説明

遠心分離機

【課題】
遠心分離機のロータが加速を開始して設定回転速度へ到達するまでの加速時間と、設定回転速度から停止するまでの減速時間を通知する手段を備えた遠心分離機を提供する。
【解決手段】
試料を保持するロータを回転させる駆動部と、ロータの回転を制御する制御部と、情報を表示すると共に使用者からの入力を受け付ける入出力部を有し、入力された設定回転速度でロータを回転させる遠心分離機において、ロータの回転時に、現在の状態からロータの回転が設定回転速度に加速して到達するまでの第1の時間情報(120)と、ロータの回転が停止するまでの第2の時間情報を入出力部(100)に表示するようにした。ここで、第1及び第2の時間情報として、ロータが設定回転速度に到達又は停止するまでの所要時間、又は、その到達時刻を表示すると良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンプルがセットされたロータを高速で回転する遠心分離機に関し、特に、起動されたロータの加速又は減速に要する時間を使用者が容易に識別できるようにした遠心分離機に関する。
【背景技術】
【0002】
医学、薬学、遺伝子工学等の分野で遠心分離機が広く使用されている。一般に、最高回転速度が10,000から30,000rpm程度で回転する遠心分離機は、ロータを回転するための回転室内が大気圧の状態で運転されることが多い。この場合、ロータの回転中に発生する空気とロータとの摩擦熱が大きくなり、試料の温度が上昇してしまう恐れがあるため、遠心分離機に冷媒やペルチェ素子等を使用した冷蔵機等の冷却装置を実装することが多い。この種の遠心分離機においては、分離するサンプル(試料)に合わせて使用者が回転速度、運転時間(分離時間)、保持温度(設定温度)等の運転条件をパネル操作部から設定する。
【0003】
そして、サンプルが挿入されたロータを回転室にセットし、ドアを閉めて操作部のスタートスイッチを押すことによってロータの回転が開始される。ロータが加速され、設定された回転速度に到達すると、その回転速度で定速運転をする。ロータが定速運転を続けて設定された運転時間が経過すると、ロータの回転が減速され、ロータが停止する。その後、使用者はドアを開けて、ロータを取り出して、分離されたサンプルをロータから取り出す。
【0004】
このような一連の遠心分離作業において、ロータの回転開始時から停止時まで、使用者がずっと遠心分離機の前にいて、運転状況を監視するというのは現実的ではない。遠心分離時間は、数分から数時間、あるいは、数十時間に及ぶ場合が有るからである。従って、作業者は、遠心分離のスタートスイッチを押して、ロータを設定された回転速度まで加速させ、ロータが一定の回転速度に到達したことを確認してから、離席したり、別の作業を行ったり、次の遠心分離を行うための準備作業に取り掛かったりすることが多い。これは、加減速をすることなく一定の回転速度で回転するロータは、安定して回ることがほとんどであるからである。
【0005】
遠心分離機が設定された運転時間が経過してロータの運転が停止した時は、停止ブザーや停止メロディが鳴るように構成されている。しかし、使用者が遠心分離機の近くにいれば停止したことを容易に認識できるが、離れた場所にいる場合はブザーやメロディが聞こえないので、使用者はロータが加速して定速運転状態になってから離席し、設定された運転時間経過後に遠心分離機のところに戻るようにする。この戻るタイミングは、設定された運転時間を元にしても良いし、特許文献1のように遠心分離機の残り運転時間が表示器などに表示される場合は、その時間を参考にすると良い。尚、運転時間経過直前に戻った場合ロータが停止しておらず、まだ回転中の場合もある。その場合は、ロータが減速状態に移行してから停止するまでの間、遠心分離機の使用者は、サンプルを直ぐに取り出したいため、遠心分離機の前で待つことが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−79199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
遠心分離機は、分離するサンプルや分離条件により多種のロータから最適なロータを選択し、運転条件を変えて運転する。ロータは、軽く小さいロータ(慣性モーメントが小さい)から重く大きいロータ(慣性モーメントが大きい)まで多種あるため、使用するロータにより設定回転速度までの加速時間や、設定回転速度から停止するまでの減速時間が異なる。当然ながら慣性モーメントが小さいロータは加速、減速時間が短く、慣性モーメントが大きいロータは加速、減速時間が長くなり、例えば、加速・減速時間に20分以上かかる大型ロータもある。
【0008】
さらに同一のロータを用いる場合であっても、セットされるサンプル量の違いにより、設定回転速度に整定するまでの加速時間や、設定回転速度から停止するまでの減速時間が異なる。特許文献1の技術においては、遠心分離機の残り運転時間(一定回転で回転させる運転時間)は表示されるものの減速に要する時間は表示されない。従って、遠心分離機の使用者は加速時間と減速時間を過去の運転実績から予測しなければならないが、多くの使用者は、加速時間や減速時間の実績を正確に把握していないため、いつ設定回転速度に整定するのか、停止(減速)時にいつ停止するのか判らないまま漫然と遠心分離機の前に立ち無駄な時間が生じることがあった。
【0009】
本発明は上記背景に鑑みてなされたもので、その目的は、加速中のロータが設定回転速度へ到達するまでの加速時間と、減速中のロータが停止するまでの減速時間を通知する手段を備えた遠心分離機を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、加速中のロータが設定回転速度へ到達する時刻と、減速中のロータが停止する時刻を通知する手段を備えた遠心分離機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの特徴を説明すれば、次の通りである。
【0012】
本発明の一つの特徴によれば、試料を保持するロータを回転させる駆動部と、ロータの回転を制御する制御部と、情報を表示すると共に使用者からの入力を受け付ける入出力部を有し、入力された設定回転速度でロータを回転させる遠心分離機において、ロータの回転時に、現在の状態からロータの回転が設定回転速度に加速して到達するまでの第1の時間情報を入出力部に表示するようにした。ここで、第1の時間情報は、ロータが設定回転速度に到達するまでの所要時間、又は、設定回転速度に到達する到達時刻である。整定までの時間又は整定する時刻は、切替ボタンによっていずれかの表示に切り替えても良いし、同時に両方を表示しても良い。
【0013】
