説明

遠赤外線放射セラミックバーナプレート

【課題】遠赤外線放射材料が分散された塗膜により遠赤外線を放射し、優れた加熱性能を得ることができる遠赤外線放射セラミックバーナプレートを提供する。
【解決手段】遠赤外線放射セラミックバーナプレート1は、複数の炎口5を備えるセラミックバーナプレート3の表面に、金属酸化物を含む遠赤外線放射材料が分散された塗膜6を備え、供給された燃料ガスの燃焼により該塗膜6から遠赤外線を放射する。前記塗膜6は、1〜10mg/cmの遠赤外線放射材料を含み、さらに好ましくは1.2〜6.9mg/cmの遠赤外線放射材料を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠赤外線放射セラミックバーナプレートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、多数の炎口を備えるセラミック製のバーナプレートの表面に、酸化マンガン、酸化コバルト、酸化鉄等を含む遠赤外線放射材料が分散された黒色化塗膜を形成し、該塗膜により遠赤外線を放射するようにしたセラミックバーナプレートが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
前記塗膜として、例えば、前記遠赤外線放射材料をポリポロシロキサン等の有機ケイ素重合体からなるバインダーと共に前記セラミックバーナプレートの表面に塗布した後、焼成することにより形成したものが知られている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1−239305号公報
【特許文献2】特公平1−48624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、遠赤外線放射材料が分散された塗膜により遠赤外線を放射するようにしたセラミックバーナプレートでは、調理物等を加熱する際に適切な加熱性能が得られないことがあり、改良が望まれる。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑み、遠赤外線放射材料が分散された塗膜により遠赤外線を放射し、優れた加熱性能を得ることができる遠赤外線放射セラミックバーナプレートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために、本発明の遠赤外線放射セラミックバーナプレートは、複数の炎口を備えるセラミックバーナプレートの表面に、金属酸化物を含む遠赤外線放射材料が分散された塗膜を備え、供給された燃料ガスの燃焼により該塗膜から遠赤外線を放射する遠赤外線放射セラミックバーナプレートにおいて、該塗膜は、1〜10mg/cmの範囲の前記金属酸化物を含むことを特徴とする。
【0008】
本発明の遠赤外線放射セラミックバーナプレートは、前記塗膜が1〜10mg/cmの範囲の前記金属酸化物を含む厚さに形成されていることにより、該塗膜から放射される遠赤外線のエネルギーを十分な量として、優れた加熱性能を得ることができる。
【0009】
前記塗膜に含まれる前記金属酸化物が1mg/cm未満では均一な厚さの塗膜を形成することができず、該塗膜から十分なエネルギー量の遠赤外線を放射することができない。また、前記塗膜に含まれる前記金属酸化物が10mg/cmを超えると、該塗膜の膜厚が厚くなるために熱伝導が悪くなり、該塗膜から十分なエネルギー量の遠赤外線を放射することができない。さらに、前記塗膜に含まれる前記金属酸化物が10mg/cmを超えると、該塗膜に亀裂が生じて剥離しやすくなり、耐久性が低下する。
【0010】
前記塗膜は、1.2〜6.9mg/cmの範囲の前記金属酸化物を含むことがさらに好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の遠赤外線放射セラミックバーナプレートを搭載した燃焼装置の構成を示す説明的断面図。
【図2】放射強度の経時変化を遠赤外線放射材料の塗布量毎に示すグラフ。
