説明

遠隔化学物質同定処理システム

本発明の第4実施例は、温度補償吸収度スペクトルを生成する方法である。方法は以下のステップを含む。すなわち、a.バックグラウンド物体のサンプルスペクトル及び推定温度を与えるステップと、b.既知のバックグラウンド温度に関連づけられた既知の温度スペクトルの集合から、推定温度の上及び下のバックグラウンド温度を表す少なくとも二つの既知の温度スペクトルを選択するステップと、c.サンプルスペクトルを既知の温度スペクトルと比較してサンプルバックグラウンドスペクトルを決定するステップと、d.サンプルスペクトル及びバックグラウンドスペクトルから吸収度スペクトルを計算するステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2002年5月22日提出の出願番号60/382,435号の仮出願の利益を主張する非仮出願である。
【0002】
本発明は、野外条件下で未知化合物を同定するための装置及び方法に関する。具体的には本発明は、化合物を同定するためスペクトルデータに加えて遠隔パッシブ赤外線分光法を用いる装置及び方法に関する。
【0003】
緊急要員(「第一対応者」)又は軍事要員が所定の種類の化学物質が放出されている事故現場又はその他の事象に呼び出され、化学的内容が未知のガス状雲又はプルームに直面する場合が多い。かかる状況は、化学物質を運搬する鉄道タンク車や道路輸送タンクトレーラーが事故に巻き込まれる場合や、化学物質製造施設で偶発的に化学物質放出が発生する場合に発生し得る。いかにして非常事態を収拾するか、どのような安全装備が必要なのか、及び地元住民を避難させる必要があるか否かを決めるためにプルームの内容を知ることが重要なのは明らかである。ガス状プルーム中の化合物を同定しようとするのに遠隔パッシブ赤外線(infra−red(IR))分光計を用いる方法が業界では周知である。本明細書において、「パッシブ(passive)」という用語は分光計が赤外線光子の特定源を用いないことを意味するものとする(光学的に最適化された高温源からの光子を用いる「アクティブ(active)」システムの反対である)。「遠隔」という用語は、興味のあるサンプルガスが事故現場のプルームのように分光計に対して外部にあることを意味するものとする。クローズド行路分光計は、吸収セル内のサンプルを取り調べる(interrogate)か、又は周知の光子源及び周知の行路長さを用いる抽出システムを含んでもよい。
【0004】
本状況におけるIR分光法の一般概念が図1に示されている。パッシブ分光計101はガス状プルーム103が分光計と、IRエネルギーを与える何らかのバックグラウンド物体105との間になるように配置される。バックグラウンド105がプルーム103よりも著しく温暖な場合には、バックグラウンド105から放射されるIRエネルギーはプルーム103を通過して分光計101により記録される。異なる化合物は異なるIRエネルギー波長を吸収する傾向があることから、分光計が受け取る異なるIRエネルギー周波数の相対的強度を測定することにより、プルーム103内の化合物を同定するために使用可能な情報が与えられる。時としてプルームがその周囲よりも温暖であるような場合には、プルーム内の化合物がこれらのIR周波数で(自己吸収よりもむしろ)自己放射をする可能性がある。この吸収は、ベール・ランベルトの関係、又は「ベールの法則」によりガス濃度と直線的に相関する。赤外線放射がガスサンプルを直線的に距離L間を通過する場合、その初期強度(I)はガス吸収により、分光計で測定されるレベル(I)にまで減少する。ベールの法則によると各赤外線周波数の吸収度は以下の関係で定義される。


従来の分光計の詳細な機能は、本明細書で文献援用される米国特許第5,982,486号のような参考文献に説明されており、詳述する必要はない。図2より、分光計が最初に生成するのは、検知器への赤外線放射の入射に対するその検知器の空間領域反応を表す「インターフェログラム」(ステップ107)であるということが理解されれば十分である。高速フーリエ変換をインターフェログラムに適用すれば、赤外線検知器への総入射出力(total power incident)を赤外線周波数の関数として表すサンプル単一ビーム(ステップ109)が形成される。赤外線周波数の関数は、通常は「波数」又はセンチメートルの逆数(cm−1)という単位で表現される。サンプル単一ビームスペクトルの図は図3の下部に描かれているのが見える。
【0005】
パッシブIR分光法はバックグラウンドIRエネルギー源を用いるため、実際に興味のある信号、すなわち分光計とバックグラウンドとの間に位置するガスの比較的狭い吸収及び/又は放射の帯域、はバックグラウンドIR源の滑らかで広い放射スペクトルに重ね合わせられる。したがって、何らかの種類のバックグラウンドスペクトルを展開する必要がある。バックグラウンドスペクトルを形成する本発明の方法は以下に記載されるが、図3の中間に描かれているのはバックグラウンド単一ビームスペクトルを図式的に示しており、本発明の背景を概念的に理解するのに役立つ。
【0006】
サンプル単一ビームスペクトル(ステップ111)及びバックグラウンド単一ビームスペクトル(ステップ112)が一旦決まると、サンプル吸収度スペクトルが計算可能となる。以下に採用されている記号中、サンプル吸収度スペクトル(ステップ117)は単一ビームサンプルスペクトルSBiS及び単一ビームバックグラウンドスペクトルSBiBを用いて次のように定義される。


図3の上部に描かれているのがサンプル吸収度スペクトルを示している。
【0007】
サンプルに対する吸収スペクトル(「サンプル吸収度スペクトル」)が一旦作成されると、それを、サンプル吸収度スペクトルで表し得る様々な化合物に対する既知の吸収スペクトル(「基準スペクトル」)と比較することが可能となる。化合物の基準スペクトルとは、化合物がIR放射を吸収する周波数ごとに示す吸収度の程度を図式的に表したものと考えることができる。比喩的にいえば、基準スペクトルは化合物が有するIRの「形状的指紋」なのである。サンプル吸収度スペクトルの一部が基準スペクトルにどれほど密接にマッチしているか、したがって基準化学物質(すなわち基準スペクトルによって表される化合物)がサンプルガス中に存在するとどれほどの確かさで結論づけられるか、を決める方法はたくさんある。サンプル吸収度スペクトルを一つ以上の基準スペクトルと比較する一つの方法は、古典的最小二乗分析を利用することである。
【0008】
古典的最小二乗(Classical Least Squares(CLS))分析の使用は業界で周知であり、スペクトル分析で使用されている。これは、例えばD.M.Haaland and R.G. Easterling, "Improved Sensitivity of Infrared Spectroscopy by the Application of Least Squares Methods," Appl. Spectrosc. 34(5):539−548 (1980)、D.M.Haaland and R.G. Easterling, "Application of New Least−Squares Methods Applied to the Quantitative Spectral Analysis of Multicomponent Samples," Appl. Spectrosc. 36(6):665−673 (1982)、D.M.Haaland, R.G. Easterling and Vopicka, "Multivariate Least−Squares Methods Applied to the Quantitative Spectral Analysis of Multicomponent Samples," Appl. Spectrosc. 39(1):73−84 (1985)、W.C. Hamilton, Statistics in Physical Science,Ronald Press Co., New York, 1964の第4章及びその参照部分、及び米国特許第5,982,486号のような公知文献により明示されている通りである。これらはすべて本明細書に文献援用される。CLSの数学的説明は上述の文献に余すところなく開示されているが、特に行列操作の点においては簡単な説明によって有用な背景知識が得られるだろう。
【0009】
一般的にCLS分析は、一次方程式の優決定系の解を推定するのに有効である。かかる連立方程式は必ず以下の形式の行列方程式で表すことができる。


ここで、


である。サンプルスペクトルを一つ以上の基準スペクトルと比較することに関することだが、


は、周波数範囲[ν,ν,...νN]にわたる波数νiの強度値を表すAの各番号AiSを有するサンプルスペクトルを表す。計画行列、


においては、各列は基準スペクトルを表し、(例えば第一列を用いると)列Ai1Rの各数は吸収スペクトルと同じ周波数範囲にわたる基準スペクトルの強度値を表す。
【0010】
N>Mの場合(すなわち、測定データの数が推定パラメータの数を超える場合)は、式2に記載された連立方程式は「優決定」という。この場合、ここで記載されるすべてのCLS適用例に関連することだが、式2には固有解が存在しない。しかしこの場合は、パラメータX*の推定を形成すること、及びその推定の精度を特徴づけることが可能である。かかる推定及び特徴づけは、数学的基準及び制約のどんな選び方の集合に基づくものであってもよい。広く使われている基準は、式2のモデルに対する「重み付き残差二乗和」を最小限にするパラメータX*の推定を形成することである。この和は、測定データAiの品質のばらつきを説明するように定義してもよい(又はしなくてもよい)。かかる推定は「最小二乗」法の結果として広く参照され、かかる推定のみが本明細書に記載される。「古典的最小二乗」という用語は、式2に記載された線形モデルのみに基づく最小二乗法を称するものとする。他の最小二乗法、例えば「部分最小二乗」分析と称するものは、所望のパラメータX*を推定するためにより複雑なやり方でデータ及び結果を追加処理することが多い。
【0011】
形式的には、「古典的最小二乗」推定とは、ゼロ平均(zero means)と階数Nの分散共分散行列Mfとを有する結合分布を誤差ベクトルEが有するという仮定に基づく。また、多くのCLS推定はさらに、行列Mfが(負ではない)倍率σ内で既知であるという仮定、すなわち、


も含む。実際には、式2は測定データAiの相対的品質が既知であるという仮定を具現したものである。データの相対的品質は非負の「重み」Piiを各Aiに割り当てることによって定量化される。ここで対角重み行列Pは(一般的に)Nの逆行列である。すなわち、


であり、したがって式5によれば、


となる。
【0012】
従来技術で一般的に用いられるCLS分析の種類は「重みなしCSL」を表し、以下の[本発明の詳細]に記載される「重み付きCSL」と区別する。両種類のCLS分析は式4、5、及び6に係る上述の仮定を用いている。
【0013】
重みなしCLS分析はすべての測定データが同等の品質と仮定する分析である。すなわち、重みなしの場合においては、両行列P及びNは単位行列Iに等しい。推定されるパラメータX*のどんな集合に対しても、残差Vは、


として定義され、「重み付き残差二乗和」は、


として定義される。ここで上付文字tは行列の転置を示す。
【0014】
以下のパラメータX*の推定が存在し、固有であり、及びV(「重み付き残差二乗和」)の最小値、


を導く。式9は、いくつかの適用例で有用かつ正確な基本CLSパラメータ推定を記述するものである。しかし、すべてのCLS分析はまた、パラメータ推定の不確定性の有用な統計的尺度を与えることに留意しておくことも重要である。特に、CLS分析は「周辺標準偏差」(MSD)を各パラメータ推定に与える。ここで、分散共分散行列のCLS推定は、


