説明

遮熱コーティング皮膜の健全性評価方法および耐熱コーティング部材の寿命評価装置

【課題】測定感度が高く、遮熱コーティング皮膜を形成した機器の運転の初期段階から遮熱コーティング皮膜の損傷程度を非破壊的に評価することを可能にする。
【解決手段】イオン伝導性セラミックスから成る遮熱コーティング皮膜1を基材合金4と一体に形成した耐熱コーティング部材12の遮熱コーティング皮膜1に交流電圧を負荷させると共に、この交流電圧を負荷した領域における遮熱コーティング皮膜1の損傷度合いに応じて増加するインピーダンスの値を測定し、このインピーダンス値と実機遮熱コーティングデータベースのインピーダンス値とを照合して成膜後の遮熱コーティング皮膜の健全性もしくは高温使用後の遮熱コーティング皮膜1の損傷量を評価することを特徴とする遮熱コーティング皮膜の健全性評価方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮熱コーティング皮膜の健全性評価方法および耐熱コーティング部材の寿命評価装置に係り、特に測定感度が高く、遮熱コーティング皮膜を形成した機器の運転の初期段階から遮熱コーティング皮膜の損傷程度を非破壊的に評価することが可能な遮熱コーティング皮膜の健全性評価方法および耐熱コーティング部材の寿命評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の温室効果ガス(COガス)の排出量規制の強化等を背景として、発電用や航空機用ガスタービンの熱効率を向上させてCOガスの排出量を低減する技術的要求は益々高くなっており、これらの燃焼機器の熱効率を決定する燃焼ガス温度は上昇の一途を辿っている。上記燃焼機器における燃焼ガス温度を上昇させる対策技術としては、蒸気等を利用した高度な冷却機構を高温度となる部材に付設する技術の他に、高温度となる部材自身に遮熱層を形成する技術が不可欠になりつつある。
【0003】
具体的には、高強度の超合金から成る基材表面に、M−Cr−Al−Y(MはNi、Co、Feから選ばれる少なくとも1つの元素)と呼ばれる合金や、PtとAlとから成る金属間化合物によって構成される耐酸化・耐食層を中間層として形成し、さらにその中間層表面に8wt%Y安定化ZrO(YSZ)等の低熱伝導率であり、かつ熱膨張係数が大きなセラミックス層を被覆する遮熱コーティング(Thermal Barrier Coating:以後「TBC」と称す)の形成技術が不可欠になりつつある。
【0004】
上記TBCの施工方法としては、大気プラズマ溶射法(PS法)や電子ビーム物理蒸着法(EB−PVD法)が広く利用されている。PS法によって形成されたTBCにおいては、「ラメラ構造」と呼ばれる多層構造が基材表面に平行に形成される。この多層構造においては、気孔やマイクロクラック等の微小欠陥が遮熱コーティング皮膜の面内方向に沿って発生することから、燃焼ガスからの熱伝導を有効に阻止し、遮熱特性に優れた皮膜として有効であることが知られている。また、TBCの施工を大気中で実施できるため、施工経済性に優れる。そのために、上記遮熱コーティングの形成技術は、特に大型部品への適用が大部分である発電用ガスタービンの分野で主流となっている。
【0005】
しかしながら、上記従来の遮熱コーティングの形成技術においては、成膜後の段階からクラックが皮膜に内在することにより、熱サイクルによってマイクロクラックの発生と連結が生じ、容易に皮膜剥離に至ることが問題となっている。
【0006】
一方、EB−PVD法によって形成されたTBCにおいては、「柱状構造」と呼ばれるように個々の結晶粒が基材表面に垂直に揃った組織が形成され、隣接する柱状粒間にはナノメートル幅のギャップが存在する。このようなギャップの存在によって、EB−PVD法によるTBCは皮膜面内に発生する熱応力を緩和し、熱サイクル特性に優れた皮膜を形成できることが知られている。このような利点から、頻繁に起動・停止を繰り返す航空機用ジェットエンジン用高温部品へ上記遮熱コーティングが適用されてから10年以上の実績を有する。しかしながら、EB−PVD法によるTBCの成膜は真空チャンバー内で実施する必要があるために、PS法に比べ生産性・経済性が劣る問題点や、大型部品への施工が困難であるなどの問題点も挙げられる。
【0007】
