説明

遮音性を改善する壁構造

【課題】室内の内装壁を施工対象として遮音性能を改善することが可能であると共に、施工範囲も最小限に止めることが可能であり、さらに、既存建物の改修に対して好適に採用することができる遮音性を改善する壁構造を提供する。
【解決手段】界壁2で隔てられた音源室Aから受音室Bへ、これら室間にわたる外壁3を通じて伝搬し、外壁から受音室の内装壁4へ伝って当該受音室内に放射される音を減衰するための壁構造であって、受音室の内装壁のうち、界壁に隣接する界壁隣接領域Sを、外壁に対し振動絶縁する軽量鉄骨下地5で支持すると共に、界壁隣接領域とそれ以外の一般領域Tとの間に内壁スリット7を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室内の内装壁を施工対象として遮音性能を改善することが可能であると共に、施工範囲も最小限に止めることが可能であり、さらに、既存建物の改修に対して好適に採用することができる遮音性を改善する壁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
共同住宅などにおける、界壁で隔てられた二室間の遮音性能は、音が直接界壁を透過する経路だけに止まらず、界壁と交差する外壁(側壁)を経由して伝搬される側路固体伝搬音が大きく影響する。具体的には、音源室で発生した音は、音源室の内装壁を振動させ、内装壁の振動が外壁に伝わり、この外壁に伝わった振動が隣室へ伝搬し、隣室の外壁がその内装壁を振動させ、これにより隣室内に、音源室の音が放射されることになる。
【0003】
この種の側路固体伝搬音を対象とした技術として特許文献1が知られている。特許文献1の「隣接室間の遮音性能評価方法と選定された側壁」には、「図10は、側壁の交差部特性を変えるための一実施の形態である。図示のように、戸境壁101と交差している側壁102には、その交差部にスリット103を形成している。……このスリット103の形成によって、例えば表2に示すALC版の例のように、各周波数帯域において大きな数値の変更が期待できるものであり、遮音性能の必要対策量に応じて有効に対処できる対応策である。尚、図において104は、内装壁であり、105はその下地材である。([0103]〜[0107])」との開示がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−243533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
側路固体伝搬音を外壁で処理する場合、特許文献1のように、外壁にスリットを形成することは有効である。しかし、防火区画との関係で、界壁(戸境壁)と外壁との交差位置にスリットを設けることができない場合があった。また、外壁仕上げに関し、スリット位置が仕上げ施工の基準となるが、例えば外壁をタイル仕上げする場合などでは、スリット位置となるタイル目地が必ず上記交差位置になるとは限らず、現実的には無理があった。
【0006】
また、既存建物を改修して遮音性能を改善する場合、外壁にスリットを設けるためには大掛かりな作業が必要となり、またコストもかかるという課題があった。
【0007】
本発明は上記従来の課題に鑑みて創案されたものであって、室内の内装壁を施工対象として遮音性能を改善することが可能であると共に、施工範囲も最小限に止めることが可能であり、さらに、既存建物の改修に対して好適に採用することができる遮音性を改善する壁構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる遮音性を改善する壁構造は、界壁で隔てられた音源室から受音室へ、これら室間にわたる外壁を通じて伝搬し、該外壁から該受音室の内装壁へ伝って当該受音室内に放射される音を減衰するための壁構造であって、上記受音室の上記内装壁のうち、上記界壁に隣接する界壁隣接領域を、上記外壁に対し振動絶縁する絶縁支持材で支持すると共に、上記界壁隣接領域とそれ以外の一般領域との間に内壁スリットを設けたことを特徴とする。
【0009】
前記内壁スリットには、弾性シール材を充填したことを特徴とする。
【0010】