であり、各パラメータ推定X*jと関係づけられる周辺標準偏差(MSD)は、


である。MSDは「1σの不確定性」と称することもある。X*j及びΔ*jの相対的な大きさは、パラメータX*jのCLS分析推定の品質の指標として用いられることが多い。
【0015】
重み付きCLS分析は以下に述べられる本発明の一部を成し、行列Pの中の少なくとも一つのPiiは他の値と異なる分析である。すなわち、少なくとも一つのデータAiは他のAiよりも品質が良いか又は悪いと仮定される場合である。
【0016】
本発明の分光分析上の側面に加えて、本発明はまた、スペクトルデータを処理するための新規な方法、及び化学物質放出位置並びに化学物質放出現場で観測される条件(例えば色や臭いのようなもの)に基づいて化合物を同定する新規な方法の両方に関する。潜在する化合物を同定するこの非スペクトル的な方法は、スペクトル的な方法と組み合わせて又は独立して用いてよい。スペクトル的な方法と組み合わせて用いられる場合は、非スペクトル的な方法は、基準スペクトルが未決定サンプルスペクトルとの比較のために選ばれる化合物の初期リストを同定又は同定を支援する役割を果たす。
【特許文献1】米国特許第5,982,486号
【非特許文献1】D.M.Haaland and R.G. Easterling, "Improved Sensitivity of Infrared Spectroscopy by the Application of Least Squares Methods," Appl. Spectrosc. 34(5):539−548 (1980)
【非特許文献2】D.M.Haaland and R.G. Easterling, "Application of New Least−Squares Methods Applied to the Quantitative Spectral Analysis of Multicomponent Samples," Appl. Spectrosc. 36(6):665−673 (1982)
【非特許文献3】D.M.Haaland, R.G. Easterling and D.A. Vopicka, "Multivariate Least−Squares Methods Applied to the Quantitative Spectral Analysis of Multicomponent Samples," Appl. Spectrosc. 39(1):73−84 (1985)
【非特許文献4】W.C. Hamilton, Statistics in Physical Science, Ronald Press Co., New York, 1964, Chapter 4 and references therein
【発明の開示】
【0017】
[背景技術]
本発明の一つの実施例は化合物を遠隔同定するためのシステムを与える。システムはパッシブ赤外線分光計、位置同定器、距離計、及びユーザーインターフェイスを含む。システムはさらに、化学物質基準スペクトルを表すデータ、観測可能な特性(properties)を所定の化合物に関連づけるデータ、及び位置を所定の化合物に関連づけるデータを有するデータベースを含む。コンピュータ処理装置は分光計、位置同定器、距離計、ユーザーインターフェイス、及びデータベースと通信を行う。システムはまた、分光計、位置同定器、及び距離計からのデータをデータベース内のデータと比較して一つ以上の化合物の存在可能性及び潜在的濃度を同定するためのソフトウェアも含む。
【0018】
本発明の第2実施例は、サンプルスペクトルが記録されるバックグラウンド物体の温度を決める方法である。方法は以下のステップを含む。すなわち、a.放物線中心周波数を既知温度の基準バックグラウンドの単一ビームスペクトルの周波数とした場合の放物線中心周波数とバックグラウンド温度との間の所定の関係を与えるステップと、b.未知の温度のバックグラウンドで記録されたサンプルスペクトルを与えるステップと、c.サンプルスペクトルの最適なあてはめ放物線を決定するステップと、d.最適なあてはめ放物線のサンプル放物線中心周波数を決定するステップと、e.サンプル放物線中心周波数を中心周波数とバックグラウンド温度との間の所定の関係と比較するステップと、f.その比較に基づいてバックグラウンドの温度を推定するステップとを含む。
【0019】
本発明の第3実施例は、スペクトル解析で用いられるバックグラウンドスペクトルを生成する方法である。方法は以下のステップを含む。すなわち、a.バックグラウンド物体のサンプルスペクトル及び推定温度を与えるステップと、b.既知のバックグラウンド温度に関連づけられた既知の温度スペクトルの集合から、推定温度の上及び下のバックグラウンド温度を表す少なくとも二つの既知の温度スペクトルを選択するステップと、c.サンプルスペクトルを既知の温度スペクトルと比較してサンプルバックグラウンドスペクトルを決定するステップとを含む。
【0020】
本発明の第4実施例は、温度補償吸収度スペクトルを生成する方法である。方法は以下のステップを含む。すなわち、a.バックグラウンド物体のサンプルスペクトル及び推定温度を与えるステップと、b.既知のバックグラウンド温度に関連づけられた既知の温度スペクトルの集合から、推定温度の上及び下のバックグラウンド温度を表す少なくとも二つの既知の温度スペクトルを選択するステップと、c.サンプルスペクトルを既知の温度スペクトルと比較してサンプルバックグラウンドスペクトルを決定するステップと、d.サンプルスペクトル及びバックグラウンドスペクトルから吸収度スペクトルを計算するステップとを含む。
【0021】
本発明の第5実施例は、吸収度スペクトルで表される化学物質を同定する方法である。方法は以下のステップを含む。すなわち、a.サンプル吸収度スペクトルを与えるステップと、b.吸収度スペクトルを二酸化炭素並びに水のスペクトル及び少なくとも一つの化学物質基準スペクトルと比較して、前記吸収度スペクトルで表される化学物質を同定するステップとを含む。
【0022】
本発明の第6実施例は、観測可能な性質(characteristics)を用いて化合物を同定するためのコンピュータシステムである。システムは、所定の性質及び特性を複数の化合物に関連づける化学物質データベース、及び観測可能な性質の入力を受け入れるユーザーインターフェイスを含む。システムはさらに、プロセッサに命令を与えて観測可能な性質に対応するデータベース内の化合物を同定するソフトウェア上で動作するプロセッサを含む。
【0023】
本発明の第7実施例は、化合物が観測される位置に基づいて化合物を同定するためのコンピュータシステムである。このシステムは、少なくとも一つの化合物を、化合物の指定マップ位置、及びシステムにシステム位置を入力するための位置入力、に関連づける化学物質/位置データベースを含む。プロセッサは、プロセッサに命令を与えてシステム位置に対応するデータベース内の化合物を同定するソフトウェア上で動作する。
【0024】
IV.発明の詳細な説明
1.非スペクトル的化合物同定
上述のように、本発明はスペクトルデータの処理ための新規な機器及び方法に関するだけでなく、化学物質の放出位置や化学物質放出位置で観測される条件(例えば色や臭いのようなもの)のような「非スペクトル的」性質に基づいた新規な化合物同定方法にも関する。
【0025】
本発明のスペクトル的同定方法と非スペクトル的同定方法との両方を実行するために、本発明は化学物質放出に際し存在する化合物を遠隔で同定するためのシステムを形成するハードウェアの固有の組み合わせを用いる。図4は本発明の遠隔同定システムで使用されるハードウェアを示すブロックダイアグラムである。全体的には、遠隔化学物質同定システム1は分光計3、位置同定器7、距離計5、ユーザーインターフェイス10、コンピュータプロセッサ4、気象観測器12、ビデオカメラ9、及び化学物質基準スペクトルのデータベース13を含む。図4には示されていないが、スペクトルサーチエンジンはプロセッサ4上で作動する。かかるスペクトルサーチエンジンの一つの例は、図15〜27を参照して以下に説明される。好ましい実施例においては、分光計2は、例えばカリフォルニア州コスタメサ市のMIDAC Corporationにより商標名「illuminator」で販売されている分光計のようなパッシブ赤外線分光計から構成される。位置同定器7は、例えばカリフォルニア州サニーベイル市のTrimble corporationにより商標名「SVee8Plus」で販売されている従来の全地球測位システム(Global Positioning System(GPS))である。距離計5は、例えばカリフォルニア州イングルウッド市のLaser Technologyにより商標名「ImpulseXL」で販売されているレーザー式距離計が代表的である。ビデオカメラは従来のどのような種類であってもよいが、好ましい実施例で使用されているのはHitachi corporationにより販売されている「VK−C77U」である。コンパス14は、例えばHoneywell corporationにより販売されているHMR3000のような、電子信号出力を与えるどのような種類であってもよい。気象観測器は、例えば風速、大気温度、及び湿度のような気象条件の測定能力がある装置であり、その適例の一つはテキサス州ダラス市のTexas Weather Instrumentsにより販売されている「1−Wire Weather Station」である。一つの好ましい実施例におけるユーザーインターフェイス10は従来のタッチスクリーン11及びアルファベット・数値キーボードを備える。プロセッサ4は少なくとも1GHzプロセッサであり、少なくとも512MBのRAM及びハードディスクドライブのような大容量メモリーがインストールされている必要がある。一つの好ましい実施例においては、分光計3、位置同定器7、距離計5、ユーザーインターフェイス10、コンピュータプロセッサ4、気象観測器12、及びビデオカメラ9が単一のハウジング(図示せず)の中に配置され、このハウジングは固定場所配置用の車両に取りつけられるように、又は単独適用のための支持構造物(例えば三脚)に取りつけられるように適合されているのが通例である。データベース11はハードディスクドライブ上に存在してもよく、又は遠隔位置にあって、例えばワイヤレスデータリンク又は光ファイバーリンクによってアクセスされてもよい。
【0026】
データベース13は、とりわけ、化学物質基準スペクトルのライブラリを含む。上述したように、化合物の基準スペクトルは、特定の波長におけるその化合物の吸収度を与える。その波長においては、その化合物はIR放射を吸収するか又は放出する。基準スペクトルのデータベースは業界で周知であり、例えばニューハンプシャー州セイラム市のサーモギャラクティック(Thermo Galactic)のような会社から入手可能である。しかし、スペクトルデータに基づく化合物同定は本発明の一つの側面でしかない。一つの好ましい実施例においては、データベースは化学物質スペクトルデータだけではなく、観測可能な特性を具体的な化合物に関連づけるデータ及び/又は位置を具体的な化合物に関連づけるデータも含む。また、「データベース」という用語は単一のストレージデバイスのデータに限られるわけではない。例えば、データベースはローカルのストレージデバイス(例えばハードドライブ)の情報部分と、遠隔して位置する情報(例えばリモートサーバー)の部分とを含む。または、データベースは、システムのその他の構成要素から遠隔するストレージデバイスに全体が存在してもよい。
【0027】
