説明

適応フィルタ

【課題】入力信号の振幅が大きく変化する場合であっても、適切にフィルタ係数の更新量を制御することが可能な適応フィルタを提供する。
【解決手段】
適応フィルタは、入力信号に対して設定されたフィルタ係数でフィルタ処理を施して出力信号として出力するフィルタと、出力信号の振幅と基準振幅との誤差を示す値を算出する算出部と、出力信号の振幅が所定振幅より大きい場合、第1定数をフィルタ係数を更新する際のパラメータとして出力し、出力信号の振幅が所定振幅より小さい場合、第2定数をパラメータとして出力する出力部と、誤差が小さくなるように、誤差を示す値及びパラメータに応じた更新量でフィルタ係数を更新する更新部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、適応フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
適応フィルタにおいて、フィルタ係数を最適値に収束させるまでの収束時間を短くするために、大きな値のステップサイズパラメータμが用いられることがある。しかしながら、ステップサイズパラメータμの値を必要以上に大きくすると、結果的にフィルタ係数の値は収束せず、最適値から大きくずれてしまうことがある。このため、フィルタ係数の値が収束するか否かと収束時間とのバランスを考慮して、ステップサイズパラメータμの値は決定される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−261528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えばCMA(Constant Modulus Algorithm)に基づいて動作する適応フィルタでは、フィルタ係数の更新量はステップサイズパラメータμだけでなく、例えば適応フィルタから出力される出力信号の振幅によっても変化する。そして、適応フィルタから出力される出力信号の振幅は、適応フィルタへの入力信号の振幅によって変化する。このため、適応フィルタへの入力信号の振幅が大きく変化する場合、適切にフィルタ係数の更新量を制御することが難しかった。
【0005】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、入力信号の振幅が大きく変化する場合であっても、適切にフィルタ係数の更新量を制御することができる適応フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一つの側面に係る適応フィルタは、入力信号に対して設定されたフィルタ係数でフィルタ処理を施して出力信号として出力するフィルタと、前記出力信号の振幅と基準振幅との誤差を示す値を算出する算出部と、前記出力信号の振幅が所定振幅より大きい場合、第1定数を前記フィルタ係数を更新する際のパラメータとして出力し、前記出力信号の振幅が前記所定振幅より小さい場合、第2定数を前記パラメータとして出力する出力部と、前記誤差が小さくなるように、前記誤差を示す値及び前記パラメータに応じた更新量で前記フィルタ係数を更新する更新部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
入力信号の振幅が大きく変化する場合であっても、適切にフィルタ係数の更新量を制御することが可能な適応フィルタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の第1の実施形態である適応フィルタ10の構成を示す図である。
【図2】FIRフィルタ20の構成を示す図である。
【図3】係数出力部23の構成を示す図である。
【図4】μ2がμ1より大きい場合のフィルタ係数W(n)の更新について説明するための図である。
【図5】μ1がμ2より大きい場合のフィルタ係数W(n)の更新について説明するための図である。
【図6】適応フィルタ10を等化器として用いたFMラジオ受信装置100の構成を示す図である。
【図7】マルチパスが発生した場合の適応フィルタ10(等化器)の動作を説明するための図である。
【図8】本発明の第2の実施形態である適応フィルタ15の構成を示す図である。
【図9】マルチパスが発生した場合の適応フィルタ15(等化器)の動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書および添付図面の記載により、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
