説明

遺伝子導入剤及びその製造方法

【課題】遺伝子導入活性が高い遺伝子導入剤を提供する。
【解決手段】鎖状部を有するポリマー材料よりなる遺伝子導入剤であって、該鎖状部は、カチオン性モノマーと、アニオン性モノマーの低級アルキルエステルのランダム共重合部分を有する。具体的には、N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、該イニファターに前記カチオン性モノマーとアニオン性モノマーの低級アルキルエステルとを光照射リビングランダム共重合させた遺伝子導入剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子導入剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヒト疾患の分子遺伝学的要因が明らかになるにつれ、遺伝子治療研究がますます重要視されている。遺伝子治療法は標的とする部位でのDNAの発現を目的としており、いかにDNAを標的部位に到達させるか、いかにDNAを標的部位に効率的に導入し、当該部位で機能的に発現させるかということが重要となる。外来DNAの導入のためのベクターとして、レトロウイルス、アデノウイルス又はヘルペスウイルスを含む多くのウイルスが、治療用遺伝子を運搬するように改変されて、遺伝子治療のヒトの臨床試験に使用されている。しかし感染及び免疫反応の危険性は依然として残されている。
【0003】
DNAを細胞中に運搬するための非ウイルス系ベクター(遺伝子導入剤)として、カチオン性のスター型ポリマーがWO2004/092388及び特開2007−70579に記載されている。
【特許文献1】WO2004/092388
【特許文献2】特開2007−70579
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、遺伝子導入活性が高い遺伝子導入剤と、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明(請求項1)の遺伝子導入剤は、鎖状部を有するポリマー材料よりなる遺伝子導入剤において、該鎖状部は、カチオン性モノマーと、アニオン性モノマーの低級アルキルエステルのランダム共重合部分を有することを特徴とする。
【0006】
請求項2の遺伝子導入剤は、請求項1において、前記アニオン性モノマーの低級アルキルエステルが、ビニル基を有する芳香族カルボン酸の低級アルキルエステルであることを特徴とする。
【0007】
請求項3の遺伝子導入剤は、請求項2において、前記芳香族カルボン酸の低級アルキルエステルが4−ビニル安息香酸の低級アルキルエステルであることを特徴とする。
【0008】
請求項4の遺伝子導入剤は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記低級アルキルエステルのアルキル基が炭素数1〜8のアルキル基であることを特徴とする。
【0009】
請求項5の遺伝子導入剤の製造方法は、請求項1ないし4のいずれか1項において、カチオン性モノマーがアクリル系モノマーであることを特徴とする。
【0010】
請求項6の遺伝子導入剤の製造方法は、請求項5において、アクリル系モノマーが3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドであることを特徴とする。
【0011】
請求項7の遺伝子導入剤は、請求項1ないし6のいずれか1項において、N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、該イニファターに前記カチオン性モノマーとアニオン性モノマーの低級アルキルエステルとを光照射リビングランダム共重合させたものであることを特徴とする。
【0012】
請求項8の遺伝子導入剤は、請求項7において、N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物は、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上の該N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基が結合していることを特徴とする。
【0013】
本発明(請求項9)の遺伝子導入剤の製造方法は、請求項7に記載の遺伝子導入剤を製造する方法であって、N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、該イニファターに前記カチオン性モノマーとアニオン性モノマーの低級アルキルエステルとを光照射リビングランダム共重合させることを特徴とする。
【0014】
なお、本発明でいうポリマーとは、モノマーの2量体などのオリゴマーも包含するものとする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によって提供される遺伝子導入剤は、カチオン性モノマーとアニオン性モノマーの低級アルキルエステルとのランダム共重合部分を有する。この遺伝子導入剤は、カチオン性モノマーに由来する正電荷を有しており、負電荷を有する核酸と混合されることにより、微粒子状の複合体(ポリプレックス)を形成する。核酸はこのポリプレックスの形態にて生体に投与される。
