説明

遺伝子変異の検出方法

【課題】本発明は、挿入変異、欠失変異を正確に検出できる、プローブを用いた遺伝子変異の検出方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の検出方法では、前記標的核酸の野生型の配列と相補的な配列を有し、前記標的核酸上に挿入変異が存在しうる部位を挟んで両側の配列が1:2以上の比率のTm値比を有することを特徴とする野性型プローブを用いる。また、前記標的核酸の変異型の配列と相補的な配列を有し、挿入塩基数が3塩基以下の場合に、挿入塩基を挟んで両側の配列が1:2以上の比率のTm値を有することを特徴とする変異型プローブを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遺伝子の挿入変異及び欠失変異の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、遺伝子多型を検出する技術が急速に発展している。その一つとして、基体に固定化したプローブを用いる方法がある。この方法では、プローブにハイブリダイズさせることによって標的核酸を検出する。
【0003】
遺伝子多型には、1塩基置換の他に、挿入変異、欠失変異などがある。上記の方法を用いる1塩基置換の検出については、多数報告されている。しかしながら、上記の方法を用いる挿入変異及び欠失変異の検出については、ほとんど報告されていない(例えば非特許文献1及び2)。
【0004】
プローブを用いて挿入変異又は欠失変異を検出する場合、プローブと標的核酸とのハイブリダイズの際に変異部分がループアウトして結合することがあった。このため非特異的なハイブリダイズが生じ、変異を精確に検出できないという問題があった。よって、精確に挿入及び欠失変異を検出できる、固定化プローブを用いた検出方法の開発が切望されていた。
【非特許文献1】Nat Genet. 14, 441-7, 1996
【非特許文献2】Nucleic Acid Res. 33 e33, 2005
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記問題に鑑み、本発明は、挿入変異、欠失変異を精確に検出できる、プローブを用いた遺伝子変異の検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、遺伝子挿入変異の検出方法であって、標的核酸を、野生型プローブ及び変異型プローブと反応させる工程と、前記それぞれのプローブと結合した標的核酸の量を検出する工程と、前記野生型プローブについて得られた検出結果と、前記変異型プローブについて得られた検出結果を比較する工程とを具備する方法を提供する。
【0007】
ここで、挿入変異を検出する場合は、前記野生型プローブは、前記標的核酸の野生型の配列と相補的な配列を有し、前記標的核酸上に挿入変異が存在しうる部位を挟んで両側の配列が1:2以上の比率のTm値比を有することが好ましい。また、前記変異型プローブは、前記標的核酸の変異型の配列と相補的な配列を有し、挿入塩基数が3塩基以下の場合に、挿入塩基を挟んで両側の配列が1:2以上の比率のTm値を有することが好ましい。
【0008】
本発明の他の側面において、欠失変異を検出する場合は、前記変異型プローブは、前記標的核酸の変異型の配列と相補的な配列を有し、欠失塩基が存在しうる部位を挟んで両側の配列が1:2以上の比率のTm値比を有することが好ましい。また、前記野生型プローブは、前記標的核酸の野生型の配列と相補的な配列を有し、欠失塩基数が3塩基以下の場合に、欠失塩基を挟んで両側の配列が1:2以上の比率のTm値比を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法によれば、適切なプローブを用いることにより、遺伝子の挿入変異、欠失変異を正確に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の方法は、遺伝子の挿入変異及び欠失変異を検出する方法である。本方法によれば、目的の遺伝子が野生型であるか変異型であるかを判定することができる。本発明では出現頻度の多い遺伝子型を野生型、少ない遺伝型を変異型と称する。
【0011】
本発明では、検出対象の核酸を標的核酸と称する。また、野生型の標的核酸と相補的な配列を有するプローブを野生型プローブと称し、変異型の標的核酸と相補的な配列を有するプローブを変異型プローブと称する。
【0012】
従来の変異検出方法では、変異が中央付近に位置するプローブを用いていた。例えば、非特許文献1では、20塩基のプローブを用い、変異部位はその3’末端から9塩基目に位置する。非特許文献2では、25塩基のプローブを用い、変異部位はその3’末端から13塩基目に位置する。