本発明の他の特徴によれば、制御部は、ロータの種類毎の所要加速時間をあらかじめ記憶しておき、駆動部に装着されたロータを識別して、識別されたロータに該当する所要加速時間を読み出して第1の時間情報を算出する。また、制御部は、ロータの回転上昇勾配パターンをあらかじめ複数記憶しておき、ロータの回転時の回転上昇から該当する回転上昇勾配を選択し、回転上昇勾配を用いて第1の時間情報を算出する。
【0014】
本発明のさらに他の特徴によれば、ロータの回転減速時に、ロータの回転が停止するまでの第2の時間情報を入出力部に表示する。第2の時間情報は、ロータの回転が停止に到達するまでの所要時間、又は、ロータの回転が停止に到達する到達時刻である。
【0015】
本発明のさらに他の特徴によれば、試料を保持するロータを回転させる駆動部と、ロータの回転を制御する制御部と、情報を表示すると共に使用者からの入力を受け付ける入出力部と、ロータを収容するロータ室を減圧する減圧手段を有し、入力された設定回転速度でロータを回転させる遠心分離機において、ロータの回転加速時に、ロータの回転が設定回転速度に到達するまでの第3の時間情報を入出力部に表示するように構成した。第3の時間情報は、減圧されて高速にて回転する遠心分離機における、ロータの整定までに要する時間であって、この時間は、ロータ室の減圧が完了するまでの時間と、減圧が完了した後にロータの回転が設定回転速度まで加速される時間を考慮して算出される。第3の時間情報は、所定時間毎(例えば1分ごと)に計算されて、入出力部に表示される。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明によれば、ロータの回転時に、ロータの回転が設定回転速度に加速して到達するまでの第1の時間情報を入出力部に表示するので、分離するサンプルや分離条件によるロータの種類や、設定回転速度の運転条件の違いにより異なる加速時間が入出力部に表示されるので、使用者に便宜を与え使い勝手のよい遠心分離機を提供できる。
【0017】
請求項2の発明によれば、第1の時間情報は、ロータが設定回転速度に到達するまでの所要時間であるので、ロータの回転開始時又は加速中に、使用者は、あとどのくらいの時間で整定するかを即座に知ることができる。
【0018】
請求項3の発明によれば、第1の時間情報は、ロータが設定回転速度に到達する到達時刻であるので、使用者は、ロータがいつ整定するかを即座に知ることができる。
【0019】
請求項4の発明によれば、制御部は、ロータの種類毎の所要加速時間をあらかじめ記憶しておき、駆動部に装着されたロータを識別して、識別されたロータに該当する所要加速時間を読み出して第1の時間情報を算出するので、使用者は、ロータの種類に応じた正確な加速時間を知ることができる。
【0020】
請求項5の発明によれば、制御部は、ロータの回転上昇勾配パターンをあらかじめ複数記憶しておき、ロータの回転時の回転上昇から該当する回転上昇勾配を選択し、回転上昇勾配を用いて第1の時間情報を算出するので、分離するサンプルの充填状況等が異なっても使用者は正確な加速時間を知ることができる。
【0021】
請求項6の発明によれば、入出力部に、整定までの時間又は整定する時刻のいずれかの表示に切り替えるための切替ボタンを設けたので、使用者は、整定までの時間又は整定する時刻のいずれか好きな方を表示することができる。
【0022】
請求項7の発明によれば、ロータの回転減速時に、ロータの回転が停止するまでの第2の時間情報を入出力部に表示するので、使用者はいつロータの回転が停止するかを容易に知ることができ、使い勝手のよい遠心分離機を提供できる。
【0023】
請求項8の発明によれば、第2の時間情報は、ロータの回転が停止に到達するまでの所要時間であるので、ロータの回転停止時又は減速中に、使用者は、あとどのくらいの時間で停止するかを即座に知ることができる。
【0024】
請求項9の発明によれば、第2の時間情報は、ロータの回転が停止に到達するまでの所要時間であるので、ロータの回転停止時又は減速中に、使用者は、いつロータが停止するかを即座に知ることができる。
【0025】
請求項10の発明によれば、減圧した状態でロータを回転させる真空ポンプ付きの遠心分離機において、ロータの回転加速時に、ロータの回転が設定回転速度に到達するまでの第3の時間情報を入出力部に表示するので、所定の真空度に到達するまでの時間のばらつきや、設定回転速度の運転条件の違いにより異なる加速時間を考慮した加速時間が入出力部に表示されるので、使用者は正確な整定時間を知ることができ、使い勝手の良い遠心分離機を提供できる。
【0026】
請求項11の発明によれば、第3の時間情報は、ロータ室の減圧が完了するまでの時間と、減圧が完了した後にロータの回転が設定回転速度まで加速される時間を考慮して算出されるので、減圧した状態でロータを回転させる真空ポンプ付きの遠心分離機において正確な加速時間を予測して表示することができる。
【0027】
請求項12の発明によれば、ロータ室の気圧が所定値より大きい場合ロータを制限された回転数で回転させ、ロータ室の気圧が所定値以下になったらロータを制限された回転数から設定回転速度まで加速させるので、ロータ室の減圧が完了する前にロータを高速で回転させることが無く、風損による試料の温度上昇を防止することができる。
【0028】
請求項13の発明によれば、第3の時間情報は、ロータが設定回転速度に到達するまでの所要時間であるので、ロータの回転開始時又は加速中に、使用者は、あとどのくらいの時間で整定するかを即座に知ることができる。
【0029】
請求項14の発明によれば、第3の時間情報は、ロータが設定回転速度に到達する到達時刻であるので、使用者は、ロータがいつ整定するかを即座に知ることができる。
【0030】
請求項15の発明によれば、第3の時間情報は所定時間毎に計算されて、入出力部に所定時間毎に更新表示されるので、精度の高い予測時間を表示することができる。
【0031】
本発明の上記及び他の目的ならびに新規な特徴は、以下の明細書の記載及び図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施例に係る遠心分離機の断面図である。
【図2】遠心分離機1の運転条件設定直後の表示・操作部8における画面表示を示す図である。
【図3】遠心分離機1の運転条件設定直後の表示・操作部8における、別の態様による画面表示を示す図である。
【図4】遠心分離機1の設定運転時間106の運転が完了し、ロータ3が減速状態に入る際の表示・操作部8における画面表示を示す図である。
【図5】遠心分離機1の設定運転時間106の運転が完了し、ロータ3が減速状態に入る際の表示・操作部8における、別の態様による画面表示を示す図である。
【図6】本発明の実施例に係る遠心分離機の動作を示すフローチャートである。
【図7】本発明の第2の実施例に係る遠心分離機の断面図である。
