説明

道路舗装車両

【課題】ホイール式の道路舗装車両の前輪を、簡易な構成で精度良く制御する。
【解決手段】道路舗装車両は、発電機11と、後輪用電動モータ17と、油圧カムモータと、油圧ポンプ20と、前輪用電動モータ18と、制御装置13とを備える。発電機11は、エンジン10の駆動によって発電を行う。後輪用電動モータ17は、発電機11の電力によって後輪5a,5bを駆動する。油圧カムモータは、前輪を駆動する。油圧ポンプ20は、油圧カムモータを作動させる。前輪用電動モータ18は、発電機11の電力によって油圧ポンプ20を駆動する。制御装置13は、前輪用電動モータ18の回転数を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスファルト道路を舗装する道路舗装車両に関し、より特定的には、発電機を用いてアクチュエータを電気的に駆動する道路舗装車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アスファルトフィニッシャ等のホイール式の道路舗装車両においては、主駆動輪である後輪を補助するために前輪にも駆動力を持たせる構成が採用されている。ここで、前輪に関しては、その上部にホッパが配置されることから車輪の寸法が制限されるために、コンパクトで低速回転における動力伝達力の高い駆動源が要求される。また、後輪駆動によって高速走行を行う場合にはフリーホイール状態となることが要求される。これらの要求から、従来、前輪駆動用のモータとしては油圧カムモータが用いられていた。また、従来、油圧カムモータは、エンジンによって駆動される油圧ポンプによって作動するものであった(例えば、特許文献1や特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−315419号公報
【特許文献2】特開2009−185520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、前輪駆動を行う道路舗装機械に関しては、例えば前輪を後輪の速度に合わせて制御することが要求される場合がある。例えばホッパに積載されるアスファルト合材の量が少なくなって前輪における摩擦力が低下する等の理由で前輪が空転するおそれがあり、前輪が空転すると舗装路盤を傷つけるおそれがあるからである。このような理由で、前輪駆動を行う道路舗装機械に関しては、前輪を精度良く制御することが要求される場合がある。
【0005】
しかしながら、従来においては、油圧ポンプをエンジンによって駆動しているため、油圧ポンプを精度良く制御することが困難であり、その結果、前輪の駆動を精度良く制御することが困難であった。
【0006】
例えば特許文献1では、エンジンによって駆動される固定容量ポンプを用いているので、前輪の駆動を精度良く制御することが難しく、また、常にエンジンの回転数に比例した作動油を吐出するためにポンプの作動負荷が大きくなる結果、エネルギー効率が悪くなっている。また、例えば上記特許文献2においては、前輪を後輪の速度に合わせて制御するために、複雑な油圧回路を構成しなければならなかった。また、上記特許文献2においては、アナログの制御弁で制御を行っているために制御精度に限界があった。なお、油圧ポンプとして可変容量ポンプを用いることも考えられるが、可変容量ポンプは高価である上に、可変容量ポンプを用いても制御精度には限界がある。
【0007】
それ故、本発明の目的は、簡易な構成で前輪を精度良く制御することができる道路舗装車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために、次の(1)〜(5)の構成を採用した。
【0009】
(1)
本発明は、ホイール式の道路舗装車両である。道路舗装車両は、発電機と、第1電動モータと、油圧カムモータと、油圧ポンプと、第2電動モータと、制御装置とを備える。発電機は、エンジンの駆動によって発電を行う。第1電動モータは、発電機の電力によって後輪を駆動する。油圧カムモータは、前輪を駆動する。油圧ポンプは、油圧カムモータを作動させる。第2電動モータは、発電機の電力によって油圧ポンプを駆動する。制御装置は、第2電動モータの回転数を制御する。