【0013】
しかしながら、変異部位がプローブの中央付近に位置すると、プローブと標的核酸が変異の有無に関わらず結合してしまう。その例を図1(a)に示す。図1(a)は、挿入変異型の標的核酸21と、野生型プローブ10との反応を示す。変異型の標的核酸21と野生型プローブ10とは配列が相補的ではないので、本来であれば結合しないと考えられる。しかしながら図に示すように、標的核酸21の挿入変異部位がループアウトすることで、プローブ10と結合してしまう。このとき、プローブ10は、変異を挟んだ両側の鎖長が略等しいため、いずれの側の結合も安定している。その結果、標的核酸21が変異型であるにも関わらず、野生型プローブ10に結合してしまい、誤った判定がなされてしまう。一方、欠失変異の場合は、野生型プローブの変異部位がループアウトすることにより、標的核酸と安定に結合してしまう。
【0014】
そこで本発明の如く、変異部位をプローブの中央以外に位置させることにより、非特異的な結合を減少させることが可能となる。図1(b)に示したように、プローブ11の中央以外に変異が位置する場合、変異を挟んで片側の鎖長が短くなる。このため、短い側の結合が不安定化し、標的核酸22と乖離しやすくなる。これによって、非特異的な結合を減少させることができる。このように、本発明の方法に従って、変異部位が適切な位置にあるプローブを用いることにより、検出精度を改善することが可能である。
【0015】
適切なプローブは、例えば以下のようにTm値を用いて決定することができる。
【0016】
まず、挿入変異を検出するためのプローブについて説明する。
【0017】
挿入変異検出のための野生型プローブは、変異部位を挟んで前後の鎖のTm値比が、1:2以上であるプローブが適切である。ここで、野生型プローブについて変異部位と言う場合は、標的核酸上で挿入変異が存在しうる部位と対応する、プローブ上の部位を意味するものとする。
【0018】
挿入変異を検出する場合の野生型プローブの例を図2(a)及び(b)に示した。野生型プローブ12の変異部位の両側に位置するオリゴDNA鎖を、例えばTm値の低い方をL1と称しTm値の高い方をL2と称する。本方法において用いられるプローブは、L1のTm値を1とした場合、L2のTm値が2以上であることが好ましい。より好ましくはL2のTm値は3以上である。また、L1のTm値を1としたとき、L2のTm値は15以下であることが検出精度向上の観点で好ましい。
【0019】
また、挿入変異検出のための変異型プローブは、挿入塩基数が3塩基以下の場合に、挿入塩基を挟んで両側の配列が1:2以上の比のTm値を有するプローブを用いることが望ましい。変異型プローブの例を図2(c)及び(d)に示した。変異型プローブ31の変異部位の両側に位置するオリゴDNA鎖を、例えばTm値の低い方をL3と称しTm値の高い方をL4と称する。また、挿入変異部位をL5と称する。ここで、図2(c)に示すように、変異型プローブ31と野生型標的核酸61が結合する場合、変異型プローブ31はL3+L4で結合する。本方法において用いられるプローブは、挿入塩基数が3塩基以下の場合に、L3のTm値を1としたとき、L4のTm値が2以上であることが好ましい。より好ましくはL4のTm値は3以上である。またL3のTm値を1としたとき、L4のTm値は15以下であることが好ましい。
【0020】
なお、変異部位が変異型プローブの一端まで達する場合、L3は存在しない。また、挿入塩基数が大きい場合、例えば、挿入塩基数が4塩基より多い場合は、L3+L4が短くなる。これらの場合は、L3+L4のTm値が小さくなるため、結合が不安定化し、プローブと標的核酸との非特異的な結合が減少する。しかしながら、挿入塩基数が3塩基以下である場合は、非特異的な結合が生じやすいので、挿入塩基数が3塩基以下である場合は、上記プローブを用いることが望ましい。
【0021】
次に、欠失変異を検出するためのプローブについて説明する。
【0022】
欠失変異検出のための変異型プローブは、変異部位の前後の鎖のTm値比が、1:2以上の比率であるプローブが適切である。ここで、野生型プローブについて変異部位と言う場合は、標的核酸上で欠失変異が存在し得る部位と対応する、プローブ上の部位を意味するものとする。
【0023】
欠失変異を検出する場合の変異型プローブの例を図3(c)及び(d)に示した。変異型プローブ51の変異部位の両側に位置するオリゴDNA鎖を、例えばTm値の低い方をL9と称し、Tm値の高い方をL10と称する。本方法において用いられるプローブは、L9のTm値を1とした場合、L10のTm値が2以上であることが好ましい。より好ましくはL9のTm値を1とした場合のL10のTm値は3以上である。また、L9のTm値を1とした場合L10のTm値は15以下であることが検出精度向上のために好ましい。