この開示はまず、化学物質放出現場で観測される所定の特性、条件、または性質に基づいて化合物を同定する方法を詳述する。この方法は、プロセッサ、ソフトウェアプログラムを実行可能なユーザーインターフェイス、及び観測可能な特性を具体的な化合物に関連づけるデータベースを有するコンピュータシステムにおいて通常は実施される。プロセッサ及びユーザーインターフェイスは、図4を参照して上述された種類のものであってよい。データベースは複数の化合物を備え、各化合物に対して一連の観測可能な特性又は性質を関連づける。これらの特性は通常はガス状態の化合物に関するが、固体又は液体状態の化合物に関する場合もある。本明細書において記載される具体的な実施例では、これらの特性は、可視蒸気を生成する化合物か否か、蒸気は沈下するか上昇するか、蒸気の色、化合物に関連付けられるあらゆる臭い、及び化合物が水にさらされた際の色及び臭いのあらゆる変化(加水分解)を含んでもよい。データに含まれてもよいさらなる特性は、問題の化合物の不完全燃焼からどのような二次化合物が生じるか(「不完全燃焼生成物(products of incomplete combustion)」すなわちPICs)である。様々な化合物がこれらの特性のうちのどれを示すかは業界で周知であり、例えば米国国立労働安全衛生研究所(U.S. National Institute for Occupational Safety and Health(NIOSH))による出版の「化学物質災害ポケットガイド(Pocket Guide to Chemical Hazards)」、化学物質の製造者により通常は出版される「物質安全データシート(Material Safety Data Sheet(MSDS))」、及び米国沿岸警備隊による出版の「化学物質災害対応情報システム(Chemical Hazards Response Information System(CHRIS))」のような参照文献に見出すことができる。これら3つはすべて本明細書において完全に文献援用される。データベースはまた、様々な化合物によりもたらされる健康被害に関する情報、及び化合物への暴露処理法又は化合物の最適で安全な封入操作法に関する情報、さらには化学物質放出事態後の一般的及び具体的手順を含んでもよい。この後者の情報は、例えば米国運輸省による出版の「緊急対応ガイド2000(Emergency Response Guide 2000(ERG2000))」及び米国連邦緊急管理庁(U.S. Federal Emergency Management Administration(FEMA))による出版の「第一対応者のための米国消防局(U.S. Fire Administration(USFA))災害物質ガイド」のような情報源に見出すことができる。これらはいずれも本明細書において完全に文献援用される。例えば、図6は化学物質特性データベースの概念的なダイアグラムを示している。述べてきたように、(化合物A、B、C、…のように表される)異なる化合物は、例えば化合物が(大気圧において)可視蒸気を生成するか否か、その蒸気の空気に関する密度、(もしあれば)蒸気の色、(もしあれば)化合物の臭い、分子量(molecular weight(MW))、及び該当する場合は化合物の加水分解状態(すなわち水にさらされた状態)での色、臭い、及び密度のような各化学物質特性に関連づけられる。説明のために、図6は化合物Aがアンモニアで化合物Bが次亜塩素酸(hyperchlorous acid)であるかのように構成されており、各々の適用可能な特性が表されている。最も簡単な例では、化学物質特性データベースはコンピュータ読取参照テーブルの形式をとることもできる。しかし、当業者であれば多くのより洗練されたデータベース構造に気づくだろう。例えば一つの好ましい実施例においては、コンピュータによって、例えばMicrosoft VisioのようなCASEツール内にデータベーススキーマが構築され、次に例えば、すべてのガイド内に含まれる情報の固有リレーションシップ、クロスリファレンス、クエリー、及びディスプレイを可能とするMicrosoft SQLサーバのようなSQLリレーショナルデータベース内にデータベースが作成される。
【0028】
図5は、化学物質放出現場における観測可能な条件に基づいて化合物又は化合物のグループの存在可能性を示す方法のフローチャートである。この方法がコンピュータで実施される場合、代表的には「ウィザード」、すなわち一連のクエリーでユーザーからの情報を求め、入力された情報に基づいて解決又はフィードバックを与えるプログラム、の形式がとられる。図5に示されている本発明のこの実施例は、本明細書では「化学物質特性ウィザード」と称する。
【0029】
ステップ20を発端に、プログラムはまず、何のウィザードが実行されようとしているのかをユーザーに確認する。ステップ21において、プログラムはまず、化学物質放出に水が適用されている(例えば消防ホースを用いている)か否かについて質問する。回答が肯定であれば、加水分解条件が存在するかもしれず、以下のステップ30〜37に記載されるステップが取られる。水が化学物質放出に適用されていない場合とみなされると、ユーザーは、ユーザーが化学物質放出を観測する際蒸気が可視であるか否かというステップ22の質問を受ける。「はい」であればステップ23が蒸気には観測可能な色があるか否かを質問する。次に、図5の実施例においてステップ24がタッチスクリーン11上のカラーバーの選択をユーザーに提示する。上述のように、データベースは所定の化合物を所定の色と関連づける。代表的には、プログラムはユーザーに、バーの下に色の名称が記入されている10から20のカラーバーを提示する。当然のことながら、一つ以上の化合物が同じ色で同定されることも可能である。しかし、色の同定は化学物質放出中に存在する可能性のある化学物質の潜在的な数を絞り込む役割を果たす。一旦色が選択されると、プログラムはステップ24へ移行し、蒸気が上昇しているか否かをユーザーに質問する。蒸気が上昇していれば、ステップ25において蒸気密度が1mg/m(外気の密度)よりも大きいと仮定される。蒸気が沈下していれば、蒸気密度は1mg/mよりも小さいと仮定される。さらに、空気と同じ蒸気密度(1.0)を有する化学物質はそれが含まれる周囲空気内に均一に分散する傾向にあり、空気よりも軽い化学物質は開放空気内に放出されると地上から上昇してどこかへ行ってしまう。次にステップ28は化学物質放出に関連づけられる臭いがあるか否かを質問する。色に関して記述されたのと同様の方法で、ステップ29は、データベースに名称の挙がっているすべての化学物質の臭いの記載をユーザーにタッチスクリーン29上で提示する。例えば、様々な化合物の臭いが記載されている「米国消防局災害物質ガイド(USFA HazMat Guide)」には、アンモニアは「刺激臭」を有し、次亜塩素酸は「漂白剤のような」臭いを有する、というように記載されている。ユーザーが、放出された化学物質の臭いがタッチスクリーン11上にリストアップされた臭いのどれかに一致するか否かを示した後、プログラムはステップ38に進む。ステップ38は水が化学物質放出に今適用されているか否かをユーザーに質問する。「はい」であれば加水分解反応が生じて化学物質放出は異なる色及び異なる臭いを帯びる。化合物が加水分解で色、臭い、又は密度が変わったという事実は化合物同定に関するさらなる証拠を与え得る。示されているように、ステップ32には、ステップ38かステップ21のどちらかの質問に「はい」と答えることでたどり着くことができる。ステップ21で肯定的な答えをすると、水が既に適用されている化学物質放出がシステムのユーザーに最初に観測された状況が見込まれる。ステップ38で肯定的な答えをすると、放出が最初は水が存在せずに観測されてその後に水が適用される状況が見込まれる。ステップ31は加水分解の結果として新たな蒸気の色があるか否かを質問する。「はい」であれば、ステップ32が再びユーザーにタッチスクリーン11上に色の選択を表示し、ユーザーに色の一つを選択してからステップ33に移行することを許可する。その後(又は加水分解の際色の変化がなかった場合)、ステップ33は蒸気が上昇しているか否かを質問し、ステップ34又は35は、蒸気が上昇しているか否かに基づいて上述の蒸気密度に関する決定をする。次にステップ36及び37は、加水分解状態の放出化合物の臭いに関する新たな質問をする。次にステップ39は、化学物質放出に関連づけられる火災があるか否か、及び付随する煙があるか否か(ステップ40)を質問する。付随する煙(ユーザーは火災からの煙と蒸発水からのなんらかの水蒸気とを区別する必要がある)であれば、ステップ41は、燃焼している物質の分子量がプロパンの分子量(すなわち44)よりも大きいという決定をする。この決定は、プロパンよりも大きな分子量の物質は燃焼時に可視煙を生成する傾向があるとする仮定に基づいている。
【0030】
一旦すべての質問が回答されると、プログラムは、データベースが有する、ユーザーにより入力された特性のすべての化合物のリストを返す。本発明の一つの好ましい実施例においては、化合物が存在すると示されるのは、すべての入力特性がその化合物にマッチするときのみである。当然のことながら、プログラムは疑義のある化合物を常に返すというわけではないし、観測された特性に一致するいくつかの化合物を返すことが多い可能性もある。
【0031】
本発明のもう一つの実施例は、位置を具体的な化合物に関連づけるデータベースに関する。問題となる物理的位置は代表的には、工業プラント、又は化学物質をその営業活動の一部として収容するその他の施設である。どんな化学物質がどんな施設に存在するかに関する情報は地域緊急計画委員会(Local Emergency Planning Commissions(LEPCs))及び州緊急対応委員会(State Emergency Response Commissions(SERCs))から入手可能であり、又は、例えば消防局事前計画データのようなデータベースに組み入れられているその他の手段によって入手可能である。緊急計画及び地域住民の知る権利法(Emergency Planning and Community Right to Know Act(EPCRA))は、潜在的に有害な化学物質を貯蔵、生成、又は使用する施設は毎年、緊急有害化学物質在庫書類をLEPCs、SERCs、及び消防局のような地域の第一対応者に提出しなければならないことを制定している。施設はこの情報を「ティアーI(Tier I)」又は「ティアーII(Tier II)」書類のいずれかで与える。ほとんどの州はティアーII書類を要求しており、これは基本施設同定情報、緊急及び非緊急両方に対する従業員連絡情報、及び施設で貯蔵又は使用される化学物質に関する情報を与える。この情報は公に入手可能であり、電子データベースフォーマットに組み入れられてもよい。ティアーI&II情報は通常は施設の位置を住所で同定し、施設の住所はその施設に貯蔵されている化合物の「指定地図位置」として称され得る。
【0032】
図7は、ユーザーにより入力された位置データを、ティアーI又はIIデータを有するデータベースに相関させる方法のフローチャートを示している。通常はこの方法はコンピュータソフトウェアによって実施され、本明細書では「施設ウィザード」プログラムとして時々称する。ステップ50aは施設ウィザードプログラムの開始を表している。ステップ50bでは、プログラムは興味のある物理的位置を表す入力を受け取る。施設ウィザードが例えば図4に示されるようなハードウェア構成で動作するとき、位置入力は全地球測位システム(Global Positioning System(GPS))ユニット7によって自動的に与えられ、したがって「システム位置」をGPS装置の位置にする。GPS位置データは標準の全国技術者機械工協会(National Engineers and Mechanics Association(NEMA))GPSフォーマットになっている。そのフォーマットは度分の緯度経度を含み、分は小数点以下6桁の精度までの尺度である。しかし、同じ目的を達成する周知のGPSメッセージフォーマットは他にも存在する。ティアーI又はティアーIIデータは通常、施設位置を住所で与えるので、施設ウィザードは、例えばMicrosoft Map−Pointのような、経度/緯度データを最も近くの対応する住所に関連づける住所ジオコーディング機能を備える従来のマッピングプログラムを利用する。
【0033】
次に施設ウィザードは、ティアーIIデータによって選択位置に関連づけられる施設名を与えて、ステップ51において、これがユーザーが化学物質放出位置又は放出が広がっている源の施設だと考える施設か否かをユーザーに質問する。ユーザーが否定的な答えをすれば、ステップ56は、入力位置の所定半径内の施設で報告されているすべての化学物質のリストを自動的に返す。一つの実施例においては、この半径は0.5マイル(約800メートル)のデフォルト値を有するが、半径はユーザーの入力により増加又は減少されてもよい。または、ステップ51の質問が肯定的な回答を引き出した場合、同定された施設に対して報告されている化学物質のみが、ステップ52に示されるようにリストアップされる。次にステップ53は、放出が既知の格納容器からか否かをユーザーに質問する。ユーザーが放出が広がる源の容器を同定できれば、施設ウィザードのステップ54はユーザーにタッチスクリーン11の容器シルエットの選択肢を提示する。図8はユーザーに提示され得る容器シルエット61a〜64dの4つの例である。放出が特定の容器の種類から広がっているからといって放出されている化合物が正確に同定されるわけではないが、かかる容器に格納され得る化合物の種類やクラスは限定される。容器が評価される格納容器に関するすべての情報及び容器がランクづけされる製品の種類は、例えば米国消防局(USFA)災害物質ガイドのような情報源から公に入手可能である。
【0034】
