説明

遠心分離機

【課題】
ロータを効率よく冷却することができる遠心分離機を提供する。
【解決手段】
モータ8と、モータ8の回転軸に取り付けられるロータ4と、ロータ4を収容するロータ室3を形成するボウル2と、ボウル2の開口部を密閉するドア5と、モータ8の回転を制御する制御装置18とロータを冷却すべく設けられた冷却装置(7a〜7d)を有する遠心分離機1において、ボウル2の内側側面又は底面には突起2aまたは窪みを設けた。ボウル2は例えばステンレス製であり、プレス加工により半球状の突起2aを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体(ロータ)を高速で回転させる遠心分離機に関し、特にロータを効果的に冷却することができる遠心分離機に関する。
【背景技術】
【0002】
遠心分離機は、分離する試料(例えば、培養液や血液など)をチューブやボトルを介してロータに挿入し、ロータを高速に回転させることで試料の分離や精製を行う。設定されるロータの回転速度は用途によって異なり、用途に合わせて低速(数千回転程度)から高速(最高回転速度は150,000rpm)までの製品群が提供されている。遠心分離機で用いられるロータには様々なタイプがあり、チューブ穴が固定角度式で高回転速度に対応できるアングルロータや、チューブを装填したバケットがロータの回転に伴って垂直状態から水平状態に揺動するスイングロータなどがある。また、超高回転速度で回転させて少量の試料に高遠心加速度をかけるロータや、低回転速度となるが大容量の試料を扱えるロータなど様々な大きさのものがある。これらのロータはその分離する試料にあわせて使用するため、ロータはモータ等の駆動手段の回転軸に着脱可能に構成され、ロータの交換が可能である。
【0003】
ロータは空気中で高速回転すると、空気との摩擦熱(風損)によってロータの温度が上昇する。分離する試料によっては、低温を保たなければならないものもあるため、ロータを運転中に冷却するための冷却装置を備えた遠心分離機が広く用いられている。この遠心分離機は本体に冷却装置(蒸発機、圧縮機、凝縮機、膨張弁で構成される)を有しており、ロータ室外壁のボウル外周に巻かれている銅パイプに冷媒を流すことによってロータ室を冷却し、この冷却によってロータを冷却する。
【0004】
ロータ内の試料に、より高い遠心加速度を与えるためにはロータの径を大きくするかロータの回転速度を上げることが必要であるが、そうすることでロータ周速が増加し、前述の通り摩擦熱によりロータの温度が上昇してしまう。この摩擦熱(風損)を抑えるためにロータ(アングルロータ)やボウルは円筒状にして極力抵抗が小さくなる形状としているため、強力に冷却するためには出力の大きい冷却装置を採用する必要があった。一方、遠心分離機は研究室等の静かな環境で使用されることが多く、近年静音化の要求も高まっている。遠心分離機における騒音はロータが高速回転する際の風切り音、ロータにセットした試料のアンバランスによって生じる振動音、その他、冷凍機やファンの音がある。特に風切り音や振動音は共鳴、共振によって大幅に大きくなることがあるため、設計には十分注意が必要となる。
【0005】
ここで従来の遠心分離機の構造を図11を用いて説明する。遠心分離機101は、箱形の板金などで製作される筐体6の内部にボウル102が設けられ、ボウル102とドア5によってロータ室103を画定し、ドアパッキン16によってロータ室103は密閉される。ロータ4は分離する試料を保持し高速回転するものであり、例えば、試料を入れるサンプリングチューブ等を挿入するための孔(図示せず)が複数形成され、モータ8の回転軸に支持される。ロータ4はモータ8によって回転されるが、モータ8の回転は制御装置18によって制御される。ドア5は蝶番15を中心軸にして上下方向に回動することができる。ドア5の後方には、使用者がロータの回転速度や分離時間等の条件を入力すると共に、各種情報を表示する操作パネル17が配置される。
【0006】