【0024】
また、欠失変異検出のための野生型プローブは、欠失塩基数が3塩基以下の場合に、変異部位を挟んだ前後の鎖のTm値が、1:2以上の比率であるプローブを用いることが望ましい。野生型プローブの例を図3(a)及び(b)に示した。野生型プローブ13の変異部位の両側に位置するDNAオリゴの鎖を、例えばTm値の低い方をL6と称しTm値の高い方をL7と称する。ここで、図3(b)に示すように、野生型プローブ13と変異型標的核酸41が結合する場合、野生型プローブ13はL6+L7で結合する。本発明において用いられるプローブは、欠失塩基数が3塩基以下の場合に、L6のTm値を1としたとき、L7のTm値が2であることが好ましい。より好ましくはL7のTm値は3以上である。またL6のTm値を1としたとき、L7のTm値は検出精度向上のために15以下であることが好ましい。
【0025】
上記挿入変異についての説明と同様に、変異部位が野生型プローブの一端まで達する場合は、L6は存在しない。また、欠失塩基数が大きい場合、例えば、欠失塩基数が4塩基より多い場合は、L6+L7が極めて短くなる。これらの場合は、L6+L7のTm値が小さくなるため、結合が不安定化し、プローブと標的核酸との非特異的な結合が減少する。しかしながら、欠失塩基数が3塩基以下である場合は、非特異的な結合が生じやすい。よって、欠失塩基数が3塩基以下である場合は、上記プローブを用いることが望ましい。
【0026】
なお、検出に用いる場合、野生型プローブ全体のTm値と変異型プローブ全体のTm値はほぼ等しいことが好ましい。好ましくはそれらのTm値の相違が10℃以内である。
【0027】
Tm値は、任意の既知の方法で算出すればよい。短い塩基を扱うのに適したWallace法(Nucleic Acid Res. 6 3543-3557,1979を参照されたい)が好適に用いられる。Wallace法はグアニン、シトシンの結合力を4℃、アデニン、チミンの結合力を2℃としてTm値を計算する方法である。その他の算出方法として、最近接塩基対法やGC%法等を用いることができる。
【0028】
本発明の変異検出方法では、上述したようなプローブを担体に固定化して用いる。野生型プローブ及び変異型プローブは、同じ担体上に固定化されることが好ましい。まず、標的核酸を含む検体溶液を、固定化された野生型プローブ及び変異型プローブとそれぞれ反応させる。次いで、それぞれのプローブと結合した標的核酸の量を検出する。次に、野生型プローブについて得られた検出結果と、変異型プローブについて得られた検出結果を比較する。即ち、野生型プローブと結合した標的核酸の量と、変異型プローブと結合した標的核酸の量を比較する。変異型のプローブにより多くの標的核酸が結合した場合、標的核酸の遺伝子型は変異型であることが示される。反対に、野生型のプローブにより多くの標的核酸が結合した場合、標的核酸の遺伝子型は野生型であることが示される。このように、検出結果を比較することによって、標的核酸の変異を検出することができる。
【0029】
<核酸>
本明細書で使用される「核酸」という用語は、DNA、RNA、PNA、S-オリゴ、メチルホスホネートオリゴなど、その一部の構造を塩基配列によって表すことが可能な物質を包含するよう意図される。
【0030】
<標的核酸>
本発明における標的核酸は、天然の核酸であってもよく、又は人工的に製造した核酸類似物であってもよい。天然の核酸には、個体のゲノムDNA、ゲノムRNA、mRNAなどが含まれる。個体は、これらに限定されるものでないが、ヒト、ヒト以外の動物、植物、並びにウィルス、細菌、バクテリア、酵母およびマイコプラズマなどの微生物が含まれる。
【0031】
これらの核酸は、個体から採取した試料、例えば、血液、血清、白血球、尿、便、精液、唾液、組織、バイオプシー、口腔内粘膜、培養細胞、喀痰等から抽出される。或いは、微生物から直接抽出される。核酸の抽出は、これらに限定されないが、市販の核酸抽出キットであるQIAamp(QIAGEN社製)、スマイテスト(住友金属社製)等を利用して実行することができる。
【0032】
個体試料や微生物から抽出された核酸を含む溶液を検体溶液と称する。検体溶液は、増幅や精製などの任意の処理を受けることができる。任意に処理された検体溶液は、本発明の検出方法に供される。
【0033】
