説明

遠心分離機

【課題】
ロータ室に発生する結露水を効果的に排水して蒸発させることができ、結露水管理のメンテナンスフリーを実現した遠心分離機を提供 する。
【解決手段】
モータ8と、ロータ4と、ロータ室3を形成するボウル2と、ドア5と、モータ8の回転を制御する制御装置18と、ロータ室3を冷却する冷却装置(7a〜7c)と、ボウル2内の結露水を排出するドレン(10、11)と、ロータ4を減速する際に生じる回生エネルギーを消費するブレーキ抵抗35を有する遠心分離機1において、ドレンから排出される結露水を受ける蒸発皿30にブレーキ抵抗35を密着させるように固定し、蒸発皿30を加熱するようにした。ドレンには開閉切替可能なバルブ19が設けられ、ドレンから蒸発皿30への結露水の排出が制御される。制御装置18は、ロータ1の運転状態に応じてバルブ19の開閉を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体(ロータ)を高速で回転させる遠心分離機に関し、特にロータを冷却するための冷却装置を備えた遠心分離機で発生する結露水の処理に関する。
【背景技術】
【0002】
遠心分離機は、分離する試料(例えば、培養液や血液など)をチューブやボトルを介してロータに挿入し、ロータを高速に回転させることで試料の分離や精製を行う。設定されるロータの回転速度は用途によって異なり、用途に合わせて低速(数千回転程度)から高速(最高回転速度は150,000rpm)までの製品群が提供されている。遠心分離機で用いられるロータは様々なタイプがあり、チューブ穴が固定角度式で高回転速度に対応できるアングルロータや、チューブを装填したバケットがロータの回転に伴って垂直状態から水平状態に揺動するスイングロータなどがある。また、超高回転速度で回転させて少量の試料に高遠心加速度をかけるロータや、低回転速度となるが大容量の試料を扱えるロータなど様々な大きさのものがある。これらのロータはその分離する試料にあわせて使用するため、ロータはモータ等の駆動手段の回転軸に着脱可能に構成され、ロータの交換が可能である。
【0003】
ロータは空気中で高速回転すると、空気との摩擦熱によってロータの温度が上昇する。分離する試料によっては、低温を保たなければならないものもあるため、ロータを運転中に冷却するための冷却装置を備えた遠心分離機が広く用いられている。この遠心分離機は本体に冷却装置(蒸発機、圧縮機、凝縮機、膨張弁で構成される)を備えており、ロータ室外壁のボウル外周に巻かれる銅パイプに冷媒を流すことによってロータ室を冷却し、この冷却によってロータを冷却する。
【0004】
遠心分離の運転後、分離した試料を取り出すためにロータ室の開口部を閉鎖するドアを開けると、冷却されたロータまたはボウルに外部から流入する暖かい空気が触れ、ボウルの表面に結露が発生することがある。この結露水は、遠心分離運転を繰り返すことによってボウルの底に徐々に蓄積される。そのため特許文献1では、ボウルの底面にドレンチューブを取り付け、ドレンチューブを遠心分離機本体の外部に接続することによりロータ室内に発生する結露水をロータ室外に排出できるようにした。この遠心分離機の機外に引き出されたドレンチューブの開口は、キャップやコックで閉められ、結露水がある程度ドレンチューブ内に溜まると使用者がキャップを外し、結露水を抜く作業を行う。結露水の量は周囲の環境や運転条件等によって異なるが、使用者は例えば1回/数日〜1回/数週間程度の頻度で結露水を抜く作業を行う。もし、結露水が溜まっても抜かずにいるとロータ室内(ボウルの底部)に結露水が留まり、ボウルの内壁で凝固し始めることもあり、ロータの冷却能力が低下する恐れがある。
【0005】
ここで従来の遠心分離機の構造を図8を用いて説明する。遠心分離機101は、箱形の板金などで製作される筐体106の内部にボウル102が設けられ、ボウル102とドア5によってロータ室103を画定し、ドアパッキン16によってロータ室103は密閉される。ロータ4は分離する試料を保持し高速回転させるものであり、例えば、試料を入れるサンプリングチューブ等を挿入するための孔(図示せず)が複数形成され、モータ8の回転軸に支持される。ロータ4はモータ8によって回転されるが、モータ8の回転は制御装置118によって制御される。ドア5は蝶番15を中心軸にして上下方向に回動することにより開閉可能である。ドア5の後方には、使用者がロータの回転速度や分離時間等の条件を入力すると共に、各種情報を表示する操作パネル17が配置される。
【0006】
