説明

遠隔操作用ヤットコ

【課題】 硬くて円形断面を有する被把持物を含めた種々の被把持物を遠隔操作により確実に把持できる架線工事用の遠隔操作用ヤットコを提供する。
【解決手段】 固定把持部2の中間部11に、凹状把持面20を有するサブ把持体21を、可動把持部3側に向けて進出する進出位置と、後退する後退位置との2位置のいずれかに設定できるよう進退動可能に取付け、前記サブ把持体21を前記後退位置に設定したとき、被把持物40bを固定把持部2の先端把持面4と可動把持部3の先端把持面5との間に把持でき、前記サブ把持体21を前記進出位置に設定したとき、被把持物40bを可動把持部3の中間部13とサブ把持体21の凹状把持面20との間に把持できるように構成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は主として架線工事に用いる遠隔操作用ヤットコに関するものである。
【背景技術】
【0002】
架線工事において、電線、スリーブ、検電器、補修カバーなどを遠隔操作で把持しうる工具として、遠隔操作用ヤットコが用いられている(特許文献1参照)。
【0003】
そして従来の遠隔操作用ヤットコは、図5に示すように、遠隔操作棒1の先端部に固定把持部2と可動把持部3とを備え、可動把持部を遠隔操作により回転させることによって、固定把持部2の先端把持面4と可動把持部3の先端把持面5との間で被把持物を把持するように構成されている。
【特許文献1】特開2003−170364号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の遠隔操作用ヤットコは、固定把持部の先端把持面と可動把持部の先端把持面との間に被把持物を把持する構成となっているため、軟らかい被覆部を有する被覆電線や、把持するために都合の良い平面部を有する検電器、補修カバーなどの把持には適しており、落下事故などを起こさず、確実にこれらの被把持物を把持して架線工事などを行うことができる。
【0005】
しかし、従来の遠隔操作用ヤットコは、その把持面が平面で、比較的小面積であるため、硬くて円形断面を有する電線の芯線部やスリーブを確実安定に把持することが困難で、架線工事などの作業中に落下事故を起こす危険性が大であるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記課題を解決するため、遠隔操作棒の先端に固定把持部と可動把持部とを備え、固定把持部の先端把持面と可動把持部の先端把持面との間隔が、遠隔操作により可動把持部を回動させることによって変化する遠隔操作用ヤットコにおいて、固定把持部の中間部に、凹状把持面を有するサブ把持体を、可動把持部側に向けて進出する進出位置と、後退する後退位置との2位置のいずれかに設定できるよう進退動可能に取付け、前記サブ把持体を前記後退位置に設定したとき、被把持物を固定把持部の先端把持面と可動把持部の先端把持面との間に把持でき、前記サブ把持体を前記進出位置に設定したとき、被把持物を可動把持部の中間部とサブ把持体の凹状把持面との間に把持できるように構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、サブ把持体を後退位置に設定したときは、従来の遠隔操作用ヤットコと同様に固定把持部の先端把持面と可動把持部の先端把持面との間に、被覆電線、検電器、補修カバーなどを把持でき、サブ把持体が邪魔にならず、固定把持部と可動把持部が含まれる空間の全体を利用して、比較的大型の被把持物を、屈曲等の変形を与えることなく把持することができる。他方、サブ把持体を進出位置に設定したときは、固定把持部の中間部とサブ把持体の凹状把持面との間に、円形断面を有する被覆電線、特に硬くて円形断面を有する電線の芯線部やスリーブを、その移動を拘束した状態で、確実に把持することができる。そして、各種の被把持物のそれぞれの把持に適した状態に切り替える操作は、サブ把持体の進退動位置を切替える動作で行うことができるため、容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の実施例を図面を参照しながら説明する。
【0009】
本実施例の遠隔操作用ヤットコは、遠隔操作棒1の先端部に固定把持部2と可動把持部3とを備え、固定把持部2の先端把持面4と可動把持部3の先端把持面5との間隔が、遠隔操作により可動把持部3を回動させることにより変化するように構成されている。
【0010】