抽出された核酸は、公知の増幅技術により増幅されることが好ましい。増幅方法は、これらに限定されないが、例えば、Polymerase chain reaction法(PCR法)、Loop mediated isothermal amplification法(LAMP法)、Isothermal and chimeric primer-initiated amplification of nucleic acids (ICAN法)、Nucleic acid sequence-based amplification法(NASBA法)、Strand displacement amplification (SDA法)、Ligase chain reaction(LCR法)、Rolling Circle Amplification法(RCA法)を含む。検出したい領域を特異的に増幅することにより、検出に供される核酸の領域が限定される。これにより、プローブだけでは特異性が出せない場合であっても、検出が可能となる。
【0034】
標的核酸又は増幅産物は、例えばプローブと効率よく結合させるために1本鎖にされる。1本鎖化する方法は、これらに限定されないが、例えば、ビーズや酵素等を用いる方法、T7 RNAポリメラーゼを用いて転写反応を行う方法を含む。なお、LAMP法やICAN法などによって増幅された増幅産物であって、1本鎖化する必要のないものは、そのまま次工程に供される。
【0035】
この一本鎖化工程が不要となるため、増幅された標的核酸はステム・ループ構造を有することが好ましい。ステム・ループ構造を有する増幅産物は、1本鎖であるループ部分の配列をプローブとの反応に都合よく用いることができる。
【0036】
標的核酸の増幅には、LAMP法(例えば、特許第3313358号を参照されたい)が好適に用いられる。LAMP法は、増幅産物中にステム・ループ構造を有しており、また、簡便な方法である。図4の模式図を用いて、LAMP法の原理を簡単に説明する。LAMP法では、標的核酸の6つの領域を認識する4種類のプライマーと鎖置換型DNA合成酵素を用いる。標的核酸は、等温(60〜65℃)条件下で増幅される。上記6つの領域は、標的核酸の5’末端側から順にF3領域、F2領域、F1領域、3’末端側から順にB3c領域、B2c領域、及びB1c領域と定義される。4種のプライマーは、それぞれ、図4に示す配列を有する。なお、F1c、F2c、F3c、B1、B2、及びB3領域はそれぞれ、F1、F2、F3、B1c、B2c、及びB3c領域の相補鎖における領域を示している。LAMP法による増幅産物中にはループ構造が形成され、F2〜F1の間及びB2〜B1間が1本鎖の領域となる。このため、この領域の配列を利用することにより、プローブで簡便に検出することができる(例えば、特開2005-143492号公報を参照されたい)。反応時間も30〜60分間であり、迅速に標的核酸を増幅することができる。
【0037】
<反応条件>
標的核酸とプローブとの結合反応、即ちハイブリダイゼーションは、適切な条件下で行う。適切な条件は、標的核酸に含まれる塩基の種類、標的核酸の構造、プローブの種類によって異なる。適切な条件は、例えば、イオン強度0.01〜5の範囲で、pH5〜10の範囲の緩衝液である。
【0038】
反応溶液には、任意の添加剤を添加してもよい。添加剤の例は、例えば、ハイブリダーゼション促進剤である硫酸デキストラン、並びに、サケ精子DNA、牛胸腺DNA、EDTA、及び界面活性剤などを含む。反応温度は、例えば10℃〜90℃の範囲が好ましい。攪拌や振盪などにより、反応効率を高めても良い。反応後の洗浄は、例えば、0.01〜5の範囲のイオン強度を有し、pH5〜10の範囲の緩衝液を用いてよい。
【0039】
<プローブ>
プローブの鎖長は、限定されるものではないが、5〜50塩基の範囲が好ましく、より好ましくは、10〜40塩基、さらに好ましくは、15〜35塩基である。
【0040】
また、プローブは、未修飾のものであってもよいし、担体に固定化させるためにアミノ基、カルボキシル基、ヒドロシル基、チオール基、スルホン基などの反応性官能基、アビジン、ビオチン等の物質で修飾したものであってもよい。
【0041】
プローブを固定する担体は、ニトロセルロース膜、ナイロン膜、マイクロタイタープレート、ガラス、電極、磁石、ビーズ、プラスチック、ラテックス、合成樹脂、天然樹脂、光ファイバーなどからなる担体であってよい。
【0042】
さらに、プローブが固定化された担体が、DNAチップであってもよい。DNAチップとは、ガラスやシリコンの基板上に高密度にプローブを固定化したものである。DNAチップは一度に多くの遺伝子の配列情報を調べることができる。
【0043】
<検出方法>