施設ウィザードがステップ56又はステップ54に分岐するか否かにかかわらず、プログラムは次にステップ55で、例えば図9のスクリーンショットに示されている全国防災協会(National Fire Protection Association(NFPA)プラカードのような情報プラカードがあるか否かをユーザーに質問する。業界で周知のように、NFPAプラカード63は、64a〜64dに表されているような4つのダイアモンド形領域に分割されている。領域64aは青(健康上のリスク)、領域64bは赤(引火性)、領域64cは黄色(反応性)、及び領域64dは白(特記事項)である。また領域64a〜64cは、領域内に0〜4の番号を含む。ここで数字は健康上のリスク、引火性、又は反応性のカテゴリのいずれかの増加程度を表す。領域64dは、そこに含まれて例えば加水分解のような特記事項を示す特別のアルファベット文字コードを有する。ステップ57はユーザーに特定のNFPAプラカードを選択するように促す。図9に示されている実施例においては、これはユーザーに対してユーザー自身が観測しているプラカードをタッチスクリーン11上に再現することを伴う。これは、領域64a〜64bに隣接する数字又は文字をタッチすることにより行われ、化学物質放出現場で観測されたプラカードの数値を再現する。容器シルエットと同様に、NFPAプラカードは必ずしも正確な化合物を与えるわけではないが、特定の数字の集合を有するプラカードに対応する化合物のグループが存在するのが代表的である。
【0035】
ステップ58においては、施設ウィザードは図5を参照して上述された化学物質ウィザードプログラムを開始し、化学物質ウィザードはユーザーにクエリーの集合を提示し、その決定プロセスに基づいて示されたなんらかの潜在する化合物を返す。ステップ59においては、ステップ50〜57の施設ウィザードの結果と化学物質特性ウィザードの結果とが比較されて両者に共通する化合物が施設ウィザードの最終結果として提示される。
【0036】
本発明のもう一つの実施例は、道路の容器トレーラーや鉄道の容器車両で観測される情報に基づいて潜在する化合物を同定する(代表的にはコンピュータに基づいた)方法に関する。図10は、化学物質放出が鉄道車両から広がっている際使用される「鉄道車両ウィザード」として性格づけられ得るものに対するフローチャートである。当然のことながら、手順は鉄道のタンカー車両で説明されるが道路の容器トレーラにも同様に適用可能であり、かかる手順は本発明から明確に考え出される。ステップ70はタッチスクリーン11(図4参照)上でプログラムを開始する。ステップ71において、ユーザーは米国運輸省(Department of Transportation)プラカードが化学物質放出に関連する鉄道車両に存在しているか否かを観測することを促される。図11は、鉄道車両ウィザードが動作している際タッチスクリーン11に現れ得る、いくつかの代表的なDOTプラカードを示す。次にユーザーは、ステップ72で示されるようにタッチスクリーン11に表示される対応するプラカードを押すことによって、現場で観測されたプラカードを示すのみである。いくつかの例では、プラカードは容器車両の化合物を具体的に同定する(例えば酸素及びガソリンに対するプラカードを参照のこと)。しかし大抵の場合は、DOTプラカードは、上述したNFPAプラカードの場合のように、いくつかの化合物に適用可能な所定の一般的な特性(例えば、可燃性、引火性、毒性など)を与えるのみである。プログラムは、選択されたプラカードに関連づけられるすべての化合物を、鉄道車両ウィザードの潜在的な結果としてみなす。
【0037】
適用可能なDOTプラカードが同定できるか否かにかかわらず、鉄道車両ウィザードは次に、現行の国連(United Nations(UN))番号があるか否かについてユーザーに質問する。UN番号は通常は丸で囲まれた4桁の数字で表示され、DOTプラカード又は別個のプラカードに表示されてもよい。UN番号は、各化合物質に割り当てられる固有の番号であり、代表的にはあらゆる公表された有害物質ガイドに見つけることができる。本発明の一つの実施例においては、ユーザーはタッチスクリーンを使用して、放出現場で観測されたUN番号を成す数字の列を選択する。
【0038】
UN番号に関する質問の後、鉄道車両ウィザードは次に、ステップ75で放出に関連する鉄道車両にマッチする鉄道車両のシルエットがデータベースにあるか否かについてユーザーに質問をする。第一対応者のためのUSFA有害物質ガイドには、鉄道産業で代表的に使用されている一連の鉄道タンク車両のシルエットが含まれている。USFA有害物質ガイドには、所定の化合物に指定される所定のタンクの種類が示されている。例えば、DOT105J100Wタンク車両はエチレンオキシド、液化天然ガス、及び液化炭化水素ガスに対して指定されている一方で、DOT105J200Wタンク車両は二酸化硫黄、塩化ビニル、及び液化天然ガスに対して指定されている。図12に示されているのは、鉄道車両ウィザードがどのようにしてユーザーを導いて事故現場で観測されている適当な鉄道車両を選択させるかを示すスクリーンショットである。ユーザーはアップ/ダウン選択矢印81を使用してデータベース内の異なるシルエットをスクロールしてシルエット80を観測された鉄道車両と比較する。ユーザーは適切な鉄道車両をタッチして、これが現場で観測された鉄道車両であるということを示すのみである。
【0039】
シルエットがステップ76で選択された後、鉄道車両ウィザードはステップ77で上述した化学物質特性ウィザードを呼び出し、一連の質問をユーザーに提示してその決定プロセスに基づいたなんらかの潜在化合物を返す。ステップ78において、ステップ70〜76の結果及び化学物質特性ウィザードが比較され、両者に共通の化合物が鉄道車両ウィザードの最終結果として提示される。UN番号は容器に関して適切にアップデートされていれば化合物の最も正確な識別子であるが、UN番号が実際にアップデートされていることを保証する手立てはない。したがって、化合物がプログラムによって同定されるのは、UN番号によって同定される化合物が、また他の指標(シルエット、DOT/NFPAプラカード、化学物質特性ウィザード)によって同定される単数又は複数の化学物質に一致する場合のみとなる。
【0040】
2.化合物のスペクトル同定
本発明のもう一つの大きな側面は、化学物質放出における未知化合物を遠隔同定するためにスペクトル分析を用いることである。上述したように、信頼性のある遠隔スペクトル分析を行う場合に鍵となるパラメータの一つは、正確なバックグラウンドスペクトルである。本発明は、正確なバックグラウンドスペクトルを生成する新規で有利な方法を与える。しかし、バックグラウンドスペクトルの決定に対する予備的プロセスとして、図13には、最初のスペクトルの読みを取得する際に本発明がどのようにして初期ステップのいくつかを行うかが示されている。第1ステップ122は、分光器の現行のコンピュータによって実行される「位置調整モード」手順を含む。これらのステップを図14を参照して簡単に説明する。このモードにおいては、分光計は単一干渉計スキャンを行い、ν=650cm−1〜4200cm−1の周波数範囲にわたり(三角アポダイゼーションを用いた高速フーリエ変換によって)スキャンをサンプル単一スペクトル(SBSi)に変換する。
【0041】
次にシステムは、インターフェログラムの最小値・最大値間の差(ピークツーピーク(peak to peak)値)を測定することによって、信号中の総入射赤外線出力を推定する。IR信号出力の度合いは従来の数値的な又はグラフィカルなユーザーインターフェイスのどれかで表されてよい。信号出力が分光計の推奨出力範囲よりも大きければ、ユーザーは分光計レンズ一杯にIRフィルターを置き、信号出力の読みをもう一度取得する。信号出力が推奨範囲よりも小さければ、ユーザーは、より大きなIRエネルギーを分光計に伝達する結果となる異なる場所からの読み取りをさらに行う。どの視角でも十分な信号出力が得られなければ、現行の条件ではどのスペクトルの読みも不可能である。
【0042】
一旦システムが十分な信号出力があることを確認すると、システムは付加的なデータを与えるいくつかのさらなるステップを行う。図13に示されているように、各スペクトルの読みに対してシステムはその読みを特定の同定番号に割り当て(ステップ125)、コンパスヘディング(compass heading)を取得し(ステップ126)、バックグラウンド物体に対する範囲測定を取得し(ステップ127)、温度及び湿度の読みを取得し(ステップ128)、GPSの読みを取得し(ステップ132)、カメラズーム位置を取得し(ステップ131)、ビデオキャプチャからメタデータを格納し(ステップ130)、従来のJPEGフォーマットで格納され得るビデオキャプチャを開始し(ステップ129)、ビデオタイムスタンプを開始し(ステップ133)、予め選択された波間隔での所定の回数のスキャンを行いインターフェログラムを構築し(ステップ134)、タイムスタンプを終了し(ステップ135)、ビデオキャプチャを終了し(ステップ136)、そしてインターフェログラムを処理する(ステップ137)。好ましい実施例においては、複合インターフェログラムを構築するために、0.5の波数間隔で干渉計を用いて32回のスキャンが行われる。干渉計の操作及びインターフェログラムの処理は業界で周知であり、本明細書でさらに説明する必要はない。
【0043】
図14に示されるステップの一つ(ステップ143)は、図15で説明されるように、バックグラウンド温度の初期推定を行うことである。図15のステップを検討する前に理解しておくべき重要なことだが、システムは、この推定を行うために、既知のガス及びバックグラウンドの温度を有する様々なガス混合物の既知のサンプル単一ビームスペクトルのデータベースを利用する。
【0044】
好ましい実施例においては、サンプルバックグラウンドスペクトルを推定する際に42個の単一ビームバックグラウンドスペクトルが用いられる。これら42のスペクトルは0.0〜142℃のバックグラウンド温度を表しており、図19に示されている。それらはニュージャージー州オークランド市のMikron Infrared,Inc.製造の340型黒体放射源を使用して記録されたものである。
【0045】
吸収スペクトルを生成するのに用いられるもう一つの実験手順は、(10センチメートルの吸収行路長さを備える)加熱された単一行路のガスサンプルセル、及び中実でグレーの直径25cm「ホットプレート」を含む。ホットプレート及び吸収セルの表面に取りつけられたKタイプ熱電対はサンプルガス(TS)及びバックグラウンド(TB)両方の温度の測定値を与えた。その組み合わせを形成するスペクトルは、分光計の視野を満たすホットプレート及び分光計とバックグラウンドとの間に位置するガスセルを使用して記録される。これらの吸収スペクトルは、式18〜20に後述される温度差ΔT=TA−TBを生成するために用いられる。
【0046】
初期吸収スペクトルが生成された後、これらのスペクトルは、小周波数範囲(主にHO及びCOに対応)のいくつかにわたる(〜200)ガス相吸収特性が取り除かれ、これらの吸収特性が、バックグラウンドの比較的滑らかで基礎を成す放射スペクトルに対する3次スプライン近似で置換されることによって、修正される。また、スペクトルはその最大値が一致するように設定されて尺度が決定される。図19及び20は、波数領域650〜1400cm−1にわたり設定された結果的なバックグラウンド基準を示す。図19はバックグラウンドスペクトルの完全な集合を示すが、明確にするために、図20に基準バックグラウンドスペクトルの集合の最小及び最大温度(0°〜142℃)を表すスペクトルのみを示す。
【0047】
図20に示すように、放物線がこれらのスペクトルの各々(0°及び142℃)にあてはめられて示され、最大高さ、すなわちこれら放物線の放物線中心がVC1及びVC2で表されている。所定の温度範囲(例えば0°〜142℃)にわたる多くの単一ビームスペクトルが生成されると(図19参照)、これらの単一ビームスペクトルの放物線中心が推定されてバックグラウンド温度対放物線中心を表す関係が図21に示すようにプロットされる。この関係を用いると、サンプルスペクトルの推定放物線中心が与えられて、放物線中心に対応する温度軸上の点を読むことにより、推定温度がいかにして得られるかがわかる。
【0048】
ここで図15に戻ると、このプロセスをその図によって示される通りに実行するため、システムはまず分光計から分析範囲を取得する(ステップ146)。データベースはνAとνBとの間のパラメータを含む。ここで、一つの一般的な実施例においてはνA=650cm−1及びνB=1100cm−1として定義される。説明される実施例で使用されるすべてのスペクトル情報はニューハンプシャー州セイラム市のサーモ・ギャラクティック・インコーポレーテッドにより開発された「SPC」フォーマットと称するフォーマットの標準ディスクファイルに存在する。ディスクファイルは、スペクトルデータの種類に従って吸収度又は赤外線強度のいずれかを表すスペクトルy値の順序化リストに引き続くヘッダ情報のいくつかのブロックから構成される。ヘッダ情報は、他のデータに混じって、第一yデータポイント周波数(frequency of the first y−data point(FFP))、最終yデータポイント周波数(frequency of the last y−data point(FLP))、及びファイルのポイント数(number of points in the file(NPTS))を含む。yデータに関連づけられるx軸の値はファイルに格納されていないが、必要に応じて、リストのデータ位置、FFP、FLP、及びNPTSから計算される。例えば、ファイルで13番目のy値に関連づけられる周波数は、


