説明

過電流保護素子及びその製造方法

【課題】 導電体の高分子マトリクスとの接着部分を粗面化しなくても高い接着状態を得ることができ、しかも、生産工程やコストの上で大きな負担になることのない過電流保護素子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 樹脂1中に導電性粒子2を含有した組成物3を電極となる一対の金属箔4間に挟持させる。そして、樹脂1中に、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロカーボンスルフォン酸、テトラフルオロエチレン‐ペルフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン‐ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、及びテトラフルオロエチレン‐エチレン共重合体からなる群からフッ素樹脂を一種類以上選択して含有する。EPDMを添加するので、金属箔4と樹脂1との接着性が悪化するのを有効に防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の電気機器の回路、電池、部品等を保護する過電流保護素子及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
過電流保護素子は、図示しないが、樹脂中に導電性粒子を含有した導電性の組成物が一対の金属箔間に挟持されることにより構成され、温度に依存して電気抵抗値を増加させる特性(PTC特性ともいう)を有する素子であり、例えば米国特許第3243753号明細書、及び同3351882号明細書等に開示されている(特許文献1、2参照)。
抵抗値の増大は結晶性高分子が融解に伴って膨張し、導電性粒子の導電経路を切断するためと考えられ、樹脂にポリエチレンを使用して100〜120℃で回路電流を遮断するよう設計されるのが一般的である。
【0003】
このような過電流保護素子において、150〜260℃の高い周囲温度で動作して回路電流を遮断したい場合には、特許第3365768号、特許第3560342号、特表平8−512174号公報等に開示されているように、樹脂の骨格にフッ素を有する結晶性樹脂を使用することが一般に知られている。
【特許文献1】米国特許第3243753号公報
【特許文献2】米国特許第3351882号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、係る超高温型の過電流保護素子において、樹脂骨格にフッ素を有する樹脂を使用すると、過電流保護素子の電極となる金属箔と樹脂との接着性がポリエチレン等を主樹脂として使用した場合に比べて悪化するという問題が生じる。この問題を解消する手段としては、金属箔の樹脂との接着面を粗面化して物理的に接着強度を高める方法が考えられるが、十分とは言い難い。
【0005】
また、過電流保護素子の製造時に発生するハンダ付け等の高温(220〜270℃)に過電流保護素子が晒された場合には、樹脂の軟化、金属箔と樹脂間に内包された気泡体積の増大等の悪影響のため、金属箔と樹脂とに接着不良が発生し、過電流保護素子に重大な欠陥が発生する。この欠陥が発生した場合には、選別等により取り除く以外、対策がないので、生産工程やコストの上で大きな負担となる。さらに、選別できずにユーザの手に渡った場合には、様々な問題を惹起するおそれがある。
【0006】
本発明は上記に鑑みなされたもので、導電体の高分子マトリクスとの接着部分を粗面化しなくても高い接着状態を得ることができ、しかも、生産工程やコストの上で大きな負担になることのない過電流保護素子及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明においては上記課題を解決するため、高分子マトリクス中に導電性粒子を含有した組成物を複数の導電体の間に挟んだものであって、
高分子マトリクス中に、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロカーボンスルフォン酸、テトラフルオロエチレン‐ペルフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン‐ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、及びテトラフルオロエチレン‐エチレン共重合体からなる群からフッ素樹脂を一種類以上選択して含有するようにしたことを特徴としている。
【0008】
なお、組成物を複数の導電体の間に挟んで1.0〜40MRad相当の放射線を照射するようにすることが好ましい。
また、高分子マトリクス中に、カルボン酸、無水マレイン酸を付加してなるエチレン‐αオレフィン‐ジエン共重合体、スチレン‐ブタジエン共重合体で構成された一種類以上のエラストマーを5〜20wt%含有することが好ましい。
また、導電性粒子をカーボン粒子にすると良い。
【0009】
また、本発明においては上記課題を解決するため、高分子マトリクス中に導電性粒子を含有した組成物を複数の導電体の間に挟む製造方法であって、
高分子マトリクス中に、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロカーボンスルフォン酸、テトラフルオロエチレン‐ペルフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン‐ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、及びテトラフルオロエチレン‐エチレン共重合体からなる群からフッ素樹脂を一種類以上選択して含有することを特徴としている。
【0010】
なお、組成物を複数の導電体の間に挟んだ後に1.0〜40MRad相当の放射線を照射することが好ましい。
また、高分子マトリクス中に、カルボン酸、無水マレイン酸を付加してなるエチレン‐αオレフィン‐ジエン共重合体、スチレン‐ブタジエン共重合体で構成された一種類以上のエラストマーを5〜20wt%含有することが好ましい。
さらに、導電性粒子をカーボン粒子にすると良い。
【0011】
ここで、特許請求の範囲における高分子マトリクスは、一種類でも良いし、複数種でも良い。放射線としては、γ線、X線、電子線があげられる。さらに、本発明に係る過電流保護素子は、少なくとも一次電池、二次電池、自動車のモータ、スピーカ、携帯電話の充電電池、コンピュータ回路の保護等に使用される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、導電体の高分子マトリクスとの接着部分を粗面化しなくても、高い接着状態を得ることができるという効果がある。また、過電流保護素子の生産工程やコストの上の負担を軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態を説明すると、本実施形態における超高温型の過電流保護素子及びその製造方法は、図1に示すように、樹脂1中に導電性粒子2を含有したシート形の組成物3を電極として機能する一対の金属箔4間に挟持させ、樹脂1中に、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロカーボンスルフォン酸、テトラフルオロエチレン‐ペルフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン‐ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、及びテトラフルオロエチレン‐エチレン共重合体からなる群からフッ素樹脂を一種類以上選択して含有するようにしている。
【0014】
導電性の組成物3と一対の金属箔4とは、1.0〜40MRad相当のγ線、X線、あるいは電子線からなる放射線が照射されることにより、確実に接続される。
樹脂1は、例えば高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフェニリデンエーテル等からなる。この樹脂1中には、カルボン酸、無水マレイン酸を付加してなるエチレン‐αオレフィン‐ジエン共重合体、スチレン‐ブタジエン共重合体で構成された一種類以上のエラストマーが5〜20wt%含有される。
【0015】
金属箔4は、圧延された銅、アルミニウム、亜鉛、チタン、ステンレス、鉄、金、銀、ニッケル等からなり、リード端子として兼用可能に形成される。この金属箔4の材料は、特に限定されるものではないが、不導体皮膜が形成されにくく、導電性等に優れる安価なニッケルが最適である。
【0016】
導電性粒子2としては、特に限定されるものではなく、カーボン、グラファイト、膨張黒鉛、金や銀等からなる金属微粒子、ポリアニリンやポリアセチレン等からなる導電性ポリマー等が使用される。但し、耐候性等に優れる安価なカーボン粒子の使用が最適である。
【0017】
上記によれば、過電流保護素子の配合にEPDMを添加するので、金属箔4と樹脂1との接着性が悪化するのをきわめて有効に防止することができる。すなわち、フッ素系樹脂を使用した過電流保護素子は本発明による処方にしたがうことにより、高温時の金属箔4の剥離が激減し、PTCの効果を失うことなく、良好な素子を得ることができる。
【0018】
また、金属箔4の樹脂1との接着面を粗くして物理的に接着強度を高める必要が全くない。また、金属箔4と樹脂1との接着不良を回避することができるので、生産工程やコスト上の大きな負担を著しく軽減することができる。さらに、ユーザの購入後の様々な問題を未然に防ぐことも可能になる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明に係る過電流保護素子及びその製造方法の実施例を比較例と共に説明する。
実施例1〜3、比較例1〜3の過電流保護素子をそれぞれ製造し、これら過電流保護素子のR‐T曲線や金属箔の剥離強度について測定した。各過電流保護素子は、熱可塑性の樹脂中に導電性粒子を溶融分散させたシート形の組成物を一対の金属箔間に挟持させることにより製造した。樹脂や導電性粒子は、表1に示すものを使用・配合した。また、金属箔として、厚さ25μmの圧延ニッケル箔(圧延Ni)を使用した。
【0020】
【表1】