【図8】遠心分離機301の表示・操作部308における画面表示を示す図である。
【図9】遠心分離機301が運転を開始して、ロータ303が設定回転速度に達するまでの真空度と時間の関係、及びロータ303の回転速度と時間の関係を示すタイムチャート(その1)である。
【図10】遠心分離機301が運転を開始して、ロータ303が設定回転速度に達するまでの真空度と時間の関係、及びロータ303の回転速度と時間の関係を示すタイムチャート(その2)である。
【図11】遠心分離機301が運転を開始して、ロータ303が設定回転速度に達するまでの真空度と時間の関係、及びロータ303の回転速度と時間の関係を示すタイムチャート(その3)である。
【図12】遠心分離機301が運転を開始して、ロータ303が設定回転速度に達するまでの真空度と時間の関係、及びロータ303の回転速度と時間の関係を示すタイムチャート(その4)である。
【図13】本発明の第2の実施例に係る遠心分離機の動作を示すフローチャートである。
【図14】図13のフローチャートのステップ503の詳細手順(サブルーチン)を示すフローチャートである。
【図15】第2の実施例の第1の変形例に係る画面表示例を示す図である。
【図16】第3の実施例の第1の変形例に係る画面表示例を示す図である。
【図17】第4の実施例の第1の変形例に係る画面表示例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0033】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。なお、以下の図において、同一の部分には同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する。
【0034】
先ず、図1を用いて本発明に係る遠心分離機の基本構成を説明する。図1は遠心分離機の断面図であり、ドアを閉じた状態を示す。遠心分離機1の筐体の上部には、使用者が操作して情報を入力し、必要な情報を表示するための操作・表示部8が設けられる。操作・表示部8としては、例えばタッチパネル式の液晶ディスプレイ(LCD)装置を用いると好ましいが、任意の表示装置や入力装置を用いても良い。
【0035】
遠心分離機1の内部には、ロータ3を収容するための回転室5が設置される。ロータ3には、試料を入れるサンプルチューブ等を挿入するための孔(図示せず)が複数形成される。回転室5は、その上面開口部がドア7によって開閉可能に構成され、ドア7を開けることにより、回転室5の内部に、遠心分離されるサンプルを収納するロータ3を装着或いは脱着できる。回転室5には、その内部を所望の低温に保つために冷却装置9が設けられる。回転室5の温度は、回転室内に設置された温度を測定するための温度センサ11の出力を用いて、制御部6により制御される。尚、温度センサ11はロータ3内に収納されているサンプル温度と同じ温度を検出できるように調整されると好ましい。
【0036】
制御部6は、図示しないマイクロコンピュータ、揮発性及び不揮発性の記憶メモリを含み、信号線により温度センサ11、ドア開閉検出センサ12等の出力信号を入力し、駆動部4の回転制御、冷却装置9のON/OFF制御、操作・表示部13への情報の表示及び入力データの取得等、遠心分離機1の全体の制御を行う。これらの全体制御は、プログラムをマイクロコンピュータで実行することによりソフトウェア的に制御することができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0037】
制御部6は、前記操作部のタッチパネルで設定される運転条件(回転速度、運転時間、設定温度、運転ロータ)を受け取り、制御部6内の記憶装置にあらかじめ記憶される運転条件や装着されたロータ情報の情報を用いて、駆動部4の回転制御、冷却装置9における温度制御、及び、操作・表示部への各種情報の表示を行う。これら制御部6の制御は、記憶手段に格納されたプログラムをマイクロコンピュータが実行することにより行うことができる。制御部6には時計機能が内蔵され、制御部6は時計機能を用いて操作・表示部8に現在時刻を表示したり、運転に際する時間の管理を行う。
【0038】
回転室5の下部には、回転室5の内外を連通する貫通孔が設けられ、駆動部4から延びる回転軸が貫通孔を貫通し、回転軸の先端にロータ3が取り付けられる。駆動部4は、例えば電気モータを含んで構成され、電気モータの回転は制御部6によって制御される。本実施例では、電気モータの回転数は、例えば最大150,000rpmまでの任意の回転数であり、電気モータの出力軸に直接取り付けられるロータ3を同速度で回転させる。制御部6は、さらに、温度センサ11で検出された温度を用いて、操作・表示部8で設定された温度(設定温度)になるように冷却装置9に含まれる冷却機をオン/オフ制御する。尚、図示されていないが、回転室5に配管を通じて真空ポンプ接続するように配置し、ロータ3を運転する場合は回転室5を減圧するように制御部6で制御しても良い。
【0039】
次に、図2を用いて、表示・操作部8に表示される操作画面を説明する。図2は、遠心分離機1の運転条件を設定した直後(スタートボタンを押す前)の表示・操作部8における画面表示を示す図である。表示画面100は、主に、遠心分離機1の運転状態と運転条件(設定値)を表示するもので、その画面中には、遠心分離機の運転条件である回転速度表示領域101、時間表示領域104、温度表示領域107が設けられる。これら領域の周囲には、回転室5にセットされたロータの種類を表す運転ロータ110、遠心分離動作の開始を指示するためのスタートボタン130、遠心分離動作の中断又は駆動部4の回転停止を指示するためのストップボタン131が表示される。
【0040】
回転速度表示領域101の中央の大きな数字“0”は、ロータ3の現在の回転速度102を示し、下線部で区切られた下段(小さな文字)は設定回転速度103を示す。図2の例では遠心分離を行うための設定回転速度として、毎分12000回転(rpm)がセットされている。作業者が回転速度表示領域101の枠内を指でタッチすると、テンキー画面(図示せず)がポップアップ表示されるので、使用者はテンキーを操作することにより回転速度を設定できる。
【0041】
時間表示領域104の中央の大きな数字は、ロータ3を設定回転速度103で実際に運転された運転時間(経過時間)105であり、時、分の単位で表示される。図2では遠心分離を行う前の状態であってロータ3はまだ回転していないので、運転時間105は0時間00分になっている。運転時間105は、制御部6のマイコンに含まれるタイマー機能を用いて自動的にカウントされ、表示される。下線部で区切られた下段(小さな文字)は、遠心分離を行う設定運転時間106であり、図2の例では遠心分離を行うための時間として、5時間00分が設定された状態を示している。回転速度表示領域101と同様に、作業者が指で時間表示領域104の枠内をタッチすると、テンキー画面(図示せず)がポップアップ表示され、使用者がテンキーを操作することにより運転時間を設定できる。