ロータ室103は、上側の開口部がドア5によって密閉可能に構成され、ドア5を開けた状態でロータ室103の内部に、ロータ4の装着又は取り外しができる。ボウル102の外周部には銅パイプ7cが螺旋状に巻かれ、さらに銅パイプ7cの外周は円筒状の断熱材14で囲まれている。本体下部には凝縮機7aと圧縮機7bを含んで構成される冷却装置と、これらの放熱用の送風機20が配置され、銅パイプ7cが圧縮機7bと接続される。冷媒が圧縮機7bから凝縮機7aに送られると、冷媒が冷却され、液化される。液化された冷媒はキャピラリ7dを通って銅パイプ7cに供給され、銅パイプ7c内で冷媒が気化することによりボウル102が冷却され、ロータ室103の内部は設定された所望の温度に保たれる。冷却装置の運転は制御装置118によって制御され、ロータ4の温度は、ロータ室103に設置された温度センサ(図示せず)の出力を用いて制御装置118により監視される。さらに、ボウル102の底にはロータ室103内の結露水を排出するために金属製のドレンパイプ111が接続され、ドレンパイプ111にはビニール製等の柔軟なドレンチューブ110が取り付けられる。ドレンチューブ110のロータ室103とは反対側の一端を遠心分離機101の外部(機外)に引き出し、ドレンチューブ110のドレンパイプ111とは反対側の開口は、キャップ112で密閉される。
【0007】
遠心分離機101には、ロータ4の減速時にブレーキ作用を与えるために、ブレーキ抵抗135が設けられる。ブレーキ抵抗135は、ロータ4の減速時にモータ8への給電を止めて、モータ8を発電機として作動させ、その発生した回生エネルギー(電力)をブレーキ抵抗135にて消費させることによりモータ8に回転抵抗を生じさせて、制動力を得るものである。ブレーキ抵抗135に流れる電力は熱に変換され、ロータ4のブレーキ力の性能はブレーキ抵抗135の容量によって変化する。熱を発するブレーキ抵抗135は、その放熱面を筐体106に形成された載置面106dに密着させるように配置され、筐体106に熱を放出している。送風機20によって、スリット106aから取り入れられた風は、凝縮機7aを通過し、圧縮機7b及びブレーキ抵抗135を冷却した後に、スリット106bから遠心分離機101の外部に排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−346617号公報
【特許文献2】特開2003−172576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の遠心分離機101では、作業者がドレンチューブ110内に溜まった結露水を定期的に抜く必要があったため煩わしい面があった。このような手作業による結露水の排出を省くため、特許文献2に示すような冷蔵庫の分野では、庫内で発生する結露水を蒸発皿に落として、冷却装置の圧縮機や凝縮パイプの熱を利用して結露水を蒸発させる方法が知られている。しかしながら、遠心分離機の場合は、ロータに過大なアンバランスが生じた際、遠心分離機が大きく振動することがあるため、圧縮機や凝縮パイプ等に結露水が飛散する恐れがあり、圧縮機や凝縮パイプに接するように蒸発皿に配置するには好ましくない。また遠心分離機では冷却装置は常時稼働ではなく、ロータ4を回転させる際に稼働されるだけであり、特許文献2の技術をそのまま適用して圧縮機や凝縮パイプに蒸発皿を接するように設けたとしても、蒸発皿に十分な熱を加えられないといった問題があった。
【0010】
本発明は上記背景に鑑みてなされたもので、その目的は、ロータ室に発生する結露水を効果的に排水して蒸発させることができ、結露水管理のメンテナンスフリーを実現した遠心分離機を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、減速時の回生エネルギーを利用して結露水を蒸発させることができる遠心分離機を提供することにある。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、溜まった結露水の量に応じて、ブレーキ抵抗に電流を流して蒸発皿の加熱を自在に行うように制御可能な遠心分離機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願において開示される発明のうち代表的なものの特徴を説明すれば次の通りである。
【0014】