ロータ室103は、上側の開口部がドア5によって密閉可能に構成され、ドア5を開けた状態でロータ室103の内部に、ロータ4を装着又は取り外しができる。ボウル102外周には銅パイプ7cが螺旋状に巻かれ、さらに銅パイプ7cの外周は円筒状の断熱材14で囲まれている。本体下部には凝縮機7aと圧縮機7bを含んで構成される冷却装置7とこれらの放熱用の送風装置20が配置され、銅パイプ7cが圧縮機7bと接続される。冷媒が圧縮機7bから凝縮機7aに送られると、冷媒が冷却され液化される。液化された冷媒はキャピラリ7dを通って銅パイプ7cに供給され、銅パイプ7c内で冷媒が気化することにより、ボウル102が冷却され、ロータ室103の内部は設定された所望の温度に保たれる。冷却装置の運転は制御装置18によって制御され、ロータ4の温度は、ロータ室103に設置された温度センサ(図示せず)の出力を用いて制御装置18により監視される。
【0007】
従来の遠心分離機101ではロータ4内の試料に、低温を保ちつつ大きい遠心加速度をかけるためには、能力の高い冷却装置を採用することが必要であり、製品のコスト高を招くと共に動作時の騒音が大きくなるデメリットがあった。また使用者側の立場からみると、試料を低温に保つためにロータの回転速度を制限して運転しなければならない場合があり、遠心分離に要する時間が長くなることがあった。
【0008】
従来から遠心分離機の回転速度を上げるためにロータの回転による風損を低減する努力が広く行われている。例えば、スイングロータにおいては特許文献1のようにロータを回転させ、バケットが水平状態に揺動すると、バケットの底面とロータボディが同一の半径を有し、全体として円盤形状を形成し、風損を抑えるように工夫しているものがあった。また、高い遠心加速度Gが必要な分野で使用される超遠心分離機においては、ロータ室内を真空ポンプによって真空を引き、空気の密度を下げることで風損を抑えることが行われていた。さらに高速回転時に発生する騒音を低減するために、特許文献2の技術ではボウルの内面に楔形した凸部を設けて、回転周期より長い振動成分を低減し、安全で静かな遠心分離機を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−267858号公報
【特許文献2】特開平7−232103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
風損を低減するための従来の技術は、特許文献1の技術ではその効果がスイングロータだけに限定されてしまう上、ロータの形状を特異な形にする必要から大きな制約が生じる。また、特許文献2の技術ではボウルの内面の凸部は楔形であるため、回転方向の風の流れに大きな圧力変動が生じてしまうため、振動の低減効果は高いものの冷却効果の向上はさほど望めない。
【0011】
一方、密閉されているロータ室の空間においてロータの風切り音や振動音が共鳴し、騒音が大きくなることがあった。この問題に対して、これまではロータ室とドア間の密閉性を高めることや、ドアの遮音性を高めてロータ室内の音を閉じ込めることを行っていた。しかし、ロータ室とドア間のシールは柔らかいゴムにする必要があったため遮音性の大きな向上は見込めなかった。またドアの遮音性を高めるためにはドアに使用される板金等の厚みを増すことがあるが、ドアの重量が大幅に上がることとなるため、製品重量の増加、コストアップといったデメリットが生じていた。
【0012】
本発明は上記背景に鑑みてなされたもので、その目的はロータを効率よく冷却することができる遠心分離機を提供することにある。
【0013】
本発明の他の目的は、冷却装置の能力を上げることなくチャンバの形状を改良することによりロータの冷却効率を上げることができる遠心分離機を提供することである。
【0014】
本発明のさらに他の目的は、ロータ室内での共鳴を防止することで回転中の動作音が静かな遠心分離機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願において開示される発明のうち代表的なものの特徴を説明すれば次の通りである。
【0016】
本発明の一つの特徴によれば、モータと、モータの回転軸に取り付けられるロータと、ロータを収容するロータ室を形成するボウルと、ボウルの開口部を密閉するドアと、ボウルの外周部に冷媒を通すためのパイプを巻いてボウルを冷却する冷却装置と、モータの回転と冷却装置を制御する制御装置を有する遠心分離機においてボウルの内側面に突起または窪みを複数形成した。ボウルは、例えばステンレス等の金属製であって、突起または窪みはプレス加工により形成されると好ましい。また、突起または窪みは、ボウルの上下方向において非連続に複数段設けられる。
