率に高濃度過硫酸を電解合成することを特徴とする過硫酸の製造方法。
【請求項2】
導電性ダイヤモンド電極を陽極室に収容し、当該陽極室を補強が施されたフッ素樹脂系陽イオン交換膜又は親水化処理を行った多孔質フッ素系樹脂膜である隔膜により陰極室から区画した電解槽の前記陽極室に96%以上の濃硫酸を陽極液とし、陰極室には70%以下の硫酸を陰極液として供給して電解を行い、高効率に高濃度過硫酸を電解合成することを特徴とする過硫酸の製造方法。
【請求項3】
その両面に有孔保護板を密着させ、補強が施されたフッ素樹脂系陽イオン交換膜又は親水化処理を行った多孔質フッ素系樹脂膜である隔膜により導電性ダイヤモンド陽極を収容する陽極室と陰極を収容する陰極室に区画された2室型電解槽であって、前記陽極室に96%以上の濃硫酸を陽極液として供給して電解を行い、高効率に高濃度過硫酸を電解合成することを特徴とする過硫酸製造用電解槽。

【図1】
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【公開番号】特開2007−332441(P2007−332441A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−167616(P2006−167616)
【出願日】平成18年6月16日(2006.6.16)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ポアフロン
【出願人】(000105040)クロリンエンジニアズ株式会社 (48)
【Fターム(参考)】