説明

遮水処理方法

【課題】 廃棄物等の処分場の仕切護岸を構築するに際して、あらかじめ遮水壁に欠陥が生じることを想定して、矢板に孔が形成されたとしても、地盤を通って外部にまで水が流れ出ないように遮水手段を設ける。
【解決手段】 埋立て処分場を区画する仕切護岸は、ケーソンによる護岸と矢板列による護岸15aとを組み合わせて構成し、前記矢板列での腐食等で漏水が発生した時に対処させて、空間部34の下部には、所定の厚さで海底地盤を覆うように遮水層を設けておく。また、矢板列に設けられているジョイント部に対して、不透水層として処理しておくことでも、矢板列での遮水性能を良好に発揮させ得るように維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物海面処分場等として構築する人工島を、矢板を列状に打設して外海と区画するための仕切護岸を構築するに際して、矢板の鋼板が腐食する等の理由で孔が形成されたとしても、その孔を通して仕切の内外の区域で水が流通しないようにする遮水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大量に廃棄物が排出される都市等では、その近傍の海域を仕切る手段を用いて、廃棄物を埋め立て処分するための処分場を構築することが行われている。前記処分場を区画するための仕切護岸としては、例えば、ケーソンを列状に構築して、そのケーソンの間に遮水処理することで、投棄・堆積している廃棄物に触れて汚染された水が、外海に流れ出すことがないように、封止する手段が用いられる。その他に、矢板を打設して構築する仕切壁を用いることや、前記ケーソンによる仕切壁に対して矢板列を組み合わせて、より遮水性を向上させた遮水壁として構築することも行われている。
【0003】
前記ケーソン列と矢板壁とを組み合わせて、信頼性を向上させた遮水壁を構築する例としては、例えば、特開平2004−204518号公報(特許文献1)等に示されるような例が知られている。前記従来例に開示されている仕切護岸では、防波堤としての性質を有するケーソンの列に対して、その内海側に矢板列を構築しているもので、前記2列に構築した遮水層により、処分場の内部を外海と区画できるようにしている。
【0004】
また、前記2列に構築した遮水壁において、外海側のケーソンによる護岸としては、一般的に知られているコンクリート製のケーソンの他に、ハイブリッドケーソンと呼ばれるケーソンを用いることがある。そして、前記海底地盤上に設けた基礎の上に立設したケーソンに対して、その各ケーソンの間には、ゴム製のシール材を挟むとともに、アスファルトマスチックのような遮水材を隙間に充填して、水が流れるような隙間が形成されないようにする処理が施されている。また、前記護岸として構築するケーソン列においても、護岸で囲まれた区域の内部に堆積させる廃棄物を、海水と遮断する遮水壁としての性質を、良好に発揮させるように設けている。
【0005】
前記ケーソンを立設して構築する遮水壁に加えて、その内海側に構築する矢板による遮水壁としては、任意の断面形状を有する鋼板製の矢板を、列状に立設させて構築しているものである。前記仕切護岸の一般的な構成としては、例えば、図1にしたがって後で説明する例と、ほぼ同様な構造を有するものを用いて説明することができる。なお、前記従来例として説明する仕切護岸の例においては、ケーソンを立設して構成する護岸と、そのケーソンにより区画された内側部分に、矢板を列状に立設した遮水壁を設けて、二重の遮水壁を用いた仕切護岸による仕切りにより、廃棄物堆積処分場を外海から区画することが可能に構成している。
【特許文献1】特開平2004−204518号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、前述したように、2重の遮水壁を所定の間隔を介して立設して、遮水層を構築したとしても、長い期間に亘って使用していると、遮水壁での遮水性に欠陥が発生することがある。例えば、矢板を列設した遮水壁では、その矢板を構成する鋼板が腐食して孔が生じることがあり、その壁に形成された孔から、海水が矢板の内部に設けられている空間に向けて入り込むという、重大な欠陥が発生することが想定されるものである。その他に、処分場に堆積されている廃棄物の種類によっては、鉄を浸蝕するような有害成分が発生することがあると考えられるもので、そのように鋼板を浸蝕するような環境では、遮水壁での問題を無視することができないことがある。そして、矢板本体の中に設けられている中空部分で、その板の一部に生じた孔から、中空な内部の空間に汚れた水が入り込み、地盤中の隙間を通って外海に流れ出す等の問題があった。
【0007】
また、前記仕切護岸を構築する海域の地盤が、不透水性の地層である場合には、その地層に矢板を打設して、矢板列による遮水壁を構築することが可能であり、遮水性を良好に維持できる。これに対して、海底地盤が透水性の地層である場合には、その地層の上に所定の厚さの遮水層を構築して、遮水壁と新たに構築した前記遮水層とより区画された処分場の内側の海域とを、外海に対して区画するような処理を行っている。しかしながら、透水性地盤の表面を、不透水性の物質で被覆することによりカバーしたとしても、その地盤に矢板を立設する際に、地盤を乱したりするという不都合な事態が発生することがあり、そのように地盤の遮水性質に欠陥が発生した時には、遮水壁の下部の地盤に生じた隙間を通って、処分場から汚染された水が流出するという問題の発生が想定される。
【0008】
本発明は、廃棄物海面埋め立て処分場を区画する仕切護岸で、矢板壁による遮水層の構築を容易に行い得て、海底地盤に打設して、海中に立設させて構築する遮水層の信頼性を向上させるとともに、遮水の性能を長期間に亘って確保可能とした、遮水処理層を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、廃棄物海面埋め立て処分場を区画する仕切護岸として、鋼製の矢板を列状に打設して遮水壁を構築するとともに、
前記矢板壁を構築する海底地盤が不透水性の地盤であるか、もしくは不透水性改良地盤として処理された地盤に施工する遮水処理層に関する。
請求項1の発明は、前記仕切護岸を構築するために、海底地盤に打設する矢板本体または矢板の接続部に形成される空間で、全体に遮水材を充満させずに設ける箇所に対して、前記空間内部の一部もしく所定の範囲に亘って遮水処理層を形成し、