【0016】
このポリプレックス中の遺伝子導入剤のエステル部分は、DNAとの混合時、細胞への作用時である生理的pHにおいては、電気的に中性なエステルのままとなっているが、細胞内へ取り込まれた後、強酸性のエンドソーム内ではこのエステル部分が加水分解し、酸性基となる。これにより、遺伝子導入剤のカチオン性モノマー由来の正電荷が電気的に中和されるようになり、ポリプレックスが崩解し易くなる。この結果、ポリプレックスからの核酸の放出が促進される。
【0017】
特に、アニオン性モノマーの低級アルキルエステルとして、4−ビニル安息香酸等の芳香族カルボン酸の低級アルキルエステルを用いると、製造された遺伝子導入剤のエステル部分が加水分解によりpKa=1〜6程度の酸性官能基(カルボキシル基)を側鎖に有するものとなり、強酸性のエンドソーム内でのポリプレックスの崩解が促進される。
【0018】
本発明においては、カチオン性ポリマーとしては3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドが好適である。これを重合させたカチオン性部分の側鎖はpKaが高く、核酸の保持性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に本発明の遺伝子導入剤及びその製造方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0020】
本発明の遺伝子導入剤は、鎖状部を有するポリマー材料よりなる遺伝子導入剤において、該鎖状部は、カチオン性モノマーと、アニオン性モノマーの低級アルキルエステルのランダム共重合部分を有することを特徴とするものである。
【0021】
このポリマー材料は、分岐鎖を有したものが好適であり、特に、N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これにカチオン性モノマーとアニオン性モノマーの低級アルキルエステルとを光照射リビングランダム共重合させることにより製造されたものであることが好ましい。
【0022】
なお、本明細書において、イニファターとは、光照射によりラジカルを発生させる重合開始剤、連鎖移動剤としての機能と共に、成長末端と結合して成長を停止する機能、さらに光照射が停止すると重合を停止させる重合開始・重合停止剤として機能する分子のことである。
【0023】
イニファターとなるN,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物としては、ベンゼン環に該N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基が3個以上分岐鎖として結合しているものが好適であり、具体的には次が例示される。即ち、3分岐鎖化合物としては、1,3,5−トリ(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジアルキルジチオカルバミン酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジアルキルジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られる1,3,5−トリ(N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル)ベンゼンであり、4分岐鎖化合物としては、1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジアルキルジチオカルバミン酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジアルキルジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られる1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル)ベンゼンであり、6分岐鎖化合物としては、ヘキサキス(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジアルキルジチオカルバミン酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジアルキルジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られるヘキサキス(N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル)ベンゼンが挙げられる。なお、ここで、N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基に含まれるジアルキル部分のアルキル基としては、エチル基等の炭素数2〜18個のアルキル基が好ましいが、フェニル基など芳香族系の炭化水素基であっても構わない。
【0024】
なお、以下においては、イニファターとして上述のような分岐鎖を有するものを用いて光照射リビング重合を行う場合を例示して、本発明の遺伝子導入剤の製造方法を説明するが、本発明は何らこの方法に限定されるものではない。