【図3】遠赤外線放射材料の塗布量と積分放射強度との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0013】
図1に示すように、本実施形態の遠赤外線放射セラミックバーナプレートを搭載した燃焼装置1は、上部に開口部を備える筐体2と、筐体2の上部の開口部保持された遠赤外線放射セラミックバーナプレート3(以下、セラミックバーナプレート3と略記することがある)と、筐体2の側方に接続された導管4とを備えている。セラミックバーナプレート3は、例えば、コーディエライト等の耐熱衝撃性を備える多孔質セラミックからなり、厚さ方向に貫通する複数の炎口5と、表面に形成された遠赤外線放射塗膜6とを備えている。導管4は、燃料ガスに予め所定量の空気が混合された予混合ガスを、筐体2に供給する。
【0014】
遠赤外線放射セラミックバーナプレートを搭載した燃焼装置1は、導管2を介して筐体2に供給される前記予混合ガスをセラミックバーナプレート3で燃焼させて燃焼熱を発生すると共に、該燃焼により遠赤外線放射塗膜6から遠赤外線を放射することにより、調理物等の加熱を行う。
【0015】
遠赤外線放射塗膜6は、セラミックバーナプレート3の表面において炎口5の開口部を除く部分にゾルゲル法により形成されたセラミック膜からなり、該セラミック膜中に金属酸化物が分散された構成となっている。前記セラミック膜は、例えば、アルミニウムアルコキシドを含むゾルをゲル化した後、焼成することにより形成されたアルミナ膜である。また、前記金属酸化物としては、二酸化マンガン、酸化第二鉄、酸化コバルト、酸化銅等を挙げることができる。
【0016】
本実施形態では、遠赤外線放射塗膜6は、前記金属酸化物を1〜10mg/cmの範囲、好ましくは1.2〜6.9mg/cmの範囲で含む厚さに形成されている。
【0017】
次に、遠赤外線放射塗膜6の形成方法について説明する。
【0018】
まず、遠赤外線放射材料として、前記金属酸化物の混合物を調製する。前記遠赤外線放射材料は、例えば、二酸化マンガン60重量%、酸化第二鉄20重量%、酸化コバルト10重量%、酸化銅10重量%の組成を備えている。この場合、二酸化マンガン、酸化第二鉄、酸化コバルト、酸化銅を前記組成となるように混合し、得られた混合物をポットミルで24時間混合し、乾燥後、1150℃で3時間焼成し、粉砕することにより遠赤外線放射材料を得ることができる。
【0019】
また、前記遠赤外線放射材料は、例えば、二酸化マンガン15重量%、酸化第二鉄80重量%、酸化コバルト5重量%の組成を備えるものであってもよい。この場合、二酸化マンガン、酸化第二鉄、酸化コバルトを前記組成となるように混合し、得られた混合物100部に水100部を添加してポットミルで24時間混合し、200メッシュ篩通過分を乾燥し、仮プレスする。次に、1150℃で3時間焼成し、ポットミルで48時間乾式粗粉砕した後、乾燥、解砕して、平均粒子径5μmの遠赤外線放射材料を得ることができる。
【0020】
次に、ゾルゲル法の原料となる液状組成物を調製する。前記液状組成物は、ゾル状の金属アルコキシドと、前記遠赤外線放射材料と、溶媒とを含み、さらにpH調整剤、形成されるセラミック層を緻密化するためのコロイド状物質等を含んでいてもよい。前記ゾル状の金属アルコキシドとしてはアルミニウムアルコキシド水溶液を、前記溶媒としてはイソプロピルアルコールを、前記pH調整剤としては酢酸を、前記コロイド状物質としては、メチルトリメトキシシランをそれぞれ挙げることができる。
【0021】
前記液状組成物として、例えば、アルミニウムアルコキシド50%水溶液40重量部、前記遠赤外線放射材料30重量部、イソプロピルアルコール40重量部、酢酸0.3部、コロイド状物質としてのメチルトリメトキシシラン25重量部を含むものを用いることができる。前記液状組成物において、アルミニウムアルコキシド50%水溶液は20重量部としてもよい。
【0022】
前記液状組成物は、セラミックバーナプレート3の表面にスプレー塗布等の方法により塗布した後、例えば、150℃の温度で20分間、加熱乾燥することにより、遠赤外線放射塗膜6を形成することができる。
【0023】