【0010】
上記(1)の構成によれば、前輪を駆動する油圧カムモータを作動させる油圧ポンプは、第2電動モータによって発電機の電力で駆動される。また、第2電動モータの回転数は制御装置によって制御される。したがって、上記(1)の構成によれば、油圧ポンプの吐出量を制御装置によって電気的に制御することができるので、前輪の駆動を精度良く制御することができる。また、上記(1)の構成によれば、従来のように複雑な油圧回路を構成することなく簡易な構成で前輪の駆動制御を行うことができる。
【0011】
(2)
制御装置は、後輪の速度に応じた回転数となるように第2電動モータの回転数を制御してもよい。
【0012】
上記(2)の構成によれば、制御装置は、後輪の速度に応じて第2電動モータの回転数を制御するので、後輪の速度に合わせた適切な回転数で前輪を駆動させることができる。これによれば、前輪が空転することによって路盤を傷つける可能性を低減することができ、より品質の良い舗装を行うことができる道路舗装車両を提供することができる。
【0013】
(3)
制御装置は、後輪の速度を設定する制御部と、発電機の出力を、後輪の速度に応じた周波数に変換して第2電動モータに供給するインバータとを有していてもよい。
【0014】
上記(3)の構成によれば、制御装置は、インバータを用いて周波数制御を行うことで第2電動モータの回転数を制御する。インバータを用いることによって、より容易に精度良く前輪の駆動制御を行うことができる。
【0015】
(4)
制御装置は、第1電動モータを制御するとともに、後輪の速度に応じた回転数となるように第2電動モータの回転数を制御してもよい。
【0016】
上記(4)の構成によれば、後輪および前輪の両方の駆動制御を制御装置が行うので、後輪に合わせた前輪の駆動制御をより容易に行うことができる。例えば、後輪用の第1電動モータに対する制御指令から後輪の速度を算出(推測)することによって後輪の速度を容易に算出し、後輪の速度に応じた前輪の駆動制御を容易に行うことができる。
【0017】
(5)
油圧ポンプは固定容量ポンプであってもよい。
【0018】
上記(5)の構成によれば、(可変容量ポンプと比べて)安価な固定容量ポンプを用いることで、道路舗装車両の低コスト化を図ることができる。なお、本発明によれば、油圧ポンプの吐出量を制御装置によって電気的に制御することができるので、油圧ポンプとして固定容量ポンプを用いる場合であっても、前輪の駆動を精度良く制御することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明によれば、道路舗装車両の前輪を駆動するための油圧ポンプを電動モータおよび制御装置によって電気的に制御することによって、前輪の駆動を精度良く制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態に係るアスファルトフィニッシャの外観構成図
【図2】本実施形態に係るアスファルトフィニッシャの電気的な構成を示す図
【図3】前輪を駆動するための油圧回路の構成を示す図
【図4】前輪を駆動するための油圧回路の構成を示す図
【図5】前輪を駆動するための油圧カムモータの構成を示す図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態に係るアスファルトフィニッシャについて図面を参照して説明する。図1は、本実施形態に係るアスファルトフィニッシャの外観構成図である。本実施形態に係るアスファルトフィニッシャ1は、前輪を駆動するための油圧ポンプを電動モータによって駆動制御することによって、簡易な構成で前輪を精度よく制御するとともに、エネルギー消費を低減することができるものである。
【0022】
[1.アスファルトフィニッシャの全体構成]