ハイブリダイゼーションによって生じた2本鎖核酸は、一般に、蛍光検出方法によって検出される。これは、遺伝子を蛍光で標識し、高感度な蛍光解析装置を使って検出する方法である。その他に、電気化学的な原理によって2本酸核酸を検出する方法がある。この方法では、プローブは電極に固定化される。2本鎖核酸は、例えば電気化学的に活性があり且つ2本鎖DNAに特異的に反応する挿入剤を用いて、電気化学的に検出される(例えば、特開平10-146183を参照されたい)。電流検出型のDNAチップは標識が不要であり、蛍光検出のような大型で高価な検出装置も必要としない。よって、より簡易で安価な方法として好適に用いられる。
【0044】
以下に検出方法の具体例を説明する。
1.蛍光検出方式
標的核酸を、蛍光色素などの蛍光学的な活性が得られる物質で標識する。蛍光色素は、これらに限定されないが、Cy3、Cy5、FITCもしくはローダミンなどを含む。あるいは、それらの物質で標識したセカンドプローブを用いて標的核酸を標識する。蛍光標識した標的核酸は、標識の種類に応じた適宜の検出装置を用いて検出する。
【0045】
2.電流検出方式
電極上に固定化されたプローブと標的核酸とから成る2本鎖核酸に、挿入剤を結合させて検出する。
【0046】
ここで使用される電極は、例えば、金、金の合金、銀、プラチナ、水銀、ニッケル、パラジウム、シリコン、ゲルマニウム、ガリウム、タングステン等の金属単体及びそれらの合金、あるいはグラファイト、グラシーカーボン等の炭素等、またはこれらの酸化物、化合物から製造されてよい。
【0047】
上記挿入剤は、電気化学的に活性な物質を用いる。該物質は、これらに限定されないが、例えば、ヘキスト33258、アクリジンオレンジ、キナクリン、ドーノマイシン、メタロインターカレーター、ビスアクリジン等のビスインターカレーター、トリスインターカレーター、ポリインターカレーター等を含む。更に、これらのインターカレーターを電気化学的に活性な金属錯体、例えば、フェロセン、ビオロゲン等で修飾しておいてもよい。
【0048】
挿入剤が電気化学的に反応する電位以上の電位を印加し、挿入剤に由来する反応電流値を測定することができる。この際、電位は定速で掃引するか、あるいはパルスで印加するか、あるいは定電位を印加してもよい。測定の際に、例えばポテンショスタット、デジタルマルチメーターおよびファンクションジェネレーター等の装置を用いて電流、電圧を制御してもよい。
【0049】
本発明の他の側面から、本発明の方法で用いられる野生型プローブ及び変異型プローブが提供される。また、それらのプローブが固定化されたプローブ固定化担体が提供される。該プローブ固定化担体は、好ましくはDNAチップとして提供される。また、本発明の他の側面から、上記定義のような野生型プローブ及び/又は変異型プローブを具備する、本発明の検出方法に用いるためのキットが提供される。好ましくは、該キットには、標的核酸を増幅するための、LAMP法で用いられるプライマーがさらに具備される。該キットは、任意に、鎖置換型DNA合成酵素、合成基質、及び緩衝溶液などを具備することができる。
【実施例】
【0050】
本発明の方法による検出の具体例を示す。標的核酸としてヒトCYP2D6遺伝子の9塩基の遺伝子挿入変異を有するCYP2D6*18を用いた。CYP2D6遺伝子配列の一部を図5に示した。野生型CYP2D6と9塩基挿入変異型CYP2D6*18のヘテロの検体を用い、CYP2D6遺伝子断片5.3kbpをPCR増幅した。このPCR産物をプラスミドベクターpCR2.1に導入した。クローニングにより得られた野生型CYP2D6および9塩基挿入変異型CYP2D6*18が導入されたプラスミドを各々鋳型とし、LAMP増幅を行った。このLAMP産物を、電極に固定化したプローブと反応させた。その後、プローブと結合した核酸を電気化学的に検出した。
【0051】
(1)標的核酸の増幅
[プライマー]
LAMP法で用いるプライマーを合成した。その配列を以下に示す。図5には、標的核酸の配列上でのプライマーの位置を示した。なお、F1c領域には、図5に示す配列の逆鎖を用いる。また、B2及びB3領域には、図5に示す配列の逆鎖を用いる。
【0052】
2D6*18 F3プライマー GCCCGCATGGAGCTC
2D6*18 FIPプライマー GGAAAGCAAAGACACCATGGT(F1c)−CCTCTTCTTCACCTCCCTGC(F2)
2D6*18 B3プライマー CCACATTGCTTTATTGTACATTAG
2D6*18 BIPプライマー TGAGCTTTGTGCTGTGCC(B1c)−TCTGGCTAGGGAGCAGG(B2)
ここで、FIPプライマーはF1c部分とF2部分とを含む。BIPプライマーはB1c部分とB2部分とを含む。それらの間には任意の配列を挿入してもよいし、挿入しなくてもよい。