本発明の一つの特徴によれば、モータと、モータの回転軸に取り付けられるロータと、ロータを収容するロータ室を形成するボウルと、ボウルの開口部を閉鎖するドアと、モータの回転を制御する制御装置と、ロータ室を冷却する冷却装置と、ボウル内の結露水を排出するドレンと、ロータを減速する際に生じる回生エネルギーを消費するブレーキ抵抗を有する遠心分離機において、ドレンから排出される結露水を受ける蒸発皿を設け、蒸発皿にブレーキ抵抗を密着させるように固定し、ブレーキ抵抗から発する熱によって蒸発皿を加熱するように構成した。ドレンには開閉切替可能なバルブが設けられ、制御装置は、バルブの開閉を制御することによってドレンから蒸発皿への結露水の排出を制御する。制御装置は、ロータの運転状態に応じてバルブの開閉を制御する。
【0015】
本発明の他の特徴によれば、蒸発皿に水位センサを設け、制御装置は水位センサによって所定の水量に達したことが検出されたらロータの減速タイミングに因らずにブレーキ抵抗に電力を供給する。また、遠心分離機は冷却装置又はモータを冷却するための送風装置を有し、蒸発皿は送風装置の送風に曝される位置に配置した。蒸発皿は遠心分離機の筐体の底面の上側、下側、又は底面から下側に突出したスペースに設けられる。
【0016】
本発明のさらに他の特徴によれば、蒸発皿は金属製であって中心部に平らな平面部が形成され、平面部の周囲にはなだらかな傾斜が外周面に向かって形成され、ブレーキ抵抗は平面部の下部に密着される。また、蒸発皿は金属製であって中心部に隆起した平面部が形成され、平面部から下側に落ちた周囲からなだらかな傾斜が外周面に向かって形成され、ブレーキ抵抗は隆起した平面部の下部に密着されるように形成しても良い。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明によれば、ボウル内の結露水を排出するドレンから排出される結露水を受ける蒸発皿を設けたので、ロータ室内の結露水を溜めることが可能となる。また、蒸発皿にブレーキ抵抗を密着させるように固定し、ブレーキ抵抗にロータ減速時に発生する回生エネルギーを消費させることで蒸発皿を加熱し、結露水を蒸発させるので、従来の遠心分離機のようにドレンから結露水を抜く作業が必要なくなり、使い勝手の良い遠心分離機を提供することができる。さらに、蒸発皿の加熱に、従来から遠心分離機に備わっていたブレーキ抵抗を用いることで特別なコストアップが無く、簡便な構成で結露水を蒸発させることができる。
【0018】
請求項2の発明によれば、ドレンに開閉切替可能なバルブを設け、バルブの開閉を制御することによって結露水の排出を自動的に行うので、作業者はドレンから結露水を抜くタイミングを考慮する必要がなく、使い勝手の良い遠心分離機を実現できる。
【0019】
請求項3の発明によれば、制御装置は、ロータの運転状態に応じてバルブの開閉を制御するので、ロータの回転中にロータ室と外部が連通状態となって空気の出入りが生じることを防止でき、ロータ室の冷却温度の低下や、風切音が耳につく等の問題を防止できる。
【0020】
請求項4の発明によれば、蒸発皿に水位センサを設け、制御装置は水位センサによって所定の水量に達したことが検出されたらロータの減速タイミングに因らずにブレーキ抵抗に電力を供給するので、自在に蒸発皿を加熱することができ、結露量の増加時にも対応可能となる。
【0021】
請求項5の発明によれば、送風装置を有し、蒸発皿は、冷却装置又はモータを冷却するための送風装置によって発生された冷却風に曝される位置に配置されるので、蒸発水に溜まった結露水の蒸発を促進することができる。
【0022】
請求項6の発明によれば、蒸発皿は遠心分離機の筐体の底面下部に設けられるので、送風装置からの冷却風を導きやすいだけでなく、万一蒸発皿から水が漏れたとしても他の機器に影響を及ぼすことを防止できる。
【0023】
請求項7の発明によれば、蒸発皿は金属製であって中心部に平らな平面部が形成され、平面部の周囲にはなだらかな傾斜が外周面に向かって形成され、ブレーキ抵抗は平面部の下部に密着されるので、ブレーキ抵抗の熱を効果的に蒸発皿にて放熱でき、結露水の蒸発を促進させることができる。また、ドレンから排出される結露水は、蒸発皿の傾斜面に落下し、蒸発皿の中央部に集められることから、気化した水分がドレンに戻ることを抑制することができる。
【0024】
請求項8の発明によれば、蒸発皿は金属製であって中心部に隆起した平面部が形成され、平面部から下側に落ちた周囲からなだらかな傾斜が外周面に向かって形成され、ブレーキ抵抗は隆起した平面部の下部に密着されるので、ブレーキ抵抗の熱を効果的に蒸発皿にて放熱でき、結露水の蒸発を促進させることができる。また、蒸発皿中心にブレーキ抵抗を収容するための隆起した平面部を設けたので、蒸発皿の高さが大きくなるのを防止でき、高さ方向に制限のある空間に蒸発皿を設置することができる。
【0025】