まず、アスファルトフィニッシャ1の全体構成について説明する。図1において、アスファルトフィニッシャ1は、車体2と、スクリード装置8とを備えている。車体2は、ホッパ3、前輪4、後輪5、スクリュー6を有している。前輪4および後輪5は、ホイール式のアスファルトフィニッシャ1の走行機構である。本実施形態においては、後輪5が主な駆動輪であるが、後述するように前輪4も駆動力を有する。ホッパ3は、車体2の前部(図1に示すx軸正方向側)に設けられ、供給側(ダンプカー等)からアスファルト合材を受け入れるためのものである。また、車体2のホッパ3の下側には、図示しないコンベヤが設けられる。コンベヤは、ホッパ3の下側から車体2の後部まで設けられ、ホッパ3で受けたアスファルト合材を後方へ搬送する。スクリュー6は、コンベヤで搬送されてきたアスファルト合材を左右方向へ拡幅しつつ路面に拡散する。スクリード装置8は、路面に拡散されたアスファルト合材を敷き均す。なお、スクリード装置8はレベリングアーム7によって車体2と上下可動に連結され、スクリード装置8の高さは適宜調節される。運転席は車体2の後方(スクリード装置8の上方)に設けられる。
【0023】
以上の構成により、アスファルトフィニッシャ1は、ホッパ3に供給されたアスファルト合材をコンベヤを介して後方のスクリュー6から路面に拡散し、拡散されたアスファルト合材をスクリード装置8によって均一平坦に転圧して舗装する。なお、図1に示す構成は、従来のアスファルトフィニッシャと同じであってもよい。また、図1に示す構成は一例であり、本発明は任意の道路舗装車両(道路舗装機械)に適用可能である。また、図1に示すアスファルトフィニッシャ1の構成は一例であり、アスファルトフィニッシャ1が備える構成は上記に限られない。例えば他の実施形態においては、アスファルトフィニッシャ1は、路面を敷き固めるためのタンパ装置や、タンパ装置を加熱するタンパ加熱装置等を有していてもよい。また、スクリード装置8は、主スクリードと伸縮スクリードとを有し、伸縮可能な構成であってもよい。
【0024】
[2.アスファルトフィニッシャの内部構成]
次に、図2を参照して、本実施形態に係るアスファルトフィニッシャの内部構成について説明する。図2は、本実施形態に係るアスファルトフィニッシャの電気的な構成を示す図である。図2に示すように、アスファルトフィニッシャ1は、エンジン10、発電機11、操作パネル12、制御装置13、各電動モータ17および18、ミッション19、ならびに、油圧ポンプ20を備えている。なお、アスファルトフィニッシャ1は、図2に示す他にもコンベヤ、スクリュー6、および、スクリードの加熱装置等を動作させるための構成を備えていてもよい。コンベヤ、スクリュー6、および、スクリードの加熱装置等の駆動源は発電機11による電力であってもよい。
【0025】
動力源であるエンジン10は、発電機11に機械的に接続されており、発電機11を回転駆動する。エンジン10は典型的にはディーゼルエンジンである。発電機11は、エンジン10の駆動によって発電を行う。本実施形態では、発電機11は三相交流同期発電機である場合を例として説明するが、発電機11の種類はどのようなものであってもよい。発電機11は制御装置13に接続されており、発電機11による三相交流電気出力は制御装置13に入力される。制御装置13は、各電動モータ17および18に接続されており、各電動モータ17および18に電力を供給する。後輪用電動モータ17は、発電機11の電力によって後輪5を駆動する。また、前輪用電動モータ18は、発電機11の電力によって油圧ポンプ20を駆動する。
【0026】
操作パネル12は、ユーザ(オペレータ)の入力手段であり、各制御対象装置(各電動モータ17および18を含む)の駆動等に対する操作指示を受け付ける。本実施形態では、ユーザは、後述する設定値Aを操作パネル12によって設定可能である。
【0027】
制御装置13は、各電動モータ17および18に接続されており、各電動モータ17および18の動作を制御する。詳細は後述するが、制御装置13は、後輪5の速度に応じた回転数となるように前輪用電動モータ18の回転数を制御する制御装置である。図2に示すように、制御装置13は、制御部14、および、後輪用インバータ(図2では、“AC Drive”と略記する。以下同様。)15、および、前輪用インバータ16を有している。