前記鋼製矢板に孔等の欠陥が発生して、その孔から前記各空間部に入った水が、仕切護岸により仕切られた区域外に浸透する状態となった時においても、
前記空間部から地盤を通って水の流出を防止する作用を、前記遮水処理層により維持させることを特徴とする。
【0010】
請求項2の発明は、前記矢板壁として用いる矢板本体が有する空間に対して、全体に遮水材を充満させた遮水処理層を構築して設け、
前記鋼製矢板に孔等の欠陥が発生して、その孔から前記各空間部に入った水が、仕切護岸により仕切られた区域外に浸透することを、前記遮水処理層により防止可能とすることを特徴とする。
【0011】
請求項3の発明は、前記仕切護岸として矢板を列状に打設する矢板壁において、隣接させて順次立設する矢板間での接続部が、周囲が閉じられて上のみが開放された空間として構成し、
前記矢板の接続部の空間には遮水材を充満させて、前記矢板の接続部での遮水性を維持可能としたことを特徴とする。
【0012】
請求項4の発明は、前記仕切護岸に用いる矢板が、海陸方向の両側に平行に位置させる長い側板の両端部にジョイント部材を各々設け、前記側板の間を接続する2枚の板材を組み合わせて、中央部に四周が閉じられた空間を有するものとして構成し、前記矢板の空間の内部には、海底地盤の不透水性地層のレベルに対応する厚さ、または、任意の厚さの遮水材の層を構築し、前記矢板が有する空間に、水が侵入する状態が発生したとしても、前記矢板の内部空間に充満させた遮水材の層により、矢板壁自体の遮水性を維持可能としたことを特徴とする
【0013】
請求項5の発明は、前記矢板壁を構成する矢板として、両側に位置させた鋼板の間に複数枚の接続板を位置させて、周囲が閉じられて上部または任意の一部に、開口を有する四周が閉じられた空間を有する変形H形矢板を用い、
前記変形H形矢板の両端部には、一般的なH形矢板と同様なジョイント部材を設けて、 前記矢板の接続部に対しては、高さ方向の全体に遮水材を充満させ、
前記各矢板の空間部の下部に対して、所定の厚さの遮水処理層を設けることを特徴とする。
【0014】
請求項6の発明は、前記矢板壁を構成する矢板として、角型または円筒形の周囲が閉じられて、その上部または任意の一部に開口を有するボックス状の空間を有する矢板本体を用い、
前記矢板本体に取付けたジョイント部材を用いて接続することにより、列状の遮水壁として構築可能とするもので、
前記矢板本体の両側に設けて、隣接させた矢板との接続部に対して、その仕切られた接続部としての空間の全体に遮水材を充満させ、
矢板本体の中に形成されているボックス状の空間部に対しては、その下部の部分または空間の一部を覆うように、遮水処理層を設けることを特徴とする。
【0015】
請求項7の発明は、前記閉じられた空間を有する矢板本体の両側に形成する接続部を、複数のジョイント部材と、そのジョイント部材により周囲が閉じられた形状の空間とを有するもので構成し、
前記接続部内部の空間に遮水材を充満させて、遮水処理部とし、
前記遮水処理部とは別に設けられている矢板本体の閉じられた空間部では、その下部に所定の厚さの遮水処理層を設け、
前記空間内に形成した遮水処理層を、矢板を立設した海底地盤の不透水層と一体の遮水層として作用させることを特徴とする
【0016】
請求項8の発明は、ケーソンと矢板列、もしくは矢板列を組み合わせて構成する仕切護岸を、前記矢板列による護岸の支持地盤の一方の側または、内外側の双方の側の地盤の表面に遮水層を設けて、前記遮水層により所定の範囲に亘って地盤の表面を覆う処理を施して、既設の護岸として用いている状態で、前記既設の矢板列に平行に、矢板壁を新たに追加して立設する際に、前記地盤を覆う遮水材の層を貫通させる位置に、新たな矢板を立設して遮水壁を構築することを特徴とする。
【0017】
請求項9の発明は、前記追加して施工する矢板壁により、遮水性を発揮させる仕切護岸を追加して構築するに際しては、新たに構築する矢板の基部と、矢板本体の内部または接続部の内部に設けられている空隙に対して、所定の厚さで新たに遮水層を追加して構築することを特徴とする。
【0018】
請求項10の発明は、矢板本体の閉じられた空間部を遮水するために、前記空間部に注入して充満させる遮水材は、アスファルト系、土質系、コンクリート系、もしくはケミカル系と呼ばれる公知の材料を用い、
それ等の各種の遮水材を単独で、もしくは、複数の遮水材を用いて充満させる空隙の状態に合わせて組み合わせて使用することを特徴とする。
【0019】
前述したように構成したことにより、ケーソン等を立設して構築する第1の遮水工に組み合わせて、矢板列により構成する第2の遮水工に対して、その遮水工としての矢板列で欠陥が発生したときにも、あらかじめ形成している遮水のための補助的な手段により、自動的にその欠陥を補償することができる。また、前記矢板本体の内部に設けられている空隙部または、矢板の接続部に形成されている空隙部に対しては、その矢板を立設する作業に組み合わせて、比較的構造が簡単で施工が容易な追加遮水工を施して設けるのみで、漏水対策を容易に行うことができる。
【0020】
さらに、矢板列に対して、追加して矢板列を施工することで、最初に施工した矢板列での欠陥をカバーしようとする場合に、最初に遮水層を地盤上の所定の範囲に亘って施工しておくことで対処が可能となる。したがって、追加して施工する矢板壁では、単純に矢板を打設して壁を作ることで、地盤に対する新たなる工事を行うことを省略できて、容易に遮水壁の欠陥を修正することが可能となる。また、矢板壁を用いて構成する遮水壁においては、任意の断面形状の矢板を組み合わせて使用することが可能であり、その矢板間でのジョイント部もしくは接続部に対しても、必要に応じて追加の補助手段を設けることにより、ジョイント部での遮水作用を良好に設定することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図示される例にしたがって、本発明の遮水処理方法を説明する。以下に説明する実施例においては、図1に説明する仕切護岸1のように、廃棄物を投棄する埋立地9を、外海から区画するために、外海側を囲むように設けるケーソンの壁10と、その内側に構築する矢板壁15とを組み合わせて構築している。前記仕切護岸1を構築する区域の海底地盤2には、表面の泥の層や砂地の地盤を改良する処理を施して、不透水層としての性質を持たせた地盤4、4aとし、その上に捨石基礎5を構築して、ケーソンを列設したケーソン護岸を設けている。なお、前記石積基礎5を構築する海底地盤が軟弱地盤の場合には、地盤を補強する地盤改良工事を、従来より施工されていた遮水処理と同様に、任意の工法により施工して、構造物の重量に耐え得る強度を持った地盤とする。さらに、前記海底地盤が砂質等で、その地盤の透水性に問題がある場合には、不透水性の地盤とする地盤改良工事を行うことも、従来例と同様にされる。