に等しい。説明される実施例によって使用されるすべてのスペクトルファイルはFFP、FLP、及びNPTSの値に等しいので、SPCファイルフォーマットは計画行列Dの列を構成するのに容易に役立つ。所望の分析範囲及びヘッダ情報の上方周波数から、ディスクファイルリストの対応するy値の位置を計算することが可能である。この値はディスクファイルから読み込まれて計画行列の列の第一行に配置される。それに続く(分析範囲の下方周波数に対応するそのデータに降りていく)y値は、ディスクファイルから順次読み込まれるだけで、Dの同じ列の下方の行位置に順次配置される。
【0049】
そして、システムは式2に表される行列の完成に必要な構成要素を定義する。例えば、ベクトルAは上述の分析範囲のSBiSから定義される(図15のステップ147)。ベクトルの構成要素は、分析範囲にわたるサンプル単一ビーム値、すなわちνi=νAからνBまででAi=(SB)iSである。そしてシステムは、図15のステップ148に示すように計画行列Dを構築する。Dの列は定数、値νi、及び値(νiから構成され、与えられる行列は、


のようになる。式12の計画行列は、周波数範囲νからνNまでにわたるサンプル単一ビームスペクトルの放物線推定であり、現行の適用例ではν=650(cm−1)及びνN=1100cm−1である。行ベクトルAの要素がこの周波数範囲にわたるサンプル単一ビームスペクトルに等しい集合であり初期(k=0)行列Pが単位行列Iである場合、式9はパラメータX*Lk(L=0,1,2,...N)の推定値を与える。ここで推定放物線は以下で与えられ、


kは「重み反復(weight interative)」CLS(「WICLS」)の反復数を示している。
【0050】
WICLS(図15のステップ149)は、本発明で行われる新規なCLS分析であり、従来技術のCLS法で得るよりもより正確な推定放物線を得る(ステップ150)。WICLS法は残差V(式7)に基づいた重み行列P(式5)において反復調整を用いる。多くの場合、連続反復における二乗残差Vの重み付きの和の変化は、最終的には所定の正の値を下回り、反復プロセスの終了の合図となる。この方法は、計画行列D(式3)に具体化されている線形モデルによっては上手く説明されない測定データの部分集合A(式2)をCLS解析から有効に排除する結果をもたらす。本発明で用いられているように、WICLS推定値X*j及びそれに関連づけられるMSD値Δ*j(式9及び11)は一般的に標準CLS解析によって与えられるそれらの値よりも優れている。
【0051】
図16はWICLS法を実行する際に行われるステップを示す。行列A及びDはステップ156でサンプルとされている。WICLS分析の第一反復に先立って重み行列Pが単位行列I(ステップ157)に等しく設定される。すなわち、分析に関与するすべてのデータは等しい重みを与えられる。次にステップ158において、初期(k=0)パラメータ推定値X*j、残差V、二乗誤差Vの和、及び周辺標準偏差(Marginal Standard Deviations)Δ*jが上述のよう計算される(式8〜11参照)。ステップ159において、重みPが計算されて反復カウンタkが増加する。前の反復の残差に基づいて、重みは以下の式に従って再定義され、


その平均は、


となる。ここで、上付き文字k>0は反復数を示す。次の(k+1)番目の反復に対する重みPijk+1は(非線形)関係、


及び


から決定される。ここで、α0は、WICLSの適用毎に実験的に決定される調整可能なパラメータである。本発明の好ましい実施例においては、値α=1である。最新の重み行列Pを用いて、パラメータ推定値X*j、残差V、二乗誤差Vの和、及び周辺標準偏差Δ*jが、ステップ160において式8〜11を再び用いて再計算される。多くの場合において、式12〜16を用いて繰り返される反復によって、値(X*j)k、(Δ*j)k、(Vkは強制的に収束される。ここで再び、上付き文字k>0は反復数を示す。かかる場合、その後の値kに対する(Vkの値は、


に従う。式17で表される条件に合えば(ステップ161)、値(X*j)k+1及び(Δ*j)k+1(及び他のすべての関連推定値)はWICLS分析の値とみなされる。好ましい実施例においては値L=0.01である。
【0052】
式12〜17に記述されたWLCLS手順の適用により、式13に記述された放物線からのX*k、X*k、X*kに対する値が与えられる。興味のある放物線に対して最終的に推定される中心周波数νC(ステップ151)は、以下のように計算することができる。


上述のようにして、νCのWICLS推定値を既知のバックグラウンド温度に対して図21に示すようにプロットすることで、バックグラウンド温度を推定するための基礎が与えられる。図21に表される実験データに対する多項式回帰は結果的には、


の形式の関数推定になる。式16〜19に記述された手順が未知のバックグラウンド温度のサンプル単一ビームスペクトルに適用されると、そのスペクトルの中心周波数である推定値νSCが与えられる。そのスペクトルの初期推定バックグラウンド温度TBは、


で与えられる。システムはバックグラウンド温度を数値的に又はグラフィカルに表示する。これによりシステムは、IRエネルギー及び温度差ΔT=TA−TBの迅速にアップデートされたグラフィカルな出力を提示することができる。
【0053】
一旦システムがバックグラウンド温度の初期推定値を決定すると(図18におけるステップ176)、システムはバックグラウンドスペクトルの構築を進める。バックグラウンド温度の初期推定値TBは、TBの上の最も近いスペクトルとTBの下の最も近いスペクトルとを表す二つのバックグラウンドスペクトルである「基準バックグラウンド単一ビーム(single beam(SB))ペア」を選択するために用いられる(ステップ178)。図示のため、図19において最も底部にあるスペクトル(0℃)を取り上げ、隣接するスペクトル(6.8℃)を取り上げる。TBが0℃と6.8℃との間にあれば、これら二つのスペクトルが基準バックグラウンドSBペアとなる。
【0054】
推定バックグラウンドSBスペクトルは、サンプルSBスペクトルを、上述のWICLS法により基準バックグラウンドSBスペクトルにあてはめることによって生成される(ステップ179)。周波数νiにおける基準バックグラウンドSBペアの強度値をSi及びSiで表すと、計画行列は、周波数範囲νからνNにわたり、


として定式化される。周波数範囲νからνNにわたるサンプル単一ビームスペクトルの対応する値は、入力行ベクトルAとして用いられる(式2参照)。上述のように、現在の適用では値ν=650cm−1及びνN=1100cm−1が用いられている。式12〜17に記述されたWICLS手順を適用する結果、二つの推定値X*及びX*が得られ、推定バックグラウンドSBスペクトルSBiBは、


によって与えられる。
【0055】
図17におけるステップ171により、バックグラウンド温度(TB)の最終的な推定値が究極的にシステムによって行われる。行ベクトルAが、図19に示されているようなサンプルSBスペクトルよりもむしろ推定バックグラウンドSBスペクトルSBiB(式22)に等しく設定された場合以外は、初期バックグラウンド温度TBを決定する上述の方法(式12〜20)が用いられる。バックグラウンド温度(TB)の最終的な推定値(図18のステップ180)は、式20に類似した式23、


によって与えられる。一旦推定バックグラウンドSBスペクトルSBiBが決定されると、式1を用いて、業界で周知なようにサンプルSB吸収スペクトルSBiSが計算される(図18のステップ181)。
【0056】
一旦このサンプル吸収スペクトルが得られると、本発明においては、個別の化合物に対するどのスペクトルが吸収スペクトルに存在しているかを同定するプロセスが始まる。システムは第一に、サンプルスペクトルに表されていると思われる化合物の集合を初期的に同定する様々な方法を用いる。そして、システムは第二の方法を利用して、第一のサーチで同定された化合物が基準スペクトル中に実際に表されているか否かを、高まった確実性で決定する。
【0057】
化合物の初期同定
サンプルスペクトルに表されていると思われる化合物を初期同定する際に本発明が用いる一つの方法は、サンプルスペクトルを様々な化合物に対して既知の吸収スペクトルと比較することである。多くの化合物の吸収スペクトルは既知であり、例えばニューハンプシャー州セイラム市のサーモギャラクティックのような情報源より入手可能である。上述したように、サーモギャラクティックによって与えられるスペクトル情報は、標準のディスクファイルに「SPC」フォーマットと称するサーモギャラクティックによって開発されたフォーマットでまとめられている。計画行列Dの構築は上述と同様である。
【0058】
化合物を単数又は複数の既知スペクトル(以降「基準スペクトル」と称する)に関連づけるデータベースを用いて、本発明のシステムは基準スペクトルをサンプル吸収スペクトルとCLS比較を行い、基準化学物質がサンプル吸収スペクトルで表されている可能性に関して決定を行う。図22には、本発明がかかる比較を行う一つの方法が示されている。ステップ196において、システムはサーチ化合物を定義するが、これがデータベース内の第一化合物となる。一旦サーチ化合物が同定されると、その化合物に関連づけられる分析範囲が次に同定される。この分析範囲は、化合物が吸収を示すIR周波数に基づいて定義される。例えば、図23aには、二つの非隣接の赤外線周波数の集合から成る分析範囲を有する仮想化合物Bの分析範囲が示されている。化合物Bの分析範囲は周波数区分B1(810〜850cm−1)及びB2(880〜900cm−1)から成る。検討中の化合物はただ一つなので、計画行列(R1及びR2)に含まれる分析範囲は、これら二つの非隣接の周波数の集合から成る。しかし、それらの化合物のどちらかの分析範囲がR1又はR2のどちらかにオーバーラップする場合、計画行列はまた、HO又はCOに対する列も含む。例えば、HOの分析範囲が1300〜850cm−1であれば、Dの一つの列は二つの周波数範囲R1及びR2に対するHO基準スペクトル値から成る。同様に、COの分析範囲が650〜750cm−1であれば、上述の化合物Bに対する計画行列はCOに対応する列を含まない。留意すべき重要なことであるが、分析にHO又はCOを含むことは分析(すなわち計画行列の行)に用いられる分析範囲に影響を与えることはないが、計画行列の列の数のみには影響を与える。
【0059】
いくつかの分析範囲は、データベースに含まれる少なくとも一つの基準スペクトルを有する各化合物に関連づけられ、これらの分析範囲もまた、データベースに格納される。大抵の場合、分析範囲は、化合物が吸収を示す場合及びバックグラウンドスペクトルが好ましい赤外線強度を示す場合の両方であるような隣接したIR周波数の部分集合に限定される。適切な周波数の部分集合を選択したものには、さらに、データベースに含まれた他の化合物が吸収を示す周波数の集合も含まれる。これらの他の化合物のうち、HO及びCOは最も重要である。というのは外気中に遍在するからである。しかし、いくつかの他の種類の化合物もまた、特に興味あることもある。それらは、興味あるサンプルに存在する可能性がある化合物か、又は特に強い吸収特性を有する化合物か、又は特に広い吸収パターンを有する化合物である。また、適切な分析範囲を選択したものには、各化合物のスペクトル吸収パターンの強度及び特異性が含まれる。さらに、二つ以上の分析範囲に関連づけられるそれらの化合物に対しては、分析範囲には、その化合物に関連づけられている他の範囲を区別する「ランク」が割り当てられ、これらのランクもまたデータベースに格納される。スペクトルサーチ及びCLS分析は、調整可能な最大ランクの下のランクを備えたすべての分析範囲を含むように調整される。この操作によって、スペクトルサーチ及びCLS分析において要求に応じ、化合物に対する付加的なスペクトルデータを用いることが可能となる。かかる調整は、実験室試験及び現地適用の両方の場合のスペクトルサーチ結果及び/又はCLS分析の質に合わせて行われる。
【0060】
図24には、エタノール化合物に対して可能な選択及びランクづけのプロセスが示されている。エタノールの吸収度パターンである下方の曲線に示されているように、800〜1300cm−1の間に領域1〜領域3と記された3つの識別可能な吸収帯がある。これらの境界間でバックグラウンド強度が変化しているが比較的一定である。対照的に、バックグラウンドスペクトルでの急峻なHO吸収特性が、スペクトルのより高い波数部分でより激しくなるのが分かる。これらの要因の組み合わせによって、水が存在する場合、領域2はエタノールに対する最良な分析結果を与え、領域1が最悪の結果を与えることが示されている。これによって「ランク1」指定が領域2に与えられ、「ランク2」指定が領域3に与えられ、及び「ランク3」指定が領域1に与えられる。好ましい実施例においては、ルーチンは計画行列のランク1の領域のみを用いるように設定される。しかし、分析ルーチンはまた、ランク1及び2の両方の領域を含むように調整されてもよいし、又はこの化合物に対してすべてのランク(1、2、及び3)を含むようにさえ調整されてもよい。さらに、当業者であれば、あらゆる化合物が潜在的にどんな範囲数をも有し、各々がどんなランクにも割り当てられることもわかる。したがって、本発明は、上に示されるような3つのランクで各ランクに1つの領域の例に限られるものではない。
【0061】
システムは再びCLS比較を利用するので、CLS手順に対する計画行列Dは、図22のステップ197にあるように定義される必要がある。計画行列の少なくとも一つの列は選択された化合物に対する基準スペクトル(及び複数の基準スペクトルが選択された場合は複数の列)を表す。計画行列の行は、サーチ化合物の分析範囲におけるその赤外線周波数のみを含むだけである。このCLS分析はWICLS分析ではないので、ステップ198にあるように、重み行列は単位行列に等しく設定される(PI)。パラメータ推定値X、残差V、二乗誤差Vの和、及び周辺標準偏差Δはサーチ化合物に対して、上述のように式8〜11と関連して計算される(ステップ199)。これらの値を求める目的は、それらによってパラメータX*jに対するCLS決定の品質の指標である「品質指標(Quality Index)」Qjを与えるためである。ステップ200よりサンプル吸収度ベクトルAを用いれば、Qjは、