近年、ガスタービン等の高温燃焼部を構成する耐熱部品は、燃焼ガスに暴露される最外セラミックス層(遮熱コーティング層)の遮熱効果による基材メタル温度の低下を前提として設計がなされていることから、TBC皮膜の剥離による基材メタル温度の上昇は耐熱部品の破壊を招き、最終的にはガスタービン等の燃焼機器の致命的な損傷をもたらすことが懸念される。このような現状から、TBCの損傷評価技術・余寿命評価技術、さらには損傷評価技術をベースとした航空機あるいは発電プラントの運用技術へのニーズが高まっている。従来のTBCの損傷評価の方法としては、(1)断面組織観察法、(2)熱伝導率測定法、(3)赤外線サーモグラフィー法、(4)渦電流法、(5)超音波法などが提案・実用化されている(例えば、下記特許文献1〜3参照)。
【特許文献1】特開2000−192216号公報
【特許文献2】特開2003−315252号公報
【特許文献3】特開2004−156444号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記のような従来の耐熱コーティング部材の健全性評価・余寿命評価方法や装置において用いられる断面組織観察法や熱伝導率測定法においては、測定感度が高く、初期段階から損傷を評価することが可能である反面、1種の破壊検査手法であり対象となる耐熱部材を破壊しないと測定することができないという問題がある。
【0009】
これに対して赤外線サーモグラフィーや渦電流法、超音波法は非破壊検査手法の1種であり運転状態のままで欠陥を検出できる利点があり継続的に欠陥の有無を検出できる反面、基本的には周囲の平均的な場に対して局所的な損傷領域を検出する手法であり、剥離に至る主クラックが相当の大きさまで成長した後でないと、剥離の兆候をとらえることができない。一般的には、大気プラズマ溶射法(PS法)によって形成されるTBCであれ、電子ビーム物理蒸着法(EB−PVD法)によって形成されるTBCであれ、上記のような主クラックが連結・伝播する過程はTBC全寿命でも末期に近く、長期にわたって定常的にTBCが運用されている段階において、余寿命評価への前述したような非破壊検査手法の適用は検出感度の劇的な向上がなされない限り、困難であると言わざるを得ない現状である。
【0010】
上述したように、従来のTBCの損傷評価手法は、遮熱コーティング皮膜が施工された耐熱部材を破壊する必要があることや、非破壊的手法ではTBC寿命の末期でないと損傷の検出ができないなどの問題があり、迅速で高い精度で損傷量や余寿命を長期間にわたり把握することは事実上困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記従来技術の課題を解決するためになされたものであり、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)等の電気伝導性/イオン伝導性を有するセラミックスから成る遮熱コーティング皮膜の成膜後の健全性、高温使用後の損傷量の評価方法、もしくは損傷評価に基づいた余寿命の評価方法を提供することを目的とする。
【0012】
上記目的を達成するために、本発明に係る遮熱コーティング皮膜の健全性評価方法は、イオン伝導性セラミックスから成る遮熱コーティング皮膜を基材合金と一体に形成した耐熱コーティング部材の遮熱コーティング皮膜に交流電圧を負荷させると共に、この交流電圧を負荷した領域における遮熱コーティング皮膜の損傷度合いに応じて増加するインピーダンスの値を測定し、このインピーダンス値と実機遮熱コーティングデータベースのインピーダンス値とを照合して成膜後の遮熱コーティング皮膜の健全性もしくは高温使用後の遮熱コーティング皮膜の損傷量を評価することを特徴とする。
【0013】
本発明で評価対象となる遮熱コーティング部材(TBC部材)の最外層を構成するセラミックス層の材料としては、現在最も広く用いられている材料であり、Yを安定化材として7〜8wt%の割合で含有する部分安定化ジルコニア(ZrO)を主体としたセラミックスが好適である。しかしながら、電気伝導性やイオン伝導性を有するセラミックス材料である限り、安定化材であるイットリア(Y)含有量を適宜変化させたセラミックス材料やZrOを主成分とするセラミックス材料に限らず、他のセラミックス材料も採用することが可能である。また遮熱コーティング層の表面に装着する電極の材料としては白金やパラジウム、銀などの電気伝導性に優れる金属が好適であり、これらの電極は焼付け法やめっき法によって形成される。
【0014】
上記遮熱コーティング皮膜の健全性評価方法によれば、遮熱コーティング皮膜のインピーダンス(抵抗値)の変化と断面組織観察による損傷の進行度合いとは強い相関関係で対応しているために、遮熱コーティング皮膜のインピーダンス値を測定することによって、TBC皮膜の損傷程度を精度良く非破壊的に推定できる。
【0015】