【0022】
また、前記ケーソン護岸10の内海側には、所定の間隔をおいて矢板壁15を構築しており、任意の断面形状の矢板を海底地盤2に所定の深さまで打ち込み、隣接する矢板の間では、その両端部のジョイント部を用いて接続することにより、遮水性を有する壁として構成している。なお、前記捨石基礎5の上に立設するケーソンの壁では、ケーソンの下面にアスファルトマット14を敷設しておいて、前記滑動防止用のマットにより石の層の上で安定保持させている。そして、前記2重に立設した遮水壁により囲まれた部分の内側に設けた廃棄物処分場に、建築廃材やその他の不燃物を堆積させて、処分させるようにしている。また、前記図1に示す仕切護岸1の例において、矢板壁15の両面の部分には、砂等を充填した充填層8を設けているが、この充填層を貫通させて矢板を打設する等の作業を容易に行い得るようにすることや、後で、追加の工事を行う際に、その工事を容易に行い得るようにするための、補助的な層を設けたものとして考えることができる。
【0023】
前記ケーソン護岸10としては、従来の護岸と同様に、コンクリート製の箱型のケーソンを用いる他に、ハイブリッドケーソンと一般に呼ばれる種類のケーソンを用いることもある。前記ケーソンは、鉄の骨組みに鋼板を組み合わせて覆い、任意の大型の箱状のものを構成した上に、コンクリートで被覆するもので、造船所の船台が空いているときに、短期間に製造することができるという特徴を有するものである。そして、箱状のものとして構築したものを、予定した海域にまで移動させてから、内部に水を充満させる等の処理を行って沈没させた後で、中詰砂を充填して、予定した海域を区画するように1列状に並べることで、比較的短時間で、ケーソン護岸10を構築することが可能である。なお、前記ケーソン護岸10において、基礎5の上にケーソンを位置決めしてから、各ケーソン単体の接続部の隙間が形成されると考えられる部分に、アスファルトマスチック等を充満させて塞ぐような処理を行う等の遮水処理を各々施して、護岸10に対して遮水性を発揮させる。また、前記ケーソンの下面に配置するマット14と、不透水処理を行った地盤の表面層4a等を構築することで、遮水性を発揮できるように構成できる。
【0024】
前記矢板壁15に用いる矢板としては、例えば、以下に説明するように各種の矢板を用いることが可能であり、図2に示す矢板20の例は、鋼製箱型矢板を用いる場合で説明しているものである。前記矢板は鋼板を箱型のものとして組立てたものに対して、その箱の四つの角から箱の両側に向けて、それぞれ平行にフランジを突出させて設けている状態のものである。別の見方をすれば、従来公知のH形鋼に対して、そのウエブを2枚の所定の側の板の間に間隔をおいて取付け、それにより中央部に内部に箱型の構造体を設けた形状のものとして構成されるものである。
そして、前記箱型矢板20を組み合わせて、図2の矢板壁15として構築する時には、矢板の横板またはフランジ21、21aの両端部に、それぞれ設けているジョイント部24、24aを組み合わせるようにして、接続部23、23aを介して連接・立設することによって、1列状の矢板壁15として構築する。
【0025】
前記図2に説明する例のように、箱型矢板20……を組み合わせて構成する矢板壁15においては、接続板22と組み合わせた接続部23により接続した部分の内側部には、その空間に遮水材を充満させることにより、不透水処理層25としての機能を有する部分を構築する。
ところで、この例に示すような矢板を立設して、遮水壁を構成する場合にも、矢板の接続部23での隙間や、接続板22、フランジ21や接続部2を構成する本体の鋼板が、錆等で孔が貫通した状態で形成されたり、各溶接部分で孔が形成されることが考えられる。そして、そのような問題が生じた時には、十分に遮水性を維持できない状態となったりして、前記矢板壁に形成した不透水処理層と各部材との間に隙間が形成されてしまい、漏水が発生する恐れがある。このために、変形追随性と自己付着性のあるアスファルトマスチックのような材料を、不透水処理層25に充填して用いることで、信頼性の高い遮水性が得られる。なお、前記矢板の接続部の空間に充填する遮水材としては、前記アスファルトを主体とする遮水材料を、その流動性を適宜調節して用いることで、対象とする空隙部を容易に塞ぎ得るようにしている。
【0026】
また、前記アスファルトを主体として用いることの他に、粘土等の土を主原料とし、任意の混合物を混ぜて構成する土質系のもの、モルタルを主体とするコンクリート系の材料等を、その現場の条件に対応させて適宜用いることが可能である。その他に、前記遮水材としては、化学的な混合物(ケミカル系統のもの)を、粘土や他の化学的な手段により合成した化合物と混合して、固化状態や固化する時期を適宜調整したものを用いることが可能である。そして、それ等の遮水材は、それを施工する隙間の条件等に合わせてその流動性が調節されて、矢板護岸の縦の空隙部に注入して固化させ、遮水作用を発揮させる得るようにする。このような遮水材は、従来公知の遮水材を適宜選択して利用することが可能であり、従来公知の化学的な化合物A材とB材とを適宜比率で混合して、遮水性を発揮するタイミングと、固化に要する時間等を適宜調節可能としたものを用いても良い。
【0027】
前記箱型矢板20において、そのフランジとウエブとに囲まれた中央部の空間部、いわゆる箱型矢板の中央部に設けている箱(ボックス状の四周が閉じられた空間)の部分に対しては、通常は何の処理も施さずに、空間部26のままで用いている。ところが、前記中央の空間部26は、矢板を上下に貫通する空間部として形成されているものであることから、長い期間に亘って廃棄物と海水とにそれぞれ接している間に腐食されて、最悪の状態では、側板を貫通する孔が形成されてしまうことが考えられる。ところが、この空間部26はその矢板の下端部が、地盤2の中に入り込んでいるとしても、その空間に溜まった水が地盤を通って、処分場の外側に流れ出すことが考えられることから、できればそのような水が腐食された孔を経由して、流れ出すことを阻止することが求められる。