前記外壁には、前記界壁位置と前記内壁スリット位置との間に、外壁スリットを設けたことを特徴とする。
【0011】
前記外壁スリットには、耐火性を有する弾性シール材を充填したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかる遮音性を改善する壁構造にあっては、室内の内装壁を施工対象として遮音性能を改善することができると共に、施工範囲も最小限に止めることができ、さらに、既存建物の改修に対して好適に採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明にかかる遮音性を改善する壁構造の第1実施形態を示す要部拡大平断面図である。
【図2】図1に示した遮音性を改善する壁構造の作用を説明する説明図である。
【図3】比較例として、ボード直張り工法による側路固体伝搬音を説明する説明図である。
【図4】図1に示した遮音性を改善する壁構造と図3に示した比較例との性能を比較するグラフ図である。
【図5】本発明にかかる遮音性を改善する壁構造の第2実施形態を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明にかかる遮音性を改善する壁構造の好適な実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。図1には、第1実施形態にかかる遮音性を改善する壁構造1として、界壁2と交差する外壁(側壁)3周辺の平面断面図が示されている。
【0015】
共同住宅など、複数の室を備える建物では、隣接する室A,Bは互いに、共通の外壁3に対して交差する界壁2で隔てられ、これら外壁3及び界壁2で取り囲まれている。外壁3は、RC造や、図示するようにALC版3a、押出成形プレキャスト板などを連結することによって形成されている。
【0016】
各室A,Bには、例えばボード4aを張ることで、内装壁4が形成される。図示例にあっては、説明の便宜上、音が発生して音源室Aとなる左側の室では、内装壁4のボード4aはボード直張り工法によって外壁3に取り付けられ支持されている。
【0017】
音源室Aからの側路固体伝搬音が放射される受音室Bとなる右側の室では、内装壁4のボード4aは、一部が軽量鉄骨下地5を用いた胴縁工法等によって外壁3から振動絶縁されて設けられ、残りがボード直張り工法によって外壁3に取り付けられ支持されている。
【0018】
ボード直張り工法は周知のように、外壁3にGLボンド6を複数、団子状に塗り付け、塗り付けたGLボンド6の上から、ボード4aを押し付けて張り付けるようになっている。
【0019】
軽量鉄骨下地を用いた胴縁工法は、これも周知のように、下地材として、外壁3から間隔を空けて、床上と梁下や天井下に横向きにランナーを設置し、上下のランナー間に縦向きにスタッドを建て込むことにより構成され、スタッドに、内装壁4となるボード4aを取り付けるようになっていて、軽量鉄骨下地5は、外壁3に対し自立し、外壁3からの振動を絶縁しつつ内装壁4を支持する絶縁支持材として機能する。
【0020】
ボード直張り工法は、軽量鉄骨下地5を用いた胴縁工法に比べて、安価で施工性がよいが、遮音性能に劣るものである。
【0021】
受音室Bの内装壁4は詳細には、これら2つの工法で取り付けられ、軽量鉄骨下地5を用いた胴縁工法は、界壁2位置から外壁3に沿って所定の幅Hで、床上から梁下等にわたる界壁2に隣接する界壁隣接領域Sに適用され、ボード直張り工法は、界壁隣接領域S以外の領域(一般領域T)全体にわたって適用される。これにより、内装壁4のボード4aのうち、界壁隣接領域Sでは、ボード4aは、軽量鉄骨下地5により、外壁3に対し振動絶縁して支持される。他方、一般領域Tでは、ボード4aは、ボード直張り工法により、外壁3に取り付けられる。
【0022】
界壁隣接領域Sと一般領域Tとの間には、これら領域S,T相互にわたる振動伝搬を遮断するために、内装壁4を分断する内壁スリット7が設けられる。従って、一般領域Tで生じた振動は、界壁隣接領域Sへは伝わらず、また反対方向への伝搬も生じないようになっている。
【0023】
界壁隣接領域Sの上記所定の幅Hは、規格品であるボード4aの幅寸法とすることで、ボード4aを加工することなく、内壁スリット7を設けることができる。