【0042】
温度表示領域107の中央の大きな文字は、回転室5の内部のロータ温度108であり、下線部の下段(小さな文字)が、遠心分離を行う際に保持すべきロータ3の設定温度109である。図2では、現在のロータ温度108が5.2℃であり、設定された設定温度が4.0℃であることを示している。回転速度表示領域101と同様に、作業者が指で温度表示領域107の枠内をタッチすると、テンキー画面(図示せず)がポップアップ表示され、使用者がテンキーを操作することにより運転時間を設定できる。
【0043】
SPEED/RCFボタン112は、回転速度表示領域にロータ3の回転速度(SPEED)を表示するか、遠心加速度(RCF)の表示をするかの表示切替ボタンあり、SPEED/RCFボタン112をタッチする毎に回転速度表示領域101における表示が、回転速度から遠心加速度の表示に、また遠心加速度から回転速度の表示に切り替わる。USER113は、遠心分離機1を使用するユーザ名の表示であり、図2の例では、使用者のイニシャルとして“HK”が表示されている。このユーザ名は、図示しないユーザリスト画面から選択して設定したり、または操作・表示部8にポップアップ表示されるキーボード(図示せず)から入力することができる。画面100の右上には、現在日時150が表示される。
【0044】
運転ロータ110は、運転するロータ3の型名の表示であり、図2ではロータ3の型番である“P120AT”が表示される。ロータ3の設定は、使用者がロータ110の部分をタッチして、図示しないロータ一覧画面が表示させて、その一覧中から選択するように構成しても良いし、ロータ3自体に情報を持たせて、ロータ3が遠心分離機1にセットされたら、遠心分離機1側で自動的にロータ型番を識別するようにしても良い。ロータ型番の自動識別の方法は、ロータに光学式あるいは磁気式のバーコードを付けても良いし、その他公知の識別方法を用いれば良いので、ここでの説明は省略する。
【0045】
整定までの時間120は、現在の状態からロータ3の回転が設定回転速度103に達成するまでの時間である。本明細書において「整定」とは、ロータ3の回転加速が終了して、設定された一定の回転数で回転する状態をいうものとする。尚、ロータ3の回転加速中、整定までの時間120の表示は、一定間隔で更新されるので、徐々に減るように表示され、ロータ3が整定した時0分となる。
【0046】
スタートボタン130は遠心分離機1の運転を開始させるボタンで、スタートボタン130にタッチすると回転速度表示領域101で設定された設定回転速度103までロータ3が加速し、ロータ3が設定回転速度103に到達すると整定状態となり、運転時間105のカウントが始まる。また、ストップボタン131は遠心分離機1の運転を停止させるボタンで、ストップボタン131にタッチすると遠心分離機1の運転が中断され、ロータ3は減速状態に移行して停止する。
【0047】
表示切替えボタン140は、整定までの時間120と整定する時刻の表示の切替えができる機能である。図3は、遠心分離機1の運転条件設定直後の表示・操作部8における別の態様による画面表示を示す図である。図3において、図2と異なるのは、整定する時刻121の表示であり、図2は整定まであと「10分」であることを表示していたが、図3では整定する時刻が何分後かを表示せずに、10分後の時刻である「9時45分」が表示される。図3における時刻表示は、例えば整定まで35分、75分など長い時間の際に、使用者が現在時刻に整定までの時間を加える足し算を行わなくても済むので、使い勝手が良くなる。
【0048】
尚、本実施例においては、図2と3のように表示切替えボタン140を設けて整定までの時間120か整定する時刻121のいずれか一方を表示するようにしているが、表示切替えボタン140を省略して整定までの時間120と整定する時刻121を同時に並べて表示するようにしても良い。また、図2の例では、整定までの時間120は分単位の時間表示となっているが、分・秒表示とすることでより詳細に通知することも可能である。
【0049】
図4は、遠心分離機1の設定運転時間106の運転が完了し、ロータ3が減速状態に入る際の表示・操作部8における画面表示を示す図である。図4と図2の主な違いは、減速直前は整定状態にあるためロータ3の現在の回転速度102が12000rpmである点、遠心分離の運転時間105が5時間00分で有る点である。また、図2の整定までの時間120の表示部分が、図4では停止までの時間122に切り替わっている。ロータ3の停止までの時間122は、時間の経過と共にロータ3の減速中に徐々に減算され、停止した時0分となる。尚、停止までの時間122の更新間隔は任意であるが、停止までの時間が長いときは更新間隔を長く、停止までの時間が短いとき(例えば60秒以内)は更新間隔を短くすると良い。
【0050】
表示切替えボタン140は、停止までの時間120と停止する時刻の表示の切替えができる機能である。図5は表示・操作部8における別の態様による画面表示を示す図であり、遠心分離機1の設定運転時間106の運転が完了し、ロータ3の減速状態に入る際の表示を示す。図5において、図4と異なるのは、停止する時刻123の表示であり、図4は停止まであと「10分」であると表示していたが、図5では停止する時刻が何分後かを表示せずに、10分後の時刻である「14時45分」と表示される。尚、停止までの時間122と停止する時刻123を同時に表示しても良い。
【0051】
次に、図6のフローチャートを用いて、遠心分離機1の運転状態に応じた操作・表示部8への表示手順を説明する。まず、遠心分離の作業に先立ち、使用者はサンプルが装着されたロータ3を回転室5内にセットして、ドア7を締める。次に、使用者は操作・表示部8の画面100から、運転条件である設定回転速度103、設定運転時間106、設定温度109、及び、運転ロータ110の型名を入力し、制御部6はこれらの情報を受け取る(ステップ201)。次に、使用者によりスタートボタン130が押されたら(ステップ202)、制御部6は、設定された運転ロータ110の型名からロータ3の設定回転速度103(最高回転速度)までの加速時間と最高回転速度から停止するまでの減速時間を、制御部6の記憶装置にあらかじめ格納されたテーブルを参照して求める(ステップ203)。
【0052】