そこで、前述したような空間部26に対しても、前記不透水処理層25の場合と同様にして、水が流れることを阻止する対策を施しておく必要がある。
【0028】
前記箱型矢板を用いた遮水壁の他に、図3に示す矢板壁の例のように、箱型矢板の変形例においても、その矢板壁の中に垂直に設けられる各空間部に対しても、前記図2の場合と同様な処理を行うことが考えられる。この図3に示す矢板31、31aを組み合わせた遮水壁15aにおいて、厚みの大きい矢板部材31と、厚みの小さい矢板31aとを、互いの矢板の端部に突出させて設けたジョイント部材33、33aを組み合わせて、接続部32を形成している。前記厚みの大小の矢板を組み合わせて構成した矢板壁において、各矢板単位体の中央部に位置する空間に対しては、前記図2の空間部の例と同様に、空間の下部に所定の厚さで遮水層を構築して、海底地盤との間で水が流通しないようにして、遮水性を発揮させるような処理を行う。
【0029】
前記矢板の例において、矢板本体の中央部に設けている空間の両側で、平面視で略台形状の接続部空間に対しては、その空間全体に遮水材を充満させて、遮水性を維持させる充填部35を構築している。前記充填部35に充満させる遮水材は、前記図2の例と同様なものを用いるが、アスファルト系、土質系、コンクリート系、もしくはケミカル系と呼ばれる公知の材料を用いることができる。例えば、アスファルト系の遮水材としては、流動性を適宜調整したアスファルトを主成分とする材料を用いることが可能であり、一般的に海洋工事で使用されているものをそのまま使用できる。また、土質系の遮水材としては、粘土のようなものを主成分とし、コロイド状態を一定の期間維持させるような薬剤を適宜混入して、その流動性を確保できるものとして使用する。
【0030】
前記コンクリート系の遮水材は、単純にコンクリートやモルタルを用い、それを空間部に充満させるようにして遮水層を構築する。さらに、ケミカル系遮水材としては、砂や土に混合した接着剤成分が、所定の時間後に流動性を失って、遮水性を有する土の固りとなるようにするもの等を用いることができる。その他に、任意の化学成分を2種類、所定の比率で混合し、注入時には大きな流動性を有するが、所定の時間が経過すると流動性を失って、遮水性を発揮するようなものを用いることも可能であり、そのために使用する化学物質としては、従来公知の隙間充填材を用いることが可能である。
【0031】
前記矢板壁における漏水の問題は、図4において模式的に説明するような、矢板の各空間部に対する遮水手段を、図2の矢板の場合を例にして説明するようにして、対処させることが考えられる。まず、矢板を列状に打設して、ジョイント部を連接することにより接続部を設ける場合に、各矢板のジョイント部が位置している空間部・接続部25には、遮水材を充満させる処理を施すことにより、内部を水密に封止する状態となる。これに対して、従来の矢板壁では、大きな空間部が何等の処理も施されずに、そのまま残されている状態で維持され、その内部の空間部26の下部が地盤の中に打ち込まれた部分にまで、空間のままで残されていたものである。そこで、本実施例の各々では、前記地盤に打ち込まれた部分を含めて、内部を空間部のままで残した状態のままで置かずに、不透水処理層4の上の部分の、所定の高さの位置まで遮水材を打設して、処理部18を形成することにより、空間の下部を水密に塞ぐような処理を行っている。
【0032】
前述したようにして、矢板の内部でジョイント部に対応させて設けた充填部17に対して、従来は何の処理も施していなかった空間部を、その下部のみを限定して、処理部18として施工することで、次のような効果を期待することができる。つまり、鋼板により四周が囲まれた中空な空間部に対して、その周囲を囲む鋼板が腐食して孔が形成されたとしても、その孔から空間部の内部に入った水は、処理部に挿入されている遮水材により、地盤中に漏れることが阻止されて、空間の中に止まる状態で保持される。なお、前記図4の例は、後述する実施例の特定のものに限定して適用されるものではなく、その応用例を適宜適用可能なものとして、模式的に説明しているのである。
【0033】
つまり、前記図2と図4とを合わせて説明するに、図4に示されるように海底地盤上に所定の厚さの遮水層4を構築し、その遮水層を突き抜けさせるようにして、海底地盤2に矢板16を打設すると、その矢板20の中央部の空隙部26に対しては、孔のか部から地盤上に敷設した遮水材と、下部の土が入り込む状態となることが想定される。この矢板を立設する作業に際しては、打込み機のハンマーで打込む手段を用いる他に、溝を掘り下げるようにしてから、矢板を立設する手段を用いる等の、任意の従来公知の構築方法を用いることができるが、ここでは、ハンマーのような機械で打ち込む場合を想定する。矢板20を地盤に打ち込む状態では、前記地盤の上の部分の土等が、矢板の空隙部に入り込むことが多くなる。また、前述したように、矢板20を打込んだ時には、支持地盤が遮水性の地層であったり、遮水層として改良されていたとしても、その打ち込み時の衝撃により、水が入り込み得るような空隙が、地盤上に多く形成されると考えられる。
【0034】
そこで、前記図4に説明するように、矢板の接続部の空間25には、遮水材を充満させることで、接続部での遮水性は確保している。これに対して、矢板20の中間部に設けている空隙部26に対しては、図4に説明するように、遮水材を注入して遮水層18を構築して、乱されたて透水性を与えられた地層と遮水層とに対して、遮水層18により補償するような手段を講じている。前記矢板の中間部の空洞に対しては、全体に遮水材を充満させない状態でも、前記接続部を含む部分と同様に遮水性を良好に維持できるものとなる。つまり、前記遮水処理部18としての空間には、アスファルトマスチックのような、流動性の良好な遮水材を空間の上部の開口部から注入することで、空間の下端部と地盤との間に生じた隙間に、前記遮水材を入り込ませて塞ぐことができる。
【0035】