【0017】
本発明の他の特徴によれば、突起または窪みは、ロータの径方向外側に位置する面に形成される。また別の形成方法として、突起または窪みが形成される上下方向の範囲は、ボウルの高さ方向の半分以上としても良い。さらに別の形成方法として、突起または窪みはロータの最大径付近よりも上方側のボウルの側面部に形成しても良い。さらに別の形成方法として、突起または窪みは、装着されるロータの最大外径位置にあたる高さ位置から上側と下側のボウルの側面部に設けても良い。さらに別の形成方法として、突起または窪みは、ボウルの底面に設けても良い。
【0018】
本発明のさらに他の特徴によれば、モータと、モータの回転軸に取り付けられるロータと、ロータを収容するロータ室を形成するボウルと、ボウルの開口部を密閉するドアと、モータの回転を制御する制御装置とロータを冷却すべく設けられた冷却装置を有する遠心分離機において、ボウルは、回転中心に対して対向する面が非対称となるような側面形状とされる。このボウルの回転軸と垂直面の断面形状は、正(2n+1)角形(但し、nは1以上の自然数)とするのが良く、例えば正七角形にすると良い。
【発明の効果】
【0019】
請求項1の発明によれば、遠心分離機においてボウルの内側面に突起または窪みを複数形成したので、銅パイプ(冷却装置によって冷やされた冷媒が流れている)が巻かれているボウルの内周面において、ロータでの発熱によって暖められた空気と接する表面積が増加するので冷却効果が大幅に増大する。また、ボウル表面において空気の流れが乱流となるため、効率よく熱交換することができる。さらにロータ室内の風切り音や振動音の音波はボウルの突起または窪みによって乱反射され、ボウル内で共鳴することを防止することもでき、使い勝手の良い遠心分離機を提供することができる。
【0020】
請求項2の発明によれば、ボウルは金属製であって突起または窪みはプレス加工により形成されるので、加工が容易で熱伝導性に優れたボウルを実現できる。
【0021】
請求項3の発明によれば、突起または窪みは、ボウルの上下方向において非連続に複数段設けられるので、ロータ室内の風切り音や振動音の音波はボウルの突起または窪みによって乱反射され、ボウル内で共鳴することを防止することができる。
【0022】
請求項4の発明によれば、突起または窪みは、ロータの径方向外側に位置する面に形成されるので、ロータの近傍付近の熱交換率を上げることができ冷却効果を高めることができる。
【0023】
請求項5の発明によれば、突起または窪みが形成される上下方向の範囲は、ボウルの高さ方向の半分以上に設けられるので、ロータでの発熱によって暖められた空気と接する表面積を大きく増加させることができ、冷却効率が増大する。
【0024】
請求項6の発明によれば、突起または窪みは、ロータの最大径付近よりも上方側のボウルの側面部に形成されるので、どのサイズのロータに対しても風損をアップさせることなく熱交換率を向上させることができる。
【0025】
請求項7の発明によれば、突起または窪みは、装着されるロータの最大外径位置にあたる高さ位置から上側と下側のボウルの側面部に設けられるので、大容量ロータやスイングロータのように最大径が大きく、ボウルとの隙間が小さくなる場合においても風損の増加を抑制しつつ、ロータを効率よく冷却することができる。
【0026】
請求項8の発明によれば、突起または窪みはボウルの底面に設けられるので、装着される様々なロータに対しても風損をほとんどアップさせることないという効果がある。
【0027】
請求項9の発明によれば、遠心分離機のボウルは回転中心に対して対向する面が非対称となるような側面形状とされるので、発生する音の定在波が作られにくくなり、共鳴現象を抑制することができ低騒音の遠心分離機を実現できる。
【0028】
請求項10の発明によれば、ボウルの回転軸と垂直面の断面形状は、正(2n+1)角形(但し、nは1以上の自然数)であるので、単純な形状のボウルによって発生する音の定在波が作られにくく、低騒音の遠心分離機を実現できる。
【0029】
本発明の上記及び他の目的ならびに新規な特徴は、以下の明細書の記載及び図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施例に係る遠心分離機1の全体構造を示す断面図である。