次に、最高回転速度までの加速時間を用いて、設定回転速度103までの加速時間を比例式により求める場合の一例について説明する。これは、記憶装置に格納された加速時間が例えば0〜15000rpmに要する時間の場合、本実施例のように整定する回転数が12000rpmの場合は、比例式により12000rpmまでの整定までの時間を求め、パネル表示部に表示する(ステップ204)。整定までの時間や停止までの時間は、ロータ毎に予め記憶装置に登録したロータ情報から求めるため、加速や減速のバラツキにより正確でなく目安の表示となる場合もあるが、ユーザに目安となる時間・時刻表示でも使い勝手が向上し有効である。そして、ロータ3の加速を開始させる(ステップ205)。尚、整定・停止までの時間や時刻を、より正確に表示する場合は、加速中は加速勾配を、減速中は減速勾配を用いて、周期的に再算出して時間を求めて更新表示する方法がある。これは、ロータ3の起動の際の加速カーブ、及び、ロータ3の減速カーブを制御部6内の記憶装置に格納しておき、実際にロータ3が回転(減速)を始めたらどの加速(減速)カーブに該当するか比較し、その比較によって選ばれた加速(減速)カーブをもとに整定までの時間(停止までの時間)を算出するものである。又は、所定回転速度間隔(例えば、1000rpm)加速する又は減速するのにかかった時間から、設定回転速度、又は停止までの時間を算出する方法もある。
【0053】
次に、制御部6はロータ3の回転数が設定回転速度に整定したかを判定し(ステップ206)、整定していない場合、即ちロータ3の回転が加速中の場合は、ステップ204で表示した整定までの時間を1分毎に減算して表示を更新し(ステップ207)、ステップ206に戻る。ステップ206において整定したと判断されたら、整定状態のまま設定された時間だけ遠心分離を行う(ステップ208)。ここで、ステップ206からステップ208に移行した際の整定までの時間120の表示内容は“0分”となるが、“0分”の代わりに、その表示を消しても良いし、整定までの時間120の表示の変わりに“整定中”と表示しても良い。
【0054】
整定状態において、運転時間が設定時間に達したり、操作パネルのSTOPボタンが押された場合(ステップ209)は、ステップ203で求めた、最高回転速度から停止までの減速時間により減速時間を求め、図3の停止する時間122又は図4の停止する時刻123を操作・表示部8に表示する(ステップ210)。次に、ロータ3が停止したかを判定し(ステップ212)、停止していない場合は、停止までの時間を1分毎に減算して操作・表示部8に表示し(ステップ213)、ステップ212に戻る。ステップ212で停止状態となったら、停止の際の必要な処理(例えば終了した旨のブザーを鳴らす)を行って処理を終了する(ステップ214)。尚、ステップ214の状態において、ロータの回転が停止した際の停止までの時間122(図4)の表示は0分となるが、“0分”の代わりに、その表示を消しても良いし、停止までの時間122の表示の変わりに“停止中”と表示しても良い。
【0055】
以上のように、本実施例によれば、遠心分離機が運転を開始してから設定回転速度に整定するまでの「整定までの時間(時刻)」の表示や、整定から停止するまでの「停止までの時間(時刻)」を表示・操作部8に表示することで、遠心分離機1の使用者が遠心分離の運転状態を、正確に把握することが可能となる。これによって、使用者が遠心分離機の前で漫然と待つ等の無駄時間の発生を防止することができ、遠心分離機の使い勝手が向上する。
【実施例2】
【0056】
次に本発明の第2の実施例について、図7から図17を用いて説明する。図7は本発明の第2の実施例に係る遠心分離機の構成を示す断面図である。遠心分離機301の基本構造は第1の実施例で示したものとほぼ同様であるが、第2の実施例においては回転室305を減圧して回転させるために真空ポンプ(314、315)が設けられ、減圧した状態でロータ303を回転させる点が大きく異なる。そのため整定までの時間の予測には、ロータの加速に要する時間だけでなく、回転室305内の減圧に要する時間を考慮した上で予測することが必要になる。
【0057】
遠心分離機301は、試料を保持して回転するロータ303と、ロータ303を収容する回転室305と、回転室305を取り囲み密閉空間を形成する真空チャンバ302と、真空チャンバ302へロータ303の出し入れを行うために設けられた開口部を閉じるドア307と、真空チャンバ302内を減圧する油回転真空ポンプ315と、油回転真空ポンプ315と真空チャンバ302の間に直列に接続された油拡散真空ポンプ314と、使用者が遠心条件の設定操作や運転状態の確認を行う操作・表示部308と、ロータ303を回転させる駆動部304と、真空チャンバ302への空気の流入を開閉するエアリークバルブ313と、真空チャンバ302内の圧力を測定する真空センサ311と、制御部306と、ドア307の開閉をロックするドアロック機構312と、ドア307を開閉するためのドアハンドル310と、回転室305を冷却または加熱するサーモモジュール309を含んで構成される。
【0058】
油拡散真空ポンプ314は、吸引側が回転室305に接続され、排出側が真空配管317を介して油回転真空ポンプ315の吸引口に接続される。油拡散真空ポンプ314は内部に液体の油を備え、この油の内部での蒸発・凝縮によって回転室305内の空気を排出させる公知の装置である。本実施例においては、真空ポンプとして油拡散真空ポンプ314と油回転真空ポンプ315を直列に接続している。これは、油回転真空ポンプ315だけで、所定の真空度(例えば気圧で1Pa以下)にするには1〜2日くらい要してしまうことと、油拡散真空ポンプ314は動作するためにある程度の背圧(臨界背圧:20Pa程度)が必要で臨界背圧を得るために補助ポンプが必要とされるためである。つまり油回転真空ポンプ315は、油拡散真空ポンプ314の補助ポンプとして機能する。油回転真空ポンプ315の排出側には、排気に含まれるオイルミストを補足するためのオイルミストトラップ316が設けられる。
【0059】
油拡散真空ポンプ7には、作動油を収容するDPボイラと、その作動油を加熱するためのDPヒータが設けられる(ともに図示せず)。作動油の温度は温度センサ(図示せず)によって測定される。DPヒータにより加熱された作動油は、図示されていない油拡散ポンプ内の煙突内を上昇し、煙突に設けられている、DPボイラ方向に向けて斜めに配置されたノズルから蒸気となって噴出される。この蒸気に対して空気等の気体分子が衝突すると、蒸気の流れの方向に運動量が与えられて空気が排気側へ流れ、油拡散ポンプと接続された回転室305内の空気が排気されて、回転室305内が減圧状態にされる。蒸気となった作動油は、DPボイラの壁面で凝縮して回収され、再びDPヒータで加熱される。温度センサによって検出された作動油の温度情報は図示しない信号線によって制御部306に入力される。
【0060】