そして、前述したようにして、地盤と空隙とが連通しないような処理を行うことで、矢板の壁の鋼板に孔が形成されたような状態でも、その孔に入り込んだ水が、地盤の隙間を通って流れることがないように遮蔽・保護される。なお、前記空隙部26に対して、その高さ全体に遮水材を充満させると、より大きな効果を奏するものとなるが、その処理に関しては、遮水壁の構築コストにも大きな影響が与えられることにもなるので、費用対効果の点からも充填する高さまたは厚さが考慮される。
【0036】
(第2の実施例)
前述したように、基本的な矢板による遮水壁の例の他に、以下に説明するように、各種の矢板類を用いて遮水壁を構成する場合でも、次に説明するような接続手段を用いて矢板壁を構築し、その壁の中に設けられている空間に水が侵入することに対処させる。すなわち、矢板本体の空間部に侵入した水が、矢板を立設した地盤に向けて流れるようなことがないように、接続部またはすべての空間部で、水が流れるような隙間が生じることを防止して、空間部を水密に封止する作用を発揮させることができる。
【0037】
なお、以下に説明する実施例の各々においては、矢板本体の主要部は円筒形状の断面を有するものとして構成し、隣接させて打設する矢板との間では、各々の実施例に説明するように、各種の構成が異なる接続部材を配置して、矢板壁としての機能を良好に発揮し、維持できるようなものとして構成している。また、後述する各種の矢板類においては、その鋼板の厚さやジョイント部材の細かな構成の違いに関しては、特に規定するものではなく、実際に用いられている矢板に対して、適宜本技術をそのまま、または若干改良し適用できるようにされる。そして、以下に説明する矢板壁の例において、前記図1に示しているような矢板壁として適用が可能であって、その矢板による遮水壁が有する各種の空間を通って、海底地盤との間に水が流通することを阻止するという、本発明の求める機能を十分に発揮できるものを、比較的容易に得られるようにしているものである。
【0038】
図5に説明する矢板壁40の例において、大径の断面の円筒またはパイプ状の本体を有する矢板41、41a……を、接続部42、42aを用いて接続し、両側の接続部と矢板本体とに囲まれた部分には、大きな空間部47を設けている。前記矢板壁40において、2つの接続部42、42aは、一方の矢板41の本体に端部を接続した封止板43に、他端部に閉じ板44、44aを取り付けている。また、隣接させて立設する矢板41aに対しては、前記閉じ板44、44aに対応させた位置に、封止板43を挿通させるに適当なスリットを設けた受部45、45aを設けている。なお、前記矢板の一方の側には封止板を突出させて設け、他方の側には受部45をそれぞれ設けて構成する。
【0039】
そして、前記閉じ板44を受部45に挿入する状態で矢板を順次打設して、遮水壁を構築しながら、各矢板の間には矢板列の両側に封止板による壁を順次形成して、両側の封止板の間には空間部47を形成できるようにする。前述したようにして立設した矢板壁においては、受部45、45aの空間部に対しては、流動性を向上させた遮水材を注入して、隙間が生じないように処理し、遮水性を持たせている。また、前記中央部に形成される空間部47に対しては、前記図4に説明したように、遮水材の層を海底地盤のレベルよりも少し高い位置にまで、もしくは所定のレベルまで充填した処理部として形成し、その空間の内部に侵入した水が、海底地盤に向けて流れないようにする処理を行う。
【0040】
図6に示す例は、前記図5の例が封止板を用いたものであるのに対して、第1、第2の接続部50、50aを、側面部にスリット52、52aを設けたパイプ部材51、51aを、互いのスリットにパイプ部材の一部を挿入させるようにして組み合わせて、矢板壁40Aを構成している。前記両側の接続部50、50aにおいては、2つのパイプ51、51aを組み合わせた部分には、略半月形の空間53〜53bが形成される。そのような2つのパイプを組み合わせた部分では、従来は中央部の空間53にのみ遮水材等を注入することで、接続部での封止作用を行わせるようにしていた。ところが、そのような封止処理を施工した部分では、封止部分での信頼性に疑問が残るものであるから、より大きな信頼性を確保するためには、全部の空間53〜53bに対しても、各々遮水処理を行うことが必要となる。
【0041】
前記接続部での遮水処理の例では、両側の遮水性能を持たせた接続部の空間部47と、矢板本体の内部空間の双方に対して、所定の高さに、遮水材を充填した処理部を設ける処理を行う。そして、前述したような遮水層を設ける処理を行うことで、本体本体のいずれの位置に孔が生じたとしても、遮水壁の内部の空間を通って水が流通することを阻止できて、遮水壁を長期間使用した場合でも、遮水壁の信頼性に疑問が生じることがないようにする。
【0042】
次に説明する図7、8の例においては、前記図6で説明した接続部と同様な構成で、パイプを組み合わせた封止手段を一方の第1接続部として配置し、他方には、板状の部材を用いた封止手段を第2接続部として配置している。まず、図7に示す例では、パイプを組み合わせた第1接続部50には、前記図6の例の場合と同様に、スリット52、52aを組み合わせて設けた接続用のパイプ部材51、51aを配置して、それを組み合わせた接続部50を設けている。また、中央に設ける空間部63に対応させて、その他方の側に設ける第2接続部としては、板状の部材を各々から突出させて設け、その端部に設けた接続部を、それぞれ図示するように組み合わせて構成している。
【0043】
前記図7の実施例のように、矢板本体の側面から板を対向させて配置し、その板の端部を組み合わせた接続部として構成することで、施工性を良好に維持できる場合もある。例えば、パイプ部材を組み合わせて構成した第1の封止部50においては、その接続部での遮水性は良好に維持できるものであるから、前記接続部50をケーソン側(外海側)と反対の位置におくと、廃棄物に触れた水が流れ出ることを、接続部50により阻止することが可能となる。
【0044】
しかしながら、そのように矢板を打設して、矢板壁40Bを構築した場合でも、矢板本体の鋼板が腐食した場合や、接続部での封止状態を維持できないような、構築時に想定できなかった異常な事態が発生した場合には、その腐食で形成された孔から、矢板本体の下部の地盤を通って水が流通するという問題が発生する。そこで、この実施例においても、接続部に設けられる内部空間63と、矢板本体の内部空間に対しては、海底地盤の高さよりも若干高い位置にまで遮水材を注入して遮水層を形成し、海底地盤と矢板の空間部との間で水が流通しないようにする処理を行っている。