【図2】本発明の実施例に係るロータ室3付近の構造を示す断面図である。
【図3】本発明の第2の実施例に係るロータ室33付近の構造を示す断面図である。
【図4】本発明の第3の実施例に係るボウル42の形状を示す斜視図である。
【図5】スイングロータ54の形状を示す斜視図である。
【図6】アングルロータ64の形状を示す斜視図である。
【図7】本発明の第4の実施例に係るボウル72の側面図である。
【図8】本発明の第5の実施例に係るボウル82の側面図である。
【図9】本発明の第6の実施例に係るボウル92の側面図である。
【図10】本発明の第6の実施例に係るボウル92の形状を示す斜視図である。
【図11】従来の遠心分離機101の全体構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。なお、以下の図において、同一の部分には同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する。また、本明細書においては、前後上下の方向は図1に示す方向であるとして説明する。
【実施例1】
【0032】
図1は本発明の実施例に係る遠心分離機1の全体構造を示す断面図である。遠心分離機1は、箱形の板金などで製作される筐体6の内部に金属製の薄板で形成されたボウル2が設けられ、ボウル2とドア5によってロータ室3を画定し、ドアパッキン16によってロータ室3が密閉される。ロータ4は分離する試料を保持し高速回転するものであり、モータ8の回転軸に支持される。
【0033】
ドア5は蝶番15を中心軸にして上下方向に回動させることができる。ドア5の側方には、使用者がロータの回転速度や分離時間等の条件を入力すると共に、各種情報を表示する操作パネル17が配置される。ロータ室3は、上側の開口部がドア5によって密閉可能に構成され、ドア5を開けた状態でロータ室3の内部に、ロータ4を装着又は取り外しができる。ロータ4は、遠心分離を行う試料やそれを保持するサンプル容器に合わせて適宜選択され、モータ8の回転軸に装着される。
【0034】
本実施例においては、図11にて示した従来例のボウル102に比べてボウル2の内面の形状が異なる。ボウル2はステンレス等の金属合金製であり、ボウル2の内側の側面には円周方向に等間隔で複数の突起2aが形成される。ボウル2には円周方向に40箇所、約9度間隔で半球状に形成されるもので、ロータ室内側に出っ張るように設けられる。この突起2aは例えばプレス加工により製造できる。尚、図1では図示の関係上、突起2aの数を間引きして図示しているが、その詳細形状は後述する。突起2aは上下方向に13個設けられ(図1では11個だけ図示)、点線10で示すように上下方向に同一円周位置に並ぶように複数個の突起2aが配置される。従って、点線10の領域で上下方向に見た場合に、突起2aが上下に連続して設けられるのではなく、断続的に形成されることになる。
【0035】
ボウル2の外周には銅パイプ7cが螺旋状に巻かれ、さらに銅パイプ7cの外周は断熱のために円筒状の断熱材14で囲まれる。銅パイプ7cは冷却装置の一部を構成するものであって、冷媒が圧縮機7bから凝縮機7a内に送られ、凝縮機7a及び送風装置20によって、冷却された冷媒が液化する。液化した冷媒はキャピラリ7dを通って、銅パイプ7cに供給され、ボウル2の外周部においてボウル2の熱を急激に奪うことによってロータ室3の内部を冷却する。このように冷却装置を稼働させることによって、遠心分離運転中にロータ室3の内部は、制御装置18の制御によって設定された所望の温度に一定に保たれる。ロータ4の温度は、ロータ室3に設置された温度センサ(図示せず)の出力を用いて制御装置18により監視される。
【0036】