【0010】
<<適応フィルタ10(第1の実施形態)について>>
図1は、本発明の第1の実施形態である適応フィルタ10の構成を示す図である。適応フィルタ10は、CMAに基づいて動作し、出力信号y(n)の振幅の大きさが目標となる基準振幅Aの大きさと一致するようにフィルタ係数を更新する。適応フィルタ10は、例えばDSP(Digital Signal Processor)に実現され、FIR(Finite Impulse Response)フィルタ20、レベル検出部21、誤差算出部22、変数出力部23、及び係数更新部24を含んで構成される。
【0011】
FIRフィルタ20は、図2に示すように、入力信号x(n)と、フィルタ係数W(n)(W=[w1,w2,・・・,wk])との畳み込み演算を行うフィルタであり、遅延器D1〜Dk、乗算器M1〜Mk、及び加算器30を含んで構成される。
【0012】
遅延器D1は、入力信号x(n)を1サンプリング時間だけ遅延させた信号x(n−1)を出力し、乗算器M1は、信号x(n−1)にフィルタ係数w1を乗算して出力する。なお、遅延器D2〜Dkは、遅延器D1と同様であり、乗算器M2〜Mkは、乗算器M1と同様である。
【0013】
加算器30は、乗算器M1〜Mkから出力される信号を加算し、出力信号y(n)として出力する。このため、出力信号y(n)は、以下の式(1)で表される。

レベル検出部21は、出力信号y(n)の振幅の大きさを示す値(例えば、|y(n)|)を算出する。
【0014】
誤差算出部22(算出部)は、出力信号y(n)の振幅と、基準振幅Aとの誤差を示す値を評価関数E(n)として算出する。具体的には、誤差算出部22は、式(2)に基づいて評価関数E(n)を算出する。

なお、本実施形態では、式(2)におけるp,qのそれぞれを“2”とする。
変数出力部23(出力部)は、出力信号y(n)の振幅に応じたステップサイズパラメータμ(n)を出力する。
【0015】
係数更新部24(更新部)は、評価関数E(n)、ステップサイズパラメータμ(n)に基づいて、フィルタ係数W(n)を更新する。具体的には、係数更新部24は、評価関数E(n)の値が最小となるように、例えば最急降下法のアルゴリズムに基づいてフィルタ係数Wを更新する。この際、係数更新部24は、例えば式(3)に基づいて、フィルタ係数W(n+1)を算出する。

ここで、式(3)に、p=2、q=2とした式(2)を代入すると、式(4)が得られる。

【0016】
なお、式(4)において、y(n)は、y(n)の共役複素数である。式(4)から明らかなように、フィルタ係数W(n)の更新量(W(n+1)−W(n))は、ステップサイズパラメータμ(n)が大きいほど大きくなる。また、前述のように、出力信号y(n)と入力信号x(n)との間には、式(1)の関係が成立する。したがって、仮に、ステップサイズパラメータμ(n)の値が一定であったとしても、例えば、入力信号x(n)の振幅が大きくなり、誤差を示す値(|y(n)|−A)が大きくなると、フィルタ係数の更新量も増加する。
【0017】
==変数出力部23の詳細==
ここで、変数出力部23の詳細について、図3を参照しつつ説明する。変数出力部23は、検出部40、タイマー41、記憶部42,43、及び選択部44を含んで構成される。なお、タイマー41、記憶部42,43、及び選択部44は、パラメータ出力部に相当する。
【0018】
検出部40は、出力信号y(n)の振幅の大きさを示す値|y(n)|に基づいて、出力信号y(n)の振幅が所定振幅B(>基準振幅A)より大きいか否かを検出する。
【0019】
タイマー41は、所定振幅Bより大きかった出力信号y(n)の振幅が小さくなり、所定振幅Bより小さくなったことを検出部40が検出してから所定時間TA経過したか否かを判定する。タイマー41は、カウント部50、及び判定部51を含んで構成される。
【0020】
カウント部50は、設定されたカウント値CNTを1サンプリング時間毎に更新(例えば、デクリメント)する。カウント部50は、カウント値記憶部60、選択部61、更新部62、加算器63、及び遅延器64を含んで構成される。
【0021】