【0025】
上記のイニファターは、アルコール等の極性溶媒に対しては殆ど不溶であるが、非極性溶媒には易溶である。この非極性溶媒としては炭化水素、ハロゲン化炭化水素が好適であり、特に、ベンゼン、トルエン、クロロホルム又は塩化メチレン、中でも特にトルエンが好適である。
【0026】
このイニファターに重合させるカチオン性モノマーとしては、アクリル酸誘導体、スチレン誘導体等のビニル系モノマーが好適であり、特に、耐加水分解性に優れることから、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドCH=CHCONHCN(CHが好ましい。
【0027】
アニオン性モノマーの低級アルキルエステルとしては、ビニル基を有する芳香族カルボン酸の低級アルキルエステルが好適であり、特に4−ビニル安息香酸(4−メトキシカルボニルスチレン)又は3,4−ジメトキシカルボニルスチレンなどのビニルベンゼンカルボン酸と低級アルキルとのエステルが好適である。なお、ビニルベンゼンカルボン酸はその他の置換基を有していてもよい。また、低級アルキルエステルのアルキル基としては、炭素数1〜8のアルキル基、特にメチル基及びエチル基が好適である。
【0028】
本発明の一態様では、前述のイニファターに対し、カチオン性モノマーとアニオン性モノマーの低級アルキルエステルとをランダム共重合させる。
【0029】
イニファターと上記各モノマーとをランダム共重合させるには、イニファター及び各モノマーを含んでなる原料溶液を調製し、これに光照射する。この溶液の溶媒としては、アルカン、アルケン、アロマチック、ハロゲン化炭化水素が好適であり、具体的にはベンゼン、トルエン、クロロホルム、四塩化炭素又は塩化メチレンが挙げられ、中でもトルエン又はクロロホルムが好適である。
【0030】
カチオン性モノマー及びアニオン性モノマーの該原料溶液中の濃度は各々0.5M以上、例えば0.5〜2.5Mが好適である。イニファターの濃度は0.1〜100mM程度が好適である。
【0031】
照射する光の波長は300〜400nmが好適であり、例えば低圧水銀灯や高圧水銀灯などを用いることができる。光の照射時間は照射強度にも依存するが、1〜60分程度が好適であり、1μW/cm〜10mW/cm程度の低い照射強度で1分〜30分程度が特に好適である。
【0032】
このようにして、カチオン性モノマーとアニオン性モノマーの低級アルキルエステルのランダム共重合部分を有した分岐型重合体よりなる遺伝子導入剤が合成される。
【0033】
このようにして得られる遺伝子導入剤としての分岐型重合体の分子量は分岐鎖の鎖数にもよるが、3,000〜600,000、特に3,000〜150,000程度であることが好ましい。
【0034】
また、この分岐型重合体は、カチオン性モノマー由来の単位成分の数が50〜1,000であり、上記低級アルキルエステルモノマー由来の単位成分の数が5〜1,000であり、カチオン性モノマー由来の単位成分の数が上記低級アルキルエステルモノマー由来の単位成分の数の0.5〜100倍であることが好ましい。
【0035】
このようにして生成したカチオン性モノマー由来の単位成分を有した遺伝子導入剤(ベクター)が核酸を核酸含有複合体として包囲することによって、生体内の酵素による核酸の失活、分解を抑制することができる。この遺伝子導入剤は、正電荷を有しており、負電荷を有する核酸と混合されることにより、微粒子状の複合体(ポリプレックス)を形成する。核酸はこのポリプレックスの形態にて生体に投与される。
【0036】
このポリプレックス中の遺伝子導入剤のエステル部分は、DNAとの混合時、細胞への作用時である生理的pHにおいては、電気的に中性なエステルのままとなっているが、細胞内へ取り込まれた後、強酸性のエンドソーム内ではこのエステル部分が加水分解し、酸性基となる。これにより、遺伝子導入剤のカチオン性モノマー由来の正電荷が電気的に中和されるようになり、ポリプレックスが崩解し易くなる。この結果、ポリプレックスからの核酸の放出が促進される。
【0037】
特に、アニオン性モノマーの低級アルキルエステルとして、4−ビニル安息香酸等の芳香族カルボン酸の低級アルキルエステルを用いると、製造された遺伝子導入剤のエステル部分が加水分解によりpKa=1〜6程度の酸性官能基(カルボキシル基)を側鎖に有するものとなり、強酸性のエンドソーム内でのポリプレックスの崩解が促進される。
【0038】
本発明のベクター(遺伝子導入剤)と核酸とを複合させるには、このベクターの濃度1〜1000μg/mL程度の分散液に対し、常温にて核酸を添加し、混合すればよい。核酸に対してベクターを過剰量添加し、ベクターを核酸に対し飽和状態に核酸含有複合体として複合化させるのが好ましい。
【0039】
核酸の好ましい例としては、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子(HSV1−TK遺伝子),p53癌抑制遺伝子及びBRCA1癌抑制遺伝子やサイトカイン遺伝子としてTNF−α遺伝子,IL−2遺伝子,IL−4遺伝子,HLA−B7/IL−2遺伝子,HLA−B7/B2M遺伝子,IL−7遺伝子,GM−CSF遺伝子,IFN−γ遺伝子及びIL−12遺伝子などのサイトカイン遺伝子並びにgp−100,MART−1及びMAGE−1などの癌抗原ペプチド遺伝子が癌治療に利用できる。