図2は本発明の実施例に係るロータ室3付近の構造を示す断面図である。ボウル2は上下方向に高さHの円筒形の容器であり、底部の中央付近にはモータ8の回転軸を貫通させるための貫通穴2dが形成される。貫通穴2dを通してモータ8の回転軸8aがロータ室3の内部に延在する。ボウル2の高さHのうちH2の部分には、内側に突出する突起2aが複数形成される。突起2aは例えばプレス加工により形成されるものであって、ボウル2の外側に窪み2bとなるような加工がされる。ボウル2の内周の側面全周にわたり多数突起2aが施される。本実施例では円周方向に40箇所、上下方向に13段分設けられる。突起2aを施す箇所は、ボウル2の高さHのうち、上からH1及び下(底面)からH3の部分を除いて、高さH2の部分の内周側の側面全体にわたって形成される。尚、内周側面に形成される突起2aの配置は、上下方向に1列に並ぶように配置しても良いし、上下方向に円周方向に所定角度だけ順にずれるように配置指定も良いし、その他の規則的な配置方法としても良い。ただし、ロータ4の冷却効果の向上を達成させるだけでなく、ボウル2の内部における空気抵抗の増大の影響が無いか、あるいは少なく抑えるように考慮した上で突起2aの配置を決定すると良い。
【0037】
ロータ4を高速回転させた場合、ロータ4最外周の表面近傍の流速は非常に速くなるが、ロータ4から離れると大幅に流速が落ちるため、図2のようにロータ4とボウル2間に十分なスペースができる大きさの関係であれば、ボウル2に突起2aがあっても風損は僅かな増加に留まる。さらに、突起2aの大きさを小さくして、その数を多くすれば風損の影響をより小さくしながらボウル2の表面積を増加させることができる。
【0038】
ボウル2の外周側には冷媒を通すための銅パイプ7cが巻かれている。銅パイプ7cはほぼH2の範囲に一致する領域にて上端から下端まで隣り合う銅パイプ7cの間に隙間が生じないように、また、銅パイプ7cとボウル2の外周面との隙間が生じないように巻回される。銅パイプ7cとボウル2は半田付けにより固定されると良いが、半田付けだけに限定されずに溶接や接着等のその他の固定方法によって固定するように構成しても良い。尚、ボウル2の外周面には多数の窪み2bが形成されるので、銅パイプ7cとボウル2間に隙間ができるが、銅パイプ7cをボウルに接着する際に半田を充填すれば接触面積を従来と同等に確保することができ、ボウル2の内周面の表面積の増大によって従来よりも大幅に冷却効率の向上を実現できる。
【0039】
ロータ4を回転させると、通常、ロータ4の風切り音やモータ8の振動音が発生し、ロータ室3内で音の共鳴が起こり騒音が大きく上がることがあるが、ボウル2の内周側に突起2aを設けることにより、突起2aが音波を乱反射させるのでロータ室3内で音の定在波が生じさせない効果があり、共鳴による騒音を大幅に抑制することができる。
【実施例2】
【0040】
次に図3を用いて本発明の第2の実施例に係るボウル32の形状を説明する。第2の実施例ではボウル32の突起32aの配置が異なる。図3においては、図2で示したロータ4よりも外径が大きいロータ34を用いる場合に好適なボウル32の形状である。ロータ34の最大径部分とボウル32との間の隙間が小さい場合、最大径部分において突起32aによる風損の増加が大きくなり、ロータ34の冷却効率が悪化してしまう恐れがある。そこで、図3に示すように流速が速くなるロータ34の最外周付近の所定の高さH6付近には突起32a(ボウル32の外周側から見ると窪み32b)を設けずに、高さH6位置以外の部分、即ち高さH5とH7の部分の内周面にだけ突起2aを設けた。
【0041】
このように本実施例では、用いられるロータ34の種類に応じてボウル32の形状も最適化し、ボウル32の高さHのうち、H5、H7の部分にだけ突起32aを形成するようにした。ボウル32は例えばステンレスのプレス加工により製造できるので、製作が比較的容易である。また、大容量ロータやスイングロータのように最大径が大きく、ボウルとの隙間が小さくなる場合においても最大外周付近のボウル32の内壁に突起32aが形成されないので、ロータ34の装着及び取り外し作業が容易にできる。さらに、突起32aを高さH5とH7の部分にだけ設けたので、風損の増加を抑制しつつロータを効率よく冷却することができる。
【実施例3】
【0042】
次に本発明の第3の実施例を図4を用いて説明する。図4のボウル42は、共鳴の防止の効果に特化した例である。図4のボウル42はステンレス製であって、その側面は7つの面によって形成され、回転中心に対して平行に向かい合う面が存在しない。つまりボウル42の回転軸と垂直な断面形状は、奇数の正多角形である。図4では7つの面42aが形成された正七角形としているため、対向する軸対称位置に平行な面が存在せず、発生する音の定在波が作られにくくなり、共鳴現象を抑制することができる。このボウル42は、図5に示すスイングロータ54を使用すると周期的な圧力変動によって逆に騒音源となる恐れがある。そこで、スイングロータ54使用時の問題を解消するには、面の数を増やすことや、ボウル42とスイングロータ54スイング時の隙間を大きくとることが重要となるため、本実施例は図6に示すようなアングルロータ64で使用されるボウルに向いている。