カウント値記憶部60は、所定のカウント値C1を記憶する。選択部61は、出力信号y(n)の振幅が所定振幅Bより大きいことが検出されている場合、カウント値記憶部60に記憶されたカウント値C1を選択して加算器63に出力する。また、選択部61は、出力信号y(n)の振幅が所定振幅Bより小さいが検出されている場合、遅延器64に格納されたカウント値CNTを加算器63に出力する。
【0022】
更新部62及び加算器63は、1サンプリング時間毎に、選択部61から出力されるカウント値から“1”だけ減算(デクリメント)し、遅延器64に格納する。
【0023】
このため、カウント部50には、出力信号y(n)の振幅が所定振幅Bより大きいことが検出される度にカウント値CNTとしてカウント値C1−1(第1の所定値)が設定されることになる。
【0024】
判定部51は、カウント値CNTがカウント値C1−1からデクリメントされ、所定のカウント値C2(第2の所定値)となったか否かを判定する。なお、カウント値CNTが、カウント値C1−1から1ずつデクリメントされ、カウント値C2になるまでの時間は、前述の所定時間TAであることとする。
【0025】
記憶部42,43のそれぞれには、ステップサイズパラメータμ1,μ2が記憶されている。なお、ステップサイズパラメータμ1(第1定数)の値と、ステップサイズパラメータμ2(第2定数)の値との関係は後述する。
【0026】
選択部44は、カウント値CNTがカウント値C2より大きいカウント値C1より小さい場合、つまり、出力信号y(n)の振幅が小さくなり、出力信号y(n)の振幅が所定振幅Bより小さくなってから所定時間TAが経過するまではステップサイズパラメータμ1を選択して出力する。また、選択部44は、カウント値CNTがカウント値C2以下の場合、つまり、例えば出力信号y(n)の振幅が所定振幅Bより小さくなってから所定時間TAが経過すると、ステップサイズパラメータμ2を選択して出力する。また、本実施形態では、カウント値CNTの初期値はカウント値C2であることとする。このため、適応フィルタ10は起動されると、ステップサイズパラメータμ2が選択して出力される。
【0027】
==フィルタ係数W(n)の更新について(μ1<μ2の場合)==
ここで、通常用いられるステップサイズパラメータμ2の値がある程度大きく、かつ、ステップサイズパラメータμ1よりも大きい条件下で、入力信号x(n)の振幅が大きくなった際のフィルタ係数W(n)の更新量について説明する。
【0028】
なお、ここでは、便宜上、p=1、q=2とした際の評価関数E(n)を用いて説明する。また、p=1、q=2とした際の評価関数E(n)は、式(1)、(2)の関係から明らかなように、フィルタ係数W(n)の2次関数となる。このため、評価関数E(n)とフィルタ係数W(n)との関係は、例えば、図4に示すように、下に凸の2次曲線として表される。さらに図4においては、便宜所、原点を評価関数E(n)が最小となる点(最適点)としている。
【0029】
例えば、現在のフィルタ係数W(n)がA点で定まる係数である場合、つまり、A点が正の領域に存在する場合、式(3)から明らかなように、A点における評価関数E(n)の傾きは正である。したがって、フィルタ係数W(n)の更新量は負の値となり、フィルタ係数W(n)は、最適点(原点)に向かって更新されることになる。
【0030】
ここで、フィルタ係数W(n)がA点で定まる係数である際に、入力信号x(n)の振幅が所定振幅Bより大きくなると、前述のように、式(4)における誤差を示す値(|y(n)|−A)も大きくなる。この際に、仮にステップパラメータμ(n)として、値の大きいμ2(>μ1)が用いられ続けると更新量は大きくなり、フィルタ係数W(n+1)は、A点から原点を越えて例えばB点へと移動してしまうことがある。つまり、フィルタ係数W(n)は収束しにくくなる。
【0031】
しかしながら、ここでは、入力信号x(n)の振幅が所定振幅Bより大きくなると、ステップパラメータμ(n)として値の小さいμ1を用いている。このため、この場合には、必要以上に更新量が大きくなることが抑制される。したがって、図4に示すように、フィルタ係数W(n+1)は、例えばA点からC点へと移動することになり、フィルタ係数W(n+1)をより安定に最適点である原点に近づけることが可能となる。
【0032】
==フィルタ係数W(n)の更新について(μ1>μ2の場合)==
つぎに、通常用いられるステップサイズパラメータμ2の値がある程度小さく、かつ、ステップサイズパラメータμ1よりも小さい条件下で、入力信号x(n)の振幅が大きくなった際のフィルタ係数W(n)の更新量について説明する。