【0040】
また、VEGF遺伝子,HGF遺伝子及びFGF遺伝子などのサイトカイン遺伝子並びにc−mycアンチセンス,c−mybアンチセンス,cdc2キナーゼアンチセンス,PCNAアンチセンス,E2Fデコイやp21(sdi−1)遺伝子が血管治療に利用できる。また、上記のようなDNAの導入、遺伝子発現のみならず、細胞内のmRNAを破壊するRNA干渉をsiRNAの導入で行うことも可能である。かかる一連の遺伝子は当業者には良く知られたものである。
【0041】
核酸含有複合体の粒径は50〜400nm程度が好適である。これよりも小さいと、核酸含有複合体内部の核酸にまで酵素の作用が及ぶおそれ、あるいは腎臓にて濾過排出されるおそれがある。また、これよりも大きいと、細胞に導入されにくくなるおそれがある。
【0042】
核酸は、細胞に導入されることによりその細胞内で機能を発現することができるような形態で用いる。例えばDNAの場合、導入された細胞内で当該DNAが転写され、それにコードされるポリペプチドの産生を経て機能発現されるように当該DNAが配置されたプラスミドとして用いる。好ましくは、プロモーター領域、開始コドン、所望の機能を有する蛋白質をコードするDNA、終止コドンおよびターミネーター領域が連続的に配列されている。
【0043】
所望により2種以上の核酸をひとつのプラスミドに含めることも可能である。
【0044】
本発明において、核酸を導入する対象として望ましい「細胞」としては、当該核酸の機能発現が求められるものであり、このような細胞としては、例えば使用する核酸(すなわちその機能)に応じて種々選択され、例えば心筋細胞、平滑筋細胞、繊維芽細胞、骨格筋細胞、血管内皮細胞、骨髄細胞、骨細胞、血球幹細胞、血球細胞等が挙げられる。また、単球、樹状細胞、マクロファージ、組織球、クッパー細胞、破骨細胞、滑膜A細胞、小膠細胞、ランゲルハンス細胞、類上皮細胞、多核巨細胞等、消化管上皮細胞・尿細管上皮細胞などである。
【0045】
本発明のベクターを用いた核酸含有複合体は任意の方法で生体に投与することができる。
【0046】
当該投与方法としては静脈内又は動脈内への注入が特に好ましいが、筋肉内、脂肪組織内、皮下、皮内、リンパ管内、リンパ節内、体腔(心膜腔、胸腔、腹腔、脳脊髄腔等)内、骨髄内への投与の他に病変組織内に直接投与することも可能である。
【0047】
この核酸含有複合体を有効成分とする医薬は、更に必要に応じて製剤上許容し得る担体(浸透圧調整剤,安定化剤、保存剤、可溶化剤、pH調整剤、増粘剤等)と混合することが可能である。これら担体は公知のものが使用できる。
【0048】
また、この核酸含有複合体を有効成分とする医薬は、含まれる核酸の種類が異なる2種以上の核酸含有複合体を含めたものも包含される。このような複数の治療目的を併せ持つ医薬は、多様化する遺伝子治療の分野で特に有用である。
【0049】
投与量としては、動物、特にヒトに投与される用量は目的の核酸、投与方法および治療される特定部位等、種々の要因によって変化する。しかしながら、その投与量は治療的応答をもたらすに十分であるべきである。
【0050】
この核酸含有複合体は、好ましくは遺伝子治療に適用される。適用可能な疾患としては、当該複合体に含められる核酸の種類によって異なるが、末梢動脈疾患、冠動脈疾患、動脈拡張術後再狭窄等の病変を生じる循環器領域での疾患に加え、癌(悪性黒色腫、脳腫瘍、転移性悪性腫瘍、乳癌等)、感染症(HIV等)、単一遺伝病(嚢胞性線維症、慢性肉芽腫、α1−アンチトリプシン欠損症、Gaucher病等)等が挙げられる。
【0051】
また、この核酸を複合した遺伝子導入剤の水溶液を基材に塗布などにより付着させ、必要に応じ乾燥させることにより、核酸を担持したポリマーのコーティング等が形成される。
【0052】
上記の核酸複合遺伝子導入剤を基材に付着させる場合、基材としてはシート状のものが好適である。このシート状基材の厚さは0.05〜10mm程度であることが好ましく、シート面の大きさは、方形の場合、一辺が1〜20mmであり他辺が1〜20mmであり、円形又は楕円形の場合、径は1〜20mm程度が好ましい。基材の材料としては、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、シリコン樹脂、フッ素樹脂などの合成樹脂が好適である。この基材は多孔質であってもよい。
【0053】
この基材に対する核酸複合遺伝子導入剤の付着量は、基材表面1cm当り0.001〜10mg程度が好ましい。
【0054】
核酸複合遺伝子導入剤を担持させた基材よりなる遺伝子導入材料は、皮下組織、心筋組織、病変組織、病変血管を包囲するようにシート状基材を配置したり、カバードステントのフィルムへ塗布することによって生体内に配置したり、生体外面に粘着テープを用いて貼り付けたりするようにして用いられる。
【実施例】
【0055】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0056】