【0021】
実施例‐1
配合組成を表1に示す通りとし、樹脂については、メーカから支給される形態であるペレットをジェットミルにより16〜100meshの粒度に調整した。こうして各樹脂を調整したら、各樹脂の粉末と導電材料とをスーパーミキサー((株)カワタ製)により混合し、170℃に温度調整された加圧ニーダーで40分間分散して混練物を得た。
【0022】
次いで、混練物をカレンダー加工機にセットしてシーティングし、厚さ200μmのシートを成形してその両面には圧延ニッケル箔をそれぞれ重ね、プレス成形機にセットして加熱(250℃)、加圧(5kgf/cm)し、混練物と金属箔を溶融接着させてラミネ
ート物(総厚250μm)を得た。得られたラミネート物に対し、30MRadの電子線を電子線架橋装置により照射して高分子配合物を架橋させ、5mm×12mmの大きさに裁断して過電流保護素子を製造した。さらに、10mm×200mmの短冊形に裁断し、剥がれ強度の測定サンプルとした。
【0023】
実施例‐2
基本的には実施例‐1と同様であるが、配合組成を表1に示すように変更した。
実施例‐3
基本的には実施例‐1と同様であるが、配合組成を表1に示すように変更した。
【0024】
比較例‐1
基本的には実施例‐1と同様であるが、配合組成を表1のように変更した。
比較例‐2
基本的には実施例‐1と同様であるが、配合組成を表1のように変更し、金属箔を粗面化した。
比較例‐3
基本的には実施例‐1と同様であるが、配合組成を表1のように変更した。
【0025】
各過電流保護素子を製造したら、その特性を測定した。具体的には、過電流保護素子の圧延ニッケル箔に電線の一端部を接続するとともに、電線の他端部を抵抗測定器に接続して抵抗値を測定した。そして、雰囲気温度を上昇させながら過電流保護素子の温度毎の抵抗値を測定し、過電流保護素子のR‐T曲線を表2、3、4にまとめた。
【0026】
また、過電流保護素子の圧延ニッケル箔の剥がれ強度を23℃、120℃、180℃の雰囲気下でそれぞれ測定して表5にまとめた。さらに、各1000個の製造後に23℃、120℃、180℃の雰囲気下にそれぞれ10分間放置し、その後の圧延ニッケル箔の剥がれ発生数を表6にまとめた。
【0027】
【表2】