【0033】
フィルタ係数W(n)が、図5のX点で定まる係数である際に、入力信号x(n)の振幅が所定振幅Bより大きくなると、前述のように、誤差を示す値(|y(n)|−A)も大きくなる。ところで、仮にステップパラメータμ(n)として値の小さいμ2(<μ1)が用いられ続けると、更新量は小さいままである。このため、フィルタ係数W(n+1)は、X点から、例えばX点に近いY点までしか移動しないことがある。つまり、フィルタ係数W(n)の収束時間が非常に長くなってしまうことがある。
【0034】
しかしながら、ここでは、入力信号x(n)の振幅が所定振幅Bより大きくなると、ステップパラメータμ(n)として値の大きいμ1を用いている。このため、この場合には、更新量を大きくすることができる。したがって、図5に示すように、フィルタ係数W(n+1)は、例えばX点からZ点へと移動することになり、フィルタ係数W(n+1)をより速く最適点である原点に近づけることが可能となる。
なお、ここでは、便宜上、p=1、q=2とした際の評価関数E(n)を用いて説明したが、p=2、q=2とした場合も同様である。
【0035】
<<<適応フィルタ10の適用例について>>>
図6は、図1の適応フィルタ10を等化器として適用したFMラジオ受信機100の構成を示す図である。
FMラジオ受信機100は、適応フィルタ10、チューナ110、ADコンバータ111、IFフィルタ112、及びFM復調器113を含んで構成される。
【0036】
チューナ110は、アンテナを介して受信される放送信号から中間周波数のIF(Intermediate Frequency)信号を生成する。
【0037】
ADコンバータ(ADC:Analog Digital Converter)111は、IF信号をデジタル化し、IFフィルタ112は、ADコンバータ111から出力される信号から所望の周波数帯域の信号(チャネル)を選択して出力する。
【0038】
適応フィルタ10は、IFフィルタ111から出力される信号(以下、入力信号X(n)とする)を等化して出力する。具体的には、適応フィルタ10は、出力信号y(n)の振幅が一定となるようにフィルタ係数W(n)を更新する。FM復調器113は、出力信号y(n)を復調してスピーカで再生する。
【0039】
==マルチパスが発生した場合の適応フィルタ10の動作==
図7を参照しつつ、マルチパスが例えば時刻t0から時刻t4くらい(例えば、時刻t4〜t5の間)まで発生した場合の適応フィルタ10の動作について説明する。なお、図7の縦軸は、出力信号y(n)の振幅の大きさを示す値|y(n)|であり、横軸は時間である。なお、ここでは、ステップサイズパラメータμ1の値は、通常用いられるステップサイズパラメータμ2の値よりも小さいこととする。
【0040】
例えば、時刻t0にマルチパスが発生すると、本来一定であるはずのIF信号の振幅は変動する。このため、IF信号の振幅の変動に伴い入力信号X(n)及び出力信号y(n)の振幅も変動する。
【0041】
そして、時刻t1に出力信号y(n)の振幅が、所定振幅Bより大きくなると、ステップサイズパラメータμ1(<μ2)が出力される。このため、入力信号X(n)の振幅は大きくなった場合であっても、フィルタ係数W(n)の更新量の変化は抑制される。
【0042】
時刻t2となると、出力信号y(n)の振幅が所定振幅Bより小さくなるが、時刻t2から所定時間TA経過する前の時刻t3において、再び出力信号y(n)の振幅が所定振幅Bより大きくなる。このため、値の小さいステップサイズパラメータμ1が出力され続ける。
【0043】
その後、マルチパスの影響が小さくなり、時刻t4に出力信号y(n)の振幅が所定振幅Bより小さくなり、時刻t4から所定時間TAだけ経過した時刻t5となると、値の大きいステップサイズパラメータμ2が出力される。
【0044】
この結果、適応フィルタ10は、マルチパスが発生している期間であっても安定にフィルタ係数W(n)を更新することができる。また、適応フィルタ10は、出力信号y(n)の振幅が一定となるようにフィルタ係数W(n)を更新するため、マルチパスの影響は抑制される。
【0045】
<<適応フィルタ15(第2の実施形態)について>>
図8は、本発明の第2の実施形態である適応フィルタ15の構成を示す図である。適応フィルタ15を、図1の適応フィルタ10と比較すると、変数出力部25以外の構成は同じである。