実施例1
i)イニファターの合成
下記反応式に従って、イニファターとしての1,2,4,5−テトラキス(N−Nジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンを次のようにして合成した。
【0057】
1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチルベンゼン)5.0gとN,N−ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム34.0gをエタノール100mL中へ加え、遮光下で室温で4日間攪拌した。沈殿物を濾過し、3リットルのメタノールへ投入して30分間攪拌して濾過した。この操作を繰り返して合計4回行った。沈殿物をトルエン200mLへ溶解した後、100mLのメタノールを加えて50℃に加温し、冷蔵庫中で15時間保管して再結晶させ、結晶を濾別後に大量のメタノールで洗浄した。結晶を室温で減圧乾燥して、白色の1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンの針状結晶を得た(収率90%)。高速液体クロマトグラフィーにより、原料ピークが消失し、精製物が単一物質であることを確認した。
【0058】
H NMR(in CDCl)の測定結果はδ1.26−1.31ppm(t,24H,CHCH),δ3.69−3.77ppm(q,8H,N(CHCH),δ3.99−4.07ppm(q,8H,N(CHCH),δ4.57ppm(s,8H,Ar−CH),δ7.49ppm(s,2H,Ar−H)となった。
【0059】
【化1】

【0060】
ii) 4−ビニル安息香酸のメチルエステル化
非水系にて4−ビニル安息香酸5.0gをガスクロマトグラフィー用エステル化剤(関東化学、10%塩酸メタノール溶液)50mLへ溶解し、6時間攪拌した。ピリジンで中和後、エボポレーターで濃縮して得られたワックスをジエチルエーテル100mLへ溶解した。エーテル溶液を50mLの水で5回洗浄し、硫酸マグネシウムで24時間乾燥させた。エーテルを留去して白色の非晶質固体を得た。
【0061】
H−NMR(in CDCl)の測定結果は、δ3.6ppm(s,3H,CH),δ5.10−5.15ppm(d,1H,CH=CH),δ5.62−5.69ppm(d,1H,CH=CH),δ6.48−6.58ppm(dd,1H,CH=CH),δ7.24−7.28ppm(d,2H,Ar−H)、δ7.68−7.72ppm(d,2H,Ar−H)となった。
【0062】
iii) 4分岐型スター型重合体よりなる(カチオン/エステル)ランダム共重合体の光重合による合成
3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドをカチオン性モノマーとして用い、エステルモノマーとして4−ビニル安息香酸メチルを用い、以下の反応式に従って、1,2,4,5−テトラキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル)ポリ(3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)−4−メトキシカルボニルスチレン−メチル]ベンゼンよりなるカチオン/エステルランダム共重合体の合成を行った。
【0063】
即ち、上記i)により合成した1,2,4,5−テトラサキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼン45.6mgを20mLのトルエンへ溶解し、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(DMAPAAmと略すことがある)7.9g及び4−ビニル安息香酸メチル(MBAと略すことがある)1.0gを加えて混合し、全量をトルエンで50mLに調整した。3mm厚軟質ガラスセル中で激しく攪拌しながら高純度窒素ガスで5分間パージした後に、300Wショートアークキセノンランプ(朝日分光社製、MAX−301)で250nm〜400nmの混合紫外線を30分間照射した。照射強度はウシオ電機社のUIT−150へUVD−C405(検出波長範囲320nm〜470nm)を装着して2.5mW/cmに調整した。重合溶液をエバポレーターで濃縮し、ジエチルエーテルで重合物を再沈殿させ、クロロホルム/ジエチルエーテル系で6回再沈殿を繰り返して精製し、エーテルを蒸散させた後に少量の水へ溶解し、0.2μmフィルターで濾過してから凍結乾燥させて4分岐型スター型(DMAPAAm/MBAランダム共重合体)を得た(重合率40%)。分子量はGPCにより44,000(Mw/Mn=1.4)と測定された。
【0064】