本発明の上記及び他の目的ならびに新規な特徴は、以下の明細書の記載及び図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施例に係る遠心分離機1の全体構造を示す断面図である。
【図2】図1の蒸発皿30の形状を示す斜視図である。
【図3】図1の蒸発皿30の断面図である。
【図4】本発明の実施例に係る遠心分離機1のブレーキ抵抗35への通電タイミングとバルブ19の開閉タイミングを示す図である。
【図5】本発明の実施例に係る遠心分離機1の水位センサ37とブレーキ抵抗35への通電タイミングの関係を示す図である。
【図6】第1の実施例の変形例に係る蒸発皿40の構造を示す断面図である。
【図7】本発明の第2の実施例に係る遠心分離機51の構造を示す断面図である。
【図8】従来の遠心分離機101の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0027】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。なお、以下の図において、同一の部分には同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する。また、本明細書においては、前後、上下の方向は図1に示す方向であるとして説明する。
【0028】
図1は本発明の実施例に係る遠心分離機1の全体構造を示す断面図である。遠心分離機1は、箱形の板金などで製作される筐体6の内部にボウル2が設けられ、ボウル2とドア5によってロータ室3を画定し、ドアパッキン16によってロータ室3は密閉される。ロータ4は分離する試料を保持し高速回転するものであり、モータ8の回転軸に支持される。ロータ4はモータ8によって回転されるが、モータ8の回転は制御装置18によって制御される。ドア5は蝶番15を中心軸にして上下方向に回動することができる。ドア5の側方には、使用者がロータの回転速度や分離時間等の条件を入力すると共に、各種情報を表示する操作パネル17が配置される。
【0029】
ロータ室3は、上側の開口部がドア5によって密閉可能に構成され、ドア5を開けた状態でロータ室3の内部に、ロータ4を装着又は取り外しができる。ボウル2の外周には銅パイプ7cが螺旋状に巻かれ、さらに銅パイプ7cの外周は円筒状の断熱材14で囲まれる。銅パイプ7cは冷却装置と接続され、冷媒が圧縮機7bから凝縮機7a内に送られ、凝縮機7a及び送風機20によって冷却された冷媒は液化する。液化した冷媒はキャピラリ7dを通って銅パイプ7cに供給され、ロータ室3の内部は遠心分離運転中に制御装置18の制御によって設定された所望の温度に一定に保たれる。ロータ4の温度は、ロータ室3に設置された温度センサ(図示せず)の出力を用いて制御装置18により監視される。さらに、ボウル2の底にはロータ室3内の結露水を排出するためにドレン(水抜き手段)が設けられる。本実施例のドレンは、金属製のドレンパイプ11と、ドレンパイプ11に接続されるビニール製等の柔軟なドレンチューブ10によって構成される。尚、ドレンの構成はこのような構成だけに限らずに、その他の公知の排出路や排出機構によって実現しても良い。
【0030】
本実施例に係る遠心分離機1では、筐体6の底部に蒸発皿30が設けられる。本実施例では蒸発皿30を固定するために、筐体6の底部から蒸発皿30の高さ程度だけ下に出っ張る蒸発皿収納室12を形成した。蒸発皿収納室12の大きさは、蒸発皿30よりも一回り大きい程度であって、後側面を除く3つの側面が閉鎖された半密閉空間とすると良い。半密閉空間の上部にはドレンチューブ10が貫通する貫通穴6dが形成され、ドレンチューブ10の下端部は貫通穴6dを貫通して、蒸発皿30の開口よりも下方の内部空間まで延びるように配置される。蒸発皿収納室12は筐体6と同じように板金で形成しても良いし、プラスチック等の合成樹脂によって別体に製造して筐体6に取り付けるようにしても良い。蒸発皿30は中央底部に平面を有し、その平面の周囲に斜面部を有する皿側の形状であり、ドレンチューブ10から排出される結露水は、斜面部の傾斜面に落下することで、蒸発皿30の中央部に効果的に集められる。このようにドレンチューブ10の排出口と、蒸発皿30は中央底部の平面の位置をずらすことによって、蒸発皿30で気化した水分が、再びドレンチューブ10に戻ることを効果的に排除することができる。
【0031】
