説明

遠心力による分離装置

【課題】 液相を含む試料を遠心力により分離し、分離された沈降物質を捕集したチャンバからは、回転を停止させても沈降物質が逆流しないような遠心力による分離装置を提供する。
【解決手段】 中心より外周方向に向かって順に、液相を保持するチャンバと、前記チャンバに連続し、遠心力により沈降してきた物質を捕集するチャンバとを有し、前記液相保持チャンバと前記捕集チャンバとが、中心方向に垂直な断面において前記液相保持チャンバが前記捕集チャンバに対して厚みが大きいという特徴を有する遠心力による分離装置において、遠心力で沈降させた沈降物が、捕集チャンバに取り込まれることで、回転を停止させても沈降物が逆流すること無く、毛細管現象により上澄みである液相成分のみ送液することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料を遠心分離して成分を抽出する分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の遠心分離による沈降物質の捕集形状は、血液等の試料を入れる受容室(21)と遠心分離して得られた沈降成分を捕捉する細胞捕捉室(22)とが毛細管範囲(23)で連結されており、例えば、血液を遠心分離する際に、血球が外周方向に設置された凹形状の細胞捕捉室に入ることにより、回転装置の回転が停止された後、毛細管範囲内で受容容器内へ細胞が逆流することが禁止され、血球と血漿を分離していた(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特表平5−508709号公報(第14頁、第1A図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前記従来の構成では、毛細管範囲(23)と細胞捕捉室(22)との厚みの関係が、細胞捕捉室(22)の方が厚いため、回転を停止すると毛細管現象により、せっかく捕集した沈降物質が逆流してしまうという課題を有していた。
【0004】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、遠心力で分離した後、回転を停止させても沈降物質の逆流が起こらないとした遠心力による分離装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記従来の課題を解決するために、本発明の遠心力による分離装置は、試料が収容されるチャンバが設けられたディスクを回転させて前記試料を遠心分離する遠心力による分離装置において、前記チャンバが、前記ディスクの回転中心より外周へ向かう方向に垂直な断面の断面積が異なる第1チャンバと第2チャンバとを有し、前記ディスクの回転中心より外周へ向かう方向において、内周側に設けられた前記第1チャンバと外周側に設けられた前記第2チャンバとが、前記試料が相互に移動可能に連続して構成され、前記第2チャンバは前記ディスクの回転中心側にのみ開口部を有し、前記第1チャンバの前記断面積が前記第2チャンバの前記断面積より大きく、前記第2チャンバの前記断面積が前記ディスクの回転中心からの距離が長くなるにつれて、小さく構成または一定に構成、されてなる。
【0006】
さらに、 本発明の遠心力による分離装置は、前記ディスクの回転軸方向の長さについて、前記第1チャンバの前記長さが前記第2チャンバの前記長さより長く構成されてなる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の遠心力による分離装置によれば、遠心力で沈降させた沈降物が、沈降物捕集チャンバに取り込まれることにより、回転を停止させても沈降物が逆流することがなく、毛細管現象により上澄みである液相成分のみ送液することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、本発明の遠心力による分離装置の実施の形態を図面とともに詳細に説明する。
【実施例1】
【0009】
図1は、本実施例1において、本発明の遠心力による分離装置の構成例を示す図面である。
【0010】
図1において、1はチャンバを有する上カバーであり、4は流路部分を切り抜いてある張り合わせ素材であり、6はベース基盤である。これらを順に張り合わせて出来たディスクの平面図を図2で示す。図2の2は請求項1に示す厚みの異なるチャンバ(以下第1チャンバとする)であり、3は遠心分離された上澄みのみを回収するためのチャンバ(以下第2チャンバとする)であり、厚みは600μmである。これらのチャンバは5で示す厚み100μmの流路でつながっている。チャンバと流路は毛細管現象の起こりうる厚みになっている。このチャンバ部分の拡大図を図3(a)に示す。この図に示してある矢印で示す方向はディスクの外周方向を示す。また、7はバルブである。この時、2をA−Aで切断した際の断面図を図3(b)に示してある。10が厚み600μmの液相を保持するチャンバであり、11が厚み100μmの沈降物捕集チャンバである。また12で示すように10と11のチャンバは傾斜でつなげてある。この傾斜角度は大きいほど良い。
【0011】
本実施例では、HDLコレステロール以外のコレステロール(以下、非HDLコレステロールとする)を凝集沈澱させ、HDLコレステロールのみ含まれる検体を得る方法について示す。検体としては血漿を用いる。10の部分には非HDLコレステロールを凝集させるための試薬(以下沈殿試薬とする)を塗布してある。
【0012】