のように定義される。U及びΘは以下で定義されるが、本発明においては特定の値以下に収まる関連品質指標Qjを伴うCLS値X*jは「未決定」と称されるということさえ当面は理解しておけばよい。Qj値は異なるCLS適用に対して変化し、この値よりも小さければ化合物は未決定とみなされる。本発明の好ましい実施例の一つでは90よりも小さいQjはX*jの未決定値とみなされる。この判断は図22のステップ201に表されており、90よりも大きいQJは正(「決定」)の結果としてみなされ(ステップ202)、小さいQJは負(「未決定」)の結果としてみなされる。最終的に、このサーチの結果はステップ204で報告される。したがって、この上述の方法は、本明細書では「CLSサーチ」と称し、サンプル吸収スペクトルで表され得る化合物をサーチ及び同定するための一つの手順の例を与える。
【0062】
本発明が化合物の初期同定を行う際に用いるもう一つの方法は、ニューハンプシャー州セイラム市のサーモギャラクティックによって開発された方法である。この方法(ギャラクティックサーチ)は本発明で利用されるが、ギャラクティックサーチ自体は本発明の対象ではない。ギャラクティックサーチ法(図25参照)は、サンプルスペクトルと比較されている化学物質に対する分析範囲を定義する(ステップ227)ことから始まる(ステップ226)。図22の方法のように、ギャラクティックサーチは、様々な化合物の所定の範囲にわたって吸収特性を関係づけるデータベースを利用する。システムは、化合物がIRエネルギーを吸収する周波数範囲に吸収特性を相関させる。この「分析範囲」はサーチされている化合物に対応する。一旦分析範囲が決定されると、ギャラクティックサーチはサーチ決定を行う際にいくつかの異なるアルゴリズムを用いる。このサーチと、図22に関連して上述されたサーチとの重要な違いは、ギャラクティックサーチはCO又はHOを表すどんなデータも含まないということである。図25のステップ229に示されているように、ギャラクティックサーチには、相関、第一微分、ユークリッド距離、及び第一微分ユークリッド距離に基づく種類のサーチが含まれる。
【0063】
初期的にはギャラクティックサーチは、上でリストアップした具体的なサーチ種類の一つでサーチを始めるように設定されている(ステップ228)。サーチは、サンプルスペクトルに対する各基準スペクトルの相関強度順にデータベース内のすべての基準スペクトルのリストを生成する(ステップ230)。選択された化合物の基準スペクトルがランクづけで第一であり、第一と第二のランクづけの間でNパーセントの分離(separation)があれば(ステップ231)、選択された化合物は信頼性のある結果を有するとみなされ、その化合物に関連づけられる信頼性指標に1が加えられる(ステップ232)。分離の程度Nは異なる実施例に対して変化し得る。一例として、分離Nは、ある実施例では0パーセントであり、別の実施例では25パーセントであり、また正確な結果を与えると思われる他のどんなパーセント数もあり得る。そしてこの方法は、上述の5つのサーチ種類の各々に対して繰り返され、ステップ5の条件が満たされると信頼性指標は(最大可能値4まで)増加される。その後、この方法はギャラクティックサーチデータベース内の各化合物に対して繰り返される(ステップ233)。ギャラクティックサーチの究極的な出力は、少なくとも1という信頼性指標を有する各化合物のリストであり、化合物信頼性指標の値である(ステップ234)。
【0064】
CLSサーチ、ギャラクティックサーチ、及びウィザードサーチを用いることによって、本発明は、サンプル吸収度スペクトルに表されている化合物の初期的な又は仮のリストを生成する。「ウィザードサーチ」とは、上述の化学物質特性ウィザード、施設ウィザード、又は鉄道車両ウィザードが存在し得る複合体のことである。そして、本発明は、この化合物の初期リストを新規な方法で処理し、どの化合物がサンプル吸収度スペクトルに表されている可能性が最も高いかを、初期リストからより大きな確実性で決定する。図26には、このプロセスの第一ステップ(241)がどのようにして、これら3つのサーチリスト(242a〜242c)全般にわたる化学物質の対応に基づいた第一リスト及び第二リストを生成するかが示されている。3つのサーチリストは以下、CLSサーチリストに対しては{C}、ギャラクティックサーチリストに対しては{G}、及びウィザードサーチリストに対しては{W}の記号表示によって表すこととする。
【0065】
第一リスト{P}は、リスト{C}で同定されるすべての化合物、及びそれに加えてリスト{W}及び{G}の両方に見いだされるすべての化合物を備える。集合記号で表現すると、{P}イコール


となる。集合{S}はすべての和集合


内の{P}の補集合である。すなわち、{S}はリスト{C}、{W}、又は{G}のいずれかに見いだされるどれかの化合物を表し、まだ{P}にはリストアップされていない。リスト{P}は吸収度スペクトルに表されている可能性が最も高い化合物である一方で、{S}の化合物リストはサンプルに存在する可能性はより少ないとみなされるが分光分析的な注意を要する。次に、ステップ243において、システムはCLS分析範囲R、計画行列D、及び{P}からのサンプル入力ベクトルAを定義する。分析範囲Rは、{P}のすべての化合物に対する分析範囲の和集合であり、図23bに示されているように、図23aの関連で上述された方法と同様の方法で決定される。一例として、リスト{P}が(各々周波数範囲A1、A2、及びB1、B2から成る)2つの化合物A及びBのみを有する場合、分析範囲Rはいずれかの化合物が吸収度を示すそれらのIR周波数となる。前述のように、化合物HO及びCOもまた、それらの分析範囲が、{P}で定義されるそれらのIR周波数とオーバーラップする程度まで分析に含まれるが、そうでなければその周波数範囲はRを定義する際に用いられることはない。ベクトルAの構成要素は、分析範囲Rにわたるサンプル吸収度の値である。Dの列は、基準スペクトルARijに対する値、及び同じ周波数範囲にわたる波数νi並びにνiから成る。したがって、計画行列は、


のように表される。当然のことであるが、行列Dの各列(最も右の2列は除く)は、分析範囲νiからνNまでにわたるリスト{P}の化合物に対する基準スペクトルARを表す。
【0066】
図26の次のステップ(ステップ244)は、リスト{P}の化合物について「調整済みCLS」分析を行うことである。図27には、調整済みCLS分析を行う際にとられるステップが示されている。サンプルベクトルA及び計画行列Dはすぐ上で述べたように定義される(ステップ276)。ステップ277においては、重み行列P(式5及び6参照)は単位行列Iに設定される(したがってこの形式のCLS分析を「重みなし」形式とする)。次にステップ278によって、パラメータ推定値X*j、残差V、二乗誤差Vの和、及び周辺標準偏差Δ*jの計算が要求される(式7〜11参照)。また、システムは光学的深さΘ*jS及び不確定性U*jSを以下の関係を用いて計算する。


ここで、
ΘjR=(純粋な)第j番目の化合物の単一基準スペクトルの光学的深さ(ppm−m値)
TjR=ARijが記録された際の絶対温度(ケルビン)
pjR=ARijが記録された際の絶対圧力(気圧)
TS=ASiが記録された際の絶対温度(ケルビン)
pS=ASiが記録された際の絶対圧力(気圧)
である。同様にして、Θ*jSにおけるMSD(1σの不確定性)はU*jSによって表され、


によって与えられる。そして、ステップ279は、サンプルスペクトルに対して計算された光学的深さΘ*jSと対応する基準スペクトルに対する所定の光学的深さΘjRとを比較する。光学的深さは重要なパラメータである。というのはその値は、サンプルとされているガスを通過する光学的行路の長さと組み合わされて化合物の濃度の推定値を与えるからである。多くの化合物では、赤外線スペクトルのデータベースには、異なった光学的深さ、すなわち異なった濃度、で記録された複数の基準スペクトルが含まれる。かかる化合物に対しては、最も正確で利用可能なCLS結果は、サンプルガスに見いだされる光学的深さに最も近い光学的深さを有する化合物の特定の基準スペクトルに基づいた結果となる。この特定のスペクトルは、初期計画行列Dの計算のために選択された基準スペクトルと必ずしも同じとは限らない。
【0067】
この潜在的な誤差源を明らかにするために、ステップ280において以下の分析が実行される。当然ながら、各化合物に対しては現行のCLS結果Θ*jSは3つのカテゴリー:a)Θ*jSがその化合物に対して最も低い光学的深さを有する基準スペクトルよりも下にあるか、b)Θ*jSがその基準スペクトルの二つの光学的深さの間にあるか、c)Θ*jSが最も高い光学的深さを有する基準スペクトルよりも上にあるか、の一つに収まらなければならない。結果が(a)の場合であれば、問題の化合物に対する現行のCLS結果は整合して(consistent)おり、それ以上の操作は不要である。結果が(b)の場合であれば、特定の化合物(j)に対して、その化合物の異なる光学的深さの異なる基準スペクトルからの値で対応する計画行列の列を置換した後にCLS分析を繰り返す必要がある。ΘjRLOW<Θ*jSΘjRHIGHであれば、以下のパラメータが定義される。


