説明

遠心成型用金型および遠心成型装置

【課題】本発明の目的は、金型本体の保護層の保護が可能な遠心成型装置を提供することにある。
【解決手段】遠心成型装置10は、樹脂を成型するための遠心成型用金型12、その遠心成型用金型12を回転させるローラ14とを備える。遠心成型用金型12は、円筒状の胴部16に外径の大きな凸条部18を設けたものである。ローラ14は凸条部18に接し、胴部16のメッキ層(保護層)20には接しない。ローラ14は凸条部18にのみ接しており、回転するときに、胴部16のメッキ層20が摩耗されることはない。胴部16のメッキ層20は摩耗されず、正確な温度測定をおこなえる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形をおこなうための遠心成型用金型および遠心成型装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電子写真複写機、プリンタなどの画像形成装置に搬送ベルトや転写ベルトなどの機能性ベルトが使用されている。機能性ベルトは、接合部の無いシームレスベルトである。
【0003】
シームレスベルトの製造は、図5(a)、(b)の遠心成型装置30を使用する。遠心成型装置30は、円筒状金型16bにローラ14が接し、ローラ14が回転することによって円筒状金型16bを回転させるものである。
【0004】
円筒状金型16bの外面には保護層としてメッキ層20を有する。メッキ層20は用途に応じて、ハードクロムメッキ、ニッケルメッキ、亜鉛メッキ等が使用されるが、黒色を有するメッキ層としては、黒クロムメッキ、黒クロメートなどが挙げられる。メッキ層20によって円筒状金型16bの腐食や摩耗を防止している。メッキ層20を使用する以外に蒸着などの皮膜処理をおこなう場合もある。
【0005】
円筒状金型16bの内面に樹脂溶液を塗布し、円筒状金型16bを回転させながら、加熱、成型、焼成させることによりシームレスベルトが製造される。円筒状金型16bの加熱方法としては、遠心成型装置30をチャンバー内に配置して熱風循環させる方法や円筒状金型16bを電磁誘導コイルによって誘導加熱する方法などがある(下記の特許文献参照)。
【0006】
円筒状金型16bの温度を所定値にするために、円筒状金型16bの温度を温度計21で測定し、熱源の出力を調節する。円筒状金型16bが回転するため、温度計21は非接触で測定できる放射温度計を使用する。温度計21で円筒状金型16bの温度を測定するために、メッキ層20は黒色である。黒色であることによって、熱を赤外線エネルギーとして正確に測定することができる。
【0007】
しかし、円筒状金型16bとローラ14とが接しながら回転することによってメッキ層20が摩耗する。メッキ層20が摩耗すると温度測定に誤差が生じ、正確な温度制御をおこなえなくなる。メッキ層20が摩耗することによって円筒状金型16bに腐食などが発生する。
【0008】
また、図5(c)に示すように、円筒状金型16bの端部だけにローラ14cを接触させることが考えられる。しかし、円筒状金型16bの両端にのみローラ14cを配置したとしても、ローラ14cにはある程度の長さが必要であり、かなりの部分のメッキ層20が摩耗される。温度の測定箇所のメッキ層20も摩耗されるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−200939号公報
【特許文献2】特開2008−173855号公報
【特許文献3】特開2007−130870号公報
【特許文献4】特許4014153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、保護層の保護し、正確な温度制御が可能な遠心成型用金型および遠心成型装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の遠心成型用金型は、円筒状の胴部に外径の大きな凸条部を設け、少なくとも胴部の外面に黒色の保護層を有する。
【0012】
本発明の遠心成型装置は、円筒状の胴部に外径の大きな凸条部を設け、少なくとも胴部の外面に黒色の保護層を有する遠心成型用金型と、前記凸条部に接しながら回転し、遠心成型用金型を回転させるローラと、前記胴部の温度を非接触で測定する温度計とを備える。ローラが回転することによって、遠心成型用金型も回転し、樹脂成形をおこなう。胴部の温度を温度計で測定し、所定の温度になるように監視する。
【0013】
前記遠心成型用金型を加熱する熱源を備え、温度計が測定した温度値から熱源の出力を制御する。温度値から遠心成型用金型の加熱状況がコントロールされる。
【0014】
遠心成型装置は、円筒状であり、外面に黒色の保護層を有する遠心成型用金型と、前記遠心成型用金型に接する凸条を有し、遠心成型用金型を回転させるローラと、前記胴部の温度を測定する温度計とを備える。ローラが回転することにより、ローラに設けられた凸条部に接する遠心成型用金型が回転する。