血漿をさらに上のチャンバから遠心力で、もしくは、第1チャンバに自ら注入することで第1チャンバ内を検体で満たす。チャンバ内を満たした検体は、沈殿試薬を溶解し、反応することで非HDLコレステロールが凝集する。凝集形成が終わると、ディスクの回転速度を4000〜6000rpmにする。高速回転を開始すると凝集物が沈降し始め、11の沈降物捕集チャンバに沈降する。10にはHDLコレステロールのみ含まれる検体が残る。約180秒間回転させた後回転を停止する。停止することにより毛細管現象で10よりHDLコレステロールのみ含まれる検体が流路5内を満たす。その後ディスクの回転を2000rpmにすることで第2チャンバに上澄みであるHDLコレステロールのみが送液される。
【0013】
この時、液相保持チャンバと沈降物捕集チャンバとの厚み差は、100μm以上が望ましく、その差が大きいほど沈降物の逆流を押さえることが可能となる。
【0014】
これは、非HDLコレステロールの沈澱除去のみでなく、液相と固相が含まれる溶液において、液相成分のみを取り出すのに用いることが可能である。
【実施例2】
【0015】
図4は、本発明の実施例2の遠心力による分離装置の第1チャンバの平面形状を、図5は、本発明の実施例2の遠心力による分離装置の第1チャンバの断面形状示す。図4(a)、(b)、(c)に示すように、沈降物捕集チャンバにあたる部分の平面形状を変化させたり、図5に示すような厚いチャンバから薄いチャンバへの傾斜が左右にあるような場合、実施例1と同様の操作を行った際、実施例1よりも確実に沈降物を巻き込むことなく、上澄み液のみを回収することが可能となる。また、これらの形状を組み合わせることも有益である。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明にかかる遠心力による分離装置は、遠心力で沈降させた沈降物が、回転を停止させても逆流すること無く、上澄みである液相成分のみ送液することができるため、遠心力による上澄み液分離回収装置等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例1における遠心力による分離装置のディスク構成図
【図2】本発明の実施例1における遠心力による分離装置の平面図
【図3(a)】ディスクのチャンバ及び流路部分の拡大図
【図3(b)】チャンバのA-A断面図
【図4(a)】本発明の実施例2における遠心力による分離装置のチャンバ平面図
【図4(b)】本発明の実施例2における遠心力による分離装置のチャンバ平面図
【図4(c)】本発明の実施例2における遠心力による分離装置のチャンバ平面図
【図5】本発明の実施例2における遠心力による分離装置のチャンバ断面図
【図6】従来の装置の断面図
【符号の説明】
【0018】
1 上カバー
2 第1チャンバ
3 第2チャンバ
4 張り合わせ素材
5 流路
6 ベース基盤
7 バルブ
10 液相保持チャンバ
11 沈降物捕集チャンバ
12 チャンバの傾斜角度
21 受容室
22 細胞捕捉室
23 毛細管範囲


【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料が収容されるチャンバが設けられたディスクを回転させて前記試料を遠心分離する遠心力による分離装置において、前記チャンバが、前記ディスクの回転中心より外周へ向かう方向に垂直な断面の断面積が異なる第1チャンバと第2チャンバとを有し、前記ディスクの回転中心より外周へ向かう方向において、内周側に設けられた前記第1チャンバと外周側に設けられた前記第2チャンバとが、前記試料が相互に移動可能に連続して構成され、前記第2チャンバは前記ディスクの回転中心側にのみ開口部を有し、前記第1チャンバの前記断面積が前記第2チャンバの前記断面積より大きく、前記第2チャンバの前記断面積が前記ディスクの回転中心からの距離が長くなるにつれて、小さく構成または一定に構成、されてなる、遠心力による分離装置。
【請求項2】
前記ディスクの回転軸方向の長さについて、前記第1チャンバの前記長さが前記第2チャンバの前記長さより長く構成されてなる、請求項1に記載の遠心力による分離装置。





【図1】
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【図2】
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【図3(a)】
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【図3(b)】
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【図4(a)】
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【図4(b)】
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【図4(c)】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−21450(P2007−21450A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−210942(P2005−210942)
【出願日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】