また上記コーティング皮膜の健全性評価方法において、前記遮熱コーティング皮膜の表面に電子負荷用の電極とインピーダンス測定用の電極とを配設し、上記電子負荷用の電極間に交流電圧を負荷する一方、上記インピーダンス測定用の電極によって遮熱コーティング皮膜のインピーダンスを計測することが好ましい。
【0016】
上記各電極を配設することにより、遮熱コーティング皮膜の表面側から電子負荷用の交流電圧を印加できると共に、印加した領域におけるインピーダンスを測定することができる。
【0017】
さらに上記遮熱コーティング皮膜の健全性評価方法において、前記電子負荷用の電極とインピーダンス測定用の電極との距離を可変とし、各電極間距離における遮熱コーティング皮膜のインピーダンスを計測することが好ましい。
【0018】
上記電子負荷用の電極とインピーダンス測定用の電極との距離を可変としてインピーダンスを測定することにより、散乱による電子/イオン伝導の経路を含む領域の大きさを変えることができる。すなわち、電子負荷用の電極とインピーダンス測定用の電極との距離を近づけると、電子/イオン伝導の経路を含む領域は表面に近い位置に限定され小さく形成される。一方、電極間の距離を大きくすると、散乱による電子/イオン伝導の経路として皮膜内部の領域までもが含まれるようになる。したがって、表面に配設した各電極間の距離を可変とし離間させることにより、得られるインピーダンスの値は皮膜膜厚方向の損傷量の情報を含むようになり、測定対象領域を増減することができる。
【0019】
また、上記遮熱コーティング皮膜の健全性評価方法において、前記遮熱コーティング皮膜を基材から剥離した後に、この遮熱コーティング皮膜の表面と裏面とにそれぞれ電子負荷用の電極を設け、この電子負荷用の電極間に交流電圧を負荷した状態で遮熱コーティング皮膜のインピーダンスを計測することも好ましい。
【0020】
上記計測方法の場合においては、遮熱コーティング皮膜の側面にインピーダンス測定用の電極端子を設けて計測することが標準的である。この方法は、非破壊方式で遮熱コーティング皮膜の損傷量を評価する方法ではないが、特に大気プラズマ溶射法(PS法)によるセラミックス皮膜のように、主として欠陥が遮熱コーティング皮膜の表面に平行な方向に発生した皮膜において、より高精度に損傷量を定量化することが可能となる。
【0021】
さらに、上記遮熱コーティング皮膜の健全性評価方法において、前記イオン伝導性セラミックスから成る遮熱コーティング皮膜の開口亀裂に電解質を含浸した後に、この遮熱コーティング皮膜に交流電圧を負荷した状態で遮熱コーティング皮膜のインピーダンスを計測することも好ましい。なお、含浸させる電解質としては、高分子型電解質を用いることが望ましい。
【0022】
大気プラズマ溶射法(PS法)によって形成された遮熱コーティング皮膜においては、耐熱サイクル性を向上させるためにセラミックス層(遮熱コーティング皮膜)内に意図的に縦割れを誘起したものや、電子ビーム物理蒸着法(EB−PVD法)によって形成されるTBCでも皮膜を構成する個々の柱状粒が完全に独立して開口亀裂を生じたものが多用されている。この場合には、開口亀裂の絶縁性によって電気抵抗が著しく大きくなり、インピーダンスの測定操作が不可能になる場合がある。
【0023】
しかしながら、上記のように開口亀裂に電解質を含浸する手法を用いることにより、上記のような特殊なセラミックス皮膜であっても、インピーダンスを適正に測定可能であり、遮熱コーティング皮膜の健全性や損傷量の定量化が可能になる。
【0024】
また上記遮熱コーティング皮膜の健全性評価方法において、前記イオン伝導性セラミックスから成る遮熱コーティング皮膜を基材合金と一体に形成した耐熱コーティング部材の遮熱コーティング皮膜に交流電圧を負荷させると共に、この交流電圧を負荷した領域における遮熱コーティング皮膜の損傷度合いに応じて増加するインピーダンスの値を、電極を用いて測定し、このインピーダンスの値を、等価回路を用いてセラミックス内部のバルク抵抗成分、セラミックスの組織界面抵抗成分、電極界面における抵抗成分、ならびにコンデンサー抵抗成分に分離し、これらの抵抗成分の少なくとも1つの抵抗成分の初期値からの変化量に基づいて、成膜後の遮熱コーティング皮膜の健全性もしくは高温使用後の遮熱コーティング皮膜の損傷量を評価することが好ましい。
【0025】
上記のようにインピーダンスの値を、等価回路を用いてセラミックス内部のバルク抵抗成分、セラミックスの組織界面抵抗成分、電極界面における抵抗成分、ならびにコンデンサー抵抗成分に分離して、各抵抗成分の経時変化量の大小を対比することにより、遮熱コーティング皮膜の損傷の影響が最も顕著に現れる部位を把握することが可能である。
【0026】