【0028】
制御部14は、操作パネル12と、各インバータ15および16とに接続される。制御部14は、操作パネル12からの操作指示等に基づいて、各インバータ15および16を制御する。制御部14は、典型的には、CPU等の情報処理手段とメモリ等の記憶手段とを含むシーケンサであり、プログラムによって動作を行うものである。ただし、制御部14はリレー回路等を用いた専用回路によって実現されてもよい。
【0029】
各インバータ15および16は、発電機11に接続され、発電機11から供給される三相交流の電力を所望の周波数に変換して出力することで、各電動モータ17および18をそれぞれ駆動する。各インバータ15および16から出力される交流電気の周波数(あるいは電力)は、制御部14の制御指示に従って調整される。つまり、各インバータ15および16は、制御部14の制御指示に従って各電動モータ17および18をそれぞれ駆動する。
【0030】
具体的には、後輪用インバータ15は、後輪用電動モータ17に接続され、後輪用電動モータ17を駆動する。後輪用電動モータ17は、ミッション19を経由して右後輪5aおよび左後輪5bを駆動する。
【0031】
また、前輪用インバータ16は、前輪用電動モータ18に接続され、前輪用電動モータ18を駆動する。前輪用電動モータ18は、前輪4を駆動するための油圧ポンプ20を駆動する。
【0032】
次に、前輪4を駆動するための構成について説明する。図3および図4は、前輪を駆動するための油圧回路の構成を示す図である。また、図5は、前輪を駆動するための油圧カムモータの構成を示す図である。図3は、油圧カムモータを作動させる場合の油圧回路の構成を示し、図4は、油圧カムモータをフリーホイール状態にする場合の油圧回路の構成を示している。
【0033】
図3に示すように、アスファルトフィニッシャ1が備える前輪駆動用の油圧回路は、油圧ポンプ20、作動油タンク21、切換弁22、各油圧カムモータ23aおよび23b、リリーフ弁24、第1チェック弁25、ならびに、第2チェック弁26を含む。なお、図3に示す油圧回路の構成は一例であり、油圧回路は、油圧ポンプ20によって前輪4を駆動させることができるものであればどのような構成であってもよい。
【0034】
油圧ポンプ20は、前輪用電動モータ18によって作動油を吐出し、各油圧カムモータ23aおよび23bを作動させる。各油圧カムモータ23aおよび23bは、油圧ポンプ20から吐出される作動油によって作動し、前輪4を駆動する。ここで、各油圧カムモータ23aおよび23bは、ケーシング内の油圧を調整することによって、駆動可能状態とフリーホイール状態とを切り換えることができる構成である。
【0035】
具体的には、図5に示すように、油圧カムモータ23においては、筒状のケーシング40の内周面に凸円弧面と凹円弧面とが周方向に複数ずつ(図5では6つずつ)、交互に連続してなるカム面41が設けられる。このカム面41に囲まれた空間部に、円筒形状のシリンダブロック42が回転自在に配設される。シリンダブロック42の外周部には、シリンダブロック42の径方向に向けて複数個(図5では8個)のシリンダ43が周方向に一定間隔毎に放射状に設けられる。また、各シリンダ43内に摺動自在に嵌合したピストン44が設けられる。ピストン44の先端(前端)には、シリンダ43の開口端から出没してカム面41に当接したり、あるいは、離間したりするローラ45がピストン44と一体に設けられる。
【0036】
さらに、シリンダブロック42の中心には、前輪4の回転駆動軸51がシリンダブロック42と一体に固着される。シリンダブロック42において回転駆動軸51の周囲の部分には、各シリンダ43の底部内にそれぞれ連通する複数個(図5では8個)の駆動用圧油供給孔46が設けられる。各駆動用圧油供給孔46には、直径方向に対向する2つの駆動用圧油供給孔46を一対として、後述する駆動用管路33から各対の駆動用圧油供給孔46に順次作動油が分配供給される。これによって、作動油が供給された駆動用圧油供給孔46に対応するシリンダ43内のピストン44の先端のローラ45がカム面41に押し付けられ、シリンダブロック42および回転駆動軸51が回転駆動する。