【0024】
内壁スリット7には、これを塞ぐとともに、振動伝達を遮断する弾性を発揮する弾性シール材8が充填される。また、界壁2と界壁隣接領域Sの、界壁2に面するボード4aとの間にも同様に、弾性シール材8が充填される。
【0025】
次に、第1実施形態にかかる遮音性を改善する壁構造1の作用について説明する。図2は、外壁3から伝わった側路固体伝搬音Vが内装壁4を伝搬する様子の説明図である。図中のグラフは、音源室A側の界壁端面位置を原点として、縦軸に、内装壁4の振動レベルを示す振動加速度レベル(dB)をとり、横軸に、界壁2からの距離をとって、内装壁4から受音室Bへ放射される音の様子(大きさ)を表している。
【0026】
第1実施形態との比較のために、図3(A)には、内装壁4をボード直張り工法のみで施工した平面断面が、図3(B)には図2のグラフと同様に、外壁3から伝わった側路固体伝搬音が内装壁4を伝搬する様子を示していて、特に振動加速度レベル(dB)の減衰傾向を表している。
【0027】
すなわち、音源室Aから入力され受音室Bへ伝搬していく側路固体伝搬音Vは、外壁3を伝わっていく過程、そしてまた外壁3から伝わって内装壁4を伝搬していく過程で次第に減衰していき、界壁2に近い箇所で高く(大きく)、遠い箇所で低く(小さく)なる。従って、遮音性を向上するためには、界壁2に近い範囲で遮音対策を施すことが効果的であることが理解される。
【0028】
第1実施形態では図2に示すように、音源室Aに隣接する、すなわち界壁隣接領域Sとそれ以外の一般領域Tとが内壁スリット7で分断されていて、この内壁スリット7位置を境に、振動加速度レベルが顕著に異なることになる。
【0029】
界壁隣接領域Sは、外壁3に対し振動絶縁する絶縁支持材である軽量鉄骨下地5で内装壁4のボード4aを支持していることから、外壁3からは空気を介する振動伝搬程度であり、振動加速度レベルはきわめて小さく、従って界壁隣接領域Sからの受音室Bへの音の放射はほとんどない。
【0030】
一般領域Tは、ボード直張り工法であるため、外壁3からの振動伝搬があるが、界壁2に対し、界壁隣接領域S分の距離を隔てているため、振動は相当減衰されていて、従って一般領域Tからの受音室Bへの音の放射を低レベルに抑えることができる。図2中、X部は、内壁スリット7に隣接するGLボンド6を介して一般領域Tへ伝わった振動が、当該GLボンド6位置から図中左右方向に振り分けられる様子を示している。
【0031】
さらに、最も遮音効果の高い界壁隣接領域Sの内装壁4のボード4aを胴縁工法で取り付け、一般領域Tの内装壁4のボード4aをボード直張り工法で取り付けるようにしたので、受音室B全体としては、一般領域Tに採用するボード直張り工法によって低コスト及び高い施工性を確保しつつ、界壁隣接領域Sについては必要最小限度の胴縁工法の適用で高遮音性を確保して、合理的に遮音性を改善することができる。
【0032】
内壁スリット7に弾性シール材8を充填したので、外観上、内装壁4の連続性を確保しつつ、一般領域Tから界壁隣接領域Sへの振動伝搬を抑制することができる。界壁隣接領域Sと界壁2との間に、弾性シール材8を充填したので、界壁2から直接、界壁隣接領域Sに振動が伝わることを抑制することができる。
【0033】
図4には、第1実施形態と図3に示した比較例(ボード直張り工法)の遮音性能を示すグラフが示されている。縦軸に室間音圧レベル差(dB;音源室Aと受音室Bの音圧レベル差)をとり、横軸にオクターブバンド中心周波数(Hz)をとっている。
【0034】
低いオクターブバンド中心周波数から高いオクターブバンド中心周波数にわたり、第1実施形態の方が比較例よりも室間音圧レベル差が大きくなっていて、第1実施形態に係る遮音性を改善する壁構造1の優秀性が理解できる。
【0035】
以上説明したように、第1実施形態にかかる遮音性能を改善する壁構造1によれば、室内の内装壁4を施工対象として遮音性能を改善することができると共に、遮音性を付与する界壁隣接領域Sも最小限に止めて施工することができ、従って既存建物を改修して遮音性を向上させる場合、界壁隣接領域Sのみを施工範囲とするだけでも良く、好適に採用することができる。