【0015】
前記遠心成型用金型を加熱する熱源を備え、温度計が測定した温度値から熱源の出力を制御する。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、ローラが凸条部にのみ接するので、胴部の保護層が摩耗されない。温度測定が正確になる。保護層が摩耗する凸条部の補修のみをおこなえば良く、遠心成型用金型の寿命を延ばすことが容易である。また、ローラに凸条部を設けることにより、遠心成型用金型が凸条部のみと接し、保護層が摩耗される箇所が狭くなる。摩耗されない箇所で温度測定をおこなえば、温度測定が正確になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の遠心成型装置の側面図である。
【図2】(a)は図1におけるA−A線断面図であり、(b)は図1におけるB−B線断面図である。
【図3】(a)は段部を傾斜状にした図であり、(b)は段部を曲面にした図であり、(c)は凸条部に溝を設けた図であり、(d)は凸条部を両端に設けた図である。
【図4】ローラに凸条部を設けた遠心成型装置の側面図である。
【図5】従来の遠心成型装置であり、(a)は側面図であり、(b)は(a)のC−C線断面図であり、(c)はローラを円筒状金型の両端に配置した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の遠心成型用金型および遠心成型装置について図面を使用して説明する。図面は模式的に示しており、実際の大きさとは異なる場合がある。遠心成型装置の被成型品は、無端状のベルトやフィルムなどである。
【0019】
図1に示す遠心成型装置10は、樹脂を成型するための遠心成型用金型12、および遠心成型用金型12を回転させるローラ14とを備える。
【0020】
遠心成型用金型12は、円筒状の胴部16に外径の大きな凸条部18を設けたものである。凸条部18は胴部16の外周を1周するリングとなっている。胴部16と凸条部18とは一体的に構成されたものである。それらの材料としてはS45Cなどの鋼が挙げられる。
【0021】
遠心成型用金型12の外面には、保護層20を有する。保護層20としてはメッキ層が挙げられ、以下メッキ層20として説明する。メッキ層20は表面が黒色である黒クロムメッキを使用する。遠心成型用金型12を保護しながら温度計21で温度測定がおこなえる。メッキ層20によって遠心成型用金型12の腐食などを防止する。胴部16のメッキ層20は凸条部18よりも外周に突出しないようにする。メッキ層20以外に、蒸着などの表面処理をおこなって保護層を形成しても良い。
【0022】
なお、保護層20を施す以外に、遠心成型用金型12自体を浸炭、窒化、高周波焼入れなどの表面硬化処理をおこない、遠心成型用金型12の長寿命化を図ってもよい。
【0023】
遠心成型用金型12の一例としては、胴部16の長手方向の長さが約700mmの場合、凸条部18の幅は約100mmであり、胴部16と凸条部18との段差は約3mmである。
【0024】
なお、胴部16の内面にもメッキ層を形成し、樹脂成形がおこなえるようにする。また、被成型品を取り出すために、公知の離型処理を施しておく。
【0025】
ローラ14の長手方向の長さは、胴部16の長手方向の長さよりも長い。2本のローラ14が一定間隔で対向し、2本のローラ14によって遠心成型用金型12が支えられる。ローラ14は凸条部18に接し(図2(a))、胴部16のメッキ層20には接しない(図2(b))。2本のローラ14が同方向に同速度で回転し、ローラ14と凸条部18との摩擦によって遠心成型用金型12が回転する。ローラ14は凸条部18にのみ接しており、回転するときに胴部16のメッキ層20が摩耗されることはない。
【0026】
凸条部18は胴部16の両端部に設けられる。遠心成型用金型12がローラ14に安定して支えられて回転するためである。例えば、凸条部18は胴部16の端から約80mmの箇所に設ける。
【0027】
遠心成型用金型12の温度を測定するための温度計21を備える。温度計21は放射温度計を使用し、胴部16から放出される赤外線エネルギーから温度を測定する。正確な赤外線エネルギーを検出するために、胴部16の表面は黒色のメッキ層20で覆われている。温度計21は複数であり、少なくとも胴部16の中央部と端部を計測する。中央部に比べて端部の温度が低くなりやすく、温度制御をおこなうに当たってそれぞれの温度を測定することが好ましいためである。例えば、中央部と端部の両方の温度が所定温度範囲にはいるように熱源からの出力を制御する。
【0028】
遠心成型用金型12の加熱方法は、チャンバー内に遠心成型用金型12を配置して熱風循環させる方法や遠心成型用金型12を電磁誘導コイルによって誘導加熱する方法が挙げられる。熱風源や電磁誘導コイルが熱源となる。熱源は温度計21が測定された温度から、遠心成型用金型12が所定の温度になるように熱風の温度や磁界の出力が調節される。
【0029】