【0037】
また、ピストン44の背面側のシリンダ室の内底部には、後述する圧力保持管路34が連通される。一方、ピストン44の前面側、すなわち、ピストン44とカム面41との間の空間部には、後述する駆動解除管路32が連通される。駆動解除管路32から空間部に作動油が供給されることによって、ピストン44がシリンダ53内に後退し、ローラ45がカム面41から離間する。このとき、前輪4はフリーホイール状態となる。このように、ケーシング内(上記空間部)の油圧を調整することによって、油圧カムモータ23の駆動可能状態とフリーホイール状態とが切り換えられる。
【0038】
各油圧カムモータ23aおよび23bの動作は、切換弁22によって切り換えられる。具体的には、油圧ポンプ20の吐出口は、吐出管路31を介して切換弁22のPポートに接続される。切換弁22は、Aポート、Bポート、Pポート、およびTポートを有し、PポートがAポートに接続されてTポートがBポートに接続され状態と、PポートがBポートに接続されてTポートがAポートに接続され状態とを切換可能である。切換弁22のBポートは、駆動解除管路32を介して各油圧カムモータ23のカム面側に接続される。切換弁22のAポートは、駆動用管路33を介して各油圧カムモータ23aおよび23bに接続される。切換弁22のTポートは、戻し管路35を介して作動油タンク21に接続される。また、各油圧カムモータ23aおよび23bには圧力保持管路34が接続され、圧力保持管路34は作動油タンク21に接続される。
【0039】
油圧カムモータ23をフリーホイール状態とする場合には、切換弁22は、図3に示すように、切換弁22のPポートがBポートに接続され、TポートがAポートに接続される状態に設定される。このとき、油圧ポンプ20からの作動油は、駆動解除管路32を介して各油圧カムモータ23aおよび23bのケーシング(上記空間部)内に流入される。これによって、ピストン44がシリンダ53内に後退し、ローラ45がカム面41から離間する結果、前輪4はフリーホイール状態となる。なお、駆動解除管路32と戻し管路35との間には第1チェック弁25が接続される。したがって、油圧ポンプ20からの作動油のうちで余った作動油は第1チェック弁25を介して作動油タンク21に戻されるので、各油圧カムモータ23aおよび23bのケーシング内圧は第1チェック弁25のクラッキング圧に設定される。
【0040】
一方、油圧カムモータ23を駆動可能状態とする場合には、切換弁22は、図4に示すように、切換弁22のPポートがAポートに接続され、TポートがBポートに接続される状態に設定される。このとき、油圧ポンプ20からの作動油は、駆動用管路33を介して各油圧カムモータ23aおよび23bの各駆動用圧油供給孔46に流入され、シリンダブロック42および回転駆動軸51が回転駆動する。また、各油圧カムモータ23aおよび23bからの戻りの作動油は圧力保持管路34を介して作動油ポンプに戻され、圧力保持管路34には第2チェック弁26が設けられる。したがって、戻りの作動油は第2チェック弁26により加圧されるので、ピストン44は、常にカム面41に押されて、離れることなく円滑に駆動力を前輪4aおよび4bに伝達する。なお、切換弁22のBポートとTポートとが接続されるので、ケーシング内は作動油タンク21と直結するので、ケーシング内において内圧を生じることは無い。また、油圧カムモータ23がフリーホイール状態から駆動可能状態へと移行する際、ローラ45が急に突出してカム面41に当たるとカム面41を傷つけるおそれがある。そのため、本実施形態においては、駆動可能状態においてケーシング内に若干の圧力をかけることで、ローラ45が急に突出することを防止している。
【0041】
なお、リリーフ弁24は、吐出管路31と戻し管路35との間に接続される。前輪4の牽引力はリリーフ弁24の設定圧力によって定められる。換言すれば、このリリーフ弁24によって油圧カムモータ23aおよび23bの駆動圧力はリリーフ弁24の設定圧力以下に制限される。したがって、仮に後輪5がスリップ等することによってアスファルトフィニッシャ1の走行速度が低下する場合でも、前輪4の駆動力が大きすぎて前輪4が空転し、路盤を傷つけるおそれを低減することができる。