【0053】
[反応液]
LAMP法のための反応溶液は以下の組成で行った。
【0054】
滅菌超純水 5.5μL
Bst DNA ポリメラーゼ 1μL
バッファー 12.5μL
Tris・HCl pH8.0 40mM
KCl 20mM
MgSO4 16mM
(NH4)2SO4 20mM
Tween20 0.2%
Betaine 1.6M
dNTP 2.8mM
F3-プライマー(10μM) 0.5μL
B3-プライマー(10μM) 0.5μL
FIP-プライマー(20μM) 2μL
BIP-プライマー(20μM) 2μL
鋳型 プラスミド(3pg/μl) 1μL
総量 25μL
[増幅反応]
LAMP法により、63℃で1時間、核酸を増幅させた。ネガティブコントロールでは、鋳型の代わりに滅菌水を用いた。増幅したLAMP産物をアガロースゲル電気泳動で確認した。その結果、LAMP産物に典型的なラダー状のパターンが現れた。ネガティブコントロールでは、まったく増幅が見られなかった。以上の結果から、上記のプライマーセットを用いて、CYP2D6を特異的に増幅することができた。
【0055】
(2)プローブ固定化電極の作製
[プローブ]
本実施例では、野生型検出用のプローブと挿入変異型検出用のプローブを、各々5種類ずつ用いた。プラス鎖の標的核酸を検出するため、プローブはマイナス鎖である。ネガティブコントロールとして、CYP2D6遺伝子配列とは無関係な配列を有するネガティブプローブを用いた。以上11種のプローブは、金電極に固定化するために3’末端側をチオール修飾した。
【0056】
図6に、野生型プローブ1〜5と変異型の標的核酸の反応の模式図を示した。
【0057】
・野生型プローブ1は18塩基である。標的核酸上に挿入変異が存在しうる部位は、5’末端側から8塩基目に位置する。この部位を挟んで3’末端側のオリゴDNA鎖のTm値(T1)はWallace法で計算した場合34℃であり、5’末端側のTm値(T2)は28℃であった。
【0058】
・野生型プローブ2は18塩基である。標的核酸上に挿入変異が存在しうる部位は、5’末端側から6塩基目に位置する。この部位を挟んで3’末端側のオリゴDNA鎖のTm値(T3)は42℃であり、5’末端側のTm値(T4)は20℃であった。
【0059】
・野生型プローブ3は19塩基である。標的核酸上に挿入変異が存在しうる部位は、5’末端側から5塩基目に位置する。この部位を挟んで3’末端側のオリゴDNA鎖のTm値(T5)は48℃であり、5’末端側のTm値(T6)は16℃であった。
【0060】
・野生型プローブ4は20塩基である。標的核酸上に挿入変異が存在しうる部位は、5’末端側から3塩基目に位置する。この部位を挟んで3’末端側のオリゴDNA鎖のTm値(T7)は56℃であり、5’末端側のTm値(T8)は10℃であった。
【0061】
・野生型プローブ5は20塩基である。標的核酸上に挿入変異が存在しうる部位は、5’末端側から1塩基目に位置する。この部位を挟んで3’末端側のオリゴDNA鎖のTm値(T9)は62℃であり、5’末端側のTm値(T10)は4℃であった。
【0062】
標的核酸上に挿入変異が存在しうる部位を挟んだそれぞれのTm値比は、野生型プローブ1は1:1.2、野生型プローブ2は1:2.1、野生型プローブ3は1:3.0、野生型プローブ4は1:5.6、野生型プローブ5は1:15.5のTm値比であった。
【0063】
図7に、変異型プローブ1〜5と野生型の標的核酸の反応の模式図を示した。変異型プローブ1〜5は全て、変異部位が5’末端側に位置する。
【0064】
・変異型プローブ1は19塩基である。5’末端側の1塩基目から9塩基目までが挿入変異部位である。
【0065】
・変異型プローブ2は17塩基である。5’末端側の1塩基目から5塩基目までが挿入変異部位である。
【0066】
・変異型プローブ3は18塩基である。5’末端側の1塩基目から4塩基目までが挿入変異部位である。
【0067】
・変異型プローブ4は20塩基である。5’末端側の1塩基目から3塩基目までが挿入変異部位である。
【0068】
・変異型プローブ5は21塩基である。5’末端側の1塩基目から2塩基目までが挿入変異部位である。
【0069】
各プローブの配列を以下に示した。
【0070】
ネガティブプローブ 5’-GTGCTGCAGGTGCG-3’
野生型プローブ1 5’-GGGCTGTCCAGTGGGCAC-3’
野生型プローブ2 5’-GCTGTCCAGTGGGCACCG-3’
野生型プローブ3 5’-CTGTCCAGTGGGCACCGAG-3’