【0045】
図8に示す矢板壁40Cの例は、前記図7の例とは、第2接続部65の構成が異なるもので、第1接続部50は同様な2つのスリット付きパイプ51、51aを組み合わせて、その内部に形成される空間に遮水材を充満させて構成している。この実施例において、第2接続部65には図示されるように、略円弧状の接続板66を用い、接続板66の両端部には閉じ板67、67aをそれぞれ取り付けておき、矢板本体に設けた受部68、68aに、前記閉じ板67、67aをそれぞれ挿入する状態で組み合わせている。
前述したようにして構成した矢板の接続部において、第1接続部の中に形成されている小さな空間53〜53bのそれぞれに対しては、前記実施例と同様に、遮水材を充満させて遮水性を持たせている。また、第2接続部65においては、接続板66の両端部の接続部に対して、遮水処理を行うことができれば、比較的簡単に遮水作用を発揮させることができる。
【0046】
前記第2接続部65の両端部での接続部分で、遮水処理を行うために、例えば、受部68、68aを余裕を持たせて大きめに構成し、閉じ板67、67aを挿入しても、大きな空隙が残るように構成することが考えられる。そして、前記接続部の内部の余裕部分に、流動性を良好に調整した遮水材を注入して、その接続部内部に空隙が生じることがないように充満させて、遮水部として構築する。前述したように、接続部66の両端部に設けている2つの接続部の各々に対して、遮水材を充満させて遮水処理を行った場合でも、接続板66に孔が生じたりした時や、遮水材の充填状態に欠陥が生じたときには、内部空間69に水が入り込むという、不都合な状態が発生することが想定される。
【0047】
そこで、前記第1、2の封止部での遮水処理を行うことに加えて、前記第1、2の接続部と矢板本体とに囲まれた内部空間69に対しても、遮水材を充満させる処理を施して、矢板接続部での遮水性を良好に維持できるようにすれば良い。しかしながら、矢板本体に設けている大断面の空間の内部を塞ぐように、大量の遮水材を注入することは、遮水壁の構築コストに大きな影響を与える原因となるものである。そして、本発明の各実施例での共通する課題でもあるが、矢板本体の内部に形成している空間部から、漏水が発生するという問題が、頻発するものでもないことから、前述したような完全に遮水材で密封することは、余分な経費をかけることにもなる。そこで、前記図8に示す例においても、接続部での内部空間69と、矢板本体の内部空間に対しては、海底地盤の高さよりも若干高い位置にまで、つまり、空間部の底部に形成する遮水材の層が有効に働くように、遮水材を所定の厚さの層となるように注入して、海底地盤と矢板の空間部との間で水が流通しないようにする処理を行って、前記漏水に対する対応策とすることができる。
【0048】
なお、前記各実施例に説明した矢板壁においては、前記図4に説明した例と同様に、矢板の接続部の空間に対しては、その空間の全てを遮水材により塞ぐような処理を行うが、小さな空間53〜53矢板の本体の中間部等に設けている空隙部に対しては、下部の地盤との間を区画して、空隙部の下部を所定の厚さで覆うような、遮水層を施工すると良い。勿論、矢板の接続部を含む上下に長い全ての空隙部を、遮水材で埋め尽くすようにすれば、最良の遮水手段ということができる。
【0049】
(第3の実施例)
前記各実施例では、矢板壁を構成する矢板本体に欠陥が生じたときに、その矢板の内部に設けられている空間部から、支持地盤の隙間を通って水が流通することを阻止し、矢板壁に不都合が生じることを防止する手段について説明した。前記各実施例のように、矢板壁の縦の空間の下部に注入した遮水材の層を用いて、遮水処理するという前記改善策とは別に、図9以下に示す例のように、使用中の仕切護岸の矢板壁に欠陥が生じたときに、矢板壁を追加して立設し、欠陥を生じた遮水壁を補強する対策を、追加の遮水壁を施工することで行う場合を例にして説明している。
【0050】
例えば、図9に示すような例では、仕切護岸をケーソン護岸10と矢板壁15Aとを組み合わせて構築し、2つの護岸の構成体10、15Aの間には、砂等の充填層8を設けている。前記ケーソン護岸10において、ケーソン11、11aの接続部では、ゴムパッキング12と遮水材の層13とを組み合わせて、外側の護岸の内側に水が侵入しないようにする処理が行われる。また、前記ケーソン護岸10の内側部に、所定の間隔をおいて構築される矢板壁15Aにおいては、矢板71……を1列状に立設し、接続部72で接続した部分の隙間に遮水材を充満させることで、矢板壁に遮水性を維持させ得るように構築している。
【0051】
前述したように構成した矢板による遮水壁15Aにおいて、矢板の一部が腐食すること等により、水が入り込むような孔等が生じた場合には、その欠陥を生じた矢板に対して、前記各実施例に説明したような処理を、その特定の矢板に施しておくことで、局部的な欠陥は解消できる。ところが、単純に一部の矢板のみの欠陥ではなしに、長期間の遮水壁の使用中に、矢板壁15Aの全体で、遮水性能に欠陥が発生するという問題が想定される。そのような欠陥が発生した場合に、最初に構築して使用中の第1の矢板壁70に対して、所定の間隔をおいた位置に、列状に追加の遮水壁75を構築して、前記第1の矢板壁の欠陥をカバーするような補修工事を行うことが、その対策として考えられる。
前記追加の遮水壁75としては、任意の構成の矢板部材76を、接続部77を介して順次接続する状態で立設し、接続部に遮水性を持たせることで、新たな遮水壁を追加して使用することができるようにする。
【0052】