【0028】
【表3】

【0029】
【表4】

【0030】
【表5】

【0031】
【表6】

【0032】
実施例‐1、2、3の過電流保護素子は、問題なくPTC特性を示し、180℃においても接着強度が低下することはなかった。また、試験の範囲内では、圧延ニッケル箔の剥離現象は見られなかった。
【0033】
これに対し、比較例‐1、2の過電流保護素子は、PTC特性を示すものの、実施例に比べると、やや緩和抵抗値が高めであった。また、雰囲気温度の上昇とともに圧延ニッケル箔の接着力が低下する様子が観察され、樹脂から圧延ニッケル箔が剥がれる素子が確認された。さらに、比較例‐3の過電流保護素子は、樹脂と圧延ニッケル箔との接着状態が良好であるものの、PTC特性が発現せず、トリップ状態が不十分であるのが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る過電流保護素子及びその製造方法の実施形態を示す断面説明図である。
【符号の説明】
【0035】
1 樹脂(高分子マトリクス)
2 導電性粒子
3 組成物
4 金属箔(導電体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子マトリクス中に導電性粒子を含有した組成物を複数の導電体の間に挟んだ過電流保護素子であって、
高分子マトリクス中に、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロカーボンスルフォン酸、テトラフルオロエチレン‐ペルフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン‐ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、及びテトラフルオロエチレン‐エチレン共重合体からなる群からフッ素樹脂を一種類以上選択して含有するようにしたことを特徴とする過電流保護素子。
【請求項2】
組成物を複数の導電体の間に挟んで1.0〜40MRad相当の放射線を照射するようにした請求項1記載の過電流保護素子。
【請求項3】
高分子マトリクス中に、カルボン酸、無水マレイン酸を付加してなるエチレン‐αオレフィン‐ジエン共重合体、スチレン‐ブタジエン共重合体で構成された一種類以上のエラストマーを5〜20wt%含有した請求項1又は2記載の過電流保護素子。
【請求項4】
導電性粒子をカーボン粒子とした請求項1、2、又は3記載の過電流保護素子。
【請求項5】
高分子マトリクス中に導電性粒子を含有した組成物を複数の導電体の間に挟む過電流保護素子の製造方法であって、
高分子マトリクス中に、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロカーボンスルフォン酸、テトラフルオロエチレン‐ペルフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン‐ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、及びテトラフルオロエチレン‐エチレン共重合体からなる群からフッ素樹脂を一種類以上選択して含有することを特徴とする過電流保護素子の製造方法。
【請求項6】
組成物を複数の導電体の間に挟んだ後に1.0〜40MRad相当の放射線を照射する請求項5記載の過電流保護素子の製造方法。
【請求項7】
高分子マトリクス中に、カルボン酸、無水マレイン酸を付加してなるエチレン‐αオレフィン‐ジエン共重合体、スチレン‐ブタジエン共重合体で構成された一種類以上のエラストマーを5〜20wt%含有する請求項5又は6記載の過電流保護素子の製造方法。
【請求項8】
導電性粒子をカーボン粒子とする請求項5、6、又は7記載の過電流保護素子の製造方法。

【図1】
image rotate