H NMR(in CDOD)の測定結果は、δ1.5−1.8ppm(br,2H,−CHCHCH−)、δ2.1−2.2ppm(br,6H,N−CH)、δ2.2−2.4ppm(br,2H,CH−N)、δ3.0−3.4ppm(br,2H,NH−CH)、δ3.6ppm(br,3H,CH)、δ7.4−7.8ppm(d,0.1H,3−,5−of Aromatic Ring)、(d,0.1H,2−,6−of Aromatic Ring)と測定された。以上より、4分岐型ポリマーのポリマー鎖に、252個モノマー単位からなる3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドと、19個モノマー単位からなる4−ビニル安息香酸メチルが導入された4分岐型(DMAPAAm/MBA)ランダム共重合体が合成されたことが確認された。
【0065】
【化2】

【0066】
なお、上記一般式中のDは次の通りである。
【0067】
【化3】

【0068】
iv) 4分岐型スター型重合体よりなる(カチオン/エステル)ランダム共重合体の加水分解性
iii)で合成したランダム共重合体をDOまたはCDClを溶媒としてNMRを測定した。DOを使用した場合のみにCDClでは確認されなかったδ4.7ppmのメタノールのOHピークが出現した。このことより、本発明の4分岐型スター型重合体よりなる(カチオン/エステル)ランダム共重合体は、単に水に溶解するのみで容易にエステル側鎖が加水分解を受けていることが分かる。
【0069】
以上より、動物細胞への遺伝子導入技術において常法として用いられる、
(1) 遺伝子導入剤(合成高分子)を緩衝溶液中で核酸とポリプレックスを形成させる
(2) 形成させたポリプレックスを無血清培地中で数時間細胞へ作用させる
(3) 無血清培地を除去し、完全培地で24時間〜72時間培養を継続する
という遺伝子導入操作において、細胞内へ取り込まれた本発明のランダム共重合体よりなる遺伝子導入剤と核酸で形成されたポリプレックスは、酸性雰囲気であるエンドソーム中でポリプレックス中のランダム共重合体のエステル部分が加水分解を受け、静電的に中性であったエステルユニットがアニオン性ユニットへ変化し、ポリプレックスの形成を阻害して崩壊することで核酸の放出を促進する作用を持つと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鎖状部を有するポリマー材料よりなる遺伝子導入剤において、
該鎖状部は、カチオン性モノマーと、アニオン性モノマーの低級アルキルエステルのランダム共重合部分を有することを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項2】
請求項1において、前記アニオン性モノマーの低級アルキルエステルが、ビニル基を有する芳香族カルボン酸の低級アルキルエステルであることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項3】
請求項2において、前記芳香族カルボン酸の低級アルキルエステルが4−ビニル安息香酸の低級アルキルエステルであることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記低級アルキルエステルのアルキル基が炭素数1〜8のアルキル基であることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、カチオン性モノマーがアクリル系モノマーであることを特徴とする遺伝子導入剤の製造方法。
【請求項6】
請求項5において、アクリル系モノマーが3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドであることを特徴とする遺伝子導入剤の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、該イニファターに前記カチオン性モノマーとアニオン性モノマーの低級アルキルエステルとを光照射リビングランダム共重合させたものであることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項8】
請求項7において、N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物は、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上の該N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基が結合していることを特徴とする遺伝子導入剤。
【請求項9】
請求項7に記載の遺伝子導入剤を製造する方法であって、N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、該イニファターに前記カチオン性モノマーとアニオン性モノマーの低級アルキルエステルとを光照射リビングランダム共重合させることを特徴とする遺伝子導入剤の製造方法。

【公開番号】特開2009−143877(P2009−143877A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−324846(P2007−324846)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【出願人】(591108880)国立循環器病センター総長 (159)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】