前記図9に説明するように、第1の矢板壁70に平行に追加の遮水壁75を構築しようとする場合に、前記2列の矢板壁の間の地盤を通って、廃棄物に触れて汚染された水が流れ出すことを阻止する必要がある。ところが、使用中の廃棄物処理場等においては、その仕切壁を立設した基部を掘り下げて、地盤に遮水材の層を直接施工する等の、追加工事を行うことができないという問題が発生する。そこで、将来発生するかも知れない問題に対応させて、最初の仕切護岸の工事を行う時に、第1の矢板壁70の一方の側または両側の所定の広さの部分に、あらかじめアスファルトマスチックの層を構築した下面処理部74を設け、将来の追加の遮水壁の施工の準備を行って準備しておくと、追加の遮水壁の施工を容易に行うことが可能になる。なお、前記下面処理部74を最初の遮水工で施工しておくことは、第1の矢板壁70の基盤を強化すること、および、将来、2列に構築する遮水工の間での地盤を補強することと、充填層8に対する遮水性を追加することにもなる。
【0053】
前記追加の遮水壁75を施工する例の他に、矢板壁に生じると予測される遮水不良という欠陥を、追加の遮水壁を構築することにより解消するという要求が、多くの場合に発生すると想定されることでもある。例えば、次に説明する図10、及びその後で説明する図11、12においては、単純に矢板列のみを用いて説明しているものであるが、既設の矢板壁に沿わせて、矢板壁の一部を追加施工するか、または新たな矢板壁を構築することにより、欠陥を生じた遮水壁での遮水性能を補償しようとしている。
【0054】
図10に説明する例は、前記図9に示したような矢板を用いた遮水壁において、その一部で遮水性に欠陥が発生した場合に、その特定の矢板の問題の部分に沿わせるように、矢板87を打設して、2本の矢板の間での遮水性を回復させようとするものである。この例においては、連続させて矢板71……を打設して、接続部72を介して遮水性を維持させるように組み合わせた矢板壁を構築する際に、その矢板の各々に対して、接続部としての突起部材86をあらかじめ突出させて設けておき、各突起部材86……をケーソン壁側に向けて整列させるように配置しておく。
【0055】
前記矢板壁に沿わせて打ち込む板部材87は、その両端部に矢板間の突起部材と同様な間隔にジョイント部材88をそれぞれ取り付けておき、矢板と板部材とを組み合わせた接続部を介して、追加の板部材87を施工する。前記板部材87は、平らな板または任意の形状を有する矢板を用いるもので、その板の両端部に設けている接続部材としては、矢板壁での、各矢板を接続する接続部と同様に構成されているところの、ジョイント部材を用いることが可能である。また、前記接続板部材としては、2つの隣接させた矢板の間隔に対応させることの他に、必要に応じて、3つの矢板の間隔に対応させた長さのものとして構成しても良い。そして、前述したように、欠陥が生じた矢板壁に対し、追加の板を局部的に施工することで、比較的容易に遮水壁での遮水性を回復させることが可能となる。
【0056】
次に、図11に説明する矢板壁15Bにおいては、既設の第1の矢板壁80に組み合わせて、新たに追加の遮水壁84を構築使用とする場合に、前記追加の遮水壁84を構築する部分に対しては、あらかじめ下面処理部85を設けておき、後で施工する矢板は、前記下面処理部85を貫通させて打設させるように指定しておく。したがって、後で施工する矢板壁84では、その矢板の基部に遮水材の層が、あらかじめ設けられているので、矢板の表面部に遮水材が接して遮水性能を良好に維持することができる。また、前記実施例に説明したように、後で打設・施工する矢板が、断面の内部に空隙を有するものであったとしても、その空隙部分に対して、前記下面処理部の遮水材が入り込む状態となるので、矢板自体の空隙から地盤に向けて水が流通することをも、容易に阻止できることになる。
【0057】
前記図11に示した例では、1列に打設した矢板による第1の矢板壁に対して、追加の遮水壁を施工する場合を説明したが、その他に、図12に示すように、最初に2列に立設した矢板列81、82の間に、遮水材83を充填して、矢板による遮水層80を立設している例も考えられる。このような構成の遮水層に対しても、あらかじめ、所定の範囲に亘って地盤の上を覆うように、下面処理部85を設けて置くことで、追加の遮水壁84を順次列状に打設してジョイント部を用いて接続して、遮水層を追加するのみで、その追加した矢板壁84による遮水層での信頼性を、良好に維持できることになるのである。
【0058】
前記図12に説明したように、任意の断面形状を有し、遮水材の層と組み合わせて構築する遮水壁においても、その遮水壁の基部をカバーするように、地盤表面に下面処理部85による遮水材の層を設けておくことで、遮水層の補修または補強を、後で施工する際の作業を容易に行うことが可能となる。前記本発明の各実施例において、矢板としては、従来公知の任意の断面形状のものを用いることができ、その矢板を打設する際にジョイント部の空間に充満させる遮水材は、アスファルトマスチックのような材料を、その流動性を調節して用いると良い。また、前記下面処理部として地盤上に層状に施工する遮水材としても、アスファルトマスチックを用いると、作業に要する設備を簡素化して、施工作業を容易に行い得ることにもなる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】廃棄物処分場の護岸の構成を示す説明図である。
【図2】鋼製箱型矢板の断面図である。
【図3】別の構成の矢板による遮水壁の説明図である。
【図4】矢板に対する遮水処理を施す状態の説明図である。
【図5】矢板の接続部の構成と、対応策の説明図である。
【図6】図5とは異なる形状の矢板を用いた遮水壁の説明図である。
【図7】別の矢板を用いた実施例の説明図である。
【図8】さらに別の矢板による実施例の説明図である。
【図9】護岸の別の構造の説明図である。
【図10】矢板壁の一部を補修する例の説明図である。
【図11】矢板列による遮水壁の他の実施例の説明図である。
【図12】矢板列の他の実施例の説明図である。
【符号の説明】
【0060】
1 仕切護岸、 2 海底地盤、 10 ケーソン護岸、 11 ケーソン、 15 矢板壁、 20 箱型鋼板、 23 接続部、 24 ジョイント、
25 不透水処理層、26 空間部、 30 U字状矢板、 32 接続部、 32 ジョイント部、 35 閉じ板、 36 端板、 37 止め板、
38 第1空間、 39 大空間、
40 矢板壁、 42 接続部、 44 閉じ板、 45 受部、
47 空間部、 50 ジョイント部、 51 パイプ部材、 53 空間、 63 内部空間、 65 ジョイント部、 66 接続板、 67 閉じ板、 69 内部空間、 70 矢板壁、 71 矢板、 72 ジョイント部、