ドレンチューブ10の、ドレンパイプ11と下端部との間には、電磁式のバルブ19が設けられる。バルブ19は制御装置18の制御によって開閉が制御可能である。通常、ロータ4が高速回転中にバルブ19が開状態であると、ロータ室3と外部で連通状態となり、空気の出入りが生じることで、ロータ室3の冷却温度の低下や、風切音が耳につく等の問題があり、好ましくない。そこで本実施例においては制御装置18によって、バルブ19を一定の間隔で断続的に短時間の開状態を繰り返すように制御されるか、あるいはロータ4の停止中にだけ開状態にするように制御されるか、又は、ロータ4の加減速中の低速時或いは減速中にのみ開状態となるように制御される。このように制御装置18の制御によってバルブ19は適切に開閉制御される。
【0032】
筐体6の貫通穴6dの後方にエッジ部分は、底面が上方に斜めに折り曲げられ、図中に矢印で示す送風機20の風の一部を、蒸発皿収納室12の内部に案内するように構成される。この空気は、凝縮機7aを通過した暖められた空気であるので、結露水に触れさせることにより結露水の蒸発を促すことができる。蒸発皿30は、扁平率の高く水面の面積が広くなるように構成されるので、蒸発皿30に溜まった結露水の蒸発が促進される。このように本実施例では、冷却装置7の構成部品である凝縮機7aや圧縮機7bの冷却のために配置されている送風機20の風の一部を、ガイド13によって蒸発皿収納室12に案内して取り込み、蒸発皿30に溜まった水面の上部を通過して外部に流すように構成したので、新たな送風手段を設ける必要が無く、コストアップを抑えることができる。
【0033】
次に、図2及び図3を用いて蒸発皿30の構成について説明する。図2は蒸発皿30の斜視図であり、図3は蒸発皿30の縦断面図である。蒸発皿30は厚さの薄い金属製の容器、例えばステンレス製の容器であって、上から見ると長方形の形状である。この形状は蒸発皿30の下側に取り付けられるブレーキ抵抗35の大きさに対応するサイズとすれば任意の形状でも良い。蒸発皿は、ブレーキ抵抗35が取り付けられる面となる長方形の底部34を有し、底部34の外周から斜めに4方に広がる斜面部33(33a〜33d)が接続される。斜面部33の外周部からは上方に延びる4つの壁部32(32a〜32d)が形成される。壁部32の上方は開口31となる。4つの壁部32a〜32dは、想定される結露水の量に応じてその高さを設定すれば良いが、結露水が少ない場合は壁部32a〜32dを設けなくても良い。また、遠心分離機1の振動等により結露水がこぼれやすい様な場合は、壁部32a〜32dを高めに設定すると良い。
【0034】
蒸発皿30の底部34の下側面には、ブレーキ抵抗35を密着させるように固定する。この固定のしかたは、接着剤、両面テープで固定しても良いし、あるいはねじ等により固定しても良いが、ブレーキ抵抗35から蒸発皿30への熱伝導性が良くなるような接合方法を用いると良い。ブレーキ抵抗35から延びる配線36は、図示しないスイッチング手段を介してモータ8に接続される。蒸発皿30は、放熱特性に優れる金属製の板で構成されるので、蒸発皿30自体がブレーキ抵抗35の放熱板としての作用を奏することができる。蒸発皿30の固定は、ブレーキ抵抗35で発する熱をできるだけ蒸発皿30のみに伝達し、筐体6には伝達しないという目的から、蒸発皿収納室12から浮かして固定するようにすると好ましい。本実施例では、ブレーキ抵抗35や蒸発皿30の数箇所を微小ポイントだけが蒸発皿収納室12の底面に接するように構成した。
【0035】
蒸発皿30の中心部(後述する底部34)は平らであるが、その外周側はすり鉢状のようになだらかな傾斜の付いた面となっている。蒸発皿30のいずれかの位置に落下した結露水は、斜面部33により底部34に導かれる。従って、ブレーキ抵抗35によって加熱される放熱面、即ち底部34に結露水が集水される。この状態においてブレーキ抵抗35に電力が供給されるとブレーキ抵抗35は発熱し、蒸発皿30は加熱されるので結露水の蒸発が促進される。
【0036】
蒸発皿の側面の一部、具体的には壁部32dの中心付近には水位センサ37が取り付けられる。水位センサ37は、蒸発皿の内部に一定量の結露水が溜まったことを検出するためのセンサであり、結露水が水位センサ37に触れると水位センサ37の出力信号が変化する。水位センサ37として例えばサーミスタを用いることができる。サーミスタの出力変化が制御装置18に送られることにより、制御装置18は蒸発皿30内に結露水がいっぱいに溜まったことを検知することができる。尚、水位センサ37はサーミスタだけに限られずに、フロート式の液面センサ(図示せず)や、その他の公知の水位センサを用いることができる。
【0037】