遠隔操作棒1は従来例と同一構成であるので、図5を参照して、簡単に説明する。遠隔操作棒1は主操作棒6と補助操作棒7とからなり、補助操作棒7の下端は主操作棒6に設けたハンドル8の従動片部8bにピン結合され、上端は可動把持部3の延長部14にピン結合されている。ハンドル8は操作レバー部8a、ワンウェイクラッチ(図示省略)、従動片部8b、ワンウェイロック解除レバー(図示省略)等を備え、操作レバー部8aを往復回動させることにより、従動片部8bを下方に一方向回動させ、補助操作棒7を下方に移動させることができる。またワンウェイロック解除レバーの操作により、ワンウェイクラッチをフリーな状態として、操作レバー部8aを上方に復帰回動させ、補助操作棒7を瞬時に上方に復帰動させることができる。主操作棒6および補助操作棒7は、電気絶縁性を有するように構成され、活線状態下での遠隔作業の安全を図っている。
【0011】
前記固定把持部2は、図1〜図4に示すように、側面視略円弧状のアーム部9と基端の円筒部10とからなる金属製のもので、円筒部10は前記主操作棒6の上端に装着固定されている。前記アーム部9の先端部16はラジアル外方向側に突出する部分を有し、その内面側に滑り防止用の鋸歯状凹凸条を備えた平面の把持面4が形成されている。アーム部9の中間部11には、図1、図2に示す正面視矩形状の貫通口12が形成されている。
【0012】
前記可動把持部3は、図1〜図4に示すように、側面視略円弧状のアーム部13とその基端から延出する延長部14からなる金属製のもので、そのアーム部13の基端において、枢軸15により、固定把持部2のアーム部9の基端に回動可能に支持されている。前記アーム部13の先端部17はラジアル外方向側に突出する部分を有し、その内面側に滑り防止用の鋸歯状凹凸条を備えた平面の把持面5が形成されている。この把持面5は固定把持部2の把持面4と同一形状に形成され、両者は当接時に密着状態となる。アーム部13の中間部18および前記延長部14は、図2に示すように、その幅Wが前記貫通口12の幅より小に形成されている。なお前記延長部14および前記補助操作棒7の上端部55は前記貫通口12内を通過するように構成されている。前記延長部14と前記補助操作棒7の上端とは枢支ピン19により、ピン結合されている。なお、固定把持部2のアーム部9における中間部11は、特許請求の範囲で云う「固定把持部の中間部」に対応し、前記アーム部9の前記把持面4と前記枢軸15との間の部分を指称する。同様に可動把持部3のアーム部13における中間部18は、特許請求の範囲に云う「可動把持部の中間部」に対応し、前記アーム部13の内の前記把持面5と前記枢軸15との間の部分を指称する。
【0013】
前記固定把持部2の中間部11には、図1〜図4に示すように、凹状把持面20を有するサブ把持体21が、可動把持部3側に向けて進出する進出位置と、後退する後退位置との2つの位置のいずれかに設定できるように、進退動可能に取付けられている。
【0014】
サブ把持体21は、金属板を平面視コ字状に折曲形成してなるもので、左側板部22、右側板部23および両者を連絡する連絡板部24から構成されている。左右の側板部22、23の側面視外形状は同一に形成され、その可動把持部3側の辺りには、く字状にへこむ凹状把持面20、20が形成されている。前記凹状把持面20には、鋸歯状凹凸条が形成されている。左右の側板部22、23は、その下部において枢支ピン25、25により固定把持部2のアーム部9に回動自在に枢支されている。この枢支ピン25は、前記中間部11における前記枢軸15の近傍箇所に位置し、この枢支ピン25を中心として、サブ把持体21が、前記進出位置と後退位置との間で回動できるように構成している。
【0015】
右側板部23には、前記枢支ピン25を中心とした円弧となるガイド孔26が形成され、その両端にガイド孔26の幅長より大の直径を有する円形凹部27、28が形成されている。これら円形凹部27、28の中心と、前記ガイド孔26の両端の円形部中心とは同心位置になっている。固定把持部2には、前記ガイド孔26を貫通してこれによって案内されるネジ軸29が植設固定されている。そして、ネジ軸29の右側板部23より突出する部分に位置決めナット30が螺合されている。この位置決めナット30は、回転操作用の大径部31と、前記円形凹部27、28に嵌合する小径部32とからなっている。前記位置決めナット30を弛めて、前記小径部32を前記円形凹部27、28から離脱させると、サブ把持体21を上方に回動させて前記進出位置に位置決めした状態で、位置決めナット30を締め付けて、前記小径部32を下側の円形凹部28に嵌合させることにより、サブ把持体21を後退位置に固定することができる。