80 矢板壁、 84 追加の遮水壁、 85 下面処理部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃棄物海面埋め立て処分場を区画する仕切護岸として、鋼製の矢板を列状に打設して遮水壁を構築するとともに、
前記矢板壁を構築する海底地盤が不透水性の地盤であるか、もしくは不透水性改良地盤として処理された地盤に対して、
前記仕切護岸を構築するために、海底地盤に打設する矢板本体または矢板の接続部に形成される空間で、全体に遮水材を充満させずに設ける箇所に対して、前記空間内部の一部もしく所定の範囲に亘って遮水処理層を形成し、
前記鋼製矢板に孔等の欠陥が発生して、その孔から前記各空間部に入った水が、仕切護岸により仕切られた区域外に浸透する状態となった時においても、
前記空間部から地盤を通って水の流出を防止する作用を、前記遮水処理層により維持させることを特徴とする遮水処理方法。
【請求項2】
前記矢板壁として用いる矢板本体が有する空間に対して、全体に遮水材を充満させた遮水処理層を構築して設け、
前記鋼製矢板に孔等の欠陥が発生して、その孔から前記各空間部に入った水が、仕切護岸により仕切られた区域外に浸透することを、前記遮水処理層により防止可能とすることを特徴とする請求項1に記載の遮水処理方法。
【請求項3】
前記仕切護岸として矢板を列状に打設する矢板壁において、隣接させて順次立設する矢板間での接続部が、周囲が閉じられて上のみが開放された空間として構成し、
前記矢板の接続部の空間には遮水材を充満させて、前記矢板の接続部での遮水性を維持可能としたことを特徴とする請求項1または2に記載の遮水処理方法。
【請求項4】
前記仕切護岸に用いる矢板が、海陸方向の両側に平行に位置させる長い側板の両端部にジョイント部材を各々設け、前記側板の間を接続する2枚の板材を組み合わせて、中央部に四周が閉じられた空間を有するものとして構成し、
前記矢板の四周が閉じられた空間の内部には、海底地盤の不透水性地層のレベルに対応する厚さ、または、任意の厚さの遮水材の層を構築し、
前記矢板が有する空間に、水が侵入する状態が発生したとしても、前記矢板の内部空間に充満させた遮水材の層により、矢板壁自体の遮水性を維持可能としたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに載の遮水処理方法。
【請求項5】
前記矢板壁を構成する矢板として、両側に位置させた鋼板の間に複数枚の接続板を位置させて、周囲が閉じられて上部または任意の一部に、開口を有する四周が閉じられた空間を有する変形H形矢板を用い、
前記変形H形矢板の両端部には、一般的なH形矢板と同様なジョイント部材を設けて、 前記矢板の接続部に対しては、高さ方向の全体に遮水材を充満させ、
前記各矢板の空間部の下部に対して、所定の厚さの遮水処理層を設けることを特徴とする請求項1または2に記載の遮水処理方法。
【請求項6】
前記矢板壁を構成する矢板として、角型または円筒形の周囲が閉じられて、その上部または任意の一部に開口を有する四周が閉じられた空間を有する矢板本体を用い、
前記矢板本体に取付けたジョイント部材を用いて接続することにより、列状の遮水壁として構築可能とするもので、
前記矢板本体の両側に設けて、隣接させた矢板との接続部に対して、その仕切られた接続部としての空間の全体に遮水材を充満させ、
矢板本体の中に形成されている空間部に対しては、その下部の部分または空間の一部を覆うように、遮水処理層を設けることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の遮水処理方法。
【請求項7】
前記閉じられた空間を有する矢板本体の両側に形成する接続部を、複数のジョイント部材と、そのジョイント部材により周囲が閉じられた形状の空間とを有するもので構成し、 前記接続部内部の空間に遮水材を充満させて、遮水処理部とし、
前記遮水処理部とは別に設けられている矢板本体の閉じられた空間部では、その下部に所定の厚さの遮水処理層を設け、
前記空間内に形成した遮水処理層を、矢板を立設した海底地盤の不透水層と一体の遮水層として作用させることを特徴とする請求項6に記載の遮水処理方法。
【請求項8】
ケーソンと矢板列、もしくは矢板列を組み合わせて構成する仕切護岸を、前記矢板列による護岸の支持地盤の一方の側、または、内外側の双方の側の地盤の表面に遮水層を設けて、前記遮水層により所定の範囲に亘って地盤の表面を覆う処理を施して、既設の護岸として用いている状態で、
前記既設の矢板列に平行に、矢板壁を新たに追加して立設する際に、前記地盤を覆う遮水材の層を貫通させる位置に、新たな矢板を立設して遮水壁を構築することを特徴とする請求項1または2に記載の遮水処理方法。
【請求項9】
前記追加して施工する矢板壁により、遮水性を発揮させる仕切護岸を追加して構築するに際しては、新たに構築する矢板の基部と、矢板本体の内部または接続部の内部に設けられている空隙に対して、所定の厚さで新たに遮水層を追加して構築することを特徴とする請求項6ないし8のいずれかに記載の遮水処理方法。
【請求項10】
矢板本体の閉じられた空間部を遮水するために、前記空間部に注入して充満させる遮水材は、アスファルト系、土質系、コンクリート系、もしくはケミカル系と呼ばれる公知の材料を用い、
それ等の各種の遮水材を単独で、もしくは、複数の遮水材を用いて充満させる空隙の状態に合わせて組み合わせて使用することを特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載の遮水処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−161736(P2008−161736A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−350726(P2006−350726)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(594067368)ワールドエンジニアリング株式会社 (21)
【出願人】(000232508)日本道路株式会社 (48)
【出願人】(390002185)大成ロテック株式会社 (90)
【出願人】(000230711)日本海上工事株式会社 (25)
【Fターム(参考)】