次に、130mm×45mmの大きさのセラミックバーナプレート3の表面に、前記遠赤外線放射材料を0〜20mg/cmの範囲で含む遠赤外線放射塗膜6を、ゾルゲル法により形成し、性能を比較した。セラミックバーナプレート3は、直径1.25mmの炎口5を1895個備えており、この場合、遠赤外線放射塗膜6は、セラミックバーナプレート3の表面において炎口5の開口部を除く、3526mmの面積に形成される。
【0024】
ここで、前記遠赤外線放射材料は、二酸化マンガン60重量%、酸化第二鉄20重量%、酸化コバルト10重量%、酸化銅10重量%の組成を備えるものを用いた。また、前記液状組成物は、アルミニウムアルコキシド50%水溶液40重量部、前記遠赤外線放射材料30重量部、イソプロピルアルコール40重量部、酢酸0.3部、コロイド状物質としてのメチルトリメトキシシラン25重量部を含むものを用いた。
【0025】
性能の比較は、前記遠赤外線放射材料をそれぞれ0mg/cm、1mg/cm、1.2mg/cm、6.9mg/cm、10mg/cm、20mg/cm含むものについて、膜の品質を評価すると共に、燃料ガスとして280mmHOのLPGを供給して燃焼させたときの放射強度の経時変化と、積分放射強度とを測定することにより行った。前記積分放射強度は、放射される遠赤外線のエネルギー量を示す。
【0026】
また、遠赤外線放射セラミックバーナプレート3を搭載した燃焼装置1との間に90mmの間隔を存して、100mm×100mmの大きさのハンペン3枚を並べ、前記燃料ガスにより該ハンペンを実際に焼いて、その焼け具合を評価した。
【0027】
放射強度の経時変化の測定結果を図2に、積分放射強度の測定結果を図3に、それぞれ示す。また、膜の品質、放射強度、積分放射強度、ハンペンの焼け具合を評価した結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

〔評価基準〕
膜の品質:◎…均一で遠赤外線放射性に優れる
○…均一で遠赤外線放射性が得られる
×…不均一あるいは亀裂が生じる
放射強度:◎…加熱10分後で0.350mV以上
○…加熱10分後で0.345mV以上
×…加熱10分後で0.345mV未満
積分放射強度:◎…0.0392W/cm以上
○…0.0390W/cm以上
×…0.0390W/cm未満
焼け具合:◎…ハンペン表面が短時間で焦げ3枚の焼き分布の広がりが非常に良い
○…ハンペン表面が比較的短時間で焦げ3枚の焼き分布の広がりが良い
×…ハンペン表面が焦げるのに時間を要し3枚の焼き分布の広がりが悪い

表1から、本実施形態の遠赤外線放射セラミックバーナプレート3について、次のことがわかる。
【0029】
まず、遠赤外線放射塗膜6が前記遠赤外線放射材料を全く含まないとき(遠赤外線放射材料0mg/cm)には、膜の品質は評価することができず、放射強度は加熱10分後で0.345mV未満、積分放射強度は0.0390W/cm未満である。この結果、ハンペンの焼け具合は、表面が焦げるのに時間を要する上、中央のハンペンには均一に焦げ目が付くが、両端のハンペンには中央から遠ざかるほど焦げ目が少なくなり、焼き分布の広がりが悪くなっている。
【0030】
次に、遠赤外線放射塗膜6が1mg/cmの前記遠赤外線放射材料を含むときには、膜の品質は均一で遠赤外線を放射することができるものとなる。このとき、遠赤外線の放射強度は加熱10分後で0.345mV以上、積分放射強度は0.0390W/cm以上であり、前記遠赤外線材料を全く含まないときに比較して、放射される遠赤外線のエネルギー量が多くなっている。この結果、ハンペンの焼け具合は、表面が比較的短時間で焦げる上、両端のハンペンの中央から遠い部分の焦げ目も中央部の焦げ目に近いものとなっており、焼き分布の広がりが良い。
【0031】