さらに上記遮熱コーティング皮膜の健全性評価方法において、前記遮熱コーティング皮膜のインピーダンスの値を測定するに際して、外部加熱装置を用いて遮熱コーティング皮膜を加熱した状態でインピーダンスの測定を実施することが好ましい。
【0027】
本発明で対象とする遮熱コーティング皮膜を構成する8wt%Y部分安定化ZrOなどのセラミックス材料では、相対的にイオン伝導度が小さく電気抵抗が高いために、インピーダンスの測定が困難で所定の測定精度が確保できない場合がある。しかしながら、セラミックスにおいて電子伝導を担う酸素イオンの伝導は、温度上昇によって著しく増加することが知られており、遮熱コーティング皮膜を外部加熱装置によって高温度に加熱した状態でインピーダンス測定を行うことによって、より高精度なインピーダンスの測定が可能になり、遮熱コーティング皮膜の損傷評価や寿命評価の精度を高めることができる。
【0028】
また本発明に係る耐熱コーティング部材の寿命評価装置は、イオン伝導性セラミックスから成る遮熱コーティング皮膜に交流電圧を負荷した領域において測定したインピーダンスの値もしくは遮熱コーティング皮膜の電気的等価回路から推定されるセラミックス内部のバルク抵抗成分、セラミックスの組織界面抵抗成分、電極界面における抵抗成分、ならびにコンデンサー抵抗成分のうちの少なくとも1つの抵抗成分の経時変化を記憶すると共に、上記遮熱コーティング皮膜の運転時間もしくは熱サイクル回数の経過による上記抵抗成分の変化挙動を記憶したデータベース部と、現時点での遮熱コーティング皮膜のインピーダンス、もしくはセラミックス内部のバルク抵抗成分、セラミックスの組織界面抵抗成分、電極界面における抵抗成分、ならびにコンデンサー抵抗成分のうちの少なくとも1つの抵抗成分を入力する入力部と、これらの入力された抵抗成分のデータと上記データベース部に記憶されたデータとを比較して遮熱コーティング皮膜の損傷量もしくは余寿命を評価する演算部とを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
以上述べたように、本発明に係る遮熱コーティング皮膜の健全性評価方法および耐熱コーティング部材の寿命評価装置によれば、特に皮膜の損傷量の測定感度が高く、遮熱コーティング皮膜を形成した機器の運転の初期段階から遮熱コーティング皮膜の損傷程度を非破壊的に継続的に評価することが可能になり、遮熱コーティング皮膜の健全性や損傷量、余寿命等を精度良く推定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明に係る遮熱コーティング皮膜の健全性評価方法および耐熱コーティング部材(TBC部材)の寿命評価装置の実施形態について、添付図面を参照してより具体的に説明する。
【0031】
[実施例1]
図1は本発明に係る遮熱コーティング皮膜の健全性評価方法の一実施例において遮熱コーティング皮膜について交流法によるインピーダンス測定操作を実施している状態を示す断面図である。
【0032】
本実施例で対象とする耐熱コーティング部材(TBC部材)12は、基材合金4の表面に、合金層3と保護酸化皮膜2とイオン伝導性を有するセラミックス材料から成る遮熱コーティング皮膜1とを順次積層して形成されている。
【0033】
上記遮熱コーティング皮膜1の表面には電子負荷用の一対の電極端子8,8とインピーダンス測定用の一対の電極端子8a,8aとが配設され、電子負荷用の一対の電極端子8,8は電流測定装置5を介して周波数可変型交流負荷装置6に接続されている一方、インピーダンス測定用の一対の電極端子8a,8aは電圧測定装置7を回路に備えており、上記電子負荷用の電極端子8,8間に交流電圧を負荷する一方、上記インピーダンス測定用の電極端子8a,8aによって遮熱コーティング皮膜1のインピーダンスが計測されるように構成されている。
【0034】
上記遮熱コーティング皮膜1は、例えばイットリア(Y)により安定化されたジルコニア(ZrO)のようなイオン伝導性を有するセラミックスから形成されている。この遮熱コーティング皮膜1の表面に、前記のように電子負荷用の電極端子8,8とインピーダンス測定用の電極端子8a,8aとの合計4つの電極端子が設けられ、電極間に交流を負荷したときのインピーダンスを計測する。なお、本実施例ではインピーダンスの測定方法として、電子負荷用の一対の電極端子8,8とインピーダンス測定用の電極端子8a,8aとの合計4個の電極から成る4端子法を例示しているが、電子負荷用の電極端子と測定用の電極端子とを兼用した2端子法や、2端子法に加えて測定物に静電シールドを施して浮遊容量の影響を低減した3端子法や、同様に4端子法に静電シールドを施した5端子法などのいずれの方法を用いることも可能である。