一般的には、CLS結果は、値β及びγの何らかの適切な数学的比較に応じて整合するように定義され得る。この定義は化合物特有であってよいし、付加的な反復制約を要求してもよい。例えば、値β及びγの特定の許容可能な範囲が予め決定されて(例えば0.5β5及び0.5γ5)、これがCLS結果が整合しているか否かを判断するために用いられることもあり得る。
【0068】
代替的な実施例においては、結果は現行の基準スペクトルが光学的深さΘjRHIGHを有していない場合に不整合(inconsistent)であるように定義されて、全体的な手順で要求される反復数とは関係なくどんな化合物に対しても基準スペクトルの変更は1回しか許容されない。図27の手順は、この実施例を用いている。これは一例を用いれば最もわかり易い。ある特定の化合物の分析に対して、光学的深さが(各々)D1=100ppm−m、D2=250ppm−m、及びD3=500ppm−mである3つの基準スペクトルS1、S2、及びS3が利用可能であると仮定する。そして、現行CLS分析がスペクトルS3を用いて、結果Θ*jS=200ppm−mを返すと仮定する。この結果はD1とD2との間に収まり、ΘjRLOW=D1=100ppm−m及びΘjRHIGH=D2=250ppm−mとなる。上で与えられた基準を用いると、これは不整合な結果となる。というのは、結果はD1とD2との間に収まり、これらの光学的深さに関連づけられた基準スペクトル(S1又はS2)の一つが、現行のCLS分析で用いられている基準スペクトル(D3=500ppm−mのS3)よりも信頼性のある結果を与える可能性があるからである。図27のステップ4はこの機能を実行し、前の結果がすでに調整されたか否かもチェックする。否定的であれば、計画行列は更新されて(現行のS3よりもむしろ)S2からの値を含むようになり、分析は繰り返される(ステップ281)。しかし、前のCLS分析において、この化合物に対する結果が不整合であるという理由により計画行列が既に調整済みの場合は、現行CLS分析によって与えられた結果が不整合であっても、さらに更新されることはない。この操作は、コンピュータプログラムが無限論理ループに入り込むのを許可する可能性を回避するために必要である。
【0069】
結果が(c)の場合であれば、現行のCLS結果は整合するが、その結果は実際のサンプルの光学的深さを過小評価している可能性があるとして警告される。最終的には、ステップ282はその後さらに、当りの(hit)品質指標Qjを決定することによって計算を実行する(式26)。
【0070】
図26に戻り、ステップ3の調整済みCLS分析が完了すると、最も大きな興味がある結果はppm−メートル推定値Θ*jS及びそれに関連づけられた(新しい)品質指標Qjである。いくつか選択された値よりも小さい(好ましい実施形態においては代表的には90近くの)Qjを有するすべての化合物は「未決定」とみなされる。未決定の結果があると、ステップ248は未決定の結果を有する化学物質をリスト{P}から取り除き、それらの化合物をリスト{S}のトップに加える。ステップ245は新しい短縮されたリスト{P}を用いて、CLS分析範囲R、計画行列D、及びサンプル入力ベクトルAをステップ243と同様の方法で再定義する。そしてステップ244及び247の反復プロセスは{P}のすべての化合物に対する結果が決定されるまで続けられる。
【0071】
もはや未決定の結果がなくなると、ステップ246はリスト{S}のトップにある第一化合物{S}を最新のリスト{P}に加え、{S}を{S}から取り除く。新しいリスト{P}を用いて、CLS分析範囲R、計画行列D、及びサンプル入力ベクトルAがステップ249で再定義され、新しいリスト{P}についてのもう一つの調整済みCLS分析がステップ250で実行される。最も新しく加えられた{S}化合物がステップ252で決定されると、ステップ251は次の{S}をリスト{P}に加え({S}を{S}から取り除き)、ステップ249が繰り返される。ステップ252において{S}化合物が未決定であれば、ステップ254は{S}が空集合か否かを決定する。そうでなければ、ステップ253は{S}を両方のリスト{P}及び{S}から取り除き、リスト{S}の次のトップ化合物{S}をリスト{P}に加える。このプロセスは{S}がステップ254において空集合であるとわかるまで続けられる。
【0072】
システムがどの化合物をサンプルスペクトルに表れているものとして同定するかに関して最終的な決定が成される前に、いずれかの化合物がIR放出体となっているか否かに関して決定される。ステップ269がいずれかの推定値X*jが<0であるか否かを質問する。すべてのCLS結果(及び関連づけられたppm−メートル推定値Θ*jS)が零又は正であれば、分析の最後のステップは濃度推定値Cj及びΓjを以下の説明の通り計算する。負の推定値X*jがあればステップ255〜265が実行されて、これらの疑わしい放出体が擬似的なものか否か、すなわちその化合物がIR放射を放出しているという実際の証拠がサンプルにあるか否か、を決定する。ステップ255は{P}の部分集合がX>0であるかのように{R}を定義し、{P}の部分集合がX<0であるかのように{N}を定義する。集合{R}は、{P}の最終CLS分析がサンプルの赤外線吸収体として示したそれらの化合物を含み、{N}は赤外線放出体として示したそれらの化合物を含む。ステップ256は新しい計画行列Dを、{R}から範囲の再定義をせずに(すなわちステップ249の最終反復で見いだされた最終範囲を用いて)定義する。したがって、行列Dの列はサンプルの赤外線吸収体として示されたそれらの化合物にのみ対応するが、スペクトル範囲は、ステップ241〜254で上手く決定されたCLS結果を有すると見いだされたすべての化合物に対応する。ステップ257は{R}について調整済みCLSを上述と同じ方法で行う。未決定の結果があれば、ステップ258は未決定化合物を取り除き、ステップ256〜259が未決定結果がなくなるまで繰り返される。その後、ステップ260は集合{N}の化学物質に対する残差Vをサーチする。赤外線放出体として示された化合物(ステップ269参照)が実際にサンプルにそのように存在すれば、残差行列Vはその証拠を含むはずであり、よって残差はステップ1に先行したスペクトルサーチ(すなわちギャラクティックサーチ及びCLSサーチ)を受ける。
【0073】
ステップ261は、集合{N}のいずれかの化学物質が見いだされたか否かを決定する。「はい」であれば、残差スペクトルは、データベースには含まれるが残差生成に用いられたCLS分析からは除外された少なくとも一つの化合物の認識可能なパターンを含む。かかる認識可能パターンの存在は、分析に含まれていない少なくとも一つの吸収又は放出化合物がサンプルに存在する可能性があることを示す。この場合、集合{P}を用いたステップ241〜254の結果は、利用可能な最高の結果であり、ステップ266はステップ254の時点で同定された集合{P}に対する結果に戻る。ステップ261のサーチが集合{N}からのいずれの化合物の存在も示さなければ、ステップ241〜254の否定的な結果はすべて擬似的であるとみなされる。現行の化合物の集合{R}は正確であるとみなされるが、現行の分析範囲は減少される必要があり、よって方法はステップ262〜265へ進む。ステップ262においては、計画行列Dは{R}の化合物及び{R}の化合物の範囲を用いて再定義される。そして調整済みCLSが、この再定義済みの範囲を用いて行われる。ステップ265において未決定結果があれば、未決定結果を有する化合物がステップ263で取り除かれ、プロセスはステップ262へ戻る。未決定結果がなければ、現行の結果が最終とみなされ、ステップ267へ進む。
【0074】
化合物同定プロセスの最終ステップとして、本発明は各化合物に対する濃度Cj、及びその濃度測定に関連づけられた不確定性Σjを決定する。これらの値は式、