野生型プローブ4 5’-GTCCAGTGGGCACCGAGAAG-3’
野生型プローブ5 5’-CCAGTGGGCACCGAGAAGCT-3’
変異型プローブ1 5’-CAGTGGGCACAGTGGGCAC-3’
変異型プローブ2 5’-GGGCACAGTGGGCACCG-3’
変異型プローブ3 5’-GGCACAGTGGGCACCGAG-3’
変異型プローブ4 5’-GCACAGTGGGCACCGAGAAG-3’
変異型プローブ5 5’-CACAGTGGGCACCGAGAAGCT-3’
【0071】
[プローブ固定化電極]
上記のプローブを、金電極へ固定化した。プローブは、チオールと金との強い共有結合によって電極に固定化される。末端をチオール修飾したプローブ溶液を金電極上にスポットし、25℃で1時間静置した。その後、1mMメルカプトヘキサノール溶液に浸し、0.2×SSC溶液で洗浄した。同一プローブは各2電極にスポットした。各プローブの電極の位置を以下に示す。洗浄後、超純水で洗浄、風乾し、プローブ固定化電極を得た。
【0072】
[電極配置]
1、2電極 ネガティブプローブ
3、4電極 野生型プローブ1
5、6電極 変異型プローブ1
7、8電極 野生型プローブ2
9、10電極 変異型プローブ2
11、12電極 野生型プローブ3
13、14電極 変異型プローブ3
15、16電極 野生型プローブ4
17、18電極 変異型プローブ4
19、20電極 野生型プローブ5
21、22電極 変異型プローブ5
【0073】
(3)ハイブリダイゼーション
上記のように作製したプローブ固定化電極を、2×SSCの塩を添加したLAMP産物に浸漬し、55℃で20分間静置させて、ハイブリダイゼーションを行った。その後、プローブ固定化電極を0.2×SSC溶液に48℃で20分間浸漬して洗浄した。次いで、プローブ固定化電極を、挿入剤であるヘキスト33258溶液を50μM含むリン酸緩衝液中に10分間浸漬した。その後、ヘキスト33258溶液の酸化電流応答を測定した。
【0074】
(4)結果
図8(a)は、野性型プローブ1〜5及び変異型プローブ1〜5のそれぞれによって、野生型の標的核酸を検出した結果である。野性型プローブ1〜5ではもちろん標的核酸が検出された。一方、変異プローブについては、変異型プローブ1〜3では殆ど信号が検出されなかったが、変異型プローブ4ではわずかに信号が検出され、変異型プローブ5では、高い信号が検出された。このように、変異部位が4塩基以上の場合には、非特異的な結合は見られないが、3塩基以下の場合には、非特異的な結合が見られる。しかしながら、挿入塩基が3塩基以下の場合に、挿入変異部位を挟んで1:2以上のTm値を有する変異プローブを用いることにより、非特異的な結合を抑制し得ることが示された(変異プローブ4及び変異プローブ5)。
【0075】
図8(b)は、挿入変異型の標的核酸を検出した結果である。変異型プローブ1〜5ではもちろん標的核酸が検出された。一方、野生型プローブについては、標的核酸上に挿入変異が存在しうる部位がプローブのほぼ中央に位置する野生型プローブ1(Tm値比1:1.2)では、極めて高い信号が検出された。野性型プローブ1と変異型プローブ1との間には信号の差が認められず、非特異的な結合が多いことが示された。
【0076】
挿入変異部位を若干端に移動させた野生型プローブ2(Tm値比1:2.1)では、変異型プローブ2との差が見られ変異部位の検出が可能であった。変異部位をさらに端に移動させた野生型プローブ3(Tm値比1:3.0)及び4(Tm値比1:5.6)では、変異型プローブ3及び4との差が顕著に見られた。さらに、変異部位を端に移動させた野生型プローブ5でも、変異型プローブ5(Tm値比1:15.5)との差が見られた。
【0077】
このことから、変異部位をプローブの中央以外に位置させることで、非特異的な信号が回避されることが明らかになった。具体的には、野生型プローブが、標的核酸上に挿入変異が存在し得る部位を挟んで本発明の範囲のTm値比を有する場合は、野生型プローブと変異型の標的核酸との非特異的な結合が回避されることが示された。
【0078】
上記実施例では、挿入変異の検出についての実験を行った。しかしながら、欠失変異の検出についても、挿入変異を検出するためのプローブとは逆の作用によって、非特異的な結合が抑制され変異を正確に検出することが出来ることは、容易に認められるであろう。
【0079】