【0035】
本実施例において測定評価の対象となる耐熱コーティング部材(TBC)12の最外セラミックス層(遮熱コーティング皮膜)1を構成する材料としては、7〜8wt%のYを安定化材として含有する部分安定化ZrOを主体としている。しかしながら、電気伝導性やイオン伝導性を有するセラミックス材料である限りにおいては、安定化材であるY含有量を変化させたセラミックス材料や、ZrOを主成分とする材料でないセラミックス材料をも採用することが可能である。また遮熱コーティング皮膜1表面に配設する電極材料としては白金(Pt)やパラジウム(Pd)、銀(Ag)などの電気伝導性に優れた金属が好適であり、これらの電極は焼付け法やめっき法によって形成することが好ましい。
【0036】
図2は遮熱コーティング皮膜1であるセラミックス層内部に存在し皮膜のインピーダンス値に寄与する電気的な抵抗の要因を模式的に示す関係図である。図2に示すように、セラミックス層内に存在する抵抗の要因としては、(1)材料内部の材料物性に由来する抵抗成分(バルク抵抗)と、(2)大気プラズマ溶射法(PS法)によって形成された遮熱コーティング皮膜1であればラメラ構造の層間抵抗、電子ビーム物理蒸着法(EB−PVD法)によって形成された遮熱コーティング皮膜1であれば柱状組織を構成する粒間の接触部の抵抗(界面抵抗)と、(3)セラミックス層と電極との間の抵抗(電極界面抵抗)とに大別することができる。後述するように交流法によるインピーダンスを解析することによって、これらの抵抗成分を分離することが可能となることから、遮熱コーティング皮膜1における焼結の進行やマイクロクラックの発生等による遮熱コーティング皮膜1の損傷が皮膜内部のどの部位で生じているのかを推定することが可能となる。
【0037】
[実施例2]
図3は本発明に係る遮熱コーティング皮膜の健全性評価方法の他の実施例において遮熱コーティング皮膜について交流法によるインピーダンス測定操作を実施している状態を示す断面図である。本実施例2は、実施例1におけるインピーダンス測定用の電極端子8a,8aに代えて、電極間距離を可変に調整できる一対の触針式可動電極端子9,9を採用した点以外は実施例1と同様に構成される。
【0038】
上記実施例2の方法において、遮熱コーティング皮膜1のインピーダンスを測定する際に、電子負荷用の電極8とインピーダンス測定用の電極9距離とを近づけると、電子/イオン伝導の経路を含む領域は表面に近い位置に限定され小さく形成される。一方、電極間の距離を大きくすると、散乱による電子/イオン伝導の経路として皮膜内部の領域までもが含まれるようになる。したがって、表面に配設した各電極間の距離を可変とし離間させることにより、得られるインピーダンスの値は皮膜膜厚方向の損傷量の情報を含むようになり、測定対象領域を増減することができる。
【0039】
[実施例3]
図4は最外セラミックス層(遮熱コーティング皮膜)1を基材合金4から剥離し、その遮熱コーティング皮膜1の表面および裏面に電子負荷用電極端子を設ける一方、遮熱コーティング皮膜1の側面にインピーダンス測定用の電極端子8a,8aを設けた点以外は実施例1と同様に構成された状態でインピーダンスを測定した状態を示す断面図である。
【0040】
この実施例3における測定方法の場合には、皮膜の側面にインピーダンス測定用の端子を設けて計測することが標準的である。この測定方法によれば、非破壊で皮膜損傷量を評価することは不可能であるが、特に大気プラズマ溶射法(PS法)によって形成されたセラミックス皮膜のように、主として欠陥が遮熱コーティング皮膜1の表面に平行な方向に発生した皮膜において、より高精度に損傷量を定量化することが可能となる。
【0041】
[実施例4]
図5は本発明に係る遮熱コーティング皮膜の健全性評価方法の実施例4を説明する図であり、遮熱コーティング皮膜について交流法によるインピーダンス測定操作を実施している状態を示す断面図である。本実施例4は、セラミックス層(遮熱コーティング皮膜)1に電解質材料を含浸させた点以外は実施例1と同様に構成される。上記遮熱コーティング皮膜に含浸させる電解質としては、高分子型電解質を用いることが望ましい。
【0042】