【0043】
本実施例においては、ボウル42は奇数の正m角形としたが、mは5〜11角程度が好ましい。また、mが大きくなるならば必ずしも奇数だけでなく、偶数としても良く、偶数の場合は、対向する面が平行とならないようにする方がより良い。さらに、ボウル42の内面には突起(凸部)又は窪み(凹部)等の凹凸を設けていないが、正m角形の形状に加えてボウル42の内面に適宜凹凸を形成するようにしても良い。
【実施例4】
【0044】
以上、図1〜図4を用いて本発明の第1〜第3の実施例に係る遠心分離機のボウル形状を説明したが、ボウルの形状は上記した例に限られずに種々の変形が可能である。それらの例の一部を図7〜図10を用いて説明する。
【0045】
図7は、本発明の第4の実施例に係るボウル72である。第1及び第2の実施例ではボウルの突起は、内周側に飛び出す半球状の複数の突起としていた。しかしながら、第4の実施例においては半球状の突起ではなく、連続的な凸部たる連続突起72aをらせん状に形成した。この突起72aは、円周方向に連続的に設けられ、ボウル72の外周側は内側の凹む窪み72bとなる。窪み72bの大きさは銅パイプ7cの外径形状とほぼ等しい形状であり、図から理解できるように窪み72bは銅パイプ7cが上下方向にずれないようにガイドする役目を果たす。また、銅パイプ7cは3/1以上の表面積部分でボウル72と良好に接する。この結果、銅パイプ7cによってボウル72の熱を効果的に奪うことができ、冷却効果が大幅に向上する。
【0046】
ボウル72はステンレス等の金属合金により形成されるが、突起72aの部分は押し出し加工により形成すると良い。突起72aの形成される上下方向の高さH9は、銅パイプ7cの巻回部分の高さとほぼ一致するようにすると好ましい。尚、銅パイプ7cとボウル72は、良好な密着を実現するためにろう付けにより接合されるが、溶接や接着などのそのたの接合方法を用いても良い。本実施例のボウル72では、突起72aがらせん状に形成されるためロータの回転方向に対する抵抗が少ない。また、ロータが回転すると,ロータを下方向に押し付ける風の流れが生まれるため,ロータの安定,浮き上りの防止を図ることができる。本実施例では、らせんの向きをロータの回転方向に対応させることにより、回転方向に対する風の抵抗を少なくするという効果がある。
【実施例5】
【0047】
図8は、本発明の第5の実施例に係るボウル82の側面図である。ボウル82においては、突起82a、窪み82bの形状は図2で示した突起2aと窪み2bの形状と同様に半球状である。また、円周方向に等間隔で40個形成する点も同じである。しかしながら、上下方向に関しては、高さH10はボウル82の高さHの半分以下であって、ボウル82の上側半分に留まる。このように突起82aと窪み82bを配置することによって、どのような大きさや形状のロータに対しても風損をアップさせることなく熱交換率を向上させることができる。また、ロータの最外周部に対面する付近に凸部が近接しないため、ロータの取付作業や取り外し作業がやりやすいという効果がある。
【実施例6】
【0048】
図9は、本発明の第6の実施例に係るボウル92の側面図である。ボウル92においては、突起92a、窪み92bの形状は図2で示した突起2aと窪み2bの形状と同様に半球状である。しかしながら、突起92a、窪み92bを設ける位置がボウル92の内周側側面ではなく、底面に形成したことに特徴がある。図10は、図9のボウル92の形状を示す斜視図であり、突起92aの配置状態が理解しやすいように、一部を切り欠くように図示している。ボウル92の底面92cには、整然と複数の突起92aが形成される。ボウル92はステンレス製であって、プレス加工により半球状の突起92aが形成される。突起92aの反対側、つまり下側からボウル92を見ると窪み92bが形成されることになる。窪み92bを形成する範囲は、ボウル92の半径Rに対してR1の部分である。
【0049】