その他、ローラ14の動力源、および胴部16の内面に樹脂溶液を塗布するためのノズルが適宜設けられて、遠心成型用金型12などはチャンバー内に配置される。
【0030】
以上のように、胴部16に凸条部18を設けることによって、胴部16のメッキ層20が摩耗されない構成になっている。摩耗されないため、温度測定に誤差が生じず、正確な温度制御が可能である。メッキ層20が摩耗されるのは凸条部18のみである。胴部16の腐食などを防止することができ、胴部16の寿命を延ばすこともできる。凸条部18のメッキ層20が摩耗すれば、その箇所のみ補修すれば良く、補修の手間がかかりにくく、遠心成型用金12の寿命を延ばすことが容易である。すなわち、本発明は遠心成型用金型12の正確な温度測定をおこないながら、遠心成型用金型12の長寿命化も達成出来る。
【0031】
本発明について上述したが、本発明は上述した遠心成型装置10や遠心成型用金型12に限定されるものではない。例えば、凸条部18の形状は図1の形状に限定されるものではなく、図3(a)の遠心成型用金型12bのように、傾斜させた段部22bを有する凸条部18aであっても良いし、図3(b)の遠心成型用金型12cのように、曲面の段部22cを有する凸条部18bであっても良い。図3(c)の遠心成型用金型12dのように、凸条部18dに複数の溝24を設けて、凸条部18bのメッキ層20の摩耗される箇所を狭くしても良い。
【0032】
凸条部18は2カ所に限定されることはなく、適宜数を増やしても良い。なお、凸条部18が1カ所であると、ローラ14で遠心成型用金型12を支えられなくなるため、凸条部18は少なくとも2カ所に設けられる。
【0033】
凸条部18は胴部16の両端部に設けることが好ましいが、遠心成型用金型12が安定して回転するのであれば、他の位置であっても良い。また、図3(d)の遠心成型用金型12eのように、胴部16の両端に凸条部18を設けても良い。
【0034】
胴部16に凸条部18を設ける以外に、図4に示すようにローラ14bに凸条部18eを設けた構成であってもよい。凸条部18eが円筒状金型(遠心成型用金型)16bに接し、ローラ14bが回転して、円筒状金型16bが回転する。円筒状金型16bは、凸条部18eと接する箇所のみメッキ層20が摩耗し、他の箇所は摩耗しない。温度計21は円筒状金型16bの中央部と端部において、凸条部18eと接しない箇所の温度を計測する。凸条部18eが接しない箇所のメッキ層20は摩耗せず、正確な温度測定をおこなうことができる。
【0035】
なお、円筒状金型16bは回転時に多少の位置ずれが生じるため、温度測定をおこなう箇所は、できるだけ凸条部18eと接する箇所から離れるようにする。
【0036】
図4の装置10bも、図1の装置10と同様に熱源を有し、計測された温度に応じて出力を制御する。正確な温度測定によって正確な熱源の出力制御をおこなうことができ、円筒状金型16bを正確に加熱することができる。
【0037】
その他、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づき種々の改良、修正、変更を加えた態様で実施できるものである。
【符号の説明】
【0038】
10、10b:遠心成型装置
12、12b、12c、12d、12e:遠心成型用金型
14、14b、14c:ローラ
16:胴部
16b:円筒状金型
18、18b、18c、18d:凸条部
20:メッキ層(保護層)
21:温度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠心成型に使用される遠心成型用金型であって、
円筒状の胴部に外径の大きな凸条部を設け、少なくとも胴部の外面に黒色の保護層を有する遠心成型用金型。
【請求項2】
円筒状の胴部に外径の大きな凸条部を設け、少なくとも胴部の外面に黒色の保護層を有する遠心成型用金型と、
前記凸条部に接しながら回転し、遠心成型用金型を回転させるローラと、
前記胴部の温度を測定する温度計と、
を備えた遠心成型装置。
【請求項3】
前記遠心成型用金型を加熱する熱源を備え、温度計が測定した温度値から熱源の出力を制御する請求項2の遠心成型装置。
【請求項4】
円筒状であり、外面に黒色の保護層を有する遠心成型用金型と、
前記遠心成型用金型に接する凸条を有し、遠心成型用金型を回転させるローラと、
前記胴部の温度を測定する温度計と、
を備えた遠心成型装置。
【請求項5】
前記遠心成型用金型を加熱する熱源を備え、温度計が測定した温度値から熱源の出力を制御する請求項4の遠心成型装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−179618(P2010−179618A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−26951(P2009−26951)
【出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】