大気プラズマ溶射法(PS法)によって形成された遮熱コーティング皮膜においては、耐熱サイクル性を向上させるためにセラミックス層(遮熱コーティング皮膜)内に意図的に縦割れを誘起したものや、電子ビーム物理蒸着法(EB−PVD法)によって形成されるTBCでも皮膜を構成する個々の柱状粒が完全に独立して開口亀裂を生じたものが多用されている。この場合には、開口亀裂の絶縁性によって電気抵抗が著しく大きくなり、インピーダンスの測定操作が不可能になる場合がある。しかいながら、上記のように開口亀裂に電解質を含浸する手法を用いることにより、上記のような特殊な組織を有するセラミックス皮膜であっても、インピーダンスを適正に測定可能であり、遮熱コーティング皮膜の健全性や損傷量の定量化が可能になる。
【0043】
交流法による複素インピーダンスの測定操作によって得られる複素平面プロット(いわゆるCole−Coleプロット)の測定例を図6に示す。最も理想的な場合、インピーダンスの複素平面プロットは主として3つの半円から構成される。それぞれの半円が図2に示した遮熱コーティング皮膜の内部のバルク抵抗、組織界面部の界面抵抗、電極と皮膜表面との間の電極界面抵抗に相当するものである。
【0044】
しかしながら、遮熱コーティング皮膜の特性によって、どの半円がどの部位の抵抗特性を示すかは異なる。図7は皮膜の電気的特性を表すための各部位の抵抗成分とコンデンサー成分とから成る単純な等価回路の構成例を示している。図6における複素平面プロットの各半円が左側から皮膜のバルク部、界面部、電極部のインピーダンス応答をそれぞれ示していると仮定した場合、等価回路の抵抗成分は複素平面プロットの実数部に現れるので、それぞれの半円の直径が各部の抵抗成分量に相当する。なお耐熱コーティング部材の遮熱コーティング皮膜の損傷評価のパラメータとしては、等価回路を構成する要素の中で最も損傷を反映するものを選択することが望ましいが、一般的には、バルク部と界面部の抵抗成分に皮膜損傷の影響が最も顕著に現れると考えられる。
【0045】
耐熱コーティング部材を高温燃焼雰囲気に暴露し、時間毎にバルク部と界面部の抵抗成分を計測したデータ例を図8に示す。なお初期の構造的なばらつきなどによって抵抗成分の絶対値は変動することから、皮膜損傷量としては抵抗成分の値を初期値からの変化割合によって規格化したパラメータを用いることが有効である。図8に示すように、耐熱コーティング部材(TBC部材)の高温損傷の発生・進行に伴って、バルク部の抵抗値(Rb)および界面部の抵抗値(Rgb)は、焼結過程など損傷初期の段階で共に低下し、その後、界面部の抵抗値(Rgb)のみが増加に転じることが明白である。同時に走査型電子顕微鏡によって断面組織観察を行った結果、初期段階では材料内部あるいは界面部において焼結が進行し、その後、主として界面部においてマイクロクラックが発生し、その密度が増加することによって損傷が進行することが判明した。したがって、遮熱コーティング皮膜の抵抗値の変化と断面組織観察によって検出される損傷の進行とは十分に対応しており、本実施例のように遮熱コーティング皮膜のインピーダンスの値を測定することによって、耐熱コーティング部材の皮膜の損傷を高い精度で推定できる上に、上記インピーダンスの経時変化を把握することによって耐熱コーティング部材の余寿命を高い精度で推定できることが明白になった。
【0046】
[実施例5]
図9は本発明に係る遮熱コーティング皮膜の健全性評価方法の実施例5を説明する図であり、遮熱コーティング皮膜について交流法によるインピーダンス測定操作を実施している状態を示す断面図である。本実施例5は、例えばヒータなどの外部加熱装置11を設けてセラミックス層(遮熱コーティング皮膜)1を外部から加熱するように構成した点以外は実施例1と同様に構成したものである。遮熱コーティング皮膜は、イットリア(Y)を安定化材として8wt%含有する部分安定化ジルコニア(YSZ)から構成されている。
【0047】
本実施例で対象とする遮熱コーティング皮膜を構成する8wt%Y部分安定化ZrOなどのセラミックス材料では、一般に固体電解質として知られている20wt%Y完全安定化ZrOと比較して、相対的にイオン伝導度が小さく電気抵抗が高いために、インピーダンスの測定が困難で所定の測定精度が確保できない場合がある。しかしながら、セラミックスにおいて電子伝導を担う酸素イオンの伝導は、温度上昇によって著しく増加することが知られており、遮熱コーティング皮膜を外部加熱装置によって高温度に加熱した状態でインピーダンス測定を行うことによって、より高精度なインピーダンスの測定が可能になり、遮熱コーティング皮膜の損傷評価や寿命評価の精度を高めることができる。
【0048】
また、図7に示したような等価回路を構成する各要素は温度依存性がそれぞれ異なることから、複雑な実材料の等価回路を推定するためには、外部加熱装置(ヒータ)の出力を調整して温度を変化させながら皮膜のインピーダンスを計測して求めることが有効である。
【0049】