例えば、欠失変異型の標的核酸と野性型プローブとの結合は、野性型の標的核酸と挿入変異のための変異型プローブとの結合と同様に理解することができる。また、野生型の標的核酸と欠失変異のための変異型プローブとの結合は、挿入変異型の標的核酸と野生型プローブとの結合と同様に理解することができる。よって、欠失変異の検出においては、変異型プローブが、欠失塩基が存在し得る部位を挟んで両側の配列が1:2以上の比率のTm値比を有し、また、野生型プローブが、欠失塩基数が3塩基以下の場合に、欠失塩基を挟んで両側の配列が1:2以上の比率のTm値比を有すると、非特異的な結合を減少させることができ、欠失変異を正確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】挿入変異型標的核酸とプローブとの反応の模式図
【図2】挿入変異を検出する場合の模式図
【図3】欠失変異を検出する場合の模式図
【図4】LAMP法に用いるプライマーの位置を示す模式図
【図5】CYP2D6遺伝子の配列を表す図。
【図6】CYP2D6*18と野生型プローブの反応の模式図。
【図7】野生型CYP2D6と変異型プローブの反応の模式図。
【図8】各プローブによる野生型CYP2D6及びCYP2D6*18の検出結果。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子挿入変異の検出方法であって、
標的核酸を、野生型プローブ及び変異型プローブと反応させる工程と、
前記それぞれのプローブと結合した標的核酸の量を検出する工程と、
前記野生型プローブについて得られた検出結果と、前記変異型プローブについて得られた検出結果を比較する工程とを具備し、
前記野生型プローブは、前記標的核酸の野生型の配列と相補的な配列を有し、前記標的核酸上に挿入変異が存在しうる部位を挟んで両側の配列が1:2以上の比率のTm値比を有することを特徴とする遺伝子変異の検出方法。
【請求項2】
前記変異型プローブは、前記標的核酸の変異型の配列と相補的な配列を有し、挿入塩基数が3塩基以下の場合に、挿入塩基を挟んで両側の配列が1:2以上の比率のTm値を有することを特徴とする請求項1記載の遺伝子変異の検出方法。
【請求項3】
遺伝子欠失変異の検出方法であって、
標的核酸を、野生型プローブ及び変異型プローブと反応させる工程と、
前記それぞれのプローブと結合した標的核酸の量を検出する工程と、
前記野生型プローブについて得られた検出結果と、前記変異型プローブについて得られた検出結果を比較する工程とを具備し、
前記変異型プローブは、前記標的核酸の変異型の配列と相補的な配列を有し、欠失塩基が存在しうる部位を挟んで両側の配列が1:2以上の比率のTm値比を有することを特徴とする遺伝子変異の検出方法。
【請求項4】
前記野生型プローブは、前記標的核酸の野生型の配列と相補的な配列を有し、欠失塩基数が3塩基以下の場合に、欠失塩基を挟んで両側の配列が1:2以上の比率のTm値比を有することを特徴とする請求項3記載の遺伝子変異の検出方法。
【請求項5】
前記標的核酸がステム・ループ構造を有し、該標的核酸に存在し得る変異がループ構造部分に位置することを特徴とする、請求項1又は3に記載の検出方法。
【請求項6】
前記標的核酸が、LAMP法によって増幅された産物である、請求項5に記載の検出方法。
【請求項7】
前記野生型プローブのTm値と前記変異型プローブのTm値の相違が10℃以内であることを特徴とする、請求項1又は3に記載の検出方法。
【請求項8】
前記プローブが、担体に固定化されていることを特徴とする、請求項1又は3に記載の検出方法。
【請求項9】
前記プローブと結合した標的核酸が、電気化学的に活性な核酸認識体を用いて検出されることを特徴とする、請求項1又は3に記載の方法。
【請求項10】
請求項1に記載の検出方法に用いるための、野生型プローブ及び変異型プローブ。
【請求項11】
請求項1に記載の検出方法に用いるための、請求項10に記載のプローブを固定化したプローブ固定化担体。
【請求項12】
請求項3に記載の検出方法に用いるための、野生型プローブ及び変異型プローブ。
【請求項13】
請求項3に記載の検出方法に用いるための、請求項12に記載のプローブを固定化したプローブ固定化担体。
【請求項14】
請求項1又は3の検出方法に用いるためのキットであって、前記野生型プローブ及び変異型プローブを具備するキット。
【請求項15】
請求項14に記載のキットであって、標的核酸の増幅に用いられる、LAMP法用のプライマーをさらに具備するキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−193937(P2008−193937A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−31318(P2007−31318)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】