ブレーキ抵抗35への給電は、主にロータ4の減速時の回生エネルギーで行う。この原理は発電ブレーキとも呼ばれるもので、モータ8の減速時にロータ4の回転力を入力としてモータ8を発電機として作動させることにより、ブレーキ性能の向上を図ると共に、回生されたエネルギーを有効に活用するものである。発生した電力は、ブレーキ抵抗35に通電され、ブレーキ抵抗35が発熱することにより電気を消費する。この際のブレーキ力は、ブレーキ抵抗35の抵抗値や容量によって変化する。
【0038】
尚、本実施例においては、ブレーキ抵抗35に加える電力は回生エネルギーだけでなく、商用電源からの電力を加えることができるように構成した。例えば、水位センサ37の出力信号によって制御装置18が結露水の満水状態を検出したら、制御装置18はブレーキ抵抗35に加える電力の制御を自在に行うことにより、蒸発皿30に溜まった結露水を任意のタイミング蒸発させることができる。このように制御することにより、ロータ4の運転状況に拘わらずに、結露水を蒸発させるように制御することができる。尚、ロータ4の回転停止中に結露水を蒸発させるのには、ブレーキ抵抗35の通電だけでなく、送風機20を稼働させるようにしても良い。
【0039】
次に、図4及び図5を用いて、ブレーキ抵抗35への通電タイミングとバルブ19の開閉タイミングを説明する。図4は、本発明の実施例に係る遠心分離機1のブレーキ抵抗35への通電タイミングとバルブ19の開閉タイミングを示す図である。それぞれのグラフの横軸は時間t(秒)であり、各グラフの横軸をそろえて図示している。一番上のグラフはロータ4の回転数を示すグラフであり、本図では遠心分離運転を3回行う状況を示している。一回目のロータ4の回転は、時間0から加速を始めて、時間tで設定回転数Nに到達して一定時間定速運転した後、時間tからロータ4の減速をはじめて、時間tでロータ4の回転が停止した状態を示す。ここで、中央のグラフはブレーキ抵抗35への通電タイミングを示すもので、ブレーキ“ON”の時がブレーキ抵抗35へブレーキ電流が通電され、ブレーキ“OFF”の時にはモータ8とブレーキ抵抗35は遮断されることを示す。
【0040】
ロータ4の回転数のグラフと比較して理解できるように、ブレーキ抵抗35へは、ロータ4が減速している時、即ち時間tからtの間だけ通電される。これは、回生エネルギーを用いる場合のブレーキ抵抗35への通電できるのは、モータ8の制動時だけである為である。尚、バルブ19は、時間tからtまでを開状態とする。逆の表現をすると、ロータ4の加速から正常回転数での運転時にはバルブ19を閉状態とする。これは、ロータ4の回転中にバルブ19を開状態とすると、ロータ室3と外部が連通状態となって空気の出入りが生じ、ロータ室3の冷却温度の低下や、風切音が耳につく等の問題が生ずるからである。
【0041】
同様にして、ロータ4の減速を行う時間tからtの区間だけブレーキ抵抗35への通電が行われる。また、バルブ19は、時間tから時間tの間だけ開かれる。このようにブレーキ抵抗35への通電と、バルブ19の開閉操作をロータ4の回転状態に同期するように制御することにより、ドレンチューブ10から蒸発皿30への結露水の排出の自動化と、蒸発皿30へ排出された結露水の蒸発促進を図ることができる。
【0042】
尚、蒸発皿30へ排出された結露水の蒸発が不十分であって、水位センサ37に接触するまで結露水が溜まってしまった場合には、制御装置18の制御により、商用電源からの電力をブレーキ抵抗35に加えることによって、蒸発皿を加熱して結露水の気化を促進することができる。図5は、本発明の実施例に係る遠心分離機1の水位センサ37とブレーキ抵抗35への通電タイミングの関係を示す図である。バルブ19の開閉タイミングは、ロータ4の回転タイミングと連動させて制御する必要があり、ロータ4の加速中や低速運転中にはバルブ19を開閉させることはできない。しかしながら、ブレーキ抵抗35への通電タイミングは、ロータ4の減速時を除いて、任意に通電することができる。
【0043】
図5は、ブレーキ抵抗35への通電を水位センサ37に連動させて行うようにした際のグラフであり、時間t11において水位センサ37の信号がON状態、即ち、結露水の水位が水位センサ37まで達していることを検出したら、商用電源からブレーキ抵抗35に所定の電流を流す。この電流を流す時間は、水位センサ37の出力信号がOFF状態、即ち、結露水の水位が水位センサ37以下になったことを検出する時間t12から、所定の時間Tが経過した時間t13まで継続する。この時間Tの設定は、ブレーキ抵抗35に電流を流すことによって、蒸発皿の結露水の蒸発が完了する時間に応じて設定すれば良く、制御装置18によって設定される。
【0044】