制御部306は、図示しないマイクロコンピュータを含み、図示しない信号線により真空センサ311の信号を入力し、駆動部304の回転制御、油回転真空ポンプ315のON/OFF制御、油拡散真空ポンプ314のON/OFF制御、操作・表示部308への情報の表示と操作・表示部308からの入力データの取得、ドアロックのロックおよび解除を検出する図示しないドア開閉検出センサ、エアリークバルブ313の開閉等、遠心分離機301の全体の制御を行う。操作・表示部308は、例えばタッチパネル式の液晶表示手段、又は、表示装置と入力装置の組み合わせであり、使用者に必要な情報を表示し、使用者からの操作の指示を受け取る。また、制御部306は、温度情報を用いて真空到達時間の算出に活用することができる。制御部306は、回転室の真空度の到達カーブと油拡散真空ポンプ314の温度カーブをあらかじめ格納しておき、格納されたカーブを用いて各区間における到達予定時間を算出する。
【0061】
次に、操作・表示部308における表示内容を図8を用いて説明する。図8は操作・表示部308の表示画面400であり、本実施例では操作・表示部308をタッチパネル式の液晶表示器で実施した例で説明する。表示画面400には、回転速度表示領域401、運転時間表示領域404、温度表示領域407、日時表示領域450、真空達成度表示領域445が設けられ、これらの領域には遠心条件及び運転中の各種情報が表示される。表示画面400には、さらにSTARTボタン430とSTOPボタン431が表示される。回転速度表示領域401の下段には遠心分離運転の際の設定回転数が表示され、その上の大きい文字はロータ303の現在の回転数を示す。図8では、設定回転数150000rpmで、現在5000rpmで回転している状態であることを示している。運転時間表示領域404の下段には、設定運転時間が表示され、その上の大きい文字は現在の経過運転時間が表示される。図8では、遠心分離のための設定運転時間45分に対し、現在の経過時間が0分であることを示している。温度表示領域407の下段には、設定温度が表示され、その上の大きい文字は現在のロータ温度を表示している。図8では、設定温度4.0℃に対して現在の温度が4.7℃であることを示している。そして予想待ち時間表示領域440には、本実施例の特徴である第3の時間情報、即ち「整定までの予想時間441」と、「(整定に至る)予想時刻442」が表示される。
【0062】
第2の実施例に係る遠心分離機301は、2つの真空ポンプ(314、315)を有するため、真空達成度表示領域445において、真空チャンバ302内の真空度を5段階のバーにより表示する。図8では一番左側のバーだけが表示された状態を示しているが、表示されるバーの数が増えるほど真空度が高くなる(真空チャンバ302内の気圧が低くなる)状態を示す。
【0063】
次に、図9から図12を用いて第2の実施例による「整定までの予想時間」の算出方法を説明する。図9は、遠心分離機301が運転を開始して、ロータ303が設定回転速度に達するまでの真空度と時間の関係、及びロータ303の回転速度と時間の関係を示すタイムチャートである。遠心分離機301は、回転室305の真空度が所定の値P1(単位Pa)に達するまでは、所定の回転速度V1(単位rpm)以上に加速せず待機する機能を有する。本実施例においては、例えば遠心分離のために設定された回転速度Vsが150,000rpmの場合、回転速度V1を5,000rpmとする。5,000rpm程度の低速回転においては風損によるロータ303の温度上昇の恐れがきわめて低いためである。また、真空度P1を例えば13.3Paとする。
【0064】
本実施例(図9〜12)において、ロータ303の回転速度がV1に達するまでの予想時間をTa1、V1から設定回転速度Vsまでの加速予想時間をTa2、真空度がP1に達するまでの予測時間をTpとすると、図9の黒矢印で示す時点(時刻t=0)の場合は、駆動部304が起動してロータ303が設定回転速度Vsに達するまでの予想総時間Twは、TpとTa2を加算した値となる。図9の例では、ロータ303の回転速度がV1に達するまでの予想時間Ta1より、所定の真空度P1に達成するまでの予測時間Tpが長いため、ロータ303は(Tp−Ta1)分だけ回転数V1で一定の低速回転しながら待機する。そして、回転室305内の真空度がP1以上(即ちP1パスカル以下)となった場合に、ロータ303は回転数V1からVsまで加速される。
【0065】
真空チャンバ302内の真空度がP1に達するまでの予測時間Tpを算出する方法は種々考えられる。本実施例では、制御部306が、(1)減圧開始時から油拡散真空ポンプ314の臨界背圧(約20Pa程度)に至るまで、(2)臨界背圧から作動油の温度が油拡散真空ポンプ314の動作温度(約150℃〜約200℃)に達するまで、及び、(3)油拡散真空ポンプ314が有効に作動して所定の真空度(13.3Pa)以下に到達するまで、の3つの区間に分けて、各区間の到達予定時間を算出し、これら到達予定時間の合計を求めることによって予測時間Tpを算出する。この際、(1)〜(3)の各区間における回転室305内の真空度の到達カーブ又は油拡散真空ポンプ314の温度カーブをあらかじめ制御部306の記憶手段内に格納しておき、測定された各種データと格納されたカーブを比較して各区間における到達予定時間を算出し、これらの合計値から予測時間Tpを算出する。
【0066】
図10は、図9の関係にある遠心分離機301において、黒矢印で示す時点(時刻t)の予想総時間Twを説明するための図である。時刻tの時点では、ロータ303が回転数V1で定速回転をしており、回転室305内の真空度が所定の真空度P1に達するのを待っている状態である。従って、それぞれの待ち時間は時間の経過とともに変化するものであり、例えば回転速度V1で回転し真空度がP1に達するまで待機しているときはTpが減少していくことになり、この時点での予想総時間Twは、TpとTa2を加算した値となる。
【0067】
図11は、回転室305内の真空度がP1以上(即ちP1パスカル以下)となり、ロータ303がさらに加速されている最中のである時刻tの状態の待ち時間の関係を示す図である。時刻tにおいては、ロータ303の回転速度はV1に達しており、真空チャンバ302内の真空度もP1に達しているので、待ち時間TwはTa2と等しくなる。
【0068】
図12は、図9〜11と別の状況下における「整定までの予想時間」の算出方法を説明するための図である。遠心分離機301においては、遠心分離作業時間の短縮化を図るために、作業者があらかじめ真空ポンプを動作させておいて、ある程度の時間をおいてから運転を開始(ロータ303の回転を開始)する場合に相当する。真空ポンプを稼働させた所定時間が経過した後に(時刻t)作業者がスタートボタン430(図8参照)を押すことによりロータ303の回転が開始する。この状態においては、Ta1よりもTpが短くなり、ロータ303の回転速度がV1に達するまでの予想時間Ta1、V1から設定回転速度Vsまでの加速予想時間Ta2、真空度がP1に達するまでの予測時間Tpの関係は図示のようになる。図12の関係の場合は、整定までの予想総時間Twは、Ta1とTa2を足した値となる。