及び


から計算することができる。式29及び30の量FTは、温度差ΔT=TA−TBに伴うエチレンの観測された吸収度の変化を表す修正係数である。図28は、この作業でFTを定義するために用いられた、測定された変化及び3次多項式回帰を示す。サンプル吸収行路長さLsが既知でなければならないことが分かる。一般にLsは、ユーザーによって推定され、図13のステップ127に関連して述べた初期測定時にシステムに入力される(ステップ268)。
【0075】
図29は、本発明のソフトウェアによって行われる所定の付加的機能を示す。ルーチンの一部は、ガラスのサンプルボトル又は「セル」に含まれるガスの分光計の読みを取得することを含む。セルのガスサンプルの読みを取得することは、業界で周知の手順である。しかし、ステップ300〜305、及び314〜316を含むいくつかのステップは、ガスセルが利用されているか否かに関わらず実行される。ステップ300はルーチンを開始し、それをユーザーのために同定する。ステップ301はユーザーに、ユーザーが分光計でどんな化合物が同定されるかを知っているか否かを質問する。これにより、どんな化合物(特に毒性のある又はそうでなくても危険な化合物)が放出されている可能性があるのかに関する事前情報をもってユーザーが化学物質放出現場に到着した状況が考慮される。ユーザーはすぐに、疑わしい化学物質を同定できるようにいくつかの異なる方向の分光計の読みを取得したいと思うだろう。このため、ステップ302はユーザーが既知の又は疑わしい化学物質を、タッチスクリーン11(図4)上のデータベース内のすべての化合物の、303に示されているアルファベット順のリストによって選択するための質問をする。一旦既知の化合物が選択されると、ステップ302はその化合物の基準スペクトルをステップ305に返す。既知の又は疑わしい化合物を選択する背後にある原則は、スペクトル同定プロセスを上手く同定するということである。同定ソフトウェアがスペクトルの読みを一つの特定の基準スペクトルと比較するだけであれば、その特定の化合物の存在を確認することはかなり迅速に成され得る。ユーザーはスペクトルの読みを(詳しくは図13に述べられるように)ステップ314で取得し、バックグラウンドSB及び吸収度のスペクトルをステップ315で生成し(図18参照)、そしてステップ316において、図22のCLSサーチに分岐する。CLSサーチを行った後、結果は図26に示されるルーチンに送られる。リスト242a〜242dは複数のスペクトルを与えるが、リスト242a〜242cには一つの基準スペクトルしかない。この基準スペクトルは(遍在する化合物HO及びCOの基準スペクトルと共に)図26を参照に上述されるように処理される。この決定の出力はユーザーに、既知の化合物が分光計で検知されたか否かを知らせる。
【0076】
ステップ305に戻ると、ユーザーが、ユーザーがガスセルを利用(すなわち、セルにガスのサンプルを捕えた後に、セル内のガスをスペクトル分析)したいと決定すれば、プログラムはステップ306に進み、ガスセルがパージされて(すなわち、例えば窒素のような不活性ガスを用いて洗い流されて)前の使用の残りがすべて取り除かれているか否かについて尋ねる。「いいえ」であれば、ユーザーはガスセルをパージするように指示され、又は分光計がこの機能が自動的に行われるように付加的なハードウェアを適切に備えていれば、分光計はそのようにする。ガスセルがパージされている場合、ソフトウェアはバックグラウンドスペクトルが現行のものであるか否かを質問する。当然のことながら、ガスセルのサンプルのスペクトルの読みが取得されている場合は、所定の既知のバックグラウンド放射源が利用される。これが可能となるのは、ガスサンプルが分光計とユーザーが選択した放射源との間のどんな距離においても容易に配置され得るガスセル内に含まれるためである。明らかなことだが、これは図18を参照に上述された遠隔源に基づいてバックグラウンドを推定する際に用いられるルーチンと同じではない。バックグラウンドが現行のものであれば(すなわち、バックグラウンドが取得された条件が変更されていなければ)、プログラムはステップ310に移行する。バックグラウンドが現行のものでなければ、新しいバックグラウンドSBスペクトルが取得される。代表的には、これはセルを例えば窒素のような不活性ガスで満たすこと、及びセルが放射源の前部に配置された際に取得されるスペクトルを記録することを伴う。ステップ310はガスサンプルがセルにあるか否かを質問する。「いいえ」であれば、プログラムがユーザーにガスサンプルを導入するように指示し、又は分光計が適切な外部ハードウェアに備えつけられていれば、プログラムは自動的にガスセルのバルブを開けて周囲空気のサンプルがセルの中に引き込まれる。そして、ステップ312及び313はセル内のガスのスペクトルの読みを取得し、セル内のガスに関連づけられた単一ビームスペクトル(図13参照)及び吸収スペクトル(式1参照)を生成する。その後、プログラムは上述のようにステップ316において図22及び26のルーチンに分岐する。当然のことながら、ステップ306〜313は一般的には業界で周知であり、それ自体でひとりでに本発明の一部を形成するわけではない。
【0077】
前述の開示は具体的な実施例の点から発明を説明してきたが、当業者ならば本発明の範囲内に収まる多くの変更例が分かるだろう。例えば、異なる「ウィザード」ルーチンが化学物質のスペクトル同定に関連して用いられるように説明されているが、ウィザードは、未知化合物の有用な予備的同定を与えるために単独で(すなわちスペクトル構成要素を含まずに)用いられてもよい。かかる変更例及び変化形はすべて以下の請求項の範囲内に入るように意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】分光計、化合物雲、及びバックグラウンド温度源の概念図である。
【図2】インターフェログラムを取得しそれを吸収スペクトルに変換するための従来技術の信号処理ステップを比喩的に示す図である。
【図3】本発明に係る3つの異なるスペクトル曲線を表す図である。
【図4】本発明のシステムのための概念的なハードウェアダイアグラムである。
【図5】本発明の化学物質特性ウィザードのためのフローチャートである。
【図6】本発明の化学物質特性データベースの略図である。
【図7】本発明の施設ウィザードのためのフローチャートである。
【図8】本発明で利用される容器シルエットの例である。
【図9】本発明で利用されるNFPAプラカード選択ルーチンからのスクリーンショットである。
【図10】本発明の鉄道車両ウィザードのフローチャートである。
【図11】本発明で利用されるDOTプラカード選択ルーチンのスクリーンショットである。
【図12】本発明で使用されるタンク車両シルエット選択ルーチンのスクリーンショットである。
【図13】スペクトルの読みを取得するステップを示すフローチャートである。
【図14】分光計の位置調整を行うステップを示すフローチャートである。
【図15】初期バックグラウンド温度の推定を行うステップを示すフローチャートである。
【図16】重み相互作用CLSを行うステップを示すフローチャートである。
【図17】最終バックグラウンド温度の推定を行うステップを示すフローチャートである。
【図18】バックグラウンド及び吸収度スペクトルの生成を行うステップを示すフローチャートである。
【図19】一連の黒体温度曲線を示す図である。
【図20】二つの黒体温度曲線への放物線のあてはめを示す図である。
【図21】黒体温度に対する放物線頂点位置の曲線を示す図である。
【図22】本発明のCLSサーチにおけるステップを示すフローチャートである。
【図23】分析範囲表示である。
【図24】分析範囲の選択及びランクづけのための基礎を示す図である。
【図25】ギャラクティックスペクトルサーチにおけるステップを示すフローチャートである。
【図26】他の化学物質同定スペクトルサーチにおけるステップを示すフローチャートである。
【図26(cont.)】他の化学物質同定スペクトルサーチにおけるステップを示すフローチャートの続きである。
【図27】調整済みCLS手順におけるステップを示すフローチャートである。
【図28】温度差除算係数(contrast division factors)対温度差を示す曲線である。
【図29】本発明によって用いられるサンプル取得ルーチンにおけるステップを示すフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルスペクトルが記録されるバックグラウンド物体の温度を決定する方法であって、
a.放物線中心周波数とバックグラウンド温度との間の所定の関係を与え、前記放物線中心周波数が既知の温度の基準バックグラウンドの単一ビームスペクトルであるステップと、
b.未知の温度のバックグラウンドで記録されたサンプルスペクトルを与えるステップと、
c.前記サンプルスペクトルの最適な当てはめ放物線を決定するステップと、
d.前記最適な当てはめ放物線のサンプル放物線中心周波数を決定するステップと、
e.前記サンプル放物線中心周波数を、前記中心周波数とバックグラウンド温度との所定の関係と比較するステップと、
f.前記比較に基づいて前記バックグラウンド温度を推定するステップとを有する方法。
【請求項2】
前記最適なあてはめ放物線を決定するステップは、古典的最小二乗分析を用いるステップをさらに有する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記古典的最小二乗法を用いるステップは、重み反復古典的最小二乗分析を用いるステップをさらに有する請求項2に記載の方法。
【請求項4】
重み反復は、二乗誤差の和の端数変化が所定の端数よりも小さくなるまで続く請求項2に記載の方法。
【請求項5】
スペクトル分析で用いられるバックグラウンドスペクトルを生成する方法であって、
a.バックグラウンド物体のサンプルスペクトル及び推定温度を与えるステップと、
b.既知のバックグラウンド温度に関連づけられた既知の温度スペクトルの集合から、前記推定温度の上及び下のバックグラウンド温度を表す少なくとも二つの既知の温度スペクトルを選択するステップと、
c.前記サンプルスペクトルを前記既知の温度スペクトルと比較してサンプルバックグラウンドスペクトルを決定するステップとを有する方法。
【請求項6】
前記サンプルスペクトルを前記既知の温度スペクトルと比較する前記ステップは、古典的最小二乗分析を用いるステップをさらに有する請求項5に記載の方法。
【請求項7】
温度補償吸収度スペクトルを生成する方法であって、
a.バックグラウンド物体のサンプルスペクトル及び推定温度温度を与えるステップと、
b.既知のバックグラウンド温度に関連づけられた既知の温度スペクトルの集合から、前記推定温度の上及び下のバックグラウンド温度を表す少なくとも二つの既知の温度スペクトルを選択するステップと、
c.前記サンプルスペクトルを前記既知の温度スペクトルと比較してサンプルバックグラウンドスペクトルを決定するステップと、
d.前記サンプルスペクトル及び前記バックグラウンドスペクトルから吸収度スペクトルを計算するステップとを有する方法。
【請求項8】
前記吸収度スペクトルを少なくとも一つの化学物質基準スペクトルと比較して前記吸収度スペクトルに表される化学物質を同定するステップをさらに有する請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記比較するステップは、前記化学物質を同定するためにCO及びHOのスペクトルを用いることをさらに含む請求項8に記載の方法。
【請求項10】
吸収度スペクトルで表される化学物質を同定する方法であって、
a.サンプル吸収度スペクトルを与えるステップと、
b.前記吸収度スペクトルをCO並びにHOのスペクトル及び少なくとも一つの化学物質基準スペクトルと比較して、前記吸収度スペクトルで表される化学物質を同定するステップとを有する方法。
【請求項11】
前記CO、HO、の分析周波数範囲、及び化学物質基準スペクトルが前記吸収度スペクトルと比較される請求項10に記載の方法。
【請求項12】
複数の化学物質基準スペクトルが前記吸収度スペクトルと比較される請求項11に記載の方法。
【請求項13】
古典的最小二乗分析が前記CO、HO、及び前記化学物質の基準スペクトルを前記吸収度スペクトルと比較するために用いられる請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記複数の化学物質基準スペクトルは化学物質基準スペクトルの第一集合を備え、前記化学物質スペクトルの第一集合は複数の化学物質スペクトル同定方法から形成される請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記複数の化学物質基準スペクトルは化学物質基準スペクトルの第一集合を備え、前記化学物質基準スペクトルと前記吸収度スペクトルとの前記比較は、
a.前記化学物質基準スペクトルの第一集合を前記吸収度スペクトルと比較するステップと、
b.前記比較において前記基準スペクトルのいずれかに対する未決定の結果があるか否かを決定するステップと、
c.前記比較において未決定結果が実際に存在すれば前記第一集合において未決定の結果を有する前記基準スペクトルを取り除くステップと、
d.前記化学物質基準スペクトルの第一集合を前記吸収度スペクトルともう一度比較するステップと、
e.ステップb〜dを未決定の結果がなくなるまで繰り返すステップとを含む請求項12に記載の方法。
【請求項16】
ステップ(e)の後で、さらに新しい基準スペクトルを化学物質基準スペクトルの第二集合から取得して前記新しい基準スペクトルを前記第一集合に加える請求項15に記載の方法。
【請求項17】
ステップb〜dを、未決定の結果が前記第一集合になくなるまで繰り返す請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記第二集合から前記第一集合へ新しい基準スペクトルを移動させる前記ステップを、前記第二集合が空集合になるまで繰り返す請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記比較が古典的最小二乗分析を備える請求項17に記載の方法。
【請求項20】
基準スペクトルに関連付けられた負の倍率の値すべてが残差集合を形成する請求項19に記載の方法。
【請求項21】
観測可能な性質を用いた化合物同定のためのコンピュータシステムであって、
a.所定の性質及び特性を複数の化合物に関連づける化学物質データベースと、
b.観測可能な性質の入力を受け入れるユーザーインターフェイスと、
c.前記観測可能な性質に対応する前記データベース内の化合物を同定するように前記プロセッサに命令を与えるソフトウェア上で動作するプロセッサとを備えるコンピュータシステム。
【請求項22】
前記観測可能な性質は色及び臭いを含む請求項21に記載のコンピュータシステム。
【請求項23】
前記観測可能な性質は蒸気密度及び分子量を含む請求項22に記載のコンピュータシステム。
【請求項24】
化合物が観測される位置に基づいて化合物を同定するためのコンピュータシステムであって、
a.少なくとも一つの化合物を、前記化合物の指定マップ位置に関連づける化学物質/位置データベースと、
b.前記システムにシステム位置を入力するための位置入力と、
c.前記システム位置に対応する前記データベース内の化合物を同定するように前記プロセッサに命令を与えるソフトウェア上で動作するプロセッサとを備えるコンピュータシステム。
【請求項25】
前記位置入力は全地球測位システムによって与えられる請求項24に記載のコンピュータシステム。
【請求項26】
前記データベース内の指定マップ位置は住所フォーマットである請求項24に記載のコンピュータシステム。
【請求項27】
前記システム位置は経度/緯度フォーマットである請求項26に記載のコンピュータシステム。
【請求項28】
前記システムは、所定の前記システム位置の半径内にある、前記データベース内の化合物すべてを同定する請求項24に記載のコンピュータシステム。
【請求項29】
前記システムは、前記システム位置に最も近い指定マップ位置に関連づけられた一つ以上の化合物を同定する請求項24に記載のコンピュータシステム。
【請求項30】
前記化学物質/位置データベースはティアー1及び2を源とする情報を含む請求項24に記載のコンピュータシステム。
【請求項31】
前記システムは所定の容器形状を化合物の集合に関連づける容器データベース及びユーザーインターフェイスをさらに含み、前記ユーザーインターフェイスはユーザーによって選択された容器形状を表示する請求項24に記載のコンピュータシステム。
【請求項32】
前記システムは所定のプラカードを化合物の集合に関連づけるプラカードデータベース及びユーザーインターフェイスをさらに含み、前記ユーザーインターフェイスはユーザーによって選択されたプラカード情報を表示する請求項24に記載のコンピュータシステム。
【請求項33】
化合物を遠隔同定するためのシステムであって、
a.パッシブ赤外線分光計と、
b.位置同定器と、
c.距離計と、
d.ユーザーインターフェイスと、
e.化学物質基準スペクトルを表すデータ、観測可能な特性を所定化合物に関連づけるデータ、及び位置を所定化合物に関連づけるデータを含むデータベースと、
e.前記分光計、前記位置同定器、前記距離計、前記ユーザーインターフェイス、及び前記データベースと通信を行うコンピュータプロセッサと、
f.前記分光計、前記位置同定器、及び前記距離計からのデータを前記データベースと比較して一つ以上の化合物の存在可能性及び潜在的濃度を同定するソフトウェアとを備えるシステム。
【請求項34】
前記コンピュータプロセッサと通信する気象観測器及びコンパスをさらに含む請求項33に記載のシステム。
【請求項35】
前記ユーザーインターフェイスはタッチスクリーンを含む請求項34に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図26(cont.)】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【公表番号】特表2006−507478(P2006−507478A)
【公表日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−515699(P2004−515699)
【出願日】平成15年5月22日(2003.5.22)
【国際出願番号】PCT/US2003/016157
【国際公開番号】WO2004/001374
【国際公開日】平成15年12月31日(2003.12.31)
【出願人】(504428991)ファースト レスポンダー システムズ アンド テクノロジー,エル エル シー (1)
【Fターム(参考)】