制御装置は、気温などに応じて適宜時間Tを可変にして設定するようにしても良い。尚、ブレーキ抵抗35に電流を流す時間t11からt13までの間に、ロータ4の減速が行われる際には、制御装置18は商用電源からのブレーキ抵抗35への電力供給を停止させて、モータ8で発生される電流をブレーキ抵抗35に流すように切り替えるとよい。ロータ4の回転が停止したら、再び制御装置18は商用電源からのブレーキ抵抗35への電力供給を再び開始する。
【0045】
以上説明したように、本実施例においてはロータ室3の内部で発生した結露水は、ドレンから蒸発皿30に溜められ、蒸発皿30に密着させたブレーキ抵抗35にロータ減速時に発生する回生エネルギーを消費させることで蒸発皿30を加熱し、結露水を蒸発させるので、従来のドレンチューブから結露水を抜く作業が必要なくなり、使い勝手の良い遠心分離機を提供することができる。また、従来から遠心分離機に備わっていたブレーキ抵抗35を用いることで特別なコストアップが発生することを防止でき、簡便な構成で結露水の蒸発機構を実現ができる。さらに、蒸発皿30に与える熱源としてブレーキ抵抗35を用いることにより、ロータ4の減速時のタイミングに因らず、電流を流すことで自在に蒸発皿30を加熱することができ、結露量の増加時に対しても対応可能となる。
【0046】
尚、蒸発皿30の形状は、図2及び図3で説明した形状に拘わらず、他の形状で実現することも可能である。図6は第1の実施例の変形例に係る蒸発皿40の構造を示す断面図であり、蒸発皿収納室12の高さサイズの制限が有る場合に有効な、高さの低い蒸発皿40である。蒸発皿40の高さを制限する場合は、蒸発皿40の中心部にブレーキ抵抗45の大きさの面積分だけ上部に隆起させ、ブレーキ抵抗45を隆起により確保された空間に収める構造にするとよい。この時、ブレーキ抵抗45から蒸発皿40への熱伝導を向上させるため、蒸発皿40の反対面には、蒸発皿40と同材質の金属板48を配置し、蒸発皿40と金属板48でブレーキ抵抗45を挟み込む構造とした。このように構成することにより、蒸発皿40の高さを抑えつつ、ブレーキ抵抗45を蒸発皿40に取り付けることができる。
【0047】
蒸発皿40の隆起部44aの内側には平面部44が形成されるが、平面部44から下側に落ちこむ隆起部44aの周囲からは、外側に向かってなだらかな傾斜となる斜面部43が形成される。斜面部43の外周部からは上方に延びる壁部42が形成され、壁部42には水位センサ47が設けられる。壁部42の上方は開口41となる。本変形例では、開口41の形状やサイズは開口31(図3参照)と同じに形成されるが、蒸発皿40自体の形状は、上からみて長方形である必然性はなく、長円形であっても良いし、その他の任意の形状でも良い。
【実施例2】
【0048】
次に、図7を用いて本発明の第2の実施例に係る遠心分離機51の構造を説明する。第2の実施例において、第1の実施例と同じ構成部分には同じ参照符号を付しており繰り返しの説明は省略する。第2の実施例で異なる点は、蒸発皿30の設置場所である。第2の実施例においては、図2及び図3で説明したものと同一構成の蒸発皿30を、モータ8の近傍位置に設けるために、筐体56の上下方向中央付近に蒸発皿収納室62を設けた。蒸発皿収納室62はモータ8の収納空間と兼用に設けられるものであって、送風機70の設置位置と、スリット56c、貫通穴56dを除いて閉鎖された空間となる。蒸発皿収納室62のモータ8の近傍に送風機70を設け、送風機70によってモータ8を冷却する。モータ8を冷却することよって暖められた冷却風は、モータ8に近接した蒸発皿30の方向に流れる。このため冷却風は蒸発皿30に溜まった結露水の表面に導かれることにより、結露水の気化が促進される。
【0049】
蒸発皿30には、ドレンチューブ60の開口部が対抗するように位置する。ドレンチューブ60の開口は、蒸発皿30の斜面部に対抗するように配置すると好ましい。ドレンパイプ61とドレンチューブ60の下端部との間には、電磁式のバルブ69が設けられる。バルブ69は制御装置18の制御によって開閉が制御可能である。第2の実施例では、スリット56aから送風機20を用いて吸引された空気を、更なる送風機70によって蒸発皿収納室62に吸引される。そして、モータ8を通過することによって暖められた空気を蒸発皿30に導くように構成したので、結露水を効果的に蒸発させることができる。蒸発皿30の上部を流れた風は、筐体56の側部に設けられたスリット56cから外部に排出される。蒸発皿30は、断熱部材71を介在して蒸発皿収納室62の底面に載置される。このように断熱部材71を用いたのは、ブレーキ抵抗35で発する熱をできるだけ蒸発皿30のみに伝えて、筐体56側に熱が伝導しないようにするためである。なお、振動等により蒸発皿30から結露水が飛散することがあっても、飛散した水が蒸発皿収納室62内に止まるように、蒸発皿収納室62を半防水構造とすれば好ましい。