【0046】
変数出力部25(出力部)は、誤差を示す値を評価関数E(n)の値に基づいて、出力信号y(n)の振幅に応じたステップサイズパラメータμ(n)を出力する。変数出力部25では、例えば、図3に示すように、変数出力部23の検出部40の代わりに検出部80を用いている。なお、変数出力部25と、変数出力部23とを比較すると、図3において括弧で示した符号の付された検出部80以外の構成は同じである。
【0047】
検出部80は、評価関数E(n)の値に基づいて、出力信号y(n)の振幅が所定振幅Bより大きいか否かを検出する。具体的には、検出部80は、評価関数E(n)の値が、出力信号y(n)の振幅が所定振幅Bとなる際の所定値Cより大きいか否かを検出する。
【0048】
なお、変数出力部25における検出部80以外の構成は、変数出力部23の構成と同様であるため、選択部44は、出力信号y(n)の振幅が所定振幅Bより小さくなってから所定時間TAが経過するまではステップサイズパラメータμ1を選択して出力する。また、選択部44は、例えば出力信号y(n)の振幅が所定振幅Bより小さくなってから所定時間TAが経過すると、ステップサイズパラメータμ2を選択して出力する。
【0049】
==適応フィルタ15の動作==
図9は、適応フィルタ15を等化器としてFMラジオ受信機100に用いた際に、適応フィルタ15の動作を説明するための図である。ここでは、マルチパスが例えば時刻t10から時刻t12くらい(例えば、時刻t12〜t13の間)まで発生していることとする。また、図9の縦軸は、評価関数E(n)の値(誤差を示す値)であり、横軸は時間である。なお、ここでは、ステップサイズパラメータμ1の値は、通常用いられるステップサイズパラメータμ2の値よりも小さいこととする。
【0050】
例えば、時刻t10にマルチパスが発生すると、入力信号X(n)の振幅は大きく変動する。そして、時刻t11に評価関数E(n)の値が所定値Cより大きくなると、ステップサイズパラメータμ1(<μ2)が出力される。このため、入力信号X(n)の振幅は大きくなった場合であっても、フィルタ係数W(n)の更新量の変化は抑制される。
【0051】
時刻t11から時刻t12においては、評価関数E(n)の値は変動するものの、評価関数E(n)の値が所定値Cより小さくなってから所定時間TAだけ経過することがない。したがって、この間、値の小さいステップサイズパラメータμ1が出力され続ける。そして、例えばマルチパスの影響が小さくなり、評価関数E(n)の値が所定値Cより小さくなる時刻t12から所定時間TAだけ経過した時刻t13となると、値の大きいステップサイズパラメータμ2が出力される。
【0052】
この結果、適応フィルタ15は、マルチパスが発生している期間であっても安定にフィルタ係数W(n)を更新することができる。さらに、適応フィルタ15は、出力信号y(n)の振幅が一定となるようにフィルタ係数W(n)を更新するため、マルチパスの影響は抑制される。
【0053】
以上、本実施形態の適応フィルタ10,15について説明した。適応フィルタ10では、入力信号X(n)の振幅が小さく出力信号y(n)の振幅も小さい場合にはステップサイズパラメータμ2が出力され、入力信号X(n)の振幅が大きくなり、出力信号y(n)の振幅が大きくなると、ステップサイズパラメータμ1が出力される。このため、適応フィルタ10は、入力信号の振幅が大きく変化する場合であっても、適切にフィルタ係数W(n)の更新量を制御することができる。
【0054】
また、例えば、ステップサイズパラメータμ1の値をステップサイズパラメータμ2の値より小さくすることにより、安定にフィルタ係数W(n)を収束させることができる。
【0055】
また、出力信号y(n)の振幅が低下して所定振幅Bより小さくなった後すぐにステップサイズパラメータμ2を出力させると、出力信号y(n)の振幅が短時間で大きく変動する場合においてフィルタ係数W(n)の更新量が安定せず、収束しなくなることがある。本実施形態では、出力信号y(n)の振幅が所定振幅Bより小さくなってから所定時間TA経過した後にステップサイズパラメータμ2が出力される。このため、例えば、マルチパス等の影響により出力信号y(n)の振幅が短時間で大きく変動する場合であっても、安定にフィルタ係数W(n)を更新できる。
【0056】