【0069】
次に、図13のフローチャートを用いて、遠心分離機301の運転状態に応じた操作・表示部308への表示手順を説明する。まず、遠心分離の作業に先立ち、使用者はサンプルが装着されたロータ303を回転室305内にセットして、ドア307を閉める。次に、使用者は操作・表示部308の画面400から、運転条件である設定回転速度、設定運転時間、設定温度を入力し、制御部306はこれらの情報を受け取る(ステップ501)。次に、使用者によりスタートボタン430が押されたら(ステップ502)、制御部306は、ドアロック機構312を用いてドア307をロックし、ロータ303が設定回転速度に至るまでの加速時間(予想総時間Tw)を求める。この予想総時間Twのために、装着された運転ロータの型名からロータ303の設定回転速度(最高回転速度)までの加速時間(Ta1、Ta2)を制御部6の記憶装置にあらかじめ格納されたテーブルを参照して求める(ステップ503)。また、真空チャンバ302内の真空度がP1に達するまでの予測時間Tpを、前述した真空度の到達カーブ又は油拡散真空ポンプ314の温度カーブ等を用いて算出する。
【0070】
この加速時間(予想総時間Tw)の求め方を図14を用いてさらに説明する。図14は、図13のステップ503の詳細手順(サブルーチン)を示すフローチャートである。図14のサブルーチンでは、遠心分離機301の運転が開始すると、はじめにロータ303が所定の回転速度V1に達しているか否か判定し(ステップ601)、未到達の場合は真空度が所定値に達するまでの予想時間Tp、回転速度がV1に達するまでの予想時間Ta1、回転速度がV1からVsに達するまでの予想時間Ta2を算出する(ステップ602)。真空に達するまでの予想時間の算出方法は限定するものではなく、従来技術にあるように油拡散ポンプの温度を用いたり、あらかじめ格納された真空度の到達カーブを用いるなどの方法が利用できる。またロータが加速して設定回転速度に達するまでの予想時間の算出方法も、公知の方法を用いて算出することができる。
【0071】
次に、TpとTa1を比較し(ステップ603)、Tpが大きい場合はTwをTpとTa2の和とし(ステップ604)、Tpが大きくない場合はTwをTa1とTa2の和とする(ステップ605)。一方、上記のステップ601で回転速度がV1以上であと判定した場合にはTa2を算出し(ステップ606)、TwをTa2の値とする(ステップ607)。最後に、以上によって算出された予想総時間Twを保持して、図13のステップ504に進む。
【0072】
次に、図13において求められた整定までの時間(予想総時間Tw)を、表示画面400の予想待ち時間表示領域440に表示し(ステップ504)、ロータ303の加速をおこなう(ステップ505)。次に、制御部306はロータ303の回転数が設定回転速度Vsに整定したかを判定し(ステップ506)、整定していない場合、即ちロータ303の回転が加速中の場合は、ステップ503に戻る。ステップ506において整定したと判断されたら、整定状態のまま設定された時間だけ遠心分離を行う(ステップ508)。ここで、ステップ506からステップ508に移行した際の整定までの予想時間441の表示内容は“0分”となるが、“0分”の代わりに“整定中”と表示しても良いし、その表示を消しても良い。
【0073】
整定状態において、運転時間が設定時間に達したり、操作パネルのSTOPボタンが押された場合(ステップ509)は、最高回転速度から停止までの減速時間により減速時間を求め、停止までの予測時間を操作・表示部308に表示する(ステップ510)。次に、ロータ303が停止したかを判定し(ステップ512)、停止していない場合は、停止までの時間を1分毎に減算して操作・表示部308に表示し(ステップ513)、ステップ512に戻る。ステップ512で停止状態となったら、停止の際の必要な処理、例えば終了した旨のブザーを鳴らし、駆動部304の回転を停止させ、駆動部304の回転が停止したらドアロック解除する(ステップ514)。作業者は、操作・表示部308に表示されるバキュームボタン(図示せず)を押して、エアリークバルブ313を稼働させ、真空チャンバ302にエアリークをする。エアリークは数秒で完了するので、完了後にドア307を開くことができる。
【0074】
以上説明したように、第2の実施例においては真空ポンプを用いた遠心分離機においても整定までの時間を表示するので、作業者は整定状態に至るまでの加速時間を正確に認識することができる。また、真空チャンバ302内の状況(前回の遠心分離作業のすぐ後か否か、結露の付着状況等)を考慮して精度良く加速時間が予測されるので、作業者にとって使いやすい遠心分離機を実現することができる。
【0075】
尚、第2の実施例において操作・表示部308に表示する整定までの予想時間の表示の仕方は図8で示した例に限定されず、種々変更することができる。図15は、第2の実施例の第1の変形例に係る画面表示を示す図である。図15に示す画面460において、整定に至る予想時刻の代わりに、真空待機時間462を表示している。図15では真空待機時間を“2分45秒”と表示しているが、これは整定までの予想時間441の“3分55秒”のうち2分45秒が真空待機時間(即ち、予測時間Tp)であることを示す。このことから、整定までの待ち時間の半数以上が真空待機時間であり、ロータ303の加速に要する時間は、3分55秒―2分45秒=1分10秒であることを認識できる。このように、整定までの予想時間に占める内訳まで細かく表示することにより、作業者は遠心分離機の現在の状態を詳細に知ることができる。
【0076】
図16は、第2の実施例の第2の変形例に係る画面を示す図である。図16に示す画面470においては、図15で示した整定までの予想時間441の内訳よりも、更に詳細に表示したものであり、加速所要時間471と真空待機時間462を別々に表示したものである。このように、整定までの予想時間に占める内訳まで細かく表示することにより、作業者は遠心分離機の現在の状態をさらに詳細に知ることができる。
【0077】
図17は、第2の実施例の第3の変形例に係る画面を示す図である。図17に示す画面480においては、図15で示した整定までの予想時間441の下に、その進行状況をバー表示481したものである。このバー表示481により整定までの待ち時間のうち現在約何%程度の進行状況かを直感的に視認できる。図17の例では約60%程度の進行状況であることが理解できる。尚、先頭のバー表示は黒塗りの四角形マークでなく、白抜きの四角形マークであるが、これは、バーが8個以上9個未満の進行状況であることを示すものであり、先頭の白抜きバーを点滅しながら表示すると良い。