【0042】
以上の構成によって、油圧ポンプ20によって各油圧カムモータ23aおよび23bが駆動される状態と、フリーホイール状態とが切換弁22によって切り換えられる。なお、本実施形態においては、切換弁22の制御は制御部14によって行われる。
【0043】
[3.前輪駆動に関する制御]
(施工時の制御)
次に、アスファルトフィニッシャ1の走行に関する制御について説明する。まず、例えば道路舗装の施工時のように、後輪5とともに前輪4を駆動させる場合における制御について説明する。
【0044】
この場合、制御部14は、後輪5を所定の速度で駆動させる。この所定の速度は、ユーザ等によって予め設定された速度でもよいし、走行中の適宜のタイミングで動的に変化されてもよい。具体的には、制御部14は、上記所定の速度に応じた回転数で後輪用電動モータ17が駆動するように、後輪用インバータ15に対して出力周波数を指示する。これによって、後輪用インバータ15は、指示された出力周波数で後輪用電動モータ17を駆動し、後輪用電動モータ17は上記回転数で後輪5を駆動する。
【0045】
また、制御部14は、後輪5の速度に合わせて前輪4を駆動させる。つまり、前輪用電動モータ18の回転数は、後輪5の速度に応じて設定される。本実施形態においては、前輪用電動モータ18の回転数は次のように設定される。
【0046】
まず、後輪5の速度をVr[m/min]とし、前輪4の接地半径をRf[m]とすると、前輪4を駆動させる油圧カムモータの回転数Nm[rpm]は、次の式(1)によって表すことができる。
Nm=Vr/(2・π・Rf) …(1)
【0047】
また、油圧カムモータ23の容量をQm[cc/rev]、油圧ポンプ20の容量をQp[cc/rev]とすると、前輪用電動モータ18の回転数Np[rmp]は、次の式(2)によって表すことができる。
Np=2・Nm・Qm/Qp …(2)
上式(1)および(2)より、電動モータの回転数Np[rmp]は、次の式(3)によって表される。
Np=(Vr・Qm)/(π・Rf・Qp) …(3)
【0048】
ここで、油圧ポンプ20および油圧カムモータ23の容積効率は、負荷圧力によって定まる。すなわち、無負荷圧力における容積効率はほぼ1.0であり、負荷圧力が上がるに従い容積効率は低下する。油圧カムモータ23の設定圧力の容積効率をηm、油圧ポンプ20の設定圧力の容積効率をηp、前輪用電動モータ18のすべり率をSとすると、設定圧力時の全効率ηtは次の式(4)によって表される。
ηt=(1−S)・ηp・ηm …(4)
本実施形態においては、前輪用電動モータ18の回転数Npを設定するために、これらの効率を考慮する。
【0049】
ここで、前輪4の牽引力が小さすぎると、後輪5の駆動を十分に補助することができない。一方、前輪4の牽引力が大きすぎると、後輪5がスリップ等して速度が低下した場合に前輪4が空転する可能性が高くなる。前輪4が空転すると、路盤を傷つけてしまい、品質の良い舗装を行うことができなくなる。そこで、本実施形態においては、前輪用電動モータ18の回転数Npを次の式(5)に従って設定する。
Np=(Vr・Qm)/(π・Rf・Qp・A) (ηt≦A≦1) …(5)
上式(5)において設定値A=1と設定すると、回転数Npは式(3)で表される値となる。回転数Npをこの値に設定すれば、前輪4は通常は牽引力を生じずにただ後輪5の速度に合わせて回転しているだけになり、後輪5がスリップ等して速度が低下した時にのみ前輪4は駆動力を発揮する。一方、設定値A=ηtと設定すると、アスファルトフィニッシャ1の走行時には常に所定の牽引力(リリーフ弁24の設定圧力で定められる牽引力)で前輪4が駆動する。したがって、設定値Aをηt≦A≦1の範囲で設定することで、前輪4の牽引力が適度な大きさとなるように回転数Npを設定することができる。
【0050】