また、所定時間TAは、カウント値C1,C2に基づいて定まるため、容易に所定時間TAを変更することができる。
【0057】
また、適応フィルタ15では、誤差を示す評価関数E(n)の値に基づいて、ステップサイズパラメータμ(n)の値を変化させている。このような場合であっても、適切にフィルタ係数W(n)の更新量を制御することができる。
【0058】
なお、上記実施例は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物も含まれる。
【0059】
本実施形態では、フィルタ係数W(n)を更新するアルゴリズムとして、最急降下法を用いたが、マルカート法(非線形2乗最小化アルゴリズム)等他のアルゴリズムでも良い。
【0060】
また、評価関数E(n)におけるp、qの値はともに2であることとしたが、他の値(例えば、p=2、q=1)であっても良い。
【符号の説明】
【0061】
10,15 適応フィルタ
20 FIRフィルタ
21 レベル検出部
22 誤差算出部
23,25 変数出力部
24 係数更新部
30,63 加算器
40,80 検出部
41 タイマー
42,43 記憶部
44,61 選択部
50 カウント部
51 判定部
60 カウント値記憶部
62 更新部
64,D1〜Dk 遅延器
100 FM受信装置
110 チューナ
111 ADコンバータ
112 IFフィルタ
113 FM復調器
M1〜Mk 乗算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号に対して設定されたフィルタ係数でフィルタ処理を施して出力信号として出力するフィルタと、
前記出力信号の振幅と基準振幅との誤差を示す値を算出する算出部と、
前記出力信号の振幅が所定振幅より大きい場合、第1定数を前記フィルタ係数を更新する際のパラメータとして出力し、前記出力信号の振幅が前記所定振幅より小さい場合、第2定数を前記パラメータとして出力する出力部と、
前記誤差が小さくなるように、前記誤差を示す値及び前記パラメータに応じた更新量で前記フィルタ係数を更新する更新部と、
を備えることを特徴とする適応フィルタ。
【請求項2】
請求項1に記載の適応フィルタであって、
前記第1定数の値は、前記第2定数の値より小さいこと、
を特徴とする適応フィルタ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の適応フィルタであって、
前記出力部は、
前記出力信号の振幅及び前記所定振幅の大小を検出する検出部と、
前記検出部の検出結果に基づいて、前記出力信号の振幅が前記所定振幅より小さくなってから所定時間が経過するまでは前記第1定数を前記パラメータとして出力し、前記出力信号の振幅が前記所定振幅より小さくなってから前記所定時間が経過すると前記第2定数を前記パラメータとして出力するパラメータ出力部と、
を含むことを特徴とする適応フィルタ。
【請求項4】
請求項3に記載の適応フィルタであって、
前記パラメータ出力部は、
前記第1及び第2定数を記憶する記憶部と、
所定の時間間隔でカウント値を更新するとともに、前記出力信号の振幅が前記所定振幅より大きいことを示す検出結果が前記検出部より出力される度に、前記カウント値として第1の所定値が設定されるカウント部と、
前記カウント部の前記カウント値が前記第1の所定値となってから第2の所定値となるまでの前記所定時間は前記第1定数を選択して出力し、前記カウント部の前記カウント値が前記第2の所定値となると前記第2定数を選択して出力する選択部と、
を含むことを特徴とする適応フィルタ。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の適応フィルタであって、
前記出力部は、
前記誤差を示す値と、前記出力信号の振幅が所定振幅となる際の所定値との大小を検出する検出部と、
前記検出部が前記誤差を示す値が前記所定値より大きいことを検出すると、前記第1定数を前記パラメータとして出力し、前記検出部が前記誤差を示す値が前記所定値より小さいことを検出すると、前記第2定数を前記パラメータとして出力するパラメータ出力部と、
を特徴とする適応フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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