【0050】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、蒸発皿の材質は上述の実施例のように金属製だけでなく、プラスチック等の高分子樹脂やその他の材質で製造しても良い。また、蒸発皿の形状は浅い長方形の皿状のものだけでなく、その他の形状であっても良い。
【符号の説明】
【0051】
1 遠心分離機 2 ボウル 3 ロータ室 4 ロータ
5 ドア 6 筐体 6a、6b スリット 6d 貫通穴
7 冷却装置 7a 凝縮機 7b 圧縮機 7c 銅パイプ
7d キャピラリ 8 モータ 10 ドレンチューブ
11 ドレンパイプ 12 蒸発皿収納室 13 ガイド
14 断熱材 15 蝶番 16 ドアパッキン 17 操作パネル
18 制御装置 19 バルブ 20 送風機 30 蒸発皿
31 開口 32 壁部 33 斜面部 34 底部
35 ブレーキ抵抗 36 配線 37 水位センサ 40 蒸発皿
41 開口 42 壁部 43 斜面部 44 底部
44a 隆起部 45 ブレーキ抵抗 47 水位センサ
48 金属板 51 遠心分離機 56 筐体
56a〜56c スリット 56d 貫通穴 60 ドレンチューブ
61 ドレンパイプ 62 蒸発皿収納室 69 バルブ
70 送風機 71 断熱部材 101 遠心分離機
102 ボウル 103 ロータ室 106 筐体
106a、106b スリット 106d 載置面
110 ドレンチューブ 111 ドレンパイプ 112 キャップ
118 制御装置 135 ブレーキ抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、前記モータの回転軸に取り付けられるロータと、前記ロータを収容するロータ室を形成するボウルと、前記ボウルの開口部を閉鎖するドアと、前記モータの回転を制御する制御装置と、前記ロータ室を冷却する冷却装置と、前記ボウル内の結露水を排出するドレンと、前記ロータを減速する際に生じる回生エネルギーを消費するブレーキ抵抗を有する遠心分離機において、
前記ドレンから排出される結露水を受ける蒸発皿を設け、
前記蒸発皿に前記ブレーキ抵抗を密着させるように固定することを特徴とする遠心分離機。
【請求項2】
前記ドレンに開閉切替可能なバルブを設け、
前記制御装置は、前記バルブの開閉を制御することによって前記ドレンから前記蒸発皿への結露水の排出を制御することを特徴とする請求項1に記載の遠心分離機。
【請求項3】
前記制御装置は、前記ロータの運転状態に応じて前記バルブの開閉を制御することを特徴とする請求項2に記載の遠心分離機。
【請求項4】
前記蒸発皿に水位センサを設け、前記制御装置は前記水位センサによって所定の水量に達したことが検出されたら前記ブレーキ抵抗に電力を供給することを特徴とする請求項3に記載の遠心分離機。
【請求項5】
前記遠心分離機は、前記冷却装置又は前記モータを冷却するための送風装置を有し、
前記蒸発皿は、前記送風装置の送風に曝される位置に配置されることを特徴とする請求項4に記載の遠心分離機。
【請求項6】
前記蒸発皿は、前記遠心分離機の筐体の底面下部に設けられることを特徴とする請求項5に記載の遠心分離機。
【請求項7】
前記蒸発皿は金属製であって中心部に平らな平面部が形成され、前記平面部の周囲にはなだらかな傾斜が外周面に向かって形成され、
前記ブレーキ抵抗は前記平面部の下部に密着されることを特徴とする請求項6に記載の遠心分離機。
【請求項8】
前記蒸発皿は金属製であって中心部に隆起した平面部が形成され、前記平面部から下側に落ちた周囲からなだらかな傾斜が外周面に向かって形成され、
前記ブレーキ抵抗は前記隆起した平面部の下部に密着されることを特徴とする請求項6に記載の遠心分離機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−24728(P2012−24728A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−167645(P2010−167645)
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【出願人】(000005094)日立工機株式会社 (1,861)
【Fターム(参考)】