上記設定値Aは、試算あるいは測定される全効率ηt等に基づいて、制御部14のメモリ等に予め(例えば施工前に)設定される。また、設定値Aは、施工条件に応じて適宜設定(変更)されてもよい。例えば、ユーザが操作パネル12を用いて(上記の範囲で)設定値Aを設定することができるようにしてもよい。設定値Aの適切な値はアスファルトフィニッシャ1の経年変化によっても変化するが、ユーザが設定値Aを変更することができるようにすることで、施行条件あるいは経年変化に応じて適切な設定値Aを設定することができる。また、前輪4の空転のしやすさは、ホッパ3内のアスファルト合材の量によって変化する。したがって、制御部14は、当該アスファルト合材の量を検知し、検知結果に基づいて設定値Aを変化させるようにしてもよい。また、制御部14は、施工中においても設定値Aを動的に変化させてもよい。
【0051】
施工時の動作としては、制御部14はまず、切換弁22を図3に示す状態となるように制御する。次に、制御部14は後輪5の速度(アスファルトフィニッシャ1の速度)Vrを設定する。後輪5の速度を設定する方法はどのような方法であってもよいが、例えば、アスファルトフィニッシャ1の速度を検知するセンサ(後輪5の回転数を検知するセンサ、あるいは、後輪用電動モータ17の回転数を検知するセンサ)をアスファルトフィニッシャ1が備える場合には、当該センサの検知結果を用いて当該速度を設定してもよい。また、本実施形態においては、制御装置13(制御部14)が後輪用電動モータ17を制御するとともに、後輪5の速度に応じた回転数となるように前輪用電動モータ18の回転数を制御する。そのため、制御部14は、後輪用インバータ15に対する制御指令から後輪5の速度を算出(推測)するようにしてもよい。これによって、後輪5の速度を容易に算出することができ、後輪5の速度に応じた前輪4の駆動制御を容易に行うことができる。
【0052】
次に制御部14は、検知された後輪5の速度Vrと設定値Aとに基づいて、上記式(5)を用いて回転数Npを算出する。さらに、制御部14は、前輪用電動モータ18の回転数が、算出された回転数Npとなるように、前輪用インバータ16の出力周波数を制御する。これに応じて、前輪用インバータ16は、発電機11の出力を、後輪5の速度に応じた周波数に変換して前輪用電動モータ18に供給する。これによって、算出された回転数Npで前輪用電動モータ18が駆動するので、後輪5の速度に応じた適切な回転数で前輪4を駆動させることができる。
【0053】
なお、前輪4を駆動させる走行モードである間、制御部14は、上記の(a)後輪5の速度を検知する処理と、(b)回転数Npを算出する処理と、(c)算出された回転数Npに基づいて前輪用インバータ16を制御する処理とを繰り返し実行してもよい。これによって、後輪5の速度の変化に対して前輪4の回転数を動的に対応させることができる。また、他の実施形態においては、制御部14は、上記(a)〜(c)の処理に加えて、設定値Aを変更する処理を(走行中に)繰り返し実行するようにしてもよい。
【0054】
(回送時の制御)
次に、例えば道路舗装の施工を行わない回送時のように、後輪5のみを駆動させる場合における制御について説明する。この場合、制御部14はまず、切換弁22を図4に示す状態となるように制御する。これによって、前輪4はフリーホイール状態となる。なお、制御部14は、フリーホイール状態が維持される程度に油圧ポンプ20から作動油が供給されるような所定の回転数で、前輪用電動モータ18を回転させる。つまり、制御部14は、前輪用電動モータ18が上記所定の回転数となるように、前輪用インバータ16の出力周波数を制御する。
【0055】
また、回送時においても施工時と同様、制御部14は後輪5を所定の速度で駆動させる。回送時においては施工時に比べて高速に後輪用電動モータ17を駆動させるが、制御部14による制御方法は施行時と同様である。以上によって、アスファルトフィニッシャ1は、前輪4をフリーホイール状態として後輪5によって高速走行を行うことができる。
【0056】
(停止時の制御)