[実施例6]
図10は本発明に係る耐熱コーティング部材の寿命評価装置の実施例6の構成例を示す模式図である。すなわち、実施例6に係る耐熱コーティング部材の寿命評価装置は、イオン伝導性セラミックスから成る遮熱コーティング皮膜に交流電圧を負荷した領域において測定したインピーダンスの値もしくは遮熱コーティング皮膜の電気的等価回路から推定されるセラミックス内部のバルク抵抗成分、セラミックスの組織界面抵抗成分、電極界面における抵抗成分、ならびにコンデンサー抵抗成分のうちの少なくとも1つの抵抗成分の経時変化を記憶すると共に、上記遮熱コーティング皮膜の運転時間もしくは熱サイクル回数の経過による上記抵抗成分の変化挙動を記憶したデータベース部と、現時点での遮熱コーティング皮膜のインピーダンス、もしくはセラミックス内部のバルク抵抗成分、セラミックスの組織界面抵抗成分、電極界面における抵抗成分、ならびにコンデンサー抵抗成分のうちの少なくとも1つの抵抗成分を入力する入力部と、これらの入力された抵抗成分のデータと上記データベース部に記憶されたデータとを比較して遮熱コーティング皮膜の損傷量もしくは余寿命を評価する演算部とを具備することを特徴とする。
【0050】
上記耐熱コーティング部材の寿命評価装置において、データベース部には、既存の実機データや実験データに基づいて、遮熱コーティング皮膜の熱暴露時間あるいは皮膜に作用する熱サイクル時間に対するインピーダンス値や、各抵抗成分の値、コンデンサー成分の値等の経時変化が参照データ(基準データ)として記憶されている。一方、データ入力部では、現在実機運転中の機器の耐熱コーティング部材(TBC部材)について所定の運転時間毎に測定される交流法によるインピーダンスの値が入力され、必要な場合には、等価回路によるインピーダンスのフィッティングによって各抵抗成分やコンデンサー成分が分離される。その後、演算部で実機運転データ等を参照しながらTBCの損傷量が評価され、最終的に皮膜剥離に至るまでの損傷量に対する現在の損傷量の割合から耐熱コーティング部材(TBC部材)の余寿命の評価が実行される。
【0051】
上記のように、本実施例に係る遮熱コーティング皮膜の健全性評価方法および耐熱コーティング部材の寿命評価装置によれば、特に皮膜の損傷量の測定感度が高く、遮熱コーティング皮膜を形成した機器の運転の初期段階から遮熱コーティング皮膜の損傷程度を非破壊的に継続的に評価することが可能になり、遮熱コーティング皮膜の健全性や損傷量、余寿命等を精度良く推定することができる。
【0052】
また、上記遮熱コーティング皮膜を基材に一体に形成した部材を航空機用ガスタービンもしくは発電用ガスタービンに適用して、上記遮熱コーティング皮膜の健全性評価方法に基づいて部材の健全性を経時的に評価することにより、航空機用ガスタービンや発電用ガスタービンを安全に運用することができる。
【0053】
上記耐熱コーティング部材の寿命評価装置を航空機用ガスタービンもしくは発電用ガスタービンのコーティング部材に適用することにより、航空機用ガスタービンや発電用ガスタービンを安全に運用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明に係る遮熱コーティング皮膜の健全性評価方法による耐熱コーティング部材(TBC部材)の健全性/損傷量測定の実施の形態を示す模式図。
【図2】遮熱コーティング皮膜のインピーダンス値に変化を与える各種の抵抗成分を示す模式図。
【図3】本発明に係る遮熱コーティング皮膜の健全性評価方法の一実施例を示す模式図。
【図4】本発明に係る遮熱コーティング皮膜の健全性評価方法の他の実施例を示す模式図。
【図5】本発明に係る遮熱コーティング皮膜の健全性評価方法のその他の実施例を示す模式図。
【図6】セラミック遮熱コーティング皮膜におけるインピーダンスの典型的な複素平面プロット例を示すグラフ。
【図7】セラミックス遮熱コーティング皮膜におけるインピーダンスの等価回路の構成例を示す図。
【図8】遮熱コーティング皮膜の熱暴露時間の経過に伴うバルク部ならびに界面部での抵抗成分の変化挙動を示すグラフ。
【図9】本発明に係る遮熱コーティング皮膜の健全性評価方法の他の実施例を示す模式図。
【図10】本発明に係る耐熱コーティング部材の健全性評価装置の一実施例を示す模式図。
【符号の説明】
【0055】
1 セラミックス層(遮熱コーティング層)
2 保護酸化皮膜
3 合金層
4 基材合金(金属基材)
5 電流測定装置
6 周波数可変式交流負荷装置
7 電圧測定装置
8,8a 電極端子
9 触針式可動電極端子
10 含浸した電解質
11 外部加熱装置(ヒータ)