このようにボウル92の底部にのみ突起92aを設けると、装着されるどのロータに対しても風損をほとんどアップさせることが無いという効果がある。また、ボウル92のロータ室内に接する表面積が図11で示した従来例よりも大きくなるので、銅パイプ7cによる熱交換率を向上させることができる。尚、第6の実施例は、第1〜第5までの実施例と組み合わせて実施するようにしても良い。
【0050】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、本実施例では製作のし易さや、使用者における清掃のし易さを考慮して、ロータ室側に突起を設けるようにしたが、突起の窪みの関係を逆にして、ロータ室側を窪ませるようにして外部に突起を設けるように構成しても同様な効果を得ることができる。また、ボウルの内周側に突起と窪みを混在させるように構成しても良い。
【符号の説明】
【0051】
1 遠心分離機 2 ボウル 2a 突起
2b 貫通穴 2d 貫通穴 3 ロータ室
4 ロータ 5 ドア 6 筐体
7 冷却装置 7a 凝縮機 7b 圧縮機
7c 銅パイプ 7d キャピラリ 8 モータ
8a 回転軸 14 断熱材 15 蝶番
16 ドアパッキン 17 操作パネル 18 制御装置
20 送風装置 32 ボウル 32a 突起
33 ロータ室 34 ロータ 42 ボウル
42a (ボウルの)面 54 スイングロータ 64 アングルロータ
72 ボウル 72a 突起 82 ボウル
82a 突起 92 ボウル 92a 突起
92c 底面 101 遠心分離機 102 ボウル
103 ロータ室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
前記モータの回転軸に取り付けられるロータと、
前記ロータを収容するロータ室を形成するボウルと、
前記ボウルの開口部を密閉するドアと、
前記ボウルの外周部に冷媒を通すためのパイプを巻いて前記ボウルを冷却する冷却装置と、
前記モータの回転と前記冷却装置を制御する制御装置を有する遠心分離機において、
前記ボウルの内側面に突起または窪みを複数形成したことを特徴とする遠心分離機。
【請求項2】
前記ボウルは金属製であって、前記突起または前記窪みはプレス加工により形成されることを特徴とする請求項1に記載の遠心分離機。
【請求項3】
前記突起または前記窪みは、前記ボウルの上下方向において非連続に複数段設けられることを特徴とする請求項2に記載の遠心分離機。
【請求項4】
前記突起または前記窪みは、前記ロータの径方向外側に位置する面に形成されることを特徴とする請求項3に記載の遠心分離機。
【請求項5】
前記突起または前記窪みが形成される上下方向の範囲は、前記ボウルの高さ方向の半分以上であることを特徴とする請求項3に記載の遠心分離機。
【請求項6】
前記突起または前記窪みは、前記ロータの最大径付近よりも上方側の前記ボウルの側面部に形成されることを特徴とする請求項3に記載の遠心分離機。
【請求項7】
前記突起または前記窪みは、装着される前記ロータの最大外径位置にあたる高さ位置から上側と下側の前記ボウルの側面部に設けられることを特徴とする請求項3に記載の遠心分離機。
【請求項8】
前記突起または前記窪みは、前記ボウルの底面に設けられることを特徴とする請求項2に記載の遠心分離機。
【請求項9】
モータと、
前記モータの回転軸に取り付けられるロータと、
前記ロータを収容するロータ室を形成するボウルと、
前記ボウルの開口部を密閉するドアと、
前記モータの回転を制御する制御装置と前記ロータを冷却すべく設けられた冷却装置を有する遠心分離機において、
前記ボウルは、回転中心に対して対向する面が非対称となるような側面形状とされることを特徴とする遠心分離機。
【請求項10】
前記ボウルの回転軸と垂直面の断面形状は、正(2n+1)角形(但し、nは1以上の自然数)であることを特徴とする請求項9に記載の遠心分離機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−240039(P2012−240039A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116405(P2011−116405)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000005094)日立工機株式会社 (1,861)
【Fターム(参考)】