次に、アスファルトフィニッシャ1の停止時における制御について説明する。アスファルトフィニッシャ1の停止時においては、前輪4が回転しないので、油圧カムモータ23は、上述の駆動可能状態およびフリーホイール状態のうちのどちらの状態になっていてもよい。したがって、制御部14は、前輪用電動モータ18の駆動を停止し、油圧ポンプ20の作動を停止させてもよい。本実施形態においては、制御部14によって油圧ポンプ20を電気的に制御することができるので、駆動を容易に停止させることができる。また、油圧回路を余計に動作させる必要がないので、油圧回路によるエネルギー消費を抑えることができる。
【0057】
なお、上記施工時あるいは回送時においてアスファルトフィニッシャ1が一時的に停止した場合においても上記停止時と同様に、制御部14は、前輪用電動モータ18を駆動させないように制御してもよい。
【0058】
以上のように、本発明によれば、アスファルトフィニッシャ1の前輪の回転速度制御をインバータによる電気制御で行うことにより、アスファルトフィニッシャ1の施工速度に応じた適切な吐出量となるように油圧ポンプを制御することができる。これによって、前輪4を精度良くかつ効率良く駆動させることができる。
【0059】
また、上記実施形態においてはアスファルトフィニッシャを例として説明を行ったが、本発明は、リペーバ、リミキサー等、アスファルト舗装を行う任意のホイール式の道路舗装車両(道路舗装機械)に利用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上のように、本発明は、簡易な構成で前輪を精度良く制御すること等を目的として、アスファルトフィニッシャ等の道路舗装車両に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0061】
1 アスファルトフィニッシャ
2 車体
3 ホッパ
4 前輪
5 後輪
6 スクリュー
7 レベリングアーム
8 スクリード装置
10 エンジン
11 発電機
12 操作パネル
13 制御装置
14 制御部
15 後輪用インバータ
16 前輪用インバータ
17 後輪用電動モータ
18 前輪用電動モータ
19 ミッション
20 油圧ポンプ
21 作動油タンク
22 切換弁
23 油圧カムモータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホイール式の道路舗装車両であって、
エンジンの駆動によって発電を行う発電機と、
前記発電機の電力によって後輪を駆動する第1電動モータと、
前輪を駆動する油圧カムモータと、
前記油圧カムモータを作動させる油圧ポンプと、
前記発電機の電力によって前記油圧ポンプを駆動する第2電動モータと、
前記第2電動モータの回転数を制御する制御装置とを備える、道路舗装車両。
【請求項2】
前記制御装置は、前記後輪の速度に応じた回転数となるように前記第2電動モータの回転数を制御する、請求項1に記載の道路舗装車両。
【請求項3】
前記制御装置は、
前記後輪の速度を設定する制御部と、
前記発電機の出力を、前記後輪の速度に応じた周波数に変換して前記第2電動モータに供給するインバータとを有する、請求項2に記載の道路舗装車両。
【請求項4】
前記制御装置は、前記第1電動モータを制御するとともに、前記後輪の速度に応じた回転数となるように前記第2電動モータの回転数を制御する、請求項1に記載の道路舗装車両。
【請求項5】
前記油圧ポンプは固定容量ポンプである、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の道路舗装車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−92002(P2013−92002A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235583(P2011−235583)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【特許番号】特許第5066663号(P5066663)
【特許公報発行日】平成24年11月7日(2012.11.7)
【出願人】(000235163)範多機械株式会社 (26)
【Fターム(参考)】