12 耐熱コーティング部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン伝導性セラミックスから成る遮熱コーティング皮膜を基材合金と一体に形成した耐熱コーティング部材の遮熱コーティング皮膜に交流電圧を負荷させると共に、この交流電圧を負荷した領域における遮熱コーティング皮膜の損傷度合いに応じて増加するインピーダンスの値を測定し、このインピーダンス値と実機遮熱コーティングデータベースのインピーダンス値とを照合して成膜後の遮熱コーティング皮膜の健全性もしくは高温使用後の遮熱コーティング皮膜の損傷量を評価することを特徴とする遮熱コーティング皮膜の健全性評価方法。
【請求項2】
前記遮熱コーティング皮膜の表面に電子負荷用の電極とインピーダンス測定用の電極とを配設し、上記電子負荷用の電極間に交流電圧を負荷する一方、上記インピーダンス測定用の電極によって遮熱コーティング皮膜のインピーダンスを計測することを特徴とする請求項1記載の遮熱コーティング皮膜の健全性評価方法。
【請求項3】
前記電子負荷用の電極とインピーダンス測定用の電極との距離を可変とし、各電極間距離における遮熱コーティング皮膜のインピーダンスを計測することを特徴とする請求項2記載の遮熱コーティング皮膜の健全性評価方法。
【請求項4】
前記遮熱コーティング皮膜を基材から剥離した後に、この遮熱コーティング皮膜の表面と裏面とにそれぞれ電子負荷用の電極を設け、この電子負荷用の電極間に交流電圧を負荷した状態で遮熱コーティング皮膜のインピーダンスを計測することを特徴とする請求項2記載の遮熱コーティング皮膜の健全性評価方法。
【請求項5】
前記イオン伝導性セラミックスから成る遮熱コーティング皮膜の開口亀裂に電解質を含浸した後に、この遮熱コーティング皮膜に交流電圧を負荷した状態で遮熱コーティング皮膜のインピーダンスを計測することを特徴とする請求項2ないし請求項4のいずれかに記載の遮熱コーティング皮膜の健全性評価方法。
【請求項6】
イオン伝導性セラミックスから成る遮熱コーティング皮膜を基材合金と一体に形成した耐熱コーティング部材の遮熱コーティング皮膜に交流電圧を負荷させると共に、この交流電圧を負荷した領域における遮熱コーティング皮膜の損傷度合いに応じて増加するインピーダンスの値を電極を用いて測定し、このインピーダンスの値を、等価回路を用いてセラミックス内部のバルク抵抗成分、セラミックスの組織界面抵抗成分、電極界面における抵抗成分、ならびにコンデンサー抵抗成分に分離し、これらの抵抗成分の少なくとも1つの抵抗成分の初期値からの変化量に基づいて、成膜後の遮熱コーティング皮膜の健全性もしくは高温使用後の遮熱コーティング皮膜の損傷量を評価することを特徴とする請求項2に記載の遮熱コーティング皮膜の健全性評価方法。
【請求項7】
前記遮熱コーティング皮膜のインピーダンスの値を測定するに際して、外部加熱装置を用いて遮熱コーティング皮膜を加熱した状態でインピーダンスの測定を実施することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の遮熱コーティング皮膜の健全性評価方法。
【請求項8】
イオン伝導性セラミックスから成る遮熱コーティング皮膜に交流電圧を負荷した領域において測定したインピーダンスの値もしくは遮熱コーティング皮膜の電気的等価回路から推定されるセラミックス内部のバルク抵抗成分、セラミックスの組織界面抵抗成分、電極界面における抵抗成分、ならびにコンデンサー抵抗成分のうちの少なくとも1つの抵抗成分の経時変化を記憶すると共に、上記遮熱コーティング皮膜の運転時間もしくは熱サイクル回数の経過による上記抵抗成分の変化挙動を記憶したデータベース部と、現時点での遮熱コーティング皮膜のインピーダンス、もしくはセラミックス内部のバルク抵抗成分、セラミックスの組織界面抵抗成分、電極界面における抵抗成分、ならびにコンデンサー抵抗成分のうちの少なくとも1つの抵抗成分を入力する入力部と、これらの入力された抵抗成分のデータと上記データベース部に記憶されたデータとを比較して遮熱コーティング皮膜の損傷量もしくは余寿命を評価する演算部とを具備することを特徴とする耐熱コーティング部材の寿命評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−70226(P2008−70226A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−249121(P2006−249121)
【出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】