【0036】
上述したように、図示例では、説明の便宜上、隣接する2室である音源室Aと受音室Bの壁構造を異なる構造で示したが、本発明にあっては、これら2室A,B双方に対し、受音室Bに備えた壁構造1を採用してもよい。この場合、一方の室で発生した音は、そもそも界壁隣接領域Sが設けられていることにより、当該一方の室から外壁3へ伝搬すること自体、抑制されることとなり、他方の室への側路固体伝搬音そのものを大幅に減殺することができる。
【0037】
図5には、本発明にかかる遮音性を改善する壁構造1の第2実施形態が示されている。第2実施形態では、内装壁4の構成は第1実施形態と全く同様であって、異なる点は、外壁3に外壁スリット9を設けたことにある。外壁スリット9は、界壁2位置と内壁スリット7位置との間の適宜箇所に設けられる。外壁スリット9には、耐火性を有する弾性シール材10が充填される。
【0038】
外壁3に外壁スリット9を設けることにより、当該外壁スリット9を境として、側路固体伝搬音Vが伝わっていくことを遮断することができる。
【0039】
外壁スリット9の位置を、内壁スリット7位置よりも界壁2から遠い位置に設定すると、第1実施形態と同様に、外壁3から内装壁4の一般領域Tへの振動伝搬があるが、界壁2位置と内壁スリット7位置との間に設定したことにより、耐火性を有する弾性シール材10を介しての振動透過が僅かながらあるものの、外壁3から一般領域Tへ振動が伝わることをほとんど防ぐことができ、グラフに示すように、優れた遮音性能を確保することができる。
【0040】
この場合、界壁隣接領域S及び一般領域Tともに、外壁3からの振動伝搬がほとんどないことから、内壁スリット7には、弾性シール材8ではなく、一般的なシール材を充填してもよい。あるいは、内壁スリット7を省略してもよい。この場合、界壁隣接領域Sと一般領域Tの境界は、軽量鉄骨下地5とGLボンド6との間となる。
【0041】
外壁スリット9に耐火性を有する弾性シール材10を充填するようにしたので、防火区画であっても適用することができる。また、外壁スリット9の位置は、界壁2位置と内壁スリット9位置との間であればよく、融通が利くので、タイル仕上げであっても、外壁スリット9をタイル目地に合わせて設けることができる。
【符号の説明】
【0042】
1 遮音性を改善する壁構造
2 界壁
3 外壁
4 内装壁
5 軽量鉄骨下地
7 内壁スリット
8 弾性シール材
9 外壁スリット
10 耐火性を有する弾性シール材
A 音源室
B 受音室
S 界壁隣接領域
T 一般領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
界壁で隔てられた音源室から受音室へ、これら室間にわたる外壁を通じて伝搬し、該外壁から該受音室の内装壁へ伝って当該受音室内に放射される音を減衰するための壁構造であって、
上記受音室の上記内装壁のうち、上記界壁に隣接する界壁隣接領域を、上記外壁に対し振動絶縁する絶縁支持材で支持すると共に、上記界壁隣接領域とそれ以外の一般領域との間に内壁スリットを設けたことを特徴とする遮音性を改善する壁構造。
【請求項2】
前記内壁スリットには、弾性シール材を充填したことを特徴とする請求項1に記載の遮音性を改善する壁構造。
【請求項3】
前記外壁には、前記界壁位置と前記内壁スリット位置との間に、外壁スリットを設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の遮音性を改善する壁構造。
【請求項4】
前記外壁スリットには、耐火性を有する弾性シール材を充填したことを特徴とする請求項3に記載の遮音性を改善する壁構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−188820(P2012−188820A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51458(P2011−51458)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000140292)株式会社奥村組 (469)
【Fターム(参考)】