次に、遠赤外線放射塗膜6が1.2〜6.9mg/cmの前記遠赤外線放射材料を含むときには、膜の品質は均一で遠赤外線の放射性に優れたものとなる。このとき、遠赤外線の放射強度は加熱10分後で0.350mV以上、積分放射強度は0.0392W/cm以上であり、遠赤外線放射塗膜6が1mg/cmの前記遠赤外線放射材料を含むときに比較して、放射される遠赤外線のエネルギー量がさらに多くなっている。この結果、ハンペンの焼け具合は、表面が短時間で焦げる上、両端のハンペンの中央から遠い部分でも中央部とほぼ同等の焦げ目が付き、焼き分布の広がりが非常に良くなっている。
【0032】
次に、遠赤外線放射塗膜6が10mg/cmの前記遠赤外線放射材料を含むときには、該塗膜が1mg/cmの前記遠赤外線放射材料を含むときと同様に、膜の品質は均一で遠赤外線を放射することができるものとなる。このとき、前記遠赤外線放射材料自体は増加しているので、遠赤外線の放射強度は、遠赤外線放射塗膜6が6.9mg/cmの前記遠赤外線放射材料を含むときと同様に、加熱10分後で0.350mV以上となる。しかし、前記遠赤外線放射材料の増加に伴って膜厚も厚くなるため熱伝導が低下し、積分放射強度は前記塗膜が6.9mg/cmの前記遠赤外線放射材料を含むときときより低い0.0390W/cm以上となる。この結果、ハンペンの焼け具合は、遠赤外線放射塗膜6が1mg/cmの前記遠赤外線放射材料を含むときと同程度になる。
【0033】
次に、遠赤外線放射塗膜6が20mg/cmの前記遠赤外線放射材料を含むときには、前記遠赤外線放射材料自体は増加している。従って、遠赤外線の放射強度は、遠赤外線放射塗膜6が6.9mg/cmの前記遠赤外線放射材料を含むときと同様に、加熱10分後で0.350mV以上となる。しかし、前記遠赤外線放射材料の増加に伴って膜厚がさらに厚くなるため熱伝導が低下し、積分放射強度は前記塗膜が10mg/cmの前記遠赤外線放射材料を含むときときよりもさらに低い0.0390W/cm未満となる。この結果、ハンペンの焼け具合は、遠赤外線放射塗膜6が1mg/cmの前記遠赤外線放射材料を含むときと同程度になる。さらに、遠赤外線放射塗膜6が20mg/cmの前記遠赤外線放射材料を含むときには、膜に亀裂が生じ剥離しやすくなり、膜の品質は耐久性の低いものとなる。
【0034】
以上から、本実施形態の遠赤外線放射セラミックバーナプレート3によれば、遠赤外線放射塗膜6に含まれる遠赤外線放射材料(金属酸化物の混合物)の量を、1〜10mg/cmの範囲とすることにより、膜の品質、放射強度、積分放射強度、ハンペンの焼け具合のいずれにおいても優れた加熱性能を得ることができることが明らかである。また、遠赤外線放射塗膜6に含まれる遠赤外線放射材料の量を、1.2〜6.9mg/cmの範囲とすることにより、さらに優れた加熱性能を得ることができることが明らかである。
【符号の説明】
【0035】
1…遠赤外線放射セラミックバーナプレートを搭載した燃焼装置、 3…遠赤外線放射セラミックバーナプレート、 5…炎口、 6…遠赤外線放射塗膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の炎口を備えるセラミックバーナプレートの表面に、金属酸化物を含む遠赤外線放射材料が分散された塗膜を備え、供給された燃料ガスの燃焼により該塗膜から遠赤外線を放射する遠赤外線放射セラミックバーナプレートにおいて、
該塗膜は、1〜10mg/cmの範囲の該遠赤外線放射材料を含むことを特徴とする遠赤外線放射セラミックバーナプレート。
【請求項2】
請求項1記載の遠赤外線放射セラミックバーナプレートにおいて、前記塗膜は、1.2〜6.9mg/cmの範囲の前記遠赤外線放射材料を含むことを特徴とする遠赤外線放射セラミックバーナプレート。

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−127809(P2011−127809A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−285236(P2009−285236)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(000115854)リンナイ株式会社 (1,534)
【出願人】(593097867)ジャパンセラミックス株式会社 (2)
【Fターム(参考)】