【0078】
以上、本発明を示す実施例に基づき説明したが、本発明は上述の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、図2の整定までの時間120、図3の整定する時刻121、図4の停止までの時間122、図5の停止する時刻123以外に、スタートボタン130が押されてから遠心分離運転が終了し、ロータが停止するまでの全体の時間、あるいはその時刻を併せて表示するようにしてもよい。
【0079】
また、本発明においては、真空に達するまでの予想時間の算出方法や、ロータの加速に要する時間の予想方法は上述した実施例の方法に限定するものではなく、任意の予想方法によって実現して良い。さらに、整定までに要する時間の予測に関し、ロータの加速時間と真空チャンバ内の真空度が所定値に達するまでの時間以外の、その他の要因によって影響される場合は、その要因を考慮した上で整定までの時間を予想して表示するように構成しても良い。
【符号の説明】
【0080】
1 遠心分離機 3 ロータ 4 駆動部 5 回転室
6 制御部 7 ドア 8 操作・表示部 9 冷却装置
11 温度センサ 12 ドア開閉検出センサ
100 (操作・表示部に表示される)画面 101 回転速度表示領域
102 実回転速度 103 設定回転速度 104 時間表示領域
105 運転時間 106 設定運転時間 107 温度表示領域
108 ロータ温度 109 設定温度
110 運転ロータ 112 SPEED/RCFボタン
113 USER(ユーザ名) 120 整定までの時間
121 整定する時刻 122 停止までの時刻 123 停止する時刻
130 スタートボタン 131 ストップボタン
140 表示切替ボタン 150 現在日時
301 遠心分離機 302 真空チャンバ 303 ロータ
304 駆動部 305 回転室 306 制御部
307 ドア 308 操作・表示部 309 サーモモジュール
310 ドアハンドル 311 真空センサ 312 ドアロック機構
313 エアリークバルブ 314 油拡散真空ポンプ
315 油回転真空ポンプ 316 オイルミストトラップ
317 真空配管
400、460、470、480 (操作・表示部308に表示される)画面
401 回転速度表示領域 404 時間表示領域
407 温度表示領域 430 スタートボタン
431 ストップボタン 440 予想待ち時間表示領域
441 整定までの予想時間 442 (整定に至る)予想時刻
445 真空達成度表示領域 450 日時表示領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を保持するロータを回転させる駆動部と、前記ロータの回転を制御する制御部と、情報を表示すると共に使用者からの入力を受け付ける入出力部を有し、入力された設定回転速度で前記ロータを回転させる遠心分離機において、
前記ロータの回転時に、前記ロータの回転が前記設定回転速度に加速して到達するまでの第1の時間情報を前記入出力部に表示することを特徴とする遠心分離機。
【請求項2】
前記第1の時間情報は、前記ロータが前記設定回転速度に到達するまでの所要時間であることを特徴とする請求項1に記載の遠心分離機。
【請求項3】
前記第1の時間情報は、前記ロータが前記設定回転速度に到達する到達時刻であることを特徴とする請求項1に記載の遠心分離機。
【請求項4】
前記制御部は、ロータの種類毎の所要加速時間をあらかじめ記憶しておき、
前記駆動部に装着された前記ロータを識別して、識別されたロータに該当する所要加速時間を読み出して前記第1の時間情報を算出することを特徴とする請求項2又は3に記載の遠心分離機。
【請求項5】
前記制御部は、前記ロータの回転上昇勾配パターンをあらかじめ複数記憶しておき、
前記ロータの回転時の回転上昇から該当する前記回転上昇勾配を選択し、該回転上昇勾配を用いて前記第1の時間情報を算出することを特徴とする請求項2又は3に記載の遠心分離機。
【請求項6】
前記入出力部に、前記整定までの時間又は前記整定する時刻のいずれかの表示に切り替えるための切替ボタンを設けたことを特徴とする請求項4又は5に記載の遠心分離機。
【請求項7】
前記ロータの回転減速時に、前記ロータの回転が停止するまでの第2の時間情報を前記入出力部に表示することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の遠心分離機。
【請求項8】
前記第2の時間情報は、前記ロータの回転が停止に到達するまでの所要時間であることを特徴とする請求項7に記載の遠心分離機。
【請求項9】
前記第2の時間情報は、前記ロータの回転が停止に到達する到達時刻であることを特徴とする請求項7に記載の遠心分離機。
【請求項10】
試料を保持するロータを回転させる駆動部と、前記ロータの回転を制御する制御部と、情報を表示すると共に使用者からの入力を受け付ける入出力部と、前記ロータを収容するロータ室を減圧する減圧手段を有し、入力された設定回転速度で前記ロータを回転させる遠心分離機において、
前記ロータの回転加速時に、前記ロータの回転が前記設定回転速度に到達するまでの第3の時間情報を前記入出力部に表示することを特徴とする遠心分離機。
【請求項11】
前記第3の時間情報は、前記ロータ室の減圧が完了するまでの時間と、減圧が完了した後に前記ロータの回転が前記設定回転速度まで加速される時間を考慮して算出されることを特徴とする請求項10に記載の遠心分離機。
【請求項12】
前記ロータ室の気圧が所定値より大きい場合前記ロータを制限された回転数で回転させ、
前記ロータ室の気圧が所定値以下になったら前記ロータを前記制限された回転数から前記設定回転速度まで加速させることを特徴とする請求項11に記載の遠心分離機。
【請求項13】
前記第3の時間情報は、前記ロータが前記設定回転速度に到達するまでの所要時間であることを特徴とする請求項12に記載の遠心分離機。
【請求項14】
前記第3の時間情報は、前記ロータが前記設定回転速度に到達する到達時刻であることを特徴とする請求項12に記載の遠心分離機。
【請求項15】
前記第3の時間情報は、所定時間毎に計算されて前記入出力部に表示されることを特徴とする請求項13又は14に記載の遠心分離機。

【図1】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−131585(P2010−131585A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−202108(P2009−202108)
【出願日】平成21年9月1日(2009.9.1)
【出願人】(000005094)日立工機株式会社 (1,861)
【Fターム(参考)】