【0016】
図4は、サブ把持体21を前記後退位置に固定して使用する場合を示しており、これは図5に示す従来の遠隔操作用ヤットコと同様の使用状態を示している。前記遠隔操作棒1のハンドル8を操作して、補助操作棒7を下動させると、図に仮想線で示すように、可動把持部3は固定把持部2に接近するように回動し、これらの把持面5、4間に被把持物40aを把持することができる。その際サブ把持体21は、可動把持部3と固定把持部2とで囲まれる空間から、大略後退しているので、被把持物40aが大型のもの等であっても、把持動作の邪魔にはならない。そして図に示すように、被把持物40aが把持に適する平坦面を有するものであれば、これを確実に把持することができる。
【0017】
図3は、サブ把持体21を前記進出位置に固定して使用する場合を示している。前記遠隔操作棒1のハンドル8を操作して、補助操作棒7を下動させると、図に仮想線で示すように、可動操作部3は前進位置にあるサブ把持体21に接近するように回動し、可動把持部3の中間部18とサブ把持体21の1対の凹状把持面20、20との間に被把持物40bを把持することができる。被把持物40bとしては、硬くて円形断面を有する電線の芯線部やスリーブが適しており、また図3に仮想線で示すように直径の異なる各種円形断面の被把持物4bの把持に適用することができる。この使用例においては、例えば芯線の場合その長手方向中央部の一側面に可動把持部3の中間部18が当接し、その長手方向の両側部2箇所の他側面にサブ把持体21の1対の凹状把持面20、20が当接した状態で、芯線を狭圧把持するので、スリーブに曲げ力が作用するが、芯線はそれに耐える硬さを有するため、曲げ変形することなく、確実にこれを把持することができる。
【0018】
本発明は上記実施例に示す外、種々の態様に構成することができ、例えばサブ把持体を固定把持部に着脱可能に取付けることができる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は、硬くて円形断面を有する被把持物を含めた種々の被把持物を遠隔操作により確実に把持できる架線工事用の遠隔操作用ヤットコとして利用するのに適したものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施例の斜視図。
【図2】その正面図。
【図3】サブ把持体を進出位置に設定したときの側面図。
【図4】サブ把持体を後退位置に設定したときの側面図。
【図5】従来例の概略図。
【符号の説明】
【0021】
1 遠隔操作棒
2 固定把持部
3 可動把持部
4 固定把持部の先端把持面
5 可動把持部の先端把持面
11 固定把持部の中間部
13 可動把持部の中間部
20 凹状把持面
21 サブ把持体
40a、40b 被把持体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠隔操作棒の先端に固定把持部と可動把持部とを備え、固定把持部の先端把持面と可動把持部の先端把持面との間隔が、遠隔操作により可動把持部を回動させることによって変化する遠隔操作用ヤットコにおいて、
固定把持部の中間部に、凹状把持面を有するサブ把持体を、可動把持部側に向けて進出する進出位置と、後退する後退位置との2位置のいずれかに設定できるよう進退動可能に取付け、
前記サブ把持体を前記後退位置に設定したとき、被把持物を固定把持部の先端把持面と可動把持部の先端把持面との間に把持でき、前記サブ把持体を前記進出位置に設定したとき、被把持物を可動把持部の中間部とサブ把持体の凹状把持面との間に把持できるように構成した
ことを特徴とする遠隔操作用ヤットコ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−60755(P2009−60755A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−227786(P2007−227786)
【出願日】平成19年9月3日(2007.9.3)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【出願人】(591083772)株式会社永木精機 (65)
【Fターム(参考)】